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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6316号 判決 1998年3月19日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告らは、連帯して、原告らに対し、それぞれ別紙請求金額目録の請求金額欄記載の各金額及びこれに対する被告近畿日本鉄道株式会社については平成五年七月一八日から、同近鉄不動産株式会社については同月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告らが開発、販売した木津川台住宅地を購入した原告らが、被告らが、その後右住宅地の値下げ販売を行ったとして、主位的には、<1> 被告らの原告らへの販売行為は暴利行為にあたるとして、民法七〇三条に基づき、原告らの購入価格と適正価格との差額の一部の返還を、予備的には、<2>被告らの販売行為が詐欺にあたるとして、民法七〇九条に基づき、<3>被告らの販売行為に説明義務違反等の違法があるとして、民法四一五条に基づき、右差額相当額の一部につき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1 当事者

(一) 原告らは、いずれも、被告らから、被告らが開発、販売していた木津川台住宅地(以下「本件住宅地」という。)内の住宅地を購入した者である。

(二) 被告近畿日本鉄道株式会社(以下「被告近鉄」という。)は、鉄道事業等を目的とする株式会社であり、被告近鉄不動産株式会社(以下「被告近鉄不動産」という。)は、不動産売買、賃貸、仲介、土地造成等を目的とする株式会社である。

なお、被告らは、本件住宅地の販売業務を、近鉄不動産販売株式会社(以下「近鉄不動産販売」という。)に委託していた。

2 被告らは、京都府相楽郡木津町木津川台付近一帯一二五ヘクタールを開発し、近鉄不動産販売を介して順次分譲住宅ないし注文住宅として販売したが、その分譲地の一坪当たりの販売価格は、平均して概ね次のとおり推移した。

<1> 平成元年五月(第一期分譲住宅)

五七万五二七六円

<2> 同年一〇月(第二期分譲住宅)

七二万二八二〇円

<3> 平成二年四月(第三期分譲住宅)

一〇〇万三一六五円

<4> 同年五月(第四期注文住宅)

一一七万一一八三円

<5> 同年七月(第四期分譲住宅)

一二三万六八四六円

<6> 同年一一月(第五期注文住宅)

一二二万七四〇四円

<7> 平成三年四月ころ(第五期分譲住宅)

一二五万五二四二円

(右一坪当たりの価格については、一万円以下の範囲で争いがある。)

3 被告らは、平成四年一〇月から、第五期分譲住宅の値下げ販売を開始し、右値下げ後の一坪当たりの販売価格は、七二万七〇五六円となった。

(右価格を八〇万四四八三円とするほかは争いがない。)

4 本件住宅地においては、購入希望者が多数であることから、各期ごとに、各自希望する住宅について購入希望者から申込みを募り、その中から抽選を行った上、当選者が被告らとの売買契約締結の交渉権を取得する方法をとっていた。

5 原告らは、平成二年五月から平成三年六月にかけて、それぞれ被告らとの間で、別紙木津川台買主購入明細表及び同物件目録記載のとおり土地売買契約を締結した(以下、右土地全体をさす場合は、「本件各物件」と記載し、個々の土地をさす場合は、「本件物件(一)」の要領で記載する。)。

二  争点

1 被告らの本件各物件の販売行為が暴利行為といえるか。

2 被告らの本件各物件の販売行為が詐欺によるものといえるか。

3 被告らが本件各物件を販売するに際し、説明義務違反等の違法があったか否か。

4 暴利となる額(損害額)

三  争点に関する当事者の主張

1 争点1(暴利行為)について

【原告らの主張】

暴利行為といえるかどうかは、契約当事者の一方が、自己の給付に比べて、不当に大きな財産的利益を反対給付として受けているかどうか(客観的要件)及び弱者的地位にある他人の窮迫、軽率、無経験に乗じて契約したものであるかどうか(主観的要件)によって判断される。

そして、以下のように、本件における被告らの本件各物件の販売行為は、右の要件を充足するものである。

(一)  客観的要件

(1) 適正価格との比較等

<1> 被告らは、自ら造成した用地に住宅を建設して販売しているのであるから、その原価は一定のはずであるのに、同じ本件住宅地を平成元年五月(第一期分譲住宅)には一坪当たり平均約五七万五〇〇〇円で販売し、その後四度にわたる値上げによって、平成三年四月ころ(第五期分譲住宅)には一坪当たり平均約一二五万五〇〇〇円にまで値上げしながら、第五期分譲住宅が売れ残ると平成四年一〇月には、再び一坪当たり平均約七二万七〇〇〇円にまで値下げして販売するに至っている。

このように、被告らは、自ら開発し、原価が一定の同種同等の住宅地につき、極めて短期間に二・一八倍近い値上げをした後に、再び約二分の一にまで値下げして販売するという極めて異常な価額設定をしている。

<2> なお、本件住宅地の適正価格の評価については、不動産鑑定評価方式の一つである原価法により積算価格を算出するのが相当である。

そして、右によれば、本件住宅地の平成二年七月一日時点における積算価格は一平方メートル当たり一二万四七二七円(一坪当たり約四一万一五九九円)となり、これが本件住宅地の右時点における適正価格と考えられるが、右価格と原告らの購入価格との対比状況は、別紙計算表記載のとおりである。

右計算表のとおり、本件住宅地の適正価格と、原告らの購入価格との差額は、約三六〇〇万円から六六〇〇万円と、一般購入者が個人として負担するものとしては極めて高額で、倍率にしても二・三四倍から三・一三倍にも及ぶものなのであって、本件各物件の販売において、客観的な対価の不均衡が生じていたことは明らかである。

<2> 土地価格適正の要請

土地、とりわけ住宅地の取引は、株式などの投機商品と異なり、公共的な性格をも有するものであり、土地基本法も、「土地は、現在及び将来における国民のための限られた貴重な資源であること、国民の諸活動にとって不可欠の基礎であること、その利用が他の土地の利用と密接な関係を有するものであること、その価値が主として人口及び産業の動向、土地利用の動向、社会資本の整備状況その他の社会的経済的条件により変動するものであること等公共の利害に関する特性を有していることにかんがみ、土地については、公共の福祉を優先させるものとする。」(二条)とし、「適正な地価の形成を図るための土地対策を総合的に推進」することを法律の目的としてうたっている(一条)。

したがって、土地、とりわけ住宅地の価格の決定に当たっては、自由市場における契約自由に任せることなく、適正な価格を維持するため一定の規制がなされるべきであり、このことは、本件において暴利行為の成否を判断するについても十分考慮されるべきである。

(二)  主観的要件

暴利行為の主観的要件としては、<1>被告らの不動産価格の動向に関する情報量、<2>本件住宅地近辺における被告らの相場形成力、<3>被告らの地価動向に関する認識ないし予測、<4>本件住宅地を早晩値下げ販売することの認識ないし予測、<5>原告らの有していた不動産価格の動向に関する認識ないし情報量、被告らに対する信頼、原告らの住宅購入についての焦燥感などの原告ら側の主観的事情、<6>被告らが、本件住宅地の販売に際し原告らに対して行ったセールストークの内容、<7>被告らの販売方法の当否が考慮されるべきである。

(1) 被告らの不動産価格の動向に関する情報量

被告らは、関西有数の不動産の開発業者として、当該不動産の価格のみならず、その動向、将来の予測に関する専門的知識や情報を十分に有していた。

(2) 本件住宅地近辺における被告らの相場形成、価格支配の可能性

被告らは、被告近鉄の設営する近鉄京都線沿線の大規模な住宅地である本件住宅地だけでなく、その周辺地域となる近鉄奈良線沿線等でも、多くの住宅地を開発して販売しており、本件住宅地一帯の分譲地販売価格の相場形成に決定的な影響力を有していた。

このように、被告らが、近鉄線沿線の駅の設置等を含め、周辺一帯の住宅地開発をすべて取り仕切り、他の開発業者も被告らに追随して販売価格を設定している状態であるため、原告らのような住宅地購入希望者は、立地条件や販売価格を業者間で比較し、自ら選択する余地はほとんどなかった。

(3) 被告らの地価動向に関する認識ないし予測

土地の実勢価格は、大阪圏においては、平成二年の前半から下落を始め、平成三年前半には急激に下落していたのである。また、本件住宅地付近でも、平成二年前半には下落が始まり、被告らも、平成二年前半には、大阪圏及び本件住宅付近の土地の実勢価格の下落を確実に認識していた。

