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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)11250号 判決 1994年2月24日

主文

一  被告は、肥料について、別紙第二目録記載(1)及び(3)の標章を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一五六万三三九二円及びこれに対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、肥料について、別紙第二目録記載の各標章を使用してはならない。

二  被告は、その包装に別紙第三目録記載(1)又は(2)の商標を付した原告の販売する肥料につき、同商標を剥奪抹消し、又は同商標を剥奪抹消のうえ他の標章を使用して、これを販売してはならない。

三  被告は、原告に対し、金三五六万九七二〇円及びこれに対する平成四年一二月二七日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利

原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

(一) 出願日 昭和三八年二月一三日(昭三八--四九七二)

(二) 出願公告日 昭和三九年四月三〇日(昭三九--九五四四)

(三) 登録日 昭和三九年八月二一日

(四) 登録番号 第六五〇六四八号

(五) 指定商品 平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表 第二類 肥料

(六) 登録商標 別紙第一目録記載のとおり

(七) 更新登録日 昭和五〇年一月二八日、昭和五九年九月一七日

2  原告の販売商品

原告は、昭和三九年頃から、アメリカ合衆国内において製造され、本件商標と要部「magAmp」が外観・称呼において酷似し、商標法五〇条一項との関係では本件商標と同一と認められる、別紙第三目録記載(1)又は(2)の商標(以下「原告原商標」という。)が付された、容量約二二キログラム(五〇ポンド)の大袋詰めの園芸用綬効性化成肥料(以下「本件商品」という。)について、同国法人ダブルアールグレースカンパニーとの間に日本における独占的販売契約を締結して同社から本件商品を我が国に輸入し、日本国内において、これを生産者向けの業務用商品として、右包装状態のままそれに肥料取締法に基づく成分表示重量等を示す輸入業者保証票を貼付して全国各地の代理店に卸売する一方で、そのうちの一部は自社工場において右大袋包装を開披して内容品を容量七〇グラム、二〇〇グラム、五〇〇グラム、一キログラム、三キログラムの五種類の各大粒・中粒商品(但し二〇〇グラムは中粒のみ)に小分けしビニール小袋に詰め替え紙製包装用外箱に入れて再包装したうえ、「マグアンプK」の商品名で、紙製包装用外箱に本件商標と要部「マグアンプ」が称呼において類似する別紙第二目録記載(2)の標章(以下、原告の販売商品については「原告標章(2)」と、被告小分け品については「イ号標章(2)」という。)及び本件商標と要部「magAmp」が同一性のある同目録記載(3)の標章(以下「原告標章(3)」という。)を付して一般消費者向けの家庭園芸用商品(以下、右各小分け品をまとめて「原告小分け品」という。なお、五〇〇グラム入りの原告小分け品のみを特に断らずに「原告小分け品」という場合もある。)として、全国各地の代理店に卸売しており、一九八九年度ないし一九九一年度の間の我が国無機質肥料市場におけるマグアンプK(本件商品及び原告小分け品)の市場占有率は一〇%強、販売額は年間約五億円に達している。

3  被告の行為

(一) 被告小分け品の販売

被告は、熊本市内に店舗を構え、園芸生物及び園芸資材の小売業を営んでおり、遅くとも平成二年以降、業として有限会社ゴトー産業(以下「ゴトー産業」という。)から、同社が本件商品の大袋包装を開披して内容物を一キログラム、五〇〇グラム、二〇〇グラム等に小分けし透明のビニール小袋に詰め替え包装し直した商品を買い受け、或いは自らゴトー産業又は花市場で購入した本件商品を同様に小分けし詰め替え包装し直した商品を被告店舗の店頭に並べて販売している(以下右各小分け品をまとめて「被告小分け品」という、被告は現在では五〇〇グラム入りの被告小分け品のみを販売しており、以下では五〇〇グラム入りの被告小分け品を特に断らずに「被告小分け品」という場合もある。)。

(二) 被告小分け品に本件商標と類似の標章の使用

被告は、被告小分け品の販売に際し、原告に無断で本件商標と類似の標章を使用しており、その使用態様は次のとおりである。

(1) 販売開始当初の頃は、本件商標と要部「マグアンプ」が称呼において類似し、原告標章(2)(イ号標章(2)と同じ)と酷似する別紙第四目録記載の標章(以下「(イ)号標章(4)」という。)を表出したレッテル(シール)を、それに詰め替えたままで何の標章も付されていない透明のビニール小袋に貼付した被告小分け品をゴトー産業から仕入れて、又は被告において何の標章も付されていない透明のビニール小袋に詰め替えそのビニール袋に直接本件商標と要部「マグアンプ」が称呼において類似する別紙第二目録記載(1)の標章(以下「イ号標章(1)」という。)を手書きした被告小分け品を、被告店舗内の商品陳列棚に並べて販売していた。

(2) 平成三年八月一二日付及び同年九月一三日付の警告書を原告から受領した後頃には、右(1)の行為を中止し、被告店舗内の商品陳列用ワゴン台上には、被告において何の標章も付されていない透明のビニール小袋に詰め替えた被告小分け品を多数展示し、右ワゴン台に「マグアンプK(イ号標章(1)に同じ)、マグアンプ 五〇〇g¥八八〇」などと手書きした定価表を張り付けるとともに、商品陳列棚及びレジスター台等にも同様の自家製POP広告(point-of-purchase advertising・購買時点広告)を掲示し、被告小分け品を販売するに至つた。

(3) 平成四年七月一五日付の警告書(甲五)を原告から受領した後頃には右(2)の行為を少し変更し、被告において何の標章も付されていない透明のビニール小袋に詰め替えた被告小分け品だけを目立つように陶器の高杯状植木鉢及びプラスチック製プランターに多数入れて展示し、その陳列容器の中及び近傍に「マグアンプK(イ号標章(1)に同じ)原袋小分け 五〇〇g八八〇円、マグアンプK(五〇〇g)一袋八八〇円 二袋一四八〇円」などと手書きした定価表を掲出するとともに、右高杯状植木鉢とプランターの間に本件商品をそのまま包装用大袋の表面に付された原告原商標(その要部は別紙第二目録記載(3)の標章〔以下「イ号標章(3)」という。〕に同じ、被告使用の以上の各標章をまとめて「イ号標章」という。)が来店者から見えるように展示し、被告小分け品を販売するに至り、現在もなおその状態を継続している。(以下、その販売態様をも含めて被告小分け品の販売行為を単に、「被告小分け品販売」という。)

(三) 原告小分け品の販売

被告は、被告小分け品とは別に、立派な紙製包装用外箱に収納されている原告小分け品も他社の商品と同様に陳列販売しており、その販売価格は原告の希望小売価格九八〇円である。

二  請求の概要

1  被告の右一3(一)(二)の被告小分け品販売行為が本件商標権の侵害を構成することを理由に、商標法三六条一項に基づき、別紙第二目録記載の各標章の使用停止(請求の趣旨一項)、

