大阪地方裁判所 平成3年(ワ)76号 判決 1991年12月25日
原告 株式会社 関電製作所
右代表者代表取締役 中田三郎
右訴訟代理人弁護士 谷正道
被告 山一工業株式会社
右代表者代表取締役 山脇雅則
右訴訟代理人弁護士 浅野博史
主文
一 被告は、原告に対し、金三八七万七三四〇円及びこれに対する平成元年六月二八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決の第一項及び第三項は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金七七五万四六八〇円及びこれに対する平成元年六月二八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、電子計算機・事務用機器のリース等を業とする株式会社であり、被告は、事務用機器・電気機器及びその付属品の販売等を業とする株式会社である。
2 原告は、平成元年二月二〇日、訴外鈴木自動車工業こと訴外鈴木為佐司(以下「訴外鈴木」という。)との間で、自動車整備業システム二式(NEC・PC―九八〇一UV等。以下、これらを「本件リース物件」という。)についてリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し、訴外鈴木から本件リース物件を受領した旨の借受証の交付を受けた。
3(一) 原告は、本件リース契約の締結に先立ち、平成元年二月一七日、被告から本件リース物件を金一一六三万二〇〇〇円で買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
(二) 原告は、同年二月二八日、被告に対し右代金を支払った。
4(一) しかし、平成元年六月二七日、被告からの連絡により、本件リース物件が訴外鈴木に納入されていないことが判明した。
(二) そこで、原告は、平成元年一〇月二〇日、被告に対し、本件リース物件を訴外鈴木に引き渡すよう催告した。
(三) 訴外鈴木は、平成二年一〇月二九日、大阪地方裁判所において破産宣告を受けた。
(四) 原告は、平成二年一二月二六日、被告に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
5 よって、原告は、被告に対し、本件売買契約の解除による原状回復として、代金一一六三万二〇〇〇円のうち金七七五万四六八〇円を返還することを求めるとともに、代金受領後である平成元年六月二八日から右返還済に至るまで商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払をすることを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 第1項及び第2項の事実は認める。
2(一) 第3項(一)の事実は否認する。本件リース物件の売主は、訴外日本ベンディック工業株式会社(以下「日本ベンディック工業」という。)である。被告は、売主である日本ベンディック工業のために、原告と訴外鈴木との間の本件リース契約締結の仲介をしたに過ぎない。
日本ベンディック工業が本件売買契約における売主であることは、原告において、昭和六三年六月二日付取引基本約定書をもって日本ベンディック工業に対し同社の関連するリース契約について、リース物件の再販保証(ユーザーからのリース料の回収が不能となったときは、日本ベンディック工業において引き取り、残存リース料相当額で他に再販売する義務を負うという内容のもの)の義務を負担させていることから明らかである。
(二) 同項(二)の事実は認める。被告は、仲介人として、代金を受領し、仲介報酬金九三万二〇〇〇円を控除した残金一〇七〇万円を直ちに日本ベンディック工業に送金した。
3(一) 第4項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)の事実は否認する。
(三) 同項(三)の事実は知らない。
(四) 同項(四)の事実は認める。
4 第5項は争う。
三 抗弁
1 代理人としての意思表示
被告は、本件売買契約に先立ち、日本ベンディック工業から、本件売買契約を締結する代理権を授与された。
2 権利の濫用
(一) 本件リース契約の契約書の第八条第一項においては、リース物件の引渡しの遅延又は不能の問題は、売主とユーザーの間で解決すべきものとされて、リース会社は責任を負わない旨定められている。また、原告は、訴外鈴木から本件リース物件の借受証の交付を受けているので、本件リース物件の納入がなくとも、訴外鈴木に対してリース料債権を有している。
