大阪地方裁判所 平成3年(わ)3788号 判決 1992年11月17日
本店所在地
大阪府八尾市太田新町二丁目六二番地
ホット株式会社
右代表者代表取締役
山下力
本籍
大阪市東住吉区田辺五丁目五番
住居
奈良県香芝市関屋北四丁目二番八号
会社役員
山下力
昭和一九年六月二〇日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立石英生出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人ホット株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人山下力を懲役一年六月にそれぞれ処する。
被告人山下力に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人ホット株式会社(平成三年六月二〇日に旧商号株式会社ホット製作所を商号変更したもの。以下、「被告会社」という)は、大阪府八尾市太田新町二丁目六二番地に本店事務所を置き、水道機器等の部品の製造及び販売を目的とする資本金四五〇〇万円の株式会社であり、被告人山下力(以下、「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、
第一 昭和六二年一〇月一六日から昭和六三年一〇月一五日までの事業年度における実際の所得金額が別紙修正損益計算書(一)記載のとおり一億七〇四八万六九六一円であったのに、売上の一部を除外するなどの不正の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、昭和六三年一二月一五日、大阪府八尾市高美町三丁目二番二九号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七〇七二万一九八五円で、これに対する法人税額が二七八一万九三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額六九七二万〇六〇〇円と右申告税額との差額四一九〇万一三〇〇円を免れ、
第二 昭和六三年一〇月一六日から平成元年一〇月一五日までの事業年度における実際の所得金額が別紙修正損益計算書(二)記載のとおり二億〇八三五万四一〇四円であったのに、前同様の不正の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成元年一二月一二日、前記の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七五三〇万六七〇三円で、これに対する法人税額が三〇〇三万〇八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額八五九一万〇九〇〇円と右申告税額との差額五五八八万〇一〇〇円を免れ、
第三 平成元年一〇月一六日から平成二年一〇月一五日までの事業年度における実際の所得金額が別紙修正損益計算書(三)記載のとおり二億八三八四万四〇四五円であったのに、前同様の不正の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成二年一二月一七日、前記の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八八六四万三三三六円で、これに対する法人税額が三三五五万一四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙税額計算書記載のとおり、被告会社の右事業年度の正規の法人税額一億一一六三万一八〇〇円と右申告税額との差額七八〇八万〇四〇〇円を免れた。
(証拠の標目)
注・証拠末尾の括弧内の漢数字は、検察官請求番号を示している。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の
(1) 検察官に対する供述調書二通(四九、五〇)
(2) 大蔵事務官に対する平成三年二月一九日付、同年三月一日付、同月九日付、同月一六日付、同月三〇日付、同年四月二六日付、同年五月一〇日付、同月二四日付、同年六月五日付、同月二四日付、同年七月一日付、同月三日付、同月九日付、同月一五日付、同年八月八日付(記録第一八-一五号)及び同月二三日付(記録第一八-一七号)各質問てん末書(三一ないし四五、四七)
一 浅井利勝の
(1) 検察官に対する供述調書(二五)
(2) 大蔵事務官に対する質問てん末書(二四)
一 東口溥の
(1) 検察官に対する供述調書(二七)
(2) 大蔵事務官に対する質問てん末書(二六)
一 遠藤淑子の検察官に対する供述調書(二八)
一 南浦磯次の検察官に対する供述調書二通(二九、三〇)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書九通(記録第二三-一号、同第二三-二号、同第二三-四号、同第二三-五号、同第二三-七号、同二三-八号、同第二三-九号、同第二三-一二号、同第二三-一〇号)(九、一一、一三ないし一八、二〇)
一 大蔵事務官作成の査察官調査報告書(記録第二四-四号)(一〇)
一 大阪法務局八尾出張所登記官八田好久認証の登記簿謄本、閉鎖役員欄用紙謄本四通(五一ないし五五)
一 被告会社作成の証明書(五六)
一 検察事務官作成の捜査報告書(八)
一 大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(七)
判示第一及び第二の各事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二三-一八号)(二一)
判示第一及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二三-三号)(一二)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(昭和六三年一二月一五日に申告した申告書写についてのもの)(四)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六二年一〇月一六日から昭和六三年一〇月一五日までのもの)(一)
判示第二及び第三の各事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年八月八日付(記録第一八-一六号)及び同月二三日付(同第一八-一八号)各質問てん末書(四六、四八)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第二三-一三号、同第二三-二八号、同第二三-二三号)(一九、二二、二三)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(平成元年一二月一二日に申告した申告書写についてのもの)(五)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六三年一〇月一六日から平成元年一〇月一五日までのもの)(二)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(平成二年一二月一七日に申告した申告書写についてのもの)(六)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成元年一〇月一六日から平成二年一〇月一五日までのもの)(三)
(法令の適用)
罰条
被告会社 判示各罪についていずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(いずれも罰金は情状により免れた法人税額に相当する金額以下)
被告人 判示各罪についていずれも法人税法一五九条一項
刑種の選択 被告人の判示各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択
併合罪の処理
被告会社 刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)
被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)
主刑 被告会社を罰金四〇〇〇万円、被告人を懲役一年六月
刑の執行猶予 刑法二五条一項(被告人に対し三年間猶予)
(量刑の理由)
本件は、水道機器の部品の製造、販売を行なう被告会社の設立当初からの代表取締役で、業務全般を統括していた被告人において、被告会社の昭和六二年一〇月から平成二年一〇月までの三事業年度に合計六億六二六八万円余の所得がありながら、うち四億二八〇一万円余の所得を秘匿して申告し、法人税合計一億七五八六万円余を脱税した犯行で、脱税額も少なく、ほ脱率も約六五・八パーセントと相当高い事案である。そして、脱税の動機は、昭和四八年のオイルショックの不況期を経験し、将来の不況再来に備えて、いわゆる裏金を蓄えるためであったというものであるところ、その所得の秘匿方法は、製品製造過程で生じる真鍮屑等の売上を除外し、架空の従業員給料を計上するなどに加え、棚卸除外をし、架空仕入を計上するなどの当初からの意図的な方法によるものであり、しかも、脱税により留保した所得の一部は美術品の購入等の被告人の個人的用途に充てられていることも認められ、動機において酌むべき点は少なく、態様も悪質なものでもある。さらに、加えて、被告人が納税団体を利用し、申告納税制度を悪用して脱税を図ろうとしたと認められることも考えると、被告人及び被告会社の刑責は決して軽くない。
しかし、一方、被告人は、本件の摘発後事実関係を認め、また、二〇〇万円の贖罪寄付をするなど、現在、十分に反省していると認められること、被告会社においては、地方税を含めて、本件ほ脱にかかる本税、重加算税、延滞税のすべての納付を既に終えていること、さらに、被告人の家族状況、被告会社の現在の経営状況等量刑上被告人及び被告会社のためにしん酌すべき事情もある。
そこで、以上のほか、諸般の事情を総合考慮して、被告会社及び被告人をそれぞれ主文掲記の刑に処したうえ、被告人に対してはその刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田隆)
修正損益計算書(一)
<省略>
修正損益計算書(二)
<省略>
修正損益計算書(三)
<省略>
税額計算書
<省略>