大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)3920号 決定 1995年11月14日
債権者
神友興産株式会社
右代表者代表取締役
西田卓司
右代理人弁護士
石田好孝
同
武藤信一
債務者
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
右代表者代表者(ママ)
武建一
右代理人弁護士
森博行
同
位田浩
右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、債権者が債務者に対し本決定送達の日から五日以内に金五〇万円の担保を立てることを執行実施条件として、以下のとおり決定する。
主文
一 債務者は、自らの組合員又は第三者をして、左の行為を行ねせてはならない。
1 ピケを張る等の方法で、債権者の別紙工事現場目録記載の工事現場に対する生コンクリートの納入を妨害する行為
2 ピケを張る等の方法で生コンクリートの納入を妨害すると威迫して、別紙工事現場目録記載の工事現場に押しかけ、納入先が債権者の生コンクリートを注文することを妨害する行為
3 電話、文書、面接等による方法で、別紙工事現場目録記載の納入先に対し、面談を強要する行為
4 宇部興産株式会社大阪支店(大阪市北区―以下住所略、以下同じ)及び同社の神戸サービスセンター(神戸市東灘区)に対し、ストライキをすると脅して、同株式会社が債権者に対しセメントを納入するのを妨げる行為
5 住友大阪セメント株式会社大阪支店(大阪市北区)及び同社の神戸サービスセンター(神戸市兵庫区)に対し、センメトの出荷業務を妨害する行為
二 債権者のその余の申立てをいずれも却下する。
三 申立費用はこれを四分し、その一を債権者の負担とし、その余を債務者の負担とする。
事実及び理由
第一事案の概要
本件は、生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造、販売等を業とする債権者が、その従業員の加入する労働組合である債務者との間の平成六年度一時金等をめぐる争議の過程で、債務者の組合員が、債権者の取引先に押しかけ、実力の行使により、債権者による生コン納入業務の妨害等をしていると主張して、その差止めを求めた事件である。
一 申立の趣旨
債務者は、自ら左の行為をしてはならず、他の組合員又は第三者をして左の行為を行わせてはならない。
1 ピケを張る等の方法で、債権者の平成七年一月一〇日付け主張書面中の一覧表記載の納入先に対する生コンクリートの納入を妨害する行為
2 ピケを張る等の方法で、生コンの納入を妨害すると威迫して、同一覧表(略、以下同じ)記載の工事現場に押しかけ、納入先が債権者の生コンクリートを注文することを妨害する行為
3 電話、文書、面接等による方法で、同一覧表記載の納入先に対し、面談を強要する行為
4 電話、文書、面接等による方法で、債権者の取引先である兵庫建設株式会社に対し、債権者への指導を要求する行為
5 債権者の取引先である兵庫建設株式会社に対し、業務を妨害すると脅迫する行為
6 債権者の取引先である兵庫建設株式会社に対し、債権者の生コンクリートを使用するなと集団で圧力をかける行為
7 宇部興産株式会社大阪支店(大阪市北区)及び同社の神戸サービスセンター(神戸市東灘区)に対し、ストライキをすると脅して、同社が債権者に対しセメントを納入するのを妨げる行為
8 債権者の取引先である住友大阪セメント株式会社大阪支店(大阪市北区)及び同社の神戸SS(神戸市兵庫区)に対し、セメントの出荷業務を妨害する行為
二 当事者の主張
債権者は、債務者が、債権者の業務を妨害して平成六年度の一時金についての交渉を有利に導く目的で、債権者の得意先(生コン納入現場及びその工事の注文主)に赴き、ピケを張るなどの方法で生コンの納入を現実に妨害し、あるいは妨害すると威迫して、債権者の得意先が債権者に生コンを注文することを阻止しており、また、電話、文書、面接等による方法で、債権者の旧大株主である兵庫建設株式会社(本社・神戸市灘区。以下「兵庫建設」という。)等に対して面談を強要した上、債権者に対する指導を要求する等して、同社等を困惑させたと主張する。
これに対し、債務者は、所属の組合員が債権者の生コン納入現場や兵庫建設の本社等に赴いたことは認めるが、いずれも取引先に対する正当な要請活動であり、ピケを張る行為、威迫行為、面談を強要する行為等はしていないと主張する。
