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大阪地方裁判所 平成26年(ワ)8881号 判決 2015年10月28日

主文

1  被告は,原告に対し,120万円及びこれに対する平成25年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求める裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成21年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

(3)  執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とし,かつ,担保を条件とする仮執行免脱宣言

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は,平成21年5月19日死刑判決が確定し,同年6月3日から死刑確定者処遇となった者である。原告は,平成21年7月22日,和歌山地方裁判所に対し再審請求の申立てをしている。

(2)  原告は,死刑確定後,再審請求のため,再審請求弁護人としてP1弁護士,P2弁護士,P3弁護士,P4弁護士,P5弁護士,P6弁護士,P7弁護士,P8弁護士,P9弁護士,P10弁護士,P11弁護士を選任し,この再審請求弁護人である弁護士らと面会した。面会の度に,拘置所の職員に立会いをされ,会話内容を全て記録された。

原告は,事前にA拘置所長宛て「無立会願い」「時間延長願い」「パソコン使用願い」を提出したが,毎回,職員が立ち会って会話を記録するほか,十分な打合せの時間を確保することができず30分で打ち切られ,弁護士が証拠収集したパソコンの使用も許可されない。

(3)  原告は,弁護士との打合せが職員の立会いにより行われ,かつ,短時間であったことから十分な打合せができずに,死刑判決の再審裁判における原告の権利を害し続けた。

原告の肉体的精神的苦痛を慰謝するには1000万円を下らない。

(4)  よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき1000万円及びこれに対する平成21年5月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)は認める。

(2)  請求原因(2)のうち,次の事実の限度で認める。

ア 原告が,平成23年11月9日から平成25年11月1日までの間,別紙面会一覧表「無立会願箋」欄のとおり,合計23回願箋を提出して,再審請求弁護人との面会の際,A拘置所の職員が立ち会わないよう願い出たこと

イ A拘置所長が,いずれの場合も職員を立ち会わせたこと

ウ 原告が,平成23年12月7日から平成25年11月1日までの間,別紙面会一覧表「時間延長願箋」欄のとおり,合計18回願箋を提出して,再審請求弁護人との面会の際,面会時間を30分よりも長い時間に延長するよう願い出たこと

エ A拘置所長が,いずれも面会時間を延長する必要性について具体的な疎明をしなかったこと等から無制限の延長は認めないものの,必要に応じて面会時間を斟酌することとしたこと

オ 原告が,平成24年6月21日及び平成25年5月2日までの間,別紙面会一覧表「パソコン使用願箋」欄のとおり,合計2回,願箋を提出して,再審請求弁護人との面会の際,再審請求弁護人のパソコンの使用を認めるよう願い出たこと

カ A拘置所長が,いずれもパソコンの使用を認めなかったこと

(3)  請求原因(3)は争う。

3  抗弁

原告は,平成21年5月19日以降の各措置の違法を主張しているところ,被告は,原告が訴えを提起した平成26年9月18日の時点で,既に3年を経過しているA拘置所長の措置に関する損害賠償請求権については,既に消滅時効が完成している。

被告は,平成27年9月2日の口頭弁論期日において,時効を援用する旨の意思表示をした。

4  抗弁に対する認否

争う。

第3証拠

証拠関係は,本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  抗弁

まず,抗弁について判断する。原告は,平成21年5月19日から提訴時までのA拘置所長の措置が国家賠償法1条1項の違法行為に該当するとして損害賠償の請求をしている。これに対して,被告は,原告が訴えを提起した平成26年9月18日の時点で,既に3年を経過しているA拘置所長の措置に関する損害賠償請求権については,既に消滅時効が完成している旨主張して,時効を援用する旨の意思表示をしている。

ところで,国家賠償法4条,民法724条は,「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する。」と規定する。原告が本件訴えを提起したのは,平成26年9月18日であるから,同日時点で3年を経過しているA拘置所長の措置に関する損害賠償請求権については,被告による時効の援用により消滅していることになる。被告の主張は理由がある。

