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大阪地方裁判所 平成24年(ワ)8972号 判決 2013年5月30日

原告

株式会社トルース

同訴訟代理人弁護士

藤井伸介

同補佐人弁理士

梁瀬右司

丸山陽介

被告

株式会社エルグラン

(以下「被告エルグラン」という。)

同訴訟代理人弁護士

平尾宏紀

同訴訟代理人弁理士

東尾正博

前田幸嗣

被告

株式会社オークワ

(以下「被告オークワ」という。)

同訴訟代理人弁護士

大谷美都夫

主文

1  被告らは,別紙被告商品目録記載の各商品を譲渡し,譲渡のために展示し,又は輸入してはならない。

2  被告エルグランは,原告に対し,金101万6660円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員(うち7万5688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告オークワとの連帯)を支払え。

3  被告オークワは,原告に対し,金7万5688円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員(うち7万5688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告エルグランとの連帯)を支払え。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用はこれを5分し,その1を被告らの,その余を原告の各負担とする。

6  この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,別紙被告商品目録記載の各商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸し渡しのために展示し,輸出し,若しくは輸入してはならない。

2  被告エルグランは,別紙被告商品目録記載の各商品を,回収して廃棄せよ。

3  被告らは,被告オークワが占有管理する別紙被告商品目録記載の各商品を廃棄せよ。

4  被告エルグランは,原告に対し,金482万2054円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員(うち160万0688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員の限度で被告オークワとの連帯)を支払え。

5  被告オークワは,原告に対し,被告エルグランと連帯して,160万0688円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年6分の割合(うち160万0688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員の限度で被告エルグランとの連帯)による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,別紙原告商品目録記載の各バッグ(以下,項番ごとに「原告商品①」,「原告商品②」といい,併せて「原告各商品」という。)を販売する原告が,別紙被告商品目録記載の各バッグ(以下,項番ごとに「被告商品①」,「被告商品②」といい,併せて「被告各商品」という。)の輸入販売等が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当する旨主張して,同法3条1,2項に基づき,被告らに対し,被告各商品の輸入販売等の差止め,廃棄等を求めると共に,同法4条に基づき,被告エルグランに対し,損害賠償金482万2054円及びこれに対する不法行為の日の後である平成24年9月21日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払(うち元金160万0688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまでの遅延損害金の限度で被告オークワとの連帯支払)を,被告オークワに対し,損害賠償金160万0688円及びこれに対する不法行為の日の後である平成24年9月1日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払(うち元金160万0688円及びこれに対する平成24年9月21日から支払済みまでの遅延損害金の限度で被告エルグランとの連帯支払)をそれぞれ求める事案である。

1  判断の基礎となる事実

以下の事実については,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨より認められる。

(1)  当事者

原告は,ハンドバックの製造及び卸売等を行う会社である(甲1)。

被告エルグランは,かばん・袋物の製造・卸売等を行う会社である(甲2)。

被告オークワは,和歌山県・三重県・奈良県・大阪府等に店舗を設置し,食料品・衣料品等の小売を行う会社である(甲3)。

(2)  原告各商品の販売

原告は,平成23年3月以降,原告各商品を輸入し,同月9日頃から,日本国内で小売業者等に販売している(甲4,5,21,26)。原告商品①の形態は別紙原告商品①写真,原告商品②の形態は別紙原告商品②写真のとおりである。

(3)  被告各商品の販売

被告エルグランは,平成24年3月,被告各商品を中国のYINGKOU GOLD STAR SEWINGS CO.,LTD(以下「ゴールドスター社」という。)から,株式会社コーエイを通じて輸入し,その後,日本国内で小売業者等に販売していた(乙22~28)。被告商品①の形態は別紙被告商品①写真,被告商品②の形態は別紙被告商品②写真のとおりである。

被告オークワは,平成7年頃から被告エルグランと取引関係にあったが,平成24年2月頃,被告各商品を取り扱うこととなり,同年4月頃以降,被告各商品を被告エルグランから仕入れ,小売販売していた。

(4)  原告による警告

原告は,平成24年4月1日,2日,被告エルグランに対し,被告各商品の製造,輸入,販売が,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当する旨警告した(甲33の1~6)。

また,原告は,同月13日,被告オークワに対し,被告各商品は,原告各商品の形態を模倣したものである旨通知した(甲28の1・2)。

2  争点

(1)  原告各商品の形態は不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されるか(争点1)

(2)  被告各商品の形態は原告各商品の形態と実質的に同一であるか(争点2)

(3)  被告各商品は原告各商品を模倣したものであるか(争点3)

(4)  被告オークワは,被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることについて,善意無重過失であったか(争点4)

(5)  原告の損害(争点5)

第3争点に関する当事者の主張

1  争点1(原告各商品の形態は不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されるか)について

【原告の主張】

(1) 原告各商品の形態は,別紙原告各商品の形態(当事者の主張)【原告の主張】欄記載のとおりである。

(2) 被告らは,原告各商品よりも以前から販売されていたとする商品(甲10~17)を基に,原告各商品はありふれた形態であり,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されない旨主張する。

しかしながら,原告各商品の形態が,同種商品が通常有するありふれた形態に該当するかどうかは,商品の形態を全体的に観察して判断すべきであるところ,以下のとおり,原告各商品と同様の形態を採用した他の同種商品は存在しないことから,原告各商品の形態は,同種商品が通常有する商品形態に当たらない。

ア 原告商品①について

甲10~13の各商品は,ショルダーバッグであるところ,原告商品①はハンドバッグである。

また,甲14,15の各商品は,バッグ本体の上端部及び下端部に金属鋲と思われる装飾がほぼ等間隔に配置され,ハンドル(持ち手)にはいわゆるピンバックルの針状留め金を挿入して長さ調節するために金属製ハトメを施した複数の挿入孔が形成されているところ,原告商品①にはそのような装飾はない。

さらに,甲16,17の各商品は2段ティアード型で,かつバッグ本体の上端部に装飾用リボンが設けられているところ,原告商品①は3段ティアード型である上,バッグ本体にリボンは設けられていない。

イ 原告商品②の形態について

甲10~13の各商品は,横長長方形の革製バッグ本体及びバッグ本体と同じ素材のショルダーベルトを有するところ,原告商品②は,正方形状の合成皮革製バッグ本体及び布素材のショルダーベルトを備えている。

また,甲14,15の各商品には上記のような装飾があるところ,原告商品②にはそのような装飾はない。

さらに,甲16,17の各商品は上記のようなデザイン及び装飾であるところ,原告商品②は3段ティアード型である上,バッグ本体にリボンは設けられていない。

ウ なお,上記先行商品の内部形状についてみるに,甲12の商品は,ファスナー付きの開閉式の主収納部に隣接して,マグネットボタンにより開閉可能な副収納部を備える片あおり構造であって,原告各商品(両あおり構造)とは異なる。そのほかの商品については不明である。