本件における当事者の具体的主張は、本件記録における債権者の仮処分命令申立書、平成七年一月一〇日付け、同月二四日付け及び同年九月二五日付け各主張書面並びに債務者の答弁書、一九九五(平成七)年二月八日付け、同年三月六日付け及び同年一〇月九日付け各主張書面のとおりであるから、これらを引用する。
第二裁判所の判断
一 本件の事実関係
各項末尾の括弧内に摘示した疎明資料及び審尋の結果によれば、以下の1ないし8のとおり疎明される。
1 本件行動に至る経緯の骨子
債務者は、昭和五九年以来、債権者が不当労働行為を行い、労働組合潰しの姿勢をとってきているとして、債権者との間で紛争状態にあった。そして、平成六年の春闘で交渉された一時金等の問題についても進展がなかったため、債務者は、同年七月一三日以降、行動を強化することとした。これに対し、債権者は、債務者の組合員が、生コンの納入先に対し、これ以上債権者から生コンを購入するなら納品を妨害すると告げる等して、債権者の営業を妨害していると主張して、同月二六日、大阪地方裁判所に、妨害行為禁止仮処分命令の申立て(同裁判所平成六年(ヨ)第二二八四号)を行った。これに対し、債務者は、違法な業務妨害行為を否認し、生コンの納入先に対し、債権者が不当労働行為を行わないよう債権者を指導してほしいと要請したにすぎない等と主張して争っていたが、債務者において、納入先への訪問等を任意に取り止めたので、債権者は、同年一二月五日、右仮処分命令申立てを取下げた。同月一六日、債権者と債務者との間で、再び、春闘一時金に関する交渉が持たれたが、この交渉は決裂するに至った。(<証拠・人証略>)
2 平成六年一二月一九日の債務者の行動
(一) 債務者執行委員桜井政美(以下「桜井」という。)及び債務者神友興産分会組合員岸蔭哲夫(以下「岸蔭」という。)を含む債務者組合員約一五名は、同日午前一〇時三〇分ころ、債権者の得意先であり、当時、債権者の株主であると債務者において認識していた兵庫建設の本社を訪れ、うち六名が同社の了解を得て中尾博行総務部長と面談した。その中で、まず、桜井が、債権者の不当労働行為が約一〇年間継続しており、春闘が未解決である旨主張し、次に、岸蔭が、債権者の労務に関する問題点を主張して、子会社である債権者に指導してほしい旨要求した。これに対し、同部長は、債権者がうまくゆくようにしたいが、内政干渉はできぬし、どのようになるかは分からないが、明日、債権者に行く用があるので、その結果は電話で知らせる旨回答した。(<証拠略>)
右のように疎明され、(人証略)中これに反する部分は採用できない。
ところで、(証拠略)中には、債務者が、兵庫建設の代表者との面談を強要したとの記載があるが、本件においては、その強要の具体的態様を示す証拠は一切なく、結局、面談を違法に強要したとの点については疎明がないものというべきである。
(二) 平成六年一二月一九日午後一時三〇分ころ、桜井及び岸蔭を含む債務者組合員約一五名は、大木建設株式会社の兵庫県警察機動隊宿舎建築工事現場(別紙工事現場目録8―略、以下同じ)へ赴き、桜井及び岸蔭を含む約六名が工事現場事務所長の斉藤一男(以下「斉藤所長」という。)と面談した。この中で、債務者の組合員は、「神友(債権者)の生コンを注文するな。注文したら今度はピケを張るぞ。」と申し向け、また、債権者の生コンは、複数会社のセメントが混合され、品質に問題がある疑いがあると主張して、生コンの配合報告書を見せるよう要求するなどした。さらに、岸蔭において、「今日はこのまま帰るけど、今度は(生コンの納入を)止める。」と発言した。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(証拠・人証略)中、これに反する部分は採用できない。
3 同月二一日の債務者の行動
(一) 同日午後二時ころ、債務者組合執行委員長金谷三(以下「金谷」という。)を含む債務者組合員約三〇名は、西松・大林・大成建設企業体の北野中層配水池築造工事(別紙工事現場目録9)の現場に赴き、神戸市水道局の横山監督に面談し、同人に対し、債権者と労使紛争中なので、債権者の生コンを使用しないよう要求し、納入するなら次から阻止する旨申し向けた。西松・大林・大成建設企業体としては、生コンの販売者が途中で替わって打ち継ぎができると漏水等の問題が起こって良くないので、とりあえず年内は打設を中止することとし、同月二四日納入予定の一〇〇立方メートル及び二六日納入予定の四〇立方メートルが解約となった。そして、平成七年以降も、結局、他社から納入するようになった。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(証拠・人証略)中これに反する部分は採用できない。