2  被告の右行為が不正競争防止法一条一項一号の商品混同行為及び同項五号の商品の品質・内容等の誤認的表示行為となることを理由に、右各号に基づき、右行為の停止(請求の趣旨二項)、

3  民法七〇九条又は不正競争防止法一条の二第一項に基づき、被告の右行為により原告が被つた損害三五六万九七二〇円の賠償(<1> 商標法三八条一項の適用又は類推適用により被告が被告小分け品の販売により得た利益相当額の営業上の損害、<2> 信用毀損による損害及び<3> 弁護士費用損害の合計金額の内金請求。請求の趣旨三項)

を請求。

三  争点

1  差止請求の当否。すなわち、<1> 被告が原告販売の本件商品を小分けして詰め替えた被告小分け品に本件商標に類似するイ号標章を使用する行為が本件商標権の侵害を構成するか。<2> 被告の右行為が不正競争防止法一条一項一号の商品混同行為又は同項五号の商品の品質・内容等の誤認的表示行為となるか。

2  損害賠償請求の当否。すなわち、1が肯定された場合、被告が負担すべき原告に生じた損害の有無及びその金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(差止請求の当否)

【原告の主張】

1 本件商標権の侵害

(一) 商標法上、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し引き渡し譲渡若しくは引渡のために展示し又は輸入する行為」、及び「商品に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し又は頒布する行為」は標章の「使用」に該当する旨規定されている(同法二条三項二号、七号)。したがつて、被告が前記第二の一3(二)(2)(3)の態様でイ号標章(1)(3)を被告小分け品に使用する行為が右標章の「使用」に当たることは明らかである。また、被告が前記第二の一3(二)(1)の態様で、イ号標章(2)又は(4)を付した被告小分け品を販売する行為が同項二号の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡……する行為」に、被告小分け品自体にイ号標章(1)を付する行為が同項一号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」に当たることもいうまでもない。そして、イ号標章は、いずれも本件商標に類似するから、被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為は、いずれも商標法三七条一号の「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」に該当し、本件商標権の侵害行為として、同法三六条一項に基づく侵害停止請求の対象となる。

以上のことは、<1> 福岡高裁昭和四一年三月四日判決(下刑集八巻三号三七一頁)、<2> 最高裁昭和四六年七月二〇日判決(刑集二五巻五号七三九頁)、及び<3> 大阪地裁昭和五一年八月四日決定(無体集八巻二号三二四頁)等の裁判例からも明らかである。すなわち、これらの裁判例は、すべて真正商品を小分けし詰め替え包装し直した商品に当該真正商品に付されている登録商標と同一の商標を付して販売した事案について、当該商標権の侵害を構成すると判断しており、右判断は、真正商品(本件商品)を小分けし詰め替え包装し直した商品(被告小分け品)に当該真正商品に付されている登録商標(本件商標)と類似する商標(イ号標章)を使用する被告の右販売行為にもそのまま妥当する。

(二) また、実質的にみても、被告の右販売行為は、本件商標の持つ商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能のいずれをも害する違法な行為である。何故ならば、原告は、自らも本件商品を小分けし小袋に詰め替えて再包装し、本件商標に類似する被告標章(2)(3)を紙製包装用外箱に付した原告小分け品を販売しているが、本件商品のような粒状肥料は小分け及び詰め替え再包装の機会に異物が混入したり、或いはその組成に変化をもたらす危険があるため、原告は、本件商品の販売及び原告小分け品の小分け及び詰め替え再包装作業に当たり、商品の品質成分を維持するため、特に次のように細心の注意を払つており、需要者も、かような原告の厳重な品質管理に信頼を置いて本件商品及び原告小分け品を購買している。すなわち、原告は、

<1> 本件商品について、定期的に内容品の成分分析を行うほか、原告小分け品の小分け詰め替え再包装の際にも改めて内容品の成分の分析調査を行い、

<2> 商品に異物が混入することのないように細心の注意を払い、原告小分け品の小分け及び詰め替え再包装の用途だけに使用する、専用の製造ラインを工場内に設け、

<3> 内容品が湿気を帯びると、粒が結合、固結して大きくなつたり、化学反応により成分の組成に変化を来し、本件商品が本来具えている品質・特性が劣化するため、原告小分け品の小分け詰め替え再包装作業をする工場内には空調設備を設置し、それでも工場内の湿度が高くなるときには作業を中止し、

<4> 小分け品と本件商品の粒の大きさに差異が生じることのないよう、本件商品の包装袋を開披して内容品を小分けし詰め替え再包装する際には、輸送や保管中に砕けて粒の小さくなつたものは除去し、

<5> 紙製包装用外箱に表示した正味重量を割ることのないように、十分注意を払つている。

したがつて、以上のような原告の厳重な品質管理体制に照らして考えれば、被告小分け品のように、原告の許諾を得ずに、その監督・管理も及ばない状況のもとで、本件商品を小分けし詰め替え再包装し、当該小分け品に本件商標に類似するイ号標章を使用すれば、被告小分け品も原告の厳重な品質管理が及んでいる原告小分け品と同等物であるとの誤認を需要者に生じさせるだけでなく、被告小分け品自体も原告が自ら小分けし詰め替え再包装した商品であるとの誤解をも生じさせることになり、その結果、本件商品及び原告小分け品の具える品質の優秀性に対する需要者の期待を裏切り、ひいては本件商標の持つ商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能のいずれをも害する結果を招来するから、被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為は、いずれも本件商標権を侵害するものというべきである。

2 不正競争

(一) 本件商品の周知性

原告は、昭和三九年頃から現在まで、本件商品に原告原商標を、本件商品を小分けした原告小分け品の紙製包装用外箱に原告標章(2)(3)を付して販売している。右各商品は日本全国に出荷され、一九八九年度ないし一九九一年度の間の我が国無機質肥料市場におけるマグアンプK(本件商品と原告小分け品)の市場占有率は一〇%強、その販売額は年間約五億円に達し、原告原商標及び原告標章(2)(3)ないしマグアンプKの商品名は、原告販売の商品表示として需要者の間に広く認識されるに至つている。

(二) 商品の誤認混同行為

被告は、本件商品の包装に付された原告原商標を剥奪抹消し、または、これを剥奪抹消のうえこれと異なる他の標章を使用して、原告の販売する本件商品を小分けし小袋に詰め替え包装し直し、被告小分け品として販売しており、被告の右行為は、需要者に対し、被告販売の被告小分け品と原告販売の本件商品ないし原告小分け品との間に誤認混同を生じさせるものであり、不正競争防止法一条一項一号に該当する。