(二) 実際にも、原告は、本件リース契約が空リースであることが判明した平成元年六月以降も平成二年九月までリース料を受領し続けていた。
(三) しかるに、原告は、本件リース物件の引渡しに何の利害関係も持たないにもかかわらず、被告の関与しない訴外鈴木の破産及び日本ベンディック工業の倒産という事情によりリース料債権の回収が困難になると、本件リース物件の引渡しの不履行を理由に本件売買契約を解除したものであり、原告の解除権の行使は、権利の濫用に当たる。
3 信義則違反
(一) 本件売買契約は、本件リース物件の実質的な売主である日本ベンディック工業がユーザーとなるべき訴外鈴木を見出し、販売条件、リース条件の交渉をした上、被告が形式上の売主となって、その事情を熟知している原告との間で締結したものである。
(二) そして、原告の塩田課長は、本件リース契約の締結のため訴外鈴木の営業所を訪問し、本件リース物件が日本ベンディック工業から納入されていないことを知りながら、訴外鈴木から本件リース物件の借受証の交付を受けて本件リース契約を締結し、しかも、事後的にも納入確認の手続をとらなかった。
(三) 原告の本件原状回復請求は、原告において、物件納入確認義務の履行を自ら怠っておきながら、訴外鈴木及び日本ベンディック工業の倒産により損害が発生すると、形式的な売主である被告に対して売主としての責任を追及することにより、その損害を填補しようとするものであって、信義則に反する。
四 抗弁に対する認否
1 第1項の事実は否認する。
2(一) 第2項(一)(二)の事実は認める。
(二) 同項(三)は、原告の解除権の行使が権利の濫用に当たることを争う。
3(一) 第3項(一)及び(二)の事実は否認する。
(二) 同項(三)は、原告の原状回復請求が信義則に反することを争う。
第三証拠《省略》
理由
第一請求原因事実について
一 請求の原因第1項及び第2項の事実は当事者間に争いがない。
二 次に、請求の原因第3項(本件リース物件の売主及び代金の支払)について判断する。
(一) 《証拠省略》によると、平成元年二月一七日、原告が被告に対し、甲第一号証の仮リース請書をファクシミリで送信し、被告がこれを受信したことにより、原告と被告との間で本件売買契約が成立したことを認めることができる。
なお、被告は、本件売買契約の売主であることを否定するが、《証拠省略》によると、原告、被告及び日本ベンディック工業の三者間で昭和六三年六月二日付で締結された継続的取引の基本契約(以下「本件基本契約」という。)においては、日本ベンディック工業が関与して原告がリースする物件については被告が売主となる旨明記されていること、本件売買契約及び本件リース契約の締結に際し、原告と交渉したのは被告であって、日本ベンディック工業は全く原告と交渉をせず、かつ、契約締結に立ち会っていないこと、本件リース契約につては被告を売主と表示したリース契約書が作成され、その際被告の森井次長が立ち会ったこと、被告は、本件売買契約に関し、本件リース物件を日本ベンディック工業から買い受け、これを原告に売り渡した旨の経理処理をしていること、被告は、平成元年二月二八日付で原告に対し本件売買代金の請求書を提出していること、以上の諸事実を認めることができ、これらの事実と後に判示するように原告が被告に対し平成元年二月二八日に本件売買契約の代金を支払っていることからすれば、本件売買契約の売主が被告であることは明らかである。
もっとも、《証拠省略》によると、本件基本契約においては、日本ベンディック工業において原告に再販保証をし、しかも、再販価格が残存リース料相当額とされていることが認められるが、《証拠省略》によると、それは、実質的な売主である日本ベンディック工業が第一次売主となり、被告が法形式的に第二次売主となるという三者の法律関係の実質を反映した特別の措置と認めることができ、日本ベンディック工業が原告に対して再販保証をしていることは、法律上、売買契約の当事者を被告と解することの妨げとはならない。
(二) 請求の原因第3項(二)の事実は、当事者間に争いがない。
三 次に、請求の原因第4項(一)の事実は当事者間に争いはなく、同(二)の事実は《証拠省略》によりこれを認めることができ、同(四)の事実は当事者間に争いがない。
第二抗弁について
一 抗弁第1項の事実は、これを認めるに足りる証拠はない。
二 次に、抗弁第2項について判断する。
1 同項(一)(二)の事実(原告が訴外鈴木に対してリース料債権を有し、かつ、空リースであることが判明した後も平成二年九月までリース料を受領し続けていたこと)は、当事者間に争いがない。
