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大阪地方裁判所 平成23年(行ウ)47号 判決 2013年9月26日

主文

1  本件訴えのうち、柏原市入札参加有資格業者指名停止処分の取消しを求める部分及び原告が入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認を求める部分をいずれも却下する。

2  被告は、原告に対し、81万8039円及びこれに対する平成25年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、これを100分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

5  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)ア(本案前の争点:本件指名停止の処分性)について

地方自治法234条1項は、地方公共団体による売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする旨定めており、同条2項は、上記のうち、指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる旨定めている。そして、これを受けた地方自治法施行令167条は、指名競争入札ができる場合として、工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき(1号)、その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき(2号)、一般競争入札に付することが不利と認められるときに該当するとき(3号)をあげており、同施行令167条の11は指名競争入札の参加者の資格を、同施行令167条の12は指名競争入札の参加者の指名等をそれぞれ定めている。

これら各規定にあるように、指名競争入札は、地方公共団体が売買や請負等の私法上の契約を締結するに際して、その契約の相手方を選定する一方法であって、契約の性質や目的等から一般競争入札に適しないもの等について、当該地方公共団体が資力、能力、信用その他について適当であると認める特定多数の競争加入者を選んで入札の方法によって競争をさせ、その中から相手方を決定し、その者と契約を締結するものである。したがって、指名競争入札に参加させる者の指名は、当該地方公共団体においてその後競争入札を行い、基本的に当該地方公共団体に最も有利な価格で入札をした者を契約の相手方として選定した上で、その者と契約を締結するための準備的行為というべきであり、指名停止の措置も、一定期間、上記のような性質を有する入札の参加者として指名しないというものであって、契約締結のための準備的行為の段階における入札に参加させる者の選定に関する措置にすぎないものといえる。そうであるとすれば、かかる指名停止措置をもって、公権力の主体としての地方公共団体が行う行為であって、その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められたものとして、処分性を有するものと解することはできない。

以上から、本件指名停止は行政処分とは認められないから、本件指名停止を行政処分であるとして、その取消しを求める原告の訴え(請求1)は、不適法なものとして却下を免れない。

2  争点(1)イ(本案前の争点:入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認の利益の有無)について

原告は、本件指名停止が違法であることを前提として、原告が入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認を求める訴えを提起している(請求2)。

しかしながら、前記前提事実(8)のとおり、本件指名停止に係る指名停止期間は、平成23年2月11日から平成25年2月10日までであって、既に指名停止期間が満了しているから、原告が入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認を求める訴えの利益はもはや存しないものというほかない(なお、指名停止要綱4条3項では、指定停止期間満了後1年を経過するまでの間に再度の指名停止要件に該当するに至った場合に指名停止期間の加重等が定められているが(前記法令等の定め(2)エ)、かかる規定が存することによって、上記のような指名を受ける地位にあることの確認を求める利益が存するものと解することもできない。)。

以上から、原告が入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認を求める訴えは、不適法なものとして却下を免れない。

3  争点(2)ア(本案の争点:本件解除の違法性)について

(1)  認定事実

前提事実に加え、各項掲記の証拠によれば、以下の各事実が認められる。

ア  本件組合によるストライキの情報入手後の原告と被告とのやりとり等について

(ア) 平成22年12月ころ、本件組合がストライキの予告ビラを配布し、被告の市民生活部環境保全課職員(なお、被告において、本件業務の委託契約や受託業者に対する監督等を所管しているのは、環境保全課である。)も、同月13日ころ、柏原市民からの電話による問い合わせにより、かかるストライキの情報を入手した(乙24、証人A)。

(イ) 上記(ア)のとおり、本件組合によるストライキの情報を入手したことから、被告の環境保全課職員は、平成22年12月13日、原告代表者に対し、ストライキが発生した場合にも本件業務が適切に完遂されることを確保するための対応策の検討を要請した。被告の環境保全課職員は、翌同月14日にも電話で原告代表者に対応策の検討を依頼し、同月20日には、柏原市教育センターの会議室において、原告代表者らと面談して、重ねて対応策の検討を要請すると共に、同月22日までに文書で回答するよう要請した。(乙24、証人A)

(ウ) 原告は、平成22年12月22日、被告(市民生活部生活環境課)に対し、本件組合によるストライキが実施された場合の事業系一般廃棄物収集及び家庭系一般廃棄物収集の予定計画として、以下のような予定計画を記載した収集計画書を提出した(乙3)。

a 収集関係に必要な車両及び人員は、パッカー車2台、人員4名ないし5名である。

b パッカー車(A)1台目ないし3台目は、事業系一般廃棄物収集を行う予定。

c パッカー車(B)1台目は事業系一般廃棄物を収集し、2台目からは家庭系一般廃棄物収集を実施予定。

d 収集地区については、法善寺3丁目及び4丁目を6台分収集し、その後、上市2丁目、古町1丁目ないし3丁目を収集し4台分で終了予定。

e 最終終了予定時間は、午後6時ないし午後7時ころになる見通しである。

(エ) 上記(ウ)の収集計画書に対し、被告の環境保全課職員は、原告に対し、同計画書記載の内容では市民に多大な迷惑が及ぶとし、年末年始には大量の家庭ごみが排出されるのが通例であることから、平成23年1月7日までの収集計画書を、平成22年12月24日までに提出するよう要請した(乙24、証人A)。

