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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3885号 判決 1992年9月29日

栃木県小山市大字荒井五六一番地

原告

株式会社ユニバーサル

右代表者代表取締役

岡田和生

右訴訟代理人弁護士

畑敬

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

岩坪哲

辻川正人

東風龍明

久世勝之

大阪市鶴見区今津北四丁目九番一〇号

被告

高砂電器産業株式会社

右代表者代表取締役

濱野準一

兵庫県西宮市甲子園口北町二四番一三号

被告

濱野準一

右両名訴訟代理人弁護士

浜田行正

田中稔子

山上和則

右三名輔佐人弁理士

鈴木由充

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告高砂電器産業株式会社は、別紙イ号物件説明書記載の物件を製造、販売してはならない。

二  被告高砂電器産業株式会社は、別紙イ号物件説明書記載の物件を廃棄せよ。

三  被告らは、原告に対し、各自金一億三六八〇万円及びこれに対する被告高砂電器産業株式会社は平成三年六月一日から、被告濱野準一は同月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告の実用新案権

1  原告は次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している(争いがない。)。

発明の名称 スロットマシン用リール

出願日 昭和五六年四月二四日(実願昭五六-五八五五九号)

出願公告日 昭和六一年一一月七日(実公昭六一-三八六三三号)

設定登録日 昭和六二年五月二八日

登録番号 第一六八一七九二号

実用新案登録請求の範囲

「(1) 平面が円板状をしたリール本体と、垂直部及び水平部を有し、前記リール本体の外周に等間隔で設けられたリブと、このリブの水平部の先端に連設されたリング部とを備えたスロットマシン用リール。

(2) 前記リール本体は皿状をしていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のスロットマシン用リール。」(添付の実用新案公報〔以下「公報」という。〕参照。)

2  本件考案の構成要件及び作用効果(甲二)

(一) 本件考案は次の構成要件からなる。

イ 平面が円板状をしたリール本体を備えること。

ロ 垂直部及び水平部を有し、前記リール本体の外周に等間隔で設けられたリブを備えること。

ハ このリブの水平部の先端に連設されたリング部を備えること。

ニ スロットマシン用リールであること。

(二) 本件考案の作用効果は次のとおりである。

リールの外周面に切欠部を形成したから、リールの慣性が小さくなり、小さなモータでも容易に起動することができる。また、切欠部が設けられているから、その分だけ材料を節約することができる。(公報4欄12~16行)

二  被告両名の行為

1  被告高砂電器産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、別紙イ号物件説明書記載のスロットマシン型遊戯機(以下「イ号物件」といい、それが装備するリールを「イ号リール」という。)を業として製造、販売しており、被告濱野準一(以下「被告濱野」という。)は被告会社の代表取締役である(争いがない。)。

2  イ号リールは次の構成を有する(イ号物件説明書)。

A ボス部102は、円形のリング状であって、外周縁に一周する補強リブ106が一体に設けられている。

B(1) 腕部103の先端は、横桟105aの長さ方向中央部に一体連結されている。

(2) 各腕部103はボス部102の外周等間隔に連設され放射状にボス部102の外周方向に延びている。

C(1) 各開口部107と隣接する開口部107との間には横桟105a、105bが介在し、各開口部107は前後の横桟105a、105bと両側の環状の側辺105c、105dとで周囲が囲まれている。

(2) 環状の両側辺105cと105dの外周縁には、環状部105の上面に突出する環状の立ち上がり壁104a、104bが一体形成されている。

D スロットマシン用リールである。

三  原告の請求の概要

1  被告会社に対し、イ号リールは、本件考案の技術的範囲に属するから、それを装備するイ号物件の製造、販売は本件実用新案権を侵害する行為であり、昭和六三年五月二八日から平成三年五月二七日までのイ号物件の製造販売に対する実施料相当額は一億三六八〇万円(二二八億円〔イ号物件の売上高〕×二〇パーセント〔イ号物件におけるイ号リールの利用率〕×三パーセント〔実施料率〕)であるとして、本件実用新案権に基づきイ号物件の製造販売の停止及び廃棄を請求するとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき右実施料相当の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年六月一日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を請求。

2  被告濱野に対し、同被告は、被告会社の代表取締役として悪意又は重大な過失により被告会社にイ号物件の製造販売をなさしめたから被告会社と連帯して損害を賠償する義務があるとして、右実施料相当の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年六月一七日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を請求。

四  争点

本件の主な争点は、<1>イ号リールが本件考案の技術的範囲に属するか、<2>本件考案が実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されたかの二点であり、当事者の主張の要旨は次のとおりである。

1  イ号リールが本件考案の技術的範囲に属するか。

(原告の主張)

(一) イ号リールの本件考案の構成要件充足性及び作用効果の同一性

(1) 構成要件イについて

イ号リールのボス部102は本件考案のリール本体に該当するから、イ号リールの構成Aは、本件考案の構成要件イを充足する。

なお、被告らは、「平面が円板状」のリール本体とは、リール本体が板状体であり、これを平面的に観測した場合、その外形が円形であることを意味し、イ号リールのボス部102は、外形は円形であるが、表面はフラットでなく「板状」ではないから、構成要件イを充足しない旨主張するが、リール本体が「板状体」であるとは如何なる意味であるか不明であり、その趣旨が、表面がフラットであるとの趣旨であれば、本件考案のリール本体は、「平面が円板状をしている」のであって、円板の表面がフラットであるということではないから右主張は失当である。このことは、実施態様項の「リール本体が皿状」をしていることからも明らかである。つまり、「リール本体」は「皿状」でも本件考案の技術的範囲に属するのであり、この「皿状」とは、外形、換言すれば平面が「円板状」ではあるが、表面、換言すれば断面が「フラット」ではない。

リール本体は「平面が円板状」であるとは、平面的に観測した場合、その外形が円い板のような形状であることを意味するのであり、そうであるからこそ、実施態様項の「皿状」を含む上位概念となるのである。したがって、ボス部102は本件考案の「平面が円板状をしたリール本体」に該当する。

(2) 構成要件ロについて

本件考案の「リブ」は、垂直部及び水平部を有し、リール本体の外周に等間隔で設けられている。これに対して、イ号リールの腕部103は本件考案のリブ垂直部に、横桟105aは本件考案のリブ水平部に該当し、各腕部103は本件考案のリール本体に相当するボス部の外周等間隔に連設されている。そして、腕部103の先端は横桟105aの長さ方向中央部に一体連結されているのであるから、この一体連結された腕部103と横桟105aからなる部材が本件考案のリブに相当することは明白であり、イ号リールの構成Bは、本件考案の構成要件ロを充足する。

被告らは、腕部はボス部と環状部を連結する単なる連結部材であるからリブではなく、腕部と横桟との数が一致していないから両者で一つの部材を構成することはない旨主張するが、ボス部と環状部を連結する単なる連結部材であるとしても、この構造上の特徴が本件考案のリブに相当する限り、構成要件ロを充足することは明らかであり、また、腕部103と横桟105aは一体連結されているのであって、一つの部材即ち本件考案のリブに相当する部材を構成していることは明らかであり、横桟105bは、本件考案に対する関係では単なる付加にすぎない。なお、被告らは、105bは105aと同様に環状部に開口部を設けることで形成されたものであり区別する理由はないと主張するが、どのような製造方法で製造されたかと、本件考案に対して付加であるか否かとは全く関係がない。

