大阪地方裁判所 平成6年(ワ)10682号 判決 1995年8月15日
原告
牛尾繁実
ほか六名
被告
菱和運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、連帯して、原告牛尾繁実、同酒居律子及び同橋爪昭子に対し各金七八七万九四五五円及びこれに対する平成六年六月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告田中廣及び同田中祥夫に対し各金三九三万九七二七円及びこれに対する平成六年六月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告牛尾繁実、同酒居律子、同橋爪昭子、同田中廣及び同田中祥夫のその余の請求をいずれも棄却する。
四 原告牛尾剛宜及び同牛尾健二の請求はいずれもこれを棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。
六 この判決は第一項、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、連帯して、原告牛尾繁実に対し一一六七万四九八二円、原告牛尾剛宜及び同牛尾健二に対し各二二〇万円、原告酒居律子に対し一〇六七万四九八二円、原告田中廣及び同田中祥夫に対し各四二三万七四九一円、原告橋爪昭子に対し一〇六七万四九八二円、及び右各金員に対する平成六年六月一五日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二事案の概要
本件は、被告木村壽広(以下「被告木村」という。)が大型貨物自動車を運転して交差点を右折するに当たり、青信号の表示に従い交差点を横断中の牛尾かやこ(以下「亡かやこ」という。)に衝突し、同人を死亡させた交通事故であり、亡かやこの相続人が、被告木村と大型貨物自動車の所有者である被告菱和運輸株式会社(以下「被告会社」という。)らに対して民法七〇九条、民法七一五条及び自動車損害賠償保障法第三条に基づき損害賠償請求した事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
(1) 発生日時 平成六年六月一五日午前九時五分頃
(2) 発生場所 兵庫県神崎郡福崎町西治四九九
(3) 関係車両 被告木村運転の大型貨物自動車(姫路八八あ二七九一)
(4) 事故態様 被告木村が大型貨物自動車を運転して交差点を右折する際、同交差点を横断中の亡かやこに衝突し、同人を死亡させた。
2 責任
被告木村は民法七〇九条の責任、被告会社は民法七一五条及び自動車損害賠償保障法第三条の各責任がある。
二 争点
1 逸失利益について
(一) 原告の主張
亡かやこは、本件事故当時七四才であり、長男の原告牛尾繁実(以下「原告繁実」という。)と同居し、原告繁実の妻は昭和五八年に死亡したので、孫に当たる原告牛尾剛宜(以下「原告剛宜」という。)や原告牛尾健二(以下「原告健二」という。)の世話をし、母親代わりとして家事一切を取り仕切つてきたものであり、逸失利益の算定にあたつては、主婦としての前提で算定がなされるべきである。また、亡かやこは恩給、国民年金、町村議会共済遺族年金を各受給しており、右年金による収入も加算されるべきである。
(二) 被告の主張
一般的に、亡かやこと同年齢の老人も何らかの家事労働をしているのであり、亡かやこが特別な才能をもって特別の収益を挙げていたわけではない。
また、孫の世話をしたというが、孫らも成長し自分の身のまわりのことは出来るようになっており、幼児を抱える妻の労働とは比較にならない程軽いものである。
従って、逸失利益の算定に当たつては、家事労働を加味したうえ年金分をも含めて平均賃金を基礎にして算定するのが一般であり、平均賃金とは別に年金を考慮することはない。また、年金分をも含めて平均賃金で算定したうえ、右平均賃金からいわゆる寄与率認定をしているのが一般の判例であり、そのような方法によるべきである。生活費控除においても五〇パーセント控除が相当である。
高齢者の場合、現金収入は年金しかなく、年金は福祉目的で支給されるものであり、他の家族を保護するためのものではない。
第三争点に対する判断
一 本件事故の概要
証拠(甲一、二、五の一乃至二、六の一乃至二、七の一乃至二、八、九、一〇の一乃至二、一一、一二の一乃至二、一三の一乃至二、一四の一乃至二、一五の一乃至三、一六の一乃至二、一七乃至二三、乙一乃至一三、原告繁実本人)によれば、以下の事実が認められる。
本件事故が発生した現場(以下「本件道路」という。)は、南北に通じる町道(以下「南北道路」という。)と兵庫県道三木山崎線とが交わる信号機の設置された交差点であり、被告木村は、南北道路を進行して東西道路へ右折するに際し、東西道路から南北道路に左折する大型貨物自動車の右側バツクミラーと被告車の右側バツクミラーとが接触しそうになったことから、右車を避け、時速一五キロメートルで右折しようとしたが、東西道路を青信号の表示に従って横断中の亡かやこに衝突し、同人に脳挫傷等の傷害を負わせ平成六年六月一六日に死亡させたものである。