(オ) 原告は、平成22年12月24日、被告(市民生活部生活環境課)に対し、同年12月30日及び平成23年1月5日に本件組合によるストライキが実施された場合の事業系一般廃棄物収集及び家庭系一般廃棄物収集の予定計画として、以下のような予定計画を記載した各収集計画書を提出した(乙4)。

a 平成22年12月30日にストライキが実施された場合

(a) 収集関係に必要な車両及び人員は、パッカー車2台、人員4名ないし5名である。

(b) パッカー車(A)1台目及び2台目は、事業系一般廃棄物収集を行う予定。

(c) パッカー車(B)1台目は事業系一般廃棄物を収集し、2台目からは家庭系一般廃棄物収集を実施予定。

(d) 収集地区については、法善寺2丁目を3台分収集し、その後、上市3丁目及び4丁目、大正1丁目ないし3丁目を収集し6台分で終了予定。

(e) 最終終了予定時間は、午後6時から午後7時ころになる見通しである。

b 平成23年1月5日にストライキが実施された場合

(a) 収集関係に必要な車両及び人員は、パッカー車2台、人員4名ないし5名である。

(b) パッカー車(A)1台目ないし3台目は、事業系一般廃棄物収集を行う予定。

(c) パッカー車(B)1台目は事業系一般廃棄物を収集し、2台目からは家庭系一般廃棄物収集を実施予定。

(d) 収集地区については、大正2丁目及び3丁目を収集し、その後、古町通り、大正通りを収集し3台分で完了予定。

次に、法善寺2丁目ないし4丁目を6台分収集する。

その次に、上市2丁目ないし4丁目を2台分収集する。

大正1丁目、古町1丁目ないし3丁目は、ほとんど収集できないと思われる。

(e) 最終終了予定時間は、午後6時から午後7時ころになる見通しである。

(カ) 上記(オ)の各収集計画書に対し、被告の環境保全課職員は、家庭ごみの収集地区は本件業務委託契約により原告が受託している世帯数の2割強程度に止まるなど全く不十分なものであるとして、原告に対し、家庭ごみについては、臨時雇用ができないのであれば役員の構成を見直しするなどして人員を確保して欲しい、また、事業系ごみについては、他の業者の応援を求めるなどの手段もあわせて考えて欲しい、そして、業務が完全に履行できるような計画を立てて欲しい、現状の収集計画書では債務不履行になるから、早急に収集計画を提出して欲しい旨要求したが、原告は、新たな収集計画書の提出はしなかった(乙24、証人A)。

イ  本件組合によるストライキ実施に備えた被告の対応等について

(ア) 本件組合は、大阪府労働委員会における平成22年12月27日の本件救済申立事件に係る調査期日に被告との間で和解等の一定の合意が成立しなければ、翌日以降にストライキを行うことを宣言していたところ、上記期日に、和解等は成立しなかった。

(イ) 被告は、上記(ア)の経緯から、本件組合によるストライキ実施の蓋然性が高まったとして、平成22年12月27日、以下のとおり、同月28日から平成23年1月7日までの期間、塵芥車を合計6台賃借した。なお、同期間は、本件組合において家庭ごみの排出量が多くなる年末年始にストライキを実施することが想定されることを考慮して決められたものであった。(乙10の1ないし10の3、10の6ないし10の8、24、証人A)

a a株式会社から塵芥車5台

5台中1台は、予備車としての賃借であり、賃借料は発生していない。

他の4台の賃借料は、合計72万0478円であった。

b b社から塵芥車1台

賃借料は17万0100円であった。

(ウ) 被告は、本件組合によるストライキ実施に備えて、平成22年12月27日、ホームセンターc羽曳野店において、ちりとりとほうきのセットを9個(合計4482円)購入した(乙11の1ないし11の3)。

(エ) 被告は、本件組合によるストライキの実施に備え、年末年始の間の家庭ごみ収集日となる平成22年12月28日、30日、31日、平成23年1月5日ないし7日について、様々な部署の管理職及び非管理職にストライキ実施時の担当業務を割り当て、午前5時から午前6時過ぎまでの自宅待機を命じ(被告の環境保全課の一部管理職は、午前5時までに登庁することとされた。)、ストライキ実施時の体制を整えた。なお、自宅待機時間が上記のとおり午前5時から午前6時過ぎまでとされたのは、通常本件業務の受託業者の塵芥車は午前5時過ぎから午前6時頃までの間に各事業所を出発することから、ストライキが実施されるか回避されるかを見極めるために午前6時過ぎまで待機させることが必要と考えられたからであった。(乙24、証人A)。

ウ  本件ストライキ当日(平成23年1月6日。本項においては、すべて同日の経緯である。)の状況等について

(ア) 午前5時40分ころ、原告代表者は、被告(市民生活部環境保全課)に対し、本件組合によるストライキの実施を知らせる以下の内容の収集計画書をファクシミリ送信した(乙8、24)。

a 業務続行不能 労働組合のストライキのため

b 4人、2台 法善寺2丁目、大正1丁目ないし3丁目

c 開始6時 終了未定

(イ) 原告代表者は、午前6時ころ、被告の環境保全課に赴き、同課職員と協議した。原告代表者は、普段は塵芥車7台、作業員14人で本件業務に当たっているが、同日は塵芥車2台、作業員4人で本件業務に当たるため、法善寺2丁目及び大正1丁目ないし3丁目しか家庭ごみを収集できない旨述べた。これに対し、平成22年12月24日に提出された収集計画書では上市地区も原告が収集できる地域として記載されていたことから、環境保全課の職員は原告において同地区の収集も行うよう求めたが、原告代表者は、ごみが多いから上市地区の収集はできないとの回答であった。環境保全課の職員は、原告代表者に対し、原告の債務不履行となることを告げ、原告が対応できない地域の家庭ごみの収集を行うことを伝えた。(乙24、証人A)

