大阪地方裁判所 平成3年(わ)1104号 判決 1992年9月14日
国籍
韓国(慶尚南道晋州市玉峰洞六六二番地)
住居
大阪市大正区三軒家東一丁目一五番一八号
人夫供給・土木建築請負業
神農明こと姜渭根
一九五三年一月一五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮下準二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪市西成区北津守四丁目三番六号に事務所等を設け、人夫供給業等を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 昭和六一年分の実際総所得金額が二億九四万七〇八三円であった(別紙(一)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)のにかかわらず、収支に関する記帳を行わず、架空名義の定期預金等を設定し、実際の所得金額には関係なく適当過小な所得金額を記載した内容虚偽の所得税確定申告書を作成するなどの不正の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和六二年三月一六日、大阪市港区磯路三丁目二〇番一一号所在の所轄港税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が一〇〇〇万円で、これに対する所得税額が一六一万六三〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億二六七五万二〇〇円と右申告税額との差額一億二五一三万三九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた、
第二 昭和六二年分の実際総所得金額が三億三三一五万一五七八円であった(別紙(二)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和六三年三月一五日、前記港税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が二〇〇〇万円で、これに対する所得税額が五七六万一〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億九一五〇万六九〇〇円と右申告税額との差額一億八五七四万五九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れた、
第三 昭和六三年分の実際総所得金額が三億二三〇一万九六六九円であった(別紙(三)総所得金額計算書及び修正貸借対照表参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、平成元年三月一五日、前記港税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が二一七〇万円で、これに対する所得税額が五八二万八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額一億八三三七万七〇〇〇円と右申告税額との差額一億七七五五万六二〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書三通
一 被告人に対する収税官吏の質問てん末書四六通
一 神農淑子の検察官に対する供述調書
一 延野信子、神農順子(二通)、神農慶造(二通)、神農浩一、神農文子(二通)、磯貝幸男、堀健治(四通)、北居俊夫、森藤紀泰、天沼正和、志村昌治、藤本和子、古川久代、嵯峨弘子、松野義幸、神農淑子(六通)に対する収税官吏の各質問てん末書
一 収税官吏作成の査察官調査書五九通
一 収税官吏作成の「脱税額計算書説明資料(貸借)」と題する書面
一 検察事務官作成の電話聴取書
判示第一の事実について
一 港税務署長作成の証明書二通(検察官請求番号4、5)
判示第二の事実について
一 港税務署長作成の証明書(同6)
判示第三の事実について
一 港税務署長作成の証明書(同7)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪につきいずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
本件は、人夫供給業等を自営していた被告人が、三年間にわたり、合計四億八八〇〇万円余りの所得税をほ脱した事案であるが、そのほ脱額が同種事案に比べて極めて高額であるばかりか、ほ脱率も平均して約九七・五パーセットと極めて高い。また、被告人の申告の態様は、実際の所得金額とは無関係に、その前年の申告額に若干増額して申告したという典型的なつまみ申告であり、法を無視した大胆な犯行というほかない。更に、被告人は、昭和六二年八月ころに所轄港税務署の税務調査を受けながら、不十分な修正申告しかしなかったうえに、その後も正しく申告することなく、右同様の虚偽過少申告を続けていた点も量刑上無視できない。以上に照らせば、被告人の犯情は悪質であり、この種大口脱税犯に対する最近の納税者一般の厳しい処罰感情をも併せ考えるとき、被告人の刑事責任には相当に重いというべきである。
そうすると、被告人の脱税の手口が比較的単純なものであること、本税、附帯税のほか、地方税についても全額納付済みであること、被告人の納税意識の乏しさは、強制的に来日させられた祖父や、恵まれない環境の中で人夫供給業等の事業を始めたものの破産して失敗した父の影響等その国籍の違いや生活歴と無縁ではなかったこと、被告人には、これまで見るべき前科、前歴はないこと、本件により国税局の査察を受けた後は素直に犯行を認めて反省し、事業を法人化させて経理処理を明確にして再過なきを誓っていること等被告人に有利な諸事情を十分考慮に入れても、本件は到底執行猶予の事案ではなく、この際被告人に対し主文掲記の懲役及び罰金の実刑をもって臨むのはやむを得ない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 福井一郎 裁判官 平島正道)
別紙(一) 総所得金額計算書
<省略>
修正貸借対照表
<省略>
<省略>
別紙(二) 総所得金額計算書
<省略>
修正貸借対照表
<省略>
<省略>
別紙(三) 総所得金額計算書
<省略>
修正貸借対照表
<省略>
<省略>
別紙(四)
税額計算書
<省略>
別紙(五)
税額計算書
<省略>
別紙(六)
税額計算書
<省略>