二 過失、過失割合
被告木村は、前記認定のとおり、交差点を右折するにあたり、離合車に気を奪われて、同交差点を横断する亡かやこと衝突したものであり、前方不注意の過失がある。被告らは、亡かやこが小走りで横断しており、周囲の状況を確認しないで横断した亡かやこにも過失がある、と主張するが、別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)によれば、被告木村は<2>点で<ア>点に亡かやこを発見し、被告車の右前部が亡かやこに衝突しており、亡かやこが通常の歩行をしていても本件事故が発生するものであり、被告らの右主張は理由がない。
よつて、本件事故の過失割合は、被告木村の過失が一〇〇パーセントである。
三 損害額(括弧内は原告らの請求額である。)
1 逸失利益(一五四九万九九三一円) 七〇一万七八二〇円
亡かやこは本件事故当時七四才であり、亡かやこの夫牛尾重信は昭和六〇年に、原告繁実の妻も昭和五八年にそれぞれ死亡していたことから、孫に当たる原告剛宜や原告健二の世話をしたり家事をし、他に、農業として、原告繁実と一緒に三反五畝の田を耕作していたものである。事故当時原告剛宜は高校三年生で、原告健二は高校一年生であつた。
原告らの家の家計は、原告繁実が勤務していた農協からの月額三五万円位の収入で賄つており、亡かやこが貰つていた年金については、亡かやこが旅行するときの費用にしたり、うち月に三万円位のお金を入れて家計を助けていたりしていたものである。
生前、亡かやこが給付を受けていたものとしては、恩給(傷病者遺族特別年金)年額四六万〇五五〇円(甲五の一乃至二)、国民年金(老齢)年額三五万二〇〇〇円(甲六の一乃至二)及び町村議会遺族年金年額一九万一七六〇円(甲七の一乃至二)があって、その合計金額は一〇〇万七三一〇円である。
亡かやこの逸失利益としては、前記事情を考慮すると、亡かやこが本件事故当時主婦としての働きもしていたことが認められるので、平成五年賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者の六五歳以上の賃金である二八四万二三〇〇円を基準とし、原告健二が高校を卒業するまでの三年間は主婦としての労働が必要であると認められることから、まず、右金額に年金合計額を加えた三八四万六六一〇円に生活費控除を五〇パーセントとして算定した金額を算出し、それに、七七歳以降の平均余命である一一年間(七七歳の平均余命は一〇・八六であるが一一年間とする。)は生活費控除を七〇パーセントとして算定した金額を加算すると、逸失利益としては七〇一万七八二〇円となる(小数点以下切り捨て、以下同じ)。
3,846,610×0.5×2.731=5,252,545
1,004,310×0.3×(8.590-2.731)=1,765,275
5,252,545+1,765,275=7,017,820
2 慰謝料(二六〇〇万円) 二一〇〇万円
亡かやこは、前記認定したとおり、牛尾家の親子関係では、これまで重要な役割を果たしてきたものであり、遺族の悲しみは大きく、また本件事故が被告木村の一方的な過失によつて起こされたものであることを考慮すると、死亡による慰謝料は二一〇〇万円が相当である。
3 葬儀費(一〇〇万円) 一〇〇万円
亡かやこの葬儀費としては、一〇〇万円が相当である。
4 小計
以上、損害額合計は、二九〇一万七八二〇円である。
四 相続
原告繁実、同酒居律子、同田中廣、同田中祥夫及び同橋爪昭子は、いずれも亡かやこの相続人であることが認められ、原告繁実、同酒居律子及び同橋爪昭子は相続分の各四分の一ずつ、原告田中廣及び同田中祥夫は各八分の一づつ相続したことになる。
なお、原告剛宜及び同健二は、いずれも亡かやこの孫であって相続人ではなく、生前の亡かやことの関係において慰謝料を請求するが、右慰謝料請求を認めるような特別の事由はない。
五 弁護士費用
原告らの請求額、前記認容額、その他本件訴訟にあらわれた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては二五〇万円が相当である。前記損害額に弁護士費用を加算すると損害額は三一五一万七八二〇円となる。
六 結論
以上によれば、原告牛尾繁実、同酒居律子及び同橋爪昭子の請求は、被告らに、連帯して、各金七八七万九四五五円及びこれに対する平成六年六月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告田中廣および同田中祥夫の請求は、被告らに対し、連帯して、各金三九三万九七二七円及びこれに対する平成六年六月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告牛尾剛宜及び同牛尾健二の被告らに対する請求はこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 島川勝)
交通事故現場見取図
<省略>