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大阪地方裁判所 平成24年(ワ)13084号 判決 2013年12月19日

原告

京セラ株式会社

同訴訟代理人弁護士

松本司

田上洋平

井上裕史

被告

株式会社MARUWA

同訴訟代理人弁護士

後藤昌弘

鈴木智子

古谷渉

同訴訟代理人弁理士

松原等

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  仮執行宣言

2  被告

主文同旨

第2事案の概要

1  前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  本件特許権

原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。)に係る特許権を有する。

登録番号     第3830342号

発明の名称    誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器

出願日      平成12年9月18日

優先日      平成12年6月26日(以下「本件優先日」という。)

登録日      平成18年7月21日

特許請求の範囲

【請求項1】(訂正前)

金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln),Al,M(MはCaおよび/またはSr),及びTiを含有し,

組成式をaLn2OX・bAl2O3・cMO・dTiO2(但し,3≦x≦4)と表したときa,b,c,dが,

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

a+b+c+d=1

を満足し,結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり,前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相として存在するとともに,前記β-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相を1/100000~3体積%含有することを特徴とする誘電体磁器。

(2)  無効審判請求と訂正請求

被告は,平成22年8月4日,本件特許について無効審判を請求し,原告は,訂正請求を行った。平成24年4月18日,訂正を認め,審判請求不成立とする審決がされた。被告は,上記審決の取消しを求め,知財高裁に審決取消訴訟を提起したところ,平成25年7月17日,上記審決を取り消す旨の判決がされた(乙44)。

訂正後の請求項1は次のとおりである(以下「本件訂正発明」という。)。

【請求項1】(訂正後)

金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの),Al,M(MはCaおよび/またはSr),及びTiを含有し,

組成式をaLn2OX・bAl2O3・cMO・dTiO2(但し,3≦x≦4)と表したときa,b,c,dが,

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

a+b+c+d=1

を満足し,結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり,前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相として存在するとともに,前記β-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相を1/100000~3体積%含有し,1GHz でのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器。

(3)  構成要件の分説

本件訂正発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。

A 金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの),Al,M(MはCaおよび/またはSr),及びTiを含有し,

B 組成式をaLn2OX・bAl2O3・cMO・dTiO2(但し,3≦x≦4)と表したときa,b,c,dが,

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

a+b+c+d=1

を満足し,

C 結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり,

D 前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相として存在するとともに,前記β-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相を1/100000~3体積%含有し,

E 1GHz でのQ値に換算した時のQ値が40000以上である

F ことを特徴とする誘電体磁器。

(4)  被告の行為

被告は,業として,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)について,製造,販売及び販売の申出をしている。

2  原告の請求

原告は,被告の行為により本件特許権を侵害されたとして,不法行為に基づき,1億円の損害賠償及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

3  争点

(1)  被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するか      (争点1)

(2)  本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか

ア 本件訂正発明は本件優先日前に頒布された特開平7-57537号公報(以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)と同一であるか                   (争点2-1)

イ 本件訂正発明は当業者が乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか                  (争点2―2)

ウ 本件訂正発明は本件優先日前に頒布された特開平6-76633号公報(以下「乙9公報」という。)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)と同一であるか                   (争点2-3)

エ 本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか                  (争点2-4)

オ 本件特許は実施可能要件に違反するものであるか    (争点2-5)

(3)  本件請求は権利濫用に当たるか               (争点3)

(4)  損害の有無及び金額                      (争点4)

