大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7497号 判決 1997年5月29日
神戸市兵庫区中道通一丁目一-七
原告
林治
右訴訟代理人弁護士
谷口達吉
右訴訟復代理人弁護士
向井理佳
右輔佐人弁理士
藤本昇
大阪市北区西天満五丁目一四番一〇号
被告
新星和不動産株式会社
右代表者代表取締役
設楽勝
右訴訟代理人弁護士
小寺一矢
小濱意三
小松陽一郎
右訴訟復代理人弁護士
畑山和幸
池下利男
大阪市中央区難波二丁目二番三号
被告
近鉄不動産株式会社
右代表者代表取締役
小林雅夫
右訴訟代理人弁護士
徳田勝
右輔佐人弁理士
福島三雄
主文
一 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告新星和不動産株式会社(以下「被告新星和不動産」という)は、原告に対し、金二億五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年八月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告近鉄不動産株式会社(以下「被告近鉄不動産」という)は、原告に対し、金二億五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年八月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 仮執行の宣言
第二 事案の概要
本件は、後記実用新案権を有していた原告が、その存続期間中に被告らの施工した床下基礎はいずれも右実用新案権にかかる考案の技術的範囲に属すると主張して、考案の実施料相当額を不当利得としてその返還を求める事案である。
一 原告の有していた実用新案権
原告は、平成四年一二月二四日の経過により存続期間が終了するまで、左記の実用新案権を有していた(争いがない。以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)。
登録番号 第一七二一九一二号
考案の名称 木造建築の床下基礎
出願日 昭和五二年一二月二四日(実願昭五二-一七四四三六号)
出願公告日 昭和六二年五月二〇日(実公昭六二-一九七一三号)
登録日 昭和六二年一二月二一日
実用新案登録請求の範囲
「土盤3上にぐり基礎4を設け、該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し、前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し、かつ、前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けたことを特徴とする木造建築の床下基礎。」(別添実用新案公報〔以下「本件公報」という〕参照)
二 本件考案の構成要件の分説及び作用効果
1 本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)の記載を参酌すれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおり分説するのが相当である。
イ 土盤3上にぐり基礎4を設け、
ロ 該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し、
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し、かつ、
ホ 前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けた
ヘ ことを特徴とする木造建築の床下基礎。
2 本件明細書には、本件考案の作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 鉄筋1-1、1-2は共にしつかりと締結組み立てされており、更にコンクリートで一体に成形されておるのでコンクリート基礎5とコンクリート基盤2は強固に連続して一体化されるので、土盤3が仮に部分的に軟弱で不同沈下(「不動沈下」は誤記と認められる。以下同じ)を起こしたり、あるいは崖崩れ等で削り取られても、広い面積に全体的に鉄筋1-1の入ったコンクリート基盤2が変形しない限り、コンクリート基礎5は建築基礎として部分的に損壊することがない(本件公報2欄19行~3欄1行)。
(二) また、コンクリート基盤2とコンクリート基礎5がしつかりと鉄筋の入った状態で一体化した頑丈な構造であるため、コンクリート基盤2上に設ける犬ばしり7、コンクリート基盤2上に立設する床つか8等も亀裂、傾き等の狂いを生じることなく、永く施工当初の形態を保持し、コンクリート基礎5上に組み立て建造する建造物、造作、建具、付属物等もまた狂い、変形を来すことなく耐久性が著しく良好となる(同3欄2行~10行)。
(三) 本件考案を実施すると、前記効果の外、更にコンクリート基盤2が下側からの湿気を防ぎ、周囲はコンクリート基礎5で一体に囲まれているため、床下のほとんどが広い貯蔵庫、収納庫として利用でき、野菜、什器類を大量に貯蔵収納することが可能となり、万一結露等でコンクリート基盤2内に水が溜まっても水抜き孔6より水は流出し、常に乾燥した広い収納庫が確保でき、コンクリート基盤のやや内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので構造的に堅牢であるとともに、通常の家屋よりも重量が増える(同3欄14行~4欄7行)。
三 被告らの施工した床下基礎
1 被告新星和不動産の施工した床下基礎(以下「イ号物件」という)の特定について、原告は、別紙イ号物件目録(一)記載のとおりであると主張し、被告新星和不動産は、別紙イ号物件目録(二)記載のとおりであると主張する。
2 被告近鉄不動産の施工した床下基礎(以下「ロ号物件」、「ハ号物件」という)の特定について、原告は、別紙ロ号物件目録(一)、ハ号物件目録(一)記載のとおりであると主張し、被告近鉄不動産は、別紙ロ号物件目録(二)、ハ号物件目録(二)記載のとおりであると主張する。
3 イ号物件、ロ号物件、ハ号物件(以下、合わせて「被告ら物件」という)の特定については、後記第四争点1に対する判断の項において認定判断することとする。
四 争点
1 被告ら物件は、本件考案の技術的範囲に属するか。
(一) 被告ら物件は、構成要件イ「土盤3上にぐり基礎4を設け」及び構成要件ロ「該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ」を具備するか。
(二) 被告ら物件は、構成要件ハ「該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し」を具備するか。
(三) 被告ら物件は、構成要件ニ「前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し」を具備するか。
(四) 被告ら物件は、構成要件ホ「前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けた」を具備するか。
2 本件考案は出願前公知の考案であるか。
3 イ号物件は、出願前公知の技術を利用したものであり、被告新星和不動産において自由に実施できるものか(自由技術の抗弁)。
4 被告らが不当利得返還義務を負う場合に、原告に対し返還すべき利得の額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告ら物件は、本件考案の技術的範囲に属するか)について
以下のとおり、原告は、被告ら物件は本件考案の構成要件をすべて具備するが故に本件考案の技術的範囲に属すると主張し、被告らは、被告ら物件は本件考案の構成要件をいずれも具備しないが故に本件考案の技術的範囲に属しないと主張するものである。
1 被告ら物件は、構成要件イ「土盤3上にぐり基礎4を設け」及び構成要件ロ「該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ」を具備するか。
【原告の主張】
(一) 本件考案の構成要件イにいう「ぐり基礎」とは、ぐり石(割栗石)を用いだ基礎のことであり、ぐり石とは「地盤を固めるために用いられる小塊状の砕石」をいう(乙一七)。
(二)(1) 被告新星和不動産は、「ぐり基礎」に使用するぐり石(割栗石)は径二〇cm以上、厚さ一〇cm程度の大きさで、重さ一〇kg以上のものをいい、イ号物件で使用されている「砕石」はこれとは完全に別個のものである旨主張するが、本件明細書には「ぐり基礎」としか記載されておらず、実施例にもぐり基礎における「ぐり」の大きさに関する記載はないのであって、同被告の提出する証拠(乙三、一七、二九、三〇)によっても、必ずしもその定義が一定ではない(広辞苑によれば、直径一〇ないし一五cm位と定義されている)。また、同被告がぐり石とは完全に別個のものであるとする砕石も、右各証拠(乙三、一七、二九)によっても「破砕して作った砂利」「砕いたもの」「粒の大きさの範囲五~八〇ミリメートル」というように必ずしもその大きさが確定していないのである。
したがって、右各証拠によれば、むしろ、ぐり石とは「小塊状の砕石」であり、砕石とは「石を破砕した砂利」であると定義するのが相当である。
(2) 被告新星和不動産は、本件考案の出願審査・審判の過程において原告が四回にわたり手続補正をしていることから、本件考案の技術的範囲は右手続補正に基づく意識的限定によりかなり狭い範囲のものとなっている旨主張する。
しかし、右四回の補正は、第一回の補正を除き、先願や公知例を引用されたために実用新案登録請求の範囲を縮小、変更するというものではなく、単に明細書の記載内容に不備があったから補正したというものにすぎない。実用新案登録請求の範囲において位置や材料を特定したということだけで、原告が当然に本件考案の技術的範囲を意識的に限定したということはできないのであって、被告新星和不動産の右主張は誤りである。
(3) イ号物件は、前記のぐり石からなる基礎又は少なくともぐり石と砕石とが混在した基礎として形成されていることは明らかである(検甲一の1・3・4)。被告新星和不動産提出の別紙イ号物件目録(二)において土間コンクリート上に使用している「砕石」の厚さが六〇と記載されていることや前記各証拠による「ぐり石」の定義(乙三「径は二〇~三〇cm程度で厚さは径の三分の一~二分の一ぐらい」、乙一七「厚さ七~一〇cm程度」)の記載に照らしても、右イ号物件目録(二)にいう「砕石」とは「ぐり石」と同等であることがわかる。
仮に、イ号物件の基礎がぐり石ではなく砕石であるとしても、本件考案の技術的思想に照らせば、木造建築の床下基礎を堅牢にするとの作用効果においても何ら変わりがなく、いわゆる設計上の微差又は均等物である。
(三) ロ号物件及びハ号物件の基礎は、ぐり石からなることが明らかであり(検甲四の5・6)、ぐり基礎と「敷砂利」とは異なるとする被告近鉄不動産の主張は誤りである。
【被告新星和不動産の主張】
(一)(1) 本件考案の構成要件イにいう「ぐり基礎」に使用するぐり石(割栗石)について、建築学関係の文献には次のように定義されている。なお、原告は一般の国語辞典である「広辞苑」の定義も引用するが、考案の技術的範囲を解釈するに当たっては、当該技術分野(建築)に関する文献における定義を優先すべきことは当然である。
a 建築大辞典(乙三)「基礎地業などに使用するために岩石を打割って作った小塊状の石材。径は約二〇~三〇cm程度で厚さは径の三分の一~二分の一ぐらい」
b 建築現場実用語辞典(乙一七)「高さ二〇~三〇cm、厚さ七~一〇cm程度」
c JISハンドブック土木・建築一九七六(乙二九)重量により一号から一〇〇号の一〇種類に区分され、最も軽い一号で一〇kg
d 中高層建築設計施工総覧(乙三〇)「二〇~二五cm高さ」
これによれば、ぐり石(割栗石)とは、径二〇cm以上、厚さ一〇cm程度の大きさで、重さ一〇kg以上のものをいうのである。特に重さについては、右cのとおりJIS規格で定められているので無視することはできない。
一方、「砕石」の建築学上の定義は次のとおりであり、これによれば砕石は大きさが高々八cmで、ぐり石よりは明らかに小さい石であることが導かれるのであって、右定義付けの要素となる大きさ等が明らかに異なる以上、砕石とぐり石は完全に別個のものである。
a 建築大辞典(乙三)「岩石や大きな玉石をクラッシャーなどで破砕して作った砂利。鉄道道床の敷込みなどに用いられる。『砕石砂利』ともいう」
b 建築現場実用語辞典(乙一七)「硬質の玄武岩や安山岩などを砕いたもので…、単粒度砕石は構造物の地業などに用いられる」
c JISハンドブック 土木・建築一九七六(乙二九)粒の大きさの範囲五~八〇mm(コンクリート用砕石A-5005)
(2) 本件考案の出願審査・審判の過程において、原告は、合計四回にわたり拒絶理由通知を受け(乙一の2・7・9・11)、これに応じて四回にわたり実用新案登録請求の範囲の記載を補正する手続補正をしているのであって(乙一の4・8・10・12)、本件考案の技術的範囲は、右手続補正に基づく意識的限定によりかなり狭い範囲のものとなっている。
本件考案の出願に対する第一回の拒絶理由通知(乙一の2)は、「本願考案の各構成要件はいずれも公知・周知(例えば上記引例参照)であって、本願考案はこれら公知・周知技術を寄せ集めたにすぎず、しかも、寄せ集めた点に格別困難性は認められない。」というものであり、二件の引例も公知・周知技術の単なる例示にすぎなかったものである。そして、拒絶理由に直接対応して補正したものでなくても、例えば、当初はA+Bを含む概念であるCで表現していた部分について、出願人が自主的に下位概念の一つであるAに補正すれば、出願人の意図としてはAに意識的に限定したことになり、技術的範囲がその部分に減縮されることは当然である。
本件考案の構成要件イにいう「ぐり基礎」についていえば、原告は、出願当初の明細書(乙一の1)では、「ぐり基礎4を設けるか、設けることなくして…」と記載し、ぐり基礎を設ける技術(A)と設けない技術(B)とを含むものとして出願していたところ、第一回の拒絶理由通知を受けて自発的にこの部分の記載を削除する補正をしたが(乙一の4)、拒絶査定(乙一の5)を受けたため、これに対する審判請求を行い、その手続の過程で「ぐり基礎4を設け、」と補正したものである(乙一の8)から、本件考案の技術的範囲は、「ぐり基礎を設ける」もの(A)、すなわち「割栗石」を地面に敷いているもののみに限定され、その他の、例えば砕石等が敷かれているものは含まないことになる。
