大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)47号 判決 1997年3月25日
原告
松浦米子
外六名
右原告ら訴訟代理人弁護士
辻公雄
外二四名
辻公雄訴訟復代理人弁護士
市川守弘
外三四名
被告
大阪市長
磯村隆文
右訴訟代理人弁護士
布施裕
同
千保一廣
同
江里口龍輔
主文
一 本件訴えのうち、別紙文書目録記載一の公文書の記載のうち同目録記載二の部分を除くその余の記載に係る部分を却下する。
二 被告が原告らに対して平成四年六月二九日付けでなした別紙文書目録記載一の公文書の非公開決定のうち、同目録記載二の1(一)、(二)、2(一)、(三)、3(一)、(二)を非公開とする部分を取り消す。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が原告らに対し、平成四年六月二九日付けでした別紙文書目録一記載の公文書の非公開決定処分(以下「本件処分」という)を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、原告らが被告に、大阪市公文書公開条例(昭和六三年大阪市条例第一一号、以下「本件条例」という。)に基づき、昭和六三年七月から平成四年三月までの財政局財務部財政課による食糧費支出に係る一切の書類の公開を請求したのに対して、被告が本件処分をしたので、その取消しを求めた訴訟である。
一 前提事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)
1 当事者
原告らのうち、原告熊野を除く六名は大阪市の住民であり、原告熊野は大阪市の区域内に事務所を有する者であって、いずれも本件条例五条による公文書の公開請求権者である。
被告は、本件条例二条一項の実施機関である。
2 本件条例
本件条例のうち本件に関する部分は次のとおりである。
六条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる。
二号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 法令等の規定により、何人も閲覧することができるとされている情報
イ 本市の機関が作成し、又は取得した情報で、公表を目的とするもの
ウ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に本市の機関が作成し、又は取得した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの
三号 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 人の生命、身体又は健康を害し、又は害するおそれのある事業活動に関する情報
イ 人の財産、生活に対して重大な影響を及ぼす違法又は不当な事業活動に関する情報
七号 本市の機関若しくは機関相互間又は本市の機関と国等の機関との間における調査、研究、協議等の意思形成過程に関する情報であって、公開することにより、公正かつ適切な意思形成に支障が生じると認められるもの
八号 本市の機関又は国等の機関が行う取締り、監督、立入検査、入札、交渉、争訟、許可、認可、人事等の事務事業に関する情報であって、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的を損ない、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生じると認められるもの
七条 実施機関は、公文書に前条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分がある場合において当該部分を容易に、かつ、公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは、当該部分を除いて、公文書の公開を行うものとする。
八条 第五条の規定により公文書の公開を請求しようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。
一号 氏名及び住所(法人その他の団体にあっては、名称、事務所又は事業所の所在地及び代表者の氏名)
二号 請求に係る公文書の名称、内容その他公文書を特定するために必要な事項
九条一項
実施機関は、前条による請求があったときは、請求書を受理した日の翌日から起算して一四日以内に、公文書の公開をし、又はしない旨を決定しなければならない。
3 本件請求
原告らは、被告に対し、平成四年六月一五日付けで、昭和六三年七月から平成四年三月までの、大阪市財政局財務部財務課による食糧費支出に係る、請求書、領収書、支出依頼書、支出決議書案、支出命令書、その他右支出手続に関する書類について、閲覧の方法による公開を請求した(以下「本件請求」という。)。
4 本件処分の存在
被告は、平成四年六月二九日、本件請求に係る公文書の件名を別紙文書目録記載一の公文書と特定の上、右文書(以下「本件文書」という。)は本件条例六条二、三、七及び八号に該当するとの理由で、これを全部非公開とする旨決定し(本件処分)、原告らに対し、同月三〇日その旨を通知した。なお、右文書中には、食糧費以外の費目による支出部分(以下「食糧費外支出部分」という。)の記載も存在したが、被告は同部分も開示しなかった。
5 本件文書の記載内容等
(一) 支出決議書(乙一六の1ないし23、一七の1ないし31、一八の1ないし27、一九の1ないし21)
食糧費の支出に関する支出決議書(起案及び決裁)であり、会議等の実施日、会議名(目的)、実施場所、支出金額、その内訳、支出先(支払先)、出席(予定)者等の記載がある。ただし、昭和六三年度の全部及び平成元年度の殆どについては、出席(予定者)の記載はなく、人数のみが記載されている(平成二年度から様式が改訂され、出席予定者欄が設けられた。)。
