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大阪地方裁判所 平成3年(ヨ)670号 決定 1992年2月27日

債権者

甲田太郎

右代理人弁護士

松岡滋夫

債務者

ブリヂストン建築用品西部株式会社

右代表者代表取締役

樋笠憲夫

右代理人弁護士

西浦一成

西浦一明

主文

一  本件仮処分命令申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする

理由

第一申立て

一  債権者は債務者の従業員としての地位にあることを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、平成二年一二月一日以降毎月二五日限り金二二万一九〇〇円の金員を仮に支払え。

三  申立費用は債務者の負担とする。

第二事案の概要および争点

一  事案の概要

本件疎明および審尋の経過によれば、本件の経緯は次のとおりである。

1  債権者は昭和四四年三月、債務者の前身であるブリヂストンタイヤ関西販売株式会社に入社した。同社はその後分離・合併を繰り返したため、債権者もそれに伴って移籍するなどし、昭和六二年一一月からは、債務者の総務部業務課に所属し、商品の受注・出荷および郵便物配付を担当していた。

2  ところが債務者は、債権者を、次の理由により、平成二年一一月七日付けで懲戒解雇した。

(1) 債権者は、以前にも債務者や同僚から預った金銭を取り込もうとしたり、債務者名義を無断で使用して物品を購入し、代金を滞納するなどの不行跡があり、その都度厳重な注意を受け、債務者名義の無断使用を厳禁されていた。

(2) それにもかかわらず、債権者は平成二年八月頃から再び、無断で、債務者名義を用い、<1>商品券、<2>ビール券、<3>新幹線チケット、航空クレジットクーポン、<4>ゴルフボール等の物品を次々と注文し、取得しようとした。

(3) そのため、債務者は販売元に返品処理を求めたり、履行期を徒過したものを謝罪のうえ立替払いするなどの事後処理を余儀なくさせられ、会社としての信用を失墜するなどの損害を被った。

(4) また、債権者は、<5>同僚から支払いを依頼されたタイヤ等の購入代金も取り込み、同僚にも多大の迷惑をかけた。

(5) 以上、債権者は「会社の諸規定、通達命令に違反し、会社に損害を与えた者」(債務者就業規程四八条八項)であり、また「故意または重大な過失により、会社の信用を傷つけまたは損害を与えた者」(同条九項)であり、さらに「会社の施設外で刑法上の罪を犯し、著しく会社の信用を傷つけあるいは損害を与えた者」(同条一五項)であり、これは懲戒解雇事由にあたる。

3  これに対し債権者は、右の解雇理由は、商品券以外すべて事実無根であり、商品券についても代金の支払いは遅れたもののすべて支払いを完了している。従業員が債務者名義を用いて個人取引をすることは、慣習に近い状態であったのであるから、商品券購入と代金決済の遅れのみを理由に懲戒解雇するのはいきすぎである。しかも、債務者は債権者に釈明の機会を与えず一方的に債権者の机、名札をなくしてしまうなど、解雇手続にも問題がある。よって、本件解雇は無効であり、債権者は従業員地位確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、このままでは家族三人(債権者、母親および中学生の子)の生計を維持することができなくなるとして、本件仮処分命令の申立てに及んだ。

二  主要な争点

1  従業員が債務者名義で個人取引することの許否

2  債権者の債務者名義の無断使用による債務者の損害

3  本件解雇の是非

第三当裁判所の判断

一  (争点1)従業員が債務者名義で個人取引することの許否について

債権者は、従業員が債務者名義を用いて個人取引をすることは、慣習に近い状態であったと主張する。

たしかに(証拠略)によれば、平成元年において、債権者以外の者も、ブリヂストングループに属する関連会社と、債務者名義を使用して個人取引をなしていた事実が疎明される。

債務者としても、ブリヂストングループの関連会社から個人的に物品を購入する場合に限って、従業員が所属長の承諾を得ることを条件に、債務者名義を用いることを認めていたことを自認している(<証拠略>)。