(二) イ号物件の全ての基礎は、右のような大きなぐり石を用いたぐり基礎ではなく、砕石基礎であるから、イ号物件は本件考案の構成要件イ、ロを具備しない。
被告新星和不動産提出のイ号物件目録(二)に「ぐり石又は砕石」「ぐり石(砕石)」と記載されているところ、これは、布基礎(フーチング)の部分については、互いに異なるぐり石又は砕石のいずれかを使用するというだけであって、ぐり石を使用する場合もあるが、本件考案におけるコンクリート基盤2に相当する土間コンクリートには砕石を使用しているのであって、このことは同目録(二)にも明記されているところである。
原告は、イ号物件の基礎がぐり石ではなく砕石であるとしても設計上の微差又は均等物である旨主張するが、例えば砂利地業と割栗地業とでは、地盤が軟弱土からなっているかどうか、軟弱土の浮き上がりを抑えることができるかどうかなどの点で、その作用効果が異なるのであり(乙三〇)、また、前記のとおり、原告は本件考案の出願審査・審判の過程において敢えてぐり基礎に限定しているのであるから、本件において均等論の成立する余地はない。
【被告近鉄不動産の主張】
(一) ぐり石とは、「基礎地業などに使用するために岩石を打割って作った小塊状の石材」をいい、「径は約二〇~三〇cm程度で厚さは径の三分の一~二分の一ぐらい」のものをいう(乙三)。
(二) 被告近鉄不動産は、ロ号物件及びハ号物件の基礎には主に敷砂利を使用しており、その径は、一cmないし三cmである(検甲四の5・6)。砂利は、岩石が風化あるいは浸食などの自然作用によって粒状になったものをいい、右ぐり石とは別個のものである。時として岩石を打ち砕いた小石で代用することがあるが、その小石も、砂利に近似する大きさでぐり石より小塊であるから、ぐり石には当たらない。したがって、ロ号物件及びハ号物件は、いずれも本件考案の構成要件イ、ロを具備しない。
2 被告ら物件は、構成要件ハ「該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し」を具備するか。
【原告の主張】
(一) 本件考案の構成要件ハについて、鉄筋1-2(縦鉄筋)を鉄筋1-1(横鉄筋)の「外端部より内側位置」に設けたのは、両鉄筋をしっかりと締結組み立てし、更にコンクリートで一体に成形し、コンクリート基礎とコンクリート基盤を強固に一体化したものとし、本件考案の課題である堅牢な建築基礎を実現するためであり、被告新星和不動産主張のようにコンクリート基盤の面積を広くするためではない。すなわち、縦鉄筋が横鉄筋の外端部より外側にある場合には、前記第二の二2の(一)及び(二)記載の本件考案の作用効果を奏しないことになるが、横鉄筋の外端部に縦鉄筋が組まれているような場合でも、縦鉄筋と横鉄筋を一体化でき、堅牢な基礎の中心部とすることができ、右のような本件考案の作用効果を奏することになる。
したがって、構成要件ハの横鉄筋の「外端部より内側位置」とは、被告ら主張のように厳格な意味で縦鉄筋が横鉄筋の外端部から相当離れた位置にある場合に限られるものではなく、横鉄筋の先端部が折り曲げられることによって、その折曲部(外端部)から内側位置に縦鉄筋が設けられる場合をも含むものであり、この場合も縦鉄筋の位置が横鉄筋の内側位置にあること自体は否定し難く、これによって、縦鉄筋を横鉄筋に対して容易に締結組み立てて本件考案の課題である強固な鉄筋群を形成することができるのである。
(二) イ号物件は、別紙イ号物件目録(二)の最下端の図面や、検甲第一号証の3・4、第二号証の8・9から明らかなように、縦鉄筋が横鉄筋の外端部より内側位置から垂直に締結組み立てられており、強固な鉄筋群を形成するという本件考案の目的を達成しているから、本件考案の構成要件ハを具備する。
(三) ロ号物件及びハ号物件は、検甲第四号証の5・6、丙第一〇、第一四、第一九、第二〇号証から明らかなとおり、横鉄筋は縦鉄筋より外側に突出し、その先端部が現場で折り曲げられてなるものであり、その結果、縦鉄筋は横鉄筋の外端部より内側位置に起立してなるものであるから、本件考案の構成要件ハを具備する。
【被告新星和不動産の主張】
(一) 本件考案の構成要件ハにいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」は、鉄筋1-1の外端部それ自体の位置を含まないことが明らかである。
(1) 原告は、本件考案の出願当初の明細書では、単にコンクリート「基盤2上にコンクリート基礎5…を基盤2の鉄筋1-1と連係させて鉄筋1-2を内蔵せしめる」としていたが、第一次補正(乙一の4)で「コンクリート基盤2の周側部に鉄筋1-1と架構連係させた鉄筋2(1-2)を内蔵した」、第二次補正(乙一の8)で「鉄筋1-1に鉄筋1-2を鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てして」、第三次補正(乙一の10)で「鉄筋1-1に鉄筋1-2を鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てた鉄筋群」と順次補正したところ、昭和六一年一〇月二二日付拒絶理由通知(乙一の11)により、「鉄筋1-1の内側に」のみの記載では構成が不明瞭であるとして、「該鉄筋1-1の外端部より内側位置に」と補正されたいとの指示を受け、これに従ってそのように補正したものである。このように、原告は、出願当初の明細書では縦鉄筋の位置関係を一切限定していなかったのに、公知・周知技術の寄せ集めにすぎないとの拒絶理由通知を受けて、その位置関係を外端部より内側(A)と外端部(B)のいずれにも解釈できる「基盤2の周側部」という表現に変え、次いで「内側(A)に限定し、更に「内側」を「外端部より内側位置に」とますます限定、明瞭化したのである。本件考案の実用新案登録についての無効審判請求事件(以下「本件無効審判事件」という)においても、原告は、「枠組壁工法住宅工事共通仕様書」(乙一八)九頁の第4図には「鉄筋1-2が鉄筋1-1の外端部より内側位置に組み立てる」との構成は一切開示されていない、と自ら指摘している(乙一九〔審判事件答弁書〕一一頁9行ないし14行)のである。しかも、鉄筋1-1は「外端まで一本すなわち一体の鉄筋で構成されていることは自明」(甲三〔本件無効審判事件の審決書〕八頁終わりから三行目ないし末行)であるから、構成要件ハの「外端部より内側位置に」が、コンクリート基盤に組み入れられた鉄筋1-1の外端部に鉄筋1-2が締結されている場合を含まないことは明白である。
(2) また、本件考案は、本件明細書に「コンクリート基盤のやや内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので」(本件公報4欄4行ないし6行)と記載されているとおり、周囲を囲んだ縦鉄筋が形成する面積より基盤の面積を広くするために、縦鉄筋を横鉄筋の端部の内側に形成するものであり、横鉄筋の下方への折曲げ部分がほんの少し縦鉄筋より外方へ出ていても、これにより基盤の面積を広くするという効果は何ら生じない(縦鉄筋を中心として一定の幅のコンクリート基礎が設けられるのであるから、その若干のはみ出し部分はコンクリート基礎の幅の中に解消されてしまい、コンクリート基礎がコンクリート基盤の外端部よりやや内側に位置することにはならない)から、その縦鉄筋の位置は、ここでいう「内側」ではなく、「外端部」に当たると解すべきである。
原告は、本件考案において縦鉄筋を横鉄筋の「外端部より内側位置」に設けたのは、基盤の面積を広くするためではなく、両鉄筋を「しっかりと締結組み立て」し、「更にコンクリートで一体に成形」し、コンクリート基礎とコンクリート基盤を「強固に一体化」したものとし、堅牢な建築基礎を実現するためである旨主張する。しかし、縦鉄筋を横鉄筋の「外端部」に締結しても、両鉄筋を「しっかり締結組み立て」すれば、あるいは「コンクリートで一体に成形」すれば、コンクリート基礎とコンクリート基盤を強固に一体化し、堅牢な構造にすることができるから、そのような目的、効果は、縦鉄筋を横鉄筋の「外端部より内側位置」に設けることと何ら関係がない。しかも、縦鉄筋を横鉄筋の外端部に締結する構成は本件考案の出願前から公知である(乙四の図面右下表示の鉄筋コンクリートの左端、乙一一の鉄筋コンクリート基盤〔基礎〕、乙一八の「4図」〔本件無効審判事件における引用例〕、乙二二の鉄筋コンクリート等)上、建築基準法施行令七三条は、「鉄筋コンクリート造」の「鉄筋の継手及び定着」について、「鉄筋の末端は、かぎ状に折り曲げて、…定着しなければならない」と規定しており、横鉄筋の端部を折り曲げて縦鉄筋に引っかける状態で乗せる(その結果、必ず横鉄筋は縦鉄筋より少し外方へ出ることになる)ことは古くから法律上要請されている技術的常識であり、本件考案がかかる技術的常識の構成をその技術的範囲に含むものとは到底考えられない。
(二) イ号物件は、横鉄筋を縦鉄筋と交差するところで折り曲げており、縦鉄筋は横鉄筋の外端にあるから、本件考案の構成要件ハを具備しない。
原告は、イ号物件の横鉄筋端部の下方への曲げ部分がほんの少しだけ縦鉄筋より外方へ出ているケースも一部にあることから、縦鉄筋が横鉄筋の「外端部より内側」に位置すると主張するようであるが、前記(一)(2)のとおり、横鉄筋の下方への曲げ部分がほんの少し縦鉄筋より外方へ出ているような場合は、その縦鉄筋の位置は、本件考案にいう「内側」ではなく、「外端部」に当たるというべきである。
また、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、「該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ」、次いで「該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し」というように経時的に表現されており、先に横鉄筋を組み入れ、その後に縦鉄筋を垂直に締結組み立てるという順序を辿ることが要件となっているところ、イ号物件は、先に縦鉄筋を組み入れ、その後に横鉄筋を締結組み立てるものであるから、かかる観点からも、本件考案の技術的範囲に属しない。
【被告近鉄不動産の主張】
(一) 本件考案の構成要件ハは、明確に鉄筋1-2(縦鉄筋)が鉄筋1-1(横鉄筋)の「外端部より内側位置」に所在することを必須の要件としているのであって、このことは、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に「コンクリート基盤のやゝ内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので構造的に堅牢である」と記載され、実施例を示す第1図にも右記載のとおり図示されていることから明らかである。
(二) これに対し、ロ号物件及びハ号物件は、基盤鉄筋1-1(横鉄筋)の外端部の位置に周囲を囲むように鉄筋1-2(縦鉄筋)を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成している(丙八ないし一〇、一四、一九、二〇)のであるから、本件考案の構成要件ハを具備しないことが明らかである。
3 被告ら物件は、構成要件ニ「前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し」を具備するか。
【原告の主張】
(一) 本件考案の構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部」とは、正にコンクリート基盤の外側端部をいうものであって、外側端部から内側にコンクリート基礎5が起立している場合は「外端部」の内側である。
本件考案の技術的思想は、コンクリート基礎5をコンクリート基盤2の外端部より内側に設けることにより、木造建築の床下基礎を堅牢にするというところにあり、そのために用いる縦鉄筋及びコンクリート基礎5を横鉄筋とコンクリート基盤2の外側に至らない限度においてできる限り外端部に近い内側の位置に設置することによって、結果的にコンクリート基盤の面積を広くして、貯蔵庫や収納庫としても利用できるという付随的作用効果をもたらすということからすれば、コンクリート基礎がコンクリート基盤の外端部から少し内側に起立していたとしても、それは作用効果に特別の差異を来すものではなく、実質的には本件考案と同一といって何ら差し支えない。
(二)(1) 被告新星和不動産は、基礎の概念をフーチング基礎(布基礎)とベタ基礎等に分類し、本件考案にかかる床下基礎はベタ基礎に限られるのに対し、イ号物件の基礎は建築力学的観点からは布基礎であると定義し、その結果、イ号物件は、本件考案とは基礎の概念が全く異なるからこの点で既に本件考案の技術的範囲に属しない旨主張する。
しかし、建築力学的観点から右のような分類が可能であるとしても、本件考案の出願当時右のような分類が確定していたとは認められないし、被告新星和不動産自身、その広告チラシ(甲一〇、一一)にイ号物件は「建物と一体化した頑丈なベタ基礎」であると記載し、イ号物件がベタ基礎であることを認めているように、一般的には、イ号物件も土間コンクリートを持つため、ベタ基礎として認識されているのである。
(2) イ号物件は、別紙イ号物件目録(二)によれば、コンクリート基礎(立上り基礎)2-3がコンクリート基盤2-1のやや内側に形成されているから、本件考案の構成要件ニを具備する。
被告新星和不動産は、コンクリート基盤2-1(布基礎部分のコンクリート)は本件考案の「コンクリート基盤」に含まれない旨主張するが、イ号物件において本件考案と対比されるべきコンクリート基盤は、コンクリート基盤2-1と横鉄筋の基盤2-2とを一体化したものをいうと理解するのが自然であるから、コンクリート基盤2-1を除外する根拠はない。
(3) 仮に、イ号物件のコンクリート基盤2-1が本件考案のコンクリート基盤から除外されるとしても、前記(一)のとおり、本件考案の構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部」とは正にコンクリート基盤の外側端部をいうものであって、外側端部から内側にコンクリート基礎5が起立している場合には「外端部」の内側であるというべきところ、コンクリート基礎2-3は、所定の幅で形成されてなるが、コンクリート基盤2-2の外端部から内側に起立していることが明らかであるから、イ号物件は構成要件ニを具備するというべきである。
