大阪地方裁判所 平成25年(ワ)6414号 判決 2015年2月26日
原告
株式会社堀場製作所
同訴訟代理人弁護士
伊原友己
同
加古尊温
同訴訟代理人弁理士
西村竜平
同
角田敦志
被告
エイヴィエルジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士
小林幸夫
同
坂田洋一
同補佐人弁理士
篠原淳司
主文
1 被告は,原告に対し,金1908万4430円及びうち金477万9250円に対する平成24年6月1日から,うち金481万3900円に対する平成25年8月1日から,うち金451万0660円に対する平成26年2月1日から,うち金498万0620円に対する同年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,そのうち1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金5775万円及びうち金1750万円に対する平成24年6月1日から,うち金1680万円に対する平成25年8月1日から,うち金1280万円に対する平成26年2月1日から,うち金1065万円に対する同年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告が別紙物件目録記載の装置(以下「被告装置」という。)を販売等したことが,原告の保有する特許権の侵害にあたるとして,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案である(なお,原告は,特許法100条1項及び2項に基づき,被告装置の輸入,製造,販売等の差止め及び被告装置の廃棄も求めていたが,上記特許権の存続期間終了により取り下げた。)。
2 前提事実(争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,平成24年5月21日に設立された,測定機器,医療用機械器具及びこれらの応用装置,部品類の製造販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は,平成7年1月4日に設立された,測定機器,試験機器等の物品及びこれらの部品の輸出入,製造並びに販売等を業とする株式会社であり,オーストリア国(8020グラーツ,ハンス-リスト-プラッツ,1所在)に本社を有するAVL LIST GmbH(アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング)の日本で営業展開するための日本法人(株式会社)である。
(2) 原告の特許権
ア 原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書及び図面をあわせて「本件明細書」という。)に係る特許権(本件特許権)を有していたが,平成27年2月21日の経過により,その存続期間は終了した。
特許番号 第3201506号
出 願 日 平成7年2月21日
登 録 日 平成13年6月22日
発明の名称 「ガスサンプリング装置」
特許請求の範囲(請求項1)
「排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,この希釈されたガスを定容量採取装置によって吸引するとともに,定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置を介してサンプルバッグを設けたガスサンプリング装置において,前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに,前記サンプルバッグをも加熱するようにしたことを特徴とするガスサンプリング装置。」
イ 本件特許発明は,次のとおり構成要件に分説することができる。
A 排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,
B この希釈されたガスを定容量採取装置によって吸引するとともに,
C 定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置を介してサンプルバッグを設けたガスサンプリング装置において,
D 前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに,
E 前記サンプルバッグをも加熱するようにしたことを特徴とする
F ガスサンプリング装置
(3) 被告の行為
被告は,合計6台の被告装置について,別紙受注一覧の,受注欄記載の月に顧客より受注し,同じく納入欄,検収欄記載の月にこれを顧客に納入し,検収を受けた(一部の納入,検収は未了である。)。
3 争点
(1) 被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2) 本件特許に進歩性欠如の無効理由があるか(争点2)
(3) 原告の損害(争点3)
第3争点に対する当事者の主張
1 争点1(被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1) 被告装置の構成
ア 被告装置は,次の構成を有する。
a 排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,
b この希釈されたガスを定容量採取装置によって吸引するとともに,
c 定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置であるサンプルベンチュリを介してサンプルバッグを設けたガスサンプリング装置において,
d 前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度にヒーターで加熱するとともに,
e 前記サンプルバッグをもヒーターで加熱するようにしたことを特徴とする
f ガスサンプリング装置
イ 被告装置の構成aないしfは,これに対応する本件特許発明の構成要件AないしFをそれぞれ充足するから(構成要件C及びDについての被告の主張に対する反論は,下記(2) 及び(3) のとおり。),被告装置は,本件特許発明の技術的範囲に属する。
(2) 構成要件Cについて
被告は,被告装置において,定容量採取装置(Constant Volume Sumpler,以下「CVS」という。)システムごと加熱することによって,サンプルベンチュリの比例サンプリング機能(すなわち流量制御機能)が保たれるようにしている旨主張しており,被告装置のサンプルベンチュリは,加熱によっても「流量制御装置」としての機能が保たれるものにほかならず,構成要件Cを充足する。
(3) 構成要件Dについて
被告装置は,「流量制御装置」を含むCVSシステムの全体(ガスサンプリング流路)が「温調」すなわち,暖められた空気で全体が加熱されているものである。
そして,本件特許発明の「加熱」という状態を達成するための手段について,クレーム記載上,何らの限定文言もなく,実施例に記載された手段に限定することが正当化されるような事情もない。
よって,被告製品は構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
(1) 構成要件Cについて
被告装置の「サンプルベンチュリ」は,本件特許発明の「流量制御装置」には該当せず,被告装置は,構成要件Cを充足しない。
被告装置は,希釈ガスをCVSによって吸引しているが,その中でも,定流量ベンチュリ− 定容量サンプリングシステム(CFV-CVS)と呼ばれる装置を採用している。
本件特許発明における「流量制御装置」は加熱するものとされ(構成要件D,本件明細書【0011】),本件明細書には,流量制御装置として,加熱しても所定の値に流量を制御可能な「MFC10」(いわゆるマスフローコントローラー)が記載されており(【0013】),本件特許の明細書には,それ以外の流量制御装置の具体例の記載がないところ,被告装置が備える「サンプルベンチュリ」は,CFV-CVSシステムに固有のものである。また,CFV-CVSシステムで,サンプルプローブを加熱すると,サンプル量と希釈された全体量との比例関係が失われ,その結果,試験結果に誤差が生じるため,同システムを用いた場合において,分岐点に設けるサンプルプローブ(流量制御装置)を加熱してはならないことは技術常識である。本件特許の構成要件中の「流量制御装置」は,加熱によっても「流量制御装置」としての機能が保たれるものでなければならず,本件特許の明細書や図面に記載がある「MFC」(マスフローコントローラー)に限定されるものであり,CVF− CVSシステムにおける「サンプルベンチュリ」はこれに該当しないというべきである。
よって,被告装置は,「流量制御装置」の構成を備えず,構成要件Cを充足しない。
(2) 構成要件Dについて
前記(1)の技術常識にしたがって,被告装置において,サンプルベンチュリは加熱されていない。
よって,被告装置は,「ガスサンプリング流路全体を・・・加熱する」とはいえず,構成要件Dを充足しない。
2 争点2(本件特許に進歩性欠如の無効理由があるか)について
【被告の主張】
(1) 無効理由1
ア 本件特許発明は,1994年(平成6年)に米国のSAE Interna-tional が刊行した技術論文(乙1,以下「乙1文献」という。)に記載された技術(以下「乙1発明」という。)を主引例として,米国特許第3793887号公報(1974年(昭和49年)2月26日公開,乙2,以下「乙2文献」という。)及び公開特許公報(特開平5-21562,乙4)に記載された発明(以下それぞれ「乙2発明」,「乙4発明」という。),又は,周知技術(乙第5号証参照)を組み合わせることで,当業者であれば,容易に想到可能であり,本件特許には進歩性欠如の無効理由があるから,本件特許権に基づく権利行使は許されない(特許法104条の3)。
