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大阪地方裁判所 平成26年(ワ)8187号 判決 2016年5月09日

原告

株式会社生活と科学社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

乕田喜代隆

西念京祐

西田敦

被告

楽天株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

大月雅博

梶並彰一郎

同補佐人弁理士

鈴木康仁

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,インターネット上の検索エンジンにおける「石けん百貨」とのキーワードに連動する検索結果表示ページにおける広告スペースに,別紙表示目録記載の文言に自社サイトへのハイパーリンクを施す方式による表示をしてはならない。

2  被告は,インターネット上の検索エンジンにおける「石鹸百科」とのキーワードに連動する検索結果表示ページにおける広告スペースに,別紙表示目録記載の文言に自社サイトへのハイパーリンクを施す方式による広告を表示してはならない。

3  被告は,インターネット上の検索エンジンにおける「石けん百科」とのキーワードに連動する検索結果表示ページにおける広告スペースに,別紙表示目録記載の文言に自社サイトへのハイパーリンクを施す方式による広告を表示してはならない。

4  被告は,原告に対し,1593万6386円及びこれに対する平成26年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,後記の各商標権を有し,後記の各登録商標を自己の商品等表示として使用する原告が,被告が,インターネット上の検索エンジンにおける検索結果表示ページの広告スペースに,別紙表示目録記載の文言に自社サイトへのハイパーリンクを施す方式による広告を表示した行為が,原告の各商標権の侵害行為に当たるとともに,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たる旨主張して,商標法36条1項又は不正競争防止法3条1項に基づいて,上記の表示の差止めを求めるとともに,民法709条又は不正競争防止法4条(いずれも共同不法行為である場合の民法719条を含む。)に基づいて,損害金1593万6386円及びこれに対する平成26年9月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(商標権侵害に基づく請求と不正競争防止法に基づく請求は,選択的併合の関係にある。)。

1  前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により明らかに認められる。)

(1)  当事者

原告は,日用品雑貨,洋品雑貨,石けんの販売等を業とする株式会社である(甲1,2の1,2の2)。

被告は,各種マーケティング・小売業務の遂行及びコンサルティング,通信販売業務等を業とする株式会社である。

(2)  原告の商標権

原告は,別紙原告商標目録1ないし3記載の各商標権(以下「本件各商標権」といい,その各登録商標を「本件各登録商標」という。)を有する。

(3)  原告の営業

原告は,インターネットに「石けん百貨」の名称で石けん等を取り扱う店舗サイトを開設し,各メーカーの石けんの販売等の営業を行うとともに,当初は「石けん百科」の名称で,その後に「石鹸百科」に名称を変更して,石けん等に関する情報を提供する情報サイトを運営している。また,原告は,「石けん百貨」ブランドを用いた石けん関連の自社商品の販売も行っている。(甲1,2の1,2の2)

(4)  被告によるインターネットショッピングモールの運営

被告は,自ら管理するコンピューターサーバー上において出店希望者に特定のURLを与え,自ら管理・運営するインターネット上の商品売買や情報提供のシステムを利用させることを中心とするサービスの提供によって,自らの運営する「楽天市場」というインターネット上のショッピングモールに店舗を出店させる内容の役務を提供している。

楽天市場では,出店者の各々がウェブページを公開し,同ページ上の「店舗」で商品を展示し,販売している。個々の出店者は,それぞれ特定の分野の限られた商品を取り扱っているが,楽天市場全体としてみると,平成26年9月時点において登録店舗数は4万1718店,登録商品数は1億5000万点超であった(乙1)。

楽天市場に店舗を出店しようとする者は,被告との間で「楽天市場出店規約」(乙2)による契約を締結した上で,自らの責任で出店ページのコンテンツを制作し,楽天市場に店舗を出店する。一方,楽天市場において買物をしようとする顧客は,「楽天会員利用規約」(乙3)に同意し,会員登録をすることで,楽天市場において買物をすることができる。

(5)  検索連動型広告

検索連動型広告とは,GoogleやYahoo!(以下,併せて「Google等」という。)などのインターネット上の検索エンジンにおいて,インターネットの利用者が検索したキーワードに関連した広告を検索結果表示画面に表示するものである(乙4。以下,検索サイトにおけるキーワードによる検索結果を表示した画面を「検索結果表示画面」という。)。

そのうち,アドワーズ(Google AdWords)は,グーグル株式会社の提供するクリック課金広告サービスであり,スポンサードサーチは,ポータルサイトであるYahoo! JAPAN を運営するヤフー株式会社が提供するクリック課金広告サービスである。

検索連動型広告では,ユーザーがGoogle等の検索サービスを利用して,自らの関心がある事柄についてキーワードによるウェブ検索をした際に,広告主があらかじめ登録したキーワードが使用された場合,その検索結果を表示するページに,広告主の広告が表示される。

広告主がアドワーズやスポンサードサーチ(以下「アドワーズ広告等」という。)の利用を設定するには,まず,設定画面上で,広告によって販売したい商品やサービス等についてキーワードを選択し,登録を行う。次に,表示したい広告の見出し,広告文,表示するURL,広告見出しの文言にリンクするURLを登録する。

このような登録の結果,ユーザーがGoogle等の検索エンジンを利用して,広告主の登録したキーワードを用いて検索すると,検索結果表示画面の上部,下部,側部等に,登録キーワードを用いた広告が表示されることになる。そして,ユーザーが同広告の見出しの文言をクリックすることで,広告主がリンク先として登録したURLへ移動させることができる。

(6)  原告の楽天市場への出退店及び被告による検索連動型広告の表示

ア 原告は,平成12年9月以降,被告との間の出店契約に基づき,楽天市場内に「石けん百貨」楽天市場店を出店していたが,平成17年7月頃,楽天市場から退店し,以後,「石けん百貨」楽天市場店は存在せず,「石けん百貨」ブランドの原告の商品を取り扱う加盟店も存在しない。