(三) 商品の品質・内容等の誤認的表示行為

被告は、原告の許諾を得ずに、販売目的を持つて原告原商標の付された本件商品の大袋包装を開披し、内容品を小分けしビニール小袋に詰め替えて包装し直し、右包装に特段の標章を付さずに、或いは、本件商標とも原告原商標とも明らかに異なるイ号標章(1)又はイ号標章(2)を付して販売している。そして、このようにして詰め替えられた被告小分け品には原告原商標が付されていないのであるから、被告の右行為は、原告が販売した時点では本件商品に付されていた原告原商標をその流通課程において原告に無断で剥奪抹消する行為である。しかして、登録商標の剥奪抹消行為は、商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであつて、商標権の侵害行為である(網野誠「商標(新版再増補)」六三四頁、小野昌延「商標法概説」一六〇頁等。なお、東京控訴院明治三七年四月一五日判決〔別冊ジュリスト商標・商号・不正競争判例百選一一八頁〕参照)。

原告原商標は、本件商標と称呼及び外観において類似し、原告原商標が付された本件商品が長年にわたつて市場の流通に置かれてきた結果、市場において需要者の間に、本件商標よりもむしろ原告原商標の方が原告の販売商品を示す表示として広く認識され、前記したとおり原告が厳重に維持管理する原告商品の品質成分を保証する機能を果たすに至つている。したがつて、被告が本件商品の包装に付された原告原商標を剥奪抹消したうえこれと異なる他の標章を使用して、原告の販売する本件商品を小分けし小袋に詰め替え包装し直した被告小分け品を販売する行為は、需要者に対し、それが原告の販売する商品ではなく、それ以外の第三者の製造販売にかかる商品であるとの誤認を生じさせるから、当該商品の品質ないし内容について誤認を生じせしめる表示をし、又はこれを表示した商品を販売する行為というべきであり、右行為は不正競争防止法一条一項五号に該当する。

また、被告が本件商品を小分けして小袋に詰め替え再包装した被告小分け品に特段の標章を付さずに販売すれば、それは積極的に本件商品の品質成分について誤認を生ぜしめるような表示をするものではないが、原告が原告原商標を付して流通に置いた本件商品について、その流通の中途で敢えて同商標を剥奪抹消したうえ流通に置くものであり、その結果、需要者に、それが原告の販売する商品ではなく、それ以外の第三者の製造販売する商品であるとの誤認を生じさせるから、右行為は商品の品質成分について誤認を生ぜしめるような表示をし、又はこれを表示した商品を販売する行為と評価でき、不正競争防止法一条一項五号に該当する。

そして被告のこのような行為によつて、原告は、原告原商標等によつて、原告の品質管理・維持等営業努力の成果たる本件商品の優秀性を自己に帰属せしめ信用を維持拡大するという機能を不当に奪われ、他方、被告は、原告の企業努力の成果たる本件商品の品質に基づく信用を不当に被告自身あるいはその他の原告以外のものに帰せしめ、さらにこの結果本件商品の品質が原告の商品以外の商品でも得られるとの誤認を需要者に抱かせることとなり、原告の企業努力の成果を不当に減殺する。

以上のように、被告の行なつている、原告に無断で、販売目的のもとに原告原商標の付された本件商品の包装を開披して、中身を小分けし、ビニール小袋に詰め替え、この詰め替えられた被告小分け品の包装に特段の標章を付さずに販売し、あるいは本件商標とも原告原商標とも明らかに異なる標章をその包装に付して販売するという行為は、原告の営業上の利益を不当に侵害する行為なのであり、これが不正競争防止法に違反するものであることは明らかである。

【被告の主張】

1 商標権侵害の主張について

被告は、顧客の要望に応じて、原告の販売する二二キログラム入りの大袋詰めの本件商品を購入し、その内容物を五〇〇グラムずつ小分けしビニール小袋に詰め替え再包装して被告小分け品とし、これを自ら経営する園芸品店の店頭で販売している。被告は、現在右販売に際し、被告小分け品の包装袋自体にはいかなる標章も付してはおらず、ただ、被告小分け品の内容物が本件商品と同一の商品であることを示すため、商品の陳列場所に「マグアンプK」の文字及び価格を手書きした価格表等を立て掛けているだけである。原告は、このような被告の行為が商標法二条三項七号の「商品……に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し又は頒布する行為」に該当し、本件商標に類似する商標(イ号標章)の「使用」に当たる旨主張する。しかし、被告は、原告自身が販売している原告小分け品も同様に市場で購入し、被告店舗の店頭に並べて販売しているのであるが、この原告小分け品の広告、定価表又は取引書類について被告が被告小分け品販売行為と同様の行為をしたとしても、原告は何らの異議も述べないはずであり、その点は仮にイ号標章が登録商標である本件商標そのものであつたとしても同じことであろう。それは何故かといえば、一般に、登録商標を付した商品を商標権者から買い受けた者が、これを転々販売する行為とか、このような商品を販売するために登録商標を広告、看板等に使用するような行為も条理上正当な事由による行為(網野誠「商標(新版増補)」六三四頁以下)、或いは目的到達による消滅として実質的に正当(豊崎光衛「工業所有権法〔新版・増補〕」三九七頁)であるからであつて、商標権の侵害にならないことが明らかであるとされているからである。特に、豊崎前掲書では、「私は旧版で、特許権については、目的の到達による消滅と解し得ないだろうかと書いたが、商標権についても、基本的には同様で、商標の変更使用や商品を修繕又は加工したり内容をとりかえたりすることによつて、商標の機能、とくに出所表示機能が害されない限りはそうではなかろうか。」とされている。

被告は、本件商品の小分け詰め替え再包装に際し、内容物を加工したり取り替えたりはしておらず、被告小分け品の内容物は正に原告の販売する本件商品と全く同一の真正商品であつて、また商標の変更使用もない。唯、被告は、このように被告小分け品の内容が原告の販売する本件商品の内容と同一であることを、需要者に対して明示するために、被告小分け品の定価表に「マグアンプK」と手書きしているにすぎないのであるから、仮に、被告の右行為が形式的にイ号標章の「使用」に当たるとしても、それは実質的には正当な事由による使用であつて違法性を欠如し、本件商標権の侵害にはならないものというべきである。

原告引用の各裁判例は、いずれも真正商品を小分けし再包装し、かつ、その小分け品に改めて当該真正商品に付されていた登録商標と同一の商標を付して再度流通に置いた事案に関するものである。しかし、被告は、真正商品(本件商品)を小分けし詰め替え再包装し、これを被告小分け品として被告店舗の店頭で販売してはいるが、被告小分け品自体に登録商標(本件商標)を付しているわけではないから、右各裁判例は本件にあてはまらない。

原告は、原告小分け品については厳重な品質管理をしており、被告の被告小分け品販売行為は、実質的にみても、本件商標の持つ商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能のいずれをも害する違法な行為である旨主張する。しかしながら、原告自身本件商品を国内で製造しているのではなく、米国から二二キログラム入りの大袋に詰めて包装されたものを輸入し、業務用にはこれをそのままの包装状態で販売し、一般消費者用にはこれを小分けし小袋に詰め替え再包装した原告小分け品を販売しているだけであるから、業務用商品について原告主張のような厳重な品質管理が行われているはずはなく、一般消費者用の原告小分け品についてもそのような厳重な品質管理が本当に行われているかは誠に疑わしい。そもそも、本件商品のような化成肥料は、本来、土壌の中にあつて湿気を帯び、その成分が水に溶けたものが植物に吸収されて栄養素となるものであり、湿気を帯びることによつて成分組成に変化をもたらし、その品質及び特性が劣化する類の商品ではない。もし万一、原告主張のように湿気を帯びることによつて本件商品の品質及び特性が劣化するとすれば、化成肥料としては用をなさないか、粗悪品の謗りを免れないことになろう。したがつて、被告の被告小分け品販売行為は、本件商標の持つ商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能のいずれをも害するものではないから、原告の右主張は理由がない。

