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大阪地方裁判所 平成5年(ヨ)2957号 決定 1998年3月31日

債権者

京力正明

債権者

石川隆作

右債権者両名代理人弁護士

水嶋晃

町田正男

林千春

西沢圭助

永見寿実

寺崎昭義

武田博孝

水永誠二

債務者

東海旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

須田寛

右債務者代理人弁護士

佐治良三

後藤武夫

加藤茂

中町誠

中山滋夫

主文

一  債権者らの申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第一申立て

一  債権者ら

1  債権者らがそれぞれ債務者の従業員の地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者京力正明に対し、平成五年九月一一日から本案判決確定まで、毎月二五日限り一か月金三四万〇二七四円を仮に支払え。

3  債務者は、債権者石川隆作に対し、平成五年九月一一日から本案判決確定まで、毎月二五日限り一か月金三一万七四八六円を仮に支払え。

4  申立費用は債務者の負担とする。

二  債務者

主文同旨

第二事案の概要

本件は債務者の従業員であった債権者らが、債務者の懲戒解雇処分について、懲戒事由に該当する事実が存在せず、また、仮にこれが存在するとしても、懲戒権の濫用あるいは不当労働行為に該当する等により無効であると主張して、従業員の地位にあることの仮の確定と賃金の仮払いをそれぞれ求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 債務者

(1) 債務者(略称「JR東海」)は、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道(国鉄)が分割民営化された際、東海地方を中心として、東海道新幹線を始めとする旅客鉄道事業を業とする株式会社(資本金一一二〇億円)として発足した社員約二万二〇〇〇人を擁する営利法人であり、当事者の表示記載住所地に本店を置く他、名古屋市に東海鉄道事業本部、東京都に新幹線鉄道事業本部、静岡市、大阪市に支社、津市、飯田市に支店をそれぞれ置いている。

(2) 大阪第三車両所

大阪第三車両所(以下「大三両」という。)は、大阪府摂津市<以下略>所在の通称「鳥飼車両基地」(以下「鳥飼車両基地」という。なお、別紙<略>鳥飼車両基地平面図(東門付近)はその平面図である。)内に第一車両所、第二車両所と共に存在し、債務者新幹線鉄道事業本部関西支社(以下「関西支社」という。)の管轄下にある新幹線車両の検査、修理部門であり、所属従業員は平成五年二月一日現在で約三一九名である。

(二) 債権者ら

(1) 債権者京力正明(以下「債権者京力」という。)

<1> 雇用契約上の地位

債権者京力は後記解雇処分当時、大三両に勤務し、車両技術係の地位にあったものである。

<2> 賃金

債権者京力は、後記解雇処分当時、過去三ヶ月平均月額三三万〇五四二円の給与の支給を債務者から受けていた。

<3> 所属組合

債権者京力は、債権者石川隆作(以下「債権者石川」という。)と共に、申立外ジェイアール東海労働組合(以下「JR東海労」という。)の組合員であり、同労組新幹線地方本部(以下「JR東海労新幹線地本」という。)大阪第三車両所分会(以下「大三両分会」という。)に所属し、結成以来、同分会書記長の役職にある。

(2) 債権者石川

<1> 雇用契約上の地位

債権者石川は、債権者京力と同様に、後記解雇処分当時、大三両に勤務し、車両技術係の地位にあった者である。

<2> 賃金

債権者石川は、後記解雇処分当時、過去三ヶ月平均月額三一万六二三六円の給与の支給を債務者より受けていた。

<3> 所属組合

債権者石川は、債権者京力と同様に、大三両分会に所属する組合員であり、結成以来、同分会の副分会長の役職にある。

(三) JR東海労

(1) 債務者には、共に同社の従業員及び関連企業に雇用されている者らで組織されながらも会社と組合員(従業員)との関係などの点について見解を異にするJR東海労、東海旅客鉄道労働組合(略称JR東海ユニオン)、国鉄労働組合(国労)など、複数の労働組合が存在している。

(2) 旧国鉄には、動労(国鉄動力車労働組合)、鉄労(鉄道労働組合)、全動労(全国鉄動力車労働組合)などの労働組合が存在していたが、国鉄の分割・民営化の過程で、動労・鉄労などは国鉄改革労働組合会議(改革協)を経て、全日本鉄道労働組合総連合会(略称鉄道労連、後にJR総連と改称)を結成し、これに伴い発足予定の債務者のもとにおいても、東海国鉄改革労働組合協議会(東海改革協)を経て、昭和六二年三月七日、東海鉄道労連が、そして同年九月一三日には東海旅客鉄道労働組合(略称JR東海労組)が結成された。

(3) JR東海労組内の動力車乗務員を中心としたJR総連派組合員らは、JR東海労組を脱退し、平成三年八月一一日、JR東海労を結成するに至った。

(4) JR総連派組合員が脱退した後、JR東海労組は、JR総連から脱退した。同労組は、その後、旧国労主流派といわれる組合員らが結成した東海鉄道産業労働組合(略称「東海鉄産労」)と統一され、JR東海ユニオンが結成された。

2  本件解雇処分

(一) 債務者は、平成五年九月一〇日、債権者らに対して以下の(1)及び(2)記載の理由で「懲戒解雇する」旨通告し、同各解雇処分(以下「本件解雇処分」という。)は、即時に発効した。

(1) 債権者石川について

平成五年三月一八日、管理者の制止を無視して「鳥飼車両基地」に乱入し、管理者等に対し度重なる暴行を働くとともに暴言を吐くなどし、職場秩序を紊乱したことは、従業員として著しく不都合である。

よって、就業規則第一四〇条及び同第一四一条により懲戒解雇する。

(2) 債権者京力について

平成五年三月一八日、多数の者を指導し、管理者の制止を無視して「鳥飼車両基地」に乱入し、管理者等に対し暴行・暴言等をなさしめるとともに、自らも管理者に対して暴行・暴言等を働き、職場秩序を紊乱したことは、従業員として著しく不都合である。

よって、就業規則第一四〇条及び同第一四一条により懲戒解雇する。

(二) なお、債務者は、債権者ら以外の組合員らに対しても別表<略>記載のとおり懲戒処分をした。

二  争点

1  債務者主張の懲戒事由が認められるか。

(一) 債権者らは債務者の施設管理権を侵害したか。

(二) 債権者らに暴行・暴言等が認められるか。

2  本件解雇処分に債権者ら主張の次の無効事由が認められるか。

(一) 懲戒権の濫用

(二) 不当労働行為

(三) 適正手続違反

3  保全の必要性が認められるか。

三  争点についての当事者の主張

1  争点1(債務者主張の懲戒事由)について

(一) 争点1(一)(施設管理権を侵害)について

(債務者)

債務者には鳥飼車両基地の敷地を含めてその有する会社施設の管理権があるのであるから、就業規則(<証拠略>)第二二条第一項、第二三条でそれぞれ会社施設の使用について債務者の許可を要することとしている。債務者は債権者ら主張の許可を与えたことはない。

したがって、債権者らが鳥飼車両基地に侵入・滞留したことは、債務者の施設管理権を侵害する違法行為である。

(債権者ら)

争議行為中でなければ従業員の会社施設への立入は自由であるから、債務者が、関西支社の課員等を鳥飼車両基地の東門に多数配置して門扉を閉め、大三両に勤務する従業員である債権者らを含む組合員らの立入を妨害したのは不当である。

のみならず、申立外中﨑澄男大三両分会長(以下「中﨑又は中﨑分会長」という。)は、平成五年三月一八日の本件当日、債務者の管理者である申立外有岡督大三両助役総務科長(以下「有岡科長」という。)から鳥飼車両基地構内立入の許可を得た。

(二) 争点1(二)(暴行・暴言等)について

(債務者)

(1) 債権者石川の非違行為

<1> 債権者石川は、本件当日の午前七時二分頃、他の組合員とともに鳥飼車両基地に侵入し、東門から組合員らの車が不法に侵入しようとするのを阻止していた管理者らに「危ないからどけ」等と怒鳴り喧騒状態を作ると共に、ストライキの予告を受けて待機していた債務者従業員(以下「警戒員」という。)を排除しながら車の進入を容易ならしめた。

<2> 債権者石川は、午前七時八分頃、他の組合員らと共に、申立外別府和夫大三両助役(以下「別府助役」という。)を取り囲んでいた組合員の集団に対し退去通告をしていた申立外大橋敏行債務者関西支社車両課長代理(以下「大橋代理」という。)を取り囲み、右手で大橋代理の背広の左襟を掴み押し上げる暴行を加え、更に激しく拳を突き出して暴行を加えようとした。

<3> 債権者石川は、金網フェンス付近まで他の組合員と共に大橋代理を取り囲んで追い込み、同所付近において「てめえ、このやろう」などという暴言を吐き、同人のネクタイを鷲づかみにして力強く引っ張り回すという暴行を加えた。

