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大阪地方裁判所 平成23年(行ウ)55号 判決 2013年10月25日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用及び参加費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

内閣総理大臣が平成23年2月1日付けで財団法人a寺維持財団に対してした一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律45条の認可を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,内閣総理大臣が財団法人a寺維持財団に対してした一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)45条の認可(以下「本件認可」という。)は整備法117条各号の要件を満たしておらず違法であると主張して,被告に対し,本件認可の取消しを求める事案である。

1  法令の定め

(1)  一般財団法人等への移行

ア 整備法による改正前の民法(以下「旧民法」という。)の規定により設立された社団法人又は財団法人であって整備法の施行の際現に存するものは,整備法の施行の日以後は,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団・財団法人法」という。)の規定による一般社団法人又は一般財団法人として存続するものとする。(整備法40条1項)

イ 上記アの規定により存続する一般社団法人又は一般財団法人であって所定の登記をしていないもの(以下,それぞれ「特例社団法人」又は「特例財団法人」といい,併せて「特例民法法人」という。)は,整備法の施行の日から起算して5年を経過する日までの期間(以下「移行期間」という。)内に,整備法の定めるところにより,行政庁(所定の特例民法法人の区分により,内閣総理大臣又は都道府県知事)の認可(以下「移行認可」という。)を受け,それぞれ通常の一般社団法人又は一般財団法人となることができる。(同法45条)

(2)  移行認可の基準

行政庁は,移行認可の申請をした特例民法法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは,当該特例民法法人について移行認可をするものとする。(整備法117条)

ア 移行認可の申請書に添付された定款の変更の案(移行認可の申請をした特例民法法人において定款の変更について必要な手続を経ているものに限る。)の内容が一般社団・財団法人法及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること。(同条1号。以下「定款変更内容基準」という。)

イ 後記(5)アの公益目的財産額が内閣府令で定める額を超える認可申請法人にあっては,その作成した後記(5)アの公益目的支出計画が適正であり,かつ,当該認可申請法人が当該公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれるものであること。(同条2号。以下「公益目的支出基準」という。)

(3)  一般財団法人の定款の変更

ア 一般財団法人は,その成立後,評議員会の決議によって,定款を変更することができる。ただし,目的(一般社団・財団法人法153条1項1号)並びに評議員の選任及び解任の方法(同項8号)に係る定款の定めについては,この限りでない。(同法200条1項)

イ 上記アにかかわらず,設立者が目的又は評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定めを評議員会の決議によって変更することができる旨を定款で定めたときは,評議員会の決議によって,これらの定款の定めを変更することができる。(同条2項)

ウ 一般財団法人は,その設立の当時予見することのできなかった特別の事情により,目的又は評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定めを変更しなければその運営の継続が不可能又は著しく困難となるに至ったときは,判所の許可を得て,評議員会の決議によって,これらの定款の定めを変更することができる。(同条3項)

(4)  特例財団法人の定款の変更

ア 特例財団法人(評議員設置特例財団法人を除く。)については,一般社団・財団法人法200条の規定は適用しない。(整備法94条1項)

イ その定款に定款の変更に関する定めがある特例財団法人(評議員設置特例財団法人を除く。)は,当該定めに従い,定款の変更をすることができる。(同条2項)

ウ 特例財団法人の定款の変更は,旧主務官庁の認可を受けなければ,その効力を生じない。(同条6項)

エ 移行認可を受けようとする特例民法法人が移行の登記をすることを停止条件としてした整備法117条各号に掲げる基準に適合するものとするために必要な定款の変更については,旧主務官庁の認可を要しない。(同法118条,102条)

(5)  公益目的支出計画の作成

ア 移行認可を受けようとする特例民法法人は,当該認可を受けたときに解散するものとした場合において旧民法の規定によれば当該特例民法法人の目的に類似する目的のために処分し,又は国庫に帰属すべきものとされる残余財産の額に相当するものとして当該特例民法法人の貸借対照表上の純資産額を基礎として内閣府令で定めるところにより算定した額が内閣府令で定める額を超える場合には,内閣府令で定めるところにより,当該算定した額(以下「公益目的財産額」という。)に相当する金額を公益の目的のために支出することにより零とするための計画(以下「公益目的支出計画」という。)を作成しなければならない。(整備法119条1項)

イ 公益目的支出計画においては,公益の目的のための次に掲げる支出のほか,公益目的財産額に相当する金額から上記支出の額を控除して得た額が零となるまでの各事業年度ごとの上記支出に関する計画等を定めなければならない。(同条2項)

(ア) 公益目的事業のための支出(同項1号イ)

(イ) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「公益法人認定法」という。)5条17号に規定する者に対する寄附(同号ロ)

(ウ) 移行認可を受けた後も継続して行う不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する目的に関する事業(以下「継続事業」という。)のための支出その他の内閣府令で定める支出(同号ハ)

(6)  移行期間の満了による解散等

移行期間内に移行認可等を受けなかった特例民法法人は,原則として,移行期間の満了の日に解散したものとみなす。(整備法46条1項本文)

2  前提となる事実

以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。

(1)  当事者等

ア 原告は,昭和27年4月10日に宗教法人法に基づく宗教法人として設立された包括宗教団体である。

イ 被告補助参加人(以下「参加人」という。)は,大正元年11月21日に旧民法に基づく財団法人として設立され(当時の名称は財団法人b宗c派本廟維持財団),平成20年12月1日の整備法の施行に伴って特例財団法人となり(当時の名称は財団法人a寺維持財団),本件認可により一般財団法人となったもの(本件認可後の名称は一般財団法人a寺文化興隆財団)である。

(2)  参加人の寄附行為の変遷等

ア 参加人の設立当時の寄附行為(以下「原始寄附行為」という。)には,次の内容の規定がある(甲1)。

(ア) 参加人は「b宗c派a寺ノ維持ヲ確保スル」ことを目的とする。(1条)

(イ) 参加人は「b宗c派本廟維持財団」と称する。(2条)

(ウ) 参加人の事務所を「京都市j區d通リe町b宗c派a寺内」に置く。(3条)

(エ) 基金は消費することができない。(9条)

(オ) 参加人が解散したときは参加人に属する財産は「一切b宗c派a寺ニ寄附スル」ものとする。(36条)

(カ) 寄附行為は参議員全員の5分の4以上の同意を得た上,総裁の承認を経,主務官庁の許可があったときは変更することができる。ただし,1条(以下「目的条項」という。),9条及び36条(以下「残余財産条項」という。)は変更することができない。(37条。以下「変更条項」という。)

イ 目的条項は,昭和39年9月1日に認可された寄附行為変更(以下「昭和39年変更」という。)により,3条となり,「b宗c派の本山であるa寺」の助成を行うことを目的とする旨の規定に変更され,昭和55年12月1日に認可された寄附行為変更(以下「昭和55年変更」という。)により,「京都市j区d通e町f番地a寺」の助成を行うことを目的とする旨の規定に変更され,さらに,昭和57年4月14日に認可された寄附行為変更(以下「昭和57年変更」という。)により,「a寺(京都市j区d通e町f番地)の助成および納骨堂の経営」を目的とする旨の規定に変更された(甲2,乙11,丙42の1・2,44,45)。

ウ 残余財産条項は,昭和39年変更により,31条となり,参加人の解散に伴う残余財産は「a寺に寄附する」ものとする旨の規定に変更され,昭和57年変更により,30条となり,昭和63年5月27日に認可された寄附行為変更(以下「昭和63年変更」という。)により,参加人の解散に伴う残余財産は理事会及び評議員会において理事現在数及び評議員現在数の各4分の3以上の議決を経,かつ,主務官庁の許可を受けて,「第3条の目的と目的を同じくする,又は類似の目的を有する公益法人,又は団体に寄附する」ものとする旨の規定に変更された(甲2,3,乙11,丙10,42の1・2,44)。