イ 被告は,少なくとも,原告が出店中の平成17年頃,「石けん百貨」をキーワードとして,アドワーズ広告等を掲載していた。

ウ 原告は,被告に対し,退店後の平成17年9月30日付けの通知により,被告が,Googleにおける「石けん百貨」等の文言で検索した場合に表示される検索結果表示画面の広告欄に「石けん 百貨通販」との表示の広告を掲載していることが,原告が長年使用し,当時商標登録出願中であった「石けん百貨」及び「石けん百科」等と類似しているため,消費者等に対し,誤認混同が生じかねないとして,このような文字列を用いた広告を直ちに中止するよう求め,この通知は,同年10月3日,被告に到達した(甲25の1,25の2)。

これに対し,被告は,同月26日付けの回答にて,サーチワードは,外部の広告業者のシステムにより,一定の機械的法則に基づき,自動的に選定されるものであるとし,「石けん」,「百貨通販」というサーチワードも自動的に選定されたものと主張しつつ,同月12日をもって「石けん 百貨通販」のサーチワード登録を削除したと回答した(甲26)。

エ また,被告は,少なくとも,平成24年8月から平成26年9月12日までの間,アドワーズ広告等を用いて,「石けん百貨」,「石けん百科」,「石鹸百貨」をキーワードとして,Google等の検索結果表示画面に広告を掲載した。その広告は,検索結果のトップ欄の右横上等の位置に「広告」であることが表示され,その見出しは,「【楽天】石けん百貨大特集」,「石鹸 百貨 楽天大特集」や「石けん 百貨大特集」等とされていた(原告は,別紙表示目録の表示がされていたと主張している。以下,これらの広告を「本件広告」といい,本件広告における「石けん百貨」等の標章の表示を「本件表示」という。)。

本件広告には,楽天市場のショッピングサイトへのハイパーリンクが施されており,本件広告が「【楽天】石けん百貨大特集」と表示されていた場合であれば,本件広告のハイパーリンクをクリックすると,楽天市場のサイトにおいて「石けん百貨」をキーワードとした検索結果が表示された画面(以下,ハイパーリンク先の楽天市場の画面を「楽天市場リスト表示画面」という。)へ移動し,同画面に加盟店が販売する石けん商品が表示された。(甲21,22)

被告は,本件の訴状を受領し,検索結果表示画面の本件広告をクリックした場合に表示される楽天市場リスト表示画面に,加盟店である「P1」の商品が表示されていることを確認し,当該表示が削除されるよう対応した(乙6)。

2  争点

(1)  被告による本件各商標権侵害の有無(争点1)

(2)  被告による不正競争行為の成否(争点2)

(3)  被告が別紙表示目録記載の文言を使用した検索連動型広告をするおそれの有無(差止めの必要性)(争点3)

(4)  損害発生の有無及び額(争点4)

第3争点に関する当事者の主張

1  争点1(被告による本件各商標権侵害の有無)について

【原告の主張】

(1) 単独の不法行為の主張

ア 被告が,「石けん百貨」,「石鹸百科」及び「石けん百科」をキーワードとした検索結果表示画面において,本件各登録商標である「石けん百貨」,「石鹸百科」,「石けん百科」と同一又はこれらに類似する標章を広告において表示し,同表示のハイパーリンク先を被告の石けんや洗剤に関連する商品販売サイトに設定する行為は,商品に関する広告を内容とする情報に「石けん百貨」等という標章を付して電磁的方法により提供するものであり(商標法2条3項8号),本件各商標権を侵害し,単独の不法行為を構成する。

イ 単独の不法行為についての被告の主張に対する反論

(ア) 被告は,本件広告での本件表示が,指定商品又は指定役務についての商標の使用とはいえないと主張する。

しかし,本件広告のハイパーリンクをクリックすれば,楽天市場リスト表示画面に移り,直ちに楽天市場内で販売されている石けん等の画像,商品名,簡単な商品説明,価格が表示された画面が表示されるのであるから,本件広告はせっけん類に関する広告であるといえる。

また,本件各登録商標と同一又は類似の標章を検索連動型広告に使用することは,本件各登録商標の持つ顧客吸引力を利用して,他の商品や役務を提供するサイトへと導くものであるから,本件各登録商標の出所識別機能と広告宣伝機能を害するものである。したがって,このような態様で商標を広告宣伝行為に使用することも,商標法2条3項8号の「使用」に含まれると解するべきである。

(イ) 被告は,被告の対応に落ち度はないと主張する。

しかし,被告は,原告が「石けん百貨」の商標を使用して営業していたことを十分に認識し,原告の退店後の楽天市場に「石けん百貨」が付された店舗がないことを十分に認識しながら,本件広告を掲載したものである。被告は,楽天市場リスト表示画面の詳細を常時把握していなかったとしても,隠れ文字を使用する販売業者や,正規品でない商品について周知性のある標章等を付して販売する業者が存在することは,インターネットビジネスにおいて,容易に想定できるものであり,楽天市場内に出店している販売業者が違法行為を行ったり,被告との規約違反行為を行ったりすることが,全く想定できないとはいえない。

仮に,被告がアドワーズ広告等におけるキーワードの設定を機械的に行い,意図的にキーワードを設定していなかったとしても,自らがそのようなシステムを構築しているのであるから,平成17年に警告を受けて広告を削除した時に,本件各登録商標及びこれに類する文言をNGワードリストに加え,キーワードとして登録されないように管理すべきであり,その後にNGワードリストを作ったならば,その時点でリストに登録すべきであった。また,一度警告を受けて削除した登録商標をリストに入れることもできないほどNGワードの管理が徹底できない状態にあったのであれば,機械的な自動登録のシステムを採用してはならなかった。

