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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1901号 判決 1994年3月28日

主文

一  被告は、原告有住メリヤス株式会社に対し、金二二二三万五四六〇円及び内金二〇七三万五四六〇円に対する平成五年三月一三日から、内金一五〇万円に対する本判決確定の日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告有住和夫に対し、金二五〇三万九六六六円及び内金二三〇三万九六六六円に対する平成五年三月一三日から、内金二〇〇万円に対する本判決確定の日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告有住和夫のその余の請求は棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告有住和夫の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一項同旨。

二  被告は、原告有住和夫に対し、金三〇七七万二一〇〇円及び内金二八七七万二一〇〇円に対する本訴状送達の翌日である平成五年三月一三日から、内金二〇〇万円に対する本判決確定の日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告らが、被告に対し、被告の被相続人の原告らに対する不動産仮差押及びその本案請求訴訟が債権のない違法なものであり、これらにより損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、その父露口稔が平成四年八月四日死亡したことにより、その妻ツヤ子及び長男建一とともに推定相続人であったが、右妻及び長男が債務超過を理由に相続放棄申述をしたため、右露口稔の唯一の相続人となった。

2  露口稔は、和歌山市北島字新畑四九九番二所在宅地五七四・二八平方メートル(以下本件土地という)について、原告有住メリヤス株式会社(以下有住メリヤスという)に対し、譲渡担保に供していたところ、これを有住メリヤスが弁済期前に露口稔に無断で他に売却処分したことにより露口稔が被った損害額金二億二五四一万円につき、有住メリヤスにおいては債務不履行による損害賠償責任を、また有住和夫においては同会社の代表取締役として右無断売却処分に関与したことに基づく不法行為による損害賠償責任を各負担すると主張し(以下露口稔主張の損害賠償債権という)、大阪地方裁判所岸和田支部に次の(1)及び(2)の内容の不動産仮差押命令を申請し(平成二年(ヨ)第八号、以下前仮差押という)、その旨の決定を得てその執行をし、大阪地方裁判所岸和田支部に次の(3)及び(4)の内容の損害賠償請求本案訴訟提起(平成二年(ワ)第二〇三号、以下前本案請求という)及び遂行をした。

(1) 債務者を有住メリヤスとする前仮差押

被保全権利  露口稔主張の損害賠償債権(債務不履行に基づくもの)金二億二五四一万円のうち金一億一二七〇万五〇〇〇円

仮差押不動産 大阪府泉南市岡田一九〇八番所在原野六七四平方メートル

(2) 債務者を有住和夫とする前仮差押

被保全権利  露口稔主張の損害賠償債権(不法行為に基づもの)金二億二五四一万円のうち金一億一二七〇万五〇〇〇円

仮差押不動産 大阪府和泉市伏屋町九二番一五所在山林一九八四平方メートルほか三筆

(3) 有住メリヤスに対する前本案請求

露口稔主張の損害賠償債権(債務不履行に基づくもの)金二億二五四一万円の請求

(4) 有住和夫に対する前本案請求

露口稔主張の損害賠償債権(不法行為に基づくもの)金二億二五四一万円の請求

3  有住和夫は、前差押の執行に対し、金一億一二七〇万五〇〇〇円の仮差押解放金を供託して、その執行解放を得た。

4  露口稔は、前本案請求において、平成三年七月五日、有住メリヤス及び有住和夫に対する仮執行宣言付勝訴判決を得て、右判決による仮執行として前仮差押解放金に対する債権差押及び転付命令を得たため、有住和夫は、右債権執行に対する執行抗告をし、右判決に対する控訴申立てをしたうえ、右債権執行につき金七〇〇〇万円の保証金を供託してこれを停止した。

5  有住メリヤス及び有住和夫は、露口稔に対する前仮差押異議控訴事件(大阪高等裁判所平成三年(ネ)第一五四七号)において、平成四年四月一七日、全面勝訴の判決を得て、右判決は確定した。

また、有住メリヤス及び有住和夫は、露口稔に対する前本案請求控訴及び附帯控訴事件(大阪高等裁判所平成三年(ネ)第一五四六号及び同第二六二七号、露口稔は請求金額を三億一三二三万円に拡張)において、平成四年六月一七日、全面勝訴の判決を得たところ、露口稔は、右判決に対し上告したが、平成五年四月六日上告棄却の判決があり、右判決は確定した。

6  露口稔は、有住メリヤスが本件土地を無断売却したとの主張に基づき、平成元年一〇月ころ、有住和夫が横領行為をしたとして、和泉警察署に告訴をした。

二  原告の主張

1  露口稔の右一2の主張は、全く事実に反するものであったため、有住メリヤスに対する債務不履行責任及び有住和夫に対する不法行為責任は発生する余地がなかったものであるのに、露口稔がこれを十分認識しながら、原告らに対し、前仮差押命令申請及び前本案請求訴訟提起、告訴等を行ったことはいずれも故意による不法行為を構成する。