なお、右のうち、食糧費定例決裁簿(乙一六の23、一七の31、一八の27、一九の21)は、来客用のコーヒー代等定例的な支出について年度毎に一冊の帳簿で決裁したもので、決裁関係欄の他には、実施月日、用件(平成二年度以降は会議名)、出席者数(平成二年度以降は出席者氏名も)、品名、数量、単価、合価、支払先欄が設けられている。
また、右のうち一五通(乙一七の28、29、一八の3ないし7、20、21、一九の4ないし6、16ないし18)は、来客用の煎茶等の購入契約に係る決裁書であり、品名、数量、契約金額のほか、納入業者の見積書が添付されており、その見積書には業者の記名捺印がある。
(二) 支出命令書(乙二〇の1ないし69、二一の1ないし72、二二の1ないし34、二三の1ないし30)
前記(一)の支出決議に基づく支出命令書であり、上半分には決裁印欄のほか、予算費目、合計金額、用途等の記入欄がある。そして、下半分は支払調書及び仕訳書を兼ねた請求書となっており、請求金額、その明細、契約年月日等のほか、振込先預金口座の内容(金融機関名、預金種目、口座番号、口座名義等)、請求者の名称(氏名)が記載され、その名下に捺印がされるようになっている。なお、請求金額の明細書として別紙が添付されているものが殆どであり、その別紙にも請求者の名称と捺印がある。
なお、右のうち振替命令書(乙二〇の67ないし69、二一の71、72、二二の24、二三の8、31の八通)は、他局において一括支出した食糧費のうち財務局財務課が負担すべき分を正当科目に振り替えるためのもので、振替金額のほか振替理由が記載されている(右の請求書のような記載はない。)。以上の全部を通じて、出席者氏名の記載はない。
(三) 歳出予算差引簿(乙二四ないし二七)
各年度毎に財政局財政課の総務費予算の執行状況を記載した帳簿中の食糧費に関する部分であり、摘要欄には件名(使用目的)及び人名(支出先)が記載されている。
6 被告による本件処分の一部取消決定
被告は、本訴係属中の平成八年四月一〇日、本件決定を一部取り消し、本件文書のうち別紙文書目録記載二の部分を墨塗りし、また食糧費外支出部分の記載には白色マスキングをし、これらの部分を除くその余の部分(大阪市側の出席者の氏名を含む。以下「本件公開部分」という。)を原告らに開示した。(前掲乙号各証、乙三四の1ないし12、三五の1ないし9、三六の1ないし10、三七の1ないし5、三八の1ないし10、三九の1ないし5、四〇の1ないし8、四一の1、2)
7 なお、食糧費とは、歳出予算にかかる節の区分「需要費」の細節に規定され(地方自治法施行規則(昭和二二年内務省令第二九号)一五条)、大阪市では、その支出基準として、事務事業に直接関係のある会議用、接待用、式典用の茶菓、食事代(接待に含めて差し支えない程度の土産品代、宿泊料及び接待を主とする会議出席者の分担金を含む。)と定めている。
二 被告の主張
1 本件請求の範囲について
本件請求は「食糧費支出に係る」公文書の公開を求めるものであるから、食糧費外支出部分は請求の対象とはされていない。
2 本件条例の解釈基準
公文書公開請求権は、憲法に基づく権利ではなく、条例により創設されるものであって、公文書公開請求権を具体的にどのような内容の制度とするかについては、立法政策の問題というべきである。そして、本件条例は、その五条において、公文書の公開を請求できる者を、大阪市の区域内に住所を有する者等及び実施機関が行う事務事業に利害関係を有する者に限っていることからして、公文書公開請求権を、あくまでも市民の市政参加を推進し、市政に対する市民の理解と信頼の確保を図ることを目的として、条例によって創設した権利なのである。したがって、条文の解釈に当たっては、文理を中心に解釈すべきである。
3 本件条例六条二号の該当性について
本件条例六条二号の趣旨は、個人の尊厳を守り、基本的人権を尊重する立場から、公開を原則とする公文書公開制度の下においても、実施機関はその責務として、プライバシーの保護について最大限の配慮をしなければならないことに鑑みて設けられたものである。しかしながら、プライバシーの概念はいまだ必ずしも明確ではなく、どのような情報がプライバシー保護のために非公開とされるべきかを一律に規定することが困難であることから、本件条例はプライバシーという概念を用いることを避け、個人に関する情報で、特定の個人が識別され又は識別され得るものを適用除外事項として規定したのである。したがって、個人に関する情報を、「非常に個人的な性質をもつ機微に触れる詳細な情報」とすることは右趣旨及び文理に反する。このような観点からすると、本件条例六条二号にいう「特定の個人が識別され得る」場合とは、当該個人に関する情報と通常容易に知り得る他の情報とを組み合わせることにより、確定的に特定の個人を識別することができる場合のみならず、特定の個人を識別する可能性がある場合をもいうものであるとともに、複数の個人に関する情報であっても、そのすべての個人が識別される可能性は必要ではなく、その一部の個人が識別される可能性があればこれに該当すると解すべきものである。なお、通常容易に知り得る情報とは、新聞その他の刊行物に掲載されている情報だけではなく、特定の個人を識別する目的によって行う調査・照会等により、入手し得る情報その他社会的慣行・習慣に関する情報も含まれるのは当然である。
そこで以下に各個別に述べる。
(一) 相手方、支出先及び請求者の氏名
個人の氏名そのものは、その性質上その情報により「特定の個人が識別される」ことは明らかであり、二号に該当することは明らかである。
また、本件条例六条三号の「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たる場合にも本号の該当性を排除するものではないから、支払先や請求者の個人名は、三号の事業情報であるとともに個人識別情報でもある。
