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大阪地方裁判所 平成22年(行ウ)89号 判決 2010年12月16日

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3争点に対する判断

1  行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

本件訴えは、市において原告を特別養護老人ホームの整備に係る事業者として不採択としたことを行政庁の処分ととらえてその取消しを求めるものであるが、前記前提事実等(第2の1)によれば、公募要項に従って、選考委員会が審査を行い、市が応募者の中から特別養護老人ホームの整備事業者を決定した場合、当該事業者は特別養護老人ホームの整備について市との協議を行い、これに引き続き設立認可等審査会の承認が得られたときは、市から補助金の交付を受けることが予定されているものの、それによって特定の施設の設置・運営が認められるなどの具体的な権利・利益等が付与されるものではない。また、選考から漏れた応募者についても、市の計画に基づく補助金の交付を受けて施設を設置する機会が失われたとはいえるものの、独自に施設を設置・運営することについて何らかの制約が加えられているわけではない。

そうすると、市が行った特別養護老人ホームの整備に係る事業者の採択・不採択の決定は、それによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものには当たらないというべきである。

2  この点について、原告は、整備事業者として採択された応募者に補助金の交付を受け得る地位が与えられることをもって、権利義務の形成やその範囲の確定という効果が生じていると主張する。

しかしながら、地方公共団体のする補助金の支給(地方自治法232条の2)は、本来私法上の贈与の性質を有するものというべきであり、これを公権力の行使と認めるためには、補助金支給を申請することができる地位に権利性を付与したと認めるに足りる法令の規定が必要であると解すべきところ、公募要項によって決定された整備事業者に対して行われる補助金の交付について、その手続を定めた市の条例その他の法令は見当たらないのであるから、そもそも市の行う補助金の支給に係る決定自体、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分に該当するものとみることはできない。原告が本件で問題とする整備事業者の決定は、市が補助金の支給を決定する前提として行われるものということができるが、補助金の支給に係る決定それ自体に、権利義務を形成し、その範囲を確定するなどの法律上の効果が認められないのであるから、その前段階で行われる整備事業者の決定にそうした効果を認めることができないのは明らかである。将来の補助金の交付と関連づけられていることをもって、整備事業者の決定を行政庁の処分とみる根拠とする原告の主張は採用の余地がない。

3  原告は、行政には高度の公正公平さが要求され、恣意的な運用は許されないところ、原告が応募した特別養護老人ホーム整備事業者の公募は公共性の高い行政活動であるから、原告に対する不採択の適否が司法審査から免れることがあってはならないとも主張する。

しかし、抗告訴訟は行政庁の処分等によって法律上の権利・利益が侵害された者の救済を目的とするものであるところ、原告が不採択の判断により被る不利益として主張するのは、補助金支給が受けられなくなることに尽きるものであって、この点について原告が法律上の権利等を有するものではないことは上記2で述べたとおりであるから、原告が抗告訴訟を提起できないとしてもやむを得ないというべきである。市の特別養護老人ホームの選定に係る公正公平さの確保や恣意的な運用の是正は抗告訴訟以外の手段で図られるべきもので、原告の主張は採用できない。

4  以上の次第であり、原告の本件訴えは不適法であるからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 小林康彦 五十部隆)

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