大阪地方裁判所 平成3年(ワ)1060号 判決 1994年4月26日
大阪府岸和田市箕土路町二丁目四番八号
原告
寺田毛織株式会社
右代表者代表取締役
寺田公圭
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
松本司
同
西垣剛
右輔佐人弁理士
小谷悦司
大阪府和泉市池上町二一番地
被告
興洋染織株式会社
右代表者代表取締役
西川文平
右訴訟代理人弁護士
玉生靖人
同
住井雅義
同
増田正典
右輔佐人弁理士
神崎彰夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
1 被告は、別紙(三)の1及び同(三)の2記載の各方法を使用してはならない。
2 被告は、別紙(五)の1及び同(五)の2記載の各毛布を製造販売してはならない。
3 被告は、前項記載の各毛布及び別紙(四)の1及び同(四)の2記載の各装置を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、金三億六〇〇〇万円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲1項記載の発明を「本件発明」という。)を有している。
発明の名称 重ね毛布の製造方法
出願日 昭和五三年七月六日(特願昭五三-八二六三一)
出願公告日 昭和五六年六月二四日(特公昭五六-二七二五七)
登録日 昭和五七年二月二五日
登録番号 第一〇八五三九三号
特許請求の範囲
「1 2枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布の製造において、合成繊維を生地成分として含む2枚の毛布地を重ね合わせ、縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し、しかる後に該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なうことを特徴とする重ね毛布の製造方法。
2 タテ編み毛布地の長尺反を重ね合わせて送り、そのヨコ方向の縁部予定部に沿って線状熱圧を近接平行に二部分について行なった後該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断し縁縫いを行なうという操作を長尺反から採取すべき一毛布ごとに繰返す特許請求の範囲第1項記載の重ね毛布の製造方法。」(別添特許公報〔以下「公報」という。〕参照)
二 本件発明の構成要件及び作用効果は、次のとおりである(甲二、公報)。
1 構成要件
(一) 2枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布の製造において、
(二) 合成繊維を生地成分として含む2枚の毛布地を重ね合わせ、
(三) 縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し、
(四) しかる後に該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なうことを特徴とする、
(五) 重ね毛布の製造方法
2 作用効果
(一) 線状熱圧によって熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われるから、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても縁部が延伸しないという効果を奏する(公報2欄25行~31行)。
(二) 熱圧によって形成された線状凹部は縁布によって被覆されるから、縁部の外観を損じない(公報2欄31行~33行)。
(三) 仮縫い、本縫いのごとき二度縫いを行なう従来法に比べるとはるかに高能率である(公報2欄34行~35行)。
三 被告の行為
1 被告使用の装置
(現在使用の装置)
被告は、遅くとも平成元年五月ころから、別紙(一)の1(イ号装置目録)及び同(一)の2(ロ号装置目録)記載の各毛布裁断装置(以下「イ号装置」「ロ号装置」といい、両者合わせて「被告装置」という。)を用いて、いわゆるマイヤー毛布(ドイツ・カールマイヤー社製の機械で編成したタテ編み毛布地による重ね毛布)を製造、販売している。なお、原告は、被告が現在使用している毛布製造装置は別紙(四)の1及び同(四)の2記載のとおりであると主張するが、当事者双方の主張の相違点のうち、イ号装置の加熱平板に関しては、加熱用銅板のヒーター用配線は切断され加熱平板として使用されていないから被告主張のとおりと認められ、その余の相違点に関しては被告主張のものが原告主張のものよりも装置を具体的、詳細に記述しているのみで実質的な争いはない。(検乙六~一二、検証〔証拠保全〕、証人河越、船富、弁論の全趣旨)
(被告装置の変遷)
被告装置は、次のとおりの変遷を経て現在に至っている。(甲六、二五、乙一、三の1~3、証人船富、同河越)
被告は、昭和五五年ころマイヤー毛布の製造を開始し、昭和五五年五月、株式会社三和工業所(以下「三和工業所」という。)から毛布製造装置として一号機を購入し、これを被告の関連会社である興洋ミシン株式会社(昭和五九年株主総会決議により解散した。)に設置したのを皮切りに、以後、昭和六〇年四月までの間に、別表記載のとおり、二号機から七号機まで計七台の毛布製造装置を購入した(但し、一号機は、昭和五七年火災により焼失)。
購入当初、一号機から七号機までは、裁断装置の加熱平板が六本の棒状ヒーター(もっとも、一号機のみは最初は板状ヒーターであったものを改造した。)によって加熱される構造となっており、温度調節は〇℃~五〇〇℃の目盛りで温度を設定するダイヤル式温度調節装置により行なうようになっていたが、右温度調節装置が故障した場合には加熱平板が異常高温となり、接触した毛布のアクリル繊維の一部が熱によって焦げて小さな粒状に固形化し、それが異物混入による不良品と認められて、毛布の商品価値が損なわれるというトラブルが度々発生した。
被告は、この問題を解決するため、三和工業所と協議して、昭和六一年五月に八号機を購入する際、加熱平板の熱源となる棒ヒーターの数を六本から三本に減らし、かつ、温度調節装置による温度調節を廃止したところ、これによって加熱平板の異常高温の発生に伴うトラブルが発生しなくなり、上記問題を解決できることが経験的に判明した。そこで、被告は、昭和六一年から昭和六三年ころにかけて、以前から使用していた二~五号機についても、六本のヒーターのうち三本の配線を切断し、衿付風毛布の製造に使用する六号機及び七号機については、六号機の加熱平板は残すがそのヒーターの配線を全部切断し、七号機の加熱平板は全部取り除いて、加熱機構が働かないようにした。また、被告は、昭和六一年から昭和六三年ころにかけて、六号機を除く二~七号機及び八号機について、上下毛布地の切断部が互いに内側に巻き込むことを防ぐ目的でブロー装置を取り付けた。
2 被告の製造方法
被告は、遅くとも平成元年五月ころから被告装置を用いて重ね毛布を製造しているが(以下、イ号装置を用いた製造方法を「イ号方法」、ロ号装置を用いた製造方法を「ロ号方法」といい、両者を合わせて「被告方法」という。)、被告方法は別紙(二)の1及び同(二)の2に各記載のとおりである(検乙六~一二、検証、証人河越、弁論の全趣旨)。なお、原告は、これを別紙(三)の1及び同(三)の2記載のとおりであると主張するが、右原告主張中当事者間に争いのある「熱圧」の意義ないしその作用効果に関する部分を除外して被告方法を客観的に記述すると、実質的には別紙(二)の1及び同(二)の2記載のとおりとなり、その限度では当事者間に争いはない。また、被告方法が、後記争点を除き、その余の本件発明の構成要件を具備していることは、当事者間に争いがない。
四 請求
【主位的請求】
被告方法が本件発明の技術的範囲に属することを理由に、被告に対し、本件特許権に基づき、別紙(三)の1及び同(三)の2記載の重ね毛布製造方法の使用禁止、右方法により製造された別紙(五)の1及び同(五)の2記載の毛布並びに、被告方法の実施に供せられた別紙(四)の1及び同(四)の2記載の装置の廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償として、被告方法の実施により原告が被った損害金(昭和六三年二月一四日以降平成三年二月一三日までの間に被告が得た利益相当額三億六〇〇〇万円)及びこれに対する平成三年二月二二日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを請求。
【予備的請求】
1 仮に現在の被告方法が本件発明の技術的範囲に属しないとしても、被告は、昭和五八年一二月一日から平成元年四月まで被告装置の加熱平板の温度を三〇〇℃に設定して使用していたから、この間における被告の重ね毛布製造方法は本件発明の技術的範囲に属すること、原告は、その間の被告の販売合計額一〇五三億円の三%である三一億五九〇〇万円の実施料相当額の損失を被り、被告は右同額の利得を得たことを理由に、不当利得返還請求権に基づき、右内金三億六〇〇〇万円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを請求。
2 仮に現在の被告方法が本件発明の技術的範囲に属しないとしても、被告は、昭和五八年一二月一日から昭和六一年四月まで被告装置の加熱平板の温度を三五〇℃に設定して使用していたから、この間における被告の重ね毛布製造方法は本件発明の技術的範囲に属すること、原告は、その間の被告の販売合計額二二五億円の三%である六億七五〇〇万円の実施料相当額の損失を被り、被告は右同額の利得を得たことを理由に、不当利得返還請求権に基づき、右内金三億六〇〇〇万円及びこれに対する平成三年二月二二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを請求。
五 争点
1 本件発明の構成要件(三)「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」の意義。
2 被告方法は、本件発明の構成要件(三)を具備しているか。
3 被告が昭和五八年一二月一日から平成元年四月までの間実施していた重ね毛布の製造方法は、本件発明の構成要件(三)を具備していたか。
4 被告が損害賠償責任又は不当利得返還責任を負担する場合、原告に生じた損害の金額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(本件発明の構成要件(三)「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」の意義)
【原告の主張】
1 特許請求の範囲にいう「縁部」は、毛布の切断端面をも含む概念であり、被告主張のように、縫着ラインに沿った毛布起毛面に限定される理由はない。「縁部」つまり「縁」の語は、一般に「物のはし。へり。まわり。」(広辞苑一八七九頁、岩波書店)、「物の端の、他との境界になる部分。へり。はし。」(大辞林二一二一頁、三省堂)という意味であり、特許出願願書添付明細書(以下「明細書」という。)の発明の詳細な説明にも、「縁部」を限定するような文言はなく、別段特殊な意味で「縁部」という語を使用しているわけでもないから、本件特許請求の範囲にいう「縁部」とは、通常どおり、「切断端面をも含んだ毛布の端の部分一帯を指す、ある程度幅をもった概念」として把握されるべきであって、被告主張のように、切断端面は含まず、切断端面から毛布の内側に縁縫いを行なう幅だけ入り込んだ部分を指すなどという限定解釈をすることは許されない。
特許請求の範囲にいう「熱圧」は、「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って」と記載されているように、縁部に「沿って」さえいればよいのであって、その縁部に沿った熱圧の結果として、縁部の伸縮性が失われれば、右の熱圧部分でない部分をミシンで縫っても縁部が延伸しないという作用効果を奏するものである。願書添付図面第2~第4図は、本件発明の一実施例であり、この実施例に本件発明の技術的範囲が限定されるいわれはない。
特許請求の範囲にいう「加熱凸型」については、明細書の発明の詳細な説明中に、「・・・毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために該縁部に沿って線状熱圧を行なうものである。」(公報2欄21行~24行)と記載されているが、右記載は、毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られている
「加熱凸型」を、縁部の伸びを防止するために、該縁部に沿って線状熱圧を行なうために使用すると説明する趣旨であって、この「加熱凸型」を毛布起毛面に凹状模様を付与するのと同じ方法で使用すると限定しているのではない。
「凸」とは、一般にも垂直方向に突出しているという概念ではなく、水平方向に突出していてもよく、つまり「加熱凸型」は縁部に「線状熱圧」を加えるための構造であればよい。被告装置には、「加熱平板17」が毛布切断面を通過する際、切断された毛布が水平方向に逃げないよう垂直方向に押さえ付ける部材として「毛布固定板9、9」が存在しており、「加熱平板17」は、いわば毛布の切断面を水平方向に押しつけ、擦りつけていることになるが、このように、当該切断面の一方端から他方端までを水平方向に押圧することも、「該縁部に沿って・・・線状に・・・熱圧」に含まれる。
2 被告の主張に対する反論
被告は、本件発明は後記公知技術<1>ないし<5>の組み合わせに過ぎないから進歩性を欠如し、その技術的範囲は明細書記載の実施例に限定されるべきである旨及び、被告方法は公知技術の組み合わせであるから、被告方法は本件特許権を侵害しない旨主張するが(所謂自由技術の抗弁)、右被告主張はいずれも主張自体失当である。
進歩性欠如の主張は特許庁に対する無効審判請求の主張としてされるならともかく、侵害裁判所において主張することはできない。また、自由技術の抗弁についても、明文上の根拠はなく、また判例上確立した法理でもない。しかも、右法理は少なくとも被告方法と同じ方法がそのまま一体となって公知であることを前提とした法理であって、被告が主張するような所謂構成要件公知(構成要件毎に各別に公知)の場合は自由技術の抗弁が成立する余地はない。