(4) 値下げ販売に関する認識

<1> 平成二年四月ころから、中古物件をはじめとして不動産価格が下落し始め、それとともに本件住宅地の購入申込者が減少し、多数の物件が売れ残り、また、販売価格の値下げを要求したり、一旦当選した物件の購入をキャンセルする顧客が増加する等の事態が生じ始めた。

したがって、被告らとしても、右のような状況から、右時期以降、不動産価格が下落傾向にあり、本件住宅地の販売価格も、近い将来値下げせざるを得ないことを十分認識していたというべきである。

現に、平成二年一一月に販売が開始された第五期注文住宅は、従前と異なり、国土利用計画法の事前確認を得た二ないし三か月後から、しかも右確認申請の価格より低い価格で販売されているのであり、右事実は、被告らが、遅くとも同年八月ころには、現状の高値のままの販売価格の維持が困難であると考えていたことを裏付けるものである。

<2> また、被告らは、本件住宅地と同様に山林を造成開発した奈良県生駒市所在の北大和住宅地(以下「北大和住宅地」という。)で、野村不動産や大林不動産らとともに分譲住宅の販売を行っていたところ、平成二年秋ころ、三井不動産が、右住宅地で売り出した物件を、被告らの販売価格より二〇パーセント以上値下げして販売したことから、被告らの右住宅地の売れ行きが顕著に不振となり、被告らは、平成二年一二月あるいは平成三年一月に、一戸当たり最高四五〇〇万円、平成三五〇〇万円もの値下げ販売(値下げ率約二五パーセント)を決定し、既に同一条件の物件を先行して購入した買主五名に対し、差額金を返還することとした(以下「北大和住宅地での値下げ販売」という。)。

このことは、被告らの従前の販売価格が、地価動向に比べて高すぎたことを示しており、したがって、被告らは、平成二年終わりころには、本件住宅地においても、値下げ販売せざるを得ない状況にあることを確定的に認識していたといえる。

(5) 原告らの主観的事情

原告らは、土地の原価も開発造成費用も全く知ることができず、被告ら作成のパンフレット等で情報を得る程度であった上、前記のとおり、他の開発業者は被告らに追随して販売価格を設定するため、原告らが住宅地を購入するに際し、立地条件や販売価格を業者間で比較し、自ら選択する余地はほとんどなかった。

原告らは、関西有数の大会社である被告ら自体にも、またその販売担当者らのセールストークにも、大いに信頼を寄せていたものであるし、原告らは、住宅購入の必要性に迫られており、持ち家を処分して本件住宅地の代金の支払を予定していた者もいたが、他方において、各地の分譲住宅における抽選の倍率は驚異的なもので、右に当選することは極めて困難な状況であり、これに伴い販売価格も高騰していたため、このままでは希望に沿った住宅を購入することは一生不可能ではないかという不安、焦燥感にかられていた。

(6) 違法なセールストーク

このように情報を持たず、買い焦る原告らに対し、被告ら販売担当者らは、本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性等につき一切説明することなく、むしろ、次のように、値上がりすることはあっても、値下がりすることはない。他にも購入希望者がいる、キャンセルされた物件は、当該物件だけで、他はすべて売却済みである等、誤った内容のセールストークを行って、原告らに本件物件(一)ないし(二三)の購入を決意させ、あるいは、値下げするようなことがあれば、差額を返還するとまで申し述べた。

<1> 原告甲野太郎ほか一名(原告番号1)について

原告甲野太郎(以下、個別の原告名については、原則として単に姓のみを記載する。)らは、平成二年五月一九日に、本件物件(一)を購入したが、購入に先立って、被告ら販売担当者から本件住宅地の値下げ販売の可能性等につき何らの説明も受けなかった。

<2> 原告乙山松夫ほか一名(原告番号2)について

被告ら販売担当者奥田智昭(以下「奥田」という。)は、平成二年四月二五日、当選した住宅の購入を逡巡していた原告乙山松夫に対し、「今回は本当に良かったですね。倍率が九五倍で、三期の中で二番目に高かったですよ。」等と申し述べ、同原告らに、本件物件(二)の購入を決意させた。

<3> 原告丙川竹夫ほか一名(原告番号3)について

奥田は、平成二年四月下旬ころ、販売価格の高騰により、当選した住宅の購入を逡巡していた原告丙川に対し、本件住宅地の値下げ販売の可能性等につき何らの説明もしないだけでなく、「四期になると三期より敷地面積は少なく場所も奥になるのに、坪単価は上がり、一億を超える物件になります。値上がりはしても絶対に値下がりはしませんから安心して下さい。それに白庭台と比較しても規模は大きく、早い時期に住環境が整って人口一万五〇〇〇人くらいの町になります。近鉄不動産として大変力を入れている住宅地です。他に順番を待っている方もおられますので、今買っておいた方が得ですよ。」と申し述べ、同原告らに本件物件(三)の購入を決意させた。

<4> 原告丙川梅夫ほか一名(原告番号4)について

原告丙川梅夫らは、平成二年五月二五日、本件物件(四)を購入したが、その際、本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性等について説明を受けなかった。

また、同原告が、後日、朝日新聞に掲載された、北大和住宅地での値下げ販売に関する記事(以下「北大和報道」という。)に接し、奥田に対し、本件住宅地の値下げ販売の予定について尋ねたところ、奥田は、「北大和は他の業者との関係であのような結果になったが、木津川台は近鉄一社で行っているので、差額返還以前に値下げすることはない。」等と説明した。

<5> 原告戊田春夫(原告番号5)について

原告戊田は、平成二年六月一七日、被告ら販売担当者西岡剛(以下「西岡」という。)から、本件物件(五)の紹介を受けた際、同人に対し、右物件が、従前の当選者がキャンセルした物件であることを理由に値引きを求めたところ、西岡は、「値下げはできない。いま買っても損はない。」等と申し述べ、同原告に本件物件(五)の購入を決意させた。

<6> 原告甲田夏夫ほか二名(原告番号6)について

西岡は、平成二年七月ころ、原告甲田に対し、値下げ販売の可能性等につき何らの説明もしないだけでなく「来年小学校が開校し、近くにスーパーもできるので生活環境も良くなり、また、バスの便も良くなる。」「将来はますます値上がりしますよ。他にも購入希望者がおりますので早く決断をして下さい。」等と申し述べ、同原告らに本件物件(六)の購入を決意させた。

<7> 原告乙野秋夫ほか一名(原告番号7)について

被告ら販売担当者太田は、平成二年七月九日、原告乙野に対し、「次回の売り出しは更に値上げします。また、それも抽選になると思いますから外れれば買えません。」等と申し述べ、同原告らに本件物件(七)の購入を決意させた。

<8> 原告丙山冬夫ほか一名(原告番号8)について

原告丙山らは、平成二年七月二九日、本件物件(八)を購入したが、その際、西岡から本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性等について一切説明を受けなかった。

<9> 原告丁川一郎ほか一名(原告番号9)について

原告丁川らは、平成二年七月二九日に本件物件(九)を購入したが、その際、被告ら販売担当者から、右物件は三年間転売できない旨の説明を受けたのみであり、本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性等について一切説明を受けなかった。

<10> 原告戊原二郎ほか一名(原告番号10)について

原告戊原は、平成二年八月ころ、被告ら販売担当者から、「五期、六期と分譲するごとに、最低金利分は値上がりしますよ。木津川台ニュータウンは近鉄不動産一社にて分譲していますから、他の不動産会社の影響を受けることがありません。資産価値はまだ上昇していく。損をするようなことは当社の不動産に関しては決してない。」との説明を受け、本件物件(一〇)の購入を決意した。

また、同原告は、北大和報道に接し、平成三年二月二二日に、被告ら販売担当者に対し、「北大和の物件と交換できないか。」「木津川台においても分譲価格が安くなるのではないか。」と質問したところ、右担当者は、「三年間の転売禁止、買戻の特約条項があるので、所有権の移転登記はできない。木津川台は北大和分譲地のような不動産会社数社による分譲と違い、近鉄不動産一社による分譲であるから値下げは致しません。販売価格に信用問題を生ずるような分譲を近鉄不動産は絶対しません。もし値下げをした場合には、北大和分譲地と同様差額は購入者に返還することになります。」と説明した。

<11> 原告甲川三郎(原告番号11)について

原告甲川は、平成二年八月二四日に本件物件(一一)を購入したが、右物件代金の決済前の平成三年二月ないし三月ころ、被告ら販売担当者米田浩(以下「米田」という。)に対し、「土地価格は下がっているのではないか。」と尋ねたところ、同人は、「他の近鉄分譲地は値下げをしても、登美ヶ丘と木津川台は値下げしない。」と回答した。

