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大阪地方裁判所 平成26年(行ウ)117号 判決 2015年6月17日

主文

1  被告は,Aに対し,225円及びこれに対する平成26年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを100分し,その99を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,Aに対し,9万8742円及びこれに対する平成26年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。

第2事案の概要

1  本件は,交野市の住民である原告が,交野市長であったAが在任中公務以外に公用車を使用し,運転手等の人件費及びガソリン代について支出したことは違法であり,交野市はAに対して不法行為若しくは債務不履行に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有しているにもかかわらず,被告は上記請求を違法に怠っていると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,交野市の執行機関である被告を相手に,Aに対して損害賠償請求又は不当利得返還請求として上記人件費及びガソリン代の合計9万8742円及びこれに対する平成26年6月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金ないし利息の支払を請求するよう求める住民訴訟である。

2  前提となる事実(顕著な事実,当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告は,交野市の住民である。

イ 被告は,交野市の執行機関(市長)である。

ウ Aは,少なくとも平成▲年▲月▲日から同年▲月▲日までの間,交野市長の職にあった。

(2)  Aによる公用車の使用

ア Aは,平成▲年▲月▲日,「B堺市長を励ます集い」(以下「本件励ます集い」という。)に出席し,その際,交野市役所から会場である堺市内のホテルまで及び同ホテルから交野市内の自宅まで公用車を使用した。(甲2~4,14,乙2)

イ Aは,同年9月15日,堺市長選挙の候補者であるBの選挙の出陣式(以下「本件出陣式」という。)に出席し,その際,交野市内の自宅から堺市内の会場まで公用車を使用した。(甲6,14)

ウ Aは,同年11月9日,「C高等専門学校創立50周年記念式典」(以下「本件記念式典」という。)に出席し,その際,交野市内の自宅から会場である寝屋川市内のC高等専門学校(以下「C高専」という。)まで公用車を使用した。(甲7,8,14)

エ Aは,同月16日,「C高等専門学校創立50周年記念総会・祝賀会」(以下「本件記念総会等」という。)に出席し,その際,交野市内から大阪市内の会場まで公用車を使用した。(甲8,9,14)

オ Aは,同月24日,「D党前進の集い▲」(以下「本件前進の集い」という。)に出席し,その際,交野市内の自宅から会場である大阪市内のホテルまで及び同ホテルから自宅まで公用車を使用した。(甲10,11,14,乙5,6)

カ Aによる上記ア~オの公用車の使用(以下,これらを併せて「本件各公用車使用」と総称する。)の際の随行者,ガソリン代及び人件費(ただし,管理職分を除く。)は,別紙のとおりである。

(3)  監査請求

ア 原告は,平成26年3月20日付けで,交野市監査委員に対し,Aに対する本件各公用車使用に関するガソリン代及び人件費の返還請求をすること等を求めて監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った。(甲14)

イ 交野市監査委員は,同年5月16日付けで,原告に対し,本件監査請求には理由がない旨の監査結果を通知した。(甲14)

(4)  本件訴訟の提起

原告は,平成26年6月12日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)

3  争点及びこれに対する当事者の主張

本件の争点は,①Aによる本件各公用車使用が違法であるか(争点1),②交野市の被った損害,損失及びAの利得等(争点2)であり,これらの点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

(1)  争点1(本件各公用車使用の違法性)

(原告の主張)

普通地方公共団体の首長が各種団体等の主催する会合に列席するなどの交際が,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであった場合,それが,普通地方公共団体の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されるというべきである(最高裁平成18年12月1日第二小法廷判決・民集60巻10号3847頁参照)。

しかし,Aによる上記2(2)ア~オの各会合(以下,これらを併せて「本件各会合」という。)への出席のための本件各公用車使用は,以下のとおり,公用車を公務に使用したものということはできず,違法である。市長が公用車を使用する場合については,移動の目的,場所,移動前後の活動の状況等を総合的に勘案して,公用車の使用の適法性を判断すべきとする被告の主張は,公用車を公務以外に使用してはならない旨定める交野市庁用自動車管理規程と相容れないものであり,妥当ではない。