本件発明は新規性は勿論、優に進歩性を有する発明である。すなわち、被告指摘の後記公知技術<1>ないし<5>のいずれにおいても、その縁部の延伸防止のため「線状熱圧によって熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性」を失わせることにより「ミシンによる縁縫いの際の張力がかかっても縁部が延伸しない」という、本件発明の重ね毛布の製造方法と同じ技術的思想は示唆も開示もされていない。
【被告の主張】
1 本件発明の構成要件 (三)の、熱圧する「縁部」、「熱圧」、「加熱凸型」及び熱圧されるべき「該熱圧部」の各意味・内容を、本件発明の技術的思想及び出願当時の一般的技術水準並びに明細書に記載された技術内容に照らして検討すれば、次のとおりである。
(一) 「縁部」及び「熱圧部」の意味・内容
発明の詳細な説明の記載より明らかなとおり、重ね毛布は、二枚の毛布地の縁部に縁布を被せてその縁布をミシン縫いすることにより得られるものであるが、縁布にミシンをかけて縫着する際、縫い方向に張力がかかるため、特にタテ編み毛布地においてヨコ方向へのミシン縫着をなす場合に、生地がヨコ方向に伸びやすい欠点がある。この欠点を除去するため、縫い目となる線に沿った毛布の起毛面に高周波又は加熱凸型により線状に熱圧を加えることにより、熱圧部の合成繊維が溶融して接着、固定するか又は接着しないまでも合成繊維の溶融又は熱圧変形によって熱圧部の組織を潰し、その結果縁部の伸縮性を失わせ、このようにして伸縮性を失った線状熱圧部に沿ってミシンによる縁部の延伸を防止しようとするのが本件発明の技術的思想である。
特許請求の範囲を含む明細書の記載を子細に検討すれば、「熱圧部」に関しては、「線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」「縁部予定部に沿って・・・線状熱圧を近接平行に二部分3、3について行ない、該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断5し」「毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られ」「前記熱圧によって形成された線状凹部3は縁布4によって被覆される」等と表現されているし、願書添付図面にも線状熱圧部3が毛布起毛面に形成されているものが図示されており、これらを総合すれば、「熱圧部」は毛布地の起毛面であることが明白である。
右本件発明の技術的思想及び明細書の記載内容を総合して考察すれば、本件発明の構成要件(三)の「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部」とは、毛布地に縁布をかけてミシンで縁縫いすることとの関係で意味付けられるから、それは、通常毛布の縁縫いが行なわれ、それが可能な場所、即ち毛布の切断端辺から内側に入った部分であると考えられ、また、その入り込む程度は、縁布が切断端面を包み込んで縁縫いを行なうために必要な幅であり、少なくとも切断端面又はその直近ではありえないことは明らかである。
そして、縁部に沿って熱圧を行なう箇所である「熱圧部」は、熱圧を行なう目的が、熱圧部の合成繊維の組織を溶融又は熱圧変形によって潰し、その結果、縁部の伸縮性を失わせ、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても縁部が延伸しないという効果を奏することに鑑みると、ミシンによる縁縫いを行なう箇所の直近でなければならないことは当然であり、およそ、切断端面に向かって高周波をかけたり加熱凸型を押圧するなどということは技術的に考えられないから、少なくとも毛布の切断端面ではないことは明らかである。
(二) 「熱圧」の意味・内容
特許請求の範囲中には、「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」(1項)、「そのヨコ方向の縁部予定部に沿って線状熱圧を近接平行に二部分について行なった後該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断し」(2項)と記載され、発明の詳細な説明中には、「従来、縁部にテープを当てがってあらく仮縫いをし」、「高周波又は加熱凸型による毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために該縁部に沿って線状熱圧を行なうものである」、「本発明では、前記熱圧によって形成された線状凹部3は縁布4によって被覆される」と記載されていること、唯一の実施例として、公報第2~第4図に示すとおり、毛布地の切断端と縁縫い部との間で縁縫い線に沿った毛布地起毛面部位が線状熱圧部として図示されていることを総合すれば、構成要件(三)の「熱圧」の意味及びその程度は、「熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われ」るものであり、「熱圧」は、高周波又は加熱凸型で行われるものである。
(三) 「加熱凸型」の意味・内容
本件発明における「加熱凸型」が具体的にいかなる形状のものかは、明細書中では明らかではないが、「凸」とは、一般に物の表面が部分的に出張っていることを意味すること(岩波書店発行、広辞苑第二版中一六〇七頁参照)、発明の詳細な説明中に、「加熱凸型による毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られている」(公報2欄21行~23行)、「本発明では、前記熱圧によって形成された線状凹部3は縁布4によって被覆される」(公報2欄31行~33行)と記載されているから、「加熱凸型」とは、加熱部分が他の部分より突出して凸状横断面を有していて、平坦な表面即ち毛布起毛面に対して突出して接触・加圧し、毛布起毛面の該接触・加圧部分に凹状変化を起こす形状のものでなければならず、しかも、右凸型による熱圧は、前記「熱圧」の意味・内容について述べたとおり、熱圧部分の合成繊維が溶融して縁部が接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われる程度のものであることが必要であるから、これを満足させるだけの熱圧機能を備えているものでなければならない。
2 公知技術を参酌しての検討
(一) 本件発明の出願日前既に次の公知の慣用技術が存在していた。被告装置は、これら公知の慣用技術の単なる組み合わせにすぎないことが明白であるから、本件発明の技術的範囲を、被告装置すなわち従来公知の慣用技術まで包含するように解釈することは、許されない。
<1> 特開昭五一-二六三九六号公報(乙六)
<2> 特開昭五一-一二七二九四号公報(乙七)
<3> 特開昭四八-四八七九六号公報(乙八)
公知技術<3>は、被告装置と同様に毛布を横方向に切断する装置に関し、被告装置に関連する主要構成を概略説明すれば次のとおりである。
A 毛布を搬送するコンベアの境界近傍において、同コンベアの下方に該コンベアの下方に該コンベアを直角に横切るレールを架設する。
B 円形刃を取付けたモータを設置した台車をレールに載せ、該台車の両端にチェーンを取付け、両チェーンを介してモータで台車を横方向に走行させる。
C 円形刃の刃先は、毛布を切断する必要最小限度コンベアの上面に突出するように取付ける。
D 毛布をコンベア上で固定する押圧プレートは、レールの横方向全長にわたって設置し、両端に取付けたエアシリンダによって垂直方向に作動させる。
E 押圧プレートは、逆U字形側面を有し、両下方突壁間を円形刃が移動する。
F 押圧プレートを加工させ、該プレートで毛布をコンベア上に固定してから、円形刃を回転させながら台車を横方向に走行させて毛布生地を切断する。
前記構成A~Fを有する公知技術<3>を被告装置と比較すると、被告装置は、円形カッターの後方にさらに加熱平板を設置している点が相違するに過ぎない。これに対して、公知技術<1>では、切断刃として回転刃等の種々の形状のカッターを用い、該切断刃によって熱可塑性樹脂の織成又は編組シートを切断した後に、板上の加熱融着装置3を通過させて切断耳部における各素糸を連続的に相互融着させる。板状の加熱融着装置は切断刃の後方に一直線状に設置され、板状の加熱融着装置の厚みは切断刃よりも明らかに大きい。
したがって、被告装置は、公知技術<3>の毛布切断装置に、公知技術<1>の加熱融着装置の技術を組み合わせただけのものにすぎない。公知の慣用技術を自由に利用する権利は、特許法で保護される特許権と対等な対立する権利であるから、本件発明の技術的範囲を公知技術の組み合わせである被告装置まで包含するように解釈することは到底許されない。
(二) 前記公知技術<1>~<3>に照らすと、本件発明は進歩性に欠け、無効とされる蓋然性が極めて高いから、その技術的範囲は明細書記載の実施例に限定されるべきである。また、その特許請求の範囲における不明確な語句の内容は、公知技術が本件発明の技術的範囲に属することにならないよう、また、本件発明の作用効果を達成できるものに限定して解釈すべきである。
公知技術<1>は、毛布地の長尺反を連続的に送って横方向に切断する点で本件発明と類似している。また、公知技術<3>において、押圧プレートによる線状押圧(但し、加熱はしていない)と円形刃による切断との組み合わせは、本件発明における特許請求の範囲第2項及び実施例に開示する「線状熱圧を近接平行二部分について行なった後該熱圧部の中間で毛布地を切断」する構成に対応し、本件発明の容易想到の一つの根拠にもなる。
公知技術<3>から自明でない本件発明の構成要件は、実質的には、「毛布縁部に沿って加熱凸型により線状に重ね合わせ毛布地を熱圧する」という部分だけであるが、当該構成要件は公知技術<2>によって実質的に出願前公知である。公知技術<2>の切断方法をみると、
A 編織布のカット部は、加熱押圧によって厚みを減少させ、場合によっては繊維を部分的に溶融させてもよい。特に編物はその縦糸が固定されてほつれなくなるから、このような加熱処理が本件発明におけるいわゆる「熱圧」に相当する。
B この加熱加工手段として、熱板又はトップローラの凸状部を布帛に圧着させる。右熱板が本件発明におけるいわゆる「加熱凸型」に相当することが明らかであり、該熱板によって編織布が線状に熱圧されることになる。
C 織布のカット部は、加熱押圧によって厚みを減少させた後に、その部分の中間をカッタによってカットされている。このような切断処理から判断して、編織布において溶融変形される部分は、本件発明における当該構成要件と同様に布帛の「縁部に沿って」線状に熱圧されるものである。
D 切断処理する編織布には、捲縮加工などを施した嵩高性のもの又は毛羽加工したものを含み、これによって公知技術<2>における編織布に毛布などを包含する。
E さらに公知技術<2>では、高周波が使用可能であることも示唆している。右のように、「毛布縁部に沿って加熱凸型により線状に重ね合わせ毛布地を熱圧する」という技術は、従来公知の技術に過ぎず、また、重ね毛布の製造業界では毛布地複数枚の同時処理も当業者に自明のことである。
したがって、本件発明は公知技術<2>及び<3>の単なる寄せ集めにすぎず、特許無効の審判において特許法二九条二項所定の進歩性を否定される蓋然性が極めて高いものであるから、あえて無効審判を待つまでもなく、本件発明の技術的範囲は明細書記載の実施例に限定して解釈されるべきである。本件発明の実施例では、重ね毛布地の起毛面の熱圧溶融後に切断を行っているのに対し、被告装置では、毛布地の切断後に切断面に加熱平板が触れるというものであり、被告装置による毛布切断方法が本件発明の技術的範囲に属しないことが明らかである。
(三) 本件発明の技術的範囲を原告主張のように拡大解釈すると、本件発明の技術的範囲に次の公知技術を包含することになるから、この点からみても原告主張は許されない。
<4> 実開昭四九-五七六九八号公報(乙九)
<5> 特公昭三三-八四九五号公報(乙一〇)
すなわち、公知技術<4>は本件発明と類似の技術分野に分類される反物などの長尺物複数枚の同時切断処理に関して、次の技術を開示している。
A この自動裁断装置では、適用する複数の長尺シート状物は反物であり、該反物に本件発明の重ね合わせ毛布を包含しうるものである。
B 自動裁断装置におけるカッター機構は発熱線からなり、該発熱線を垂直方向である矢印E-F方向に移動させ、積層状態の長尺シート状物の全体を幅方向に裁断する。このカッター機構はいわゆるヒートカット装置であり、長尺シート状物を発熱線で加熱裁断するため、該シート状物の切断端面も加熱押圧する。
C この発熱線は、添付第1図から判断して円形断面を有し、垂直加熱方向についてその中央部が突出することにより、本件発明の「加熱凸型」と実質的に同一の機能を発揮することになる。
また、公知技術<5>も本件発明と類似の技術分野に分類される合成繊維織布の裁断面処理方法に関して、次の技術を開示するものである。
公知技術<5>の特許請求の範囲は、「ポリアミド系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、その他の合成繊維の広幅織布を細帯状に裁断する際及び一枚布地を型紙によって裁断する場合にその裁断面に適度の熱風を噴射し、裁断端面の織糸のみを加熱して溶融し、互に溶着凝固せしめて裁断面の糸ホツレを防止することを特徴とする合成繊維織布の裁断面処理方法。」というものであるが、この特許出願願書添付明細書中において、「従来各種の合成繊維織布は裁断面より開放して糸ホツレを生ずるのが大なる欠点であり取扱上の障害となっており長尺原反の細帯状裁断又は型紙による一枚裁断の場合、この糸ホツレを防止するためにアルコールランプ、ガスバーナ等により裁断面の加熱処理又はヒーターによる加熱裁断処理方法等が行われているが、これ等はいずれも裁断面の直接加熱による溶着処理であるから溶着部に無理を生じ、処理状態が不均一であって、処理速度遅く非能率的であってヒーターによる場合は特殊装置を必要とし、又高周波電力によるときも溶着後裁断するもので手数を要する等の欠点があった。」旨従来の公知技術が記載されている。右に開示されている従来の公知技術におけるヒーターによる加熱裁断処理は、合成繊維織布の切断面の加熱処理であり、ここに云うヒーターは本件発明の「加熱凸型」と実質的に同一の機能を発揮するものである。このように「加熱凸型」による合成繊維織布の切断面の加熱処理は明らかに公知の技術である。