<12> 原告乙原四郎(原告番号12)について

被告ら販売担当者南及び米田は、原告乙原に対し、値下げ販売の可能性等につき何らの説明もせずに、「会社としては決して値引き販売はしないと思います。私たち下々の者が判断して言わせてもらえば、もし値引きするような会社の方針がその後あれば、先に高く買った人が大変気の毒です。どのような仕返しがあるか、わかりません。」「今買わないとマイホームは手に入りません。」等と申し述べ、同原告に本件物件(一二)の購入を決意させた。

また、北大和報道の後、原告乙原が米田に対し、木津川台は値下げしないのかと尋ねたところ、同人は、値下げ販売の予定はない旨回答した。

<13> 原告丙田五郎ほか一名(原告番号13)について

原告丙田は、第四期分譲まで連続三回にわたり抽選に外れていたが、平成二年九月一四日、同月一五日、奥田から本件物件(一三)の当選者、次点者が資金繰りの都合で購入を辞退したとして、右物件の購入につき意向を打診された。

その際、原告丙田が、奥田に対し、三期販売分を含め、もう少し安い物件を紹介して欲しい旨申し入れると、同人は「他の区画は、三期、四期とも注文住宅区画を含めてすべて売り切れた。」等と説明し、さらに原告丙田が、「最近土地価格が値下がりしているが、木津川台もいずれ値下げするのではないか。この物件の価格を下げて欲しい。」と申し入れたところ、奥田は、「木津川台は学研都市の中核でこれからどんどん開けていくし、近鉄の独占地域なので値上げはしても、値下げすることはあり得ない。次回売り出す五期も価格は少し上げるし、その割に土地や家屋の面積は少し狭くしている。本物件は値打ちがでてお得ですよ。」「今後値下げは絶対しない。むしろ今購入しないと何時買えるかわかりませんよ。」「近鉄一社で開発していて自分たちで値段が決められる。」等と申し述べ、同原告らに本件物件(一三)の購入を決意させた。

また、同原告が、平成三年二月一一日、従前の自宅の売却が難航したため、本件物件(一三)の売買契約のキャンセルを申し入れようとしたところ、奥田が同原告に対し、「木津川台は絶対大丈夫。五期も四期より値上げして売り出す。値下げの心配はご無用。今後絶対値下げはあり得ません。」と断定的に申し述べたため、同原告は、結局キャンセルを取り止め、右物件の売買の決済を実行した。

<14> 原告丁野六郎ほか一名(原告番号14)について

原告丁野は、第一期分譲から申込みを続けていたが、競争倍率が高く、いずれも抽選に外れていたところ、後日、被告ら販売担当者から、本件物件(一四)について、辞退者が出たため、購入資格が同原告に回ってきた旨の連絡があった。

同原告は、ようやく購入資格が回ってきたものの、既にその時点では、販売価格は第一期のそれに比べて約二倍となっており、総額も一億円を超えていたため、資金的にはかなり苦しかった。

このような状況のもと、被告ら販売担当者は、実際には、第四期注文の売り出し時期には、既に契約状況にかなり翳りが出ており、抽選に当たっても辞退する者が続出し、近い将来本件住宅地を値下げ販売せざるを得ない状況になっていたにもかかわらず、原告丁野に対し、「五期はまだ価格は値上げしますよ。」「今後はさらに発展し、値上がりもする。」等と誤った情報を与え続け、同原告らに本件物件(一四)の購入を決意させた。

<15> 原告戊山七郎(原告番号15)について

原告戊山は、平成二年八月末、被告ら販売担当者から、「申し込まれた物件の隣でキャンセルがあったのでいかがですか。」等と本件物件(一五)の購入を勧誘された。

原告戊山は、右物件よりも南側の分譲土地を希望しており、もし他にもキャンセル物件があれば、より多くの物件の中からできる限り条件に合った物件を選択しようと考えていたため、奥田に対し、「その他の物件はないか。」「南側の分譲土地に売れ残った物件はないか。」等と質問したところ、奥田は、実際には当時、他に多くの売れ残り物件が存在していたにもかかわらず、「案内の物件だけが残っていて他は全部売れた。」旨返答し、同原告らに本件物件(一五)の購入を決意させた。

<16> 原告甲山八郎ほか一名(原告番号16)について

奥田は、平成七年七月下旬ころ、原告甲山に対し、「木津川台住宅は将来性がある。」「木津川台の売出価格は今後も値上げされていく。」旨申し述べ、同原告らに本件物件(一六)の購入を決意させた。

また、奥田は、本件物件(一六)の決済日の前日である平成二年一二月一四日、同原告から本件住宅地の第五期以降の分譲住宅の販売価格について尋ねられた際、「四期分よりも今後少しずつ値上がりするか、又は住宅地の坪数が減るか、建物の内容の変化等により実質的には値上げされたのと同じことになる。今後も値下げして販売するようなことは絶対にない。」等と説明した。

<17> 原告乙川九郎(原告番号17)について

原告乙川は、平成二年一〇月二七日、被告ら販売担当者太田に対し、「次の売り出しのときに値下げして売るようなことはないでしょうね。」と尋ねたところ、同人は、右当時は、近い将来、本件住宅地の値下げ販売の可能性が十分にあったにもかかわらず、「そのようなことをすれば、先に高く買わされた人から文句がでますので、値下げはしません。」等と返答し、同原告に本件物件(一七)の購入を決意させた。

<18> 原告丙原十郎(原告番号18)について

原告丙原は、平成三年二月八日、本件物件(一八)を購入したが、その際、被告ら販売担当者から、本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性について一切説明を受けなかった。

むしろ、米田は、同年八月ころ、同原告からの値下げの予定についての質問に対し、「そういう話があるのは知っているが、近鉄としては値下げ販売は認めていない。特に木津川台は関係ない。」と申し述べた。

また、同年九月一三日ころ、同原告が「下がっていることは確からしい。近鉄はどうするつもりか。」と尋ねたところ、米田は、「会社としてはそれを公認する状況になっていない。公認したときは高く買った客が怒るのは当然。私が客なら私も怒る。この時は会社もほっておくわけにはいかない。それは当然のことでしょう。」等と申し述べ、さらに、同年一〇月二六日ころにも、右と同様の説明を行った。

<19> 原告丁田一夫ほか一名(原告番号19)について

原告丁田は、平成三年二月一一日、本件物件(一九)を購入したが、その際、被告ら販売担当者から本件住宅地の将来の値下げ販売の可能性等について一切説明を受けなかった。

<20> 原告戊野二夫ほか一名(原告番号20)について

原告戊野は、第一期から第四期までの抽選に外れた後、平成二年一一月、無抽選で第五期注文住宅地の購入資格を得た。しかし、同土地周辺には、他に家が建つ様子がなかったため、右原告は、被告ら販売担当者に、他の土地の紹介を求めた。

これに対し、被告ら販売担当者前田英洋(以下「前田」という。)は、実際には多数の物件が売れ残っていたにもかかわらず、同原告に対し、「第四期注文住宅で原告戊野が前に申し込んでいた場所がキャンセルになりそうだがどうか。」「右土地以外は全部売れている。」等と述べ、第四期注文住宅地内の一物件を薦め、後日さらに本件物件(二〇)を薦めた。

同原告は、右のような経過で、本件物件(二〇)を購入しようと考えていたが、平成三年二月二一日ころ、北大和報道を知り、同月二四ないし二五日ころ、前田に対し、本件住宅地でも値下げの予定がないか尋ねたところ、前田が、「木津川台は近鉄の単独事業だから、絶対に値下げはしない。仮に値下げするようなことがあれば差額は返還する。」と答えたため、同原告らは、本件物件(二〇)の購入を決意した。

<21> 原告甲原三夫ほか一名(原告番号21)について

原告甲原は、被告ら販売担当者から、本件住宅地は学研都市としての開発計画であり、環境や周辺設備等から資産価値の低下はないとの説明を受け、また、米田に対し、本件住宅地の価格について尋ねた際、同人が「値下げはしません。万一値下げする場合には、会社にもそれなりの考えはあるはずです。」と答えたため、同原告らは、本件物件(二一)の購入を決意した。

<22> 原告乙田四夫(原告番号22)について

原告乙田は、平成三年六月三〇日、本件物件(二二)を購入したが、その際、被告ら販売担当者西田才三は、同原告に対し、「買われても買われなくても、どちらでもよろしいよ。」と繰り返し申し述べて、同原告の買い焦りを誘い、さらには、当時既に被告らが実施していた北大和住宅地での値下げ販売にも言及しなかった。また、米田も、同原告に対し、「大幅な値下がりがあった場合は、それなりのことを会社は考えると思う。」と申し述べ、同原告に本件物件(二二)の購入を決意させた。