エ 変更条項は,昭和39年変更により,30条となり,ただし書(以下「変更禁止規定」という。)が削除された上,寄附行為は理事会及び評議員会において理事定数及び評議員定数の各4分の3以上の議決並びに総裁の承認を経,かつ,主務官庁の認可を受けなければ変更することができない旨の規定に変更され,昭和57年変更により,28条となるなどした(甲2,乙11,丙42の1・2,44)。

オ 整備法の施行に伴い整備法40条2項の規定により特例財団法人の定款とみなされた参加人の寄附行為(以下「申請時寄附行為」という。)には,次の内容の規定がある(乙1)。

(ア) 参加人は「財団法人a寺維持財団」と称する。(1条)

(イ) 参加人は「a寺(京都市j区d通e町f番地)の助成および納骨堂の経営」を目的とする。(3条)

(ウ) 参加人は上記(イ)の目的を達成するために次の事業を行う。(4条)

a a寺の文化財の整備保存を援助するための事業

b a寺の儀式行事の伝承保存を援助するための事業

c 納骨堂の護持相続事業

d その他目的を達成するために必要な事業

(エ) 基本財産は,譲渡し,交換し,担保に供し,又は運用財産に組み入れてはならない。ただし,参加人の事業遂行上やむを得ない理由があるときは,理事会の議決を経,かつ,主務官庁の承認を受けて,その一部に限りこれらの処分をすることができる。(8条)

(オ) 寄附行為は,理事会及び評議員会において,理事現在数及び評議員現在数の各4分の3以上の議決を経,かつ,主務官庁の認可を受けなければ変更することができない。(28条)

(カ) 参加人の解散に伴う残余財産は,理事会及び評議員会において理事現在数及び評議員現在数の各4分の3以上の議決を経,かつ,主務官庁の許可を受けて,「第3条の目的と目的を同じくする,又は類似の目的を有する公益法人,又は団体に寄附する」ものとする。(30条)

(3)  本件認可等

ア 参加人は,平成22年7月14日,内閣総理大臣に対し,移行認可の申請(以下「本件申請」という。)をした(乙5)。

イ 本件申請に係る申請書に添付された整備法120条2項2号所定の定款変更の案(以下「本件定款案」という。)には,次の内容の規定がある(甲62,乙4,5)。

(ア) 参加人は,「一般財団法人a寺文化興隆財団」と称する(1条)。

(イ) 参加人は,「勧学布教,学事の振興」の精神の下,日本及び日本国民の財産であるa寺伝承の有形,無形の文化及び広く佛教文化を興隆する事業を行い,広く国民の教化善導を図り,これを広く国際社会に及ぼすことにより,人類共通の叡智を構築し,もって世界の精神文化発展に寄与することを目的とする(3条)。

(ウ) 参加人は,上記(イ)の目的を達成するため,次の事業を行う(4条1項)。

a a寺伝承の有形,無形の学術,芸術,儀式行事等を保存,振興,昂揚する事業(同項1号)

b 広く佛教文化の伝承,保存,振興,昂揚する事業(同項2号)

c 納骨堂の経営事業(同項3号)

d 不動産賃貸事業(同項4号)

e その他参加人の目的を達成するために必要な事業(同項5号)

(エ) 基本財産は,参加人の目的を達成するために善良な管理者の注意をもって管理しなければならず,基本財産の一部を処分しようとするとき及び基本財産から除外しようとするときは,あらかじめ理事会及び評議員会の承認を要する(5条2項)。

(オ) 定款は,評議員会の決議によって変更することができる(31条)。

(カ) 参加人が清算をする場合において有する残余財産は,評議員会の決議を経て,公益法人認定法5条17号に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に贈与するものとする(34条)。

ウ 本件申請に係る申請書に添付された整備法120条2項5号所定の公益目的支出計画(以下「本件公益目的支出計画」という。)を記載した書類には,次の記載がある(甲64,乙5)。

(ア) 公益目的財産額

266億8343万2388円

(イ) 実施事業等の内容等

納骨堂経営,g記念館事業,文学賞(h賞,i賞)事業,仏教文化振興事業及び国際文化交流事業(いずれも継続事業)

(ウ) 公益目的支出計画の実施期間

211年間

エ 参加人の評議員会及び理事会は,同年9月26日,それぞれ,一般財団法人への移行の登記を停止条件として申請時寄附行為を本件定款案の内容に変更すること(以下「本件定款変更」という。)等についての議決をした(丙52,53)。

オ 内閣総理大臣は,平成23年2月1日付けで,参加人に対し,本件認可をした(甲61)。

(4)  本件訴訟の提起

原告は,平成23年3月31日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

3  争点及び当事者の主張

本件の本案前の争点は,原告に原告適格があるか(争点1)及び本件につき訴えの利益があるか(争点2)であり,本案の争点は,本件申請が定款変更内容基準に適合するか(争点3)及び本件申請が公益目的支出基準に適合するか(争点4)であって,これらの争点についての当事者の主張は,以下のとおりである。

(1)  争点1(原告適格)について

(原告の主張)

参加人への財産出捐の際には,出捐者を委託者,参加人を受託者,原告を受益者とする信託契約が成立したものというべきところ,本件認可の法的効果である本件定款変更の効力完成により,参加人は,本件公益目的支出計画の下,原告への助成とは無関係の事業のために財産を支出する義務を課され,原告は,原始寄附行為以来認められてきた,参加人から助成を受けられる唯一の対象としての地位(単なる期待権ではなく,信託契約上の受益者としての地位・権利)を失うから,本件認可の法律上の効果として直接権利を侵害される者に当たる(なお,昭和39年変更は,当時の監督官庁の記載例に従い,形式的な修正をしたものにすぎず,目的や残余財産寄附対象といった根本的事項を無制限に変更することを認めたものではないから,これによって原告の上記利益が失われたということもできない。)。

また,定款変更の案が一般社団・財団法人法等に適合することを求める整備法117条1号,定款の目的変更を厳しく制限する一般社団・財団法人法200条,特例財団法人の定款変更につき監督官庁の認可を要求する整備法94条6項,特例民法法人の目的外事業に対する所管官庁の必要な措置等について規定する整備法95条,96条,一般社団・財団法人法261条,寄附行為の変更を制限していると解される旧民法等の規定に照らすと,本件認可の根拠法規が,財団設立者の意思を尊重し,その利益を個別的利益として保護していることは明らかである(公益法人制度改革において,特例財団法人が一般財団法人に移行する場合に設立者の意思を無視して無制限に目的等を変更しなければならないという必要性や立法事実は存在せず,立法過程においてもそのような議論は一切されていないこと,移行認可前の特例財団法人の定款変更については監督官庁の認可が必要であること等に照らすと,移行認可の際の定款変更に制限がないとの解釈は誤りであり,無制限に目的を変更するような定款変更案は,一般社団・財団法人法200条の趣旨に照らし,同法に適合しないから,整備法94条の下でも許容されない。)。そして,原告は,参加人の実質的な設立者であるところ,その意思に反する目的条項の変更を許容する本件認可によって,本件公益目的支出計画の下,毎年1 億円以上が原告の助成以外の事業に使用され,参加人から流出することになる等の重大な不利益を被るのであるから,本件認可の取消しを求める「法律上の利益」を有しているといえる。

(被告の主張)

申請時寄附行為によれば,原告は原始寄附行為において認められていた唯一の受益者・残余財産の唯一の帰属者の地位を認められていない(原告の関係者が多数を占める理事全員の賛成により行われた昭和39年変更によって,変更禁止規定は削除され,残余財産を「b宗c派a寺」以外の者に寄附することが可能とされている。また,原始寄附行為は主務官庁の認可を得て変更されているのであり,その認可の無効確認訴訟を提起して勝訴判決を得ることもなく原始寄附行為が有効であると主張するのは失当である。)。また,原告が,従前,参加人から助成を受けていたとしても,法人の内部規範として当該法人を拘束するにすぎない寄附行為の変更の効力を生じさせる移行認可は,法人の外部者の権利義務や法律関係を直接に形成し,又はその範囲を確定するものではないし,法人外の第三者は,当該法人における業務執行の意思決定及び活動によって初めて経済的利益を受ける関係にあるにすぎないから,原告が主張する地位は,本件認可の法的効果として直接に侵害されるものではない。よって,原告は,本件認可による法的効果として自己の権利利益を直接侵害される関係にないことは明らかである。

