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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6617号 判決 1994年8月25日

甲乙事件原告

抽井マツ子

甲事件被告

植木偉佐男

ほか一名

乙事件被告

日本火災海上保険株式会社

主文

一  甲乙事件被告らは連帯して甲乙事件原告に対し、金一六五万円及び甲事件被告植木偉佐男、同株式会社タイヨーにつき平成四年三月九日から、乙事件被告につき平成五年一二月一八日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲乙事件原告の甲乙事件被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を甲乙事件原告の負担とし、その余を甲乙事件被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

甲乙事件被告らは連帯して甲乙事件原告(以下、単に「原告」という。)に対し、金五五〇万円及びこれに対する甲事件被告植木(以下、単に「被告植木」という。)、同株式会社タイヨー(以下、単に「被告タイヨー」という。)につき平成四年三月九日から、乙事件被告日本火災海上保険株式会社(以下、単に「被告日本火災」という。)につき平成五年一二月一八日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告植木が被告タイヨーの保有する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)を運転して後退していた際、七尾大吉(以下「亡大吉」という。)が運転する自動二輪車(以下「大吉車」という。)と衝突し、亡大吉が死亡した事故について、原告が、本件事故当時、亡大吉と内縁関係にあつたとして、被告植木に対して民法七〇九条に基づき、被告タイヨーに対して民法七一五条、自賠法三条に基づき損害賠償を請求する(甲事件)とともに、被告タイヨーとの間で自賠責保険契約を締結していた被告日本火災に対して、自賠法一六条一項に基づき自賠責保険金を請求した(乙事件)ものである。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 平成四年三月九日午後六時二八分ころ

場所 大阪府寝屋川市大間東町二三番一〇号先路上

態様 被告植木が被告車を運転して後退していた際、亡大吉が運転する大吉車と衝突し、亡大吉が死亡した(以上につき、甲乙事件当事者間に争いがない。)。

2  自賠責保険契約

被告日本火災は、被告車の運行供用者である被告タイヨーとの間で、自賠責保険契約を締結した(乙事件当事者間に争いがない。)。

二  争点

1  内縁の妻であることを理由とする原告の慰謝料請求権が認められるか(原告は、抽井勇一との間に戸籍上の婚姻関係があるものの、抽井勇一が昭和四四年七月ころ突然家を出て行方不明となつてから現在まで抽井勇一とは交渉がなく、事実上の離婚状態にあり、他方、亡大吉とは二〇年以上にわたつて事実上の夫婦共同生活を営んできたものであるから、法律上の夫婦に準じて原告に慰謝料請求権を認めるべきであると主張する。これに対して、被告日本火災は、内縁の妻が自賠法一六条一項にいう被害者には該当しないと主張し、また、被告らは、原告が内縁の妻であつたか不明であるうえ、仮に内縁の妻であつたとしても、原告が亡大吉と事実上の夫婦になつたことを抽井勇一が知つて家出をしたもので、原告と亡大吉が内縁関係にあつたとしても、法律上の保護に値しない重婚的内縁に該当するので、本訴請求は認められないと主張する。)。

2  被告植木の過失の有無、被告タイヨーの自賠法三条但書に基づく免責の可否(原告は、暗闇状態で見通しの悪い路上へ被告車が急に後退してきたため、進路を妨害された大吉車が被告車に衝突したもので、被告植木に過失があると主張する。これに対して、被告らは、路上で停止していた被告車に、見通しの良い道路を直進していた大吉車が、前方を全く注視していなかつたため一方的に被告車に衝突してきたもので、被告車は右衝突を回避することが不可能であつたとして、被告植木の無過失と、被告タイヨーの自賠法三条但書に基づく免責を主張する。)

3  過失相殺(被告らは、仮に被告植木に過失があるとしても、前記2によれば、亡大吉には一〇〇パーセント近い過失があると主張し、原告は、仮に亡大吉に過失があるとしても、わずかであると主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一ないし六、八、乙三ないし五、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故状況