<4> 債権者石川は、その後、東門の方へ退避しようとした大橋代理の後を追いかけ、東門柵外にて他の組合員と共に大橋代理を再び取り囲み、鉄柵扉に追い詰めた。そして、大橋代理の背広の左襟を右手で掴み強く引っ張るという暴行を加えながら「向こうまで顔をかせ」と恫喝し、大橋代理が引っ張られまいとして鉄柵扉を掴みながら「何を言ってるんだ。向こうへ行って、何をする気か」と質すと、「上等じゃねえか、川で泳がせてやる、お前は生意気なんだよ、いつもでしゃばりやがって」などと激しく恫喝を繰り返した。大橋代理はその間右手で鉄柵扉を掴んで体をかろうじて支えていた。

<5> 債権者石川は、午前七時一五分頃、組合員に取り囲まれていた別府助役を助けようとした申立外片山修大三両助役(以下「片山助役」という。)を他の組合員らと共に逆に取り囲み、片山助役の左胸上部付近を四、五回両手で強く押すなどの暴行を働いた。

<6> 債権者石川は、午前七時一八分頃、退去通告を記した会社所有のプラカードを頭上に掲げ、申立外田中豊大三両助役(技術科長。以下「田中科長」という。)、片山助役を取り囲んでいる集団を退去させるべく、数回にわたり退去通告を行っている大橋代理に気付き、「何やっとんのや、おめえは、分かっとんのか、こら」と怒鳴りながら他の組合員一名と大橋代理に詰め寄り、債権者石川が、大橋代理の背後からプラカードを持つ大橋代理の手を強く押し下げ、他の一名は前に回りプラカードに飛びつくなどして、プラカードを奪おうとした。大橋代理は、必至にプラカードを支え、放そうとしなかったため、債権者石川はなおも執拗に食い下がり、ついには大橋代理のプラカードを持つ右手人差し指付近に爪を強く立てるという暴行を働いたため、大橋代理が痛さのためプラカードを下げたところを、他の組合員がプラカードのベニヤ板を引き剥がし、膝に打ち付けて二つに割って破壊し、地面に投げつけた。その後債権者石川は、大橋代理が破損したプラカードの一片をもって、再度退去通告を行っているのに対し「またそんなことやっとんのか、いい加減にせえよ」と怒鳴りながら奪い取ろうとし、大橋代理の退去通告を無視した。

<7> 債権者石川は、同日午前七時二〇分頃、申立外三浦寛債務者関西支社大三両所長(以下「三浦所長」という。)を発見し「張本人が来た。みんな行け」と叫び、これに呼応した他の組合員らが三浦所長を取り囲み、「所長、ガキじゃないねんからよう」「逃げるな」などの暴言を浴びせかけ激しく吊し上げを行った。この間、債権者石川は後ろから三浦所長のズボンのベルトを強く引っ張る暴行を働き三浦所長を身動きできないような状態にしていた。

<8> 債権者石川は、分会の副分会長として中分(ママ)会長や分会の書記長である債権者京力と共に分会の最高責任者の地位にあって、構内侵入・滞留・管理者等に対する吊し上げ等の違法行為を計画し、更に現場で自らも以上のような非違行為を行い、会社の施設管理権を著しく侵害したうえ、管理者等への度重なる暴行・暴言を働き、よって、管理者らを受傷させ、職場秩序を著しく紊乱したものである。

(2) 債権者京力の非違行為

<1> 債権者京力は当日午前七時四分頃「別府助役、あんたを待ってたんや。話があるから車から降りたらどうだ。」と別府助役に集団を代表して最初に罵声を浴びせ、午前七時五分頃別府助役が車を降りると真っ先に腕組みをして体を寄せ、別府助役の体を車の方へ押しつけ「お前よくも不当労働行為をしやがったな」と詰め寄った。これに呼応して他の組合員が別府助役を取り囲み、別府助役に暴行、暴言を加え、債権者京力はこれらの違法行為に率先して加わりこそすれ、制止その他の措置は全く講じなかった。

<2> 債権者京力は、午前七時八分頃別府助役を包囲しているところに退去通告に来た大橋代理に対しても組合員六名程と共にこれを取り囲み、債権者石川ら組合員が暴行、暴言を加えるのを制止しないばかりか、自ら率先して参加した。

<3> 債権者京力は、金網フェンス付近で午前七時九分頃、申立外債務者関西支社工務部施設課課長代理加藤正彦(以下「加藤代理」という。)につかみかかるという暴行を加えており、その後東門方向へ退避途中で退去通告をした大橋代理に向って「まだストに入っていない、何で出る必要があるんや、おまえこそ出ていけ」と暴言を吐き「時間がくれば出ていく」と明らかに自身が組合員らを指揮している言動をなした。

<4> 債権者京力は、東電留線ガードレール付近で取り囲まれていた別府助役の吊るし上げに加わり、同人の体をガードレールに押しつける暴行を加え、さらに暴言を加えつつ同人の身動きができない状態にした。

<5> 債権者京力は、午前七時一五分頃田中科長の吊るし上げに加わり、囲まれていた集団から抜け出ようとした田中科長の上着の左襟を右手で掴み前後に押したり引っ張ったりして全く身動きできなくするという暴行を加え、「あんたが一番悪いんやで」などと暴言を浴びせた。

<6> 債権者京力は、午前七時一九分頃大橋代理の退去通告に対し、「何で出ないとだめなのー」と三回言い放ち、その後午前七時二〇分頃三浦所長の取り囲み集団にも入っており、集団から逃げようとする所長の横で「話があるから聞いてくれ」と怒鳴った。これらの発言は明らかに集団を代表するものであった。

<7> 三浦所長を取り囲んだ後の午前七時二五分頃、債権者京力は「集約集会をやる。みんな体育館前に集まってくれ」と組合員全員に号令をかけ、組合員らを集合させ、会社の退去通告にも拘わらずこれを無視して、無断で組合集会を強行した。

<8> 債権者京力は、分会の書記長として中﨑分会長や副分会長の債権者石川とともに分会の最高責任者の地位にあって、構内侵入・滞留・管理者等に対する吊し上げ等の違法行為を計画し、さらに現場で自らも以上のような非違行為を行ったのであり、実行場面の指揮者として多数の組合員を指導して、計画的に構内侵入・滞留・管理者等の吊し上げ等を実行させ、自らも管理者等へ度重なる暴行、暴言を働き、管理者等五名に傷害を負わせるなどの重大な結果を招来し、職場秩序を著しく紊乱したものである。

(債権者ら)

<1> 債権者らは、構内立入りの際、中﨑分会長が有岡科長と直接話合い、その結果立ち入ったものであり、「乱入」などという状況ではない。債務者の警戒員も、立入を阻止するなどの態度をとらず、見守っている状況であり、構内立入りの状況は、若干クラクションの音がしていたとしても、平穏、公然たるものであった。しかも、債権者京力は、右構内立入りでは、たんに後続の車で入っただけに過ぎず、債権者石川は、西門から入り、東門付近では組合員の「侵入を容易ならしめる」行為など行っておらず、単に入ってきた車を駐車場へ誘導したにすぎない。

<2> その後、組合員らは、たまたま別府助役が出勤してきたことから、同人が郷組合員への脱退工作に直接関与していたため、この事実関係等をただすべく、同人を問い質したが、その時間は、午前七時〇五分から一五分までの約一〇分間に過ぎず、その内、債権者京力が関与したのは、最初のあいさつと、東電留線ガードレール付近の数分間であるに過ぎず、その内容は、郷組合員への脱退工作の真偽を問い質すもので、その目的においても内容においても正当なものである。

<3> 前記別府助役とのやり取りの最中に、酒気を帯びた大橋代理が現場に現れ、組合員らを挑発し、駐車場付近、金網フェンス付近、東門柵外の三ヵ所で組合員らとやり取りをしているが、いずれも付近には多数の警戒員がおり、一部肩などに手をかけ、話を促すような行為はあるものの、意図的な暴行などの行為は一切存在しない。また、大橋代理を連行したり、同代理をその場に組合員が無理矢理移動できないように押しとどめるような状況もない。

<4> 債権者石川は、片山助役の直近にはおらず客観的にも暴行を加えることなどありえない。また、債権者京力は、田中科長の付近にごく短時間いたのみで、田中科長の胸倉を掴み暴言をはくなどしておらず、ビデオからは全くそのような状況はうかがえない。

<5> 債権者石川は、大橋代理がプラカードをもって退去通告した際、プラカードを使った挑発的行為に対し、これをやめるように制止したことがあるが、大橋代理の右手甲に爪を立てる暴行を加え、プラカードを奪いとろうとしたことなどない。

<6> その後、三浦所長がいることが判明し、中﨑分会長らは同所長に前記訴状を渡そうとしたが、同所長は、組合員らの要請を一切無視してこれを受領拒否し、その場を立ち去ったものであり、その際若干ヤジなどがとんだ状況はあるものの、債権者石川らが不相当な行為をした状況はない。

<7> そして、最後に体育館前に組合員が集まり、中崎(ママ)分会長が集約のあいさつをして、その後、鳥飼基地を出たが、右集会も一~二分程度の短時間なものであった。

<8> また、右行為の全体を見ても、午前七時頃より約三〇分間という短時間であり、三〇名程度の組合員に対し、はるかに上回る多数の警戒員が事前に準備されていた中での行為であって、職場秩序が乱されたという状況ではない。実際、構内外に通勤用バスは運行され、早朝であったため他の勤務者の出勤等には何らの支障も生じていない。