【被告らの主張】

(1) 原告各商品の形態

原告各商品の形態は,別紙原告各商品の形態(当事者の主張)【被告らの主張】欄記載のとおりである。

(2) 婦人用バッグの基本的な形態について

ア 婦人用バッグの代表的な構成としては,バッグ本体のみからなるもの,バッグ本体にハンドルを取り付けたもの(ハンドバッグタイプ),バッグ本体にショルダーベルトを取り付けたもの(ショルダーバッグタイプ)があり,そのほかにバッグ本体にハンドルとショルダーベルトの両方を取り付けたものもある。

イ バッグ本体の寸法には様々なものがあるが,台形状や正方形状等の形状に応じて,自ずと高さ,幅,奥行きのバランスは同様のものとなる。

ウ バッグ本体の側面は,利便性や装飾性を考慮して,何らかの加工が施されることが多い。

バッグ本体の側面のデザインの一種として,ティアードと呼ばれる複数段の折重ねが入ったものがある。このティアードといわれるデザイン手法は,ファッション業界では古くから用いられてきたものであり(乙1の2~1の5),バッグ業界でも古くから用いられている(甲10,11)。

エ バッグ内部の形状も,利便性や装飾性を考慮して,何らかの工夫が施されているものが多い。

バッグ内部の形状の一つにあおり(両あおり,片あおり)と呼ばれるものがある。両あおりは開口部が3つの部分に分かれ,中央がファスナーや留め金付きの開閉式の主収納部で,その両サイドがオープンな副収納部であるものが多い(乙1の1)。また,片あおりは開口部が2つの部分に分かれ,一方がファスナーや留め金付きの開閉式の主収納部で,他方がオープンな副収納部になっている。

あおり型バッグの副収納部内には,利便性を考えて小ポケットが取り付けられることが多く,小ポケットにはオープンなタイプとファスナー等により開閉可能なタイプがある。また,小ポケットの典型的な構成として,携帯電話用の幅の狭い小ポケットと,様々な小物を入れるための幅の広い小ポケットからなるものがある。

オ ショルダーベルトの素材,寸法,デザインにも様々なものがある。皮革製のものであれば縫い目が施されているものがあり,アクリル製やナイロン製のものであれば織模様が施されているものがある。これらは,バッグの商品開発の際にそのバッグのみに用いるベルトとして新たに創作されることもあるが,多数の異なったデザインのものが,既製品としても市販されている(乙2,3)。

(3) 原告各商品の先行商品及びその形態について

ア 遅くとも平成22年3月には販売されていたニナリッチのバッグ(甲12,22,23,乙4)では,本体は,3段のティアードとなっている。また,内部は,片あおりで,開口部の一方はファスナー付きの開閉式の主収納部,他方はマグネットボタン付きのオープンな副収納部になっている。副収納部には,ファスナーポケットと2つの小ポケットが設けられている。

イ 遅くとも平成23年1月には販売されていた株式会社イマイのバッグ(甲13,乙5)では,本体は,3段のティアードとなっている。

ウ 遅くとも平成16年には販売されていた株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドのバッグ(甲14,15)では,本体は,3段のティアードとなっている。

エ 遅くとも平成17年には販売されていたFURLA(フルラ)のバッグ(甲16,17)では,本体は,2段のティアードとなっている。

オ 遅くとも平成16年には販売されていたFerragamo(フェラガモ)のバッグ(甲24)では,本体は,4段のティアードとなっている。

カ 被告エルグランが,被告各商品に先行して販売していたバッグ(乙6~8)は,原告商品①及び被告商品①と同じく,①内部が両あおりである,②一方の副収納部には,主収納部に対向する壁面に上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部には,主収納部に対向する壁面にファスナーポケットが設けられているとの特徴を備えている。

また,被告エルグランの上記バッグは,原告商品②及び被告商品②と同じく,①内部が両あおりである,②一方の副収納部には,主収納部に対向する壁面に上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部には,主収納部に対向する壁面にファスナーポケットが設けられている,③ショルダーベルトには,長手方向に等間隔の5条の織模様が施されている,④本体の形状が正方形状である,⑤本体の寸法が高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmであるとの特徴を備えている。

(4) 原告各商品の形態が不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されないこと

ア 原告各商品は,外形上の基本的形態を3段ティアードとし,これにハンドル,ショルダーベルト,内部構造を組み合わせたものであるが,その各形態はいずれも従来からあるありふれたものであって,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されない。

イ 原告は,原告各商品と同様の組み合わせを採用した他の同種商品が存在しないことを理由として,原告各商品それぞれの形態が独自性・独創性を有する旨主張する。

しかしながら,ある商品を構成する各部分の形態がありふれたものである場合,通常はそれらを組み合わせても業界内で常識的に行われる設計的事項等の変更となるにすぎず,従来品と識別し得るような個性や特徴が生まれることはない。このため,新規な商品として市場に迎えられることはなく,新規な市場を開拓することはない。すなわち,ある商品を構成する各部分の形態がありふれたものである場合,通常はそれらを組み合わせた商品全体の形態もありふれたものとなるから,原則として,この商品全体の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護されるべき「商品の形態」となるものではない。もっとも,不正競争防止法2条1項3号は,事業者間の公正な競争を促進擁護する見地から,他人の努力した成果にただ乗りをするような不当な模倣行為から商品の形態の保護を図ろうとするものであるから,ありふれた各部分の組み合わせであっても,その組み合わせ自体に開発者の特段の努力や時間・費用を要したことが客観的に認められるときは,その組み合わせによって生じた商品の形態も同条項によって保護されるべき「商品の形態」となる場合があると解すべきである。

本件についてみると,バッグ業界では,需要者層,コスト,機能性,実用性等を考慮して,バッグの形態における外形上の設計的事項や内部構造を適宜選択・変更することは,慣行化され一般的に行われているところ,原告各商品の形態はニナリッチの商品(甲12)のような3段のティアードのデザインを有する先行商品の外形上の設計的事項,内部構造を,需要者層,コスト,機能性,実用性等の理由により変更したものにすぎず,その組み合わせ自体は,客観的にみて,開発者の特段の努力や時間・費用を要したものとは到底認められない。また,原告各商品は,ティアード型バッグの市場において,従来からあるものと何ら変わりないため,新規な市場を開拓したとはいえず,新たな需要を喚起することもない。なお,原告は,原告各商品が半年間で1万2000個以上売れており,当該商品が商業的成功を収めたものであると主張するが,仮に原告にとって売れ筋商品であったとしても,その程度の販売数量はバッグ業界では通常のことであり,客観的にみて商業的成功を収めた商品とはいえない。

ウ 以上のとおり,原告各商品の形態は,その構成する各部分の形態がありふれており,かつ,それらの組み合わせによって生じた商品全体の形態もありふれていることから,不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商品の形態」に該当しない。

2  争点2(被告各商品の形態は原告各商品の形態と実質的に同一であるか)について

【原告の主張】

(1) 原告商品①と被告商品①との実質的同一性

原告商品①と被告商品①の形態は,別紙原告各商品の形態(当事者の主張)【原告の主張】欄,別紙被告各商品の形態(当事者の主張)【原告の主張】欄のとおりであるところ,以下のとおり,原告商品①と被告商品①の形態は実質的に同一である。