ア 本件励ます集い

本件励ます集いは,政治資金規正法8条の2所定の政治資金パーティー(以下,単に「政治資金パーティー」という。)であり,Bが堺市長として開催したものではなく,一政治家として政治資金を集めるために開催したものである。したがって,AがBと公的な関係があるとしても,Aが本件励ます集いに出席して市長としては唯一挨拶を行い,一政治家の政治資金の収集に協力することは,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることはできず,たとえ現職首長が同種の会合に出席することが慣例であるとしても,社会通念上儀礼の範囲にとどまるということもできない。実際,大阪府及び大阪市においては,政務と公務とを区別するため,知事及び市長を政治活動の会場に公用車で送ることを禁止しており,このことからも本件励ます集いに出席することが社会通念上儀礼の範囲にとどまらないことは明らかである。

イ 本件出陣式

本件出陣式は,Bが堺市長として開催したものではなく,一政治家として行う選挙活動の一環である。したがって,Aがこのような目的を有する本件出陣式に出席することは,特定の候補者を支援することを明らかにすることであって,地方公共団体が他の地方公共団体の選挙において特定の候補者を応援することは行政の中立性の観点から許されないのであるから,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることはできず,たとえ現職首長が出陣式に出席することが慣例であるとしても,社会通念上儀礼の範囲にとどまるということはできない。上記アの大阪府及び大阪市の取扱いからも本件出陣式に出席することが社会通念上儀礼の範囲にとどまらないことは明らかである。

ウ 本件記念式典

Aは,交野市長ではなくC高専同窓会会長として本件記念式典に出席したのであって,交野市の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程におけるものではない。また,学校の設立経緯や発言内容によって公務該当性が左右されることはない。したがって,本件記念式典に出席することが交野市の事務に随伴するものと捉える余地はなく,公務に該当しないことは明らかである。

エ 本件記念総会等

(ア) Aは,交野市長ではなくC高専同窓会会長として本件記念総会等に出席したのであって,交野市の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程におけるものではない。したがって,本件記念総会等に出席することが交野市の事務に随伴するものと捉える余地はなく,公務に該当しないことは明らかである。

(イ) 公務と公務の間の私用に公用車を使用することができる旨の後記(被告の主張)エ(イ)は,公用車の使用の適法性が市長の都合に左右されることになり,妥当ではない。移動時の連絡態勢については,原則として携帯電話でどこでも連絡を取ることは可能であり,公用車でなければ連絡が取れないことはない。

また,Aは,平成▲年11月16日,本件記念総会等に約3時間半出席していたのであり,同日の行事の中で最も長時間参加していた行事であって,交野市内から大阪市内までの公用車の使用は本件記念総会等への出席を主目的としたものである。

オ 本件前進の集い

本件前進の集いは,政治資金パーティーであり,本件前進の集いに出席して一政党の政治資金の収集に協力し,特定の政党を支援していることを表明することは,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることはできないし,行政の中立性を損なうものであるから,社会通念上儀礼の範囲にとどまるということもできない。上記アの大阪府及び大阪市の取扱いからも本件前進の集いに出席することが社会通念上儀礼の範囲にとどまらないことは明らかである。

(被告の主張)

普通地方公共団体である市の首長である市長は,市を統轄してこれを代表し(地方自治法147条),市の事務を管理しこれを執行し(同法148条),その職務は多岐にわたるものであり(同法149条参照),また,市長は特別職に属する地方公務員であって,勤務時間や休暇が定められておらず(地方公務員法3条3項4号,4条2項,24条参照),公務が一般職に属する地方公務員(以下「職員」という。)の勤務時間外や休日に行われることも少なくないことから,市長がその職務を円滑に遂行するために,機動的な移動手段を確保し,移動時においても常に連絡が取れる態勢にあることが必要である。そうすると,市長が公用車を使用する場合については,職員と同様に解すべきではなく,移動の目的,場所,移動前後の活動の状況等を総合的に勘案して,公用車の使用の適法性を判断すべきである。

