大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)3383号 決定 1995年1月10日
債権者
古郡栄治
債権者
山村加奈
債権者
吉田須磨子
債権者
小田切牧子
債権者
下とも子
右債権者ら代理人弁護士
武村二三夫
同
崔信義
債務者
株式会社インターセプター・メディア・ソフトサービス
右代表者代表取締役
馬上直子
主文
一 債権者らが債務者に対し各自雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者古郡栄治に対し、平成七年一月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二八日限り金二六万六〇六三円の割合による金員を仮に支払え。
三 債務者は、債権者山村加奈に対し、平成七年一月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二八日限り金一八万円の割合による金員を仮に支払え。
四 債務者は、債権者吉田須磨子に対し、平成七年一月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二八日限り金一八万円の割合による金員を仮に支払え。
五 債務者は、債権者小田切牧子に対し、平成七年一月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二八日限り金二四万三二八五円の割合による金員を仮に支払え。
六 債務者は、債権者下とも子に対し、平成七年一月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二八日限り金一六万四四五六円の割合による金員を仮に支払え。
七 債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。
八 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一申請の趣旨
一 主文第一項及び第八項と同旨
二 債務者は、債権者古郡栄治に対し、金一九万〇〇九二円及び平成六年一一月から毎月二八日限り金二六万六〇六三円を仮に支払え。
三 債務者は、債権者山村加奈に対し、金一七万〇五九五円及び平成六年一一月から毎月二八日限り金二二万七六二三円を仮に支払え。
四 債務者は、債権者吉田須磨子に対し、金一四万九二七五円及び平成六年一一月から毎月二八日限り金二〇万一一七二円を仮に支払え。
五 債務者は、債権者小田切牧子に対し、金一七万七八八〇円及び平成六年一一月から毎月二八日限り金二四万三二八五円を仮に支払え。
六 債務者は、債権者下とも子に対し、金一一万六四五六円及び平成六年一一月から毎月二八日限り金一六万四四五六円を仮に支払え。
第二当裁判所の判断
一 前提事実
疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる(当事者間に争いがない事実を含む。)。
1 債務者は、肩書地において、主に競艇に関する情報提供サービス業を行う株式会社(資本金二億円)であり、大阪市北区に大阪支店を置いている。
2 債権者らは、別紙(略)記載の年月日に債務者に雇用され、後記の解雇予告通告時にはいずれも債務者大阪支店において別紙(略)記載の業務に従事していた。
3 債務者は、平成六年(以下の月日はすべて平成六年のものである。)九月二六日付けで、債権者らに対し、「経営内容の悪化にともない、現状の給与等の支給が困難となる恐れがある為」として、同月末日をもって解雇する旨の解雇予告通告(以下「本件解雇通告」という。)をなした。
4 債務者における給料の支払いは毎月二〇日締めの二八日支払いであり、債権者らの本件解雇通告前三ケ月の給料と平均賃金は別紙給料明細表(略)記載のとおりである。
二 債権者らは、本件解雇通告は、<1>組合を嫌悪して債権者らを債務者から排除しようとの意思に基づいてなされたものであり、不当労働行為に該当することは明らかである、<2>仮に整理解雇であるとしてもその要件を満たさないとして、いずれにしても解雇権の濫用に当たり無効である旨主張する。
他方、債務者は、債務者の経営状態が著しく悪化しており、支払能力のある間に予告手当を支給し退社してもらうのが社員に対する義務と判断し本件解雇通告をしたものであって、本件解雇は「業務上の都合上やむをえないとき」(就業規則二七条四号)に該当するとして、解雇は正当である旨主張する。
三 そこで、本件解雇通告及びそれに基づく解雇の効力について検討する。
1 本件疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。
(1) 債務者は、別紙記載の年月日に債権者らを雇用し、五月一日から大阪支店においても営業を開始したが、債務者代表者は債権者らに対し、九月には九州に支店を設置し、その後も順次名古屋、四国等に支店を設置し、営業を拡大する旨明らかにしていた。
債権者古郡栄治は、東京本社で採用されたが、この開設予定の九州支店の支店長として赴任するための準備として、大阪支店において営業全般を勉強するためとの説明を受けて、六月六日付けで大阪に赴任した。
(2) ところが、債務者は、九月一日、債権者ら大阪支店の全従業員に対し、経営の悪化を理由に、事業の再構築のために止むを得ない措置として、<1>アルバイト全員に対する九月二〇日付けでの解雇通知、<2>再募集の際、優先的に雇用する旨の意思表示、<3>救済措置としての時給の減額を条件とした継続雇用(雇用時点時給一〇〇〇円を時給七〇〇円に減額)、<4>九月七日までの回答の猶予期間、<5>社員に対する給与の見直し(異常給与受給者と正常給与受給者との賃金格差是正)、<6>社会保険の一時凍結、<7>時間外勤務の排除、<8>通常勤務時間の三〇分延長の八項目を内容とする通達を出した。