<23> 原告丙野五夫ほか二名(原告番号23)について

原告丙野は、第一期ない第四期のすべての抽選に外れた後、平成二年一〇月ころ、被告ら販売担当者から、本件物件(二三)の当選者、次点者が購入を辞退したため、右物件を購入しないかとの連絡を受けた。

この時、同原告は、地価が下がり始めているのではないか、木津川台での各期の値上げは急すぎるとの漠然とした思いから、被告ら販売担当者植西啓之(以下「植西」という。)に対し、本件物件(二三)の販売価格を二〇〇〇万円ほど下げるよう求めたが、同人は、「絶対値下げはできません。」「この次はもっと高く売り出す予定である。」等と申し述べた。

さらに、同原告は、平成三年二月二〇日、北大和報道を知り、植西に対し、既に支払済みの契約証拠金を放棄してでも契約をキャンセルすることも念頭において、再度値下げ販売の可能性について問い直したところ、同人が、「北大和の場合は、近鉄以外の他社も一緒に開発している地域なので、他社との兼ね合い上、仕方なしに下げるが、木津川台は、近鉄単独の開発地域だから絶対に値下げはしません。」と断言したため、同原告は、被告らが将来本件住宅地を値下げ販売することは絶対ないものと信頼し、売買契約を締結するなら今しかないと判断して、本件物件(二三)の購入を決意した。

(7) 販売方法の不当性

被告らは、ほぼ同時期に本件住宅地を開発・造成しており、一括して販売することも可能であったにもかかわらず、本件住宅地の販売に当たっては、数か月おきに約二〇戸ないし五〇戸に分割して売り出し、購入希望者が多いときは抽選で購入者を決定するなどしている。

しかし、このような販売方法は、申込時の抽選倍率を引き上げ、一般消費者をして本件住宅地は人気が高い、良好な土地であり、高額な代金を支払って購入しても決して損はないと誤信させ、もって意図的、計画的に販売価格を吊り上げるものである。

このような販売方法は、被告らの暴利行為の手段として極めて重要な役割を果たしており、右販売方法自体に高度な違法性が認められる。

以上のような、被告ら及び原告らの主観的事情、違法な販売方法等を総合すれば、本件のような適正価格の二・三四ないし三・一三倍に及ぶ販売価格での売買契約は、暴利行為に該当する。

【被告らの主張】

(一)  客観的要件について

(1) 本件住宅地の販売価格は、販売時における一般の実勢価格に準じ、かつ国土利用計画法による規制と指導に基づいて決定された適正なものであり、したがって、被告らの販売行為は、暴利行為の客観的要件を充たさない。

(2) なお、原告らは、本件住宅地の適正な販売価格は、原価法による積算価格により把握すべきであるとし、別紙計算表の「適正価格」欄記載の額が本件各物件の適正価格であるとする。

しかし、住宅地の販売価格は、自由経済、市場経済の中で当事者の合意によって形成されるものであって、その価格が適正であるかどうかは、実勢価格を基準とするべきである。販売価格の暴利性と取得原価との間には何ら関係がなく、原価に適正利潤を加算した価格が適正な販売価格であることを前提とする原告らの主張は失当である。

原告らのような適正価格の考え方は、<1>贈与によって完成宅地を取得したものは、市場価格の一〇分の一で販売しても暴利行為であるということになること、<2>原告らの主張する右適正利潤の内容、基準自体不明瞭であること、<3>本件住宅地の場合、用地取得から分譲開始に至るまでに長時間を要しており、莫大な借入金に対する金利負担が長期にわたって発生していることや、販売時期が異なれば、建築費も、土地建物管理費用、販売手続費用、広告費、固定資産税等も変動し原価は一定ではないことが考慮されていないことなどの問題があり、失当である。

さらに、原告らの主張が、原価とは直接費(用地取得資、造成工事費、各種協力金、負担金等)のみをさすもので、間接費(借入金の金利等)を含まないものとするのであれば、このような莫大な負担を考慮せずに算出された額は、土地の適正価格として意味をなさない。

(二)  主観的要件について

(1) 本件住宅地近辺における被告らの相場形成力について

被告らは、本件住宅地付近の住宅地を販売するにあたり、競合する他の業者の販売する住宅地の価格を参考として価格を決定しているのであって、被告らの販売価格が相場形成に決定的な影響力を有しているわけではない。

(2) 被告らの地価動向に関する認識ないし予測について

被告らは、平成二年前半には、大阪圏及び本件住宅地付近の実勢価格が確実に下落することを予測していなかったし、他の不動産業者も右のような予測をしていなかった。およそ、不動産業者間では、地価は上昇するもので、極端に下落することはないというのが、一般的な考え方であったのであり、その後の地価下落は、経済専門家さえも予測のできなかった特殊な事態である。

なお、地価の動向についての認識は、昭和六三年時に東京圏において急激な地価上昇が一段落した、平成元年時の地価の上昇下落の状況は地域によって異なり、その評価は一様ではなかったというものであったし、本件住宅地においても公示価格によれば、平成三年度中に地価の下落傾向が明らかになっていたわけではない。

(3) 値下げ販売の認識ないし予測について

被告らは、本件各物件販売当時に、本件住宅地の販売価格を近い将来値下げせざるを得ないことを認識していなかった。

また、北大和住宅地と本件住宅地とでは、地価上昇率が前者の方が高かったため、被告らが、北大和住宅地で販売価格を引き下げたとしても、これをもって被告らが、本件住宅地をも値下げ販売せざるを得なかったことを確定的に認識していたとはいえない。

(4) 原告らの主観的事情について

他の開発業者が被告らに追随して販売価格を設定していたとの事実及び原告らが、一生住宅を購入できないのではないかという不安、焦燥感にかられていたとの事実は否認し、その余の事実は知らない。

原告らの中には、他に住居を有する者もあるなど、本件各物件を購入するにつき特段窮迫していたわけでもないし、また被告らが、原告らの軽率、無経験等に乗じたものでもない。

本件のような大規模な住宅地の販売をする以上、販売価格については画一的な基準によるものとせざるを得ないのであり、価格操作をなし得ないことは、被告らにおいても同じである。少なくとも原告らが、例えばその持ち家を売却してまで、本件各物件を購入するかどうかは、原告らの自由なのであって、原告らに何らの選択の余地のない購入であったとはいえない。

(5) 被告らが原告らに対して行ったセールストークについて

<1> 被告ら販売担当者らの中に、原告らに対し、次期の販売価格はより高額となると説明したり、次期販売区画について値下げの予定はない、学研都市計画等により木津川台には将来性がある等と述べた者があること、原告らから北大和報道に関連して質問があった際、北大和住宅地は他社との関係もあって値下げ販売、差額返還ということになったが、本件住宅地は、そうはならないし、値下げ販売の予定はない、あるいは予定していない等と回答した者があることは否定しないが、右はいずれも真実であるから、違法なものではない。

少なくとも第四期の分譲を開始した平成二年夏ころまで、被告らにおいて何ら営業努力をしなくても、購入の申込みがあるという状態であったのであって、特段セールスポイントを強調する必要もなかった。

<2> 被告ら販売担当者らが、原告らに対し、他の物件は売却済みである等と説明したことはある。

しかし、被告らは、一旦申込みのあった物件については、契約締結前であろうとも、他の顧客に販売活動をすることはできないので、他の顧客から問い合わせがあれば、売却済みと説明することもあるのであり、後日申込者がキャンセルをして、売れ残り物件が生じたとしても、右販売担当者らが虚偽の説明をしたということにはならない。

<3> 被告ら販売担当者らが、値上がりしても値下がりすることは絶対にない等と述べたことはないし、<1><2>以外の原告ら主張のセールストークを行った事実もない。

(6) 被告らの販売方法の不当性について

本件住宅地全体の面積は約一二五ヘクタールにも及ぶのであるから、完成宅地への造成には相当の時間を要し、販売も各区画毎に行わざるを得ないし、特に地上建物については、物理的に各区画毎に建設せざるを得ない。

したがって、販売も当然建築完成順に各区画毎になるのであって、販売が数か月おきに約二〇戸ないし五〇戸の分割となることは不可避であるし、これは業界の商慣習として一般的である。

また、購入希望者が多いときに、抽選で購入者を決めることも公平で妥当なことである。

2 争点2(詐欺)について

【原告らの主張】

(一)  被告らは、原告らの購入した本件各物件が、その販売価格を大きく下回る価値しか有していないにもかかわらず、「将来、値下がりするようなことは絶対ありません。」、「もし値下がりするようなことがあれば、差額を返還します。」等と虚偽の事実を申し向け、原告らに、本件各物件が、購入代金に相当する価値のあるものと誤信させ、本件各物件の購入を決意させた。