しかし、右以外に債務者名義を従業員の個人取引に用いることが認められていたとの疎明はない。

特に、無断で債務者名義を用いることは厳禁されており、平成二年二月にも樋笠社長から直接債権者に対し、債務者名義の無断使用をしないよう厳命が下されていた(<証拠略>)。

以上から、古くからの慣習を根拠に、債務者名義の無断使用をも許されるとする債権者の主張は、理由がない。

二  (争点2)債権者の債務者名義の無断使用による債権者の損害について

1  債権者の債務者名義の無断使用

債権者は、過去に新入社員小川恭弘にブリヂストンタイヤ大阪販売株式会社からタイヤ、タイヤホイール等を購入することを斡旋した際に、会社に無断で債務者名義を使用してトラブルを起こすなどしたため(<証拠略>)、社長から債務者名義の無断使用をしないよう厳命が下されていた。それにもかかわらず、債権者がさらに債務者名義の無断使用を繰り返すなどしたことが本件解雇の理由とされている。債権者はこれにつき、右解雇理由は、大丸商品券の購入の件以外はすべて事実無根であると否認するので、この点につき判断する。

<1> 大丸商品券五〇万円相当の購入

債権者は、平成二年八月一一日から九月二日にかけて五回にわたり、債務者名義で、株式会社大丸心斎橋店に対し、各金一〇万円ずつの商品券(合計金五〇万円相当)を注文して自らこれを受け取った(<証拠略>)。

右の商品券購入は、個人的な仲間と行うゴルフコンペ(開催は未定)の賞品として購入したものであり(<証拠略>)、債権者の業務と全く関係のない債権者の個人取引であるにもかかわらず、その購入に際して債務者名義が無断で使用されていたことについては、当事者間に争いがない。

<2> ビール券二〇〇枚(代金一四万二〇〇〇円)の購入

(証拠略)によれば、債権者は、平成二年九月二二日、リカーショップ「きしだ」を営む岸田澄夫に対し、債務者の社員の慰安会に使用すると偽り、ビール券二〇〇枚(代金一四万二〇〇〇円)を持参させ、会社の受領印を押してこれを受領した(<証拠略>)。

これに対して債権者は、ビール券二〇〇枚の注文と受領の事実についてはこれを認めたうえで、これは仕事の一環としてなしたことであると主張する。しかし、債権者が具体的にその購入指示を受けていたとの疎明はない。そもそもこの時期に慰安会が行われていないことは当事者間に争いがない。債権者は一〇月一〇日に開催された運動会(債権者は当初予定は野球大会と主張)のために購入したと主張するが、このようなことは債権者の本来の担当業務ではなく、また債権者は運動会の幹事でもなかった(<証拠略>)。よって、債権者の主張を採用することはできず、これは、債務者名義を無断使用した債権者の個人取引である。

また、(証拠略)によれば、債権者は、同月二九日再び右「きしだ」に対し、債務者の一〇月一〇日の運動会に使用するためとして、ビール券二〇〇枚を会社に持参するよう注文した。岸田澄夫は右注文により一〇月二日にビール券二〇〇枚を持参したが、当日債権者は出社していなかった。そこで岸田澄夫は一旦債権者の上司の西原課長にこれを渡し、会社の受領印を押してもらったが、一〇月四日に債務者の樋笠社長から事情を聞かれ、結局会社の注文ではないということで、同日返品処理をした(<証拠略>)。以上の事実が疎明され、これも、債権者が無断で債務者名義を用いた個人取引である。

<3> 新幹線エコノミーチケット等の購入申込み

(証拠略)によれば、債権者は、平成二年九月二〇日、日本交通公社難波支店において、同年一〇月早々に東京・新大阪間の新幹線エコノミーチケット五〇枚と全日空クレジット・クーポン五枚組一セットを準備するよう債務者名義で注文し、さらに、この注文を受けてもらえば債務者は同営業所に団体旅行の世話をする、また、月一回、日を決めて会社へ出向いてほしいなどと話した。そこで、一〇月五日、右難波支店から債務者に対し右チケットとクーポンの準備ができた旨の電話連絡がなされた。当日債権者は出社しておらず、西原課長が電話に出て、債務者は注文していないとしてこれを断った。以上の事実が疎明される。