なお、二号は、「特定の個人」が公務員であるか否かを区別しておらず、相手方が公務員の場合でもそのプライバシーは保護されるべきであるから、相手方が公務員である場合にもその氏名が同号に該当することは明らかである。公務員個人にとっての勤務先、そこでの職種、職務内容、地位等の情報は、社会生活の面で個人の人物評価や推測がなされることが多々あることから、個人としての社会生活面において知られたくない情報であり、プライバシーが問題となる情報を含んでいる。しかも、相手方たる公務員は、被告の公務を遂行するものではなく、相手方の氏名や役職は相手方を特定するものにすぎない。
(二) 相手方の肩書
(1) 役職名について
相手方の具体的な役職名は、特定の個人と密接に関連する情報であり、これをもとに、新聞その他の刊行物による公知の情報や相手方の所属する団体の役職者名簿を活用することにより、あるいは簡単な照会により、「特定の個人が識別される」ものであるから、二号に当たる。
(2) 相手方が所属する団体名について
ア 省庁関係
省庁名が公開されると、被告側(大阪市)の出席者の氏名・肩書及び所属する課・係の事務分掌ならびに会議目的といった情報と、相手方省庁の事務分掌を照応することにより、相手方が属する省庁内の組織は特定されることになり、さらに刊行されている職員録に記載されている情報をもとに特定の個人が識別される相当の蓋然性が生じる。さらに、相手方出席者の範囲は極めて限られるから、これらの者に照会を行うことによって、容易に特定の個人が識別されることになる。したがって、省庁名は二号に当たる。
イ 自治体関係
相手方が自治体関係者の場合でも、右アと同様特定の個人が識別されることになるから、自治体名は二号に当たる。
ウ 議会関係
大阪市会の特定の機関の名称、議会に関連する特定の団体の名称、会派名等、出席した議員の範囲を明らかにする呼称が公開されると、議員の氏名は新聞等で公知の事実であるほか、市会の機関に属する議員の氏名、会派名、役職名は公表されていることから、特定の個人の氏名が識別される相当の蓋然性が生じる。また、相手方出席者の範囲は極めて限られているから、これらの者に照会を行うことによって容易に特定の個人が識別されることになる。したがって、これらの団体の名称は二号に当たる。
エ 審議会関係
大阪市の審議会の委員名は請求があれば情報提供が認められており、また国の審議会については審議会総覧により委員名簿が明らかにされ新聞等により公表されているから、大阪市の特定の審議会又は国の特定の審議会の名称を公開することにより、容易に特定の個人の氏名が識別されることになる。したがって、審議会の名称は二号に当たる。
オ 大学関係
ゼミの研修目的や安全衛生講習会という公開された情報から、大学名が公開されると、学部名や専攻がある程度推測され、刊行されている職員録等を利用すれば、特定の個人の氏名が識別されることになる。したがって、大学名や医療機関名は二号に当たる。
カ 報道関係
特定の報道機関名が公開されると、接客対応した被告の役職等から職員録を利用して、特定の個人の氏名を識別する蓋然性が生じる。また大阪市市政記者クラブに加盟している各報道機関については市政記者名簿が公表されており、報道機関に所属する者の氏名・役職も公表されている。しかも、相手方出席者の範囲は、極めてかぎられているから、報道機関名が公表されると、これらの者に対して照会を行うことによって容易に特定の個人の氏名が識別される。また報道機関の中には、報道機関に所属する者の氏名が公表されていない報道機関はあるものの、これらの報道機関は個人経営に近く、社員数も少ないものもあり、報道機関名が公開されると、当該報道機関に照会を行うことによって、容易に特定の個人の氏名が識別されることになる。したがって、報道機関名は二号に当たる。
キ 医療関係
安全衛生講習会の講師を依頼した者の氏名については、特定の医療機関名が明らかになれば、専門分野からその氏名がある程度推測され、特定の個人の氏名が識別される相当の蓋然性が生じる。そして、相手方の範囲は極めて限定されていることから、これらの者に照会を行うことによって、容易に特定の個人が識別されることになる。したがって、医療機関名は二号に当たる。
ク 金融関係
金融機関名が公開されると、財政局長及び秘書部長が接客対応していることから銀行の公務部門の相応の地位にある者であるとの推測ができること、銀行には職員録が刊行されていることから、特定の個人の氏名が識別される相当の蓋然性が生じる。また、相手方の範囲は極めて限定されていることから、これらの者に照会を行うことによって、容易に特定の個人が識別されることになる。したがって、金融機関名は二号に当たる。
ケ 各種団体名
財政問題に関する協議懇談会の相手方たる団体名を明らかにすることは、当該懇談会への大阪市側出席者との対比から当該団体の相応の地位にある者が出席したと推測でき、当該団体が地方財政に関する諸問題について調査研究等を行うことを目的としているおり、その構成員も限られていることに照らすと、特定の個人の氏名が識別される相当の蓋然性が生じる。また、相手方の範囲は極めて限定されていることから、これらの者に照会を行うことによって、容易に特定の個人が識別されることになる。したがって、右団体名は二号に当たる。
4 本件条例六条三号該当性について
三号の趣旨は、法人等又は事業を営む個人(以下「法人等」という。)の経営上又は技術上の情報には、自由で公正な競争秩序の維持や経済の健全な発展のために保護されるべきものがあるので、これらの情報を公開することにより当該法人等の競争上又は事業運営上の地位やその他の正当な利益を害すると認められる場合には、これらの情報は公開しないことができるものとしている。
本件において、被告が非公開とした、金融機関コード、振込先金融機関名(銀行名、支店名)、預金種目(当座預金又は普通預金の種別)、口座番号、印影(別紙文書目録記載二の1(三)、2(二))は、いずれも当該法人等の経理等の事業活動を行う上で内部管理に属する事項に関する情報である。そして、これらの情報が明らかにされると、当該法人等の経営内容や信用力が推定され、あるいは事業運営を損なうことになりかねない。しかも口座番号や印影は一般に公開することを予定していないのであり、これが公開されることになれば、様々な不正取引や不正な手形や小切手の振出等によって、当該法人等が財産侵害や営業妨害をうける可能性が生じ、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがある。したがって、これらの情報は三号に該当する。