第3争点に関する当事者の主張

1  争点1(被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するか)について

【原告の主張】

以下のとおり,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属する。

(1) 被告製品の構成

被告製品の構成は以下のとおりである。

a 金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有する),Al,Ca,及びTiを含有し,

b 組成式をaLn2O3・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表したときa,b,c,dが,

a=0.0979

b=0.0975

c=0.4139

d=0.3907

a+b+c+d=1

であり,

c 結晶系が斜方晶の結晶を99.51~100体積%有するCaTiO3で同定される酸化物からなり,

d 前記Alの酸化物がβ-Al2O3の結晶相として存在するとともに,前記β-Al2O3の結晶相を0.39~0.88体積%含有し,

e 1GHz でのQ値に換算した時のQ値の標準値(Normal Value)が45000である

f ことを特徴とする誘電体磁器。

(2) 構成要件充足性

前記(1)の構成は本件訂正発明の各構成要件をいずれも充足する。

(3) 後記【被告の主張】に対する反論

後記【被告の主張】のとおり,被告は,被告製品が公知技術(乙1発明)を実施したものであるから,本件訂正発明の技術的範囲に属するものではない旨主張する。

この主張(いわゆる公知技術の抗弁)は,特許法104条の3が施行された現在では失当なものである。

また,被告製品は,公知技術(乙1発明)の実施品ではない。

【被告の主張】

以下のとおり,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属するものではない。

(1) 被告製品の構成

被告製品のうち,前記【原告の主張】(1)の構成を備えたものがあることは認める。

(2) 公知技術の抗弁

以下のとおり,被告製品は,公知技術を実施したものであるから,本件訂正発明の技術的範囲に属するものではない。

ア 公知技術

(ア) 乙1公報の記載

本件優先日前に頒布された特開平7-57537号公報(乙1公報)には以下の記載がある。

「【0009】

【実施例】一般式が,w(CaO)-x(TiO2)-y1(La2O3)-y2(Sm2O3)-z(Al2O3)で表される誘電体磁器組成物について,組成が異なる27種類の誘電体磁器を作製し,それらを用いて作製した誘電体磁気について夫々比誘電率εrと,材料Qと,共振周波数の温度係数Tfoと,20℃を基準とする-50℃~+70℃の範囲の周波数偏差とを測定した。図1に,試料27種の誘電体磁器組成物の組成と特性試験結果とを示す。27種の誘電体磁器組成物のうち,試料1~8はSm2O3を含まない第1のグループであり,試料9~18はLa2O3及びSm2O3を含む第2のグループであり,試料19~27はLa2O3を含まない第3のグループである。

【0010】但し,各誘電体磁器は,①湿式混合→②仮焼成→③湿式粉砕→④バインダ合わせ→⑤造粒→⑥プレス→⑦本焼成という,この種の誘電体磁器を作製する際の一般的な工程を経て作製した。①の湿式混合は,遊星式ボールミル(モノボール)を備えたポリアミド製ボールミル型粉砕容器を用いて行った。処理時間は1時間である。②の仮焼成は,仮焼成プロファイルを用いて行った。処理雰囲気は,大気中,O2雰囲気中,N2雰囲気中のいずれにしても,同一の製品特性が得られた。また処理温度及び時間は,(1000~1200)℃×(1~10)時間の範囲で適宜調整した。③の湿式粉砕は,湿式混合に用いたと同様のボールミル型粉砕容器を用いて行った。処理時間は1.5時間である。④のバインダ合わせは,湿式粉砕された組成物基体に,ポリビニルアルコールを混練することで行った。⑤の造粒は,50メッシュをパスする粒径に調製した。⑥のプレスは,成形圧力1.5トン/cm2で行い,直径が7㎜,厚さが5㎜の円板状成形物を作製した。⑦の本焼成は,本焼成プロファイルを用いて行った。処理雰囲気は,大気中,O2雰囲気中,N2雰囲気中のいずれにしても,同一の製品特性が得られた。また処理温度及び時間は,(1500~1600)℃×(1~60)時間の範囲で適宜調整した。さらに,昇温・昇圧速度は,300℃/Hとした。

【0011】また比誘電率εr及び材料Qの評価に当っては,誘電体共振器法のTE011モード(約10GHz)を適用し,共振周波数の温度係数Tfoの評価に当っては,誘電体共振器法のTE01δモード(約10GHz)を適用した。」

また,【図1】には,次のとおり,試料4及び5に関する記載がある。

file_2.jpgCad — x TOE ~ of Laos — yl Seas — a ATS Eee) Oo Tre Tee BLL ool} Tx (oo) [vlna] vatwol Tz (ol) TwbxCnoly Yieya¢no) er KattO<iz) | Copw/oc) | ce) [ease [aoe 6: oer Taree OL ae | aes se aa 5] 0:56 9. o-{at [0-792 “O-s7r | 1-060 | #98 —5.gt0 | =a [1018上記図では,10GHzのQ値が,試料4は5720であり,試料5は5870であることが記載されている。これを1GHzのQ値に換算すると,試料4のQ値は57200であり,試料5のQ値は58700である。

(イ) 乙1発明

上記(ア)の各記載によれば,乙1公報には以下の発明(乙1発明)が記載されている。

1A  金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するもの),Al,Ca,及びTiを含有し,

1B  組成式をaLn2O3・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表したときa,b,c,dが,

0.1061≦a≦0.1077

0.1061≦b≦0.1231

0.3846≦c≦0.3939

0.3846≦d≦0.3939

a+b+c+d=1

を満足し,

1E  1GHz でのQ値に換算した時のQ値が57200~58700である

1F  ことを特徴とする誘電体磁器。

イ 被告製品が公知技術を実施したものであること

乙1公報に係る出願は取り下げられているから,同公報に記載された発明(乙1発明)は,いわゆる自由技術である。

そして,被告製品は,公知技術である乙1発明を実施したものであるから,本件訂正発明の技術的範囲に属するものではない。

2  争点2-1(本件訂正発明は乙1発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明は,乙1発明と同一である。

(1) 乙1発明

前記1【被告の主張】(2)ア(イ)のとおり,乙1公報には以下の発明(乙1発明)が記載されている。

1A  金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するもの),Al,Ca,及びTiを含有し,

1B  組成式をaLn2O3・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表したときa,b,c,dが,

0.1061≦a≦0.1077

0.1061≦b≦0.1231

0.3846≦c≦0.3939

0.3846≦d≦0.3939

a+b+c+d=1

を満足し,

1E  1GHz でのQ値に換算した時のQ値が57200~58700である

1F  ことを特徴とする誘電体磁器。

(2) 本件訂正発明と乙1発明の対比

ア 一致点

前記(1)の乙1発明の構成1A,1B,1E及び1Fは,それぞれ本件訂正発明の構成要件A,B,E及びFに相当する。

イ 形式的相違点

乙1公報には,本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成について明示的な記載がない。もっとも,乙1発明の実施品は本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成を備えており,これらの構成要件に関する相違点は実質的な相違点ではない。