(二)  被告らは、近い将来不動産が値下がりに転じ、当該物件も、値下げ販売することになることを知りながら、原告らに対し、1(二)(6)記載のとおり、本件住宅地を値下げ販売することはない、値下げしたら差額は返還する等の虚偽の事実を告げて、原告らにその旨誤信させ、本件各物件を購入させた。

【被告らの主張】

(一)  原告らの購入した本件各物件が、その販売価格を大きく下回る価値しかない事実及び被告らが虚偽の事実を申し向けた事実はいずれも否認する。

また、原告らの主張する欺罔内容と損害との間の因果関係も否認する。

(二)  被告らが、近い将来不動産が値下がりに転じ、当該物件も値下げ販売することになることを知りながら、原告らに本件各物件を販売した事実はないし、また、被告らが、原告らに対し、値下げ販売の予定があったのに絶対に値下げ販売することはないと告げたり、値下げしたら差額は返還する等と告げた事実もない。

3 争点3(説明義務違反)について

【原告らの主張】

(一)  被告らと原告らとの間には、不動産の売買契約及びその履行という両当事者が自覚的に設定した本来の給付をめぐる法律関係のみならず、相互に高度の信頼関係に立ち、一億ないし一億数千万円という不動産の売買契約を締結するにあたって、相手方の権利、利益を不当に侵害することのないよう注意すべき義務(保護義務)も存在しているといえる。

そして、右保護義務の一つとして、被告らは、原告らに対し、本件各物件の売買契約の締結を誘引し、若しくは売買契約を締結させるに際して、本件各物件を含む分譲予定住宅地の販売状況(売れ残りやキャンセルの状況)に関する情報を開示し、本件住宅地における値下げ販売の可能性を説明すべき義務及び販売状況や販売の可能性に関する質問に対して虚偽の説明をしたり、将来的に値下げ販売をしない等の断定的な情報を提供したりしてはならない義務を負っていたというべきである。

被告らの右説明義務等は、原告らと被告らの間の以下のような関係から基礎付けられるものである。

(1) 購入者にとって土地の価格動向が持つ意味

土地売買は、その金額が高額であることから、土地を住居目的で購入する者にとっても、購入しようとする土地の価格動向は、購入者の利益に係わる重要な事項であり、購入者が当該土地の購入を決定するにあたっての重要な要素になるといえる。

(2) 土地価格の専門性、特殊性とこれに関する知識、情報を被告らが独占していること

土地は個性的であり、土地の価格は地域的、社会的要因が複雑にからみあって形成されるものであるため、土地の価格については、不動産鑑定法に基づく鑑定という専門的な手法により決定されるということが広く行われている。

そして、被告らは、関西有数の不動産の開発業者としてあるいは宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)として、当該不動産の価格のみならず、その動向、将来の予測に関する専門的知識や情報を十分に有している。

これに対し、原告らは不動産価格の動向にも疎く、不動産取引の経験も少ない平均的市民に過ぎないのであって、被告らの専門家としての説明を信頼して取引をせざるを得ない立場にある。

(3) 原告らの土地購入時の土地価格の状況

原告らが本件各物件を購入した平成二年五月から平成三年六月までの時期は、昭和六一年ころから始まった、日本経済がこれまでに経験したことのない地価及び株価の異常な上昇(いわゆる「バブル経済」)が一転して頭打ち状態となり、さらに関東圏を中心として地価が下落傾向になるという、不動産の価格動向が極めて不安定な時期であった。

そして、遅くとも平成二年四月ころには、不動産業界においては、地価の異常な上昇は、投機、投資を要因とする不安定なものであり、かつ右投機、投資行為を抑制することにより地価が下落する可能性があることが認識されていた。

(4) 宅建業者としての説明義務

被告ら及び近鉄不動産販売は、監督官庁より認可を受けた宅建業者であり、売買の相手方に対し、信義誠実義務(宅地建物取引業法三一条)、重要事項説明義務(同法三五条一項、四七条一号)等の義務を負うものである。

特に、宅建業者として、重要な事項について、「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」(同法四七条一号)が禁止されているのは、購入者等の利益の保護を図る目的にでたものであることから、宅建業者の説明義務の範囲は、同法三五条一項に列挙された事項に限られず、購入者等の利益に関する重要な事項を広く含むものと解される。

このように、地価の動向が極めて不安定な状況の中にあっては、被告らとしては、原告らに対し、売買契約を締結する、若しくは決済するとの判断をするにあたっての重要な要素である、本件住宅地の販売状況(とりわけ物件の売れ残りやキャンセルの状況)、地価の動向、値下げ販売の可能性等を知らせる義務があったというべきである。

仮に、右のような説明義務が認められないとしても、少なくとも宅建業者である被告らは、原告らに対し、誤った情報、不正確な情報を提供したり、断定的判断を提供して、契約締結若しくは決済を勧めることは許されないというべきである。

(二)(1) しかるに、被告らは、原告らに対し、原告らとの間の本件各物件の売買契約締結若しくは決済に際し、実際には多数の売れ残り物件があり、またキャンセルが出ているにもかかわらず、右事実を告知することなく、1(二)(6)記載のとおり、ことさらに、「ここだけキャンセルが出ました。」「他の物件はすべて売却済みです」等と誤った情報を提供した。

(2) また、被告らは、地価下落、値下げ販売の可能性を認識しながら、原告らに対し、1(二)(6)記載のとおり、本件住宅地の将来における値下げ販売の可能性を一切説明することなく、むしろ木津川台での値下げは絶対にない等と断定的な説明を行った。特に、原告らが、北大和住宅地での値下げ販売に関して質問した際に、被告らは、「近鉄単独事業である木津川台では、北大和と同様の値下げはない。」「もし値下げがあれば、差額は返還する。」等と、北大和住宅地との事業形態の違いを具体的に説明し、本件住宅地については値下げ販売が全くあり得ないと説明しているのである。

(3) 以上のように、被告らの原告に対する本件各物件の販売行為は、説明義務に違反する違法なものである。

【被告らの主張】

被告らは、売買対象の性状、権利関係、法的規制等についての説明義務は負うが、原告らが主張するような、本件住宅地の地価動向、値下げ販売の可能性等について説明する法的義務を負うものではない。

また、仮に被告らが、右のような説明義務を負うとしても、説明義務違反といえるためには、少なくとも地価の暴落が客観的に明白であり、かつ右事実を被告らが知っていたことが必要であるところ、本件当時、地価の暴落が客観的に明白であったとは言えないし、被告らは、右事実を予測していなかった。

4 争点4(暴利額ないし損害額)について

【原告らの主張】

(一)  本件における暴利額は、別紙計算表の「適正価格と購入価格との差額(暴利額)」欄記載のとおりである。

また、原告らは、被告らの詐欺ないし説明義務違反等により、右同額の損害を被った。

(二)  そして、原告らは、右金額のうち、別紙請求金額目録の「請求金額」欄記載の各金額を請求するものである。

【被告らの主張】

(一)  被告らの販売行為が暴利行為になるなら、原告らとの間の各売買契約自体が無効となるはずであって、右契約のうちの一部のみが無効となることはないのであり、したがって、原告ら主張のように、購入価格と適正価格との差額の返還を求めることはできない。

(二)  また、被告らと原告らとの間の各売買契約を詐欺に基づいて取り消した場合にも、不動産の返還と代金の返還が問題となるのみであって、原告ら主張のように購入価格と適正価格との差額の返還を求めることはできないはずである。

第三 争点に対する判断

一  争点1(暴利行為)について

1 暴利行為は、当事者の一方が、他人の窮迫、軽率、無経験に乗じ、自己の給付に比して著しく均衡を失する過大な財産的給付を受けることで、右行為は、社会的相当性を著しく逸脱し、公序良俗に反するものとして無効であると解される。

2 そこで、まず、被告らの給付した本件各物件の価値とその販売価格との間に、右社会的相当性を著しく逸脱するといえるような対価的不均衡が生じていたかどうかにつき検討する。

(一)  原告らは、本件住宅地を開発造成したのは被告ら自身であるから、本件住宅地の原価は一定であるはずなのに、被告らにおいて、平成元年五月(第一期分譲住宅)には一坪当たり平成約五七万五〇〇〇円で販売しながら、平成三年四月ころ(第五期分譲住宅)には一坪当たり平均約一二五万五〇〇〇円という二倍以上の値上げを行い、平成四年一〇月には一転して一坪当たり平均約七二万七〇〇〇円という約二分の一の大幅な値下げ販売を行っているのであり、このような販売価格の推移自体が本件各物件の販売価格の対価的不均衡の存在を示すものであるとする。