そこで,本件では,平成23年9月18日以降の損害賠償請求権の成否について検討することとする。

2  事実認定

請求原因(1)は当事者間に争いがない。また,請求原因(2)のうち,原告が,平成23年11月9日から平成25年11月1日までの間,別紙面会一覧表のとおり,合計23回,願箋を提出して再審請求弁護人との面会の際,A拘置所の職員が立ち会わないよう願い出たこと,A拘置所長が,いずれの場合も職員を立ち会わせたこと,原告が,平成23年12月7日から平成25年11月1日までの間,別紙面会一覧表のとおり,合計18回願箋を提出して,再審請求弁護人との面会の際,面会時間を30分よりも長い時間に延長するよう願い出たこと,A拘置所長が,いずれも面会時間を延長する必要性について具体的な疎明をしなかったこと等から無制限の延長は認めないものの,必要に応じて面会時間を斟酌することとしたこと,原告が,別紙面会一覧表のとおり,平成24年6月21日及び平成25年5月2日の2回,願箋を提出して,再審請求弁護人との面会の際,再審請求弁護人のパソコンの使用を認めるよう願い出たこと,A拘置所長が,いずれもパソコンの使用を認めなかったことは当事者間に争いがない。

この争いのない事実に加え,証拠(乙5の1ないし14,6の1ないし23,7の1ないし18,8の1,2,9ないし14,16)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定事実に反する証拠は採用しない。なお,事実認定に供した主な証拠は再掲する。

(1)  原告は,平成21年5月19日死刑判決が確定し,同年6月3日から死刑確定者処遇となった者である。原告は,平成21年7月22日,和歌山地方裁判所に対し再審請求の申立てをしている。また,原告は,再審請求弁護人として,P1弁護士,P2弁護士,P3弁護士,P4弁護士,P5弁護士,P6弁護士,P7弁護士,P8弁護士,P9弁護士,P10弁護士,P11弁護士を選任している。(争いがない)

(2)  原告は,平成23年11月16日,P6弁護士及びP7弁護士と,同日11時10分から11時41分までの31分間,職員立会いの下で面会した。原告は,面会に先立ち,同月9日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出たが,A拘置所長は,原告からの再審請求弁護人との面会について,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)121条ただし書の「立会いをさせないことを適当とする事情がある場合」に該当するものの,次のアないしウの言動等を踏まえ,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。(乙5の1,6の1,11)

ア  A拘置所は,従前から,原告に自殺・自傷を窺わせる発言があったことから,原告を要注意者(自殺・自傷・好訴性・暴行)に指定するなどして,原告の動静について厳重な視察を続けていた。

イ  分類部上席統括矯正処遇官は,平成23年3月24日,原告に対し,面接調査を実施した結果,原告の精神状態について,次のとおり,分析した。

(ア) 自己愛性人格障害の特徴及び境界性人格障害の特徴とを併せ持っており,特に,女子職員に対する不満は強く,直接的な暴行等の攻撃行動や,周囲を困らせる意図での自傷や自殺企図に及ぶことが十分に考えられる。

(イ) 現実が自分の思うようにならないと思い至った時に,自分を陥れた権力の攻撃といった意味付けをして死を選ぶ可能性は十分にある。

(ウ) 外部交通等で不都合な消息に触れた場合に心情を乱すことが懸念され,不快な感情に耐える力がないため不適切な行動に結びつく危険性は極めて高い。

ウ  統括矯正処遇官は,平成23年7月12日,原告に対し,職権面接を実施した結果,原告は,懲罰を受けたことに関して反則行為は止めるようにと指導したところ,「やったらあかんって分かってるけどやめられへん。刺激と変化が欲しい。」などと述べた。

A拘置所統括矯正処遇官は,原告のこのような言動から,原告が今後においても,将来を悲観して人生の終結を決意し,計画的又は突発的に自殺・自傷行為に及ぶおそれがあると認められた上,突発的に暴行等に及ぶおそれも顕著であったことから,要注意者として更に厳重に動静視察を継続していくこととした。

(3)  原告は,平成23年12月2日,P6弁護士及びP7弁護士と,同日9時51分から10時22分までの31分間,面会した。(乙5の2)

(4)  原告は,平成24年1月31日,P6弁護士と,同日10時06分から10時44分までの38分間,面会した。原告は,面会に先立ち,平成23年12月7日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに時間延長を願い出た。しかし,A拘置所長は,(2)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は8分間延長を認めた。(乙5の3,6の2,7の1)