そもそも被告製品は乙1発明の実施品であるから,仮に被告製品が本件訂正発明の技術的範囲に属するのであれば,本件訂正発明は乙1発明と同一である。

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明は,乙1発明と同一ではない。

(1) 乙1発明

前記【被告の主張】(1)は認める。

(2) 本件訂正発明と乙1発明の対比

ア 一致点

前記【被告の主張】(2)アは認める。

イ 相違点

乙1公報には本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成について記載がないし,乙1発明の実施品は本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成を備えていない。

したがって,本件訂正発明は構成要件C及びDの構成を備えている点で,乙1発明と相違する。

3  争点2-2(本件訂正発明は当業者が乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか)

【被告の主張】

仮に,前記2【被告の主張】(2)の相違点が実質的なものであったとしても,以下のとおり,本件訂正発明は当業者が乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(1) 本件訂正発明の構成要件C及びD(乙1発明との相違点)は,乙1発明の技術的範囲に含まれるものの中から特定の構成を選択したにすぎないこと

ア 本件訂正発明の構成要件C

(ア) 公知の技術的事項

LaAlO3とCaTiO3とが固溶したペロブスカイト型結晶構造を有する材料が,実用要求を満たす優れた誘電特性を有することについては,公知の技術的事項である。この材料が,その組成に応じて,LaAlO3の六方晶からCaTiO3の斜方晶の結晶系をとるものであることについても,同様である。

(イ) 構成要件Cの技術的意義

本件訂正発明の構成要件Cは,LnAlO(x+3)/2(3≦x≦4)とMTiO3との固溶体からなるペロブスカイト型結晶を主結晶相とすることについて,特定したにすぎないものである。

(ウ) 乙1発明の構成

乙1公報に記載された誘電体磁器組成物はペロブスカイト型結晶構造を有する材料であるから,その中には本件訂正発明の構成要件Cと同一の構成を備えたものもあることが明らかである。

イ 本件訂正発明の構成要件D

(ア) 公知の技術的事項

ABO3で表されるペロブスカイト型結晶のAサイトイオン又はBサイトイオンが過不足する場合,ペロブスカイト型結晶の他に第二相が生成する可能性のあることは技術常識である。

(イ) 乙1発明の構成

乙1発明でも,組成によってはβ-Al2O3に相当する結晶の生成する可能性があることは,当業者が容易に認識し得ることである。

実際に,乙1発明の実施品ではβ-Al2O3が生成されている。

(2) 容易想到性

前記(1)ア(ア),イ(ア)によると,乙1発明に基づいて,当業者は容易に構成要件C,Dの構成を想到し得る。

そうすると,本件訂正発明は,乙1発明及び当該技術分野における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる。

(3) 本件訂正発明が乙1発明と比べて顕著な作用効果を奏するものではないこと

前記2【被告の主張】のとおり,本件訂正発明と乙1発明の作用効果は異なるものではない。

これらのことからすると,本件訂正発明は乙1発明の技術的範囲に含まれるものの中から特定の構成のものを選択したにすぎず,しかも乙1発明と比べて顕著な作用効果を奏するものでもなく,当業者において乙1発明に基づいて容易に発明することができたといえる。

【原告の主張】

争う。

4  争点2-3(本件訂正発明は乙9発明と同一であるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明は乙9発明と同一である。

(1) 乙9公報の記載

乙9公報には以下の記載がある。

「【請求項1】金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み,これらの成分をモル比でaLn2Ox・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表した時,a,b,c,dおよびxの値がa+b+c+d=1,0.056≦a≦0.214,0.056≦b≦0.214,0.286≦c≦0.500,0.230<d<0.470,3≦x≦4を満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。」

「【0022】

【実施例】出発原料として高純度の希土類酸化物(Nd2O3),酸化アルミニウム(Al2O3),酸化チタン(TiO2),炭酸カルシウム(CaCO3)の各粉末を用いてそれらを表1となるように秤量後,純水を加え,混合原料の平均粒径が1.6μm以下となるまで,ミルにより約20時間湿式混合・粉砕を行なった。」

「【0024】この混合物を乾燥後,1200℃で2時間仮焼し,さらに約1重量%のバインダーを加えてから整粒し,得られた粉末を約1000Kg/c㎡の圧力で円板状に成形し,1500~1700℃の温度で2時間大気中において焼成した。

【0025】得られた磁器の円板部を平面研磨し,アセトン中で超音波洗浄し,150℃で1時間乾燥した後,円柱共振器法により測定周波数3.5~4.5GHzで誘電率,Q値,共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は,マイクロ波誘電体において一般に成立するQ値×測定周波数f=一定の関係から1GHzでのQ値に換算した。共振周波数の温度係数τfは,-40℃から+85℃間で共振周波数を測定し,25℃の時の共振周波数を基準にして,-40℃~25℃および25℃~+85℃の温度係数τfを算出した。結果を表1に示す。」