(二) 同日午後三時三〇分ころ、債務者組合員約二六名が兵庫建設を訪れ、主に桜井及び岸蔭が中尾部長と面談し、同月一九日の面談(右2(一))以降債権者を指導したか否かを尋ねた上、債権者の株主として責任を取るように要求した。これに対し、同部長は、「前回は神友の株式を持っていると発言したが、現在は株式を手放している。」旨述べる等した。(<証拠略>)
4 同月二二日の債務者の行動
(一) 同日午前九時三〇分ころ、債務者副執行委員長川村賢市(以下「川村」という。)は、桜井及び岸蔭とともに、大木建設株式会社の兵庫県警察機動隊宿舎建築工事現場(別紙工事現場目録8)に赴き、斉藤所長に対し、債権者は住友セメントと宇部セメントの双方のセメントを混合しているため、同社の生コンの品質が低下している疑いがあり、兵庫県に報告する旨告げたので、同所長から、債権者に対し、過去三か月間のセメントの購入伝票のコピーを工事事務所まで持参するよう指示があり、債権者は、同年九月ないし一一月分のセメントの試験表及び宇部セメントの購入伝票のコピーを届けた。しかし、実際は、セメント混合の事実はなかった。(<証拠略>)
(二) 同日午前一一時三〇分ころ、金谷及び岸蔭を含む債務者組合員二〇数名は、株式会社村上工務店のワコーレグランの現場(別紙工事現場目録7)に赴き、同社に対し、債権者の生コンを使用しないよう要求し、また、生コン車が来ると、大勢でこれを取り囲み、荷おろしを中止するよう要求していた。当時、債権者から生コン車七台分を出荷し、右のような状況のもとで、六台分は打設できたが、七台めの生コン車は、債務者の組合員が現場の入口でピケを張ったため、打設ができず、やむなく運転手の判断で債権者方に持ち帰り、二立方メートルを廃棄処分した。このため、現場事務所長北野正行は、労使紛争の継続中は債権者から生コンを買うわけにはゆかないと判断して、以後の債権者との注文を破棄した。(<証拠略>)
これに対し、債務者は、実力による債権者の納入妨害は否認し、(証拠・人証略)中には、右の七台めの生コン車が打設をせずに帰ったのは、販売店の指示により、任意に持ち帰ったものである旨示す部分がある。しかし、一旦契約をして生コンを運搬してきた生コン車が、打設をせずに持ち帰れば、契約違反となるばかりでなく、持ちかえった生コンは廃棄処分とせざるを得ないことにかんがみれば、債権者あるいは販売店において、任意に打設を取り止めて持ち帰ったとは考えにくい。したがって、債務者のこの点に関する主張及びこれに副う右各証拠の部分は不自然というのほかはなく、到底採用できない。なお、債務者は、この際の生コンの打設方法が、「直取り」と呼ばれる、ポンプ車を使用しないで現場に直接流し込むものであったことをもって、債務者組合員の妨害により、生コン車がポンプ車に横付けできなかった旨の記載のある(証拠略)の全体の信用性を否定するが、かかる事実をもって、必ずしも右各書証全体の信用性が否定されるものではないから、仮に当日の打設方法が直取りであったとしても、右疎明が覆るということはできない。
(三) 同日午後一時ころ、債務者組合員二〇数名は、竹中工務店外共同企業体の光風病院建築現場(別紙工事現場目録1)に赴き、金谷より工事事務所長の仲野進に対し、債権者とは一〇年来の労使未解決の問題があり、労使紛争の解決のため、債権者からは生コンを購入しないと約束してほしい旨要求した。その結果、債権者は、同企業体から、労働組合の妨害が予想される間は生コンを注文しない旨通告を受け、同月二六日打設予定の二〇〇立方メートルと、二七日打設予定の三五〇立方メートルの注文が破棄されるに至った。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(証拠・人証略)中これに反する部分は採用できない。