本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の詳細な説明中の「切欠部」とは、リールはプラスチックで一体成型して製造されるという製造方法の観点から、本件考案の「リブ」の構成を説明したものである(公報2欄21、22行)。したがって、どのような製造方法であれ、プラスチックで一体成型された場合の切欠部と同様の開口部を形成する場合は、本件考案の構成要件ロを充足する。つまり、どのような製法であれ、前記の「リブ」の構成たる、垂直部及び水平部を有し、リール本体の外周に等間隔で設けられているとの構成を有する限り、本件考案のリブに相当し、構成要件ロを充足するのである。被告らは、乙第二ないし第六号証に記載されたリールの環状部(外周面)に開口部を設けると、各腕部はこれまでの機能が変わるわけでもないのに、本件考案でいう「リブ」に変わってしまうことになると主張するが、その結論は当然の帰結である。それは、リールの環状部(外周面)に開口部を設けることにより、本件考案の水平部に相当する部分が形成され、またリール全体の重量は軽量化するからである。本件考案は実用新案であり「物」の考案であるから、本件考案の「リブ」は、「切り欠く」という方法で形成されていなければならないものではなく、「切り欠く」という方法で形成された構成と同じ構成であれば足りる。イ号リールや乙第二ないし第六号証のリールの各腕部間の空間は、素材が切り取られ(切り欠い)て形成されたものでなくてもよい。要は、各腕部間に空間があるような構造上の特徴、本件考案の「リブ」の構成を有していれば、たとえ、その製造方法が腕部と横桟の部材を各接着するという製造方法であったとしても、構成要件ロを充足するのである。

なお、本件考案の「リブ」はリールの補強材としての機能も有するから、「リブ」という語を用いたことが特殊な用法であるとはいえない。

(3) 構成要件ハについて

一体となった環状の側辺105cと立上がり壁104a及び環状の側辺105dと立上がり壁104bは、本件考案のリング部に相当し、右側辺105c、105dは本件考案のリブ水平部に相当する横桟105aの先端に連結されているから、イ号リールの構成Cは、本件考案の構成要件ハを充足する。

被告らは、横桟はリブ水平部に対応せず、横桟には先端はなく、更に、本件考案のリング部はリブの水平部を束ねて強度的に補強する役割を有するのに対し、イ号リールの立上がり壁は絵柄テープの位置決めのためであって根本的に作用効果が異なると主張するが、横桟105aが本件考案のリブ水平部に相当することは前記のとおりであり、また、本件考案のリブの水平部の「先端」とはまさしく端という意味であり、環状、円形状でもない限り先端の存在しない物はなく、横桟105aの先端は前記側辺105c、105dとの境である。作用効果の相違に関する主張も、そもそも、明細書のどこにも「本件考案のリング部がリブの水平部を束ねて強度的に補強する役割を有する」旨の記載はなく、更に、仮に、本件考案のリング部が被告ら主張の作用効果を有するとしても、そのことと、イ号リールの、一体となった環状の側辺105cと立上がり壁104a及び一体となった環状の側辺105dと立上がり壁104bが本件考案のリング部に相当するか否かの問題とは別問題である。

なお、被告らは、原告の解釈では乙第一三号証に示された公知のリールも本件考案の技術的範囲に属することになると主張するが、右の考案は、何等の切欠部もない回転盤の円周面に、鉄片等の強磁性を有する金属片を等間隔に固定する構成を有するものであるから、原告の解釈によっても、本件考案の技術的範囲に属するものではない。

(4) 構成要件ニ

イ号リールの構成Dは、本件考案の構成要件ニを充足する。

(5) 作用効果

イ号リールは、その環状部105に開口部107を設けることによって、本件考案と同じ作用効果を奏する。

被告らは、イ号リールは元々軽量な基本形態に加えて、環状部に複数の開口部を設けることにより一層の軽量化を図っている旨主張するが、イ号リールにおいても、環状部に複数の開口部を設けることにより一層の軽量化を図ったのであるから、本件考案と同じ作用効果を奏することは明らかである。

(6) よって、イ号リールは本件考案の技術的範囲に属する。

(二) スロットマシン用リールの類別について

スロットマシン用リールに関して、当業者ないし本件考案の技術分野において、車輪型リールとキャップ型リールの二種類に分ける類別はなされておらず、右類別は被告らが本件訴訟においてなした分類にすぎない。被告らの定義によっても、車輪型リールのボス部がほぼ幅中央に位置せず、これが一方に偏って位置すれば、キャップ型の円板状をなす垂直板部になるのであって、両リールの構造の差異はなくなる。

仮に、右類別があるとしても、本件考案は「スロットマシン用リール」に関する考案であって、その一部であるキャップ型リールのみを前提とした考案ではないことは、本件明細書中のどこにもそのような型、類別の記載がないことから明らかであり、かつ、「リブの垂直部」及び「リブ間に形成される切欠」等が、車輪型リールに馴染まない用語であるともいえず、車輪型リールは、軽量でもなく、回転ブレを生じないリールでもない。したがって、本件考案の技術的範囲は、キャップ型リール及び車輪型リールの両方を含む。

被告らは、車輪型リールには「軽量であり回転ブレはしない」との特徴があると主張するが、まず、何と比較して軽量なのか明らかでない。そもそも、被告らが、従来技術のうち車輪型リールであると主張する乙第二ないし第六号証に記載されたリールの外周面には、いずれも開口部ないし切欠部はなく、本件考案は右の従来技術のリールの外周面である「慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成したもので」(公報2欄20、21行)、「リールの外周面に切欠部を形成したから、」(公報4欄12、13行)リールの慣性が小さくなる、換言すれば、軽量化を図ったのである。被告ら主張のとおり、車輪型リールはキャップ型リールと比較して軽量であるのであれば、本件考案は、従来の車輪型リールを更に軽量にする考案である。

また、被告ら主張の車輪型リールの構造によると、各腕部やボス部の位置は正確にリールの「幅中央」ではなく「ほぼ幅中央」としているから回転ブレは生じる。そして、被告ら主張の車輪型リールにおいても「隣のリールを駆動するためのモータと干渉しないように逃がす」(公報2欄25~27行)ため「環状部とボス部とが棒状または板状をなす複数の腕部により、一方に偏った位置で連結する構造」のものも十分考えられ、その場合、ボス部を皿状にすれば「リールの重心が存在する平面でモータに連結することができるから、回転ブレを少なくすることができる」(公報2欄27行~3欄1行)のである。この点に関する、被告らの、車輪型リールの場合はボス部を皿状に形成する必要性は全くないとの主張は、車輪型リールが正確に「幅中央」で連結されていることを前提としない限り事実に反し、また、もし、車輪型リールとは、正確に「幅中央」で連結されている構造のリールであるとすると、「ほぼ幅中央」で連結されている構造のリールは車輪型とキャップ型のいずれとなるのか不明となる。

(三) 必須要件項と実施態様項について

被告らは、本件考案の解決課題(作用効果)はリールの「軽量化と回転ブレを克服すること」であると主張し、車輪型リールでは回転ブレは問題とならないことを根拠に、本件考案の実施態様項は必須要件項がキャップ型リールである場合に限り、その下位概念となり得ると主張する。

しかしながら、考案の技術的範囲は必須要件項の記載により確定される。これに対し、実施態様項は、必須要件項との関係を明らかにしながら、必須要件項に記載された技術的事項をより具体化し、以て、必須要件項で規定された当該考案の技術的範囲を明確化する機能を有するものである。これを実施例との関係でいえば、必須要件項、実施態様項、実施例の順により具体化され、より下位概念となっていくのである。下位概念でより具体化された実施態様項の技術的範囲によって上位概念で構成された必須要件項で定める当該考案の技術的範囲が限定されるものではない。本件考案の技術的範囲は必須要件項(第1項)の記載により確定され、実施態様項(第2項)は必須要件項の「平面が円板状をしたリール本体」をより具体化し、その下位概念として「皿状」をしたリール本体を規定しているのである。つまり、「平面が円板状」の一具体例として「皿状」が含まれる関係にあるから「平面が円板状」とは「表面がフラットである」ことに限定されないことは明らかである。仮にリールに車輪型とキャップ型との類別が存在し、かつ、車輪型リールでは回転ブレは問題とならず、本件考案の実施態様項がキャップ型リールに関するものであったとしても、必須要件項で定める本件考案の技術的範囲は、右キャップ型リールに限定されるものではない。