(5)  原告は,平成24年3月13日,P2弁護士と,同日10時44分から11時18分までの34分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年2月1日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに時間延長を願い出るとともに,同年3月1日にも,再度面会に職員が立ち会わないよう願い出た。しかし,A拘置所長は,(2)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は4分間延長を認めた。(乙5の4,6の3,6の4,7の2)

(6)  原告は,平成24年4月11日,P6弁護士,P8弁護士及びP10弁護士と,同日10時11分から10時59分までの48分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年3月14日及び4月3日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに時間延長を願い出た。A拘置所長は,(2)と同様の理由に加え,首席処遇矯正処遇官(分類担当)が,同年3月22日,原告に対し職権面接を実施した結果,原告がA拘置所長に対し頻繁に苦情の申出を行っていることについて,「苦情の申出をすれば・・・気に入らない職員に残業をさせて,帰宅を遅くさせることができる。」など述べるなどしており,苦情の申出の多くは,職員の指示,指導を曲解して心情を害したとするものや特定の職員に対する不満を執ように繰り返すものであることなどから,原告の精神状態について,「職員への不満を募らせるばかりなので,暴行等の直接的な攻撃行動に出る危険性を常にはらんでおり,職員を困惑させるために自傷・自殺企図に及ぶおそれも多分にあるものと思われる」等の所見を示したことなどを踏まえ,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は18分間延長を認めた。(乙5の5,6の5,6の6,7の3,7の4,12)

(7)  原告は,平成24年6月20日,P2弁護士と,同日10時2分から10時28分までの26分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年4月12日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに時間延長を願い出た。A拘置所長は,(5)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。(乙5の6,6の7,7の5)

(8)  原告は,平成24年7月3日,P2弁護士と,同日10時41分から11時11分までの30分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年6月21日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに,時間延長及びパソコンの使用を願い出た。A拘置所長は,(5)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。また,面会時間を延長する必要が認められなかったので延長しなかった。さらに,面会においてパソコンの使用を認めなかった。(乙5の7,6の8,7の6,8の1)

(9)  原告は,平成24年12月13日,P6弁護士及びP9弁護士と,同日10時11分から11時22分までの71分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年7月5日,8月1日,9月3日,10月1日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出た。また,同年8月1日,9月3日,10月3日,面会時間の延長を願い出た。A拘置所長は,(5)と同様の理由に加え,統括矯正処遇官が,同年9月25日,原告に対し面接した結果,原告が「支離滅裂な内容を,身振り手振りを交えながら,口角に泡をためるほど,とめどなくまくし立て」た内容について,「事実と雑誌等で知り得た内容が錯綜しているものと思われたが,・・・本人の様子からうそを言っているという意識はなく,妄想状態にあるものと」疑ったという分析等を踏まえ,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は41分間延長を認めた。(乙5の9,6の9ないし12,7の7ないし9)

(10)  原告は,平成25年3月4日,P2弁護士と,同日10時57分から11時26分までの29分間,面会した。原告は,面会に先立ち,平成24年12月14日,平成25年1月4日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに,面会時間の延長を願い出た。A拘置所長は,(8)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。また,面会時間を延長する必要が認められなかったので延長しなかった。(乙5の10,6の13,6の14,7の10,7の11)

(11)  原告は,平成25年4月12日,P6弁護士と,同日16時07分から16時47分までの40分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年3月8日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに,面会時間の延長を願い出た。A拘置所長は,(8)と同様の理由で,原告の心情がいまだ安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことから,職員の立会いを付さないことが相当であるとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は10分延長した。(乙5の11,6の15,7の12)

(12)  原告は,平成25年6月27日,P11弁護士及びP9弁護士と,同日11時06分から12時07分まで61分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年4月15日,5月1日,6月3日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出た。また,4月15日,5月2日,6月3日,面会時間の延長を願い出た。さらに,5月2日,パソコンの使用を願い出た。A拘置所長は,(8)と同様の理由に加え,同年4月10日,原告が面会室に連行される際,職員から,脇見しないよう指導されたことに対し,「ええがな」と言って聞こえよがしに不満を口にするなど,反抗的な態度を示したことなどを踏まえ,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。また,パソコンの使用も許可しなかった。ただし,面会時間は31分延長した。(乙5の12,6の16,6の17,6の18,7の13,7の14,7の15,8の2)

