大阪地方裁判所 平成4年(ワ)6379号 判決 1993年11月15日
原告
三協倉庫株式会社
被告
細田崇
ほか二名
主文
一 被告渡邉弘治は、原告に対し、金九二万八一〇〇円及びこれに対する平成四年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の被告らに対する請求を、いずれも棄却する。
三 原告と被告渡邉弘治との間の訴訟費用は、被告渡邉弘治の負担とし、原告とその余の被告らの間の訴訟費用は、原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金九二万八一〇〇円及びこれに対する被告孫則夫及び被告細田崇については平成四年八月二日から、被告渡邉弘治については同月四日から支払済みにいたるまで年五分の割合の金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動車に衝突されて、その所有する自動車を破損された原告が、加害車両の運転者及び同乗者に対し、民法七〇九条によつて、加害車両の所有者かつ同乗者の雇用者と原告の主張するものに対して、民法七一五条によつて、損害賠償を請求した事案である。
一 証拠上容易に認められる事実
1 被告渡邉は、平成三年六月一五日午前二時五分ころ、普通乗用自動車(大阪五九る九七三四)(被告車両)を運転して、大阪府門真市速見町九四五番地先国道一六三号線に差し掛かつたが、居眠り運転をして、結果的に、前方不注視、車間距離不保持、速度違反となつてしまい、対面信号に従つて停車しようとしていた原告従業員浅井康隆運転の普通貨物自動車(大阪一三き七二〇五)(原告車両)に追突させた(本件事故)(甲一ないし一七)。
2 原告車両は、原告の所有するものであるが、本件事故によつて、後部バンパー曲損脱落、右後部方向指示器ブレーキランプ脱落、後部設置スペアタイヤ脱落、後部下面部擦過曲損という破損をした(甲四、五、原告代表者本人尋問の結果)。
3 本件事故は、被告渡邉の居眠り運転によるものであるから、被告渡邉は、民法七〇九条により、本件事故に基づく原告の損害を賠償する責がある。
二 争点
1 損害一般
2 被告孫の責任
(一) 原告主張
被告孫は、被告車両の所有者である被告細田から本件車両を借り受け、助手席に同乗し、被告渡邉に運転させて、被告渡邉の危険な運転を事前に制止しなかつたものであるから、民法七〇九条の責任を負う。
(二) 被告孫主張
争う。
3 被告細田の責任
(一) 原告主張
民法七一五条は、使用者の運行支配領域内で被用者が惹起した事故については、賠償すべき旨を定めた規定と解するべきである。
それを、本件について考えると、まず、被告孫は、被告細田の従業員であつて、被告車両は、被告細田の事業用資産であるが、被告細田は、被告孫に対し、「お前にこの車はまかすから鍵を持つていろ、しかし免許がないので運転は免許を持つているものにしてもらえ。」といつて引き渡したものであるから、被告細田は、被告孫に対し、被告車両の運行を全面的にまかせたものである。なお、本件事故を直接に惹起したのは、被告渡邉であつて、同人は被告細田の従業員ではないが、被告細田が被告孫に対し本件車両の運行をまかせた際には、運転者は同被告の従業員でなければならないと条件をつけたことはない。
これらの事実からすると、被告渡邉による本件事故時の運行は、同孫及び同細田の運行支配領域内のものであつたといえ、被告細田は、民法七一五条によつて、本件事故についての責任を負うと解すべきである。
(二) 被告細田主張
被告孫は、被告細田の従業員ではなく、被告車両も、被告細田が解体するために所有していたものであるから、被告細田と被告孫との関係で、民法七一五条は適用されない。
そして、被告細田は、その従業員阿辺山に被告車両の保管を任せており、阿辺山に過失がないので、不法行為責任も問われない。
更に、本件事故を起こしたのは被告渡邉で、被告細田の従業員ではなく、事故時間が午前二時頃であることも考え合わせると、外形標準説に従つても、事業の執行につきとは到底認められず、これらの点からも、民法七一五条は適用されるべきではない。
第三争点に対する判断
一 損害
1 修理費用 五九万八一〇〇円(原告主張同額)
前記の破損状況、甲二〇、二二、原告本人尋問の結果によると、これを認めることができる。
2 休車費用 三三万円(原告主張同額)