このように,被告は,少なくとも同年9月30日以降,本件表示によって原告に損害が生じる危険性を認識しながら,NGワードの設定を徹底するなど,本件各商標権を侵害しないための管理を怠り,「石けん百貨」及びこれに類似するキーワードを設定した広告を表示しないようにすべき注意義務に違反したものであり,被告には,故意,過失が認められる。

(ウ) また,被告は,「石けん 百貨」のような半角のスペースが挿入された本件表示の使用についても,本件各商標権侵害の責めを負わないと主張する。

検索者が「石けん百貨」をキーワードとして入力して検索した際に,「石けん」と「百貨」の間に半角のスペースを空けて広告が表示され,そのリンク先に,楽天市場内の「石けん」と「百貨」の二つの単語による検索(AND検索)の検索結果ページが表示されることがあるのは,被告が,検索連動型広告に「石けん 百貨」とのキーワードを登録するとともに,検索連動型広告の設定において部分一致の設定をしていたからである。したがって,被告は,ユーザーがGoogle等で「石けん百貨」のキーワードで検索をした場合に,「石けん 百貨」との検索連動型広告が表示されることを予見していた。そして,この場合,楽天市場リスト表示画面において,「石けん」と「百貨」のそれぞれのキーワードによって検索された商品が掲載されていたと考えられ,当該ページには,必ずしも「石けん百貨」の商品であると偽っている販売業者や,「石けん百貨」を隠れ文字として使用した販売業者でなくても,商品名,店舗名,紹介文等に「石けん」と「百貨」という文言を使用して,石けんを扱っている業者の販売する石けん類が表示されるのであり,被告に責任が生ずるために,販売業者が隠れ文字を使用していることや,正規品でない石けん等の商品に「石けん百貨」等の文字を付して販売していることを被告が想定しているか否かは問題とならない。

また,「石けん 百貨」がGoogle等によって,類似キーワードとして提供されたとしても,そのように提供されたのは,被告が「石けん百貨」をキーワードとして登録していたからである。被告は,原告から事前に警告を受けていた登録商標「石けん百貨」を自らキーワード登録し,Google等が類似キーワードとして提供した「石けん 百貨」も自ら登録している。

このように,被告は,登録商標「石けん百貨」を表示することを意図的に避けつつ,「石けん百貨」をキーワードに検索した消費者に対し,半角のスペースを空けただけの広告表示により,一見して同じ印象を与え,楽天市場リスト表示画面へと誘導した。加えて,被告は,半角のスペースを空けて二つの単語による検索(AND検索)の検索結果を表示することで,ハイパーリンク先に一覧表示される商品数を増やし,また,広告を見てハイパーリンク先を訪れる一般消費者の購買行動に結び付ける機会を増やし,広告の効果を高めた。

したがって,本件表示によりそのリンク先の楽天市場リスト表示画面を「石けん百貨」等の商品販売ページであると誤認混同させた被告には,単独でも不法行為が成立する。

(2) 共同不法行為の主張

隠れ文字であるか明示されていたかはともかく,楽天市場リスト表示画面において商品を販売していた販売業者も「,石けん百貨」等の文言で検索する一般検索者に,「石けん百貨」等の販売商品であると誤認混同させて購入させようとしており,当該商品の販売によって原告に損害を生じさせることについて,故意,過失が認められる。

そして,被告は,検索結果表示画面の広告表示におけるハイパーリンク先に楽天市場リスト表示画面を設定しており,当該販売業者は楽天市場のショッピングページにおいて商品を販売していたから,客観的関連共同性が認められる。

したがって,被告と当該販売業者には本件各商標権侵害の共同不法行為が成立する。

【被告の主張】

以下のとおり,被告の行為は,本件各商標権の侵害に当たらず,被告はその責任を負わない。

(1) 単独の不法行為の主張について

ア 「【楽天】石けん百貨大特集」等の本件表示の記載に触れた者は,「百貨」が「いろいろな商品」を意味する一般名詞であることから,楽天市場において,石けんに関する商品が多数特集されているものと認識するのが通常であって「,石けん百貨」の部分に着目して,当該部分が原告のサイトの名称であると認識するとはいえないから,本件表示の「石けん百貨」の部分は,出所識別機能を発揮する態様での表示ではなく,当該部分の使用は,商標としての使用に該当しない。

イ また,以下のとおり,被告が本件広告中で本件表示をする行為は,指定商品「せっけん類」等又は指定役務「洗濯」等と同一又は類似の商品又は役務について,本件各登録商標と同一又は類似の標章を,出所識別機能等を発揮する態様で使用するものとはいえない。

(ア) 本件広告は被告が表示しているものの,楽天市場リスト表示画面は,本件広告とは別の画面であり,販売業者の行為に起因して表示されるものであって,被告が関与するものでない。そのため,被告の行為のみで単独に本件各商標権侵害が成立するというのであれば,本件広告をクリックした場合に表示される画面を考慮することなく,本件表示のみで商標権侵害が成立するといえなければならない。

しかし,本件広告には,「石けん百貨」等の標章はあるものの,指定商品である「せっけん類」等や指定役務である「洗濯」等に関する記載がなく,この広告が指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品又は役務についての広告であるとはいえない。本件広告は,楽天市場というインターネット上のショッピングモールへ誘引するための広告であって,商品についての広告ではない。