(13)  原告は,平成25年10月8日,P9弁護士及びP6弁護士と,同日14時34分から15時18分までの44分間,面会した。原告は,面会に先立ち,同年7月1日,同月19日,8月1日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出た。また,7月1日,面会時間の延長を願い出た。A拘置所長は,同年7月22日及び同年8月1日,原告について,同年7月4日付けで,要注意者(自殺・自傷・好訴性・暴行)から要視察者(自殺・自傷)及び要注意者(好訴性)に指定を変更したものの,(8)と同様の理由で,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は14分延長した。(乙5の13,6の19,6の20,6の21,7の16)

(14)  原告は,平成25年11月7日,P9弁護士と,同日10時51分から11時47分までの56分間,面会した。原告は,面会に先立ち,10月9日,11月1日,再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出るとともに,面会時間の延長を願い出た。A拘置所長は,(8)と同様の理由に加え,7月23日に行われた原告の処遇チームのミーティングにおいて,原告の言動に関し,「女子職員だけで本人を連行した際,職員の指示,指導に対して,最終的には従うものの,不満を口に出すなど反抗的な態度を示すことがある。」との報告があったこと,原告が,同月26日,Bとの面会において,同人に対し,「私は金とコネで職員をおさえているんよ。『Xさん,こんなん書いてますよ。』と夜勤者がいうてくるんよ。」等との会話があったことから,上席統括矯正処遇官が面接を実施した結果,原告が,「6舎の担当の男の職員が当所に収容中の原告の支援者である暴力団員に頼まれてやっている等と目を細めて薄ら笑いを浮かべながら,口角に泡をため,とどめなく話すが,暴力団員を特定するよう申し向けると,名前は言えない,殺される等と支離滅裂な内容を申し述べ,以前の新聞報道等で知り得た情報が原告の中では事実となっているものと思われたが,原告の話す様子からはうそをついているという認識はなく,妄想状態にあるのではないかと疑われた」ことなどを踏まえ,原告は,いまだ心情が安定しているとは認められないと判断して,職員の立会いのない面会を許可しなかった。ただし,面会時間は26分延長した。(乙5の14,6の22,6の23,7の17,7の18)

(15)  A拘置所長は,原告からの再審請求弁護人との面会に職員が立ち会わないよう願い出をしたのに対し,これを不適当として許可しないこととしたが,回答義務がないとして,受理に留めて,一切回答してない。(乙6の1ないし23,弁論の全趣旨)

3  関係法令等の定め

(1)  刑事収容施設法

「刑事施設の長は,その指名する職員に,死刑確定者の面会に立ち会わせ,又はその面会の状況を録音させ,若しくは録画させるものとする。ただし,死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において,相当と認めるときは,この限りでない。」(121条)

「刑事施設の長は,死刑確定者の面会に関し,法務省令で定めるところにより,面会の相手方の人数,面会の場所,日及び時間帯,面会の時間及び回数その他面会の態様について,刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要な制限をすることができる。」「前項の規定により面会の回数について制限をするときは,その回数は,1日につき1回を下回ってはならない。」(122条,114条)

(2)  刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則

「刑事収容施設法114条1項の規定により被収容者の面会の時間を制限するときは,その時間は,30分を下回ってはならない。ただし,面会の申出の状況,面会の場所として指定する室の数その他の事情に照らしてやむを得ないと認めるときは,5分を下回らない範囲内で,30分を下回る時間に制限することができる。」(73条)

(3)  被収容者の外部交通に関する訓令の運用について(乙1の1,平成19年5月30日付け矯成第3350号矯正局長依命通達,以下「原通達」という。)

「刑事収容施設法121条1項ただし書による面会の立会い等の省略については,例えば,死刑確定者が受けた処遇に関して弁護士法3条1項に規定する職務を遂行する弁護士や再審請求等の代理人たる弁護士との面会については,立会い等の措置を省略すべきというものではなく,立会い等の措置の省略を相当と認めることが必要であり,その判断に当たっては,立会い等の措置を省略することにより刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められるかどうか,死刑確定者の心情を把握するため立会い等の措置を執ることが必要であるかどうかを個別に検討することが必要であること。」(26(4))

(4)  「被収容者の外部交通に関する訓令の運用について」の一部改正について(乙1の2,平成25年12月25日付け矯成第2822号矯正局長依命通達,以下「改正通達」という。)