2  原告有住メリヤスは、露口稔の右1の不法行為により次のとおり、合計二二二三万五四六〇円の損害を被った。

(1) 前仮差押異議訴訟の提起及び前本案請求訴訟の応訴における第一審担当の訴訟代理人(弁護士春田健治)への着手金 一〇〇万円

(2) 前本案請求訴訟第一審判決に対する控訴申立てによる貼用印紙代(訴額二億二五四一万円) 一七〇万三四〇〇円

(3) 前仮差押異議訴訟判決及び前本案請求訴訟判決に対する各控訴申立て手続並びに前本案請求訴訟判決による強制執行に対する執行抗告申立て及び執行停止手続における訴訟代理人(弁護士春田健治)への着手金 一〇〇万円

(4) 前仮差押異議訴訟判決及び前本案請求訴訟判決に対する各控訴申立等後における各控訴審での訴訟遂行担当の訴訟代理人(弁護士得津正凞)への着手金 一〇〇万円

(5) 前仮差押異議訴訟における報酬金 二〇〇万円

(6) 前本案請求訴訟における報酬金 一三〇〇万円

(7) 露口稔主張の損害賠償債権の請求額に対し、予備的に対抗・立証するため、不動産鑑定士に支払った費用 一〇三万二〇六〇円

(御塩不動産鑑定士に対し、五一万七〇六〇円、今西不動産鑑定事務所に対し、五一万五〇〇〇円)

(8) 右1の不法行為に基づく本件損害賠償請求訴訟の提起による訴訟代理人に対する報酬 一五〇万円

3  原告有住和夫は、露口稔の右1の不法行為により次のとおり、合計三〇五二万七四八四円の損害を被った。

(1) 告訴事件における弁護士費用 一〇万円

(2) 解放金借入金利息等 二五八七万三五二七円

原告有住和夫は、前仮差押不動産のうちの一筆について、売却処分する必要があったので、平成二年四月九日、仮差押解放金一億一二七〇万五〇〇〇円を供託したが、そのため、信用組合大阪弘容より一億一〇〇〇万円を借入れ、残余の二七〇万五〇〇〇円については自己資産を使用し、次の金利負担等の損害を被った。

<1> 平成二年四月一日より同五年二月一日までの期間中における右借入金利 二七九七万一六三四円

<2> 平成二年四月九日より同五年二月一日までの期間中における自己資金二七〇万五〇〇〇円についての年五分の割合による損害金 三八万一二九三円

<3> なお、原告有住和夫は、右期間中、仮差押解放金一億一二七〇万五〇〇〇円の供託利息二四七万九四〇〇円を得たので、右<1><2>の合計額からこれを控除する。

(3) 前本案請求訴訟一審判決による強制執行に対する執行停止のための、平成三年七月一六日から同五年六月八日までの支払保証委託料 七九万八五七三円

(4) 原告有住和夫が、前仮差押事件及び前本案請求訴訟事件によって被った精神的損害に対する慰謝料 二〇〇万円

(5) 右1の不法行為に基づく本件損害賠償請求訴訟の提起による訴訟代理人に対する報酬 二〇〇万円

三  被告の主張

1  露口稔の前仮差押及び前本案請求訴訟は、正当なものであったが、右手続において、有住和夫及び同人の妻有住幸子が虚偽の供述を行ったため、重大な事実誤認により露口稔敗訴の判決となったものであるから、不法行為にあたらない。

2  前仮差押異議訴訟は、前本案請求訴訟と同時進行し、前本案請求での結果を援用しただけであるから弁護士費用を要しない。

3  前本案請求訴訟においては、裁判所において鑑定しているのであるから、私的鑑定は不要であり因果関係がない。

4  執行解放金借入れのための利息は、仮差押から通常発生する損害といえない。

仮差押物件について特別に転売が予想される場合には、特別損害として認められるが、前仮差押物件の売却の予見は不可能だった。原告有住和夫は、執行解放金について借入れの必要性はなかった。

5  原告有住和夫の慰謝料請求は、因果関係がない。

四  争点

1  露口稔の前仮差押及び前本案請求訴訟は、正当なものであり、不法行為にあたらないか。

2  右が不法行為になる場合、損害額。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

被告は、露口稔の前仮差押及び前本案請求訴訟は正当なものである旨主張するが、本件全証拠によっても被告の右主張を認めることはできず、前仮差押及び前本案請求訴訟の結論を左右するに足りない。

当事者間に争いのない事実及び本件関係各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、前仮差押及び前本案請求訴訟の争点は、有住メリヤスが露口稔に無断で本件土地を他に売却処分したかという点にあるところ、前本案請求訴訟の控訴審判決は、有住メリヤスは右売却につき露口稔の承諾を得ていたほか、露口稔から本件土地の売却に異議なく同意する旨の同意書の交付を受けていたことを認定しており、右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると、露口稔は、露口稔主張の損害賠償債権がないことを知りながらあえて前仮差押申請及び前本案請求訴訟を提起していることが明らかであるから、露口稔の右各行為は原告らに対する不法行為を構成し、露口稔はこれによって原告らが被った損害を賠償すべき義務があったものというべきである。