本件考案は「小型のパルスモータを使用した場合は、パワーが犠牲にされているため、リールの慣性によって始動が困難になる」(公報2欄5~17行)という技術背景に基づき、従来技術のリールと比較して「慣性の小さいリールを提供することを目的とするもの」(公報2欄18、19行)であり、本件考案、すなわち、必須要件項の構成をとることによって奏する作用効果は、「リールの慣性が小さくなり、小さなモータでも容易に起動することができる。また、切欠部が設けられているから、その分だけ材料を節約することができる。」(公報4欄12~16行)というものである。次に、実施態様項の構成をとれば、右作用効果のほか「隣のリールを駆動するためのモータと干渉しないように逃がすことができるとともに、リールの重心が存在する平面でモータに連結することができるから、回転ブレを少なくすることができる。」(公報2欄25行~3欄1行)との作用効果も奏することになる。つまり、本件明細書中に記載された「回転ブレを少なくすることができる。」との作用効果(公報3欄1行)は「リール本体を内側に凹んだ皿状にする」(公報2欄25行)ことで得られる作用効果である。換言すれば、本件考案の必須要件項の、単に「平面が円板状をしたリール本体」との構成から得られる作用効果ではなく、右構成のうちの「リール本体は皿状」とした構成つまり実施態様項の構成を採用した場合に得られる作用効果である。なお、「それによって回転ブレを抑えている。」(公報3欄12、12行)との作用効果は、実施態様項の実施例の作用効果であって、右実施例の上位概念たる実施態様項の更に上位概念たる必須要件項の作用効果ではない。したがって、被告らが、本件考案の課題として主張する「回転ブレの克服」は、実施態様項ないし実施態様項の実施例の作用効果であって、必須要件項たる本件考案の課題でも作用効果でもない。被告らの主張は、実施態様項ないし実施例の作用効果をあたかも必須要件項の構成を採用することで奏する作用効果として主張し、本件考案の技術的範囲を限定しようとするものであって、失当である。また、被告らの主張は、実施態様項での「リール本体が皿状」とのリールはキャップ型リールであるとし、よって、必須要件項の「平面が円板状をしたリール本体」のリールもキャップ型リールであるとするもので、必須要件項と実施態様項を同一に、ないしは、実施態様項より必須要件項に定める技術的範囲を限定して解釈すべきと主張するものであって、特許法の明文規定に反する。

(被告らの主張)

(一) スロットマシン用リールの類別

スロットマシン用リールには、大別して基本形態が「車輪型」のものと「キャップ型」のものとがある。本件考案は、キャップ型に属するリールに関するものであるのに対し、イ号リールは車輪型に属する。本件考案は、車輪型リールをそもそも念頭においていない。

すなわち、本件考案の実用新案登録出願前に頒布された刊行物(日本及び外国の特許公報等)に記載されたスロットマシン用リールの構造を整理分類すると、リールの基本形態は「車輪型」と「キャップ型」の二種類に大別される。

ここで、「車輪型」とは、環状部(車輪の輪部分)とボス部(車輪の中心部分)とが棒状又は板状をなす複数の腕部によりほぼ幅中央で連結された構造のものであって、ボス部に回転駆動力が入力されると、各腕部がその回転駆動力を環状部へ伝え、環状部が回転動作するものである。この車輪型リールでは、その本来の構造上から腕部間に大きな空間(原告はこの空間も「切欠」と称しているが、誤った見解である。)が存在するので、全体の重量が軽くなり、また各腕部を幅中央に位置させるので、回転ブレが生じないが、その反面、腕部が棒状又は板状であるので、強度的に弱く、環状部に変形をもたらしやすい。

「キャップ型」は、円板状をなす垂直板部の外周に環状部(車輪型の輪に相当する部分)が一体形成されると共に、垂直板部の中心に回転駆動力の入力部を設けた構造のものであり、垂直板部は回転駆動力を環状部へ伝える。この「キャップ型」リールでは、「車輪型」の腕部に対応する垂直板部が板状体であるので、強度的に強く、環状部の変形が生じにくいが、その反面、垂直板部が一連の構造体であるため全体の重量が嵩み、また垂直板部が一方に偏って位置するので回転ブレが発生しやすい。

原告は、右車輪型リールの定義のうち「ほぼ幅中央」という語句を捉えて争うが、「ほぼ」はリール設計上の寸法精度の問題を考慮して用いた表現に過ぎず、これを単に「幅中央」という表現に置き換えてもよい。いずれにせよ、車輪型リールとは、環状部とボス部とが棒状または板状をなす複数の腕部により幅中央で連結された構造のものであって、円板状をなす垂直板部の外周に環状部が一体形成されたキャップ型リールとは構造上明確に区別できる。また、原告は、車輪型リールのボス部がほぼ幅中央に位置せず、これが一方に偏った位置に位置すれば、キャップ型の円板状をなす垂直板部になると主張するが、そもそも車輪型リールにおいて、ボス部をわざわざ一方に偏った位置へずらせるなどということはなく、また、仮にボス部をそのように位置ずれさせたとしても、それがどうしてキャップ型リールの垂直板部になるのか理解し難い。

(二) 本件考案は、実用新案登録請求の範囲第1項(必須要件項)の記載のみでは、キャップ型リールのみを対象とするのか、車輪型リールをも含むのかは、明らかでない。実用新案登録請求の範囲の記載のみでその内容を十分把握できないときは、明細書の詳細な説明、願書添付図面等を参酌すべきであるが、本件考案の場合、キャップ型リールを前提とする文言(例えば「リブ間に形成される切欠」、「リブの先端に連設されたリング」)しか存在せず、車輪型リールをも技術思想の中に含むことを示すような文言はどこにも見当たらない。作用効果の記述中に出てくる「切欠部」という名称(公報4欄13、15行目)は、元々リールが全体としてキャップ型の一体物であったからこそ、外周部の一部を「切り欠く」という技術思想が登場しえたのである。切り欠いた結果残ったものが垂直部3a及び水平部3bであり、出願人はこれらを合わせて「リブ」と命名したのである。また、キャップの先端の一部分を切り欠いてしまうと先端部は単に舌状のものが飛び出したままになって、強度的に問題となるので、これを補強するために、水平部3bの先端に一本の「リング4」を設けざるをえなくなったのである。なお、本件考案の「リール本体2」は、元々リール全体として一体形をなしており、「リブ」の垂直部3aと「リール本体」の斜面部2a、平面部2bとは連続しているのであるから、「リール全体の中心部」というくらいの意味合いで「リール本体」と名付けられたのであろうと思われる。このように、本件考案における「リール本体」「リブ」「リング部」「切欠部」という用語も、本件考案がキャップ型リールに関するものであることを前提とするものである。更に、第1項の必須要件項自身が、車輪型リールには馴染まず、キャップ型リールを前提としていると解しないと説明のつかない用語(例えば、リブの「垂直部」、「水平部」、「水平部の先端」)をもって構成されていることは本件考案がキャップ型リールを前提としたものと解さざるを得ないことの決定的な証左である。

こうして見ると、本件明細書のどこにも「キャップ型リール」を明示するような文言はないが、詳細な説明及び願書添付の図面を統一的に理解するには、本件考案が「キャップ型リール」であることを大前提にせざるをえないことがよくわかる。本件明細書には、原告主張のとおり、型や類別に関する記載はないが、それは、明細書中にスロットマシン用リールの構造についての従来技術(「車輪型リール」か「キャップ型リール」か)を記載すべきであるにもかかわらず、記載していないためであり、被告らは、記載されてしかるべき技術事項が明細書中に一切記載されていないため、詳細な説明や添付図面を参酌して、それを明らかにしたまでである。右各記載からみて、出願人は、当初より車輪型リールを全く対象外とし、キャップ型リールのみを対象とする本件考案を出願したものであることは明らかである。