(ウ) 同業者d社は、午前6時13分ころ、被告に対し、通常どおり塵芥車3台、作業員6名で作業を行うことができる旨連絡したが、午前6時30分ころ、本件ストライキに参加している従業員1名が塵芥車1台を持ち出していることが判明したとして、塵芥車2台で家庭ごみの収集運搬を行うこととなったこと、そのために業務終了時間が多少遅れるかもしれないが、完遂できる見込みである旨連絡した。

(エ) 原告は、塵芥車2台でごみの収集運搬に当たったが、同日の原告のごみの収集運搬状況は以下のとおりであり、うち1台の塵芥車は事業系一般廃棄物の収集を3台(3回)行った後、家庭系一般廃棄物の収集を行い、他の1台の塵芥車は事業系一般廃棄物の収集を1台(1回)行った後、家庭系一般廃棄物の収集を行った。原告が収集したのは、法善寺2丁目と大正1丁目ないし3丁目そして国分市場2丁目の一部であった。このうち国分市場2丁目は、当初の収集予定に入っておらず、被告において収集作業を行っていたことから、原告が一部収集したことでかえって現場で混乱が生じた。(乙9、20、24、証人A、原告代表者本人)

a ナンバー<省略>の塵芥車

① 種別 事業系ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午前7時29分

同搬入量 0.91トン

② 種別 事業系ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午前9時

同搬入量 0.83トン

③ 種別 事業系ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後2時5分

同搬入量 1.49トン

④ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後3時3分

同搬入量 0.81トン

⑤ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後4時19分

同搬入量 1.9トン

⑥ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後6時26分

同搬入量 1.9トン

b ナンバー<省略>の塵芥車

① 種別 事業系ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午前8時33分

同搬入量 1.12トン

② 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午前10時10分

同搬入量 1.97トン

③ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午前11時54分

同搬入量 1.93トン

④ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後1時30分

同搬入量 1.99トン

⑤ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後3時48分

同搬入量 1.86トン

⑥ 種別 家庭ごみ

柏羽藤クリーンセンターへの搬入時刻

午後5時22分

同搬入量 2.08トン

(オ) 被告は、上記イ(イ)のとおり賃借した6台の塵芥車(予備車として賃借した1台を含む。)や被告所有の塵芥車等を用いて、原告が収集できないとした地区の家庭ごみの収集運搬に当たった。同日の被告の体制は、収集地域を6つに分け、各地域に塵芥車1台と軽自動車1台で作業に当たり、作業員として、塵芥車1台当たり3名、軽自動車1台当たり3名ないし4名を割り当てた。また、環境保全課において市民からの電話に対する応対係として10名を配置し、取り残しのあった家庭ごみに対する対応として軽自動車2台を用意し、2名ずつ配置した。そのほか、塵芥車等の運転の交代の体制も整えるなどし、総勢60名規模の体制で臨んだ。被告は、上市3丁目及び4丁目、石川町、玉手町、円明町、田辺1丁目及び2丁目、国分本町5丁目ないし7丁目、国分市場1丁目及び2丁目の合計7799世帯の家庭ごみの収集運搬を行った。(乙10の1、12、20、証人A)

(カ) 原告代表者も塵芥車でごみの収集運搬作業に従事していたこともあり、原告代表者から被告(環境保全課)への連絡はなかったため、環境保全課の職員は、正午、午後2時、午後4時と原告代表者に対して進捗状況を確認する連絡をした。これに対し、原告代表者は、正午及び午後2時の段階では、ごみが多いので遅れているが、午後5時までには終了できる旨報告していた。一方同業者d社の代表者からは被告に対し午後2時ころ連絡があり、少しごみが多く、2台で回っているため午後5時を過ぎるかも分からない旨の報告がされた。(乙24、証人A)

(キ) 大正地区の住民から被告に対し、ごみの収集が来ない等のクレームが多数寄せられ、午後4時ころになっても収まらない状況であったことから、被告の環境保全課職員が原告代表者に確認したところ、午後5時までに大正地区のごみの収集を終えることができないとのことであった。そのため、被告は、これ以上市民に迷惑を掛けてはいけないと判断し、被告において大正地区のごみの収集の応援に入ること、あわせて、同業者d社の担当地区の一部のごみの収集の応援にも入ることを決め、午後4時過ぎころから、応援の収集に入った。そして、被告は、このようなごみの収集の応援として、原告の担当地区では420世帯分の、同業者d社の担当地区では379世帯分の家庭ごみの収集を行った。(乙24、証人A)

(ク) ごみの収集が終了した後、原告代表者と同業者d社の代表者はそれぞれ被告の環境保全課に呼び出され、B市民生活部長やA市民生活部次長兼環境保全課課長から、当日のごみ収集の状況や未回収の状況等についての説明を求められた(甲14、15、22、証人A、原告代表者本人)。

(ケ) 本件組合及びe労働組合は、同日、被告に対し、平成23年1月末日までに被告と本件組合との協議の場(団体交渉)を設定することや、以下の各事項について、同月20日までに文章で回答、説明をすることを求める申入書を提出した(甲21)。

a 本件業務について、従来の随意契約から指名競争入札に至った経過及び指名業者の資格や選定基準を明らかにすること。

b 家庭ごみ収集運搬業務に従事する労働者については、準公務員として扱うこと。

c 本件4業者に家庭ごみ収集業務以外の事業を禁止する行政指導を行ってきたことに責任を持ち、業者の保護(事業継続を可能とすること)及び労働者の雇用を保障すること。

d 上記b及びcを基本に市民サービスのより向上を図るため、指名競争入札がなかったものとして随意契約に戻すこと。

(2)ア  前記前提事実(6)ア及び前記認定事実ウのとおり、原告が本件業務委託契約に基づき平成23年1月6日に行うべき家庭ごみの収集運搬について、少なくとも7799世帯の家庭ごみの収集運搬を行わなかったという債務不履行が存することは明らかであるところ、かかる債務不履行につき、原告が責任を負うか否かが問題となる。