(イ) たとえ,本件広告に加えて,本件広告をクリックした場合に表示される楽天市場リスト表示画面(販売業者の行為に起因する画面)をも考慮したとしても,被告の行為につき,単独の不法行為としての本件各商標権侵害は成立しない。

a 本件広告をクリックした場合に表示されるのは,需要者が楽天市場において「石けん百貨」というキーワードで検索をした場合にも表示される楽天市場リスト表示画面であるが,原告が平成17年7月に退店した後,楽天市場において,店舗名に「石けん百貨」の文字を含む店舗は存在せず,本来,「石けん百貨」のキーワードで検索したとしても,楽天市場リスト表示画面には何ら商品は表示されない。これに対し,平成26年4月8日から同年6月26日までの間のある時点において,「石けん百貨」のキーワードで検索した場合の楽天市場リスト表示画面に,2つの店舗の商品が表示されているが,表示された商品の紹介部分には「石けん百貨」等の標章は表示されていないから,被告が登録商標である「石けん百貨」等を使用しているとはいえず,ましてや,当該商品を販売している店舗ではない被告が,指定商品「せっけん類」等について登録商標「石けん百貨」を使用しているとはいえない。

b 楽天市場リスト表示画面において,「石けん百貨」等の表示がないにもかかわらず,2つの店舗が表示されたのは,これらの店舗が,いわゆる隠れ文字という,被告が禁じている手法を講じたことによるものと推察される。

楽天市場におけるキーワード検索の対象である各店舗の出店ページは,出店者の責任で制作されたものであり,被告においてその内容を把握していない上,その内容は時々刻々と変化するから,キーワード検索をした場合に,楽天市場リスト表示画面に,具体的にどのように商品の紹介画面が表示されるかは定まっておらず,仮に,「石けん百貨」等のキーワードで検索した場合に楽天市場リスト表示画面に何らかの商品が表示されたとしても,被告は,当該商品が指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品であるかも,当該商品に登録商標「石けん百貨」等と同一又は類似の標章が使用されているかも認識し得ない。

また,出店ページ又は楽天市場リスト表示画面において何らかの問題があることが報告・発見された場合,被告は,直ちに出店者に連絡をとるなどして,当該問題を解消するよう対処しているが,自ら数千万の出店者の出店ページや楽天市場リスト表示画面を常時調査し,問題がないかどうかを確認することは現実的に不可能であり,被告は,本件の訴状を受領するまで,本件広告をクリックした場合に表示される画面にどのような表示がなされるのかについての認識(故意)はなく,認識がなかったことについて過失はなかった。その上,被告は,楽天市場リスト表示画面で隠れ文字が使用されているのを初めて認識すると,直ちに,当該表示がされないように対応したのであり,被告の対応に何ら落ち度はない。

さらに,被告は,「楽天市場出店規約」において,販売業者に対して,第三者の知的財産権等の権利の侵害や第三者に不利益を与える行為を禁止し,その違反は解除事由となるから,被告において,販売業者が,解除のリスクを負ってまで,第三者の権利を侵害するなどして,「石けん百貨」の正規品でない石けん等の商品について「石けん百貨」等の文字を付して販売することは想定していない。

したがって,楽天市場リスト表示画面の内容に基づいて,被告が,指定商品「せっけん類」等と同一又は類似の商品について,登録商標「石けん百貨」と同一又は類似の標章を,出所識別機能等を発揮する態様で使用しているとはいえない。

ウ 本件表示の中には,「石けん 百貨」のような半角のスペースが挿入されたものがある。この場合,この広告をクリックした楽天市場リスト表示画面では,楽天市場における「石けん」と「百貨」のAND検索の結果,すなわち,「石けん」と「百貨」をいずれも含む出店ページに係る商品が表示される。

しかし,ユーザーが「石けん百貨」等のキーワードを入力して検索をした場合に,「石けん 百貨」との本件広告が表示されて,それをクリックした結果,上記のような検索結果が表示されることにどのような法的問題点があるか不明である。

また,「石けん百貨」をキーワードとして検索した場合,検索結果表示画面において,完全一致により「石けん百貨」のワードを含む広告が表示されるか,部分一致により「石けん 百貨」のワードを含む広告が表示されるか,これら以外の広告(「石けん」や「石鹸」のワードを含む広告)が表示されるか,あるいは,全く広告が表示されないかは,Google等の検索エンジンのロジックによるものであり,被告の関知するところではなく,ましてや被告がその表示内容を個別に制御しているものではない。

●(省略)●

このように被告に意図的な操作はなく,しかも,被告は,本件の訴状において原告から指摘をされた段階で直ちにそのような表示がされないように対応したのであり,被告に何ら落ち度はなく,被告は本件各商標権侵害の責めを負うものではない。

(2) 共同不法行為の主張について

楽天市場リスト表示画面に表示された商品を販売しているのは,被告ではなく,販売業者であり,被告が関与することなく変化する楽天市場リスト表示画面は本件表示と一体的に扱われるものではない。被告と販売業者との間には何らの共同性もないから,被告の行為と販売業者の行為とがあいまって本件各商標権侵害の共同不法行為が成立することはない。

2  争点2(被告による不正競争行為の成否)について

【原告の主張】

(1) 「石けん百貨」,「石鹸百科」及び「石けん百科」という原告の店舗サイト名は,周知の商品等表示であるところ,被告が,「石けん百貨」,「石鹸百科」及び「石けん百科」をキーワードとした検索結果表示画面において,本件各登録商標である「石けん百貨」,「石鹸百科」及び「石けん百科」と同一又はこれらに類似する標章を広告において表示し,同表示のハイパーリンク先を被告の石けんや洗剤に関連する商品販売サイトに設定する行為は,原告の周知の商品等表示に係る営業の利益を侵害する行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当し,被告の単独又は共同不法行為を構成する。

これを具体的にいえば,本件での需要者は,検索エンジンを活用してインターネット上の取引をする者であるところ,「石けん百貨」及び「石鹸百科(石けん百科)」は石けん等についての正しい知識を提供するとともに,安心できる商品を販売する店舗サービス及び情報提供サービスを表示する商標として,インターネットを使用する我が国の需要者たる消費者の間に広く認識され,広く社会的に周知されるようになった。

そして,本件各登録商標と同一又は類似した標章が本件表示に使用される場合,需要者たる一般消費者は,本件広告が広告であることを看過して,本件広告を原告の店舗サイトの広告であると誤認混同するおそれがある。