【0026】【表1】の抜粋

file_3.jpgRAED: BRA Nicos | AL06 | C20 | Tide | Bag) gy TAB QRERE © f Naja bic d_iler =40~ 425°C | +25~+ 850 1 [0.0800 0. 1700 | 0.9750 | 0.3750, 41 | 23000.) + 27 +38 40. 1260 [0 1250"| 0.3830 0.4770 30 | 52000 | — 16 = 7 [0.1061 | 0. 1061 | 0.3930 0.3939 | 39 [arog | — 17 = 8 | 0.0881 | 0.0881 | 0.4119] 0.4119} 43 | 47000 =i i 130.1320] 0.2140] 0.3270] 0.5270] 30 | 20000 | — 18 =「【0028】また,本発明者等は,表1の試料No.7,8,10において,Nd2O3のNdを他の希土類元素と代えて実験を行った。結果を表2に示す。尚,表2において,試料No.33~55では,表1の試料No.8のa,b,c,dの値,即ち,a,bが0.0881,c,dが0.4119であり」(以下省略)

【0029】【表2】の抜粋

file_4.jpgerpepe BEE | ow No et =40~ + 25% | +25~+ 85°C 33 ¥ 43 | 36000 + 3 +5 34 | 0.1Y + 0. ONd _A2_| 40000 ad + 3 35 [ta 44 | 38000 = 20 =2 |(2) 乙9発明

上記(1)の各記載によれば,乙9公報には以下の発明(乙9発明)が記載されている。

9A 金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するもの),Al,Ca,及びTiを含有し,

9B 組成式をaLn2OX・bAl2O3・cCaO・dTiO2(但し,3≦x≦4)と表したときa,b,c,dが,

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

a+b+c+d=1

を満足し,

9E 1GHz でのQ値に換算した時のQ値が39000である

9F ことを特徴とする誘電体磁器。

(3) 本件訂正発明と乙9発明の対比

ア 一致点

前記(2)の乙9発明の構成9B及び9Fは,それぞれ本件訂正発明の構成要件B及びFに相当する。また,構成9Aは本件訂正発明の構成要件Aを充足する。

イ 形式的相違点

(ア) 構成要件C及びDに関する相違点

乙9公報には本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成について明示的な記載がない。

しかし,乙9発明の実施品は本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成を備えているから,この点は実質的相違点ではない。

(イ) 構成要件Eに関する相違点

本件訂正発明の構成要件Eは「1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上である」のに対し,乙9発明はQ値が39000である点において一応は相違する。

しかし,以下の理由から,この点も実質的相違点ではない。

誘電体をコンデンサにして交流を流すときに生じる損失については,誘電損失角δの正接すなわち誘電正接tanδで表すが,高周波用途の誘電体では,損失をtanδの逆数である品質係数Q値(1/tanδ)で表す。Q値が高いほど損失は少ないことになるが,実際に測定するのはtanδである。そして,本件訂正発明のQ値40000はtanδ=0.00002500であり,乙9発明のQ値39000はtanδ=0.00002564である。

そうすると,実際に測定されたtanδの差は,わずか0.00000064という微差である。

また,tanδの測定方法は,JIS規格で定められているところ,tanδには0.001~0.0000001の値に対して±5~20%の測定誤差があり,これはQ値の測定誤差でもある。そして,Q値の40000と39000は僅か2.5%の相違にすぎず,この相違は上記測定誤差±5~20%の下限値のさらに半分のものである。

このように,本件訂正発明と乙9発明のQ値は実質的には同一である。

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明は,乙9発明と同一ではない。

(1) 乙9発明

前記【原告の主張】(2)は認める。

(2) 本件訂正発明と乙9発明の対比

ア 一致点

前記【原告の主張】(3)アは認める。

イ 相違点

(ア) 構成要件Aに関する相違点

本件訂正発明は「稀土類」として「Ln:但し,Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの」を使用し,かつ「1GHzでのQ値に換算したときのQ値が40000以上のものである。これに対し,乙9発明ではそのような特定がされていない。

(イ) 構成要件C及びDに関する相違点

乙9公報には本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成について記載がない。

また,乙9発明の実施品は本件訂正発明の構成要件C及びDに相当する構成を備えていない。

(ウ) 構成要件Eに関する相違点

Q値の40000と39000が実質的に同一であるとする理由はない。

5  争点2-4(本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか)について

【被告の主張】

仮に,前記4【被告の主張】(3)の相違点が実質的なものであったとしても,以下のとおり,本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(1) 本件訂正発明の構成要件C及びDは,乙9発明の技術的範囲に含まれるものの中から特定の構成を選択したにすぎないこと

ア 本件訂正発明の構成要件C

前記3【被告の主張】(1)ア(ア)のとおり,LaAlO3とCaTiO3とが固溶したペロブスカイト型結晶構造を有する材料が実用要求を満たす優れた誘電特性を有することについては,公知の技術的事項である。この材料が,その組成に応じて,LaAlO3の六方晶からCaTiO3の斜方晶の結晶系をとるものであることについても同様である。

また,前記3【被告の主張】(1)ア(イ)のとおり,本件訂正発明の構成要件CはLnAlO(x+3)/2(3≦x≦4)とMTiO3との固溶体からなるペロブスカイト型結晶を主結晶相とすることについて,特定したにすぎないものである。