「再審請求弁護人との面会においては,再審に係る弁護人選任届が示され,かつ,死刑確定者又は再審請求弁護人から再審請求に向けた打合せ等を省略することにより刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ,又は死刑確定者の心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り,立会い等をすることは相当でないところ,死刑確定者が置かれた特殊な状況に鑑み,死刑確定者は,容易に,極めて大きな精神的苦悩や動揺に陥ることがあると考えられることから,特段の事情の有無の判断に当たっては,個別の事情を慎重に検討すること。」

(5)  死刑確定者処遇規程(乙3,平成22年2月22日A拘置所長達示第3号)「再審請求のため,死刑確定者と弁護士(人)と面会する場合には,一般面会室で行うものとする。ただし,処遇首席において,一般面会室で面会を行わせることが相当でないと認めた場合には,この限りでない。」「2 再審請求のため,死刑確定者と弁護士(人)と面会する場合には,原則として職員を立ち会わせるものとする。」「3 前項の面会に係る時間は,おおむね30分以内とし,面会を行う際に当該死刑確定者と弁護士(人)にその旨告知するものとする。」(21条)

(6)  弁護人が被告人との接見時に携帯型パソコン等の使用を願い出た場合の取扱いについて(乙2,平成13年11月30日付け矯保4001号矯正局保安課長通知)

パソコン等の使用は,訴訟上の必要に基づく記録用等の使用目的に限るものとし,パソコン等の録音・再生機能,録画・再生機能,電話等の通信機能は,いずれも使用できない旨を通知すること。なお,これらの機能が使用できないのは,録音・録画及び再生機能については,使用・作成したデータについての的確な検査が極めて困難であること,通信機能については,その使用が接見交通権の範囲を超えるものであるためであること。

4  面会における職員の立会い

(1)  刑事施設の長は,被収容者と外部の者との面会に関する許否の権限を有しているところ,当該施設の規律及び秩序の維持,被収容者の矯正処遇の適切な実施等の観点からその権限を適切に行使するよう職務上義務付けられている(刑事収容施設法2編2章11節2款)。そして,死刑確定者については,刑事収容施設法121条本文において,その指名する職員が立ち会うか,又はその面会の状況の録音若しくは録画をすることを原則としつつ,同条ただし書は,死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のため秘密面会を許すか否かの措置を刑事施設の長の裁量に委ね,当該正当な利益を一定の範囲内で尊重するよう刑事施設の長に職務上義務付けている。

ところで,刑事訴訟法440条1項は,検察官以外の者が再審請求をする場合には,弁護人を選任することができる旨規定しているところ,死刑確定者が再審請求をするためには,再審請求弁護人から援助を受ける機会を保障する必要があるから,死刑確定者は,再審請求をしている場合には,刑事収容施設法121条ただし書にいう「正当な利益」として,再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有する。そうすると,死刑確定者が再審請求手続に向けた打合せをするために秘密面会の申出をした場合に,これを許さない刑事施設の長の措置は,秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ,又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえてその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。

(2)  これを本件についてみると,上記認定事実によれば,原告は,死刑確定者であるが,既に再審請求をしている者であること,再審請求弁護人として,P1弁護士,P2弁護士,P3弁護士,P4弁護士,P5弁護士,P6弁護士,P7弁護士,P8弁護士,P9弁護士,P10弁護士,P11弁護士を選任していること,平成23年11月16日から平成25年11月7日までの間にこれらの弁護士が面会に来ていることが認められるから,原告には,再審請求弁護人との間で秘密面会をする利益があるものと解される。

そして,原告は,いずれの面会にも,面会に先立って,1回ないし3回にわたり,職員の立会いのない秘密面会の願い出をしているのに,A拘置所長は,いずれも秘密面会を許可しなかった。その理由について,被告は,いずれの場合も,原告が要観察者に指定されることのほか,原告の普段の言動や面接の結果を総合して,原告がいまだ心情が安定しているとは認められず,原告の心情を把握する必要性が高いことを挙げているが,これらの事情だけでは,特段の事情があるとはいえない。A拘置所長は,改正通達ではなく,原通達に基づいて判断しているにすぎず,原告の秘密交通の利益を考慮した措置をしたとはいえない。