したがって、原告が主張するように、本件発明の構成要件(三)の「縁部」に毛布地切断端面を含み、同構成要件(四)の「熱圧部」に毛布地断面も含み、かつ、同構成要件(三)の「線状熱圧」には水平方向のものを含むと解するならば、本件発明の技術的範囲は公知技術<4><5>のような慣用技術をも包含してしまうことになり、特許無効の原因となる。したがって、このような拡大解釈が許されないことは明白である。
3 原告の主張に対する反論
本件発明の目的は、毛布地の横方向の縁部の延伸を防止することであり(公報第1欄32行~37行)、これが唯一の作用効果でもある。毛布地の縁部の横方向の伸びは、ミシンで縁布を縫着する際、該縁部をミシンに沿わせるために手で持ち上げ、且つミシンの送り装置で引っ張るために発生するものであるが、本件発明は、この伸びを防止するため、ミシンの縫い目となる線に沿った毛布の起毛面に高周波又は加熱凸型により線状に熱圧を加えることにより、熱圧部の合成繊維を溶融して接着、固定するか、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織を潰し、縁部の伸縮性を失わせるものであるから、構成要件(三)の「線状・・・熱圧」によって凹状溶融部を形成する位置は、自ずから毛布起毛面の一定の箇所に限定されることになる。また、ミシンによる縁布の縫着時に毛布地縁部を横方法に引っ張る力が発生したとき、縁部が横方法に伸びないようにするには、毛布地の伸びを止める凹状溶融ラインとミシンによる縁布の縫着ラインとを可能な限り近接させることが好ましく且つ必要であり、それゆえ、線状熱圧を行なうべき箇所は縫着ライン(毛布地切断端面から内側へ約三cm~四cmの位置)よりも毛布地の切断端面には近いけれども、切断端面よりは数cm内側へ寄った位置でなければならない。
また、特許請求の範囲中に、「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」(1項)、「そのヨコ方向の縁部予定部に沿って線状熱圧を近接平行に二部分について行なった後該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断し」(2項)と記載され、発明の詳細な説明中に、「従来、縁部にテープを当てがってあらく仮縫いをし」、「高周波又は加熱凸型による毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために該縁部に沿って線状熱圧を行なうものである」、「また本発明では、前記熱圧によって形成された線状凹部3は縁布4によって被覆される」と記載され、願書添付図面(第2~第4図)においても線状熱圧部3は毛布起毛面に形成されることが図示されている。このことからも、本件発明にいう「熱圧部」は、縫着ラインに沿った毛布起毛面であり、切断端面がこれに含まれないことは明らかである。
なお、被告方法では、本件発明の線状熱圧処理を行っていないので、実際には毛布の横方向縁部は延伸している。しかしながら、ミシン縫製方法が現在では格段に進歩したことと、コンベアによる毛布送りを付加したことにより毛布の自重が緩和されることから、被告製造の毛布でも横方向縁の伸びを最小限度に止めることが可能になっている。
「加熱凸型」については、明細書において定義的かつ具体的に説明されていないけれども、「凸」が「物の表面が部分的に出ばっていること」を意味すること、及び発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の「加熱凸型」はその加熱部分が少なくとも他の平坦表面に対して部分的に突出する凸状横断面を有する構造であり、かつ該「加熱凸型」による毛布地の押圧が垂直方向であると理解すべきであることは当然である。被告ロ号装置の裁断機構は、別紙(一)の1及び同(一)の2の第4図又は第7図で示すように、円形カッター15又は16の直近後方に区分け棒20が設けられ、その約五mm後方に加熱平板17が設けられており、円形カッター15又は16で切断された重ね合わせ毛布の切断面は、その直近後方に位置する区分け棒20によって八mmの間隔に広げられるから、更にその後方に位置する同じ八mm厚の加熱平板17に接触しうる毛布地切断面の繊維は、区分け棒20で広げられた直後にその弾力によって外方へ膨張した部分だけであり、毛布地切断面では繊維の弾性によって加熱平板17との間に多少の接触圧が発生するとしても、加熱平板17が毛布地の切断面を水平方向に押圧していることにはならない。したがって、被告方法で用いる加熱平板17は、少なくとも本件発明における「加熱凸型」と同一又は類似の構造と機能を有するものではなく、重ね合わせ毛布を垂直方向に押圧するものでないことは明白であり、そのうえ水平方向においても重ね合わせ毛布地を押圧していないので、本件発明の「加熱凸型」に該当しない。
二 争点2(被告方法は、本件発明の構成要件(三)を具備するか)
【原告の主張】
被告方法は、加熱平板の温度を二五〇℃に設定し、毛布のアクリル繊維又はポリエステル繊維を溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織を潰すことにより、毛布の縁部の伸縮性を喪失させ、ミシンによる縁縫いの際にかかる張力に対して延伸しないようにしている。したがって、被告方法は本件発明の構成要件(三)を具備している。被告がこの方法を実施していることは、次の点からも明らかである。
1 平成三年七月一九日被告工場内で行なわれた現地和解期日(以下「現地和解期日」という。)において、被告が原告代理人立会い下に製造したうえ原告に交付した毛布(検甲七の1、以下「毛布A」という。)は、毛布切断面の状態及び延伸性において、市場で一般に販売されている被告製造毛布と顕著に相違しているから、被告が現地和解期日において説明した一二〇℃という加熱平板の設定温度が事実と相違することは明白である。
被告が現地和解期日で交付した毛布Aは、その縦方向の両端部(天・地)横幅が、中央部(中)と比較して約八~一〇cm延伸しているのに対し、一般市販の被告製造毛布(検甲八~一一の各1)は、縦方向の両端部横幅は中心部横幅とほぼ同長で延伸していない。
一般市販の被告製造毛布(検甲一、以下「毛布B」という。)の端部切断面(検甲六)には、繊維が熱によって溶融した後に冷えて固まった状態と見られる茶色の部分がある。被告製造毛布の基布を構成するアクリル繊維又はポリエステル繊維が溶融するには、アクリル繊維の軟化点が一九〇℃から二四〇℃で溶融点はなく、二〇〇℃以上の加熱で黄変すること、及び、ポリエステル繊維の軟化点が二三八℃から二四〇℃、溶融点が二五五℃から二六〇℃であることに鑑みて、最低でも約二五〇℃の加熱が必要であり、加熱平板を通過させる時のように瞬間的にしか加熱しない場合にはより高い温度が必要となる。
一般市販の被告製造毛布(検甲一二~一三の各1、以下、検甲一二の1を「毛布C」といい、検甲一三の1を「毛布D」という。)の端部切断面のポリエステル基布部分は、「融着しているのが見られその部分で焦げ」、つまり「融解し炭化が始まっている」ことからみて、少なくとも二五〇℃以上の温度で熱せられたものと推定され、毛布Dの再試験によっても同様の結果が出ている。
一般の被告製造毛布(検甲一四の1、以下「毛布E」という。)の端部切断面のポリエステル基布部分は、加熱しない鋏で切断した場合と比較して、切断面が丸みを帯びており、一旦溶融して延伸されたものと推定される。
2 加熱平板の機能
加熱平板で毛布地の切断面を加熱することにより微塵が防止できるのは、被告主張のとおりであるが、加熱平板の主たる機能は、あくまで縁部の延伸防止である。
そもそも、切断時に加熱することで微塵が防止できるのは、毛布のアクリル繊維又はポリエステル繊維を溶融又は熱圧変形させたからであり、溶融又は熱圧変形させないのであれば、加熱する必要はない。切断後、カッター丸刃41より厚い肉厚八mmの加熱平板を切断面に擦り付けることは、カッターで切断するだけの場合と比べて逆に断面のほつれを進行させ、微塵を周囲へ飛散させることになりかねない。
被告方法では、加熱平板の加熱により、毛布地の繊維が熱収縮し、かつ、少し固くなっているから、換言すれば、合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰されているから微塵防止にもなるのである。
加熱平板は、最初は厚さ八mmであるが、約二年間の継続使用により厚さ五mm、時には厚さ三mmと薄くなる。この薄くなる原因は、加熱平板が毛布と擦れることによるほか、加熱平板にこびりついた、溶融し熱圧変形したアクリル繊維又はポリエステル繊維をワイヤブラシで削り落とす際に、加熱平板も一緒に削れ、その厚みが減少するためである。このように、溶融し熱圧変形したアクリル繊維若しくはポリエステル繊維が加熱平板にこびりつくのは、加熱平板が二五〇℃以上に加熱されているからである。
さらに、被告は、加熱平板の機能は微塵防止と主張しながら、六号機並びに七号機ではこれを使用していない。
3 被告の主張に対する反論
被告は、加熱平板の実際の温度がクーラーの風、室温等により降下するとか、六本のヒーターを三本に減らしたことにより温度上昇はしない等と主張するが、加熱平板の設定温度は、ヒーターの数を減らせば下がるというものではなく、ヒーターの数を減らしても、加熱平板を設定温度まで上昇させるのに時間を要するだけであり、設定温度自体は下がらない。被告に被告装置を販売した三和工業所は、加熱平板の温度は一五〇℃から三〇〇℃まで設定可能である旨証明している(甲六)。
被告は、搬送ベット(コンベア)の速度とミシンの速度の調整により延伸防止を達成していると主張するが、例えば、ミシンの縫製速度とコンベアの速度を異ならせれば、毛布はコンベア上で傾斜し、結局、縫製は不可能となるし、また、ミシンの速度の調整により縁部の延伸防止をすることもできない。もし、カン縫いミシンの速度調整により延伸防止が可能であるとすれば、甲第一九号証の考案の対象たるミシン(送りミシン)など必要がないからである。
【被告の主張】
1 加熱平板の機能
被告が加熱平板を使用するのは、あくまで切断面のほつれを防ぎ、綿状埃の飛散を防止するためであり、被告ロ号装置の加熱平板は、合成繊維が溶融して接着、固定したり、接着しないまでも組織が潰される結果、縁部の伸縮性が失われ、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても縁部が延伸しなくなるという効果は一切奏していない。このことは、原告が、被告製造の毛布として提出した毛布A~Eの中に、毛布地が溶融していたり、熱により延伸が防止された状態のものがないこと、被告方法に関する特許出願「二枚合わせ毛布の製造方法」(甲一七の1)及び「重ね毛布地の裁断装置」(乙三の1)の願書添付明細書中に、加熱平板を毛布の延伸防止に使用する旨の記載がなく、毛布裁断地の繊維片の脱落防止をはかる目的のみが記載されていることからも明らかである。すなわち、
(一) 被告方法は、アクリルのパイル起毛面とポリエステルの基布地面よりなる二枚の長尺反毛布地を円形カッターの横方向走行により一毛布単位に切断するに際し、円形カッターの走行方向後方に設置されている肉厚約八mmの区分け棒により切断面を区分けし、更に、その後方に位置する区分け棒の肉厚と同じかやや薄い加熱平板が切断面に沿って円形カッター及び区分け棒より遅れて走行する構成となっており、右加熱平板を切断面に沿って走行させることによって、切断面からほつれ出ようとする繊維片及び切断面に付着している綿状埃の一部を軽度に熱収縮させ、切断面のほつれの進行を一部抑制するとともに右繊維片及び綿状埃の周囲への飛散を防止する効果を奏する。
「熱収縮」と「溶融」や「熱圧変形によってその部分の組織が潰されている」こととは質的に全く異なる概念であり、明確に区別されるべきである。アクリルやポリエステルの場合、「溶融」は融点(約二五〇℃)以上の温度により生じるが、「熱収縮」は融点よりはるかに低い一〇〇℃前後の温度から生じ、融点よりはるかに低い温度によっても、切断面からほつれ出ようとする繊維片及び切断面に付着している綿状埃等の一部を軽度に熱収縮させ、切断面のほつれの進行を一部抑制するとともに右繊維片及び綿状埃等の周囲への飛散を防止する効果を奏する。
なお、被告は、縁布のミシン縫着時における縁部の延伸を緩和する方策として、コンベアにより毛布を前方に送りながらミシンがけをなす方法を採用している。
(二) 被告は、当初六本であった加熱平板のヒーターを、昭和六一年五月または同年末ころまでに各装置とも三本に減らし、これにより加熱平板の温度上昇の程度が低くなった。内部のヒーターによって加熱された加熱平板の表面の熱は、外気によって常に奪われている状態にあるうえ、回転する円形カッターの風力によっても相当奪われるため、現実の表面温度は、ヒーターの本数即ち熱源の数によっても異なる。また、加熱平板表面からの放熱があるため、加熱平板の表面は、一様な温度分布を示すものではなく、ヒーターからの距離の遠近によって温度差が生じるから、ヒーターの本数が多いほど高温の部分が広く分布し、走行する加熱平板によって毛布に与えられる熱はそれだけ高くなる。
(三) 被告は、加熱平板の温度を一定に保つよう調節していない。加熱平板の表面温度の測定は、温度分布に高低がみられ、室温、ヒーターがセットされてから測定時までの時間的経過、測定までの作業量、測定器具の種類(棒状端子か筒型端子か)、測定方法によっても異なり、一義的な結果が得られる性質のものではない。
2 原告の主張に対する反論
原告は、被告が検証(証拠保全)の際に示した加熱平板の温度調節装置のダイヤルの針は一二〇℃を示していた(検証調書添付写真<12>)と主張するが、右主張は事実に反する。写真<12>のダイヤルは、整理加工事業部三課に設置された装置(六号機)に取付けられていたが、右装置の加熱平板の六本のヒーターの配線は全部切断されており、凡そ加熱機能を備えていない装置であるから、右ダイヤルの針の示す数値には全く意味がないものである。