乙9公報に記載された誘電体磁器組成物はペロブスカイト型結晶構造を有する材料であるから,本件訂正発明の構成要件Cと同一の構成を備えたものもあることが明らかである。

イ 本件訂正発明の構成要件D

前記3【被告の主張】(1)イ(ア)のとおり,ABO3で表されるペロブスカイト型結晶のAサイトイオン又はBサイトイオンが過不足する場合に,ペロブスカイト型結晶の他に第二相が生成する可能性があることは技術常識である。

乙9発明においても組成によってはβ-Al2O3に相当する結晶が生成する可能性のあることは,当業者が容易に認識し得ることである。

実際に,乙9発明の実施品ではβ-Al2O3が0.07体積%ないし2.11体積%生成されている。

(2) 容易想到性

ア 構成要件C,Dに関する相違点

前記(1)ア(ア),イ(ア)によると,乙9発明に基づいて,当業者は容易に構成要件C,Dの構成を想到し得る。

イ 構成要件Eに関する相違点

前記4【被告の主張】(3)イ(イ)のとおり,本件訂正発明と乙9発明のQ値(構成要件Eに関する相違点)は実質的に同一のものである。仮に,構成要件Eが乙9発明との実質的相違点であるとしても,Laを使用してQ値40000以上となることは当業者の予測の範囲内であり(乙1,32),顕著な作用効果でもない。

ウ そうすると,本件訂正発明は,乙9発明及び当該技術分野における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件訂正発明が乙9発明と比べて顕著な作用効果を奏するものではないこと

前記(1)のとおり,本件訂正発明と乙9発明のQ値の差は測定誤差の範囲内であり,実質的には同一であり,少なくとも,連続的に推移する程度の微差にすぎない。

したがって,本件訂正発明は当業者において予測できない顕著な作用効果を奏するものとは到底いえず,乙9発明に基づいて容易に発明することができたものといえる。

【原告の主張】

以下のとおり,本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(1) 本件訂正発明が乙9発明の選択発明ではなく,顕著な作用効果を有すること

ア 乙9発明でβアルミナ等が生成されるか否かは,当業者において予測することが不可能な事項であった。

したがって,本件訂正発明は乙9発明の選択発明ではない。

イ 本件訂正発明は,単に「Q値40000以上」ということではなく,稀土類元素として経済的に安価なLaを使用した場合でも「Q値40000以上」という優れた特性の誘電体磁器を「安定して」供給できるという作用効果を奏するものである。これは,乙9発明の作用効果と比べて顕著な作用効果である。

(2) 本件訂正発明の構成要件Dの技術的意義

βアルミナ等は,従来,Q値を低減させると考えられていた。本件訂正発明は,敢えてこのβアルミナ等を1/100000~3体積%含有する構成(構成要件D)とすることにより,稀土類元素として安価なLaを用いても(構成要件A),「Q値が40000以上」(構成要件E)の結晶系を得られるようにしたものである。

この点からすれば,本件訂正発明が進歩性を有することは明らかである。

6  争点2-5(本件特許は実施可能要件に違反するものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許は実施可能要件に違反するものである。

(1) 本件訂正発明の構成要件Dの技術的意義

本件訂正発明の構成要件Dの結晶構造(β-アルミナ等を1/100000~3体積%含有する)は,それがどのようなものであるのかについて技術的に理解することができないものであり,構成要件Dは,それ自体意味不明なものである。

また,本件明細書では,本件訂正発明の構成要件A及び構成要件Dをともに充足する試料のQ値について記載がない。したがって,構成要件Dを充足することによりQ値が著しく向上しているのかを確認することもできない。

そもそもβアルミナ等はQ値を低下させるものであり,本件訂正発明の構成要件Dに技術的意義はない。

(2) 実施可能要件違反

上記(1)のとおり,本件明細書における発明の詳細な説明の記載では,本件訂正発明の構成要件Dの技術的意義を理解することができない。

したがって,上記記載は,平成14年4月17日法律第24号による改正前の特許法36条4項,平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の同法施行規則24条の2に違反するものである。

【原告の主張】

本件明細書では,従来技術において,場合によってはQ値が35000より小さくなるという課題があったこと,本件訂正発明はβアルミナ等を所定量含有させることにより,安定的に40000以上のQ値を達成することができるものであり,上記課題を解決したものであることが記載されている。

したがって,βアルミナ等を所定量含有させることの技術的意義は明確であり,本件特許は実施可能要件に違反するものではない。

7  争点3(本件請求は権利濫用に当たるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件明細書には虚偽の記載があり,これを前提として特許された本件特許に係る特許権(本件特許権)に基づく本件請求は,権利の濫用である。

(1) 本件明細書の記載

本件明細書には以下の記載がある。

「【0068】

また,焼結体をTechnoorg Linda製イオンシニング装置を用いて加工し,透過電子顕微鏡による観察,制限視野電子回折像による解析およびEDS分析により,焼結体に含有するβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の体積%,結晶粒径,アスペクト比等,および結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%などを下記(2a)~(2f)の通り測定した。

