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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12155号 判決 1996年10月31日

原告

木村三喜男

被告

米倉堅亮

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三一八万六六八二円及びこれに対する平成四年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、各自金二三〇〇万円及びこれに対する平成四年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車と普通乗用自動車が衝突した事故に関し、普通乗用自動車の運転者である原告が、右事故により負傷したとして、普通貨物自動車の運転者である被告米倉堅亮(以下「被告米倉」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、同車の保有者である被告株式会社寺地工建(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償(内金)を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  次の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年七月一一日午後五時三〇分ころ

(二) 場所 大阪府枚方市山田池公園無番地先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告米倉運転の普通貨物自動車(大阪四七と三七八八、以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(大阪五三ろ七二三七、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 被告米倉は被告車を運転して本件現場道路を東から西へ走行中、原告車に衝突したもの

2  被告らの責任

被告米倉は、民法七〇九条に基づき、被告会社は、自賠法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害のてん補

原告は、本件事故による損害のてん補として、合計一〇〇万円を受け取つた。

二  争点

(損害)

1 本件事故と傷害との因果関係・後遺障害

(原告の主張)

本件事故は、被告車が時速約五〇キロメートルの速度で停止中の原告車に衝突したものであり、原告は、本件事故により、外傷性頸部・腰部症候群、頭部外傷Ⅱ型、腰椎椎間板ヘルニア等の傷害を負い、平成五年三月一日に症状固定となつて、右下肢痛み(杖歩行)等の後遺障害が残り、右後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当する。

(被告らの主張)

本件事故は、被告米倉が、対面通行が困難なカーブの狭くなつた道路部分に同時に進行してくる原告車を認め危険を感じて急ブレーキをかけたため、被告車の後輪がスリツプして右に揺れ、停止した直後の原告車の右前角部に被告車の右後側部を衝突させたというものであり、両車両の接触自体は軽度のものであり、原告車は右衝突により全く動かず、したがつて、原告車を運転していた原告が身体をひねられたり、どこかで身体を打つたりすることはあり得ない。特に、原告の長期入院の原因となつた疾患である腰椎椎間板ヘルニアは持病であり、本件事故によつて生じたものではない。

2 寄与度減額

被告らは、本件事故による受傷が多少なりとも原告主張の前記症状に影響しているとしても、その寄与するところは極めて小さく、そのほとんどが原告の持病に基づくものであるから、民法七二二条二項の類推適用により九割の寄与度減額を行うのが相当である旨主張し、原告は、右主張を争う。

第三争点(損害)に対する判断

一  本件事故と傷害(後遺障害)との因果関係・寄与度減額

1  前記争いのない事実及び証拠(甲一の一ないし三、甲三、四、五の一ないし三、六の一ないし三、七、九の一、二、一〇の一ないし四三、一一、一九、二〇、検甲一ないし七、乙一ないし三、四の一、二、五ないし八、検乙一の一ないし一六、被告米倉、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故は、被告米倉が、被告車を運転して、北側に膨らんだ前後の見通しの良くないカーブの本件現場の道路(幅四・九メートル、最高速度時速二〇キロメートル)を時速四〇から五〇キロメートルで西進中、折から東進中の原告車(原告は運転席でシートベルトを着用して運転し、助手席には吉雄孝、後部座席の運転席側には吉雄貴子、助手席側には吉雄久枝が乗車していた)を前方一五・六メートル先に東進中の原告車を発見し、ブレーキをかけると同時に左にハンドルを切つたところ、後輪が右側に滑つて被告車の荷台の最後尾右側が衝突直前に停止していた(原告も被告車を発見して原告車を停止させた)原告車の右前側面に衝突し、被告車はその左前部が道路左端の金網フエンスに衝突して停止するという事故であり、原告車は右衝突により移動しなかつたが(仮に移動したとしても、原告が気付かない程度のわずかな移動)、その衝撃により、原告の体は右に揺れ、運転席側ドアの窓ガラスで頭を打つとともに肘置きで右腰(骨盤の上辺り)を打つた。また、右事故により、原告車はフロントバンパーの取替え等で六〇万五〇〇〇円の修理見積りの損害を被つたが、被告車は特に損傷がなく、修理を要しなかつた。なお、制動をかける前の原告車の速度、原告車の乗務員が受ける衝撃の程度等を鑑定した中村裕史作成の私的鑑定書(甲九の一、二)は、右鑑定の重要な前提事実である原告車の損傷状況につき、原告車の損傷写真ではなく、見積書から推測して鑑定結果を導いていること等その正確性に問題がなること等から、直ちに採用できない。