原告は、本件考案は、慣性に大きく影響を及ぼすリールの外周面部分に切欠部を形成することによりリールの慣性を小さくしたもの、換言すれば軽量化したものであり、従来の車輪型リールでもそれを更に軽量化したもの、これを言い換えると、車輪型リールの環状部に切欠部を形成した場合、その切欠と本件考案における切欠とが構成上同一であると主張する。しかしながら、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「リブ」は「リール本体の外周」に等間隔で設けられ、「垂直部と水平部を有」するものであることが記載され、考案の詳細な説明には、水平部と垂直部とを有するリブは切欠部によって形成されるものであると記載されており(公報3欄15~18行)、これらの記載からみて、本件考案における切欠部は、キャップ型リールにおいて、環状部より垂直板部の周辺にわたって形成されるものと認めざるを得ないのであって、環状部にしか形成できない車輪型リールの切欠部とは同一構成ではない。車輪型リールの場合、切欠部は環状部にしか形成できないのであるから、リブの「垂直部」なるものは存在し得ない。なお、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載中、「慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成したものである」(公報2欄20、21行)の「慣性に大きく影響を及ぼす部分」も、「リールの外周面に切欠部を形成したから、リールの慣性が小さくなり」(公報4欄12~14行)の「リールの外周面」も、環状部から垂直板部の周辺部にわたる領域をさすものであることは明らかである。

原告は、車輪型リールにおいても、隣のリールを駆動するためのモータと干渉しないように逃がすため環状部とボス部とが棒状または板状をなす複数の腕部により一方に偏った位置で連結する構造のものも十分に考えられると主張するが、そもそも車輪型リールではモータの干渉は生じないから、右主張は失当である。

(三) 本件考案の実施態様項である実用新案登録請求の範囲第2項の記載も、第1項におけるスロットマシン用リールがキャップ型であることを前提として初めて理解できる。すなわち、スロットマシンにおいて、キャップ型リールには、<1>全体の重量が嵩む、<2>回転ブレが発生しやすい、という二つの問題点がある。<1>の問題点は、基本的に全体に空間のない一連の構造体であることに起因するものであり、本件考案はこの問題点を解消することを目的とするもので、実用新案登録請求の範囲第1項にその解消のための構成要件が記載されている。<2>の問題点は、垂直板部が片側に偏っていることに起因するもので、実用新案登録請求の範囲第2項は、「リール本体を皿状」とすることにより、リールの重心位置を幅中央へ寄せ、かつその重心位置に回転駆動力の作用点を設定することにより、この問題点を解消している。これに対して、イ号物件の如き車輪型リールは、各腕部やボス部はリールの幅中央に位置するので、リールの重心位置は幅中央に存在し、しかもその重心位置に回転駆動力の作用点が設定されるから、回転ブレの問題が生じる余地はない。もし仮にボス部の形状を本件考案のように皿状とするならば、重心位置や回転駆動力の作用点が幅中央から一方へずれてしまい、回転ブレが発生する要因となる。このことから、車輪型リールについては、本件考案のごとくリール本体に対応するボス部を皿状に形成するという必要性は全くなく、また実施に際してわざわざ特性を悪化させるような構造を採用することはありえない。以上のように、実用新案登録請求の範囲第2項は、第1項におけるスロットマシン用リールがキャップ型であることを前提として、初めて理解できるのである。

実施態様項が必須要件項の下位概念であることは原告主張のとおりであるが、このことは、実施態様項が必須要件項の下位概念でなければならないという意味でもある。被告らは、実用新案登録請求の範囲における必須要件項の記載と「考案の詳細な説明」の記載とを比較検討した結果、必須要件項がキャップ型リールを前提とするものであり、その結果、実施態様項は必須要件項がキャップ型リールであることを前提として初めて理解できるものであると主張しているのである。換言すれば、実施態様項は必須要件項がキャップ型リールである場合に限り、その下位概念となり得るのである。けだし、車輪型リールでは回転ブレは問題とならないからである。被告らは、実施態様項がキャップ型リールのことを述べているから必須要件項もキャップ型リールだと主張しているわけではない。

(四) イ号リールが本件考案の構成要件を充足しないこと、作用効果の相違

(1) 構成要件イについて

実用新案登録請求の範囲の記載からは、「平面が円板状」であるとはどういう状態か不明である。対象物を平面的に観測するということは、その対象物の二次元的形態を問題とするということであるから、三次元的形態の表現である「円板状」の語は意味不明であり、考案の詳細な説明を斟酌してこの字句を解釈せざるを得ず、考案の詳細な説明にはこのリール本体が皿状のものも含むと記載されていることを考慮すると、この「平面が円板状をしたリール本体」とは、リール本体が板状体であり、かつこれを平面的に観測した場合、その外形が円形であることを意味する、と解釈せざるを得ない。本件考案にいう「リール本体」は、キャップ型リールにおいて、垂直板部の周辺部に切欠部を形成したとき、その内側に残された円形部分に相当するもので、リール本体が板状体をなすのは当然の結果である。

これに対し、イ号リールの場合、「板状体」が全く存在しておらず、ただ存在するのは軸受けとしての「ボス部」だけで、この「ボス部」が板状体でないことは見ればすぐわかることであり、ましてや、そもそも「板状体」が存在しないから、「平面に観測した場合その板状体の外形が円形」であることなどありえない。イ号リールのボス部は、本件考案の構成要件イの「リール本体」に該当しない。

(2) 構成要件ロについて

本件考案では、リール本体の外周にリブの垂直部を設け、各垂直部に連なる水平部の先端にリング部を連接するから、隣接するリブ間とリング部とリール本体との間が切り欠かれたような形態となり、それを「切欠部」と称している。そもそも本件考案の課題は、垂直板部が一連の構造体であるため全体の重量が嵩み、また垂直板部が一方に偏って位置するので回転ブレが発生しやすいという、キャップ型リールに特有の欠点をいかに解決するかということであった。そして、考案された具体的な解決方法、構造が、皿状のキャップ型リールを「切り欠い」て重量を軽くしようということであったのである。こうして「切り欠い」た結果、残ったものが垂直部3a、水平部3bであり、これらに対する名称として、出願人は、適当な名称に困ったあげく、「リブ」と命名したに過ぎないのである(本件明細書の考案の詳細な説明中に「切欠部すなわちリブ」との記載があることも右事情を示している。)。株式会社技報堂発行の機械工学用語辞典(乙一二)によれば、「リブ」とは、板状または薄肉の部分を補強するために補う部材で、薄板に希望する形を保持させる役目をする部分のことをいう。すなわち、通常の用語では、リブとは板状または薄肉の部分を補強するために積極的に補う部材のことをいうのであるから、本件考案のように、切り欠いた結果として残ったに過ぎないもの(垂直部3a、水平部3b)を「リブ」ということは特異な用法であり、本来、「リブ」と称呼されるべきではなく、むしろ「切欠残部」と命名されるべきであった。

これに対して、イ号リールは、ボス部の外周に八本の腕部を放射状に突出させたものであり、これら腕部間の空間は「切欠部」と言いえないことは明らかである。イ号リールの八本の腕部103は、一般的に用いられる意味での「リブ」でもないし、本件考案の如き「切欠残部」と呼ぶべき性質のものでもなく、車輪型リールにおけるボス部と環状部とを連結する単なる連結部材である。自転車の車輪のスポークを思い浮かべてもらえばよい。イ号リールは、車輪型リールであって、元々軽量であるから、本質的に本件考案のごとき深刻な課題をもっていないのである。右のような結論は、車輪型リールとキャップ型リールの差異から生じる、当然の帰結である。

また、イ号リールは、環状部の横桟の数と腕部の数とは一致していないから、腕部と横桟とで一つの部材を構成するということはできない。この点について、原告は、腕部が連結された横桟105aは本件考案のリブに相当する部材を構成するのに対して、横桟105bは本件考案に対する関係では単なる付加に過ぎないと主張するが、105a、105bいずれの横桟も環状部に開口部を設けることにより同じように形成されたものであり、両者を区別する理由は全くない。