イ 乙1文献の記載内容
(ア) 技術分野
乙1文献に記載された技術分野は,「自動車排ガスの成分測定」に関連するものであり,とりわけ,一定体積試料採取(CVS)システムにおける水分凝縮を避け,正確・高精度な排出測定を行うことを目的とした技術である。
(イ) 技術分野の課題及び課題の解決手段
新型自動車においては,測定対象となる物質の排ガス中における含有量が低下し,また,燃料処方の変化により有機排ガスのより大きな割合が水溶性となるにつれ,水溶性排ガスが凝縮した水分に溶解して測定精度が下がるのを避けるため,水分凝縮を起こりにくくするようCVS流量(及び関連する排ガス希釈率)を高くして湿度を下げる必要性が生じた。他方で,あまりに空気で希釈して排ガス成分の濃度が低下しすぎると,測定の正確性・制度が低下してしまうという問題が生じることから,この相矛盾する二つの要請を同時に克服するというのが乙1発明の課題である。
(ウ) 乙1発明の内容
乙1発明は,排ガスを希釈して湿度を下げて希釈された排ガスの露点を下げる方法に併せ,CVSシステムを流れる希釈された排ガス自体を加熱して水分の凝縮を防止する(希釈が不十分で露点が高い場合でも排ガスの温度を露点より上げれば,水分は凝縮しない)という手法を開示している。
乙1発明は,以下のとおりである。
a 排ガス源である自動車エンジンから排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,
b この希釈されたガスをCVSによって吸引するとともに,
c CVSからプローブを経て分岐した試料ラインに試料バッグを設けたCVSシステムにおいて,
d 試料バッグに至るまでの試料ラインを加熱する
f CVSシステム。
ウ 乙1発明と本件特許発明の一致点
乙1発明と本件特許発明とは,排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈する装置であること,希釈されたガスをCVSによって吸引すること,CVSから分岐したガスサンプリング流路にサンプルバッグを設けること(乙1文献の「試料ライン」は,本件特許発明の「ガスサンプリング流路」に相当し,乙1文献の「試料バッグ」は,本件特許発明の「サンプルバッグ」に相当する。),及びサンプルバッグに至るまでのサンプリング流路全体を加熱することにおいて一致する。
サンプルバッグ内の水分凝縮を防ぐためには,システムの設定温度をその露点よりわずかでも大きくすれば良いが,排ガス流量の最も多い時刻における最高排ガス濃度は,混合ガスが次々蓄積され希釈率が平均化されるサンプルバッグ内の排ガス濃度より高いため,混合ガスの露点が当該システムの設定温度を上回り,サンプルライン全体において水分凝縮が生じてしまうことになる。したがって,理論的には,水分凝縮を防ぐためには,結局,サンプルバッグを除くサンプルライン全体を加熱しなければならないこととなるものである。
エ 乙1発明と本件特許発明の相違点
(ア) 相違点1
本件特許発明においては,「定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置を介してサンプルバッグを設けた」構成となっているが,乙1発明においては,CVSによって希釈された排ガスを試料プローブにより採取し,採取された試料が試料ラインを通じて試料バッグに収集される構成となっている点が相違する。
(イ) 相違点2
本件特許発明においては,「前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱する」構成となっているが,乙1発明においては,流路に吸引ポンプ・流量制御装置が設けられておらず,よってこれらを有する流路全体が加熱されるものとはいえない点が相違する。
(ウ) 相違点3
本件特許発明においては「サンプルバッグをも加熱するようにした」構成となっているのに対し,乙1発明ではサンプルバッグの加熱については明確には記載がない点が相違する。
オ 容易想到性
乙1文献の記載事項と本件特許発明との相違点については,他の文献において記載があり,かつ当該文献を乙1発明に組み合わせることは,当業者であれば容易である。
(ア) 相違点1について
本件特許の出願当時においてCVSシステムを用いたガスサンプリング装置は周知のものであり,CVSからサンプリング流路に分岐する際,何らかの「流量制御装置」と「吸引ポンプ」を設けることは,当業者にとって周知の構成である。乙4発明の明細書(以下「乙4明細書」という。)には,CVS(定容量採取装置)のサンプリング領域31から分岐したサンプルライン33に「ポンプ34」及び「流量制御バルブ35」を設ける構成について記載されている。
また,本件特許発明は,「吸引ポンプ」及び「流量制御装置」に該当する構成を開示した2種類の引例(実開昭57-105947号,実開平6-7047)を理由として拒絶理由通知がされていることから,当該構成が周知なものであったことがわかる。
乙1発明及び乙4発明及び本件特許発明は,いずれもCVSから分岐したガスサンプリング装置に関する発明であるから,乙1発明に乙4発明,あるいは周知技術を組み合わせることの動機付けは十分にある。
(イ) 相違点2について
乙1発明の構成に乙4明細書に記載のある周知の「吸引ポンプ」を適用して,当該「吸引ポンプ」を含む「試料ライン全体」を加熱する動機付けは十分にある。
また,乙1発明には,試料プローブたる「臨界流量ベンチュリ」をそのまま加熱してはならないこと,一方で,「流量制限装置」として「能動マスフロー制御装置」を採用すれば,そのような制約はないことが記載されており,当業者であれば,このような問題点を有さない乙4明細書に開示のある「流量制御装置」を適用して,このような「流量制御装置」を含む「試料ライン」ないし「サンプリング流路」全体を加熱する動機付けは十分にある。
(ウ) 相違点3について
乙2文献には,排ガスの成分の凝縮を防ぐために,プローブ(等速吸引サンプリングプローブ13)及び筐体24を加熱する構成が開示され,更に当該筐体24が凝縮の防止を支援するために捕集袋16及び変速ポンプ17の周りまで拡張されることが示唆されている。当該構成は,サンプルバッグをも加熱する構成にほかならず,また,サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱する構成も開示している。
そして,乙2発明と,乙1発明とは,自動車の排ガスの成分測定という同一技術分野に属し,水分の凝縮を回避し,正確な測定を行うという課題も共通する。したがって,乙1発明に乙2発明に開示された「サンプルバッグを加熱」する構成を組み合わせる動機付けは十分にあり,また,そのことにより得られる効果も,「加熱による凝縮の回避を行い,過希釈を避け,その結果,低濃度成分を精度よく分析できる」というもので,当業者の予測を超えるようなものではない。
試料バッグをも加熱することは,当業者が日常的に行う工夫の域を出ない(技術常識)。水分を含む気体中の水分凝縮を防ぐには,気体を希釈して湿度を下げ,露点を下げるか,当該気体自体の温度を上げ,露点以上の温度にするかの何れかの手段により実現できることは,本件特許発明に対する当業者ばかりでなく,一般的にも知られた常識といえ,乙1文献にもその旨の記載がある。乙1文献において,「バッグ」内の水分の凝縮を防ぐためにCVS流量を調整することは単に「推奨」されているに過ぎず,この部分をも他の試料採取システムの領域と同様加熱することによって,水分の凝縮を防止してはならないとの記載はなく,これを阻害するような技術常識も一切存在しない。
したがって,乙1文献に記載された試料採取システムにおいて,「試験段階バッグ」(試料バッグ)をも「CVS流量」の調整に代えて,他の領域と同様に,常套手段である加熱の方法を用いて水分の凝縮を防ぐようにすることは,当業者にとっては日常的に行う工夫の域を出るものではなく,容易である。
(2) 無効理由2
ア 本件特許発明は,乙3号証(以下「乙3文献」という。)に記載された技術(以下「乙3技術」という。)に乙4発明又は周知技術を組み合わせることで,当業者であれば容易に想到可能であり,前記(1)ア同様本件特許権に基づく権利行使は許されない。
乙3文献は,米国環境保護庁という米国の公務所が,その職務上の目的から作成した文書であり,かつそのタイトルからしても内部文書ではなく,文書自体に内部性や秘匿性を窺わせるような記載もないもので,公知性ある文書であることは明らかである。乙3文献は1989年2月4日にはデータベースに格納され,同年4月11日当時閲覧・公開に供されていたことが明らかである。
イ 乙3文献の記載内容
(ア) メタノール燃料車の,CVSシステムによるガスサンプリング装置を用いた排ガス(有機物,HC及びメタノール)の成分測定において,非加熱サンプルラインの凝縮や,非加熱サンプルバッグ内(サンプルバッグの壁)での凝縮が,正確な成分測定の妨げとなるという課題が記載されている。
また,これらの凝縮を防ぐため,サンプルバッグの加熱及びCFV-CVSシステムにおけるサンプルプローブ部分を除く,サンプルライン全体の加熱について記載されている。
(イ) 以上から,乙3技術として次のものが記載されているといえる。
a 排ガス源である自動車から排出される排ガスを希釈し,
b この希釈されたガスをCVSによって吸引するとともに,
c CVSから分岐したサンプル収集ラインにサンプルバッグを設けたサンプリングシステムにおいて,
d 前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに,
