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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3670号 判決 1996年6月27日

大阪市西区北堀江二丁目七番一四号

原告

三笠技研工業株式会社

右代表者代表取締役

永廣秀彦

右訴訟代理人弁護士

岡崎守延

東京都文京区本郷三丁目一四番一号

被告

株式会社アサヒ産業

右代表者代表取締役

八木範雄

右訴訟代理人弁護士

村山幸男

渡邊三樹男

千葉市今井一丁目四番一六号

被告

三喜工業株式会社

右代表者代表取締役

矢野幹雄

右訴訟代理人弁護士

遠藤哲嗣

右訴訟復代理人弁護士

金崎淳

主文

一  被告株式会社アサヒ産業は、別紙第一目録の商品名欄記載の各商品のパンフレット、カタログ等の広告に同目録の表示内容欄<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>記載の各事項を表示して右各商品を販売してはならない。

二  被告三喜工業株式会社は、別紙第二目録の商品名欄記載の各商品のパンフレット、カタログ等の広告に同目録の表示内容欄<1>ないし<9>記載の各事項を表示して右各商品を販売してはならない。

三  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決の第一、第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告株式会社アサヒ産業は、別紙第一目録の商品名欄記載の各商品について、それぞれ同目録の表示内容欄<1>ないし<19>記載の各事項を各商品のパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売してはならない。

二  被告株式会社アサヒ産業は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対するる平成三年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告三喜工業株式会社は、別紙第二目録の商品名欄記載の各商品について、それぞれ同目録の表示内容欄<1>ないし<9>記載の各事項を各商品のパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売してはならない。

四  被告三喜工業株式会社は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  当事者及びダクト材

原告及び被告らは、いずれも、業として、ビル等の排煙用ダクト及び一般空調用ダクトのたわみ継手材(ダクト缶体の継目に振動緩衝用に取り付けられる蛇腹様の筒で、屈曲・伸縮可能な管継手)、並びにフランジガスケット材(ダクトパッキング材、シール材ともいうが、「フランジガスケット材」に用語を統一する。ダクトの缶体と缶体の間の接続部分に充填して隙間を無くす機能を持つ板状パッキン)を製造、販売している会社である(以下、たわみ継手材とフランジガスケット材を合わせて「ダクト材」という。)。

ダクト材は、その耐熱性等から従来石綿(アスベスト)が用いられており、官公庁施設建築のマニュアルとして発行されている建設大臣官房官庁営繕部監修「機械設備工事共通仕様書」(以下「建設省仕様書」という。)も、昭和五六年までは石綿製を用いることが明記されていたが、石綿が肺ガン誘発物質であることが指摘され、石綿の使用を制限しようという世論が強くなったことから、建設省仕様書でも、昭和五六年版で、一般空調用たわみ継手材についてガラスクロスを使用するよう改定され、平成元年版からは、排煙用たわみ継手材及びフランジガスケット材についても石綿以外の素材で作るよう改定された(甲A第四、第一〇号証、第一三号証の1~5、乙第一一号証)。

2  原告の製品

原告は、昭和六一年から石綿以外の素材によるダクト材の製造販売を始め、昭和六三年三月からは、次のとおり、カーボン繊維製布にアルミ箔を貼付した方式の非アスベストダクト材(以下、これらを総称して「原告製品」という。)を製造販売している(甲A第一、第一二号証、原告代表者)。

(一) 一般空調用たわみ継手材

MK二五〇

(二) 排煙用たわみ継手材

MK二六〇

(三) フランジガスケット材

MK二七〇

MK二八〇

3  被告アサヒ産業株式会社(以下「被告アサヒ」という。)の製品

被告アサヒは、ダクト材の製造販売を業とする会社であり、昭和六三年春頃から、別紙第一目録の商品名欄記載の非アスベストダクト材(以下、これらを総称して「被告アサヒ製品」という。)を製造販売している(甲B第一、第四、第六、第八、第一二号証の1・2、第一五号証の1・2、乙第一一号証)。

(一) 一般空調用たわみ継手材

AS一二〇・AS一二三・AS一三二(基材はグラスウールフェルトを素材とするガラスクロス)

AS二一〇・AS二三〇(基材はロックウールフェルトを素材とするロックウールクロス。但し、原告は、「一般空調用」たわみ継手材ではなく、「排煙用」たわみ継手材であると主張する。)

(二) 排煙用たわみ継手材

AS一〇〇〇(ガラスクロス)

AS三〇〇(ガラスクロス。但し、被告アサヒはシリカクロスと表示している。)

(三) フランジガスケット材

AS二〇・AS二五(ゴム)

AS二六・AS二七(合成樹脂)

AS三〇・AS三五(ゴム系)

AS六五・AS六六・AS八五・AS八七(ロックウールクロス)

AS二〇〇〇(ガラスクロス)

4  被告アサヒの品質表示

(一) 被告アサヒは、被告アサヒ製品の宣伝広告のため、その販売開始の頃以降、次のパンフレット等を取引先に配布している。

(1) 「耐熱ガラスクロス」と題する、AS一三二・AS三〇〇・AS一〇〇〇等のガラスクロス製たわみ継手材に関する宣伝用パンフレット(甲B第一号証、以下「被告広告一1」という。)

(2) AS二〇・AS二五・AS三〇・AS三五・AS二〇〇〇等のゴム系及びガラスクロス系のフランジガスケット材に関する宣伝用パンフレット(甲B第四号証、以下「被告広告一2」という。)

(3) 「FDFフォーム」と題する、合成樹脂製フランジガスケット材AS二六・AS二七に関する宣伝用パンフレット(甲B第六号証、以下「被告広告一3」という。)

(4) 「AS八七 サンシールリボンテープ」と題する、ロックウール製フランジガスケット材AS八五・AS八七に関する宣伝用パンフレット(甲B第八号証、以下「被告広告一4」という。)

(5) 「ノン・アスクロス」と題する、ロックウール製フランジガスケット材AS六五・AS六六、ロックウール製たわみ継手材AS二一〇・AS二三〇に関する宣伝用パンフレット(甲B第一二号証の1・2、以下「被告広告一5」という。)

(6) 「空調用ダクトキャンバス・保温工事用キャンバス見本帳」と題する、ロックウール製たわみ継手材AS二一〇・AS二三〇、ガラスクロス製たわみ継手材AS一二〇・AS一二三・AS一三二・AS三〇〇等に関する見本帳(甲B第一五号証の1・2、以下「被告広告一6」という。)

(二) 被告広告一1ないし6には、被告アサヒ製品について、次の(1)ないし(6)記載のとおり、それぞれ別紙第一目録の表示内容欄記載の各表示(以下、これらの表示を総称して単に「被告表示一」という。)がなされている。

(1) 被告広告一1

AS三〇〇について「シリカクロス」(以下「被告表示一<1>」という。)、「耐熱温度(シリカ)六〇〇℃」(以下「被告表示一<2>」という。)

AS一〇〇〇について「引張強度(kg/25mm)(五五〇℃時)たて、よこ29」(以下「被告表示一<3>」という。)、「耐熱温度(ガラス)五五〇℃」(以下「被告表示一<4>」という。)

AS一三二・AS三〇〇について、「完全不燃クロス」(以下「被告 表示一<5>」という。)

(2) 被告広告一2

「当社はダクトパッキング及びキャンバス材を大量に製造販売しております。」という表示の下、ゴム系製品であるAS二〇・AS二五・AS三〇・AS三五についてダクト用品としての表示(以下「被告表示一<6>」という。)

AS三〇について「ブチルダクトテープ」(以下「被告表示一<7>」という。)

AS三五について「上質ブチルダクトテープ」(以下「被告表示一<8>」という。)

AS二〇〇〇について「JISR-三四一四ガラスクロス」(以下「被告表示一<9>」という。)

(3) 被告広告一3

AS二六・AS二七についてダクト用品としての表示(以下「被告表示一<10>」という。)、「防火認定 認定番号準不燃第二〇二五号」(「木燃」とあるのは誤記と認める。以下「被告表示一<11>」という。)

(4) 被告広告一4

AS八五について「強熱減量(%) 17」(以下「被告表示一<12>」という。)

AS八七について「不燃(個)一七一六号認定」(以下「被告表示一<13>」という。)

(5) 被告広告一5(甲B第一二号証の1・2)

AS六五・AS六六・AS二一〇・AS二三〇について、繊維と題する表中に「耐熱温度(℃)七〇〇」(以下「被告表示一<14>」という。)被告広告一5(甲B第一二号証の1)

AS六五・AS六六・AS二一〇・AS二三〇について、繊維と題する表に近接して貼付されたシールに、「但し、紡織品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」(以下「被告表示一<15>」という。)

AS二一〇・AS二三〇について「ダクトテープ」(以下「被告表示一<16>」 という。)

(6) 被告広告一6

AS一二〇・AS一二三について「耐熱温度三〇〇℃(基材)」(以下「被告表示一<17>」という。)

AS一三二について「耐熱温度三五〇℃(基材)」(以下「被告表示一<18>」という。)

AS二一〇・AS二三〇について「耐熱温度 ロックウールクロス三〇〇℃」(以下「被告表示一<19>」という。)

AS三〇〇について「シリカクロス」(被告表示一<1>)、「耐熱温度シリカクロス六〇〇℃」(被告表示一<2>と実質的に同一)

5  被告三喜工業株式会社(以下「被告三喜」という。)の製品

被告三喜は、昭和六三年春頃から、別紙第二目録の商品名欄記載のダクト材(以下、これらを総称して「被告三喜製品」という。)を製造販売している(甲C第一、第八、第九号証)。

(一) 排煙用たわみ継手材

SN一〇〇九・SN一〇一九(ガラスクロス)

SN一〇一四・SN一〇二四(ロックウールクロス)

(二) 一般空調用たわみ継手材

SN一〇〇三・SN一〇一三・SN一二一〇(ガラスクロス)

(三) フランジガスケット材

PK九七・PK一一五・PK二〇〇・PK二〇一・PK二〇二

6  被告三喜の品質表示

(一) 被告三喜は、被告三喜製品の宣伝広告のため、その販売開始の頃以降、次のパンフレット等を取引先に配布している。

(1) 「空調・保温用キャンバス材サンプル表」と題する、SN一〇〇九・SN一〇一九・SN一〇一四・SN一〇二四・SN一〇〇三・SN一〇一三・SN一二一〇等のたわみ継手材に関する宣伝パンフレット(甲C第一号証、以下「被告広告二1」という。)

(2) 「材質見本帳」と題する、PK九七・PK一一五・PK二〇〇・PK二〇一・PK二〇二等のフランジガスケット材に関する見本帳(甲C第八号証、以下「被告広告二2」という。)

(3) 「PK-97T.D.C.排煙用不燃シール(片面粘着付)」と題する、フランジガスケット材PK九七に関する宣伝用チラシ(甲C第九号証、以下「被告広告二3」という。)

(二) 被告広告二1ないし3には、被告三喜製品について、次の(1)ないし(3)記載のとおり、それぞれ別紙第二目録の表示内容欄記載の各表示(以下、これらの表示を総称して単に「被告表示二」という。)がなされている。

(1) 被告広告二1

SN一〇〇九・SN一〇一九について「基材 ガラスクロス 六〇〇℃」(以下「被告表示二<1>」という。)

SN一〇一四・SN一〇二四について「基材 ロックウールクロス六〇〇℃」(以下「被告表示二<2>」という。)

SN一〇〇三・SN一〇一三について「基材 ガラスクロス 五五〇℃」(以下「被告表示二<3>」という。)

SN一二一〇について「基材 ガラスクロス 三〇〇℃」(以下「被告表示二<4>」という。)、「不燃シルバーガラスクロス」(以下「被告表示二<5>」という。)、「建設省不燃認定 不燃(個)一四四五号」(以下「被告表示二<6>」という。)

(2) 被告広告二2

PK一一五・PK二〇〇・PK二〇一・PK二〇二について「不燃性」(以下「被告表示二<7>」という。)

PK九七について「不燃シール」「不燃性」(以下「被告表示二<8>」という。)

(3) 被告広告二3

PK九七について「不燃シール」(被告表示二<8>)、「建設大臣認定準不燃第二〇二五号」(以下「被告表示二<9>」という。)

二  請求

原告は、被告アサヒの表示する被告表示一<1>ないし<19>及び被告三喜の表示する被告表示二<1>ないし<9>はいずれも不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一〇号の「商品の…品質…について誤認させるような表示」(いわゆる誤認惹起表示)に当たり、原告は右表示行為によって原告の営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがあると主張して、同法三条に基づき、被告アサヒに対して被告表示一<1>ないし<19>をパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売することの停止又は予防を、被告三喜に対して被告表示二<1>ないし<9>をパンフレット、カタログ等に表示して各商品を販売することの停止又は予防を求めるとともに、同法四条に基づき、右不正競争行為により原告の被った損害の賠償として、被告アサヒ及び被告三喜に対してそれぞれ金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年五月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

三  争点

1  被告表示一<1>ないし<19>は誤認惹起表示に当たるか。

2  被告表示二<1>ないし<9>は誤認惹起表示に当たるか。

3  被告表示一又は被告表示二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、被告アサヒ製品又は被告三喜製品の販売の差止めを求めることができるか。

4  被告アサヒは被告表示一の使用を、被告三喜は被告表示二の使用をそれぞれ廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか。

5  被告らの損害賠償責任の有無、及び被告らが原告に賠償すべき損害の額。

6  原告の本訴請求は信義則に反するか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告表示一<1>ないし<19>は誤認惹起表示に当たるか)について

【原告の主張】

被告表示一は、以下の1ないし15のとおり、いずれも誤認惹起表示に当たるものである。

1 シリカクロス(被告表示一<1>)

(一) 「シリカ」とは、通常のガラスと異なり、SiO2(二酸化珪素)の比率を極端に高め、SiO2が九六パーセント以上のものをいう(甲B第一八、第二四号証)。

被告アサヒは、AS三〇〇はSiO2が六〇パーセントであるのでこれをシリカと表示することに何の問題もないと主張するが、これを裏付ける文献は存在しない。

(二) また、被告アサヒは、AS三〇〇は甲B第二四号証一二五頁にいう「酸処理を途中でやめ、表面層だけを高珪酸ガラス質にした」ものであるからこれをシリカと表示することに何の問題もないとも主張するが、被告表示一<1>のある被告広告一1にそのような表面層だけの処理というような説明は全くないし、右主張に従ったとしても、表面層は高珪酸ガラス質すなわちSiO2が九六パーセント以上のものであるべきことは当然であるところ、AS三〇〇の表面層はSiO2が九六パーセント以上であるとの主張立証はない。

原告がAS三〇〇のサンプルの成分検査を行ったところ、表面層の特殊処理がされていないことはもちろんのこと、SiO2含有率も五四・一五パーセントにすぎないことが明らかとなった(甲B第三八号証)。この数値は、通常のガラスと全く異ならないから、これに極めて高品位製品の呼称として使用されているシリカの名を用いることは、甚だ不当といわなければならないし、被告広告一1におけるSiO2含有量六〇・〇パーセントという数値自体虚偽であるといわなければならない。

(三) 被告アサヒがその主張の根拠とする日本無機株式会社の証明(乙第二八号証の1)は、同社自身のパンフレット(甲B第一八号証)における「SILIGLASS(シリグラス)は、SiO2が九六パーセント以上の高珪酸ガラス繊維、およびその製品の総称です」との記載と整合しない。のみならず、乙第二八号証の1では、むしろ「全体のSiO2含有量はEガラスの範囲である」として、SiO2含有率が五四・一五パーセントであるという原告の指摘を事実上認めている。同号証記載のとおり表面層を酸処理したものであるならば、SiO2含有率が通常のガラスと全く変わらないとは到底考えられない。

2 耐熱温度(シリカ)六〇〇℃(被告表示一<2>)、耐熱温度(ガラス)五五〇℃(被告表示一<4>)

(一) 耐熱温度六〇〇℃(AS三〇〇)、五五〇℃(AS一〇〇〇)というのは、被告広告一1(甲B第一号証)掲載の他のガラスクロスを素材とする基材を使用した製品と比べて極端に高いものであるが、AS三〇〇、AS一〇〇〇とその他の製品とで成分に際立った違いはないから(被告アサヒが「シリカ」と表示しているAS三〇〇についても、SiO2含有率が通常のガラスと全く異ならないことは前記1のとおり)、これらの商品のみがこのような高い耐熱温度の数値を示しうるとは到底考えられない。

(二) 硝子繊維協会は、ガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めている(甲A第三八号証)。AS三〇〇、AS一〇〇〇も、通常のガラスクロスを素材とする基材を使用した製品と格別差異のない製品であるから、何故その耐熱温度が硝子繊維協会の定めと大きく異なるのか、合理的理由を見出すことは困難である。

(三) 耐熱温度とは、一般に、引張強度が常温における引張強度の丁度二分の一になった温度をいうところ(甲B第三号証)、JIS規格による試験の結果(甲B第二号証)によれば、AS一〇〇〇は、五五〇℃における引張強度(たて二〇・七kg、よこ一五・五kg)が常温における引張強度(たて九三・〇kg、よこ七四・〇kg)の二分の一以下であるから、耐熱温度は五五〇℃より低いということになる。

(四) 通気度試験の結果によれば、AS三〇〇の六〇〇℃における通気抵抗は〇・八〇(甲B第四四号証)、AS一〇〇〇の五五〇℃における通気抵抗は〇・三四(甲B第四五号証)というように常温時と比べて極端に減少していることが明らかであり、この点からも耐熱温度を六〇〇℃(AS三〇〇)、五五〇℃(AS一〇〇〇)とする被告表示一<2><4>の表示が誤りであることが分かる。

通気度試験とは、気温と設定温度(被告ら表示の耐熱温度)とにおいてそれぞれ当該製品に空気を当て、その通気抵抗の変化を調べる試験であるが、ダクト材について、耐熱温度を問題にするとき、ダクトの内外で空気を遮断することが最も強い要請であるから、表示された温度の下で通気遮断性能が損なわれていない場合にのみ、当該温度を耐熱温度と表示することが正当化されるのである。右通気度試験は、この通気遮断性能の変化を知る最も端的な試験として公的試験所で実施されているものである。

被告アサヒは、平成五年版建設省仕様書に基づく試験では通気度試験は採用されず漏気量試験が採用されたと主張して、通気度試験の結果を排斥しようとするが、平成五年版建設省仕様書で通気度試験が採用されなかったことと、その試験結果が耐熱温度を知る資料となりうるか否かということとは直接関連がない。

(五) なお、被告広告一1では、AS三〇〇、AS一〇〇〇の基材の耐熱温度としての被告表示一<2><4>の外に、「(アルミ接着剤) 二〇〇℃」との表示を併記している。しかし、そもそも、AS三〇〇、AS一〇〇〇は、ガラスクロスを素材とする基材にアルミ接着剤でアルミ箔を貼付したものであり、このアルミ箔がたわみ継手材に求められる通気遮断の機能を果たしているのであるから、アルミ接着剤が溶ければアルミ箔は剥がれてしまい、たわみ継手材としての機能を喪失してしまう。したがって、たわみ継手材としての耐熱温度を表示するのであれば、このアルミ箔の剥がれる温度を正しく表示することが必要であり、これ以外に基材たるガラスクロスの耐熱温度を表示することは、徒に購買者を惑わし、却って有害な表示となる。

のみならず、右アルミ接着剤の耐熱温度自体も、通常八〇~一〇〇℃が限界であり、二〇〇℃との表示は、不当である。

3 引張強度(kg/25mm)(五五〇℃時)たて、よこ29(被告表示一<3>)

AS一〇〇〇は、前田硝子株式会社の製造にかかる基材を使用しているところ、その基材の五五〇℃における引張強度は、たて二〇・七kgf、よこ一五・五kgfである(甲B第二号証)。

被告アサヒは、AS一〇〇〇の素材メーカーは前田硝子株式会社ではないと主張するが、ガラスクロスであればその成分が極端に違わない限り素材のメーカーの違いによって引張強度に大きな差が出ることは考えにくい。しかも、被告アサヒが、単に被告表示一<3>は素材メーカー(前田硝子株式会社ではない。)の資料に基づくものであると主張するのみで、それ以上に右甲B第二号証の試験結果を否定する証拠を全く提出していないことは、原告の右指摘を裏付けるところである。

4 完全不燃クロス(被告表示一<5>)

(一) 「不燃」「完全不燃」の用語は、一定の不燃認定を受けていることを念頭において建設業界で使用されるのが一般であるが、AS三〇〇及びAS一三二の素材はそのような不燃認定は一切受けていない。

(二) 被告アサヒは、AS三〇〇、AS一三二の素材のメーカーであるユニチカユーエムグラス株式会社の証明書(乙第二三号証)を右表示の根拠として援用するが、同社自身が述べているとおり(甲第三五号証)、同社の素材自体はガラス繊維一〇〇パーセントであるのに対し、被告アサヒのAS三〇〇、AS一三二は片面アルミ箔貼りガラスクロスであり、粘着剤等が使われているのであって、ユニチカユーエムグラス株式会社の素材とは大きく異なるものである。

(三) 被告アサヒ主張の運輸省の「不燃性」の判定は、厚さが二五mmもの素材についてのものであり、AS三〇〇、AS一三二がせいぜい〇・六五~一mmの厚さしかないのと大幅に異なる。

(四) また、被告アサヒは、そのアルミ箔貼りガラスクロスを使用した製品は平成五年版建設省仕様書に基づく不燃試験にアルミ箔を接着剤で貼った状態で合格している旨主張するが、失当であることは後記15のとおりである。

5 「ダクト用品としての表示」(被告表示一<6>)、「ブチルダクトテープ」(被告表示一<7>)、「上質ブチルダクトテープ」(被告表示一<8>)、「ダクト用品としての表示」(被告表示一<10>)

(一) AS二〇、AS二五、AS三〇、AS三五、AS二六、AS二七は、いずれもダクト材のうちのフランジガスケット材であり、建築工事の材料の一つである。建築工事については、これに対する規制として建築基準法及びそれに基づく諸規則が存在し、そこにおいて不燃性の要件等が定められており、フランジガスケット材も当然その規制に服することになる。

そして、建設省は、自らが発注する建築工事の指針として、右建築基準法の規制を踏まえた建設省仕様書を制定しているが、建築業界においては、広く民間の工事についても建設省仕様書が指針として取り扱われているのが実状である。その結果、フランジガスケット材を含む建築資材の取引においても、取引業者間では当該商品が建設省仕様書の記載内容に合致していることを当然の前提としている。したがって、フランジガスケット材のカタログを見る者は、そこに掲載された商品は当然建設省仕様書の条件に合致した商品であると受け止めるから、カタログに建設省仕様書の条件に合致していないことが明らかな商品を何の断りもなく掲載することは、そのこと自体で顧客を誤った認識に導くものといわなければならない。

AS二〇はクロロプレン系のゴム、AS二五は天然ゴム、AS二六及びAS二七はポリエチレン、AS三〇及びAS三五はブチルゴムというようにいずれもゴムを素材としており、平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)によりダクト材に使用することが明確に禁止されている。

(二) 被告アサヒは、平成元年版建設省仕様書ではAS二〇、AS二五、AS三〇、AS三五は使用禁止とはされていないと主張するが、全くの誤りである。右仕様書の規定を確定するに際し、社団法人空気調和・衛生工学会がゴムの中でも最も耐火性に優れたクロロプレンについてフランジガスケット材としての適合性を検査したところ、「耐火性の問題を含む」と指摘され(甲B第五号証)、結局、右建設省仕様書ではゴムはフランジガスケット材の素材から排除されたのである。すなわち、右建設省仕様書では、フランジガスケット材の素材として「糸状の」素材を指定しているところ、ゴムは糸状ではないから、右各商品はすべて指定の条件を満たしていないことが明らかである。

(三) 被告アサヒは、文部省の機械設備工事標準仕様書ではクロロプレン系及びブチルゴム系のフランジガスケット材の使用も認められているから被告表示一<6>ないし<8>、<10>には問題がないかのように主張する。

しかし、フランジガスケット材を含む建築資材の取引業者は、建設省仕様書を念頭に置いているのであり、右文部省の仕様書に関する知識は皆無といってよい。本件で問題なのは、あくまでも取引業者が被告広告一2に表示された被告表示一<6>ないし<8>、<10>をどう理解するかということであり、そこで意識されているのは建設省仕様書との関連のみである。

6 JISR三四一四ガラスクロス(被告表示一<9>)

(一) JISR三四一四(ガラスクロス)は、JISR三四一三(ガラス糸)に適合するガラス糸及びこれを加工した糸を用いて製織した織物をいうところ(甲B第一一、第二三号証)、その規格では厚さが一mmより相当薄いものであるから、三mmの厚さを有するAS二〇〇〇がこれに適合するはずがない。

また、JISR三四一四は、無処理であることを要件としているところ、AS二〇〇〇は飛散防止材で含浸処理されているから、これに適合しない。

(二) 被告アサヒは、JISR三四一四は業界では一般的にガラスクロスのことを指していると主張して、被告表示一<9>を正当化しようとするが、かかる主張が全く根拠のないものであることはJISR三四一四が種々の細かい要件を定めていることから自明のことであるし、ガラスクロスの大手メーカーであるユニチカユーエムグラス株式会社も被告アサヒのかかる暴論を批判するところである(甲B第三四号証)。

(三) 被告アサヒは、被告広告一2にはAS二〇〇〇の厚さが三mmであることが明記されているから、プロである業者に品質の誤認が生ずるはずがないとも主張する。顧客がいずれもJIS規格を理解しているプロであるかどうかはさておき、規格に合致していないことが明らかな商品に特定のJISの番号を表示することは、誰が見るかということ以前の問題として、許容される余地のない行為であることはあまりにも明白である。

7 防火認定 認定番号準不燃第二〇二五号(被告表示一<11>)

(一) 準不燃第二〇二五号は、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」と指定して取得された準不燃認定番号であり(甲B第二一号証)、フランジガスケット材が右主たる用途に該当しないことは明らかであるから、AS二六及びAS二七に右準不燃認定番号を使用した被告表示一<11>が誤認惹起表示に該当することは明らかである(このことは、原告が建設省の担当者に直接確認したところである。)。

(二) また、右準不燃認定番号は、金属板に古河電気工業株式会社製造にかかるフネンエースを貼り合わせたものについて取得されたものであり(甲A第一二号証、甲B第一四号証)、フランジガスケット材には金属板など貼り合わされていないから、この点からも、被告表示一<11>の不当性が明らかである。

被告アサヒは、AS二六、AS二七もフランジガスケット材として同じように常に鉄板であるダクトに貼り合わされた状態で使用されるから、被告表示一<11>は何ら不当な表示ではない旨主張するが、被告表示一<11>はAS二六、AS二七自体について使用されているのであるから、これらの商品自体が金属板を貼ったものであるか否かが問題なのである。古河電気工業株式会社フォーム営業部長も、原告に対し「フネンエース単体の材料では準不燃第二〇二五ではありません。」と回答している。