【0069】

(2a)焼結体の内部の結晶を倍率5000倍で,1×10-3mm2以上の面積を制限視野回折像により観察し,30個以上の結晶について結晶構造の同定およびEDS分析を行った。

(略)

【0072】

(2d)(2a)で観察した結晶写真の面積に対する(2c)で同定したβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3に該当する結晶の面積の割合を求め,この割合をβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の体積%とした。」

本件訂正発明におけるβアルミナ等の含有量の範囲は1/100000~3体積%であるところ,上記段落【0072】の記載によれば,これは結晶写真の面積割合である。そして,本件明細書の【表1】,【表3】によれば,実施例の試料No.1において,上記範囲の下限値である1/100000体積%のθ-Al2O3を検出した旨の記載がある。

(2) 上記(1)の記載が虚偽であること

ア 本件明細書の【表1】及び【表3】の記載の意義

本件明細書には試料No.1のθ-Al2O3の結晶粒子1個の面積に関する記載がない。そこで,本件明細書の図2(b)に示されたθ-Al2O3結晶粒子12(粒径約10μm)から読み取れる約60μm2が結晶粒子1個当たりの面積であると仮定する。そうすると,1/100000体積%(1千万分の1)とは,面積600000000μm2のエリアに,1個のθ-Al2O3が存在するということである。

イ 上記明細書の記載が虚偽であること

イオンシニング加工試料の透過型電子顕微鏡による観察可能部分の面積は非常に狭い。上記段落【0069】によれば,本件訂正発明の発明者は1×10-3mm2以上すなわち1000μm2以上の面積を観察したとされている。そうすると,1枚のイオンシニング加工試料について5000μ㎡の面積を観察したと仮定しても,試料No.1では600000000を5000で除した数である合計120000枚のイオンシニング加工試料を観察して,1個のθ-Al2O3が見つかったということになる。

しかも,1個が見つかった時点では正確な含有量とはいえないから,120000枚の少なくとも2倍以上,すなわち240000枚以上のイオンシニング加工試料を観察することにより,平均の含有量を求めたということになる。このような途方もない数のイオンシニング加工試料について透過型電子顕微鏡観察をしたなどというのは,時間的にも労力的にも常識的に考えてありえない。

したがって,本件明細書の試料No.1に関するデータは実験によるものではなく,虚偽の記載である。

また,上記【表3】には,比較例として,試料No.49~56におけるβアルミナ等の含有量が0体積%であると記載されている。実施例に対する比較例の性格上,0体積%は1/100000体積%もないという意味に解するべきであるから,上記と同じ理由により,試料No.49~56もそれぞれ240000枚以上のイオンシニング加工試料を観察して,1/100000体積%もないことを確認したことになる。

したがって,本件明細書の試料No.49~56に関するデータも,実験によるものではなく,虚偽のものである。

ウ 後記【原告の主張】に対する反論

前記イのとおり,被告は,本件訂正発明におけるθ-Al2O3結晶粒子の面積が約60μm2であるものと仮定して計算した。これは,本件明細書の段落【0024】の「θ-Al2O3の平均結晶粒径は3~40μm」という記載の範囲内である。

後記【原告の主張】は,この被告の主張について,結晶粒子の面積に関する主張ではなく,結晶粒子径に関する主張であるかのように誤導するものである。しかも,原告は,被告からの再三の指摘にも関わらず,具体的な実験内容を明らかにしていない。

【原告の主張】

平均結晶粒径は常に一定の値となるものではないし,第二結晶相では含有量の増加に伴い大きくなる傾向がある。また,観察面における結晶粒子の現れ方によっても面積は異なる。

そうすると,前記【被告の主張】はθ-Al2O3結晶粒子径が約60μm2であると仮定している点において誤りであり,被告が主張する240000枚ものイオンシニング加工試料の観察が必要であるとする理由はない。

8  争点4(損害の有無及び金額)について

【原告の主張】

(1) 被告は,遅くとも平成19年1月ころから被告製品の販売を開始し,平成24年11月30日までの間に,2億円の売上げを得た。

(2) 被告は,上記被告の行為により,少なくとも1億円の利益を受けており,原告は,同額の損害を被った(特許法102条2項)。

【被告の主張】

前記【原告の主張】(1)は認め,同(2)は否認又は争う。

第4当裁判所の判断

本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものである(争点2-4に対する判断)から,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。

以下,詳述する。

1  争点2-4(本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか)に対する判断

(1)  乙9公報の記載

乙9公報には以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】

【請求項1】金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み,これらの成分をモル比でaLn2Ox・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表した時,a,b,c,dおよびxの値がa+b+c+d=1,0.056≦a≦0.214,0.056≦b≦0.214,0.286≦c≦0.500,0.230<d<0.470,3≦x≦4を満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。

【請求項2】一対の入出力端子間に誘電体磁器を配置してなり,電磁界結合により作動する誘電体共振器において,前記誘電体磁器が,金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み,これらの成分をモル比でaLn2Ox・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表した時,a,b,c,dおよびxの値がa+b+c+d=1,0.056≦a≦0.214,0.056≦b≦0.214,0.286≦c≦0.500,0.230<d<0.470,3≦x≦4を満足することを特徴とする誘電体共振器。」