そして,Aによる本件各公用車使用は,以下のとおり,公用車を公務に使用したものであって,違法ではない。

ア 本件励ます集い

本件励ます集いは,政治資金パーティーではあるが,「交野市長 A」宛てで案内が送付されてきたことからも明らかなように,Aは,慣例により,同じ大阪府内の自治体首長として来賓との位置付けで出席要請を受けたものであって,市長としての立場で挨拶する機会も与えられており,会費又は参加費といった交際費の支出もない。また,Aは,大阪府市長会の会員としても,Bが企業長となっている特別地方公共団体である大阪広域水道企業団を組織する地方公共団体の首長としても,Bとは公的な関係がある。さらに,本件励ます集いには,上記慣例により,A以外にも他の市町村の首長が多数来賓として出席しており,首長間で,地方自治のあり方,政策等について意見交換,情報交換等が行われるのであって,それによって,行政の円滑な運営を図ることができる点で公益にも資するものである。

このように,Aによる本件励ます集いへの出席は,資金集めに協力するための出席ではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものである。

イ 本件出陣式

大阪府下の現職首長が選挙に臨む場合には,大阪府市長会の会員に対して,出陣式等に来賓として出席要請がされるのが慣例となっている。そして,本件出陣式については,Bは,候補者ではあるが,現職の堺市長という立場でもあったことから,大阪府市長会の会長を始め,会員である他の市長の多くも出席しており,Aも,現職の市長同士の儀礼的な関係や,上記アの大阪広域水道企業団における公的な関係もあることから,会員間の友好,信頼関係を維持するために出席したものである。また,Aは,本件出陣式において,「交野市長 A」として紹介もされており,公人としての立場で出席したことは明らかである。

このように,Aによる本件出陣式への出席は,特定の候補者を応援するためのものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものである。

仮に,Aによる本件出陣式への出席が,特定の候補者を応援するためのものであると評価されるとしても,Aが交野市の地方行政を円滑に遂行するためには,大阪府の他の市町村の首長と友好,信頼関係を築く必要があり,そのために特定の候補者を支持し,又は激励することも,地方行政の円滑な運営や維持発展に資するものとして必要なことであるというべきであり,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものということができる。

ウ 本件記念式典

(ア) Aは,C高専同窓会会長として本件記念式典に出席したが,C高専は大阪府が設立した公立大学法人が運営する学校であって公的性格を有しており,しかも,Aは,来賓祝辞では,交野市長となったこれまでの経緯や,街づくりに携わる意義等を踏まえ,市長という立場でなければ述べることのできないものを在校生に伝えていることから,純然たる私的活動として出席したものではなく,公務である。

(イ) また,Aは,平成▲年11月9日,本件記念式典に出席後,本件記念式典会場であるC高専(寝屋川市所在)から約5kmの距離にある交野市内のE小学校を初めとする4か所の小学校の学校行事に出席した。これらの学校行事への出席は公務であって,Aは,同日,本件記念式典がなくとも公用車を使用して上記各小学校に行ったのであるから,本件記念式典会場への公用車の使用は違法ではない。

エ 本件記念総会等

(ア) Aは,C高専同窓会会長として本件記念総会等に出席したが,上記ウ(ア)のとおり,C高専は大阪府が設立した公立大学法人が運営する学校であって公的性格を有しており,しかも,Aは,来賓祝辞では,交野市長となったこれまでの経緯や,街づくりに携わる意義等を述べていることから,純然たる私的活動として出席したものではなく,公務である。

(イ) Aは,平成▲年11月16日午前10時から防災訓練に出席し,その後,交野市内4か所の小学校の学校行事に出席したところ,これらは公務である。

Aは,その後,同日夕刻より,F高校の創立40周年の祝賀会に出席する予定となっていたため,大阪市内まで公用車を使用した。Aは,F高校から地元自治体の首長としての位置付けで上記祝賀会への出席要請を書面で受けており,上記祝賀会への出席は公務である。

Aによる本件記念総会等への出席は,公務である上記学校行事への出席から,次の公務である上記祝賀会への出席までの合間にされたものであり(本件記念総会等が開催された会場から,上記祝賀会が開催された会場までは車で10分圏内であった。),上記小学校から大阪市内までの公用車の使用は,本件記念総会等への出席を主目的としたものではないし,公務から次の公務への円滑な移動と市長の安全確保等の必要に鑑みれば,仮に,本件記念総会等への出席が公務ではなかったとしても,Aが公用車を使用したことは合理的であり,違法ではない。