本件事故現場は、別紙図面のとおり、南北に伸びる片側二車線の南行車線上である。本件事故現場付近は、制限速度が時速六〇キロメートルであり、進路前方の見通は良好で、夜間でも明るく、交通量は、五分間に五〇台程度の通過車両がある。本件事故当時、被告植木は、被告車(車体の長さ七・二四メートル、幅二・一六メートル、高さ二・一九メートル、最大積載量二トン)を運転して別紙図面の<1>地点(以下、別紙図面上の位置は、同図面記載の記号のみで表示する。)に停止した。そして、被告植木は、本件道路の東側にある被告タイヨーの敷地内に被告車を後退して進入させるため、被告車のハンドルを右に切り、<1>地点から<2>地点まで約九・三メートル進行して再度停止した後、後退を開始し、<2>地点から<3>地点まで約五・二メートル後退したところで、被告車の右前角付近に<ア>地点まで進行してきた大吉車の前部が<×>地点で衝突した。右衝突後、被告車は<4>地点(<3>地点から約一・四メートル離れた地点)まで後退して停止し、大吉車は<ア>地点から約八・五メートル離れた<イ>地点に転倒し、亡大吉は、<ア>地点から約七メートル離れた<ウ>地点に転倒した。ところで、本件事故当時、四輪自動車を運転して本件道路の走行車線(左側車線)を南進していた桜井宏は、被告車が西向きになつて本件道路をほぼ完全にふさいでいるのを進路前方約一〇二・三メートルの地点に認めて減速し、右に少し進路変更しながら約三三・四メートル南進したところで、自車の左側を追い越した大吉車を進路左前方約一四メートルの地点に認め、さらに、自車が約二二・三メートル南進したところ(本件事故現場から約四五・八メートル手前の地点)で、被告車と大吉車が衝突するのを目撃した。

2  原告の本件事故に至るまでの生活状況等

(一) 原告は、昭和三一年七月二八日に抽井勇一と婚姻し、同人との間に寛治(昭和三二年三月二一日生まれ)、幹夫(昭和三六年二月三日生まれ)、麻里子(昭和四〇年九月一六日生まれ)の三人の子をもうけた。そして、原告と抽井勇一は、昭和四二年八月ころ、大阪市東住吉区に転居し、「加美塗装」で夫婦一緒に働いていた。原告夫婦は、当初「加美塗装」へ通勤していたが、同年一一月ころ、「加美塗装」の工場の隣にある部屋が空いたので、住み込みで働くことになつた。しかし、抽井勇一は、麻雀に熱中して仕事をしなかつたことから、「加美塗装」を辞めざるを得なくなり、昭和四四年三月ころから大阪府吹田市にある「豊田塗装」に住み込みで働き始めた。「豊田塗装」では、抽井勇一は塗装の仕事をし、原告は、工場の掃除、洗濯、社長の子供の世話、食事の仕度等の仕事をしていた。

(二) ところが、「豊田塗装」で働いている間の昭和四四年七月ころ、抽井勇一が荷物も一切持たず、突然行方不明となつた(以後現在まで同人からの連絡や仕送りはまつたくない。)。このため、原告は、「豊田塗装」に居りづらくなり、昭和四四年九月ころから、友人の紹介により亡大吉が経営する「七尾塗装」で三人の子供を連れて住み込みで働くようになつた。原告が「七尾塗装」で働くことにしたのは、「豊田塗装」とは異なり、女性でもできるような塗装の仕事であつたためである。亡大吉は、昭和二八年に先妻と離婚し、その当時は女手がなかつたうえ、原告が三人の子供を抱えて生活していることに同情したこともあつて、原告が「七尾塗装」で働き始めてから約一カ月後の昭和四四年一〇月ころから、原告と亡大吉は同棲生活をするようになつた。右同棲生活を始めた当時、原告は、亡大吉と先妻との間の子である七尾華一(昭和二五年九月一九日生まれ)とも同居していた。その後、本件事故で亡大吉が死亡するまで、原告は、亡大吉と夫婦同様の生活をし、原告と三人の子供も「七尾塗装」を手伝い、三人の子供と亡大吉は、実の親子と同様の生活をしていた。

