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大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)90号 判決

原告

辻本仁三郎 (ほか二五名)

右原告ら代理人弁護士

坂和章平

岡村泰郎

村上久徳

竹原大輔

被告

大阪府知事 山田勇

指定代理人

草野功一

紀純一

渡辺眞一郎

中谷美智子

井上泰正

仲田博

片山靖隆

徳永久明

事実及び理由

第三 判断

一  本案前の主張について

行政処分の取消の訴えは、当該処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者に限ってこれを提起することができるところ(行政事件訴訟法九条)、ここにいう法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を有する者ということができる。そして、法律上保護された利益とは、当該処分の根拠となった実体法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることによって保障されている利益であるが、このような意味での法律上保護された利益を有するか否かの判断に当たっては、当該処分の根拠とされた当該行政法規並びにこれと目的を共通する関連法規の趣旨・目的、当該行政法規等が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断することになる。

ところで、土地区画整理組合の設立の認可は設立認可申請に係る組合の事業計画を確定させるとともに(法二〇条、二一条三項)、その組合の事業施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者を組合員とする土地区画整理組合を成立せしめ(法二一条四項、二二条、二五条一項)、その組合員に対し費用負担をはじめとする種々の負担を負わせる地位を取得させるものである。しかし、事業施行地区内の宅地に所有権又は借地権を有しない者は、認可によってこのような組合員たる地位を取得することはなく、何らその権利義務に影響を及ぼさない。法一条は土地区画整理事業に関し「健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と規定し、右規定が当該事業施行地区のみならずその周辺地区をも含めた市街地の健全な形成を目的としているといえるものの、これは当該事業施行区域周辺住民の生活環境を、国民一般が良好な環境として享受するのと同様の意味で、一般的抽象的に保護することを述べたに止まり、右規定が当該事業施行地区内に宅地の所有権又は借地権を有しない周辺住民に対して、そのような生活環境に係わる利益を個別的具体的な利益として保護の対象としたものとはいえない。また法二〇条二項は当該土地区画整理事業に関係のある物件について権利を有する者らは事業計画について意見書を提出することができる旨を規定し、当該事業施行地区内の宅地に所有権又は賃借権を有する者以外の者についても行政参加の機会を付与しているが、これは行政の正当性を担保するため広く行政に対する意見を聴取することにしたものであって、この規定が当該事業施行地域内の宅地に所有権又は借地権を有しない者の生活環境上の利益を個別具体的に保護しようとしたものということもできない。また原告主張の都市計画及び大都市法の規定も、右同様周辺住民の生活環境について抽象的一般的に保護されるべきことを述べたに止まり、これらの者に個別具体的に生活環境上の利益を保護しているものとはいえない。そうであれば、土地区画整理組合の認可については、当該事業施行地区内の宅地に所有権又は借地権を有しない者は、その取消を求める法律上の保護される利益を有しないといわざるを得ない。

したがって、原告寺前らは、本件処分の取消を求める法律上の利益を有しないので、その訴えを却下することとする。

二  本案について

1  土地区画整理組合設立の認可申請をするためには、施行区域となるべき区域内の宅地の所有者と借地権者のそれぞれについて、その数及び面積の三分の二以上の多数が定款及び事業計画に同意することが必要であるところ(法一八条)、〔証拠略〕によれば、門真市長は、平成二年九月二八日までに阪口艶子、守口太陽機械株式会社、市原フサノ、一番産業有限会社、西澤俊教、有限会社寿商事、西口正昭、西村有美子、西村美代子の九名から、本件事業施行区域内の宅地に借地権を有するとの申告を受け、被告に対し同申告があったことを通知したこと、さらに本件組合の設立認可申請者の被告に対する認可申請には、右九名の者のうち阪口艶子、守口太陽機械株式会社、市原フサノ、一番産業有限会社、西口正昭、西村有美子、西村美代子からの、定款及び事業計画に同意する旨の同意書が添付されており、被告は右借地権申告者九名を適法な借地権者と認定し、内七名の同意があると認定したことが認められる。