また、原告は、平成三年七月一九日の現地和解期日において、立会人河越が加熱平板の温度について一二〇℃であると説明したと主張するが、この時は、原告側が温度計を持参し、自ら加熱平板の温度を計測して、一二〇℃の結果を得たのであるから、右主張は事実に反する。
三 争点3(被告が昭和五八年一二月一日から平成元年四月までの間実施していた重ね毛布の製造方法は、本件発明の構成要件(三)を具備しているか)
【原告の主張】
被告は、昭和五八年一二月一日から平成元年四月までの間、被告装置の加熱平板の温度を三〇〇℃に設定していた、仮にそうでないとしても、昭和五八年一二月一日から昭和六一年四月までの間、右加熱平板の温度を三五〇℃に設定していたから、被告方法は本件発明の構成要件(三)を具備していた。
1 被告装置の変遷の経緯
(一) 被告は、昭和五七年七月より昭和六一年にかけて、重ね毛布の製造に使用するため、別表記載のとおり、三和工業所製造の装置八台を購入した。当初、右装置の加熱平板の熱源ヒーターは六本であったが、機械の故障が多く、また加熱平板の温度が上昇しすぎるため、被告は、三和工業所と検討の上、昭和六一年五月に導入した八号機については、当初よりヒーターを三本とし、昭和六一年五月から同年一二月までの間に、四台(二~五号機)についてはヒーターを三本に減らし、一台(六号機)についてはヒーター全部の配線を切り、残り一台(七号機)は加熱平板自体を取り外した。そして、昭和六一年五月から昭和六三年一二月にかけて、衿付毛布の製造に使用する六号機を除く六台の装置については、熱風噴射装置を取り付けた。
(二) 被告が各装置を購入した当初、加熱平板の温度は約三五〇℃に設定されており、使用時における加熱平板の温度が、実際には、室温等により多少降下していたとしても、該温度により、毛布のパイル起毛であるアクリル繊維は炭化し、基布であるポリエステル繊維は溶融していたものであり、その結果、熱圧部の組織が潰れ、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても、毛布の縁部の延伸は防止されたのである。
(三) 右設定温度は、延伸防止のためには良いが、温度が高すぎたためアクリル繊維が強度に炭化して小さな粒状の固まりとなり、取引先、消費者等から異物混入のクレームが出ることとなった。そこで、被告は、昭和六一年五月ころ、加熱平板の設定温度を三〇〇℃に下げ、この温度でも縁部の延伸防止には十分であったが、さらにその補助として、ブロー機構部(熱風噴射装置)を取り付け、右の熱風の設定温度を三〇〇℃とした。
(四) しかし、加熱平板の設定温度を下げたにもかかわらず、取引先、消費者等から異物混入のクレームが出たため、被告は、平成元年五月には、加熱平板の設定温度を二五〇℃に止まるようにする旨決定し、さらに、平成二年九月には、品質保持のため「天地のヘムの伸び」に注意するようにしたのである。
【被告の主張】
1 原告は、「被告の各装置購入当初は加熱板のダイヤル設定温度は約三五〇℃であった」とし、その設定温度において、「アクリル繊維は炭化し、基布であるポリエステル繊維は溶融し、熱圧部の組織が潰れた」、「その結果、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかってもイ号毛布の縁部の延伸は防止された」と主張するが、設定温度三五〇℃(しかも温度調節装置のダイヤル設定温度)の加熱平板の走行による毛布切断端面への瞬間的接触によって、繊維が炭化したり組織が潰れることは技術的にみて不可能である。また、そもそも原告の主張のように繊維が炭化するなどした毛布は、商品としては不良品となるものであり、被告では、そのような毛布の製造は行っていない。
2 原告は、「昭和六一年五月ころ、加熱平板の設定温度を三〇〇℃に下げた。この温度でも縁部の延伸防止には十分であった。」と主張するが、右主張は、いわゆる加熱平板では伸び止めの効果は期待できないから、ブローの方式を開発したという趣旨の原告側の船富証人の証言とさえも食い違うものであり、考慮するに値しない。
被告がロ号装置にブロー機構部を設けた理由は、マイヤー毛布の切断部が、切断端よりある程度の範囲にわたって基布地側(即ち上部の毛布は下方、下部の毛布は上方)に巻き込む性状を有することから、重ね合わせた二枚の毛布地を円形カッターの横方向走行により一毛布単位に切断しながら、該切断端から約二五ミリメートル内側のパイル起毛面を熱収縮させることにより、上部毛布地の切断部が下方(基布地側)に巻き込むことを防止して、上部毛布地の水平自重を保ち、下部毛布地の切断部の上方への巻き込みをなくすることにある。なお、右高温エアーの吹きつけによっても、直下の上部毛布起毛面は熱収縮するにとどまり、上下二枚の毛布も接着、固定することなく分離された状態で、縁部の伸縮性も大であるから、縁部の伸縮性が失われミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても縁部が延伸しないという、本件発明の如き効果は一切奏さない。
3 原告は、被告が平成元年五月には加熱平板の設定温度を二五〇℃に止るようにする旨決定し、それ以前は、より高温の状態で加熱平板を使用していた旨主張し、その根拠として「商品事故改善報告」「事故内容別発生件数(構成比)」(甲二四)を提出する。しかし、「事故内容別発生件数(構成比)」と題する書面は、被告の製品納入先である西川産業株式会社(以下「西川産業」という。)の取扱い商品全体(他社商品も含む。)に関する事故発生状況を表すもので、被告が西川産業に納入した商品のみの事故発生状況を表したものではない(乙一一の1~5)。したがって、昭和六〇年以降、被告商品について異物混入が増加したので、被告が平成元年五月から加熱平板の温度を低下させたという原告の論法は、右書面からは成り立ち得ない。
また、原告は、「商品事故改善報告」昭和六三年一二月二五日欄の「黒い物は見当たらない 繊維の溶けたものと推察される」という記載をことさらに取り上げ、これがため被告が加熱平板の設定温度を下げたものと主張するが、このような事故は、被告が西川産業に販売している年間六〇万ないし七〇万枚の商品のうちに偶々発生した極々例外的な事故である(一二月二五日欄の品番FRS1550861の商品も四万九〇〇〇万枚納入している。)。西川産業に納入された被告商品の異物混入事故発生数は、分科会において配付された、被告から西川産業への販売商品のクレーム発生状況を纏めた表(乙一一の3、4)によって明らかなとおり、昭和六一年度〇件、昭和六二年度一件、昭和六三年度四件、平成元年二月から五月の間一件という極々稀な事故であり、河越証人も、平成元年になって加熱平板の温度を下げた事実のないことを明確に証言している。
第四 争点に対する判断
一 争点1(「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね毛布を熱圧し」の意味・内容)
1 熱圧される「縁部」及び「熱圧部」の意味・内容
(一) 「縁部」について
「縁部」とは、「縁」に「分けること。分けた一区分。」(広辞苑第四版二二〇八頁)を意味する「部」を組み合わせた語であり、「縁(えん)」が「へり。ふち。」(広辞苑第四版二九六頁)、「物の周辺部。ふち。へり。」(大辞林二七五頁)を意味し、「縁(ふち)」が「物のはし。へり。特に、まわりの枠。」(広辞苑第四版二二五〇頁)、「物の端の、他との境界になる部分。へり。はし。」(大辞林二一二一頁)を意味するから、一般に、「縁部」とは「他との境界をも含めた物の端の一部分」という意味であり、特に境界端を除外するものではないと解される。
特許請求の範囲中には、「二枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布」「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って・・・熱圧し」「該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なう」と記載され、発明の詳細な説明中には、「重ね毛布は該2枚の毛布地の縁部に縁布を被せてミシン縫着することによって得られるが」(1欄32行~33行)、「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部(この例ではヨコ方向の縁部)に沿って高周波又は加熱凸型により線状3に該重ね毛布地を熱圧し、しかる後に該熱圧部を縁布4で被覆して縁縫いを行なうことを特徴とする」(2欄16行~20行)と記載され、特に「縁部」の意味を限定する趣旨の記載はないけれども、熱圧される「縁部」が、毛布の縁布によって被覆される部分内に位置することは明記されている。
また、願書添付図面のうち、縁部が延伸した従来の重ね毛布の平面図である第1図は、タテ方向の両端部11が弓なりになり、天地(上下)の両端部が略扇型にヨコ方向に広がった(その際、最も延伸しているのは上下の両切断端部である。)毛布を図示しており、右従来例の説明として、発明の詳細な説明中には、「縫着の際、縫い方向に張力がかかるために縁部が延伸しやすい傾向があり」(1欄33行~35行)、「特にタテ編み毛布地の場合は生地がヨコ方向に伸びやすいから縁縫いの際ヨコ方向の縁部が延伸し、第1図に示すように、タテ方向の縁部11が弓なりになり、毛布の形状を著しく損じる。」(1欄35行~2欄2行)と記載されている。
以上によれば、本件発明の構成要件(三)の「縁部」とは、「毛布の縁布によって被覆される端部分であり、従来の製法ではミシン縫着の際に延伸していた部分」を意味し、特に境界端(切断端面)を除外するものではないと解される。
(二) 「熱圧部」について
特許請求の範囲中には、「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って・・・線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」、「該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なう」と記載され、発明の詳細な説明中には、「前記線状熱圧によって熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われる」(2欄25行~29行)と記載されているが、これらの記載によれば、「熱圧部」とは、毛布の縁布により被覆される「縁部」の一部であり、その部分の合成繊維の組織が溶融又は熱圧変形により潰されることにより、毛布の伸縮性が失われる効果をもたらす、線状熱圧を加えた部分であると解される。
(三) 被告は、熱圧される「縁部」について、「縫い目となる線に沿った毛布の起毛面」に限定され、毛布地の切断端面は含まれないと主張する。しかし、本件発明の作用効果は、明細書の発明の詳細な説明中に、「前記線状熱圧によって熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われる」(2欄25行~29行)と記載されて、熱圧を加えることによってその部分の合成繊維を溶融又は熱圧変形して組織を潰しその結果、その「熱圧部」の伸縮性を失わせ、ミシン縫着時の張力により縁部が延伸するのを防止することにあり、それが唯一の作用効果であると解されるところ、「熱圧」によって最大の延伸防止効果が得られるのは、ミシン縁縫いを行なう箇所又はその切断面側の直近箇所に線状熱圧を加える場合であると考えられるから、縁布のミシン縫いの際に毛布地に延伸をもたらす張力が最も強くかかる部分は、毛布地の切断端面から約三~五cm内側のミシンの送り装置が作動する部分(結局、ミシン縫いする部分)であり、これは毛布全体の幅と比較して極く僅かな部分に過ぎず(証人河越)、「熱圧」によって毛布地の切断端面の合成繊維の組織を潰した場合でも、組織の潰し方の強度ないし潰す範囲次第によっては、延伸防止効果が得られることもあると考えられるから、線状熱圧を行なう箇所が毛布の切断端面より少なくとも数cm内側に寄った起毛面上に限定される旨の被告主張は採用できない。
2 「熱圧」の意味・内容
「熱圧」という語の意味を一般的に定義する文献は見当たらないが、この語は、「熱」に「圧力」を意味する「圧」を組み合わせた語であるから、物質に熱及び圧力を一緒に加えることをいうものと解される。なお、「熱圧」と類似の用語として、「熱と圧力の両方を(部材に)加えて結合させること。集積回路のチップにビードをつけるときなどに用いる。」を意味する「熱圧着」なる語(マグローヒル科学技術用語大辞典〔第二版〕一二二五頁)も参考にすべきであろう。そして、明細書中に「熱圧」の意味を具体的に明示し限定する趣旨の記載はなく、本件発明において「熱圧」を加える目的ないし作用効果として、特許請求の範囲中に、「高周波又は加熱凸型により・・・熱圧し」と記載され、発明の詳細な説明中に、「高周波又は加熱凸型による毛布地の熱圧は・・・知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために・・・線状熱圧を行なうものである。本発明の方法は、前記線状熱圧によって熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によってその部分の組織が潰され、その結果縁部の伸縮性が失われるから、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかっても縁部が延伸しないという効果を奏する。」(2欄21行~31行)と記載されていることを総合考慮すると、本件発明において、「熱圧」として熱及び圧力を一緒に加える程度は、「熱圧」を加えた結果、縁布で被覆される毛布地の「縁部」が縁布のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に伸縮性を失うものであることを要し、かつ、その程度で足りるということができる。
右によれば、本件発明の構成要件(三)の「熱圧」とは、「熱と圧力を同時同一箇所(一緒に)加えることにより、毛布地の合成繊維の組織を溶融又は熱変形させ、縁布のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせること」をいうものと認めるのが相当である。
3 「加熱凸型」の意味・内容