債権者は右の事実についてはおおむねこれを認めたうえで、これは、仕事の一環として(ただし難波支店でなく心斎橋支店と)交渉したものであると主張する。しかし、債権者がその旨の指示を受けていたとの疎明はない。かえって(証拠略)によれば、そもそもチケットやクーポンの購入は債権者以外の者の担当職務であった事実が疎明される。よって、債権者の主張は採用することはできず、右認定の事実も、債務者名義を無断使用した債権者の個人取引である。

<4> ゴルフボール七〇ダースの購入

(証拠略)によれば、次の事実が疎明される。

(1) 債権者は平成二年九月二八日、ブリヂストンスポーツ関西販売株式会社に、ゴルフボール七〇ダース(総額四七万八五七八円)を注文した。そこで同社の担当者稲垣裕介は注文どおり翌二九日、大阪市生野区所在の「タイホウ不動産」事務所へこれを納品した。この納品の際債権者は稲垣裕介に対し、代金四七万八五七八円の内金一〇万円を一〇月八日に債務者まで集金にくるように話した。

(2) 債権者は(1)の注文と同時に、別口のゴルフボール二〇ダースを債務者内の自己宛に送付するよう注文し、これは一〇月一日に宅急便で届けられた。

以上の事実が疎明される。

これらにつき債権者は、個人的にゴルフボールのタイホウ不動産への販売を仲介したもので、注文者は債権者個人、買主はタイホウ不動産であると主張し、個人取引であったことを自認する。そのうえで、相手方もそれを認識しており、債務者とは無関係の取引であると主張する。

たしかに(証拠略)によれば、ブリヂストンスポーツ関西販売株式会社との個人取引に債務者名義を使用することは、その旨申告すれば許されていたことが疎明され、ブリヂストンスポーツ関西販売株式会社が個人取引と認識していたと推測しうる。

しかし、個人取引であると認識しているからといって、債務者に無断でその名義を使用していると認識しているわけではない。むしろ、相手方が個人取引と認識しつつ取引に応じたのは、債務者が名義使用を許しており、契約の履行を保証していると信頼したからであろう。このことは、右の取引の伝票がすべて債務者を取引相手とし、債権者名が付記されていないものもあること(<証拠略>)や、前記(2)のゴルフボールが債務者宛に送付されたことからも窺われる。

そうであれば、債務者とは無関係の取引とする債権者の主張は採用できず、やはり、債務者名義を無断で用い、その信用を利用した個人取引というべきであろう。

しかも、右取引は、第三者たるタイホウ不動産の利益を図ったものであり、その悪質性は重大である。なぜなら、従業員についてであれば、福利厚生面の要請から、債務者の信用を利用させて従業員の利益を図る必要がある場合もあろう。だが、第三者の利益のために債務者の信用を利用させる必要は全くない。債権者の行為は、いわば会社を食い物にし、第三者の利益を図った重大な背信行為にあたると思われるからである。

<5> タイヤ等の購入斡旋

(証拠略)によれば、債務者名義を使用して平成二年四月二六日にタイヤとホイル等二九万一三〇四円、四月三〇日にカーテン一万一三七一円、五月一日、二八日に部品計四万六一七四円(合計三四万八八四九円)が、債務者従業員竹本正茂のサインにより購入されている事実が疎明される。

これにつき債務者は、平成二年一月ころ竹本正茂から友人の大喜田幸生のために株式会社コックピット大阪から自動車部品を安く購入したいとの相談を受けた債権者が竹本正茂に購入を斡旋したもののうち債務者名義を無断使用して行ったものであり、しかも、債権者は竹本正茂から右タイヤとホイルの代金として金二五万円のほか、これに先立ち購入を斡旋したカセットデッキの代金として金二〇万円、合計四五万円を預りながら、株式会社コックピット大阪に対しては八万円を支払ったのみで、残金を支払わずにこれを取り込んでいたと主張する。これに対し債権者は、自分は竹本正茂を株式会社コックピット大阪に当初紹介しただけで、タイヤ、ホイル等の購入自体はすべて竹本正茂と株式会社コックピット大阪との直接取引であり、代金授受に関わったこともない旨反論する。