2 しかしながら、前示のように、本件リース物件は、再販保証の対象となっており、その所有者である原告にとっては、リース料債権の支払確保という点で重要な意味を有しているから、売主から現実の交付がなかったときは、当然にその交付を請求する権利を有しており、また、その権利を行使する利益を有しているというべきである。
したがって、原告において被告に対し本件リース物件の引渡しを請求し、その履行がないことを理由として本件売買契約を解除したことをもって権利の濫用に当たるとすることはできない。
三 そこで、進んで、抗弁第3項について判断する。
1 《証拠省略》によると、被告が本件基本契約において日本ベンディック工業の取り扱うリース物件の売主となることを承諾したのは、第一次売主である日本ベンディック工業に信用がなかったことから、原告において要求したものであること、したがって、原告は、本件基本契約に基づいて被告が法律的には第二次売主となるが、実際には第一次売主である日本ベンディック工業においてユーザーを捜し出し、かつ、直接ユーザーにリース物件を納入することを熟知していたこと、原告は、平成元年二月一七日、被告に対し、同年二月二〇日に訴外鈴木の営業所において、本件リース物件の検収を行うことを約したこと、原告の塩田課長及び被告の森井次長は、右同日、予定どおり検収のため訴外鈴木の営業所を訪問したが、訴外鈴木から未だ本件リース物件が納入されていないことを知らされながら、訴外鈴木から日本ベンディック工業において納入日を翌日に変更した旨の説明を信用し、訴外鈴木との合意により、納入のない状態で、訴外鈴木から本件リース物件の検収を終えた旨の預り証、初回のリース料の交付及び第二回以降のリース料の支払のための約束手形五九通の交付を受けた上で、被告の森井次長の立会の下、本件リース契約を締結したこと、そして、原告備付けのリース物件検収書兼支払明細表に同日検収を終えた旨記載した上、前示のように被告に対し売買代金の支払をしたこと、以上の諸事実を認めることができる(《証拠判断省略》)。そして、《証拠省略》によると、被告は、右代金納入のあった平成元年二月二八日、日本ベンディック工業との約定に基づき、手数料金九三万二〇〇〇円を控除した残金一〇七〇万円を日本ベンディック工業に支払ったことが認められ、右において判示した事情からすると、原告においても、本件売買代金を被告に支払えば、右のように直ちに日本ベンディック工業に売買代金が支払われるに至ることは容易に推測できたものと推認できる。
2 ところで、原告は、本件訴えにおいて、被告が本件リース物件を納入しなかったことを理由として本件売買契約を解除した上、解除に基づく原状回復義務の履行としての本件売買代金の一部の返還を求めている。しかし、原告、被告及び日本ベンディック工業の三者は、本件基本契約を締結した上、継続的に取引を行っていたものであり、原告は、被告が法形式上の第二次売主に過ぎず、本件リース物件を実際に納入するのは第一次売主である日本ベンディック工業であることを熟知していたこと、したがって、原告は、再販保証という点では日本ベンディック工業にその責任を負わせていたこと、しかし、原告の塩田課長は、被告の森井次長に立会いを求めた上、検収のために訴外鈴木の営業所に出向きながら、本件リース物件が未だ納入されていないにもかかわらず、検収を終えたものと処理して、本件売買代金の支払をしたこと、そして、当時、原告において、右のような処理をすれば、被告が第一次売主である日本ベンディック工業に対し売買代金の支払をすることを容易に予測できたことは前示のとおりであり、これらの事実からすると、本件において空リースの生じたこと及び空リースであるにもかかわらず原告から被告に対する代金の支払、被告から日本ベンディック工業に対する代金の支払がされてしまったことについては、原告及び被告に平等の責任があるというべきである。
したがって、原告が、本件売買契約の解除に伴う原状回復として、被告に対して返還請求することができるのは、本件売買代金金一一六三万二〇〇〇円のからリース料の支払により実質的に回収することができた金三八七万七三二〇円を控除した金七七五万四六八〇円(この点については、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。)の半額である金三八七万七三四〇円に限られ、これを超える部分の返還請求は、信義則に反し許されないというべきである。
第四総括
以上において判示したところによると、原告の請求は、本件売買代金のうち、金三八七万七三四〇円及びこれに対する本件代金受領後である平成元年六月二八日から支払済に至るまでの商事法定利率年六分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡久幸治)