大阪地方裁判所 平成5年(ヲ)5538号 決定 1993年8月11日
申立人 田辺信用組合
代表者代表理事 橘茂
申立人代理人弁護士 浜口卯一
相手方 株式会社日和
代表者代表取締役 大森一美
主文
1 相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録≪省略≫記載1の各土地上において行われている建物の建築工事を続行してはならない。
2 相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載2の鉄骨につき譲渡等の処分をするなどして、同目録記載1の各土地の占有を他人に移転し、またはその占有名義を変更してはならない。
理由
第1 申立人は、主文と同旨の裁判を求め、その理由として別紙「申立の理由」≪省略≫に記載のとおり主張した。
第2 当裁判所の判断
1 記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 基本事件の債務者兼所有者である株式会社ゆうは、平成三年一一月一日、売買により別紙物件目録記載1の各土地(以下「本件各土地」という。)の所有権を取得し、同日、その旨の所有権移転登記がなされた。
(2) 株式会社ゆうは、前同日、自己の申立人に対する信用組合取引等に基づく債務を担保するため、本件各土地に根抵当権(極度額一億一〇〇〇万円)を設定し、同日、その旨の根抵当権設定登記がなされた。
(3) その後、本件各土地については、次のような各登記がなされている。
ア 平成四年八月二六日受付の債務者を株式会社ゆう、抵当権者を阿部淳一とする債権額一〇〇〇万円の抵当権の設定登記
イ 同年九月一七日受付の大阪府(大阪府堺府税事務所)による差押の登記
ウ 同月二一日受付の大阪府(大阪府阿倍野府税事務所)による参加差押の登記
エ 同月二二日受付の大阪府(大阪府南河内府税事務所)による参加差押の登記
オ 同年一〇月五日受付の有限会社吉田工務店を債権者とする仮差押の登記
カ 同月二七日受付の大阪市(東住吉区)による参加差押の登記
キ 同年一一月九日受付の大蔵省(堺税務署)による参加差押の登記
ク 平成五年四月一九日受付の堺市による参加差押の登記
(4) 申立人は、前記(2)の根抵当権の実行として、本件各土地につき競売の申立てをした。当裁判所は、この申立てに基づき、平成五年六月一八日、本件各土地につき不動産競売開始決定をし、同月二一日、その旨の差押登記がなされた。
(5) 株式会社ゆうは、本件各土地の所有権を取得した後、同土地上に五階建の堅固な建物を建築することを計画し、有限会社野中工務店に依頼して、その工事に着手した。しかし、その後、株式会社ゆうは倒産し、この建物建築工事(以下「本件工事」という。)は中断した。本件工事は、前記(4)の差押登記がなされた当時、本件各土地上に別紙物件目録記載2の鉄骨が存在する状態で放置されていた。
(6) ところが、相手方は、本件各土地につき、前記(4)の差押登記後の平成五年七月二日、同年六月一四日売買を原因とする持分一〇〇〇分の一の所有権一部移転登記と同日共有物分割を原因とする持分一〇〇〇分の九九九の株式会社ゆう持分全部移転登記を受けて、本件各土地の所有名義人となった。
(7) 相手方は、平成五年七月八日、前記野中工務店に対し、相手方により本件工事を続行する旨電話をするなど、本件工事を続行する姿勢を示している。
2 以上の事実によれば、次のとおりいうことができる。
(1) 本件土地上に別紙物件目録記載2の鉄骨が存在する状態で放置されていた本件工事を続行し、同土地上に建物を完成させる行為は、本件各土地の価格を著しく減少する行為に該当する。また、その過程において前記鉄骨を譲渡するなどして本件各土地の占有を他人に移転する行為も、本件各土地の価格を著しく減少する行為ということができる。
(2) また、本件の相手方は、民事執行法一八八条、五五条による保全処分を命じることのできる相手方に該当するというべきである。その理由は、以下に述べるとおりである。
ア 相手方は、本件工事を続行して建物を完成させても、本件各土地につき基本事件における買受人に対抗できる占有権原を有しているとは認められないから、いずれはその建物を収去して本件各土地を明け渡さなければならない。このような状態にあるにもかかわらず、前記1(4)の差押登記後に本件各土地につき所有権移転の登記を受け、本件各土地上において本件工事を続行しようとしている相手方の行動は、とうてい合理的な経済活動とは考えられない。
イ 競売不動産の所有者は、不動産競売開始決定における差押後も、通常の用法に従った使用・収益を行うことを許容されている(民事執行法一八八条、四六条二項)。しかし、本件工事によって建築される建物が五階建の堅固な建物であることにかんがみると、差押後に中断されていた本件工事を続行し、本件各土地上にこのような建物を建築し、所有することは、前記法条で許容された通常の用法に従った使用・収益の限度を超えているといわなければならない。この点に照らして考えても、相手方の前記行動は、とうてい合理的な経済活動とは認められない。
ウ 本件各土地について前記1の(2)及び(3)の各登記がなされていることに照らして考えると、相手方が本件各土地の所有権(共有持分)を対価を支払って取得したとは、容易に信じられない。また、一〇〇〇分の一の持分を有する共有者である相手方が、一〇〇〇分の九九九の持分を有する共有者である株式会社ゆうとの間の共有物分割により、本件各土地の所有権の全部を取得するという共有物分割のあり方は、極めて不自然に感じられる。
これらの点にかんがみると、前記1(6)の各登記は、少なくとも登記原因とされた実体を伴わないものと推認することができる。
エ 以上の諸事情を総合考慮すると、株式会社ゆうは、本件各土地に対する執行を妨害するために、相手方と意思を通じて、売買及び共有物分割による所有権移転を仮装し、相手方に本件各土地を占有させたものと推認するのが相当である。
したがって、本件の相手方は、基本事件における債務者兼所有者である株式会社ゆうの占有補助者ないしはこれと同視すべき者に当たるから、民事執行法一八八条、五五条による保全処分を命じることのできる相手方に該当するというべきである。
(3) 以上のとおりであるから、本件の申立ては、いずれも理由がある。
そこで、民事執行法一八八条、五五条一項により、申立人に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。
(裁判官 原田憲司)