(3) これに対し、債権者らを含む大阪支店従業員全員(九名、ただし支店長を除く。)は、全国一般労働組合大阪地方本部インターセプター・メディア・ソフトサービス労働組合(以下「組合」という。)を結成し、九月一〇日、債務者に対して組合結成通知書を提出するとともに、九月一日の通達の撤回等を求め団体交渉を要求する旨の要求書を提出した。
(4) 債務者と組合は、九月一六日、一回目の団体交渉を行ったが結論が出ず、次回に持ち越しとなった。
二回目の団体交渉は、九月二六日に行われたが、債務者は、その時点までに大阪支店の支店長を除く全従業員に対し解雇予告通知書を発送しており、団交の席上で組合員に対しその旨報告した。
(5) 債務者は、一方で、九月七日、梅田公共職業安定所に対し、大阪支店における社員三名、パート三名の求人手続を行っており、東京本社においては九月一日に従業員一名を採用している。
(6) 債務者は、債権者らに本件解雇通知を発した後も、大阪支店において、東京本社から配置転換された社員一名と新規に採用された女性二名とで情報提供サービスを継続している。
2 債務者は、しきりに経営状態の悪化や事業の継続の困難性を強調し、業務の都合上やむをえないものとして本件解雇が整理解雇であるかのような主張をする。
審尋の全趣旨によれば、東京本社においては九月に四、五名の社員が債務者の勧奨によると思われる退職をしていることが一応認められ、これに大阪支店においても九月一日に前記八項目の通達をなしていることをも合わせ考えると、確かに九月当時における債務者の経営状態が芳しくなかったであろうことは窺えるものの、それ以上に解雇による人員整理を必要とする程度に経営が逼迫していることまでの具体的な疎明はない(一方で新規社員を募集し、採用していることに照らせば尚更である。)。
また、債務者が従業員の解雇を回避するためにいかなる努力をなしたかも具体的な主張もなく不明である。
さらに、仮に人員削減の必要性があったとしても、大阪支店においてはその後も三名の人員により営業が継続されているのであるから、従業員全員を解雇するまでの必要性は存在しないというほかない。
したがって、本件解雇通告は整理解雇の要件は満たしておらず、また、就業規則二七条の「業務の都合上やむをえないとき」にも該当せず、むしろ、前記認定事実のとおり、債務者が、大阪支店の従業員が組合を結成し、団体交渉を行っている最中に、組合員である全従業員を解雇し、その後は本社からの配置転換や新規採用社員により支店における営業を継続するという事態に鑑みると、本件解雇通告は、組合との団体交渉を回避し、組合員を排除する目的でなされたものであると認めるのが相当である。
そうすると、本件解雇通告及びこれに基づく解雇は、解雇権を濫用してなされたものであり、無効というべきである。
四 保全の必要性
本件疎明資料によれば、<1>債権者古郡栄治、下とも子は、いずれも独身であり、債権者小田切牧子は高校二年生の子供との二人暮らしであって、それぞれ債務者から得る賃金を唯一の生計の手段としてきたこと、<2>債権者山村加奈は夫と二人暮らし、債権者吉田須磨子は夫と二人の子供(大学一年生、中学三年生)との四人暮らしであって、それぞれの夫は相応の収入を得ているものの、両債権者がいずれも家計を補助するため就業しており、債務者から得る賃金をも加えて生計が支えられていることが一応認められる。
そうすると、債権者には賃金の仮払いの必要性があるところ、本件疎明資料及び審尋の全趣旨により認められる諸般の事情を斟酌すると、債権者の差し迫った生活の危険・不安を除くために必要な仮払金は、債権者古郡栄治は月額二六万六〇六三円、債権者山村加奈、同吉田須磨子は月額一八万円、債権者小田切牧子は月額二四万三二八五円、債権者下とも子は月額一六万四四五六円と認めるのが相当である(仮払いをすべき金額は、仮払いの性質上、当然に賃金の全額に及ぶというものではなく、生計を維持するのに必要な金額に限られるというべきであるところ、債権者山村加奈、同吉田須磨子はいずれも夫も収入を得ていること、債権者山村加奈は二人暮らしで支出が比較的少なくて済むこと、債権者吉田須磨子は夫に相当の収入があるものの住宅ローンの返済や子供の学資等にある程度の支出を余儀なくされること等の事情を考慮した。)。
また、健康保険の維持等のため、労働契約上の地位保全の必要性も認められる。
しかしながら、債権者らの求める金員の仮払いのうち、既に支払期を経過した平成六年二月分及び一二月分並びに同年一〇月支払分の賃金の差額分については、債権者が現在に至るまで一応生計を維持してきており、右既経過分の支払を受けなければ今後の債権者の生活を維持しがたいような特段の事情があるとの疎明はないこと等の事情を考慮すると、仮払いの必要性は認められない。
また、本案訴訟の第一審において勝訴すれば仮執行宣言を得ることによって仮払いを求めるのと同一の目的を達することができるから、金員の仮払いの終期は本案の第一審判決言渡しまでとすれば足り、これを超える期間の仮払いを求めるべき必要性はない。
五 結論
以上の次第で、債権者らの本件仮処分命令申立ては、いずれも主文掲記の限度で理由があるから、事案の性質上債権者らに担保を立てさせないで、右の限度でこれを認容し、その余は理由がないから、これを却下する。
(裁判官 村岡寛)