大阪地方裁判所 平成3年(わ)3321号 判決 1992年6月23日
主文
被告人両名をそれぞれ懲役七年及び罰金五〇万円に処する。
被告人らに対し、未決勾留日数中各二三〇日をそれぞれその懲役刑に算入する。
被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、いずれも金五〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
被告人両名から、押収してあるチャック付ビニール袋入り覚せい剤三袋合計一三六六・八グラム(平成三年押第八二七号の1、3及び5)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人両名は、共謀のうえ、石﨑敏らが、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、台湾から覚せい剤を密輸入しようと企て、平成三年七月二九日、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶合計約一四〇〇グラムを入れたビニール袋三個を腹部及び背部に密着させたうえ、これらを胴体にビニールテープで固定し、これらを隠匿携帯して中正国際空港から日本アジア航空二一二便に搭乗し、同日午後五時四八分ころ、大阪府豊中市螢池西町三丁目五五五番地大阪国際空港に到着し、同航空機から右覚せい剤を取り降ろしてこれを本邦内に持ち込み、もって覚せい剤を輸入するとともに、同日午後六時一〇分ころ、右覚せい剤を隠匿携帯したまま同空港内伊丹空港税関支署旅具検査場を通過し、輸入禁制品である覚せい剤を本邦内に輸入した際、右石﨑らの犯行を知りながら、同月二八日ころ、台湾省台北市長春路五六號美的大飯店の客室において、右石﨑の依頼により高雄市近郊まで赴いて調達した右覚せい剤約一四〇〇グラムを同人に手渡し、もって、同人らの犯行を容易にさせてこれを幇助した
第二 被告人陳は、石﨑敏らが、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、台湾から覚せい剤を密輸入しようと企て、同年八月二一日、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶合計約二〇〇〇グラムを入れたビニール袋四個を腹部及び背部に密着させたうえ、これらを胴体にビニールテープで固定し、これらを隠匿携帯して中正国際空港から日本アジア航空二一二便に搭乗し、同日午後五時五五分ころ、前記大阪国際空港に到着し、同航空機から右覚せい剤を取り降ろしてこれを本邦に持ち込み、もって覚せい剤を輸入するとともに、同日午後六時一五分ころ、右覚せい剤を隠匿携帯したまま同空港内伊丹空港税関支署旅具検査場を通過し、輸入禁制品である覚せい剤を本邦内に輸入した際、右石﨑らの犯行を知りながら、同日ころ、前記美的大飯店の客室において、右石﨑の依頼により高雄市近郊まで赴いて調達した右覚せい剤約二〇〇〇グラムを同人に手渡し、さらに、同日ころ、右美的大飯店客室において、右覚せい剤を入れたビニール袋四個を右石﨑の腹部及び背部に密着させたうえ、これらを同人の胴体にビニールテープで固定してやり、もって、同人らの犯行を容易にさせてこれを幇助した
第三 被告人両名は、石﨑敏らと共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、台湾から覚せい剤を密輸入しようと企て、同年九月一二日、被告人両名において、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶合計約二六八八・四グラム(平成三年押第八二七号の1、3及び5はその一部)を入れたビニール袋六個を腹部及び背部に密着させたうえ、これらを胴体にビニールテープで固定し、これらを各隠匿携帯して中正国際空港から大韓航空六一四便に搭乗し、同日午後二時ころ、前記大阪国際空港に到着し、同航空機から右覚せい剤を取り降ろしてこれを本邦内に持ち込み、もって覚せい剤を輸入するとともに、同日午後二時二五分ころ、被告人秦において、右覚せい剤のうち合計約一三二〇グラムを隠匿携帯したまま同空港内伊丹空港税関支署旅具検査場を通過し、輸入禁制品である覚せい剤を本邦内に輸入した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人両名の判示第一及び被告人陳國良の判示第二の各所為のうち、営利目的の覚せい剤輸入を幇助した点は、いずれもそれぞれ刑法六二条一項、覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、禁制品(覚せい剤)輸入を幇助した点は、いずれもそれぞれ刑法六二条一項、関税法一〇九条一項に、被告人両名の判示第三の所為のうち、営利目的で覚せい剤を輸入した点は、いずれも刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