二  争点2について

本件関係各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、右一で認定の不法行為に伴う損害額は次の認定額欄記載のとおりであることが認められる。

1  有住メリヤス関係

(1) 前仮差押異議訴訟の提起及び前本案請求訴訟の応訴における第一審担当の訴訟代理人(弁護士春田健治)への着手金

<1> 有住メリヤス主張損害額 一〇〇万円

<2> 認定額 一〇〇万円

(2) 前本案請求訴訟第一審判決に対する控訴申立てによる貼用印紙代(訴額二億二五四一万円)

<1> 有住メリヤス主張損害額 一七〇万三四〇〇円

<2> 認定額 一七〇万三四〇〇円

(3) 前仮差押異議訴訟判決及び前本案請求訴訟判決に対する各控訴申立て手続並びに前本案請求訴訟判決による強制執行に対する執行抗告申立て及び執行停止手続における訴訟代理人(弁護士春田健治)への着手金

<1> 有住メリヤス主張損害額 一〇〇万円

<2> 認定額 一〇〇万円

(4) 前仮差押異議訴訟判決及び前本案請求訴訟判決に対する各控訴申立等後における各控訴審での訴訟遂行担当の訴訟代理人(弁護士得津正凞)への着手金

<1> 有住メリヤス主張損害額 一〇〇万円

<2> 認定額 一〇〇万円

(5) 前仮差押異議訴訟における報酬金

<1> 有住メリヤス主張損害額 二〇〇万円

<2> 認定額 二〇〇万円

(理由)

前本案請求訴訟とは別に報酬を請求しても差し支えない。

(6) 前本案請求訴訟における報酬金

<1> 有住メリヤス主張損害額 一三〇〇万円

<2> 認定額 一三〇〇万円

(7) 露口稔主張の損害賠償債権の請求額に対し、予備的に対抗・立証するため、不動産鑑定士に支払った費用

<1> 有住メリヤス主張損害額 一〇三万二〇六〇円

<2> 認定額 一〇三万二〇六〇円

(理由)

前仮差押及び前本案請求の経過によれば、予備的に対抗・立証上必要なものと認められる。

(8) 本件損害賠償請求訴訟の提起による訴訟代理人に対する報酬

<1> 有住メリヤス主張損害額 一五〇万円

<2> 認定額 一五〇万円

2  有住和夫関係 合計認定額二五〇三万九六六六円

(1) 告訴事件における弁護士費用

<1> 有住和夫主張損害額 一〇万円

<2> 認定額 一〇万円

(2) 解放金借入金利息等

<1> 有住和夫主張損害額 二五八七万三五二七円

<2> 認定額 二〇二九万七五八六円

(理由)

有住和夫は、前仮差押の執行解放金のために、平成二年四月一日、信用組合大阪弘容から一億一〇〇〇万円の借入れを余儀無くされたものと認められる。

有住和夫は、信用組合大阪弘容よりの借入金一億一〇〇〇万円及び自己資金二七〇万五〇〇〇円につき、平成二年四月一日より同五年二月一日までの期間中における金利・損害金を計上しているが、甲二一号証の一によれば、平成四年六月五日には供託原因が消滅していることが明らかであり、同日から相当期間経過した平成四年六月九日以降の金利・損害金は因果関係がないものとするのが相当である。右によると、金利負担等は次のとおりとなる。

Ⅰ 平成二年四月一日より同四年六月八日までの期間中における信用組合大阪弘容への支払金利 二一四六万九五八三円

Ⅱ 平成二年四月九日より同四年六月八日までの期間中における自己資金二七〇万五〇〇〇円についての年五分の割合による損害金 二九万三一〇三円

Ⅲ 控除すべき供託利息(平成三年四月から同四年五月まで一三か月分) 一四六万五一〇〇円

(3) 前本案請求訴訟一審判決による強制執行に対する執行停止のための支払保証委託料

<1> 有住和夫主張損害額 七九万八五七三円

<2> 認定額 六四万二〇八〇円

(理由)

有住和夫は、平成三年七月一六日から同五年六月八日までの支払保証委託料を計上しているが、甲二一号証の四によれば、平成五年一月二〇日には右強制執行が取り消されていることが明らかであり、同日から相当期間経過した平成五年一月二四日以降の支払保証委託料は因果関係がないものとするのが相当である。

(4) 原告有住和夫が前仮差押事件及び前本案請求訴訟事件によって被った精神的損害に対する慰謝料

<1> 有住和夫主張損害額 二〇〇万円

<2> 認定額 二〇〇万円

(理由)

前仮差押及び前本案請求の経過によれば、必要なものと認められる。

(5) 本件損害賠償請求訴訟の提起による訴訟代理人に対する報酬

<1> 有住和夫主張損害額 二〇〇万円

<2> 認定額 二〇〇万円

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