イ  まず、原告は本件ストライキによる不利益を被告が甘受すべきである旨主張するので、この点について検討する。

(ア) 原告は、被告は本件組合との関係で労働組合法上の使用者というべきである旨主張する。

この点、本件業務委託契約の内容である家庭ごみの収集運搬業務(本件業務)が地方公共団体である被告の固有事務であり、被告においては、かかる本件事務を昭和39年ころから業者に委託していることは、前記前提事実(1)イのとおりである。そして、本件業務委託契約の内容は前記前提事実(3)のとおりであり、収集日は、地区毎に可燃ごみ、不燃ごみ、資源ごみに分けて決められており、収集場所及び収集コースも決められていること、収集できる時間や業務態勢、業務車両の種類や仕様、乗務員の人数等も定められており、原告は、業務車両の車種・登録番号、乗務員名及び緊急連絡先を被告に届け出なければならず、故障や車検等により代替車両を使用するときも事前に被告に届け出て、被告の承認を受けなければらないこと、委託料は1世帯毎の委託金額が定められており、これに世帯数により積算した金額が支払われること、本件業務の再委託等は禁止されていることがそれぞれ認められる。

原告は、上記のような本件業務委託契約の内容から、原告の従業員の労働条件はすべからく被告が決定しているといえる旨主張する。

しかしながら、原告がどのような従業員を雇用するか、また、賃金等(給与、賞与、退職金等)や勤務時間等の雇用契約に係る基本的な内容あるいは懲戒規定等は、本件業務委託契約において何ら定められているものではなく、上記のような本件業務委託契約の内容から勤務時間等について一定の制約が生じ得るとしても、原告と従業員との間の雇用契約に係る基本的な内容は原告の就業規則等や原告とその従業員との間の個別の雇用契約等によって定められているものであって、被告がこれら内容を決定しているものとは到底いえない。

また、上記のとおり、本件業務委託契約において、原告が行う本件業務の内容等について被告がその内容を定め、あるいは原告に届出等を要求するなどしているとしても、これは市民の排出する家庭ごみの収集という被告の固有事務に属する業務を業者に委託するものである以上、適切な業務遂行を確保する観点から合理的なものと解されるところであって、このことをもって、被告が原告の従業員の労働条件を実質的に決定しているものということもできない。このほか、原告は、本件業務委託契約において、収集対象物の完全な収集及びその周囲の清潔保持義務や、積載物が飛散、落下しないような適正な運搬義務、道路交通法の遵守義務を負っていることや、労働者の指導、教育、健康管理について責任を負い、不都合な場合は労働者を交代させる義務を負っていることをも指摘するが、これら各義務は原告が本件業務を遂行する上で当然に負うべき義務といえるのであって、本件業務委託契約において原告が被告に対してこれら各義務を負う旨が明記されているからといって、被告が原告の従業員の労働条件を実質的に決定するものではないことは、上記説示と同様である。

さらに、原告は、原告が長期間にわたって被告から委託される本件業務のみを行ってきた旨主張するところ、原告がその設立当初から被告から本件業務の委託を受けていたことは前記前提事実(1)アのとおりであるが、原告は、平成20年8月1日からは事業系の一般廃棄物の収集運搬業務も行っていたものであるし(前記前提事実(1)ア)、被告が原告に対し、本件業務以外のいかなる業務を行うことをも禁止していたものと認めるに足る的確な証拠もなく、原告が被告からの本件業務の受託をその主たる業務内容としていたとしても、そのことをもって被告が原告の従業員の労働条件を実質的に決定していたものということはできない(なお、前記前提事実(2)のとおり、被告は、本件業務について指名競争入札の方法により契約を締結する方針であることを、その実施の3年以上前の平成20年当初の段階から原告を含む本件4業者に説明しており、これに対応するための十分な時間を与えているものといえる。)。

以上から、被告が、本件組合との関係で、原告の従業員らの実質的な使用者ということはできない。

(イ) 次に、原告は、被告が使用者とはいえないとしても、正当な争議行為を保障するためには争議行為によって影響を受けた第三者もその損害を甘受しなければならないとして、被告は本件ストライキによる不利益を甘受すべき旨主張する。

しかしながら、被告が本件組合との関係で原告の従業員らの実質的な使用者ということはできないことは、上記(ア)のとおりであるところ、本件ストライキに至る経緯は、前記前提事実(5)のとおりであり、本件組合は、本件業務が平成23年度から指名競争入札により契約が締結されることに反対し、指名競争入札がなかったものとして随意契約に戻すことや本件業務に従事する労働者を準公務員と位置付けること等を求めて、被告に対し団体交渉を求め、また、本件救済申立事件に係る平成22年12月27日の調査期日に被告との間で和解等の一定の合意が成立しなければストライキを行うことを宣言するなどした上で本件ストライキに及んでおり、本件ストライキが実施された平成23年1月6日にも、被告に対し、再度上記と同様の要求をして団体交渉に応じるよう求めていること(前記認定事実ウ(ケ))に照らせば、本件組合は上記のとおり使用者とは認められない被告に対する関係で本件ストライキの実施に及んだと解されるところであって、本件ストライキが正当な争議行為といえるかについては疑義が存するものといわざるを得ない。

この点を措いても、労働組合法8条は、使用者は、同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けたことの故をもって、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない旨規定するに止まるものであって、正当な争議行為によって使用者と契約関係にある第三者が損害を受けた場合に、当該第三者が使用者に対し当該契約に基づく債務不履行責任を追及することをも禁じる趣旨とは解されない。