加えて、フランジガスケット材であるAS二六、AS二七は、粘着剤も付加されているから、フネンエースそのものですらないところ、この粘着剤は熱に弱く、これを付加した商品で準不燃認定試験を受ければ、低温で煙が出てしまうので、到底受からない。

8 強熱減量(%)17(被告表示一<12>)

(一) AS八五はロックウール製品であるところ、ロックウールについては、強熱減量の用語はなく、これに似た用語として「灼熱減量」の語が用いられている(甲B第三〇号証)。強熱減量は、ダクト業界で石綿が素材として使用されていた当時は当該商品の耐熱温度を知るうえで重要な数値であったが、石綿についてしか使用されていなかったところ、石綿以外の素材に移行してからも、ダクト業界において従前の石綿におけると同じ意味に受け止められるのが実状であるため、被告アサヒはこのことを利用して、AS八五について強熱減量を耐熱温度を示す概念として表示しているものであるから、誤認惹起表示に当たる(確かに、ガラス繊維業界でも強熱減量の表示が使用されてはいるが、それは、以前「有機物付着率」といわれていたものであって、規定の加熱により焼却減量する集束剤を主とする有機物の付着率を示すものであり、耐熱温度とは関係がない。)。

(二) しかも、AS八五はロックウールの含有率が八〇パーセントであるところ、石綿含有率八〇パーセント以上の場合の強熱減量が三一・〇パーセント以下とされていること(甲B第三号証)からすると、AS八五の強熱減量も実際には三一・〇パーセント以下と考えられるから、強熱減量を一七パーセントとする被告表示一<12>は、この点でも不当である。

(三) 被告アサヒは、被告表示一<12>は徳島県工業試験場が行った試験の成績書(乙第九号証)に従ったものであると主張するが、右試験成績書は、AS八五の素材である阿波製紙株式会社のダクトパッキン紙自体に関するものであり、これをAS八五にそのまま使用することはできない。

AS八五は、右阿波製紙株式会社のダクトパッキン紙に粘着剤等を塗布して加工したものであって、素材たるダクトパッキン紙自体とは別のものであり、当然強熱減量も一七パーセントより多い数値になる(甲B第二〇号証の2・原告の質問に対する阿波製紙株式会社の回答書)はずであるのに、被告広告一4では「AS八五-サンシール板パッキンデータ表」として被告表示一<12>が表示されているのである。

9 不燃(個)一七一六号認定(被告表示一<13>)

不燃(個)第一七一六号は、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」と指定して取得されたものであり、また、金属板に日東紡績株式会社の製造販売にかかるルーフネンを貼り合わせたものについて取得されたものであるから(甲B第九号証)、フランジガスケット材であってしかも金属板を貼り合わせていないAS八七について被告表示一<13>を使用するのは、誤認惹起表示に当たる(詳細は、前記7において被告表示一<11>について主張したところと同様である。)。

現に、日東紡績株式会社がルーフネン単体について防火性能試験を受けたところ、「昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する表面試験に不適合」との判定がされている(甲A第五七号証)。日東紡績株式会社の承諾を得てルーフネンの製造販売を行っている日東紡建工株式会社は、被告アサヒに対し、被告表示一<13>の誤りを指摘し、その削除を求めているところである(甲B第一〇号証)。

10 耐熱温度(℃)七〇〇(被告表示一<14>)

AS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇の耐熱温度は、二九〇℃より低いから(後記11のとおり)、被告表示一<14>(被告広告一5・甲第一二号証の1・2)は、誤認惹起表示に当たる。

また、AS二一〇についての通気度試験によれば、AS二一〇が七〇〇℃でたわみ継手の機能を維持しえないことは明らかである(甲B第四三号証)。

なお、被告アサヒは、平成二年四月から被告広告一5に被告表示一<15>のシールを貼付している(甲B第一二号証の1)旨主張するが、この表示自体不当であることは後記11のとおりである。

11 「但し紡繊品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」(被告表示一<15>)、耐熱温度 ロックウールクロス三〇〇℃(被告表示一<19>)

(一) AS六六の通気度試験によれば、二九〇℃における通気抵抗は常温の数値(一・四七)に比して約一〇分の一の〇・一六まで低下するのであって(甲B第三九号証の1)、二九〇℃でフランジガスケット材としての機能を維持しているとはいい難い。なお、AS六五、AS二一〇及びAS二三〇は、AS六六と素材が同一であるから、AS六六の試験結果がそのまま当てはまる。

(二) 右各商品は、いずれもロックウールフェルトを素材とした基材を用いた製品であり、これを製造しているのはオリベスト株式会社と日東紡建工株式会社のみであるところ、日東紡建工株式会社製造のロックウールフェルトを素材とした基材(ルーフネン)について加熱試験をした結果、二〇〇℃で煙が出る(甲A第一五号証の1添付写真)。そのため、日東紡建工株式会社は、ルーフネンの使用最高温度を一五〇℃としている(同号証の2)。この事実からも、AS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇の耐熱温度を二九〇℃とする被告表示一<15>及びAS二一〇、AS二三〇の耐熱温度を三〇〇℃とする被告表示一<19>が誤りであることは明らかである。

(三) 更に、被告表示一<15>の文字は耐熱温度(℃)七〇〇(被告表示一<14>)の文字より小さく、しかも、被告表示一<15>の表現自体、耐熱温度は原則として七〇〇℃であり、紡織品に限って例外的に二九〇℃であると読まれるが、AS六五、AS六六、AS二一〇、AS二三〇はいずれも紡織品なのであるから、この点でも被告表示一<15>は不当である。

12 ダクトテープ(被告表示一<16>)

(一) AS二一〇、AS二三〇は、ダクト材の一つであるたわみ継手材としては不適格の商品であるから、被告表示一<16>は誤認惹起表示に当たる。

AS二一〇、AS二三〇は排煙用たわみ継手材であるところ、平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)の規定によれば、排煙用たわみ継手は六〇〇℃に耐えるべきものと明記されている。しかし、AS二一〇、AS二三〇は、被告アサヒの主張によっても耐熱温度が二九〇℃であり、到底六〇〇℃には耐えられない。AS二一〇、AS二三〇の耐熱温度を七〇〇℃とする前記10の被告表示一<14>は、右平成元年版建設省仕様書の規定を意識したものに外ならない。

(二) 被告アサヒは、AS二一〇、AS二三〇につき排煙ダクト用として表示したことも販売したこともない旨主張するが、右平成元年版建設省仕様書では一般用たわみ継手としてはロックウールの素材を予定していない。したがって、AS二一〇、AS二三〇の掲載された被告広告一5を見る者は、右両商品が一般用の製品として掲載されていると理解する可能性は全くなく、「七〇〇℃に耐える」(被告表示一<14>)ロックウール製品であるから建設省仕様書の排煙用たわみ継手適合品である、と受け止めるのが当然といわなければならない。

13 耐熱温度三〇〇℃(基材)(被告表示一<17>)

(一) AS一二〇の基材は、ユニチカユーエムグラス株式会社製コーテッドガラスH二〇一CA、AS一二三の基材は同じくH二〇一CEであって、いずれもガラスクロス単体ではなく、塩ビ樹脂をコーティングしたものであり、その塩ビ樹脂の耐熱温度は八〇℃である(甲B第一六号証)から、耐熱温度として、塩ビ樹脂の耐熱温度ではなくガラスクロスの耐熱温度を表示した被告表示一<17>(被告広告一6のうちの甲B第一五号証の1)は、無意義であるばかりか却って有害であり、誤認惹起表示に当たる(なお、被告広告一6のうちの甲B第一五号証の2では、同じAS一二〇、AS一二三につき「耐熱温度 ガラスクロス三五〇℃」というように甲B第一五号証の1における三〇〇℃より五〇℃高く記載されている。この点のみをとっても、被告アサヒがいかに根拠なく各商品の耐熱温度を不当に高く表示しているかが読み取れる。)。

被告アサヒは、甲B第一五号証の2ではAS一二〇、AS一二三の基材としてのガラスクロスの耐熱温度の表示とこれに貼付されている塩ビ樹脂の耐熱温度とを区別している旨主張する。しかし、甲B第一五号証の1には、「耐熱温度三〇〇℃(基材)」と表示されているのみであるから、これを見た顧客が当該商品自体の耐熱温度を三〇〇℃と理解するのは至極当然のことである。

のみならず、確かに甲B第一五号証の2では、右「耐熱温度 ガラスクロス三五〇℃」の記載に「塩ビ樹脂一〇〇℃」の記載が付加されているが、AS一二〇、AS一二三はたわみ継手であって、ガラスクロスの表面にコーティングされた塩ビ樹脂が通気を遮断する機能を果たしており、したがって、塩ビ樹脂が熱で溶ければその時点でたわみ継手としての機能を喪失するのであるから、端的に塩ビ樹脂の耐熱温度を右両商品の耐熱温度としなければならない。それにもかかわらず、甲B第一五号証の2には、右のように塩ビ樹脂の耐熱温度の外に、基材の耐熱温度をも記載しており、顧客に無用の混乱を与える有害な記載といわなければならない。

被告アサヒは、同号証に基材の異なる各種商品を掲載していることから、これを区別するために基材を表示し、併せて耐熱温度の表示をしたものである旨主張するが、基材を区別して表示したからといって、併せてその耐熱温度を記載することとは直接つながらない。

(二) AS一二〇、AS一二三の通気度試験によれば、三〇〇℃における通気抵抗は二・二六、一・五〇というように常温に比して極端に低下する(甲B第四〇、第四一号証)。

また、AS一二三の耐折れ試験によれば、AS一二三は、常温の耐折れ回数が一〇万回以上であるのに対し、三〇〇℃で三〇分間加熱処理すると、わずか三七回に減少する(甲B第三六号証)。

硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めていることは、前記2(二)のとおりである。

以上によれば、AS一二〇、AS一二三の基材の耐熱温度を三〇〇℃と表示すること自体も誤りであることが明らかである。

被告アサヒは、引張強度の三〇ないし四〇%辺りでの強度に基づき耐熱温度の表示を行うのが妥当と考えていると主張するが、当該商品の耐熱温度は、引張強度五〇%以上を保持できる温度と考えるのがダクト材として石綿が使用されていた当時の確定した考えであり(甲B第三号証)、硝子繊維協会も同様に考えている(甲A第三八号証)のであり、被告アサヒの右主張は独自の、かつ甚だ便宜的主張といわなければならない。

(三) 更に、甲B第一五号証の2記載の塩ビ樹脂の耐熱温度自体も、前記のとおり正しくは八〇℃であるから、これを一〇〇℃と表示すること自体、誤りである。

そこで、ユニチカユーエムグラス株式会社は、被告アサヒに対し、塩ビ樹脂の耐熱温度の表示を八〇℃に訂正するように申し入れている(甲B第一七号証)。

被告アサヒは、右耐熱温度の表示はユニチカユーエムグラス株式会社から塩ビ樹脂の耐熱温度は八〇℃から一〇〇℃ぐらいであると言われたことによるものである旨弁解するが、ユニチカユーエムグラス株式会社は、右弁解を明確に否定している(甲B第三三、第三五号証)。

14 耐熱温度三五〇℃(基材)(被告表示一<18>)

(一) AS一三二の通気度試験によれば、常温における通気抵抗は測定不能な程度に高い数値を示しているが、三五〇℃における通気抵抗は〇・四四と極端に低下する(甲B第四二号証)から、右商品の耐熱温度を三五〇℃と表示することは誤認惹起表示に当たる。

(二) 被告アサヒが、甲B第一五号証の1に基材であるガラスクロスの耐熱温度を表示していること、同号証の2にアルミ接着剤の耐熱温度の外に基材の耐熱温度をも記載していることの問題点は、前記13記載のとおりであり、アルミ接着剤の耐熱温度を二〇〇℃と表示していること自体の問題点は、前記2(五)記載のとおりである。

15 平成五年版建設省仕様書(甲A第二四号証)に基づく財団法人日本建築センター防災性能評定試験について

(一) 被告アサヒは、新商品であるAS八〇〇が日本建築センター防災性能評定試験に合格したとし、いかに優秀なものであるかが実証された旨主張するが、以下のとおり、被告アサヒはほとんど詐欺的手法で評定の取得を試み、これが評定委員会に見抜かれて、結局最初の評定申請は却下されたものである。

(1) 被告アサヒは、AS八〇〇について、たわみ継手の評定申込要領(乙第三〇号証、甲A第四〇号証)に基づき、評定を取得する前提として不燃性、耐振・耐圧性及び熱間収縮性の各試験を受け(乙第三一号証のうちの平成六年六月一七日付試験成績書)、次に、耐熱振動試験を受け(同号証のうちの平成六年九月九日付試験成績書)、右両試験の結果を基にして、防災性能評定委員会に対し評定の申請をしたが、被告アサヒが試験体の接着剤として前者の不燃性等の試験では特殊耐熱性樹脂系フィルムを使用しながら、後者の耐熱振動試験では特殊耐熱性合成ゴム系接着剤を使用するという重大な不正が発覚し、このことが評定の手続段階で指摘されるに至った。

右評定の申請は、同品質の商品で各種試験にすべて合格していることが当然の前提であるにもかかわらず、被告アサヒは、同一の試験体ではすべての試験に通るわけではないことから、使用されている接着剤の相違により商品としては全く別のものである二種類の試験体にて各試験を受け、それをあたかも同一の商品ですべての試験に合格したかのように装って、右申請に及んだものである。

その結果、右評定委員会は、信じがたい不正行為として、被告アサヒの評定申請を却下した。

(2) 右の経過は、原告が評定委員会に直接確認しているところであり、また、同じく評定申請をして評定を受けた株式会社イトー製作所が証明するところであり(甲B第四六号証。原告は、同号証の作成を株式会社イトー製作所に依頼した際、裁判所に提出する予定の文書であることを説明している。)、平成六年九月時点において、株式会社イトーの代表者や原告代表者がいる場で、被告アサヒの従業員である黒瀬本人からも聞いたことである。

原告は、被告アサヒと同時期に前記各種試験を受けて合格し、評定も受けている(甲A第四一号証・平成六年九月二六日付評定書)。被告アサヒが評定申請を却下されたことは、被告アサヒが甲A第四一号証と同時期の評定書を提出できないことからも明らかである。そのため、被告アサヒは、再度資料を差し替えて申請せざるをえない事態となり、評定を受けるのが原告などより大幅に遅れたのである(なお、被告アサヒが認定書の交付を受けたのは、正しくは平成七年三月一三日である。)。

(3) 被告アサヒは、「評定」と「大臣認定」とを混同して論じているが、(【被告アサヒの主張】13(三)(2))、両者は段階の異なる別個の手続であり、「評定」を受けたものが防災性能評定品に外ならず、次に防災性能評定品について「大臣認定」を受けるという経過になるのである(原告の場合、平成六年九月二六日付で「評定」を受けたうえで〔甲A第四一号証〕、平成七年一月一七日付で「大臣認定」を受けた〔甲A第四四号証〕)。

被告アサヒは、甲B第四六号証には根本的な点に誤りがあると主張するが、同号証は「防災性能評定品」すなわち「評定」に触れるのみであり、大臣認定のことまで触れていないことは一目瞭然である。

(二) 更に、AS八〇〇(甲B第四七号証の1)は、被告アサヒ自身が従前の「AS一三二の五倍の強度が有」ると宣伝しているものであり(同号証の2)、これが事実であれば、被告アサヒは、従前の商品の五倍もの強度を有する商品の試験結果を根拠にして、その五分の一の強度しか有していない従前の商品について表示の正当性を論じていることになり、原告の主張に対する有効な反論となりえないことは明らかである。

(三) なお、原告のガラス繊維を素材とする基材を使用した製品は、丙第五、第六号証記載のとおり昭和四五年建設省告示第一八二八号第三表面試験に合格し、財団法人建材試験センターの合格番号も付された優秀な製品である。

【被告アサヒの主張】

被告表示一は、以下の1ないし13のとおり、いずれも誤認惹起表示に当たらない。

1 シリカクロス(被告表示一<1>)

(一) ガラス繊維業界では、通常、Eガラス(無アルカリガラス)の主成分SiO2五二~五六パーセントのものをガラス繊維と称し、それ以上のものをシリカ繊維と称しているところ、AS三〇〇はSiO2が六〇パーセントであるので、これをシリカと表示することに何の問題もない(平成三年九月二日付準備書面)。

(二) AS三〇〇は、甲B第二四号証一二五頁にいう「酸処理を途中でやめ、表面層だけを高ケイ酸ガラス質にした」ものであるから、これをシリカと表示することに何の問題もない(平成四年三月二四日付準備書面)。

(三) AS三〇〇は、被告アサヒが日本無機株式会社に、六〇〇℃で三〇分耐えられ厚さが二mmのシリカ製品の製造を特注した結果でき上がったものであり(乙第一〇号証)、被告アサヒは、日本無機株式会社から右商品をシリカと表示することに問題はない旨の証明を得ている(乙第二八号証の1・2)。

2 耐熱温度(シリカ)六〇〇℃(被告表示一<2>)、耐熱温度(ガラス)五五〇℃(被告表示一<4>)

(一) 被告表示一<2>は、AS三〇〇のメーカーである日本無機株式会社から入手した乙第二二号証の1・2によるものである。すなわち、4A級の厚さ二mm、幅五〇mmの石綿布は、四〇〇℃で三〇分間加熱した後の引張強さがたて三二、よこ一三であるところ(乙第二二号証の1)、AS三〇〇は、六〇〇℃で三〇分間加熱した後の引張強さがたて二九・九、よこ三五・七とされており(同号証の2。なお、AS三〇〇は幅二五mmのものであり、幅五〇mmの石綿布と比較する場合はその引張強さは〇・九増しとされる。)、十分耐熱性があると評価されたことによる。

被告表示一<4>も、素材メーカー(前田硝子株式会社ではない。)の実験結果に基づくものである。

(二) 原告は、硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めているとして甲A第三八号証を援用するが、被告アサヒが硝子繊維協会にその試験内容を確認したところ、計測したデータ資料サンプルは計測時間も厚みも本件訴訟の内容とはかけはなれており、これを原告自身が指定し計測方法までも指示したという極めて作為的なもので、証拠価値の全くないものである。すなわち、空調業界では、あくまで三〇分という限られた時間内での性能評価によっており、原告が指定した三〇日間というのは異常な長期間である。また、厚みのある方が当然耐熱性に優れているところ、訴訟対象品のAS三〇〇、AS一〇〇〇は最低でも〇・六五mmの厚さがあるのに、計測サンプルは厚さ〇・一八mmであるというのである。

(三) ガラスクロスについて、そもそも原告が主張するようなJIS規格による試験などはない。

(四) 原告は、通気度試験の結果を援用するが、後記13(一)(2)<2>のとおり、平成五年版建設省仕様書では、排煙用たわみ継手材について、材質は不問とされ、日本建築センター防災性能評定品であることが条件とされたところ、この性能評定試験では通気度試験は採用されず、漏気量試験が採用された。したがって、通気度試験を根拠とする原告の主張は独自の見解にすぎない。

3 引張強度(kg/25mm)(五五〇℃時)たて、よこ29(被告表示一<3>)

右表示は、素材メーカー(前田硝子株式会社ではない。)の資料に基づくものである。

4 完全不燃クロス(被告表示一<5>)

(一) ガラス繊維各社は、そのカタログにおいて、AS三〇〇、AS一三二と同様のガラスクロスについて「不燃」という表現を使用している(乙第一三号証の1~9)。

また、右各商品の素材のメーカーであるユニチカユーエムグラス株式会社が不燃製品であると証明しており(乙第二三号証)、被告表示一<5>はこれに従ったものである。

(二) 右ユニチカユーエムグラス株式会社のガラス繊維は、運輸省交通安全公害研究所の鉄道車両用材料燃焼試験において「不燃性」の判定を受けている(乙第三号証)。

(三) しかも、被告アサヒのアルミ箔貼りガラスクロスを使用した製品は、後記13のとおり、平成五年版建設省仕様書に基づく不燃試験(性能評定試験)にアルミ箔を接着剤で貼った状態で合格している。

5 「ダクト用品としての表示」(被告表示一<6>)、「ブチルダクトテープ」(被告表示一<7>)、「上質ブチルダクトテープ」(被告表示一<8>)、「ダクト用品としての表示」(被告表示一<10>)

(一) 平成元年版建設省仕様書では、被告アサヒのAS二〇、AS二五、AS三〇、AS三五は使用禁止とはされていない(平成三年九月二日付準備書面)。

(二) 確かにAS二〇、AS二五、AS二六、AS二七、AS三〇、AS三五は、建設省仕様書上はフランジガスケット材として使用できないが、建設省仕様書は建設省が発注する工事の指導書にすぎない。実際、文部省では独自の機械設備工事標準仕様書を作成しており、そこではクロロプレン系及びブチルゴム系のフランジガスケット材の使用も認められている。被告アサヒは、これまで右各商品について建設省仕様書に合致しているなどと表示したことはない(平成六年九月二二日付準備書面)。

6 JISR三四一四ガラスクロス(被告表示一<9>)

JISR三四一四は、建設省仕様書のたわみ継手の項目(一三九頁)に「JISR三四一四(ガラスクロス)」とあるように、業界では一般的にガラスクロスのことを指しているので、被告表示一<9>もこれに従ったものである。

確かに、AS二〇〇〇は、厚さが三mmであり飛散防止加工がされていることから、正確にはJISR三四一四の規格には適合しないが、被告広告一2にはAS二〇〇〇の厚さが三mmであることが明記されており、飛散防止加工についても、AS二〇〇〇のようなフランジガスケット材については平成元年版建設省仕様書のフランジ用ガスケットの項目(一三五頁)において飛散防止措置を取るよう義務づけられており、このことはプロである業者間では周知の事実でもあるから、被告表示一<9>があることのみから品質の誤認が生ずるはずはない。

7 防火認定 認定番号準不燃第二〇二五号(被告表示一<11>)

準不燃第二〇二五号の認定は金属板に所定の断熱材(古河電気工業株式会社製造にかかるフネンエース)を貼り合わせた状態での試験結果に基づくものであるところ(甲第B第七号証)、AS二六、AS二七も、同じ断熱材(フネンエース)がフランジガスケット材として同じように常に鉄板であるダクトに貼り合わされた状態で使用されることから、被告表示一<11>の表示をしたものである。しかも右表示をするに当たっては、認定の窓口となっている断熱亜鉛鉄板工業会の加藤副部長にも確認しており、何ら不当な表示ではない。

8 強熱減量(%)17(被告表示一<12>)

強熱減量の表示を石綿以外に使用してはならないという規制など存在しない(乙第二号証のとおり、ガラス繊維業界でも強熱減量の表示が使用されている。)。

被告表示一<12>は、AS八五の素材のメーカーである阿波製紙株式会社の依頼で徳島県工業試験場が行った試験の成績書(乙第九号証)に従ったものであり、原告主張のように素材の異なる石綿の場合の表示方法と比較するのは、相当でない。

9 不燃(個)一七一六号認定(被告表示一<13>)

AS八七についての右表示は、前記7のAS二六、AS二七についての被告表示一<11>におけると同様の理由により、何ら不当な表示ではない。

10 耐熱温度(℃)七〇〇(被告表示一<14>)、「但し紡繊品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい(被告表示一<15>)、耐熱温度 ロックウールクロス三〇〇℃(被告表示一<19>)

被告表示一<14>は、AS六五、AS六六、AS二一〇、AS二三〇の素材のメーカーである昭和耐熱株式会社のデータによるものであり(甲A第一五号証の2、甲B第一三号証の1)、何ら不当なものではない。

右耐熱温度七〇〇℃というのは、ロックウール繊維のみの耐熱温度としては適正であり、一般的にロックウール繊維とはロックウール一〇〇パーセントのものをいい、これにスフを混紡すれば「糸」というであり、しかも、被告アサヒは、取引先に右商品を説明する際、商品カタログを持参のうえ、右商品にはスフも混紡されているため二九〇℃以下で使用するようにと言って十分説明を尽くしているから、プロである取引相手に誤認が生ずるはずがない。また、被告アサヒは、平成二年四月から被告広告一5に「但し紡織品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」と記載したシールを貼付している(甲B第一二号証の1)。

原告主張の通気度試験は、前記のとおり建設省仕様書において採用されなかったものである。

11 ダクトテープ(被告表示一<16>)

六〇〇℃に耐えるものでなければならないという建設省仕様書の規定による規制は、排煙ダクトに関する規制にすぎないところ、被告アサヒはAS二一〇、AS二三〇につき排煙ダクト用として表示したことも販売したこともない。

12 耐熱温度三〇〇℃(基材)(被告表示一<17>)、耐熱温度三五〇℃(基材)(被告表示一<18>)

(一) 甲B第一五号証の2では、AS一二〇、AS一二三の基材(これが原告主張のものであることは認める。)としてのガラスクロスの耐熱温度の表示とこれに貼付されている塩ビ樹脂の耐熱温度の表示とを区別し、塩ビ樹脂の耐熱温度を一〇〇℃と表示している。

これは、被告広告一6には基材の異なる各種商品を掲載していることから、これを区別するために基材を表示し、併せて耐熱温度の表示をしたものである。ユニチカユーエムグラス株式会社も、以前は基材と塩ビ樹脂の両方の耐熱温度の表示をしていた(丙第一号証)。

(二) 耐熱温度の表示の根拠は、JISなどによる試験方法が確立されていないことから、各製造メーカーの自主基準によるところが大きい。ガラス繊維素材メーカーによって耐熱温度の表示にかなりの差があるが、これはガラス繊維自体がもつ特性の評価方法が各メーカー毎に違うからである。引張強度を評価方法としているケースがあるが、高温下においてその強度が五〇%に減少したときの温度を表示しているメーカーもあれば、それが三〇%に減少したときの温度を表示しているメーカーもある。いずれも、素材が予測不可能な形態で使用されるケースを考慮し、長時間に及ぶ計測データに基づき耐熱温度を表示していることでは共通している。一般空調用ないし排煙用たわみ継手というように使用目的が明確な商品については、その実態に照らし合わせて表示するのが望ましいところ、建築基準法では火災発生後三〇分間使用に耐えることと明示されており、被告アサヒはこれに基づき、引張強度三〇ないし四〇%辺りでの強度に基づき耐熱温度の表示を行うのが妥当と考えている。

耐折れ試験は、被告アサヒも常に振動を受けている一般空調用たわみ継手には有効な評価方法であると考えるが、一般空調用たわみ継手については、原告主張の甲B第三六号証のように三〇〇℃での熱処理などするものではなく、あくまでも常温時におけるものである(平成五年版建設省仕様書の規定でも同様であることは後記13(一)(2)<1>のとおりである。)。一般空調用たわみ継手は、常温時においてはアルミ箔が気密性を保持し設計上の性能を保持しており、いったん火災が発生し、七〇℃~二八〇℃の温度を感知すると、速やかに防火ダンパーが働き閉じてしまうため、ダクト内に熱や火炎が流入することはなく、類焼を防ぐ構造になっていて、ほとんど熱的影響を受けないからである。