5 本件条例六条八号該当性について
八号は、大阪市の行う事務事業の目的を達成し、公正、円滑な執行を確保するために非公開とする情報を定めた規定である。本件では、相手方が省庁関係、審議会関係、医療関係、大学関係及び各種団体に係る場合の相手方の氏名、役職名、団体名がこれに該当する。
(一) 相手方が省庁関係者である場合
財務局では、庶務関係事務、予算の編成に関する事務、大都市税財政制度に関する調査研究に関する事務等を所管している。ところで、大阪市は、大都市に見合った税財政制度の確立を国や関係方面に強く要望してきたところであり、今後も継続的に働きかける必要がある。また、予算編成事務においても、適切な財政運営を行うためには、国や関係方面に対して、地方交付税交付金や国庫支出金について要望活動を行ったり、情報収集を行ったりする必要がある。こうしたことから、財務局としては、何らかの職務で省庁の職員が来阪したときなどの機会を捉えて、事情を説明し、理解を求めるようにしている。そして、その説明には数時間を要し、昼食時間や勤務時間を越えて行うこともあり、こうした場合には社会通念上相当な範囲内で食事等を提供することもある。
一方、省庁側でも、すべての自治体とこのような会合を持つことは不可能であるから、自治体の要請に応じるか否かを個別に判断している。したがって、このような会合に係る情報が逐一公開されれば、省庁側で会合に応じた理由あるいは応じなかった理由を求められることにもなり、他の自治体との関係において省庁の円滑な事務事業の執行に影響を及ぼすことになる。このように、相手方が多忙な中で大阪市の要請により、関係省庁との事案に関する要望活動等を行うために会合を設定しておきながら、本件文書の公開によって、相手方の氏名や役職名等が一方的に明らかにされることになれば、会合に出席したことにより大阪市に特別の便宜を与えたのではないかと憶測されるおそれがあることから、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後大阪市の行うこの種の会合への出席を避けたり、率直な意見表明を控えるなどの事態も考えられる。したがって、省庁関係の相手方の氏名、役職名、団体名は、八号に当たる。
(二) 相手方が審議会関係者である場合
大阪市の特定の審議会は、財務課の所管業務に関して、被告(市長)の諮問に応じ、被告に意見を具申する執行機関(市長)の付属機関たる合議体である。このような審議会の運営を適正、円滑に進めていくためには、諮問すべき議事について、審議会の委員と執行機関の職員との間で緊密なやり取りを行う必要がある。そして審議会の委員には非常に多忙な委員もいることから、会議が食事時に及ぶこともあり、そうした場合には食事等を提供することにしている。被告において審議会の委員を委嘱しておきながら、相手方を識別し得る文書を公開することによって、相手方の氏名や役職が一方的に明らかにされることになれば、相手方に不快、不信の念を抱かせ、今後審議会への出席を避けることになり、率直な意見表明を控えるなどの事態が生じることも考えられ、審議会の円滑・適正な運営が困難になり、ひいては審議会の委員の委嘱も固辞される可能性がある。
また、相手方が国の審議会委員である場合であっても、相手方の氏名や役職等が公開されると、国の諮問事項の関係で大阪市と会合をもったわけではないにもかかわらず、委員の肩書からそのような誤解を受け、当該国の審議会の他の委員との関係で信頼を失い、そのため被告に対し、不快、不信の感情を抱き、今後被告の行うこの種の会合への出席を避けたり、率直な意見表明を控えるなどの事態が生じることも考えられ、ひいては、今後被告が予算編成事務等の遂行に当たり必要とする財政問題に関する専門的な意見等を得にくくなる可能性が生じる。
したがって、審議会委員の氏名、役職名は八号に当たる。
(三) 相手方が医療関係者及び大学関係者である場合
被告の要請により、非常に多忙なのにかかわらず、安全衛生講習会の講師に依頼しておきながら、氏名や役職を公開されることになれば、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、次年度以降の安全衛生講習会の依頼を固辞される可能性が生じる。したがって、医療機関及び大学関係の相手方の氏名及び役職は、八号に当たる。
(四) 相手方が各種団体関係者である場合
本件では、地方財政に関する諸問題を調査研究する目的で夕刻に会合を持ち、情報収集等を行う被告において食事等を提供したものであるが、このように、被告の要請により会合を設定しておきながら、会合の相手方を識別し得る文書の公開によって、相手方の氏名、団体名、役職を一方的に明らかにされることになれば、相手方に不快、不信の念を抱かせ、今後被告が行うこの種の会合への出席を避けたり、率直な意見表明を避けるなどの事態が生じることも考えられ、ひいては、今後被告が予算編成事務等の遂行に当たり必要とする地方財政に関する情報や専門的立場からの意見等が得にくくなる可能性が生じる。したがって、相手方氏名、団体名や役職名は八号に当たる。
三 原告らの主張
1 本件請求の範囲について
本件条例は、公開請求の対象は「文書」であり(八条)、実施機関は特定された「文書」毎に公開、非公開を決定しなければならない(九条)と規定しており、公開請求の単位、公開、非公開の決定の単位は「文書」であって「情報」ではない。
したがって、実施機関は請求によって特定された「文書」全体について公開、非公開、若しくは部分公開の決定をしなければならない。本件においても、食糧費外支出部分の記載についても、同一文書に記載されている以上、公開の請求があるものというべく、非公開事由のない限り、公開されるべきである。