したがって、第三者である被告が本件ストライキによる不利益を甘受すべき旨の原告の主張は理由がない。

ウ  原告は、本件ストライキが実施された平成23年1月6日に業務を完了することはそもそも客観的にみて不可能なことであり、業務を完了しなかったことについて原告には帰責事由はない旨主張する。

この点、原告は普段塵芥車7台、作業員14名で本件業務等に従事していたが、同日は、塵芥車2台、作業員4名で本件業務等に従事したこと、そのため、同日原告が家庭ごみの収集運搬を履行できたのは、本件業務委託契約において定められていた収集運搬の範囲のごく一部に止まるものであったことは、前記前提事実(6)ア及び前記認定事実ウのとおりであり、同日の原告の本件業務への従事人数や使用した塵芥車の台数に照らせば、原告が同日、本件業務委託契約に基づいて収集運搬をすべき義務を負っていた家庭ごみの全部を履行することはできない状況にあったものとはいえる。

しかしながら、原告は、本件業務委託契約に基づいて、同契約により定められた範囲の家庭ごみ全部の収集運搬をすべき義務を負っていたことは上記のとおりであって、たとい原告の従業員らにより本件ストライキが実施され、同日の作業可能な人員等をみれば、原告においてその全部を履行することができない状況下にあったとしても、それをもって原告が業務を完了しなかったことに帰責事由がないということはできない。すなわち、原告は、被告との間で本件業務委託契約を締結し、同契約により定められた範囲の家庭ごみ全部の収集運搬をすべき義務を負うものである以上、原告の従業員らによるストライキが実施されたからといって、同業務を履行すべき義務を免れるものではなく、かかる事態に備えた対応策を事前に講じる等して同業務を遂行できるようにすべきものであり、それができなかった以上は原告の責めに帰すべき債務不履行が存するものといわざるを得ない。

また、原告は、平成22年12月6日ころ、本件組合との間でスキャップ禁止協定を結んでいるところ(原告代表者本人)、原告は、かかるスキャップ禁止協定によって、ストライキに備えて他から人員を確保することは不可能であった旨主張する。しかしながら、原告代表者は、同年10月ころには本件組合からストライキを含めた行為を行う旨の通告を受けており、同年12月に入って本件組合がいよいよストライキに入るのではないかと思ったというのであるから、そのような状況の中で本件組合との間でスキャップ禁止協定を結ぶことは、本件組合によるストライキが実施された場合に代替の職員を雇うことができなくなり、本件業務を遂行することが困難になることは容易に想定されたものといえる。そうすると、スキャップ禁止協定を結ぶこと自体は原告と本件組合との間の労使協議の一環として認められるものであるとしても、本件業務委託契約を締結し、同契約で定められた家庭ごみの収集運搬を行う義務を負う原告において、本件組合によるストライキの実施が想定される中でこれが実施された場合の代替手段をきちんと講じることなく、上記のようなスキャップ禁止協定を締結し、そのために本件ストライキの実施によって本件業務を完遂できなかった以上、かかる債務不履行の責めは原告において負うべきものといえる。

以上によれば、平成23年1月6日に原告が本件業務委託契約に基づく本件業務をその一部しか履行できず、少なくとも7799世帯の家庭ごみの収集運搬を行わなかったという債務不履行について、原告はその責めを負うものと解するのが相当である。

(3)  原告は、本件ストライキ実施時の被告の原告に対する対応と同業者d社に対する対応には大きな差があり、本件解除は殊更に原告を排除するためにされたものであって、権利濫用に当たる旨主張する。

しかしながら、本件ストライキが実施された平成23年1月6日の原告及び同業者d社による本件業務の遂行状況は、前記前提事実(6)及び前記認定事実ウのとおりであり、同業者d社は、当初は、通常通り塵芥車3台及び作業員6名で作業を行うことができる旨被告に連絡したものの、本件ストライキに参加した従業員1名が塵芥車1台を持ち出していることが判明し、塵芥車2台で本件業務に従事しなければならなくなったこと、同日朝の段階では、そのために業務終了時間が多少遅れるかもしれないが、完遂できる見込みである旨被告に連絡していることが認められる。そして、被告も、家庭ごみの収集が未了である旨の市民からの苦情を踏まえ、同日午後4時過ぎに原告と同業者d社が収集を予定していた地域に応援に入るまで、同業者d社の担当地区の家庭ごみの収集運搬は全く行っていなかったのであり、この点で、被告が事前に塵芥車6台を賃借し、相当数の職員を早朝待機させる等した上で、同日朝の段階から塵芥車6台と職員60名程度を動員して本件業務委託契約に基づいて原告が収集運搬の義務を負っていた地区の家庭ごみの収集運搬業務を行わざるを得なかった原告と上記の同業者d社との間で、大きな差が存することは明らかである。

また、上記のとおり、同日午後4時過ぎに原告及び同業者d社が同日回収を予定していた地域に被告が応援に入った点についても、上記市民からの苦情等を踏まえ、被告自身の判断において応援に入ったものと認められる(乙24、証人A)ところであって、この点については被告は債務不履行とは考えていないというのである(なお、かかる被告の認識をもって不合理なものということもできない。)。

そうすると、前記認定事実ウ(ク)のとおり、同日の業務終了後に原告代表者と同業者d社代表者が被告の環境保全課に呼び出された際のB市民生活部長やA市民生活部次長兼環境保全課課長の対応が、原告代表者に対する対応と同業者d社代表者に対する対応とで異なっていたとしても(甲14、15、22、原告代表者本人)、上記のような同日の本件業務の不履行についての原告と同業者d社との差異に鑑みれば、被告におけるかかる対応の差をもって被告が殊更原告を排除しようとしていたものと認めることはできない。

