大阪地方裁判所 平成3年(ワ)4729号 判決 1991年12月16日
原告
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
深井潔
被告
株式会社第一勧業銀行
右代表者代表取締役
宮崎邦次
右訴訟代理人弁護士
的場武治
同
山田捷雄
同
阿部敏明
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一争いのない事実
1 被告は、当せん金付証票(以下「証票」という。)の作成、売りさばきその他発売及び当せん金品の支払又は交付についての受託銀行である。
2 ドリームジャンボ第二七六回全国自治宝くじにおいて、六六組一二八八四六番の証票(以下「本件証票」という。)は、二等一〇〇〇万円に当せんした。
3 原告は、六六組一二八八四〇番ないし一二八八四五番及び同組一二八八四七番ないし一二八八四九番の証票を所持しているが、本件証票を所持してはいない。
4 原告は、被告銀行大阪支店に対し、本件証票について盗難の届出をしたが、平成三年六月二六日の支払期限までに、本件証票を提示してその当せん金の支払を請求した者はなかった。
二争点
1 原告の主張
(一) 主位的
(1) 原告は、平成二年六月七日、本件証票を購入したが、同月二二日、本件証票を入れたバッグごとこれを紛失した。同月二三日、右バッグは見つかったが、その時には、本件証票だけが何者かに抜き取られていた。
(2) 当せん金付証票法(以下、「法」という。)一一条一項が、当せん金品の支払又は交付(以下「当せん金の支払等」という。)に、当せんが確認し得られる証票(以下「当せん証票」という。)との引換えを要求するのは、証票の発売が定型的で極めて大量に行なわれるために、証票を離れては当せんの事実を知ることが不可能だからであり、証票の所持を離れて真実の権利者であるか否かを基準に支払等を行なわれなければならないとすると、その確認作業等による混乱が測り知れず、二重払の危険も避けられないからである。しかし、法一一条一項がいかなる場合にも証票の所持以外の方法により当せんの事実を立証することを排除する趣旨であるとは考えられない。特に、法一二条に定める一年の時効期間経過後は、右の確認作業等による混乱、二重払の危険性は全く存在しないのであるから、証票の所持以外の方法により当せんの事実が立証できる場合には、当せん金の支払等を請求しうると解すべきである。
(3) よって、原告は、被告に対し、法一一条一項に基づき、当せん金一〇〇〇万円の支払を求める。
(二) 予備的
(1) (一)(1)に同じ
(2) 法一一条一項は、法一二条に定める時効期間内における当せん金の支払等の方法を定めたものであり、法一一条二項は、一般的な当せん金の支払等の義務を定めたものである。同項では、支払義務者として受託銀行以外にも都道府県及び特定市が付加され、当せん金の支払等についても証票の呈示及び引換えは要求されていない。
(3) よって、原告は、被告に対し、法一一条二項に基づき、当せん金一〇〇〇万円の支払を求める。
2 被告の主張
(一) 法一一条一項の規定から明らかなとおり、当せんを確認する手段は当せん証票の所持に限られ、他の確認手段は認められておらず、当せん証票との引換えでなければ当せん金の支払等はできないこととされている。
法一〇条は証票の再交付をしないことを規定しており、いったん当せん証票の所持を失った者は、その所持を回復しない限り、その権利を喪失することとされている。
したがって、本件証票の呈示のない原告の請求は、主張自体失当である。
(二) 原告は、法一二条に定める時効期間経過後であれば、証票の呈示は必要でないと主張するが、時効中断の制度は、権利行使の期間を延長するだけで、権利の内容・法的性質、行使の要件を変えるものではないから、仮に、本訴請求により時効が中断しているとしても、証票の呈示がなければ当せん金の支払等を請求しえないことには変わりがない。また、そもそも原告は本件証票を所持していないのであるから、本訴請求は時効中断事由となり得ない。
第三争点に対する判断
一原告の主位的主張について
1 原告は、法一二条に定める時効期間経過後は、当せん証票の所持以外の方法により当せんの事実を立証しうる場合には、当せん証票を所持していなくても当せん金の支払等を請求しうると主張する。
2 しかし、法一一条一項は、当せん金の支払等の方法として、当せん証票との引換えによるべきことを明定しているところ、右規定の適用を時効期間内の請求に限定する旨の規定はないことに加えて、法は、その一〇条で、滅失、紛失又は盗難によって証票の所持を失った者に対して証票の再交付をしないことを定めているにもかかわらず、証票の所持を失った者が当せん金の支払等を請求するための手続に関する規定を一切設けておらず、かえって、その一八条二号で、法一一条一項の規定に違反して、当せん金品を支払い、若しくは交付し、又は受領した者に対する罰則を設けて、当せん証票との引換えによらない当せん金の支払等を厳しく抑制していること等に照らせば、法一一条一項は、請求が時効期間内であるか、時効期間経過後であるかを問わず、当せん証票の所持を当せん金の支払等の請求の要件としているものと解すべきである。
また、法一二条は、当せん金の支払等の請求権が一年間の時効によって消滅することを定めたものに過ぎず、同条が、時効期間経過後の請求には証票の所持を要しないという原告主張の解釈の根拠となるものでもない。
したがって、仮に、原告が主張するように、時効期間経過後には当せん確認作業等による混乱や二重払の危険性がないとしても、当せん証票を所持しないで当せん金の支払等を請求することはできないというべきである。
二原告の予備的主張について
1 原告は、法一一条一項は、法一二条の時効期間内の支払方法を定めた規定であり、法一一条二項は、一般的な支払義務を定めた規定であって、同条二項による請求には証票の呈示及び引換えは要求されていないと主張する。
2 しかしながら、法一一条二項は、証票を発売した都道府県、特定市又は受託銀行が、受託銀行から直接に証票を購入した者若しくは当該購入者から贈与を受けた者又はこれらの者の相続人その他の一般承継人に対してのみ、当せん金の支払等の義務を負い、それ以外の者に対してはその義務を負わないことを規定したものであり、同条一項とあいまって、当せん金品の請求権に関し、その権利者及び義務者並びにその支払等の方法を規定したものであって、同条二項が、同条一項を離れて、別個独立の請求権あるいは権利行使の方法を規定したものと解することはできない。
また、法一一条一項の適用範囲を原告主張のように限定して解釈することができないことは、前述したとおりである。
三原告の主張は、いずれも独自の見解に基づくものであり、採用することができない。
四よって、本件証票を所持していないことを自認する原告の本訴請求は、その余の点について審理するまでもなく理由がない。
(裁判長裁判官武田多喜子 裁判官吉川愼一 裁判官森實将人)