ア 外部形状について

(ア) 原告商品①を,婦人用バッグとしての通常の用法に従い使用した際に知覚する外部形状としては,本体が3段ティアード型であること(B1),本体の寸法が高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmであること(E1),左右一対のハンドルがバッグ本体と同一素材で内側幅方向中央に縫い目が形成されていること(J1)が挙げられる。

また,被告商品①の外部形状としては,本体が3段ティアード型であること(b1),本体の寸法が高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmであること(e1),左右一対のハンドルが,バッグ本体に長手方向に折り重ねられ,縫い目が内側幅方向中央に形成されていること(j1)等が挙げられる。

原告商品①と被告商品①は上記の外部形状の構成要素を同じくしており,極めて類似する。

(イ) 被告らは,原告商品①と被告商品①との外部形状の相違点として,①ショルダーベルト部の有無,②バッグ本体の底面の縫製の状況,③吊り飾りの素材や形態,④質感,⑤ティアード上段・中段の内側の素材を挙げる。

しかしながら,相違点①については,被告商品①は,婦人用ハンドバッグとして展示・販売されており,ショルダーベルトは取り外され,ショルダーベルト取付け用のブラケット(紐通し金具)はバッグ本体内側に隠して陳列されるのが通常であることから,ショルダーベルト部(ショルダーベルト及びブラケット)の有無は,商品全体から見て些細な相違に過ぎない。相違点②も,商品全体から見て些細な相違である。

また,相違点③については,原告商品①の吊り飾りは,原告の登録商標を表したものであってバッグの形態の一部ではない。また,被告商品①の吊り飾りも,同様にバッグの形態の一部ではない。

さらに,相違点④については,原告商品①は「滑らか」な質感であるのに対し,被告商品①は「ざらざら感」があるものの,いずれも牛革を模した合成皮革であり,ワニ革やダチョウ革の場合ほどの差は認められず,商品全体から見て些細な相違に過ぎない。相違点⑤についても,その使用に際して知覚によって認識できるものではない。

イ 内部形状について

(ア) 原告商品①を,婦人用バッグとしての通常の用法に従い使用した際に知覚する内部形状としては,バッグ内部が幅方向に3つの収納部に分割し,その中央の開口部をファスナーで開閉可能な主収納部とし,その両サイドの開口部をオープンな副収納部とする,いわゆる両あおり構造であること(C1)が挙げられる。

また,被告商品①の内部形状としては,バッグ内部の中央の開口部をファスナーで開閉可能な主収納部とし,その両サイドの開口部をオープンな副収納部とする,いわゆる両あおり構造であること(c1)等が挙げられる。

原告商品①と被告商品①は上記の内部形状の構成要素を同じくしており,極めて類似する。

(イ) 被告らは,原告商品①と被告商品①との相違点として,①バッグ内部の大きい方のポケットにおけるマチの有無,②バッグ内部の両収納部の布地の模様を挙げる。

しかしながら,相違点①については,ポケットのマチの大きさは2cmほどであって,原告商品①のバッグ内部のポケットにマチがあることが収納能力を飛躍的に高めるといった効用もないのであるから,この点は有意な違いとはいえない。

また,相違点②については,バッグの内側布地を変更することは容易であり,この点は重視すべきではない。

(2) 原告商品②と被告商品②との実質的同一性

原告商品②と被告商品②の形態は,別紙原告各商品の形態(当事者の主張)【原告の主張】欄,別紙被告各商品の形態(当事者の主張)【原告の主張】欄のとおりであるところ,以下のとおり,原告商品②と被告商品②は実質的に同一である。

ア 外部形状について

(ア) 原告商品②を,婦人用バッグとしての通常の用法に従い使用した際に知覚する外部形状としては,本体が3段ティアード型であること(B2),本体の寸法が高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmであること(E2),ショルダーベルトは,バッグ本体の開口部の一端内側にその一方端部を縫い付けた布製のベルト部の他方端部が,バッグ本体の開口部の他端内側に設けられているブラケットに通されて中間に配された長さ調節金具に取り付けられて長さ調節可能に設けられており(I2),長手方向に5条の織模様が施されていること(J2)が挙げられる。

また,被告商品②の外部形状としては,本体が3段ティアード型であること(b2),本体の寸法が高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmであること(e2),ショルダーベルトは,バッグ本体の開口部両端の内側に固定したブラケットを介して設けられており,中間に長さ調節金具を有し(i2),長手方向に5条の織模様が施されていること(j2)が挙げられる。

原告商品②と被告商品②は上記の外部形状の構成要素を同じくしており,極めて類似する。

(イ) 被告らは,原告商品②と被告商品②との内部形状の相違点として,①ショルダーベルトのバッグ本体への接続方法,②バッグ本体の底面の縫製の状況,③吊り飾りの素材や形態,④質感,⑤ティアード上段・中段の内側の素材を挙げる。

しかしながら,相違点①については,原告商品②ではショルダーベルトの一方端部がバッグ本体の開口部の一端内側に縫い付けられ,他方端部がブラケットを介して設けられているのに対し,被告商品②ではショルダーベルトの両方の端部がブラケットを介して設けられているという相違があるが,ショルダーベルトの一方端部をバッグ本体に縫い付けるかブラケットを介するかの差は,需要者が両商品を手に取って入念に見比べて初めて認識できる程度のものであって,商品全体から見て些細な相違に過ぎない。

また,相違点②③④⑤については,原告商品①と被告商品①の場合と同様であって,実質的同一性を否定するものではない。

イ 内部形状について

(ア) 原告商品②を,婦人用バッグとしての通常の用法に従い使用した際に知覚する内部形状としては,バッグ本体の内部は,幅方向に3つの収納部に分割して,その中央の開口部をファスナーで開閉可能な主収納部とし,その両サイドの開口部をオープンな副収納部とする,いわゆる両あおりであること(C2)が挙げられる。

また,被告商品②の内部形状としては,バッグ本体内部の中央にファスナーにより開閉可能な主収納部を備えるとともに,バッグ本体内部の主収納部の両側にオープンな2つの副収納部を備え,一方の副収納部には横幅の異なる2つのポケットを備え,他方の副収納部にはファスナーによる開閉式のポケットを備える両あおり構造であること(c2)が挙げられる。

原告商品②と被告商品②は上記の内部形状の構成要素を同じくしており,極めて類似する。

(イ) 被告らは,原告商品②と被告商品②との相違点として,①バッグ内部の大きい方のポケットにおけるマチの有無,②バッグ内部の両収納部の布地の模様を挙げるが,これらについては,原告商品①と被告商品①の場合と同様であって,実質的同一性を否定するものではない。

【被告らの主張】

原告商品①と被告商品①,原告商品②と被告商品②の各形態は,別紙原告各商品の形態(当事者の主張)【被告らの主張】,別紙被告各商品の形態(当事者の主張)【被告らの主張】のとおりであるところ,これらの商品は,それぞれの形態において多くの異なる点を有しているのであって,実質的に同一の形態であるということはできない。