(三)(1) ロ号物件及びハ号物件は、布基礎部分上にコンクリート基盤を一体的に接合してなるから(ロ号物件目録(一)、ハ号物件目録(一))、コンクリート基盤の外端部とは布基礎部分を含めたコンクリート基盤をいうと解すべきである。そうすると、ロ号物件及びハ号物件のコンクリート基礎は、コンクリート基盤の外端部の内側に形成されていることになり、構成要件ニを具備する。
(2) 仮に、布基礎部分はコンクリート基盤に含まれないとしても、ロ号物件及びハ号物件のコンクリート基礎は、イ号物件と同様、コンクリート基盤の外端部から内側に起立していることが明らかであるから、いずれも構成要件ニを具備する。
【被告新星和不動産の主張】
(一) まず、本件考案にかかる床下基礎はいわゆるベタ基礎に限られるところ、イ号物件の基礎は防湿用の土間コンクリートを併せ持った布基礎(フーチング基礎)であり、基礎の概念が全く異なるから、この点で既にイ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。
(1) 基礎は、その形式によりフーチング基礎(独立基礎・複合基礎・布基礎)やベタ基礎等に分類されるところ、布基礎は、逆T字形をした帯状のフーチングを持つもので、力学的にはそのフーチングで上部構造の荷重を支えることを特徴とするものであり、一方、ベタ基礎は、上部構造の底面積とほぼ同程度の大きさの板状のスラブ(耐圧板)を持ち、力学的にはスラブ全体に荷重を一様に分散させて支えることを特徴とするものである。したがって、ベタ基礎は、布基礎に比べ、荷重を支える基盤の面積が大きいため単位面積当たりの反力がかなり小さくなるから、軟弱地盤で有用とされ(乙三八)、また、仮に土質に差があったり不同沈下が起こったとしてもそこにかかっていた反力がその他のスラブに均等に広く分散されるため、布基礎に比べて不同沈下にも強いとされている。
本件考案がいくつかある基礎のうちベタ基礎に分類されることは、本件明細書の第1図や、本件無効審判事件における原告自身の審判事件答弁書(乙一九)の記載(「木造建築の布基礎においてすら…鉄筋が使用されていなかったものである。まして、本件実用新案のようにいわゆる木造建築の床下のベタ基礎に鉄筋群を形成することは…」)から明らかである。
(2) これに対し、イ号物件は、フーチングを持つと同時に防湿用の土間コンクリート(ベタ部分)をも持つ基礎であり、底面全体を占める板状の土間コンクリート(ベタ部分)を持つため、形状的観点から「ベタ基礎」と呼ばれることがある。現に被告新星和不動産が以前広告チラシにおいてイ号物件を「ベタ基礎」と表現したことがあるのはこのためである。
しかし、力学的観点から見ると、イ号物件は、荷重の大半をフーチング部分で支えており、ベタ基礎のようにスラブ全体に均等に広く小さく荷重が分散することはない。そのため、被告新星和不動産は、イ号物件の構造計算をする場合、防湿板部分にかかる反力は極めて小さいのでカウントせず、フーチング部分のみでも十分に上部構造を支えられるよう設計している。
したがって、イ号物件は、建築力学的観点からは布基礎に分類されるものであって、本件考案のような形状的にも力学的にも純然たるベタ基礎とは異なるから、本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。
(二) また、本件考案の構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5」は、コンクリート基礎5がコンクリート基盤2の外端部にある場合を含まない。
(1) 原告は、本件考案の出願当初の明細書(乙一の1)では、単にコンクリート「基盤2上にコンクリート基礎5…を…造り」としていたが、第一次補正(乙一の4)で「コンクリート基盤2の周側部に…コンクリート基礎5を設け」、第二次補正(乙一の8)で「コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側位置にコンクリート基礎を形成すべく」、第三次補正(乙一の10)で「コンクリート基盤2の外端部より内側位置にコンクリートを打設して」と順次補正し、更に第四次補正(乙一の12)では、特許庁の昭和六一年一〇月二二日付拒絶理由通知(乙一の11)の指示に従い、「コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側に形成したコンクリート基礎5」と補正したものである。このように、原告は、出願当初の明細書ではコンクリート基礎5とコンクリート基盤2との位置関係を限定していなかったのに、コンクリート基盤の外端部よりやや内側(A)と外端部のいずれをも含む「周側部」(A+B)という表現に変え、最終的には「外端部よりやや内側」(A)という限定した表現に変えたものである。本件無効審判事件においても、原告は、「建築用語図解辞典」(乙二〇)一五頁の図には「コンクリート基礎5をコンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成した」との点は開示されていないと指摘している(乙一九〔審判事件答弁書〕八頁2行ないし5行)のである。
したがって、本件考案においては、鉄筋1-2(縦鉄筋)が鉄筋1-1(横鉄筋)の内側位置に存することに対応して、その鉄筋1-2の部分に打設されたコンクリート基礎5もコンクリート基盤2(の外端部)よりやや内側でなければならず、外端部を含まないこととされているのであり、このことは、本件明細書の考案の詳細な説明の欄における「コンクリート基盤のやゝ内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので構造的に堅牢である…」との記載(本件公報4欄4行~6行)とも一致する。
(2) 原告は、本件考案の構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部」とは正にコンクリート基盤の外側端部をいうものであって、外側端部から内側にコンクリート基礎5が起立している場合には「外端部」の内側である旨主張するが、その主張の趣旨は不明であるものの、仮に右「外端部」は正にコンクリート基盤の一定幅を許さない端部であるという趣旨であるとすれば、コンクリート基礎はペラペラのものでなければ全て本件考案に含まれることになってしまうが、かかる解釈は言葉の遊びにすぎない。
(三)(1) イ号物件は、横コンクリート(土間コンクリート)の外端部に縦コンクリートを形成しているから、本件考案の構成要件ニを具備しない。
原告は、イ号物件において本件考案の「コンクリート基盤」に相当するのは布基礎部分を含めたものである旨主張する。しかし、本件考案の「コンクリート基盤」はいわゆる「ベタ基礎」であるから、布基礎はその概念に含まれないし、仮に、とにかくコンクリート基盤でありさえすればよいという考え方に立ったとしても、本件考案の「コンクリート基盤」とは、「外端まで一本すなわち一体の鉄筋で構成されている」鉄筋1-1を包むコンクリート基盤をいうところ(甲三〔審決書〕)、イ号物件のように布基礎部分の鉄筋と土間コンクリート(ベタ基礎)の鉄筋が、縦鉄筋を通して間接的につながっているような状態のものは、引っ張り強度の小さいコンクリートに十分な引っ張り強度を付与するための鉄筋にはならないから、「一本すなわち一体の鉄筋」とはいわない。したがって、布基礎部分の横の鉄筋は本件考案の鉄筋1-1(横鉄筋)には含まれず、ひいては、イ号物件において本件考案の「コンクリート基盤」に相当するのは土間コンクリートのみであって、布基礎部分のコンクリートはこれに含まれないと解すべきである。原告は、イ号物件において本件考案と対比されるべきコンクリート基盤は、コンクリート基盤2-1と横鉄筋の基盤2-2とを一体化したものをいうと理解するのが自然であるから、コンクリート基盤2-1を除外する根拠はない旨主張するが、ここでは布基礎部分のコンクリートが縦コンクリートを通じて土間コンクリートとつながっているか否かが重要なのではなく、本件考案の鉄筋1-1(横鉄筋)に相当する鉄筋はイ号物件ではどれであるのかが重要なのであり、縦鉄筋と横鉄筋の関係では、原告自身も、イ号物件における布基礎部分の鉄筋を除いて土間コンクリートの中の鉄筋のみを横鉄筋と理解しており、したがって土間コンクリートの鉄筋のみが本件考案の鉄筋1-1に相当すると認識しているのである。イ号物件の布基礎部分のコンクリート基盤が本件考案の「コンクリート基盤」に該当するとすれば、構成要件ホとの関係では、この一本の鉄筋で構成されている布基礎の「中央に水ぬき孔」が存在しなければならないという奇妙な解釈になってしまう。
(2) 原告は、仮にイ号物件のコンクリート基盤2-1が本件考案のコンクリート基盤から除外されるとしても、イ号物件のコンクリート基礎2-3は、コンクリート基盤2-2の外端部から内側に起立していることが明らかである旨主張するが、布基礎部分を除外すれば、コンクリート基礎2-3がコンクリート基盤2-2の外端部にあることは明白である。
【被告近鉄不動産の主張】
(一) 本件考案の構成要件ニにおいては、コンクリート基礎5をコンクリート基盤2の「外端部よりやや内側」に形成することを必須の要件としている。原告は、構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部」とはコンクリート基盤の外側端部をいうのであって、外側端部から内側にコンクリート基礎が起立している場合には「外端部」の内側であると主張し、新たに「外側端部」なる概念を持ち出すが、<1>外端部よりやや内側、<2>外端部、<3>外側端部は、通常の用法によればそれぞれその位置概念を異にすることが明らかである。
(二) ロ号物件及びハ号物件は、布基礎(フーチング基礎)を欠く公知のベタ基礎構造であって、コンクリート基礎5をコンクリート基盤2の外端部に形成しているのであるから、本件考案の構成要件ニを具備しないことが明らかである。
4 被告ら物件は、構成要件ホ「前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けた」を具備するか。
【原告の主張】
(一) 本件考案は、「木造建築の床下基礎」に関するものであるから、構成要件ホにいう「コンクリート基盤2の中央」とは、コンクリート基盤2全体の中央ではなく、床下(各部屋ないし各区画の床下)のコンクリート基盤の中央を意味するものというべきである。このことは、本件明細書の実施例を示す図面について、符号13は「床板」、14は「たゝみ」、15は「柱」、8は「床つか」等と記載されており、水ぬき孔が柱間の畳の直下すなわち各部屋を構成する柱間の床下の基礎の中央部分に設けられていることや、出願当初の明細書(乙一の1)には「床下Aは地下収蔵庫として部分的に、例えば台所などは板場として一部をあげ床板となし開閉自在にすることにより床下A部を貯蔵庫などに利用する。」と記載されていること、そもそも「コンクリート基盤全体の中央」という概念自体、基盤全体の形状によっては全く特定しえない場合が多いし、特定しうる場合でも基盤の構造上水ぬき孔を設けることができないことがあることから明らかである。
なお、コンクリート基盤2の「中央」という点についても、水ぬき孔は、基盤内にたまった水を流出することを目的とするものであって、その目的を達成するに必要な位置にあれば足りるのであり、そのような位置として最もふさわしい位置が通常は各スペース毎の基盤の中央であると予想されることから、実用新案登録請求の範囲において「中央」とされたにすぎない。
(二) イ号物件は、区画されたコンクリート基盤のほぼ中央付近に水ぬき孔が設けられている(検甲二の5・6・11・13・14、三の5・7、七の1・2、八の3、九の3・4、一〇の2・3・7・8、一一の3・4・5・6)から、構成要件ホを具備する。
被告新星和不動産は、イ号物件には水ぬき孔が、aコンクリート基盤上(場所は別として)にあるもの、b一切ないもの及びcコンクリート基礎の立上り部分にあるものの三種類がある旨主張するが、同被告は日本生命系の大手分譲住宅会社であり、同じ時期に同じ地域において開発・分譲した同規格の住宅について、その基礎の施工において各戸別々ということはありえない。同被告のような大手が住宅を建築する場合においては、通常、現実の工事を担当する各施工業者に対して、施工のばらつきがないよう工事の指図がなされるものであるから、水ぬき孔に同被告主張のようなばらつきがあるとすれば下請け業者の手抜き工事ということになろうが、基礎工事における水ぬき孔の設置は、工事中にたまった雨水等を排水することにより、完成後の建物の床下の湿気やそれに基づくいろいろな不都合を防止するという重要な意義を持つものであるから、このような手抜き工事が看過されたままで完成に至ることはありえない。
(三) ロ号物件(検甲五の4)及びハ号物件(検甲四の7~12)は、いずれも区画されたコンクリート基盤の中央付近に水ぬき孔が設けられている。被告近鉄不動産は、ロ号物件及びハ号物件に水ぬき孔が存在することがあったとしても本件考案の水ぬき孔の目的、効果とは異なる旨主張するが、水ぬき孔が存在する以上、本件考案と同様、水が流出する効果を得られることは当然であるから、同被告の意図ないし目的はともかく、構成要件ホを具備するものである。
【被告新星和不動産の主張】
(一) 本件考案の構成要件ホにいう「コンクリート基盤2の中央」とは、コンクリート基盤全体の中央部分を意味するものである。
原告は、水ぬき孔の位置について、本件考案の出願当初の明細書(乙一の1)では「該基盤2に任意水ぬき孔6を穿設」と記載し基盤の中央(A)とその他の位置(B)のいずれをも含む表現としていたが、第一次補正(乙一の4)以降は「コンクリート基盤2の中央」(A)のみに限定した表現に変えているのであり、本件明細書の第1図には、正にコンクリート基盤全体の中央に水ぬき孔6が図示されている。しかも、原告は、本件無効審判事件において、昭和五八年一一月二〇日発行の「DA建築図集 住宅 Ⅱ 木造の住宅」掲載の図面に示されたコンクリート基盤の中央やや右寄りに位置する排水口を指して、「該『水ぬき孔』はコンクリート基盤の中央に設けられていないため」本件考案と「構成上も相違する。」と主張している(乙二八)。したがって、水ぬき孔がコンクリート基盤全体の中央にないものは、構成要件ホを具備しないことになる。