(三) 甲B第一五号証の2におけるAS一二〇、AS一二三の耐熱温度の表示は、同号証作成以前に右商品の素材製造メーカーであるユニチカユーエムグラス株式会社に耐熱温度を確認したところ、ガラスクロスは三〇〇℃から三五〇℃ぐらい、塩ビ樹脂は八〇℃から一〇〇℃ぐらいであると言われたことによるものであり、その基礎資料も同社から受領している(乙第二四、第二六、第二七号証)。

13 平成五年版建設省仕様書に基づく財団法人日本建築センター防災性能評定試験について

(一) これまでダクト材については公的機関による不燃性等の性能評定の試験制度はなかったが、平成五年版建設省仕様書(甲A第二四号証)において、初めてダクト材の性能評定の試験制度が採用され、これに基づく性能評定試験が実現した。

(1) まず、平成元年版建設省仕様書の内容と平成五年版建設省仕様書の内容とを対比すると、以下のとおりである。

<1> 一般空調用たわみ継手

(平成元年版)

厚み〇・六五mm以上

重量四四五g/m2

あや織バルギー加工

ガラスクロスにアルミ加工

(平成五年版)

厚み〇・六五mm以上

耐折れ強度五〇〇〇回以上

引張強度一六kgf/五〇mm

不燃試験に合格すること

材質不問

<2> 排煙用たわみ継手

(平成元年版)

ロックウール・アルミナ

シリカ

厚み二mm

平織り

アルミ加工

(平成五年版)

材質不問

日本建築センター防災性能評定品

<3> フランジ用ガスケット

(平成元年版) 糸状のグラスウール、ロックウール等

(平成五年版) グラスウール、炭素繊維、ロックウール等の糸状又は繊維状のものとし、不燃性能を有するもの

(2) 平成五年版建設省仕様書による新たな制度の内容は、以下のとおりである。

<1> 一般空調用たわみ継手

材質は不問とされたが(但し、厚みは〇・六五mm以上)、新たに不燃試験に合格すること、あるいは耐折れ強度五〇〇〇回以上等の基準が設定された。

不燃試験については、後記の排煙用たわみ継手材として日本建築センター防災性能評定試験(不燃性の試験がある。)に合格したものは、同一製品である限り、一般空調用たわみ継手材としての新たな不燃試験を受けずにその使用が認められるものとされている。また、耐折れ強度についてはJISR三四二〇(ガラス繊維一般試験方法)の試験法によるものとされており、そのJISR三四二〇の試験法は常温のもとでの試験である。

<2> 排煙用たわみ継手

イ 材質は不問とされたが、日本建築センター防災性能評定品であることが条件とされた。

その評定のためには、左記性能項目及び性能基準を満たすことが必要とされる(乙第三〇号証)。

a 性能項目

排煙機用のたわみ継手について要求される性能は以下のとおりとする。

不燃性 火災に対し内部に達する亀裂、防火上有害な変形、避難上著しく有毒なガスの発生等がないこと。

耐振・耐圧性 排煙機等の振動に対し、耐振性を有すること。排煙時において、耐風圧性を有すること。

熱間収縮性 排煙時において、有害な収縮を生じないこと。

b 性能基準

排煙機用たわみ継手材料は次の性能を満足しなければならない。

不燃性 昭和四五年建設省告示第一八二八号第三に規定する表面試験に合格すること。

耐振・耐圧性 引張強さ試験により、五六〇℃加熱後一七kgf以上であること。

熱間収縮性 熱間収縮温度試験により、熱間収縮温度が五六〇℃以上のこと。

また、排煙機用たわみ継手(製品)は、耐熱、振動試験により、五六〇℃加熱振動後亀裂などの有害な変形が生じず、漏気量が圧力差五〇mmH2Oにおいて五m3/min・m2を超えないこと。

ロ この漏気量測定試験は、完成した製品での実地試験であり、一定の試験製品に熱・振動・張力をかけ、さらに気密性を測定するものである。具体的には、耐熱振動試験終了後、試験体を取り外して、たわみ継手の開口部を鋼板などで気密に塞ぎ、ポンプにより減圧して漏気量を測定するものである。

原告援用の通気度試験は、内部に圧力を加え続け、空気が逃げようとする空気抵抗値すなわち圧力が変化することによって試験体がどのような変化をするかを見ようとするもので、漏気量測定試験とは性格も違い、試験体も一cm角程度のもので、異なる素材の通気性能の比較には適しているが、製品としてのたわみ継手の性能評定に使用するには無理がある。そのため、平成五年版建設省仕様書改定委員会の席上、通気度測定試験は検討から外され、漏気量試験が採用され今般実施されたものである。本来フランジガスケット材は、フランジという金属板の間に挟みボルト類で固定して使用するものであり、柔軟性のあるフランジガスケット材によりシールすることによって空気などの気密性を確保するものである。これに対し、通気度試験では、右のような本来の使用形態とは程遠い方法で試験を行っている。面圧をかけた状態とかけていない状態とでは当然数値が違ってくるし、使用用方法が違えば本来の性能を発揮できないことは当然である(もとより、被告アサヒの製品は、面圧をかけた状態で十分な性能が発揮できることを前提として開発された製品なのである。)。

<3> フランジガスケット材

材質として、炭素繊維によるものも明示された。また、不燃性能を有するものという条件も設定されたが、その試験の内容は、平成六年九月現在確定されていない。

(二) 被告アサヒは、材質としてアルミ箔貼り(張り)ガラスクロスによる排煙用たわみ継手材(AS八〇〇)につき、右性能評定試験を受け、極めて優秀な成績で合格している(乙第三一号証)。

その性能評定試験の内容と試験結果は、排煙機用たわみ継手に用いるアルミ箔貼りガラスクロス(AS八〇〇)の性能試験(試験の内容 不燃性、耐振・耐圧性、熱間収縮性)について、「防災性能評定委員会の定めた性能基準に適合する。」、排煙機用たわみ継手(AS八〇〇-H)の耐熱振動試験(試験の内容 耐熱振動試験中及び試験後の観察及び耐熱振動試験前後のたわみ継手からの漏気量測定)について、「耐熱振動試験において有害な破れや亀裂が発生せず、かつ漏気量が規定値の五m3/min・m2以下であったので、防災性能評定の基準に適合する。」、というものである。

すなわち、新制度のもとでの「排煙機用たわみ継手に用いるアルミ箔貼りガラスの性能試験」においては「不燃性」が試験項目の一内容となっており、被告アサヒのアルミ箔貼りガラスクロスは右試験に合格しているから、アルミ箔を接着剤で貼った状態のガラスクロス製品ですら、不燃性能を有するものであることが明らかとなった。

したがって、被告アサヒのガラス繊維によるダクト材がいかに優秀なものであるかが実証された形となったため、原告は、このことを当然予想していたものか、これまで危険なものと主張していたガラス繊維によるたわみ継手材を自らも販売する旨の商品広告(丙第五号証・平成六年八月三日付「空調タイムス」)をし、その販売を開始するに至っている。

(三) 原告は、被告アサヒの製品は最初の評定申請を却下された旨主張するが、そのような事実はない(そもそも評定に却下制度はない。)。

(1) 被告アサヒが株式会社イトー製作所に原告援用の甲B第四六号証(同社作成名義の平成六年一一月九日付証明書)の内容を確認したところ、これは原告代表者自身が書いた書面に株式会社イトー製作所が記名捺印したものにすぎず、この際、原告は、この書面を裁判に使用するという重要事項を同社に隠していたことが判明した。

そもそも評定委員会においては、評定申請者本人以外の第三者に、途中経過ないし諸々の情報を公開することはない。仮に情報が流れているとすれば、評定委員会自体に重大な問題があることになる。

(2) しかも、甲B第四六号証には根本的な点に誤りがあり、原告は評定制度を全く理解していない。

評定制度は、日本建築センターの指定する試験場にて要求性能試験を行い、「合格」したものを評定委員会の二度以上の評定によって「形式承認」し、形式承認したものを建設省により再審査し、建設大臣によって「認定」されたもの(大臣認定)をもって、「防災性能評定品」とするものである。甲B第四六号証作成当時、大臣認定をもって「防災性能評定品」とされたものは全くない。

したがって、同号証に防災性能評定品として合格したのは株式会社イトー製作所、被告三喜、原告の三社が製造する製品だけである旨の記載があるのは全くの誤りである(認定書が交付されたのは、原告が平成七年一月一七日、株式会社イトー製作所及び被告三喜が同年二月二〇日、被告アサヒが同年二月末日である。)。

(3) また、被告アサヒのAS八〇〇Hは、日本建築センターの指定する試験所である財団法人建材試験センターの要求性能試験にトップレベルで合格し、評定委員会の形式承認も得ており、不合格となった事実はない。

確かに、AS八〇〇Hは、AS八〇〇と接着剤が違うため、評定委員会から確認試験を要請されたことはあるが、評定委員会は、接着剤の種類を特に問題にしたものではなく、被告アサヒが接着剤の違いまで正しく記載していることから、二種類の試験成績の内容を統一するよう要請したものであり、被告アサヒはこのための確認試験を受けたものである。

二  争点2(被告表示二<1>ないし<9>は誤認惹起表示に当たるか)について

【原告の主張】

1 基材 ガラスクロス 六〇〇℃(被告表示二<1>)

(一) SN一〇〇九、SN一〇一九についての被告表示二<1>は、「基材 ガラスクロス」との記載が付加されているが、他に耐熱温度の表示がない以上、これを見る顧客は、SN一〇〇九、SN一〇一九自体の耐熱温度の表示と理解することは当然である。

SN一〇〇九及びSN一〇一九はたわみ継手材であり、たわみ継手材の耐熱温度は、前記一【原告の主張】2(五)のとおり、基材そのものではなく貼付されたアルミ箔の剥がれる温度を表示すべきであるのに、被告三喜は、このアルミ箔が剥がれる温度は全く表示せず、基材であるガラスクロスの耐熱温度を表示しているのであり、誤認惹起表示に当たる。

(二) また、基材自体の耐熱温度としても、硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めていること(甲A第三八号証)、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材である前田硝子株式会社製のガラスクロスの引張り強度の数値(甲C第七号証)からすれば、六〇〇℃という耐熱温度の表示は不当に高いものといわなければならない。

被告三喜は、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材が前田硝子株式会社製であることを否認するが、右商品の厚みのガラスクロスは同社が独占的に製造販売しているものである。また、仮に、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材が他社製であるとしても、素材がガラスである以上、その性能は基本的には変わらないものである。

(三) 更に、通気度試験によれば、六〇〇℃での通気抵抗がSN一〇〇九は〇・六八(甲C第一七号証)、SN一〇一九は〇・四二(甲C第二〇号証)というように常温時と比べて極端に低下しており、到底六〇〇℃に耐える商品ということはできない。

(四) 被告三喜は、丙第四号証を提出して、SN一〇〇九は平成五年版建設省仕様書に基づく日本建築センターの防災性能評定品としての基準に適合するものである旨主張するが、被告アサヒの場合(前記一【原告の主張】15)と同様、重大な問題を含んでいる。

すなわち、被告三喜が被告広告二1(甲C第一号証)で宣伝してきたSN一〇〇九は、接着剤としてポリエチレンフィルムを使用したものであるにもかかわらず、被告三喜が右評定を受けるための試験体としたSN一〇〇九は、接着剤としてクロロプレン系接着剤を使用したものである。クロロプレン系接着剤は、その成分として炭素を含有しており、ポリエチレンフィルムとは耐熱性能において大きな差がある。被告三喜は、右試験体としたSN一〇〇九がクロロプレン系接着剤を使用したものであることを否認するが、その認定書(甲C第二三号証)には「接着剤・クロロプレン系」と明記されている。

その試験体のガラスクロス自体も、広告二1に掲載されたSN一〇〇九と同一の基材であるという裏付けは全くない。

このように、右試験体たるSN一〇〇九は、原告が本訴で問題としているSN一〇〇九とは全く別商品の、被告三喜が未だ市販していない新商品たるSN一〇〇九に外ならないから、これが平成五年版建設省仕様書に基づく防災性能評定品としての基準に適合するからといって、被告表示二<1>の不当性に何ら影響を与えない。

2 基材 ロックウールクロス 六〇〇℃(被告表示二<2>)

(一) SN一〇一四、SN一〇二四についての被告表示二<2>は、「基材 ロックウールクロス」との記載が付加されているが、他に耐熱温度の表示がない以上、これを見る顧客は、SN一〇一四、SN一〇二四自体の耐熱温度の表示と理解することは当然である。

SN一〇一四及びSN一〇二四はたわみ継手材であり、これについて、アルミ箔が剥がれる温度は全く表示せず、基材であるガラスクロスの耐熱温度を表示しているのが誤認惹起表示に当たることは、右1の被告表示二<1>と同様である。

(二) 基材自体の耐熱温度としても、SN一〇一四、SN一〇二四の基材(スラグテックス)のメーカーである訴外昭和耐熱株式会社が使用最高温度を三〇〇℃と表示しているのであるから(甲C第五号証の1)、六〇〇℃というのは不当に高い。

被告三喜は、SN一〇一四、SN一〇二四の基材は甲C第五号証の1記載のものとは異なり、セラミック成分を添加したSRC六〇〇というロックウールクロスである旨主張する。仮にそうであるとしても、SRC六〇〇の成分を示した表(甲C第一一号証)には、その強熱減量は二三パーセント以下と表示され、「下記規格値は石綿製品JISR三四五〇に準ずる」と付記されているところ、右強熱減量の数値を石綿の規格に照らしてみると(甲C第六号証五〇頁第2・8表)、AA級に該当することが分かり、右AA級の石綿含有率が九〇パーセント以上であることから、使用最高温度が三一五℃である(同号証五一頁第2・9表)ことが分かるものである。

また、SRC六〇〇の耐折れ試験によれば、六〇〇℃ではわずか四回で折れるという結果であった(甲C第一三号証)。

したがって、いずれにしても被告表示二<2>は誤認惹起表示に当たる。

(三) また、通気度試験によれば、六〇〇℃での通気抵抗がSN一〇一四は〇・六〇(甲C第一九号証)、SN一〇二四は一・六三(甲C第二一号証)というように常温時と比べて極端に低下しており、到底六〇〇℃に耐える商品ということはできない。

3 基材 ガラスクロス 五五〇℃(被告表示二<3>)

(一) SN一〇〇三、SN一〇一三についての被告表示二<3>は、「基材 ガラスクロス」との記載が付加されているが、他に耐熱温度の表示がない以上、これを見る顧客は、SN一〇〇三、SN一〇一三自体の耐熱温度の表示と理解することは当然である。

SN一〇〇三、SN一〇一三はたわみ継手材であり、これについて、アルミ箔が剥がれる温度は全く表示せず、基材であるガラスクロスの耐熱温度を表示しているのが誤認惹起表示に当たることは、前記1の被告表示二<1>と同様である。

(二) 基材自体の耐熱温度としても、硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めていること(甲A第三八号証)に照らし、五五〇℃という耐熱温度の表示は不当に高いといわなければならない。現に、SN一〇〇三及びSN一〇一三の基材の製造元であるユニチカユーエムグラス株式会社は、被告三喜に対し、右基材である三五九ADの耐熱温度は二〇〇℃であるとして、耐熱温度五五〇℃の表示を是正するよう通告している(甲C第三号証)。被告三喜は、SN一〇〇三の基材の製造元はユニチカユーエムグラス株式会社ではない旨主張するが、そうであればユニチカユーエムグラス株式会社が被告三喜に対し右のような通告をするはずがない。原告は、ユニチカユーエムグラス株式会社にSN一〇〇三のサンプルを持参してその確認を求めたものであり、そのうえで右通告がされたのである。

(三) 被告三喜は、アルミ箔が二〇〇℃で基材のガラスクロスから剥がれることは業者間のいわば常識に属することであるからこれを表示する必要はないと主張するようであるが、これが常識であれば、ユニチカユーエムグラス株式会社が被告三喜に対して右(二)のような通告をするはずがない。

(四) 通気度試験によれば、五五〇℃での通気抵抗がSN一〇〇三は〇・五〇(甲C第一六号証)、SN一〇一三は〇・八七(甲C第一八号証)というように常温時と比べて極端に低下しており、到底五五〇℃に耐える商品ということはできない。

4 基材 ガラスクロス 三〇〇℃(被告表示二<4>)

(一) SN一二一〇についての被告表示二<4>は、「基材 ガラスクロス」との記載が付加されているが、他に耐熱温度の表示がない以上、これを見る顧客は、SN一二一〇自体の耐熱温度の表示と理解することは当然である。

SN一二一〇はたわみ継手材であり、たわみ継手材の耐熱温度は、基材そのものではなく、表面に塗布された塩ビ樹脂の機能が失われる温度を表示すべきであるのに、被告三喜は、塩ビ樹脂の耐熱温度は全く表示せず、基材であるガラスクロスの耐熱温度を表示しているのであり、誤認惹起表示に当たる。

(二) 基材自体の耐熱温度としても、硝子繊維協会がガラスクロスの最高使用温度を二三〇℃と定めていること(甲A第三八号証)に照らし、三〇〇℃という耐熱温度の表示は不当に高いといわなければならない。現に、SN一二一〇の基材の製造元であるユニチカユーエムグラス株式会社は、被告三喜に対し、右基材である八〇七CKの耐熱温度は八〇℃であるとして、耐熱温度三〇〇℃の表示を是正するよう通告している(甲C第三号証)。

被告三喜は、表面の化粧塩化ビニルの耐熱温度が八〇℃であることは業者間のいわば常識に属することであるからこれをサンプル帳に表示する必要はないと主張するが、これが常識であれば、ユニチカユーエムグラス株式会社が被告三喜に対して右(二)のような通告をするはずがない。

(三) SN一二一〇の通気度試験によれば、三〇〇℃での通気抵抗が一・八〇であり(甲C第二二号証)、常温時と比べて極端に低下しており、到底三〇〇℃に耐える商品ということはできない。

5 不燃 シルバーガラスクロス(被告表示二<5>)

「不燃」の用語は、一定の不燃認定を受けていることを念頭において建設業界で使用されるのが一般であるが、SN一二一〇の素材は、建設省の不燃認定を取得していないことはもちろん、それ以外にもSN一二一〇を「不燃」とする根拠になる資料は一切ないから、被告表示二<5>は誤認惹起表示に当たる。

SN一二一〇は、被告広告二1からもそれ以外の被告三喜製品より耐熱性能の劣ることが推認されるにもかかわらず、SN一二一〇にのみことさら「不燃」の表示を付しているのであり、極めて便宜的といわなければならない。

6 建設省不燃認定 不燃(個)一四四五号(被告表示二<6>)

SN一二一〇は、ダクト材として建設省の不燃認定を受けておらず、不燃商品と呼ぶことはできないから、被告表示二<6>は誤認惹起表示に当たる。

その他、不燃認定番号を表示することの不当性については、前記一【原告の主張】7の主張と同旨である。

7 「不燃性」、「不燃シール」(被告表示二<7><8>)

(一) PK一一五、PK二〇〇、PK二〇一、PK二〇二及びPK九七は、いずれも建設省の不燃認定を取得していないことはもちろん、それ以外にも右各商品を「不燃」とする根拠になる資料は一切ない。

(二) 被告三喜は、右各商品がいずれも直火に付けても燃焼しない耐性があるから「不燃」と表示した旨主張するが、直火に付けるという概念自体が甚だあいまいなものであり、どの程度の時間、どの程度の距離で火にさらすのか全く特定されていない状況で、漠然と直火につけても燃えないといっても、ほとんど無意味というべきである。短時間直火にさらすのみであれば、紙等の例外を除けば大半のものは燃えないのであり、木材ですら「不燃」ということになってしまう。

(三) 被告三喜は、PK九七については基材の製造メーカーである古河電気工業株式会社が準不燃認定を取得している旨主張するが、後記8のとおり同社のフネンエースは鉄板を貼った商品として準不燃認定を取得しているのであり、古河電気工業株式会社自身、PK九七のような単体の商品に「不燃」と表示することは不適切としている(甲A第一二号証)。

8 建設大臣認定 準不燃第二〇二五号(被告表示二<9>)

準不燃第二〇二五号は、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」と指定して、しかも鉄板を貼った状態で取得された準不燃認定番号であるから、フランジガスケット材で、金属板を貼り合わされていないPK九七に右準不燃認定番号を記載した被告表示二<9>は誤認惹起表示に当たる(前記一【原告の主張】7参照)。

【被告三喜の主張】

1 基材 ガラスクロス 六〇〇℃(被告表示二<1>)

(一) 被告表示二<1>については、SN一〇〇九、SN一〇一九の基材の製造メーカーから、右表示に問題はない旨の回答を得ている。

(二) 原告は、SN一〇〇九、SN一〇一九の基材は前田硝子株式会社製のガラスクロスであると主張するが、事実に反する。その基材の仕入先を明らかにすることは可能ではあるが、原告の調査活動により仕入先に多大な迷惑を及ぼすおそれがあるので、明らかにできない。

(三) 原告が被告表示二<1>が誤認惹起表示であることの根拠とする通気度試験は、前記一【被告アサヒの主張】2(四)、13(一)(2)<2>のとおり、原告独自のものにすぎない。

(四) SN一〇〇九は、平成五年版建設省仕様書及び東京都機械設備工事標準仕様書におけるたわみ継手の品質基準である財団法人日本建築センターの防災性能評定品としての基準に適合するものである(丙第四号証・財団法人建材試験センターの試験成績書)。同試験成績書では、日本建築センターの防災性能評定委員会が定めた耐熱振動試験において有害な破れや亀裂が発生しなかった、とされている。

原告は、右の試験体は、被告広告二1で宣伝してきたSN一〇〇九とは異なり、接着剤としてクロロプレン系接着剤を使用したものである旨主張するが、このような事実を裏付ける証拠は全くない。

2 基材 ロックウールクロス 六〇〇℃(被告表示二<2>)

(一) SN一〇一四、SN一〇二四の基材は、昭和耐熱株式会社製のスラグテックスではあるが、甲C第五号証の1記載のものとは異なり、セラミック成分を添加した耐熱温度六〇〇℃のSRC六〇〇というロックウールクロスであって、同社から右の表示が正しい旨の回答を得ている。

(二) 原告が被告表示二<2>が誤認惹起表示であることの根拠とする耐折れ試験及び通気度試験は、原告独自のものにすぎない。

3 基材 ガラスクロス 五五〇℃(被告表示二<3>)

(一) 被告表示二<3>についても、SN一〇〇三、SN一〇一三の基材の製造メーカーから、右表示に何ら問題はない旨の回答を得ている。

原告は、たわみ継手の耐熱温度の表示について、基材そのものではなく、貼付されたアルミ箔の剥がれる温度を表示すべきである旨主張するが、防火ダンパーの存在を前提とすれば、一般空調用たわみ継手に対し三〇〇℃以上の熱的影響はないから、耐熱温度としてアルミ箔の剥がれる温度を表示すべき実際的必要性は全くない(前記一【原告の主張】12(二)後段参照)。

(二) SN一〇〇三、SN一〇一三の基材の製造メーカーは、ユニチカユーエムグラス株式会社ではなく、他のガラスクロスメーカーである(前記1(二)と同様の理由により、その仕入先を明らかにすることはできない。)。

(三) アルミ箔が原告主張の二〇〇℃で基材のガラスクロスから剥がれることは業者間のいわば常識に属することである。

(四) 原告主張の通気度試験については、前記1(三)のとおりである。

4 基材 ガラスクロス 三〇〇℃(被告表示二<4>)

(一) 被告三喜は、SN一二一〇の基材の製造元であるユニチカユーエムグラス株式会社から、基材の耐熱温度を三〇〇℃と表示することに何ら問題がない旨の回答を得ている。

(二) 表面の化粧塩化ビニルの耐熱温度が八〇℃であることは業者間のいわば常識に属することであるから、右温度をサンプル帳に表示する必要はなく、これをもって製品の耐熱温度とすべき合理的理由もない。

(三) 原告主張の通気度試験については、前記1(三)のとおりである。

5 不燃 シルバーガラスクロス(被告表示二<5>)

ダクト材の不燃性については、平成五年に建設省仕様書が改定されるまでは、公的機関による性能評定の制度はなかったものである(前記一【被告アサヒの主張】13参照)。

SN一二一〇についての被告表示二<5>は、「建設省認定の不燃」という内容ではなく、公的な試験制度が制定される以前における、「燃焼しづらい」という一種のキャッチフレーズ的なものにすぎないうえ、顧客層がこの点に関してある程度の知識を有する専門業者であることをも考慮すれば、不当に顧客の需要を誘引する効果を有するものではない。被告表示二<5>が何百度になっても燃えないなどという科学的性能を表示するものでないことはその表示自体から明らかであり、これまで販売先から一件のクレームも起きていない。

6 建設省不燃認定 不燃(個)一四四五号(被告表示一<6>)

ダクト材としての不燃基準あるいは不燃性基準などそもそも存在しない。

その他、不燃認定番号の表示の正当性については、前記一【被告アサヒの主張】7の主張と同旨である。

7 「不燃性」、「不燃シール」(被告表示二<7><8>)

フランジガスケット材としての不燃基準あるい不燃性基準など、そもそも存在しない。被告三喜は、PK一一五、PK二〇〇、PK二〇一、PK二〇二、PK九七がいずれも直火に付けても燃焼しない耐性があるので、「不燃」と表示したものである。

また、PK九七については、後記8のとおり基材の製造メーカーである古河電気工業株式会社が準不燃認定を取得している。

その他は、右5記載のとおりである。

8 建設大臣認定 準不燃第二〇二五号(被告表示二<9>)

PK九七は、その基材の製造メーカーである古河電気工業株式会社が、建築材としての商品名を「フネンエース」と命名し、建設大臣から昭和六〇年一一月二八日に準不燃第二〇二五号の認定を受けているものである。

三  争点(被告表示一又は被告表示二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、被告アサヒ製品又は被告三喜製品の販売の差止めを求めることができるか)について

【原告の主張】

1 原告の営業上の利益の侵害

原告は、被告らの誤認惹起表示により、営業上の利益を侵害されているから、差止請求権を有するものである。

(一) 原告製品は、ダクト材としての適合性を十分備えたものであり、同一レベルの製品では被告らの製品よりも耐熱温度が高く、運輸省の不燃認定を受けた素材を使用しているので、被告らの製品より品質が優れている。この運輸省の不燃認定は、たわみ継手材等として販売している商品の基材そのものについての認定であり、被告らの製品の基材について鉄板を貼った状態で屋根材として取得された不燃認定とは全く意味が異なるものである。