(1) 原告商品①と被告商品①について

原告商品①と被告商品①は,ショルダーベルト部の有無(基本的形態A1とa1),質感(具体的形態D1とd1),側壁内面の対向面の素材・質感(具体的形態G1とg1),バッグ本体の底面の縫製の状況(具体的形態H1とh1),吊り飾りの素材や形態(具体的形態K1とk1),副収納部の小ポケットにおけるマチの有無(具体的形態N1とn1)及び収納部の模様・タグの有無(具体的形態O1とo1)が異なる。

(2) 原告商品②と被告商品②について

原告商品②と被告商品②についても,質感(具体的形態D2とd2),側壁内面の対向面の素材・質感(具体的形態G2とg2),バッグ本体の底面の縫製の状況(具体的形態H2とh2),ショルダーベルトのバッグ本体への接続方法(具体的形態I2とⅰ2),吊り飾りの素材や形態(具体的形態K2とk2),主収納部のファスナー終端部の状況(具体的形態L2とl2),副収納部の小ポケットにおけるマチの有無(具体的形態N2とn2)及び収納部の模様・タグの有無(具体的形態O2とo2)が異なる。

(3) 実質的同一性の判断の場面でも,原告各商品の基本的形態を構成する各要素(3段ティアード型,両あおり,略正方形状の形態等)がありふれていることを考慮すべきである。なぜなら,これらの各要素がありふれたものである以上,その組み合わせに格別の特異性がないかぎり,これらを組み合わせた形態もありふれたものとなるのが通常であって,そうであれば,ありふれた要素を組み合わせた結果としてのありふれた形態は実質的同一性判断のために注目すべき要部となりえないからである。

よって,原告商品①と被告商品①,原告商品②と被告商品②の実質的同一性を判断するにあたっては,ありふれた要素を組み合わせた結果としての商品の基本形態を比較するだけではなく,さらに細部(当然には類似するはずのない要素)についても注目してこれを比較しなければならないところ,これらの点において,原告商品①と被告商品①,原告商品②と被告商品②との間には多数の相違点が認められるから,これらを実質的に同一であるということはできない。

3  争点3(被告各商品は原告各商品を模倣したものであるか)について

【原告の主張】

(1) 被告各商品は,上記のとおり,原告各商品と実質的に同一の形態を有しているところ,両者の形態が偶然の一致により得られたものであるとは到底いえず,先行販売した原告各商品を模倣したことは明らかである。また,原告各商品は「ピアノ」という商品名で一緒に販売されているところ,被告各商品についても,同様に一緒に展示して販売されていることからしても(甲20),被告各商品は原告各商品を模倣したものといえる。

原告各商品は,販売を開始した平成23年3月から8月までのわずか半年で1万2000本以上も売れた商品であることから,他の業者の注目を集めたものであることは合理的に推認でき,被告エルグランが原告各商品を了知したと共に,模倣の動機になったといえる。

(2) また,原告は,平成24年3月30日,被告エルグランに対し,内容証明郵便を送付したが,その後同年5月8日に至るまでの被告エルグランの行動・対応は不可解であり,この点からしても被告各商品は原告各商品を模倣したものといえる。

【被告らの主張】

被告各商品の形態は,被告エルグランがゴールドスター社とともに,独自に開発したものであり,原告各商品の形態を模倣したものではない。

(1) 被告エルグランが原告各商品の存在を知らなかったこと

原告と被告エルグランは取引関係になく,原告各商品について,大々的に宣伝広告したりされた事実もないことから,被告エルグランは原告各商品を知ることはできなかった。

被告エルグランは,原告から平成24年3月30日付けの内容証明郵便によって,初めて原告各商品の存在を知ったのである。なお,原告は,原告各商品は,半年間で1万2000本以上売れた売れ筋商品であり,商業的成功を収めたと主張するが,上記販売実績はバッグ業界では平凡な売れ行きに過ぎない。

(2) 被告各商品の開発経緯とその依拠する形態について

被告エルグランは,平成23年10月13日,以前から取引のあった中国の大連に所在するゴールドスター社と,被告各商品を共同開発するための打ち合わせを行っており,その中で,外観デザインは,平成23年8月頃にインターネットに掲載されていたニナリッチ社のバッグの写真を参考にしており,寸法は標準的なもので,内部構造は,ハンドバッグとショルダーバッグの2品については従来どおり両あおり構造で,ポケットの配置も従来どおりにしたサンプルの提示を受けた。

被告エルグランは,ティアード型のバッグは新鮮ではないが,素材であるPVCの柔らかくてぶつぶつした質感が日本の市場に受けると感じ,ハンドバッグとショルダーバッグの2品について,企画を進めることとして,修正指示を行った。

その後,被告エルグランは,平成24年1月中旬に,被告各商品の正式サンプルを確認し,同年3月7日にはボーケン品質評価機構の品質検査を受け,同月9日に被告各商品を輸入した。

以上のとおり,被告各商品の形態は,被告エルグランがゴールドスター社とともに,独自に開発したものであり,原告各商品の形態を模倣したものではない。

4  争点4(被告オークワは,被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることについて,善意無重過失であったか)について

【被告オークワの主張】

被告オークワは,被告エルグランとの売買契約が成立した時点(平成24年2月2日)で,被告各商品が原告各商品の形態を模倣した商品であることについて善意であり,その後の対応に特段の重過失もない。

なお,同年4月12日付けの原告の通知書は,恫喝的かつ一方的なもので通常の事業者が発送するとは思えない内容であり,被告オークワが相当期間内に被告各商品の販売を中止しなかったとしても,この点に重過失がないといえる。

【原告の主張】

原告は,平成24年4月12日付けで,被告オークワに対し,被告商品が原告商品の形態模倣商品であり不正競争防止法に違反するものであるため,展示・販売を即刻中止することを請求する旨の通知書を送付し,同書面は,翌13日にオークワに到達した(甲28)。

したがって,被告オークワは,遅くとも同日までには,被告商品の販売が不正競争防止法に違反する行為であることを認識したのであり,仮に明確に認識できなかったとしても,原告に対して何ら問い合わせや照会をすることなく,漫然とエルグランの説明を軽信した点において,商取引上の注意義務違反が認められ,無重過失とはいえない。

5  争点5(原告の損害)について

【原告の主張】

(1) 被告エルグランの販売による損害

原告各商品の卸売価格はいずれも1560円であるところ,仕入値の平均は原告商品①が1172円,原告商品②が1154円であり(甲29),限界利益は原告商品①が388円,原告商品②が406円である。

原告は,原告各商品について,販売開始から半年間で1万2268個を販売している(原告商品①と原告商品②の割合はほぼ半分ずつである。)。被告エルグランも同じ割合で被告各商品を販売していると考えると,被告エルグランは,被告各商品の販売開始から4か月間で,被告商品①を4090個,被告商品②を4089個販売していると推測できる。

したがって,被告各商品全体で324万7054円が損害額とみなされる(不正競争防止法5条1項。このうち,下記(2)の2万5688円については,被告オークワと連帯して賠償すべきものである。)。