<9> 五名の助役らが負ったとする全治三日~五日の傷害についても、田中科長は、そもそも三月一八日には診断を受けておらず、債権者がしたとされる暴行の態様によっては生じないものであり、また、別府助役ら四名も警察に言われて診断を受けたに過ぎず、実際、初診以外治療行為は受けておらず、受傷したとしても極めて軽微なものである。

2  争点2(債権者ら主張の無効事由)について

(一) 争点2(一)、(二)(懲戒権の濫用又は不当労働行為)について

(1) 本件背景、態様、結果

<1> 債務者会社は、債権者らが加入したJR東海労に対し、平成三年の結成時より、これを敵視し、その結成妨害、結成後の脱退工作を繰り返し、静岡、東京など各地で不当労働行為を行った。大三両分会に対しても、脱退工作や種々の差別的取扱が連続的に行われていた。

すなわち、債務者はJR総連の下でより強固な結束を図ろうとした当時のJR東海労組の申立外佐藤政雄中央本部委員長などの組合員(いわゆるJR総連派)を嫌悪するようになり、申立外葛西債務者副社長(現社長)を中心として、JR東海労組を債務者の意のままになる「御用組合」に変質させようともくろみ、平成三年六月ころには綿密な計画(シナリオ)を作成し(<証拠略>)、JR総連派組合員の排除や、JR東海労組の総連からの脱退等を策した。右シナリオは債務者がJR東海労を嫌悪し、組織的かつ計画的にその活動を妨害し、解消を余儀なくされることを狙ったものであることを如実に示すものである。

<2> そして、JR総連派の組合員は、債務者の御用組合化しようとする動きに対し、平成三年八月一一日、やむを得ず、JR東海労組を脱退し、JR東海労を結成した。しかし、債務者は、債務者と対等の立場で組合活動をすることを方針とするJR東海労に対し激しい敵意を示して嫌悪する姿勢をとったばかりか、同労組所属組合員に対する脱退慫慂、不利益な取扱等の不当労働行為を全社的に行った。

<3> さらに、JR東海労結成以前の大三両における組合の組織状況はJR東海労組が約二〇〇名、国労が約五〇名、鉄産労が約三〇名であり、大半のJR東海労組所属組合員がJR東海労に加入すると大三両においてはJR東海労が圧倒的な組織率を占めることとなる状況にあった。そこで、債務者はこれを阻止するために現場管理者を使って、様々な介入工作を行って、大三両分会に対する結成妨害をした。

<4> 右介入にもかかわらず、平成三年九月八日、大三両分会は一〇五名が結集して結成された。そして、大三両における組織率が第一位となり、JR東海労の関西地区の最大拠点職場となった。しかし、分会結成後も脱退慫慂、昇進試験差別及び組合事務所の不貸与などの組合に対する組織破壊攻撃を加えてきた。

<5> 平成四年一〇月に債務者が実施した三〇〇系のぞみ型新幹線車両の台車検査訓練を巡り、労使対立が生じた。JR東海労は勤務時間内での訓練を基本として全社員が訓練を受けられるようにすることなどを申入れた。債務者は、同労組との業務委員会における「勤務時間内外での訓練を検討する。」旨の確認に反して、すべての訓練を超過勤務で実施するという計画を発表し、管理者らを現場に動員し超過勤務命令を濫発して、超過勤務による訓練を強行した。そして、JR東海労所属組合員二名に戒告、二名に訓告の処分をした。

<6> 平成五年三月一八日のストライキの直前である同月一二日に別府助役田(ママ)中科長、申立外川端俊雄第(ママ)三両助役(計画科長。以下「川端科長」という。)、大橋代理は、大三両分会所属の組合員である申立外郷憲昭に対して、同人がかねてから転勤希望であったところ、JR東海労を脱退すれば、支社勤務できると持ちかけて脱退を慫慂した。

<7> このような中で、JR東海労は、平成五年三月一七日より、賃上げ、不当処分撤回、不当労働行為の即時中止、安全確立などを課題にして、ストライキ闘争に入ることを準備し、大三両分会は、同月一八日全一日ストライキに入ることになっていた。また、前記不当処分を受けた四名の組合員らは、組合の支援を受けて、同月一七日、処分無効確認の訴えを大阪地裁に提起した。

<8> このような経過の中で、債権者らを含む大三両分会の組合員らは、申立外萩原光廣JR東海労本部中央闘争委員(中央執行委員)の指導により、ストライキ実施前に、鳥飼基地に赴き、代表らが前記訴状を所長に手渡し、直接の職場の上司に組合の意思を直接申し入れるべく、同基地に赴いたものである。債務者による四名の組合員への不当処分に抗議し、脱退工作などの不当労働行為の中止を求める行為は、まさに組合の団結権を防衛するための、当然かつ正当な行為である。

<9> 鳥飼基地構内立入りの状況、その後の状況は、前記債権者ら主張のとおりであり、その際、組合員側と管理者側との間で、身体が接したり、声高になったり、ヤジなどがとんだりして、現場が一時騒然となるような状況はあるものの、労使間の紛争のもとにおける正当な組合活動に通常伴う程度のものであった。そして、最後に体育館前に組合員が集まり、中﨑分会長が集約のあいさつをして、その後、鳥飼基地を出たが、右集会も一~二分程度の短時間なものであったし、また、右行為の全体を見ても、午前七時頃より約三〇分間という短時間であり、三〇名程度の組合員に対し、これをはるかに上回る多数の警戒員が事前に準備されていた中での行為であって、職場秩序が乱されたという状況ではない。実際、構内外に通勤用バスは運行され、早朝であったため他の従業員の出勤等には何らの支障も生じていない。五名の助役らが受けたとされる全治三日~五日の傷害についても、田中科長が傷害を受けたかは疑問であり、いずれにしても、警察に言われて一回診断を受けたに過ぎず、受傷したとしても極めて軽微なものである。

右のとおり、債権者らの行為の態様は、意図的な有形力の行使とは一切認められず、助役らの傷害も極めて軽微であり、暴言などと認められるものもなく、鳥飼基地の業務の運営に重大な支障を与えたとは全く認められないものであり、違法性の程度はそれ程強いものではない。

<10> 債権者京力には、処分歴はなく、本件前後の勤務態度も平均的なもので勤務成績不良とは認められない。また、債権者石川も過去処分歴はなく、勤務成績は、過去抜擢昇給を受けたり、海外研修にいったことが認められるなど、債務者会社より評価されていたものである。

<11> 債務者は、本件を奇貨とし、建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反で警察に被害届を出し、債権者らは、平成五年七月二九日、逮捕・捜索され、検察官により勾留請求され、大阪地裁裁判官が一旦勾留決定した。しかし、弁護人の準抗告申立てにより「本件は労働争議の過程で発生した事案であるものの、必ずしも多数の労働組合員らが少数の会社側社員らに一方的に暴行を加えるなどした悪質な犯行であるとまでは認め難い」として、勾留の理由も必要性も認めず、検察官の勾留請求を却下し、検察官はその後債権者らを事情聴取もせずに不起訴にした。

(2) 懲戒権の濫用

債務者の就業規則第一四〇条、第一四一条では、債務者の従業員が右第一四〇条所定の懲戒事由に該当する場合、使用者は、懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、減給又は戒告の処分をすることができるとし、懲戒を行う場合に至らないものは訓告又は厳重注意すると規定している。しかし、懲戒権者が、右のうちいずれの懲戒処分を選択するかについては、具体的な基準が定められてはいない。このような場合、懲戒処分における使用者の裁量権は、自由裁量にまかされるのみではなく、客観的妥当性を有することを必要とし、相当性を欠く懲戒処分は無効であって、右相当性の判断に当たっては、当該労働者の非違行為の原因、動機、目的、性質、態様、結果、業務への影響、その他諸般の事情を総合考慮してなされるべきものである。特に、懲戒処分のうち、懲戒解雇処分は、出勤停止などの処分と異なり、当該従業員の地位を失わしめるという重大な結果を招来するものであるから、懲戒解雇処分の選択に当たっては、他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである。

債権者らを含む組合員らは、構内に入った後、酒気を帯びていた大橋代理が挑発的な行為に出るなどして不誠実な態度に終始し債務者の管理者らによって、現場にいた三浦所長への面会を拒否され、一切話し合いに応じてもらえないため、管理者側の不当性に抗議し、まじめな対応を要求するなどしたものであって、債権者らの行為の態様は、意図的な有形力の行使とは一切認められず、助役らの傷害も極めて軽微であり、暴言などと認められるものもなく、鳥飼基地の業務の運営に重大な支障を与えたとは全く認められないものであり、違法性の程度はそれ程強いものではない。本件が刑事事件として不起訴処分となり、処罰するに値しない程度の事案であり、起訴する価値がないこともこのことを示している。

