大判例

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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)12031号 判決

原告

大西勲次

ほか一名

被告

東恵一郎

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告らに対し、各一一四〇万六七七五円及びこれに対する平成四年一〇月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して原告らに対し、各三〇〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、ごみ収集車が右折発進しようとしたところ、後方から来た自動二輪車が急制動の措置を講じて転倒し、対向車線を走行していたバスと衝突し、自動二輪車の運転者が死亡した事故に関し、その遺族らが民法七〇九条、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年一〇月二一日午後一時三五分ころ

(二) 場所 大阪府池田市本部町九二番地先路上(以下「本件事故現場」ないし「本件道路」という。)

(三) 被害車 訴外亡大西啓優(以下「啓優」という。)が運転していた自動二輪車(大阪く三三五九、以下「原告車」という。)

(四) 事故車 被告東恵一郎(以下「被告東」という。)が運転していたごみ収集車である普通貨物自動車(大阪八八す七七七〇、以下「被告車」という。)

(五) 事故態様 被告車が右折発進しようとしたところ、後方から来た原告車が、急制動の措置を講じたところ転倒し、対向車線を走行していたバスと衝突し、啓優が死亡したもの

2  被告池田市の責任原因

被告東は、被告池田市に勤務し、本件事故当時、同市が所有する被告車によりごみ収集業務に従事中、本件事故を生じさせたものである。

3  相続

原告大西勲次(以下「原告勲次」という。)は父として、同大西ミチ子は母として、それぞれ啓優の本件事故による損害賠償請求権を相続により承継取得した(甲第一三号証)。

二  争点

1  免責ないし過失相殺

(被告らの主張)

被告車は、塵介の収集という市民生活に必要不可欠な業務に従事しており、外観上も黄色回転灯やハザードランプ、作業中の表示、パツカー車としての特徴のある後部から、被害者は被告車が塵介収集中であることは容易に認識できた。本件は、被告東がハンドルを右に切りつつ発進しようとして、発進するかしないかの時、右サイドミラーで後方から原告車が接近するのが見えたのでブレーキをかけて停車したのであり、移動距離はなかつたに等しく、仮にあつたとしても、停車地点は発進前から四〇センチメートル中央に出ていたに過ぎない。そして被告車の右側には少なくとも四・一メートルの通過余地があつたのであり、原告車は進路を妨害されたのではない。

仮に原告車の速度が制限速度内の時速四〇キロメートルであれば、衝突するまで四秒以上を要するから停止するまで十分な時間的余裕があり、仮に時速六〇キロメートルであつても二・七秒の余裕があつたのであり、この程度の速度であれば、原告車が対処することは十分可能であつた(原告車は、時速八〇キロメートル程度の速度を出していた可能性がある。)。一般道路の優先関係からすると後続車に減速させるような運転は望ましくないとはいえ、市街地でこまめに停車して塵介を収集する被告車としては、不適切な運転とはいえない。本件では、被告東は、原告車を認めて発進を中止し、右側には約四メートルの空間を残していたのであり、啓優が転倒した事情は不明であるが、仮に被告車の動静を見て驚愕したものであつても、それは錯覚に基づくものであり、未熟な運転による一方的過失による事故であり、被告東に過失はない。また、本件事故当時、被告車には機能上の欠陥も故障もなかつた。

(原告らの主張)

被告東は、後方から進行して来る啓優の自動二輪車に気付かず、かつ、予め合図も出さずに被告車を発進させて進路変更をしたのであるから、被告車の運転上、注意義務を怠つた過失があることは明らかである。

2  その他損害額全般(原告の主張額の概要は、別紙損害算定一覧表のとおり)

第三争点に対する判断

一  免責ないし過失相殺

1  前記争いのない事実に加え、甲第一ないし第三、第一四号証、証人山脇康夫の証言、被告東本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にある南北に通じる片側一ないし二車線の道路(幅員合計約九・七ないし一〇・四メートルの道路、以下「本件道路」という。)上にある。同道路の制限速度は時速四〇キロメートルに規制され、路面は平坦であり、アスフアルトで舗装され、本件事故当時乾燥していた。本件事故から約三〇分後に実施された実況見分時の交通量は、五分間で車両が二一三台であつた。