2  次に争いのある阪口艶子、西村有美子、西村美代子、西口正昭、市原フサノの借地権の有無について検討する。

(一)  阪口艶子の借地権について

証人阪口艶子及び同阪口昭太郎は、阪口艶子が昭和五七年一二月1日本件事業施行区域内にある阪口昭太郎所有の土地(大阪府門真市大字一番四九一の一田一〇九平方メートル、以下「阪口賃借地」という。)を建物所有の目的で同人から借り受けたと供述し、これに沿う書証として乙八号証の2、乙九号証が存在する。

そこでこれらの証拠の信憑性について検討する。阪口昭太郎は、阪口艶子の夫であり、本件事業施行区域内に二五七九平方メートルの土地を所有しているほか門真市内にも不動産を所有し、これらの土地については自らが代表者をつとめる昭栄不動産株式会社によって管理をしたりしている(〔証拠略〕)。阪口賃借地は、阪口昭太郎と阪口艶子が昭和二五年ころから農地として利用してきているところ、同土地上には、今から二〇年以上前に阪口昭太郎が三〇万円ほどの費用をかけて作った小屋が建てられていた。なお右小屋は、壁面をトタンでおおった四坪程の木造の小屋であったが、平成四年一〇月に撤去された。そして、右小屋は阪口昭太郎や阪口艶子によって、農機具の保管場所として使用されてきたが、農機具のうち耕運機等の高価な器具は阪口昭太郎の、鍬等は阪口艶子の所有であった(〔証拠略〕)。

右事実からすると、借地権が設定されたとされる昭和五七年一二月一日前後において阪口賃借地の土地使用状況には変化はなく(乙九号証の賃貸借契約書には目的として倉庫建築使用とあるが倉庫が新たに建てられた形跡もない。)、その後も阪口昭太郎及び艶子が阪口賃借地において従前同様農業を行い小屋も共同して使用していたのである。

なお、賃貸借契約を締結した経緯について、阪口艶子は今後も農業を継続することから夫婦間でも権利関係を明確にする方がよいとの考えを述べ、阪口昭太郎は節税のためとも述べるが、右のとおり、賃貸借契約締結後は阪口艶子のみが阪口賃借地において農業をおこなっていたという利用状況にはなく、阪口賃借地に借地権を設定することが阪口昭太郎の所有する土地全体の面積に照らしどの程度節税になるかも疑問である。

こうしてみると阪口昭太郎と阪口艶子という夫婦の間で特に賃貸借契約を締結すべき合理的理由が見いだせず、また小屋の規模、構造からこの小屋のために阪口賃借地全体に賃借権を設定することは不自然であること、このことに阪口賃借地の右利用状況を合わせて見ると、阪口賃借地について賃貸借契約を締結したとする阪口艶子及び阪口昭太郎の証言は俄かに信用できず、したがって同人ら間で作成された〔証拠略〕も信用し難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  西村有美子、西村美代子の賃借権について

証人西村有美子、同西村美代子、同西村覚は、西村有美子は昭和六一年二月一日西村覚から本件事業施行地区内の土地(大阪府門真市柳田町四二二番地田四六六平方メートル、以下「有美子賃借地」という。)を、また西村美代子は昭和五八年一〇月二〇日同じく西村覚から同地区内の土地(大阪府門真市一番町四九二番田五四五平方メートル、以下「美代子賃借地」という。)をそれぞれ建物所有の目的で借り受けた旨供述し、これに沿う書証として乙八号証の2、一二、一三号証が存在する。