、禁制品(覚せい剤)輸入の点は、いずれも刑法六〇条、関税法一〇九条一項にそれぞれ該当するところ、右第一ないし第三の各所為はいずれもそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条によりいずれもそれぞれ一罪として重い覚せい剤取締法違反の罪の刑で処断することとし、判示各罪についていずれも情状により所定刑中有期懲役刑及び罰金刑を選択し、判示第一及び第二の各罪は、従犯であるからいずれも刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、被告人陳國良の判示第一ないし第三の各罪並びに被告人秦〓壽の判示第一及び第三の各罪は、いずれもそれぞれ同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により、被告人陳國良については最も重い、被告人秦〓壽については重い判示第三の罪の刑にいずれも同法一四条の制限内で法定の加重をし、罰金刑についてはいずれも同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人両名をいずれも懲役七年及び罰金五〇万円に処し、被告人両名に対し、いずれも同法二一条を適用して未決勾留日数中各二三〇日をそれぞれその懲役刑に算入し、被告人両名においてその罰金を完納することができないときは、同法一八条によりいずれも金五〇〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとし、押収してあるチャック付ビニール袋入り覚せい剤三袋(平成三年押第八二七号の1、3及び5)は、判示第三の罪に係り、かつ犯人の所持するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文及び関税法一一八条一項本文により被告人両名からこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人両名に負担させないこととする。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人両名の判示第一事実及び被告人陳國良の判示第二事実について、被告人らの幇助行為は国外で行われており、刑法の適用を認めるべきでない旨主張する。
刑法一条一項は、刑罰法規一般の場所的適用範囲について、属地主義をとることを明らかにしているところ、幇助犯は、自己の行為に基づき、正犯の行為を通じて発生した結果についてその罪責を問われるものであるから、幇助犯についての犯罪地は、幇助行為のなされた場所のほか、正犯の行為のなされた場所も含むものと解するのが相当である。これを本件についてみると、判示第一及び第二事実の正犯者である石﨑敏の覚せい剤の輸入行為が日本国内において行われたことは明らかであり、右石﨑は、第一事実については被告人両名の、第二事実については被告人陳の幇助行為に基づき、実行行為を行っているのであるから、幇助犯である被告人両名も我が国の刑罰法規の適用を受けるものというべきである。
したがって、弁護人の主張は採用できない。
(量刑の理由)
本件は、被告人両名の共同実行に係る日本への覚せい剤の密輸入事案一件と、石﨑敏が覚せい剤を日本に密輸入する際に、覚せい剤を調達するなどして幇助した事案(共同幇助一件、陳の単独幇助一件)であるが、その共同実行の犯行態様は判示のとおり、覚せい剤入りの袋をテープで上半身に巻きつけ、着衣で隠して空港の税関を通過するという極めて巧妙なものであるうえ、金銭目あての犯行であり動機について酌量すべき事情は認められない。しかも被告人両名により輸入された量だけで約二・七キロ、右石﨑敏が輸入するのを幇助した量を合わせれば六キロ以上の大量の覚せい剤が日本に運ばれ、税関で被告人陳の所持にかかる約一・四キロの覚せい剤が押収されたほかは発見されることなく税関を通過し、実際にわが国社会に流通して害毒を流している点は被告人両名の刑責を考えるうえで看過できないところである。そして、被告人陳は、右密輸事案全てについて、右石﨑より資金を渡され、台湾で密売人より覚せい剤を調達していること、被告人秦は、密輸の際、その携帯した覚せい剤を発見されることなく日本に持ち込んでいることを考えると、被告人両名の刑責は共に重いものと言わざるをえない。
したがって、本件各犯行を計画、主導したのは右石﨑らであり、被告人両名は、従属的な役割であったこと、両名が本件により得た利益はそれほど多くなかったこと、共に日本国内における前科前歴はなく、公判廷において反省の情を示していることなど、被告人両名に有利な点を考慮しても、なお主文掲記の刑をもって処断するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。