(三) ところで、原告は、抽井勇一が行方不明になつた直後ころ、心当たりを探したが見つからなかつた。また、原告は、抽井勇一と離婚しようと考え、昭和四七年ころに弁護士に相談したが、抽井勇一の行方が分からなかつたため、結局、離婚手続をしないままとなつた。

(四) 亡大吉の葬儀は、七尾華一と原告、原告の子供らが行つた。

二  原告の慰謝料請求権について

前記一の認定事実によれば、原告は、昭和四四年七月ころ、夫である抽井勇一が突然行方不明になり、以後、同人から連絡や仕送りは一切なく、本件事故当時まで二〇年間以上にわたり事実上の離婚状態にあつたと解され、また、原告は、抽井勇一が行方不明になつた後、三人の子供を抱えて「七尾塗装」に住み込みで働くようになり、その後間もなく、「七尾塗装」の経営者で、先妻と別れて女手がなかつた亡大吉と同棲生活を始め、以後、本件事故当時まで二〇年間以上にわたり亡大吉と夫婦同様の生活を送つてきたもので、その間、原告の三人の子供も亡大吉と実の親子と同様な関係にあつたほか、原告と原告の子供らが、亡大吉の実子である七尾華一とともに亡大吉の葬儀を行つたことをも併せ考慮すれば、原告と亡大吉とは重婚的な内縁関係にあつたものの、原告と抽井勇一との婚姻関係は形骸化していたと解され、このような場合、原告については、亡大吉の内縁の妻として民法七一一条の「配偶者」に準じて慰謝料請求権を認めるべきである(なお、被告らは、内縁の妻に慰謝料請求権を認めるべきでないとし、あるいは、原告と亡大吉との関係が法律上の保護に値しない重婚的内縁であると主張するが、右各主張は、前記判示に照らして採用できない。)。

三  過失の有無、免責の可否について

前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、本件事故現場は、制限速度が時速六〇キロメートルで、交通量も少なくない場所であつたから、被告植木が車体の長さが七メートル余りもある被告車をいつたん本件道路をふさぐ状態にする際には、本件道路を走行してくる車両の進路を妨害しないよう、接近してくる車両の切れ目を待ち、あるいは誘導員を立てるなどの配慮を十分尽くすべきであつたにもかかわらず、右配慮が不十分なままで本件道路を被告車でふさぐ状態にしたため、接近してきた大吉車と衝突したもので、本件事故発生について被告植木に過失があると解される。したがつて、被告らの無過失、免責に関する主張は採用できない。

四  損害

1  慰謝料 三〇〇万円(請求五〇〇万円)

前記一2(原告の本件事故に至るまでの生活状況等)で認定した原告と亡大吉との生活状況、原告の戸籍上の地位、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては三〇〇万円が相当である。

2  弁護士費用 一五万円(請求五〇万円)

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、一五万円が相当である。

五  過失相殺

本件事故発生について、被告植木には前記三(過失の有無、免責の可否について)で判示した過失があるが、他方、亡大吉も、本件事故現場が比較的見通しの良い場所であり、夜間でも明るい場所であつたにもかかわらず、進路前方に対する注意が不十分なままで大吉車を運転していたため本件事故を発生させた点で過失があることの諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告植木には五〇パーセントの、亡大吉には五〇パーセントのそれぞれ過失があると解される。そうすると、損害の公平な分担の見地から前記慰謝料三〇〇万円について右過失割合を適用すべきであり、右適用後の金額は、一五〇万円となる。

六  以上によれば、原告の被告らに対する請求は、一六五万円(前記過失相殺後の金額一五〇万円に前記四2の弁護士費用一五万円を加えたもの)とこれに対する被告植木、同タイヨーにつき本件交通事故発生の日である平成四年三月九日から、被告日本火災につき本件訴状送達の翌日である平成五年一二月一八日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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