そこでこれらの証拠の信憑性について検討する。西村有美子は西村覚の妻、西村美代子は西村覚の母である(〔証拠略〕)。そして、美代子賃借地及び有美子賃借地は、主として西村覚が耕作、美代子や有美子は手伝う程度であって、耕作のやり方や進め方はすべて西村覚が決定し、平成四年秋ころまで耕作していた(〔証拠略〕)。また有美子賃借地には西村有美子が嫁いできた昭和五八年一二月にはすでに小屋が立てられていたが、その小屋は屋根と簡単な囲いがある程度の簡易な建物であり、農機具主に棒を保管する場所として利用されていた(〔証拠略〕)。また美代子賃借地にも、西村美代子が昭和五七年に一棟は七・六坪くらいの広さのプレハブ様の建物を、また西村美代子の夫である西村實が一・八坪くらいの広さの小屋を建て(なお西村實の死亡により西村美代子が相続により取得した。)、農機具を保管したりして使用していた(〔証拠略〕)。その後平成五年春右二棟の小屋は撤去され、農機具は西村覚が建てた小屋に収納された(〔証拠略〕)。

右事実からすると、有美子賃借地に賃貸借契約が締結されたとされる昭和六一年二月一日の前後を通じて同土地の使用状況に変化はなく、いずれも西村覚を中心に耕作が営まれていたことが認められる。

ところで賃貸借契約を締結する経緯について、西村有美子はいままで農業を手伝ってきたことから有美子賃借地に権利を有することになったことや節税のためであることを理由にあげる。しかし、他方有美子賃借地に関する賃貸借契約書(〔証拠略〕)によれば、右賃貸借は建物所有を目的とし、西村有美子は月額四万六六〇〇円の賃料を支払うことになるにもかかわらず、その使用状況は西村覚を中心とした使用を行うという従来の使用方法と変わらないものであって、しかも西村有美子は現在建物を建てることを考えているわけでもなく、農業による収入を得ている訳ではないのである(〔証拠略〕)。こうした状況で西村有美子が右の内容の賃借権を取得しようとすることは不自然といわざるを得ない。しかも西村有美子自身は賃貸借契約の設定による節税の内容やどの程度節税になったか分からないというのである(〔証拠略〕)。そうであれば、右西村有美子の述べる理由はいずれも合理的なものとはいえない。

こうしてみると西村有美子と西村覚という夫婦の間で特に賃貸借契約を締結すべき合理的理由は見いだせず、また小屋の規模、構造からこの小屋のために賃借権を設定することは不自然であること、このことに有美子賃借地の右使用状況を合わせて見ると、有美子賃借地について賃貸借契約を締結したとする西村有美子及び西村覚の証言は俄かに信用できず、したがって同人ら間で作成された乙八号証の2及び一二号証も信用し難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

次に前記認定の事実からすると、美代子賃借地に賃貸借契約が締結されたとされる昭和五八年一〇月二〇日の前後を通じて同土地の使用状況に変化はなく、いずれも西村覚を中心に耕作が営まれていたことが認められる。

ところで賃貸借契約を締結する経緯について、西村美代子は美代子賃借地に二棟の建物を有していたことや節税のためであることを理由にあげる。しかし、他方美代子賃借地に関する賃貸借契約書(乙一三)によれば、右賃貸借は建物所有を目的とし、西村有美子は月額四万三六〇〇円の賃料を支払うことになるにもかかわらず、その使用状況は西村覚を中心とした耕作を行うという従来の使用方法と変わらないものであって、しかも建物の大きさと賃借土地の広さを比較するとこの二棟の建物のために賃貸借契約締結することは不自然といわざるを得ないし、また節税という目的にしても、西村覚の相続における節税というのであれば、西村美代子は同人の母であることからしてやはり不自然といわざるを得ない。したがって西村美代子の述べる理由はいずれも合理的なものとはいえない。

こうしてみると西村美代子と西村覚という親子関係において特に賃貸借契約を締結すべき合理的理由は見いだせず、また建物の規模、構造からこの建物のために美代子賃借地全体について賃借権を設定することは不自然であること、このことに美代子賃借地の右利用状況を合わせて見ると、美代子賃借地について賃貸借契約を締結したとする西村美代子及び西村覚の証言は俄かに信用できず、したがって同人ら間で作成された乙八号証の2及び一三号証も信用し難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)  西口正昭の借地権について

