大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3463号 判決 1993年12月07日
原告
高谷十志子
被告
橋本章
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して原告に対し、金四五万円及びこれに対する平成四年四月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二五分し、その一三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
被告らは連帯して原告に対し、金九二万三〇〇〇円及びこれに対する平成四年四月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、当時一一歳の橋本雅美(以下「雅美」という。)が交差点を自転車で走行中、同交差点を歩いていた原告と衝突した事故について、原告が負傷したとして、原告が雅美の両親である被告らに対し、民法七一四条に基づく損害賠償を請求したものである。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
日時 平成四年四月一三日午後五時五〇分ころ
場所 大阪市東淀川区淡路一丁目一三番五号先交差点
態様 雅美が本件交差点を自転車で走行中、同交差点を歩いていた原告と衝突した。
2 雅美の年齢等
雅美は、昭和五五年九月一三日生まれで、被告らは、雅美の親権者である。
二 争点
1 被告らの民法七一四条に基づく損害賠償責任の有無(原告は、原告が本件交差点を東から西へ歩行中、同交差点を南から北に走行してきた雅美の運転する自転車に衝突されたもので、雅美には安全運転義務違反、前方不注視の落ち度があるから、当時一一歳である雅美の親権者である被告らに損害賠償責任があると主張し、被告らは、右主張を争う。)
2 原告の損害の有無及び損害額(通院交通費、家事不能損害、慰謝料)
(原告は、本件事故により、全治一四八日間を要する右手首骨折の傷害を負つたとして、これに基づく各損害を主張する。これに対して、被告らは、原告が本件事故によつて負傷した事実はなく、原告が本件事故とは無関係のことで負傷し、これを利用して本訴請求をしていると主張する。)
3 過失相殺(予備的主張)
第三争点に対する判断
一 証拠(甲一ないし三、六の1、乙一、二の1ないし4、三の1、2、四の1、2、五の1ないし3、六の1、2、七の1ないし5、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。
1 本件事故状況
本件事故現場は、別紙図面記載のとおり、幅員三・五メートル程度の道路が交差するやや変形した交差点である。本件事故現場付近は、住宅街であり、本件交差点付近は、住宅の塀などで左右の見通しが悪くなつている。本件事故当時、原告は、東西の道路のやや北側寄りを歩いて西進し、本件交差点東詰付近に差しかかつた。本件事故当時、原告は、東西の道路(別紙図面記載の「坂本」と「狐島」の間の道路)を西進する予定であつたので、本件交差点東詰付近から進路をやや南西方向に変え、本件交差点の中央付近を歩いていたところで、南北の道路を本件交差点に向かつて走行してきた三台の自転車のうちの一台と衝突して路上に転倒し、原告と衝突した自転車も転倒した。他方、雅美は、友人二人とともに、それぞれ自転車に乗車して南北の道路を北進し、本件交差点を直進通過しようとした際、右方道路から歩いてきた原告と衝突した。
2 原告の受傷及び治療経過等
原告は、本件事故当日、看護助手として働いている聖徒病院で診察を受けたが、その際、右手関節部に疼痛、腫張があり、レントゲン検査の結果、右橈骨遠位端骨折と診断され、平成四年九月七日までの間、一五回にわたつて医師の診察及び治療を受けた。右治療期間中、初診日から四週間はギプス固定による治療をし、その後、温熱、運動療法等による治療が行われた結果、骨折は完治した。ところで、右治療期間中、原告は、反射性交感神経性骨異栄養症を併発し、右症状に伴う右手関節部のこわばりと右母指の浮腫があつた(なお、被告らは、原告が本件事故によつて負傷した事実はなく、原告が本件事故とは無関係のことで負傷し、これを利用して本訴請求をしていると主張するが、右に認定した本件事故状況とその後における原告の治療経過からすると、右主張は採用できない。)。
二 被告らの民法七一四条に基づく損害賠償責任の有無について
前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、本件事故現場は、住宅街にある幅員の狭い道路が交差した左右の見通しの悪い交差点であるから、雅美が自転車で本件交差点を通過する際には、歩行者の有無、動静に十分注意して進行すべきであつたにもかかわらず、右注意が不十分なままで本件交差点を通過しようとしたため、右方道路から本件交差点に向かつて歩行してきた原告と衝突したもので、本件事故発生について、雅美には、前方注視を十分に尽くさなかつた落ち度があつたというべきである。そして、本件事故当時、雅美が一一歳七カ月であつたことからすると、雅美の親権者である被告らは、民法七一二条、七一四条に基づき、原告に対して、本件事故による損害を賠償する責任があると解するのが相当である。
三 損害
1 通院交通費(請求一万八〇〇〇円)
聖徒病院は、原告の自宅から歩いて二〇分位のところにある(原告本人)。右事実に、前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過のほか、原告が右病院への通院に交通費を要したことを認めるに足りる証拠がないことをも併せ考慮すれば、通院交通費に関する原告の請求は理由がない。
2 家事不能損害(請求二〇万五〇〇〇円)
原告は、本件事故後、前記症状のため十分な仕事はできなかつたものの、勤務先には休まず出勤していた。しかし、原告は、家事ができなかつたため、一カ月間程度は、近所の人が差し入れてくれたものを食べるなどして生活していた(原告本人)。右事実によれば、原告は、一カ月間程度、家事ができなかつたものの、これによつて財産的損害を受けたとは解されない。そうすると、右事情を後記慰謝料の算定において斟酌するものの、家事不能損害に関する原告の請求は理由がない。
3 慰謝料 五〇万円(請求七〇万円)
前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過に、前記三2(家事不能損害)における原告の家事不能状況、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、五〇万円が相当である。
四 過失相殺
雅美には、前記二(被告らの民法七一四条に基づく損害賠償責任の有無について)で判示したとおりの落ち度があるが、他方、原告も、見通しの悪い本件交差点を歩いて通過する際には、交差道路から進行してくる自転車等に十分注意すべきであつたのに、右注意が不十分なままで本件交差点を通過しようとして雅美の自転車と衝突した点で落ち度があるといわなければならず、右の諸事情を考慮すれは、本件事故発生について、雅美には九〇パーセントの、原告には一〇パーセントのそれぞれ落ち度があると解される。そうすると、前記三3の損害五〇万円に右割合を考慮した過失相殺後の金額は、四五万円となる。
五 以上によれば、原告の被告らに対する請求は、四五万円とこれに対する本件事故発生の翌日である平成四年四月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 安原清蔵)
別紙図面
<省略>