「【0008】本発明は上記の欠点に鑑み案出されたもので,比誘電率が大きく,高Q値で,比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物および誘電体共振器を提供せんとするものである。

【0009】

【問題点を解決するための手段】本発明者等は上記問題に対し,検討を重ねた結果,Ln2OX ,Al2O3,CaO,TiO2(Lnは少なくとも1種類以上の希土類元素であり,3≦x≦4)からなり,これらを特定の範囲に調整することによって,比誘電率が大きく,高Q値で,比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物が得られることを知見した。」

「【0016】希土類元素(Ln)としては,Y,La,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Yb,Nd等があり,これらのなかでもNdが最も良い。そして,本発明では,希土類元素(Ln)は2種類以上であっても良い。比誘電率の温度依存性の点からは,Y,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Ybが好ましい。

【0017】また,本発明の誘電体磁器組成物は,前記組成物を主成分として,これに,ZnO,NiO,SnO2,Co3O4,MnCO3,ZrO2,WO3,LiCO3,Rb2CO3,Sc2O3,V2O5,CuO,SiO2,MgCO3,Cr2O3,B2O3,GeO2,Sb2O5,Nb2O5,Ta2O5等を添加しても良い。これらは,その添加成分にもよるが,6重量%以下の割合で添加することができる。これらの中でも,特に,Nb2O5,Ta2O5を1~4重量%添加すると,無添加の場合よりも誘電率が向上するとともに,温度特性が0に近づくため,性能上優れた誘電体磁器を得ることができる。」

「【0020】

【作用】本発明の誘電体磁器組成物では,金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含む複合酸化物であるが,これらを特定の範囲に調整することによって,比誘電率が大きく,高Q値で,比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物が得られる。」

「【0022】

【実施例】出発原料として高純度の希土類酸化物(Nd2O3),酸化アルミニウム(Al2O3),酸化チタン(TiO2),炭酸カルシウム(CaCO3)の各粉末を用いてそれらを表1となるように秤量後,純水を加え,混合原料の平均粒径が1.6μm以下となるまで,ミルにより約20時間湿式混合・粉砕を行なった。」

「【0024】この混合物を乾燥後,1200℃で2時間仮焼し,さらに約1重量%のバインダーを加えてから整粒し,得られた粉末を約1000Kg/c㎡の圧力で円板状に成形し,1500~1700℃の温度で2時間大気中において焼成した。

【0025】得られた磁器の円板部を平面研磨し,アセトン中で超音波洗浄し,150℃で1時間乾燥した後,円柱共振器法により測定周波数3.5~4.5GHzで誘電率,Q値,共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は,マイクロ波誘電体において一般に成立するQ値×測定周波数f=一定の関係から1GHzでのQ値に換算した。共振周波数の温度係数τfは,-40℃から+85℃間で共振周波数を測定し,25℃の時の共振周波数を基準にして,-40℃~25℃および25℃~+85℃の温度係数τfを算出した。結果を表1に示す。

【0026】

【表1】

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「【0028】また,本発明者等は,表1の試料No.7,8,10において,Nd2O3のNdを他の希土類元素と代えて実験を行った。結果を表2に示す。尚,表2において,試料No.33~55では,表1の試料No.8のa,b,c,dの値,即ち,a,bが0.0881,c,dが0.4119であり,試料No.56~61では,表1の試料No.7のa,b,c,dの値,即ち,a,bが0.1061,c,dが0.3939であり,試料No.62~67では,表1の試料No.10のa,b,c,dの値,即ち,aが0.0941,bが0.0929,cが0.4587,dが0.3543を用いた。

【0029】

【表2】

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【0031】さらに,本発明者等は,表1の試料No.8の組成を主成分として,この主成分に対して各種の金属酸化物を添加する実験を行った。結果を表3,4に示す。」

「【0033】

【表4】

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【0035】

【発明の効果】以上,詳述した通り,本発明の誘電体磁器組成物は,金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含む複合酸化物であるが,これらを特定の範囲に調整することによって,高周波において高い誘電率,高いQ値,及び共振周波数の温度係数の小さい誘電特性を有することができる。従って,高周波にて使用される共振器あるいは回路基板材料としての用途に対し満足したものが得られる。」

(2)  本件優先日前に頒布された特開平11-130544号公報(以下「乙32公報」という。)の記載

乙32公報の【表4】(試料No.103,127)及び【表5】(試料No.165)には,次のとおり,乙9発明の組成範囲に含まれ,稀土類元素としてLaを単独で使用した誘電体磁器において,Q値が45000,41000及び45000である例がそれぞれ記載されている。

【表4】

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乙1公報の【図1】(試料1~7)には,次のとおり,乙9発明の組成範囲に含まれ,稀土類元素としてLaを単独で使用した誘電体磁器において,10GHzのQ値が4170~6580(1GHzでのQ値に換算すると,41700~65800)である例が記載されている。