2 本件条例六条二号の該当性について
二号は、個人のプライバシーに係る情報の保護を目的とし、これがみだりに公開されることを防止するための規定である。したがって、二号にいう「個人に関する情報」とは、個人のプライバシーに関わる情報を意味するのであり、明らかにプライバシーに含まれない情報は「個人に関する情報」に該当しない。
また、個人に関する情報のうち、個人の事業に関する情報は三号の問題となり、二号の適用はない。本件で問題とされている支出先や請求者氏名(別紙文書目録記載二の1(二)、2(三)、3(二))は、事業を営む個人の飲食代金等の請求行為に関する情報であって、法人の事業活動である飲食代金のそれと何ら変わりはなく、これらの情報は、法人と同様「当該事業に関する情報」であるから、その際の支出先名や債権者氏名である個人事業者の氏名も「当該事業に関する情報」である。したがって、支出先や債権者氏名には二号の適用はない。
(一) 相手方である公務員の氏名について
本件文書は、大阪市職員の職務執行に際して記録されたものであり、ここに記載された相手方である公務員の氏名は当該公務を執行した者を特定し、あるいは責任の所在を明らかにするために表示されたものである。したがって、その氏名は職務内容の一要素にすぎず、プライバシーは問題とはならないから、公務員たる相手方の氏名や役職名について、二号は該当しない。
(二) 相手方が省庁関係及び自治体関係である場合
これらはいずれも公務員であり、一定の行政目的達成のために、大阪市職員と会議を行っているのであり、その内容は大阪市職員にとって公務であるのと同時に、省庁関係、自治体関係の公務員にとっても公務である。したがって、相手方の氏名や役職名は、プライバシーと関係がなく、二号に当たらない。
(三) 議員・議会関係
議員は公務員であり、議員と大阪市職員とで行う会議は当然に公務である。したがって、議員の氏名や役職名は、プライバシーと関係はなく、二号に当たらない。
(四) 審議会関係
審議会は、執行機関の付属機関として設置される機関であり、行政機関の一つであり、審議会委員が大阪市職員と会議することは、審議会活動の一環であって、職務内容をなしている。したがって、審議会委員の氏名や役職名はプライバシーと関係がなく、二号に該当しない。
(五) 外国からの来賓
被告の主張する外国からの来賓については、いずれも、公的な立場で交流事業や財政問題に関する協議懇談会へ出席しているのであり、これらの協議会等への出席の事実がプライバシーに当たることはなく、これら来賓の氏名は二号には該当しない。また、このような公式な国際交流行事は、マスコミに対して発表されるのが通例であるから、相手方氏名や役職名は二号の例外規定イに該当する。
(六) 医療関係及び大学関係者
医療関係者あるいは大学教員が、財政局安全衛生講習会の講師を勤めることは当該関係者あるいは教員にとっては職務であり、講習会のための打合わせはその職務の一環である。また、このような講習会は、大阪市の公務と密接な関わりをもつ公益的な事業であって、相手方はその事業の一環を担う者にすぎないから、講師として講習を行うことはプライバシーに含まれない。したがって、講師の氏名は二号に該当しない。
また、大学教員の役職名とその氏名、ゼミの名称は、懇談がゼミ研修の一環として行われたものであり、当該教員にとってはその職務としてなされた行為である。したがって、当該教員にとって、個人のプライバシーとは何ら関係のない行為であり、その氏名、役職は二号に当たらない。
(七) 金融関係
銀行の公務部門とは、自治体の公金についてその管理運用の代行等を行う部門であるから、銀行の公務部門における相当の地位にあるものとの懇談は、大阪市の財政運用に関する内容であることが推察され、公務の一環である事務の相手方担当者として表示された氏名はプライバシーに該当しない。少なくとも、当該銀行関係者にとっては、当該銀行の業務について職務として懇談したものであるから、その氏名、役職はプライバシーと関係なく、二号に該当しない。
(八) 報道関係
報道関係者が被告の行財政について被告の職員と懇談したとしても、それは報道関係者にとって職務として行ったものであり、報道関係者個人のプライバシーとは関係なく、報道関係者の氏名は二号には該当しない。
(九) 各種団体名について
所属団体名は、「特定の個人が識別されるもの」に該当しないことは明らかである。そして、「特定の個人が識別され得るもの」とは、通常容易に知り得る他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性がある場合をいうのであって、事情聴取、取材、聞き込み等の積極的な情報活動等は右の場合には予定されていないのである。このような情報活動を含めて、「識別し得る」ものとする被告の主張は、その範囲を際限なく広げるものであって不当である。したがって、団体名は二号に該当しない。
3 本件条例六条三号該当性について
被告は、振込先金融機関及び請求者印等が内部管理に属する事項であると主張する。しかし、内部管理に属する事項とは、法人等もしくは事業を営む個人が、専ら内部においてのみ管理し、外部に出すことが予定されていない情報をさすのである。しかし、これらの振込先金融機関名や請求者印等は、当該法人等が発行する請求書に記載されている事項であり、そもそも一般顧客にも発行されていることからして、外部に公表することが予定されている情報である。したがって、三号に当たらない。
4 本件条例六条八号該当性について
被告は、省庁関係、審議会関係、医療関係、大学関係及び各種団体関係の相手方の氏名、役職名、団体名について、八号に該当すると主張するが、その対象となる会合等が事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密な協議を目的としてものであること(内密協議目的)について主張立証がないのであるから、被告の主張は失当である。また、相手方の氏名等を公開することにより、被告の主張のような支障が生じることもない。