債務者の主張に沿う疎明資料としては、竹本正茂の供述書(<証拠略>)があるが、これは債務者の従業員にすぎず、客観性は乏しい。取引相手である株式会社コックピット大阪の担当者の供述書は提出されておらず、他に債務者の主張に沿う客観的な疎明資料がない。そうであれば、債権者が、債務者名義を無断で使用して竹本正茂のタイヤ等の購入を斡旋し、預かった代金四五万円のうち三七万円を取り込んだものと断定することはできない。

<6> まとめ

以上より、右<5>の事実については疎明不十分であるが、<1>ないし<4>の事実については右のとおり疎明されるから、債権者の、自己が債務者名義を無断で使用したのは商品券の購入のみであり、それ以外はすべて事実無根であるとの主張は理由がない。

債権者は、平成二年二月に樋笠社長から債務者名義の無断使用を厳禁されていたにもかかわらず、再三これに違反し、債務者名義を無断で使用し、個人取引を行っていた。しかも、その取引先は、仮に許可を求めても許されるはずのない、大丸、きしだ、日本交通公社等ブリヂストン・グループの関連会社以外にも及ぶに至り、さらに債務者の信用を利用し、第三者の利益を図るという重大な背信行為まで行っていたことが認められる。

2  債務者の損害

<1> 大丸商品券購入の件における損害

前記1<1>認定のとおり、債権者は、債務者名義を無断で使用して、大丸商品券を一〇万円ずつ五回にわたり購入取得した。債務者は右の事実を全く知らないまま支払期限を徒過し、平成二年一〇月二日に大丸心斎橋店から債務者に対する問い合わせがあって初めてその事実を知るに至った(<証拠略>)。

債権者は、支払期限は徒過したものの、ほどなくして右代金は完済したから、債務者会社に何ら損害を与えていないと主張する。

たしかに、(証拠略)によれば、債権者が一〇月六日から一一月一六日まで六回に分けて、右商品券代金五〇万円を完済した事実を認めることができ、債務者の金銭的な損失はないであろう。

しかし、わずか五〇万円につき支払い期限を徒過したことは、債務者の支払い能力に対する信頼を著しく傷つけたといえよう。そして、債権者による債務者名儀の冒用が対外的に判明したため、今後債務者のなす取引において、真の取引主体が債務者か否か疑問視され、債務者の業務の遂行に支障を生じることが予想されよう。これらは、会社たる債務者にとって極めて重大な損害であり、代金完済の一事をもって償い得るものではない。

<2> ビール券購入の件における損害

前記1<2>認定のとおり、債権者は、債務者名義を無断で使用して、平成二年九月二二日にビール券二〇〇枚を購入取得したが、その代金を全く支払っていない(<証拠略>)。

これに対して岸田澄夫は債務者の注文であると信じるのは当然であるとして右代金の支払いを債務者に求めたため、債務者は一二月二八日岸田澄夫に対し右代金一四万二〇〇〇円を支払った(<証拠略>)。この額は、たしかにわずかな額であり、金銭的な損失は微々たるものであろう。しかし、従業員による債務者名義の冒用が対外的に判明した損害は、前述のとおり重大である。

債権者はさらに平成二年九月二九日ビール券二〇〇枚を注文し取得しようとした。しかし、これは債務者に発覚し返品処理されており、金銭的な損失はないが、やはり前述同様に債務者の取引主体としての信用性を著しく傷つけることになったと思われる。

<3> チケット・クーポン注文の件における損害

前記1<3>認定のとおり、債権者は、債務者名義を無断で使用して、新幹線チケット五〇万五〇〇〇円相当、航空クレジットクーポン(使用後払い)五枚を購入取得しようとした。

この件は、チケットとクーポンの現実の交付前にキャンセルされているため、債務者に実損は生じていない。しかし、前述のとおり、従業員である債権者が債務者名義を冒用して注文したことが発覚したことにより、債務者は信用を傷つけられ、損害を被っていると思われる。