e 前記サンプルバッグをも加熱するようにした
f ことを特徴とするサンプリングシステム。
ウ 乙3技術と本件特許発明との一致点
乙3技術と本件特許発明とは,排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈する装置であること,希釈されたガスをCVSによって吸引すること,CVSから分岐したガスサンプリング流路にサンプルバッグを設けること(乙3文献の「サンプルライン」は,本件特許発明の「ガスサンプリング流路」に相当する。),サンプルバッグに至るまでのサンプリング流路全体(ただしサンプルプローブを除く)を加熱すること,更にサンプルバッグをも加熱するようにしたことにおいて一致する。
エ 乙3技術と本件特許発明との相違点
(ア) 本件特許発明では,「定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプ及び流量制御装置を介してサンプルバッグを設けた」構成であるのに対し,乙3技術は,CVSから分岐してサンプルバッグまでに至るサンプルラインの具体的開示がない点が相違する。
(イ) また,乙3文献においては,低流量ベンチュリから定容量サンプリングシステム(CFV-CVS)でサンプルプローブを加熱すると,サンプルの量と希釈された全体量との比例関係が失われ,その結果,試験結果に誤差が生じることを理由に,CVSからの分岐点に設けるサンプルプローブを加熱してはならないことを明記しているのに対し,本件特許発明においては,そのような限定はなく,サンプルプローブを含めたサンプリング流路全体を加熱するとしている点が相違する。
オ 容易想到性
(ア) 前記エ(ア)については,本件特許の出願当時において,CVSシステムを用いたガスサンプリング装置は周知のもので,CVSからサンプリング流路に分岐する際,何らかの「流量制御装置」と「吸引ポンプ」を設けることは,当業者にとって周知の構成である。
乙4発明にも,CVSのサンプリング領域31から分岐したサンプルライン33に「ポンプ34」(「吸引ポンプ」に該当する。)及び「流量制御バルブ35」(「流量制御装置」に該当する。)を設ける構成について記載されている。
(イ) 乙3技術,乙4発明及び本件特許発明は,いずれもCVSから分岐したガスサンプリング装置に関する技術ないし発明であるから,乙3技術に乙4発明(あるいは周知技術)を組み合わせることの動機付けは十分にある。
【原告の主張】
(1) 無効理由1について
ア 乙1文献の記載内容
乙1発明は,CVS試料採取システムにおいて,試料バッグが常識的に実験室温度及び圧力という自然状態で貯蔵されるという認識から,その条件を前提としたものである。そして,運転試験中の1秒ごとの排ガスデータを取得して生成したスプレッドシートに基づいて,自然状態にある試料バッグにおいて各時点での水分凝縮を回避するために必要な最低限のCVS流量を算出し,そのうちの最大流量をもって当該運転試験でのCVS流量とするという決定方法を示すと共に,このようにして決定されたCVS流量を基準として,システムバッグを除くシステム領域(試料ライン)の所要領域(全てではなく,例えば,自動車排気管と希釈トンネルとの間の移送管,試料プローブ,希釈トンネル等の所要箇所であり,希釈トンネルは加熱不要な場合もあることが示唆されている。)を,最高試験段階露点を超える温度に加熱することで対処することを推奨している。
イ 乙1発明の認定の誤り
試料バッグは,加熱することなく自然に室温下に置いてある旨が記載されており,バッグを自然な状態に置くことは当時の技術常識である旨も記載されているから,バッグを加熱することが当業者の日常の工夫の域を出ないものということはない。
乙1発明は,あくまで希釈のみによってバッグでの水分凝縮を防止しているのであって,加熱は全く発想にない。乙1発明の記載は,試料ラインの必要箇所さえ加熱すれば良いことが記載されており,試料ライン全体を加熱する記載は一切無い。
また,「試料ライン」は,乙1文献の全体の記載からすれば,バッグ以外の試料が流れている全ての領域のことを指していることは明らかであり,それには,ガスサンプリング流路の分岐元である希釈トンネルも含まれているから,「試料ライン」が本件特許発明のガスサンプリング流路に相当するとはいえない。
ウ 乙1発明と本件特許発明との一致点及び相違点
(ア) 一致点
a 排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,
b この希釈されたガスを定容量採取装置によって吸引するとともに,
c 定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路にサンプルバッグを設けた
d ガスサンプリング装置である点
(イ) 相違点
e 本件発明では,ガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置を介してサンプルバッグを設けてあるのに対し,乙1発明では吸引ポンプおよび流量制御装置が存在しない点
f 本件発明では,前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するのに対し,乙1発明では,試料ラインの所要箇所を加熱する点
g 本件発明では,ガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに,前記サンプルバッグをも加熱するのに対し,乙1発明では,サンプルバッグは加熱しない点
(ウ) このように,被告は主引例たる乙1発明の要旨を誤っており,その誤った認定に基づき組み立てられた無効理由1は既に失当というべきである。
エ 乙2発明の内容
乙2発明は,希釈されていない生の排ガスをバッグ(捕集袋16)に取り入れるものであるが,ガス成分の凝縮を防ぐために,プローブ(等速吸引サンプリングプローブ13)及び筐体24を加熱する加熱装置25を有している。そして,加熱される筐体24が凝縮の防止を支援するため,捕集袋16及び変速ポンプ17の周りまで拡張される構成が示唆されている。
オ 乙1発明と乙2発明との組み合わせ困難性
(ア) 動機付けの不存在
乙1発明は,加熱することなく希釈によってのみ水分凝縮を防ぐため,最低限のCVS流量を求めようとするものであるのに対し,乙2発明の課題は,加熱のみによってバッグの水分凝縮を防ごうとするもので,両者の課題は全く異なり共通性がない。
また,技術分野についても,乙1発明は,CVSを用いた希釈による排ガスの試料採取システムに関する分野のもので,乙2発明は,排ガスを希釈することなく直接バッグに取り入れ排ガスの総排出物量を判定する装置及び方法に関する分野のものであるから,全く相違する。
さらに,機能や作用についても,乙1発明が,バッグでの水分凝縮を希釈によって防ぐのに対し,乙2発明は,希釈せず加熱によって水分凝縮を防ぐのであるからその間に何ら共通性はない。
乙1文献の記載には,乙2発明を組み合わせる示唆は全くない。むしろ,乙1文献には,サンプルバッグを室温かつ大気圧に置いておくことが常識とされており,これを打ち破り,異なる技術分野の乙2発明を乙1発明に容易に組み合わせることができるとは到底考えられない。
技術分野の共通性,課題の共通性,及び作用・機能の共通性が全く見られず,かつ,それぞれの内容中に各技術の組み合わせを示唆等する記載もみあたらないため,乙1発明に乙2発明を組み合わせる動機付けは全くないというべきである。
(イ) 阻害要因1
仮に乙1発明に乙2発明を適用したとすれば,バッグ加熱温度は乙2発明に従い,希釈せずとも水分凝縮が生じない温度に設定されることになり,希釈不要となり,乙1発明の意味はなくなる。
(ウ) 阻害要因2
乙2発明のように,生の排ガスをバッグに捕集すると,水分濃度が極めて高く,排ガスの露点は非常に高いため,水分凝縮を防止するためには,バッグを約55℃以上にまで加熱する必要が生じる。そうすると,現在の通常のバッグでは,バッグから不純物が揮発して排ガスの成分測定に悪影響を与える可能性が高い。
カ 本件特許発明と,乙1発明及び乙2発明との比較
仮に乙1発明に乙2発明を適用した場合においても,本件特許発明には,全く異なる発想がある。
本件特許発明におけるサンプルバッグの加熱は,バッグでの水分凝縮防止のためではなく,理論的なCVS流量を低減させるためのものである。したがって,バッグ内の水分凝縮防止の場合は,バッグ内部の露点で加熱温度が一時的に定まってしまうが,本件特許発明においては,加熱温度はCVS流量を低減させる度合いに応じて適宜設定すればよく,バッグに負担のかからない無理のない温度設定ができるという効果も奏しうる。
先述のとおり,乙2発明を適用すると,希釈空気が不要となり,CVSが不要となり,本件特許発明と同様の構成にそもそも至らないが,本件特許発明は,理論的なCVS流量(希釈率)を加熱によって代えるためのものであるからこそ,バッグ加熱とCVS試料採取システムとの両立が可能となったものであり,サンプルバッグを室温かつ大気圧に置くという常識を打ち破ったもので,極めて飛躍的なものである。
被告の主張する乙1発明に乙2発明,及び乙4又は周知技術を組み合わせたところで,本件特許発明に至ることは不可能である。
(2) 乙2発明以外の技術常識の適用について
乙2発明に代えて技術常識を適用することで容易想到とする被告の主張は失当である。
前記のとおり,試料バッグは,乙1文献に記載のとおり,自然状態に置いておくことが当時の常識であって,バッグを加熱することが技術常識であるとする根拠はない。また,前記のとおり「推奨」の意味を完全に誤認しているうえ,加熱によって「気体自体の温度を上げ露点以上の温度にする」手段を乙1発明に適用したとすると,乙2発明同様,そもそもCVSは不要となる以上,本件特許発明の構成には至らない。