オ 本件前進の集い

D党に限らず,各政党の主な行事については,現職首長は来賓として招待されるのが通例であり,本件前進の集いは,政治資金パーティーではあるが,Aは,上記通例により,首長の立場で来賓として招待されており,会費又は参加費といった交際費の支出もない。また,本件前進の集いには,大阪府内の各市町村長だけでなく,在外公館や各種団体も来賓として出席しているほか,国会議員,大阪府議会議員,大阪府内の市町村議会議員等も多数出席しており,行政の円滑かつ良好な運営を図るために出席者間で必要な意見交換をすることができる貴重な場である。さらに,Aは,他党が主催する同様の懇親会にも出席しており,特定の団体が主催する会にだけ参加しているものではない。

このように,Aによる本件前進の集いへの出席は,資金集めに協力するためのものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものである。

(2)  争点2(損害,損失及び利得等)

(原告の主張)

上記(1)(原告の主張)記載のAの違法な本件各公用車使用により,交野市は,以下のとおり,合計9万8742円の損害ないし損失を被り,Aは,同額の利得を得た。Aは,故意若しくは過失又は善管注意義務違反により上記違法行為をしたものであり,上記利得に法律上の原因はなかった。

ア ガソリン代 合計9746円

イ 運転手等市職員の人件費 合計8万8996円

なお,人件費については,管理職であっても,公務外に使用された公用車に同乗することによって,本来正当な勤務に充てられるべき時間を失ったのであるから,当該時間分の給与について市は損害ないし損失を被り,Aは,同額の利得を法律上の原因なく得たところ,被告は上記給与について明らかにしないことから,原告主張の上記人件費の額を損害ないし損失及び利得とすべきである。

(被告の主張)

上記(原告の主張)は争う。

なお,管理職の人件費については,公用車の使用により新たに支出することはない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件各公用車使用の違法性)について

(1)  普通地方公共団体は,当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費を支弁するものとされ(地方自治法232条1項),証拠(甲1,乙3)によれば,交野市庁用自動車管理規程(昭和44年規程第4号)12条1号において,市の庁用に供される自動車等は,公務以外に使用してはならない旨定められていることが認められる。

ここで,普通地方公共団体は,社会的実体を有するものとして活動しているものであり,住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていること(地方自治法1条の2第1項)などに照らすと,普通地方公共団体の首長が各種団体等の主催する会合に列席するなどの交際も,特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったからといって,直ちに許されないこととなるものではなく,それが,普通地方公共団体の上記役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されると解するのが相当である(最高裁平成18年12月1日第二小法廷判決・民集60巻10号3847頁参照)。

(2)  本件励ます集いへの出席について

普通地方公共団体の首長が,近隣市町村の首長又はその関連団体の主催する会合に出席し,普通地方公共団体の首長として挨拶をすることは,近隣市町村と良好な関係を保つことに資するものであり,ひいては当該普通地方公共団体の円滑な運営や維持発展に資するものであるということができる。

本件励ます集いは,政治資金パーティーではあるが(争いがない),交野市の近隣市町村である堺市の市長の後援会が主催するものである(甲3,4,乙1,2)。そして,証拠(甲3,14,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,交野市長宛ての封書によって本件励ます集いに来賓として招待され,本件励ます集いの中で交野市長として挨拶したこと,本件励ます集いには大阪府内から中河内,泉州地域の市長を始め十数名の首長が出席したこと,Aは大阪府市長会の会員であるところ,従来から,現職の首長により本件励ます集いのような政治資金パーティーや選挙の際の出陣式等が開催される場合,大阪府市長会の会員に対して出席要請がされることが慣例化しており,これに応じて,交野市だけでなく,他の市の首長においても首長としての立場で上記各会合に多数出席していたことが認められる。このような本件励ます集いの主催者の属性,Aの出席の経緯及び態様並びに首長の政治資金パーティー等への従来の出席状況等に照らせば,Aの本件励ます集いへの出席は,普通地方公共団体の上記(1)の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができるというべきである。そして,これらの事情に,本件励ます集いに関して参加費等の交際費は支出されていないこと(甲14,乙1,弁論の全趣旨)を併せて考慮すれば,Aの本件励ます集いへの出席は,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものといえるのであって,交野市の事務であるというべきである(このことは,仮に,他の普通地方公共団体が,政治資金パーティーへの出席について公用車を使用することを認めていないとしても異ならない。)。