原告は、ここでいう「コンクリート基盤2の中央」とは「床下(各部屋ないし各区画の床下)のコンクリート基盤の中央」を意味すると主張するが、そもそも「各区画」なるものは本件明細書上に何らの記載も示唆もなく、第1図でも床つか8があるにもかかわらずそのコンクリート基盤全体の断面の中央部分に水ぬき孔が示されているし、仮に原告主張のように各部屋ないし各区画の床下の中央を意味するとすれば、部屋や区画は建物毎に異なるから結局「任意の水ぬき孔」でよいことになるから、原告の主張は右出願審査・審判の経過からして到底認められるものではない。原告は、「コンクリート基盤全体の中央」という概念自体、基盤全体の形状によっては全く特定しえない場合が多い旨主張するが、そのような場合には、構成要件ホ自体が実施不可能なものとなるから、正に図面に示された実施例に限定されるべきである。
(二) 原告がイ号物件として写真を提出した<1>兵庫県川西市丸山台一丁目二番三一号(検甲一の2)、<2>同三四号(検甲一の3・4)、<3>同四九号(検甲一の5)、<4>同六〇号(検甲六の1~8)、<5>同所二丁目六番二号(検甲二の5~9)<6>同一三号(検甲二の10~14)の各物件のうち、<1>の物件についてはコンクリート基礎の立上り部分には水ぬき孔があったが(後で穴埋めされた)、コンクリート基盤に水ぬき孔はなく(乙二添付資料1)、<2>の物件については床下基礎のいずれの場所にも水ぬき孔はなく(乙一三)、<3>、<4>の各物件についてはコンクリート基盤部分に水ぬき孔があるものと考えられるが、いずれもコンクリート基盤の中央にはなく(検甲一の5、六の6)、<5>、<6>の各物件についてはコンクリート基盤に水ぬき孔があるが、その中央にはない(乙二添付資料2・4)。
このように、イ号物件には、水ぬき孔が、aコンクリート基盤上(場所は別として)にあるもの、b一切ないもの、cコンクリート基礎の立上り部分にあるが後で穴埋めされたものの三種類があるが、いずれも建築図面には一切示されていないので、被告新星和不動産において右<1>ないし<6>の各物件を含む日生ニュータウン丸山台の建売分譲住宅四期及び一〇期の合計四九物件における水ぬき孔の有無及びその位置について当時の下請業者から聞取り調査を行ったところ(乙一四)、コンクリート基盤部分に水ぬき孔を設けた可能性のあるものは一七件であり、その他の三二件は、コンクリート基礎の立上り部分に設けたか(これは竣工直前の仕上げの際、外から穴埋めしている)、又は一切設けていないとのことであった。
したがって、イ号物件においてコンクリート基盤のどこかの位置に水ぬき孔が存在する確率は低く、イ号物件の全てが前記<5><6>のタイプであるとの推認を生じさせるものではない。しかも、コンクリート基盤上に水ぬき孔があるものについても、「コンクリート基盤の中央」にはないから、構成要件ホを具備しない。仮に「コンクリート基盤の中央」が原告主張のように「各部屋ないし各区画の床下の中央」を意味するとしても、イ号物件の水ぬき孔はその位置には存在しないから、やはり構成要件ホを具備しない。
原告は、同じ時期に同じ地域で開発・分譲した同規格の住宅について、その基礎の施工において各戸別々ということはありえない旨主張する。しかし、被告新星和不動産は、「標準納まり図」という工事内容を指定した図面の内容に沿って工事を行うよう下請施工業者に指図しているが、水ぬき孔については、床下基礎の構造上必要なものとは考えておらず、ただ施工中に雨水等がたまって工事に支障が出ることを防ぐために、「標準納まり図」では基礎立上り部分に設け、工事後は外から穴埋めすることとしているのであって、水ぬき孔の設置やその位置により床下基礎が構造力学上何らの影響も受けないことから、水ぬき孔に関しては下請施工業者に指導徹底する必要はなく、むしろ下請施工業者の任意に委ねていたものであり、同時期に一〇戸ないし三〇戸の建築を行う場合には数社の下請施工業者に発注するため、結果として前記のような三種類が存在することになったものである。
【被告近鉄不動産の主張】
(一) 本件考案の構成要件ホは、「前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けた」というものであるところ、ロ号物件及びハ号物件は、コンクリート基盤の中央に水ぬき孔はなく、「打ち継ぎ部に水ぬきパイプ」が設置されているものであるから、その所在位置及び構造を全く異にし、構成要件ホを具備しない。
被告近鉄不動産は、昭和五九年に「標準図集」(丙一〇)によってコンクリート基盤2とコンクリート基礎5の打ち継ぎ部に水ぬきパイプを設置するよう基礎工事施工業者に指示したものであるが、それ以前は、水ぬき孔を経由して雨水や地下水が流入し、地盤の湿気が浸透し、シロアリの発生する危険もあることから、コンクリート基盤2に水ぬき孔を設置することを禁止していた(打ち継ぎ部に水ぬきパイプを設けても、排水口が地盤面より高い位置にあるからかかる弊害は生じない)。したがって、ロ号物件及びハ号物件に原告主張のような水ぬき孔が存在することは本来あってはならないことであるが、仮にロ号物件及びハ号物件に水ぬき孔が存在することがあったとすれば、建築業界においては、古くから建築工事途上のベタ基礎の基盤に滞留する雨水の排出を目的として一時的に便宜水ぬき孔を穿設することが常態化しているため、同被告の下請の基礎工事施工業者においても、ベタ基礎施工途上に基盤に滞留する雨水の排出を目的として一時的に水ぬき孔を穿設しながら、たまたまその後の埋戻しを失念した結果、ベタ基礎基盤に水ぬき孔が残存することになったものと考えられる。しかし、これは基礎工事施工業者の指示違反ないし怠慢の結果であり、また、右水ぬき孔は、本件考案の水ぬき孔の目的、効果(コンクリート基盤にたまった水を経常的に排出して基盤を乾燥させること)とは異なり、たまたま排水孔を埋め戻しせずにそのまま放置した結果にすぎず、地下水等の流入、湿気の浸透を防止するという目的に照らせば不必要な消極要件であるから、これをもって本件実用新案権を侵害したものということはできない。
(二) なお、被告近鉄不動産が施工した奈良県生駒市小明町所在「小明台住宅地」の生田弘行方(甲一七、検甲一五の2~4、丙一五)及び奈良市押熊町所在「登美ヶ丘住宅」(丙一六)、生駒市上町所在「白庭台住宅」(丙一七)、京都府相楽郡木津町所在「木津川台住宅」(丙一八)の各住宅地二〇軒宛合計六〇軒を調査したところ、生田方のコンクリート基盤には水ぬき孔が全く存在せず、その他の登美ヶ丘住宅、白庭台住宅及び木津川台住宅の合計六〇軒のいずれにも、そのコンクリート基盤上に原告主張の水ぬき孔は存在せず、前記「標準図集」に従って打ち継ぎ部の水ぬきパイプが存在した。
二 争点2(本件考案は出願前公知の考案であるか)について
【被告新星和不動産の主張】
本件考案は、その出願前に頒布された刊行物に構成要件の全てが記載された全部公知の考案であり、また、公知の技術を単に寄せ集めた考案にすぎず、その実用新案登録に無効事由があるから、かかる登録無効事由を有する本件実用新案権に基づく本件請求は権利の濫用に当たり許されない。
1 「住宅建築」昭和五二年四月号一一九頁「柴田邸矩形詳細図」(乙四)には、本件考案の構成要件イないしホの全てが示されており、本件考案は出願前全部公知の考案である。すなわち、
イ 地盤上に「割栗石」(ぐり石)との記載があり、ぐり基礎が設けられている。
ロ 鉄筋は図面には明示されていないが、基礎コンクリートにある表示記号は、鉄筋入りのコンクリートであることを示しており(乙五の1〔宮島正栄著「だれにもわかる木造建築の実際(第2版)」〕四七頁、乙五の2〔川島隆著「JISに基づく最新標準製図法」〕三〇三頁)、基礎には鉄筋が組み入れられていることが分かる。
ハ 組み入れられている鉄筋は、コンクリート基礎(縦コンクリート)とコンクリート基盤(横コンクリート)との位置関係から、縦鉄筋が横鉄筋の外端よりやや内側に位置していることは明らかである。
ニ コンクリート基礎(縦コンクリート)がコンクリート基盤(横コンクリート)の外端よりやや内側に打設されている。
ホ コンクリート基盤表面には傾斜が設けられており、その最も低くなる部分に「排水」との記載がある。これは明らかに本件考案の「水ぬき孔」に当たる。しかも、水ぬき孔の位置についての原告の主張に従ったとしても、柱間の畳の直下の中央にある。
右「柴田邸」について更に調査した結果をまとめた報告書(乙四六)添付の基礎伏図には、「排水」と記載された「水抜き孔」が部屋の床下部分に当たる箇所に明示されており、給排水衛生瓦斯設備工事図にも複数の水抜き孔が示されている。
ヘ 木造建築の床下基礎である。
2(一) 木造建築の床下基礎に鉄筋を用いることは、次の各公知資料(これらは本件無効審判事件では提出されていない)により本件考案の出願前に公知であった。原告は、本件無効審判事件において、本件考案は木造建築の床下基礎に鉄筋を用いたことに進歩性があるかのような主張をしていたが(乙一九の二一頁)、誤りである。
(1) 昭和五一年九月二〇日発行の杉山英男著「木質構造の設計」(乙六)には、布基礎について「住宅でも(たとえ平家建でも)鉄筋コンクリートとすることが望まれる。」と記載されており、木造建築における布基礎に鉄筋を組み入れる技術が示されている。
(2) 昭和四四年一一月三〇日発行の久田俊彦等共著「建築学大系15 木構造・特殊構造」(乙七)には、木造建物の各部の構造上の注意点として、「小住宅などの小規模建物の基礎はコンクリートブロック、石などとすることができるが、通常、鉄筋コンクリートまたはコンクリートの布基礎とするのがよい。」と記載されている。続いて「学校・事務所などの大規模建物においては、鉄筋コンクリート造とする。軟弱地盤や不同沈下の恐れがある場合も同様である。」と記載され、軟弱地盤や不同沈下の恐れのある場合は、むしろ鉄筋入りとするのが普通であることが示されている。
(3) 昭和三五年二月一〇日発行の浅間敏生著「構造物の基礎-その設計と施工-」(乙八)には、本件考案のような「ベタ基礎の最も簡単で普通の型式は鉄筋コンクリートスラブから成っていて、これが上部構造の壁や柱を支持しそれから下の土に荷重を分布せしめる」と記載され、ベタ基礎が鉄筋コンクリートから成っていることが示されている。
(4) 昭和五一年一一月三〇日発行の鈴木三郎著「基礎」(乙九)には、「ベタ基礎の場合は…スラブ用の鉄筋も…」(四五頁)、「木造住宅の基礎は鉄筋を入れることは非常に少ないのですが、地盤が軟弱なときは不同沈下を防止するために、布基礎のせいを大きくし、これに鉄筋を入れて布基礎全体が剛性の大きい梁として働くように設計されることもあります。また地盤が弱いときはフーチングの幅も大きくなるので、この部分も鉄筋がないともたなくなるのです。」と記載され、木造住宅の基礎でも、地盤が軟弱な場合は当然に鉄筋を組み入れることが示されている。
(5) 昭和四八年五月一八日に出願公開された実開昭四八-三九七〇三号公開実用新案公報(乙一〇の1)の第3図に従来一般のベタ基礎断面図として、コンクリート基盤に鉄筋が入っていることが示されており(前記乙五の1・2によれば、その表示記号が鉄筋入りであることを示している)、またその外端部よりやや内側に柱(コンクリート基礎もありうる)が示されている(構成要件ロ、ハ、ニ)。
昭和四八年八月二七日に出願公開された実開昭四八-六七五一六号公開実用新案公報(乙一〇の2)には、鉄筋ユニット(鉄筋群)において縦筋が横筋の内側に垂直に締結組み立てられている位置関係が示されている(構成要件ハ)。
昭和五二年九月三〇日に出願公開された特公昭五二-三八六四四号特許公報(乙一〇の3)には、横鉄筋の外端部より内側位置に周囲を囲むように縦鉄筋を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成すること(構成要件ハ)がそのまま図示されている。この鉄筋にコンクリートを打設すれば、本件考案の構成要件ニを具備することも明らかである。
(6) 昭和四九年八月一日発行の「中高層建築設計施工総覧」(乙三〇)には、「鉄筋コンクリート造に限らず一般に基礎構造は、一体性・耐久性の点から、鉄筋コンクリート造が適しており、その形態により、独立フーチング基礎・複合フーチング基礎・連続フーチング基礎、ベタ基礎等に大別される」と記載されている。また、建築基準法施行令四二条二項には木造建築においても、「土台は一体の鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造の布基礎に緊結しなければならない」と規定されており(乙三五)、本件考案の出願当時、木造建築の床下基礎に鉄筋を用いることは至極ありふれたことであった。その他、昭和四四年一二月一〇日発行の「木造の詳細」(乙三六)にも鉄筋入りのベタ基礎が示されている。
(7) 乙第二七号証の1(殖産住宅相互株式会社技術開発部長作成の証明書)によれば、殖産住宅相互株式会社が昭和四九年頃施工した戸田市所在の高橋義平方木造瓦葺二階建の建築工事における基礎工事の内容は、ぐり基礎を設け、基盤の横鉄筋の端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋群を形成し、コンクリート基盤の外端部よりやや内側にコンクリート基礎を接合したというものである(構成要件イ、ロ、ハ、ニ、ヘ)。
(8) 建築物の基礎は、上部構造のいかん(木造、RC造、鉄骨造等)にかかわらず、耐力上安全になるように丈夫なものが考案されてきたのであり、建築技術者は、耐力上安全になるものを構造物の機能、荷重、地盤の状態により選び出し、最後に工費との関係を勘案して基礎の形式を決定するのである(昭和四六年三月一〇日発行の浅間敏生著「構造物の基礎-その設計と施工-」〔乙三七〕、昭和五一年五月一〇日発行の小林秀彌等共著「建築一般構造」〔乙三八〕)。したがって、建築学上、基礎は上部構造によって分類されているものではないから、RC造や鉄骨造等、木造以外の建築物の基礎も、また地下室のあるものもないものも、本件考案の公知資料となりうることは当然である。そうすると、鉄筋入りのベタ基礎なるものは、数限りなく存在する(「住宅建築」昭和五一年五月号〔乙三九〕、「住宅建築」昭和五一年七月号〔乙四〇〕、昭和四六年一二月二〇日発行の近畿工高建築連盟編「共同住宅」〔乙四一〕、昭和五一年一月二〇日発行の湯浅佳郎著「鉄筋コンクリート構造の設計」〔乙四二〕)。