証人西口正昭は、西口正三から昭和四七年に大阪府門真市柳田町三九二番二田七二平方メートルほか三筆合計八一一平方メートル(以下「正昭賃借地」という。)を借り受け、倉庫を建築しこれを二羽倉庫運輸株式会社に賃貸している旨供述し、これに沿う書証として乙八号証の2、一一号証がある。そこで右各証拠の信憑性について検討する。

正昭賃借地には倉庫が建っており、この倉庫の建築請負契約は西口正昭の父である西口正三の名義でなされており、しかも二羽倉庫運輸との倉庫賃貸借契約は西口正昭の父である西口正三の名義でなされ(〔証拠略〕)、二羽倉庫運輸との契約の更新、賃料の交渉、明け渡しの交渉、交渉代理人の選任はいずれも西口正三の名義でなされ、西口正昭はこれに関与していない(〔証拠略〕)。また右倉庫の賃料は振り込みにより支払われているが、その振り込み先は西口正三名義の口座であり、賃料収入については西口正三の収入として税務申告をしている(〔証拠略〕)。

以上の事実からすると、西口正三が右倉庫を所有しているとみるのが自然であり、西口正昭が所有していると見ることは困難である。この点に関し、西口正昭は、倉庫の建築にあたって、費用一二〇〇万円くらいのうち三、四〇〇万円を自分が捻出し、残金八〇〇万円くらいを西口正三から借り、月五ないし七万円を返済している旨、また名義は西口正昭が地方公務員であったので西口正三名義にした旨述べるが、右支出を裏付ける証拠はなく、しかも西口左昭は建物の賃貸人であれば当然関心がある二羽根庫運輸との賃料交渉等には一切関与していないし、その交渉の書類(〔証拠略〕)さえも見たこともないというのであるから(〔証拠略〕)、右供述は到底信用できない。そうであれば、西口正昭が、正昭賃借地について西口正三所有の右倉庫の所有を目的に西口正三との間で賃貸借契約を締結することは不合理であり、西口正昭の前記証言は到底信用することはできず、したがって乙八号証の2、一一号証も信用できない。ほかに賃借権を認めるに足りる証拠はない。

(四)  市原フサノの賃借権について

市原フサノは、本件事業施行地区内の土地(大阪府門真市柳田町四三一―一田三三平方メートル、以下「フサノ賃借地」という。)を市原肇から借り受けたと供述し、これに沿う乙八号証の2、一〇号証が存在する。証人市原フサノの証言は、息子である市原肇から土地を借りて小さな小屋をたて、地代を払っている旨供述するのみで、具体的な記憶もないのであるから、右供述から直ちに賃貸借契約の存在を認めることはできず、また〔証拠略〕によれば各書面の印影が同人の実印によるものであることは認められるものの、署名について市原フサノの署名ではなく、だれがどのような経緯で署名したのか不明であって、右各書証によって賃貸借契約の成立を認めることもできない。ほかに賃貸借契約の成立を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであるから、阪口艶子、西村有美子、西村美代子、西口正昭、市原フサノの借地権については、これを認めることはできない。

なお、被告は認可申請にあたっての借地権の存否については、形式的な審査権で足り、実質的な審査をすべきではない旨主張するが、仮に形式的な審査で足りるとしても、そのことは借地権者ではない者を借地権者として扱うことを許容するものではないこと明らかであって、被告の主張は理由がない。そうすると、借地権の申告があった阪口悦子、守口太陽機械株式会社、市原フサノ、一番産業有限会社、西澤俊教、有限会社寿商事、西口正昭、西村有美子、西村美代子の九名のうち、守口太陽機械株式会社、一番産業有限会社、西澤俊教、有限会社寿商事のみが借地権者というべく、うち同意が得られたのは守口太陽機械株式会社、一番産業有限会社にすぎないのであるから、法定の同意要件である借地権者の三分の二の同意を得ていないことに帰する。したがって、本件処分は違法といわざるを得ない。

3  よって、原告寺前らを除く原告らの請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村浩藏 裁判官 遠山廣直 植村京子)

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