四 争点
1 本件請求の範囲等本件訴えの適法性について
2 本件条例六条二号、三号及び八号該当性について
第三 当裁判所の判断
一 本件請求の範囲等本件訴えの適法性について
1 本件公開部分について
前記第二の一6に摘示したとおり、被告は、本件処分後その一部を取り消し、本件公開部分を原告らに開示したのであるから、右部分については、非公開処分の取消しを求める訴えの利益は消滅したものというべきである。したがって、本件訴えのうち、右部分につき非公開処分の取消しを求める部分は不適法である。
2 食糧費外支出部分について(本件請求の範囲)
本件条例は、公開請求に当たっては、請求に係る公文書の特定に必要な事項として、公文書の名称、内容その他を記載するように求めていること(八条)、そして請求があったときは、公文書の公開をする旨の決定をしなければならないと規定していること(九条一項)、そして、公文書とは大阪市の機関が職務上作成し、又は取得した文書等であって、決裁又は供閲の手続が終了し、実施機関が管理しているものをいうとされていること(二条二項)からすると、本件条例は、原告らが主張するように、文書単位での公開を予定しているものと認められる。
しかし他方、本件条例は、市民に対して大阪市が保有する情報の公開を求める権利を具体的な請求権として保障することによって、地方自治の本旨に即した開かれた市政を実現することを目的として制定されたものであり(乙三)、特定の情報については非公開としていること(六条)からすると、文書単位のほか情報単位による公開も予定しているとみることができるところ、原告らの本件請求は、「食糧費支出に係る」書類の公開請求であって、右請求の記載からは、情報単位による請求とも解釈し得るのであり、右記載から直ちに文書単位での請求とみることはできない。
そうすると、本件請求は、食糧費外支出部分の情報についての公開請求を包含していたものということはできず、食糧費外支出部分については、請求に対応した非公開決定も存在しないのであるから、この部分について非公開処分の取消しを求めることは不適法といわざるを得ない。
二 本件条例六条二号(個人情報)該当性について
1 二号の趣旨
(一) 本件条例六条二号の趣旨は、個人の尊厳を守り、基本的人権を尊重する立場から、公開を原則とする公文書公開制度の下においても、実施機関はその責務として、プライバシーの保護について最大限の配慮をしなければならないことに鑑みて設けられたものである。しかしながら、プライバシーの概念はいまだ必ずしも明確ではなく、どのような情報がプライバシー保護のために非公開とされるべきかを一律に規定することが困難であることから、本件条例はプライバシーという概念を用いることを避け、個人に関する情報で、特定の個人が識別され又は識別され得るものを適用除外事項として規定したのである。(甲二)。また、個人に関する情報には、氏名、住所、本籍など戸籍的事項に関する情報、学歴、職歴など経歴に関する情報、疾病、障害など心身に関する情報、資産、収入など財産に関する情報、思想、信条に関する情報、家庭状況、社会的活動状況に関する情報があると考えられている(甲二)。そして、このような規定の趣旨からして、これらの個人に関する情報とされている情報であっても、プライバシーに関係しないことが明らかな情報については、非公開とすることは許されない。
(二) 本件においては、まず、会議等の相手方氏名の二号該当性が問題とされているところ、ここで相手方とは、本件文書が食糧費支出にかかる文書であることからすると、いずれも大阪市の事務事業に直接関係ある会議等の相手方出席(予定)者であると考えられる。そして、こうした相手方のプライバシーが問題となるのは、相手方が当該会議等に出席(予定)したという情報であり、その出席(予定)が当該相手方にとって私的な領域の問題といえるか否かである。そうすると、当該相手方が、個人としての資格を離れて、公務として、あるいは所属する団体の職務として大阪市の右会議等に出席する限りは私的な領域の問題とはいえず、出席したという情報自体は相手方のプライバシーとは関係のない事柄ということになる。したがって、相手方氏名は、それ自体個人を識別する情報ではあるが、相手方が職務として行った行為についての情報は、プライバシーに関係ないものとして、二号の非公開事由には当たらないというべきである。また、相手方の肩書や相手方の所属する団体名は、特定の個人に密接に関連している情報であるが、その特定の個人が識別されることが、当該個人にとってのプライバシーと関係ない場合には、右情報は、相手方の氏名と同様二号の非公開事由に当たらないことはいうまでもない。
(三) 次に、支出先及び請求者の個人名の二号該当性についてみるに、本件条例は、二号の個人情報のうち「事業を営む個人の当該事業に関する条報」を三号の非公開事由に係らしめているところである。これは、個人情報のうち、経済的側面に関する情報については、個人情報であっても法人と同様の扱いをすることが適当であることから、二号の適用を排除し、三号によって処理しようとしたものということができる。そうすると、支出先や請求者の個人名が「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当する場合には、二号適用の余地はないということができる。
2 本件文書への適用
(一) 相手方の氏名等について(別紙文書目録記載二の1(一)、2(一)、3(一))
相手方の氏名、団体名、役職名が記載され、非公開とされた部分の記載のある文書は、別紙相手方氏名、団体名、役職名記載状況一覧表のとおりである(同一覧表書証番号欄記載の各号証、乙三二)。
(1) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が公務員の氏名である場合