(3) 無効理由2について
ア 乙3文献の公知性
乙3文献は,1989年に刊行物として発行されたかどうか不明で,内部レポートであることも十分考えられるものであり,その公知日が確定できないため先行引用例としての地位はなく,無効理由2は成り立たない。
仮に,乙3文献が本件特許出願日以前に公知であったと仮定した場合,以下イないしカのとおり認否反論する。
イ 発明適格性
発明は,技術的思想でなければならず,技術とは一定の目的を達成するための手段であるから発明として成立するためには,一定の構成及びそれから得られる効果を有する一つのまとまりある技術的思想でなければならないところ,乙3文献に記載された事項には,効果が認められず,発明として成立し得ないものである。すなわち,乙3文献には,サンプルバッグを暖めると確かにメタノールの測定値が上昇するものの,その上昇はサンプルバッグが空のときにも見られ,結局サンプルバッグの加熱によっては何ら効果を確認できなかったことが記載されている。
ウ 乙3技術の内容
乙3技術は,CVSシステムを用いて希釈した自動車排ガスを測定する排ガス測定分野に関するものである。
乙3技術の課題は,排ガスに含まれるメタノールの測定にあたって,該メタノールがサンプルバッグ内で凝縮することにより損なわれ,測定誤差が生じることであるが,その解決手段として,サンプルバッグの加熱が記載されているものの,サンプルバッグに至るまでのラインは,サンプルバッグとともには加熱されない。
エ 乙3技術の被告の要旨認定の誤り
乙3文献では,サンプルラインを加熱した構成と,サンプルバッグを加熱した構成は,別々の実験結果として報告されており,これらを同時に実施した記載はない。したがって,乙3技術においてサンプルバッグと共にガスサンプリング流路が加熱されていると認定していることは明らかな誤りである。
そのような誤認に基づく一致点・相違点の認定も誤りであり,その誤認に基づく無効理由2は,この点でも失当である。
オ 本件特許発明と乙3技術との一致点・相違点
(ア) 一致点
a 排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,
b この希釈されたガスを定容量採取装置によって吸引するとともに,
c 定容量採取装置から分岐したガスサンプリング流路にサンプルバッグを設けた
d ガスサンプリング装置である点
(イ) 相違点
e 本件発明では,ガスサンプリング流路に吸引ポンプおよび流量制御装置を介してサンプルバッグを設けてあるのに対し,乙3発明では吸引ポンプおよび流量制御装置が存在しない点
f 本件発明では,本件発明では,ガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに,前記サンプルバッグをも加熱するのに対し,乙3発明では,サンプルバッグは加熱しない点
カ 本件特許発明と乙3技術及び乙4発明(又は周知技術)との比較
(ア) 構成の比較
本件特許発明は,CVSシステムを用いたガスサンプリング装置という点で,乙3技術及び乙4発明と共通する。
しかし,本件特許発明と,乙3技術及び乙4発明(又は周知技術)の構成上の決定的な違いの1つは,本件特許発明の請求項1に記載されている「前記サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するとともに」,「前記サンプルバッグをも加熱するようにした」点である。
乙3技術では,サンプルバッグに至るラインは,サンプルバッグとともに加熱されない。乙4発明(又は周知技術)においても,ガスサンプリング流路全体を加熱するとともに,前記サンプルバッグをも加熱する構成は開示されていない。
(イ) 効果の比較
本件特許発明は,前記のとおり,CVS流量を低減させることができ,かつそのことによるガスサンプリング流路での水分凝縮も回避できるという効果を得られる。この効果は,乙3技術及び乙4発明(又は周知技術)によっては得られない格別のものである。
したがって,かかる構成の相違及びそれから得られる格別の効果に鑑みれば,本件特許発明は,十分な進歩性を有する。
(ウ) 阻害要因
乙3文献には,結局,サンプルバッグの加熱によっては,何ら効果を確認できなかった旨の記載があり,効果のない構成を当業者が採用するとは到底考えられず,甲3技術に乙4発明や他の周知技術を組み合わせるための大きな阻害要因となることは明らかである。
3 争点3(原告の損害)について
【原告の主張 】
(1) 主位的請求(102条3項)
ア 受注額
被告は,平成24年から平成26年まで,別紙受注一覧のとおり,被告装置を6回にわたり販売した。販売対象ごとの受注額は,下記表のとおりである。
被告が乙14の2「排気分析計のみ受注総額」欄で開示した金額は,被告装置(CVSi60)を含まない排気分析計(AMA)のみの価格と解され,第3取引以降の排気分析計の受注額は,プロジェクト込みのため,乙14の2では開示されていないが,被告は,排気分析計(AMA)を,少なくとも第1及び第2取引の平均値である4989万5000円で受注しているものと推定されるから,被告装置及びこれと組み合わせて使う排気分析計の合計受注額は,下記「CVS+AMA」欄記載の額(CVSi60の受注額に4989万5000円を加算)となる。
なお,被告は,乙14の2に「排気分析計のみ受注総額」と記載しながら,これが被告装置(CVSi60)及び排気分析計(AMA)の合計受注額である旨主張するため,被告の主張を前提に,第3ないし第6取引の被告装置及び排気分析計の合計受注額を推定すると,第1及び第2取引の平均として,CVSi60の受注額が「排気分析計のみ受注総額」の7割弱を占めることから,下記「被告主張の排気分析計のみ」欄記載の額(CVSi60の受注額÷0.696897)となる。
file_2.jpgS28 wees OMRE RETRO CVS+AMA cvs i60 abee Kaos 1 ¥352,500,000] 100,235,000] —¥59,500,000] 40,735,000 2 ¥537,470,.000| 66,010,000] ¥38,470,000] 27,540,000 3 ¥545,000,000] 82,874,000] 48,628,000] —_¥33.889,000 4 ¥310,260,000| 83,866,000] —¥50,051,000] 34,881,000file_3.jpg¥649,000,000] 113,423,000] ¥92,464000] 84,438,000 ¥349,145,000 |. ¥95,851,000] ¥67,249,000] 46,866,000 ¥2,143:375,000| _¥542,259.000| 356,362,000] ¥248,349,000イ 被告におけるプロジェクトは,被告装置と排ガス測定装置(排気分析計)が枢要部であるから,この部分の性能が顧客の要求仕様を満たすものでなければ,プロジェクトの受注ができないものといえ,プロジェクト分を含む総額は,本件侵害行為に直接起因する販売額ということができる。当該プロジェクト分を含む総額に対する本件特許の寄与率は2%が相当な実施料率というべきであり,合計5486万7500円となる。
また,被告装置が顧客の分析精度に関する要求仕様を満たすから排ガス測定装置(排気分析計)も同時に販売できたという直接的な牽連関係がある。排気分析計受注額に被告装置受注額を加算した合計額がより焦点を絞った評価の対象となる。この場合,同金額の5%が適正な実施料率であり,下記のとおり,合計2711万2950円となる。この点,被告が主張する被告装置及び排気分析計の合計額である「排気分析計のみ」の受注額を前提としても,合計1781万8100円となる。
さらに,被告装置のみの売上合計額は,侵害行為によるものであるから,この実施料率としては7%が相当であり,実施料相当額は,下記のとおり,少なくとも1738万4430円となる。
file_4.jpgwal | Pole ohHESs | RAEROCVS+ | RATROMMAHE | CVSIGCOR #8 | DRREMO2% | AMAREHOS% | DAORTBOS% | THO7% 1 ¥7,050,000 ¥5011,750 ¥2,975000) ¥2,851,450 2 ¥10,749,400 ¥3,300,500 ¥1,923:500] ¥1,927,800 3 ¥10,900,000 4,143,700 ¥2.431.400) ¥2,372230 4 ¥6,205,200 ¥4,193;300 ¥2,502,550) ¥2,441,670file_5.jpg5 ¥12,980,000 ¥5,671,150 ¥4,623,200| ¥4,510,660 6 ¥6,982,900 4,792,550 ¥3,362.450) ¥3,280,620 ait ¥54,867,500 ¥27,112.950 ¥17.818,100 | ¥17,384,490ウ よって,前記イの実施料額のうち5400万円に,本訴のために余儀なくされた弁護士及び弁理士費用相当額は375万円を下回るものではないから,これを加算した合計5775万円,並びにこれに対する各不法行為の成立日である受注日後の適宜の日からの遅延損害金として,第1及び第2取引にかかる合計額1750万円については平成24年6月1日から,第3及び第4取引にかかる合計額1680万円については平成25年8月1日から,第5取引にかかる受注額1280万円については平成26年2月1日から,第6取引にかかる受注額690万円及び弁護士等費用相当損害金375万円については同年9月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める。
