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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)9059号 判決 1995年11月07日

主文

一  被告は、原告に対し、金二五九三万三八三六円及び内金二四一九万七一九三円に対する平成五年一〇月六日から、内金一七三万六六四三円に対する平成六年五月二七日から支払済まで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り仮に執行することができる。

理由

一  請求原因について

請求原因1ないし3の事実は当事者間において争いがない。

二  本件契約の解除及び取引停止の経緯について

(一)  解除原因一について

(1) 請求原因4の(二)の事実のうち、原告が平成五年三月頃、株式会社ニチイに対し被告商品を低価格で販売したことは当事者間に争いがない。

(2) 《証拠略》によれば以下の事実が認められる。

<1> 原告は、関東、中国、四国地方においてニチイとの取引をしており、それまで商品名アロインスオーデクリームを被告から五七六円で仕入れて、ニチイ近畿事業部に卸売単価一一七〇円(小売価格一八〇〇円)で販売していたところ、平成五年二月初め頃、ニチイ創業三〇周年記念販売として、右商品を一四四〇円で小売販売したいから、原告からの卸売価格を一〇〇八円(ニチイのマージンは三〇パーセント)にしてほしい旨の申し入れを受けた。

<2> 原告代表者福井は、被告営業本部長猿谷に対し、同月四日、ニチイの右意向を伝えたところ、小売価格一五〇〇円以上という指示がなされ、結局右申し入れの承認を受けることができなかった。さらにニチイ近畿事業本部側から直接猿谷に対し、同じ頃電話で、同様の申し入れがなされ、被告より回答をもらうことになっていたが、結局右返事はなかった。そこで、原告は三か月間の期限付きでニチイの要望に応じることとし、平成五年三月一日から、ニチイ近畿事業部は本件商品を一四四〇円の小売価格で販売を開始した。

<3> ニチイ近畿事業部のテリトリーは近畿二府四県であったが、ニチイグループでは、ニチイ近畿事業部との間で決めた価格は、近畿だけの地域の口座番号にしないかぎり東北ニチイにも波及するシステムとなっており、本件でニチイは右の措置を採っていなかった。

熊長本店は、ニチイ近畿事業部の関連会社である東北ニチイに対して本件商品を被告ルートで仕入れて、卸していたが、右の結果熊長本店と東北ニチイの取引価格も一〇〇八円で処理されることとなった。

<4> 熊長本店は、従前ニチイ近畿事業部の関連会社である東北ニチイに対する納入価が一一七〇円であったのが一〇〇八円になったことについて、平成五年五月一七日、被告に対して、メーカーである被告がニチイ本部と取り決めをしたのではないかという抗議と差額分の補償請求をした。

<5> 同年五月二一日、猿谷は原告方の福井を訪れ、原告と販社間で右の問題について調整をするように申し入れたが、原告はこれを断った。同日、福井と被告社長との間で話し合いの機会が持たれたが決裂し、本件解除に至った。結局熊長本店に対しては被告が補償を行っている。

以上の事実に照らして解除理由の正当性について検討すると、本件は原告が被告の意向に反して低価による商品卸売りをしたことに対して、被告において、他の販社との調整の名目で原告に従来卸売り価格と今回の低価格との差額分について原告に補償あるいはそのための交渉を求め、これにより間接的に再販売価格維持を目的としたものと認めざるをえず、独占禁止法が禁止している再販売価格の拘束に該当し、違法なものであると解される。従って被告のかかる調整の要求を拒絶したことを解除の根拠とすることは、仮にその際の福井の対応に多分に感情的な面が含まれていたとしても許されるものでなく、この点の被告の主張は理由がない。

(二)  解除理由二について

抗弁2(一)のうち契約書に支払い期日の記載のあること、同(二)、(三)の事実は当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、原告は、商品代金について平成四年一月から平成五年五月分まで遅くとも毎月二〇日ころには支払いをしており、従前から二〇日払いが多く原則化していたこと、平成四年四月九日の販社会議の席上、被告は平成四年一〇月分の締切(一一月一〇日払い分)より支払い期日を遵守する旨通告し、平成四年一〇月二七日の販社会議において、一〇日払いが遅れる月は五日までに支払い期日を被告宛ファックスで通知するよう指示したが、原告は支払いが遅れる場合にもファックスを流すことをしていなかったことが認められる。しかしながら厳格な意味で、支払い期限を定めたかについてはこれに違反した場合にも書面で催告するなど明確に問題化する措置を採っていた資料はなく、ある程度黙認されていたのが実状であると認められる。

(三)  解除理由三について

《証拠略》によれば、被告は営業保証金預かり証に金額を誤って記載したこと、福井がその間違いを指摘したが、間違った金額を本来の補償金額であるとまでは言い張っておらず、被告に対して責任者の謝罪を要求した程度であることが認められる。

以上のとおりで、解除理由(二)、(三)の原告の行為は被告にとり重要な事情であるとは認められず、本件は解除理由一が主たる理由であると認められるものであるが、前記のとおり当該理由は正当な理由とはなり得ないものであって、販売代理店契約においては、信義則上代理店に著しい不信行為がある等契約の継続をし難い特別の事情が存しない限り解除して商品供給を停止することはできないものと解すべきであるところ、本件においては右の事情は認められないから、被告の本件解除及び商品供給停止は不当であり、被告は原告に対し取引中止により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

《証拠略》によれば、原告は被告の販売代理店として営業していたものであるが、被告の商品供給停止により少なくとも停止の翌日である平成五年五月二七日から一年間は得べかりし利益を喪失したものと認められ(原告は二年間の逸失利益を主張するが、これが本件債務不履行と相当因果関係にあることを認めるに足りる証拠はない)、原告は、平成元年七月一日から平成五年四月三〇日までの間、平均年間売上高一億八二九一万七三〇〇円を上げ、他方その間の平均年間売上げ原価一億二三一一万六三五〇円、平均年間変動費三五六〇万三七五七円を要していたことが認められるから、これを控除した一年間の平均営業利益二四一九万七一九三円相当の損害を被ったと認めるのが相当である。

四  保証金返還について

請求原因6のうち、被告が本契約を解除した時点において原告の差し入れ保証金額が七一二万一三一四円であったこと、原告の借入債務が五三八万四六七一円であったことは当事者間に争いがなく、これを控除すると残額は一七三万六六四三円となる。本件において本件契約解除が無効であるとしても、当事者間において今後取引が回復することはあり得ず、原告もこれを前提に主張していることからすれば、契約の解消状態は認めるべきであるから、被告は原告に対し、右金員を返還する義務がある。ただし遅延損害金については、本件事案に鑑みて、逸失利益の損害が認められる期間の最終日の翌日である平成六年五月二七日からの限度で認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、被告は原告に対し、債務不履行による損害賠償及び保証金返還として合計二五九三万三八三六円及び内金二四一九万七一九三円に対する訴状送達の日の翌日である平成五年一〇月六日(裁判所に顕著な事実)から、内金一七三万六六四三円に対する平成六年五月二七日から支払い済みまで商事法定利率の割合による遅延損害金の支払義務があり、右の限度で原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本 久)

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