本件当時、債権者京力は大三両分会の書記長、債権者石川は同分会の副分会長であったが、同分会は約九〇名程度の組織人員を有する分会に過ぎず、書記長、副分会長といっても実質上執行委員と役割が変わらず、分会の指導的、中心的地位にあったというものではない。そもそも、分会は、中央本部、地方本部の指示命令の下に分会を運営するものであって、組合の末端機関であり、ストライキなどの闘争時には、中央闘争委員会の直接の指示命令によって活動するものであるから、平常時とはその役割が変化するのである。本件当日、分会出身の本部中央闘争委員(中央執行委員)萩原を責任者とし、分会長を中心として取組がなされたことは、入構時、集約集会時の状況等をみても明らかであり、債権者両名について指導責任を云々することはできない。

したがって、後記本件の背景、目的、態様、結果等の諸事情をこれに総合すれば、本件解雇処分は、社会通念に照らし、重罰、過酷すぎるというべきであり、また、債権者らにつき、本件の責任者であるとして他の組合員よりも加重した懲戒解雇を選択することは許されない。

のみならず、債権者両名に対する本件懲戒解雇処分は、他の被処分者への処分に比しても過酷であり、合理性がないものである。

すなわち、本件当日の行動に参加したものの処分の内訳は、懲戒解雇処分が二名(債権者両名)、出勤停止三〇日間が三名(中﨑、康乗、福山)、出勤停止二〇日間が二名(小林、柳楽)、出勤停止一〇日間が一名(宮内)、出勤停止三日間が一名(山本)、戒告が二名(萩原、中塩路)、訓告が八名、厳重注意が一四名、処分なしが二名である。本件当日の各場面における各組合員の行為と比較した場合、債権者京力は、分会書記長、債権者石川は副分会長の各地位にあったにすぎず、中央闘争委員であった萩原や分会長であった中﨑、新幹線地方本部執行委員であった福山に比べて、組合活動上指導的地位にあったものではなく、また、各場面での行為をみても、入構時に中心的な行為をしたのは中﨑分会長であり、大橋代理とのやりとりは福山、康乗の方が石川より中心的に行っており、三浦所長への対応も中﨑分会長が中心に行っている。

(3) 不当労働行為

本件解雇処分は、債権者らが結成以来の大三両分会の書記長、副分会長という地位にあって組合活動に従事してきたことを嫌悪した債務者が、債権者らを職場から排除し、同分会さらにはJR東海労の組合活動の弱体化を狙いなしたものであるから、組合活動に対する支配介入であって、債権者らの正当な組合活動に対する不利益取扱であり、不当労働行為に該当し、無効である。

すなわち、本件は、債権者らの加入するJR東海労と債務者との間の緊張した労使関係のもとで発生した事案であるから、その行為の正当性を評価するに当っては、団結権保障の見地から団体活動、団結活動の正当性が評価されなければならず、労使関係の背景事情との関連で、行為の動機、目的、態様等が考慮されなければならないものである。

本件の債権者らの行為は、不当処分の撤回、不当労働行為の中止、賃上げ等を目的としたストライキ闘争の実施前に、前日提訴した四名の組合員への不当処分の無効を求める訴状を当該大三両所長に直接手渡すとともに、右処分やスト直前に判明した組合員郷らへの脱退工作について申入れ等を行うことを目的としていて、労働組合としての当然の団結活動に属するものであり、その目的はまさに正当である。その場で発生した一部管理者とのやり取りも、一部身体の接触、喧騒状態があったとしても、その全体的な態様は、平穏、公然として行われたものであり、悪質なものではなく、約三〇分間の短時間であって、まさに相当な組合活動というべきものである。また、その結果も、債務者会社の鳥飼基地における業務に関し、何らの具体的な影響、支障を生じさせていない。

(債務者)

(1) 懲戒処分については、就業規則第一四〇条、第一四一条で懲戒事由及び懲戒の種類を定めている。このような場合、使用者は懲戒権について、懲戒権を行使するかどうか、行使する場合に懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかどうかに関し、裁量権を有するものであり、社会通念上著しく妥当を欠き使用者に認められた裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、使用者の裁量権に任されているものである。

債権者らを含む組合員らの所為は、就業規則第一四〇条一号に該当し、債権者石川は、分会副分会長として本件事件に加わったうえ、現場において自ら率先して暴行暴言をなしたものであり、一二号にも該当し、債権者京力は、分会書記長として本件を計画したうえ、各現場において指揮をとり、かつ、自らも暴行暴言をなしたことについて同条一一号、一二号にも該当する。

そして、本件の場合、債権者らを含む組合員ら三〇数名が組織責任者の指示の下、管理者の明示の意思に反して入構を禁じられていた会社施設内に侵入し、多数の力をもって管理者らに暴行・暴言の限りを尽くし、管理者らに傷害を負わせ、会社の物品を破壊し持ち去るという、過去に例を見ない極めて悪質な職場秩序の紊乱行為であり、かかる行為を放置するときには会社における企業秩序低下は回復しがたいものとなるのであって、社会通念上も到底許されるものではないところ、債権者石川は、副分会長の地位にあって本件の計画に加わったうえ、現場においても自ら率先して大橋代理に対し四回、片山助役に対し一回、三浦所長に対し一回の計六回にわたって暴行に及んでおり、その粗暴性は他の者に比して際立っており、債権者京力は、分会書記長として構内侵入、滞留及び管理者等に対する吊るし上げ等を計画すると共に、当日の組合員の数々の違法行為を制止するどころか自ら率先して多くの管理者に暴言を吐いたうえ、上司である田中科長や別府助役及び加藤代理に暴行を振るっているばかりでなく、当日の集団的な違法行為の指導者として一連の違法行為の中心的役割を果たしたものであり、いずれも、就業規則所定の最も重い懲戒解雇をもって臨まなければ企業秩序の回復は困難である。

また、債権者らはいずれもJR東海労の幹部であり、本件当日、債権者らは主導的な役割を演じて行動していたのであるから、他の組合員に比して加重して責任を問われるのは当然である(なお、本件事件において中﨑も分会長の地位にあり幹部責任の観点からは、債権者両名と同様懲戒解雇相当ではあるが、当日の同人の行動自体について、暴言は認められるものの、債権者両名のような際だった有形力の行使等の違法行為が認定できなかったため、解雇に次いで重い出勤停止三〇日の処分としたものである。)。

(2) 不当労働行為

本件解雇処分は債権者らの主張するような目的でなされたものではない。また、債権者らが主張するシナリオは債務者が作成したものでなく、偽造文書である。債務者がJR東海労を嫌悪した事実はないし、債権者らが主張する支配介入等の事実もない。

(二) 争点2(三)(適正手続違反)について

(債権者ら)

本件解雇処分について、債権者らに対しては何ら弁明の機会は与えられていない。したがって、重大な手続違背があるから、本件解雇処分は無効である。

(債務者)

債務者において懲戒処分をするについて当該処分を受ける者に弁解を述べる機会を与えなければならないとの就業規則等の定めも、また、その旨の労働協約もないから、右の手続は法的には必要がない。

3  争点3(保全の必要性)について

(債権者ら)

債権者らは、いずれも、債務者からの賃金を唯一の生活の糧としていたものであって、本件解雇処分により生活の手段を絶たれることとなる。

債権者石川は、義父母、妻の他、生後九か月の乳児を含め三人の子供を抱えており、給料が支払われないとその家族を一挙に窮地に陥れることとなる。

また、債権者京力は、債務者の社宅に居住しているところ、本件解雇処分により社宅から退去を迫られることは必至であり、そうなればたちまち住居に困ることとなる。

このように債権者らについては保全の必要性があることは明らかである。

(債務者)

債権者らは、いずれも、本件解雇処分の後、組合関係の専従となり解雇前に債務者から受けていた賃金及び賞与の相当額(解雇後の昇給分も含む。)をJR東海労あるいはJR総連から受けており生活に困窮する事情は全くない。右賃金及び賞与相当額は、JR東海労あるいはJR総連の犠牲者救済制度に基づくもので本件仮処分で債権者らが勝訴すれば返還を要するが、敗訴すれば返還を要しない。

債権者京力は妻と共稼ぎであり、妻は扶養家族となっていない。妻は大阪の国立病院で看護婦として長く勤務しており、その月額給与は三五万円を下らないと推測され、債権者京力は現在東京に住居を有し、社宅よりも東京を生活の本拠としているのであるから、社宅退去による不利益は実質上ほとんどない状況である(なお、平成九年五月には組合専従としてイギリスへも出張している。)。

