大阪地方裁判所 平成5年(ワ)8421号 判決 1994年5月25日
原告
黄粉伊
ほか四名
被告
芝先幹夫
主文
一 被告は、原告黄粉伊に対し、金二一〇万五八一二円及び内金一九〇万五八一二円に対する平成四年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告金豊子、同金在旭、同金永淑、同金在哲に対し、各金一二一万二五三七円及び内金一一一万二五三七円に対する平成四年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告黄粉伊に対し、金四五五万八五三二円及び内金四一五万八五三二円に対する平成四年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告金豊子、同金在旭、同金永淑、同金在哲に対し、各金二九五万五六八七円及び内金二七〇万五六八七円に対する平成四年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故で死亡した被害者の遺族が、加害車両運転者に対し民法七〇九条に基づき損害賠償請求した事案である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
(1) 発生日時 平成四年六月二五日午後一時ころ
(2) 発生場所 大阪市東淀川区大隅二丁目二番八号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(3) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪五三と三五〇五、以下「被告車」という。)
(4) 被害車 自転車乗車中の金楨炫(以下「亡金」という。)
(5) 事故態様 本件交差点を東から西に向かつて時速約五五キロメートルで直進中の被告車が折から自転車に乗つて本件交差点を北から南に直進中の亡金に衝突したもの
2 亡金の死亡(乙一五、一六)
亡金は、本件事故による脳挫傷により本件事故当日である平成四年六月二五日午後四時四七分死亡した。亡金は死亡時七五歳(一九一七年三月一四日生)であつた。
3 被告の責任(乙一ないし一四)
本件事故は、被告が被告車を運転して、時速約五五キロメートルで本件交差点を直進するに際し、本件交差点に右方道路から進入している亡金乗車の自転車を認めたのであるから、適宜減速して同車の動静を注視し、安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然前記速度で進行したため発生したものであるから、被告は民法七〇九条により本件事故による損害について賠償責任を負う。
4 原告らの相続(甲一ないし三)
原告黄粉伊(以下「原告粉伊」という。)は亡金の妻であり、その余の原告らはいずれも亡金の実子であり、同人の相続人は原告らのみである。亡金の本件事故による損害賠償請求権は原告粉伊が一一分の三、その余の原告らが各一一分の二の法定相続分に応じて相続した(法例二六条、大韓民国民法一〇〇九条)。
5 損害の填補
原告らは、自賠責保険から一九三八万九〇六〇円の支払を受けた。
二 争点
1 過失相殺
被告は、本件事故は、亡金が幹線道路に狭路から自転車に乗つて飛び出してきたため発生したものであるから、少なくとも五割の過失相殺がなされるべきであると主張し、原告らはこれを争う。
2 損害額
第三争点に対する判断
一 過失相殺
1 証拠(乙一ないし七、九、一〇、一二ないし一四、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は、別紙図面のとおりであり(以下、地点の表示は、これによる。)、東西に延びる車道幅員一〇・三メートル、片側各一車線、中央分離帯が設けられ、両側に自転車道・歩道(幅員四・五ないし五メートル)があるアスフアルト舗装された平坦な道路(以下「東西道路」という。)と南北に延びる幅員八・五メートルのアスフアルト舗装された平坦な道路とが交差する信号機により交通整理の行われていない交差点上である。
東西道路の速度規制は時速四〇キロメートルであり、本件事故後の実況見分の際の交通量は一〇分間に一〇台程度であつた。また、南北道路は、本件交差点北側部分は北への一方通行の規制がなされている。なお、本件時路面は乾燥していた。
(2) 被告は、被告車を運転して、時速約五五キロメートルで東西道路を東から西に向かつて直進中、本件交差点手前約五五メートルの<1>点で本件交差点西詰付近の点を西から東に進行中の四、五トンの幌付トラツクを認めた。さらに、被告は、被告車が<2>点まで進行したところ、交差点を通過して点まで進行してきたトラツクの後方<ア>点(<2>点から三〇・八メートル右前方)を自転車に乗つて北から南へ直進中の亡金を初めて発見したが、亡金の前方を通過できると判断し、減速をしないまま、道路左側に寄つて、<3>点まで進行した。しかしながら、亡金も被告車の動静を確認しないまま、右前方二〇・五メートルの<イ>点まで進行してきていたため、被告は危険を感じ、左にハンドルを切るとともに急制動したが、間に合わず<×>点で被告車前部と亡金の自転車左側部分が衝突した。
以上の事実が認められる。
2 右事実によれば、本件交差点に進入してきた高齢の亡金の乗つた自転車を発見しながら、その前方を通過できると安易に考え、減速あるいは停止することなく、漫然速度違反のまま本件交差点を直進しようとした被告の過失は重大ではあるが、本件交差点の道路状況で走行車両の動静を注視しないまま、交差点に自転車に乗つて進入した亡金の落ち度も無視できず、二割の過失相殺をするのが相当である。
二 損害額(各費目の括弧内は原告ら請求額)
1 死亡による逸失利益(八九八万一二八〇円) 八九八万一二八〇円
証拠(乙八、一八、一九、原告金在旭本人)及び弁論の全趣旨によると、亡金は、本件事故当時七五歳の健康な男子であり、自らが創業した株式会社大隅ライト製作所の社長を引退し、息子である原告金在旭に社長を譲つてはいたが、会社に出て、まだ仕事をし、毎月三〇万円の給与所得を得、妻である原告粉伊と二人で生活をしていたことが認められ、右によると、亡金は、本件事故に遇わなければ、なお、原告ら主張どおり四年間稼働することが可能であつたといえるから、右年間所得三六〇万円を基礎とし、生活費については三割を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、亡金の逸失利益の現価は八九八万一二八〇円となる。
(計算式) 3,600,000×(1-0.3)×3.564=8,981,280
2 死亡慰謝料(二四〇〇万円) 二二〇〇万円
前記認定事実、亡金の年齢、家族間の交流状況等諸般の事情を総合考慮すると、慰謝料として二二〇〇万円が相当である。
3 葬儀関係費用(一三八万九〇六〇円) 一二〇万円
証拠(甲六の1ないし8、原告金在旭本人)によれば、亡金の葬儀関係費用として、原告粉伊が少なくとも一三八万九〇六〇円を出捐したことが認められるが、本件事故と相当因果関係が認められるのは一二〇万円である。
4 小計
右によれば、原告らの固有分及び亡金から相続した損害額(弁護士費用を除く。)は三二一八万一二八〇円となるところ、前記過失相殺により二割の控除をすると、二五七四万五〇二四円となる。これから前記既払金を控除すると六三五万五九六四円(内葬儀関係費分は二三万七〇〇六円)となり、原告黄粉伊が一九〇万五八一二円、その余の原告らが各一一一万二五三七円となる。
5 弁護士費用(一四〇万円) 六〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告粉伊が二〇万円、その余の原告らが各一〇万円の合計六〇万円と認めるのが相当である。
三 まとめ
以上によると、原告らの被告に対する請求は、原告粉伊が金二一〇万五八一二円及び内金一九〇万五八一二円に対する不法行為の日である平成四年六月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、その余の原告らが各金一二一万二五三七円及び内金一一一万二五三七円に対する不法行為の日である平成四年六月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、それぞれ理由がある。
(裁判官 高野裕)