また,本件認可の根拠法規である整備法117条は,定款変更内容基準及び公益目的支出基準を規定し,行政庁による認可権の行使に制約を課しているが,それは,一般社団法人又は一般財団法人に移行する特例民法法人が一般社団・財団法人法の予定する目的・事業内容や組織に合致しない事態を防止するとともに,特例民法法人の保有している財産が移行後の法人によって公益目的以外に費消される事態を防止するという専ら公益的な利益を保護するためのものであり,他に,移行認可による定款変更の効力完成によって特定人が何らかの経済的不利益を被ることに配慮して,これを移行認可の可否の審査の対象とし,移行認可に制約を課すような文言,趣旨・目的の規定はおよそ見当たらず(一般社団・財団法人法200条は特例財団法人に適用されないし,整備法94条は移行の際の定款変更に制限を設けていない。立法過程においても,財団法人の目的の変更を制限する考えはなかった。),むしろ,設立者を含む関係者に対して特別の利益を与えないことを認可の基準としていること等からすれば,本件認可の根拠法規は,原告が主張する財産の委託者たる地位や,唯一の受益者たる地位及び唯一の残余財産の帰属権利者たる地位を保護していないと解される。

以上によれば,原告は,本件認可の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に該当しない。

(参加人の主張)

原告は,本件認可の根拠法規及び関連法令として整備法,一般社団・財団法人法及び旧民法の規定を挙げるが,整備法117条等の規定は設立者の意思・利益を保護するものではないし,旧民法は公益法人制度改革に伴い改正されたものであって,参酌されるべきものではないから,これらの規定の趣旨・目的から原告に「法律上の利益」があるということはできない。また,参加人の設立者は原告ではなく,助成対象とされていた「a寺」も原告と同義ではないし,原告と参加人が信託契約を締結したこともないのであるから,原告は,参加人に対して主張できる権利利益を何ら有していない(そもそも,唯一の受益者としての利益や残余財産の帰属権利者としての利益は,一般社団・財団法人法等の趣旨に反する。)。よって,原告が本件認可の取消しを求める原告適格を有していないことは明らかである。

(2)  争点2(訴えの利益)について

(原告の主張)

移行認可は,単に他者の法律行為の効力を完成させるだけでなく,これによって特例民法法人が一般社団法人又は一般財団法人に移行し,公益目的支出計画による支出義務が課されるなど様々な効果を発生させるものであり,典型的な講学上の認可とは法的効果が異なる。本件認可が取り消されると,参加人は,特例民法法人の状態に戻り,従前の定款によって原告の助成のみを行い得ることになり,その財産が他の事業のために流出することも止まるから(参加人は,本件公益目的支出計画に基づく支出義務を負わないことになり,他方,原告の助成の目的の範囲でしか事業を行い得ず,原告への助成を行わなければ監督官庁による監督を受けることになる。),原告の受益者たる地位・権利も確保されることになる。よって,本件認可の取消しの訴えには,訴えの利益がある。

(被告の主張)

本件認可が取り消されても,参加人が本件申請をした時点の状態を回復するだけであり,参加人の事業展開等は,原告の関与なく参加人のみで決定することができるから,その資産の流出を防止できるわけでも,直ちに助成を受けることができるようになるわけでもない。また,申請時寄附行為によれば,原告は,参加人が解散した場合の残余財産の分配を受けることができる地位を必ずしも保障されるわけではない。よって,本件認可の取消しが原告の権利利益の保全,損害の発生・拡大の防止に直接役立つとはいえないから,本件認可の取消しの訴えには,訴えの利益がない。

(3)  争点3(定款変更内容基準適合性)について

(被告の主張)

定款変更内容基準の適合性の審査においては,定款変更の案(移行認可の申請をした特例民法法人において定款の変更について必要な手続を経ているものに限る。)について,その必要的記載事項等が一般社団・財団法人法等の規定に適合するものと認められるかどうかを審査することが求められる。本件申請については,①定款の必要的記載事項等を審査して本件定款案の内容が一般社団・財団法人法等の規定に適合すると認められること及び②参加人において定款の変更に必要な手続を経ていることを確認しているから,本件定款案は定款変更内容基準に適合する。

行政庁は,定款変更案について上記の点を申請書等の記載内容等に基づき審査すれば足り,それを超えて,定款の実体的な効力等についてまで審査すべきものではない。そして,審査対象外の事情である定款変更の瑕疵等が移行認可の違法事由とならないことは,一般社団・財団法人法において定款変更についての主務官庁の認可が不要とされたことからもうかがわれる。よって,仮に本件定款変更が無効であったとしても,これが本件認可の違法事由となるものではない。

また,参加人の寄附行為については,原告の関係者が多数を占める理事全員の賛成により行われた昭和39年変更によって変更禁止規定は削除され,その後,残余財産を「b宗c派a寺」以外の者に寄附することを可能とする定款変更が行われているから,本件定款変更は設立者の意思に反するとはいえない。

さらに,一般財団法人について設立者の意思を尊重するための規定である一般社団・財団法人法200条は特例財団法人(評議員設置特例財団法人を除く。)には適用されず,整備法94条は,目的を変更しなければ一般財団法人への移行ができない事態を想定し,目的を変更して一般財団法人に移行するのか,目的を変更せずに解散するのかを当該財団法人の意思により決定することを可能とする規定と解すべきであるから,たとえ,特例財団法人の定款において目的の変更が禁止されていても,同条により,その目的を変更することができると解すべきである。そして,仮に参加人が寄附行為に定められた目的を変更しない場合には,特定の者である「b宗c派a寺」の助成以外の事業を行うことができず,公益目的支出計画を適正に作成することができないため,一般財団法人への移行ができない可能性がある。よって,参加人の原始寄附行為を前提としても,本件定款変更は許される。

(参加人の主張)

参加人の寄附行為については,原告の意向に沿ってされた昭和39年変更により変更禁止規定が削除されているし,旧民法上,寄附行為の変更に限界があるとしても,財団の究極の目的に合致する変更は許されると解すべきところ,参加人の設立目的は,a寺の助成という矮小化されたものではなく,「学事の奨励」及び「布教の振起」であり,旧民法下での寄附行為の変更はその目的の範囲内での付随的事項に関するものにすぎないから,有効である。また,旧民法の下における参加人の寄附行為の変更については,いずれも主務官庁の認可がされているところ,それらは取り消されていないから,寄附行為の変更はいずれも一応有効なものと取り扱われるべきであり,これらがないことを前提とする原告の主張は失当である。

さらに,本件定款変更は,所定の手続を履践して行われており,かつ,目的条項及び残余財産条項の変更は公益法人制度改革の趣旨に沿うものであって,その有効性に疑問の余地はない。定款の根本的事項の変更ができないとすれば,行政庁は移行認可の審査の際に法に規定されておらず基準も不明確な実体判断をしなければならないことになり,実務に大混乱が生ずる。そして,仮に本件定款変更に瑕疵があるとしても,裁量処分である本件認可は,裁量権の逸脱・濫用がない限り違法とならないところ,本件において裁量権の逸脱・濫用はない。

(原告の主張)

旧民法の公益財団法人については,設立者の意思に反する目的等の変更はたとえ寄附行為に変更を可能とする規定があってもできないと解されていた。そして,一般社団・財団法人法200条も,設立者の意思尊重の趣旨から,一般財団法人の目的の変更を厳しく規制している。したがって,特例財団法人においても,設立者の意思に反し,法人の存立を根底から覆すような目的等の変更を行うことは許されず,そのような変更が行われた場合,定款は実体的に無効である。