(四) 同日、川村及び桜井は、債権者のセメント仕入先である宇部興産株式会社(以下「宇部興産」という。)の神戸サービスセンター(神戸市東灘区)を訪れ、井本充彦主査に対し、債権者に対してセメントを供給しないよう要求し、すればストライキをして、仕事が出来ないようにする旨を告げた。その後、午後二時三〇分ころ、川村及び桜井は、宇部興産大阪支店(大阪市北区)を訪れ、主に川村より、同社従業員重国及び西村に対し、債権者においては春闘問題が未だに解決しておらず、今朝も債権者から納入している生コン打設現場でストライキを行ったこと、宇部興産としても、債権者に対してセメントの納入をストップして欲しい旨求め、一二月二四日からセメントを債権者に納入したことがわかったら、神戸のサービスセンターにおいてストライキをする旨申し向けた。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(証拠・人証略)中、これに反する部分は採用できない。
5 同月二四日の債務者の行動
(一) 同日午前九時三〇分ころ、金谷、岸蔭及び債務者執行委員政木孝行(以下「政木」という。)を含む債務者組合員二〇数名は、大型バス及び宣伝車合計三台に分乗して、債権者が住友大阪セメント株式会社(以下「住友大阪」という。)から請け負って管理している同社の神戸サービスセンター(神戸市兵庫区)に赴き、金谷、岸蔭、政木ほか数名が下車して、金谷より同センター所長の三崎勲に対し、債権者による不当労働行為を主張、説明するとともに、同じ債権者の管理者の一員として、労使紛争の解決に向けて債権者を説得してほしい旨の要求を行った。この間、宣伝車は、セメント積み込み装置の前に停車されていたので、同日午後三時までの間、バラセメントの出荷が不可能となった。また、債務者組合員が到着した当時、有限会社吉田運送の車両が、バラセメントの積み込み作業を完了して、まさに出発しようとしていたところ、右の宣伝車の停車のために搬出が不可能となり、荷を下ろさないと車を出させない旨政木が述べたので、やむなく、同車両は、バラセメントを下ろすに至った。このため、当日出荷が予定されていた四〇〇トンの出荷が妨害された。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(証拠・人証略)中これに反する部分は採用できない。
(二) 同日午前九時三〇分ころ、岸蔭を含む債務者組合員三名が株式会社地崎工業(以下「地崎工業」という。)の湊川公園マンション工事現場(別紙工事現場目録3)に赴き、吉川繁夫所長に対し、債権者と争議中であるので、債権者からの生コンの購入を中止して、他社から購入してほしい旨要求した。このため、同所長は、労働組合と争いがあると、現場が迷惑するので、その間は債権者の生コンを使用することはできないと判断して、当日は一二〇立方メートルの打設が予定されていたが、四〇・五立方メートルの納入を受けたところで注文を打ち切り、その後は他社から納入を受けるに至った。(<証拠略>)
これに対し、(証拠略)中には、地崎工業の所長が、そんなに労務管理に問題のある債権者からは生コンを購入しなくてもよい旨の発言をし、右同日以降債権者への注文を打ち切ったのは、債務者に同情したためであるかのごとき記載がある(もっとも、地崎工業が、同日以降債権者への注文を打ち切ったこと自体については、<証拠略>の記載では、不知となっている。)。しかし、一旦注文を受けて、継続的に生コンの納入を受けている業者が、購入先の労務管理を批判し、その労働組合に同情して契約を打ち切るなどということは、通常、考えられず、地崎工業の所長において右のような発言をしたとしても、その趣旨は、むしろ、債務者による妨害を恐れて、注文を打ち切ったものと解するのが自然である。したがって、(証拠略)中の右部分は採用できない。その他、(人証略)中右疎明に反する部分も採用できない。
(三) 同日、岸蔭を含む債務者組合員数名が、株式会社長谷工コーポレーションのセンタービレッジⅡ新築工事の現場(別紙工事現場目録6)へ赴き、生コン打設予定を確認した。このため、工事事務所としては、債務者による妨害を恐れ、債権者からの以後の生コンの納入契約を破棄した。(<証拠略>)
右のように疎明され、(証拠・人証略)中これに反する部分は採用できない。
(四) 同日、債務者組合員二〇名ないし三〇名が、宇部興産神戸サービスセンターにおいて中型バスに乗車して、債権者関係のセメントが納入されないよう終日監視を行った。(<証拠略>)
右のように疎明され、(証拠略)中これに反する部分は採用できない。
6 同月二六日の債務者の行動
(一) 同日午前九時一五分ころ、金谷、債務者執行委員武洋一(以下「武」という。)ほか数名の債務者組合員らが宣伝車一台に乗車して住友大阪の神戸サービスセンターに赴き、宣伝車をセメント積み込み装置の前に停車させ、あるいは施設の前に立ちはだかるなどして、バラセメントの出荷業務を午後三時までの間妨害した。(<証拠略>)