被告東は、昭和四七年に大阪市役所に採用され、以後、ごみ収集車(パツカー車といわれ、後部にごみを入れ、圧力をかけて押込みつつ、収集する車両)を運転する等の職務に従事していた。同被告は、被告車を運転し、各家庭の前においてあるゴミを収集するため、他の二名の作業員と共に本件道路を南進していた。同被告は、ごみの収集のため、別紙図面<1>の地点にいつたん停止し、同車の後部両側のハザードランプをつけたまま、停止し続けていたが(作業中であることを知らせる回転灯も作動させていた。)、同地点での収集が終了したことから、前方の駐車車両の右横に移動すべく、他の作業員の「オーライ」との掛け声を聞いた後、バツクミラーで右後方を確認したところ、後続車両の姿が見えなかつたので、右折の合図は出さないまま、ハンドルを右に切りつつアクセルを踏み、再度バツクミラーを見たところ、後方約三〇~四十数メートルから自動二輪車が走行して来るのが見えたので制動の措置を講じ、当初の停止位置から約四〇センチメートル移動した地点で被告車を停止させた(その際、同車の右前角から中央線までは約四メートル程度の余地があつた。)。

啓優は、本件事故前、原告車を運転し、本件道路を南進中、別図図面<ア>で、同図面甲、の自動二輪車(以下<甲>の自動二輪車を「先行二輪車」、の自動二輪車を「後行二輪車」という。)に前後に挟まれる形で信号待ちをしていたが、対面信号が青色に変わつたので、先行二輪車に続き、発進した。後行二輪車を運転していた山脇康夫は、時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で進行したが、原告車及び先行二輪車はその倍程度の速度で走行し、山脇の表現によれば、原告車及び先行二輪車の走行態様は、あたかもレース場のような状況であつたとされている(なお、啓優は、将来レーサーになる希望をもつており、普段からサーキツト場へ行くなどしていた。)。

先行二輪車は、被告車が右折発進したことに気付き、速度を落とさずに車線を右に変更し、同車をかわしてそのまま走り去つたが、原告車は、高速走行下において極めて急激に制動の措置を講じたため、ふらついた後、転倒して、滑走しつつ、対向車線に進入し、対向車線を走行していたバスと衝突し、啓優は死亡した。

2(一)  右認定事実をもとに、検討すると、被告東には、右折発進するに当たり、別紙図面のとおり、本件道路は本件事故現場付近から一車線から二車線となつており、同現場より北方を走行する後続車両にとつては、被告車の右側には走行し得る区間がないと誤信しやすい状況にあつたところ、後方から走行して来る車両有無、動静の確認が不十分であつた上、ハザードランプをつけたまま、右折の合図をしないで発信した過失がある。したがつて、同被告は、民法七〇九条に基づき、また(同被告が被告池田市に勤務し、本件事故当時、同市が所有する被告車によりごみ収集業務に従事中、本件事故を生じさせたことは当事者間に争いがないから)、被告池田市は自倍法三条に基づき、連帯して本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

他方、啓優には、法定速度を大幅に超過して進行し、かつ、被告車は発進後約四〇センチメートル移動したのみで停止し、右側には幅約四メートルの走行し得る区間があつたにもかかわらず、高速走行下で不適切な急制動の措置をとつたため転倒し、対向車線に進入した過失がある。

(二)  両者の過失割合を対比すると、被告東の過失は、右折の合図をしないで右折発進していること、後続車両の有無、動静に対する確認が不十分であること、本件事故現場付近が一車線から二車線へと変わる直前の箇所であり、同現場より北方を走行する後続車両にとつては、被告車の右側には走行し得る区間がないと誤信しやすい状況にあつたことから、必ずしも軽いとは言い難い。しかし、啓優の前記法定速度の超過は、目撃者をしてあたかもレース場のような状況であつたと言わせる程のものであつたこと、本件は、被告車との衝突事故ではなく、同車との関係では非接触事故であること、被告車は発進後約四〇センチメートル移動したのみで停止し、右側には相当の走行し得る区間があつたこと、本件事故の主たる原因は、原告車がもともと転倒しやすい二輪車であるところ、高速走行下において極めて急激に制動の措置を講じたため、ふらついた後、転倒したこと(その結果、同車は、滑走しつつ、対向車線に進入し、対向車線を走行していたバスと衝突した。)にあることを考慮すると、本件事故の発生に関する過失割合は、啓優の過失の方が(被告東と比較し)より大きいといわざるを得ない。

以上から、本件事故の発生に関し、啓優には(速度が確定できない点を考慮し、多少控え目にみても)六割の過失があると認めるのが相当であり、過失相殺により、後記本件事故により発生した損害から同割合を減額すべきである。

二  損害

1  啓優に生じた損害及び相続

(一) 逸失利益(主張額六一九八万九三四〇円)