公益法人制度改革において,特例財団法人が一般財団法人に移行する場合に設立者の意思を無視して無制限に目的等を変更しなければならないという必要性や立法事実は存在せず,立法過程においてもそのような議論は一切されていないこと,移行前の定款変更については監督官庁の認可が必要であること等に照らして,移行の際の定款変更に制限がないとの解釈は誤りである。無制限に目的を変更するような定款変更の案は,一般社団・財団法人法200条の趣旨に照らし,同法に適合しないから,整備法94条の下でも許容されない。

そして,本件定款変更は,設立者(実質的には原告自身である。)が意図した原告の維持という目的を完全にすり替え,残余財産の帰属先も変更するものであり,設立者の意思に反するから無効である(本件においては,定款の目的を変更しなくても,継続事業である原告への助成に多額の費用を要するから,公益目的支出計画の作成に支障はなく,参加人が一般財団法人に移行することは可能であって,設立者の意思に反する定款変更を認めなければ移行が不可能といった事情もない。)。

ところで,定款変更が実体的に無効であれば,その効力を完成させる補充的意思表示である移行認可も当然無効となると解され,仮に移行認可が当然無効にならないとしても,当該定款の案は一般社団・財団法人法に適合しないから,移行認可は整備法117条1号の要件を満たさない違法なものとなる(行政処分の違法性は客観的な法規範違反の有無によって決せられるのであり,行政庁が審査義務を尽くしたとしても違法となる場合があることは当然である。)。そして,本件定款変更は,上記のとおり無効であるから,本件認可は無効又は違法である。

(4)  争点4(公益目的支出基準適合性)について

(被告の主張)

本件公益目的支出計画に記載された実施事業等は整備法119条2項1号の要件を満たし,特別の利益を与えないものであることが確認されており,参加人が実施事業に必要な技術的能力等を有していることも確認されている。そして,公益目的財産額等の計算も整備法及び整備法施行規則にのっとって行われており,本件公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれることも確認されている。

原告は,原告が参加人との間の信託契約を解除したことにより参加人に対して200億円以上の価額返還請求権を有することを前提に,本件公益目的支出計画は実施できないと主張するが,行政庁は,公益目的支出計画書の記載内容等に基づき審査をすれば足り,原告主張に係る事情まで考慮して審査をしなければならないものではないし,そもそも,原告と参加人との間に信託契約が成立したということはできない。

(参加人の主張)

参加人に財産を寄附したのは原告ではない上,原告は,本件訴訟提起まで信託契約が存在するとの認識を示しておらず,土地について信託登記もしていないのであるから,寄附行為上の制限を超えた信託の明確な合意があったということはできない。仏の道を説く者が財産を拠出する以上は喜捨であり,その返還を求めるべきものでないことは明らかである。

(原告の主張)

原告は,参加人に対して多額の金銭や土地を信託譲渡していたところ(明文の信託契約は存在しないが,原告の参加人に対する財産譲渡は,参加人の寄附行為に示された目的的制約等に照らし,信託契約の要素を満たすものである。),平成22年7月に信託契約の一部を解除したから,参加人に対して200億円以上の価額返還請求権を有している。本件公益目的支出計画はこの点を考慮していないから不適正であり,かつ,これを確実に実施できる見込みもない。また,参加人は寄附行為により原告に対する助成以外の事業を行うことができないから,納骨堂経営等の事業によって公益目的財産額を費消することを前提とする本件公益目的支出計画は不適正であり,かつ,これを確実に実施できる見込みもない。

よって,本件認可は整備法117条2号に反する。

第3当裁判所の判断

1  争点1(原告適格)について

(1)  行政処分の取消訴訟の原告適格を有する当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法9条1項)とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解されるところ,行政処分の取消訴訟は,その取消判決の効力によって処分の法的効果を遡及的に失わせ,処分の法的効果として個人に生じている権利利益の侵害状態を解消させ,当該権利利益の回復を図ることをその目的とするものであるから,処分の名宛人以外の第三者であっても,当該処分の本来的効果として自己の権利利益を侵害される関係にある者は,当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に該当し,当該処分の取消訴訟の原告適格を有するというべきである(最高裁昭和60年12月17日第三小法廷判決・裁判集民事146号323頁参照)。

ところで,移行認可は,特例民法法人が通常の一般社団法人又は一般財団法人となるという法的効果を生じさせるが,当該移行の際の定款(整備法40条2項により定款とみなされる寄附行為を含む。以下同じ。)の変更については,旧主務官庁の認可を得る必要がなく(整備法118条,102条),行政庁が定款の変更の案の内容について審査するものとされていること(整備法117条1号)等に照らすと,移行認可は,当該定款の変更の効力を完成させる法的効果をも生じさせるものと解される。

そうすると,移行認可前の定款において,特定人に一定の権利利益が認められていたにもかかわらず,移行認可の際の定款の変更により,当該権利利益が失われることとなる場合には,当該特定人は,移行認可の本来的効果(定款の変更の効力の完成)として自己の権利利益を侵害される関係にあるということができるから,移行認可の効力を否定して自己の権利利益の回復を図る法律上の利益を有するということができる。よって,このような場合,当該特定人は,移行認可の取消訴訟の原告適格を有するものというべきである。

(2)  これを本件について見ると,申請時寄附行為3条は,参加人は,「a寺(京都市j区d通e町f番地)の助成および納骨堂の経営」を目的とする旨を規定し,同4条は,参加人は,上記目的を達成するために,a寺の文化財の整備保存を援助するための事業,a寺の儀式行事の伝承保存を援助するための事業,納骨堂の護持相続事業,その他目的を達成するために必要な事業を行うものとしているところ,この「京都市j区d通e町f番地」の「a寺」は,同所に所在する礼拝施設であるいわゆるk寺(b宗本廟)を指すことが明らかであり,同所を主たる事務所と定める宗教法人(包括宗教団体)である原告と実質的に同視されるものというべきである。そして,上記各規定によれば,原告に対する助成と納骨堂の経営のみが参加人の目的とされ,参加人は,上記目的を達成するため,a寺の文化財の整備保存を援助するための事業やa寺の儀式行事の伝承保存を援助するための事業等を行うものとされているのであるから,申請時寄附行為においては,原告には,参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位が認められていたということができる。そして,このような地位は,権利に準ずる地位又は利益として法的保護の対象となるものというべきである。

他方,前記前提となる事実のとおり,本件定款案3条は,参加人は,「勧学布教,学事の振興」の精神の下,日本及び日本国民の財産たるa寺伝承の有形,無形の文化及び広く佛教文化を興隆する事業を行い,広く国民の教化善導を図り,これを広く国際社会に及ぼすことにより,人類共通の叡智を構築し,もって世界の精神文化発展に寄与することを目的とする旨を規定しており,原告に対する助成を目的として掲げておらず,また,本件定款案4条を見ても,原告に対する助成,援助等に関する事業は含まれていないから,本件定款案においては,原告に参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位が認められていないということができる。

そうすると,原告は,本件認可の法的効果である本件定款変更の効力完成により,参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位を失うという不利益を直接被ることになり,原告は,本件認可の本来的効果として自己の権利利益を侵害される関係にあるというべきである。

(3)  この点,被告は,法人の内部規範として当該法人を拘束するにすぎない定款の変更の効力を生じさせる移行認可は,法人の外部者の権利義務や法律関係を直接に形成し,又はその範囲を確定するものではないし,法人外の第三者は,当該法人による業務執行の意思決定及び活動によって初めて経済的利益を受ける関係にあるにすぎないから,原告が主張する地位は,本件認可の法的効果として直接に侵害されるものではないと主張する。しかしながら,原告に対する助成の具体的な時期,内容等が参加人の意思決定等に委ねられているとしても,参加人から助成を受けられるという定款上の地位自体が法的利益であるということができるのであるから,この地位を失うことは,それ自体が権利利益の侵害に当たるというべきである。よって,被告の上記主張は採用することができない。