2 商品混同の主張について

原告は、被告の被告小分け品販売行為が不正競争防止法一条一項一号の商品混同行為に該当する旨主張する。しかしながら、被告が販売しているのは原告の販売する真正商品(本件商品)であつて、その小分け商品として販売しているのであるから、商品について混同の問題を生じる余地はない。

3 商品の品質・内容等の誤認的表示の主張について

原告は、被告の被告小分け品販売行為が不正競争防止法一条一項五号の商品の品質・内容等の誤認的表示行為に該当する旨主張する。しかしながら、同号の規定は、商品の品質、内容、製造方法、用途又は数量について需要者に誤認を生ぜしめる表示をすること、又はそのような誤認的表示をした商品を販売等することを規制対象としているところ、被告は、被告小分け品自体には特段の標章を付さずに販売しており、その陳列場所には、被告小分け品が原告の販売している本件商品の小分け品であることを明示して販売しているのであるから、需要者に被告小分け品が被告の製造にかかる商品であるとの誤認を生じさせる余地はなく、したがつて、商品の品質・内容等の誤認的表示をしていることにはならない。

4 被告が顧客の求めに応じて二二キログラムの大袋詰めの本件商品からその都度小分けして販売する場合は、前記の理由により、何ら原告の権利・利益を侵害しないはずである。唯、そのような販売では販売の手間がいること、顧客も不便であることからまず予め小分けしたもの(被告小分け品)を販売しているのであるが、販売としてはその都度小分けする場合と変わらない。したがつて、被告の被告小分け品販売行為は実質的に正当な行為というべきである。

二  争点2(損害賠償請求の当否)

【原告の主張】

(営業上の損害)

1 被告が得た利益の額

商標法三八条一項の適用ないし類推適用(不正競争防止法関係)により、被告が被告小分け品販売行為によつて得た利益の額をもつて原告が被つた営業上の得べかりし利益の喪失による損害額と推定されるべきであり、その金額は四七七万八二四四円である。詳細は次のとおりである。

(一) 五〇〇グラム入り被告小分け品の総販売量 一万五〇五三袋

被告は、被告小分け品のうち五〇〇グラム入り小袋を平成五年一一月一日までの一年間に約五〇〇〇袋販売している。そして、売上数量は毎年約二割ずつ伸びているというのであるから、その増加率から逆算すると、<1> 平成三年一一月二日から平成四年一一月一日までの一年間に四一六六袋、<2> 平成二年一一月二日から平成三年一一月一日までの一年間に三四七一袋(小数点以下切り捨て)の被告小分け品が販売されたことになる。また、この計算によれば、<3> 平成元年一一月二日から平成二年一一月一日までの一年間に二八九二袋の被告小分け品が販売されたことになるが、被告代表者の供述するところによれば、平成元年頃から小分け販売を開始したというのであるから、遅くとも平成二年一月一日以降は同様の販売状況であつたと思料され、同日以降同年一一月一日までの間の販売量を日割計算すると二四一六袋となる。したがつて、以上によれば、被告は、遅くとも平成二年一月一日以降平成五年一一月一日までの間に五〇〇グラム入り被告小分け品を右合計一万五〇五三袋販売したことになる。

(二) 五〇〇グラム入り被告小分け品の一袋当たりの利益

(1) 販売単価 六四〇円

被告は五〇〇グラム入り被告小分け品を一袋七八〇円ないし八八〇円で、また、二袋一二八〇円又は一四八〇円で販売しているから、五〇〇グラム入り被告小分け品の販売単価は最も低く見積もつても六四〇円(一二八〇円÷二)となる。

(2) 一袋当たりの販売利益

(イ) 本件商品(大袋)から小分けした被告小分け品の一袋当たりの販売利益 三七八円

(ロ)のゴトー産業から仕入分以外の五〇〇グラム入り小袋の被告小分け品は、被告がゴトー産業や花市場等で二二キログラム入り大袋詰めの本件商品を一袋当たり一万一〇〇〇円ないし一万二〇〇〇円、平均一万一五〇〇円で購入し、これを小分けして五〇〇グラム入りの被告小分け品として販売しているものであるから、その一袋当たりの調達価格は二六二円(一万一五〇〇円÷〔二二〇〇〇÷五〇〇〕、小数点以下切り上げ)と算定される。したがつて、被告が小分けした五〇〇グラム入りの被告小分け品の一袋当たりの販売利益は少なくとも三七八円(六四〇--二六二円)である。

(ロ) ゴトー産業からの仕入分の五〇〇グラム入りの被告小分け品の一袋当たりの販売利益 二一三円

被告は、最初の頃ゴトー産業から既に本件商品(大袋)から五〇〇グラム入りの小袋に小分けされた商品を仕入れこれを販売したが、その販売分については粗利益五割と認められる。したがつて、ゴトー産業からの仕入分の被告小分け品の一袋当たりの被告の利益は少なくとも二一三円である。

(三) 五〇〇グラム入りの被告小分け品の販売によつて被告の得た利益総額 四七七万八二四四円

被告が平成二年一月一日から平成五年一一月一日までの間に被告小分け品のうち五〇〇グラム入りの被告小分け品の販売によつて得た利益総額は、後記(1)(2)の利益額を合計した四七七万八二四四円である。

(1) 平成三年一一月一日から平成五年一一月一日までの間の販売によつて被告が得た利益額 三六〇万一二〇六円

原告は、被告に対し、平成三年九月一三日頃到達の内容証明郵便で被告小分け品の販売について警告し、被告は、これに対し同月二五日頃到達の内容証明郵便で原告に対し、「貴社(原告)の同一商標を使用しておりません」との回答文書を発している。また、被告代表者は、原告の右警告を受けて、ゴトー産業からの購入商品である「マグアンプK」と記載されたレッテルを貼付した被告小分け品(既に小分けされた商品を仕入れたもの)の販売は中止した旨供述している(被告代表者本人調書一三丁表ないし一五丁裏)。したがつて、遅くとも平成三年九月二五日以降の期間に販売された被告小分け品は、すべて被告が二二キログラム入り大袋詰めの本件商品の包装袋を開披して内容物を五〇〇グラムずつに小分けした商品ということになる。そこで、同日以降平成五年一一月一日までの間に販売された被告小分け品の販売量を、前記(一)の被告小分け品の販売量をもとに計算すると、<1> 平成三年九月二五日から同年一一月一日までの三八日間は、同日までの一年間の販売量三四七一袋に基づいて日割計算した三六一袋(小数点以下切り捨て)、<2>同月二日から平成四年一一月一日までの一年間は四一六六袋、<3> 同月二日から平成五年一一月一日までの一年間は五〇〇袋となり、以上の合計は九五二七袋である。そして、この分の一袋当たりの販売利益は前記(二)(2)(イ)のとおり少なくとも三七八円であるから、結局、平成三年一一月一日から平成五年一一月一日までの間の被告小分け品の販売によつて被告が得た利益額は三六〇万一二〇六円(三七八円×九五二七)となる。