(2) 予備的請求(102条2項)
ア 原告は,本件特許発明の実施装置を,遅くとも平成24年1月1日以降,日本において製造販売しており,被告は,前記のとおり,被告装置を販売した。
イ 被告装置の受注額から控除すべき被告として明らかなのは,海外仕入値と運送費程度であり,各取引における費用は,下記のとおりであり,その合計額は,2億1598万2000円である。
file_6.jpgWEISS | cvsico OMtLAI | CVSico DBA RES 1 1¥36,835,000 ¥231,000 ¥37,066,000 2 ¥25,121,000 417,000 ¥25,538,000 3 ¥28,836,000 1,739,000 ¥30,575,000 4 ¥28,816,000 ¥o ¥28,816,000file_7.jpgfl «5° 4,629,000 i ¥54,629,001 ¥o ¥38,742,000 ¥616,000 ¥39,358,001 ¥212,979,000 +¥3,003,000 ¥215,982.001ウ 被告装置が顧客の分析精度に関する要求仕様を満たすものであったことから,分析計等を含むプロジェクトを受注できたもので,受注総額が被告の得た利益の前提となるべきであるが,各取引対象受注額から上記控除額を除いた金額は,下記のとおりとなり,被告の得た利益の額は5250万円を下回ることはなく,特許法102条2項による損害額は5250万円を下回ることはない(なお,被告装置のみに着目しても,3236万7000円の利益を得ており,かかる金額は賠償されてしかるべきである。)。
よって,原告は,被告に対し,前記(1)ウ同様の金員の支払を求める。
file_8.jpgBel ARG (RTE-MRARAN) Fave HES REERORRD a8 CVS+AMA CVS 160 cee HOH 1 ¥315.434000] —¥26,103.000 1¥22,434000| ¥3.669000 2 wsiisa20@li® 2%, 000 12.9320] ¥21 102,000 3 oi4az5000] ¥21,724000 18053000] ¥8, 14,000 4 vwzeiaeao00] —¥26.234.000 ¥21.235000] —¥6, 85,000 5 ¥¥594,371,000 4,165,000 3735000] ¥9) 09,000 6 209,787,000] ¥17,136.000 ¥27891.000] —¥7 508,000 at ¥2,527,393,000 110,295,000 ¥140,380,000 ¥32,エ 被告の主張する「譲渡」の意義については争う。特許法2条3項所定の「譲渡」は,特許発明の実施品の所有権移転を企図する法律行為であるといえ,所有権という物件の変動が完全かつ終局的に完了しない間は譲渡でないとはいえない。
【被告の主張】
(1) 主位的請求について
被告における総受注額を前提とする理論的根拠は全くない。
被告装置受注額が総受注額に占める割合は約9パーセントにすぎないところ,原告の主張する被告装置受注額の実施料7パーセントを基準にすると,総受注額に対する実施料率は7%×9%=0.63%程度を超えるものではない。
システム全体は極めて多数の機材やソフトウェアなどの構成要素から構成され,各構成要素は独立し,かつ互換性もあり,顧客は各構成要素を自身が準備するものと購入するものと自由に組み合わせており,原告の装置を組み合わせる場合もある。被告装置を含むシステムの取引と同時期に制約した同様のシステムで,CVS(本体及びバックキャビネットを温調する機能を有しないものと解される。)を登載するものは,全体の1割にも満たないものであり,被告装置がシステム全体の購入の誘因になっているとか,ましてシステム全体の購入の大きな動機になっているということはありえない。
本件特許は,流路全体に加えて,バッグをも加熱するに過ぎない技術であり,CVSシステム自体は出願前より公知であるほか,流路全体を加熱することについても乙1文献の記載により出願前から公知であったことは明らかである。上記のとおり,取引全体の中で,被告装置も併せて購入された件数は少なく,顧客に対してさほど魅力のない装置であることは明らかである。以上の事情を勘案すれば,本件特許の実施料率は0.1%を超えるものでないことは明らかである。
(2) 予備的請求について
ア 本件特許の存続期間は平成27年2月21日までであるから,同日以後の譲渡行為(所有権移転行為)は,特許権侵害とならない。
したがって,平成27年3月の検収・引渡し(所有権移転)を予定している注文については,「譲渡」による特許権侵害の対象とはならない。これらの注文については,「生産」すなわち製造行為のみが損害賠償請求の対象となるところ,直接利益が生み出されるわけではないから,102条2項の適用の対象とはならない(同様に同条1項の適用の対象ともならない。)。
また,本件特許請求の範囲に属するのは,CVSi60のみであるから,排ガス測定装置AMAi60を含めて102条2項の利益額を算定する原告の主張には理由がない。
イ 特許法102条2項における「侵害の行為」とは,被告装置の販売行為であり,被告装置の利益額(限界利益額)が基準となるのであって,システム全体の利益ではない。
そして,被告装置は設置工事をもってはじめて使用できるようになるものであるから,変動経費として「国内工事費」も控除すべきである。被告がCVSi60の単体ないしはAMAi60のセット販売により生み出される限界利益はマイナスであり,利益は全く出ていない。
さらに,CVSシステム自体は出願前から公知であるほか,流路全体を加熱することについても,本件特許の出願前に頒布されていた乙1文献の記載事項により出願前から公知のものであったことなどから,その寄与率は極めて小さいものであるから,結局,特許法102条2項に基づいて算定される金額は,同条3項に基づいて算定される金額を超えるものではない。
第4当裁判所の判断
1 争点1(被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 証拠(甲3,乙6の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,被告装置は,希釈空気混合部,ブロワー,サンプルバッグを収納するバッグキャビネットと一体となって,排気ガス希釈システムを構成するCVS(定容量採取装置)本体であること,希釈空気混合部は,自動車エンジン等の排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈すること,ブロワーが,この希釈されたガスをCVS本体に一定量吸引すること,CVS本体内で,メイン流路を流れるガスの一部が,サンプルベンチュリの一種であるCFV− CVS(定流量ベンチュリ− 定容量サンプリングシステム)によって分岐され,ガスサンプリング流路を経てサンプルバッグに採取されること,排気ガス希釈システムのうち,CVS本体を収納する被告装置のキャビネット及びサンプルバッグを収納するバッグキャビネットの範囲が,ヒーターにより摂氏35度に温調されていること,以上の事実が認められる。
(2) 上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被告装置は,本件特許発明の構成要件A,B,E及びFを充足すると認められる。
(3) 構成要件Cについて
被告は,本件特許発明では,サンプルバッグに至るサンプリング流路のみを加熱し,メイン流路を加熱することは予定されていないから,流路の分岐にサンプルベンチュリを使用した場合,メイン流路を流れる希釈ガスの温度とサンプルベンチュリに取り込まれる希釈ガスの温度とが異なることになり,両者の比例関係が保たれなくなることで取り込んだ希釈ガスの流量が不明となるから,構成要件Cの流量制御装置は,本件明細書の実施例に記載されている,能動的に流量制御が可能なマスフローコントローラーである必要があり,サンプルベンチュリはこれにあたらない旨主張する。
しかしながら,上記(1)で認定したところによれば,被告の排気ガス希釈システムでは,被告装置本体のキャビネット及びサンプルバッグを収納するバッグキャビネットは摂氏35度に温調されており,メイン流路を流れる希釈ガスとCFV− CVSに取り込まれる希釈ガスの温度差の問題は存在せず,定流量ベンチュリ− 定容量サンプリングシステムであるCFV− CVSが,サンプリング流路に流れ込む希釈ガスの量を制御する流量制御装置として機能していることは明らかである。
したがって,被告装置で使用されている,サンプルベンチュリの一種であるCFV− CVSは,流量制御装置に該当し,被告装置は構成要件Cを充足する。
(4) 構成要件Dについて
上記(1)で認定したところによれば,CFV− CVSから分岐し,サンプルバッグに至るサンプリング流路全体が,ヒーターで温調される範囲に入るのであるから,被告装置が構成要件Dを充足することは明らかである。
被告は,温度差によって比例関係が損なわれることのないよう,サンプルベンチュリのみの加熱は行っていない旨を主張する。確かに,被告装置において,サンプルベンチュリにのみヒーターを巻き付けて加熱するといった構成は採用されていないが,構成要件Dに加熱方法についての限定はなく,被告装置及びバッグキャビネットの全体を温調する方法でも,ガスサンプリング流路全体の加熱にあたるというべきである。
(5) まとめ