また,参加人は,参加人の設立者は原告ではなく,助成対象とされていた「a寺」も原告と同義ではないし,原告と参加人が信託契約を締結したこともないから,原告は参加人に対して主張できる権利利益を何ら有していないし,唯一の受益者としての利益や残余財産の帰属権利者としての利益は,一般社団・財団法人法等の趣旨に反するなどと主張する。しかしながら,申請時寄附行為にいう「a寺」がいわゆるk寺(b宗本廟)を指し,同所を主たる事務所と定める原告と実質的に同視されることは上記(2)のとおりであり,参加人は,実際,平成4年頃までは原告に対してのみ助成を行っていたこと(甲14~17,37の1・2,丙15~18)等をも併せ考えれば,申請時寄附行為において助成の対象とされていたのは原告のみであると認められる。そして,参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位は,旧民法の下で旧主務官庁の認可を受けた申請時寄附行為によって認められたものであり,仮に特定の宗教法人に対する助成が公益法人認定法,一般社団・財団法人法及び整備法(以下,併せて「公益法人関連三法」という。)の下では公益目的事業等として認められないとしても,そのこと自体から直ちに上記の地位が法的保護に値しないということはできない。よって,参加人の上記主張は採用することができない。

(4)  以上によれば,原告は,その余の点について判断するまでもなく,本件認可の取消しを求める原告適格を有すると認められる。

2  争点2(訴えの利益)について

移行認可は,前記のとおり,特例民法法人を通常の一般社団法人又は一般財団法人に移行させるとともに,移行の際の定款変更の効力を完成させる法的効果を有するから,本件認可が取り消されれば,原告は,本件定款変更の効力完成によって失われた参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位を回復することになる。そうすると,本件認可の取消しの訴えについては,訴えの利益が認められるというべきである。

この点,被告は,本件認可が取り消されても,参加人の事業展開等は,原告の関与なく参加人のみで決定することができるから,その資産の流出を防止できるわけでも直ちに助成を受けることができるようになるわけでもないから訴えの利益はないと主張する。しかしながら,申請時寄附行為によって認められていた参加人から助成を受けられる唯一の対象たる地位それ自体を法的利益というべきことは前記のとおりであって,本件認可の取消しによって当該地位を回復し得る以上は訴えの利益が認められるというべきであるから,原告が参加人に対して具体的な助成の請求権を有しておらず,本件認可が取り消されても直ちに助成を受けることができるようになるわけではないとしても,上記の結論を左右するものではない。よって,被告の上記主張は採用することができない。

3  争点3(定款変更内容基準適合性)について

(1)  移行認可に伴う定款変更の限界について

ア 旧民法に基づく財団法人の寄附行為の変更

旧民法は,財団法人の寄附行為の変更について何らの規定も設けていないが,旧民法に基づく財団法人については,社団法人における総会のような意思決定機関を持たないこと等から,設立者の意思が尊重されるべきであり,その意思の表示である原始寄附行為を変更することは原則として許されないと解される。もっとも,事務所の所在地や法人の名称等の形式的な事項を変更することは許されるし,当該寄附行為自体にその変更手続に関する定めがある場合には,その方法に従った変更は可能であるが,変更手続に関する定めがある場合であっても,財団法人の同一性を失わせるような根本的事項の変更は,設立者の意思に反するから許されないものと解するのが相当である(P1教授及びP2教授の意見書(甲71)参照)。

イ 一般社団・財団法人法に基づく一般財団法人の定款の変更

(ア) 一般社団・財団法人法200条は,一般財団法人は,その成立後,原則として評議員会の決議によって定款を変更することができるとしつつ,目的並びに評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定めについては変更することができないとした上(1項),設立者がこれらの定めを評議員会の決議によって変更することができる旨を定款で定めたときは,評議員会の決議によって,これらの定めを変更することができるとし(2項),さらに,その設立の当時予見することのできなかった特別の事情により,目的又は評議員の選任及び解任の方法に係る定款の定めを変更しなければその運営の継続が不可能又は著しく困難となるに至ったときは,裁判所の許可を得て,評議員会の決議によって,これらの定款の定めを変更することができるとしている(3項)。

(イ) ところで,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,公益法人関連三法の立法過程において,以下の事実が認められる。

a 政府は,平成15年6月27日,公益法人制度の抜本的改革の基本的枠組み等を明らかにした「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」を閣議決定した(乙12,丙46,70)。

b 上記aの閣議決定を受け,同年11月から,行政改革担当大臣の下に「公益法人制度改革に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)が開かれ,有識者会議の下に「非営利法人ワーキング・グループ」(以下「非営利法人WG」という。)が設けられて,新たな非営利法人制度についての検討が進められることとなった(乙12,丙46)。

c 非営利法人WGは,平成16年3月2日の第6回会合において,財団法人の寄附行為の変更の問題を取り上げ,事務局から,変更が一切不可というのは不都合ではないか,変更可能とする場合にはその限界の有無等について検討が必要ではないかといった問題意識が示されたのに対し,委員からは,財団法人の場合には設立者の意思を最大限尊重するという原則があるので簡単に寄附行為の変更を認めることはできないが,事情変更の原則等の適用として寄附行為の変更に関する規定を法律中に設け,寄附行為自体には変更の手続がなくても変更ができる余地を認めることはあり得る,寄附行為の規定内容にかかわらず寄附行為の変更が可能な場合を設けるかが問題である,設立者の意思と明らかに違うことをするためには裁判所の関与が考えられるが,設立者の意思に一応沿う形で変更するのであれば裁判所の関与までは不要である,中間的な目的の財団法人については,公益目的の財団法人と異なり,目的を完全に変更しても構わないといえるかどうかは設立者の意思との緊張関係だけの問題であるといった意見が述べられる一方で,財団法人は目的たる事業が成功不能となった場合には解散するのが適切であり,寄附行為の変更については,できないものとするか手続を非常に重くすべきではないかといった意見も出された(丙56,57,75~77)。

d 非営利法人WGの第8回会合(同年5月14日)においては,財団法人の寄附行為の変更について,事務局から,変更に関する規律を法定し,設立者の意思にかかわらず法定の要件に従って変更することを可能とする(ただし,目的に関する規定の変更については裁判所の許可を必要とする)A案と,変更に関する規定を寄附行為の必要的記載事項とし,変更に関するルールの設定を原則として設立者の意思に委ねるB案とが提案されたのに対し,委員からは,設立者の意思の尊重という財団法人の趣旨に照らすとB案が相当ではないか等の意見が述べられた(丙79,80)。

e 非営利法人WGの第9回会合(同月26日)においては,事務局から,寄附行為の変更に関する規律が必要であるという点では委員の意見が一致したとして,中間的な目的の財団法人を認める場合には目的等の変更に一定の制限を設けることの当否について検討することが提案された(丙81,82)。

f 非営利法人WGの第10回会合(同年6月25日)においては,事務局から,上記dのA案及びB案についてはそれぞれ支持する意見があったとして,再び同旨の両論が提示され,委員からは,B案では寄附行為に書かれていない事項はどうなるのか,B案では寄附行為の変更を許さないという設立者の意思を認めるのかといった意見が出され,B案によれば財団法人が環境変化に対応できなくなれば目的達成不能で解散するしかなくなるとの指摘がされるなどした(丙58,83,84)。

g 有識者会議の第16回会議(同年7月15日)においては,非営利法人WGにおける議論を踏まえ,財団法人の寄附行為については,変更ができるものとした上で,変更の要件を法定するか,設立者の意思に委ねるかについて検討することが提案がされた(丙55,85)。

h 非営利法人WGの第14回会合(同年10月1日)においては,事務局から,上記のA案及びB案と同旨の両論が提示され,委員からは,寄附行為の変更の要件を設立者が全く自由に決められるとすると問題が生ずるなどとして,A案を支持する意見が有力に主張された(丙60,89)。