当該公務員は、被告の事務事業のうち財務局財務課所管に直接関係のある事項につき行われた同財務課との会議、懇談会等に出席(予定)しているといえる。そうすると、当該会議や懇談会等への出席は、当該公務員にとってその所属する各省庁や自治体等の職務としてのそれとみるのが自然であり、特に当該公務員が個人として会議等に出席したとの事情も認められない。そうすると、当該公務員の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(2) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が議員の氏名である場合
本件における当該議員は、予算等の財政問題について大阪市の財政局長や財務部長らと協議し、あるいは市施設等の実地調査のために当該会議等に出席したものと認められるから、議員の職務として会議等に出席したことは明らかであり、右議員の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(3) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が審議会関係者である場合
審議会が国又は地方公共団体の執行機関の付属機関として設置された機関であること、大阪市の財務局財政課がその所管事務について直接関係のある事項についての会議や協議に出席していることからすると、本件における相手方としての審議会関係者は、公務員ではなくて私人や学識経験者等と認められるものの、当該審議会の委員という公益的な立場で出席し協議等を行ったものとみるのが自然である。そして、本件において特に審議会関係者が個人としての立場で出席したとの事情も認められない。したがって、審議会関係者の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(4) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が医療関係者の氏名である場合
本件における医療関係者は、被告の行う安全衛生講習会の講師として依頼された私人(大学関係者)であり、当該関係者が被告側職員と講習会の打合わせ等を行ったものであり、当該私人にとって講習会の講師として講習を行うことは職務ということもでき、単なる私的な行為ということはできない。そうであれば、医療関係者の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(5) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が外国からの来賓の氏名である場合
本件における外国からの来賓は、上海市の財政視察団、上海市財政局、韓国地方財政共済会、上海市投資信託公司に属する者であり、協議懇談内容についても、交流事業や財政問題に関するものであることからすると、これら来賓にとって大阪市職員との協議懇談はその所属する団体の職務ということができる。したがって、外国からの来賓の氏名は、二号の非公開事由に当たらない。
(6) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が大学関係者((4)の場合を除く)の氏名である場合
本件における大学関係者は、大学教授であり、当該教授及びゼミ生が被告側職員との間で大阪市の財政等の現状等について懇談したものであり、当該大学教授からすれば右懇談は学生に対する学問の教授の一環ということができるから、その職務としてなされたものといえる。したがって、右大学教授の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(7) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が金融機関に属する者の氏名である場合
本件における金融機関に属する者とは、銀行の公務部門に属するものであるところ(弁論の全趣旨)、このような部門に属する者が財務局財務課の所管事項に直接関係する事務について協議したというのであるから、それは当該相手方にとってその属する当該銀行の職務として行ったとみるのが自然である。したがって、金融機関に属する者の氏名は二号の非公開事由に該当しない。
(8) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が報道機関に属する者の氏名である場合
本件において報道機関に属する者は、財務局長ないし財務課長と、いずれも財務局の所管する事項に直接関係する事務について懇談したものと推認することができる。そうであれば、これらは報道機関にとっては取材活動の一環ということができるのであるから、報道機関に属する当該個人のプライバシーとは関係があるとはいえない。したがって、当該個人の氏名は二号の非公開事由に当たらない。
(9) 本件文書において非公開とされた相手方氏名が各種団体の属する者の氏名である場合
被告の主張によれば、相手方の所属する団体は、地方財政に関する諸問題について調査研究を行うことを目的としたものであり、相手方は同団体の一員として財務局の職員と、財政問題について協議懇談したものであり、このような協議懇談は相手方の同団体の職務といえるのであり、同人が私人であることから、直ちに相手方の出席が私的領域の事柄ということはできない。したがって、相手方の氏名は二号の非公開事由に該当しない。
(10) 被告は、相手方氏名を非公開にしながら、その相手方は私人と主張するにとどまる文書(乙一八の27茶1)や団体名を議会関係としながら相手方は私人であると主張するにとどまる文書(乙一八の27茶7)がある。これらの相手方氏名については、本件全証拠によっても、当該会議等への出席が当該相手方たる私人にとってプライバシーに関わることを認めるに足りない。したがって、これらの相手方氏名は二号の非公開事由に該当しない。