したがって、保全の必要性は欠如している。

第三当裁判所の判断

一  争点1(懲戒事由)について

1(一)  疎明資料(<証拠・人証略>)によれば、次の事実について疎明がある。

(1) 鳥飼車両基地

鳥飼車両基地は、債務者の所有・管理する土地・建物・その他の施設から構成されている。

(2) 争議行為の予定

JR東海労の争議行為については、平成五年三月五日付けJR東海労闘申第九号(<証拠略>)及び平成五年三月一二日付けJR東海労闘申第一〇号(<証拠略>)によって、JR東海労から債務者に対して<1>賃金引き上げ、<2>ダイヤ改正関連、<3>安全対策の確立、<4>処分の撤回などを目的とする拠点ストライキ及び指名ストライキを行う旨の通知がなされた。大三両においては、三月一八日始業時(午前八時三五分)より終業時(午後六時三五分)までの全一日拠点ストライキ(総務関係を除く。)に指定されていた。債務者とJR東海労との間でなされた基本協約第二六一条には「争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立ち入り及び物品の使用をすることはできない。」旨の定めがあり、これを根拠に債務者は、争議行為に関係する組合員による会社施設内の立入を禁止する扱いをしていた。平成四年三月の春闘においてもJR東海労が三月三一日及び四月一日の拠点ストライキに指定されていた大阪運転所に三月三一日午後五時頃組合員ら約六〇名が構内に入った。このため、債務者は平成五年三月のストライキ時においても、同様の事態を生じることを予想して、三月五日及び一二日の両日に債務者からJR東海労本部に対して、また、三月一三日に債務者関西支社から申立外JR東海労新幹線地方本部の申立外舟山守夫執行副委員長に対して、<1>ストライキ時においても基本協約、就業規則等社内規程は厳守すること、<2>ストライキ実施者による業務期間(ママ)への無許可の立入は禁止すること、<3>支援者による業務妨害、会社施設内での集会等は禁止することを申し入れ、これらに反する行為があった場合は厳しく対処することを申し入れていた。

(3) 入構状況

平成五年三月一八日、午前七時前ころ、JR東海労大三両分会の分会長である中﨑の乗った宮内運転の自動車が鳥飼車両基地の東門から他の通勤してきた社員の車が構内に入るのに続いて入ろうとした。これに対して、ストライキの予告を受けて待機していた有岡科長が警戒員にも指示をして、右宮内運転の自動車に向かって、「だめだ、ストップ、ストップ。」と大きな声で言いながら、他の警戒員と共に車の前に立ちはだかり、車を停車させて構内に入ることを拒否した。右の際、宮内運転の車はその先頭部分だけが門扉のうち車一台分だけ開いている箇所から門内に入っている状態であった。そして、宮内の車の後ろには何台かの組合員が続いている状態であった。なお、門扉は全開されているのが通常である。宮内の車の助手席から中﨑が降りてきて、有岡科長らに対し、「どけよ。」、「邪魔じゃないか、どけ。」と大声で怒鳴りながら、車を構内に入らせるよう迫ったが、有岡科長は「あなたたちは今日ストライキでしょう。業務に関係ない者の入門を許可するわけにはいきません。」と言ったが、中﨑はなおも「どうして入れてくれない、社員じゃないか。おかしいじゃないか。」怒(ママ)鳴り散らした。また、他の組合員らも有岡科長を取り囲んだ。有岡科長がなおも車の入門を拒んでいたところ、債権者石川を含む組合員らは口々に「邪魔じゃないか。」、「どけ。」などと怒鳴りながら、宮内の車の進行方向を塞いでいた有岡科長らを実力で排除しようとし、宮内の車がじわじわと前進して強引に構内に入り込もうとした。このため、有岡科長らは身の危険を感じると共に中﨑ら組合員から宮内運転の車の脇(守衛室の方向)に押しやられ、その進路を塞ぐことができなくなった。組合員らは、右の間に盛んにクラクションをけたたましく鳴らし続け、喧騒な状態が続いていた。宮内の車が構内に入り込むと、組合員らが勝手に車一台分しか開いていなかった門扉を解放したため、後続の組合員らが乗り込んでいた車も構内に入り込んだ。

(4) 別府助役に対する暴行行為等

同日午前七時四分頃、当日出勤の別府助役は、自家用車で鳥飼車両基地東門より入所して、別紙図面金網フェンス付近に駐車したところ、債権者京力を含む複数の組合員に車を取り囲まれ、債権者京力から「別府助役、あんたを待ってたんや。話があるから車から降りたらどうだ」と声をかけられ、車から降りたところ、債権者京力は、真っ先に腕組みをして体を寄せて別府助役の体を車の方へ押し付け「お前よくも不当労働行為をしやがったな」と怒鳴りながら詰め寄ってきた。それに呼応して他の組合員多数が別府助役を取り囲み、同人に対して罵声を浴びせたり、腕組みをして体を寄せ腕や肘で別府助役の身体を小突いたり、足を蹴ったり踏んだりした。

別府助役は、身体を小突かれ、足を蹴られたり踏まれたりしながら組合員に押されて車の前方に移動し、勤務に就こうとしたが、組合員の中﨑が「まだ話が終わってないやんけ」と言って立ちはだかり歩くのを妨害した。右状況を現認した有岡科長が「別府助役を取り囲むことはやめなさい」と警告し、また大橋代理がハンドマイクで「何をしている。離れなさい。直ちに退去しなさい。」と退去通告を行うと、組合員の一部が大橋代理の方へ向かい、別府助役は、大橋代理を取り囲む集団の北側を組合員に揉まれるように別紙図面東電留線ガードレール付近まで移動し、同所付近で引き続き組合員に取り囲まれ、入れ替わり立ち替わり組合員から罵声を浴びせられた。そして、別府助役の目の前に現われた債権者京力は、再び体を寄せて同人の体をガードレールに押しつける暴行を加え、さらに「あんたと大橋さんがやったんやろ。」「郷に聞いているんや。」「郷に聞いているんや、そこまで来ているんやで、なんなら連れてこうか。」と怒鳴った。別府助役はその間債権者京力のなすがままにガードレールの方向へ体を押され、身動きが取れない状態になった。その後、取り囲んでいた集団が、別府助役救出のため同所付近に赴いた田中科長及び片山助役の方に向かい、片山助役が二回倒され、囲みが崩れたところで別府助役は有岡科長に七時一五分頃救出された。別府助役はこの間の組合員らによる暴行により、右大腿・下腿打撲全治三日の傷害を負った。

(5) 大橋代理に対する取り囲みと暴行行為等(金網フェンス付近から東門付近まで)

当日の警戒班の責任者であった大橋代理は、基地内に入った組合員らを排除し、職場秩序を回復するため、午前七時七分頃より組合員らに対し退去通告を行った。まず前述の別府助役を取り囲んだ集団に対し、会社所有のハンドマイクで「何をしている、離れなさい、直ちに退去しなさい」などと退去通告しつつ、右集団へ近づいていった。債権者石川、債権者京力を含む組合員数名は、大橋代理に近づき、同人を取り囲んだ。そして、債権者京力らが「不当労働行為を行った張本人」と怒鳴るなど口々に暴言を大橋代理に浴びせ掛ける中で、債権者石川は、大橋代理の前面に出て、何かわめきながら右手で大橋代理の背広の左襟を掴み、押し上げた。これと前後して、大橋代理は、組合員の柳楽にハンドマイクをもぎ取られ、ハンドマイクを通して数々の罵声を浴びせられ、引き続き組合員らに囲まれ、組合員康乗にネクタイを掴まれ、引っ張り込まれるようにして金網フェンス付近に移動させられたうえ、金網フェンスを背にする形で組合員に取り囲まれ身動きできなくなった。この時、債権者石川は、大橋代理に対して「てめえ、このやろう」などと言い、大橋代理のネクタイを鷲づかみにして力強く引っ張り回し、組合員福山、柳楽らが暴言を浴びせた。これらにより、大橋代理が背広の胸ポケットに着用していた氏名札の裏板(プラスチック)が縦に割れた。その後、大橋代理は、組合員が手を緩めた隙に東門の方向へジクザグの状態で退避した際、近くにいた債権者京力に対し、「早急に退去しなさい」と通告すると、債権者京力は「まだストに入っていない、何で出る必要があるんや、おまえこそ出ていけ」と怒鳴り、さらに、二、三名の組合員が「今に見てやがれ、覚悟しとけよ」「いつもでしゃばりやがって、おまえこそ出ていけ」などと大声で叫んだ。大橋代理は、午前七時一〇分頃、東門の構外に避難したが、大橋代理を追いかけてきた債権者石川を始めとする七、八名の組合員が詰め寄り、口々に「貴様、よくやってくれたな、覚悟しとけよ」「どうなるのか分かっとんやろうな」などと暴言を吐いた。特に債権者石川、福山、康乗の三名が大橋代理を鉄柵扉に追い詰め、激昂した債権者石川が「向こうまで顔をかせ」とどすのきいた声で言いながら大橋代理の背広の左襟を右手で掴み引っ張り出そうという暴行を働いたため、大橋代理は、引っ張られまいとして鉄柵扉を掴み、「何を言ってるんだ、向こうへ行って、何をする気か」と言うと、債権者石川は「上等じゃねえか、川で泳がせてやる、お前は生意気なんだよ、いつもでしゃばりやがって」と怒鳴った。一方構内では、大橋代理から会社のハンドマイクを奪った柳楽がハンドマイクで「大橋代理は酒を飲んで勤務しております」「JR東海関西支社の大橋代理は、本日酒を飲んで出勤しております、不当労働行為をやりました」と怒鳴っていた。