原告製品と被告アサヒ製品及び被告三喜製品との競合関係は、別紙「対応表」のとおりである。

(二) 石綿製品の禁止は平成元年三月一日から実施されたものであるが、その禁止の通達は昭和六三年月頃までに原告、被告等の業者に伝えられた。原告、被告等の業者は、その前後から一斉に石綿以外の製品に切り替えたが、その際、被告ら並びにアズミ建材株式会社及び渡辺工業株式会社がパンフレット等において被告表示一、二等、商品の品質、性質を大幅に偽る表示をした結果、顧客は、右の虚偽の表示に欺かれ、取引対象を原告製品から被告ら又はアズミ建材株式会社若しくは渡辺工業株式会社の製品に切り替えるという事態が発生し、その現象は昭和六三年春から顕著となり、以後原告の売上実績は減少の一途をたどった。かかる事態について、原告には何ら原因がなく、すべて被告らの誤認惹起表示に基づくものである。すなわち、たわみ継手材及びフランジガスケット材においては、耐熱温度が生命ともいうべきものであり、これを大幅に偽って高温の表示をすれば、顧客はそちらを選択することになるし、また、ありもしないたわみ継手材及びフランジガスケット材についての不燃認定をあたかも正規のもののように表示すれば、顧客はそれを大いに重視することになる。

2 商品の販売自体の差止め

原告は、本訴において、各誤認惹起表示の差止めのみならず、被告らの製品の販売の差止めをも求めるものである。

(一) ダクト用品から石綿が追放されて以降、各業者は非アスベスト製品への転換を図ったが、特に耐熱性の点で著しく品質の劣悪な製品が出回る事態となった。この結果、ひとたびビル火災が発生すると、排煙ダクトの継ぎ目部分が先に高熱で破壊され、火災がビル全体に広がるという現象が各地で指摘されるところとなっている(甲A第一三号証)。

被告らの製品は、いずれも耐熱機能が極めて低く、わずかの温度で容易に破壊されるものであり、ダクト材として必要な品質を備えていない。にもかかわらず、被告らは、被告広告一1ないし6又は被告広告二1ないし3にわざわざ誤った表示(被告表示一又は被告表示二)を記載してこれらをあたかもダクト材としての適合品であるかのように販売しているのであり、その不当性は甚だしい。

(二) 右のような状況においては、単にパンフレット類(被告広告一1ないし6又は被告広告二1ないし3)における誤認惹起表示が正されたとしても、被告らは、依然として被告らの製品をダクト材としての適合品として販売するおそれが強いから、製品の販売自体が差し止められなければ目的が達せられないことになる。

原告が、本件で問題にしているパンフレット類は、既に各取引先に大量に出回っており、今後使用されるパンフレット類についてのみ表示が改められても、被告らの従前の取引先とは今後も誤認惹起表示を記したままの従前のパンフレット類による取引が続くのであるから、このことを考えても商品の販売自体の差止めが必要になる。

【被告アサヒの主張】

1 原告の営業上の利益の侵害

原告は、被告アサヒによる被告表示一によって営業上の利益を侵害される余地はない(詳細は後記五【被告アサヒの主張】記載のとおり)。

2 商品の販売自体の差止め

原告は、本訴において、被告表示一の差止めのみならず、被告アサヒ製品の販売の差止めをも求める理由として、被告アサヒ製品はいずれも耐熱機能が極めて低く、わずかの温度で容易に破壊されるものであり、ダクト材として必要な品質を備えていないと主張するが、原告の主張は思い上りも甚だしいといわなければならない。

被告アサヒ製品は、すべて建設省あるいは官公庁等の使用基準に適合し、品質自体についても高い評価を受け、平成五年版建設省仕様書に基づき初めて実施された性能評定試験にも極めて優秀な成績で合格している。前記一【被告アサヒの主張】13(二)記載のとおり、原告自身、これまで危険なものと主張していたガラス繊維によるたわみ継手材を販売する旨の商品広告をし、その販売を開始するに至っているのである。

また、被告アサヒ製品の商品自体には何の表示もないことは当事者間に争いがないから、商品の販売自体の差止請求が認められる余地はない。

【被告三喜の主張】

仮に被告広告二1ないし3に虚偽あるいは誤った点があるとしても、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づく請求は、それらサンプル表や見本帳を使用してはならない、あるいは当該記載部分を抹消せよ、との請求が上限であって、各商品の販売自体の差止めを求めることはできない。

被告三喜製品は、その商品自体には原告指摘の被告表示二が記載されていないことは明白であり、請求の趣旨自体に問題がある。

また、請求の趣旨につき、商品の「販売」に重点があるわけではなくそのパンフレット、カタログ等に「表示」をすることにある、との拡大解釈をしたうえで、「商品を販売するにつき…パンフレット、カタログ等に各表示をしてはならない。」との請求を含むとすることもできない。原告は、あくまで、被告表示二を表示して各商品を「販売」することの差止請求をしているのであって、パンフレット、カタログ等への表示の削除のみを求めているわけでないことは明白であるし、「販売差止請求」と「表示禁止請求」とは別個の訴訟物である。

なお、原告は、従前ガラス繊維系のダクト材は危険なものであるとし、このことを被告らの製品の販売の差止めを求める根拠としておきながら(前記【原告の主張】2)、平成六年八月三日付「空調タイムス」(丙第五号証)によれば、自らガラス繊維系の製品を製造販売しているのであり、矛盾している。

四  争点4(被告アサヒは被告表示一の使用を、被告三喜は被告表示二の使用をそれぞれ廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか)について

【原告の主張】

1 被告らは、被告表示一、二を既に変更したとして、「空調タイムス」への広告(乙第三四号証、丙第八号証)及び訂正後のパンフレット(但し、被告アサヒにつき乙第三二、第三三号証、第三五ないし第三八号証等)を提出しているが、問題は、右広告あるいは訂正後のパンフレットによって、被告表示一、二の使用を完全に中止したとみることができるかどうかであり、具体的には、従前のパンフレット等(被告広告一1ないし6、被告広告二1ないし3)の配布先からの回収などの方法によって、被告表示一、二の影響が完全に失われているかどうか、右「空調タイムス」の広告の内容及びその影響の程度いかん、訂正後のパンフレットの配布状況が従前のパンフレット等の影響を失わせるような形態であるかどうか、である。

右の各点についての被告らの対応は、以下のとおり、被告表示一、二の使用を中止したというには程遠いものである。

(一) 被告らは、従前のパンフレット等(被告広告一1ないし6、被告広告二1ないし3)をほとんど回収していない。

(1) 原告は、被告らの製品を現時点でも購入し続けているダクト関係業者に対し、手紙で照会をし(甲A第四六号証の1~3)、その回答を受けた(甲A第四七ないし第四九号証の各1・2)。これらは、裁判の資料と説明したうえで回答を求めたものであるため、集約できる事例に一定の制約があるが、それ故にその内容は十分客観性を備えている。

右照会における、従前のパンフレットについて(株)アサヒ産業・三喜工業(株)…が回収手続をしているか、との質問に対しては、回収はないのでそのままにしている(甲A第四七号証の1)、回収はない(甲A第四八号証の1)、回収及び廃棄処分等の通知は全くない(甲A第四九号証の1)との回答であり、以前に送付されてきたパンフレットのその後の使用状況についての質問に対しては、「代理店の営業マンが入替する迄そのまま使用する」(甲A第四七号証の1)、「メーカーより新カタログの送付なり指示のないかぎり、お得意様には従来のカタログ…製品を販売いたします。」(甲A第四八号証の1)、「メーカーよりなんの通達もない為、お得意様には説明のしようがなく上記の製品の販売を続けます。」(甲A第四九号証の1)との回答であり、更に、被告らの訂正後のパンフレットの送付状況についての質問に対しては、新しいパンフレットの配布はない(甲A第四七号証の1)、新カタログなど送付されてこない(甲A第四八号証の1)、新しいカタログ及び見本帳など送ってこないし、見たことはない(甲A第四九号証の1)との回答である。

このように、被告らの従前のパンフレット等について回収や廃棄の処置が取られた形跡はなく、業界では現時点でも従前のパンフレット等に基づいて被告らの製品が取引され続けている。

(2) 現在工事が続けられている現場について原告が入手した施工計画書類(甲A第五〇、第五一号証)には、被告アサヒの従前のパンフレット等が一件資料として添付使用されている。

すなわち、神戸ハーバーランド情報・文化ビル新築工事の施工要領書(甲A第五〇号証)の三枚目に被告アサヒのAS一二三の採用が明記され、その耐熱温度が明記されたパンフレット(被告広告一6・甲B第一五号証の2)が添付されている。関西労災病院病棟空調工事の施工計画書(甲A第五一号証)は、平成七年六月一日時点の書類であり、末尾に被告アサヒの従前のパンフレット(被告広告一4)の写しが添付されている。

このように、被告らは、本件裁判手続の場ではあたかも原告の指摘を受け入れているかのような対応をしながら、現実の商取引の場では被告表示一、二を最大限に利用し続けているのである。

(3) 被告三喜は、同被告の顧客層はすべて材料について一定程度以上の知識を有する専門業者であるから不当に需要を誘引するというようなことない旨主張する。

しかし、被告三喜は、キャンバス加工品定価表(甲C第二四号証)において、キャンバス(たわみ継手)について、材質として「ビニロン、防炎」「ガラス、耐火・防炎」「ポリエステル、防炎」あるいは「ガラス、不燃」などと表示し、依然として顧客を惑わす宣伝を行っている。すなわち、平成五年版建設省仕様書の細則として新たに規定された平成五年版機械設備工事施工監理指針(甲A第四五号証四三七頁)によれば、たわみ継手の素材についてクロスの片面にアルミニウム箔等を貼ることと規定されており、漫然と「防炎」「不燃」などというのではこの規定に合致しないことが明らかであるにもかかわらず、被告三喜の顧客層は、結局右監理指針の規制を正しく認識していないため、右のような表示でもさほど問題とせずに取引しているのが実態であり、被告三喜のいう専門業者の知識とはこの程度のものである。

このような顧客層に対し、漫然と誤認惹起表示を記載した従前のパンフレット等を回収せずに放置したのでは、その影響が継続することは極めて明白である。

(二) 被告らは、業界紙「空調タイムス」への広告掲載(乙第三四号証、丙第八号証)をによって被告表示一、二の影響がすべて解消し、問題が一切解決された旨主張するかのようであるが、何の根拠もない。

(1) 何よりも問題なのは、右広告の記載内容が、被告表示一、二の不当性及びその訂正、削除を個別、具体的に表現したものとはなっておらず、被告表示一、二と結びつかないため、これを見ただけでは従前のパンフレット等における被告表示一、二を変更するものと受け取る者が皆無であることである。

被告らが、真実被告表示一、二の変更、訂正を広告するというのであれば、各商品名を明示し、商品ごとにどの表示が誤りでどのように訂正するのかを具体的に表現するのが当然であり、右「空調タイムス」の広告のような一般的文章を掲載しても、被告表示一、二を変更、減殺する効果は全くない。

(2) のみならず、「空調タイムス」は、空調機器業界のみに頒布されている業界紙にすぎず、被告表示一、二の影響が想定される対象者のごく一部の者が目にするだけであって、現実に建築工事でフランジガスケット等を扱う工事業者、設計士、基材販売業者、工事を発注する地方自治体などには何の影響も及ぼさないから、このような広告の掲載は本件の解決にはほとんど無力である。現に、前記照会における質問に対し「見た事は無い 空調タイムスはダクト業社は殆ど購入していない」(甲A第四七号証の1)、「空調タイムスはとっておりません。」(甲A第四九号証の1)と回答されているところである。

また、「空調タイムス」を講読している者についても、このような一般的な表現の、かつ一回限りの広告の掲載はほとんど関心を呼ばない。

前記照会における質問に対する回答に、「空調タイムスは講読しているが」被告ら主張の広告は「見なかった」(甲A第四八号証の1)とあるとおりである。

被告らが被告表示一、二の影響を払拭することを考えるのであれば、従前のパンフレット等(被告広告一1ないし6、被告広告二1ないし3)の回収を徹底して行うのが筋であり、これが確実に実施されていれば、このような無駄な広告をする必要は全くない。右広告には、「既に発行済のカタログ、サンプル表等に耐熱温度、主目的以外の不燃認定番号等、公的試験外の耐熱性能等の表記のあるものはお手数ですがすべて廃棄して下さい」と記載されているが、被告らは、既に配布した従前のパンフレット等の回収について、具体的な手立ては全くとろうとしていないのである。

(三) 被告アサヒは、訂正後のパンフレットをほとんど配付しておらず、その表示内容は相変わらず不当であるし、被告三喜は、新しいパンフレットの作成自体を行っていない。

(1) まず何よりも、従前のパンフレット等(被告広告一1ないし6、被告広告二1ないし3)を配布したすべての相手に対して、従前のパンフレット等の廃止を説明したうえでそれを回収し、訂正後のパンフレットを配布することが必要である。

しかし、被告アサヒは、本件訴訟手続においてこそ訂正後のパンフレットを提出しているが、取引業者にはほとんど配布していない(前記(一)の照会における質問に対する回答のとおりである。)。被告アサヒは、既に配布済みの従前のパンフレット等を最大限に活用しようとして、訂正後のパンフレットの配布を極力控えていることは明白であり、せいぜい全く新規に取引を始める相手などに限って使用しているのがその実態である。

(2) また、被告アサヒの訂正後のパンフレットをみても、例えば、乙第三三号証の代わりに作成されている甲B第五一号証のパンフレットでは、AS八七について「不燃性に準じた性能を有する」とのあいまいな表現をし、乙第三八号証の製品仕様書では、通常のガラス製品と変わらないAS三〇〇について、依然として「シリカ処理」などと表示して顧客を欺こうとしており、不当な表示を継続している。

(3) 被告三喜は、新しいパンフレットでは表示を訂正したと主張しながら、その訂正後のパンフレットを書証として提出していないのであって、何の根拠もない主張であることが明らかである。

また、被告三喜は、「一九九五年七月現在」と明記された最新のパンフレット(甲C第二五号証)でも、PK一一二、PK一一四について、「建設省告示一八二八号に規定する不燃材料の表面試験に合格」と表示して、いずれもその素材に鉄板を貼り合わせた状態で試験を受けたものである(甲C第二六、第二七号証)のに、鉄板を貼り合わされていない右各製品に「合格」と表示するという、被告表示二<6><9>と同質の誤認惹起表示を行っている。

「不燃 シルバーガラスクロス」との表示(被告表示二<6>)は「フネンシルバーガラスクロス」に訂正したとも主張するが、不燃製品でもないのにかかる表示をすることは、以前の誤認惹起表示と性質を異にしない。

2 被告らは誤認惹起表示を行わない旨弁明するが、信用できるものではない。

(一) 被告らは、本件訴訟の審理の中で、被告表示一、二が誤認惹起表示に当たることについて一貫してこれを争い、いずれも問題のない表示であると弁解し続けてきたのであり、訴訟の最終段階になって、手のひらを返したように今後は被告表示一、二のような表示は行わない旨主張したところで、全く信用できない。

被告らは、原告が本件と同時に提訴した大阪地方裁判所平成三年(ワ)第三六六九号事件(以下「別件訴訟」という。)において、被告らの同業者であるアズミ建材株式会社及び渡辺工業株式会社に対し誤認惹起表示の中止を命じる判決がされたことから、同旨の判決がされるのを避けようとして一定の画策をしているものに外ならず、被告表示一、二の不当性を真実認識したうえでその廃止を表明しているわけではない。

(二) 被告らは、従前のパンフレット等による注文を受け続けるという形態で、現在も誤認惹起表示を続けていることが明らかである。

すなわち、平成七年三月に施工要領書(甲A第五二号証)が作成され、現に工事が進行中の「岩崎ガスビル新築工事」において、フランジガスケット材については被告三喜のPK九七、PK二〇二が、たわみ継手材については被告アサヒのAS一二三が採用されているところ(甲A第五二号証、第五三号証の1・2)、その採用に当たっては、被告らの製品に表示された準不燃認定番号や耐熱温度が大きく作用したこと、被告らの「空調タイムス」への広告は具体的商品名が記載されていないことからその趣旨が判然としないとして何の影響も与えなかったことが明らかである(甲A第五三号証の1)。

また、「大阪市中央卸売市場本場市場棟第一期工事」において、平成七年一〇月五日時点のダクト工事施工要領書(甲A第五四号証)では原告製品の採用が予定されていたのに、同年一一月二二日時点になって被告アサヒのAS八七に変更されたところ(甲A第五五号証、第五六号証の1)、右変更についても、AS八七の力タログに記載された不燃認定番号の表示が大きく影響したことが明らかである(甲A第五六号証の1)。

原告は別件訴訟の確定判決も説明して、各建築業者、ダクト業者に被告表示一、二の不当性を説明してはいるものの、被告らは、右判決は本件には無関係である旨説明して建築業者らへの売込みを続けている。

3 以上のように、被告らは、現在も被告表示一、二の誤認惹起表示の使用を継続していることが明らかであるから、原告は、侵害の停止を求める。

仮に現時点において被告らが右誤認惹起表示の使用を停止しているとみる余地があるとしても、被告らは裁判対策として便宜的に誤認惹起表示の変更を表明しているものにすぎず、表示らが将来再びこのような誤認惹起表示をするおそれが強いから、予備的に侵害の予防を求める(平成七年一一月一四日付準備書面第二の七)。

【被告アサヒの主張】

1 これまで、ダクト材の耐熱性などについては、公的試験方法が全く確立されていなかったため、その耐熱性などの表示は、各部材メーカーの自社試験に基づき、各ダクトメーカーが表示していた。このため、各ダクトメーカーの表記が統一されず、混乱あるいは疑義のある表示があったことは事実である。

被告アサヒは、以前から商品表記の一部を削除し、できる限り正確な表示に努めてきたが、平成五年版建設省仕様書に基づく性能評定試験が実施されたことにより、事態は一変した。右性能評定試験の実施により、各ダクトメーカーとしては最も信頼に値する耐熱性などの表記方法が得られるし、また、これを機に、建設省から各ダクトメーカーに対し、その表記を統一すべく、耐熱温度の表記を廃止すること、その目的に沿った公的試験方法とその結果を表記すること、認定外品の「不燃材」ないし「不燃」の表記を廃止することを内容とする指導がされたからである。

そこで、被告アサヒは、建設省から種々の指導を受け、今後の商品表記方法として、たわみ継手材については、排煙機用たわみ継手の防災性能評価試験方法が確立しているので、その中からの引用にとどめ、機械的強度などは建設省仕様書に記載されている方法で行ったもののみを表示することとし、フランジガスケット材についてはまだ建設省において公的試験方法の最終的な検討を行っている段階であるため、耐熱(熱的)性能に関する表記は試験方法が確立するまで一切行わないこととした。そして、被告アサヒは、この旨を、被告三喜と共同で、発行部数五万部に及ぶ業界最有力紙である「空調タイムス」(空調機器メーカー、ダクト業者、総合設備業者、設計事務所、官公庁などに幅広く頒布されている。)平成七年七月一九日号に末尾添付のとおりの「カタログ類の性能表示変更のお知らせ」と題する広告(乙第三四号証)として掲載し、今後の性能の表示について、近時の建設省の指導等を背景にこれを訂正することを宣言するとともに、建設省の指導のもと、多額の費用をかけて商品カタログの改訂の努力を続け、新しくできたカタログ(乙第三二、第三三号証、第三五ないし第三八号証等)をすべての取引先に頒布しており、これ以前に作成されたカタログは現在頒布しておらず、そのほとんどを回収した。

その結果、被告表示一について、現在の状況は以下のとおりである。

(一) 被告表示一<1><2>(AS三〇〇)

AS三〇〇のカタログは現在なく、製品仕様書(乙第三八号証)があるのみであるが、商品名を「シリカ処理クロス」と表示しており、耐熱温度などの表示は一切していない。

(二) 被告表示一<4>(AS一〇〇〇)

現在耐熱温度の表示は一切行っていない(乙第三二号証・平成六年九月付商品カタログ)。

(三) 被告表示一<9>(AS二〇〇〇)

JISR三四一四の表記は既に削除している(乙第三二号証)。

(四) 被告表示一<11>(AS二六、AS二七)、被告表示一<13>(AS八七)

AS二七について、準不燃第二〇二五号の表示は現在全く使用していなし(乙第三五号証・平成六年八月付商品カタログ)、今後も一切使用しない。AS二六は、AS二七(厚み八mm)と厚みのみが違うもの(四mm)であるが、現在カタログを全く発行していない。

AS八七について、不燃(個)一七一六号の表示は、かなり以前から削除しているし、今後もするつもりはない(乙第三六号証)。

被告アサヒは、主目的以外の(準)不燃認定番号を表示することの廃止を前記「空調タイムス」で宣言している。

(五) 被告表示一<12>(AS八五)

強熱減量の表記は削除した(乙第三六号証・平成七年七月付カタログ)。

(六) 被告表示一<14><15><19>(AS六五、AS六六、AS二一〇)

カタログ自体を廃止し、今後発行する予定もない。

(七) 被告表示一<17>(AS一二〇、AS一二三)

AS一二〇のカタログは現在存しない。AS一二三については耐熱温度の表示は一切していない(乙第三二号証、乙第三三号証・平成六年七月付カタログ、乙第三七号証・平成七年四月付カタログ)。

以上のとおり、被告アサヒは現時点で既に、原告の指摘する従前のパンフレット等の頒布を中止しているし、今後被告表示一と同様の表示をしない旨を業界最有力紙掲載の広告で宣言することまでしている以上、これに反する表示などするはずがないから、侵害停止請求、侵害予防請求の対象となるべきものは全く存在しない。

2(一) 被告アサヒの従前のパンフレット等の回収、廃棄の処置がとられていないことの証拠として原告の提出するダクト関係業者の回答書(甲A第四七ないし第四九号証の各1・2)は、原告が文案を作成したものであることが明らかであるうえ、これらの業者は、被告アサヒないしその代理店とは取引がない。

(二) 原告は、被告アサヒの従前のパンフレット等が現在も使用されているとして、甲A第五〇、第五一号証の施工計画書を援用するが、平成七年春完工した神戸ハーバーランド情報・文化ビル新築工事の設計等は六、七年前から行われており(甲A第五〇号証三枚目には「石綿布」の記載まである。)、当然、当時のサンプル帳をもとに決定したものであり、一度決定したものは完工まで使用されるから、これが施工書に添付されているのであり、平成六年五月頃より開始された関西労災病院病棟空調工事の設計も、遅くとも五、六年前から行われており、仕様は当然当時のものとなっているのである。

建設省あるいは東京都、大阪府などの設備工事仕様書は、何年かごとに変更されるものであり、一方、建築は設計段階から完工までに数年を要するから、その途中で設備工事仕様書が変更されることは当然ありうるが、だからといって新仕様に従うことは不可能なことであり、設計当時の仕様に従えば足りるものとされている(なお、甲A第五一号証四枚目の「排煙用は(財)日本建築センターの防災性能評定品とする。」との記載は後に追記されたものであり、しかも、このような追記があっても旧仕様のまま施工することでも足りるとされている。)。

(三) 原告が問題にする甲B第五一号証におけるAS八七についての「不燃性に準じた性能を有する」との表示は、建設省も認めているものである。

【被告三喜の主張】

1 被告三喜は、原告が問題にしている被告広告二1(甲C第一号証)、被告広告二2(甲C第八号証)の頒布を中止し、その在庫も有しておらず、被告広告二3についてはその掲載商品であるPK九七の販売自体を中止している。

その結果、被告表示二について、現在のパンフレットにおける状況は以下のとおりである。

(一) 被告表示二<1>(SN一〇〇九、SN一〇一九)

SN一〇〇九は温度表示を中止しており、SN一〇一九は販売自体を中止し、パンフレットから除外している。

(二) 被告表示二<2>(SN一〇一四、SN一〇二四)

商品自体、在庫がなく、材料仕入れを停止しており、今後販売する予定もない(右各商品は、外観が石綿に類似しているためか、需要がない。)。

(三) 被告表示二<3>(SN一〇〇三、SN一〇一三)

平成六年七月以降作成のサンプル表において、SN一〇〇三は温度表示を中止しており(なお、財団法人建材試験センターによる昭和四五年建設省告示第一八二八号第三に規定する表面試験に合格している〔丙第七号証〕。)、SN一〇一三は販売を中止したため除外している。

(四) 被告表示二<4><5><6>(SN一二一〇)

平成六年七月作成のパンフレットにおいて、耐熱温度の表示及び建設省不燃認定番号の表示をしていない。また、従前の「不燃 シルバーガラスクロス」との表示は、「フネンシルバーガラスクロス」に訂正している。

(五) 被告表示二<7><8><9>(PK一一五、PK二〇〇、PK二〇一、PK二〇二、PK九七)

商品の販売自体を中止し、パンフレットから除外している。

したがって、原告の差止請求(侵害停止請求)は理由がない。

2(一) 原告は、従前被告三喜が使用してきたパンフレット等が未回収であるため、その効果が事実上長期間継続する旨主張するが、そもそも被告三喜の顧客層は、すべて材料について一定程度以上の知識を有する専門業者であるから、不当に需要を誘引するというようなことはない。

のみならず、被告三喜は、顧客の手元に残存する従前のパンフレット等に基づく誤認惹起の可能性にも配慮し、その表示方法の改正を公に告知する措置をとっている。すなわち、被告三喜は、被告アサヒと共同で、業界最有力紙である「空調タイムス」平成七年七月一九日号に、「カタログ類の性能表示変更のお知らせ」と題する広告を掲載し、今後の各商品の性能表示に関して、近時の建設省の指導等を背景にこれを訂正することを宣言している(丙第八号証)。被告らがこのような意見広告をわざわざ費用をかけて掲載するということ自体、カタログ、パンフレットにおける商品の性能表示についてその正確性、妥当性を追求していくことの強い意思表明に外ならず、被告らが現時点で誤認惹起の可能性のある表示を中止したこと、今後もそのような表示を行う可能性のないことを強く推定させるものである。

(二) 原告は、被告らの従前のパンフレット等の回収状況についてのダクト材関係業者の回答書(甲A第四七ないし第四九号証の各1・2)を提出するが、被告三喜は、これらを作成したダクト関係業者とは何ら直接の取引はない。

(三) 被告三喜が訂正後のパンフレットを書証として提出していないのは、前記「空調タイムス」の広告にも記載したとおり、フランジガスケット材については、現在公的機関において認定に関する試験方法等の最終検討がされており、近日中に結果が公表される予定であるので、その結果に則ったパンフレット、カタログを新規に作成するべく準備中であるからであり、被告表示二の訂正を行う意思のないことを示すものでは決してない。