(2) 被告オークワの販売による損害

被告オークワは,原告から通知を受けた平成24年4月13日以降,被告エルグランより,被告商品①につき39個,被告商品②につき26個の納品を受け,これを販売した(甲30)。

したがって,被告各商品全体で2万5688円が損害額とみなされる(不正競争防止法5条1項。これは,被告エルグランと連帯して賠償すべきものである。)。

(3) 弁護士費用等

また,本件に関する弁護士費用として126万円,弁理士費用として31万5000円が生じており(甲31,32),これら費用は,被告らが連帯して賠償の責めに任ずべき損害である。

(4) 小括

したがって,被告エルグランは482万2054円の損害賠償義務を負い,被告オークワは160万0688円の損害賠償義務を負っている。

【被告エルグランの主張】

否認又は争う。

なお,被告エルグランによる被告各商品の販売個数,被告各商品の販売による利益は,別紙被告エルグランの利益一覧表のとおりである(ただし,同一覧表の「被告商品①(品番:565639)」は,「被告商品②」の,「被告商品②(品番:565739)」は,「被告商品①」のそれぞれ誤記である。)。

【被告オークワの主張】

争う又は不知。

第4当裁判所の判断

1  原告各商品及び被告各商品の形態について

証拠(甲6~9,18,19)及び弁論の全趣旨によれば,原告各商品及び被告各商品の形態は,以下のとおりと認められる(なお,符号は当事者の主張に対応するものである。)。

(1)  原告各商品の形態

ア 原告商品①の形態

(ア) 基本的形態

A1 バッグ本体及び左右の一対のハンドルからなる婦人用ハンドバッグである。

E1 バッグ本体の寸法は,高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmである。

B1 バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段ティアード型である。

C1 バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりである。

(イ) 具体的形態

D1 外革は,凹凸のない滑らかな質感を有している。

F1 バッグのカラーバリエーションには,ブラック,ピンク,ベージュ,シルバー,ワイン,チョコがある。

G1 ティアード型を形成する3段の各側壁のうち,上段と中段の側壁内面の対向面は,素材がシワナイロンでざらざらした質感を有している。

H1 バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であり,側面との縫い面にポストミシン加工が施されている。

I1 左右一対の各ハンドルは,バッグ本体と同一素材で,バッグ本体の開口部の両内側から,逆U字状にバッグ本体と同程度の高さで突出して設けられている。

J1 各ハンドルは,バッグ本体と同一素材を長手方向に折重ねて,縫い目を内側幅方向中央に形成している。

K1 一方のハンドルの一端には,皮革製の紐で,円形状の合成皮革の上に十字の縫い目が施された十字型の合成皮革を重ね合わせた吊り飾りが吊り下げられている。

L1 バッグ内部の主収納部のファスナーの終端部は,主収納部の上縁端部に配されている。

M1 一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられている。

N1 2つの小ポケットには,いわゆるマチが設けられている。

O1 ファスナーポケットが設けられた副収納部には,ファスナー直下の布面中央に横長の長方形状の合成皮革製のタグが縫い付けられ,このタグには,上段に「RI」のロゴマーク,下段に「Piamonte Lusso」の文字が横書き表示されている。

イ 原告商品②の形態

(ア) 基本的形態

A2 バッグ本体及びショルダーベルトからなる婦人用ショルダーバッグである。

E2 バッグ本体の寸法は,高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmである。

B2 バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段のティアード型である。

C2 バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりである。

(イ) 具体的形態

D2 外革は,凹凸のない滑らかな質感を有している。

F2 バッグのカラーバリエーションには,ブラック,ピンク,ベージュ,シルバー,ワイン,チョコがある。

G2 ティアード型を形成する3段の各側壁のうち,上段と中段の側壁内面の対向面は,素材がシワナイロンでざらざらした質感を有している。

H2 バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であり,側面との縫い面にポストミシン加工が施されている。

I2 ショルダーベルトは,バッグ本体の開口部一端の内側から突出して設けられたベルト部が,他端の内側に設けられているブラケット(紐通し金具)に通して設けられており,中間に長さ調節金具を有している。

J2 ショルダーベルトには,長手方向に等間隔の5条の織模様が施されている。

K2 ショルダーベルトの一端には,皮革製の紐で,円形状の合成皮革の上に十字の縫い目が施された十字型の合成皮革を重ね合わせて形成した吊り飾りが吊り下げられている。

L2 バッグ内部の主収納部のファスナーの終端部は,主収納部の上縁端部から内部に3cm程度入り込んでいる。

M2 一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられている。

N2 2つの小ポケットには,いわゆるマチが設けられている。

O2 ファスナーポケットが設けられた副収納部には,ファスナー直下の布面中央に横長の長方形状の合成皮革製のタグが縫い付けられ,このタグには,上段に「RI」のロゴマーク,下段に「Piamonte Lusso」の文字が横書き表示されている。

(2)  被告各商品の形態

ア 被告商品①の形態

(ア) 基本的形態

a1 バッグ本体及び左右の一対のハンドル及び取り外し可能なショルダーベルトからなる婦人用ハンドバッグである。

e1 バッグ本体の寸法は,高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmである。

b1 バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段のティアード型である。

c1 バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりである。

(イ) 具体的形態

d1 外革は,牛革状の多数のしわ模様によるつぶつぶの質感を有している。

f1 バッグのカラーバリエーションには,黒,チョコ及びベージュがある。

g1 ティアード型を形成する3段の各側壁のうち,上段と中段の側壁内面の対向面は,側壁と同じ合成皮革を素材としており,側壁と同じ質感・色調である。

h1 バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であり,側面との縫い面に玉芯加工が施されている。

ⅰ1 左右一対の各ハンドルは,バッグ本体と同一素材で,バッグ本体の開口部の両内側から,逆U字状にバッグ本体と同程度の高さで突出して設けられている。

取り外し可能なショルダーベルトは,バッグ本体の開口部両端の内側に固定したブラケット(紐通し金具)を介して設けられ,中間に長さ調節金具を有している。

j1 各ハンドルは,バッグ本体と同一素材を長手方向に折重ねて,縫い目を内側幅方向中央に形成している。

取り外し可能なショルダーベルトには,長手方向に等間隔の5条の織模様が施されている。

k1 一方のハンドルの一端には,花柄模様で型抜きされた金属製プレートの吊飾りが玉鎖で吊り下げられている。

l1 バッグ内部の主収納部のファスナーの終端部は,主収納部の上縁端部に配されている。

m1 一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられている。

n1 2つの小ポケットのうち,小さな方にはいわゆるマチが設けられており,大きな方にはマチが設けられていない。

o1 両収納部の布地には,「ZAZA」の文字のプリントがジグザグの地模様状に多数施されている。

イ 被告商品②の形態

(ア) 基本的形態

a2 バッグ本体及びショルダーベルトからなる婦人用ショルダーバッグである。

e2 バッグ本体の寸法は,高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmである。

b2 バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段のティアード型である。

c2 バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりである。

(イ) 具体的形態

d2 外革は,牛革状の多数のしわ模様によるつぶつぶの質感を有している。

f2 バッグのカラーバリエーションには,黒,チョコ及びベージュがある。

g2 ティアード型を形成する3段の各側壁のうち,上段と中段の側壁内面の対向面は,側壁と同じ合成皮革を素材としており,側壁と同じ質感・色調である。

h2 バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であり,側面との縫い面に玉芯加工が施されている。