また,検索連動型広告の表示は,一般消費者に対して,同表示のハイパーリンク先のショッピングページ(楽天市場リスト表示画面)が,楽天市場における原告の商品販売ページであり,同ページの商品を原告が販売しているものとの具体的な誤認混同の危険性を生じさせる。

そして,本件広告における本件表示は,原告の営業上の利益を侵害するものである。

したがって,被告の前記行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当する。

(2) 被告の故意,過失,単独の不法行為及び共同不法行為としての不正競争行為が認められることは,前記1【原告の主張】と同様である。

【被告の主張】

以下のとおり,被告の行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当せず,被告はその責任を負わない。

(1) インターネットを利用する全国の一般消費者が,営業表示である原告サイトの名称を広く認識しているとは認められない。

(2) 前記1【被告の主張】(1)のとおり,「【楽天】石けん百貨大特集」等の本件表示に触れた者が,「石けん百貨」の部分に着目して,当該部分が原告のサイトの名称であると認識するとはいえない。したがって,当該部分は,原告サイトの名称として用いられているとはいえず,出所識別機能を発揮するものではないから,「営業を表示するもの」には該当しない。

(3) 楽天市場リスト表示画面には,原告が退店した平成17年7月以降,何ら商品は表示されていなかったはずであり,誤認混同は生じ得ない。仮に,同画面に何らかの商品が表示されたとしても,当該商品の出店者や商品名が明確に表示されるから,検索者は当該商品が「石けん百貨」や「石鹸百貨」の商品でないことをすぐに認識できる。また,仮に,検索者が,そこで表示された商品を購入しようとすることがあるとしても,当該商品を購入するまでには,当該商品の出店店舗のページなど複数のページを経由しなければならず,各ページにおいて当該商品の内容が表示されているとともに,購入前には最終の確認を求められることから,遅くとも購入の時点において,検索者において,当該商品が「石けん百貨」や「石鹸百貨」の商品であると誤認混同することは考えられない。

(4) 被告の故意,過失,単独の不法行為及び共同不法行為としての不正競争行為が認められないことは,前記1【被告の主張】と同様である。

3  争点3(被告が別紙表示目録記載の文言を使用した検索連動型広告をするおそれの有無(差止めの必要性))について

【原告の主張】

被告には,別紙表示目録記載の文言を使用した検索連動型広告をするおそれがある。

【被告の主張】

●(省略)●

したがって,原告が求める差止めの必要性は認められない。

4  争点4(損害発生の有無及び額)について

【原告の主張】

(1) 被告の年間利益推定額

被告は,原告よりも大規模な企業であり,アドワーズ広告等に対して支出している広告経費は,原告よりも高額である。そのため,被告が本件表示をすることによって購入された商品の売上げに対する年間利益は,原告が同様の広告を利用することによって得られた年間利益を下らない。

この点,原告は,平成23年1月から平成24年12月までの間,アドワーズ広告等において,自らも店舗サイト「石けん百貨」の広告を表示し,「石けん百貨」,「石鹸百貨」及び「石鹸百科」というキーワード検索から実際に原告の商品が購入された件数は,1か月当たり175.84件であった。

そして,原告のインターネット利用による売上げのうち,平成24年3月から平成25年2月までの1年間における1回当たりの平均売上金額は6045円であり,売上げに対する粗利率は37.86パーセントであるから,インターネット利用購入に対する1回当たりの平均利益は,約2288.64円である。

そうすると,原告は,少なくとも1か月当たり平均40万2434円(2288.64円×175.84)の利益を得て,年間で平均約482万9208円の利益を得ており,被告も,少なくとも年間で平均482万9208円の利益を得ているものと考えられる。そして,被告は,少なくとも平成17年9月30日以降,利益を得ており,原告は,本件表示により被告が得た8年分以上の利益に相当する損害を受けている(商標法38条2項,不正競争防止法5条2項)。

したがって,原告は,少なくとも3863万3664円の損害を受けており,このうち,3年分の損害に相当する1448万7624円の支払を請求する。

(2) 弁護士費用

本件での弁護士費用は144万8762円を下らない。

(3) 合計額

以上のとおり,原告は,合計1593万6386円の損害を被った。

【被告の主張】

被告は,「石けん百貨」等に係る商品を販売するものではなく,広告経費が原告よりも高額であるとの前提は誤っている。

また,原告が退店した後,楽天市場において,「石けん百貨」等の名称の店舗は存在せず,楽天市場リスト表示画面には,本来,何も表示されないから,広告に伴って利益が上がることもない。

したがって,被告による本件表示が,商標権侵害行為又は不正競争行為に該当したとしても,被告には利益が生じていない。

第4当裁判所の判断

1  認定事実

前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  アドワーズ広告等における被告によるキーワードの登録の仕組み(乙17,19)

●(省略)●

(3)  楽天市場リスト表示画面での表示の仕組み

前提事実(6)記載のとおり,ユーザーが検索結果表示画面に表示された広告のハイパーリンクをクリックした場合,楽天市場リスト表示画面に移動する。

この楽天市場リスト表示画面は,楽天市場のサイトにおいて,広告に使用された登録キーワードで直接検索した場合に表示される画面と同じものである。その場合,楽天市場に出店する店舗の出店ページに当該キーワードが含まれていれば,当該出店ページにおいて販売されている商品のリストが自動的に陳列表示される。そして,ユーザーが表示された商品の欄をクリックすると,当該商品を販売している店舗の出店ページに移動し,当該商品を購入することができる。

他方,楽天市場に出店する店舗の出店ページに当該キーワードが含まれていなければ,楽天市場リスト表示画面では何らの商品も陳列表示されない。

(4)  本件での検索結果表示画面及び楽天市場リスト表示画面(甲21,22,51の1ないし3,甲52)