右のように疎明され、(証拠・人証略)中これに反する部分は採用できない。
(二) 同日、債務者組合員二〇名ないし三〇名が、中型バスに乗車し、宇部興産神戸サービスセンターにおいて、債権者関係のセメントが納入されないよう監視行動を行った。(<証拠略>)
右のように疎明され、(証拠略)中これに反する部分は採用できない。
7 同月二七日の債務者の行動
(一) 同日午後一時ころ、川村は、他の組合員二名とともに住友大阪の大阪支店を訪問して、尾形清孝次長に対し、争議の解決のため、セメントメーカーとして、債権者に対して影響力を行使すること、債権者がいうことをきかないなら、債権者との間の神戸サービスセンターの管理契約を解除する等により、債権者に態度を改めるよう指導することを要求し、どのように対処したかについては、一月一一日に確認に来る旨申し述べた。(<証拠略>)
右のとおり疎明され、(人証略)中これに反する部分は採用できない。
(二) 平成六年一二月二七日午後一時ころ、武、桜井ほかの債務者組合員約六〇名が兵庫建設本社を訪れ、うち五名ないし六名が中尾博行部長と面談した。武は、兵庫建設が既に株主でないとしても、過去十年来として(ママ)の親会社としての責任を問うとして、兵庫建設で債権者の工場を買い取ること、二名の従業員を兵庫建設で雇用すること等を要求し、回答がないなら、社会に問うことになる旨申し向けた(<証拠略>)。
8 現在の状況
本件申立後は、債務者は、取引先への訪問等を任意に中止している。
二 右一の行動に対する評価
1 前記一の2(一)及び3(二)で疎明されたところによれば、兵庫建設については、債務者において面談を強要したり、違法な手段で業務を妨害する旨告知した事実の疎明はないし、今後、かような行為がなされる切迫したおそれがある旨の具体的な疎明もない。また、債権者への指導を要求する行為自体を違法ということは到底いえないし、さらに、申立の趣旨6のように、単に集団で圧力をかける行為も、すべてが違法ということはできない。したがって、申立の趣旨4ないし6については、争いある権利関係についての疎明はないものというべきである。
2 しかし、前記一で疎明された債務者の行動のうち、少なくとも2(二)、3(一)、4(二)ないし(四)、5(一)ないし(三)及び6(一)は、債権者及びその取引先に対し、実力を行使し、あるいは、実力を行使する旨暗黙に示して、債権者の営業を妨害する行為であり、適法な労働組合活動として許容される平和的な説得や集団による示威の限度を超え、違法なものといわざるを得ない。そして、(証拠略)によれば、債権者については、右の各行為の対象となった工事現場及び今後納入が予定されている現場として、別紙工事現場目録記載の各工事現場がある(なお、債権者の平成七年一月一〇日付け主張書面記載の一覧表のうち、「神戸市中央区(以下、略)―星山、西松JV、トンネル」と「神戸市中央区(以下、略)、西松・大林・大成建設企業体、北野中層排水池築造工事(口一里山工区)」、「神戸市兵庫区(以下、略)、地崎工業、湊川」と「神戸市兵庫区(以下、略)、地崎工業、湊川公園マンション」とはそれぞれ同一の工事現場の重複記載と考えられ、また、兵庫建設本社への生コン納入予定については、疎明が全くない。)ことが疎明されるから、前記第一の一の申立の趣旨1ないし3、7及び8については、争いある権利関係の疎明がある(ただし、工事現場については、債権者の平成七年一月一〇日付け主張書面中の一覧表を、別紙工事現場目録のとおり訂正すべきことは、右に説示したとおりである。)こととなる。
三 保全の必要性について
(証拠略)によれば、前記一の債務者の行為により、債権者は、持ち帰った生コンの廃棄処分及び生コン納入契約の破棄により、総額で一八〇五万四六〇〇円の得べかりし収益を失ったこと、今後も、債務者による前記の行為が続けば、契約破棄等により、債権者の損害が拡大するおそれがあることが疎明される。したがって、債権者の被ることあるべき著しい損害を避けるため、債務者による前記の各行為を差し止める必要性があるものというべきである。
第三結論
よって、債権者の本件申立ては、主文記載の行為を差し止める理由があるから、その限度でこれを認容することとし、その余の申立てについては、争いある権利関係についての疎明がないから、これを却下することとする。
(裁判官 原啓一郎)