ⅰ2 ショルダーベルトは,バッグ本体の開口部両端の内側にそれぞれ固定したブラケット(紐通し金具)を介して設けられ,中間に長さ調節金具を有している。

j2 ショルダーベルトには,長手方向に等間隔の5条の織模様が施されている。

k2 ショルダーベルトの一端には,花柄模様で型抜きされた金属製プレートの吊飾りが玉鎖で吊り下げられている。

l2 バッグ内部の主収納部のファスナーの終端部は,主収納部の上縁端部に配されている。

m2 一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられている。

n2 2つの小ポケットのうち,小さな方にはいわゆるマチが設けられており,大きな方にはマチが設けられていない。

o2 両収納部の布地には,「ZAZA」の文字のプリントがジグザグの地模様状に多数施されている。

2  争点1(原告各商品の形態は不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されるか)について

(1)  不正競争防止法は,先行者の開発利益を保護することを目的として,新たな商品の形態を模倣する行為は,その形態が当該商品の機能を確保するために不可欠である場合を除き,新たな商品が最初に販売された日から3年を経過しない範囲で,これを不正競争とする旨を定めた(同法2条1項3号,19条1項5号イ)。また,同法は,上記保護の対象となる商品の形態について,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう」と定める一方で,形態に創作性,独創性のあることをその保護の要件とはしていない(同法2条4項)。

(2)  本件において,原告商品①は婦人用のハンドバッグであるが,原告商品①の形態は,婦人用ハンドバッグであることによって必然的に導かれる形態ということはできず,何らかの特定の効果を奏するために必須の技術的形態ということもできない。

原告商品①の販売以前に,原告商品①と同様の婦人用のハンドバッグにおいて,外観にティアード型のデザインを用いた商品も存するところである(甲16,17,24)。しかしながら,原告商品①は,形状及び大きさが22cm×30cm×12cmで,3段ティアード型のハンドバッグであり,内部構造に両あおりを採用したものであるところ,上記先行商品は,いずれもこのような特徴を備えるものではないことから,原告商品①の形態が個性を有しないということはできない。

すなわち,甲16,17のハンドバッグは,形状及び大きさが25cm×25cm×8cmで,二段ティアード型のハンドバッグであり,原告商品①とは異なる。また,甲24のハンドバッグは,形状は台形型で,4段ティアード型のハンドバッグであり,原告商品①とは異なる。

(3)  また,本件において,原告商品②は婦人用のショルダーバッグであるが,原告商品②の形態は,婦人用ショルダーバッグであることによって必然的に導かれる形態ということはできず,何らかの特定の効果を奏するために必須の技術的形態ということもできない。

原告商品②の販売以前に,原告商品②と同様の婦人用のショルダーバッグにおいて,外観にティアード型のデザインを用いた商品も存するところである(甲10~15)。しかしながら,原告商品②は,形状及び大きさが26cm×26cm×7cmで,三段ティアード型のショルダーバッグであり,内部構造に両あおりを採用したものであるところ,上記先行商品は,いずれもこのような特徴を備えるものではないことから,原告商品②の形態が個性を有しないということはできない。

すなわち,甲11のショルダーバッグは,形状及び大きさは23cm×26cm×10cmであり,原告商品②とは異なる。また,甲12のショルダーバッグは,形状及び大きさは22cm×26cm×10cmであり,原告商品②とは異なる。甲13~15の各ショルダーバッグも,形状は長方形型であり,原告商品②とは異なる。さらに,甲24のショルダーバッグは,形状は台形型で,4段ティアード型のショルダーバッグであり,原告商品②とは異なる。

(4)  被告らは,バッグ業界において,バッグの形態における外形上の設計的事項や内部構造は適宜選択・変更されるのであって,これらを外形上の基本的形態と組み合わせることは慣行化され,一般的に行われていることであるとした上で,原告各商品は,その構成の各部分の形態がありふれていて,かつ,それらの組み合わせによって生じた商品全体の形態もありふれたものであり,開発者の特段の努力や時間・費用を要したものであるとは認められないことから,原告各商品の「商品の形態」は不正競争防止法2条1項3号により保護されない旨主張する。

しかしながら,前記(1)で述べたとおり,同号が保護する商品の形態は,外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様等からなる商品全体の形態をいうのであって,創作性,独創性は求められないから,その商品の形態を構成する個々の要素が従来の商品形態に見られる特徴の組み合わせであったとしても,全体として新たな商品形態となる以上は,同号による保護を否定する理由はないというべきである。

特に,婦人用バッグを需要者が選択する場合,基本的な形状と大きさ,施されたデザイン,持ち手等の形状や位置,付加的装飾の有無形状,素材の選択や加工といった点が嗜好又は用途に合致するかといった観点のみならず,収納部の設け方や容量,あるいは開閉の方法といった内部の形状に属する点が嗜好又は用途に合致するかといった観点から検討がなされると考えられるから,これらの点について,個別にみると同一の部分的形態を有する商品が,原告各商品の販売以前に存在したことが認められるとしても,全体としての形態において,これらを組み合わせた商品が存在していなかった以上,当該商品を初めて市場に出した者は,その形態を模倣する者との間では,先行者として保護されるべきである。

したがって,被告らの上記主張は採用できない。

(5)  以上によれば,原告各商品の形態は,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」として保護されるというべきである。

3  争点2(原告各商品の形態と被告各商品の形態とが実質的に同一であるか)について

(1)  原告商品①と被告商品①の形態の実質的同一性

原告商品①と被告商品①は,いずれも,基本的形態のうち,①バッグ本体及び左右の一対のハンドルからなる婦人用ハンドバッグであること(A1,a1),②バッグ本体の寸法は,高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmであること(E1,e1),③バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段のティアード型であること(B1,b1),④バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりであること(C1,c1)において共通する。

また,具体的形態のうち,⑤バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であること(H1,h1),⑥左右一対の各ハンドルは,バッグ本体と同一素材で,バッグ本体の開口部の両内側から,逆U字状にバッグ本体と同程度の高さで突出して設けられていること(I1,i1),⑦各ハンドルは,バッグ本体と同一素材を長手方向に折重ねて,縫い目を内側幅方向中央に形成していること(J1,j1),⑧一方のハンドルの一端には吊り飾りが吊り下げられていること(K1,k1),⑨バッグ内部の主収納部のファスナーの終端部は,主収納部の上縁端部に配されていること(L1,l1),⑩一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられていること(M1,m1)において共通する。

このように,原告商品①と被告商品①は,基本的形態及び具体的形態の多くが共通し,全体としての形状も同一であることから,両者の形態は実質的に同一であるというべきである。