(二) 一方、ぐり基礎上のコンクリート基盤に水ぬき孔を設けることは、前記乙第四号証のほか、「住宅建築」昭和五二年一一月号「熱海の家-Ⅱ矩形詳細図」(乙二二)に記載されており(基礎の立上り部分に「空気抜」との記載があり、破線でその孔の様子が示されている。これは通風を目的としたものと考えられるが、孔の位置からして、基盤部分に水がたまれば水もここから流れ出ることは明らかであり、水ぬき孔としての役割も果たすものである)、本件考案の出願当時において既に公知公用の技術であった。
(三) ところで、本件考案の構成要件は、<1>鉄筋入りのベタ基礎とすること(構成要件イないしニ)と<2>コンクリート基盤に水ぬき孔を設けること(構成要件ホ)とからなり、<1>の構成によって基礎上の構造物の耐久性が良好になり、また床下を貯蔵庫、収納庫として利用でき、<2>の構成によって排水効果がある、との作用効果を奏するものと考えられる。
原告は、構成要件イないしへが有機的に一体結合することにより本件考案特有の効果が相乗的に得られる旨主張するが、<1>の構成(イないしニ)と<2>の構成(ホ)によってそれぞれ右の効果が得られるとしても、両者はそれぞれ別個のものであり、鉄筋入りのベタ基礎と水ぬき孔とを単に寄せ集めただけであって、各構成要件が何ら有機的に結合するものではなく、したがって、作用効果もそれらの総和を超えることはなく、相乗効果は得られない。
【被告近鉄不動産の主張】
本件考案は、単に実用新案法三条一項一号ないし三号に該当する公知技術を構成要素とする考案にすぎず、仮にそうでないとしても同条二項の考案に該当し、結局本件考案の実用新案登録は無効事由を有するから、かかる本件実用新案権に基づき実用新案法に定める権利を主張することはできない。仮に何らかの権利を主張できるとしても、その保護範囲はきわめて限定的に解されるべきものであって、本件明細書に記載されている字義どおりの内容の権利と解釈するか、又は本件明細書に記載された実施例に厳格に一致するものに限定されると解釈されなければならないところ、ロ号物件及びハ号物件は諸点において右実施例と異なるから、本件実用新案権を侵害するものではない。
1 本件考案の構成要件イないしニは、以下のとおり、本件考案の出願前に、一体として「ベタ基礎」といわれ、一般に知られていた建築物基礎の一類型であって、これを各構成部分毎に分解して個々の構成要件としたものにすぎず、個々的に評価しても全体的に評価しても何ら新規性を有しない。
(一) 基礎とは、構造物の上部構造からの荷重を地盤に伝える下部構造の総称であり、広義には地業をも含むものであり(昭和四九年一〇月一〇日発行の「建築大辞典」〔丙一〕、昭和五一年一一月三〇日発行の鈴木三郎著「住宅工事の要点-基礎」〔丙二〕)、その形式上、独立基礎、布基礎、複合基礎、ベタ基礎に分類される。独立基礎は一本の柱、布基礎は壁、複合基礎は壁又は二本以上の柱、ベタ基礎は全ての柱及び壁の支持を目的とする基礎である(昭和五一年五月一〇日発行の小林秀彌外著「建築一般構造」〔丙三〕、昭和三五年二月一〇日発行の浅間敏生著「構造物の基礎」〔丙四〕)。
このような基礎の概念は、木造、石造、鉄筋コンクリート、橋梁等の構造物のいかんにかかわらず、およそ全ての構造物の基礎にかかる一般的共通概念として本件考案の出願前に既に確立されていた公知の概念であって、木造建築の床下基礎としての特有の基礎概念が存在するわけではない。また、基礎素材については、木材、天然石、無筋コンクリート、鉄筋コンクリート等が出願前に公知となっていた(前記丙二、乙九)。
荷重が僅小であるか地盤が強くそれ自体の支持力が強い場合には独立基礎が有用とされ、荷重の大小と地盤支持力の強弱との相対的関係に相応して布基礎又は複合基礎が有用とされ、荷重が大きくこれに比して地盤の支持力が弱い場合にはベタ基礎が有用とされるが、実際の構造物の設置工事に際し右のいずれの基礎によるかは、構造物の機能、上部構造物の荷重、地盤の強弱、設置工事費用の多寡等の諸条件を勘案して最終的に決定される(前記丙二、四、乙九)。
(二) そして、本件考案の出願当時、既に独立基礎の一つとして裾広がりの下部フーチングと上部立上り(基礎梁ともいう)の二要素からなる形態が観念されており、布基礎、複合基礎は複数個の独立基礎のそれぞれのフーチングと立上りを直列的に連結一体化したものとして、ベタ基礎は構造物の平面積に等しいフーチングに立上りを連結拡大して一体化したものとして観念されていたものであるが(前記丙二ないし四、乙八、九)、鉄筋の引張応力とコンクリートの圧縮応力とを組み合わせた鉄筋コンクリート製のベタ基礎が観念され、刊行物においても、その具体的な施工方法について、「先ず主筋をならべそれに直角に配力筋である縦筋をならべて交差する所を結束線で結束します。…フーチングの鉄筋が組み終ったら、立上りつまり基礎梁のほうの鉄筋にかかるのですが、このほうは先ず縦筋を組み、これに主筋である長手方向の横筋を結束してゆきます。…鉄筋の組立てが終ったら、先ずフーチングのコンクリート打ちを行ないます。…次は立上りのコンクリートを打つのですが…」と具体的に記載されている(前記丙二、乙九)。
(三) したがって、本件考案の構成要件イは、一般的基礎概念に包含されている地業を指すのであって、その公知性は原告自身が本件明細書の考案の詳細な説明の欄に明記しているとおりであり、構成要件ロ及びハは、フーチングと立上りの接点に関する「外端部より内側位置に周囲を囲むように」との部分を除き、一般的な鉄筋コンクリート製ベタ基礎におけるフーチングと立上りの前記配筋に関する公知事実を要件としたものにすぎず、構成要件ニは、「外端部よりやや内側に形成した」との部分を除き、一般的な鉄筋コンクリート製ベタ基礎におけるフーチングと立上りのコンクリートの打込みに関する前記公知事実を要件としたものにすぎない。右フーチングと立上りの接点に関して、フーチングの外端部より内側位置に立上りを設置すれば、フーチングの平面積は構造物の平面積より大きくなり、これが同一の場合に比較してより重い荷重に耐えうることは見やすいことであり、基礎の設置工事に従事する当業者であれば誰でも熟知している事実であるが、他方フーチングを大きくすればそれだけ工事費用が多額になるのであって、この点は、構造物の荷重と地盤の強弱、設置費用の多寡との相関関係で選択すべきことであり、公知の知見にすぎない。したがって、本件考案は、正に右公知のベタ基礎の概念と全く同一の考案である。
2 また、本件考案の構成要件ホについては、ベタ基礎底部の中央であるか否かは別として(本件考案が水ぬき孔をベタ基礎底部の「中央に」設けることとした理由は不明であるが)、ベタ基礎底部に水ぬき孔(排水孔)を設置することは、既に本件考案の出願前に建設業界において、建設工事途上ベタ基礎底部に一時的に滞留する雨水を排出することを目的として、一般的に実施されていたことであり、ベタ基礎の最も排水に適した任意の位置に穿孔するものとされ、ベタ基礎上に建築物が構築され雨水がベタ基礎内に流入する恐れがなくなった時点において、建築物完成後に水ぬき孔から地下水がベタ基礎内に逆流入することによる湿気の被害を防ぐため、これを閉塞していたものである。したがって、構成要件ホは、水ぬき孔の位置がベタ基礎底部の中央であるか否かの点を除けば、本件考案の出願前における一般的な作業慣行のうち、水ぬき孔を閉塞しない状態と一致するものである。なお、本件考案は、右のように水ぬき孔を閉塞しないままの状態に存置する点が利点として主張され評価されて登録されたものと考えられるが、水ぬき孔を存置することはベタ基礎内に地下水の浸透、逆流入を許す結果となり、必ずしも産業上利用すべき考案とはいい難い。
3 以上のとおり、本件考案は、出願前に公知のベタ基礎に関する技術とベタ基礎のフーチングに排水孔を穿孔するという技術を単に合体させたものにすぎず、何ら進歩性を有するものではない。
【原告の主張】
1 本件考案の実用新案登録については、既に本件無効審判事件において主張、立証が尽くされた上、平成五年三月一日付で無効審判請求は成り立たないとの審決がされ、確定しているのである(甲三)。したがって、本件訴訟において、本件無効審判事件の際にすら提出しなかった資料をもって、本件考案の登録の無効を主張することは明らかに失当であり、再度無効審判を請求すべきものである。
2 被告新星和不動産提出の公知資料には、以下のとおり、本件考案の構成要件全てを一体的に備えた技術は示されていない。本件考案は、構成要件イないしへが有機的に一体結合した木造建築の床下基礎にあることを要旨とするものであり、これにより本件考案特有の効果が相乗的に得られるものであって、被告新星和不動産提出の各公知資料にはこのような本件考案に特有の効果を奏するものは存在しない。
(一) 乙第四号証(「住宅建築」昭和五二年四月号一一九頁「柴田邸矩形詳細図」)について、被告新星和不動産は、本件考案の構成要件イないしホの全てが示されていると主張するが、その図面では、土盤上にぐり基礎が設けられていない外、縦鉄筋が横鉄筋の外端部より内側にあるとの要件が明示されておらず、コンクリートと鉄筋との関係についても本件考案のような構成要件として示されていない上、「水ぬき孔」についても、単に「排水」と記載されているのみで、これが本件考案の構成要件ホにいう「水ぬき孔」と一致するものとはいえない。
被告新星和不動産は、縦コンクリートと横コンクリートとの位置関係から縦鉄筋が横鉄筋の外端よりやや内側に位置していることは明らかである旨主張するが、明確に図示されていない構成をもって同一構成であるということはできない。水ぬき孔についても、右図面記載の「排水」は本件考案にいう水ぬき孔ではなく、生活用水の排水口を指すものと考えられる。同被告が援用する乙第四六号証には、水ぬき孔も排水口も一律に記載されているので、一方が水ぬき孔で他方が排水口であるとするのは不自然であるし、そもそも水ぬき孔は建築図面には一切示されていないとする同被告の主張とも矛盾する。
(二) 乙第五ないし第九、第三〇ないし第三六、第四一、第四二号証には、「鉄筋コンクリート造」が示されているとしても、本件考案の構成要件である、縦鉄筋と横鉄筋との構成やコンクリート基盤とコンクリート基礎との構成は何ら示されていない。
(三) 乙第一〇号証の1の第3図には、縦鉄筋と横鉄筋が組み入れられたところが示されていない。また、同号証の2のものは、本件考案のように縦鉄筋が横鉄筋の外部より内側に位置しているものではない。同号証の3のものは、横鉄筋の孔に縦鉄筋が挿入されている構造であり、本件考案の構成とは異なる。
(四) 乙第一一、第一二号証には、本件考案の構成要件が示されていない。
(五) 乙第一八号証は、木造建築の床下基礎ではなく半地下室の構造に関するものであって、本件考案とは無関係である。
(六) 乙第二四号証の図面は、基礎の種類を概説したものであるが、そのベタ基礎の図面から直ちに本件考案のコンクリート基礎とコンクリート基盤との構成が公然知られていたと認定できるものではない。
(七) 乙第二七号証の1(証明書)添付の写真では、本件考案の各構成要件中水ぬき孔に関する構成要件以外(イ、ロ、ハ、ニ、ヘ)が全て開示されているとは到底判別できない上、同書添付の図面は後日作成されたものであり、この図面と右写真とが同一の構成を示しているとは認められない。
(八) 乙第三七ないし第四〇号証は、木造以外の建築物の基礎にかかるものであり、本件考案は、木造建築の床下基礎として登録されたものであって、一般の基礎を対象とするものではない。
3 被告近鉄不動産は、本件考案は公知のベタ基礎の概念と全く同一の考案である旨主張するが、同被告提出の公知資料には本件考案の構成要件イないしへの全てが示されているものは存しない。
三 争点3(イ号物件は、出願前公知の技術を利用したものであり、被告新星和不動産において自由に実施できるものか〔自由技術の抗弁〕)について
【被告新星和不動産の主張】
イ号物件は、本件考案の出願前の公知技術である後記2の技術を使用したものであり、いわゆる自由技術の抗弁により、本件実用新案権を侵害するものとはならない。
1 イ号物件は、本件考案の各構成要件と対比すれば、構成要件イについては、「ぐり基礎」ではなく「砕石基礎」であり、構成要件ハについては、縦鉄筋を横鉄筋の外端部より内側位置ではなく、横鉄筋の外端部に組み立てたものであり、構成要件ニについては、コンクリート基盤の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎ではなく、コンクリート基盤の外端部に形成したコンクリート基礎である(検甲一の1~6)。
2 本件考案の出願前の公知資料である昭和五二年一〇月一日発行の「木造住宅一〇〇選」(乙一一)には、イ号物件と同一の布基礎を含む防湿(土間)コンクリート(横鉄筋が組み込まれている)と鉄筋コンクリート基礎とが図示されている。
また、昭和五二年二月二〇日発行の「住宅設計図集成」(乙一二)にも、イ号物件と同じ布基礎が示されている。
四 争点4(被告らが不当利得返還義務を負う場合に、原告に対し返還すべき利得の額)について
【原告の主張】
1 原告は、被告新星和不動産によるイ号物件の施工及び被告近鉄不動産によるロ号物件、ハ号物件の施工により、本件考案の実施料相当額の損失を被り、被告らは法律上の原因なくしてこれと同額の利益を得た。右実施料相当額は、一件あたり一一万二五〇〇円を下らない。
2(一) 被告新星和不動産は、昭和五八年一月一日から本件実用新案権の存続期間満了日の平成四年一二月二四日までの間に、床下基礎としてイ号物件を施工した住宅を少なくとも四七一二戸建築し、販売した。
(二) 被告近鉄不動産は、同じ期間に、床下基礎としてロ号物件及びハ号物件を施工した住宅を少なくとも四五一三戸建築し、販売した。
3 したがって、被告新星和不動産の利得額は五億三〇一〇万円を、被告近鉄不動産の利得額は五億〇七七一万二五〇〇円をそれぞれ下らないから、原告は、被告らに対し、そのうちそれぞれ二億五〇〇〇万円の返還を求める。
【被告新星和不動産の主張】
1 原告の主張事実は否認する。
2 原告主張の期間のうち出願公告前の分の請求は補償金請求と解さざるをえないところ、同補償金請求権は、出願公告後三年の経過により時効消滅した。
第四 争点1(被告ら物件は、本件考案の技術的範囲に属するか)に対する判断
一 まず、被告ら物件が、構成要件ハ「該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し」及び構成要件ニ「前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し」を具備するか否かについて判断する。