(6) 加藤代理に対する暴行行為

債権者京力は、午前七時九分頃、金網フェンス付近において加藤代理につかみかかった。

(7) 片山助役に対する暴行行為等

片山助役は、午前七時一五分頃、組合員に取り囲まれた別府助役を助けるべく取り囲みの集団の北側から集団の中に入ろうとし、田中科長も片山助役の左側で集団に入ろうとしたが、集団の一部がこれに呼応して田中科長を取り囲み、集団に入れさせまいと集団の外側へ押し出すような状態になった。片山助役はこのままでは田中科長も別府助役のように吊し上げられると思い、田中科長の方へ近づこうとしたが、組合員らに阻まれて、結果的に別府助役を取り囲む集団の北東へ移動し、中﨑、債権者石川らの組合員に取り囲まれ、まず中﨑らから「片山、お前は関係ない」などと怒鳴られながら左肩を強く押され、さらに、正面にいた債権者石川から左胸上部あたりを四、五回以上両手で強く押され、何とか倒れないように踏ん張っていたが、突然誰かに左肩を激しく突かれて踏ん張りきれなくなり、バランスを崩し、ちょうどその時組合員の囲みが解けたため、顔を金網フェンス方向に向けた状態で体育館の方向に倒れ、立ち上がったところを再度左肩を強く突き飛ばされ、同じように顔を金網フェンスに向けた状態で体育館の方向に仰向けに倒れた。この時、申立外組合員小林國博(以下「小林」という。)も不自然に倒れたため、片山助役の背中と小林の胸が重なるような態勢になった。このため、片山助役は右肘を強くアスファルトの地面に打ちつけ、右前腕打撲により全治三日の負傷を負うに至った。

(8) 田中科長に対する暴行行為等

同日午前七時一五分頃、前述のように組合員らに取り囲まれていた別府助役を救出に向った田中科長は、その後組合員の集団から抜け出そうとしたが、組合員の申立外山本真治から左脇肋骨あたりを何回も肘打ちされ、また、債権者京力から胸ぐら(上着の左襟部分)を右手でつかまれ前後に強く揺さぶられ、全く身動きの取れない状態となり、さらに、債権者京力は、上着の左襟部分を引っ張りながら、「あんたが一番悪いんやで」と怒鳴った。その後、取り囲んでいた組合員の集団が解けかけた隙にかろうじて脱出したが、これらにより、左季肋部打撲による全治三日の傷害を負った。

(9) 退去通告を命ずるプラカードをめぐる大橋代理に対する暴行行為等

債権者石川は、午前七時一八分頃、退去を命ずる旨記した会社所有のプラカードを頭上に掲げ、組合員らを退去させるべく退去通告を行っている大橋代理に気付き、「何やっとんのや、おめえは、分かっとんのか、こら」と怒鳴りながら大橋代理に詰め寄り、大橋代理の背後からプラカードを持つ大橋代理の手を強く押し下げ、必死にプラカードを支え、放そうとしなかった大橋代理のプラカードを持つ右手人差し指の付け根付近に爪を強くたてるという暴行を働いたため、大橋代理が痛さのためプラカードを下げたところを、前に回ってプラカードに飛びつくなどしていた小林がプラカードのベニヤ板を引き剥がし、膝に打ち付けて二つに割って破壊し、地面に投げつけた。その後、大橋代理が破損したプラカードの一片を拾い上げ、再度退去通告を行っているのに対し債権者石川は、「まだそんなことやっとんのか、いい加減にせえよ」と怒鳴りながら手を伸ばして奪い取ろうとし、大橋代理の退去通告を無視した。そして大橋代理の退去通告に対し、債権者京力は、「何で出ないとだめなのー」と三回言い放った。その後、組合員の小林がプラカードのもう一片を土足で踏みつけ、組合員から大きな拍手と喚声がおこった。

(10) 三浦所長に対する暴行行為等

午前七時二〇分頃、東門の西付近に現れた三浦所長に対し、突然組合員から「所長がいるぞ」という声が上がり、更に債権者石川が「張本人が来た。みんな行け」と叫んだのに呼応して十数人の組合員が三浦所長の方へ向っていった。危険を感じた三浦所長は五~六メートルほど西の方に移動したが、すぐに駐車していた大型バスの北側付近で取り囲まれ、まるで満員電車のように身動き取(ママ)れなくなり、「所長、ガキじゃないねんからよう」「逃げるな」などと罵声と怒号を浴びせられた。組合員らは腕を組んで詰め寄り三浦所長の体を強く押しつけ、足を踏んだりしたので、三浦所長は「痛い痛い」と叫び、必至になって囲みから脱出しようとしたが、債権者石川が後ろから三浦所長のベルトを強く掴んで三浦所長を身動きできないように押さえつけていた。債権者石川は掴んだベルトを全く放そうとしなかったので、三浦所長が「石川だな、手を放しなさい」と言った。また、債権者京力が、逃げようともがいている三浦所長の横で大声で「話があるから聞いてくれ」などと怒鳴っていた。その後、有岡科長や大橋代理らが、三浦所長を取り囲む組合員らに繰り返し退去を通告し、囲みが緩くなったところを、やっとのことで三浦所長は脱出するに至ったのである。

(11) 無断集会と解散の状況

債権者京力は、同日七時二五分頃、「集約集会をやる。みんな体育館前に集まってくれ」との指示を組合員らに発した。この時、大橋代理が債権者京力に対して「早く出なさい」と退去通告を行ったが、債権者京力は「何で出る必要があるんや」とこの指示を無視した。債権者京力の指示を受けた組合員らは、その指示に従って鳥飼車両基地内の体育館前駐車場に集合した。この間、会社側はプラカード(破壊されたものとは別のもの)による退去通告を継続したが、これを無視し、無断集会を強行した。この集会では、中﨑分会長が集約演説を行い、同三五分頃組合員らは解散し、一斉に車に分乗して退去した。

(12) 会社の被害状況

組合員らは、会社の許可なく、会社施設内に侵入して会社の施設管理権を侵害し、職場秩序を著しく紊乱した。また、<1> 別府助役が右大腿・下腿打撲により全治三日、<2> 片山助役が右前腕打撲により全治三日、<3> 田中科長が左季肋部打撲により全治三日、<4> 大橋代理が右前腕擦過傷・右第二指擦過傷により全治五日、<5> 有岡科長が左側胸部打撲により全治三日の各傷害を負い、会社管理者計五名が負傷した。さらに、大橋代理の使用していた会社所有のハンドマイク一台の他、会社所有の携帯カメラ一個が持ち去られた。また、退去通告用プラカード一枚が破壊された。

(二)  右認定には(証拠・人証略)、債権者京力正明、石川隆作の供述等の債権者ら申出の疎明資料中にこれに反する部分がある。

しかしながら、本件において、組合員がカメラ一台(萩原)、ビデオカメラ三台(中塩路、清水、多田)を持ち込んで本件の経過を記録していることが明かである(例えば<証拠略>)が、債権者らは、それを全て紛失した或いは二重撮りしていたとして(<人証略>の各証言、債権者京力、石川の各供述)提出していない。そして、右不提出の理由は吾人を納得せしめるものでないところ、仮に債権者京力らが別府助役に対して暴行行為を一切行っていないとすれば、当然右ビデオテープや写真が提出された筈であるから、右ビデオテープや写真には債権者らに不利な状況が撮影されていたのではないかとの疑いを禁じ得ない。

そればかりか、(証拠略)などは、ビデオテープや写真又はこれに基づく疎明資料であって、債権者ら申出の疎明資料のうち、入構が平穏にされたとか、債権者京力が逆に大橋代理から自動車に押しつけられる暴行を受けたとか、債権者京力が左利きであって鞄を右手で持っているから右手で田中科長の襟をつかむことはないとか、債権者石川が福山と東門寄りにいたから片山助役に対する暴行のできるはずがないとかとする部分を明確に否定しうるものである。

そうすると、債権者ら申出の疎明資料は、右説示に照らし、また、核心部分については回避的であることなどからして、基本的に信用性に乏しくて採用できず、前記認定を左右しない。

2  争点1(一)(施設管理権の侵害)について

鳥飼車両基地は、債務者の所有・管理する土地・建物・その他の施設から構成される会社施設であって、基本協約(<証拠略>)第二六一条の「会社の施設」(なお、その構内が同条の「構内」に該当することは当然である。)、就業規則(<証拠略>)第二二条及び同第二三条にいう「会社施設」に該当すると解するのが相当である(<人証略>の証言、債権者京力の供述中には「会社施設」には建物等が対象となり、鳥飼車両基地の構内はこれに含まれない旨述べる部分があるが、このように限定する根拠に乏しいから、採用の限りではない。なお、<証拠略>参照。)。

そして、企業は、これを構成する人的要素及びその所有・管理する物的施設を合目的的に配備組織して企業秩序を定立して企業活動を行うものであり、その構成員に対し右企業秩序に服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律ある業務の運営態勢を確保するため、一般的規則又は具体的指示・命令によりその物的施設の使用を禁止又は制限することができるところ、企業に雇用されている労働者は、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において右物的施設の利用をあらかじめ許容されているものの、これを超えて、当然に物的施設を利用する権限を有するわけでなく、この理は、労働組合又はその組合員が組合活動をする場合にも同様に当てはまる。したがって、労働組合又はその組合員が企業の許諾を得ることなく右物的施設を利用して組合活動を行うことは、その使用を許さないことが権利の濫用等にあたる場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保し得るように当該物的施設を管理利用する企業の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動といえない(最高裁判所昭和五四年一〇月三〇日判決参照)。