以上によれば,被告装置は,本件特許発明の構成要件をすべて充足する。
2 争点2(本件特許発明の進歩性欠如)について
(1) 無効理由1について
被告は,乙1発明を主引例として,乙2発明及び乙4発明又は周知技術を組み合わせることにより,本件特許発明を容易に想到可能であるとして,本件特許発明の無効を主張するが,以下に検討するとおり理由がない。
ア 乙1発明と本件特許発明との一致点
本件特許出願前に作成された乙1文献に開示された乙1発明は,排ガス源から排出される排ガスを希釈用空気によって希釈し,この希釈されたガスをCVSによって吸引するとともに,CVSからプローブを経て分岐したガスサンプリング流路にサンプルバッグ(試料バッグ)を設けたガスサンプリング装置であり,乙1発明と本件特許発明とを対比すると,乙1発明は,本件特許発明の構成要件A,B及びFに相当する構成を備えている点で一致する(争いがない)。
イ 本件特許発明と乙1発明との相違点
(ア) 次の3点の相違点があることについては,相違点2の一部内容を除き,当事者間に争いがない。
相違点1 本件特許発明は,構成要件Cとして,CVSから分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプ及び流量制御装置を介しているのに対し,乙1発明は,吸引ポンプ及び流量制御装置を設けていない。
相違点2 本件特許発明は,構成要件Dとして,CVSから分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプ及び流量制御装置を介してサンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を,それを通過するガスが凝縮しない程度に加熱するのに対し,乙1発明がガスサンプリング流路全体を加熱する構成を取っていない(ただし,乙1発明が加熱に関しどのような構成を取っているかについては後記(イ)のとおり争いがある。)
相違点3 本件特許発明は,構成要件Eとして,サンプルバッグをも加熱するのに対し,乙1発明はサンプルバッグの加熱をしていない。
(イ) 乙1発明の加熱に関する構成
a 被告は,乙1発明には,空気で希釈した排ガス成分の濃度の低下によって測定の精度が低下することを克服するという課題があり,乙1文献には,そのための手段として,希釈して湿度を下げるだけではなく,排ガス自体を加熱して水分の凝縮を防止するという手法が開示されており,CVSから分岐しサンプルバッグに至るまでの「試料ライン」全体に起こる水分凝縮を防ぐためには,結局当該「試料ライン」全体を加熱することになるのであり,乙1文献はそのことも開示していると主張し,原告は,乙1発明は,サンプルバッグを除くシステム領域の所要領域を加熱することで対処することを推奨しているものである旨主張する。
b 乙1文献は,米国環境保護庁に属する者らが執筆し,米国のSAE International が刊行した技術論文であり,要旨以下の内容の記載がある。
(a) 要約
有機自動車燃料は,燃焼すると二酸化炭素及び水(H2O)蒸気を生成する。CVSシステムは,試料採取及び分析のための自動車排ガスの調節に一般に使用され,エンジン排ガスの周囲空気希釈を制御する。水分凝縮は,CVSシステム試料調節中の問題となり得る。そこで,希釈排ガス露点及びH2O蒸気凝縮を回避するために必要なCVS流量を詳細に秒単位で決定するための「スプレッドシート」手順について記述する。
(b) 課題
有機排ガスの大きな割合が水溶性となるに従い,湿潤表面に吸着するおそれが生じることから,水分凝縮を回避する重要性が増した。自動車排出率の認可のための連邦試験手順(FTP)によれば,試料採取システムのH2O凝縮をなくすためには十分なCVSシステム流量を維持する必要があるとされ,必要流量を決定する手順は,FTP試験段階平均試料H2O濃度の推定に基づいていた。しかし,FTPは,過渡的なエンジン速度,負荷及び排出を含み,所定の手順は,FTP中にH2O凝縮が起こりうる時間を与えるものであった。
(c) 解決手段
そこで,1秒間隔でH2O凝縮を回避するのに必要なCVS流量の推定を可能にする「スプレッドシート」手順が開発され,瞬間試料露点の計算をするためのデータを入力するなどして,一般にFTP試験段階1開始後200秒で生じる試験段階最高露点及びH2O凝縮を回避するための必要CVS流量を確認することができる。(試験段階平均及び累積積算値も測定することができる。)
CVS流量が高いほど試料濃度は低下するので,水分凝縮が許す最低流量でCVSシステムを操作することが望ましい。実験室温度及び圧力で一般に維持される試験段階試料バッグにおいて凝縮を回避するCVS流量が選択されることが推奨される。すべての他のCVSシステム希釈排ガス温度は,試験段階バッグ温度以上である。
しかし,システム露点温度がバッグ試料の温度をはるかに超える場合もある。そのような場合にCVSシステム全体の凝縮を回避するためには極めて高いCVS流量が必要となり得るが,そのような流量は実用的ではなく,試験段階試料バッグにおいて凝縮を回避するCVS流量を必要に応じて選択することが推奨される。さらに,試料採取システムの別の領域が最高試験段階露点を超える温度に加熱されることが推奨される(最大希釈排ガスは一般にFTP試験段階1開始後約200秒で生じる。)。希釈トンネルは特徴的な乱流のために加熱が不要なこともある。しかし,例えば,自動車排気管と希釈トンネルの間の移送管,及び試料プローブにおいて,層流の場合,最高試料露点によって規定されるように熱を加えるべきである。
極めて高い流量は,試料採取システムの重要な領域を先に考察した最高露点を超える温度に加熱することによって回避することができる。試料プローブを加熱するときには臨界流量ベンチュリCVSシステムで比例試料採取が確実に維持されるように注意しなければならない。これは,試料プローブに能動マスフロー制御装置を使用し,CVS瞬間流量からその設定値を取ることによって実施することができる。
(d) 結論
CVS試料採取システムH2O濃度及び露点温度,並びに試料採取システム内の凝縮を回避するのに必要なCVS流量及び温度を秒単位で決定することを可能にするスプレッドシートが開発された。この情報を使用して,一般に実験室温度及び圧力で貯蔵されるバッグ試料において凝縮を回避する加熱ライン及び最低流量を有するCVS試料採取システムを最適化することができる。
c 上記記載内容によれば,乙1文献の中心的内容は,試料採取システムの凝縮を回避するのに必要なCVS流量及び温度を秒単位で決定することを可能にするスプレッドシートの開発であり,この利用を前提に,試料採取システム全体を通して凝縮を回避するためには,実用的な流量を超える高いCVS流量が必要であることから,試験段階バッグにおいて凝縮を回避するCVS流量を選択することを推奨した上で,試料採取システムの他の領域(希釈トンネル,希釈トンネルへの移送管等を含む)については,各場所の条件により露点を超える温度に加熱することを開示したものと解され,本件特許発明に開示されているように,ガスサンプリング流路全体を常に加熱することの開示があるとは認められない。
被告は,加熱が不要とする特別な理由のない限り,「試験段階バッグ」を除く全領域が加熱されることが前提とされている旨指摘する。しかし,乙1文献は,上記のとおり,CVS流量の選択により凝縮を回避することを前提としつつ,それによっても凝縮の可能性がある部分のみ加熱するという内容のものであるから,試料採取システムの全領域を加熱することを開示するものとまでは認められない。
ウ 相違点1(構成要件C)
(ア) 被告は,本件特許出願当時において,CVSシステムを用いたガスサンプリング装置は周知のもので,CVSからガスサンプリング流路に分岐する際,何らかの「流量制御装置」と「吸引ポンプ」を設けることは当業者にとって周知の技術であり,また,同様の構成を有する乙4発明を組み合わせることについても当業者にとって容易想到である旨主張する(原告は,積極的にはこの点を争っていない。)。
(イ) 証拠(乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,乙4発明は,ガスサンプリング装置とその制御手段,特にベンチュリを有して空気により希釈された排ガスのサンプリングを行い,その成分を測定する装置,及び希釈空気又は排気/空気の混合気の流量を制御する手段に関するものであり(【0001】),CVSのサンプリング領域から分岐したサンプリング流路にポンプ,サンプルバッグまでの間に流量制御装置を有する構成が開示されていること(乙4文献【0011】,【0015】,【0019】),他のガスサンプリング装置においてもこのような構成が採用されていたことが認められ,本件特許出願当時,ガスサンプリング装置においてこのような構成を有するものは周知であったといえる。
したがって,同じガスサンプリング装置に関する乙1発明に上記構成を有する周知技術を組み合わせることは,当業者にとって容易に想到し得たものといえる。
エ 相違点2(構成要件D)
(ア) 被告は,乙1発明の構成に,サンプルバッグを除いた,CVSから分岐しサンプルバッグに至るまでのサンプリング流路全体を,水分凝縮しない程度に加熱する構成が開示されており,乙4文献などに記載のある周知の吸引ポンプを適用して吸引ポンプを含む試料ライン全体を加熱する動機付けは十分にあり,また,乙1文献において,試料プローブである「臨界流量ベンチュリ」をそのまま加熱してはならないとされる一方で,乙4文献に,そのような制約のない「流量制御装置」が開示されていることから,サンプリング流路全体を加熱する動機付けは十分にあり,当業者において容易に想到し得た旨主張する。