(3)  本件出陣式への出席について

普通地方公共団体の首長が,近隣市町村の現職の首長が選挙に立候補するに当たり,これを支援することは,近隣市町村と良好な関係を保つことに資するものであり,ひいては当該普通地方公共団体の円滑な運営や維持発展に資するものであるということができる(なお,普通地方公共団体の首長は,自らの政策を掲げて立候補し,選挙によって選出された者であるから,自らの政策の実現への協力を期待し得る特定の候補者を普通地方公共団体の首長としての立場で支援することは許容されているというべきである。)。

そして,Aが,堺市長選挙の候補者であるBの選挙の出陣式(本件出陣式)に出席したことは,近隣市町村の首長選挙の特定の候補者を支援したものといえるが,証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,B側から本件出陣式の来賓として招待を受けたこと,その出席に関し交際費等は支出されていないこと,本件出陣式には大阪府下の20名以上の首長が参加していることが認められ,これらのことに,前記(2)で認定した同種の会合への首長の出席状況等をも併せ考慮すると,Aの本件出陣式への出席は,普通地方公共団体の上記(1)の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,また,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものということもできるのであって,交野市の事務であるというべきである(このことは,仮に,他の普通地方公共団体が近隣市町村の首長選挙の候補者の出陣式への出席について公用車を使用することを認めていないとしても異ならない。)。

(4)  本件記念式典及び本件記念総会等への出席について

Aは,C高専同窓会会長として本件記念式典及びC高専同窓会主催の本件記念総会等に出席したものである(甲8)。確かに,証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,本件記念式典及び本件記念総会等の来賓祝辞において,交野市長となったこれまでの経緯,街づくりに携わる意義等を述べたことが認められるものの,それは,出身校の同窓会会長として後進の育成等のために自らの経歴や仕事の内容等を紹介したものと推認され,交野市の住民の福祉の増進を図るため,市政への理解,協力を求めるなど,市長としての立場で行われたことをうかがわせる証拠はないし,交野市長として,市外に所在する高等専門学校やその同窓会と良好な関係を保つ必要があったものとも容易に認め難い。したがって,本件記念式典等への出席は,普通地方公共団体の上記(1)の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができず,その出席をもって,交野市の事務に当たるものとは認め難いものといわざるを得ない(C高専が大阪府の設立した公立大学法人が運営する学校で公的性格を有しているとしても,前記判断が左右されるものではない。)。

なお,被告は,本件記念式典への出席との関係で,その出席後,C高専から約5km離れた交野市内の小学校の学校行事にも出席しており,その学校行事への出席は公務であるから,本件記念式典への出席に公用車を使用することも違法ではない旨主張する。しかしながら,上記小学校の学校行事への出席が公務に当たり,C高専から上記各小学校への移動のために公用車を利用することに違法性はないとしても,公務には当たらない私的な本件記念式典への出席を目的として自宅からC高専までの移動のために公用車を利用することは,公務以外に公用車を使用したものとして,その違法性を否定することはできないというべきである。

また,被告は,本件記念総会等への出席との関係で,その出席が公務である交野市内の小学校の学校行事への出席から,次の公務であるF高校の祝賀会への出席までの合間にされたものであり,上記小学校から大阪市内までの公用車の使用は,本件記念総会等への出席を主目的としたものではないし,公務から次の公務への円滑な移動と市長の安全確保等の必要に鑑みれば,Aが公用車を使用したことは合理的であり,違法ではない旨主張する。しかしながら,公務と公務との間の私的な活動のために公用車を利用することも,前後の公務を円滑に遂行する上で,それが必要不可欠であるなど,特段の事情が認められる場合には適法視されるとしても,本件においては,そのような特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はなく,被告の上記主張は採用することができない(公用車以外の交通機関を利用することにより,市長の安全の確保が図れなかったことをうかがわせる事情もない。)。