(二) 原告は、本件事故直後、本件現場で被告とともに実況見分に立会つて指示説明をした後、腰から右足のつけねの痛みを訴えて向山病院で受診し、右腰部打撲・捻挫、頸椎捻挫で、向後約二週間の通院、安静加療を要する見込みと診断された。当初は、上下肢につき神経症状を認める異常所見はなかつたが、その後、頸部痛、腰部痛が強くなり(頭痛、吐気も出現)、左前腕(左手第一指と第五指のしびれ)にしびれ感を訴えたので、担当医師の勧めで、平成四年七月一七日まで(実日数七日)通院後、同月一八日から同月三一日まで一四日間入院(本人の希望で個室入院となる)したが、右症状が改善しないため、自宅近くの総合病院である医療法人有恵会有沢総合病院(以下「有沢病院」という。)に転医した。

(三) 原告は、有沢病院でも、ほぼ向山病院と同じ症状を訴え、担当医師の指示で入院し、検査を受けたところ、スパーリングテストは左が陽性、ラセーグ徴候は右が陽性となり、MRI検査では、第六、第七頸椎間に脊柱管狭窄、第四、五腰椎と第五腰椎、仙骨間に椎間板変性、第四、五腰椎に椎間板膨隆が認められ、外傷性頸部・腰部症候群、頭部外傷第Ⅱ型、右根性坐骨神経痛、腰椎椎間板ヘルニアとの診断(右ヘルニアは軽度のもの)を受け、同年一一月一四日までの一〇七日間入院した(同年七月三一日は向山病院での入院日と重なるから、向山病院と有沢病院の入院期間を通算すれば、一二〇日間となる。)。入院中、頸部痛、腰部痛、右下肢痛(右下肢のしびれ・痛みを訴えるようになつたのは同年八月一八日ころ)、頭痛等の症状を訴え、局部注射を頻回にするなどの治療を受けたが、余り効果がなく、痛みで眠れないこともあつたが、同年一一月九日に施行された硬膜外ブロツクにより腰部痛が軽減されたことから、同月一四日に退院となつた(なお、原告は、入院中、右症状を訴えてはいたが、度々許可を受けて外泊したり、ベツドに不在がちのことが多かつた。)。退院後は、有沢病院に同年一一月一五日から通院し、同月一七日ころからまた右下肢が痛み、病院の中は杖をついて歩くようになり、平成五年三月一日まで(実日数八五日)通院して治療を受け、右同日、症状固定となつた。そして、自覚症状として、右下肢のつけねから足先までの痛み、右下肢の右母指・左前腕以下のしびれ等を訴え、他覚症状として、前記した検査結果に加え、右下肢痛のため歩行には杖が必要であること、頸椎・腰椎部のかなりの運動制限、握力は右四〇キログラム、左三〇キログラム、左前腕尺骨側・右下腿部母趾外側に知覚鈍麻等の後遺障害が残り、その程度としては「局部に頑固な神経症状を残すもの」として取扱うのが妥当であると診断された(自賠責の等級認定は非該当)。なお、原告は、平成四年九月一〇日から耳鼻咽喉科にかかり、同年八月三日から左眼精疲労で、同年一〇月一四日から左流涙症で眼科にかかつていた。

(四) 原告は、本件事故前から鉄筋工の仕事(本件事故当時は重い物は持つていなかつた。)をし、仕事をしている時、腰がつつたようになつていた。

また、本件事故により、吉雄孝は頸部捻挫、腰部打撲・捻挫で平成四年七月一一日から同月二五日までの間に一三日間の通院加療を、吉雄久枝は右肩、右上腕挫傷で平成四年七月一一日から同月二七日までの間に一三日間の通院加療を、吉雄貴子は右肩打撲・捻挫、右前胸部打撲で平成四年七月一一日から同月二七日までの間に一二日間の通院加療を要する傷害を受けた。