(二)  確かに、原告ら主張のとおり本件住宅地の販売価格は短期間に大きな変動を示しているのであり、平成三年四月ころにおける一坪当たり約一二五万五〇〇〇円という価格中には被告らの利益が多く計上されていると見られても仕方のないところである。

しかしながら、本件住宅地のいわゆる原価が実際いくらであるのかは、結局のところ判然としないだけでなく、本件住宅地の用地取得からその販売に至るまでには相当期間が経過しており(《証拠略》によると、被告らは昭和四〇年一二月ころから用地の取得をしていたことがうかがえる。)、その間、被告らの巨額の借入金に対する金利負担の状況も変わってくると考えられること、販売時期の違いにより、用地上の建物建築費、管理費、販売手続費用等の諸経費の状況もまた変わってくることは容易に推測し得ることなどに照らすと、本件住宅地の原価が一定であることを前提として、被告らの給付と本件各物件の販売価格との対価的不均衡の発生を判断することが相当とは思われないし、そもそも、後記のとおり、住宅地のいわゆる適正価格が原価との関係で一律に算定されるものとも思われないのである。

(三)  また、原告らは、本件住宅地の適正価格は、用地取得費等に適正な利潤等を積算して算出すべきであるとした上、平成二年七月一日時点の右適正価格は、不動産鑑定士佐野幸人の鑑定(甲一六九)によれば一平方メートル当たり一二万四七二七円(一坪当たり約四一万一五九九円)であり、右価格と被告らの販売価格との間には、別紙計算表のとおり、約三六〇〇万円から六六〇〇万円と極めて高額な差異がある上、販売価格は右適正価格の二・三四倍から三・一三倍に達するとする。

(四)  右鑑定においては、積算価格の算定に当たり、一平方メートル当たりの素地価格を四万二〇六〇円、造成工事費を一万四〇〇〇円、付帯費用を一万一九一六円(内訳 公共施設等の負担金九一〇円、販売費及び一般管理費二二七九円、投下資本収益六七二七円、その他費用二〇〇〇円)、有効宅地化率を五四・五パーセントとしているが、右鑑定では、用地取得費及び造成費について、昭和五〇年ころの取引事例及び周辺地域の造成事例を参考にして算出しているのであり、右費用は、時期、地理、地形、規模等によって、著しく差異が生じ得るものであることを考えると、右を、本件住宅地の実際の用地取得費、造成費を示すものとすることが相当とは思われない。

また、右鑑定が原価の算出にあたり考慮している負担金(公共施設負担金等)の額の正確性についても疑問であるし、右鑑定において、用地取得費、造成費等の全投下資本に対する借入金利息、自己資本に対する報酬負担額、資本金に対する配当額を考慮して算出したとしている投下資本収益の額(各年度別投下資本額に年利一二パーセントを乗じた額)も、このように一般的に解することができるのか疑問というほかない。

(五)  そもそも、住宅地の売買の場合であっても、その販売価格は、自由経済、市場経済の中で、原則として当事者の合意によって形成されるもので、右価格につきどのような合意に達するかは、需要と供給の相互の関係や、契約時の経済事情等に大きく影響されるものなのであり、実際の販売価格が適正なものであるかどうかは、住宅地の原価のみから判断し得るものではないのである。特に、本件住宅地においては後記認定のとおり第一期分譲住宅販売時から第三期分譲住宅販売時までの抽選倍率は約五〇倍ないし一二〇倍であったという需要が過剰な状況にあったのであって、右事情を抜きにして本件住宅地の販売価格の当不当を論ずることは困難というほかない。

そして、本件各物件の販売当時、本件住宅地付近の京阪奈地区では、<1>株式会社興人が京都府綴喜郡田辺町において「花住坂」分譲地を造成販売していたが、その平成二年七月分譲の物件の販売価格が一坪当たり約一〇七万九〇〇〇円であったこと、<2>京阪電鉄が京都府宇治市において「東御蔵山」住宅地を造成販売していたが、その平成二年一二月分譲の物件の販売価格が一坪当たり約八七万八〇〇〇円であったこと、<3>さらに住宅・都市整備公団が販売していた木津町、精華町等にまたがる平城相楽ニュータウンの平成三年一月ころの販売価格は一平方メートル当たり約二五万円(一坪当たり約八二万五〇〇〇円)であったこと等がうかがえ、これら周辺の住宅地の販売価格等と比較して本件住宅地の価格のみが著しく高額であったというわけではないのである。

(六)  もっとも、住宅地は、購入者の生活を基盤をなすものである上、その供給量には物理的に限界があること、地価の変動は、経済全体にも多大な影響を与えることを考えると、住宅地の価格形成を単に販売者と購入者の合意に委ねておけばよいというものではないことは原告らの指摘するとおりであり、土地基本法も土地についての公共の福祉の優先をうたい、適正な地価の形成を図るための土地対策の推進を求めているのである。

また、地価の適正化の観点から、国土利用計画法においても、一定規模以上の土地の売買契約について、原則として、同法一五条一項各号に掲げる事項の都道府県知事への届出を義務づけ(同法二三条一項)、右届出に係る土地に関する権利の移転又は設定の予定対価の額が土地に関する権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠く場合等、一定の要件に該当する場合には、土地利用審査会の意見を聞いて、その届出をした者に対し、当該土地売買等の契約の締結を中止すべきことその他届出に係る事項について必要な措置を講ずべきことを勧告することができるものとし(同法二四条一項)、住宅設備等居住者の共同の福祉又は利便のため必要な施設の用に供するために造成された一団の土地の分譲については、その分譲価格が国土利用計画法上著しく適正を欠いていない旨の都道府県知事の確認を受け、当該確認に係る価額を超えない価額で、所定の有効期間内に土地売買等の契約をするときは、個々の取引については、屈出を要しないものとしているのである(同法二三条二項三号、国土利用計画法施行令一七条七号、同法施行規則二一条一項)。

しかして、本件住宅地の分譲に際し、被告らは、京都府知事に対し、国土利用計画法に基づく事前確認申請書を提出し、第三期分譲住宅地四六区画については平成二年三月に、第四期注文住宅地三八区画については同年五月に、第四期分譲住宅地四二区画については同年六月に、第五期注文住宅地二四区画については同年八月に、いずれも同知事の確認を受け、右申請書記載の価格の範囲内で販売しているのである。

右によれば、本件各物件の販売価格は、京都府知事により、土地に関する権利の相当な価額に照らし、少なくとも著しく適正を欠くものには該当しないと判断されたというべきであり、住宅地の公共性の観点からみても、やはり社会的相当性を著しく逸脱するものとはいえないというべきである。

(7) 以上によれば、本件各物件とその販売価格との間に、各販売当時において、それだけで暴利行為となるような著しい対価的不均衡が生じていたとまでは認められない。

3 もっとも、右のように本件各物件の販売価格だけからは著しい対価的不均衡が生じているとまでいえない場合でも、右が原告らの窮迫、軽率、無経験に乗じたものであるなど、その行為の態様によっては、なお、全体として社会的相当性を著しく逸脱し、無効とすべき場合があることは否定できない。

そして、原告らは、この点について考慮すべき事情として、<1>被告らの不動産価格の動向に関する情報量、<2>本件住宅地近辺における被告らの相場形成力、<3>被告らの地価動向に関する認識ないし予測、<4>本件住宅地を早晩値下げ販売することの認識ないし予測、<5>原告らの有していた不動産価格の動向に関する認識ないし情報量、被告らに対する信頼、原告らの住宅購入についての焦燥感などの原告ら側の主観的事情、<6>被告らが、本件住宅地の販売に際し原告らに対して行ったセールストークの内容、<7>被告らの販売方法の当否を指摘するので、以下個別に検討する。

(一)  被告らの不動産価格の動向に関する情報量、被告らの相場形成、価格支配の可能性等

被告らは、関西有数の不動産業者であり、近鉄線沿線等で大規模な住宅地を多数開発し、分譲しているのであるから、本件住宅地の価格のみならず、不動産価格の動向及び将来の予測等に関する専門的知識や情報を豊富に有し、少なくとも原告ら購入者の知識、情報量とは相当の格差があったことは認めることができる。

また、被告らが本件住宅地付近において、北大和住宅地をはじめ、登美ヶ丘宅地や白庭台住宅地を開発分譲していたという状況やその規模等に照らすと、被告らは、本件住宅地一帯の市場価格の形成に少なからぬ影響力を有していたものというべきである。