ア 前提事実(6)記載のとおり,少なくとも,平成24年8月から平成26年9月12日までの間,ユーザーがGoogle等において「石けん百貨」,「石けん百科」及び「石鹸百科」をキーワードとして検索を行うと,本件広告が表示された。そこでは,検索結果表示画面において,「【楽天】石けん百貨大特集」,「楽天/石けん百貨大特集」のように,「石けん」等と「百貨」等の間に半角のスペースがない本件表示(以下「スペースなし表示」という。)や,「石けん 百貨は楽天市場」,「石けん 百貨は楽天」「,石けん 百貨大特集」「,石鹸 百貨 楽天が格安」,「お探しの石鹸 百貨 楽天」,「石鹸 百貨 楽天大特集」,「石けん 百科大特集」のように,「石けん」等と「百貨」等との間に半角のスペースがある本件表示(以下「スペースあり表示」という。)が表示された。

そして,その上下には,「日本最大級通販サイト楽天」,「出店数3万店舗以上!」,「日本最大級の通販ショッピングモール“公式”」,「買えば貯まる 貯めて使える!楽天はポイントがついてとってもお得」,「プチプラアイテムから人気ブランドまで楽天で最旬モテコーデ完成」,「今売れているのはコレ 楽天なら 石けん 百貨もsale 価格で」,「石鹸 百貨 楽天からレアものまで 上手に GET しよう 楽天」,「最大ポイント10倍や無料配送で石鹸 百貨 楽天も手に入る 楽天」,「今売れているのはコレ!楽天なら石鹸 百貨 楽天も SALE 価格で」,「今売れているのはコレ!楽天なら石けん 百科も SALE 価格で」,「楽天スーパーSALE 実施中!石けん百貨を探すなら,日本最大級通販ショップ楽天」などの文言が表示され,さらに,楽天市場のURL「www.rakuten.co.jp/」がハイパーリンクとして表示された。

イ そして,少なくとも平成26年6月頃の時点では,本件広告のハイパーリンクである楽天市場のURLをクリックして,楽天市場リスト表示画面へ移行すると,「P1」が販売する「サンソリット スキンピールバーティートゥリー(赤)」等の複数の石けん商品及び「P2」が販売する「柚子石けん」が商品として陳列表示された。

ウ なお,平成27年11月26日の時点で,楽天市場のサイトにおいて「石けん 百貨」(スペースあり表示)をキーワードとして検索すると,楽天市場リスト表示画面には,出店ページにおいて「石けん」又はその類似語と「百貨」又はその類似語が使用された加盟店の商品(例えば「アイラブルージュ矢尾百貨店」の「柿渋石鹸」)が陳列表示された。

(5)  被告の規約等(乙2,6)

ア 被告は,「楽天市場出店規約」において,加盟店に対して,第三者の知的財産権等の権利の侵害や第三者に不利益を与える行為を禁止し(第18条1項(5)),これに対する違反を解除事由として定めている(第26条1項(1))。

また,被告は,ガイドラインにおいて,「背景色と同じ文字色の文字記載,通常より小さなフォントでの文字記載,HTMLへの文字記載等,ユーザーが認識することができない文字記載を行うこと」(いわゆる隠れ文字)を「お客様へ混乱,誤解や迷惑を与える行為」として禁止している。

イ 被告が平成26年9月12日に本件の訴状を受領して調査したところ,前記「P1」の出店ページには,「石けん百貨」等が隠れ文字として使用されていた。そこで,被告は,同日,同店の商品ページをサーチ非表示にする措置を講じるとともに,同店に対し,上記隠れ文字の削除を求めた。

他方,前記「P2」については,被告が本件の訴状を受領する前に退店していたことから,隠れ文字の使用等を確認することはできなかった。

(6)  被告によるNGワードの管理状況(乙17,19)

●(省略)●

2  争点3(被告が別紙表示目録記載の文言を使用した検索連動型広告をするおそれの有無(差止めの必要性))について

●(省略)●

したがって,被告が別紙表示目録記載の文言を使用した検索連動型広告をするおそれがあるとは認められないから,その余について検討するまでもなく,本件での原告の差止請求(請求の趣旨1項ないし3項)はいずれも理由がない。

そこで,以下,損害賠償請求(請求の趣旨4項)について検討する。

3  争点1(被告による本件各商標権侵害の有無)について

(1)  単独の不法行為としての本件各商標権侵害の成否について

ア 本件表示がスペースなし表示の場合について

(ア) 原告は,「石けん百貨」等の標章を表示した本件広告に楽天市場リスト表示画面をハイパーリンク先として設定する行為が,商品に関する広告を内容とする情報に「石けん百貨」等という標章を付して電磁的方法により提供するものであり(商標法2条3項8号),本件各商標権を侵害するとの趣旨の主張をする。

(イ) 被告が運営する楽天市場が多数の加盟店から成るインターネットショッピングモールであることは,一般ユーザーの間に広く知られている事実であり,また,「石けん百貨」等の語は,普通名称ではなく,造語として理解される語である。そうすると,楽天市場の広告において,造語である「石けん百貨」等を用いて,「【楽天】石けん百貨大特集」等と表示されている場合には,その広告に接した一般ユーザーは,「石けん百貨」に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解するのが通常であると考えられる。

しかし,本件広告自体には,何らの商品も陳列表示されておらず,加盟店が提供するどの商品が「石けん百貨」等と関連するのかについて何ら表示されていないから,本件広告は,それを単体として捉える限り,本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められない。したがって,本件広告を単体で捉える場合には,本件各商標権侵害の成立は認められない。

この点について,原告は,本件広告は,本件各登録商標の顧客吸引力を利用してユーザーを楽天市場のサイトへと導くものであるから,本件各登録商標の出所識別機能や広告機能を害すると主張する。しかし,前記のとおり,本件広告は,それを単体で見る限り,具体的な商品について「石けん百貨」等を使用するものではないから,指定商品及び指定役務に関する本件各登録商標の出所識別機能を害するとはいえないし,本件広告が本件各登録商標の顧客吸引力を利用しているとしても,指定商品や指定役務に関する出所識別機能を害さない以上,本件各商標権を侵害するとはいえない。