甲二三の一ないし八、原告本人尋問の結果によると、原告車両は、本件事故前である平成二年二月二一日から同年九月二〇日までの二一二日間に、合計六八六万三三二〇円を売り上げたと認められ、二一二日のうちには、少なくとも三〇日程度休業日があると推認できるところ、それを前提とすると、一営業日当たりの収入としては三万七七一〇円となり、そこから、原告代表者本人尋問の結果によつて認められる経費一割を控除しても、一営業日当たりの収入は、原告主張の三万円を下らない。
また、甲二一、原告本人尋問の結果によると、原告車両の修理に平成二年六月一八日から翌七月八日まで要したところ、その間の営業日は一一日であることが認められる。
したがつて、休車費用は、右のとおりとなる。
二 被告孫及び被告細田の責任
1 本件事故に至る経過及び本件事故時の状況
(一) 甲三、一〇、一二、一四ないし一六、一八、同一九の一、二、原告代表者及び被告孫各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。
被告細田は、瑞光自動車商会の名前で、自動車の修理、名義変更、中古車の販売等の自動車関係の事業を営んでいたが、平成三年三月頃、植田伸一から、被告車両を譲り受けた。
被告孫は、本件事故当時、被告細田の従業員であつたが、普通乗用自動車の運転免許を有せず、業務として、被告車両や被告細田所有車両を運転したことはなかつた。
被告孫は、ドライブをするため、本件事故の前の機会にも、何度か、被告渡邉等の友人に運転させ、被告車両を借り受けたことがあつたが、そのことについて、被告細田から批難めいたことを言われたことはなかつた。
被告孫は、本件事故の前に、ドライブをするため、被告渡邉に運転させて、被告車両を被告細田方から持ち出したが、本件事故前にその旨被告細田に告げ、被告車両の使用について了解を得ていた。
被告孫は、本件事故の前から、被告車両を、知人の高橋のマンシヨンの前に置いておいたが、本件事故の前日、高橋のマンシヨンで被告渡邉と会い、鈴木を呼び出して、同日午後八時か九時頃から、被告孫、被告渡邉、鈴木の三人でドライブに行つた。その間、被告渡邉が運転していたが、昼間の仕事の疲れ、連日の夜遊びも重なつて、眠気を覚え、本件事故現場付近で、居眠りをしてしまい、本件事故を引き起こした。
本件事故後、被告孫は、被告細田宅に行き、泊まつて、その日の午前中に、被告細田宅で、警察の事情聴取を受けた。
(二) なお、乙五、被告孫本人尋問の結果によると、被告孫は、本件事故当時、被告細田の従業員でなかつた旨の部分があるが、本人尋問の結果においても、警察に対して、被告細田の従業員であることを認めた旨述べているものであつて、その内容と乙五は矛盾していること、前記認定の被告細田との関係(被告孫が本人尋問の結果によつて認めている。)及び弁論の全趣旨に照らし、その部分は信用できない。
2 被告孫の責任
本件事故においては、被告孫は、直接運転をしておらず、具体的に被告渡邉の運転を妨げた事実も認められないものであるから、他に、被告渡邉の危険な運転を助長するような行為が認められない以上、本件事故に対する責任は認められないところ、前記認定の事実からすると、被告孫には、そのような具体的な過失行為は認められないから、被告細田には、本件事故に対する責任はない。
3 被告細田の責任
使用者責任が認められるためには、事故が、事業の執行につき発生したことが必要であるところ、本件事故は、被告細田の従業員である被告孫が、被告細田の事業に関して所有している車両について、真夜中である午前二時頃、知人に運転させてドライブするという私用に用いた際に発生した事故であつて、被告孫は、無免許であつて、被告細田の事業を執行するに際して、被告車両も含め被告細田の所有する自動車を運転したことはなかつたこと、本件事故時運転していた被告渡邉は、被告細田の従業員ではなかつたことからすると、本件事故は、外形的に見ても、事業の執行につき発生したということはできない。
なお、前記認定事実からすると、被告細田は、被告孫が、私用で、知人に被告車両を運転させることを黙示的、包括的に承認していたと窺えるものの、民法七一五条一項の責任を肯定するには、交通事故に対する人身損害について、特に定めた自賠法三条と異なり、雇用者の運行支配を直接の根拠とするのではなく、少なくとも外形的には事業の執行につき発生したといえることが必要と解すべきであるから、右事実をもつてしても、使用者責任を肯定することはできない。
三 結論
よつて、原告の請求は、被告渡邉に対して九二万八一〇〇円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 水野有子)