したがって、イ号物件の腕部は本件考案め構成要件ロの「垂直部」、イ号物件の横桟は同構成要件の「水平部」に該当しない。

なお、原告は、各腕部がボス部の外周に等間隔に連結されており、各腕部と横桟とが一体連結されているから、これらは「リブ」であると主張する。しかしながら、イ号物件の各腕部は乙第二ないし第六号証に示された従来技術における車輪型リールの各腕部と同じ構成部材であるが、原告の主張によれば、これら従来技術の車輪型リールについても環状部に開口部を設けると、各腕部はこれまでと機能・構造が変わるわけでもないのに、突如本件考案でいう「リブ」に変わってしまい、また、「切欠部」などではなかった腕部間の空間が突如「切欠部」に変わってしまうことになる。「切欠部」とは、該当箇所の素材が切り取られた部分のことであるが、イ号リールや乙第二ないし第六号証における各腕部間の空間は、素材が切り取られ(切り欠い)て形成されたものではないから、「切欠部」などではなく、また環状部に開口部を設けたからといって、前記空間が突如「切欠部」に変わることもない。この「切欠部」にたとえ製造方法の概念が含まれるとしても、それが構造として現れているならば、実用新案の対象となることはいうまでもない。まして本件考案の場合、実用新案登録請求の範囲には切欠部の字句は存在していないが、考案の詳細な説明の目的記載欄には、本案装置は切欠部を形成したものであると明記され(公報2欄20、21行)、また作用効果記載欄には、切欠部を形成することによる効果のみが記載されており(公報4欄12、13行)、本件考案の構成要件を認定する上で「切欠部」を無視することは許されない。

また、原告は、イ号物件がリールの環状部(外周面)に開口部を設けることにより、本件考案の水平部に相当する部分が形成され、またリール全体は軽量化されていると主張するが、仮にイ号物件の横桟が水平部に該当するとしても、イ号物件の開口部によっては本件考案の垂直部は形成されない。本件考案において、「リールの外周面」とは、環状部を意味するのではなく、環状部から垂直板部の周辺部にわたる範囲を意味することは前記したとおりである。

更に、原告主張の如く、どのような製法であれ、「リブ」の構成たる垂直部および水平部を有し、リール本体の外周に等間隔で設けられているとの構成を有する、限り、本件考案のリブの構成要件を充足すると解すると、乙第一三号証における鉄片も水平部であり、しかも回転盤には垂直部に相当する構成も存在するから、このスロットマシン用リールも本件考案の技術的範囲に含まれるということになり、このように本件考案の出願前の公知技術も技術的範囲に取り込んでしまうような解釈方法は到底許されるものではない。

(3) 構成要件ハについて

イ号リールの側辺は、リールの両側縁沿いに存在するが、横桟の先端に連設されたというものでなく、本件考案の「リング部」とは全く別物である。横桟は本件考案におけるリブの水平部に対応するものではなく、横桟には「先端」など存在しない。

イ号リールにおける「二本」の立上がり壁は、絵柄を印刷したテープを位置決め固定するためのもので、両側の立上がり壁間の間隔とテープの幅とは一致している。これに対し、本件考案の「一本」のリング部は、舌状のリブの水平部を束ねて強度的に補強するという重大な役割を担っており、イ号リールの立上がり壁とは根本的に作用効果を異にする。

本件考案は、キャップ型リールの垂直板部に相当する箇所にリブの垂直部を、環状部に相当する箇所にリブの水平部を、それぞれ切欠を介在させて形成したものである。しかも垂直板部がリール本体であるから、水平部のリブはリール本体に近い側が「基端部」、遠い側が「先端部」となる。本件考案では、この「先端部」にリング部が連設されている。原告は、リブの水平部の先端とは端という意味に過ぎないと主張するが、実用新案登録請求の範囲には、「先端」と明記されており、「端」とは記載されていない。

これに対してイ号リールは、車輪型リールであるから、腕部と環状部とは本来、機構的に個別の構成要素であって、しかも環状部は両側が開放されているから、この環状部に両側を残して複数の開口部を設けて横桟を形成したとき、各横桟には「先端部」も「基端部」もない。しかも、横桟は本件考案のリブの水平部に該当しないから、環状部の両側辺及び立上がり壁は本件考案の構成要件ハの「リング部」に該当しない。

なお、乙第一三号証には、腕部と外周部とを有する回転盤の周面に複数の鉄片を等間隔に配置した構造のリールが示されているが、原告の主張によれば、この腕部がリブの垂直部に、鉄片がリブの水平部に、外周部がリング部に、それぞれ該当することになる。すなわち、イ号リールの各腕部が本件考案のリブの垂直部に該当するというならば、同号証の回転盤の各腕部も本件考案のリブの垂直部に該当するはずである。また、イ号リールの各横桟が本件考案のリブの水平部に該当するというならば、同号証の各鉄片も本件考案のリブの水平部に該当するはずである。更に、イ号リールの両側辺が本件考案のリング部に該当するというならば、同号証の回転盤の円周部も本件考案のリング部に該当するはずである。また、本件考案の切欠部がどのような方法で製作されたものであってもよいとするならば、同号証のリールにおいて、隣合う鉄片間に形成される開口部も本件考案の切欠部に該当するというべきである。原告の主張によると、本件考案の技術的範囲にこのような公知例も含む結果となり、不合理である。

(4) 作用効果について

本件考案では、前記の如く「切欠部」をリブ間に設けることにより、キャップ型リールの軽量化を図っているのに対し、イ号リールは、元々軽量な基本形態に加えて、腕部を半筒状としかつ本数を必要最小限とし、環状部に複数の開口部を設けることにより、車輪型リールの一層の軽量化を図っている。なお、腕部を半筒状としたのは、腕部の強度を維持しつつ軽量化を実現するためである。すなわち、本件考案は軽量でないタイプのものを軽量化するという技術課題を、イ号リールは軽量なタイプのものを一層軽量化するという技術課題を、それぞれ異なる技術構成をもって実現しているのである。

原告は、本件考案においては切欠部を設けることにより、またイ号リールにおいては環状部に開口部を設けることにより、それぞれリールの軽量化を図ることができるから、作用効果が共通する旨主張するが、リールに開口部(切欠)を設けて軽量化するようなことは、なんら格別な技術事項ではない。例えば、乙第一三号証に示されたリールは、外周部の鉄片間に開口部(切欠)が形成されているから、このリールにおいても軽量化は実現されている。更に、乙第一四ないし第一六号証には、垂直部及び水平部を有するリブから成るゲーム機のリールが示されており、これらのリールでは各リブ間に切欠が形成されていることから、これらのリールについても軽量化は実現されている。このように、本件考案における作用効果は、本件考案に特有なものではなく、仮にイ号リールと本件考案とがリールの軽量化という点で作用効果が一致するとしても、その作用効果は周知の技術事項による作用効果に過ぎないものである。

2  本件考案が実用新案登録出願前に日本国内において公然実施されたか。

(被告らの主張)

原告は、本件考案の実用新案登録出願前である昭和五六年三月中旬頃、遅くとも同年四月一六日に、本件考案の実施品であるリールを使用したスロットマシン型遊戯機(商品名「アメリカーナ」)を日本国内で製造、販売した。

よって、本件考案は、その登録出願前に日本国内で実施品が製造販売されて、全部公知であったものであり、本件実用新案登録は無効原因を内包している。また、全部公知であったものであるから、その技術的範囲は、せいぜい、明細書に記載された実施例に限定して解釈されなければならない。

イ号物件は、右実施例に記載のものと異なるから、本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。

(原告の主張)

右被告らの主張は否認する。原告及び原告の関連会社たるユニバーサル販売株式会社は「アメリカーナ」なる名称のスロットマシン型遊戯機(通称パチスロ機)を、昭和五六年三月より昭和五九年一一月までの間製造販売したが、右「アメリカーナ」に搭載したリールの形状は三種類存在した。まず、昭和五六年三月より販売した製品に搭載したリールは、全く切欠部を持たないものであって、本件考案の実施品ではなく、同年八月二一日以降から製造販売した分から本件考案の実施品が装備され、その後、更に軽量化を図ったリールを装備したのである。原告がスロットマシン用の部品の製造を発注している東洋加工株式会社から本件考案の実施品であるリールの納入を受けたのも昭和五六年六月五日以後のことである。