i 非営利法人WGが同月12日に取りまとめた「非営利法人制度の創設に関する試案」においては,寄附行為の変更について,上記のA案に基づき,寄附行為を変更するには理事会の決議に基づく寄附行為の変更に関する議案について評議員会の特別多数の決議を要する旨を法定することを提案する一方,寄附行為による別段の定めを設けることの適否についてなお検討するものとされた(甲74,丙48別紙)。

j 有識者会議の第21回会議(同日)においては,様々な環境変化の下で財団法人が適切に適応していくためには寄附行為を変更する手段が必要であるとして,上記iの試案の説明がされ,委員からは,財団法人の設立者が寄附行為を一切変更してはならないとの意思を有しているとしても,一般的には,定款変更ができないものとすることは相当でないといった意見が述べられた(乙13)。

k 有識者会議が同年11月19日に取りまとめた報告書においては,財団形態の非営利法人については,設立者の意思を尊重しつつ,その自律的な運営を確保するために必要な規律を定めることが重要とされ,寄附行為(根本規則)の変更については,財団法人であっても,社会情勢の変化等により,寄附行為の変更を要する事態が生ずることは避けられないので,寄附行為の変更に関する手続(寄附行為は,設立者の意思に基づく法人の根本規範であるから,変更については,理事会の決議に基づく変更に関する議案について,評議員会の特別決議を要するものとする。)を法定するものとされた(乙14,丙48)。

l 政府は,上記の検討過程を踏まえ,同年12月24日,「公益法人制度改革の基本的枠組み」を含む「今後の行政改革の方針」を閣議決定した(乙12,丙46,71)。

m 政府は,上記lの閣議決定に基づき,法案の立案作業を進め,平成18年3月10日,公益法人関連三法案を閣議決定し,これを第164回国会に提出した(乙12,丙46)。

n 公益法人関連三法案は,同年4月20日,衆議院本会議において可決され,同年5月26日,参議院本会議において可決され,成立した(乙12,丙46)。

以上のとおり,公益法人関連三法の立法過程においては,財団法人の寄附行為(定款)の変更の手続や限界について,設立者の意思に完全に委ねるべきか,設立者の意思にかかわらず法定の要件に従って変更することを可能とすべきかが議論され,最終的に後者の考え方が採られているのであって,一般社団・財団法人法200条の規定も,このような考え方に基づくものであるということができる。

(ウ) また,公益法人関連三法の立案担当者らが分担執筆した解説書である「一問一答公益法人関連三法」の「Q155」は,一般社団・財団法人法200条3項について,「一般財団法人は設立者の定めた目的を実現するための法人であり,その運営・管理の根幹部分については,設立者の意思が尊重される仕組みとすることが相当」としつつ,定款の目的等の規定についても,「設立の当時予見できない特別の事情により,これらの事項を変更しなければ法人の運営が不可能または著しく困難となるに至った場合であっても一切定款の変更を許容しないとすれば,かえって法人運営の機動性・柔軟性を阻害する結果となりかね」ないとし,これらの事項について変更を許容する旨の定めが原始定款にない場合であっても,「定款の変更をしなければ,法人の運営が不可能または著しく困難となるに至ったといえるかについての裁判所による客観的・中立的な判断の下,評議員会の決議によって定款の変更を認めることとし」たものであるなどと説明し,定款の変更が認められる場合の具体例として,「定款記載の目的(事業)が設立後の法改正によって遂行不能となるに至った場合」や「設立後の社会情勢の変化によって定款記載の目的(事業)のみでは運営の継続が困難となり,新たな目的(事業)を追加する必要が生じた場合」を挙げている(丙46)。

このように,公益法人関連三法の立案担当者は,一般社団・財団法人法200条3項の裁判所の許可について,裁判所は「定款の変更をしなければ,法人の運営が不可能または著しく困難となるに至ったといえるか」を判断するものと説明し,「定款記載の目的(事業)が…遂行不能となるに至った場合」(このような場合に法人の運営を継続するためには,従前とは異なる目的(事業)を定める必要があるといえる。)等には目的規定の変更が可能であるとしているのであって,上記(イ)のとおり,立法過程における議論において,設立者の意思に反する寄附行為の変更については裁判所の関与を要求すべきとの意見が述べられていたこと等をも併せ考えると,上記の裁判所の許可については,当該変更が設立者の意思に反するかどうか(財団法人としての同一性を害するかどうか)を審理・判断することは予定されていないと解するのが合理的である。

(エ) 以上によれば,一般社団・財団法人法200条は,旧民法と同じく,財団法人の設立者の意思を尊重することを基本としつつも,旧民法とは異なり,定款変更における設立者の意思による絶対的拘束を認めず,当該法人の運営継続のために必要がある場合には,設立者の意思に反し,又は当該財団法人の同一性を失わせるような定款変更であっても,これを許容する趣旨の規定であると解するのが相当である。

ウ 特例財団法人の定款の変更

(ア) 整備法は,評議員設置特例財団法人を除く特例財団法人については,一般社団・財団法人法200条の規定を適用しないものとした上で(整備法94条1項),その定款に定款の変更に関する定めがある場合には,当該定めに従って定款の変更をすることができるが(同条2項),特例財団法人の定款の変更は,旧主務官庁の認可を受けなければ,その効力を生じないとする(同条6項)。もっとも,整備法は,移行認可を受けようとする特例民法法人が移行の登記をすることを停止条件としてした整備法117条各号に掲げる基準に適合するものとするために必要な定款の変更については,旧主務官庁の認可を要しないものとしている(整備法118条,102条)。

(イ) ところで,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,公益法人関連三法の立法過程において,以下の事実が認められる。

a 有識者会議の第21回会議(平成16年10月12日)においては,公益法人から一般の非営利法人への移行措置に関し,事務局から,「何らかの事情により公益性を有すると判断されなかった場合においても,法人として存続していくことが想定され」,移行については,財産等の取扱いに関する一定の条件の下,「組織変更できることとする等の円滑な移行措置を設けることが適当ではないか」との提案がされ,委員等からは,組織変更は政策的な問題であるから,ニーズがあれば財団法人から社団法人への組織変更も可能であり,理論的な限界はないといった意見が出されたが,これらについて特に異論はなかった(乙13,丙90)。

b 有識者会議が同年11月19日に取りまとめた報告書においては,公益法人から新たな非営利法人等への移行措置について,移行期間内に一定の公益性の基準に合致しないと判定された公益法人は「基本的に,一般の非営利法人となるものとする」とされた(乙14,丙48)。

c 政府が同年12月24日に閣議決定した「今後の行政改革の方針」においては,公益法人の新たな制度への移行について,「円滑な移行を推進するため,十分な準備期間及び移行期間,組織変更等の簡易・円滑な転換手続を設ける等必要な措置を講ずるものとする」とされ,公益性を有する非営利法人への移行を望まない公益法人については,「財産承継に関する条件の下,基本的に一般の非営利法人(…)に移行することとする方向で,その公平かつ合理的な基準及び手続について,引き続き検討する」とされた(丙71)。

以上のとおり,公益法人関連三法の立法過程においては,新たな法人形態への移行の在り方は政策的に決定し得るものであるとの認識の下,公益性を有する非営利法人への移行ができない公益法人や,移行を望まない公益法人は,基本的に一般の非営利法人に移行して存続することが想定され,それを前提に,円滑な移行を推進するための措置を講ずべきであるとされていたのであって,整備法の上記(ア)の規定も,このような考え方に基づくものであるということができる。