(イ) しかし,上記イcに認定のとおり,乙1文献において,そもそもサンプリング流路全体を加熱する構成が開示されているとはいえないため,これに乙4を組み合わせることによって,本件特許発明における構成要件Dの構成を容易に想到し得るとはいえない。
オ 相違点3について
被告は,サンプルバッグを加熱しない乙1発明に乙2発明を組み合わせることにより,当業者は,本件特許発明を容易に想到し得た旨主張する。
(イ) 証拠(乙2の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,乙2文献の内容は,要旨以下のとおりと認められる。
a 発明の名称 等速吸引サンプリングプローブ
b 要約
自動車エンジンの排ガスのサンプリング/処理システムであって,通しダクト内を流れる排出物が混合され,等速吸引プローブにより抽出され,抽出ガスの解析が終了するまで加熱状態に維持される,サンプリング/処理システム。可変速ポンプ手段を利用してプローブを通る瞬間圧力の低下と排ガスダクトを通る瞬間圧力の低下とを同じにする。
c 発明の概要
本発明の主な目的は,質量流量の小さい物と大きいものとの両方を含むエンジンの総排出物量を判定する装置(apparatus)及び方法であって,装置が希釈空気を使用せずに機能することができ,特に処理システムが単純化すること,及び構築の経済性を特徴とする装置及び方法を提供することである。
本発明の別の目的は,空気希釈を含まない排出物のみを処理することにより精度を高めるのに効果的であり,かつ初期希釈が簡単に分かる排出物測定システムを提供することである。
d 詳細な説明
通気ダクトAは,ガスタービンなどのエンジンから総排気排出物を受け取るように適合され,かつ排気排出物を均質化するのに効果的な混合装置10を有する。通しダクトの第1の直線部11は曲線部12に連結されており,この組み合わせを用いると,抽出手段Bの一部を構成する等速吸引プローブ13を導入しやすくする。プローブは,混合装置10の下流だが,部11と部12との接合部のやや上流に配置される口,すなわち入口14を有する。プローブは,弾性容器15(膨張性バッグの形態の)を有し,一緒に,排気ガスの比例サンプルを抽出し,当該抽出ガスを運び,最終濃度解析のため最終的には捕集袋16(やはり1つまたは複数の膨張性バッグの形態の)に導く引き抜き路を含む(同路内の弾性容器15より下流に可変速ポンプ17を含んでもよい。)。
弾性容器15は,弾性容器の外部に作用する周囲圧力又は大気圧を含む一定体積の筐体24に収納される。
排出物のガス状成分の凝縮を防ぐには,プローブ,筐体24を取り巻く加熱コイルを有してもよい加熱装置(apparatus)25が利用され,袋16及びポンプ17の周りの筐体24が拡張して凝縮の防止を支援することができる。
(ウ) これらの記載内容によれば,乙2発明には,排気ガスを抽出するプローブから,筐体24を取り巻く加熱コイルを有してもよい加熱装置25によりポンプを経てサンプルバッグである捕集袋まで拡張して加熱して膨張を防ぐ構成が開示されており,ガスサンプリング流路全体だけでなく,サンプルバッグをも加熱するものといえる。
(エ) これらを前提に,乙1発明に乙2発明を組み合わせて本件発明を想到することの容易性について検討する。
乙1発明は,排ガスの成分分析のために排ガス源から排出される排ガスを空気によって希釈した試料を採取するCVSシステムにおいて,水分凝縮を回避するために必要な方策を示したものであるのに対し,乙2発明は,エンジンからの総排出物量を判定する装置及び方法であって,装置が希釈空気を使用せずに,直接排ガスを袋に捕集し,圧力によって試料が凝縮するのを防ぐための方策を示したものである。
両者は,排ガスの成分測定のための試料採取するシステムに関する技術分野についてのもので,ガス成分における水分凝縮を防ぐという課題についてのものである点で共通する。
しかし,システムの試料採取方法が全く異なるため,乙1発明が課題解決の手段としてスプレッドシートによってCVS流量を最適なものとする方策をまず示しているのに対し,乙2発明はサンプルバッグを含むサンプリング流路全体の加熱を提示しており,その解決手段において異なっている。また,乙1文献には,サンプルバッグを加熱する示唆はなく,むしろ,スプレッドシートを使用しながら,サンプルバッグについては,一般に実験室温度及び圧力で貯蔵されることを前提にしている。一方,本件特許発明においては,サンプリング流路全体を加熱するとともにサンプルバッグをも加熱することにより,サンプリングされたサンプルガスの凝縮が回避され,排ガスを必要以上に希釈しなくてよく,その結果排ガス中の高濃度成分は勿論のこと,低濃度成分を精度よく定量分析できるという作用効果が記載されているところ(甲2,本件明細書【0007】,【0018】),サンプルバッグの加熱がない乙1発明の場合と比較すると,凝縮を回避するための最低CVS流量をさらに少なくすることができ,より上記の効果を奏するものと認められる。
そうすると,技術分野や課題において共通することから当業者において乙2発明を検討することはあったとしても,一般にサンプルバッグが実験室温度に置かれることを前提としているCVSシステムにおける課題解決として,乙2発明を組み合わせてサンプルバッグを加熱することを容易に想到し得たとはいえない。
この点,被告は,乙1文献に,サンプルバッグを他の領域と同様加熱することで水分凝縮を防止してはならないとの記載はなく,また,一般常識として加熱を用いることは当業者にとっては日常的に行う工夫の域を出ない旨主張する。しかし,乙1文献において,サンプルバッグが一般に試験室温及び圧力に置かれることを前提としていることを看過しており,被告の主張は採用できない。
カ 結論
以上により,無効理由1に係る無効の抗弁は認められない。
(2) 無効理由2について
被告は,乙3技術に乙4発明あるいは周知技術を組み合わせることにより,本件特許発明は容易に想到可能であったとして,本件特許発明の無効を主張するが,以下に検討するとおり理由がない。
ア 乙3文献の公知性
証拠(乙3,9,10の1及び2)によれば,乙3文献は,1989年2月24日にデータベースに格納され,同データベースは,同年4月11日当時閲覧,公開に供されていたことが認められる。
この点,特許法29条1項各号に定められる公知発明は,本件特許出願当時,同項1号及び2号については日本国内におけるもの,同項3号に定める頒布された刊行物に記載された発明(電気回路を通じて公衆に利用可能となった場合については本件特許出願当時規定されていない。)については,外国のものも含めて新規性喪失事由と定めていたところ,乙3文献が,本件出願当時(平成7年2月21日),刊行物として発行されていたかどうか証拠上明らかではない。
したがって,乙3文献に基づいて,本件特許発明の進歩性欠如の判断をすることはできないというべきであるが(同法29条2項),乙3文献がデータ公開されてから本件特許が出願された平成7年2月21日までの間に刊行物とされた可能性も否定できないことを考慮し,以下のとおり,この点についても検討することとするが,乙3文献に記載された乙3技術に乙4発明又は周知技術を組み合わせることによって,本件特許発明を容易に想到し得たとは認められない。
イ 乙3技術の内容
(ア) 証拠(乙3の2)及び弁論の全趣旨によれば,乙3文献には概ね次の内容の記載があると認められる。
メタノール燃料車からの排気炭化水素排出物を判定することについて,EPAは,現在ガソリン燃料車に使用されているようなバッグサンプリング手順を使用して,希釈排気サンプルを収集するように提案した。バッグサンプルの分析は,加熱FID(250°±10°F)を使用して実施するよう提案された。
GMの関心は,非加熱サンプルバッグ内における損失に集中していたが,Chevronの関心は,サンプルバッグに通じる非加熱サンプルラインに集中していた。加熱サンプルラインの使用が提案されて以来,Chevronが表明した問題は,この提案書で対処された。したがって,Chevronのコメントは,見過ごした結果だったと考えるべきである。GMが表明した問題に対処する最初の段階として,EPAは,1つのサンプルバッグ(非加熱サンプル収集ラインを使用)を,室温と95°~100°Fの両方の温度のバッグで分析した。FIDの比較的高い指示値は,バッグを温めた時に見られた。しかし,バッグを温めた時に行われたFIDの測定結果は,バッグ内に含まれるサンプルの量が殆ど枯渇していた時にも見られた。したがって,観察された差異にどのような有意性を付加するべきか判断することはできない。GMのコメントの有意性を定量化するデータはないため,このサンプル収集手順は提案されたとおりに維持することを推奨する。しかし,GMが提起した問題は詳細に調査するべきであり,確証があれば,サンプル収集手順を後日変更するべきである。
(イ) 乙3文献の上記記載内容からすれば,GMの指摘した非加熱サンプルバッグ内の凝縮の問題に対して加熱が有意であるか否かについての結論は出されていないものといえる。したがって,希釈排気サンプル収集において,サンプルバッグ内の凝縮を回避する技術として,サンプルバッグを加熱することが,甲3文献において開示されているとは,そもそもいえない。また,「非加熱サンプル収集ラインを使用」と記載されているとおり,サンプルラインはサンプルバッグとともに加熱されていない。さらに,Chevronが示した非加熱サンプルラインでの問題については,加熱サンプルラインの使用が提案されて以来,この提案書で対処されたとして,別の問題として解決されているものである。
ウ 乙3技術と本件特許発明との一致点及び相違点
