大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)3382号 決定 1995年2月08日
債権者
山根福枝
右代理人弁護士
川西渥子
同
渡辺和恵
債務者
財団法人大阪市交通局協力会
右代表者理事
奥村保夫
右代理人弁護士
高坂敬三
同
夏住要一郎
同
岩本安昭
主文
一 債権者が、債務者の従業員の地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者に対し、平成七年二月一日から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで、毎月末日限り一か月金二〇万円の割合による金員を仮に支払え。
三 債権者のその余の申立てを却下する。
四 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者が債務者の従業員の地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者に対し、平成六年一一月一日から本案訴訟の第一審判決の言渡しまで、毎月一七日限り金三七万四二五一円の割合による金員を仮に支払え。
三 申立費用は債務者の負担とする。
第二当裁判所の判断
一 債務者は、大阪市交通局の外郭団体で、定期券の販売等の事業を行う財団法人であり、債権者は、昭和四二年九月三〇日大阪市交通局を定年退職し、昭和四二年一〇月債務者の第一種職員となった者で、昭和九年九月二日生まれであり、平成六年一〇月三一日当時旅行部計画課に勤務し、賃金は、月三七万四二五一円を毎月支給されてきた。
債務者の就業規則には、第三条に、第一種職員とは大阪市交通局の定年退職者又は永年勤続者であって(中略)会に採用された者と定義され、第二種職員とは前号(第一種職員)に規定する者以外の者であって、(中略)会に採用された者と定義され、第九条に、職員の定年及び定年退職日については、第一種職員の定年は満六五歳とし、定年に達した日から一年を経過した日の属する月の前月の末日を定年退職日とする(後略)と、第二種職員の定年は満六〇歳とし、定年に達した日の属する月の翌月の末日を定年退職日とすると、定められている。なお、債務者と大阪市交通局の定年年齢の定めは、別紙一、二のとおりである。
債務者には、職員で構成する企業組合である大阪市交通局協力会労働組合がある。
債務者は、債権者に対し、平成六年一〇月末日ころ、債権者が第二種職員として満六〇歳に達した日の属する月の翌月の末日である平成六年一〇月末日で定年退職日となり定年解雇する旨通告した。(以上、争いがない事実、<証拠略>)
二 右一の事実によれば、債務者においては、第一種職員の定義が就業規則で明らかに定められており、また、その定年年齢も就業規則により満六五歳と明らかに定められており、債権者は昭和四二年大阪市交通局を定年退職した者で、債務者の第一種職員となった者であると一応認められる。
三 債務者は、昭和六一年、第一種職員の女子については、第二種職員に呼称を変更することとし、昭和六一年六月労働組合の合意を得て、同年一〇月一日より四月一日にさかのぼって実施したと主張する。
しかしながら、債務者においては、第一種職員とは、昇給額、定年退職年齢等の労働条件が異なり、定年退職年齢は、昭和六一年四月一日以降は第一種職員の方が第二種職員より一〇歳(昭和六三年一二月二二日以降は五歳)高齢に定められているので、第一種職員を第二種職員と呼称変更する取扱は、就業規則の定めと異なった不利益な扱いであって、許されないというべきである。
債務者は、昭和六一年六月、右呼称変更につき、労働組合の合意を得たと主張するが、これは労働協約でもなく、これをもって、就業規則と異なる不利益な扱いを合理化することはできない。また、債務者は、右呼称変更につき、所属長から本人に告知して、本人も十分承知のことであるとか、昭和六一年一〇月の昇給辞令に併せてその旨を通告したと主張するが、昇給通告書(書式は<証拠略>)自体には右呼称変更の記載はなく、債権者は、昭和六一年一二月頃、協力会発行の機関誌「あゆみ」の記載をきっかけに右取り扱いを知って労働組合の委員長にも抗議し(<証拠略>)ているものであって、右呼称変更、及びこれにより定年年齢についての不利益な扱いを受けることに同意したということはできない。
なお、債務者は、右呼称変更の扱いは就業規則の改訂の際意図されており、労働組合の同意も得た上でそのとおり運用されており、これまで右扱いを受けた上六〇歳に達した女子職員二名は何の異議苦情も述べず退職していっているので、改訂後の就業規則は、大阪市交通局の若年定年で退職してきた女子職員については第二種職員として取り扱うと解釈されるべきであると主張するが、就業規則の解釈に際しては、その文言のみによらず諸要素を考慮すべきであるとしても、就業規則の定め自体を変更せずに、これと異なる不利益な取り扱いを就業規則の解釈として適用することは、制限されるべきであって、本件においても、定年退職年齢については就業規則の文言と明らかに異なる不利益な扱いとなる右呼称変更を、右債務者主張事実をもって、就業規則の解釈として適用し、もしくは合理化することは、到底許されないというべきである。
結局、就業規則と異なる本件定年解雇を正当とするに足りる理由は認められず、債権者は、債務者の従業員たる地位を有するものであることが認められ、その保全の必要性も一応認められる。
四 本件疎明資料(<証拠略>)及び審尋の全趣旨によれば、債権者は、その所有マンションに一人で暮らし、債務者から受ける賃金で生活を維持し、毎月約二〇万円(生活費のほか、生命保険等保険金約二万円の支出を含む)を支出しており、マンションの他に一〇〇万円の銀行預金を有していること、平成一月(ママ)末には、市・府民税を一五万三三〇〇円支払わなければならないことが一応認められ、これらを考慮すると、右預金額を考慮してもなお、平成七年二月以降、本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、毎月末日限り月額二〇万円宛の金員の仮払いを債権者に受けさせる必要性もまた認められ、これを超える部分については必要性の疎明がないというべきである。
五 以上のとおり、本件申立ては、債権者の債務者の従業員たる地位の保全及び平成七年二月以降本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、毎月末日限り、二〇万円を仮に支払うことを求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので却下することとし、事案の性質に鑑み、債権者に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。
(裁判官 関美都子)
別紙1 財団法人大阪市交通局協力会 定年の変遷
<省略>
別紙2 大阪市交通局の定年制の経過
<省略>