「凸」とは、一般に「物の表面が部分的に出張っていること」(広辞苑第四版一八五二頁)を意味するが、明細書中においては、「加熱凸型」の意味を具体的に明示し限定する趣旨の記載はなく、特許請求の範囲中に、「加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」と記載され、発明の詳細な説明中に、「加熱凸型による毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために該縁部に沿って線状熱圧を行なうものである。」(2欄21行~24行)等と記載されているのみである。したがって、本件発明の構成要件(三)の「加熱凸型」とは、加熱部分がそれ以外の部分よりも突出しており、毛布地に線状に熱圧を加えることが可能な構造のものであれば足り、必ずしも加熱部分が凸状横断面を備えることを要しないと解するのが相当である。
4 以上によれば、本件発明の構成要件(三)の「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って・・・線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」とは、重ね合わせ毛布地のうち、縁布により覆われる縁部(切断端面を含む。)に、熱及び圧力を一緒に毛布地の縁部に沿って線状に加えることにより、その部分の合成繊維の組織を溶融又は熱変形させ、縁布のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせることを意味するものというべきである。
二 争点2(被告方法は、本件発明の構成要件(三)を具備するか。)
1 イ号方法について
原告は、被告が別紙(四)の1記載の装置(原告主張のイ号装置)を使用して別紙(五)の1記載の方法(原告主張のイ号方法)により重ね毛布を製造している旨主張するが、右原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。なお、右原告主張の装置に相当する被告装置としては、被告生産工場内整理加工事業部三課に設置された六号機(別表記載<6>)があるが(甲五、六、乙一、検乙一〇、一一、証人河越・船富)、六号機の裁断装置に設けられた矩形状の加熱平板は、現在、その熱源となる六本の棒ヒーターの配線を全て切断し、平板の加熱機能を全く失わせた状態でこれを使用しているものであり(甲五の写真<9>~<12>、検乙一〇の写真<3><4>)、その際、ミシン縫着時における縁部の延伸防止方策として、切断された毛布地端部の合わせ目部分にオーバーミシンで細いテープ状布を仮縫いしており(検乙一〇の写真<12>、検乙一一の写真<11>~<13>)、円形カッターにより切断された毛布地の切断端面に沿って全く熱を加えていないから、本件発明の構成要件(三)を具備していると認められないことは明らかである。
2 ロ号方法について
被告は、前記認定のとおり(第二、三、1)、ロ号装置を使用してロ号方法により重ね毛布を製造している。ロ号装置は、別紙(一)の2第4図記載のとおり、台車26上に設けられた直径約二〇〇mm、肉厚約三mmの一対の円形カッター15、16の中間に、正面視棒状、水平断面において最大肉厚約八mmの区分け棒20、20に挟まれた、高さ約一三五mm、幅約一五〇mm、肉厚約八mm(但し、約二年間の継続使用によって、通常肉厚が約五mmまで減少し、時には約三mmにまで減少することがある。)の矩形状の銅製加熱平板17が配置された裁断機構部を備えていることが認められる(検証、検乙六~九、一二)。ロ号装置を使用してするロ号方法のうち、重ね毛布切断から縁布のミシン縫着位置までの状況を畧記すると次のとおりである(但し、加熱平板17の走行により、毛布地の切断端面の合成繊維がどの程度溶融又は熱変形するかの争点に関する部分は除く)。
<1> アクリル繊維を成分とするパイル起毛面とポリエステル繊維を成分とする基布地からなる長尺反の毛布地二枚が、基布地側を内側にして重ね合わせた状態で、ベルトコンベア23により、その切断予定部が裁断装置の切断線位置に達するまで運ばれる。
<2> 押え装置両端の各空気シリンダーに圧縮空気が注入され、毛布固定板9、9を毛布地を固定する位置まで下げ、毛布地が切断時に動かないよう固定する。
<3> 右固定と同時に、裁断機構部12を載せた台車26が、軌道27、27の一端から他端に向かって高速走行し、押え装置により固定されている毛布地が、円形カッター15又は16により、編み目方向に一直線に切断される。
<4> 先行する円形カッター15又は16の直近後方を、切断された毛布地の切断面に沿って区分け棒20が走行する。
<5> 区分け棒20の約五mm後方を、毛布地の切断面に沿って加熱平板17が走行する。
<6> 続いて、ブロー機構部3を載せた別の台車22が走行を開始し、右台車上に載置されたノズル5が、切断線より内側のパイル起毛面に高温エアを吹きつけながら通過する。
<7> 切断機構部12及びブロー機構部3が他端に至ると、台車22及び26の走行は停止する。
<8> 毛布固定板9、9が上昇し、重ね毛布一枚分に切断された毛布地が、ベルトコンベアにより縫製位置まで運ばれるとともに、次の毛布地が連動して送られ、前記各動作が繰り返される。
これによれば、ロ号方法においては、毛布固定板9、9によって上から押圧され、裁断装置上に固定されている二枚の毛布地を、台車22上に載置された円形カッター15又は16がヨコ方向に切断しながら走行した直後、同じく台車22上に載置された区分け棒20及び加熱平板17がその切断端面に沿って順次走行するというものであり、加熱平板17は、通常は先行する円形カッター15又は16の肉厚(約三mm)より厚く(約五~八mm)、継続的使用により最大限に薄くなった場合でも円形カッターと同一(約三mm)の厚みを有するから、カッターで切断後もそのまま固定されている二枚の毛布地の間を、両毛布地の切断端面を擦り付けるようにして水平方向に走行するものであり、その限度において切断端面を水平方向(毛布生地面に対して水平方向)に押圧しているものと認められ、少なくとも、毛布地の「縁部」たる切断端面に沿って、線状に熱及び圧力を一緒に加えているということができる。
被告は、加熱平板の肉厚が、当初はこれに先行する区分け棒の肉厚と同じ八mmであり、継続使用により最低三mmまで減少することを根拠に、加熱平板は、毛布の切断端面に対して圧力を加えるものではないと主張するが、前記のとおり、円形カッター、区分け棒及び加熱平板が順次走行する間、毛布地は毛布固定板により押圧され、裁断装置上に固定されているのであるから、一旦、肉厚三mmの円形カッター(カッター刃先はこの肉厚より著しく薄い。)によって切断された二枚の毛布地の間を肉厚八mmの区分け棒が走行しても、毛布地ないしその組成繊維の弾性を考慮すると、二枚の毛布の間隔が加熱平板の肉厚以上に開くものとは考えられず、右被告主張は採用できない。
しかし、本件発明の構成要件(三)の「熱圧」とは、「熱と圧力を一緒に加えることにより、毛布地の合成繊維を溶融又は熱変形させ、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせること」を意味するものであって(前記一2)、単に熱と圧力を一緒に加えただけでは右「熱圧」に該当すると認めることができないところ、右加熱平板の作動により「毛布地の合成繊維を溶融又は熱変形させ、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせ」ているとは認められないから、右加熱平板により切断直後の毛布地の切断端面に沿って線状に熱及び圧力を一緒に加えていてもこれを右「熱圧」ということはできず、結局、本件全証拠によっても、ロ号方法が本件構成要件(三)の「熱圧」をしていると認めることはできない。
なお、本件訴訟第七回口頭弁論期日(平成四年四月九日午後一時三〇分)における当事者双方立会いのうえでの当裁判所の測定によれば、毛布A(被告が平成三年七月一九日の現地和解の際に被告工場で製造し、原告に交付した毛布)は、裏面における地、中、天の幅がそれぞれ一四二七・五mm、一三九五mm、一四一二mm、天と中の差が三二・五mm、中と地の差が一七mmであり、表面における地、中、天の幅がそれぞれ一四三〇mm、一三九五mm、一四二〇mm、天と中の差が三五mm、中と地の差が二五mmであったこと、右差異は、市販されている被告毛布(検甲八~一一の各1)における天と中の差、中と地の差と殆ど変わらないことが認められ、これによれば、被告製造の毛布は縦方向の両端部(天・地)が中央部(中)に比べて延伸していると認めることができるから、この点からみても、右延伸をなくする作用効果を奏する本件発明を実施していないことが推測できるというべきである。また、被告が本件発明の「熱圧」を実施するのであれば、原告製造の毛布(検乙一)のように、「熱圧」の作用効果がよく発揮される、ミシン縫着部位に近いところを「熱圧」するはずであるのに、その部位に加熱平板を当てず、「熱圧」の作用効果が発揮し難いことが明らかな切断端面に沿って加熱平板で加熱していることも、被告が加熱平板を本件発明の「熱圧」のために使用する意図を有していないことを推測させるものである。
被告のロ号方法において、ヨコ方向の延伸を防止するための方策としては、<1>縁布のミシン縫着の際に縫い方向にかかる張力は送り装置と毛布の自重との関係で生じるものであるから、毛布地を搬送装置ベッド(コンベア)に乗せてミシンの送り装置に運びながらミシンをかけて、送り装置に毛布の自重を極力負荷させないようにすることにより、右張力を極力減少させ延伸の原因を極力除去したことと、<2>ミシンの送り歯を改良し、縫う前の補助送り歯速度を縫った後の主送り歯速度より早くすることによりミシン縫着時にそれまで生じた張力による延伸を反対に縮減させてミシン縫着することにより対処しているが(証人河越)、それでも前記のとおり天地においてヨコ方向に毛布が若干延伸している。
もっとも、被告製造に係る毛布B(検甲一、品番五六〇一)の縁布を開披すると、毛布地部の縁部左端(表から見て左、以下同じ)から約四cm、六cm、八・五cmの各位置のポリエステル基布地の先端に、黄色の極小点状の変色部分が目視され、切断端面のアクリル繊維及びポリエステル繊維は、手で触るとやや固くなっており、毛布C(検甲一二-1、品番五六一一)にも、天部の縁部左端から約三cmの位置に、毛布Bと同様の小さな点状の変色部分があり、断面を手で触ると切断端部がやや硬化しているのが分り、市販の被告毛布(検甲八-1、品番五八〇九、以下「毛布F」という。)は、縁布を開披すると、毛布の表を上にして、天部の縁部左端部分の断面に長さ約二〇mmにわたり熱によるものと推定される黄色い変色部分が見受けられるほか、切断端面のポリエステル基布部分の所々に茶色の極小点状の変色部分が目視され、断面を手で触ると、ぱりぱり(ごわごわ)した感触が得られること、被告の毛布縫製部分の責任者である証人河越も、毛布地の切断面が加熱平板に当たることによって、その部分の合成繊維が硬化することは認めていること、被告工場では、加熱平板の走行により同平板に付着する膜状の物を落とすため、一日一回ワイヤブラシで加熱平板を掃除しており、このために加熱平板の厚みが減少すること(証人河越)を考慮すれば、被告毛布の切断端面の合成繊維(起毛面のアクリル繊維、基布面のポリエステル繊維)のうち、少なくとも加熱平板に接触する部分は、いずれも熱により溶融又は変形しているものと認められるけれども、構成要件(三)の「熱圧」は、毛布の合成繊維を溶融又は熱変形させ、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせることを要するところ、本件発明の実施品である原告製造の毛布(検乙一)は、高周波による熱圧部分の上下両方の組織が潰れていることが目視され、手でヨコ方向に引っ張った場合には手に抵抗感が伝わってくるのに対し、被告製造にかかる前記毛布の縁部を手でヨコ方向に引っ張った場合には全く手に抵抗感が伝わって来ず、容易にヨコ方向に延伸することが認められ、加熱平板は、円形カッターと比較して、最大でも五mm厚いだけであるから、加熱平板が切断端面を擦り付けながら走行する際、切断端面にかかる圧力も極く小さいものであると考えられることを考慮すれば、ロ号装置の加熱平板の走行によって溶融又は熱変形されるのは、加熱平板と直接接触する切断端面のアクリル繊維及びポリエステル繊維の先端部分のみであると推定され、毛布地の内部にまで溶融又は熱変形の効果が及び、ミシン縫着の張力がかかっても延伸しない程度に、毛布端部分の伸縮性を失わせていると認めることはできない。
なお、ロ号方法における加熱平板は、切断面からほつれ出ようとする繊維片及び切断面に付着している綿状埃等の一部を熱収縮させ、切断面のほつれの進行を一部抑制するとともに右繊維片及び綿状埃等の周囲への飛散を防止するために使用されているものであり、また、ロ号方法におけるブロー装置による高温エアーの吹きつけは、重ね合わせた二枚の毛布地を円形カッターの横方向走行により一毛布単位に切断すると、切断端部が基布地側即ち上部の毛布は下方に下部の毛布は上方に巻き込むという性状を有しているので、切断端から約二五mm内側のパイル起毛面に高温エアーを吹きつけ、直下のパイル起毛面を熱収縮させることによりこの巻き込みを防止し、縁縫いをしやすい状態に切断部を保つために使用されているものと認められる(甲一七の1、乙三の1、証人河越)。
以上によれば、ロ号方法は、毛布地の縁部(切断端面)に沿って加熱平板を走行させることによりこれに線状に熱及び圧力を加え、その部分の合成繊維を溶融又は変形するものではあるが、その溶融、変形の程度は、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に毛布地の縁部の伸縮性を失わせるものとはいえないから、ロ号方法が、本件発明の構成要件(三)「縁縫いによって縁部が伸びやすい該縁部に沿って高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し」の要件を具備しているとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
三 争点3(被告が昭和五八年一二月一日から平成元年四月までの間実施していた重ね毛布の製造方法は、本件発明の構成要件(三)を具備していたか)
被告装置の変遷の経緯は前記のとおりである(第二、三後段)。