前記認定事実から考えると、債務者が争議突入当日予定開始時刻前における争議行為実施者の鳥飼車両基地への立入を禁止し同基地からの退去を命じたことは、基本協約第二六一条の目的ないし趣旨に鑑み、かつ、前年の経験に照らし、争議行為を行う組合員が職場である鳥飼車両基地にいると管理者や他の労働者との間で無用の混乱や軋轢が生じるおそれがあり、これを防止するための相当な処置というべきであり、施設管理権の正当な行使といえる。

そして、有岡科長が右立入・滞留の許可を与えておらず、また、債権者らの基地内滞留中数回にわたって退去勧告が出されているのであるから、債務(ママ)者が基地内へ立入り、滞留することは、債務者の施設管理権を侵害するというべきである。

3  争点1(二)(暴行・暴言等)について

(一) 前記認定・説示から考えると、債権者石川は、平成五年三月一八日午前七時二分頃、東門から組合員らの自動車が不法に侵入しようとするのを阻止していた管理者らに対し、「危ないからどけ」等と怒鳴り、警戒員らを排除しながら右車の侵入を容易にし、退去通告をしていた大橋代理を取り囲み、右手で大橋代理の背広の左襟をつかみ押し上げる暴行を加え、「てめえ、このやろう」などと暴言を吐き、同人のネクタイを鷲づかみにして引っ張り回す暴行を加え、そして、大橋代理の背広の左襟を右手で掴み、引っ張りながら、「向こうまで顔を貸せ」、さらには、「上等じゃねえか、川で泳がせてやる」、「お前は生意気なんだよ、いつもでしゃばりやがって」などと怒鳴り、組合員に取り囲まれていた別府助役を助けようとした片山助役を他の組合員らと共に逆に取り囲み、片山助役の左胸上部付近を四、五回両手で強く押す暴行を加え、退去すべき旨を記載した板製の債務者所有のプラカードを頭上に掲げて退去通告している大橋代理に対し、「何をやっとんのや、おめえは。わかってんのか、こらぁ」などと怒鳴りながら、大橋代理の背後からプラカードを持つ大橋代理の手を強く押し上げ、プラカードを持つ右手人差指ないし親指付近に爪を強く立てるという暴行を加え、三浦所長を発見し、「張本人が来た。みんな行け」と叫び、これに呼応した他の組合員らが三浦所長を取り囲み、「所長、ガキじゃないねんからよう」、「逃げるな」などの暴言を浴びせかけている間、後ろから三浦所長のズボンのベルトを強く引っ張る暴行を加えて、三浦所長の身動きを取れないようにし、右の暴行により、大橋代理に全治五日間を要する右前腕・右第二指擦過傷の、片山助役に全治三日間を要する右前腕打撲の傷害を負わせた。

(二) 前記認定・説示から考えると、債権者京力は、平成五年三月一八日午前七時四分頃、鳥飼車両基地に自動車で出勤した別府助役に対して、多数の組合員の先頭に立ち、腕組みをして体を寄せ、別府助役の体を車の方に押し付け、「お前よくも不当労働行為をしやがったな」と詰め寄り、これに呼応して他の組合員らが別府助役を取り囲み、その胸あたりを腕で小突いたり、足を膝で蹴ったり、足を踏む等の暴行や暴言をするにいたり、別府助役を包囲しているところにハンドマイク(拡声器)を持って退去通告にきた大橋代理に対しても組合員六名ほどと共にこれを取り囲んで暴言を吐き、債権者石川を含む組合員らがハンドマイク(拡声器)を奪う等の暴行及び「この野郎」等と暴言を加えるのを制止せず放置し、さらに、加藤代理に掴みかかるという暴行を加え、囲まれていた集団から抜け出ようとした田中科長の上着の左襟部分を右手で掴み、前後に押したり引っ張ったりして全く身動きができないようにする暴行を加え、「あんたが一番悪いんやで」などと暴言を浴びせ、大橋代理の退去通告に対し、「何で出ないとだめなのー」と三回言い放ち、その後、取り囲む集団から逃れようとする三浦所長の横で「話しがあるから聞いてくれ」と怒鳴り、七時二五分頃、「集約集会をやる。みんな体育館前に集ってくれ」と組合員ら全員に声をかけ、組合員らを体育館前に集合させ、債務者の退去通告を無視して、無断で組合集会を強行し、同債権者の暴行を含む前記組合員の暴行により別府助役に全治三日を要する右大腿・下腿打撲の傷害を与えたということができる。

4  懲戒事由の該当

債権者らは、多数の組合員と共に、会社の許可なく会社施設内に侵入・滞留して会社の施設管理権を侵害し、また、前記暴行暴言をなし、前記管理者に前記傷害を与え、器物を損壊等し、もって職場秩序を著しく紊乱したのであって、右は、就業規則第一四〇条(1)の「法令、会社の諸規程等に違反した場合」、第一四〇条(12)の「その他著しく不都合な行為を行った場合」に該当するものというべきである。

二  争点2(懲戒処分の無効)について

1  争点2(一)、(二)(懲戒権の濫用又は不当労働行為)について

(一) 債権者ら主張の事情

(1) JR東海労組の分裂についての債務者の関与

債権者らの主張に沿う疎明資料(<証拠略>)によれば、債務者は、平成三年当時、JR東海労組が分裂の状況となった際、反佐藤派を支持し、これを援助する計画を有していたことが疎明されるが、右計画を現実に実行したか否か、どのように実行したかについての疎明は十分でなく、債権者ら主張のJR東海労組の分裂についての債務者の関与を認めるに十分でない。

(2) 債務者とJR東海労との間の裁判等

疎明資料(<証拠・人証略>)によれば、平成三年以降、会社とJR東海労との間では、JR東海労申立にかかる不当労働行為救済申立、仮処分申立等がされ、認容決定を含めた各種の決定がされ、労使間の紛争、緊張関係があったことが疎明される。

(3) 大三両分会に対する組織破壊攻撃

疎明資料(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が疎明される。

JR東海労結成直前の平成三年七月はじめころ、佐藤委員長解任の動きに対して、JR東海労組大阪第三車両所分会執行委員会は、佐藤中央本部委員長を支持すること、御用組合化には反対すること、分会としてまとまって行動することの三点を確認し、さらに八月九日の執行委員会では、JR東海労(新組合)に結集するという方針を決定し、そのために活発な活動を行なった。当時、大三両における組合の組織状況は、JR東海労組が約二〇〇名、国労が約五〇名、鉄産労が約三〇名であった。JR東海労組所属組合員の内、助役や事務系の者など五〇~六〇名を除いて残り全員が分会としてまとまって新たに結成されたJR東海労に加入するという勢いであったため、このまま推移するならば、大三両においてJR東海労が圧倒的な組織率を占める予定であった。同年七月一五日、当時の大三両大橋首席助役(首席助役は所長につぐ現場管理者。)は、事務係の組合員黒木悟、小西を所長室に呼び出し、JR東海労組内の「会社派」が行っていた「JR東海労(JR東海労組の意味)を守りより明るく発展させる署名」に署名させようとした。

平成三年九月八日、大三両分会は、一〇五名を結集して結成された。この際、債権者石川は分会副分会長に、同京力は分会書記長に就任した。結成当時、大三両職場内の他の組合の組織状況は、JR東海労組が九四名、国労が六四名、鉄産労が三四名であり、大三両分会は、大三両職場における組織率では第一位を占めるにいたり、JR東海労の関西地区の最大拠点職場となった。分会結成後の平成三年一〇月ころ、当時の川端助役が、組合員の清水清宅に電話で「組合はどうした」「家庭のことも考えて決めろよ」と申し向けて介入した。林助役も組合員の杉本宅に同様の電話を行った。

債務者は、関西地区において、JR東海労組に対しては勿論、国労、東海鉄産労に対しても、組合事務所を便宜供与していたが、JR東海労に対してだけ、同労組が、結成以来再三要求しているにもかかわらず、また、JR東海労組と東海鉄産労が統一したことにより東海鉄産労の組合事務所が空いたにもかかわらず、未だに組合事務所を便宜供与しないままである。

大三両分会は、平成五年三月一八日の本件当時、結成以来一一名の減少を余儀なくされていたが、依然九四名の組織人員を保っていたが、平成七年一〇月一日時点で、結成以来の脱退者が合計一九名にのぼり、その他三二名減となった。

