大判例

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大阪地方裁判所 平成5年(ヲ)5213号 決定

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立の趣旨及び理由の要旨

(一)  申立の趣旨

(1)  相手方正井利明の別紙物件目録≪省略≫記載の土地(以下「本件物件」という)に対する占有を解いて、大阪地方裁判所執行官に保管を命ずる。

(2)  執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

(3)  別紙駐車場占有部分一覧表≪省略≫(以下「別表」という)相手方欄記載の相手方らは、それぞれ別紙物件目録記載の土地のうち、別表駐車場占有部分欄記載の駐車場の占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない。

(4)  上記相手方らは、それぞれ上記駐車場の占有を解いて、これを執行官に引き渡さなければならない。

(5)  執行官は、上記駐車場を保管しなければならない。

(6)  執行官は、相手方らに上記駐車場の使用を許さなければならない。

(7)  執行官は、相手方らが上記駐車場の占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていること及び執行官が上記駐車場を保管していることを公示しなければならない。

(二)  申立の理由の要旨

(1)  申立人は前記基本事件において本件物件の買受人となり、既に代金納付を終えたものである。

(2)  相手方正井利明(以下「正井」という)は、前記基本事件における所有者山本建設株式会社(以下「前所有者」という)から本件物件を賃借(短期賃借権)したとして、月決め駐車場として多数の者に転貸して占有しているものである。

(3)  正井を除くその余の相手方は、いずれも正井から本件物件の特定の場所を駐車場として転借している者である。

(4)  正井の主張する短期賃借権は、濫用的な内容のものであって、正当な短期賃借権として保護されるものではなく、このため申立人の正井に対する引渡命令申立は平成五年三月八日認容されたが、正井はこれに対し執行抗告したため、同引渡命令はその効力を生じていない。

この間に正井が新たに本件物件を賃貸するならば、引渡はますます困難になる。

(5)  正井を除く相手方についても、他に占有移転をすれば、引渡は困難になる。

(6)  なお、債務者・所有者以外の第三者は、条文上は保全処分の相手方とならないが、正井は前述のように濫用的短期賃借権者であって申立人に対抗できないから、債務者の占有補助者として、保全処分の相手方となるものである。

また、正井以外の相手方らは、いずれも滞納処分による差押に遅れて占有を開始した者であるから、これらも債務者と一体となって執行妨害をする者として保全処分の相手方となる。

2  当裁判所の判断

(一)  債務者・所有者以外の第三者が民事執行法上の保全処分の相手方となり得るか可かについては、東京地方裁判所がこれを積極に解し、これを容認した高裁決定も現われているところであるが、当裁判所は次の理由によりこの説を採用しない。

(1)  民事執行法五五条及び七七条の保全処分は、政府案では「債務者又は不動産の占有者」を相手方とすることになっていたが、国会段階で修正され、「債務者」のみに制限された形で立法がなされたものであって、それにも拘らず買受人に対抗できない占有者一般を含めて解することは、この修正の趣旨に反する。

(2)  差押後の占有承継者はすべて債務者の占有補助者と同視すべきとしてこれを保全処分の対象とすることができるとの説(田中康久・新民事執行法の解説増補改訂版一六八頁)は、差押の処分禁止効はあくまでも売却に伴う権利の対抗に関し問題になるだけで、差押後も債務者の現実の処分及び占有移転は可能であり、処分の原因を問わず当然に占有補助者になるとするのは理屈に合わない(中野貞一郎・注解民事執行法2―一六一頁注11参照)し、民事執行法八三条但書が、引渡命令の対象とならない者として特に「差押の効力発生後に占有した者で買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者」について特に言及していることからいって、文言解釈としても相当ではない。

(3)  また、東京地方裁判所が採用する債務者・所有者の関与があって執行妨害の目的がある場合には、その占有者は占有補助者であるという見解は占有補助者概念の不当な拡張であって、このような執行妨害目的の占有者に対する何らかの処置の必要は理解できるが、条文の解釈としては無理であると考える。

(4)  東京高決平成四年一二月二八日判時一四四五号一五〇頁は、「専ら執行の妨害や占有による不当な利益を得る目的で差押後に不動産の占有を取得した者で債務者又は所有者からの占有権原の取得を主張するが、債務者又は所有者に主張しうる正当な権原を有しない者は、債権者又は抵当権者に対する関係では、占有補助者を自称する者ないしは占有侵奪者にすぎず、債務者又は所有者あるいはそれらの占有補助者でさえも売却のための保全処分の相手方となる以上、当然に右の占有補助者を自称する者ないしは占有侵奪者も同保全処分の相手方となるものと解すべきである。」とするが、債務者等に主張し得る正当な権原を有しない者が占有補助者を自称する者に該るとする論理は不可解であるし、正当な権原を有さず差押後に占有した場合に占有侵奪者に該るとするのはその通りであるにしても、債権回収を目的とするものであることから直ちに正当な権原を有さないとすることには容易に賛成できない。占有侵奪者などの不法占有者に対して執行法上の保全処分で対処できないのは不合理だという見解は理解できるが、前記の立法の経緯に照らせば、債務者・所有者以外の占有者のする減価行為については、民事保全法による通常の保全処分によって処理すべきものと考える。勿論、これについては、最判平成三年三月二二日民集四五巻二六八頁の存在がネックになることはいうまでもないが、この判例は不法占有者が減価行為ないし引渡妨害行為をなすのを防止することまでは射程に含まないと解することでこの問題は何とか対処し得ると考える。

(二)  一般論としては、以上の通りであるが、更に本件においては、正井の占有開始はいつであるか判然としないが、駐車場として転貸を開始し始めた時期と考えても、基本事件の差押に先立つものであって(滞納処分による差押に遅れるとしても、それは短期賃借権が濫用的なものか否かの判定資料にこそなれ、保全処分の前提となる差押と同視はできない。)、差押後の債務者の占有承継人とはいい難いし、買受人に対抗し得ないからといって当然に債務者・所有者の占有補助者となるわけでもない。

正井を除く他の相手方は、正井からそれぞれの部分について占有移転を受けた者であって、債務者・所有者から直接占有移転を受けたわけではないから、基本的には正井と同視できる。

(三)  以上の次第で、いずれにせよ、本件においては相手方らは保全処分の相手方たり得ないものというべきである。

よって主文の通り決定する。

(裁判官 富川照雄)

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