大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7714号 判決 1996年3月21日
原告
玄野昌代こと玄昌代
ほか一名
被告
トモエ交通株式会社
主文
一 被告は、原告らに対し各金三八三万五六七六円及びこれに対する平成四年二月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その八を原告らの、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告らに対し、各金二四〇〇万円及びこれに対する平成四年二月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交差点横断歩道付近を横断していた原告らの父が普通乗用自動車と衝突し死亡したものであるが、交差点での信号機の表示が争われた事案である。
一 争いのない事実及び証拠により認められる事実
1 交通事故の発生
(1) 発生日時 平成四年二月一日午前一時一二分頃
(2) 発生場所 東大阪市寿町三丁目一〇番一五号先路上
(3) 関係車両 訴外朝倉良二(以下「訴外朝倉」という。)運転の普通乗用自動車(大阪五五き五八一八号、以下「被告車」という。)
(4) 事故態様 本件事故現場道路を西から東に進行した被告車と南から北に横断した訴外亡玄野榮俊こと玄榮俊(以下「亡榮俊」という。)が衝突し、亡榮俊が死亡した。
2 損害填補
原告らに対し、自動車損害賠償責任保険から各一五〇〇万円ずつ合計三〇〇〇万円が支払われている。
二 争点
過失、過失割合
1 原告らの主張
亡榮俊は前記道路を信号に従つて横断していたのであり、訴外朝倉は信号を無視して進行したため本件事故が発生した。
2 被告の主張
訴外朝倉は、対面信号が青色であるので、それに従い西から東に時速四〇キロメートル位で本件交差点に進入したものであり、亡榮俊は歩行者用信号が赤色であることを知りながら、南から北に横断したため本件事故が発生したものである。
第三争点に対する判断
一 本件事故の概要
証拠(甲一の一、二、二の一、二、三乃至八、九の一、二、一〇の一、二一一の一、二、一二乃至一五、一六の一乃至五、一七乃至二〇、証人玄野榮吉、同訴外朝倉)によれば、以下の事実が認められる。
本件事故が発生した現場交差点(以下「本件交差点」という。)は、東西に通じる片側二車線の道路(以下「東西道路」という。)と、南北に通じ位置が東側と西側に離れて本件交差点に通じる道路(以下「東西道路」という。)が交差する信号機により交通整理の行われている交差点で、市街地にあり、東西道路は車道幅員約一二メートル、南北道路は約六メートルである。
東西道路と南北道路は、いずれも路面は平坦、アスフアルト舗装され、湿潤、交通規制は、最高速度規制が時速四〇キロメートル、駐車禁止である。
事故現場の明るさについては、事故後の実況見分では、本件交差点の四〇メートル西側でヘツドライトを上下したところ、交差点に人物が確認できるが、五〇メートル西側では人物とは認められず、物体であることしか確認できないとの結果であつた(甲四)。
訴外朝倉は、タクシー運転手であり、当日はお客を乗せて、大阪市生野区巽東から北に向かい同区北巽交差点を右折し、大阪八尾線を東に向かつて進行した。
大阪八尾線での信号は、本件交差点に至るまで、北巽交差点から、勝山高校北交差点、岸田堂交差点がある。
本件事交差点の信号機は、一つ西の岸田堂交差点の信号と連動している(甲九の二)。
岸田堂交差点の信号機の表示と、さらに西にある勝山高校北交差点の信号機の表示の関係は、勝山高校北交差点の信号が青色を表示した後五秒後に岸田堂交差点の信号が青色となり、岸田堂交差点の信号が青色を表示した後、一一秒後に本件交差点の信号が青色となる(甲一六の一、二)。
勝山高校北交差点と岸田堂交差点の距離は約二〇〇メートル、岸田堂交差点と本件交差点の距離は約二〇〇メートルである(甲一六の二)。
訴外朝倉は、北巽交差点の直ぐ東の交差点の信号が赤色であつたので一旦止まり、青色信号を確認して発進し、対面信号が順に青色になつたので、速度をあげ、時速五〇乃至六〇キロメートルの速度で本件交差点に至つた。
実況見分調書添付現場見取図(以下「現場図」という。)<1>点で信号が青色であつたので、被告車のギアをハイトツプに入れ、<2>点で亡榮俊を見てブレーキを掛けたが、<3>点で衝突し<4>点で停車した。