確かに,原告商品①と被告商品①との間には,①ショルダーベルトの有無(A1,a1),②質感(D1,d1・G1,g1),③色(F1,f1),④本体の底面と側面との縫い面の加工の違い(H1,h1),⑤吊り飾りの形状の違い(K1,k1),⑥副収納部の小ポケットのマチの有無(N1,n1),⑦収納部の布地の模様,タグの違い(O1,o1)があるが,これらはいずれも外観の相違に影響を与えない些細なものに過ぎず,実質的同一である旨の判断を覆すものではない。

(2)  原告商品②と被告商品②の形態の実質的同一性

原告商品②と被告商品②は,いずれも,基本的形態のうち,①バッグ本体及びショルダーベルトからなる婦人用ショルダーバッグであること(A2,a2),②バッグ本体の寸法は,高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmであること(E2,e2),③バッグ本体のデザインは,側壁を取り巻く帯状の合成皮革を上下方向に3段に重ねた,いわゆる3段のティアード型であること(B2,b2),④バッグ内部は,幅方向に3つの収納部に分割されており,その中央にある開口部をファスナーで開閉可能にした主収納部,その両サイドにある開口部をオープンにした副収納部からなる,いわゆる両あおりであること(C2,c2)において共通する。

また,具体的形態のうち,⑤バッグ本体の底面は,略角丸横長長方形状であること(H2,h2),⑥ショルダーベルトには,長手方向に等間隔の5条の織模様が施されており,中間に長さ調節金具を有していること(I2,i2・J2,j2),⑦ショルダーベルトの一端には吊り飾りが吊り下げられていること(K2,k2),⑧一方の副収納部の主収納部に対向する壁面には,上縁開放の横幅の長さが異なる大小の小ポケットが横方向に連続して設けられ,他方の副収納部の主収納部に対向する壁面にはファスナーポケットが設けられていること(M2,m2)において共通する。

このように,原告商品②と被告商品②は,基本的形態及び具体的形態の多くが共通し,全体としての形状も同一であることから,両者の形態は実質的に同一であるというべきである。

確かに,原告商品②と被告商品②との間には,①質感(D2,d2・G2,g2),②色(F2,f2),③本体の底面と側面との縫い面の加工の違い(H2,h2),④吊り飾りの形状の違い(K2,k2),⑤ショルダーベルトと本体との接続部の違い(I2,i2),⑥主収納部のファスナーの終端部の違い(L2,l2),⑦副収納部の小ポケットのマチの有無(N2,n2),⑧収納部の布地の模様,タグの違い(O2,o2)があるが,これらはいずれも外観の相違に影響を与えない些細なものに過ぎず,実質的同一である旨の判断を覆すものではない。

(3)  被告らの主張について

被告らは,実質的同一性の判断の場面でも,ありふれた形態については要部にはなり得ず,原告各商品及び被告各商品の共通点は,ありふれた形態に関するものであることから,当該共通点をもって,実質的同一とはいえないと主張する。

しかしながら,実質的同一性の判断は,需要者の知覚を基準にされるべきであるから(不正競争防止法2条4項参照),外観の相違に影響を与えない些細な部分が要部になるということはいえず,また,ありふれた部分であることをもって要部になり得ないともいえないのであって,被告らの上記主張は採用できない。

4  争点3(被告各商品は原告各商品を模倣したものであるか)について

(1)  掲記の各証拠,弁論の全趣旨及び前記第2の1の事実によれば,以下の事実関係が認められる。

ア 原告各商品は,平成23年3月9日頃に販売開始され,その後,同年8月までの半年間に,原告は1万2268個を仕入れ,販売した。原告各商品の仕入及び販売数は,原告がこれまでに販売したバッグ商品全体の中でもっとも多いわけではないが,同時期に販売開始したバッグ商品の中ではもっとも多いものであった(甲21)。

イ 被告エルグランは,平成23年10月13日,中国のゴールドスター社に対し,被告各商品に関するSAMPLE ORDERを提出した(乙20別紙1B,2B。以下「本件オーダー書」という。)。

本件オーダー書のうち乙20別紙1Bには,本体の高さ22cm,幅30cm,奥行き12cmという,原告商品①と同サイズの,持ち手のある「手提げ」が図示され,本体は合皮(力海皮革貿易商行。サンプル通り。)を使用すること,本体底面と側面との縫い面に玉芯加工を施すことなどが記載されており,これに加えて,バッグ本体にDカンを付けて,アクリルテープ(永亨織帯)のショルダーベルトを取り外しできるようにすることが記載されていた。

本件オーダー書のうち乙20別紙2Bには,高さ26cm,幅26cm,奥行き7cmという,原告商品②とほぼ同じサイズのショルダーバッグが図示され,ショルダーヒモ(ショルダーベルト)をPVCからアクリルテープに変更すること,本体は合皮を使用すること,本体底面と側面との縫い面に玉芯加工を施すことなどが記載されていた。

ウ 上記指示に基づいて被告各商品は製造,輸入され,平成24年3月頃,被告エルグランに出荷された。

(2)  被告らは,被告各商品は,平成23年8月頃にインターネットに掲載されていたニナリッチのバッグの写真(乙20別紙1A,1B。以下「ニナリッチ写真」という。)を参考に開発されたものである旨主張し,本件オーダー書は,ニナリッチ写真を基にゴールドスター社が作成したものである旨主張する。

しかしながら,ニナリッチ写真と本件オーダー書の記載では,3段ティアードである点は共通するものの,本体の形状やハンドルの形状は同一とはいえないし,ニナリッチ写真ではそのサイズは不明であるのに,本件オーダー書では,ハンドバッグとショルダーバッグの双方について,原告各商品と同一又はほぼ同一のサイズとすべきことが明記されている。さらに,ニナリッチ写真では内部の構造も不明であるが,実際に製造販売された被告各商品については,既に検討したとおり,内部の構造も原告各商品とほぼ同一と認められるところ,どのような検討,開発の過程を経て,そのような内部構造が採用されたかは,全く示されていない。

これらに加えて,被告各商品の開発は,原告各商品が市場に出された直後になって開始されていること,原告と被告エルグランは共通する取引先を有していたと認められること(甲27)を踏まえると,被告各商品がニナリッチ写真に基づいて開発されたとは認められず,被告エルグラン又はゴールドスター社は,当時,一定の売れ行きを示していた原告各商品を参照し,部分的には修正しつつ,基本的には同一の形状を有するものとして被告各商品を開発したと認めるのが相当である。

被告らは,原告各商品について,大々的に宣伝広告したりされた事実もなく,販売実績はバッグ業界では平凡な売り上げに過ぎないから,これを知ることはできなかったと主張するが,上記のとおり,原告と被告エルグランは,いずれもバッグの製造,卸売り等を行う業者であり,取引先を共通にしているなどの具体的な事情に照らし,上記主張は採用できない。

(3)  以上によれば,被告各商品は,他人の商品である原告各商品の形態を模倣したものと認められ,後記争点4が認められない限り,不正競争行為として,その譲渡,譲渡のための展示又は輸入を差し止めるべきことになる(なお,被告らが,被告各商品を貸渡し,貸渡しのための展示,輸出していた事実は認められず,これらについての差止請求は理由がない。)。