以上から、本件解除が権利濫用に当たるものとは認められない。

(4)  原告は、本件業務委託契約は信頼関係に基づく継続的な契約であるところ、本件ストライキ実施日における原告の債務不履行によっても信頼関係が未だ破壊されているとはいえず、本件解除は理由がない旨主張する。

この点、本件業務委託契約の内容(前記前提事実(3))に照らせば、本件業務委託契約は継続的な契約であるといえる。

しかしながら、本件組合によるストライキの情報入手後の原告と被告とのやりとり等の内容は、前記認定事実アのとおりであって、上記ストライキの情報を入手した被告の環境保全課職員からのストライキが発生した場合にも本件業務が適切に完遂されることを確保するための対応策の検討要請に対して原告が提出した収集計画書は、本件業務の完遂には遠く及ばないものであると共に、事業系一般廃棄物の収集を優先する内容となっており、現に本件ストライキ当日も、原告は、稼働できる2台の塵芥車のうち1台は最初の3回事業系一般廃棄物の収集を行い、もう1台も最初の1回は事業系一般廃棄物の収集を行っている(前記認定事実ウ(エ))。そして、本件ストライキ当日の事業系一般廃棄物の収集について、原告がその一部について履行できなかったものと認めるに足る証拠はない。そうすると、原告としては、事業系一般廃棄物の収集よりも被告との本件業務委託契約に係る家庭系一般廃棄物の収集を絶対的に優先しなければならないということはできないとしても、上記のような原告の対応は被告との間の本件業務委託契約に係る家庭系一般廃棄物の収集について大幅な債務不履行が生じることとなることを認識しながら、明らかに事業系一般廃棄物の収集を優先するものであって、その結果、本件業務委託契約に係る本件業務の遂行には少なくとも7799世帯の家庭ごみの収集運搬ができなかったという大規模な債務不履行が生じているのである。また、このような原告の対応のため、被告は、前記認定事実イのとおり、人的、物的両面において大規模な対応を採らざるを得なかったものといえる。

これらからすれば、原告の債務不履行の内容は、原告と被告との間の信頼関係を破壊するものといえるのであって、これが破壊されていないとして本件解除が理由がないとする原告の主張は失当である。

(5)  以上から、本件解除は、違法無効なものとは認められない。

4  争点(2)イ(本案の争点:本件指名停止の適法性)について

指名停止要綱は、有資格業者が被告との契約の履行に当たり、有資格業者の責めにより契約の解除がなされた時は、当該有資格業者について2年間の指名停止を行うものとする旨定めている(前記法令等の定め(2)ア)。そうであるところ、有資格業者である原告の責めにより本件業務委託契約が解除された(本件解除)ものと認められることは上記3で説示したとおりであり、被告は、かかる原告の責めに帰すべき理由により本件解除がされたことを理由として、原告を2年間の指名停止とした(本件指名停止)のであるから(前記前提事実(8))、本件指名停止は適法なものと認められる。

5  争点(2)ウ(本案の争点:原告の被告に対する未払の委託料等請求権の存否)について

(1)  本件業務委託契約に基づく平成23年1月分の未払委託料について

原告は、本件業務委託契約に基づく平成23年1月分の委託料のうち、同月6日の未回収部分の委託料として64万3418円が差し引かれており、同額の支払を受けていない旨主張する。

しかしながら、本件業務委託契約に係る業務委託料の内容は、別紙「委託料内訳」のとおりであって(前記前提事実(3)ウ)、可燃ごみの委託金額は1世帯1か月660円である。そして、前記3で認定したとおり、原告は、同日、7799世帯分の家庭ごみについて、その責めに帰すべき債務不履行により回収しなかったのであるから、以下の計算式のとおり、原告はこれに相当する64万3418円については委託料の請求権を有していないものと認められ、同部分の未払をいう原告の請求は理由がない。

(計算式)

660円(1世帯当たりの委託料)÷8回(同月の可燃ごみの収集回数)×7799世帯=64万3418円

(2)  本件業務委託契約に基づく平成23年2月分の未払委託料、23年度業務委託契約に基づく未払委託料及び23年度業務委託契約における契約保証金還付の各請求について

ア  原告が被告に対し、本件業務委託契約に基づく平成23年2月分の未払委託料として645万7649円、23年度業務委託契約に基づく未払委託料(同年4月分)として117万0291円及び23年度業務委託契約における契約保証金の還付として1557万0450円の合計2319万8390円の請求権を有することは、当事者間に争いがない。

なお、23年度業務委託契約においては、被告が認めた場合に契約保証金の納付による保証を履行保証保険契約を締結する方法による保証に変更することができるものとされているところ(前記前提事実(4)ウ(エ))、原告は、上記変更をするとして、被告に対し、平成23年3月30日に契約保証金の還付請求をし、被告は、同月31日に原告の被告に対する本件還付請求権と被告の原告に対する損害賠償請求権を相殺する趣旨の通知をすることによって、原告による上記保証の変更を承認したものと認められるから(甲9、10)、同月31日に原告の被告に対する本件還付請求権が発生したものと解するのが相当である。

イ  被告は、原告の被告に対する上記アの請求権と、被告の原告に対する合計2201万8011円の請求権とを対当額で相殺した旨主張するので、以下、被告の原告に対する請求権について検討する。