1 被告新星和不動産は、本件考案にかかる床下基礎はいわゆるベタ基礎に限られるところ、イ号物件の基礎は防湿用の土間コンクリートを併せ持った布基礎(フーチング基礎)であり、基礎の概念が全く異なるから、この点で既に本件考案の技術的範囲に属しない旨主張するので、まずこの点について検討する。
(一) 乙第八、第三〇、第三七、第三八号証、丙第一、第三、第四号証(いずれも本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物)によれば、いわゆる「基礎」(footing, foundation)とは、上部構造からの荷重を地盤に伝える下部構造の総称であり、独立基礎(独立フーチング)、布基礎(連続フーチング)、複合基礎(複合フーチング)及びベタ基礎(マット基礎)に分類されること、独立基礎(独立フーチング)は、単一の柱を支える形式の基礎、布基礎(連続フーチング)は、壁又は一連の柱列の応力を帯状のフーチングで支える形式のもので壁式構造(柱、梁の代わりに壁で荷重を支持する構造)の基礎として常用されているもの、複合基礎(複合フーチング)は、二本あるいはそれ以上の柱からの応力を一つの基礎スラブで地盤に伝える形式の基礎、ベタ基礎(マット基礎)は、上部構造の全面積を支える単一のスラブが支持層に乗っているような基礎であること、ベタ基礎(マット基礎)は、他の基礎に比べて基礎の底面幅がはるかに大きく、支持力及び沈下を支配する領域が基礎底面下のかなりの深さまで達するものであるので、地盤が悪く、地耐力が小さい場合に用いられるものであることが認められる。
(二) そこで、本件考案にいう床下基礎についてみるに、本件明細書の実用新案登録請求の範囲にはこの点に関する明確な記載はないが、考案の詳細な説明の欄には、本件考案の作用効果として、「鉄筋1-1、1-2は共にしつかりと締結組み立てされており、更にコンクリートで一体に成形されておるのでコンクリート基礎5とコンクリート基盤2は強固に連続して一体化されるので、土盤3が仮に部分的に軟弱で不同沈下を起こしたり、或は崖崩れ等で削り取られても広い面積に全体的に鉄筋1-1の入ったコンクリート基盤2が変形しない限り、コンクリート基礎5は建築基礎として部分的に損壊することがない。又、コンクリート基盤2とコンクリート基礎5がしっかりと鉄筋の入った状態で一体化した頑丈な構造であるため、コンクリート基盤2上に設ける犬ばしり7、コンクリート基盤2上に立設する床つか8等も亀裂、傾き等の狂いを生じることなく、永く施工当初の形態を保持し、コンクリート基礎5上に組み立て建造する建造物、造作、建具、付属物等も亦狂い、変形をきたすことなく耐久性が著しく良好となる。」(本件公報2欄21行~3欄10行)、「コンクリート基盤2が下側からの湿気を防ぎ、周囲はコンクリート基礎5で一体に囲まれているため、床下の殆どが広い貯蔵庫、収納庫として利用出来、野菜、什器類を大量に貯蔵収納することが可能となり」(同欄15行~4欄2行)との記載があり、右のようにコンクリート基盤及びコンクリート基礎が強固に連続して一体化されることにより不同沈下等を防止し、耐久性を向上させ、また、床下全面にコンクリート基盤が設けられることにより床下内を野菜等の貯蔵庫として利用できるなどの作用効果は、前記(一)[認定の事実に照らしてベタ基礎特有の効果ということができ、例えば布基礎の場合は、壁又は一連の柱列の応力を帯状のフーチングで支えるのみであるから、右のような本件考案の作用効果を奏しないものといわざるをえない。
また、本件考案にかかる床下基礎の唯一の実施例を示す本件明細書の第1図には、建物の全面積を支える基礎であるベタ基礎が描かれていることが明らかである。
したがって、本件考案にかかる床下基礎は、前記(一)認定の基礎の分類中のベタ基礎であって、それ以外の独立基礎、布基礎及び複合基礎を含まないことが明らかである。
(三) イ号物件は、原告の特定(イ号物件目録(一))によれば、鉄筋1-1(横鉄筋)の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2(縦鉄筋)を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(構成ハ)、鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(構成ニ)たものであるから、本件考案と同様、ベタ基礎ということになる。
一方、被告新星和不動産の特定(イ号物件目録(二))によれば、布基礎下部のぐり石(砕石)の上に捨てコンクリートを打設し、該捨てコンクリートの上に鉄筋1-1(縦鉄筋)を組み立て、布基礎鉄筋群を形成し(図面2)、鉄筋1-1部分にコンクリートを打設し、コンクリート基盤2-1を形成し(図面3)、鉄筋1-1に鉄筋1-2(横鉄筋)を締結し、防湿板の鉄筋群を形成し(図面4)、鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設し、防湿板2-2を形成し(図面5)、更に、鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設し、立上り基礎2-3を形成し、一体的に接合し(図面6)たものであって、「布基礎」の語が用いられている点において右原告の特定によるものと一見異なるかのようである。しかしながら、原告による特定のイ号物件目録(一)添付のイ号図面と被告新星和不動産による特定のイ号物件目録(二)の図面とは、基礎の分類という観点からは実質的に同一であるのみならず、イ号物件目録(二)によっても、本件考案の「コンクリート基盤2」に対応する「防湿板2-2」は、鉄筋1-1(縦鉄筋)に締結された鉄筋1-2(横鉄筋)部分に打設され、その結果鉄筋1-1部分に打設された立上り基礎2-3(本件考案の「コンクリート基礎5」に対応)と一体的に接合されることになるから、建物の全面積を支える基礎であって基礎の底面幅が大きく、支持力及び沈下を支配する領域が基礎底面下のかなりの深さにまで達するものと認められる。
そして、右イ号物件目録(一)添付のイ号図面とイ号物件目録(二)の図をも併せ考えれば、イ号物件は、本質的にはベタ基礎であって、これに布基礎の要素を付加したものと認められる(原告による特定のイ号物件目録(一)では、布基礎の要素を付加したものである点を明示していないだけである)。
したがって、イ号物件は、本質的には本件考案と同様のベタ基礎に属するものであるから、イ号物件は本件考案にかかる床下基礎と基礎の概念が全く異なるからこの点で既に本件考案の技術的範囲に属しないとする被告新星和不動産の主張は採用することができない。
(四) ロ号物件及びハ号物件については、原告は布基礎部分があると主張するが(前記第三の一3【原告の主張】(三)(1))、そのロ号物件目録(一)、ハ号物件目録(一)によれば、本質的にベタ基礎であることに変わりはなく、被告近鉄不動産は公知のべタ基礎構造であると主張するので(同【被告近鉄不動産の主張】(二))、ロ号物件及びハ号物件がベタ基礎に分類できることは、当事者間に争いがないことになる。
2 そこで、次に構成要件ハにいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」及び構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側」の意義について検討する。
(一) 原告は、構成要件ハにいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」の意義については、厳格な意味で縦鉄筋が横鉄筋の外端部から相当離れた位置にある場合に限られるものではなく、横鉄筋の先端部が折り曲げられることによって、その折曲げ部(外端部)から内側位置に縦鉄筋が設けられる場合を含むものであり、この場合も縦鉄筋の位置が横鉄筋の内側位置にあること自体は否定し難く、これによって縦鉄筋を横鉄筋に対して容易に締結組み立てて本件考案の課題である強固な鉄筋群を形成することができるから、右構成要件を具備する旨主張し、構成要件ニにいう「コンクリート基盤2の外端部」の意義については、正にコンクリート基盤の外側端部をいうものであって、外側端部から内側にコンクリート基礎5が起立している場合は「外端部」の内側である旨主張する。
これに対し、被告新星和不動産は、構成要件ハにいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」は横鉄筋(鉄筋1-1)の外端部それ自体の位置を含まないところ、横鉄筋の下方への折曲げ部分がほんの少し縦鉄筋より外方へ出ていても、その縦鉄筋の位置はここでいう「内側」ではなく「外端部」に当たる旨主張し、構成要件ニについては、コンクリート基礎5がコンクリート基盤2の外端部にある場合を含まない旨主張する。被告近鉄不動産も、被告新星和不動産とほぼ同旨の主張をしている。
原告の主張は、要するに、構成要件ハ、ニにいう「外端部」とは、厳密に横鉄筋又はコンクリート基盤の外側面(厚みのない面のみ)そのものを指し、縦鉄筋又はコンクリート基礎が横鉄筋又はコンクリート基盤のかかる外側面以外であればそれより僅かでも内側にあれば「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」又は「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側」といえるのであり、本件考案の構成要件ハ、ニを具備するとの趣旨であると解される。これに対し、被告らの主張は、「外端部より(やや)内側位置」というためには、横鉄筋又はコンクリート基盤2の外側端面よりも相当の距離を置いた内側であることを要するとの趣旨であると解される。
(二) この点について、本件明細書には、これらの語句の意味内容を直接具体的に説明するような記載は存しない。しかし、発明の詳細な説明の欄において、コンクリート基礎をコンクリート基盤の外端部のやや内側に形成したことの作用効果について、「コンクリート基盤のやや内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので構造的に堅牢であると共に通常の家屋よりも重量がふえる効果をも具有した考案である。」(本件公報4欄4行~8行)との記載があるところ、コンクリート基礎を設ける位置いかんによりコンクリート基盤それ自体の面積が「絶対的に」広くなるということはありえないから、右の記載は、本件考案がコンクリート基盤のやや内側にコンクリート基礎を設けたものであるため、コンクリート基盤2の面積がコンクリート基礎で囲まれた面積よりも相対的に広くなった(そのことにより、構造的に堅牢であるとともに通常の家屋よりも重量が増えるという効果をも具有するに至った)との趣旨であることは明らかである。そうすると、本件考案にいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」及び「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側」とは、コンクリート基盤2の面積がコンクリート基礎5で囲まれた面積よりも相対的に広いことが十分に明確になる程度に、コンクリート基礎5がコンクリート基盤2の外側端面から内側へ相当(有意な距離だけ)離れた位置に形成されることを意味し、そのために、縦鉄筋が横鉄筋の最外端から内側へ相当離れた位置に締結組み立てされることを意味するというべきである(横鉄筋はコンクリート基盤の外側端面の近くまで延ばして組み立てられるものと考えられるから、縦鉄筋が横鉄筋の最外端から内側へ離れる距離は、コンクリート基礎5がコンクリート基盤2の外側端面から内側へ離れる距離よりおよそコンクリート基礎の厚さの半分程度大きくなるものと認められる。このことが、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係を定める構成要件ハでは横鉄筋の外端部より「内側位置」とされ、コンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係を定める構成要件ニではコンクリート基盤の外端部より「やや内側」とされていることに反映されているものと解される)。原告の主張する横鉄筋の先端部が折り曲げられることによつてその折曲げ部から内側位置に縦鉄筋が設けられる場合には、たとえ厳密には縦鉄筋が横鉄筋の内側にあるとしても、コンクリート基礎5はその外側端面がコンクリート基盤2の外側端面と一致するように形成されることになり、コンクリート基盤の面積がコンクリート基礎で囲まれた面積よりも相対的に広くなるという本件考案の前記作用効果を奏しないことになるから、右のような場合は、本件考案の構成要件ハ、ニを具備しないものというべきである。本件考案の実施例を示す本件明細書の第1図にも、縦鉄筋は、横鉄筋の最外端から内側へ相当(ほぼコンクリート基礎5の厚さ程度)離れた位置に締結組み立てされ、コンクリート基礎5は、コンクリート基盤2の外側端面から内側へ相当(ほぼコンクリート基礎5の厚さの半分程度)離れた位置に設けられたものが示されており、本件明細書にこれ以外の実施例が示されていないことは、右の解釈を裏付けるものというべきである。
原告は、構成要件ハについて、鉄筋1-2(縦鉄筋)を鉄筋1-1(横鉄筋)の「外端部より内側位置」に設けたのは、両鉄筋をしっかりと締結組み立てし、更にコンクリートで一体に成形し、コンクリート基礎とコンクリート基盤とを強固に一体化したものとし、本件考案の課題である堅牢な建築基礎を実現するためであり、コンクリート基盤の面積を広くするためではないと主張するが、単に、両鉄筋をしっかりと締結組み立てし、コンクリートで一体に成形し、コンクリート基礎とコンクリート基盤とを強固に一体化したものとするためであれば、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係及びコンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係を限定する必要はないのであり、右主張のような解釈は、本件考案の構成要件ハ、ニが右両位置関係を限定した趣旨を無視するものといわなければならない。