(2) 平成二年一月一日から平成三年九月二四日までの間の販売によつて被告が得た利益額 一一七万七〇三八円

平成二年一月一日から平成三年九月二四日までの間に販売された五〇〇グラム入り被告小分け品の販売量を、前記(一)の被告小分け品の販売量をもとに計算すると、総販売量一万五〇五三袋から右(1)の平成三年九月二五日から平成五年一一月一日までの間の販売量九五二七袋を控除した五五二六袋ということになる。ところで、この中には被告が二二キログラム入り大袋詰めの本件商品の包装袋を開披して内容物を五〇〇グラムずつに小分けした被告小分け品と被告がゴトー産業から仕入れた五〇〇グラム小袋入りの被告小分け品(既に小分けされた商品を仕入れたもの)とが混在していることになるが、前記したとおり、後者の商品の方が利益率が低く、そしてその一袋当たりの販売利益は前記(二)(2)(ロ)のとおり少なくとも二一三円であるから、結局、平成二年一月一日から平成三年九月二四日までの間の被告小分け品の販売によつて被告が得た利益額は少なくとも一一七万七〇三八円(二一三円×五五二六)を下らない。

2 得べかりし利益の喪失

原告は、本件商品を小分けした五〇〇グラム原告小分け品に原告標章(2)(3)を付して販売している。被告は、被告小分け品に右標章と同一のイ号標章(2)(3)を使用して販売しており、被告小分け品は原告小分け品と誤認混同を生じるおそれが多分にあり、両者が市場において競合することは明らかであるから、被告の被告小分け品販売行為により原告小分け品の売上の減少が招来される。もつとも、その反面、被告小分け品の販売量に相当する本件商品が被告によつて購入されていることになるが、原告小分け品と被告小分け品とでは、原告にとつては原告小分け品の方が利益率が高いので、原告はその差額分の損害を被つていることになる。この得べかりし利益の喪失額は合計四一九万四〇〇〇円と算定される。その詳細は以下に述べるとおりである。

(一) 被告が五〇〇グラム入りの被告小分け品を販売することにより、その分だけ五〇〇グラム入りの原告小分け品の販売量が減少することが推認されるので、被告の被告小分け品の販売量と同量の一万五〇五三箱分の五〇〇グラム入りの原告小分け品の販売量の減少が生じたと考えられる。五〇〇グラム入りの原告小分け品の原告の販売単価は五〇〇円であるので、両者を乗じた七五二万六五〇〇円だけ五〇〇グラム入りの原告小分け品の売上高の減少が生じていることになる。

(二) もつとも、被告の販売した五〇〇グラム入りの被告小分け品の内容物はすべて二二キログラム大袋入りの本件商品を小分けし詰め替えたものであるから、被告の右販売量に相当する分だけ本件商品の販売量が増加したという関係にある。そして、右本件商品の販売増加量は、次の計算式により三四二袋と算定される。

500(g)×15053÷22000(g)=(およそ)342

原告の、本件商品の販売単価は最高でも九七〇〇円(但し、実際には九〇四〇円で販売していることが多い。)であるから、右本件商品の販売増加に伴う原告の売上高増加額は、多くみても右販売単価九七〇〇円に右販売増加量三四二袋を乗じた三三二万七一〇〇円となる。

(三) 原告の逸失利益 四一九万九四〇〇円

以上によれば、(一)の売上高減少額七五二万六五〇〇円から(二)の売上高増加額三三二万七一〇〇円を控除した四一九万九四〇〇円が、原告に生じた利益減少額ということになる。そして、原告小分け品は本件商品を小分けして詰め替えたものであるから、(一)の売上高減少に伴う販売経費の減少と(二)の売上高増加に伴う販売経費の増加額はほぼ同額と考えられる。したがつて、原告の逸失利益額は右利益減少額四一九万九四〇〇円と評価される。

(その余の損害)

1 信用毀損による損害

原告は、本件商品に本件商標に類似する原告原商標を、本件商品を自ら小分けした原告小分け品に本件商標と類似する原告標章(2)(3)を付して販売するとともに、それらの商品の販売に際して前記のような厳重な品質管理をしているから、需要者は、原告の使用している右商標及び標章に対し、原告の厳重な品質管理のもとに販売された商品を表象するものであるとの期待及び信頼を持つている。これに対し、被告は、被告小分け品についてこのような厳重な品質管理をしておらず、こうした厳重な品質管理が行われていない被告小分け品に原告標章(2)(3)と同一のイ号標章(2)(3)を使用して販売すると、それが原告の販売商品と誤認混同され、その結果、需要者は、右の信頼及び期待を裏切られ、ひいては本件商品及び原告小分け品それ自体の信用及びその販売者である原告の信用が毀損されることになる。

また、被告は、本件商品から原告原商標を剥奪抹消して被告小分け品自体に標章を全く付さずに販売しているが、右行為により需要者には被告小分け品が本件商品を小分けし小袋に詰め替えたものであることが知らされず、被告小分け品が原告以外の者が販売する商品であるとの誤解を与えるおそれがある。被告小分け品は原告小分け品ほどの厳重な品質管理の水準は満たしていないにしても、元々の商品の品質内容の高さから、被告小分け品も原告小分け品に近い高品質を保持している。したがつて、被告が標章の全く付されていない被告小分け品を販売すれば、被告小分け品が原告以外の者が販売する商品であるとの誤認混同が需要者間に生じる結果、原告の長年にわたる企業努力により培われた本件商品及び原告小分け品の品質水準に近い商品が原告以外の販売者の販売商品によつても得られるとの誤解を需要者に生ぜしめ、ひいては本来本件商品及び原告小分け品ないしそれらの販売者である原告に帰せらるべき信用ないし名声が不当に減殺されることになり、その意味でも原告は信用を毀損されている。

2 弁護士費用損害

原告は、被告の被告小分け品販売行為について原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任することにより一〇〇万円以上の弁護士費用を負担し損害を被つた。被告の本件不法行為と相当因果関係のある右損害は一〇〇万円とするのが相当である。

(まとめ)

以上によれば、原告は、被告の本件不法行為により前示の各損害を被つているのであり、被告の得た利益は前記したとおり四七七万八二四四円と推定されるところ、原告の被つた損害額は前記のようにこれをはるかに上回ること(右原告の得べかりし利益喪失による損害額、信用毀損による損害額、弁護士費用損害額の合計)を併せ考えると、右推定された損害額は現実的であると同時に極めて適正な金額と評価されるべきである。