(5)  本件前進の集い

国は,地方自治法1条の2第1項の規定(上記(1)参照)の趣旨を達成するため,全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担うものとされており(同条2項),国の行う上記のような事務,施策及び事業が,普通地方公共団体の行い得る施策の内容や社会的及び経済的な環境の整備拡充に多大な影響を及ぼし得るものであることを考慮すれば,普通地方公共団体の首長が,国政政党の主催する会合に出席し,普通地方公共団体の首長として挨拶をすることは,国政政党と良好な関係を保つことに資するものであり,ひいては当該普通地方公共団体の円滑な運営や維持発展に資するものであるということができる。

本件前進の集いは,政治資金パーティーではあるが(争いがない),国政政党であるD党のG会が主催するものである(甲11,乙5,6)。そして,証拠(甲14,乙5,6)及び弁論の全趣旨によれば,本件前進の集いには,Aのみならず,大阪府知事,大阪府内の各市町村の首長,大阪神戸米国総領事館等の在外公館等が来賓として招待されて出席していたほか,D党の国会議員・府議会議員・市議会議員も出席していたこと,D党に限らず,各政党の主な行事については,現職の首長が招待されることが通例となっていたことが認められる。このような本件前進の集いの主催者の属性,来賓招待者・出席者及びAの出席の経緯等に照らせば,Aの本件前進の集いへの出席は,普通地方公共団体の上記(1)の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができるというべきである。そして,これらの事情に,本件前進の集いに関して参加費等の交際費は支出されていないこと(甲14,弁論の全趣旨)を併せ考慮すれば,Aの本件前進の集いへの出席は,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものということができるのであって,交野市の事務であるというべきである(このことは,仮に,他の普通地方公共団体が,政治資金パーティーへの出席について公用車を使用することを認めていないとしても異ならない。)。

(6)  よって,Aが,本件各会合のうち,本件励ます集い,本件出陣式及び本件前進の集いに出席したことは,いずれも交野市の事務であり,そのための各公用車の使用は,公用車を公務に使用したものであって,違法であるということはできないが,本件記念式典及び本件記念総会等に出席したことは,いずれも交野市の事務ではなく,そのための各公用車の使用は,公用車を公務以外に使用したものとして,違法であるというべきである。

2  争点2(損害,損失及び利得等)

Aが公務には当たらない本件記念式典及び本件記念総会等への出席のために公用車を使用したことは,Aの交野市に対する不法行為を構成し,それらの出席が,公務に当たらず,それらの出席のために公用車を利用することが違法であることは,当時交野市長であったAにとって容易に知り得たものというべきであり,少なくとも,過失があったものとして,Aは,上記不法行為により交野市が被った損害について,不法行為に基づく損害賠償義務を免れない。

そして,弁論の全趣旨によれば,平成▲年11月9日及び同月16日に使用された交野市の公用車の燃費は1ℓ当たり20km,ガソリン代は1ℓ当たり150円であること,同月9日にAの自宅からC高専への送迎に要した距離は約5.1km,同月16日に交野市内の小学校から大阪市内の本件記念総会等の会場への送迎に要した距離は約25kmであることがそれぞれ認められるところ,ガソリン代については,以下の計算式のとおり,少なくとも合計225円は,公用車の使用がなければ支出されることのなかったものである。なお,証拠(甲7,9)及び弁論の全趣旨によれば,Aの同月9日及び同月16日の上記公用車の使用の際には交野市総務部行政経営室(秘書担当)課長代理が運転手として随行したことが認められるところ,証拠(乙7,8)及び弁論の全趣旨によれば,上記公用車の使用の際に上記課長代理に時間外勤務手当は発生していないことが認められるのであって,上記課長代理の人件費に関して損害が発生したとは認められない。

(1)  同月9日にAの自宅からC高専への送迎に要したガソリン代

1ℓ当たりのガソリン代150円×5.1km(Aの自宅からC高専までの距離)/20km(1ℓ当たりの燃費)=38円(円未満切捨て)

(2)  同月16日に交野市内の小学校から本件記念総会等の会場への送迎に要したガソリン代

1ℓ当たりのガソリン代150円×25km(交野市の小学校から本件記念総会等の会場までの距離)/20km(1ℓ当たりの燃費)=187円(円未満切捨て)

3  結論

以上によれば,原告の請求は,Aに対して225円及びこれに対する不法行為の日の後である平成26年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求するよう求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田隆裕 裁判官 斗谷匡志 裁判官 狹間巨勝)

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