甲第一一の1、2、第一三号証によれば、啓優は、昭和四八年三月八日に生まれ、死亡当時、一九歳であり、高校卒業後、自動二輪車のレーサーになることを夢見つつ、ダイエー川西店及び株式会社ハピネスに勤務し(訴状には大学生とあるが、弁論の全趣旨によれば、誤記と解される。)、本件事故前の平成四年一〇月までの間、二〇三万五一六四円の年収を得ていた(ただし、就労開始時期、賞与等は不明であり、年収に換算すると二百数十万円の額になるものと推認される。)ことが認められるところ、本件事故の年である平成四年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧中新高卒・男子労働者の一八歳から一九歳までの平均賃金が二三四万五三〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著であることを考慮すると、啓優の年収は右平均賃金の額を下まわらないものと解するのが相当である。

弁論の全趣旨によれば、啓優は満六七歳まで就労が可能であり、生活費控除は五割とみるのが相当であるから、ホフマン方式を採用して中間利息を控除(四八年の係数)し、啓優の本件事故当時の逸失利益の現価を算定すると、次の算式のとおり、二八二九万一七〇五円となる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

2345300×(1-0.5)×24.1263=28291705

なお、原告らは、基礎収入に関し、右で採用した初任給固定方式ではなく、全年齢平均ないし稼働当初から一〇年間の平均収入等を採用すべきであると主張する。

しかし、逸失利益の算定は、中間利息控除についての方式との相関関係で具体的多寡が決まるものであるところ、原告らは啓優の親であり、本件事故がなければ啓優が死亡する以前に死亡するのが通例であつて、啓優の生存期間中、原告らがその稼働利得を享受し、かつ、享受し続けることは現実には考え難い。してみると、啓優の逸失利益の全てを原告らが相続(いわゆる逆相続)するというのは、いわば一つの法的擬制に他ならず、実質上の矛盾をはらむ側面を否定できないものがある。

そして、中間利息に関し、いわゆるライプニツツ方式ではなく、ホフマン方式を採用し、単利での控除を行つている当裁判所としては、基礎収入に関し全年齢平均等をとるのは、その結果があまりに高額となり、右逆相続による矛盾が結果として増大することになること、当裁判所のように初任給固定方式をとり、かつ、ホフマン方式をとつた場合、ライプニツツ方式との組合わせと比較し、中年層についての認定額が手厚くなり、真に将来の生活が苦境に立たされている同層の遺族保護に利する面があることなどを考慮すると、右逸失利益算定方式には合理性があるものといわざるを得ず、前記原告らの主張は採用できない(もつとも、この点は、次の慰謝料の算定において相応の斟酌をすることとする。)。

(二) 死亡慰謝料(主張額二二〇〇万円)

本件事故の態様、啓優の受傷内容と死亡に至る経過、職業、年齢、原告らの苦痛及び家庭環境等(前記(一)での斟酌事情を含む)、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二二〇〇万円が相当と認められる。

(三) 治療費(主張額五四万二一七〇円)

甲第九号証の1ないし7によれば、本件事故による治療費として五四万二一七〇円を負担したことが認められる。

(四) 小計、過失相殺及び相続

以上の損害を合計すると、五〇八三万三八七五円となる。前記認定のとおり、過失相殺により六割を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、二〇三三万三五五〇円となる。前記認定のとおり、原告勲次は父として、同ミチ子は母として、それぞれの損害賠償請求権を相続により二分の一ずつ承継取得したものと認められるから、相続による取得分は、各原告とも各一〇一六万六七七五円となる。

2  葬儀関係費用(主張額一五〇万)

弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては、一二〇万円が相当と認められ、かつ、同費用は、原告らが相続分に応じて負担(各原告につき各六〇万円)したものと認めるのが相当である。前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故で生じた損害から六割を減額するのが相当であるから同減額を行うと残額は各原告につき各二四万円となる。

なお、原告らは、葬儀費用として一二〇万円の他、様々な諸経費、さらに墓石建立費等の損害が生じたと主張するが、葬儀費用等の中には本来の費用以外の接待飲食費が多分に含まれているものと考えられること、香典収入があることも斟酌すべきであること、墓石建立費の中に啓優以外の他の死者の供養にも役立ち得る費用が含まれている可能性があることなどを合せ考慮すると、本来の葬儀費用と墓石建立費とを含め、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては一二〇万円と認めるのが相当であり、右主張は採用できない。

三  弁護士費用(主張額六〇〇万円)及び損害合計

1  以上一、二の損害を合計すると各原告の損害は各一〇四〇万六七七五円となる。

2  本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、各原告につき各一〇〇万円が相当と認める。

前記損害合計に右弁護士費用を加えると、損害合計は各原告とも各一一四〇万六七七五円となる。

四  まとめ

以上の次第で、本訴請求は、被告らが連帯して、各原告につき各一一四〇万六七七五円及びこれらに対する本件事故の日である平成四年一〇月二一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

損害算定一覧表交通事故現場の概況 現場見取図

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