原告は、被告が昭和五八年一二月一日から平成元年四月までの間採用していた重ね毛布の製造方法は、加熱平板の温度を三五〇℃又は三〇〇℃に設定するものであり、右方法によって製造された重ね毛布は、パイル起毛面のアクリル繊維が炭化され、基布面のポリエステル繊維が溶融され、熱圧部の組織が潰れていたから、右製造方法は、本件発明の技術的範囲に含まれると主張する。
しかしながら、被告は、昭和六一年五月ころ八号機を導入するまで、加熱平板の熱源として棒ヒーター六本を用いていたが、当時の方法では、ダイヤル式の温度調節装置が故障した時は加熱平板が異常高温となり、接触した毛布地の合成繊維を炭化させる事故が発生することがあったから(前記第二、三、1後段)、昭和六一年五月以前における加熱平板の最高温度は、加熱平板の熱源として棒ヒーター三本を用いる現在のロ号方法と比較して相当高温であったものと推定されるが、右によっても、被告が当時加熱平板の温度を三五〇℃又は三〇〇℃に設定していたと推認することはできず、また、仮に、被告が、原告主張のとおり、温度調節装置により三五〇℃又は三〇〇℃に設定していたとしても、加熱平板の走行によって切断端面が加熱される時間は、平均して一mm当たり約〇・三秒に過ぎないこと(ロ号装置における裁断装置の走行幅が約二六〇〇~二七〇〇mmであり、幅約一五〇mmの加熱平板がその間を走行する時間が約四~五秒であるから〔甲二三、証人船富、同河越〕、加熱平板の走行によって、毛布切断端面の単位長さ当たり〔一mm〕が加熱される時間は、〔5(秒)÷2600(mm)×150(mm)≒0.2884(秒)〕であると認められる。)、被告が、昭和五五年六月一日、被告装置の原形というべき円形ヵッター及び加熱平板を用いた裁断装置について、船富を発明者として行った特許請求(発明の名称「重ね毛布地の裁断装置」、特開昭五六-一六九八五七)の願書添付明細書には、作用効果として、毛布地の切断に伴う繊維の脱落を防止することのみが記載されており、毛布地の縁部を加熱して合成繊維の組織を潰すことにより、ミシン縫着地の延伸を防止するという、本件発明の技術思想については全く触れられていなかったが(乙三の1)、右特許出願について、「カッターによる切断面に小さな面積で単に接触するのみで繊維の脱落防止に有効な溶融接着が得られるものかどうか疑問である。」という理由で特許庁審査官により拒絶理由通知されていること(乙三の2)を考慮すれば、表面温度三五〇℃又は三〇〇℃程度の加熱平板が瞬間的に毛布切断端面に接触することによって、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせることができるとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
なお、毛布の切断端面は、縁布に覆われるとはいえ使用者の首付近(肌)に直接接触する部分であるから、右部分の合成繊維が炭化して粒状に固着したような毛布は、通常、異物混入による不良品として流通に置かれないものであり、仮に、誤って流通に置かれることがあつたとしても、不良品として返品の対象となるものと考えられるところ、被告が昭和六一年度に製造して西川産業に納入した約七〇〇万枚のマイヤー毛布のうち、異物混入事故として消費者からクレームを受けたケースは一件もなく(乙一三の1)、異物混入によるクレームは、西川産業の取扱商品全般に関する事故の中でも極く稀な事故であることによれば(昭和六〇年二・九%、昭和六一年三・六%)、被告が昭和六一年五月以前に行っていた製造方法が、常に毛布地の合成繊維を溶融、炭化させるようなものであったとは考えられず、結局、本件全証拠によっても、被告が昭和五八年一二月一日から実施していた重ね毛布の製造において、縁部のミシン縫いに際してかかる張力に耐え得る強度を保持する程度に縁部の伸縮性を失わせる「熱圧」をしていたことを認めることはできない。
右によれば、被告が昭和六一年五月ころから平成元年五月ころまで使用していた重ね毛布の製造方法は、本件発明の構成要件(三)にいう「熱圧」の構成を具備するとは認められないから、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
四 結論
以上によれば、現在の被告方法も、被告が昭和五八年一二月一日から使用していた重ね毛布の製造方法も、いずれも本件発明の技術的範囲に属するとは認められないから、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)
別紙(一)の1 イ号装置目録
Ⅰ 図面の説明
第1図 毛布地裁断装置上部概略斜視図である。
第2図 毛布地裁断装置の概略正面図であり、該毛布地裁断装置は、切断機構部12を有する。
第3図 毛布地裁断装置を第2図のⅡのⅡ線に沿って切断した横断面図である。
第4図 毛布地裁断装置において、切断機構部12の拡大正面図である。
第5図 切断機構部12の各部材が重ね合わせ毛布地と接触する部分を水平面に切断して示す断面図である。
第6図 毛布地裁断装置のベッド両側端に設置するフレーム55の一方を示し、該フレームに垂直に設置した空気シリンダー25に毛布固定板9、9を取りつける。
第7図 第5図を拡大して示す部分断面図である。
第8図 区分け棒20を走行方向から見た拡大正面図である。
Ⅱ 毛布裁断装置の構造説明
1 毛布裁断装置は以下を備えている。
(1) 毛布地送り調節機構部(電磁式クラッチ機構部装備)
(2) 毛布地搬送ベッド
(3) 毛布固定機構部
(4) 切断機構部
2 毛布地送り調節機構は、上部毛布地送りロール53、下部毛布地送りロール51、および、電磁式クラッチ装置を含む全体を指し、その機能は、上部毛布地の送りを停止させ下部毛布地を先行させて、折返し部分を形成する。
(1) 上、下部毛布地送りロール51、53は、それぞれの中心部において約三〇〇ミリメートルの間隔をおいて上下に位置し、直径約一〇〇ミリメートルの鉄製ロールであり、約二〇ミリメートルの鬼針を装着している。
前記送りロールは別位置に設置されたモーターからチェーンを介して回転する。
(2) 電磁式クラッチ装置は、二枚の円盤状をなし、別位置に設置されている制御盤によって制御されており、搬送ベッドの毛布地進行方向に向かって右側端において、上部毛布地送りロール53の回転軸に直結するよう設置されている。
3 毛布地の搬送ベッドは、ベルトコンベアー装置全体を指しその機能は毛布地を長手方向に搬送する。
(1) 搬送ベッドは、毛布地搬入側と毛布地搬出側とからなっており、搬入側はさらに上部毛布地搬入側と下部搬入側とからなっている。
それぞれの搬送ベッドにはベルトコンベアー50、52、28が設置されている。
(2) 上部毛布地搬入ベッドと下部毛布地搬入ベッドの進行方向先端部において両方のベッドに挟まれるように、エアー噴出口54が横方向に十個等間隔をおいて並列設置されている。
(3) 二枚のベッドプレート1、1は、ペルトコンベアー50と28の間に、その上面がベルトコンベアー50と28の上面と水平に且つ直交方向に設置されている。
(4) ベッドプレート1、1は、約一二ミリメートルの所定間隔をおいて配置し、その長さは搬送ベッドの横幅に対応する。
(5) ベッドプレート1、1の間を円形カッター15、16および区分け棒20、20が走行する。
4 毛布固定機構部24は、搬送ベッドに対して直交配置する毛布固定板9、9と該固定板の両側において固定板を水平に昇降させるための二本の空気シリンダー25、25からなっている。
毛布固定板9、9は、幅約五〇ミリメートルの角筒二本からなっており、約一三ミリメートルの間隔をおいて平行に配列し、上部を平板五枚によって連結されている。
空気シリンダー25、25は、その後端部をベッド両側端において立設した角筒55、55に固着して垂直に設置し、該シリンダーのロッド42、42を毛布固定板9、9の端部に接続している。
5 切断機構部12は、下方に回動自在に取りつけた支持ローラー13、13によって支持され、軌道27、27上を横方向に走行可能に取りつけられ、チェーン31を介して駆動する台車26上に設置されている。
台車26上には、一対の円形カッター15、16、区分け棒20、20及び銅板17が水平面においてその肉厚中心線が一直線になるように配置している。
(1) 一対の円形カッター15、16は、肉厚が約二ミリメートルで直径約二〇〇ミリメートルの円盤状であり、その円周端から約五ミリメートル内側から円周端に向って次第に横断面が狭まって円形刃先を形成しており、台車26内に収納したモーター14により、プーリー32及びベルト33を介して、それぞれ反対方向に回転し、上部円周部がベッドプレート1、1の表面より約二五ミリメートル上方に突出している。
(2) 区分け棒20は、垂直な棒状で、進行方向から見た正面視においてはやや土筆(つくし)状(第8図参照)、側面視においては上部がアール型をした矩形棒状(第4図20、20参照)、水平断面において先端部及び後端部が鏑矢の矢先状で側面部の肉厚が約八ミリメートル、先端から後端までの長さが約二〇ミリメートルの略ラグビーボール状(第7図20参照)をなしており、円形カッター15又は16の直近後方に位置し、上方部はベッドプレート1、1の表面より約二〇ないし三〇ミリメートル上方に突出している。
(3) 銅板17は、高さ約一三五ミリメートル、幅約一五〇ミリメートル、肉厚約八ミリメートルの矩形状の銅製平板であり、その下部約九〇ミリメートル部分を挟む状態で鉄製平板状の支持部材34によって支持されている(該銅板17及び支持部材34の片面にヒーターが収納出来る溝が設けられているが、ヒーターが作用しないよう配線は切断されており、単なる銅板となっている)。
鋼板17は、円形カッター15又は16の進行方向に向って直近後方に位置する区分け棒20のさらに後方約五ミリメートルにその先端部が位置するように設定されており、銅製平板上部がベッドプレート1、1の表面より約二〇ないし三〇ミリメートル上方に突出している。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
別紙(一)の2 ロ号装置目録
Ⅰ 図面の説明
第1図 毛布地裁断装置上部概略斜視図である。
第2図 毛布地裁断装置の概略正面図であり、該毛布地裁断装置は、毛布地の搬送ベッドより上方のブロー機構部3及び下方の切断機構部12を有する。
第3図 毛布地裁断装置を第2図のⅡのⅡ線に沿って切断した横断面図である。
第4図 毛布地裁断装置において下方に位置する切断機構部12の拡大正面図である。
第5図 切断機構部12の各部材が重ね合わせ毛布地と接触する部分を水平に切断して示す断面図である。
第6図 毛布地裁断装置のベッド両側端に設置するタワーフレーム30の一方を示し、該フレームに垂直に設置した空気シリンダー25に毛布固定板9、9を取りつける。
第7図 毛布地裁断装置において上方に位置するブロー機構部3の拡大正面図である。
第8図 ブロー機構部3のノズル5、5に熱風を導入する態様を示す概略断面図である。
第9図 第五図を拡大して示す部分断面図である。
第10図 区分け棒20を走行方向から見た拡大正面図である。
Ⅱ 毛布裁断装置の構造説明
1 毛布裁断装置は以下を備えている。
(1) 毛布地の搬送ベッド
(2) 毛布固定機構部24
(3) 切断機構部12
(4) ブロー機構部3
2 毛布地の搬送ベッドは、ベルトコンベアー装置全体を指しその機能は毛布地を長手方向に搬送する。
(1) 搬送ベッドは毛布地搬入側と毛布地搬出側とからなっており、搬入側にベルトコンベアー23と、搬出側にベルトコンベアー28を設置している。
(2) 二枚のベッドプレート1、1は、ベルトコンベアー23と28の間に、その上面がベルトコンベアー23、28の上面と水平に且つ直交方向に設置されている。
(3) ベッドプレート1、1は、約一二ミリメートルの所定間隔をおいて配置しその長さは搬送ベッドの横幅に対応する。
(4) ベッドプレート1、1の間を円形カッター15、16区分け棒20、20及び加熱平板17が走行する。
(5) 各ベッドプレート1には横方向に延びる貫通溝18を設け、各貫通溝をノズル5から噴出した高温エアーが通過する。
3 毛布固定機構部24は搬送ベッドに対して直交配置する毛布固定板9、9と該固定板の両側において固定板を水平に昇降させるための二本の空気シリンダー25、25からなっている。
毛布固定板9、9は幅約八ミリメートルであり、約一二ミリメートルの間隔をおいて平行に配列し、各空気シリンダー25、25は、その後端部をベッド両側端のタワーフレーム30に固着して垂直に設置し、該シリンダーのロッド42を毛布固定板9、9の端部に接続している。
4 切断機構部12は、下方に回動自在に取りつけた支持ローラー13、13によって支持され、軌道27、27上を横方向に走行可能に取りつけられ、タワーフレーム30からのチエーン31を介して駆動する台車26上に設置されている。台車26上には、一対の円形カッター15、16、区分け棒20、20及び加熱平板17が水平面においてその肉厚中心線が一直線になるように配置している。
(1) 一対の円形カッター15、16は、肉厚が約二ミリメートルで直径約二〇〇ミリメートルの円盤状であり、その円周端から約五ミリメートル内側から円周端に向かって次第に横断面が狭まって円形刃先を形成しており、台車26内に収納したモーター14により、プーリー32及びベルト33を介して、それぞれ反対方向に回転し、上部円周部がベッドプレート1、1の表面より約二五ミリメートル上方に突出している。
(2) 区分け棒20は、垂直な棒状で、進行方向から見た正面視においてはやや土筆(つくし)状(第10図参照)、側面視においては上部がアール型をした矩形棒状(第4図20、20参照)、水平断面において先端部及び後端部が鏑矢の矢先状で側面部の肉厚が約八ミリメートル、先端から後端までの長さが約二〇ミリメートルの略ラグビーボール状(第9図20参照)をなしており、円形カッター15又は16の直近後方に位置し、上方部はベッドプレート1、1の表面より約二〇ないし三〇ミリメートル上方に突出している。
(3) 加熱平板17は、高さ約一三五ミリメートル、幅約一五〇ミリメートル、肉厚約八ミリメートルの矩形状の銅製平板であり、その下部約九〇ミリメートル部分を挟む状態で鉄製平板状の支持部材34によって支持されており、該加熱平板17及び支持部材34の片面に設けた溝にヒーターが収納されている。