【被告の主張】

原告の損害に関する主張はすべて争う。原告は、本件商品が日本全国で広く認識されている旨主張するが、本件商品の出荷高は平成三年度においても五億六〇〇〇万円程度にすぎず、これを国民一人当たりにあてはめてみれば微々たる数字にすぎない。被告は、五〇〇グラム入り小袋の被告小分け品を年間五〇〇〇袋販売しているが、この販売実績の殆どは被告の顧客に対する販売促進活動や販売努力に起因する。そのことは、原告主張の出荷高から推定される小売高をすべて五〇〇グラム入りの商品とみなして販売店舗数で除すると一店舗当たりの販売高が算出されるが、それは一〇〇袋にも満たないことからも明らかである。

第四  争点に対する判断

一  争点1(差止請求の当否)

1  商標権侵害の主張について

商標法二五条は、「商標権者は、……指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定しており、そして、同法二条三項は、商標権者が専有し得る登録商標の「使用」には、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(一号)のみならず、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し引き渡し譲渡若しくは引渡のために展示し又は輸入する行為」(二号)及び「商品に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し又は頒布する行為」(七号)が含まれる旨、また、同法三七条一号は、「指定商品についての登録商標に類似する商標の使用」行為を当該商標権を侵害するものとみなす旨規定している。したがつて、商標権者以外の者が権限なく登録商標に類似する商標を、指定商品と同一の商品それ自体に直接付することは勿論、商品それ自体に直接付さなくとも、商品との具体的関連において、商標としての出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で「使用」することは、たとえば当該商品が商標権者の販売にかかる真正商品であつたとしても、商標権者の登録商標の使用権の専有を侵すことになる。

これを本件についてみるに、被告は、前認定(第二の一3(一)(二))のとおり、遅くとも平成二年以降、業として、被告小分け品を被告店舗の店頭に並べて販売しており、被告は、これら被告小分け品の販売に際し、原告の許諾を得ずに、<1> 販売開始当初の頃は、それに詰め替えたままで他に何の標章も付されていない透明のビニール小袋に、本件商標に類似するイ号標章(4)を表出したレッテル(シール)を貼付した被告小分け品、又はそれに詰め替えたままで他に何の標章も付されていない透明のビニール小袋に本件商標に類似するイ号標章(1)を手書きした被告小分け品を被告店舗内の商品陳列棚に並べて販売し、<2> 平成三年八月一二日付(甲九)及び同年九月一三日付(甲一〇)の警告書を原告から受領した後頃には右<1>の行為を中止し、被告店舗内の商品陳列用ワゴン台上には、何の標章も付されていない透明のビニール小袋に詰め替えた被告小分け品多数を展示し、右商品陳列用ワゴン台に「マグアンプK(イ号標章(1)に同じ)、マグアンプ 五〇〇g¥八八〇」などと手書きした定価表を張り付けるとともに、商品陳列棚及びレジスター台等にも同様の自家製POP広告を掲示して被告小分け品を販売するに至り、<3> 平成四年七月一五日付の警告書を原告から受領した後頃には右<2>の行為を少し変更し、何の標章も付されていない透明のビニール小袋に詰め替えた被告小分け品だけを目立つように陶器の高杯状植木鉢及びプラスチック製プランターに多数入れて展示し、その陳列容器の中及び近傍に「マグアンプK(イ号標章(1)に同じ)原袋小分け 五〇〇g 八八〇円、マグアンプK(五〇〇グラム)一袋八八〇円、二袋一四八〇円」などと手書きした定価表を掲出するとともに、右高杯状植木鉢とプランターの間に本件商品をそのまま包装用大袋の表面に付された、本件商標に類似する原告原商標(その要部はイ号標章(3)に同じ)が来店者から見えるように展示して、被告小分け品を販売するに至り、現在もなおその状態を継続している。

そうすると、被告は、本件商標と類似するイ号標章を、指定商品(肥料)と同一の商品である被告小分け品について、その出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で使用しているものと認められる。たとえ被告小分け品が原告販売にかかる本件商品(大袋)を開披してその内容物を詰め替えただけのものであつたとしても、被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為はいずれも本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。

また、実質的にみても、本件商品のような化成肥料は、その組成、化学的性質及び製造方法に関する知識を有する原告や製造者以外の者がこれを小分けし詰め替え包装し直すことによつて品質に変化を来すおそれが多分にあり、その際異物を混入することも容易であるから、被告の被告小分け品販売行為が許されるとすると、商標権者たる原告の信用を損い、ひいては需要者の利益をも害するおそれがあるので、被告の被告小分け品販売行為は本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。

したがつて、被告がイ号標章(1)及び(3)を被告小分け品に使用する行為が本件商標権の侵害行為となることを理由に、商標法三六条一項に基づき、右標章の使用停止を求める原告の請求は理由がある。なお、原告が使用停止を求めるイ号標章(2)は、被告が過去において使用したイ号標章(4)に類似していると認められるものの、これを被告が現実に使用した事実を認めることはできないうえ、イ号標章(4)も、被告による本件商標権の侵害行為の推移に鑑みれば、将来被告が使用するおそれがないと認められるから、イ号標章(2)の使用停止請求は理由がない。

(被告の主張について)

被告は、<1> 本件商品の小分け詰め替え再包装に際し、内容物を加工したり取り替えたりはしておらず、被告小分け品の内容物は正に原告の販売する本件商品と全く同一の真正商品である。そして、被告は、このように被告小分け品の内容が原告の販売する本件商品の内容と同一であることを、これに接する需要者に対して示しているにすぎないから、被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為が形式的にイ号標章の「使用」に当たるとしても、それは実質的には正当な事由による使用であつて違法性を欠如し、本件商標権の侵害にはならない旨、また、<2> 原告自身本件商品を国内で製造しているのではなく、米国から二二キログラム入りの大袋に詰めて包装されたものを輸入し、業務用にはこれをそのままの包装状態で販売し、一般消費者用にはこれを小分けし小袋に詰め替え再包装した原告小分け品を販売しているだけであるから、業務用商品について原告主張のような厳重な品質管理が行われているはずはなく、一般消費者用の原告小分け品についてもそのような厳重な品質管理が本当に行われているかは誠に疑わしい、そもそも、本件商品のような化成肥料は、本来、土壌の中にあつて湿気を帯び、その成分が水に溶けたものが植物に吸収されて栄養素となるものであり、湿気を帯びることによつて成分組成に変化をもたらし、その品質及び特性が劣化する類の商品ではない。もし万一、原告主張のように湿気を帯びることによつて本件商品の品質及び特性が劣化するとすれば、化成肥料としては用をなさないか、粗悪品の謗りを免れないことになろう、したがつて、被告の被告小分け品販売行為は、本件商標の持つ商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能のいずれをも害するものではないと主張する。