(ウ) そして,有識者会議の構成員であり,非営利法人WGの座長であったP3教授(丙54,57)は,その意見書(乙15)において,特例財団法人から一般財団法人への移行の際の定款変更に関し,公益法人制度自体の変更という設立時には予見不可能であった特別な事情によって公益財団法人として存続できなくなった場合に,目的条項等の変更をすれば一般財団法人として存続する道が開かれているときに,その道を採らないことが設立者の意思であったと断定することはできないから,設立者の意思によって変更の可否の問題を解決することは適当でなく,このような事態において,財団法人自身の判断で定款の目的条項等を変更して存続する道を選ぶか,財団法人を解散する道を選ぶかを決定できるとするのが整備法94条の考え方であるとした上で,一般財団法人に移行するためには,一定以上の公益目的財産額を有する法人は公益目的支出計画を作成しなければならないところ,当該法人が実施してきた事業のみでは公益目的支出計画を作成することができない場合には,新規の事業を行うのに必要な範囲である限り,従来の目的とは関連のない別の目的への変更(財団法人としての同一性を失わせるような変更)をすることも可能であるとの見解を示している。

また,非営利法人WGの構成員であったP4教授(丙54)も,その意見書(丙64)において,整備法は,旧民法に基づく財団法人が最終的に一般財団法人に移行することが不可能又は著しく困難とならないよう,特例財団法人は,特例財団法人である期間に限り,定款の変更を自由に行うことができるようにしたものであり,定款の変更が,定款全体に示された設立者の意思に反することが明らかである場合においても,当該定款の変更をしなければ特例財団法人の運営の継続や一般財団法人への移行が不可能又は著しく困難となるに至るときは,定款を変更することができると解すべきであるとの見解を示している。

これらの見解は,上記のとおり公益法人関連三法の立法過程に深く関与した研究者によって示されたものであり,前記認定の立法過程における移行措置に関する議論の内容等にも沿うものである上,財団法人の運営継続のために必要がある場合には,設立者の意思に反し,又は当該財団法人の同一性を失わせるような定款変更も許容するという一般社団・財団法人法の前記趣旨とも整合するものということができる。

(エ) さらに,公益法人関連三法を所管する内閣府が公表した「新たな公益法人制度への移行等に関するよくある質問(FAQ)平成23年9月版」には,以下のような説明がある(丙47)。

a 評議員を設置しない特例財団法人の定款の中に特定の条項を変更してはならない旨の規定がある場合であっても,当該規定を変更しなければ一般財団法人に移行することができず解散しなければならなくなるようなときには,仮に,変更が禁止されているのが目的規定等であっても,定款の中の定款変更に関する定めに従い(当該定めがない場合は,理事が定める手続に従って定款変更に関する定めを設ける定款変更を行った上,新たな定款変更に関する定めに従い),特定の条項の変更を禁止する旨の規定を削除又は変更するとともに当該条項を新制度に適合させる内容に変更する定款変更の手続を行い,旧主務官庁の認可を受けることができる(問Ⅰ-3-⑦)。

b 特例民法法人が移行認可の申請をするに当たり作成する定款変更の案については,行政庁が新法に適合するかどうかを審査するので,旧主務官庁の認可を受けることは必要ない(問Ⅰ-2-②)。

ところで,定款によって変更を禁止されている目的等を変更することは,当該財団法人の設立者の意思に反することが明らかであり,かつ,通常は,財団法人としての同一性を失わせるものということができる。そうすると,上記の説明は,特例財団法人の定款について,目的等の規定を変更しなければ一般財団法人に移行することができず解散しなければならなくなるような場合には,設立者の意思に反し,又は財団法人としての同一性を失わせるような定款変更も可能であり,定款変更についての旧主務官庁の認可(整備法94条6項)や行政庁の移行認可に当たっても,一般社団・財団法人法200条3項の裁判所の許可の場合と同じく,当該変更が設立者の意思に反するかどうか(財団法人としての同一性を害するかどうか)を審査・判断することは予定されていないとの理解を前提にするものというべきである。

(オ) 以上によれば,特例財団法人の定款変更(移行認可の際の定款変更を含む。)に関する整備法の規定は,財団法人の運営継続のために必要がある場合には,設立者の意思に反し,又は当該財団法人の同一性を失わせるような定款変更も許容するという一般社団・財団法人法の前記趣旨と同様の考え方に基づき,一般財団法人として存続することを希望する特例財団法人については,解散を強制せず,できる限り円滑に一般財団法人への移行を認める趣旨の規定と解すべきであり,このような趣旨に照らせば,当該変更を行わなければ移行認可がされず,一般財団法人としての存続が不可能となるおそれがある場合には,当該財団法人の設立者の意思に反し,又は当該財団法人の同一性を失わせるような目的等の変更についても,当該変更が信義則に反し,権利の濫用に当たる等の特段の事情がない限り,許容されると解するのが相当である。

エ 原告の主張について

この点,原告は,公益法人制度改革において,財団法人の設立者の意思を完全に無視し,その財産を侵奪することを許容してまで一般財団法人への移行を認めるべきとの必要性が指摘されたことはなく,一般財団法人への移行の際は目的規定を含めて無制限に定款変更ができるとの議論も一切されたことがないなどと主張する。

しかしながら,公益法人関連三法の立法過程において,有識者会議及び非営利法人WGにより,財団法人の設立者の意思の最大限の尊重を前提としつつ,寄附行為(定款)の変更の限界を設立者の意思に完全に委ねるべきか否かが議論され,最終的に,財団法人の運営継続のための必要性の観点から,定款変更の要件等を法定し,設立者の意思に反する定款変更を認めるべきとの提案がされたこと,旧民法に基づいて設立された財団法人から一般財団法人への移行についても,公益性を有する非営利法人への移行を望まない公益法人等は基本的に一般の非営利法人に移行して存続することが想定され,それを前提に,円滑な移行を推進するための措置を講ずべきであるとされていたこと,公益法人関連三法がこれらの考え方に基づいて立案されたと認められること等は,既に判示したとおりである(なお,財団法人の設立者が拠出した財産は,独立の法人格を有する当該財団法人自体に帰属するのであるから,当該財団法人が設立者の意図とは異なる事業活動に当該財産を費消したからといって,直ちに設立者の財産の侵奪と評価されるものでもない。)。よって,原告の上記主張は採用することができない。

オ 小括

以上によれば,移行認可に伴う定款変更については,特例財団法人の設立者の意思に反し,又は当該財団法人の同一性を失わせるような目的等の変更であっても,当該変更を行わなければ移行認可がされず,一般財団法人としての存続が不可能となるおそれがある場合には,当該変更が信義則に反し,権利の濫用に当たる等の特段の事情がない限り,許されると解するのが相当である。

(2)  本件定款変更の有効性について

原告は,本件定款変更は,設立者が意図した原告の維持という目的を完全にすり替え,残余財産の帰属先も変更するものであり,設立者の意思に反するから無効であると主張するので,以下,検討する。

ア 目的条項の変更

参加人は,内閣府令で定める額を超える公益目的財産額を有する(弁論の全趣旨)から,整備法119条1項の規定により,公益目的支出計画を作成しなければならないところ,前記前提となる事実のとおり,申請時寄附行為の目的条項によれば,参加人は,基本的に原告への助成以外の事業を行うことができないから,それを前提として作成された公益目的支出計画は,適正で,かつ,これを確実に実施することが見込まれるものとは認められないおそれがあるというべきである(なお,仮に昭和57年変更が無効であるとすれば,昭和55年変更後の目的条項によることになるが,その場合も上記と同様ということができる。)。

この点,原告は,定款の目的を変更しなくても,継続事業である原告への助成に多額の費用を要するから,公益目的支出計画の作成に支障はなく,参加人が一般財団法人に移行することは可能であって,設立者の意思に反する定款変更を認めなければ移行が不可能といった事情はないと主張する。しかしながら,旧民法に基づく財団法人の事業として認められてきた事業のための支出が直ちに公益目的事業(整備法119条2項1号イ)又は継続事業(同号ハ)のための支出として適正と認められるものではなく(上記の適正性については,内閣総理大臣が,整備法133条3項1号の規定により,原則として内閣府公益認定等委員会に諮問をした上で判断することになる。),その判断の際には,「特別の利益」(公益法人認定法5条3号,4号)の有無のほか,継続事業については公益に関する事業としてふさわしいか否か等が考慮されるのであるから(乙3),特定の宗教法人である原告に対する助成が上記の支出として適正と認められるか否かは明らかでないといわざるを得ない。そうすると,参加人について,目的条項の変更を行わなくても,移行認可がされず一般財団法人としての存続が不可能となるおそれがないということはできず,原告の上記主張は採用することができない。