加熱平板17は、円形カッター15又は16の進行方向に向かって直近後方に位置する区分け棒20のさらに後方約五ミリメートルにその先端部が位置するように設定されており、銅製平板上部がベッドプレート1、1の表面より約二〇ないし三〇ミリメートル上方に突出している。
(4) ブロー機構部3は、ベッドプレート1、1の上方に位置し、該ベッドプレートと平行に設置された断面がコの字状の軌道2、2の上下に夫々四個の支持ローラー4によって支持された台車22上に設置されている。
<1> 軌道2、2は、搬送ベッドの両側端に組立てたタワーフレーム30で水平に支持されている。
<2> 台車22は、搬送ベッド両側端に設置されたタワーフレーム30からチエーン40を介して横方向に走行可能に設置されている。
<3> 台車22には、供給されたエアーを加熱するヒーター7と高温エアーを噴出するノズル5とを搭載し、該台車下方に案内ローラー8、8を回転自在に取りつけている。
<4> ヒーター7、7は、ブロワー(図示しない)からホース41(第6図)を介してホース6、6に分岐して供給されるエアーを約二〇〇℃に加熱する。加熱されたエアーは、それぞれノズル5、5に送り出される。
<5> ノズル5、5は角筒形をなし、一対が対向する状態でベッドプレート1、1に対して垂直に位置するように台車22に固着している。
ノズル5、5の先端21は、ノズル内部から下方に向かって高温エアーが噴出されるように噴出口を嘴状に変形させており、該噴出口の先端は幅一ミリメートル程度のスリット状をなしている。
ノズル先端21は、ベッドプレート1の表面から約一五ミリメートル上方に位置し、該先端から高温エアーが毛布地切断線の内側約二五ミリメートルのパイル起毛面に吹き付けられ、吹き付けられた高温エアーは、毛布地を通過してベッドプレート1の貫通溝18を経て下方に通過する。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
第9図
<省略>
第10図
<省略>
別紙(二)の1
被告方法(一)説明書
被告方法は、二枚の毛布地を裏面を内側にして重ね合わせ、下部毛布地をその先端において約一〇〇ないし二五〇ミリメートル部分を上部毛布地より先行せしめることによって、衿部相当部分をずらしたのち、一枚単位に裁断し、下部毛布地のずらした部分を上部毛布地につつみかぶさるように内側に折り返して上部毛布地に重ね合わせ、その合せ目の部分を幅約二〇ミリメートルのテープ状布によって押え縫いを行ない、しかる後に長手方向両側端面および切断端面を包み込み、両側端および切断端より約三〇ないし五〇ミリメートル内側部分を縁布で被覆縫着して得られる衿付風重ね毛布の製造方法であり、毛布地送り調節機構部(図示しない)、毛布固定機構部(第5図)、切断機構部(第3図)よりなる別紙被告毛布裁断装置(一)(以下「裁断装置」という)とミシンを用いてなす方法である。
その方法の詳細は以下のとおりである。
1 毛布地は、アクリルのパイル起毛面とポリエステルの基布地よりなる長尺反で、上部毛布地は上方送りロール53で、下部毛布地は下方の送りロール51によって、それぞれの搬送ベッドに送られ、ベルトコンベアー50、52によって長手方向に送られ重ね合わされる。
2 送られた毛布地の先端が裁断装置の切断線位置に達すると上部毛布地の送りロール53と回転軸によって連結されている電磁式クラッチが解放されて、上部毛布地の送りが停止する。
3 上下搬送ベッドの間に設置されたエアー噴出口54よりエアーが噴出されて、上下毛布地の分離を容易にする。
4 下部毛布地だけが送りロール51およびベルトコンベアー50によって更に長手方向に送られる。
送られた下部毛布地の先端が、切断線位置を通過して予めセットされた衿部の長さ(通常一〇〇ないし二五〇ミリメートル)の位置にあるセンサーがその先端を感知して作動し、電磁式クラッチが入って上部毛布地の送りロールが回転して上部毛布地を送り込み、先行する下部毛布地と同期走行して、先端部をずらして重ね合わされた毛布地は、さらにベルトコンベアー28によって長手方向に送られる。
5 送られた下部毛布地の先端が、一枚単位の長さ(通常二メートルであるが衿部折り返し分だけ長い)の位置に達すると、その位置に予めセットされているセンサーがその先端を感知してベルトコンベアー28を停止させる。
6 裁断担当者が、予め上部毛布地に染抜きされたカットマークの位置が切断機構部12の切断線位置にあるか否かを確認し、手動によって微調整して、切断予定部を切断線位置に合わせる。
なお、前記の二枚の毛布地は縦編みの毛布地よりなっているが、ベルトコンベアーによる移動方向は縦編みと平行であり、また切断方向はその編み目横方向である。
7 毛布固定機構部24の両端にある各空気シリンダー25内に圧縮空気が注入されて、毛布固定板9、9を毛布地を固定出来る位置まで下げ、毛布地が切断時に動かないよう固定する。
8 前記固定と同時に、それぞれ反対方向に回転している円形カッター15、16とそれに随行する区分け棒20、20は、台車26上に設置されており、台車26が軌道27、27上の一端から他端に向かって高速走行することによって同方向に移動する。
9 毛布固定機構部24によって固定されている前記二枚重ね合わせの毛布地は、回転移動する円形カッター15又は16により、前記編み目横方向に一直線に切断される。
10 前項により切断された毛布地の切断面に沿って、先行する円形カッター15又は16の進行方向に向かって直近後方に設置された区分け棒20が切断面を広げながら走行する。
11 切断機構部12が他端に至ると、台車26の走行は停止する。
12 毛布固定板9、9が上昇して、毛布一枚単位に切断された重ね合わせの毛布地が、ベルトコンベアー28によって縫製位置に運ばれる。
13 毛布固定板9、9が上昇すると、電磁式クラッチが解放されて上部毛布地の送りが停止し、前記3項以降の各動作が繰り返される。
14 縫製位置に運ばれた下部毛布地のずらした部分(一〇〇ないし二五〇ミリメートル)を上部毛布地にかぶさるように内側に折り返して上部毛布地に重ね合わせ(三枚重ね)その合せ目部分を幅約二〇ミリメートルのテープ状布によって押え縫着し、しかる後に長手方向両側端面および切断端面を包み込み、両側端および切断端より約三〇ないし五〇ミリメートル内側部分を縁布で被覆し、ミシンによって縫着する。
別紙(二)の2
被告方法(二)説明書
被告方法(二)は、二枚の毛布地を裏面を内側にして重ね合わせて切断し、切断端面を包み込み切断端から約三〇ないし五〇ミリメートル内側部分までを縁布で被覆縫着して得られる重ね毛布の製造方法において、長尺反物である毛布地を、円形カッターの横方向走行により一枚単位に切断すると共に、切断端から約二五ミリメートル内側のパイル起毛面に高温エアーを吹きつけ、他方、前記円形カッターの走行方向後方に位置する区分け棒により切断面を区分けするとともに、該区分け棒の更に走行方向後方に位置する平板状の加熱平板を前記区分けした切断面に沿って走行させ、しかる後に毛布地の切断端面を包み込み切断端から約三〇ないし五〇ミリメートル内側部分までを縁布で被覆してミシンにより縁縫いを行う方法であり、毛布固定機構部(第5図)、切断機構部(第3図)、及びブロー機構部(第7図)よりなる別紙被告毛布裁断装置(二)(以下「裁断装置」という)並びにミシンを用いてなす方法である。
その方法の詳細は以下のとおりである。
1 毛布地は、アクリルのパイル起毛面とポリエステルの基布地よりなる長尺反で、その長尺反二枚を追随式合せ装置によって基布地側を夫々内側にして重ね合わせ、ベルトコンベアーにより長手方向に送られ、追随式連続縁布縫着装置により長尺反の状態で両側に縁布が縫着され、ベルトコンベアー23により裁断装置に送られる。
2 送られた毛布地の先端が、裁断装置の切断線位置を通過して一枚分の長さ(通常ニメートル)の位置に達するとその位置に予めセットしてあるセンサーがその先端を感知してベルトコンベアー28を停止させる。
3 裁断担当者が、予め重ね合わせた上部毛布地に染抜きされたカットマークの位置が切断機構部12の切断線位置にあるか否かを確認し、手動によって微調整して、切断予定部を切断機構部の切断線位置に合わせる。
なお、前記二枚の毛布地は縦編みの毛布地よりなっているが、ベルトコンベアー23、28による移動方向は縦編みと平行であり、また切断方向はその編み目横方向である。
4 毛布固定機構部24の両端にある各空気シリンダー25内に圧縮空気が注入されて、毛布固定板9、9を毛布地を固定出来る位置まで下げ、毛布地が切断時に動かないよう固定する。
5 前記固定と同時に
(1) それぞれ反対方向に回転している円形カッター15、16とそれに随行する区分け棒20、20および加熱された状態にある加熱平板17は台車26上に設置されており、台車26が軌道27、27上の一端から他端に向かって高速走行することによって同方向に移動する。
(2) 先端21、21から高温エアーを噴出しているノズル5、5を備えたブロー機構部3は、台車26と同じ端位置上部の軌道2、2上に位置する別の台車22上に設置されており、台車22が切断機構部に随行する状態で軌道2、2上の一端から他端に向かって走行することによって同方向に移動する。
6 毛布固定機構部24によって固定されている前記二枚重ね合わせの毛布地は、回転移動する円形カッター15又は16により、前記編み目横方向に一直線に切断される。
7 前項により切断された毛布地の切断面に沿って、先行する円形カッター15又は16の進行方向に向かって直近後方に設置された区分け棒20が切断面を広げながら走行する。
8 進行方向に向かって区分け棒20より約五ミリメートル後方に設置されている加熱平板17が、切断面に沿って走行することにより、その側面の加熱部分によって、一部を熱収縮させる。
9 ブロー機構部3の台車枠板に取りつけられた案内ローラー8、8が、毛布地表面のパイル面に回転接触しながらノズル先端21、21がパイル起毛面に引掛らないよう案内走行する。
10 ノズル5より噴出されている高温エアーは、切断線の内側約二五ミリメートル近辺のパイル起毛面に吹き付けられ、毛布地を通過しさらにその横への広がりを防止するためベッドプレート1に設けられている貫通溝18より抜けて下方に通過する。
ノズル5は台車22の走行によって、高温エアーを吹き付けながら移動するので、重ね合わせた上部毛布地のパイル起毛面に直線状の高温エアー通過跡が形成される。
11 切断機構部12及びブロー機構部3が他端に至ると、台車22及び26の走行は停止する。
12 毛布固定板9、9が上昇して、毛布一枚分に切断された重ね合わせの毛布地が、ベルトコンベアー28により縫製位置まで運ばれるとともに、次の毛布地が連動して送られ、前記2から11までの各動作が繰り返される。
13 縫製位置に運ばれた毛布地の切断端面を包み込み切断端から約三〇ないし五〇ミリメートル(縁布の幅によって異なる)内側部分までを縁布で被覆し、ミシンにより縫着する。
別紙(三)の1
イ号方法説明書
イ号方法は、以下の2枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布の製造方法であるが、別紙(三)の1でその構造上の特徴を説明するイ号装置(以下「装置」という。)及びミシンを用いてなす方法である。
1、 装置のベルトコンベア11、11により、アクリルのパイル起毛面とポリエステルの基布地よりなる長尺反2枚の毛布地80、80が、該基布地側を内側にして重ね合わせた状態で、その縁部予定部が切断熱圧装置40のカッター丸刃41の切断線位置まで運ばれ、停止する。
尚、右2枚の毛布地80、80はタテ編みの基布地よりなっているが、ベルトコンベア11、11による移動方向はタテ編みと平行であり、また右縁部予定部は、その編み目ヨコ方向である。
2、 押え装置20の各空気シリンダ23、23内に圧縮空気が圧入されて押え杆21、21を受け台30に近接した位置まで下げ、前記2枚の毛布地80、80を押圧する。
3、 右押圧と同時に、切断熱圧装置40の、一対のカッター丸刃41、41が回転すると共に加熱板42は加熱され、切断熱圧装置40を乗せた走行台43は軌道50上の一端から他端に向かって走行する。
4、 押え装置20の押え21、21に押圧されている前記2枚の毛布地80、80は、回転走行するカッター丸刃41により、前記編み目ヨコ方向に一直線に切断される。
5、 右切断後、その切断された切断面に沿って(前記編み目ヨコ方向)加熱板42の本体部分47が該切断面を水平面(別紙(四)の2添付第7図のX方向)に押圧し、該押圧面を溶融
7、 尚、第1図中、70は前記案内スプロケット66の軸、71は軸70に通嵌されたスプロケット、74は前記案内スプロケット52の軸、73は右軸74に通嵌されたスプロケット、72は前記スプロケット72及び74間を無端状に掛設されたチエンを示す。
する。
6、 切断熱圧装置40を乗せた走行台44が軌道50の他端に至ると該他端で停止し、一対のカッター丸刃41、41の回転及び加熱板42の加熱が停止する。
7、 押え杆21、21が上昇して、切断された前記2枚の毛布地80、80がイ号装置のベルトコンベア11、11により移動させられるともに、長尺反たる次の2枚の前記毛布地80、80の縁部予定部が切断熱圧装置40のカッター丸刃41の切断線位置まで運ばれ、停止し、前項までの各動作が繰り返される。
8、 そして、装置により長尺反から採取された一毛布毎に、ミシンにより、前記ヨコ方向の前記切断部たる熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行う。
別紙(三)の2
ロ号方法説明書
ロ号方法は、以下の2枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布の製造方法であるが、別紙(三)の2でその構造上の特徴を説明するロ号装置(以下「装置」という。)及びミシンを用いてなす方法である。
1、 装置のベルトコンベア11、11により、アクリルのパイル起毛面とポリエステルの基布地よりなる長尺反2枚の毛布地80、80が、該基布地側を内側にして重ね合わせた状態で、その縁部予定部が切断熱圧装置40のカッター丸刃41の切断線位置まで運ばれ、停止する。