第三  争点に対する判断

一  争点1(技術的範囲への属否)について

1  実用新案登録請求の範囲第1項の記載

本件考案の実用新案登録請求の範囲第1項の記載のうち、「平面が円板状をしたリール本体」、「垂直部及び水平部を有し……たリブ」、「リブの水平部の先端」が如何なる形状・構造のものであるかは、実用新案登録請求の範囲の記載のみから把握することができない。そこで、以下、出願当時における従来技術並びに本件明細書及び願書に添付した図面の各記載を参照して検討する。

2  スロットマシン用リールの形状に関する従来技術

特開昭四九-七六六四一号公開特許公報(乙二)には、別紙従来のリール形状図(以下「別紙形状図」という。)(1)の如く、環状部(車輪の輪部分)とボス部(車輪の中心部分)とが四本の板状の腕部によりほぼ幅中央で連結された形状のスロットマシン用の「円筒状表示ドラム5」が、特開昭五〇-八九一五六号公開特許公報(乙三)には、別紙形状図(2)の如く、環状部とボス部とが二本の環状部と同じ幅を有する板状の腕部により幅全体で連結された形状のスロットマシン用の「車輪52」が、昭和三一年発行の特許第一八二六五三号特許発明明細書(乙四)には、別紙形状図(3)の如く、環状部とボス部とが四本の板状の腕部によりほぼ幅中央で連結された形状のスロットマシン型のゲーム機の「回転車11」が、特公昭五五-二一五七九号特許公報(乙五)には、別紙形状図(4)の1、2の如く、環状部とボス部とが四本の板状の腕部によりほぼ幅中央で連結された形状のスロットマシン用の「回転ドラム2」が、一九七一年発行の英国特許第一二三三〇八一号明細書(乙六)には、別紙形状図(5)の如く、環状部とボス部とが八本の棒状の腕部によりほぼ幅中央で連結された形状のスロットマシン用の「リールR」がそれぞれ記載されている。

他方、実公昭三九-一二一六六号実用新案公報(乙七)には、別紙形状図(6)の1、2の如く、円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部が一体形成された形状のスロットマシン型ゲーム玩具の「ドラム25」が、実開昭五一-八〇二八五号公開実用新案公報(乙八)には、別紙形状図(7)の1、2の如く、円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部が一体形成された形状のスロットマシンにおける「回転ドラム10」が、特公昭五一-三〇八一三号特許公報(乙九)には、別紙形状図(8)の如く、円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部が一体形成された形状のスロットマシンにおける「回転ドラム9R、9C、9L」が、一九八一年四月一四日発行の米国特許第四二六一五七一号明細書(乙一〇)には、別紙形状図(9)の如く、円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部が一体形成された形状のスロットマシンにおける「ドラム9a、9b、9c」が、一九七三年発行の米国特許第三七三三〇七五号明細書(乙一一)には、別紙形状図(10)の1、2の如く、円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部が一体形成された形状のスロットマシンにおける「リール131」がそれぞれ記載されている。

右事実を総合して考えると、本件考案の実用新案登録出願当時において、スロットマシンの分野において採用されていたリールの形状は、大別すると、<1>環状部(車輪の輪部分)とボス部(車輪の中心で駆動力が入力される部分)とが棒状又は板状をなす複数の腕部によりほぼ幅中央又は幅全体で連結された、いわば「車輪型」形状のものと、<2>円板状をなす垂直板部の片面外周に環状部(車輪の輪に相当する部分)が一体形成された、いわば「キャップ型」形状のものの二種類に分類することができる。

3  本件明細書及び図面の記載について

(一) 本件明細書の考案の詳細な説明欄の記載によると、本件考案は、スロットマシン用リールの回転に「小型のパルスモータを使用した場合は、パワーが犠牲にされているため、リールの慣性によって始動が困難になる」(公報2欄14~17行)という技術背景に基づき、「慣性の小さいリールを提供することを目的とするもの」(公報2欄18、19行)であり、右課題を解決するために、「慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成した」(公報2欄20、21行)という手段を講じ、その結果、「リールはプラスチックで一体成型されるから、切欠部すなわちリブを設けることにより、材料費の節約も図ることができる。」(公報2欄21~24行)、「リールの外周面に切欠部を形成したから、リールの慣性が小さくなり、小さなモータでも容易に起動することができる。また、切欠部が設けられているから、その分だけ材料を節約することができる。」(公報4欄12~16行)という作用効果を生じるものである。

そして、車輪型リールは、腕部間に大きな空間が存在するので、キャップ型リールと比較すると、材質が同じで、全体の径及び幅や環状部の厚さも同じであれば、「円板状をなす垂直板部」と「棒状又は板状をなす複数の腕部」の構造の差に応じて全体の重量が軽いと認められるから、右の「小型のパルスモータを使用した場合は、パワーが犠牲にされているため、リールの慣性によって始動が困難になる」という問題点は、皆無とはいえないにしても、垂直板部が一連の構造体であるため全体の重量が嵩むキャップ型のリールの場合と比較すれば問題となる程度は小さいと考えられる。更に、実用新案登録請求の範囲第1項中の「垂直部及び水平部を有し……たリブ」という記載と、右の「慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成した」「切欠部すなわちリブを設ける」という記載からは、従来技術においては一連の構造体であったものに切欠部を設け、両側の切欠部に挟まれた部分をリブと呼んでいるものと解されるところ、このことは、従来のキャップ型リールについてはそのとおり良く理解できるが、車輪型リールの場合は、もともと腕部相互間には右切欠部に相当する空間が従来からあったのであるから、新たに切欠部を設ける余地のある箇所は環状部のみであり、腕部は切欠部を設けた結果形成されたものではない(車輪型リールに関しては、切欠部を設けることによりリブの垂直部を設けるという技術思想が現れる余地はない。)から、「切欠部すなわちリブを設ける」という表現は、キャップ型リールばかりでなく、車輪型リールをも前提としているとすると理解できない表現と言わざるをえない。

(二) 実用新案登録請求の範囲第1項には、「平面が円板状をしたリール本体」と記載されているが、これがどのような形状を意味するかは同項の記載のみでは明確にできない。「平面」には「平らな表面」(広辞苑第四版)、「平らな面」(大辞林)という意味があり、「円板」には「まるい平面板」(広辞苑第四版)、「円形の平面板」(大辞林)という意味があるから、一応、リール本体が「円くて平らな板状」であると解する余地もある。しかしながら、同第2項には、「前記リール本体は皿状をしていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のスロットマシン用リール」と記載されており、同項は本件考案の実施態様を記載したものであり(昭和六二年法律第二七号による改正前の実用新案法五条四項ただし書)、「……を特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のスロットマシン用リール」と第1項を引用する形式(従属形式)で記載されているから、「リール本体は皿状をしていること」は、「平面が円板状をしたリール本体」を置換したものではなく、「平面が円板状をしたリール本体」を限定したもので、これに包含される下位概念であると解さざるをえず、更に、本件明細書の考案の詳細な説明の記載を参照すると、実施例の説明中でも、「リール本体2には、斜面部2aと、平面部2bとを備え、内側に凹んだ皿状をしている。なおこのリール本体2は全体が平らであってもよい。」(公報3欄8~11行)と記載されているから、「平面が円板状をしたリール本体」は、実施例として、「斜面部2aと、平面部2bとを備え、内側に凹んだ皿状をしている」ものも、「全体が平ら」なものも含むと解されるから、リール本体が「平らな板状」のものに限られると解することはできず、右各記載を総合すると、「平面が円板状をした」とは、「平面的に見た場合(平面上に投影した場合の面積が最大となる方向、すなわち回転軸に平行な方向から見た場合)の形状が円い板のような形状と看取できる」という趣旨であると解することが相当である。そして、従来のスロットマシン用リールのうち、キャップ型リールは、円板状の垂直板部を有しているから、そのうちの外周に近い部分を切り欠いて残余部となる「リブ」を形成しても、なお中心部には右の意味で「平面が円板状をした」本体が残る(乙七~一一参照)のに対して、車輪型リールの場合は、車輪の中心部分にボス部が存するが、これは回転駆動力をリールに入力する部分にすぎないため、右の意味で「平面が円板状をした」本体に相当するものがないのが通常である(乙三~六参照)。