以上によれば,参加人は,目的条項を変更しなければ,その作成した公益目的支出計画が適正であり,かつ,当該認可申請法人が当該公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれるものであることという公益目的支出基準(整備法117条2号)を満たさないとして,移行認可がされず一般財団法人としての存続が不可能となるおそれがあるということができるから,設立者の意思に反し,又は参加人の同一性を失わせるような目的条項の変更もすることができるというべきである。

そして,参加人は,前記前提となる事実のとおり,本件定款変更につき必要な手続を経ているのであって,本件定款変更が信義則に反し,権利の濫用に当たる等の特段の事情も認められないから,本件定款変更のうち目的条項の変更は有効というべきである。

イ 残余財産条項の変更

原始寄附行為の残余財産条項は,前記前提となる事実のとおり,昭和63年変更によって申請時寄附行為と同様の内容に変更されており,本件定款案にもおおむね同旨の内容が定められているのであるから,本件定款変更のうち残余財産条項の変更が申請時寄附行為に現れた設立者の意思に反するということはできない。この点,仮に,原告が主張するように,原告が参加人の設立者であり,かつ,昭和63年変更が無効であるため本件申請の時点における残余財産条項が原始寄附行為のそれと同内容であって,その変更が寄附行為によって禁止されているとしても,当該残余財産条項は,残余財産を原告と実質的に同視される「b宗c派a寺」に帰属させる旨の規定であるから,設立者に残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは効力を有しないとする一般社団・財団法人法153条3項2号の規定に反するというほかない。そうすると,参加人は,当該残余財産条項を変更しなければ,定款変更の案の内容が一般社団・財団法人法及びこれに基づく命令の規定に適合するものであるとの定款変更内容基準(整備法117条1号)を満たさず,一般財団法人への移行ができないことになるから,これを変更することができるというべきである(なお,原告は,設立者の意思に反する一般財団法人への移行のために設立者が本来残余財産の帰属先として受け取るはずであった剰余財産の社会への還元を強制されるのは,憲法の保障する財産権の侵害であると主張するが,前記のとおり,財団法人の設立者が拠出した財産は,独立の法人格を有する当該財団法人自体に帰属するのであるから,上記の結果が直ちに設立者の財産権の侵害に当たるということはできず,原告の上記主張は前提を欠くというべきである。)。

そして,参加人が本件定款変更につき必要な手続を経ており,本件定款変更が信義則に反し,権利の濫用に当たる等の特段の事情も認められないことは前記のとおりであるから,いずれにしても,本件定款変更のうち残余財産条項の変更は有効というべきである。

(3)  小括

以上によれば,本件定款変更は,有効というべきである。そして,弁論の全趣旨によれば,本件定款案の内容は,一般社団・財団法人法及びこれに基づく命令の規定に適合するものと認められるから,参加人については,定款変更内容基準に適合するものということができる。

4  争点4(公益目的支出基準適合性)について

(1)  本件公益目的支出計画について

本件公益目的支出計画に記載された実施事業等については,整備法120条4項の規定により,旧主務官庁(京都府知事及び京都府教育委員会)が整備法119条2項1号ハの継続事業に該当する旨の意見を述べているところ(乙6),その相当性を疑わせる事情は認められない。そして,これら実施事業等を行うに当たって特別の利益を与えるものであることをうかがわせる事情や,参加人の実施事業等に必要な技術的能力等を疑わせる事情は認められず,また,公益目的財産額等の計算は,整備法及び整備法施行規則にのっとって行われたものと認められる(弁論の全趣旨)。さらに,公益目的支出計画の確実な実施が困難であることをうかがわせる事情は認められない。

そうすると,内閣総理大臣が,本件公益目的支出計画が適正であり,かつ,参加人が本件公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれるものと認めたことは,内閣府公益認定等委員会が定めた「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」(乙3)に照らしても,不合理であるということはできない。

(2)  原告の主張について

ア この点,原告は,参加人の設立時にP5らが拠出した合計10万円,大正9年に寄附を原因として参加人に所有権移転登記がされたP6名義の土地及び同年から昭和23年までの間に原告設立前の宗派としてのb宗c派から参加人に拠出された合計358万8234円97銭は,いずれも実質的には原告が参加人に拠出したものであり,これらの財産の拠出は,①特定された財産を中心とする法律関係であること,②受託者が財産の名義人となること,③受託者に財産の管理・処分権限が与えられること,④受託者の管理・処分権限が排他的であること,⑤受託者の権限は,自己の利益のために与えられたものではなく,他人のために一定の目的に従って行使されなければならないこと及び⑥法律行為によって設定されることという信託の要素を備えているから,原告と参加人との間には信託契約が成立したと解すべきところ,原告は,当該信託契約の一部を解除したから,参加人に対して200億円以上の価額返還請求権を有しているのであって,これを考慮していない本件公益目的支出計画は不適正であり,かつ,これを確実に実施することができる見込みもないなどと主張し,これに沿うP7教授の意見書(甲66)を提出する。

しかしながら,旧民法に基づく財団法人の設立のための財産の拠出については,贈与又は遺贈の規定が準用され(旧民法41条),財団法人に拠出された財産は,財団法人の権利能力が寄附行為の定める目的の範囲内に限定される(旧民法43条)結果,当該目的に従って管理・処分されることになるのであるから,一般に,財団法人に対する財産の拠出行為が上記のような要素を備えているのは当然というべきであり,そのことから直ちに信託契約の成立を認めることはできない。そして,上記のような財団法人に関する旧民法の規定等に照らすと,財団法人に拠出された財産について信託契約が成立したと認めるためには,財産の拠出に当たり,当該財産の管理・処分について当該財団法人の寄附行為自体による制約を超える制限を付し,又は委託者若しくは受益者の特別の権利を留保する等の合意がされることなどにより,信託の趣旨が明らかにされていることが必要と解すべきである。

これを本件について見ると,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告主張の上記各財産については,参加人による管理・処分について一定の制約を加えられているが,これらの制約は参加人の寄附行為自体によるものであると認められ,拠出者と参加人との間において,その制約を超えて当該財産の管理・処分を制限する等の合意がされることなどによって信託の趣旨が明らかにされたと認めるに足りる証拠はない。そうすると,仮に上記各財産の実質的な拠出者が原告であるとしても,原告と参加人との間にこれらの財産についての信託契約が成立したということはできず,原告が,当該契約の解除により,参加人に対して200億円以上の価額返還請求権を取得したと認めることもできない。よって,原告の上記主張は採用することができない。

イ また,原告は,本件定款変更は無効であり,参加人は寄附行為により原告に対する助成以外の事業を行うことができないから,納骨堂経営,g記念館事業,文学賞(h賞,i賞)事業,仏教文化振興事業及び国際文化交流事業によって公益目的財産額を費消することを前提とする本件公益目的支出計画は不適正であり,かつ,これを確実に実施することができる見込みもないと主張する。

しかしながら,参加人の本件定款変更が有効と認められることは前記3のとおりであるところ,参加人は,本件定款変更の効力完成によって,上記の各事業を行うことができるようになるのであるから,原告の上記主張は前提を欠くというべきである。

(3)  小括

以上によれば,内閣総理大臣が,本件公益目的支出計画が適正であり,かつ,参加人が本件公益目的支出計画を確実に実施すると見込まれるものと認めたことが不合理であるということはできず,参加人については,公益目的支出基準に適合するものと認められる。

5  結論

以上のとおりであって,本件認可は適法であると認められる。そうすると,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田隆裕 裁判官 山本拓 裁判官 佐藤しほり)

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