(四) 被告三喜の最新のパンフレット(甲C第二五号証)において、PK一一二、PK一一四について「建設省告示一八二八号に規定する不燃材料の表面試験に合格」と表示したその不燃材料の認定は、確かに亜鉛メッキ鋼板を粘着剤で貼付したものについてなされたものであるが、被告三喜は、該当部分の括弧書において「粘着剤の付いたもの」と記載していることからも明らかなように、亜鉛メッキ鋼板を貼付したものであることを追加記載すべきところを単純に誤記したものにすぎない。このパンフレットは、平成七年七月、大阪において三日間にわたって開催されたダクト材の展示会において、被告三喜のブースに来場者が自由に持ち帰ることのできるように置いておいたものであるが、初日の午前中にはごくわずかしか出ていない。そして、原告代表者がまとめて約一〇部ほど、今回の書証として提出する目的で持ち帰ったため、被告三喜は、直ちに誤りに気付き、初日の午後以降は全く配布していない。

3 不正競争防止法三条は、「侵害の停止又は予防を請求することができる。」として、差止請求について侵害停止請求権及び侵害予防請求権の二種類を規定しており、両請求権は別個の訴訟物であり、両立しない関係にある。現に侵害をしている場合は侵害停止請求で足りるし、侵害をしていない場合でかつ将来侵害をするおそれがあるときは、侵害予防請求で対処可能だからである。

本件の請求の趣旨において、原告が求める差止請求は、侵害停止請求であることは明白であり、将来の侵害予防請求の趣旨を読み取ることはできない。

なお、仮に原告の差止請求に侵害予防請求が含まれるとしても、右2(一)後段記載の事実に照らし理由がない。

五  争点5(被告らの損害賠償責任の有無、及び被告らが原告に賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 原告は、被告らによる被告表示一、二の使用により、各被告につき二〇〇〇万円の損害を被った。

(一) 原告の販売するダクト材の売上げは、昭和六二年までは増大したが、ダクト材販売業者が一斉に非アスベスト製品に移行した昭和六三年以降は、石綿製品当時に比較して急激に減少した(甲A第二号証の1・2)。

ダクト材販売業者は、石綿製品の当時から原告、被告らを含めても五、六社という少数であり、非アスベスト製品への移行後も同様であるから、売上高の急激な変化が起こることは考えられない。特に、非アスベスト製品は石綿製品より価格が高いから、通常なら売上げは増大するはずである。

ところが、ダクト材の顧客は、従前の石綿製品から非アスベスト製品に代わったことから、その性能に関する正確な知識を持ち合わせていなかったため、パンフレット等(被告広告一1ないし6、被告広告二1ないし3)に表示された不燃認定番号や耐熱温度の記載等を最大の拠り所として製品の採否を決することになった。

その結果、誤認惹起表示である被告表示一、二は、被告らがその売上げを伸ばす大きな要因となり、他方、かかる表示のない原告製品は顧客の目を惹きにくいところとなった。これが、原告のダクト材の売上げが減少した最大の原因であるから、被告らは原告に対し、原告の被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

(二) しかして、原告の昭和六二年度(昭和六二年三月~昭和六三年二月)のダクト材の売上額と比較して昭和六三年度以降の毎年(昭和六三年三月~平成元年二月、平成元年三月~平成二年二月、平成二年三月~平成三年二月、平成三年三月~五月)の売上げの減少額を算出し、これに利益率三〇パーセントを乗じたものが原告の逸失利益であり、その合計は七九九一万八三二七円となる。

そして、非アスベスト製品販売開始時まで、すなわち昭和六二年度以前まで遡って計算すれば、原告の損害額は総計八〇〇〇万円を下ることはない。

他方、原告が損害賠償を求める相手方としている競業者は、被告ら及び同様に誤認惹起表示をした別件訴訟の被告であるアズミ建材株式会社、渡辺工業株式会社の四社であるところ(他にみるべき競業者はいない。)、右四社の経営規模はほとんど同等であり、原告が損害を被ったのも四社ほとんど同一の影響によるものであるから、被告らに対しそれぞれ右八○〇〇万円を四等分した二〇〇〇万円の支払いを求めるものである。

2 被告らは、原告の売上げの減少と被告らによる被告表示一、二の使用との間に因果関係はないと主張して、他の要因を挙げるが、いずれも根拠がない。

(一) 原告製品は、カーボンを素材としているが、被告アサヒ主張のようにすぐ破けるということはない。

カーボンは、耐熱性能に優れた素材であり(甲A第二五号証)、ダクト材としても何の問題もない。平成五年版建設省仕様書に炭素繊維がフランジガスケットの素材として明記されたゆえんである(甲A第二四号証)。

(二) 被告ら主張の価格の点については、価格は石綿製品の当時から原告製品の方が被告らの製品より高かったのであり、通常、価格は品質と関係することを考慮すると、価格が高いから売れない、という関係にはない。

(三) 被告アサヒは、カーボンは黒色であるため、色の点で嫌がられるとも主張するが、外部から見えないダクト材について色が問題となるはずがない。

(四) 被告アサヒのいう平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)は、フランジガスケットの素材として「糸状のグラスウール、ロックウール等」と規定しており、炭素繊維を特に排除しているわけではない。

確かに、炭素繊維については、具体的に記載されているグラスウール、ロックウールに比べ、顧客の受止め方に若干の差異が生じることは想像できるが、右のとおりこの二つに限定する趣旨でないことは見れば分かるのであるから、被告らによる誤認惹起表示が行われていなければ、右の点のみで前記のような急激な売上げの減少が生じたとは考え難い。

他方、排煙用たわみ継手については、平成元年版建設省仕様書において、当初は素材を特定していたが(甲A第四号証)、建設省は発行直後にこの規定を誤りとして削除し、特記事項とした(甲A第一九号証)。その結果、排煙用たわみ継手については、平成五年版建設省仕様書のできるまで建設省仕様書の規定のない状態が続いたのであり、この経過からして、素材に関する建設省仕様書の規定が排煙用たわみ継手材の売上げに影響を及ぼしたというようなことは全くないことが分かる。

(五) 被告アサヒは、乙第一八号証を提出し、原告が非アスベスト製品として売り出したカロリンが石綿製品であるとして、このことが原告の売上げ減少の要因の一つであるとするようである。

しかし、右乙第一八号証は、その作成経過が不明であり、提供された製品が原告製品であるとの確認がない状態でされた(甲A第二八号証記載のとおり)一民間業者の手による検査の結果を示すものであって、このような資料は公正なものとはいえない。

カロリンの成分は財団法人化学品検査協会の試験報告書(甲A第二九号証)記載のとおりであり、石綿は含まれていない。

【被告アサヒの主張】

仮に原告のダクト材の売上げが減少したとしても、被告アサヒによる被告表示一の使用との間に因果関係はない。

1 現在ダクト材についてカーボン製品は原告製品だけであって、ダクト施工業者の間ではカーボン製品のあることは一般に知られていないのが現状である。これは、カーボン製品は、<1>たわみ継手としては、すぐに破け不向きである、<2>同様の強度の他の素材の製品と比較すると、価格がかなり高くなる、<3>石綿とガラスは白色であるが、カーボンは黒色であるため、色の点で嫌がられる、<4>建設省仕様書では、平成五年に至るまで、カーボン製品は認められるものとして記載されていない、という問題点があったためである。また、原告の営業方法についても、販売店がほとんどないうえ、営業専任の社員もおらず、専らパンフレット等の送付を中心に販売活動をしているという問題点がある。

すなわち、建設省物件についても、民間物件についても、総合建設業者(ゼネコン)や設備工事業者(サブコン)が設計を行い、標準工事仕様書を作成し、ダクト材についても何を使うかという仕様を定めるのであるが、その際、建設省物件については、建設省仕様書に基づき、たわみ継手材はアルミ箔貼りガラスクロスが、フランジガスケット材はガラスクロスかロックウールの糸状のものが標準工事仕様書において指定されるのであり、民間物件についても建設省仕様に準じて指定されることがほとんどである。各ダクト施工業者は、右標準工事仕様書に基づき、たわみ継手材やフランジガスケット材を発注することになる。

したがって、仮に原告のダクト材の売上げが減少したとしても、その真の原因は、ダクト材としてのカーボン製品は、前記のような問題点があり、特に平成五年の改定までは建設省仕様書に記載されていなかったことにあるのであり(空調業界では建設省仕様書に記載されていないものや使用実績のないものは採用されにくい実態にある。被告アサヒは、標準工事仕様書においてカーボン製品が指定されたことを聞いたことがない。)、更に、原告の販売姿勢、特にその取引先とのトラブル、力タログの送付を中心としているという販売形態、原告製品が被告アサヒ製品より五割から七割も高いという価格差がこれを一層拡大したものであって、被告表示一とは何の関係もない。このことは、原告が平成五年版建設省仕様書に基づく性能評定試験についてガラス繊維を素材とするもので受験していることからも明らかである。

2 しかるに、原告は、カーボン製品のダクト材が、その品質、性能において全く異なる石綿製品のダクト材と同程度の売上げのあることを前提にして損害額の主張をするが、この前提自体何の根拠もないうえ、カーボン製品には前記のとおりの問題点があったのであるから、損害額の算定として意味がない。

【被告三喜の主張】

仮に原告のダクト材の売上げが減少したとしても、被告三喜による被告表示示二の使用との間に因果関係はない。

1 原告がダクト材の売上げが減少したとする甲A第二号証記載の取引先で、被告三喜の取引先と競合するところはほとんどない。

2 原告の売上げの減少には、昭和六三年に石綿製品の販売が禁止されて以降、同業者の中で原告のみが高価なカーボン素材を使用していること、原告は、販売店がほとんどないうえ、営業専任の社員もおらず、専らパンフレット等の送付を中心にして販売活動を行っていること等、種々の要因が存するのである。

六  争点6(原告の本訴請求は信義則に反するか)について

【被告アサヒの主張】

原告は、被告表示一、二を誤認惹起表示であると非難しながら、自らも誤認惹起表示を行っているから、被告らに対して差止請求や損害賠償請求をするのは信義則に反する。

1 原告は、平成七年七月一四日から開催された空調総合機材展(乙第四二号証)において、ガスケット及びたわみ継手のパンフレット(乙第四三号証)及び「貴社もたわみ継手で大臣認定を取得しませんか」と題する書面(乙第四四号証)を配布し、その中で次のような誤認惹起表示をしている。

(一) MK三〇〇、MK三三〇についての「JISR三四一四」の表示(乙第四三号証)

MK三〇〇等の厚さは丙第六号証によれば〇・六五mmであり、JISR三四一四に該当しないことが明らかである(被告アサヒのJISR三四一四ガラスクロスの表示〔被告表示一<9>〕についての前記一【原告の主張】6参照)。

(二) MK一七〇等についての「耐熱温度五六〇℃」の表示(乙第四三号証)原告が右表示の根拠とする通気度試験なるものが原告独自の見解によるものであり、公的に認められたものでないことは、前記一【被告アサヒの主張】2(四)、13(一)(2)<2>のとおりである。

(三) MK三〇〇等についての「不燃材料」との表示(乙第四三号証)

不燃材料とは、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める「第二 基材試験」及び「第三 表面試験」に合格したものをいうのであるから、「第三 表面試験」に合格したのみでは不燃材料との表示をすべきではない。このことは、別件訴訟の確定判決で指摘され、建設省からも指導を受けているはずである。

(四) 新製品MK五〇(ゴム発泡ガスケット)についての「建設省機械設備工事施工監理指針合致品」との表示(乙第四四号証)

ゴム系のものは、平成元年版建設省仕様書によりフランジガスケット材に使用することが禁止されていること(平成五年版建設省仕様書においても同じ。)は原告自身が主張するところである(前記一【原告の主張】5)。

ところが、原告は、「現在ガスケットで、市販されているロックウール及び、ガラスフェルト等は不燃材料では無く不当表示でございます。ガスケットは、建設省機械設備工事施工監理指針合致品のMK製品をご使用下さい。」などと、あたかも自らの製品が不燃材料であるかのような表示までしている。

2 原告は、乙第一六、第一九号証においても、誤認惹起表示であると主張する被告表示一、二と同種の表示を行っている。

【原告の主張】

原告のガスケット及びたわみ継手のカタログ(乙第四三号証)及び「貴社もたわみ継手で大臣認定を取得しませんか」と題する書面(乙第四四号証)における表示に対する被告アサヒの非難は、いずれも合理的根拠がない。

1 ガラス織布の厚さの測定は、建設省仕様書の関係ではダイヤルゲージでの測定であり、JIS規格ではマイクロメーターによる測定(圧力をかけて測定するから数値が下がる。)であるところ、丙第六号証に表示されたMK三〇〇等の厚さ〇・六五mmは、右ダイヤルゲージでの測定値であり、これをマイクロメーターで測定すれば、十分JISR三四一四の規制に合致するのである。

2 MK一七〇等についての「耐熱温度五六〇℃」との表示(乙第四三号証、丙第六号証)は、同号証の右下に「耐熱温度・KES-F8-API(漏気試験)で五六〇℃三〇分加熱で漏気は〇」と説明してあるように、客観的根拠を有するものである。

すなわち、MK一七〇等のフランジガスケット材は、いずれもアルミでラップしたものであるが(原告の製品のみが有する特性であり、これにより被告らの製品に比して高度の耐熱性を備えることになる。)、缶体と缶体との間に固定して使用されるものであり、たわみ継手材のようにアルミのラップが剥がれるという事態は全く想定する必要がないから、当該商品自体がどれだけの空気遮断性能を有しているかによって、その耐熱温度が判定されるべきところ、その通気度試験(甲A第三七号証)によれば、五六〇℃での通気抵抗は「測定不能」と判定されており、五六〇℃においても常温と全く同じ通気遮断性能を保持することが裏付けられている(右通気度試験の実施要領は、KES-F8-API通気性試験機の取扱説明書〔甲A第四三号証〕のとおりであり、客観的に確立したものである。)。

なお、アルミ箔自体の耐熱性は、アルミニウムの溶融点が六六〇℃とされていること(甲A第四二号証)から、五六〇℃を優に上回る。

3 MK三〇〇等についての「不燃材料」との表示については、「建設省告示一八二八号(不燃材料)第三表面試験合格」(乙第四三号証)というように、これが表面試験に合格したものであることを明記している。原告は、この記載について事前に建設省の担当官にも確認し、何の問題もないとの回答を得ている。

4 MK五〇については、乙第四四号証を見れば明らかなとおり、「建築基準法第百二十九条の二の二・六で地階を除く階数三以上である建築物、地階に居室を有する建築物又は延べ面積三千平方メートルを超え無い建築物に使用」できることを明示しており、一般のビル等には使用できないことを表示している。

被告アサヒのようにあらゆるビル一般に使用することが可能であるとする表現とは全く性質が異なる。

第四  争点に対する判断

一  争点1(被告表示一<1>ないし<19>は誤認惹起表示に当たるか)について

1  シリカクロス(被告表示一<1>)

(一) 昭和五八年一二月一五日技報堂出版株式会社発行の清水紀夫著「ガラス繊維と光ファイバー」(甲B第二四号証)には、「7・2 シリカ繊維(石英ガラス繊維、高ケイ酸ガラス繊維)」と題する項に、「シリカ繊維には、石英ガラス繊維と高ケイ酸ガラス繊維とがある。どちらもSiO2九六%以上で、組成的には差がない。両者の違いはつくり方にある。」(一二三頁)、「高ケイ酸ガラス繊維は、変成ガラス繊維として分類できるシリカ繊維である。ホウケイ酸ガラス、EガラスあるいはSiO2-Na2Oガラスの繊維をつくり、これを酸で処理をして可溶成分を溶出させ、シリカ骨格だけにする製造方法である。このようにしてつくられた高ケイ酸ガラス繊維はSiO2九六%以上となる。…また、酸処理を途中でやめ、表面層だけを高ケイ酸ガラス質にした低価格品もあり、ストーブの芯や断熱材に利用されている。」(一二四~一二五頁)との記載があり、これによれば、シリカ繊維とはSiO2の含有率が九六パーセント以上のものを意味するものと認められる。また、日本無機株式会社の「SILIGLASS」と題するパンフレット(甲B第一八号証)には、「SILIGLASS」自体の説明として「SILIGLASS(シリグラス)は、SiO2が九六%以上の高珪酸ガラス繊維、およびその製品の総称です」との記載があり、「クロス」の項において、一般的な説明として「九六%以上の高珪酸ガラス繊維で織られた耐熱断熱用のクロスで、一般のガラス繊維やアスベストでは耐えられない高温での使用が可能です。」との記載があり、「化学成分」と題して、「シリグラスはSiO2九六%以上からなる高珪酸ガラス繊維で代表的な分析値は右記の通りです。」としたうえで、SiO2の含有量が九八・九二%である旨の分析表が示されており、「テープ/スリーブ/ロープ/ヤーン」の項において、一般的な説明として「クロス同様、九六%以上の高珪酸ガラス繊維で織られたもので、一般のガラス繊維やアスベストでは耐えられない高温での使用に最適です。」との記載があるところ、これらの記載は、直接シリカ繊維一般の定義をしたものではないが、前掲甲B第二四号証の記載と総合すれば、日本無機株式会社においても、「シリカ繊維」とはSiO2の含有率が九六パーセント以上の高ケイ酸ガラス繊維をいうものであることを前提として、SiO2の含有率が九六パーセント以上である同社の製品に「シリグラス」という商品名を付けたものであることが認められる。

(二) しかして、被告広告一1(甲B第一号証)には、AS三〇〇のSiO2含有量は六〇・○パーセントと記載されているが、これを認めるに足りる証拠はなく、京都市工業試験場長作成の平成六年五月一二日付報告書(甲B第三八号証)によれば、原告の依頼により同試験場が行ったAS三〇〇の定量分析の結果では、SiO2の含有量は五四・一五パーセントであることが認められる。そうすると、AS三〇〇のようにSiO2の含有量が五四・一五パーセントにすぎないものについて「シリカクロス」の表示をすることは、誤認惹起表示に該当するというべきである。

(三) 被告アサヒは、ガラス繊維業界では、通常、Eガラス(無アルカリガラス)の主成分SiO2五二~五六パーセントのものをガラス繊維と称し、それ以上のものをシリカ繊維と称している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。ニチアスの「ノンアスベストクロス」と題するパンフレット(乙第六号証)には、「シルテックスクロス七〇〇とは、シリカ分五六~六五%のシリカ繊維から成るクロスで」、「シルテックス七〇〇 低シリカ繊維 ガラスクロスを若干シリカ処理して耐熱性を向上させたシリカクロス」との記載があるが、この「シリカ繊維」、「シリカクロス」との記載自体、前掲甲B第二四号証に照らし問題があるといわざるをえない。

被告アサヒは、AS三〇〇は、甲B第二四号証一二五頁にいう「酸処理を途中でやめ、表面層だけを高ケイ酸ガラス質にした」ものであるから、これをシリカと表示することに何の問題もないとも、AS三〇〇は、被告アサヒが日本無機株式会社に六〇〇℃で三〇分耐えられ厚さが二mmのシリカ製品の製造を特注した結果でき上がったものであり(乙第一〇号証)、被告アサヒは、日本無機株式会社から右商品をシリカと表示することに問題はない旨の証明を得ている(乙第二八号証の1・2)とも主張する。日本無機株式会社から被告アサヒに納品されるAS三〇〇用の商品に貼られたシール(乙第一〇号証)には「シリグラス」との記載があり、日本無機株式会社から被告アサヒ宛の「シリグラスに関する件」と題する書面(乙第二八号証の1)には、「このシリカクロスは耐熱温度を上げるためにEガラスクロスを酸処理している。この酸処理は表面層だけ高ケイ酸ガラス質にするため若干の酸処理(酸処理を途中でやめる)で、表面層は高ケイ酸になり耐熱温度が向上する。ただ、全体のSiO2含有量はEガラスの範囲であるが、しかしガラス繊維業界ではこれをシリカクロスと表現している。このことは、文献ガラス繊維と光ファイバー清水紀夫著(技報堂出版(株))の一二三~一二四ページにシリカ繊維の定義(石英繊維と高ケイ酸ガラス繊維)が記載されているとおりEガラスクロスを酸処理し、処理を途中でやめたものも高ケイ酸ガラス繊維として取扱われており、業界内部においても認識しているものである。以上からガラス繊維業界では、ガラス繊維を若干でも酸処理し耐熱性を向上させたものは、シリカ繊維と呼称するのは一般的な表現である。」との記載があり、前掲甲B第二四号証と同じ書物の表紙と一二二頁~一二五頁(乙第二八号証の2)が添付されている。しかし、右に引用された「ガラス繊維と光ファイバー」(甲B第二四号証)の「酸処理を途中でやめ、表面層だけを高ケイ酸ガラス質にした低価格品もあり」(一二五頁)との記載も、前記(一)に摘示した同号証のその余の記載部分を参酌すれば、少なくとも表面部分はSiO2含有量が九六パーセント以上であることを前提としているとみるべきであり、乙第二八号証の1の「ガラス繊維業界では、ガラス繊維を若干でも酸処理し耐熱性を向上させたものは、シリカ繊維と呼称するのは一般的な表現である。」との記載は、日本無機株式会社自身のパンフレットの前記記載に照らしてもそのまま採用することはできない。また、乙第二八号証の1には、AS三〇〇の表面層は高ケイ酸ガラス質になっているかのような記載もあるが、SiO2含有量を具体的な数値で示しておらず、AS三〇〇の表面層のSiO2含有量が九六パーセント以上であることを認めるに足りる証拠もない。

2  耐熱温度(シリカ)六〇〇℃(被告表示一<2>)、耐熱温度(ガラス)五五〇℃(被告表示一<4>)

(一) 被告表示一、二が使用された時点で、AS三〇〇、AS一〇〇〇の基材であるガラスクロスについて、その耐熱温度の判定基準はJIS規格によって定められておらず、業界団体で定めた基準も存在しなかった(甲A第一一号証の1~3、第二〇号証、原告代表者、証人黒瀬厚志)。このような状態のもとで耐熱温度が表示されれば、設備工事業者等の顧客は、耐熱温度をもってその製品を安全に使用することができる温度であるという印象を受けるものと考えられる。

したがって、被告表示一<2><4>がAS三〇〇、AS一〇〇〇はそれぞれ六〇〇℃、五五〇℃でも安全に使用できるとの印象を顧客に与えることは明らかである。被告表示一<2><4>自体、「耐熱温度(シリカ)」、「耐熱温度(ガラス)」という表示であり、被告広告一1(甲B第一号証)には、耐熱温度の欄に、被告表示一<2><4>の外に、「(アルミ接着剤)二〇〇℃」との表示が併記されているものの、顧客の関心事は個々の構成部分の耐熱温度ではなく排煙用たわみ継手材という製品そのものの耐熱温度であると考えられるから、右各表示によっては右のような印象を打ち消しあるいは減殺するということにはならない。

そこで、被告表示一<2><4>が誤認惹起表示に当たるか否かは、AS三〇〇、AS一〇〇〇が製品として実際にそれぞれ六〇〇℃、五五〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきことになる。

以下、右の観点から検討する。

(1) 硝子繊維協会は、「ガラスクロス使用温度の最高について」と題する原告宛書面(甲A第三八号証)において、ガラスクロスの耐熱性については、その使用条件、表面処理の性質等により一律に定義することは困難であるが、Eガラスヤーン使用の生機クロス(糊剤付)を対象とし、最高使用温度を「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になった時、引張強度保持率が五〇%を確保できる温度」をいうものとして二三〇℃としていることが認められる。

被告アサヒは、硝子繊維協会にその試験内容を確認したところ、計測したデータ資料サンプルは計測時間も厚みも本件訴訟の内容とはかけはなれており、これを原告自身が指定し計測方法まで指示したという極めて作為的なものである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告は、JIS規格による試験の結果(甲B第二号証)によれば、AS一〇〇〇は、五五〇℃における引張強度(たて二〇・七kg、よこ一五・五kg)が常温における引張強度(たて九三・〇kg、よこ七四・〇kg)の二分の一以下であるから、耐熱温度が五五〇℃より低いということになる旨主張するが、右試験は、前田硝子株式会社の依頼により同社製の「石綿代替ガラスクロス」を対象としたものであるところ、本件全証拠によるも、AS一〇〇〇の基材が同社製のものであることを認めることはできない。

(3) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったAS三〇〇、AS一〇〇〇の通気度試験の結果によれば、AS三〇〇について、常温での通気抵抗は試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇OKPa・s\m以上)を示すのに対し、六〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗は〇・八〇KPa・s\mに低下し(甲B第四四号証)、AS一〇〇〇について、常温での通気抵抗は同様に試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s\m以上)を示すのに対し、五五〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗は〇・三四KPa・s\mに低下する(甲B第四五号証)ことが認められる。

証拠(甲A第二四、第四〇号証)及び弁論の全趣旨によれば、AS三〇〇、AS一〇〇〇のような排煙用たわみ継手材については、平成五年版建設省仕様書において、材質は規定されず、財団法人日本建築センターの防災性能評定品とすると規定されたところ、この防災性能評定のための試験では、通気度試験は採用されず、耐熱振動試験について「排煙機用たわみ継手(製品)は、耐熱、振動試験にょり、五六〇℃加熱振動後亀裂などの有害な変形が生じず、漏気量が圧力差五〇mmH2Oにおいて五m3\min・m2を超えないこと。」と定められたものであり、これは、実際に使用するものと同一の標準品を試験体とし、これを現場施工に準じて試験装置に取り付け、一定の熱・振動・張力をかけ、その耐熱振動試験終了後、試験体を取り外して、たわみ継手の開口部を鋼板などで気密に塞ぎ、ポンプにより内部を圧力差五〇mmH2O程度まで減圧して漏気量を測定するものであって、その漏気量が五m3\mm・m2を超えないことを要件とするものであることが認められる(このこと自体については、原告も特に争っていない。)。そして、被告アサヒは、このことを根拠に、原告援用の通気度試験は、内部に圧力を加え続け、空気が逃げようとする空気抵抗値すなわち圧力が変化することによって試験体がどのような変化をするかを見ようとするもので、漏気量測定試験とは性格も違い、試験体も一cm角程度のもので、異なる素材の通気性能の比較には適しているが、製品としてのたわみ継手の性能評定に使用するには無理があり、そのため、平成五年版建設省仕様書改定委員会の席上検討から外され、漏気量測定試験が採用され今般実施されたものである旨主張し(第三の一【被告アサヒの主張】13(一)(1)<2>(ロ))、通気度試験の証拠価値を排斥している。しかしながら、製品としてのたわみ継手の性能評定としては漏気量測定試験の方が優れているとして平成五年版建設省仕様書に基づく財団法人日本建築センターの防災性能評定のための試験において通気度試験が採用されなかったとしても、だからといって、耐熱温度と表示された温度で加熱した場合の物性変化を調べる前記通気度試験の結果(甲B第四四、第四五号証)が、被告表示一<2><4>が誤認惹起表示であるか否かを検討するのに無意味ということはできない。