(三) 実用新案登録請求の範囲第1項に記載の、リブの「垂直部及び水平部」や、「リブの水平部の先端に連設されたリング」の形状に関しても、本件明細書及び願書添付図面には、キャップ型リールの円板状の垂直板部の外周に近い部分と環状部とを一体的に切り欠いた切欠部を形成してリブを設け、リブの垂直部と水平部はL字状に連なり、水平部のうち垂直部と連なる部分と反対側の端に一本のリング部が連設された実施例が記載されているだけである。車輪型リールを前提とした、リブの「垂直部と水平部」や、「リブの水平部の先端に連設されたリング」の形状・構成に関する実施例の記載は全くなく、それを示唆するような記載も全くない。

(四) 本件明細書には、実用新案登録請求の範囲第2項記載の実施態様の構成にし、「リール本体を内側に凹んだ皿状」にすると、「隣りのリールを駆動するためのモータと干渉しないように逃がすことができるとともに、リールの重心が存在する平面でモータに連結することができるから、回転ブレを少なくすることができる。」(公報2欄25~3欄1行。3欄1行の「ご」は「を」の誤記と認められる。)という効果を生じることが記載されているが、従来のスロットマシン用リールのうち、キャップ型リールにおいては垂直板部の片面に環状部が設けられている(乙七~一一)ため、垂直板部の全体を平らにしたままその中心に回転駆動力の作用点を設定すると、リールの重心と右作用点が一致しないために「回転ブレ」が生じやすいから、「リール本体を皿状」とする構成をとり、特に実施例の如く皿の底の平面部をリールの重心を含む平面上に設けてリールの重心位置に回転駆動力の作用点を設定することにより、この問題点を解消することは技術的に意味のあることである。これに対して、車輪型リールの場合は、各腕部やボス部はリールのほぼ幅中央ないしは幅全体に位置する(乙二~六)ので、リールの重心位置はほぼ幅中央に存在し、その重心位置に回転駆動力の作用点が設定されるから、回転ブレの問題が生じる余地は少ない。したがって、実用新案登録請求の範囲第2項は、キャップ型リールを前提としていると考えられる。もっとも、このように実施態様項がキャップ型のリールを前提としているからといって直ちに必須要件項も同様であると言えないことは原告主張のとおりであるが、前記(一)ないし(三)の各点も合わせ考えると、第1項が第2項と違ってキャップ型リール以外に車輪型リールをも対象としていると認めるべき積極的な根拠も見い出し難いから、第2項は第1項の構成のうち「リール本体」の形状を皿状に限定しただけであって、キャップ型リールを対象とする点は第2項における限定ではなく、既に第1項においても同様であると解する方が素直である。

(五) 以上を総合すると、結局、本件明細書の実用新案登録請求の範囲及び願書添付図面を含む考案の詳細な説明の記載は、従来この種のスロットマシン用リールにおいて存在していた前記二種類の形式のもののうち、キャップ型リールの従来技術における解決すべき課題、その課題解決のための手段(本件考案)、並びに本件考案の作用及び効果を記載しているのみと認めざるをえず、本件明細書に記載の考案の名称が「スロットマシン用リール」であり、必須要件項である実用新案登録請求の範囲第1項の記載はもとより、実施態様項である同第2項や考案の詳細な説明の記載中にも、本件考案が、スロットマシン用リールのうち、特定の型(キャップ型リール)を前提とする考案であることを直接明示する記載はないけれども、本件考案が、環状部(車輪の輪部分)とボス部(車輪の中心部分)とが棒状又は板状をなす複数の腕部によりほぼ幅中央又は幅全体で連結された形式の車輪型リールをも対象とするものと認めることはできない。

4  本件考案の構成要件とイ号リールとの対比

したがって、車輪型リールに属することが明らかであるイ号リールは、車輪型リールを対象とせず、キャップ型リールを対象とする本件考案の技術的範囲に属さないことはいうまでもないが、念のため本件考案の構成要件とイ号リールとを対比すると、以下のとおりである。

(一) 本件考案の構成要件イにいう、「平面が円板状をしたリール本体」の「平面が円板状をした」とは、前記のとおり、「平面的に見た場合(平面上に投影した場合の面積が最大となる方向、すなわち回転軸に平行な方向から見た場合)の形状が円い板のような形状と看取できる」という趣旨であると解される。これに対して、イ号リールのボス部102は、外縁の形状は円形であるが、回転駆動力をリールに入力する軸受のための部分にすぎないからその径はリール全体の径に比して著しく小さい(したがって、リール「本体」といえるだけの実質もない。)うえに、リング状(ドーナッツ状)であって中央には大径の軸穴が設けられているため、平面的に見た場合の形状は、リング状(ドーナッツ状)であって、「円い板のような形状」ではないから、イ号リールは本件考案の構成要件イを充足しない。

(二) 構成要件ロについて

実用新案登録請求の範囲第1項の記載のうち、「垂直部及び水平部を有し、前記リール本体の外周に等間隔で設けられたリブ」との記載は、これだけでは、「リブ」がいかなる形状をしているのか、特に、「垂直部」と「水平部」は、L字状に連なっていることを要するのか、T字状に交わる場合も含むのかは明らかでない。機械の分野では、「リブ」とは、「板状または薄肉の部分を補強するために補う部材で、薄板に希望する形を保持させる役目をする。」(乙一二、技報堂「機械工学用語辞典」)、「機械や構造物の板状部分や低強度部分を補強するための板状部材で、補強部表面に直角にあてられるもの」(朝倉書店「機械工学辞典」)という意味で用いられているが、本件考案の場合には、補強される薄板は存在しない(もっとも、実施例の場合には、リブの水平部はリール1の外周に貼着されるテープ9〔公報4欄1~3行〕を補強するという余地がないわけではないが、この場合も垂直部リブにより補強される薄板は存しない。)から、右の一般的な用法をそのままあてはめても構成要件ロの意味を把握することはできない。

そこで、本件明細書の考案の詳細な説明中の、「本案装置は、慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成したものである。リールはプラスチックで一体成型されるから、切欠部すなわちリブを設けることにより、材料費の節約を図ることができる。」(公報2欄20~24行)、「リール1は、リール本体2と、このリール本体2の外周に等間隔で設けられたリブ3と」(同3欄4~6行)、「前記リブ3は、リール本体2に連設された垂直部3aと、水平部3bとを備え」(同欄15、16行)、「隣接するリブの間に切欠部7が形成されるから」(同欄18行)との各記載や、前記のとおり、本件考案は、従来この種のスロットマシン用リールにおいて存在している二種類の形式のもののうち、キャップ型リールに関するものであることを総合考慮すると、本件考案の「リブ」は、キャップ型リールを改良して、円板状の垂直部の外周に近い部分と環状部とを一体的に切り欠いた切欠部を形成したことにより設けられた、切欠部に挟まれた残存部材であり、そのうち垂直板の部分を「垂直部」、環状部の部分を「水平部」と命名したものと認められ、「垂直部」と「水平部」は、L字状に連なっていることを要すると解される。

これに対して、イ号リールの腕部103は「切欠部」の介在により形成されたものではないうえ、腕部103は横桟105aの幅中央でT字状に連なっており、キャップ型リールを切り欠いた場合の如くL字状に連なっていないから、イ号リールは本件考案の構成要件ロを充足しない。