(11) 被告は、歳出予算差引簿(乙二四ないし二七)について、件名のうち会議等の相手方名を非公開にしているが、これらはいずれも右に検討したところと同様である。
(12) 相手方の所属する団体名及び役職名について
相手方の所属する団体名や団体での相手方の役職名は、当該相手方の氏名等特定の個人を識別するための手掛かりにすぎないから、相手方の氏名が既に二号の非公開事由に該当しない場合には、特別の事情がない限り、右団体名や役職名がそれ自体で二号に該当することはないというべきである。本件においては、右(1)ないし(11)で認定したとおり、別紙一覧表の相手方氏名が二号の非公開事由に該当しないところ、右の特別の事情は認められないから、同表記載の団体名及び役職名も二号の非公開事由に該当するとはいえない。
なお、団体名や役職名は、それ自体が個人を識別し得る情報には当たらないが、これらの情報と容易に知り得る他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性があり、このような場合には「識別され得る」場合に当たることになる。これらの団体名としては、省庁名、自治体名、議会名、審議会名があり、役職名としては議員がある。ところで、既にみたとおり、二号の非公開事由は、個人の私的な領域を保護するものであって、当該個人が職務として行うものは含まないところ、被告はこれらの団体名や役職によって識別される個人の会議等への出席がそのような私的な領域の範囲の行為であることを主張立証しないのであるから、被告主張の団体名や役職が二号の非公開事由に当たるとは認められない(むしろ、右団体名や役職名からすると、会議等に出席した個人が職務として出席したであろうことは容易に推測されるところである。)。
(二) 支出先及び請求者の個人名について(別紙文書目録記載二の1(二)、2(三)、3(二))
被告は、支出決議書の支出先のうちの個人名、支出命令書の請求書部分中の個人名及び歳出予算差引簿の適用項目の人名欄中の支出先個人名が二号に該当すると主張するが、これらの支出先及び請求者は、その屋号やその請求内容が飲食代金等であることからすると、いずれも個人が事業として飲食店等を経営し、その代金を請求する者であるということができる。そうであれば、右支出先名や請求者名は、これら事業に関する代金等の支払先や請求者を特定するための情報として、三号の法人等又は個人の事業に関する情報に該当するから、二号には該当する余地がないことになる。
(三) 以上のとおりであるから、被告が相手方氏名、団体名、役職名、支払先及び請求者の個人名を非公開処分にしたことは違法である。
三 本件条例六条三号(事業情報)該当性について
被告は、支出命令書(振替命令書を含む)の金融機関コード欄、振込先金融機関名(銀行及び支店名)、預金種目、口座番号、送金先(振込先口座名義)、請求者の印影(別紙文書目録記載二の1(三)、2(二)。以下「金融情報」という。)について、三号を理由に非公開とした。
これらの事項は、法人等又は個人が事業を営む上で必要とされる、事業に係る金銭の出納にかかわる情報であり、どの範囲で誰にこれらの情報を明らかにするかは当該法人等又は個人の経営にかかわる部分が大きいといえる。そして、大阪市に対する代金等の請求においてこれらの事項が記載されているからといって、取引関係にない一般市民にまで広くこれを公開することを、当該法人や個人が予定しているとは到底いえない。そうであれば、これらの情報を公開することが、当該法人等又は当該個人の正当な利益を害すると判断した被告に違法はない。
四 本件条例六条八号(事務事業情報)該当性について
被告は、支出決議書のうち相手方が省庁関係、審議会関係、医療関係、大学関係、各種団体関係に係る場合の相手方氏名、団体名、役職名は八号に該当すると主張する。ところで、大阪市は、右相手方らとの間で、大阪市の財政局財政課の所管する事務事業に直接関係ある事務についての会議等を行ったものといえるが、右会議等が内密の協議を目的として行われたものと認めるに足りる証拠はなく、また、本件文書には会議等の外形的な事実が記載されているにすぎず、その具体的な内容まで記載されている訳ではない。したがって、本件文書が公開され、相手方氏名等が公開されたとしても、相手方において不快、不信の念を抱き、以後同種の会合への参加を拒否したり、率直な意見表明を控えたりするような事態が生ずるとはいい難い(最判平成六年二月八日民集四八巻二号二五五頁参照)。そうすると、相手方氏名、団体名、役職名を公開したとしても、八号に規定するような支障は生じるとはいえないから、被告が右部分について非公開としたことは違法である。
五 結論
以上のとおりであるから、本件訴えのうち、本件公開部分及び食糧費外支出部分(すなわち別紙文書目録記載二の非開示部分を除く部分)に係る部分は不適法であり、本件処分のうち、金融情報(別紙文書目録記載二の1(三)、2(二))を非公開としたことは正当であるが、相手方の氏名、団体名、役職名、支出先(請求者)個人名(同目録記載二の1(一)、(二)、2(一)、(三)、3(一)、(二))を非公開としたことは違法である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鳥越健治 裁判官遠山廣直 裁判官山本正道)
別紙文書目録
一 本件公文書
昭和六三年七月一日から平成四年三月三一日までの間の大阪市財政局財務課の食糧費支出に係る支出決議書、支出命令書及び歳出予算差引簿
二 一部公開後の非開示部分
1 支出決議書の記載のうち、
(一) 相手方の氏名、団体名(審議会の名称等を含む。)、役職名
(二) 支出先個人名
(三) 債権者の印影
2 支出命令書の記載のうち、
(一) 用途欄中の相手方団体名
(二) 金融機関コード、振込先金融機関名、預金種目、口座番号、請求者の印影部分
(三) 請求者が個人の場合の個人名
3 歳出予算差引簿の記載のうち、
(一) 摘要項目の件名欄中の相手方名
(二) 同じく人名欄中の支払先個人名
別紙相手方氏名、団体名、役職名記載状況一覧表<省略>