(4) AS三〇〇、AS一〇〇〇はガラスクロスを素材とする基材にアルミ接着剤でアルミ箔を貼付したものであるが(甲B第一号証・被告広告一1)、原告は、耐熱温度としてはこのアルミ接着剤が溶ける温度すなわちアルミ箔の剥がれる温度を表示すべきである旨主張するところ、被告アサヒが被告アサヒ製品の基材を仕入れているユニチカユーエムグラス株式会社の現在の「コーテッドガラス規格・性能表」(甲B第一六号証)やカタログ(甲B第三一号証)には、耐熱温度として塩ビ樹脂(約八〇℃)やハイパロン(約一三〇℃)等の耐熱温度のみが表示され、同社の原告宛平成五年一〇月一日付書面(甲B第三五号証)でも、ガラスクロスにアルミ箔を貼ったクロスでは耐熱温度が二〇〇℃であるとしていることが認められ、右剥離温度は、これをそのままAS三〇〇、AS一〇〇〇の耐熱温度とすべきかどうかは別として、その重要な判断資料になるというべきである。

(5) 被告アサヒは、被告表示一<2>は、AS三〇〇のメーカーである日本無機株式会社から入手した乙第二二号証の1・2によるものであり、4A級の厚さ二mm、幅五〇mmの石綿布は、四〇〇℃で三〇分間加熱した後の引張強さがたて三二、よこ一三であるところ(乙第二二号証の1)、AS三〇〇は、六〇〇℃で三〇分間加熱した後の引張強さがたて二九・九、よこ三五・七とされており(同号証の2。なお、AS三〇〇は幅二五mmのものであり、幅五〇mmの石綿布と比較する場合はその引張強さは〇・九増しとされる。)、十分耐熱性があると評価されたことによると主張する。しかし、右評価方法(乙第二二号証の1)は石綿に関するものであり、これを石綿とは全く性質の異なるガラス繊維にそのままあてはめることができると認めるに足りる証拠はない(乙第二二号証の1によれば、右石綿布の常温における引張強さはたて四八、よこ二〇とされているが、同号証の2によれば、被告アサヒがAS三〇〇と同一の製品とするものと解される「シリグラス クロス 試作品HCH-二〇一七〇A1」の常温における引張強さはたて七八・二、よこ一三五・五とされている。)。

被告アサヒは、被告表示一<4>も素材メーカー(前田硝子株式会社ではない。)の実験結果に基づくものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(6) 日東紡績株式会社の「保温・保冷工事用日東紡グラスクロス」と題するカタログ(甲A第一六号証)には、同社のガラスクロス製品の引張強度について「一〇〇℃では、常温と同様か若干高い強度を保持します。二五〇℃では、時間と共に強度が下がりますが常温の約半分の強度を長時間保持します。」との記載がある外、「一般にグラスファイバーは約二〇〇℃位は常温と同じ強度を保持します。更に高温では常態よりも急激に強度を低下しますが、ある時間経過後はほぼ一定になります。」との記載がある。

(7) 日東紡績株式会社グラスファイバー加工事業部産業資材部開発グループの担当者作成名義の「たわみ継手(排煙機用)ガラスクロス耐熱試験結果報告」(甲A第一七号証)によれば、排煙機用たわみ継手材料としてのガラスクロスは、規定された要求性能は満足するものの、五六〇℃で三〇分間加熱した後のサンプルでは耐折れ強さが低下すること(アルミ箔貼りガラスクロス〔厚さ一・〇三mmのガラスクロスに七μのアルミ箔を貼り合わせたもの〕について、常温での耐折れ強さが平均四八六八回であったのに対し、右加熱後の耐折れ強さは平均五回であったこと)が認められる。

(8) 日本無機株式会社のパンフレット(甲B第一八号証)には、同社の製造にかかる「シリグラス」は一〇〇〇℃での長時間連続使用に十分耐えられる耐熱性がある旨の記載があるが、これは右「シリグラス」がSiO2含有率九六パーセント以上の高珪酸ガラス繊維であることを前提としているものである。

(9) ユニチカユーエムグラス株式会社のパンフレット(甲C第四号証)には、同社の製造販売するガラス長繊維(溶けたガラスを高速ワインダーで巻き取った長い糸条のもの)の熱的特性として、「耐熱三〇〇~五五〇℃、軟化八四〇℃」との記載がある。

(10) 東京電気大学出版局発行の大沼亥久三外著「繊維」三訂版(乙第八号証)には、「ガラス繊維」の項に、「軟化点はEガラスが八〇〇~八五〇℃であり、一般に三〇〇℃の高温に耐え(約五五〇℃では強力が半減する)、耐熱性が大きい。」との記載がある。

(11) ユニチカユーエムグラス株式会社の「コーテッドガラス規格・性能表」(丙第一号証)には、ガラス基布の耐熱温度が約三〇〇℃であるとの記載がある。

(12) ニチアスの「ノンアスベストクロス」と題するパンフレット(乙第六号証)には、同社が製造販売する嵩高ガラス繊維について五五〇℃、低シリカ繊維について七〇〇℃、高シリカ繊維について一〇〇〇℃、セラミック繊維について一一〇〇℃との安全使用温度の表示がある。

(13) ユニチカユーエムグラス株式会社が被告アサヒ宛送付した資料(乙第二七号証)によれば、同社製造のガラスクロス三五九FTの引張強度は、常態でたて九五・二(kgf)、よこ七九・二(kgf)であるのが、一〇〇℃で三〇分加熱した後にはそれぞれ一二三、一一七、二〇〇℃で三〇分加熱した後には一二三、一一七、三〇〇℃で三〇分加熱した後には一〇八、九八・八、三〇〇℃で一二〇分加熱した後には九二・二、八一・二、四〇〇℃で三〇分加熱した後には三一・四、三一・三、五〇〇℃で三〇分加熱した後には二三・四、一九・五、六〇〇℃で三〇分加熱した後には二四・六、二二・三(いずれも同社技術室による測定)となることが認められる。

(二) 右(一)によれば、AS三〇〇、AS一〇〇〇を製品として実際に安全に使用することができる温度を直接認定する資料に乏しいものの、右(一)の(1)のとおり硝子繊維協会がガラスクロス(Eガラスヤーン使用の生機クロス〔糊剤付〕)の最高使用温度を「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になった時、引張強度保持率が五〇%を確保できる温度」をいうものとして二三〇℃としていること、(3)のとおり通気度試験の結果によればAS三〇〇を六〇〇℃で、AS一〇〇〇を五五〇℃でそれぞれ三〇分間加熱すると、通気抵抗が常温での数値(五〇〇KPa・s/m以上)からそれぞれ〇・八〇、〇・三四に極端に低下すること、(4)のとおりAS三〇〇、A一〇〇〇は、ガラスクロスを素材とする基材にアルミ接着剤でアルミ箔を貼付したものであるが、被告アサヒが被告アサヒ製品の基材を仕入れているユニチカユーエムグラス株式会社の現在の「コーテッドガラス規格・性能表」やカタログには、耐熱温度として塩ビ樹脂(約八〇℃)やハイパロン(約一三〇℃)等の耐熱温度のみが表示され、同社の原告宛書面でも、ガラスクロスにアルミ箔を貼ったクロスでは耐熱温度が二〇〇℃であるとしていること、(6)のとおり日東紡績株式会社の「保温・保冷工事用日東紡グラスクロス」と題するカタログには同社のガラスクロス製品の引張強度について「一〇〇℃では、常温と同様か若干高い強度を保持します。二五〇℃では、時間と共に強度が下がりますが常温の約半分の強度を長時間保持します。」との記載がある外、「一般にグラスファイバーは約二〇〇℃位は常温と同じ強度を保持します。更に高温では常態よりも急激に強度を低下しますが、ある時間経過後はほぼ一定になります。」との記載があること、(7)のとおり日東紡績株式会社のたわみ継手(排煙機用)ガラスクロス耐熱試験では、同社のアルミ箔貼りガラスクロスについて、常温での耐折れ強さが平均四八六八回であったのに対し、五六〇℃で三〇分間加熱した後の耐折れ強さが平均五回であったこと、(10)のとおりガラス繊維が一般に三〇〇℃に耐えるとされていること、(13)のとおりユニチカユーエムグラス株式会社製造のガラスクロス三五九FTの引張強度は、常態でたて九五・二(kgf)、よこ七九・二(kgf)であるのが、五〇〇℃で三〇分加熱した後にはそれぞれ二三・四、一九・五、六〇〇℃で三〇分加熱した後にはそれぞれ二四・六、二二・三となることに照らすと、少なくとも、AS三〇〇は六〇〇℃で、AS一〇〇〇は五五〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示一<2><4>は誤認惹起表示に該当するというべきである。(9)掲記の甲C第四号証、(12)掲記の乙第六号証は、的確な裏付けを欠き、右認定を左右するに足りない。

3  引張強度(kg/25mm)(五五〇℃時)たて、よこ29(被告表示一<3>)

原告は、AS一〇〇〇が前田硝子株式会社の製造にかかる基材を使用しているものであることを前提に、その基材の五五〇℃における引張強度は、たて二〇・七kgf、よこ一五・五kgfである(甲B第二号証)として、被告表示一<3>は誤認惹起表示に当たる旨主張するが、AS一〇〇〇の基材が前田硝子株式会社の製造にかかるものであることを認めるに足りる証拠はない。原告は、ガラスクロスであればその成分が極端に違わない限り基材のメーカーの違いによって引張強度に大きな差が出ることは考えにくいと主張するが、被告アサヒが右甲B第二号証の試験結果を否定する証拠を提出していないことを考慮しても、右甲B第二号証の試験結果のみによって直ちに被告表示一<3>をもって誤認惹起表示に該当するとすることはできない。

4  「完全不燃クロス」(被告表示一<5>)

(一) 建築基準法二条九号は、不燃材料の定義として、「コンクリート、れんが、瓦、石綿スレート、鉄鋼、アルミニューム、ガラス、モルタル、しつくいその他これらに類する建築材料で政令で定める不燃性を有するものをいう。」と定め、これを受けて建築基準法施行令一〇八条の二は、「法第二条第九号に規定する政令で定める不燃性を有する建築材料は、建設大臣が、通常の火災時の加熱に対して次の各号(建築物の外部の仕上げに用いるものにあつては、第二号を除く。)に掲げる性能を有すると認めて指定するものとする。一 燃焼せず、かつ、防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないこと。二 防火上有害な煙又はガスを発生しないこと。」と定めている。そして、昭和四五年建設省告示第一八二八号(甲A第七号証)は、「建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第一〇八条の二の規定に基づき、不燃材料を次のように指定する。」とし、「第一 総則」において、「不燃材料は、第二に規定する基材試験及び第三に規定する表面試験を行ない、それぞれの試験に合格したものとする。」と定めている(右基材試験及び表面試験は、それぞれ単一の試験方法が定められているのであって、試験体の用途ごとに別個の試験が定められているわけではない。)。

右の建築基準法上の不燃材料の定義が一般にもかなり普及していることは、全国加除法令出版株式会社発行の「イラスト建築防火」と題する書籍(乙第七号証)からも窺うことができる(同書には、不燃材料、準不燃材料、難燃材料についてそれぞれの定義、試験方法等が分かりやすくイラスト入りで解説され、〔参考条文〕として「<不燃材料・準不燃材料・難燃材料>建築基準法第二条第一項第九号、建築基準法施行令第一条第五号;第六号、建設省告示昭和四五年第一八二八号『不燃材料の指定』、建設省告示昭和五一年第一二三一号『準不燃材料及び難燃材料の指定』」が引用されている。)。

そうすると、建築基準法の適用される建築材料について、特に留保なく「不燃」と表示した場合は、ダクト材の取引者、需要者において建築基準法二条九号にいう不燃材料であると理解するものと認められるから、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験(「第二 基材試験」及び「第三 表面試験」)に合格していないものについて「不燃」、「完全不燃」の表示をすることは誤認惹起表示に当たるといわなければならない。AS三〇〇、AS一三二が右試験に合格したものでないことは弁論の全趣旨から明らかであるから、被告表示一<5>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

(二) 被告アサヒは、ガラス繊維各社はそのカタログにおいてAS三〇〇、AS一三二と同様のガラスクロスについて「不燃」という表現を使用している旨主張し、乙第一三号証の1~9を援用する。確かに、同号証の各カタログには、「完全不燃である」(同号証の2)、「耐熱性は石綿布JIS AAAA級以上で不燃材料です。」(同号証の3)、「耐熱性が高く、不燃製品である。」(同号証の7)などの記載があるが、だからといって、ダクト材の取引者、需要者において建築材料についての「不燃」の表示が建築基準法上の規制と無関係にされているものと受け取るということはできないのであって、このことは前記(一)の説示に照らし明らかである。

被告アサヒは、AS三〇〇、AS一三二の素材のメーカーであるユニチカユーエムグラス株式会社が不燃製品であると証明しており(乙第二三号証)、被告表示一<5>はこれに従ったものであると主張するが、右(一)説示の不燃材料の意義に照らして疑問があるのみならず、右乙第二三号証(ユニチカユーエムグラス株式会社の被告アサヒ宛昭和六〇年三月一九日付材料証明書)は、同社の製造にかかる三五九FTの素材はガラス繊維一〇〇パーセントであり、不燃製品であることを証明するとの内容であるところ、AS三〇〇、AS一三二は片面アルミ箔貼りのガラスクロスであり、接着剤等が使われている(甲B第一号証・被告広告一1)ため、三五九FTとは異なるものである。ユニチカユーエムグラス株式会社の被告アサヒ宛平成六年一月一〇日付書面(乙第二六号証)にも、「…一〇〇%ガラス繊維からなるガラスクロスは、不燃と考えています。但し、この不燃のガラスクロスに粘着剤でアルミ箔を貼ったものは不燃と言っていません。…即ち、AS一三二で例えるならば、AS一三二のベース基材のガラスクロスは不燃であり、アルミ箔を貼った商品AS一三二は不燃でないと言うことです。もし、アサヒ産業がガラスクロスは不燃のものを使用し、アルミ箔を貼った商品AS一三二は不燃でないと主張されているのであれば同じ考えであり、AS一三二を不燃であると主張されているのは不適であると考え、指摘しています。」と記載されているところである。

また、乙第三号証によれば、被告アサヒ主張のように、ユニチカユーエムグラス株式会社のガラス繊維は運輸省交通安全公害研究所の鉄道車両用材料燃焼試験において「不燃性」の判定を受けていること(なお、試験体の厚さは、二五mmと〇・一八mmの二種類)が認められるが、これはまさに鉄道車両用材料としての試験であり、被告表示一<5>ではいかなる試験に基づき不燃の判定を受けたかを明示せず単に「完全不燃」と表示しているのであるから、被告表示一<5>が誤認惹起表示に該当するとの前記認定判断を何ら左右するものではない。

更に、被告アサヒは、そのアルミ箔貼りガラスクロスを使用した製品は平成五年版建設省仕様書に基づく不燃試験(性能評定試験)にアルミ箔を接着剤で貼った状態で合格していると主張するが、後記14のとおり、当該試験の対象は本件で問題にされている被告アサヒ製品とは異なるものであるから、同様に前記認定判断を何ら左右するものではない。

5  「ダクト用品としての表示」(被告表示一<6>)、「ブチルダクトテープ」(被告表示一<7>)、「上質ブチルダクトテープ」(被告表示一<8>)、「ダクト用品としての表示」(被告表示一<10>)

(一) AS二〇はクロロプレン系のゴム、AS二五は天然ゴム、AS三〇及びAS三五はブチルゴムを素材とし、AS二六及びAS二七はポリエチレン樹脂を素材とするものであるところ(甲B第四号証・被告広告一2、原告代表者)、平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)では「フランジ用ガスケット」の仕様として、「糸状のグラスウール、ロックウール等を使用した厚さ三mm以上のテープとし、飛散の恐れがなく耐久性を有したものとする。」との記載があり、証拠(甲B第五号証)によれば、右仕様を確定する際、石綿系の石綿テープ、クロロプレンゴム系又はブチルゴム系のものはフランジガスケット材として使用できないものとされたことが認められる。AS二〇、AS二五、AS二六、AS二七、AS三〇、AS三五が建設省仕様書上はフランジガスケット材として使用できないことは被告アサヒも認めるところである。

(二) 原告は、建築業界においては広く民間の工事についても建設省仕様書が指針として取り扱われているのが実情であり、その結果、フランジガスケット材を含む建築資材の取引においても、取引業者間では当該商品が建設省仕様書の記載内容に合致していることを当然の前提としており、したがって、フランジガスケット材のカタログを見る者は、そこに掲載された商品は当然建設省仕様書の条件に合致した商品であると受け止めるから、カタログに建設省仕様書の条件に合致していないことが明らかな商品を何の断りもなく掲載することは、そのこと自体で顧客を誤った認識に導くものである旨主張する。

確かに、証拠(甲A第一〇号証、第一三号証の1~4)によれば、建設省仕様書は、建設省が発注する官公庁施設工事に適用するために定められたものであり、民間の工事についてはこれに準拠する義務はないが、実際には、民間の工事もかなり広くこれに従って行われていることが認められる。しかしながら、右各証拠によっては、ダクト材の広告において、特に「建設省仕様書に合致」と表示することなく単に「ダクト用品」、「ダクトテープ」と表示するだけで、取引者、需要者が建設省仕様書の条件に合致した商品であると受け止めるとまで認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告表示一<6>ないし<8>、<10>が誤認惹起表示に該当するとまでいうことはできない。

6  JISR三四一四ガラスクロス(被告表示一<9>)

(一) 証拠(甲B第一一、第二三号証、原告代表者、証人黒瀬厚志)によれば、JISR三四一四(ガラスクロス)は、JISR三四一三(ガラス糸)に適合するガラス糸及びこれを加工した糸を用いて製織した織物をいうが、無処理(織り上げたままの状態をいう。)のガラスクロスについて規定するものであり、そのガラスクロスの厚さは最大〇・六四mm±〇・〇九mm(許容差)であるところ、AS二〇〇〇は飛散防止材で含浸処理されており、かつ厚さが三mmであるからこれに適合しないことが認められる。

(二) 被告アサヒは、JISR三四一四は、建設省仕様書のたわみ継手の項目(一三九頁)に「JISR三四一四(ガラスクロス)」とあるように、業界では一般的にガラスクロスのことを指している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(三) また、被告アサヒは、AS二〇〇〇は厚さが三mmであり飛散防止加工がされていることから正確にはJISR三四一四の規格には適合しないとしながら、被告広告一2にはAS二〇〇〇の厚さが三mmであることが明記されており、飛散防止加工についても、AS二〇〇〇のようなフランジガスケット材については平成元年版建設省仕様書のフランジ用ガスケットの項目(一三五頁)において飛散防止措置を取るよう義務づけられており、このことはプロである業者間では周知の事実でもあるから、被告表示一<9>があることのみから品質の誤認が生ずるはずはない旨主張するが、ダクト材の取引者、需要者がJISR三四一四(甲B第一一号証)や平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)の内容を詳しく知っていると認めるに足りる証拠はなく、何の断りもなくJISR三四一四の表示があればJISR三四一四に合致するものと考えるのが当然である。

したがって、被告表示一<9>は、JISR三四一四に合致しないAS二〇〇〇について、これに合致するかのように表示するものであるから、誤認惹起表示に該当するというべきである。

7  「防火認定 認定番号準不燃第二〇二五号」(被告表示一<11>)

(一) 建築基準法施行令一条五号は、準不燃材料の定義として、「木毛セメント板、石膏ボードその他の建築材料で不燃材料に準ずる防火性能を有するものとして建設大臣が指定するものをいう。」と定めており、そして、昭和五一年建設省告示第一二三一号(甲A第六号証)は、「建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第一条第五号及び第六号の規定に基づき、準不燃材料及び難燃材料を次のように指定し、昭和五二年四月一日から施行する。」とし、「第一 総則」において、「1 準不燃材料は、第2に規定する表面試験、第3に規定する穿孔試験、第4に規定するガス有害性試験及び第5に規定する模型箱試験に合格するもの(不燃材料を除く。)とする。」と定めているところ、右表面試験、穿孔試験、ガス有害性試験及び模型箱試験は、それぞれ単一の試験方法が定められているのであって、試験体の用途ごとに別個の試験が定められているわけではない。

(二) しかして、証拠(甲A第一二号証、甲B第七、第一四、第二一号証、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、断熱亜鉛鉄板工業会は、無機質高充填フォームプラスチックを亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき、昭和五一年建設省告示第一二三一号に規定する試験に合格し、昭和六〇年一一月二八日、品目名を「無機質高充填フォームプラスチック貼り金属板」、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」として建設大臣による準不燃材料の認定を受けたこと(認定番号・準不燃第二〇二五号)、古河電気工業株式会社は、右無機質高充填フォームプラスチックを「フネンエース」の商品名により、「どのような防火規制のある建築物の屋根にもご使用いただけ」る「屋根三〇分耐火断熱材」として販売していること、同社は、原告の質問に対し、準不燃第二〇二五号の認定はフネンエースと金属板との貼合せ品で取得したものであり、フネンエース単体では準不燃第二〇二五号、すなわち建設省認定の準不燃材料に該当しない旨回答したことが認められる。

(三) 右(一)、(二)によれば、昭和五一年建設省告示第一二三一号は、建築基準法施行令一条五号に基づき、「準不燃材料」を定義すべく、特に用途を限定せずに、その建築材料が「準不燃材料」に該当するか否かを判定する単一の試験方法を定めるものであり、建設大臣による準不燃材料の認定は、右建設省告示に定める試験に合格した個々の建築材料につき、申請に基づき主たる用途を定めて行うものであると認められる。

したがって、右建設省告示に定める試験に合格すれば、一応建築基準法施行令一条五号に定める準不燃材料ということができるが、右建設大臣による準不燃材料の認定を受けて初めて、準不燃材料に該当することがいわば公的に認定されたということができるものである。

そして、準不燃材料の認定は主たる用途を定めてされるものであり、被告表示一<11>の準不燃認定番号も、前示のとおり主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」として建設大臣の認定を受けた認定番号であり、主たる用途を「フランジガスケット材」として認定を受けたものではないから、「建築物の屋根・壁・天井等」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について使用された被告表示一<11>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

また、被告表示一<11>の準不燃認定番号は、前示のとおり古河電気工業株式会社製の無機質高充填フォームプラスチック「フネンエース」を亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき取得したものであるところ、AS二六、AS二七の基材は亜鉛鉄板と貼り合わせていないフネンエース単体である(弁論の全趣旨)から、AS二六、AS二七は、昭和五一年建設省告示第一二三一号の定める試験に合格したものとも、準不燃材料の認定を受けたものともいえないことは明らかである。したがって、この点からも、AS二六、AS二七に準不燃認定番号を表示するのは誤認惹起表示に該当するというべきである。

(四) 被告アサヒは、準不燃第二〇二五号の認定は金属板に所定の断熱材(古河電気工業株式会社製造にかかるフネンエース)を貼り合わせた状態での試験結果に基づくものであるところ(甲B第七号証)、AS二六、AS二七も、同じ断熱材(フネンエース)がフランジガスケット材として同じように常に鉄板であるダクトに貼り合わされた状態で使用されることから、被告表示一<11>の表示をしたものである旨主張するが、前記「無機質高充填フォームプラスチック貼り金属板」として昭和五一年建設省告示第一二三一号の定める試験を実施した際にそのような事態を想定していたとは考え難いから、右主張は採用することができない。

8  強熱減量(%)17(被告表示一<12>)

(一) 証拠(甲A第八、第九、第二〇号証、甲B第三号証、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、JISR三四五〇(石綿糸)において、石綿糸の強熱減量(%)の算出方法につき、「4・2により試験した試験片(乾燥後の試験片)をあらかじめ八五〇±二〇℃に保った電気炉中で三〇分間強熱した後、デシケーター中で常温まで放冷し、強熱後の試験片とし質量を〇・一mgまで量り、次の式により強熱減量を算出し、試験片二個の平均値を少数点以下一けたに丸める。」として、乾燥後の試験片の質量(g)から強熱後の試験片の質量(g)を差し引いたものを乾燥後の試験片の質量(g)で除した数値に一〇〇を乗じて求めるものと定められていること、JISR三四五一(石綿布)において、強熱減量が、石綿布の等級を決める要素の一つとされていること(なお、強熱減量によって石綿含有率も判断できること)、昭和四一年八月日本石綿製品工業会発行「石綿工業製品」(甲B第三号証)において、常態時の五〇パーセント以上の引張強度を保持できる温度を安全使用温度と考えてよく、右安全使用温度は石綿製品の等級により判断できるもの(等級が高いほど安全使用温度が高い。)とされていることが認められる。そうすると、石綿製品が使用されていた当時のダクト材の業界においては、強熱減量によって石綿布の等級を判断し、石綿布の等級によって製品の安全使用温度を判断していたと考えられ、したがって、強熱減量は間接的に安全使用温度の判断資料となっていたということができる。一方、証拠(甲B第三〇号証、原告代表者)によれば、AS八五の素材であるロックウールについては、JIS規格による強熱減量の定義はなく、また、強熱減量を安全使用温度の判断資料として用いる業界の慣行もないこと、これとよく似た用語としてロックウール工業会の定める灼熱減量の用語があるが、これは、有機物の含有量を判定する指標として測定するものであり、石綿糸に関する強熱減量とは測定方法が異なることが認められる。

そうすると、被告表示一<12>のようにロックウール製品について特に断ることなく強熱減量の数値を記載すること自体、従前石綿製品を取り扱ってきたダクト材の取引者、需要者に、当該強熱減量の数値が安全使用温度の判断資料となるという誤った印象を与えるもので、誤認惹起表示に該当するというべきである。

(二) しかも、乙第九号証によれば、被告アサヒが依拠したという、AS八五の素材のメーカーである阿波製紙株式会社の依頼で徳島県工業試験場が行った試験では、同社のロックウールボードの強熱減量は一七%であったことが認められるものの、甲B第二〇号証の2によれば、AS八五は、阿波製紙株式会社のロックウールボード(ダクトパッキン紙)を使用し、これに粘着剤等を塗布して加工されたものであるから、被告表示一<11>の強熱減量の数値自体も一七パーセントより大になる可能性のあることが認められる。

但し、原告は、AS八五はロックウールの含有率が八〇パーセントであるところ、石綿含有率八〇パーセント以上の場合の強熱減量が三一・〇パーセント以下とされていること(甲B第三号証)からすると、AS八五の強熱減量も実際には三一・〇パーセント以下と考えられる旨主張するが、石綿布における石綿含有率と強熱減量との関係をそのまま素材の異なるロックウールにあてはめることができるのか疑問といわざるをえない。

9  不燃(個)一七一六号認定(被告表示一<13>)

(一) 証拠(甲B第九、第一〇、第二二号証、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、AS八七の基材は日東紡績株式会社製のロックウールフェルト「ルーフネン」であるところ、同社は、ロックウールフェルトを亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき、昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する試験に合格し、昭和五八年六月一五日、材料の一般名を「着色亜鉛鉄板張ロックウールフェルト(ルーフネン)」、主たる用途を「建築物の屋根、壁又は天井」として建設大臣による建築基準法二条九号に規定する不燃材料であるとの認定を受けたこと(認定番号・不燃(個)第一七一六号)、同社の承認を受けて「ルーフネン」の製造販売を行っている日東紡建工株式会社は、本件訴訟提起前の平成三年四月二二日付内容証明郵便(甲B第一〇号証)により、被告アサヒに対し、右不燃材料の認定は亜鉛鉄板貼ロックウールフェルトについてのものであり、ロックウールフェルト単体についてのものではないとして、被告表示一<13>の訂正又は削除及び配布済みのカタログの回収を求めたことが認められる。