本件特許発明が,CVSから分岐したガスサンプリング流路に吸引ポンプ及び流量制御装置を介してサンプルバッグを設けたものである(構成要件C)のに対し,乙3文献では,サンプルプローブからサンプルバッグに至るまでの構成が明らかでなく,乙3技術がそのような構成を有するものとは認められない点(相違点1),また,本件特許発明が,サンプルバッグに至るまでのガスサンプリング流路全体を加熱するとともに,サンプルバッグをも加熱するのに対し(構成要件D,E),乙3技術は,前記認定のとおり,サンプルバッグを加熱することについての開示がない点(相違点2)において異なっているが,他の構成要件A,B及びFにおいては一致している。
エ 容易想到性
乙3技術においては,前記のとおり,サンプルバッグを加熱することの有意性についての結論は出されておらず,また,乙4発明においても,サンプルラインとともにサンプルバッグを加熱する構成の開示はないから(乙4),両者を組み合わせても,サンプルバッグを加熱する構成に至るとは考えられない。
さらに,前記(1)オ(エ)記載のとおり,本件特許発明が,サンプルラインとともにサンプルバッグをも加熱することで,効果を奏するものであることからしても,当業者において,サンプルバッグの加熱について想到することが容易であるとは到底いえない。
オ 結論
よって,被告の主張する無効理由2については,乙3文献に記載された乙3技術を進歩性欠如の理由とすることはできず,仮に,乙3文献の刊行物への搭載があったとしても,上記エのとおりであり,乙3技術に乙4発明あるいは周知技術を組み合わせることにより本件特許発明が容易想到可能であったとは認められないから,無効理由2に係る無効の抗弁も認められない。
3 争点3(原告の損害)について
上記1及び2で検討したところによれば,被告装置の譲渡は本件特許権の侵害にあたり,これは被告の過失によるものと推定されるから(特許法103条),被告は上記侵害行為による損害につき,原告に損害賠償義務を負う。
(1) 主位的請求
原告は,主位的に特許法102条3項に基づく請求を行い,被告が受注したシステムのうち,システム全体,排気分析計ないしは被告装置の受注額を前提とする実施料を主張するため,同条項にいう当該特許発明の実施にあたる範囲,また,実施料率について検討する。
ア 証拠(甲4,6,7,乙6の2,14の2,15ないし19)及び弁論の全趣旨(前記第2の2の前提事実を含む。)によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告は,オーストリア国に本社を有するAVL LIST GmbH社の日本法人であり,被告は,AVL社が開発した,自動車等のパワートレイン(動力源の意味。ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン等の内燃機関のほか,トランスミッション,モーター,バッテリー,燃料電池,制御システム,ソフトウェア等を含む。)の開発,シミュレーション及び計測を行うシステムについて,日本国内での受注,販売を行っている。
原告においても,本件特許発明の実施品となる定容量希釈サンプリング装置を製造するほか,これとエンジン排ガス測定装置,自動運転システム,シャシダイナモメータ等の複数の装置を組み合わせ,排ガス測定のトータルシステムとして製造販売している。
被告が販売するパワートレインの開発等のシステムは,「機械室」,「試験室」,「計測室」の3つの部分に分かれるが,各部分においても多数の構成要素があり,被告装置は,「試験室」の構成要素である「測定」,「温調」,「エミッション」,「調整」のうち,「エミッション」を構成する一部である。被告において受注するシステムの構成は,顧客が任意に選択できるもので,その構成も被告の商品のみを予定しているわけではなく,顧客自ら調達する部分も含まれる。
被告は,平成24年7月から平成26年8月までの間に,パワートレイン開発やエンジンテスト,排気テストのためのシステムを多数受注しており,その中に,被告装置を含むものが6件あるほか,原告の排ガス測定装置及びCVS装置を含むシステムについても,受注している。
平成24年7月から平成26年8月までの,被告装置を含むシステム6件の受注の概要は,別紙受注一覧のとおりであり,システム全体の受注額は「プロジェクトを含む総額」欄記載のとおり,そのうち被告装置部分の受注額は「CVS i60」欄記載のとおりである。
(イ) 日本における機械分野の特許発明に対するロイヤルティ料率は,平成16年から平成20年における市場データの平均値が4.2%,同期間の司法データの最小値が1%,最大値が10%,平均値が3.9%であった。
イ 上記認定事実を前提にすると,被告が受注した同種システムの中で,被告装置を備えるものは多くなく,常に一体として販売されているとはいえないこと,被告装置自体の売上額も,被告装置を備えるシステム総売上額27億4337万5000円の中の2億4834万9000円と,約9%であることからすれば,被告が受注したパワートレイン開発,計測等のシステム全体をもって,本件特許発明の実施に該当すると解するのは相当ではない。
また,被告システムにおける排ガス分析計であるAMAi60は,被告装置と組み合わせて使うことが予定されているものであるが,独立した装置であり,被告装置とは別に,システムの一部要素として構成されていることが認められるから(別紙受注一覧取引番号3ないし6,甲6,乙6の2),本件特許発明の技術的範囲に属する被告装置の一部と評価できるものではない。
よって,本件特許発明の実施料の対象として捉えるべきものは(特許法102条3項),被告装置自体の受注額であると解される。
ウ 前記認定事実を前提に,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき額について検討するに,被告装置の受注額を基礎に,本件特許発明の実施料を算定すべきであることは前述のとおりであるが,被告装置と排ガス分析計AMAi60とが組み合わせて販売されており,一定限度,被告装置の販売は,AMAi60の販売に寄与していると評価することができるから,この点を使用料率の算定にあたって考慮することはできるものと解する。
また,被告装置を含むものとして受注したパワートレイン開発,計測等のシステムは,1件あたりの受注額の平均が4億円以上となる大規模なものであること,システム全体のうち,排ガス測定機器の関係について,原告と被告は競合していること,被告において,原告のCVS装置をシステムに組み込むこともある中で,温調機能を有する被告装置を含む発注を受けているのであるから,被告装置の存在は,システム全体の受注に一定限度寄与しているというべきであり,前述のとおり,被告装置の受注額を基礎に本件特許発明の実施料を算定するとしても,その料率の関係では,この点を考慮するのが相当である。
さらに,本件特許発明は,サンプリング流路全体とともにサンプルバッグを加熱するという比較的単純な構成からなるものであるから,競合関係にある被告にとって,被告装置が本件特許の侵害となるか否かの検討は容易であると考えられ,前述のとおり,原告のCVS装置も選択可能な中で,あえて温調機能を有する被告装置を含むシステムを受注したのであるから,この点は,実施料率を算定するに当たって考慮すべき事情と解される。
以上を総合すると,本件特許発明の実施に対し原告が受けるべき実施料としては,被告装置の受注額の7%とするのが相当である。
エ そうすると,原告が特許法102条3項により受けるべき金銭の額は,被告装置の受注額の7%,別紙損害算定表の実施料相当額欄記載のとおりとなり,合計1738万4430円と認めるのが相当である。
さらに,原告の負担した弁護士等の費用相当額170万円については,不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(2) 予備的請求
原告は,予備的に特許法102条2項に基づく請求もしているが,前述のとおり,主位的請求の一部を認容すべきものと認められるため,予備的請求については検討することをしない(なお,被告装置の受注額から変動経費と認められる被告装置の海外仕入値,国内工事費及び運送費を差し引くと,前記主位的請求額の認容額を下回るので,同項に基づく請求が,仮に選択的請求の趣旨であったとしても,結論は変わらない。)。
第5結論
1 被告装置は,本件特許発明の技術的範囲に属し,本件特許は無効にされるべきものとは認められないから,特許権侵害を理由とする損害賠償請求は,前記第4の5に記載の範囲で理由がある。損害額に対する遅延損害金の起算日については,被告装置受注日が不法行為の日と認められるところ,受注時期は別紙受注一覧のとおりであり,少なくとも受注時期の後の日として原告の主張する,第1及び第2の取引にかかる額については平成24年6月1日から,第3及び第4の取引にかかる額については平成25年8月1日から,第5の取引にかかる額については平成26年2月1日から,第6の取引にかかる額及び弁護士費用については同年9月1日から,それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
2 よって,原告の請求は,金1908万4430円及びうち金477万9250円に対する平成24年6月1日から,うち金481万3900円に対する平成25年8月1日から,うち金451万0660円に対する平成26年2月1日から,うち498万0620円に対する同年9月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余については理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷有恒 裁判官 田原美奈子 裁判官 松阿彌隆)
file_9.jpg別紙