(4) 三〇〇系台車検査の教育訓練に関する平成四年一二月一日の懲戒処分等について

債権者らの主張には、(証拠・人証略)が沿う。

しかし、(証拠・人証略)によれば、JR東海労は、台車訓練について平成四年八月一三日付文書(<証拠略>)で十分な教育訓練を行な(ママ)うよう会社に申し入れていたが、同年八月一七日付文書(<証拠略>)で初めて訓練を時間内に実施するよう申入れの追加を行ったところ、会社は、同年八月三一日に業務委員会を経た同年九月二二日業務委員会を開催し、この時会社は、計画した訓練は勤務時間外に行うことを前提とし、社員が計画された訓練を受けたうえで、個別に時間数が不足であれば助役等の管理者にその旨申し出てもらい、さらに訓練が必要と判断された場合には、個別的に勤務時間内外を含めて検討する用意がある旨説明したこと、また、訓練を所定労働時間内に行った場合、訓練に参加するパートの作業が止まり、通常業務である台車検修ライン全体が停止してしまうとか、通常業務のラインに設定されている対象部品を外し、訓練用の部品を設置、訓練後再び通常業務ラインに復帰させねばならず、二度の入れ替え作業に約七〇分を費やさねばならないとか、訓練を行う必要の無い輪軸検修班と外注会社(新幹線エンジニアリング(株))は、訓練中作業を停止して待機しなければならず、結局訓練対象外の者は二一時四五分まで時間外労働をしなければならなくなるとかの不都合があること、遠距離通勤者でも東海労の組合員も含め殆どの者が訓練に参加しており、また、訓練の日程については、予備日を設けているため、家庭の事情等がある場合、訓練日が休日に該当した場合は予備日に訓練できるよう配慮されたことからして、訓練に支障がなかったことが認められる。

したがって、右に照らし、時間内に訓練をするとの合意があったとか、時間外(ママ)の訓練に合理性があるとか等の債権者主張に沿う前記疎明資料は採用し得ない。

(5) 郷組合員に対する脱退慫慂

疎明資料(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が疎明される。

平成五年同年二月初めころ、大三両別府助役は、かねてから転勤希望のあった組合員郷憲昭に対し、「支社転勤の話がある。今回を逃したら二度とチヤンスはない」などと話し、支社へ転勤するためにはJR東海労からの脱退が必要だなどとしたうえ、同人を関西支社車両課の大橋代理に会わせた。そして、同課長代理も、転勤をかなえさせることで、ストライキ前にJR東海労を脱退するよう慫慂した。そして同年三月一二日午前七時四五分ころ、大三両助役室において、川端計画科長は、田中科長立会いのもとに、その場に郷憲昭を呼び、JR東海労脱退届用紙とJR東海ユニオン加入届用紙を交付し、その場でこれに署名捺印させた。

(6) 平成五年の春闘

疎明資料(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が疎明される。

JR東海労は、平成五年三月一七日から、賃金引上げ、安全確立、不当処分の撤回、不当労働行為の中止などを求めて連続波状ストを構えた春闘に取り組み、これを実現した。大三両分会は、この春闘において、三〇〇系台車検査訓練を巡って四名の組合員に対してなされた処分の撤回を求めることを課題とし、右処分に抗議する為、三月一七日に、右処分の無効確認訴訟を大阪地方裁判所に提訴するとともに、翌三月一八日は始業時(八時三五分)から終業時(一八時三五分)までの全一日のスト拠点に指定することを中央闘争委員会に求め、指定を受け、ストライキをも手段として処分撤回を求めることにしていた。また、スト直前に郷組合員に対する大橋代理らによる脱退工作が発覚するなどしていたため、不当労働行為の即時中止を求めることも課題とした。

平成五年三月一七日、右四名の処分の無効確認訴訟を大阪地方裁判所に提訴した後の、夕方から行われたスト決起集会の際、翌三月一八日のスト決起集会開始前に大三両に赴き、所長に対して訴状を渡して右処分の非を説き、また、不当労働行為の即時中止を求める取組を行なうことが決定され、その指示を受けた中暗、債権者京力、債権者石川らの大三両分会の役員らは、三月一八日に右取組を行った。

(二) 争点2(一)(懲戒権の濫用)について

債務者の就業規則第一四一条第一項には、懲戒処分として(1)懲戒解雇、(2)諭旨解雇、(3)出勤停止、(4)減給及び(5)戒告の五種類が規定されているところ、右就業規則は、懲戒権者が懲戒処分の対象者に具体的にどの処分を選択すべきかに関して、その基準を定めていないから、懲戒権者の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。もっとも、懲戒解雇処分は、他の処分と異なり、従業員の地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、懲戒権者の裁量権の範囲も無制限でなく、懲戒事由に該当する行為の動機、態様、結果、当該従業員のその前後における態度、懲戒処分歴、社会的環境、選択する処分が従業員及び社会に与える影響等の諸般の事情に照らし、懲戒解雇処分が当該行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くと考えられる場合には、右懲戒処分は裁量の範囲を超え違法となると解される。

本件は、JR東海労結成以来の債務者と組合との間の緊張、対立関係の中、懲戒戒告等の処分や脱退慫慂に対する抗議を含めた会社に対する要求行動の一環としてされたものということができ、単なる暴行、騒擾行為と同視することはできず、この点についての考慮をすべきであるが、暴力行為等を伴う行動が正当な組合活動といえないことに照らすと、債権者らを含めた組合員らの行動は、明らかに正当な活動の範囲を超えた違法なものというほかなく、その態様も、いわば、多数をもって鳥飼車両基地内に乱入し、管理者らを次々に吊し上げ、暴行及び暴言を加えたと評価しうるものであって、悪質であり違法性の程度が強いといえる。その結果、前記のとおり、管理者らに軽微とはいえ傷害の結果が生じ、また、器物損壊の被害が発生したものであり、著しく債務者の職場規律を乱し、企業秩序を混乱させたことは明か(ママ)である。これにつき、債権者ら自らが行った行為につき相応の責任を負わな(ママ)ばならない。そして、本件のように、労使の対立・緊張関係のあるなか、会社管理者等から立入を禁止されている構内に多数の組合員が立ち入り前記抗議行動を行えば、混乱・軋轢・騒擾・暴行等の発生することが当然に予想されるのであるから、組合三役の地位にある幹部としては、組合員の行動を注視し、組合員の違法行為を制止すべき義務があるというべきところ、債権者らは、基地への立入から退去までの間、終始現場に居て同所で発生した前記状況を認識しつつ組合員多数と共に行動し、この間、何らの制止行為をもしないばかりかむしろ積極的に行動していたということができ、現場において右組合員全体の行動を指導・統率していたといえる組合三役の地位にある幹部として、他の組合員のした施設管理権の侵害、暴行、暴言についても相応の責任を負うべきである。

したがって、債権者らは、前記のとおり、自ら看過し得ない施設管理権侵害、暴行、暴言等の違法行為を行ったほか、組合三役という幹部としてなすべき責務を果たさず、前記組合員全体の行動を指導・統率し、前記重大な企業秩序侵害の結果を生じさせたのであるから、それに応じた懲戒処分を受けざるを得ず、本件解雇処分が自らなした行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くとはいえず、懲戒権の濫用があったとはいえない。

とりわけ、書記長であり、かつ、別府助役、大橋代理、三浦所長に対する各組合員に率先した発言及び最後の集約集会の呼びかけの発言等から中﨑分会長を補佐して大三両分会をとりまとめる役割果(ママ)たしていたといいうる債権者京力の組合指導者としての責任は重大であり、前記重大な企業秩序侵害の結果に応じた懲戒処分を受けざるを得ないというべきである。

なお、中﨑は分会長として、萩原は本部から派遣された責任者として、債権者らと同様の組合幹部として責任を負うべきところ、いずれも、同人らそれぞれがした行為の内容・程度を債権者らがした行為の内容・程度と比較・考慮すると、債権者らに対する処分が同人らに対する処分と均衡を失しているとまでいえない。

(三) 争点2(二)(不当労働行為)について

本件における債権者らを含む組合員の行為は、前記のとおり、正当な活動の範囲を超えた違法なもので、その態様も、多数をもって鳥飼車両基地内に乱入し、管理者らを次々に吊し上げ、暴行及び暴言を加えたと評価しうる違法性の程度が強いものといえ、著しく債務者の職場規律を乱し、企業秩序を混乱させたものであって、本件解雇処分に就業規則上違法の点はなく、JR東海労結成以来の債務者と組合との間の緊張、対立関係、本件直前の郷に対する脱退慫慂等の事情を考慮しても、本件解雇処分がことさらJR東海労や大三両分会を嫌悪してなされたとか、ことさら債権者らを嫌悪しこれを排除するためになされたとかいうことはできないし、他に本件解雇処分を不当労働行為であると認めるべき事情も疎明がない。

2  争点2(三)(適正手続)について

債権者らは、本件解雇処分に当たっては、債権者ら本人に対して何らの弁明の機会も与えられていないから、本件解雇処分は懲戒権の濫用に当たり無効である旨主張する。

しかし、本件においては、基本協約(<証拠略>)及び債務者の就業規則(<証拠略>)においては、債務者が懲戒等を行うに際して、当該労働者に弁明の機会を与えなければならない旨を定めた規定はない。

そして、現行法上、懲戒解雇処分につき弁明の機会を与えられない場合に、当該処分が無効であると解することはできない。

三  まとめ

結局、債権者らの本件仮処分命令申立ては、いずれも、被保全権利の疎明がないことに帰し、理由がないので、これらを却下することとする。

(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 田中義則 裁判官 島田睦史)

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