(三) したがって、その他の構成及び作用効果を対比するまでもなく、イ号リールは、本件考案の技術的範囲に属しない。

二  以上のとおりであり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、全て理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 辻川靖夫)

(別紙)

イ号物件説明書

一 図面の簡単な説明

第1図 リールの斜視図

第2図の1 リールの断面図

第2図の2 第1図のA-A線に沿う断面図

第3図 リールの平面図

第4図の1 イ号物件の正面図

第4図の2 イ号物件の側面図

二 構造上の特徴の説明

1 イ号物件は、ボス部102の外周に八本の腕部103を介して環状部105が連結されている。

2 ボス部102は、外形が円形のリング状であって、外周縁に一周する補強リブ106が一体に設けられている。

3 ボス部102は、中央に大径の軸穴121aを有し、その周囲に四個のビス穴121bが設けられている。

4 八本の各腕部103は、パイプを全長にわたり二分割したような断面半円形の半筒状であって、ボス部102の外周等間隔に連結され、放射状にボス部102の外周方向へ延びている。

5 八本の各腕部103のうち、一本置きの四本の腕部103の基端部はボス部102の表面に重ねるようにして、また残りの腕部103の基端部はボス部の補強リブ106の外周面に突き当てるようにして、それぞれボス部102に一体連結されている。

6 環状部105は、薄肉板状であって、矩形状をなす複数個の開口部107が一周して設けられている。

7 各開口部107と隣接する開口部107との間には横桟105a、105bが介在し、各開口部107は前後の横桟105a、105bと両側の環状の側辺105cと105dとで周囲が囲まれている。

8(一) 略三角形状の補強リブ108が横桟105aの内側面長さ方向から環状の側辺105c、105dの内側面に渡って、一体に設けられている。

(二) 略三角形状の補強リブ108が横桟105bの内側面長さ方向から環状の側辺105c、105dの内側面に渡って、一体に設けられている。

9 環状の両側辺105cと105dの外周縁には、環状部105の上面に突出する環状の立上り壁104a、104bが一体形成されている。

10 横桟105a、105bの数が一六本、腕部103の数が八本であって、両者の数の比率は二対一である。

11 前記各腕部103の先端は、横桟105aの長さ中央部に一体連結されている。

12 環状部105の外周面には、環状の両立上り壁104a、104b間に絵柄シール(図示しない)が位置決めされて貼られている。

13 ボス部102の軸穴121aには、フランジを介してモーターの回転軸が嵌着され、ビスにより固定される(但し、フランジ、モーター、ビスは図示しない)。

14 右の構造上の特徴を有するリール101を三個装備したスロットマシン型遊戯機。

以上

第1図

<省略>

第2図の1

<省略>

第2図の2

<省略>

第3図

<省略>

第4図の1

<省略>

第4図の2

<省略>

(別紙)

従来のリール形状図

<省略>

<省略>

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭61-38633

<51>Int.Cl.4A 63 F 9/00 識別記号 102 庁内整理番号 Z-3102-2C <24><44>公告 昭和61年(1986)11月7日

考案の名称 スロツトマシン用リール

<21>実願 昭56-58559 <55>公開 昭57-170790

<20>出願 昭56(1981)4月24日 <43>昭57(1982)10月27日

考案者 岡田和生 東京都中央区日本橋留町1-7-7 株式会社ユニバーサル内

<71>出願人 株式会社ユニバーサル 小山市大字栗宮1928番地

<74>代理人 弁理士 小林和憲

審査官 小原博生

<57>実用新案登録請求の範囲

(1) 平面が円板状をしたリール本体と、垂直部及び水平部を有し、前記リール本体の外周に等間隔で設けられたリブと、このリブの水平部の先端に連設されたリング部とを備えたスロツトマシン用リール。

(2) 前記リール本体は皿状をしていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のスロツトマシン用リール。

考案の詳細な説明

本考案はスロツトマシンに用いられるリールの改良に関するものである。

スロツトマシンは、接作レバーを手前に引くことにより、この操作レバーの駆動力をリールに伝達して複数個のリールを回転させるようになつている。このリールの回転後にストツプボタンを押せば回転中のリールが順次停止し、3個のリールの絵柄が所定の組合わせになつたときに、その組合せに応じた枚数のメダルが排出される。

最近では、操作レバーを引くか、あるいはスタートボタンを押すことによつてモータが始動し、このモータでリールが回転されるようにしたものが提案されている。この形式のものには、操作レバーの復帰もしくはストツプボタンによつてリールが順次ストツプするものと、リールの個数だけモータが設けられているものとがある。前者の方式のものは、モータが1個でよいが、その代わりにモータの回転軸とリールとの間にフリクシヨンクラツチ機構を介在させる必要がある。またリールを機械的にストツプしなければならないため、ストツプ機構が必要になり、構造が複雑になる上、音がうるさいという難点が伴なう。

後者のリール毎にモータを設置する方式のものは、モータの個数が増えるが、ストツプ機構が不要になり、したがつて音が静かであるという利点がある。この方式のスロツトマシンでは、モータとしてパルスモータを用いパルスの供給を停止することによつてモータ及びリールを瞬間的に停止させることができる。

前記パルスモータは隣接するリールの間に配置しなければならないことと、コストを安くするという理由から、小型のものが用いられる。この小型のパルスモータを使用した場合は、パワーが犠牲にされているため、リールの慣性によつて始動が困難になる。

本考案は上記背景に基づき慣性の小さいリールを提供することを目的とするものである。

本案装置は、慣性に大きく影響を及ぼす部分に切欠部を形成したものである。リールはプラスチツクで一体成型されるから、切欠部すなわちリブを設けることにより、材料費の節約も図ることができる。

リール本体を内側に凹んだ皿状にすると、隣りのリールを駆動するためのモータと干渉しないように逃がすことができるとともに、リールの重心が存在する平面でモータに連結することができるから、回転プレご少なくすることがてきる。

以下、図面を参照して本考案の実施例について詳細にに説明する。

第1図において、リール1は、リール本体2と、このリール本体2の外周に等間隔で設けられたリブ3と、リブ3の先端に連設されたリング4とを備え、プラスチツクで一体成型される。

前記リール本体2には、斜面都2aと、平面部2bとを備え、内側に凹んだ皿状をしている。なおこのリール本体2は全体が平らであつてもよい。前記平面部2bは、リール1の重心を含む平面上に設けられており、それによつて回転プレを抑えている。この平面部2bには軸穴5と、4個のビス穴6とが設けられている。

前記リブ3は、リール本体2に連設された垂直部3aと、水平部3bとを備え、こ水平部3bの先端にリング4が連設されている。したがつて、隣接するリブの間に切欠部7が形成されるから、慣性が小さくなり、かつ材料費を節約することができる。

前記リング4には遮光板8が設けられており、この遮光板8でホトカプラーの光路を開閉することにより、リール1の始点位置が検知される。

リール1の外周には、絵柄例えば「チエリー」、「ベル」、「7」等を印刷したテープ9が両面テープ等によつて貼着される。

第2図に示すように、リール1、1’の間にモータ取付板12が入り込んでおり、これにパルスモータ13が固定される。このパルスモータ13の回転軸14にフランジ15が嵌着され、このフランジ15にリール1を重ねてビス16で固定する。なお、符号17は光源であり、符号18は受光部であり、これらによつて遮光板8の通過が検知される。

上記構成を有する本考案は、リールの外周面に切欠部を形成したから、リールの慣性が小さくなり、小さなモータでも容易に起動することができる。また、切欠部が設けられているから、その分だけ材料を節約することができる。

図面の簡単な説明

第1図は本考案の一実施例を示す分解斜視図、第2図は断面図である。

1……リール、2……リール本体、3……リブ、3a……垂直部、3b……水平部、4……リング、9……絵柄テープ、13……パルスモータ。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

実用新案公報

<省略>

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