5  争点4(被告オークワは,被告各商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることについて,善意無重過失であったか)について

被告オークワは,平成24年4月13日,被告各商品は原告各商品に極めて酷似しており,被告各商品の販売等は不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たるので中止するよう通知を受けたにもかかわらず(甲28の1・2),被告エルグランに照会する以上の確認をすることなく,同日以降も販売を継続したのであって,善意無重過失とは認められない。

6  争点5(原告の損害)について

(1)  被告エルグランの販売による損害について

ア 原告の利益

原告は,原告商品①について1個当たり388円の利益を得ており,原告商品②について1個当たり406円の利益を得ていると認められる(甲29)。

イ 被告エルグランによる被告各商品の販売個数

(ア) 被告エルグランは,平成24年3月の販売開始以降,被告商品①を1001個販売した旨主張する(別紙被告エルグランの利益一覧表参照。同一覧表の「被告商品②(品番:565739)」は「被告商品①」の誤記である。)。被告エルグランの当該主張は,各取引先への売上日記帳,納品書等の資料(乙24~38)によって概ね裏付けられており,取引先によっては,多少資料と合致しない納品数又は返品数が認められるものの,被告エルグランによる納品書等の紛失等による旨の説明が不合理ともいえないことから,被告エルグランが主張する販売個数を一応認めることができる。

もっとも,取引先の一つであるE社に対しては,平成24年8月17日に90個,同年10月3日に150個,同月9日に213個の合計453個が販売されたと認められるところ(乙33の1~3),被告エルグランは363個しか主張しておらず,これについては,平成24年8月17日付けの90個を計上していないものと認められる。

したがって,被告エルグランは,被告商品①を1091個(1001個+90個)販売したものと認めるのが相当である(なお,被告エルグランは,平成24年3月1日に,株式会社コーエイから被告商品①1100個の納品を受けており(乙23),当該納品数と近似することからも,上記販売個数は合理的であると認められる。)。

(イ) 被告エルグランは,平成24年3月の販売開始以降,被告商品②を1002個販売した旨主張する。上記被告商品①の場合と同様に,被告エルグランの当該主張は,各取引先への売上日記帳,納品書等の資料(乙24~38)によって概ね裏付けられており,取引先によっては,多少資料と合致しない納品数又は返品数が認められるものの,被告エルグランによる納品書等の紛失等による旨の説明が不合理ともいえないことから,被告エルグランが主張する販売個数を一応認めることができる。

もっとも,取引先の一つであるE社に対しては,平成24年8月17日に90個,同年10月3日に150個,同月9日に148個の合計388個が販売されたと認められるところ(乙33の1~3),被告エルグランは298個しか主張しておらず,これについては,平成24年8月17日付けの90個を計上していないものと認められる。

したがって,被告エルグランは,被告商品②を1092個(1002個+90個)販売したものと認めるのが相当である(なお,被告エルグランは,平成24年3月1日に,株式会社コーエイから被告商品②1100個の納品を受けており(乙23),当該納品数と近似することからも,上記販売個数は合理的であると認められる。)。

(ウ) なお,原告は,被告エルグランの開示する販売個数に関する資料(乙22~38)について信用できないと主張するが,その信用性を疑わせるに足りる具体的事情を主張しておらず,当該主張は採用できない。

ウ 小括

以上によれば,原告の損害額は,被告商品①の販売につき42万3308円(388円×1091個),被告商品②の販売につき44万3352円(406円×1092個)であり,合計86万6660円と認められる(なお,被告オークワの販売による損害とは,下記(2)の金額の範囲において重なり合う。)。

(2)  被告オークワの販売による損害について

ア 原告の利益

上記(1)アと同様である。

イ 被告オークワによる被告各商品の販売個数

被告オークワにおいて,被告各商品は,平成24年4月9日から同年5月23日までの間,各店舗に合計約251個が納品されたが(丙6,7),被告オークワは,同年7月12日に各店舗に被告各商品の撤去指示を行い,泉南店に集められた合計71個を被告エルグランに返品しており(丙5の1~4),平成24年4月9日から同年7月12日までの間に,被告各商品を合計180個販売したことが認められる。

原告は,平成24年4月13日以降に,被告オークワは,少なくとも被告商品①につき39個,被告商品②につき26個を販売したと主張するところ(なお,これらは,被告オークワが同月24日に被告エルグランに納品指示をした個数である。甲30,丙4),被告オークワの上記販売状況に照らすと,原告の主張どおり,被告オークワは,同月13日以降,少なくとも上記個数を販売したものと認めるのが相当である。

ウ 小括

以上によれば,原告の損害額は,被告商品①の販売につき1万5132円,被告商品②の販売につき1万0556円であり,合計2万5688円と認められる(なお,被告エルグランの販売による損害とは重なり合う。)。

(3)  弁護士費用・弁理士費用について

金員請求の認容額,差止請求についても認容すべきこと,本件訴訟提起に至る経緯を総合すると,被告エルグランの不正競争行為と因果関係のある弁護士費用・弁理士費用は15万円と認めるのが相当であり,被告オークワは,被告エルグランが販売した被告各商品のうち一部について小売販売したという関与の程度からすれば,上記のうち5万円の限度で,被告エルグランとの連帯支払を認めるのが相当である。

(4)  小括

以上のとおり,被告エルグランに対する認容額は101万6660円,被告オークワに対する認容額は7万5688円と認められる。なお,原告は,商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求するが,本件の不正競争による損害賠償請求権は,商行為によって生じた債権ではないから,商法514条の適用はなく,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の範囲で相当と認める。

7  被告各商品の廃棄請求及び回収請求について

原告は,被告らに対し,被告各商品の廃棄請求をしている。しかしながら,被告各商品について,被告エルグランは既に全品売り切っており(被告エルグランは,E社に対し,平成24年8月以降,被告各商品を通常よりも廉価で販売しており(乙33の1~3),これによって在庫を全て処分したものと認められる。),また,被告オークワも,平成24年8月12日に被告エルグランに返品しており(丙5),いずれの被告も,在庫を有しているとは認められない。したがって,被告各商品の廃棄請求については,これを棄却するのが相当である。

また,原告は,被告エルグランに対し,被告各商品の回収請求をしている。しかしながら,被告エルグランは,被告各商品を取引先に譲渡して代金を受け取っており,既に商品の所有権は取引先に移転していることからすれば,被告エルグランに回収を義務づけることはできないというべきである。したがって,被告各商品の回収請求についても,これを棄却するのが相当である。

第5結語

以上によれば,原告の請求については,被告らに対する主文記載の差止請求,損害賠償請求の限度で理由があるからこれを認容し,その余については棄却することとし,認容する請求については仮執行宣言を付することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷有恒 裁判官 松川充康 裁判官 網田圭亮)

file_2.jpg別紙1

file_3.jpg別紙2

file_4.jpg別紙3

file_5.jpg別紙4

file_6.jpg別紙5

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