(二) 右(一)及び前記4(一)によれば、昭和四五年建設省告示第一八二八号は、建築基準法二条九号、建築基準法施行令一〇八条の二に基づき、「不燃材料」を定義すべく、特に用途を限定せずに、その建築材料が「不燃材料」に該当するか否かを判定する単一の試験方法を定めるものであり、建設大臣による不燃材料の認定は、右建設省告示に定める試験に合格した個々の建築材料につき、申請に基づき主たる用途を定めて行うものであると認められる。

したがって、右建設省告示に定める試験に合格すれば、一応建築基準法二条九号に定める不燃材料ということができるが、右建設大臣による不燃材料の認定を受けて初めて、不燃材料に該当することがいわば公的に認定されたということができるものである。

そして、不燃材料の認定は主たる用途を定めてされるものであり、被告表示一<13>の不燃認定番号も、前示のとおり主たる用途を「建築物の屋根、壁又は天井」として建設大臣の認定を受けた認定番号であり、主たる用途を「フランジガスケット材」として認定を受けたものではないから、「建築物の屋根、壁又は天井」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について使用された被告表示一<13>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

また、被告表示一<13>の不燃認定番号は、前示のとおり日東紡績株式会社製のロックウールフェルト「ルーフネン」を亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき取得したものであるところ、AS八七の基材は亜鉛鉄板と貼り合わせていないルーフネン単体である(弁論の全趣旨)から、AS八七は、昭和四五年建設省告示第一八二八号の定める試験に合格したものとも、不燃材料の認定を受けたものともいえないことは明らかである。現に、甲A第五七号証によれば、鉄板と貼り合わされていないルーフネン単体は、財団法人建材試験センターにより右建設省告示に規定する表面試験に不適合と判定されていることが認められる。したがって、この点からも、AS八七に不燃認定番号を表示するのは誤認惹起表示に該当するというべきである。

(三) 被告アサヒは、AS八七についての被告表示一<13>は、AS二六、AS二七についての被告表示一<11>におけると同様の理由により何ら不当な表示ではない旨主張するが、右主張が採用できないことは、被告表示一<11>についての前記7(四)の説示から明らかである。

10  耐熱温度(℃)七〇〇(被告表示一<14>)、「但し紡織品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」(被告表示一<15>)、耐熱温度 ロックウールクロス三〇〇℃(被告表示一<19>)

(一) AS六五、AS六六、AS二一〇、AS二三〇についての被告表示一<14>及び被告表示一<15>は「繊維」の耐熱温度として表示され(被告広告一5)、AS二一〇、AS二三〇についての被告表示一<19>は「ロックウールクロス」の耐熱温度として表示されているが(被告広告一6)、設備工事業者等の顧客の関心事は個々の構成部分ではなくダクト材という製品そのものの耐熱温度であると考えられるから、右各表示が誤認惹起表示に当たるか否かは、前記2におけると同様、右各商品が製品として実際に七〇〇℃、二九〇℃、三〇〇℃で安全に使用することができるか否かという見地から判断すべきである。

(二) まず、原告がAS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇の耐熱温度は二九〇℃より低いとして援用する各証拠について検討する。

(1) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったAS六六、AS二一〇の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗がAS六六では一・六四KPa・s/m、A二一〇では試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、七〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗はAS六六で〇・二六KPa・s/mに、AS二一〇で〇・九二KPa・s/mに低下することが認められる(甲B第三九号証の2、第四三号証)。そして、甲B第四三号証の報告書に貼付されたAS二一〇の試験体のうち七〇〇℃で三〇分間処理したものは熱で変質しているように見受けられる。

(2) 原告が同じく大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったAS六六の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗が一・四七KPa・s/mであるのに対し、二九〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗は〇・一六KPa・s/mに低下することが認められる(甲B第三九号証の1)。そして、その報告書に貼付された試験体のうち二九〇℃で三〇分間処理したものは一見して変質していることが認められる。

(3) 原告は、AS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇はいずれもロックウールフェルトを素材とした基材を用いた製品であり、これを製造しているのはオリベスト株式会社と日東紡建工株式会社のみであるところ、日東紡建工株式会社製造のロックウールフェルトを素材とした基材(ルーフネン)について加熱試験をした結果、二〇〇℃で煙が出る(甲A第一五号証の1添付写真)ため、日東紡建工株式会社はルーフネンの使用最高温度を一五〇℃としている(同号証の2)旨主張する。そして、原告が日東紡建工株式会社の富田光から送付を受けた資料(甲A第一五号証の1)によれば、同社製造販売にかかるロックウールフェルト「ルーフネン」は、二〇〇℃に加熱すると表面が徐々に茶色に変色し、ごく軽いこげくさい臭いがして薄い煙が出、三〇〇℃に加熱すると表面が茶褐色となりこげ臭く煙が盛んに出るものと認められる。そして、同人作成の「ルーフネン(L)の耐熱性について」と題する書面(甲A第一五号証の2)には、ルーフネン(L)を物性、形状の変化なく使用できる限界温度は一五〇℃以下である旨記載されている。被告アサヒの製造販売にかかるAS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇の素材は、昭和耐熱株式会社の製造にかかるものであり(甲B第一三号証の1・2。原告代表者自身、その尋問でそのように供述している。)、甲A第一五号証の1・2には昭和耐熱株式会社の製品を意識した記載はないので、右各商品の耐熱温度の直接の判断資料とはならないが、一応の参考にはなるものである。

(三) 一方、被告アサヒは、被告表示一<14>はAS六五、AS六六、AS二一〇、AS二三〇の素材のメーカーである昭和耐熱株式会社のデータによるものであり(甲A第一五号証の2、甲B第一三号証の1)、右耐熱温度七〇〇℃というのはロックウール繊維のみの耐熱温度としては適正である旨主張する。しかし、被告アサヒの援用する甲A第一五号証の2には「ロックウール自体は融点…八五〇℃、安全使用温度…六五〇℃の物性を持っておりますが」との記載があるものの、これは前記(二)(3)のとおり日東紡建工株式会社の製品(ルーフネン)に関する記載であるのみならず、仮にロックウール自体の安全使用温度が六五〇℃であるとしても、右(一)及び前記2(一)によれば耐熱温度としては製品として安全に使用できる温度を表示すべきであるし、甲B第一三号証の1(昭和耐熱株式会社のパンフレット)には、被告アサヒの主張を裏付ける記載はない(却って、同社の販売するスラグファイバーについてその使用最高温度は三〇〇℃であるとの記載がある。)。

(四) 以上によれば、AS六五、AS六六、AS二一〇、AS二三〇を製品として実際に安全に使用することができる温度を直接認定する資料はないものの、前記(一)の(1)及び(2)の通気度試験(耐熱温度の判断について一つの参考となりうることは前記2(一)(3)のとおり)によれば、AS六六、AS二一〇を七〇〇℃で三〇分間処理し、あるいはAS六六を二九〇℃で三〇分間処理すると、それぞれ通気抵抗が常温での通気抵抗に比して極端に低下すること(なお、甲B第一二号証の1・2、弁論の全趣旨によれば、AS六五とAS六六、AS二一〇とAS二三〇の素材はそれぞれ同一であると認められる。)、AS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇を二九〇℃あるいは三〇〇℃で安全に使用できることを示す資料がないこと、被告アサヒが同じAS二一〇、AS二三〇の耐熱温度につき七〇〇℃(被告表示一<14>)と三〇〇℃(被告表示一<19>)というように大幅に異なる二種類の表示をしているのは、その耐熱温度の表示についての根拠のなさを露呈するものといわざるをえないことに照らすと、少なくともAS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇は二九〇℃で安全に使用することはできないものと認められるから、被告表示一<14>、<15>、<19>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

なお、被告アサヒは、被告表示一<14>について、取引先に右商品を説明する際、商品カタログを持参のうえ、右商品にはスフも混紡されているため二九〇℃以下で使用するようにと言って十分説明を尽くしていると主張するが、これを認めるに足りる証拠はないのみならず、耐熱温度を二九〇℃と説明すること自体が誤認を惹起することになることは右のとおりである。また、被告表示一<15>は、被告広告一5(甲B第一二号証の2)における被告表示一<14>等の表の欄外に印刷したシールを貼付したもの(同号証の1)であるところ、被告表示一<15>自体が誤認惹起表示に該当することは別としても、AS六五、AS六六、AS二一〇及びAS二三〇はすべて紡織品である(証人黒瀬厚志)にもかかわらず、あたかも、右各商品の耐熱温度は七〇〇℃であるが「紡織品」に限って例外的に耐熱温度が二九〇℃であるかのような印象を与えるものであるから、被告表示一<14>による耐熱温度の表示の効果を打ち消したり減殺するものではなく、まことに姑息な対応と評さざるをえない。

11  ダクトテープ(被告表示一<16>)

原告は、AS二一〇、AS二三〇は排煙用たわみ継手材であるところ、平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)の規定によれば、排煙用たわみ継手は六〇〇℃に耐えるべきものと明記されているのに、AS二一〇、AS二三〇は被告アサヒの主張によっても耐熱温度が二九〇℃であり、到底六〇〇℃には耐えられない旨主張するが、被告アサヒはAS二一〇、AS二三〇を「ダクトテープ」とは表示しているものの、排煙用たわみ継手材と表示したことを認めるに足りる証拠はない(却って、被告広告一6では、「空調用ダクトキャンバス」と明記されている。)。

原告は、平成元年版建設省仕様書では一般用たわみ継手としてはロックウールの素材を予定していないから、AS二一〇、AS二三〇の掲載された被告広告一5を見る者は、右両商品が一般用の製品として掲載されていると理解する可能性は全くなく、「七〇〇℃に耐える」(被告表示一<14>)ロックウール製品であるから建設省仕様書の排煙用たわみ継手適合品である、と受け止めるのが当然である旨主張するが、直ちに採用することができない。

原告は、AS二一〇、AS二三〇はダクト材の一つであるたわみ継手材としては不適格の商品であるとも主張し、右両商品が一般空調用たわみ継手材としても不適格であるかのようにいうが、これを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告表示一<16>をもって誤認惹起表示に該当するということはできない。

12  耐熱温度三〇〇℃(基材)(被告表示一<17>)

(一) ガラスクロスについて耐熱温度が表示されれば、設備工事業者等の顧客は、耐熱温度をもってその製品を安全に使用することができる温度であるという印象を受けるものと考えられるから、被告表示一<17>がAS一二〇、AS一二三は三〇〇℃でも安全に使用できるとの印象を与えることは明らかである。被告アサヒは、甲B第一五号証の2ではAS一二〇、AS一二三の基材としてのガラスクロスの耐熱温度の表示とこれに貼付されている塩ビ樹脂の耐熱温度の表示とを区別し、塩ビ樹脂の耐熱温度を一〇〇℃と表示していると主張するが、甲B第一五号証の1には塩ビ樹脂の耐熱温度の表示はないのみならず、顧客の関心事は個々の構成部分の耐熱温度ではなく一般空調用たわみ継手材という製品そのものの耐熱温度であると考えられるから、右塩ビ樹脂の耐熱温度の表示によっては右のような印象を打ち消しあるいは減殺するということにはならない。

したがって、被告表示一<17>が誤認惹起表示に当たるか否かは、AS一二〇、AS一二三が一般空調用たわみ継手材として三〇〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきである(以上については前記2(一)と同様である。)。

(1) AS一二〇の基材は、ユニチカユーエムグラス株式会社製コーテッドガラスH二〇一CA、AS一二三の基材は同じくH二〇一CEであって、いずれもガラスクロス単体ではなく塩ビ樹脂をコーティングしたものであるが(原告と被告アサヒとの間で争いがない。)、原告は、その塩ビ樹脂の耐熱温度は八〇℃である(甲B第一六号証)から、耐熱温度として、塩ビ樹脂の耐熱温度ではなくガラスクロスの耐熱温度を表示した被告表示一<17>(被告表示一6のうちの甲B第一五号証の1)は、無意義であるばかりか却って有害であり、誤認惹起表示に当たる旨主張するところ、右塩ビ樹脂の耐熱温度は、これをそのままAS一二〇、AS一二三の耐熱温度とすべきかどうかは別として、その重要な判断資料になるというべきである(前記2(一)(4)参照)。

被告アサヒは、甲B第一五号証の2作成以前にユニチカユーエムグラス株式会社に耐熱温度を確認したところ、ガラスクロスは三〇〇℃から三五〇℃ぐらい、塩ビ樹脂は八〇℃から一〇〇℃ぐらいであると言われたと主張し、乙第二〇号証、証人黒瀬厚志の証言中にはこれにそう部分もあるが、甲B第三五号証に照らして採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。却って、同社は、被告アサヒ宛平成三年七月八日付内容証明郵便により、右H二〇一CA、H二〇一CEの耐熱温度は八〇℃である旨通告しているところである(甲B第一七号証)。

(2) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったAS一二〇、AS一二三の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗がいずれも試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、三〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗はAS一二〇で二・二六KPa・s/m、AS一二三で一・五〇KPa・s/mに低下することが認められる(甲B第四〇、第四一号証)。そして、甲B第四〇、第四一号証の報告書に貼付されたAS一二〇及びAS一二三の試験体のうち三〇〇℃で三〇分間処理したものは熱で変質しているように見受けられる。

(3) 原告が財団法人化学品検査協会大阪事業所に依頼して行ったAS一二三の耐折れ試験の結果によれば、常態での耐折れ強さが一〇万回以上であるのに対し、三〇〇℃±三℃で三〇分間熱処理後室温まで放冷したものは耐折れ強さが平均三七回に減少することが認められる(甲B第三六号証)。

耐折れ試験について、被告アサヒは、常に振動を受けている一般空調用たわみ継手には有効な評価方法であると考えるとしながら、一般空調用たわみ継手については、右甲B第三六号証のように三〇〇℃での熱処理などするものではなく、あくまでも常温時におけるものであり、平成五年版建設省仕様書の規定でも同様である旨主張する。しかし、平成五年版建設省仕様書(甲A第二四号証)における耐折れ強度の規定は、耐熱温度に関するものでないから、右甲B第三六号証の証拠価値を直接左右するものではない。そして、一般空調用たわみ継手は、缶体と缶体との間の振動部分につなぐ蛇腹様の筒であり、中を通る空気が外に出ないように密封するという機能を有するものであるから(原告代表者)、耐折れ試験は重要なものであり、耐熱温度三〇〇℃と表示されている以上、その温度での耐折れ強度の数値を検討するのは意義があるものというべきである。

(4) 被告アサヒは、引張強度三〇ないし四〇%辺りでの強度に基づき耐熱温度の表示を行うのが妥当と考えている旨主張するが、これが業界において一般に認識されているところであると認めるに足りる証拠はない。

(二) 右(一)によれば、AS一二〇、AS一二三を製品として実際に安全に使用することができる温度を直接認定する資料に乏しいものの、右(一)の(1)のとおりAS一二〇、AS一二三の基材であるH二〇一CA、H二〇一CEを製造しているユニチカユーエムグラス株式会社は、右基材の耐熱温度は八〇℃であるとしていること、同(2)、(3)のとおりAS一二〇、AS一二三を三〇〇℃で三〇分間加熱すると、通気抵抗が極端に低下し、AS一二三の耐折れ強度も大幅に低下すること、前記2(一)の(1)記載のとおり硝子繊維協会がガラスクロス(Eガラスヤーン使用の生機クロス〔糊剤付〕)の最高使用温度を「ある温度で加熱処理し、引張強度(常温測定)が略一定になった時、引張強度保持率が五〇%を確保できる温度」をいうものとして二三〇℃としていること、同(6)のとおり日東紡績株式会社のカタログには、同社のガラスクロス製品の引張強度について「一〇〇℃では、常温と同様か若干高い強度を保持します。二五〇℃では、時間と共に強度が下がりますが常温の約半分の強度を長時間保持します。」との記載がある外、「一般にグラスファイバーは約二〇〇℃位は常温と同じ強度を保持します。更に高温では常態よりも急激に強度を低下しますが、ある時間経過後はほぼ一定になります。」との記載があることに照らすと、少なくとも、AS一二〇及びAS一二三は三〇〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示一<17>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

13  耐熱温度三五〇℃(基材)(被告表示一<18>)

被告表示一<18>が誤認惹起表示に当たるか否かは、前記12と同様の観点から判断すべきである。

(一) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったAS一三二の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗が試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、三五〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗は〇・四四KPa・s/mに低下することが認められる(甲B第四二号証)。そして、甲B第四二号証の報告書に貼付されたAS一三二の試験体のうち三〇〇℃で三〇分間処理したものは熱で変質しているものと見受けられる。

(二) これに前記12(二)の諸事情を総合すれば、AS一三二についての被告表示一<18>は、誤認惹起表示に該当するというべきである。

14  平成五年版建設省仕様書に基づく財団法人日本建築センター防災性能評定試験について

(一) 証拠(甲A第二四号証、第四〇号証〔たわみ継手の評定申込要領〕)によれば、平成五年版建設省仕様書における一般空調用たわみ継手、排煙用たわみ継手、フランジガスケット材についての規定及びこれに基づく財団法人日本建築センター防災性能評定を受けるための試験の内容は、前記第三の一【被告アサヒの主張】13(一)(2)の<1>、<2>イ、<3>のとおりであることが認められるところ、乙第三一号証によれば、被告アサヒは、そのアルミ箔貼りガラスクロス「AS八〇〇」について、右防災性能評定を受けるための財団法人建材試験センターによる「排煙機用たわみ継手に用いるアルミニウム箔貼りガラスクロスの性能試験」において「昭和四五年建設省告示第一八二八号に規定する不燃材料の表面試験に合格」との判定を受け、また、同じく「AS八〇〇-H」について、同センターによる「排煙機用たわみ継手の耐熱振動試験」において「有害な破れや亀裂が発生せず、かつ漏気量が規定値の五m3/min・m2以下であったので、防災性能評定の基準に適合する。」との判定を受けたことが認められる。

(二) これに対し、原告は、被告アサヒはほとんど詐欺的手法で評定の取得を試み、これが評定委員会に見抜かれて、結局最初の評定申請は却下されたものである旨主張するところ(第三の一【原告の主張】15(一))、乙第三一号証によれば、アルミ箔をガラスクロスに貼り付ける接着剤として、右両試験のうち前者の不燃性等の試験の試験体である「AS八〇〇」は特殊耐熱性樹脂系フィルムを使用したものであり、後者の耐熱振動試験の試験体である「AS八〇〇-H」は特殊耐熱性合成ゴム系接着剤を使用したものであることは認められるものの、評定委員会がそれ故に原告主張のように信じがたい不正行為として被告アサヒの評定申請を却下したとの事実を認めるに足りる証拠はない(原告は、右の経過は原告が評定委員会に直接確認しているところであり、また、同じく評定申請をして評定を受けた株式会社イトー製作所が証明するところである〔甲B第四六号証〕などと主張するが、防災性能評定委員会が評定の経過を申請者以外の者に知らせることがあることを認めるに足りる証拠はない。)。

(三) しかしながら、右両試験に合格したAS八〇〇及びAS八〇〇-Hは、被告表示一が使用されている被告製品ではないうえ、被告アサヒ自身が「空調タイムス」の取材に応じて、AS八〇〇は従来のAS一三二の五倍の強度があリ、その排煙機仕様としてAS八〇〇-Hがあるとしている(甲B第四七号証の2)ものであるから、右(一)の両試験合格の事実は、被告表示一が誤認惹起表示に当たるか否かという点について参考になるものではない。

二  争点2(被告表示二<1>ないし<9>は誤認惹起表示に当たるか)について

1  基材 ガラスクロス 六〇〇℃(被告表示二<1>)

(一) ガラスクロスについて耐熱温度が表示されれば、設備工事業者等の顧客は、耐熱温度をもってその製品を安全に使用することができる温度という印象を受けるものと考えられるから、被告表示二<1>が誤認惹起表示に当たるか否かは、それが「基材 ガラスクロス 六〇〇℃」という表示であっても、SN一〇〇九、SN一〇一九が排煙用たわみ継手材として六〇〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきであることは、前記一の2(一)及び12(一)の場合と同様である。

(1) アルミ箔の剥離温度は、これをそのままSN一〇〇九及びSN一〇一九の耐熱温度とすべきかどうかは別として、その重要な判断資料になることは前記一2(一)(4)説示のとおりである。

(2) 原告は、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材が前田硝子株式会社製のガラスクロスであることを前提として、そのガラスクロスの引張り強さの数値(甲C第七号証)からすれば六〇〇℃という耐熱温度の表示は不当に高い旨主張するが、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材が前田硝子株式会社製のガラスクロスであることを認めるに足りる証拠はない。原告は、SN一〇〇九及びSN一〇一九の基材が他社製であるとしても、素材がガラスである以上、その性能は基本的には変わらないものである旨主張するところ、右引張り強さの数値は、直ちにそのままSN一〇〇九及びSN一〇一九の引張り強さの数値として採用することはできないが、一応の参考にはなるというべきである。

(3) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったSN一〇〇九及びSN一〇一九の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗がいずれも試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、六〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗はSN一〇〇九で〇・六八KPa・s/mに、SN一〇一九で〇・四二KPa・s/mに低下することが認められる(甲C第一七、第二〇号証)。

(4) 被告三喜は、被告表示二<1>についてはSN一〇〇九、SN一〇一九の基材の製造メーカーから右表示に問題はない旨の回答を得ていると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

被告三喜は、また、丙第四号証を提出して、SN一〇〇九は平成五年版建設省仕様書におけるたわみ継手の品質基準である財団法人日本建築センターの防災性能評定品としての基準に適合するものである旨主張するところ、右丙第四号証によれば、被告三喜は、その排煙機用たわみ継手「SN-一〇〇九」について、右防災性能評定試験を受けるための財団法人建材試験センターによる「排煙機用たわみ継手の耐熱振動試験」において「有害なやぶれや亀裂が発生せず、かつ漏気量が規定値の五m3/min・m2以下であったので、防災性能評定の基準に適合する。」との判定を受けたことが認められるが、右丙第四号証及び甲C第二三号証(認定書)並びに弁論の全趣旨によれば、被告三喜が被告広告二1で宣伝してきたSN一〇〇九は、アルミ箔の接着剤としてポリエチレンフィルムを使用したものであるのに対し、被告三喜が右丙第四号証の試験体として提出した「SN-一〇〇九」は、接着剤としてクロロプレン系接着剤を使用したものであることが認められるから、結局、右耐熱振動試験合格の事実をもって被告表示二<1>を正当化することはできない。

(二) 右(一)の事実に、前記一の2、12、13説示の事実を総合すれば、少なくとも、SN一〇〇九及びSN一〇一九は排煙用たわみ継手材として六〇〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示二<1>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

2  基材 ロックウール六〇〇℃(被告表示二<2>)

(一) 被告表示二<2>が誤認惹起表示に当たるか否かは、SN一〇一四及びSN一〇二四が排煙用たわみ継手材として六〇〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきであることは、前記1の被告表示二<1>の場合と同様である

(1) アルミ箔の剥離温度がSN一〇一四及びSN一〇二四の耐熱温度の重要な判断資料となることは、前記1の被告表示二<1>の場合と同様である。

(2) SN一〇一四及びSN一〇二四の基材が昭和耐熱株式会社の製造にかかるスラグテックスであることは争いがなく、同社のパンフレット(甲C第五号証の1)ではその使用最高温度を三〇〇℃としているところ、被告三喜は、SN一〇一四、SN一〇二四の基材は甲C第五号証の1記載のものとは異なり、セラミック成分を添加した耐熱温度六〇〇℃のSRC六〇〇というロックウールクロスであって、同社から右の表示が正しい旨の回答を得ている旨主張し、丙第三号証(同社の被告三喜宛回答書)には、「別紙のカタログは三〇〇℃のSR-二五〇℃用でありSR-六〇〇のカタログではない。セラミック成分を添加したことにより六〇〇℃の最高温度を保てることで製作を依頼した。」との記載があるが、仮にSN一〇一四、SN一〇二四の基材がSN-六〇〇であるとしても、右最高温度を裏付けるに足りる資料はない(なお、丙第三号証によれば、そのSN-六〇〇の強熱減量の規格値は二三パーセント以下と表示され、この数値について「上記規格値は石綿製品JISR三四五〇に準ずる」と付記されている。そして、元来素材の違う石綿とロックウールの強熱減量の数値を比較することは相当でないが、製造者である昭和耐熱株式会社自身が右のとおり付記していることからすると、同社は強熱減量の数値を石綿同様耐熱温度を求める参考としているとみる余地もあるので、右数値を石綿糸の規格に照らしてみると〔甲C第六号証・日本石綿製品工業会「石綿工業製品」五〇頁第2・8表〕、等級AA級の石綿糸に該当し、右AA級の石綿糸の石綿含有率が九〇パーセント以上であることから、同号証五一頁第2・9表により使用最高温度が三一五℃であるということになる。)。

(3) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったSN一〇一四及びSN一〇二四の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗がいずれも試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、六〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗はSN一〇一四で〇・六〇KPa・s/mに、SN一〇二四で一・六三KPa・s/mに低下することが認められる(甲C第一九、第二一号証)。

(4) 原告が財団法人化学品検査協会大阪事業所に依頼して行った昭和耐熱株式会社製のSRC六〇〇の耐折れ試験の結果(甲C第一三号証)によれば、常態での耐折れ強さの平均値が五四四〇回であったのに対し、六〇〇℃±六℃中で三〇分間熱処理後室温まで放冷したものの耐折れ強さの平均値は四回であったことが認められる。

(二) 右(一)の事実によれば、少なくとも、SN一〇一四及びSN一〇二四は六〇〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示二<2>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

3  基材 ガラスクロス 五五〇℃(被告表示二<3>)

(一) 被告表示二<3>が誤認惹起表示に当たるか否かは、SN一〇〇三及びSN一〇一三が一般空調用たわみ継手材として五五〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきであることは、前記一の2(一)及び12(一)の場合と同様である。