(ア) 違約金請求権について

本件業務委託契約においては、原告の責に帰すべき事由により被告が契約を解除した場合、原告は被告に対して前年度業務委託料の100分の10を違約金として被告の指定する期限までに納付しなければならない旨規定されている(前記前提事実(3)カ)ところ、原告の責めに帰すべき事由により本件業務委託契約が被告により解除されたこと(本件解除)は、前記3で説示したとおりである。そうであるところ、被告の原告に対する本件業務に係る前年度(平成21年度)業務委託料は1億9466万7456円であるから(乙24)、被告は原告に対し、その100分の10に当たる1946万6745円の違約金請求権を有するものと認められる。

(イ) 実損害分の損害賠償請求権について

a 塵芥車のレンタル料金相当額の損害賠償請求権について

被告が、本件組合によるストライキに備えて、平成22年12月27日に、同月28日から平成23年1月7日までの期間、塵芥車を合計6台賃借したこと、その合計賃借料は、89万0578円であることは、前記認定事実イ(イ)のとおりであり、被告は、同年2月18日までに上記金額を支払っている(乙10)。そして、前記アのような本件組合によるストライキの実施に対する原告の対応に照らせば、被告が上記の期間、上記のとおり塵芥車6台を賃借したことは相当と認められる。

したがって、被告は、原告に対し、上記塵芥車の賃借料相当損害金89万0578円の損害賠償請求権を有するものと認められる。

b 消耗品相当額の損害賠償請求権について

(a) 被告が本件組合によるストライキ実施に備えて、平成22年12月27日、ホームセンターc羽曳野店においてちりとりとほうきのセットを9個(合計4482円)購入したことは、前記認定事実イ(ウ)のとおりである。

(b) 証拠(乙11の1、11の4ないし11の6、24)によれば、被告は、本件ストライキ当日、家庭ごみ収集運搬業務のために買い置きしていた軍手60個を使用したこと、同軍手の購入額相当額は1個当たり60円を下回らないもの(1ダースで730円)であり、合計3600円となることが、それぞれ認められる。

(c) 証拠(乙16、24)によれば、被告は、本件ストライキ当日、家庭ごみ収集運搬業務のためにゴム手袋60個を使用したこと、同ゴム手袋はfネットワークから急遽借りたものであり、本件ストライキ実施後に1個192円のゴム手袋を購入(消費税5パーセントを加え、60個で合計1万2096円)して、同ネットワークに返還していることが、それぞれ認められる。

(d) 以上によれば、被告は、原告に対し、上記各消耗品相当額合計2万0178円の損害賠償請求権を有するものと認められる。

この点、原告は、これら消耗品は、一度使用しただけで消耗するものではなく、その後も使用可能であるから、価値は残っているはずである旨主張する。しかしながら、上記各消耗品の内容や、これが家庭ごみの収集運搬業務に用いられていることに照らせば、これら各消耗品の購入費用等相当額全額を損害と認めるのが相当であり、上記原告の主張は採るを得ない。

c 塵芥車等の燃料費相当額の損害賠償請求権について

本件ストライキが実施された平成23年1月6日当日、被告が賃借した6台の塵芥車並びに被告所有の塵芥車及び軽自動車等を用いて原告が収集できないとした地区の家庭ごみの収集運搬に当たったことは、前記認定事実ウ(オ)のとおりである。そして、証拠(乙12、17、24、証人A)によれば、これら被告が行った上記家庭ごみの収集運搬業務に要した軽油代及びガソリン代として、① 領収書の存する軽油代金合計1万9363円、② 領収書の存しない軽油代金相当額合計3848円、③ 領収書の存しないガソリン代金相当額合計5488円の合計2万8699円の支出を要したものと認められる。

したがって、被告は、原告に対し、塵芥車等の燃料費相当額の損害賠償請求権として、2万8699円の損害賠償請求権を有するものと認められる。

d 人件費相当額の損害賠償請求権について

(a) 管理職特別手当相当額について

被告が、本件組合によるストライキの実施に備えて、年末年始の間の家庭ごみ収集日となる平成22年12月28日、30日、31日、平成23年1月5日ないし7日について、様々な部署の管理職及び非管理職にストライキ実施時の担当業務を割り当て、午前5時から午前6時過ぎまでの自宅待機を命じ(被告の環境保全課の一部管理職は、午前5時までに登庁することとされた。)、ストライキ実施時の体制を整えたことは、前記認定事実イ(エ)のとおりである。

そして、証拠(乙18の1、18の4、18の6、24)によれば、被告においては、年末年始の休暇期間(12月29日から1月4日まで)に管理職が勤務すると管理職特別勤務手当が支給されることとされており、勤務に従事する時間が6時間を超える場合は、それぞれその額に100分の150を乗じて得た額とされ、1時間以上3時間未満の場合は、それぞれその額に100分の50を乗じて得た額とされていること、被告の管理職が、本件組合によるストライキに備えて年末年始休暇期間中の平成22年12月30日及び31日に登庁勤務をしたり、早朝自宅待機(午前5時から午前6時までの1時間)をする等したこと、これに伴う管理職特別勤務手当の額は合計32万円となることがそれぞれ認められる。

これに対し、原告は、管理職特別勤務手当の必要な管理職をあえて待機させる等の業務の必要性があったか疑問である旨主張する。しかしながら、本件業務が家庭ごみの収集運搬という市民生活に直結し、これが適切に行われなければ衛生面でも大きな問題となり得るものである上に、本件組合によるストライキの実施が予想される中で、原告による対応が前記認定事実アのとおり、その一部しか収集運搬できないという不十分なものに止まっていたことを併せ鑑みれば、ストライキが実施された場合に適切に対処できるように、管理職を待機させる等する必要が存したものといえるのであり、上記原告の主張は理由がない。