(ウ) もっとも,原告の上記主張は,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体で捉えた上で,本件広告が移動後の楽天市場リスト表示画面に表示された商品についての広告であるとの趣旨を含むものと解されるので,次にこの点を検討する。

a まず,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体で捉える場合であっても,移動後の楽天市場リスト表示画面に何らの商品も陳列表示されない場合には,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められないから,本件各商標権侵害の成立が認められないことは前記と同様である。

b 他方,本件のように,移動後の楽天市場リスト表示画面において加盟店が提供する商品が陳列表示される場合については別途の検討を要する。すなわち,前記のとおり,本件広告に接した一般ユーザーは,「石けん百貨」等に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解すると考えられることからすると,その理解の下に本件広告中のハイパーリンクをクリックして楽天市場リスト表示画面に移動し,そこで加盟店が提供する石けん商品の陳列表示に接した場合には,その石けん商品が「石けん百貨」等に関連するものであるとの認識が生じ得る。そうすると,本件広告と楽天市場リスト表示画面とを一体で捉える場合には,本件表示をもって,「石けん百貨」等を石けん商品の出所識別標識として用いた広告であると解する余地がある。

しかし,前記認定事実(3)のとおり,移動後の楽天市場リスト表示画面において商品が陳列表示されるか否か,また,いかなる商品が陳列表示されるかは,各加盟店が出店ページでどのようなキーワードを使用しているかによって決まることになる。そして,前提事実(4)のとおり,各加盟店は,被告の関与なく,自らの責任で出店ページのコンテンツを制作していることからすると,移動後の楽天市場リスト表示画面において商品が陳列表示される場合でも,それを被告の行為として当然に本件広告と一体に捉えることはできないというべきであり,本件広告とリンク先の楽天市場リスト表示画面とを一体に捉えることができるためには,被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価し得ることが必要であると解するのが相当である。

c そこで,次にこの点を検討するに,加盟店が「石けん百貨」等に関連する石けん商品を何ら取り扱っていないにもかかわらず,石けん商品を販売する出店ページにおいて「石けん百貨」等の標章を明示的に又は画面上見えない隠れ文字として使用することは,被告が加盟店に対して,前記認定事実(5)の知的財産権侵害を禁止する規約や,隠れ文字の使用を禁止するガイドラインにより規制している行為である。このことからすると,加盟店の出店ページにおいて規約等に違反してキーワードが使用され,楽天市場リスト表示画面にそのキーワードを用いた商品が陳列表示されるというのは,本来予定されていない,想定外の事態であるということができる。このことからすると,本件において,被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価することはできないというべきである。

もっとも,前記認定事実(1)のとおり,●(省略)●本件広告が表示されることとなったとしても,なお,被告が移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価することはできないというべきである。

この点について,原告は,楽天市場の加盟店が規約等に違反する行為を行うことを全く想定できないとはいえない旨主張する。しかし,前提事実(4)のとおり,平成26年9月の時点で,楽天市場の登録店舗数は4万1718店,登録商品数は1億5000万点超であり,出店ページの内容も日々変化するものであることからすると,被告に対して各店舗の出店ページにおける規約等の違反を常時監視することを求めるのは,被告に不可能を強いるものであり,被告がそのような注意義務を負うと解することは相当でないというべきである。●(省略)●

d もっとも,既に上記のような想定外の事態が生じていることが判明している場合には,●(省略)●そのような事態が継続するのを防止する注意義務を負うと解するのが相当である。

しかし,前記認定事実(6)のとおり,被告は,本件の訴状によって初めて本件広告の存在を認識するや,直ちに「P1」の出店ページを調査してサーチ非表示するとともに隠れ文字の削除を求める一方,●(省略)●被告は注意義務を尽くしているというべきであり,この点からしても,被告が移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価することはできないというべきである。

この点について,原告は,被告が原告から前提事実(6)の平成17年9月30日付けの通知を受けた後は,●(省略)●しかし,前提事実(6)のとおり,原告は,同年7月頃までは楽天市場に出店しており,それに伴って「石けん百貨」等を用いたアドワーズ広告等も正当にされていたことからすると,退店の約3か月後の上記通知で指摘されたアドワーズ広告は,原告が出店していた当時のキーワード登録が残存していたことにより生じたものである可能性が高く,他の加盟店による規約等の違反行為により生じた想定外の事態であったとは認められない。そうすると,被告は,上記通知に対応してキーワード登録を削除した以上,それ以後に再び同じキーワード登録がされる事態が想定されないのは前記の場合と同様であるから,被告は注意義務を尽くしたというべきであり,原告の上記主張は採用できない。

また,原告は,平成17年に原告から警告を受けたにもかかわらず,●(省略)●しかし,この主張によれば,被告が検索連動型広告を利用することは事実上不可能となるが,被告の楽天市場のような多数の加盟店からなるインターネットショッピングモールは,多くの商品を全国的に提供する有用なシステムであり,ユーザーが入力したキーワードに応じて広告が表示される検索連動型広告も,商品を探す利用者にとって利便性のあるシステムであって,いずれも社会に根付き,広く活用されているものである。そして,他方で,被告は,加盟店を規約等によって規制することにより,検索連動型広告によって他者の商標権が侵害される事態が生じるのを防止する措置を講じており,加盟店がそれらに違反する事態は通常想定されないから,●(省略)●

e したがって,本件において,本件広告をリンク先の楽天市場リスト表示画面と一体として捉えることはできないから,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとは認められない。

(エ) 以上によれば,本件広告におけるスペースなし表示の使用が,本件各商標権を侵害するとは認められず,また,これまで述べてきたところからすれば,仮に客観的には本件各商標権侵害を構成するとしても,被告に故意があるとは認められず,また,注意義務違反(過失)もないというべきであるから,被告は損害賠償責任を負わない。