(1) アルミ箔の剥離温度がSN一〇〇三及びSN一〇一三の耐熱温度の重要な判断資料となることは、前記一2(一)(4)説示のとおりである。

被告三喜は、アルミ箔が原告主張の二〇〇℃で基材のガラスクロスから剥がれることは業者間のいわば常識に属することであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告は、SN一〇〇三及びSN一〇一三の基材がユニチカユーエムグラス株式会社製造の三五九ADであることを前提として、同社は被告三喜に対し三五九ADの耐熱温度は二〇〇℃であるとして、耐熱温度五五〇℃の表示を是正するよう通告している(甲C第三号証)旨主張するが、右甲C第三号証(ユニチカユーエムグラス株式会社の被告三喜宛内容証明郵便)には「当社商品八〇七CK、三五九ADの耐熱温度は、それぞれ順に八〇℃、二〇〇℃であります。」と記載されているものの、右三五九ADを使用している被告三喜製品の品番は特定されておらず、結局、SN一〇〇三及びSN一〇一三の基材が三五九ADであると認めるに足りる証拠はないといわざるをえない。原告は、ユニチカユーエムグラス株式会社にSN一〇〇三のサンプルを持参してその確認を求めたものであり、そのうえで右通告がされたのであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

一方、被告三喜は、SN一〇〇三及びSN一〇一三の基材の製造メーカーから被告表示二<3>に何ら問題はない旨の回答を得ている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(3) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったSN一〇〇三及びSN一〇一三の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗がいずれも試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、五五〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗はSN一〇〇三で〇・五〇KPa・s/mに、SN一〇一三で〇・八七KPa・s/mに低下することが認められる(甲C第一六、第一八号証)。

(二) 右(一)の事実に、前記一の2、12、13説示の事実を総合すれば、少なくとも、SN一〇〇三及びSN一〇一三は一般空調用たわみ継手材として五五〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示二<3>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

4  基材 ガラスクロス 三〇〇℃(被告表示二<4>)

(一) 被告表示二<4>が誤認惹起表示に当たるか否かは、SN一二一〇が一般空調用たわみ継手材として三〇〇℃で安全に使用することができるか否かという観点から判断すべきであることは、前記一の2(一)及び12(一)の場合と同様である。

(1) 弁論の全趣旨によれば、SN一二一〇の基材はユニチカユーエムグラス株式会社製造の、表面を塩ビ樹脂でコーティングしたガラスクロスである八〇七CKであると認められるところ、前記3(一)(2)のとおり、甲C第三号証(ユニチカユーエムグラス株式会社の被告三喜宛内容証明郵便)には、「当社商品八〇七CK、三五九ADの耐熱温度は、それぞれ順に八〇℃、二〇〇℃であります。」と記載されており、ユニチカユーエムグラス株式会社の過去の「コーテッドガラス規格・性能表」(丙第一号証)では八〇七CKの耐熱温度の欄にガラス基布約三〇〇℃、塩ビ約八〇℃との記載があるが、現在の「コーテッドガラス規格・性能表」(甲C第二号証)では八〇七CKの耐熱温度の欄に塩ビ約八〇℃との記載があるのみであることからすると、同社は現在八〇七CKの耐熱温度としては塩ビ樹脂の耐熱温度を表示することが望ましいとしているものと認められる。

被告三喜は、同社からSN一二一〇の基材の耐熱温度を三〇〇℃と表示することに何ら問題がない旨の回答を得ているとか、表面の化粧塩化ビニルの耐熱温度が八〇℃であることは業者間のいわば常識に属することである(から、右温度をサンプル帳に表示する必要はない)と主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったSN一二一〇の通気度試験の結果によれば、常温での通気抵抗が試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s/m以上)を示すのに対し、三〇〇℃で三〇分間処理するとその通気抵抗は一・八〇KPa・s/mに低下することが認められる(甲C第二二号証)。そして、その報告書に貼付された試験体のうち三〇〇℃で三〇分間処理したものは熱で変質しているものと見受けられる。

(二) 右(一)の事実に、前記一の2、12、13説示の事実を総合すれば、少なくとも、SN一二一〇は一般空調用たわみ継手材として三〇〇℃で安全に使用することができないものと認められるから、被告表示二<4>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

5  「不燃シルバーガラスクロス」(被告表示二<5>)、「不燃性」「不燃シール」(被告表示二<7><8>)

(一) 建築基準法の適用される建築材料について、特に留保なく「不燃」と表示した場合は、ダクト材の取引者、需要者において建築基準法二条九号にいう不燃材料であると理解するものと認められるから、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格していないものについて「不燃」の表示をすることが誤認惹起表示に当たることは、前記一4説示のとおりである。

被告三喜のSN一二一〇、PK一一五、PK二〇〇、PK二〇一、PK二〇二、PK九七が昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格したものでないことは弁論の全趣旨から明らかであるから、被告表示二<5><7><8>は誤認惹起表示に該当するというべきである。これに反する被告三喜の主張は到底採用することができない。

(二) 被告三喜は、PK九七については基材の製造メーカーである古河電気工業株式会社が準不燃認定を取得していると主張し、それ故「不燃」の表示が許されると主張するようであるが、後記7説示のとおり、右準不燃認定はPK九七の基材であるフネンエースを亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき取得したものであって、フネンエース単体として昭和五一年建設省告示第一二三一号の定める試験に合格したものではないから、採用することができない。

6  建設省不燃認定 不燃(個)一四四五号(被告表示二<6>)

不燃材料の認定は主たる用途を定めてされるものであることは前記一9説示のとおりであり、甲C第二号証及び弁論の全趣旨によれば、SN一二一〇の基材である八〇七CKは主たる用途を一般空調用たわみ継手材として不燃材料の認定を受けたものではないと認められるから、被告表示二<6>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

これに反する被告三喜の主張は採用することができない。

7  建設大臣認定 準不燃第二〇二五号(被告表示二<9>)

被告表示二<9>の準不燃認定番号は、前記一7説示のとおり、主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井等」として建設大臣の認定を受けた認定番号であり、主たる用途を「フランジガスケット材」として認定を受けたものではないから、「建築物の屋根・壁・天井等」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について使用された被告表示二<9>は誤認惹起表示に該当するというべきである。

また、被告表示二<9>の準不燃認定番号は、古河電気工業株式会社製の無機質高充填フォームプラスチック「フネンエース」を亜鉛鉄板と貼り合わせたものにつき取得したものであることは前記一7説示のとおりであるところ、PK九七の基材は、亜鉛鉄板と貼り合わせていないフネンエース単体である(弁論の全趣旨)から、PK九七は、昭和五一年建設省告示第一二三一号の定める試験に合格したものとも、準不燃材料の認定を受けたものともいえないことは明らかである。したがって、この点からも、PK九七に準不燃認定番号を表示するのは誤認惹起表示に該当するというべきである。

三  争点3(被告表示一又は被告表示二が誤認惹起表示に当たる場合、原告は、被告アサヒ製品又は被告三喜製品の販売の差止めを求めることができるか)について

1  原告の営業上の利益の侵害

原告製品と被告アサヒ製品及び被告三喜製品とは、原告製品がカーボンを素材とするものであり(なお、現在は、原告もガラス繊維及びロックウールを素材とする製品も販売している。乙第四三号証、丙第五、第六号証)、被告アサヒ製品及び被告三喜製品がガラス又はロックウールを素材とするものであるという違いはあるものの、石綿の使用が廃止された後に主流となった非アスベスト製品たるダクト材として同一の目的を有するものであり、弁論の全趣旨によればその対応関係は別紙「対応表」記載のとおりであることが認められるから、原告製品と被告アサヒ製品及び被告三喜製品との間には競合関係が生じるものといわなければならない。

そして、証拠(甲A第一、第一四、第一六号証、第五三、第五六号証の各1、甲B第一、第四号証、第六ないし第九号証、第一二号証の1・2、第一三号証の1、第一五号証の1・2、第一六、第一八号証、甲C第一、第二、第四号証、第五号証の1、第八ないし第一〇号証、乙第四、第五号証の各1、第六号証、第一三号証の2~8、第一六号証、丙第一号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告、被告アサヒ及び被告三喜を含むダクト材やその基材のメーカーは、その製品につき不燃性ないし(準)不燃認定番号、耐熱性(特に耐熱性が石綿に匹敵するか、それ以上であること)、JIS番号等をセールスポイントとして積極的に宣伝しており、設備工事業者等のダクト材の顧客も、当然これらの事項を重要な判断要素としていずれの製品を購入するかを決するものであることが認められるから、被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>、被告表示二<1>ないし<9>が誤認惹起表示であることによって、原告は営業上の利益を侵害されるおそれがあるということができる。

これに反する被告アサヒの主張は、採用することができない。

2  商品の販売自体の差止め

被告表示一及び被告表示二は、被告商品自体には直接付されていないところ、原告は、単にパンフレット類(被告広告一1ないし6又は被告広告二1ないし3)における誤認惹起表示が正されたとしても、被告らは依然として被告らの製品をダクト材としての適合品として販売するおそれが強いから、製品の販売自体が差し止められなければ目的が達せられないことになるなどとして、本訴において、各誤認惹起表示の差止めのみならず、被告らの製品の販売の差止めをも求めるものであると主張する。

しかしながら、本訴における原告の差止請求である請求の趣旨第一項及び第三項は、単純に「被告アサヒ(又は被告三喜)は、被告アサヒ製品(又は被告三喜製品)を販売してはならない。」として被告らの製品の販売の差止めを求めるものではなく、「被告アサヒ(又は被告三喜)は、被告アサヒ製品(又は被告三喜製品)について、被告表示一(又は被告表示二)をパンフレット等に表示して各商品を販売してはならない。」として被告表示一(又は被告表示二)をパンフレット等に表示して被告らの製品を販売することの差止めを求めるものであることは明白である。要するに、原告の前記のような主張にもかかわらず、本訴における原告の差止請求は、単純な被告らの製品の販売の差止めではなく、被告表示一又は被告表示二を表示しての被告らの製品の販売の差止めを求めるものであって、かかる差止請求が認められることは、不正競争防止法二条一項一〇号後段、三条の解釈上明らかである。

この点に関する被告らの主張は、いずれも右説示に反する限度で採用することができない。

四  争点4(被告アサヒは被告表示一の使用を、被告三喜は被告表示二の使用をそれぞれ廃止しているか。将来同様の表示をするおそれがあるか)について

1  被告らは、「空調タイムス」平成七年七月一九日号に別紙のとおりの内容の「カタログ類の性能表示変更のお知らせ(たわみ継手材・フランジ用ガスケット)」と題する広告を掲載したことが認められる(乙第三四号証、丙第八号証)。

そして、現在、被告アサヒは被告広告一1ないし6を、被告三喜は被告広告二1ないし3を新たに配布してはおらず(証人黒瀬厚志、弁論の全趣旨)、被告アサヒは乙第三二、第三三号証、第三五ないし第三八号証のパンフレット等を、被告三喜は甲C第二五号証のパンフレットを配布していることが認められる。

2  右1の事実によれば、現在、被告アサヒは誤認惹起表示に当たる被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>の使用を、被告三喜は同じく被告表示二<1>ないし<9>の使用を一応中止しているということができる。

しかしながら、被告らが空調タイムスに掲載した前記広告は、その内容が「…今後の表記方法としては、『耐熱温度』の表記廃止、『その目的に沿った公的試験方法とその結果』の表記、認定外品の『不燃材』ないし『不燃』の表記の廃止、難燃材の難燃性レベルの表記を別表の基準で実施することと致しました。たわみ継ぎ手は、排煙機用たわみ継ぎ手の防災性能評価試験方法が確立しているのでその中からの引用に留め、機械的強度などは工事共通仕様書に記載された方法で行なったものを結果とともに表記することとします。フランジ用ガスケットは現在、公的機関において認定に関する試験方法等の最終的な検討を行っている最中のため、耐熱(熱的)性能に関する表記は認定試験方法が制定されるまでの間は一切行なわないということにします。これにともない既に発行済のカタログ、サンプル表等に耐熱温度、主目的以外の不燃認定番号等、公的試験外の耐熱性能等の表記のあるものはお手数ですがすべて廃棄して下さい。新しいカタログ、サンプル表は別途お届け致します。」、耐熱温度について「公的機関での一定した試験方法等が無いため、一切の表記を行わない。」、熱的性能について「たわみ継ぎ手に関しては、排煙機用たわみ継ぎ手の性能評価試験があり、それらの客観的データ等を表記する。※例 昭和四五年建設省告示第一八二八号の第三表面試験(三〇五℃一〇分加熱)に合格。フランジ用ガスケットの公的性能評価試験方法が制定されていないので、制定されるまでの間は熱的性能に関する表記は一切行わない。」というものであって、被告表示一又は被告表示二を掲載した被告広告一1ないし6又は被告広告二1ないし3との結びつきが明確でなく、具体的にこれらにおけるいかなる表示をどのように訂正するのか不明であるのみならず、業界紙へのたった一回きりの掲載であり、被告らが被告広告一1ないし6又は被告広告二1ないし3を現実に回収したことを認めるに足りる証拠もなく、本訴において被告らが被告表示一又は被告表示二は誤認惹起表示ではないとして争うその主張の内容、応訴態度に照らすと、被告らは将来再び被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>又は被告表示二<1>ないし<9>と同旨の誤認惹起表示をするおそれがあるものといわなければならない(被告三喜は、被告三喜製品のうちの大部分の商品の販売自体を中止し、今後も販売する予定はない旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

以上に反する被告らの主張は失当という外ない。

したがって、原告の差止請求のうち、被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>又は被告表示二<1>ないし<9>を表示しての被告らの製品の販売の差止めを求める請求(侵害予防請求)は、格別の事由のない限り理由があるというべきである。

3  被告三喜は、本件の請求の趣旨において原告が求める差止請求は、侵害停止請求であることは明白であり、将来の侵害予防請求の趣旨を読み取ることはできない旨主張するが、前記第三の四【原告の主張】3によれば、原告の差止請求の趣旨が、主位的に侵害の停止を、予備的に侵害の予防を求めるものであることは明らかである(なお、侵害停止請求と侵害予防請求とは、請求の趣旨ないし主文における表現としては、同じになる。)。

五  争点5(被告らの損害賠償責任の有無、及び被告らが原告に賠償すべき損害の額)について

1  原告製品と被告アサヒ製品及び被告三喜製品との間に競合関係が生じることは前記三1認定のとおりである。

2  原告は、原告の販売するダクト材の売上げは、昭和六二年までは増大したが、ダクト材販売業者が一斉に非アスベスト製品に移行した昭和六三年以降は、石綿製品当時に比較して急激に減少したところ(甲A第二号証の1・2)その最大の原因は、被告ら及び別件訴訟の被告であるアズミ建材株式会社、渡辺工業株式会社がパンフレット等に誤認惹起表示をすることにより売上げを伸ばし、他方かかる表示のない原告製品は顧客の目を惹きにくいところとなったことにある旨主張し、その損害額について、原告の昭和六二年度(昭和六二年三月~昭和六三年二月)のダクト材の売上額と比較して昭和六三年度以降の毎年(昭和六三年三月~平成元年二月、平成元年三月~平成二年二月、平成二年三月~平成三年二月、平成三年三月~五月)の売上げの減少額を算出し、これに利益率三〇パーセントを乗じたものが原告の逸失利益であり、その合計は七九九一万八三二七円となり(甲A第二号証の1・2には同旨の記載がある。)、そして、非アスベスト製品販売開始時まで、すなわち昭和六二年度以前まで遡って計算すれば原告の損害額は総計八〇〇〇万円を下ることはない旨主張する。

しかし、本件訴訟において原告が競合関係に立つと主張するのは原告の素材がカーボン繊維製のダクト材すなわち原告製品と、被告らの素材がガラス繊維製又はロックウール製のダクト材すなわち被告アサヒ製品及び被告三喜製品であるところ、右甲A第二号証の1(売上金額・売上げの低下金額・予想利益を示す表)の売上金額には、素材が石綿製及び「カロリン」製(乙第一六号証)のダクト材の売上げが含まれているのであって(原告代表者、弁論の全趣旨)、これをもって原告のカーボン繊維製のダクト材の売上げの減少の証拠とすることはできない。証拠(甲A第二〇号証、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告がそのダクト材の売上げが石綿製品当時に比較して急激に減少したと主張する昭和六三年は、原告及び被告らを含むダクト材の製造販売業者が一斉に石綿製品から非アスベスト製品への切替えを図った時期であることが認められ、それまで石綿製品を販売していた取引先に対し、物性の全く異なるカーボン製品を引き続いて同じ程度の数量販売することができたという保証はない。特に、平成元年版建設省仕様書(甲A第四号証)では、ダクト材の素材について、フランジガスケット材は「糸状のグラスウール、ロックウール等を使用した厚さ三mm以上のテープとし、飛散の恐れがなく耐久性を有したものとする。」、一般空調用たわみ継手材は「JISR三四一四(ガラスクロス)に準じた縦糸とバルキ加工した横糸を用いて厚さ〇・六五mm以上、質量四四五g\m2以上のあや織ガラスクロスに…」、排煙用たわみ継手材は「六〇〇℃に耐えるロックウール、アルミナ繊維、シリカ繊維のクロスで」とされ、カーボン製品が使用できるものとして明記されていなかったこと(なお、排煙用たわみ継手材については、平成元年版建設省仕様書第一版第六刷〔甲A第一九号証〕では、「特記による。」とされている。)等、カーボン製品には競争上不利な面があったということができる(乙第一四号証)。

また、甲A第二〇号証には、被告アサヒ及び被告三喜の誤認惹起表示によって原告が受注に失敗したり、取引先を奪われたとする例がいくつか記載されており、原告代表者もこれに沿う供述をするが、そのうち、ミダイ工機株式会社との取引についてはカロリン製品に関するトラブル、株式会社二川商店との取引については価格を巡るトラブルに起因している可能性が強く(乙第一五、第二一号証、証人黒瀬厚志)、その他の事例についても、原告製品と被告らの製品との価格差(原告製品の方が被告アサヒ製品よりも五割から七割高い。証人黒瀬厚志)、販売形態の差異(原告は、販売店がほとんどなく、自ら営業活動をすることも少なく、カタログの送付を中心とする販売活動を行っているのに対し、被告らは、販売店を通じて営業活動を行っている。原告代表者、弁論の全趣旨)等、種々の要因が影響している可能性が高い。

3  以上要するに、原告は、誤認惹起表示というべき被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>、被告表示二<1>ないし<9>により、営業上の利益を侵害されるおそれがあることは前記三1説示のとおりであり、したがって、現実に原告が損害を被ったことも窺われないではないが(甲A第五二号証、第五三号証の1・2、第五四、第五五号証、第五六号証の1・2)、原告主張の期間における原告主張の損害額を認定するに足りる証拠はないから、結局、原告の本訴請求中被告らに対する損害賠償請求は理由がないといわざるをえない。これに反する原告の主張は採用することができない。

六  争点6(原告の本訴請求は信義則に反するか)について

原告の被告らに対する損害賠償請求は前記五のとおり理由がないから、被告らに対する差止請求(前記四説示の侵害予防請求)の関係で、被告アサヒが原告自らも誤認惹起表示を行っているとして挙げるものについて検討する。

1(一)  原告はMK三〇〇、MK三三〇(一般空調用たわみ継手材)について、JISR三四一四の表示をしている(乙第四三号証)ところ、被告アサヒは、MK三〇〇等の厚さは丙第六号証によれば〇・六五mmであり、JISR三四一四に該当しないことが明らかである旨主張する。

しかし、前記一6(一)説示のとおり、JISR三四一四ではガラスクロスの厚さは最大〇・六四mm±〇・〇九mm(許容差)とされているところ、右丙第六号証記載の厚さ〇・六五mmは右許容差の範囲内に含まれるのみならず、弁論の全趣旨によれば、測定機器の相違により、MK三〇〇、MK三三〇の厚さ自体もJIS規格での測定方法(甲B第一一、第二七号証)に従えば右〇・六五mmという数値より小さくなる可能性のあることが認められるから、右厚さの点をもってMK三〇〇、MK三三〇がJISR三四一四に適合しないということはできない。

(二)  原告はMK一七〇、MK一八〇、MK七〇、MK八〇、MK三五、MK四〇(フランジガスケット材)について「耐熱温度五六〇℃」との表示をしている(乙第四三号証)ところ、甲A第三七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が大阪府立産業技術総合研究所に依頼して行ったこれら製品の通気度試験において、五六〇℃で三〇分間加熱しても、通気抵抗が常温におけると同様試験に用いた機器では測定できないほどの高い数値(五〇〇KPa・s\m以上)を示したことが認められ、他にこれら製品が五六〇℃で安全に使用することができないものと認めるに足りる証拠はないから、前記表示をもって誤認惹起表示とする被告アサヒの主張は採用できない。

(三)  原告はMK三〇〇、MK三三〇、MK一七〇、MK一八〇、MK七〇、MK八〇、MK三五、MK四〇について「建設省告示一八二八号(不燃材料)第三表面試験合格」との表示(乙第四三号証)をしているところ、被告アサヒは右「不燃材料」との表示をもって誤認惹起表示に当たる旨主張する。

建築基準法の適用される建築材料について、特に留保なく「不燃」と表示した場合は、建築基準法二条九号にいう不燃材料であると理解されること、右不燃材料であるためには、昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める「第二 基材試験」及び「第三 表面試験」に合格することが必要であることは前記一4(一)説示のとおりである。右各製品が「第三 表面試験」に合格したのみであることは乙第四三号証の記載から明らかであるところ、不燃材料を指定する建設省告示第一八二八号の試験に右の二種類があることを顧客が知っているとは限らないことを考慮すれば、乙第四三号証における表示の仕方は若干不親切の嫌いはあるものの、右のように「第三 表面試験」に合格したものであることが明記され、「第二 基材試験」に合格した旨の記載はなく、右乙第四三号証における「不燃材料」の表示は、その表示態様からして本来「建設省告示一八二八号」の内容を括弧書きで簡潔に表わしたものであると認められるから、誤認惹起表示に該当するとまでいうことはできない。

(四)  平成元年版建設省仕様書ではゴム系のものはフランジガスケット材として使用できないものとされたことは前記一5(一)説示のとおりである(原告自身が主張するところでもある。)ところ、乙第四四号証には、「新製品MK五〇(ゴム発泡ガスケット)」の項に、「建築基準法第百二十九条の二の二・六で地階を除く階数三以上である建築物、地階に居室を有する建築物又は延べ面積三千平方メートルを超え無い建築物に使用。超える建築物は建築基準法で不燃材料で造る事となっております。現在ガスケットで、市販されているロックウール及び、ガラスフェルト等は不燃材料では無く不当表示でございます。ガスケットは、建設省機械設備工事監理施工指針合致品のMK製品を使用下さい。」と記載されている。

原告は、右記載について、「建築基準法第百二十九条の二の二・六で地階を除く階数三以上である建築物、地階に居室を有する建築物又は延べ面積三千平方メートルを超え無い建築物に使用」できることを明示しており、一般のビル等には使用できないことを表示しているものであり、被告アサヒのようにあらゆるビル一般に使用することが可能であるとする表現とは全く性質が異なる旨主張するが、右記載は、通常の読み方をすればすべてMK五〇に関するものと受け取られるものであって、MK五〇は、本件全証拠によるも昭和四五年建設省告示第一八二八号に定める試験に合格しているとは認められず、かつ、ゴム発泡ガスケットであるので平成元年版建設省仕様書に合致しないにもかかわらず、あたかもMK五〇が不燃材料であり、右建設省仕様書に合致しているかのような印象を与えるものであるから、誤認惹起表示に該当するといわざるをえない。

2  被告アサヒは、原告は乙第一六、第一九号証においても、誤認惹起表示であると主張する被告表示一、二と同種の表示を行っていると主張するが、具体的に右各号証におけるいかなる表示をもって誤認惹起表示とするのか、その主張立証がない。

3  以上によれば、原告自ら誤認惹起表示に該当するような表示をしている事実が認められる(1(四))ものの、不正競争防止法二条一項一〇号、三条の立法趣旨として需要者の利益保護の色彩が強いことも考えれば、原告の右誤認惹起表示によって被告らの誤認惹起表示が正当化されるとか、原告が差止請求権を行使することが信義則に反するとまでいうことはできない。

第五  結論

よって、原告の請求は主文掲記の限度で理由がある。

なお、主文第一、第二項は、前記三2の説示から明らかなように、単純に被告アサヒが被告アサヒ製品を、被告三喜が被告三喜製品を販売することを差し止めるものではなく、被告アサヒが被告アサヒ製品の広告に被告表示一<1><2><4><5><9><11><12><13><14><15><17><18><19>を表示して被告アサヒ製品を販売すること、被告三喜が被告三喜製品の広告に被告表示二<1>ないし<9>を表示して被告三喜製品を販売することを差し止める趣旨であることはいうまでもない。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官本吉弘行は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

第一目録

番号 商品名 表示内容

1 AS三〇〇 <1> シリカクロス<2> 耐熱温度(シリカ)六〇〇℃<5> 完全不燃クロス

2 AS一〇〇〇 <3> 引張強度(kg/25mm)(五五〇℃時)たて、よこ29<4> 耐熱温度(ガラス)五五〇℃

3 AS一三二 <5> 完全不燃クロス<18> 耐熱温度三五〇℃(基材)

4 AS二〇AS二五 <6> ダクト用品としての表示

5 AS三〇 <6> ダクト用品としての表示<7> ブチルダクトテープ

6 AS三五 <6> ダクト用品としての表示<8> 上質ブチルダクトテープ

7 AS二〇〇〇 <9> JISR-三四一四ガラスクロス

8 AS二六AS二七 <10> ダクト用品としての表示<11> 防火認定 認定番号準不燃第二〇二五号

9 AS八五 <12> 強熱減量(%)17

10 AS八七 <13> 不燃(個)一七一六号認定

11 AS六五AS六六 <14> 耐熱温度(℃) 七〇〇<15>「但し紡織品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」

12 AS二一〇AS二三〇 <14> 耐熱温度(℃) 七〇〇<15> 「但し紡織品には二〇%未満のスフが混紡されているので二九〇℃以下で御使用下さい」<16> ダクトテープ<19> 耐熱温度 ロックウールクロス三〇〇℃

13 AS一二〇AS一二三 <17> 耐熱温度三〇〇℃(基材)

第二目録

番号 商品名 表示内容

1 SN一〇〇九SN一〇一九 <1> 基材 ガラスクロス 六〇〇℃

2 SN一〇一四SN一〇二四 <2> 基材 ロックウールクロス 六〇〇℃

3 SN一〇〇三SN一〇一三 <3> 基材 ガラスクロス 五五〇℃

4 SN一二一〇 <4> 基材 ガラスクロス 三〇〇℃<5> 不燃 シルバーガラスクロス<6> 建設省不燃認定 不燃(個)一四四五号

5 PK一一五PK二〇〇PK二〇一PK二〇二 <7> 不燃性

6 PK九七 <8> 不燃シール、不燃性<9> 建設大臣認定 準不燃第二〇二五号

対応表

ガスケット 空調用たわみ継手 排煙用たわみ継手

三笠技研 MK270MK280 MK250 MK260

アサヒ産業 AS20、AS25AS26、AS30AS35、AS65AS66、AS85AS87、AS2000 AS120、AS123AS132 AS210、AS230AS300、AS1000

三喜工業 PK97、PK115PK200、PK201PK202 SN1003SN1013SN1210 SN1009SN1014SN1019SN1024

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