また、原告は、出勤していたとしても、待機時間とされている時間に他の業務を行っていたのであれば、純粋に待機したとはいえず、他の業務に使った時間に係る費用は損害として算定すべきでない旨主張する。しかしながら、管理職が本件組合によるストライキの実施に備えて登庁勤務する必要があったことは上記のとおりであるところ、かかる理由から登庁し、ストライキの実施に備える等した管理職について、同実施に備えるとともに、その間、他の業務も併せて行ったとしても、なお登庁勤務した全時間に対応する管理職特別勤務手当について、原告の債務不履行と相当因果関係を有する損害に当たるものと解するのが相当である。

(b) 非管理職の時間外勤務手当相当額の損害賠償請求権について

被告が、本件組合によるストライキの実施に備えて、年末年始の間の家庭ごみ収集日となる平成22年12月28日、30日、31日、平成23年1月5日ないし7日について、非管理職についてもストライキ実施時の担当業務を割り当て、午前5時から午前6時過ぎまでの自宅待機を命じ(被告の環境保全課の一部管理職は、午前5時までに登庁することとされた。)、ストライキ実施時の体制を整えたことは、上記(a)のとおりである。

そして、証拠(乙18の1、18の3、18の5、18の7、18の9、18の11、18の13、24)によれば、被告においては、非管理職が時間外勤務をすると、俸給の25パーセントの割増手当を支給し、年末年始休暇中に時間外勤務をすると50パーセントの割増手当を支給することになっていたところ、被告の非管理職が、本件組合によるストライキに備えて年末年始休暇期間中の平成22年12月28日、30日、31日、平成23年1月5日及び7日の各午前5時から午前6時過ぎまで自宅待機したこと、並びに同月6日及び7日に自宅待機及び早出勤務をする等したこと、これに伴う時間外勤務手当の額は合計32万3991円となることがそれぞれ認められる。

これに対し、原告は、出勤した非管理職についても、他の業務に従事していた時間に係る費用は損害として算定すべきでない旨主張するが、非管理職に係る時間外勤務手当について、上記金額全額が原告による債務不履行と相当因果関係を有する損害といえることは、上記(a)で説示したところと同様である。

(c) 平成23年1月6日の人件費相当額の損害賠償請求権について

本件ストライキが実施された平成23年1月6日に被告が総勢60名規模の体制で原告が収集運搬できないとした家庭ごみの収集運搬業務等に従事したことは、前記認定事実ウ(オ)のとおりであるところ、かかる業務に従事した被告の職員は、それぞれ本来行うべき職務にその間従事することができなかったものと認められる。そして、証拠(乙18の1、18の10、18の11、24)によれば、上記業務に従事した被告の職員が、同従事時間に見合う時間その本来の職務に従事することができなかったものということができ、これに対応する給与相当額は、合計96万4720円になることが認められる。

もっとも、上記業務は本来本件業務委託契約に基づいて原告が行うべき業務であって、被告はそれに対して委託料を支払うべき義務を負うものであったところ、原告のかかる業務(7799世帯分の家庭ごみの収集運搬業務)の債務不履行により、被告は、64万3418円分の委託料の支払を免れているのであるから、被告の職員が上記業務に従事したことにより被った損害額を算定するに当たっては、同額を控除すべきである。

そうすると、この点について被告が有する損害賠償請求権の額として、32万1302円の限度で認めるのが相当である。

(d) 以上から、被告は、原告に対し、人件費相当額の損害賠償請求権として、96万5293円の損害賠償請求権を有するものと認められる。

e したがって、被告が原告に対して有する実損害相当額の損害賠償請求権の額は、合計190万4748円となる。

(ウ) 合計

上記(ア)及び(イ)を合計すると、2137万1493円となる。

ウ  以上を基に、相殺適状の生じた時期を標準として相殺の計算をすると、別表のとおり、平成23年3月31日の時点で、原告は、被告に対し、本件還付請求権の残額として65万6606円の請求権を有することとなる。

そうすると、被告の原告に対する平成23年4月1日から同月30日までの間の遅延損害金3100円の請求権(争点(2)ウに係る被告の主張(イ)a(a)②)が存するものとは認められない。

その後、被告は、原告に対し、118万0379円の弁済をしているところ(弁論の全趣旨)、同弁済がされたことが記載された被告の準備書面(9)の作成日である平成25年3月12日に同弁済がされたものと認めるのが相当である(同日以前に同弁済がされたことを認めるに足る証拠はないから、同日よりも前の時点をもって弁済日を特定することはできない。)。また、被告は、同準備書面で利息と共に原告に支払っている旨主張するが、どの期間に対応するいくらの利息が支払われたのか何ら明らかではないから、同利息の支払を認めることはできない。

そうすると、被告の原告に対する上記弁済を、原告の被告に対する各請求権(本件還付請求権残額、23年度業務委託契約に係る平成23年4月分の委託料請求権及びこれらの遅延損害金請求権)に充当した結果は、別表記載のとおりとなるから、原告は、被告に対し、23年度業務委託契約に基づく同年4月分の未払委託料残額として81万8039円及びこれに対する平成25年3月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求権を有しているものと認められる。

6  争点(2)エ(本案の争点:本件解除が違法無効であることに基づく原告の被告に対する損害賠償請求権の存否)

原告は、本件解除が違法無効であることを理由として、被告に対し2565万1536円の損害賠償請求権を有している旨主張する。

しかしながら、本件解除が違法無効とは認められないことは、前記3で説示したとおりであるから、原告の同損害賠償請求権の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

7  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えのうち、本件指名停止の取消し及び原告が入札参加有資格業者として指名を受ける地位にあることの確認を求める各訴えは、いずれも不適法であるから却下し、原告の被告に対する未払の委託料等の請求は、81万8039円及びこれに対する平成25年3月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があるから同限度で認容し、原告のその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法64条本文、61条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 尾河吉久 板東恵里)

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