しかしながら、本件住宅地付近においては、前記認定のとおり他の開発業者も被告らと競合して大規模な住宅地を開発、分譲していたのであり、そこにおいては当然のことながら価格競争の原理が働き、被告らとしても、競合する他の業者の販売する住宅地の価格を考慮して本件住宅地の価格決定をせざるを得なかったと考えられるのである。現に被告らが、他社と共同して開発した北大和住宅地では、他社の住宅地の値下げ販売等の影響を受け、右住宅地でも値下げ販売ないし差額金の返還に応じざるを得なくなったのであるし、本件住宅地自体においても第五期分譲住宅地については、平成四年一〇月に大幅な値下げをして販売せざるを得なかったのであって、被告らが、本件住宅地一帯の住宅地販売価格の形成につき原告らの主張するような独占的な影響力を持ち、適正な販売価格の形成を不当に妨げていたとまでいうことはできない。

(二)  地価動向に関する認識、予測

《証拠略》によれば、大阪圏における住宅地の公示価格(平均)は、昭和五八年を一〇〇とすると、昭和六三年には一三四・三(対前年比一八・六パーセントの上昇)、平成元年には一七八・二(対前年比三二・七パーセントの上昇)、平成二年には二七八・一(対前年比五六・一パーセントの上昇)、平成三年には二九六・二(対前年比六・五パーセントの上昇)であったものが、平成四年には二二八・四(対前年比二二・九パーセントの下落)となったこと、右地価の上昇は、東京都区部の商業地から始まり、それが住宅地へと広がり、東京圏から大阪圏、名古屋圏へ、そして地方中枢、中核都市へとかなりとタイムラグをおいて波及していったことが認められ、そうすると、大阪圏における住宅地の地価は、平成三年には上昇が鈍り、地域によっては同年中に下落に転じたものということができる(なお、《証拠略》によれば、木津町における地価の基準値である同町大字木津小字池田一〇一番三の土地の公示価格、標準価格は平成三年一月一日時点で下落に転じていることがうかがえるが、右基準地の状況は明確でなく、これをもって木津町全体で平成三年一月以前に地価が下落を始めたものとはいい難い。)。

そして確かに、平成元年一二月の土地基本法の施行、平成二年四月の不動産融資への総量規制、同年八月の公定歩合の引上げ等の諸施策により、従前の地価の大幅な上昇が鈍り、その後地価が下落するに至ったものと考えられるが、本件各物件の販売時である平成二年五月から平成三年六月ころまでの間には、前記のとおり未だ公示価格の下落が報告されていたわけではなく、右販売時点において被告らが、地価が下落傾向にあることを認識していたものと認めることはできない(証人大友は平成三年ころまでは地価が調整局面にあったものと証言するし、また《証拠略》によれば、被告近鉄不動産は芦屋市山芦屋町所在の土地を平成二年一〇月一六日に購入したが、右土地の価格はその後下落したことが認められるのである。)。

また、《証拠略》によれば、被告らは北大和住宅地において、平成三年二月初めころまでに、分譲価格を約二五パーセント値下げして販売をしたことが認められるのであり、原告らは、このことをもって被告らが地価が下落傾向にあることを認識していたことの証拠とするようであるが、当時、被告らは右値下げ販売について、同住宅地において他社が値下げをしたことにより、顧客につなぎとめるため急遽行われた例外的な措置と認識していたものであり、このことから被告らが本件各物件の販売当時に地価の下落を確実に認識していたとまでは認めることができない。

(三)  本件住宅地を早晩値下げ販売することの認識ないし予測

(1) 《証拠略》によれば、平成二年四月ころから、中古物件の価格が下落し始め、自宅の売却が希望価格では行えなくなり、右売却代金を本件住宅地の購入資金に充てることを予定していた購入者が、同住宅地の購入申込みを控えるようになり、申込者が減少してきたこと、また、一旦、本件住宅地の購入につき当選しながら、同住宅地の購入をキャンセルしたり、値下げを要求したりする者が増加し始めたことを認めることができる。

また、前記認定のとおり、被告らは、平成三年二月初めころ、北大和住宅地において、分譲価格を平均約二五パーセント値下げして販売するとともに、既に同一条件の物件を先行して購入した者に対しては、差額金を返還するなどしたのである。

(2) しかしながら、右中古物件の下落傾向は、平成二年二月二五日まで、三〇〇平方メートル未満の物件については国土利用計画法の届出対象とはされていなかったため、そのほとんどが三〇〇平方メートル未満である中古物件の方が、同法の届出対象とされる新規分譲地(新規分譲の場合、分譲地全体が三〇〇平方メートル未満ということは実際上あり得ず、結果的にはすべて届出対象となる。)の価額より高額となるといういわゆる逆転現象が生じていたところ、同月二六日から三〇〇平方メートル未満の物件についても同法の届出対象とされ、その結果、右逆転現象が是正されたこともその原因の一つであって、住宅地の価格の一般的な下落傾向とは必ずしも直結するものではなかったと考えられるし、北大和住宅地についても、前記のとおり、同住宅地の値下げは、被告らにおいて例外的な措置として認識されていたものである上、同住宅地と本件住宅地とでは、地価上昇率が前者の方が高かったため、逆に下落率も大きいと予想されていたもので、北大和住宅地で販売価格と値下げがなされたとしても、これをもって、直ちに被告らが本件住宅地をも値下げ販売せざるを得ないと確実に認識していたとはいえない。

(四)  被告らの販売方法

前記争いのない事実及び前掲証拠によれば、被告らは、本件住宅地を販売するに当たり、数か月おきに約二〇戸ないし五〇戸に分割して販売し、購入希望者を募集した上、同一物件につき、購入希望者が複数の場合には、その中から抽選を行い、当選者が被告らとの売買契約締結の交渉権を得るという方法をとっていたことが認められる。

確かに、このような販売方法を採用すると、地価が高騰する傾向にあるときには、後日の販売の方法が販売価格が上昇することになる上、購入希望者が同一物件に殺到する結果、抽選倍率が高くなること、その結果としてさらに販売価格が上昇する可能性があることは否定できない。

しかしながら、大規模な住宅地を分譲する場合、被告らの資金調達の都合や住宅建築上の都合等を考えると、時期を異にして分割販売することにも合理性がないわけではないし、このような販売方法は、他の分譲住宅地においても一般的に採用されているものであり、右販売方法をもって、被告らが販売価格を意図的に吊り上げ、適正な分譲地販売価格の形成を不当に妨げているとまでは認められない。

(五)  被告ら販売担当者らの言動

原告らに対する被告ら販売担当者らの本件各物件の販売交渉の際の言動は、《証拠略》によれば、今後の値下げ販売の有無、差額返還の有無につき断定的に発言していたとまでは認め難いものの、その余の点については、概ね前記原告ら主張1(二)(6)の記載のとおりと認められる。

そして、

(1) 本件住宅地のセールスポイントとして、学研都市の中核であり将来の発展が期待できる、交通の便が良く、将来も交通の便がさらに良くなる、近くに小学校やスーパーができて生活上も便利になる等と述べたこと、

(2) 原告らから本件住宅地における将来の値下げ販売の可能性について尋ねられた場合に、本件住宅地の次期以降の販売価格はもっと高くなる、次期以降の販売価格を値上げする予定はあっても、値下げする予定はない旨回答したこと、

(3) 原告らの中には、本件各物件の値引きを要請する者もいたが、このような要請に対し、値引きはできない旨回答したこと、

(4) 北大和報道に接した原告らの中には、本件住宅地においても、北大和住宅地と同様に値下げして販売する予定があるのかどうか尋ねる者もいたが、これに対し、同住宅地は、他社との共同開発物件である関係で値下げ販売等となったものであり、本件住宅地については値下げ販売の予定はない旨回答したこと、また、原告らから、仮にもし値下げをしたら差額を返還してくれるのかと尋ねられた際、個人的には値下げがあれば差額の返還もあると思う旨述べた者もいたこと、

(5) 原告らに、他の空き物件の紹介を求められた際、未だ契約締結に至っていなくても、当該物件につき販売交渉中の者がいる場合は、他はすべて売却済みであり空き物件はないなどと回答したこと(なお、《証拠略》によれば、第三期分譲住宅以降に売り出された物件のうちの多数が、結果的には売れ残った事実が認められる。)に関する被告ら販売担当者らの言動は、事後の客観的状況に照らせば、正確でなかったり適切さを欠く点があったことは否めないのであるが、いずれも、個々の被告ら販売担当者らの見解として述べたもので、本件各物件の販売当時の状況からすれば、明らかに真実に反するとまではいえないし、(5)の点については、被告らにおいては、契約締結にまでは至っていないが、販売交渉中の者がいた場合には、その物件を他の顧客に紹介することができないことから、このように述べていたというのであり、いずれも明らかに真実に反することを被告らの確定的な方針として断定的に述べたものとまではいえない。