尚、右2枚の毛布地80、80はタテ編みの基布地よりなっているが、ベルトコンベア11、11による移動方向はタテ編みと平行であり、また右縁部予定部は、その編み目ヨコ方向である。
2、 押え装置20の各空気シリンダ23、23内に圧縮空気が圧入されて押え杆21、21を受け台30に近接した位置まで下げ、前記2枚の毛布地80、80を押圧する。
3、 右押圧と同時に、
(1) 切断熱圧装置40の、一対のカッター丸刃41、41が回転すると共に加熱板42は加熱され、切断熱圧装置40を乗せた走行台43は軌道50上の一端から他端に向かって走行する。
(2) 熱風噴射装置60の、各ノズル61、61から熱風が噴出するとともに、ノズル台63は右切断熱圧装置40の走行台44と共に角筒64、64上の一端から他端に向かって走行する。
4、 押え装置20の押え21、21に押圧されている前記2枚の毛布地80、80は、回転走行するカッター丸刃41により、前記編み目ヨコ方向に一直線に切断される。
5、 右切断後、
(1) その切断された切断面に沿って(前記編み目ヨコ方向)加熱板42の本体部分47が該切断面を水平面(別紙(四)の1添付第7図のX方向)に押圧し、該押圧面を溶融する。
(2) ノズル61、61から噴出された熱風により、前記切断線(縁部予定部)の両側のパイル起毛面毛布地80を直線状(別紙(四)の1添付第7図のY方向)に溶融する。
6、 切断熱圧装置40を乗せた走行台44が軌道50の他端に至ると該他端で停止し、一対のカッター丸刃41、41の回転及び加熱板42の加熱が停止する。
また右と同時に、熱風噴射装置60のノズル台63が角筒64、64の他端に至ると、ノズル61、61よりの熱風の噴出が停止する。
7、 押え21、21が上昇して、切断された前記2枚の毛布地80、80がイ号装置のベルトコンベア11、11により移動させられるともに、長尺反たる次の2枚の前記毛布地80、80の縁部予定部が切断熱圧装置40のカッター丸刃41の切断線位置まで運ばれ、停止し、前項までの各動作が繰り返される。
8、 そして、装置により長尺反から採取された一毛布毎に、ミシンにより、前記ヨコ方向の前記切断部たる熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行う。
別紙(四)の1
イ号装置説明書
一、 図面の簡単な説明
第1図 装置の上部概略斜視図
第2図 装置の下部概略側面図
第3図 切断熱圧装置の拡大正面図
第4図 切断熱圧装置の拡大側面図
第5図 切断面断面図
二、 構造上の特徴の説明
1、 重ね合わせ毛布地のヒートカット装置(以下「装置」という。)は、以下を備えている。
(1) ベルトコンベア装置10
(2) 押え装置20
(3) 受け台30
(4) 切断熱圧装置40
2、 ベルトコンベア装置10は、受け台30を挟むように対向させた一対のベルトコンベア11、11からなっている。
3、 押え装置20は、長い断面コ字状の押え杆21と、その先端を支持する一対のロッド22、22を有すると共に、受け台30の両端に立設した空気シリンダー23、23とからなっている。
4、 受け台30は、一対のベルトコンベア11、11の間に位置し、僅かな間隙を保持して対向させた一対のフレーム31、31からなり、各フレーム31の上面は、ベルトコンベア11の上面と一致する水平面にある。
5、 切断熱圧装置40は、一対のカッター丸刃41、41と加熱板42及び走行装置43からなっている。
(1) 一対のカッター丸刃41、41は、円板状の切断刃であって、走行台44に取りつけられた電動機45によりベルト46を介して回転する。
カッター丸刃41、41は、その刃先の一部が、前記受け台30の水平面より上に出るように構成されている。
(2) 加熱板42は、カッター丸刃41、41より肉厚のある平板状の本体部分47と、該本体部分47の前後に該本体部分47より薄い平板状の案内部48よりなる。
尚、第5図に示すように、本体部分47と案内部48は一対のカツター丸刃41、41の間の走行台44上に該カッター丸刃41、41と肉厚中心線が一直線になるように取りつけられている。
(3) 走行装置43は軌道50・50上に乗せられた4個の車輪51、51、51、51と、走行台44とよりなり、該走行台44はその両端が、3個の案内スプロケット52、52、52とスプロケット53に無端状に掛設されたチエン54に連結され、電動機55の回転により、チエン54を介して前記軌道50・50上を走行する。
6、 尚、第1図中、70は前記案内スプロケット66の軸、71は軸70に通嵌されたスプロケット、74は前記案内スプロケット52の軸、73は右軸74に通嵌されたスプロケット、72は前記スプロケット72及び74間を無端状に掛設されたチエンを示す。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
別紙(四)の2
ロ号装置説明書
一、 図面の簡単な説明
第1図 装置の上部概略斜視図
第2図 装置の下部概略側面図
第3図 切断熱圧装置の拡大正面図
第4図 切断熱圧装置の拡大側面図
第5図 熱風噴射装置の拡大正面図
第6図 熱風噴射装置の拡大側面図
第7図 切断面断面図
二、 構造上の特徴の説明
1、 重ね合わせ毛布地のヒートカット装置(以下「装置」という。)は、以下を備えている。
(1) ベルトコンベア装置10
(2) 押え装置20
(3) 受け台30
(4) 切断熱圧装置40
(5) 熱風噴射装置60
2、 ベルトコンベア装置10は、受け台30を挟むように対向させた一対のベルトコンベア11、11からなっている。
3、 押え装置20は、長い断面コ字状の押え杆21と、その先端を支持する一対のロッド22、22を有すると共に、受け台30の両端に立設した空気シリンダー23、23とからなっている。
4、 受け台30は、一対のベルトコンベア11、11の間に位置し、僅かな間隙を保持して対向させた一対のフレーム31、31からなり、各フレーム31の上面は、ベルトコンベア11の上面と一致する水平面にある。
5、 切断熱圧装置40は、一対のカッター丸刃41、41と加熱板42及び走行装置43からなっている。
(1) 一対のカッター丸刃41、41は、円板状の切断刃であって、走行台44に取りつけられた電動機45によりベルト46を介して回転する。
カッター丸刃41、41は、その刃先の一部が、前記受け台30の水平面より上に出るように構成されている。
(2) 加熱板42は、カッター丸刃41、41より肉厚のある平板状の本体部分47と、該本体部分47の前後に該本体部分47より薄い平板状の案内部48よりなる。
尚、第7図に示すように、本体部分47と案内部48は一対のカツター丸刃41、41の間の走行台44上に該カッター丸刃41、41と肉厚中心線が一直線になるように取りつけられている。
(3) 走行装置43は軌道50・50上に乗せられた4個の車輪51、51、51、51と、走行台44とよりなり、該走行台44はその両端が、3個の案内スプロケット52、52、52とスプロケット53に無端状に掛設されたチエン54に連結され、電動機55の回転により、チエン54を介して前記軌道50・50上を走行する。
6、 熱風噴射装置60は、ノズル台63と、ノズル台63に取付けられた第1図、第5図及び第6図に示すように、先細となった対向する一対のノズル61、61と、各ノズル61、61に連通する熱風供給管62、62とからなる。
右ノズル61、61の先端は、前記カッター丸刃41、41の肉厚中心線の両側近傍に平行に位置するように設定されている。
右ノズル台63は、受け台30の両側に立設した一対のタワーフレーム24、24間に掛け渡された2本の角筒64、64上にコロ65、65を介して乗り、案内スプロケット66・66に無端状に掛設されたチエン67に連結されて、前記角筒64、64上を走行できるように構成されている。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第4図
<省略>
第3図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
別紙(五)の1
イ号毛布説明書
別紙(三)の1のイ号方法説明書記載の方法により製造された重ね合わせ毛布。
別紙(五)の2
ロ号毛布説明書
別紙(三)の2のロ号方法説明書記載の方法により製造された重ね合わせ毛布。
別表
装置 設置場所 導入時期 ヒーター熱圧板 熱風噴射装置の取り付け時期
<1>1号機 旧興洋ミシン株式会社 昭和五五年七月(昭和五七年焼失) 6本
<2>2号機 整理加工事業部五課南 昭和五七年七月 6→3本 昭和六二年九月
<3>3号機 整理加工事業部五課北 昭和五七年八月 6→3本 昭和六三年四月
<4>4号機 整理加工事業部七課 昭和五八年一月 6→3本 昭和六二年一〇月
<5>5号機 第一起毛工場縫製課北 昭和五八年七月 6→3本 昭和六二年一二月
<6>6号機 整理加工事業部三課 昭和五九年四月 6→0本 (襟付毛布用)
<7>7号機 整理加工事業部二課 昭和六〇年四月 加熱板取外 昭和六三年一二月
<8>8号機 第一起毛工場縫製課南 昭和六一年五月 3本 昭和六一年五月
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭56-27257
<51>Int.Cl.3A 47 G 9/02 識別記号 庁内整理番号 6354-3B <24><44>公告 昭和56年(1981)6月24日
発明の数 1
<54>重ね毛布の製造方法
<21>特願 昭53-82531
<22>出願 昭53(1978)7月6日
公開 昭55-8777
<43>昭55(1980)1月22日
<72>発明者 寺田公圭
岸和田市箕土路町374
<71>出願人 寺田毛織株式会社
岸和田市箕土路町374
<74>代理人 弁理士 今村貞道
<57>特許請求の範囲
1 2枚の毛布地を重ね合わせ縁部を縫着して得られる重ね毛布の製造において、合成繊維を生地成分として含む2枚の毛布地を重ね合わせ、縁縫いによつて縁部が伸びやすい該縁部に沿つて高周波又は加熱凸型により線状に該重ね合わせ毛布地を熱圧し、しかる後に該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なうことを特徴とする重ね毛布の製造方法。
2 タテ編み毛布地の長尺反を重ね合わせて送り、そのヨコ方向の縁部予定部に沿つて線状熱圧を近接平行に二部分について行なつた後該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断し縁縫いを行なうという操作を長尺反から採取すべき一毛布ごとに繰返す特許請求の範囲第1項記載の重ね毛布の製造方法。
発明の詳細な説明
本発明は2枚の毛布地を重ね合わせた重ね毛布の製造方法に関するものである。
重ね毛布は該2枚の毛布地の縁部に縁布を被せてミシン縫着することによつて得られるが、縫着の際縫い方向に張力がかかるために縁部が延伸しやすい傾向があり、特にタテ編み毛布地の場合は生地がヨコ方向に伸びやすいから縁縫いの際ヨコ方向の縁部が延伸し、第1図に示すように、タテ方向の縁部11が弓なりになり、毛布の形状を著しく損じる。かかる縁部の延伸を防止するために、従来、縁部にテープを当てがつてあらく仮縫いをし、その上に縁布を被せて本縫いをするという方法がとられていた。本発明はかかる従来法よりもはるかに能率のよい延伸防止の縁縫い方法を提供するものである。
第2図及び第3図は本発明の方法を用いて得られた重ね毛布の1例を示す。この毛布はアクリル繊維、ナイロン及びレーヨンからなるタテ編み地のアクリル繊維を起毛してなるタテ編み重ね毛布であつて、起毛しない面を内側に起毛面を外側にして2枚の毛布地1、2が重ね合わされている。本発明の方法は、この例のごとく、合成繊維を生地成分として含む2枚の毛布地1、2を重ね合わせ、縁縫いによつて縁部が伸びやすい該縁部(この例ではヨコ方向の縁部)に沿つて高周波又は加熱凸型により線状3に該重ね合わせ毛布地を熱圧し、しかる後に該熱圧部を縁布4で被覆して縁縫いを行なうことを特徴とする。
高周波又は加熱凸型による毛布地の熱圧は毛布起毛面に凹状模様を付与する方法として知られているが、本発明では縁部の伸びを防止するために該縁部に沿つて線状熱圧を行なうものである。
本発明の方法は、前記線状熱圧によつて熱圧部の合成繊維が溶融して縁部を接着、固定し、又は接着しないまでも該合成繊維の溶融又は熱圧変形によつてその部分の組織がされ、その結果縁部の伸縮性が失われるから、ミシンによる縁縫いの際に張力がかかつても縁部が延伸しないという効果を奏する。また本発明では、前記熱圧によつて形成された線状凹部3は縁布4によつて被覆されるから、縁部の外観を損じない。本発明方法は、仮縫い、本縫いのごとき二度縫いを行なう従来法に比べるとはるかに高能率である。
タテ編み重ね毛布について本発明を実施する場合、第4図に示すような方法を用いることができる。すなわち、合成繊維を生地成分として含む2枚の片面起毛タテ編み毛布地の長尺反1、2を各起毛面を外側にして重ね合わせて送り(矢印)、そのヨコ方向の縁部予定部に沿つて高周波又は加熱凸型による線状熱圧を近接平行に二部分3、3について行ない、該熱圧部の中間で重ね合わせ毛布地を切断5し、該熱圧部を縁布で被覆して縁縫いを行なう。そして前記の二部分熱圧、切断、縁縫いを長尺反から採取すべき一毛布6ごとに繰返して行なう。この場合、伸びにくいタテ方向については、その縁部7を予め縁縫いしておくのがよい。この方法で高周波熱圧を用いる場合は、二部分3、3を同時に熱圧し、高周波送電を止めた直後に該熱圧部中間にカツターを走行させる。高周波熱圧は加熱凸型よりも能率その他の点で利点が多い。
タテ編み重ね毛布について前記方法を実施すると、タテ方向の縁縫い、送り、熱圧、切断、ヨコ方向の縁縫いという順序で重ね毛布の製造工程を系列化することができてきわめて能率がよい。
図面の簡単な説明
第1図は縁部が延伸した従来の重ね毛布の平面図、第2図は本発明を実施した重ね毛布の平面図、第3図はその縦断面図、第4図は本発明の1実施態様説明図である。
1、2……毛布地、3……線状熱圧部、4……縁布、5……切断部、6……長尺反から採取すべき一毛布、7……タテ方向の縁部。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
特許公報
<省略>