<4> ゴルフボール購入の件における損害

前記1<4>認定のとおり、債権者は、(1)債務者名義を無断で使用して、ゴルフボール七〇ダースを購入取得しながら、代金四七万八五七八円の残金四一万七五七八円を全く支払わない。また、(2)右(1)の注文と同時に、別のゴルフボール二〇ダースを取得しようとしたが、これは債務者に発覚し、返品処理された。

債権者は、代金不払の理由として、この時注文した合計一一〇ダース(うちダンロップ製品八〇ダース)のうちダンロップ製品四〇ダースが未納であった、そして注文の品と異なる二〇ダースが債務者に送付されたが、この時債権者は会社を休んでおり、これをみつけた樋笠社長が、勝手に返却処理してしまったため、残りのダンロップ製品四〇ダースは未納のままとなり、注文者タイホウ不動産としては、完全履行あるまで代金支払いを拒み、そのために債権者は円滑な支払いができなかったと主張する。

しかし、債権者が未納であると主張するダンロップ製品の残り四〇ダースを注文したことの客観的な疎明はないし、そもそもこれは、既に納品済みのゴルフボール七〇ダースの代金を払わない理由にはなりえない。債権者は三万円の追加支払いをなしたと主張するが、これについての疎明はなく、債権者が右代金を完済していないことは当事者間に争いがない。債務者は従業員であった債権者の行為による責任をとる形で、一二月二八日ブリヂストンスポーツ関西販売株式会社に、残代金を支払った(<証拠略>)。

(2)のゴルフボール二〇ダースについては、返品処理されているものの、従業員である債権者による債務者名義の冒用を理由とするものであるから、前記同様、債務者の信用が傷つけられ、損害が発生しているものと思われる。

<5> まとめ

以上より、債権者の債務者名義の無断使用により、債務者は、五五万九五七八円の支払いを余儀なくされていることが一応認められる。そして、その金銭的損害以上に重大な損害として、債務者は、その命ともいうべき取引主体としての信用を傷つけられていることが認められる。

三  本件解雇の是非

1  解雇の相当性について

前記認定のとおり、債権者は従来から債務者名義を無断で使用して個人取引を行ってトラブルを起こしていたため、平成二年二月に樋笠社長から、今後債務者名義の無断使用をしないよう厳命を下されていながら、平成二年八月ころから再びこれを繰り返したものである。しかもその取引先は、仮に債務者に承諾を求めても許されるはずのない、関連会社以外にまで拡大していた。また、債務者の信用を利用し、第三者の利益を図るという重大な背信行為も行っていた。そしてこれにより債務者に前示のとおりの損害を発生させたことが認められ、これが懲戒解雇事由を定めた債務者就業規程四八条八項、九項に該当することは明らかである。

しかも、債権者は、今回の無断使用発覚後も、古くからの慣習として許されるとして反省せず、今後も改める意思が全くみられない。債務者の信用失墜は、債務者名義の無断使用により必然的に生じうるものであり、このような危険な行為を放置し、債権者が今後これを繰り返せば、債務者の信用低下も加速度的に拡大するのは明らかであり、取り返しのつかない事態を招く危険がある。

以上、債権者には前記のとおり就業規程の懲戒解雇事由に該当する事実があり、解雇より軽い処分によって右の危険を回避できると期待することは不可能な状況であったから、本件解雇には相当な理由があるといえる。

2  解雇手続について

債権者は、債務者が債権者に釈明の機会を与えず一方的に債権者の机・名札をなくしてしまうなど、解雇手続に問題があると主張する。しかし、(証拠略)によれば、債務者が平成二年一一月六日に懲戒委員会を開き、債権者の言い分を聞く機会を設けていることが疎明されるから、解雇手続にも違法は認められない。

3  以上、本件解雇には相当な理由があり、手続にも違法は認められないから、本件解雇は有効である。

四  結論

以上、本件仮処分命令の申立ては、被保全権利の疎明がないのでこれを却下し、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 水谷美穂子)

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