被告車の損傷は、フロントバンパー曲損、ナンバープレート脱落、ボンネツト曲損、フロントガラスひび割れ、屋根部先端から後部まで払拭痕、後部ガラス、リアトランク上部払拭痕の破損等である。
北巽交差点から本件交差点までの距離は約七〇〇メートル余りであるので、訴外朝倉が北巽交差点の直ぐ東の交差点を青色で発進していれば、時速六〇キロメートルで走行していたとしても、右距離を走行するのに要する時間は四二秒程度であり、勝山高校北交差点での信号の東西方向の青色の表示時間が六〇秒(甲一六の五)、岸田堂交差点での青色の表示時間が六五秒(甲一六の四)、本件交差点での青色の表示時間が五八秒(甲一六の三)であることからすれば、本件交差点を青色で進入したとの訴外朝倉の供述も信用できる。
また、証人玄野榮吉(以下「榮吉」という。)の証言によれば、榮吉が被告車の走行した道路を同じように走行した結果では、岸田堂交差点の信号が赤色で停車したのは、一〇回のうち、一、二回であり、その他は、青色で岸田堂交差点及び本件交差点を通過していると供述していることからも、前記認定が裏付けられる。
原告らは岸田堂交差点から本件交差点までは九一メートルであり、岸田堂交差点の信号が青色を表示した後一一秒後に本件交差点の信号が青色となるので、訴外朝倉は本件交差点の信号が未だ赤色であるにもかかわらず、そのまま走行したと主張するが、訴外朝倉が時速六〇キロメートルで進行していれば、二〇〇メートルを走行するのに一一秒位は要するのであるから、原告らの主張は理由がない。
原告らは、被告車の速度について、亡榮俊が衝突地点から四一メートル東側に撥ね飛ばされたと考えられることから、被告車の速度が時速八二・六キロメートルもの高速度であつたと主張するが、被告車の屋根部先端から後部まで払拭痕があることから、亡榮俊は衝突後すくい上げられ、被告車の屋根をすべり、後部トランク部分に運ばれたものであり、被告車の停車したときには亡榮俊は後部トランクの上に乗つていたことからも右の如く推定するのが合理的であり、原告ら主張の如く撥ね飛ばされ、被告車の屋根をすべることなく後方に落下したものとは認められない。
二 過失、過失割合
本件事故については、訴外朝倉は、本件交差点を通過する際には夜間、雨が降つていたのであるから、前方を注意して制限速度を守つて進行しなければならないにもかかわらず、時速六〇キロメートル位の速度で漫然と進行した過失があり、他方亡榮俊は、信号機の表示が赤であるにもかかわらず本件交差点を横断した過失がある。
訴外朝倉と亡榮俊の過失割合は、亡榮俊が六五パーセント、訴外朝倉が三五パーセントである。
三 損害額(括弧内は原告らの請求額である。)
1 逸失利益(八一六三万二九三七円) 八一六三万二四三七円
亡榮俊は死亡当時四一歳であり、父が代表取締役をしていたタイガー化学工業株式会社(以下、「タイガー」という。)に勤務し、平成三年度の給与は七一二万円であるので、生活費控除を三〇パーセントとして就労可能な六七歳まで新ホフマン係数で損害の現価を算定すれば、次のとおり八一六三万二四三七円(円未満切り捨て、以下同じ)である。
7120000×0.7×16.3789=81632437
2 死亡慰謝料(二五〇〇万円) 二四〇〇万円
亡榮俊は生前一家の支柱として働いていたものであるから死亡慰謝料は二四〇〇万円が相当である。
3 損害額小計
以上のとおり認められるので損害額は一億〇五六三万二四三七円である。
四 過失相殺
右損害額に前記認定の過失相殺すれば残額は三六九七万一三五二円である。
五 損害の填補
原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万円損害の填補があるので損益相殺すると残損害額は、六九七万一三五二円である。
六 相続
原告らは亡榮俊の子であり、亡榮俊の損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したことが認められるので、損害額は各三四八万五六七六円である。
七 弁護士費用
弁護士費用としては各三五万円が相当である。
第四結論
以上によれば、原告らは被告に対し、各三八三万五六七六円及びこれに対する平成四年二月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官 島川勝)
交通事故現場の概況 現場見取図