しかしながら、登録商標権者は指定商品について登録商標の使用をする権利を専有し(専有権)、また登録商標に類似する標章の他人による使用を禁止する権利(禁止権)を有し、第三者はこれらを使用することができないことが法により保障されているのは、登録商標は権利者により適法に使用されてはじめてその出所表示機能及び品質保証機能等の自他商品識別機能を発揮し得るからであり、権利者以外の無権限の者に登録商標の使用を許すと、権利者の信用が権限なき者の手に委ねられ、その結果、登録商標に対する信頼の基礎が失われ、抽象的には常に権利者の信用が毀損のおそれに晒されることになつて、登録商標の右機能を発揮し得ないことが明らかであるからである。したがつて、当該商品が真正なものであるか否かを問わず、また、小分け等によつて当該商品の品質に変化を来すおそれがあるか否かを問わず、商標権者が登録商標を付して適法に拡布した商品を、その流通の過程で商標権者の許諾を得ずに小分けし小袋に詰め替え再包装し、これを登録商標と同一又は類似の商標を使用して再度流通に置くことは、商標権者が適法に指定商品と結合された状態で転々流通に置いた登録商標を、その流通の中途で当該指定商品から故なく剥奪抹消することにほかならず、商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであつて、商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害し、ひいては商品の品質と販売者の信用に関して公衆を欺瞞し、需要者の利益をも害する結果を招来するおそれがあるから、当該商標権の侵害を構成するものといわなければならない。また、原告は、自らも本件商品を小分けし小袋に詰め替えて再包装し、本件商標に類似する原告標章(2)(3)を紙製包装用外箱に付した原告小分け品を販売しているが、本件商品のような粒状肥料は小分け及び詰め替え再包装の機会に異物が混入したり、或いはその組成に変化をもたらす危険があるため、原告は、本件商品の販売及び原告小分け品の小分け及び詰め替え再包装作業に当たり、商品の品質成分を維持するため、特に、<1> 本件商品について、定期的に内容品の成分分析を行うほか、原告小分け品の小分け詰め替え再包装の際にも改めて内容品の成分の分析調査を行い、<2> 商品に異物が混入することのないように細心の注意を払い、原告小分け品の小分け及び詰め替え再包装の用途だけに使用する、専用の製造ラインを工場内に設け、<3> 内容品が湿気を帯びると、粒が結合、固結して大きくなつたり、化学反応により成分の組成に変化を来し、本件商品が本来具えている品質・特性が劣化するため、原告小分け品の小分け詰め替え再包装作業をする工場内には空調設備を設置し、それでも工場内の湿度が高くなるときには作業を中止し、<4> 小分け品と本件商品の粒の大きさに差異が生じることのないよう、本件商品の包装袋を開披して内容品を小分けし詰め替え再包装する際には、輸送や保管中に砕けて粒の小さくなつたものは除去し、<5> 紙製包装用外箱に表示した正味重量を割ることのないように、十分注意を払う等、細心の注意を払つていることに鑑みると、原告のような品質管理に意を用いず単純に本件商品を詰め替えた被告小分け品が本件商品の内容物と同一であるとはいい難いから、この点からみても、被告のイ号標章の使用が実質的に正当な事由による使用であつて違法性を欠如すると認めることはできない。したがつて、被告の右主張はいずれも採用できない。

2  不正競争の主張について

(一) 周知性の取得

原告は、前認定(第二の一2)のとおり、昭和三九年頃から、アメリカ合衆国内において製造され原告原商標を付された、容量約二二キログラム(五〇ポンド)の大袋詰めの本件商品について、同国法人ダブルアールグレースカンパニーとの間に日本における独占的販売契約を締結して同社から我が国に本件商品を輸入し、日本国内において、これをその包装状態のまま肥料取締法に基づく成分表示重量等を示す輸入業者保証票を貼付して、生産者向けの業務用商品として全国各地の代理店に卸売する一方で、そのうちの一部は自社工場において右大袋を開披して内容物を容量七〇グラム、二〇〇グラム、五〇〇グラム、一キログラム、三キログラムの五種類の各大粒・中粒商品(但し二〇〇グラムは中粒のみ)に小分けしビニール小袋に詰め替え紙製包装用外箱に入れて再包装したうえ、「マグアンプK」の商品名で、原告標章(2)(3)を紙製包装用外箱に付して、一般消費者向けの家庭園芸用商品(原告小分け品)として全国各地の代理店に卸売しており、一九八九年度ないし一九九一年度の間の我が国無機質肥料市場におけるマグアンプK(本件商品及び原告小分け品)の市場占有率は一〇%強、販売額は年間約五億円に達しており、原告原商標を含む原告標章(2)(3)及び商品名「マグアンプK」は、遅くとも、被告が被告小分け品の販売を開始した平成二年頃には、原告の販売する本件商品又は原告小分け品を指すものとして我が国において広く認識されるに至つており(周知性を取得)、その状態は現在もなお継続しているものと認められる。

(二) 不正競争防止法一条一項一号に基づく主張について

原告は、被告の被告小分け品販売行為は、需要者に対し、被告販売の被告小分け品と周知性を取得した原告販売の本件商品ないし原告小分け品との間に誤認混同を生じさせるものであり、不正競争防止法一条一項一号に該当する旨主張する。しかしながら、被告の被告小分け品の販売の態様は前記認定(第二の一3)のとおりであつて、被告は被告小分け品販売を強力、積極的に推進し、割安で買得な七八〇円~六四〇円での販売を強調してその宣伝広告に力を注ぎ、他の商品とは別扱いの陳列販売をしているが、被告小分け品は透明ビニール袋に本件商品(大袋)の内容物を詰め替えたままの粗末な簡易包装であり,被告ないしその関係者が原告販売の大袋(本件商品)から小分けしたものであるため割安となり安価に販売されている旨を明示して販売している(現在では被告小分け品の陳列販売の中央に本件商品を原告原商標を来店した顧客に視認させるように展示し、大袋〔本件商品〕からの小分け品である旨を強調している)のに対し、他方、原告小分け品も他の商品と同様に陳列販売しており、原告小分け品は立派な紙製包装用外箱に収納されたもので原告の希望小売価格九八〇円で売られているので、右透明ビニール小袋に入れただけの粗末な簡易包装(被告小分け品)と立派な紙製包装用外箱(原告小分け品)との差異、価格が被告小分け品が七八〇円であるのに対し原告小分け品九八〇円で、二割強二〇〇円も安いこと、並びに被告小分け品は被告ないしその関係者が原告販売の大袋(本件商品)から小分けしたものであるため割安となり安値で販売されている旨を宣伝広告し、かつ、そのことを顧客か認識できるような状態で販売し、顧客もそのことを十分認識したうえで代金の安い被告小分け品を購入しているものであり、被告小分け品と本件商品ないし原告小分け品との間に誤認混同を生じていないと認められるから、原告の右主張は採用できない。