(三)(1) 本件考案の出願審査・審判の過程について、乙第一号証の1ないし14によれば、次の事実が認められる。
<1> 本件考案の出願当初の明細書(乙一の1)では、その実用新案登録請求の範囲は、「鉄筋1-1を埋設したコンクリート基盤2を土盤3上にぐり基礎4を設けるか、設けることなくしてコンクリート打ちし、該基盤2に任意水ぬき孔を穿設、基盤2上にコンクリート基礎5及犬ばしり7を基盤2の鉄筋1-1と連係させて鉄筋1-2を内蔵せしめる架構方式で造り、床つか8、床下換気口9、土台10、大引11、根太12ぬき等の組合せより成る木造建築における床下基礎工事。」というものであった。
<2> 特許庁審査官は、昭和五五年七月二四日付で、原告に対し、「本願考案の各構成要件はいずれも公知、周知であって、本願考案はこれら公知、周知技術を寄せ集めたにすぎず、しかも、寄せ集めた点に格別困難性は認められない」として、実用新案法三条二項により実用新案登録を受けることができないとの拒絶理由通知(乙一の2)をした。
<3> 原告は、昭和五五年一〇月二七日付で意見書(乙一の3)を提出するともに、実用新案登録請求の範囲を「鉄筋1-1を埋設したコンクリート基盤2の周側部に鉄筋1-1と架構連係させた鉄筋1-2を内蔵したコンクリート基礎5を設け、コンクリート基盤2の周縁部には犬ばしり7を付設し、コンクリート基盤2の中央部には水ぬき孔6を付設した木造建築の床下基礎。」と補正する旨の手続補正書(乙一の4)を提出した(第一次補正)が、特許庁審査官は、昭和五五年一一月二八日付で右<2>記載の拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせないとして拒絶査定(乙一の5)をした。
<4> 原告が昭和五六年二月一三日付で拒絶査定に対する不服の審判請求をしたところ(乙一の6)、特許庁審判長は、昭和六〇年一一月二八日付で、本件考案の実用新案登録出願は明細書及び図面の記載が不備のため実用新案法五条三項及び四項所定の要件を満たしていないとして、拒絶理由通知(乙一の7)をした。
<5> 原告は、昭和六一年二月一〇日付で手続補正書(乙一の8)を提出し、実用新案登録請求の範囲を「土盤3上にぐり基礎4を設け、ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、鉄筋1-1に鉄筋1-2を鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てしてコンクリート打設前の鉄筋群を形成し、鉄筋1-1の部分にコンクリ-トを打設して、コンクリート基盤2を形成し、次に鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てした鉄筋1-2の部分に、コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側位置にコンクリート基礎5を形成すべくコンクリートを打設してコンクリート基礎5を形成し、該コンクリート基礎5と前記コンクリート基盤2と一体化し、そして前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けたことを特徴とする木造建築の床下基礎。」と補正した(第二次補正)が、特許庁審判長は、同年三月四日付で本件考案の実用新案登録出願は明細書及び図面の記載が不備のため実用新案法五条三項及び四項所定の要件を満たしていないとして、拒絶理由通知(乙一の9)をし、その際、補正後の実用新案登録請求の範囲の記載を例示した。
<6> 原告は、昭和六一年三月二六日付で、実用新案登録請求の範囲を、右拒絶理由通知の例示どおり、「土盤3上にぐり基礎4を設け、ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、鉄筋1-1に鉄筋1-2を鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てた鉄筋群と、上記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設したコンクリート基盤2と、鉄筋1-1の内側に垂直に締結組み立てた鉄筋1-2の部分に、コンクリート基盤2の外端部より内側位置にコンクリートを打設してコンクリート基盤2に一体のコンクリート基礎5と、コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けた木造建築の床下基礎。」と補正する旨の手続補正書(乙一の10)を提出した(第三次補正)が、特許庁の新しい合議体の審判長は、同年一〇月二二日付で、本件考案の実用新案登録出願は明細書の記載が不備のため実用新案法五条三項及び四項所定の要件を満たしていないとして、拒絶理由通知(乙一の11)をし、その際、実用新案登録請求の範囲中の「鉄筋1-1の内側に」との記載では構成が不明瞭であるとし、補正後の実用新案登録請求の範囲の記載を例示した。
<7> 原告は、昭和六一年一二月一〇日付で、右拒絶理由通知の例示どおりに実用新案登録請求の範囲を補正するとともに、これに合わせて考案の詳細な説明の欄の記載を補正する旨の手続補正書(乙一の12)を提出し(第四次補正)、その結果、昭和六二年一月二一日付で本件考案の実用新案登録出願につき出願公告をすべき旨の決定があり(乙一の13)、実用新案登録を受けるに至った。
(2) 右の<1>ないし<7>の出願審査・審判の過程における実用新案登録請求の範囲の記載の補正について、構成要件ハ及びニに対応する部分を中心にみると、本件考案の実用新案登録請求の範囲は、出願当初の明細書では、単に横鉄筋を埋設したコンクリート基盤2上に横鉄筋と連係させて縦鉄筋を内蔵させたコンクリート基礎を設けるとしていたのみで、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係及びコンクリート基礎5のコンクリート基盤2に対する位置関係については、何らの限定もなされていなかったところ、原告は、特許庁審査官から本件考案は実用新案法三条二項(進歩性欠如)により実用新案登録を受けることができないとの拒絶理由通知を受け、第一次補正により、横鉄筋を埋設した「コンクリート基盤の周側部」に横鉄筋と架構連係させた縦鉄筋を内蔵したコンクリート基礎を設けると補正したものの、拒絶査定を受けたため、右拒絶査定に対する不服の審判請求の手続において、明細書の記載が不備のため実用新案法五条三項及び四項所定の要件を満たしていないとの三度にわたる拒絶理由通知に応じて三度の手続補正を行い、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係については、第二次及び第三次補正により横鉄筋の「内側」と限定し、更に第四次補正(現在の本件明細書)により「鉄筋1-1の外端部より内側位置」と限定、明確化し、コンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係についても、第二次補正により「コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側位置」としてこれを限定した後、第三次補正により右の記載から「やゝ」を削除し、更に、第四次補正により再び右「やゝ」を復活させるとともに「内側位置」を「内側」と訂正したものである。
このように、本件考案における縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係及びコンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係は、出願当初は何ら限定されていなかったところ、右各補正は、最終的には、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係を「鉄筋1-1(横鉄筋)の外端部より内側位置」とし、コンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係を「コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側」とするというように、これを限定、明確化する趣旨でなされたものであることが明らかである。そして、縦鉄筋を横鉄筋に締結組み立てるためには、縦鉄筋の最外端側面は横鉄筋の最外端と一致するかそれより僅かでも内側位置になければならないことは自明のことであり(縦鉄筋の最外端側面が横鉄筋の最外端から外側へ離れた位置にあったのでは、両鉄筋を締結組み立てることが不可能である)、コンクリート基礎をコンクリート基盤の外端に立ち上げる以上、コンクリート基礎の外側面はコンクリート基盤の外側端面と一致するかそれより僅かでも内側にあるのが自然であるから(コンクリート基礎の外側面がコンクリート基盤の外側端面より外側にあれば、基礎として極めて不安定になることは明らかである)、「鉄筋1-1の外端部より内側位置」及び「コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側」が、いずれもその外側面(厚みのない面のみ)そのもの以外の、それより僅かでも内側の位置を含むものと解することは、原告が右の各補正を行って、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係及びコンクリート基礎のコンクリート基盤に対する位置関係を限定、明確化した意義を全く没却するものといわざるをえない。
したがって、本件考案の出願審査・審判の過程における実用新案登録請求の範囲の記載の補正の経緯も、本件考案にいう「鉄筋1-1の外端部より内側位置」、「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側」とは、横鉄筋の最外端から内側へ相当離れた位置、コンクリート基盤の外側端面から内側へ相当離れた位置を意味するとの前示解釈の正当性を裏付けるものというべきである。
3 本件考案の構成要件ハ、ニについての前示解釈を前提に、被告ら物件が右各構成要件を具備するか否かを検討する。
(一) イ号物件について
(1) イ号物件の特定について、まず、原告主張の別紙イ号物件目録(一)添付のイ号図面及び被告新星和不動産主張の別紙イ号物件目録(二)によれば、基礎の周縁部分にコンクリート基盤2(防湿板2-2)から外側に突設してコンクリートを打設した部分(コンクリート基盤2-1)が設けられていることが認められるが、前示のとおりイ号物件は布基礎の要素を付加したベタ基礎であって、右部分(コンクリート基盤2-1)は、コンクリート基盤2(防湿板2-2)中の横鉄筋が通っておらず、右横鉄筋と締結された縦鉄筋の下端部に短い横鉄筋が組み込まれているにすぎないから、本件考案にいうコンクリート基盤には該当せず、これに含まれない布基礎部分といわなければならない。原告は、イ号物件において本件考案と対比されるべきコンクリート基盤は、右布基礎部分(コンクリート基盤2-1)とコンクリート基盤とを一体化したものをいうと主張するが、前記1説示のとおり、本件考案にかかる床下基礎は、基礎の分類中のベタ基礎であって、それ以外の独立基礎、布基礎及び複合基礎を含まないことが明らかであるから、イ号物件を本件考案と対比する際には布基礎部分を除外すべきであり、したがって、本件考案のコンクリート基盤に対応するのは、布基礎部分を除いたコンクリート基盤2(防湿板2-2)ということになる。
(2) イ号物件の特定について、原告と被告新星和不動産の主張が相違する一番大きな点は、横鉄筋と締結組み立てされる縦鉄筋の外側面が、原告の特定によれば横鉄筋の折り曲げられた先端の外側面から内側へ相当離れた位置にあるのに対し、被告新星和不動産の特定によれば横鉄筋の折り曲げられた先端の外側面と一致する位置にあることである。
そこで、実際に施工されたイ号物件を撮影した写真を検討すると、検甲第一号証の3・4(兵庫県川西市丸山台一丁目所在のイ号物件)、第二号証の7~9(同所二丁目所在のイ号物件)によれば、イ号物件の横鉄筋の先端部分は、角にR(丸み)を付けたかぎ状に下方に折り曲げられており、縦鉄筋の外側面は、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面と一致する位置にあるか、これより僅か(横鉄筋の直径程度)内側にあることが認められる。しかし、後者の場合も、縦鉄筋の外側面が横鉄筋先端の折曲げ部分より僅か内側にあるのは、横鉄筋先端の折曲げ部分が格別正確に直角に折り曲げる必要のないためRを付けて折り曲げられていることによるものであって、右折曲げ部分が直角に折り曲げられているとすればその折曲げ部分の外側面と縦鉄筋の外側面の位置はほぼ一致する程度のものであることは右各写真からして明らかである。これに対し、イ号物件における両鉄筋の締結位置関係が原告主張のとおりであると認めるに足りる証拠はない。
(3) 前示のとおり、本件考案にいう「該鉄筋1-1の外端部より内側位置」及び「コンクリート基盤2の外端部よりやや内側」とは、コンクリート基盤2の面積がコンクリート基礎5で囲まれた面積よりも相対的に広いことが十分に明確になる程度に、コンクリート基礎5がコンクリート基盤2の外側端面から内側へ相当(有意な距離だけ)離れた位置に形成されることを意味し、そのために、縦鉄筋が横鉄筋の最外端から内側へ相当離れた位置に締結組み立てされることを意味するというべきであるところ、右のとおり、イ号物件においては、縦鉄筋の外側面は、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面と一致する位置にあるか、これよりいわば横鉄筋先端の折曲げの誤差に帰することができる程度の僅かな距離だけ内側にあるものであって、これにコンクリートを打設した場合、コンクリート基盤の面積がコンクリート基礎で囲まれた面積よりも相対的に広くなるということはできない。現に、イ号物件においては、コンクリート基礎5(立上り基礎2-3)の外側面が、前記のとおり本件考案のコンクリート基盤に対応する、布基礎部分を除いたコンクリート基盤2(防湿板2-2)の外側端面と一致する(面一である)ことが明らかである。
したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件ハ、ニを具備しないといわなければならない。
(二) ロ号物件について