イ 本件表示がスペースあり表示の場合について

(ア) 本件広告で使用された本件表示が,「石けん 百貨は楽天市場」のように半角のスペースが挿入されているものの場合,一般にインターネット検索において複数の語を組み合わせる場合には,語と語の間にスペースを挿入することが広く知られているから,上記のようなスペースあり表示に接した一般ユーザーは,それが当然に「石けん百貨」等という造語を表示していると認識するとは限らず,「石けん」と「百貨」という2語を表示していると認識することもあり得る。●(省略)●そして,これらの場合には,その広告に接したそれらのユーザーが,「石けん百貨」等に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解するのが通常であるとはいえないから,たとえ移動後の楽天市場リスト表示画面において石けん商品が陳列表示された場合でも,その陳列表示商品が「石けん百貨」等に関連するとの認識を生じるとはいえず,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとはいえない。

(イ) これに対し,ユーザーが「石けん百貨」等とスペースを挿入せずにキーワードを入力して検索する場合には,「石けん百貨」等が普通名称でない造語であることからすると,そのユーザーは,まさに「石けん百貨」等を検索しようとしたものと考えられるから,●(省略)●その広告に接した上記ユーザーは,スペースが半角分しかないことも寄与して,「石けん百貨」等に関連する商品が楽天市場内で提供されている旨が表示されていると理解する可能性が高い。

しかし,その場合でも,本件広告を単体で捉える場合には,本件広告が本件各登録商標に係る指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品に関する広告であるとはいえないことは,先にスペースなし表示について述べたのと同様である。

他方,本件広告とリンク先の楽天市場リスト表示画面とを一体として捉えた場合については別途の検討を要する。前記認定事実(4)のとおり,本件広告で「石けん 百貨」等のスペースあり表示が使用された場合には,移動後の楽天市場リスト表示画面では,部分一致により,出店ページにおいて「石けん」と「百貨」の語を使用している加盟店の石けん商品が陳列表示されている。そして,この場合には,加盟店が「石けん」及び「百貨」をそれぞれ出店ページで使用することについて規約等の違反があるわけではないから,被告は本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で商品等が陳列表示されることを予定し,利用していると評価することができる。そうすると,本件広告と移動後の楽天市場リスト表示画面とを一体的に捉えることができ,ユーザーにおいて陳列表示された石けん商品が「石けん百貨」等に関連するものであるとの認識が生じ得ることから,スペースありの本件表示をもって,「石けん百貨」等を石けん商品の出所識別標識として用いた広告であると解する余地がある。

しかし,前記認定事実(1)のとおり,●(省略)●そして,このように考えると,スペースありの「石けん 百貨」等も,スペースなしの「石けん百貨」等と同様に,加盟店による規約等の違反行為のためにキーワードとして登録されるに至ったものであり,本来予定されていない,想定外の事態であるということができる。そして,この場合に,被告が求められる注意義務を尽くしていたといえることは先に述べたのと同様であるから,本件広告におけるスペースあり表示の使用が,仮に客観的には本件各商標権侵害を構成する行為であるとしても,被告には故意があるとは認められず,また,注意義務違反(過失)がないというべきであるから,被告は損害賠償責任を負わない。

ウ 以上のとおり,被告による本件広告における本件表示の使用行為が,本件各商標権を侵害する単独の不法行為を構成するとは認められない。

(2)  共同不法行為としての本件各商標権侵害の成否について

原告は,本件広告において「石けん百貨」等の本件表示を使用し,移動後の楽天市場リスト表示画面において石けん商品を表示する行為が,本件各商標権を侵害する被告と加盟店との共同不法行為を構成すると主張する。

しかし,前記のとおり,被告は,規約及びガイドラインによって,加盟店が出店ページにおいて第三者の知的財産権等の権利の侵害や隠れ文字の使用を禁止することにより,楽天市場リスト表示画面において「石けん百貨」等をキーワードとして検索しても商品等が表示されることがない措置をとっていたのであり,それにもかかわらず,加盟店がそれに違反したことにより,●(省略)●本件広告が表示されるに至ったのであるから,被告と加盟店の間に共同性を認めることはできない。

したがって,共同不法行為をいう原告の上記主張は採用できない。

(3)  小括

以上のとおり,被告が,本件広告での本件表示の使用行為によって,本件各商標権を侵害し,損害賠償責任を負うとは認められないから,本件各商標権侵害に基づく損害賠償請求は理由がない。

4  争点2(被告による不正競争行為の成否)について

(1)  まず,原告は,ユーザーが,本件広告をもって,原告店舗のサイトの広告であると誤認混同するおそれがあると主張する。

しかし,前記認定のとおり,本件広告には,広告である旨が明記されている上,「【楽天】石けん百貨大特集」などと,必ず「楽天」の語が使用されているから,楽天がインターネットショッピングモールとして周知であることからすると,原告の主張する誤認混同のおそれは認められない。

(2)  また,原告は,ユーザーは,本件広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面をもって,それらの商品を原告が販売していると誤認混同するおそれがあると主張する。

しかし,先に本件各商標権侵害について述べたのと同様に,本件広告には,具体的な商品の陳列表示がないから,本件広告を単体で捉えた場合に,本件表示が具体的な商品や店舗についての商品等表示として使用されているとは認められない。

また,本件広告を移動後の楽天市場リスト表示画面と一体で捉えることについても,先に本件各商標権侵害について述べたのと同様に,被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で商品等が陳列表示されることを予定し,利用しているとは評価し得ず,本件広告を移動後の楽天市場リスト表示画面と一体で捉えることができないか,又は,被告に故意又は過失があるとは認められず,加盟店との共同性も認められない。

したがって,被告が不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)による損害賠償責任を負うとは認められないから,不正競争防止法に基づく損害賠償請求は理由がない。

第5結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙松宏之 裁判官 田原美奈子 裁判官 林啓治郎)

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