(三) 不正競争防止法一条一項五号に基づく主張について

原告は、被告が被告小分け品に特段の標章を付さずに販売すれば、それは積極的に本件商品の品質成分について誤認を生ぜしめるような表示をする行為とはいえないにしても、原告が原告原商標の付された本件商品について、その流通の中途で敢えて同商標を剥奪抹消する行為であり、その結果、需要者に、被告小分け品が原告の販売する商品ではなく、被告又は第三者の製造販売する商品であるとの誤認を生じさせることになるから、右行為は商品の品質・内容等について誤認を生じせしめるような表示をし、または右誤認的表示をした商品を取り扱う行為と評価することができ、不正競争防止法一条一項五号の商品の品質・内容等の誤認的表示行為に該当する旨主張する。

しかしながら、被告の被告小分け品販売の態様は前示のとおりであり、被告小分け品は被告ないしその関係者が原告販売の大袋(本件商品)から小分けしたものであるため割安となり安値で販売される旨を広告宣伝し、かつ、そのことを顧客が認識できるような状態で販売し、顧客もそのことを十分認識したうえで代金の安い被告小分け品を購入しているものであり、また、本件商品(大袋)から小分けした被告小分け品の内容物が本件商品の内容物と品質・内容量等において実質的な差異があることを認めるに足りる証拠もないから、被告の被告小分け品販売行為が商品の品質・内容等の誤認的表示行為に該当する旨の原告の主張も採用できない。

なお、原告は、被告の被告小分け品販売行為によつて、原告は、原告原商標等によつて、原告の品質管理・維持等営業努力の成果たる本件商品の優秀性を自己に帰属せしめ信用を維持拡大するという機能を不当に奪われ、他方、被告は、原告の企業努力の成果たる本件商品の品質に基づく信用を不当に被告自身あるいはその他の原告以外のものに帰せしめ、さらにこの結果本件商品の品質が原告の商品以外の商品でも得られるとの誤認を需要者に抱かせることとなり、原告の企業努力の成果を不当に減殺する旨主張するが、被告小分け品販売の現実の態様が前示のとおりのものと認められる以上、右原告主張は到底採用できない。

したがつて、請求の趣旨第二項の請求は棄却を免れない。

二  争点2(損害賠償請求の当否)

1  営業上の損害について

被告の被告小分け品販売の態様は前示のとおりであり、被告小分け品が大幅に売上を伸ばすことができたのは、主に、本件商品(大袋)を小分けして被告小分け品とすることにより低廉な価格でこれを消費者に提供したことと、被告が特別に被告小分け品の販売に力を注ぎ宣伝広告に努めたその販売努力に起因すると認められ、本件商品名「マグアンプK」が周知性を取得しているとしても前記のとおり市場占有率が一〇%強しかない現状に鑑みると、被告の右大袋から小袋への小分けによる安価販売のアイデア及び被告の販売努力がなければ被告小分け品がこのように大量に販売できたとは考えられないこと等、本件に顕われた一切の事情を総合考慮すると、被告小分け品の販売により被告が得た利益は売上額の一〇%と認めるのが相当である。

そうすると、被告小分け品の販売総数は原告主張(第三の二1(一))のとおり少くとも一万五〇五三袋、その販売単価は原告主張(第三の二1(二)(1))のとおり少くとも六四〇円と認められる(被告代表者、弁論の全趣旨)から、その売上総額は九六三万三九二〇円となり、被告が被告小分け品の販売により得た利益の額は九六万三三九二円と算定され(算式は次のとおり)、これが原告が受けた損害の額と推定される。

15,053袋×640円=9,633,920円

9,633,920円×0.1=963,392円

(原告の主張について)

原告は、被告が被告小分け品の販売により得た利益の額は四七七万八二四四円である旨主張するが、右利益の算定根拠は、<1> 被告小分け品の販売単価から本件商品(大袋)の五〇〇グラム当りの価格を控除した残額又は<2> ゴトー産業からの被告小分け品の仕入分についてはその粗利益を被告の利益としてこれを単純に積算し、販売に要した費用等を全く無視したものであるが、右<1>の控除残額は小分け及びその包装に要する費用を考慮していない点において粗利益よりも過大な算定であり、被告が前示のとおり被告小分け品を重点的に販売するための特別な展示場所を設けての販売等の販売態様に鑑みると、その販売のために多大の費用(店舗設備費用等も含まれる)と努力を投じた結果得られたのが右売上実績であることを無視した主張であるから到底採用できない。

また、原告は、被告小分け品の販売により四一九万九四〇〇円の得べかりし利益を喪失した旨主張するが、右喪失利益の算定は、被告小分け品の販売数量だけ原告小分け品が販売できたことを前提とするものであるが、被告小分け品が大幅に売上を伸ばすことができたのは、主に、本件商品(大袋)を小分けして被告小分け品とすることにより低廉な価格でこれを消費者に提供したこと及び、被告が特別に被告小分け品の販売に力を注ぎ宣伝広告に努めたその販売努力に起因すると認められ、本件商品名「アグアンプK」が周知性を取得しているとしても市場占有率が一〇%強しかない現状に鑑みると、被告小分け品の販売に原告原商標を含む本件商標が使用されたことにより被告小分け品の販売数量分だけ原告小分け品が販売できたとは到底考えられない(小売単価六四〇円~七八〇円の被告小分け品の販売がなければ、希望小売価格九八〇円の原告小分け品ではなく、他社販売の肥料が顧客に購入された可能性が十分考えられる。)から、右原告主張も採用できない。

なお、一般に、侵害者の利益が商標侵害行為によつてのみ生ずるということはむしろ稀であり、侵害者の努力、経営力、販売力、資本力、労働力、経済状況、需要者の趣向等々の大きく関係していることは常識であり、その上、侵害者が市場を開拓してくれたお陰で権利者の製品もより多く売れるようになることすらあり得る。つまり、販売量は商標だけで決定されるものではない。本件においては、被告小分け品の販売量と原告小分け品の販売量との間に原告主張の関係、すなわち被告小分け品販売行為なかりせば原告が同量の原告小分け品を販売できたとの関係が成り立つとは経験則上到底考え難い。

2  信用毀損による損害について

原告は、被告が被告小分け品を販売したことにより信用が毀損された旨主張するが、本件全証拠によつても、原告が被告小分け品販売行為により信用が毀損されたことを認めることができないから、原告の右主張は採用できない。

3  弁護士費用損害について

被告は、原告の申し入れを無視して故意に侵害行為を継続し、その結果、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任し、一〇〇万円以上の弁護士費用の出費を余儀なくされて損害を受けた。被告の被告小分け品販売行為と相当因果関係のある右損害の額は、本件に顕れた諸事情を総合考慮すると、六〇万円と認めるのが相当である。

4  被告が負担すべき損害金額 一五六万三三九二円

したがつて、右営業上の損害九六万三三九二円と弁護士費用損害六〇万円の合計一五六万三三九二円が被告が原告に対し負担すべき損害賠償金額となる。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小沢一郎 裁判官 阿多麻子)

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