ロ号物件の特定については、原告主張の別紙ロ号物件目録(一)添付のロ号図面(一)と被告近鉄不動産主張の別紙ロ号物件目録(二)添付のロ号図面(二)とを対比すると、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係について、イ号物件の場合と同様の争いがあるほか、コンクリート基礎5の下端部において外方へ突出したコンクリート部分があるか(ロ号図面(一))、そのような突出部分はないか(ロ号図面(二))の争いがある。
(1) まず、検甲第五号証の3、第一七号証の1~7、第一八号証の3~7(いずれも京都府相楽郡木津町木津川台所在のロ号物件の写真)、丙第一四号証(近鉄不動産 標準仕様書・詳細図集)、第一九号証(ロ号物件基礎配筋透視図)、第二一号証(ロ号物件・ハ号物件基礎配筋順序)によれば、ロ号物件の横鉄筋の先端部分は、Rを付けたかぎ状に下方に折り曲げられてそのR部分においてこれと同一平面上で直角に交差する鉄筋にかけられており、一方、縦鉄筋は、右の交差鉄筋の外側面に接して垂直に立てられた後、下方において内側へ直角に折り曲げられ、次いで斜め上方に折り曲げられて横鉄筋に至り、これと締結されていること、したがって、縦鉄筋の外側面は横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面とほぼ一致する位置にあることが認められ、両鉄筋の締結位置関係が原告主張のとおりであると認めるに足りる証拠はない。
(2) また、検甲第五号証の3・4、第一七号証の6・7、第一八号証の10によって認められるコンクリート基盤2及びコンクリート基礎5を打設するための型枠の位置からすれば、ロ号物件のコンクリート基礎5の外側面は、コンクリート基盤2の外側端面と一致する(面一になる)ものと認められ、原告主張のようにコンクリート基礎5の下端部において外方へ突出したコンクリート部分があると認めるに足りる証拠はない(被告近鉄不動産主張のロ号図画(二)記載の捨てコンクリートは、その厚さからみてコンクリート基盤2の一部を構成するものでないことが明らかである)。
(3) 右(1)及び(2)のとおり、ロ号物件においては、縦鉄筋の外側面は、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面とほぼ一致する位置にあり、コンクリート基礎5の外側面は、コンクリート基盤2の外側端面と一致する(面一である)から、本件考案の構成要件ハ、ニの前示解釈に照らし、ロ号物件は、右各構成要件を具備しないといわなければならない。
(三) ハ号物件について
(1) ハ号物件の特定については、原告主張の別紙ハ号物件目録(一)添付のハ号図面(一)と被告近鉄不動産主張の別紙物件目録(二)添付のハ号図面(二)とを対比すると、縦鉄筋の横鉄筋に対する締結位置関係について、下端を内側へL字状に曲げた縦鉄筋の外側面が、ハ号図面(一)では横鉄筋先端の折曲部分の外側面から内側へ少し離れた位置にあるのに対し、ハ号図面(二)では、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面と一致するという争いがあるほか、ロ号物件の場合と同様、コンクリート基礎5の下端部において外方へ突出したコンクリート部分があるか(ハ号図面(一))、そのような突出部分はないか(ハ号図面(二))の争いがある。
まず、検甲第四号証の5・6(神戸市北区惣山町一丁目所在のハ号物件の写真)、丙第一〇号証(近鉄不動産標準図集)、第二〇号証(ハ号物件基礎配筋透視図)、第二一号証によれば、ハ号物件の横鉄筋の先端部分は、Rを付けたかぎ状に下方に折り曲げられてそのR部分においてこれと同一平面上で直角に交差する鉄筋にかけられており、一方、垂直に立てられた縦鉄筋は、下半分がRをつけて内側へ折り曲げられ、そのR部分において前記横鉄筋のR部分とで右の交差鉄筋を上下から挟むようにして、内側への折曲げ部分が横鉄筋と締結されていること、したがって、縦鉄筋の垂直部分の外側面は、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面とほぼ一致する位置にあることが認められ、両鉄筋の締結位置関係が原告主張のとおりであると認めるに足りる証拠はない。
(2) また、検甲第四号証の5~8(神戸市北区惣山町一丁目所在のハ号物件の写真)によって認められるコンクリート基盤2及びコンクリート基礎5を打設するための型枠の位置及び検甲第一五号証の4、第一六号証の10・23(いずれも奈良県生駒市大字小明町所在のハ号物件の写真)によれば、ハ号物件のコンクリート基礎5の外側面は、コンクリート基盤2の外側端面と一致する(面一になる)ものと認められ、原告主張のようにコンクリート基礎5の下端部において外方へ突出したコンクリート部分があると認めるに足りる証拠はない。
(3) 右(1)及び(2)のとおり、ハ号物件においても、ロ号物件におけると同様、縦鉄筋の垂直部分の外側面は、横鉄筋先端の折曲げ部分の外側面とほぼ一致する位置にあり、コンクリート基礎5の外側面は、コンクリート基盤2の外側端面と一致する(面一である)から、本件考案の構成要件ハ、ニの前示解釈に照らし、ハ号物件は、右各構成要件を具備しないといわなければならない。
二 結論
以上のとおり、被告ら物件は、いずれも本件考案の構成要件ハ、ニを具備しないから、その余の構成要件について検討するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないことが明らかである。
よって、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)
イ号物件目録(一)
イ 土盤3上にぐり基礎4を設け(別紙イ号図面(1)参照)、
ロ 該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(同図面(2))
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(同図面(3))、
ホ 前記コンクリート基盤2の中央に水抜き孔を設けた(同図面(3))
ヘ 木造建築の床下基礎(同図面(4))
イ号物件目録(二)
<省略>
ロ号図面(一)
<省略>
ロ号物件目録(一)
イ 土盤3上にぐり基礎4を設け(別紙ロ号図面(一)(1)参照)、
ロ 該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(同図面(2))
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(同図面(3))、
ホ 前記コンクリート基盤2の中央に水抜き孔を設けた(同図面(3))
ヘ 木造建築の床下基礎(同図面(4))
ロ号物件目録(二)
イ 土盤3上に敷砂利4を設け(別紙ロ号図画(二)(1)参照)、
ロ 該敷砂利4上にポリエチレンシートを敷き、外端部に捨てコンクリートを打設した上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部の位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(同図面(2))
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(同図面(3)(4))、
ホ 前記コンクリート基盤2とコンクリート基礎5の打ち継ぎ部に水抜きパイプ6を設けた(同図面(4))
ヘ 木造建築の床下基礎(同図面(4))
イ号図面
<省略>
ロ号図面(二)
<省略>
ハ号図面(二)
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭62-19713
<51>Int.Cl.4E 02 D 27/00 織別記号 庁内整理番号 Z-7151-2D <24><44>公告 昭和62年(1987)5月20日
<54>考案の名称 木造建築の床下基礎
審判 昭56-2920 <21>実願 昭52-174436 <55>公開 昭54-99310
<22>出願 昭52(1977)12月24日 <43>昭54(1979)7月13日
<72>考案者 林治 神戸市長田区久保町9丁目3番1号
<71>出願人 林治 神戸市長田区久保町9丁目3番1号
<74>代理人 弁理士 南野万寿夫
審判の合議体 審判長 富田健三 審判官 青山待子 審判官 高瀬浩一
<56>参考文献 特開 昭50-136935(JP、A)
現代建築の詳細Ⅰ・一般詳細篇(1) 中善寺 登喜次著1956.8.15彰国社発行第11~12頁
<57>実用新案登録請求の範囲
土盤3上にぐり基礎4を設け、該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し、前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し、かつ、前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設けたことを特徴とする木造建築の床下基礎。
考案の詳細な説明
本考案は土盤3上にぐり基礎4を設け、該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し、前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやゝ内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し、かつ、前記コンクリート基盤2の中央に水ぬき孔6を設け、コンクリート基盤2の周辺には犬ばしり7を設け、コンクリート基盤2上に床つか8を立設し、鉄筋1-2にコンクリートを打設するさいに床下換気口9を形成する.その他の符号10は土台、11は大引、12は根太、13は床下、14はたゝみ、15は柱、等を適宜組み合わせて成る木造建築の床下基礎に関するものである.従来の木造建築の基礎工法においては、基礎をぐり基礎とするとか、或は石材等、例えば玉石等を置き、柱土台を載置して基礎を定着する方法が一般に行なわれているが、地盤の地質排水などの各々の条件が異なるため基盤に必ずしも同一条件を付与することは期待出来ないため悪い条件の場合は其の上になされる造作が日時を経過する場合、負荷条件、乾燥、其の他の各要件の相違により収縮、伸長などが各々相乗される条件により、亀裂、歪み、傾きなどが生じ、外観を著しく損傷したり、不測の現象を招来する原因を誘引する.本考案は上記欠点を解決するもので、コンクリート基盤2内に組み入れた鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てして鉄筋群を配し、コンクリート基礎5を形成する場合も鉄筋1-1、1-2は共にしつかりと締結組み立てされており、更にコンクリートで一体に成形されておるのでコンクリート基礎5とコンクリート基盤2は強固に連続して一体化されるので、土盤3が仮に部分的に軟弱で不動沈下を起こしたり、或は崖崩れ等で削り取られても広い面積に全体的に鉄筋1-1の入つたコンクリート基盤2が変形しない限り、コンクリート基礎5は建築基礎として部分的に損壊することがない。又、コンクリート基盤2とコンクリート基礎5がしつかりと鉄筋の入つた状態で一体化した頑丈な構造であるため、コンクリート基盤2上に設ける犬ばしり7、コンクリート基盤2上に立設する床つか8等も亀裂、傾き等の狂いを生じることなく、永く施工当初の形態を保持し、コンクリート基礎5上に組み立て建造する建造物、造作、建具、付属物等も亦狂い、変形をきたすことなく耐久性が著しく良好となる.又、本考案を実施する場合、土台10、大引11、根太12、床下換気9、床つか8等の一般木造建築の必要構造、建具、たゝみ等及び付属用具、備品などは一切公知のものを使用することは従来と何等変りない.本考案を実施すると、前記効果の外、更にコンクリート基盤2が下側からの湿気を防ぎ、周囲はコンクリート基礎5で一体に囲まれているため、床下の殆んどが広い貯蔵庫、収納庫として利用出来、野菜、什器類を大量に貯蔵収納することが可能となり、万一結露等でコンクリート基盤2内に水が溜まつても水ぬき孔6より水は流出し、常に乾燥した広い収納庫が確保出来、コンクリート基盤のやゝ内側にコンクリート基礎を設けたので、基盤2の面積が広いので構造的に堅牢であると共に通常の家屋よりも重量がふえる効果をも具有した考案である。
図面の簡単な説明
第1図は本考案の実施の一例を示す縦断面略図である.
1-1、1-2……鉄筋、2……コンクリート基盤、3……土盤、4……ぐり基礎、5……コンクリート基礎、6……水ぬき孔、7……犬ばしり、8……床つか、9……床下換気口、10……土台、11……大引、12……根太、13……床板、14……たゝみ、15……柱。
第1図
<省略>
ハ号物件目録(一)
イ 土盤3上にぐり基礎4を設け(別紙ハ号図面(一)(1)参照)、
ロ 該ぐり基礎4上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部より内側位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(同図面(3))
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部よりやや内側に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(同図面(5))、
ホ 前記コンクリート基盤2の中央に水抜き孔を設けた(同図面(4)(5))
ヘ 木造建築の床下基礎(同図面(5))
ハ号図面(一)
<省略>
ハ号物件目録(二)
イ 土盤3上に敷砂利4を設け(別紙ハ号図画(二)(1)参照)、
ロ 該敷砂利4上にポリエチレンシートを敷いた上に鉄筋1-1を組み入れ、
ハ 該鉄筋1-1の外端部の位置に周囲を囲むように鉄筋1-2を垂直に締結組み立てて鉄筋群を形成し(同図面(3))
ニ 前記鉄筋1-1の部分にコンクリートを打設して形成したコンクリート基盤2と鉄筋1-2の部分にコンクリートを打設して、コンクリート基盤2の外端部に形成したコンクリート基礎5とを一体的に接合し(同図面四(4)(5))、
ホ 前記コンクリート基盤2とコンクリート基礎5の打ち継ぎ部に水抜きパイプ6を設けた(同図面(5))
ヘ 木造建築の床下基礎(同図面(5))
実用新案公報
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