そうすると,A拘置所長が原告からの秘密面会の申出をいずれも許可しなかった措置は,死刑確定者である原告と再審請求弁護人との間の秘密交通の利益を保護尊重すべきA拘置所長が裁量権を逸脱し又はこれを濫用して原告の秘密交通の利益を侵害したものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となるというべきである。

(3)  なお,原告には,再審請求弁護人との間の秘密交通の利益があるというべきであるから,原告から再審請求弁護人と面会に職員を立ち会わせないよう願い出た場合には,A拘置所長には応答義務があるというべきである。したがって,A拘置所長が,上記認定のとおり,原告の願い出に対して応答しないことは,応答義務に反したものと解するのが相当である。

また,死刑確定者には,刑事収容施設法上の再審請求弁護人との間の秘密交通の利益があるというべきであるから,「再審請求のため,死刑確定者と弁護士(人)と面会する場合には,原則として職員を立ち会わせるものとする。」旨を定めたA拘置所の死刑確定者処遇規程(乙3)は,原通達には適合するものの,刑事収容施設法に抵触する内規であると解するのが相当である。

5  時間延長,パソコン使用

原告は,13回の面会のうち,11回について時間延長の願い出をしたのに認められなかったと主張する。しかし,A拘置所長は,面会状況に照らして,1分から31分の延長を認めているから,原告の主張はそもそも前提を欠く主張といわざるを得ない。また,面会時間に関する法令の定めはないものの,A拘置所長は,死刑確定者処遇規程において,「再審請求のため,死刑確定者と弁護士との面会は一般面会室において行い,面会にかかる時間はおおむね30分以内」と定めているが,これは,拘置所という場所,人的資源が限られている刑事収容施設の性質等に照らせば著しく不合理な制限とはいえない。そうすると,面会時間を30分以内とし,面会状況に照らして延長を認めているA拘置所長の措置が裁量権を逸脱したものということはできない。この点についての原告の主張は採用できない。

原告は,パソコン使用の願い出をしたのに認められなかったと主張する。確かに,上記認定事実によれば,13回の面会のうち,2回パソコン使用を願い出ているが,いずれも許可されなかった。ところで,法律上,接見の際にパソコンの使用を認める規定はなく,上記法令等の定めのとおり,弁護人が被告人との接見時に携帯型パソコン等の使用を願い出た場合の取扱いについて,法務省内に内規があるにとどまるから,これを法的に保護された権利ないし利益とまで解することはできない。そうすると原告のパソコンの使用の願い出は法令上の根拠を欠くものである。原告の主張は採用できない。

6  損害について

原告は,上記13回の面会のうち,12回について職員の立会いのない面会を願い出たにもかかわらず,A拘置所長は,この願い出を許可しなかった結果,再審請求の打合せを秘密のうちにすることができなかった。原告は,面会に先立ち,最低1回,多いときには4回の願い出をしていること,A拘置所長は,原告の願い出に対していずれも応答しなかったこと,その他本件に現れた上記認定の諸事情を総合考慮すると,職員の立会いのない面会を許されなかった原告が被った精神的苦痛を慰謝するには,120万円が相当であると考える。

遅延損害金については,遅くとも,最終面会である平成25年11月7日から遅滞に陥るものと解される(あるいは,同日までの不法行為に基づく損害を120万円と算定するのが相当である)から,同日をもって遅延損害金の起算日とする。

7  訴訟費用の負担及び仮執行の宣言について

原告は,本件請求として1000万円の損害賠償を求めているものの,その請求のうち,理由があるのは120万円の限度である。そうすると,訴訟費用もこれに相応して負担させるのが原則である。しかしながら,原告は死刑確定者であって訴訟救助を受けていることに加え,被告が国であること,その他本件に現れた上記認定の諸事情を考慮すると,訴訟費用は全部被告に負担させるのが相当である。

原告は,認容部分について仮執行の宣言を求めている。ところで,被告は,国であり,判決が確定した場合にその資力や支払能力に問題はない。その上,原告が矯正施設に収容されることを考慮すると,認容部分に仮執行の宣言を付することは相当でない。したがって,仮執行の宣言は付さないこととする。

8  よって,本件請求は一部理由があるから主文第1項の限度で認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条ただし書,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉浦徳宏 裁判官 井上博喜 裁判官 坂口和史)

(別紙省略)

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