【図1】

file_10.jpg(4)  乙9発明

前記(1)のとおり,乙9公報の請求項1には,特定の成分組成を満たす誘電体磁器組成物が記載され,請求項2には,その組成物からなる誘電体磁器が記載されている。

そうすると,乙9公報には,以下の発明(乙9発明)が記載されているものと認めることができる。

「金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み,これらの成分をモル比でaLn2Ox・bAl2O3・cCaO・dTiO2と表した時,a,b,c,dおよびxの値が

a+b+c+d=1

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

3≦x≦4を満足することを特徴とする誘電体磁器」

(5)  本件訂正発明と乙9発明の対比

本件訂正発明と乙9発明を対比すると,以下の一致点及び相違点を有する。

ア 一致点

いずれも「金属元素として希土類元素(Ln),Al,M(MはCaおよび/またはSr)およびTiを含み,これらの成分をモル比でaLn2Ox・bAl2O3・cMO・dTiO2(但し,3≦x≦4)と表したとき,a,b,c,dの値が

0.056≦a≦0.214

0.056≦b≦0.214

0.286≦c≦0.500

0.230<d<0.470

a+b+c+d=1

を満足する誘電体磁器」である(なお,乙9発明の「Ca」は本件訂正発明の「M(MはCaおよび/またはSr)」の下位概念である。)。

イ 相違点

(ア) 相違点1(本件訂正発明の構成要件A及びEに関するもの)

本件訂正発明では,稀土類元素(Ln)がLaを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有し,1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上である。これに対し,乙9発明では,稀土類元素に関する限定がなく,Q値も40000以上に限定されていない。

(イ) 相違点2(本件訂正発明の構成要件C及びDに関するもの)

本件訂正発明では,結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり,前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相として存在するとともに,前記β-Al2O3の結晶相を1/100000~3体積%含有する。これに対し,乙9発明では,結晶系が不明である。

(6)  相違点に係る容易想到性

ア 相違点1(本件訂正発明の構成要件A及びEに関するもの)

前記(1)のとおり,乙9公報の段落【0016】には,「希土類元素(Ln)としては,Y,La,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Yb,Nd等があり,」と記載されている。また,【表2】の試料No.35には,稀土類元素としてLaを単独で使用した実施例も記載されている。以上によれば,乙9公報には,乙9発明において,稀土類元素としてLaを単独で使用すること,すなわち,Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するものを使用することに関する示唆があるといえる。

上記試料No.35のQ値は39000であり,本件訂正発明の下限値に近接する値が示されている。また,乙32公報及び乙1公報の前記記載によれば,乙9発明の組成と一致し,稀土類元素としてLaを単独で使用した誘電体磁器において,40000以上のQ値が得られることは,当業者において広く知られた事項であるといえる。

そうすると,乙9発明のうち,稀土類元素としてLaを単独で使用する(すなわち,Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するものを使用する)とともに,Q値を40000以上とすることに困難性はないというべきである。

イ 相違点2(本件訂正発明の構成要件C及びDに関するもの)

証拠(乙11,15)によれば,乙9発明の実施品では,相違点2に係る本件訂正発明の構成を充足するものと,充足しないものがあることが窺われる。

そこで,相違点2に係る本件訂正発明の構成要件C及びDの技術的意義について検討する。

本件明細書等には以下の記載がある。

「【0008】

本発明は,上記事情に鑑みて完成されたもので,その目的は比誘電率εrが30~48の範囲においてQ値40000以上,特にεrが40以上の範囲においてQ値が45000以上と高く,かつ比誘電率εrの温度依存性が小さくかつ安定である誘電体磁器及び誘電体共振器を提供することである。」

「【0015】

【作用】

本発明の誘電体磁器ではβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相を含有させることによりQ値を向上させることができる。

【0016】

また,結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶を80体積%以上とすることにより,Q値を向上させることができる。」

「【0083】

【発明の効果】

本発明において,金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln),Al,M(MはCaおよび/またはSr),及びTiを含有する酸化物からなり,前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al2O3および/またはθ-Al2O3の結晶相として存在することにより,高周波領域において高い比誘電率εr 及び高いQ値を得ることができる。これにより,マイクロ波やミリ波領域において使用される共振器用材料やMIC用誘電体基板材料,誘電体導波路,誘電体アンテナ,その他の各種電子部品等に適用することができる。」

これらの記載によれば,相違点2に係る本件訂正発明の構成要件C及びDの技術的意義は,比誘電率が大きい範囲において,Q値が大きく,比誘電率の温度依存性が小さくかつ安定であるという作用効果を奏する点にあることが認められる。

他方で,前記(1)のとおり,乙9公報には段落【0008】,【0020】及び【0035】の各記載があり,これによれば,乙9発明も本件訂正発明と同質の作用効果を奏するものであると認められる。

そして,前記アのとおり,乙9発明のうち,稀土類元素としてLaを単独で使用する(Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するものを使用する)とともに,Q値を40000以上とすることに困難はなく,本件訂正発明は顕著な作用効果を奏するものであるとはいえない。

そうすると,本件訂正発明の相違点2に係る構成は,乙9発明について,当業者が適宜選択することができるものであり,顕著な作用効果を奏するものでもない。

ウ 以上によれば,本件訂正発明は当業者が乙9発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

2  結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 松阿彌隆 裁判官 西田昌吾)

(別紙)

被告製品目録

材料名を「M45」とする誘電体セラミック

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