2  以上の事実を前提にして、本件事故と傷害(後遺障害)との因果関係・寄与度減額について見当するに、原告は、受傷直後から、腰痛、頸部痛等を訴え、当初は、神経症状もなく症状は軽度であつたものの、受傷後一週間ころから症状が悪化し、左前腕にしびれ等の症状が出現し、医師の勧めで向山・有沢の各病院に入院して治療を受けたこと等の原告の症状の推移、治療経過等を勘案すれば、原告は、本件事故により外傷性頸部・腰部症候群等の傷害を負つたものと認められる(但し、受傷直後の向山病院において、頭部外傷第Ⅱ型を診断していないこと等から、右傷病は本件事故と相当因果関係があるものとは認められない。)。しかしながら、本件事故態様は、被告車が時速約四〇から五〇キロメートルの速度で停止中の原告車に衝突したものであるが、被告米倉のブレーキにより被告車の後輪が右側に滑つて被告車の荷台の最後尾右側が原告車の右前側面に衝突し、原告車が移動しなかつた(移動したとしてもわずかな程度)というものであり、原告車・被告車の損傷状況、原告車乗務員の受傷内容等に照らしても、原告を含む乗務員らに与えた衝撃は、衝突速度に比してあまり大きなものではなく、特に原告は、衝突時においてシートーベルトを着用し、衝突が起こることを意識して身構えていた可能性が高いことからすれば、原告が受けた本件事故による衝撃はさほどではなかつたものと推認できること、腰椎椎間板ヘルニア及び右ヘルニアに起因すると思われる右根性坐骨神経痛については、右事故態様並びにヘルニアの症状及びその発現の経過等に照らせば、もともと本件事故前に原告が持つていたヘルニアの要因が本件事故を機転としてヘルニアの症状を顕在化させ、右下肢しびれ、痛み等の症状を発現させたものとみるのが相当であり、その限度で相当因果関係が認められる。

3  原告の前記した後遺障害の症状(特に杖歩行が必要な程度の右下肢痛み)は、前記認定のとおり、MRI検査によるヘルニアの所見等他覚的症状が認められるから、等級表一二級一二号に該当するものというべきであるが、前記認定のとおり、右後遺障害の症状は、原告が本件事故前から持つていた体質的素因が大きく影響していると認められるから、八割の寄与度減額を認めるのが相当である。

二  損害額

1  治療費(主張額一四九万七六四四円) 一四二万一九七四円

原告は、本件事故による一四二万一九七四円(向山病院入院中の室料差額、電話代合計七万五六七〇円を除く)を要したことが認められる(甲一〇の二四ないし四三、一九)。

2  入院雑費(主張額一五万七三〇〇円) 一五万六〇〇〇円

原告は、本件事故により前記のとおり通算一二〇日間入院したが、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円とするのが相当であるから、右雑費は一五万六〇〇〇円となる。

3  通院交通費(主張額六万八〇〇〇円) 六万八〇〇〇円

前記した八五日間の通院のため、交通費(バス代一往復当たり八〇〇円)合計六万八〇〇〇円を認めるのが相当である(弁論の全趣旨)。

4  休業損害(主張額一〇三四万〇九一九円) 二七五万円

原告は、本件事故当時、三七歳の男子であり、自ら鉄筋工の仕事をしていたが、重い物は持たず、もつぱら段取りの仕事をしていたところ(甲一二の一、二、甲一三の一ないし九、一四の一ないし三、一五、一六の一、二、原告本人)、右収入として、本件事故前八か月の収入一〇七五万三三七八円(月平均一三四万円程度)を主張し、これに沿う会計帳簿(甲一三の一ないし九)等を提出するが、右会計帳簿は記載の内容、取引を裏付ける確たる資料が銀行通帳(甲一五)以外にないことなどから、これを信用することはできないが、平成二、三年分の確定申告の所得金額(甲一二の一、二)から推して月収五〇万円程度の収入があつたことが窺われる。そして、前記認定した原告の症状の推移等に照らせば、本件事故日より四か月は就労不能、その後症状固定までの約三か月は五割程度の就労制限があつたものと認めるのが相当であるから、休業損害は、以下のとおり二七五万円となる。

500,000×4+500,000×3×0.5=2,750,000

5  入通院慰謝料(主張額一四〇万円) 一四〇万円

前記した入通院期間、原告の受傷内容等を勘案すれば、一四〇万円が相当である。

6  後遺障害逸失利益(主張額三八八八万八八五〇円) 一一四三万七四四〇円

原告は、症状固定当時、前記認定した月収五〇万円(年収六〇〇万円)程度の収入を得られたものと認められるところ、本件事故により前記認定のとおり一二級一二号の後遺障害を残し、前記認定した後遺障害の内容、程度等に照らせば、労働能力の一四パーセントを二〇年間喪失したものと認めるのが相当であるから、ホフマン方式により中間利息を控除して後遺障害逸失利益を算定すると、以下のとおり一一四三万七四四〇円となる。

6,000,000×0.14×13.616=11,437,440

7  後遺障害慰謝料(主張額二二〇万円) 二二〇万円

前記した後遺障害の内容、程度等に勘案すれば、二二〇万円が相当である。

8  以上の損害合計は一九四三万三四一四円となるが、前記認定した八割の寄与度減額をし、既払金一〇〇万円を控除すると、二八八万六六八二円となる。

9  弁護士費用(主張額二〇〇万円) 三〇万円

本件事案の内容、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は三〇万円が相当である。

三  以上によれば、原告の請求は、金三一八万六六八二円及びこれに対する本件事故日である平成四年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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