また、原告らの中には、本件住宅地以外の物件の価格の下落を認識しながら、結局、本件各物件の購入を中止することなく、契約締結に至ったという者もいるのであって、いずれにしても、被告ら販売担当者らの言動が原告らの自由な意思決定を不当に阻害するようなものであったともいえない。

(六)  原告らの主観的事情

(1) 前記争いのない事実及び《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

原告らは、いずれも、自己若しくはその家族が実際に居住するために住宅購入を決意したものであって、概ね平成元年ないし平成二年ころから、自己の希望にかなう物件を探し始め、地理的条件、生活環境等を考慮の上、本件住宅地の購入の申込みをしたものであり、また原告らの中には、被告らが販売する他の分譲地や、被告ら以外の大手不動産業者や住宅・都市整備公団の販売する分譲地にも、多数回にわたり購入の申込みをした者もいた(原告乙山松夫、同丁原梅夫、同甲田、同戊原、同丙田、同丁田、同甲原、同甲川、同戊山、同甲野、同丙川、同丙野、同乙川等の場合)。

しかしながら、当時、いわゆる不動産ブームの影響で、各地の分譲住宅地には購入申込者が殺到し、抽選倍率はいずれも数一〇倍から二〇〇倍と、これに当選することは極めて困難な状況であり、また、右に伴い販売価格も高騰を続け、一層住宅地の取得が困難となるという状況であった。

そして、右状況は、本件住宅地においても同様であり、平成元年五月の第一期分譲住宅販売時から平成二年四月の第三期分譲住宅販売時までの抽選倍率は、約五〇倍から一二〇倍にもなり、原告らの中には、第一期分譲住宅販売時から連続して購入申込みをしていたにもかかわらず、いずれの抽選にも外れた者も多く、他方で、販売価格は、前記のとおり第一期分譲住宅の販売時に一坪当たり約五七万円であったものが一年後の第三期分譲住宅販売時には一坪当たり約一〇〇万円と二倍近くにまで値上がりするという状況であった。

(2) このような抽選倍率の高さや販売価格の急激な上昇を目の当たりにした原告らが、このままでは、一生条件にかなう住宅の購入はできないのではないかという不安や焦燥感を抱いていたことは容易にうかがうことができる。

そして、このような状況のもと、被告らから本件各物件の購入を持ちかけられた原告らは、当初の資金計画を大幅に超過する販売価格に躊躇を覚えながらも、被告らが関西有数の大会社であることや、被告ら販売担当者らの、次期はさらに値上げの予定であるなどの言動に信頼を寄せ、この機会を逃しては希望する住宅の購入は益々困難となるとの思いから、多額のローンを組んだり(原告乙山松夫、同丁原梅夫、同甲田、同丁野、同甲川、同戊山、同丙山、同甲野、同乙原、同丙川、同戊田、同丙野等の場合)、持ち家を処分したりして(原告丁川、同戊原、同丙田、同甲山、同丙原、同丁田、同戊野、同甲原、同乙田等の場合)、本件各物件の購入を決意したのである。

(3) しかしながら、前記認定のとおり、地価の急激な下落という事態は、不動産業者である被告らにとっても予期し難い事態であったこと、少なくとも本件各物件の販売当時、本件住宅地の値下げ販売が既に策定されていたとまで認めるに足りる証拠はないこと(かえって前記認定のとおり、被告らは第五期分譲住宅の販売について、一坪当たりの価格を上げて販売しているのである。)、原告らは、本件住宅地以外の分譲地についても購入の候補地として検討しており、実際原告らの中には他の分譲地について購入申込みをした者もいて、原告らに住宅購入に際し、物件を選択する余地がなかったとまではいえないことにかんがみれば、右のような原告らの事情を考慮してもなお、被告らが原告らの窮迫、軽率、無経験等に乗じ、その自由な意思決定を不当に妨げて、本件各物件を購入させたものであるとまでは認めるに足りない。

以上によれば、被告らの本件各物件の販売行為は、被告らの主観的事情、原告らの主観的事情、その他本件各物件販売時の一切の事情を考慮しても、公序良俗に反し、無効となるまでは認められない。

二 争点2(詐欺)について

1 前記認定のとおり、原告らが本件各物件を購入した当時、当該各物件が、その販売価格を大きく下回る価値しか有していなかったとまでは認められず、詐欺に関する原告らの主張のうち(一)については理由がない。

2 また、前記認定のとおり、被告らが、本件各物件販売当時、近い将来本件住宅地において値下げ販売がなされることを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、詐欺に関する原告らの主張のうち(二)についても理由がない。

三 争点3(説明義務違反等)について

1 原告らは、不動産販売の専門業者である被告らは、一般消費者である原告らに対し、不動産売買契約における保護義務の一つとして、分譲予定住宅地の販売状況、地価の動向、将来住宅地を値下げ販売する可能性があること等を説明すべき義務を負う旨主張する。

確かに宅建業者である被告らにおいて、宅地建物取引業法に規定する重要事項の説明義務を負うものであることはいうまでもないことであるが、それ以上に不動産売買契約において売主側に信義則上の保護義務というものが観念されるとしても、不動産の価格が近い将来急激に下落することが確実で、そのことを専門の不動産業者である売主側のみが認識し、現に大幅な値下げ販売を予定しているのに、買主側には右事実を一切説明しないか、あるいはことさらに虚偽の事実を申し向けて不動産を高値で販売したというような事情があるのであればともかく、このような事情がないのに、売主において売買契約締結以後の地価の動向や将来の値下げ販売の可能性等につき、当然に買主に説明すべき法的義務があるとは考えられず(不動産の価格が需要と供給の関係や経済情勢等により変動するものであるだけに尚更である。)、右説明をなさなかったとしても、説明義務違反等の責任を負うものとは解し難い。

2 そして本件においては、前記認定のとおり、本件各物件の販売当時には、近い将来本件住宅地付近の地価が大幅に下落することが確実であったとまでは認められないし、被告らも、右当時には、本件住宅地付近の地価が近い将来大幅に下落すること及び本件住宅地において近い将来値下げ販売を行う可能性のあることについて、いずれも認識していたとまではいえないのであるから、原告らの説明義務違反の主張は理由がない。

また、前記認定のとおり、被告ら販売担当者らが、原告らに対し、他に空き物件はない、他はすべて売却済みであるなどと説明した事実は認められるが、右当時は、他の物件には、契約締結にまでは至っていなかったとはいえ、他に販売交渉中の者がいたのであり、被告ら販売担当者らの右説明が必ずしも正確適切なものであるとはいい難いが、これをもって、被告ら販売担当者らが、ことさらに虚偽の事実を申し向けたとまでいうこともできない。

3 ただ、被告らは、土地は値下がりすることはないという、いわゆる土地神話を安易に信じ、購入希望者らの意向と被告らの販売価格の設定との間に乖離が生じ始め、また、被告らも関与している他の住宅地(北大和住宅地)では、現に値下げ販売、差額返還に応じざるを得ない状況にありながら、今後の土地価格の動向や経済情勢等について慎重に調査検討することもなく、漫然と本件住宅地につき従前のとおりの高額な価格設定による販売を続けた挙げ句、結局、一坪当たりにして二分の一近くもの値下げという価格設定をせざるを得なくなったものである。

右販売行為を暴利行為とまでいうことができないのは前記説示のとおりであるが、右経営姿勢が適切なものであったともいい難いのである。そして、少なくとも、値下げ販売を実施すれば、従前の購入者から不満が噴出することは予想し得るのであるから、高額な住宅地を購入した原告らが、被告らに対し、右値下げ販売に至った経緯等について誠実に説明回答すること、差額返還の検討を含め、購入者の納得が得られるような方策を行うことを求める心情は理解し得ないものではなく、またこのような被告らの対応が期待されるところではある。

とはいえ、被告らが説明義務違反等の責任を負うとまでは認められないのは、前記説示のとおりであって、やはり原告らの主張は理由がないというほかない。

四 結語

以上によれば、原告らの本訴請求は、いずれもその余の点につき判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成九年一〇月一七日)

(裁判長裁判官 竹中邦夫 裁判官 森富義明 裁判官 村主幸子)

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