大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1239号 判決 1995年1月18日

原告

清野博敏

被告

大阪岸和田交通株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金一一五八万四三一六円及びこれに対する平成元年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一九三六万四六三八円及びこれに対する平成元年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故で傷害を負つた原告が、加害車両の保有者に対し、自賠法三条に基づき損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成元年一〇月二〇日午前二時五五分ころ

(2) 発生場所 大阪市阿倍野区西田辺町一丁目一番一号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(3) 加害車両 訴外河野滿男(以下「河野」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ五五い四四六一、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 自動二輪車(一宮崎た九五五二、以下「原告車」という。)を運転中の原告

(5) 事故態様 原告車が本件交差点を西から東に直進したところ、東から北へ右折しようとした被告車が衝突したもの

2  責任原因

被告は、被告車の保有者であるから、自賠法三条により、本件事故によつて原告に生じた損害について賠償責任を負う。

3  原告の受傷(甲二)

原告は、本件事故により、右股関節脱臼骨折、右脛骨・腓骨骨折、右モンテジア骨折、左撓骨遠位端骨折、右第五中手骨基節骨骨折等の傷害を負い、東住吉森本病院に平成元年一〇月二〇日から同年一二月一七日まで五九日間入院し、その後、郷里の県立宮崎病院に転医し、同月二一日から平成三年五月一五日まで、平成元年一二月二八日から平成二年三月一三日まで七六日間、平成三年三月二五日から同年四月一八日まで二五日間の二回の入院を挟んで通院治療し、平成四年四月一六日症状固定と診断された。

4  後遺障害

原告には本件事故による後遺障害が残存し、自算会で右股部の神経症状が一二級一二号、左手関節の機能障害が一二級六号に該当するとされ、併合一一級と認定された。

5  損害の填補

自賠責保険、被告から五二四万七九五六円の支払を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(1) 被告

本件事故は、原告が本件交差点に進入する際、対向車である被告車が交差点に先入して右折しようとしているのを認めながら、制限速度を約一〇キロメートル上回る速度で、徐行もせず、その動静の注視を怠つたため発生したものであるから、少なくとも三五パーセントの過失相殺がされるべきである。

(2) 原告

原告には速度違反もなく、被告車が本件交差点に先に進入していたものではないから、被告主張の過失相殺は過大である。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  証拠(甲一の7、11ないし13、18ないし26)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東西にのびる道路(以下「東西道路」という。)と南北にのびる道路(以下「南北道路」という。)とが交差する信号機により交通整理の行われている交差点である。東西道路には速度規制はなかつたが、原告車は二五〇cc以下であつたから、法定速度は時速五〇キロメートルである。

(2) 河野は、被告車を運転して、東西道路を東から西に進行し、本件交差点で対面青信号に従つて北に右折しようとするにあたり、対向直進車の安全を確認しないまま時速約二八キロメートルの速度で本件交差点中央付近で右折を開始したところ、対面青信号に従つて西から東に本件交差点に進入してきた原告車を左前方七・九メートル先に認め、回避措置をとろうとしたが間に合わず、原告車前部に被告車前部を衝突させた。

(3) 原告は、後部座席に大庭陽子を乗せ、原告車を運転して、時速約五〇キロメートルで、東西道路を西から東に進行中、本件交差点進入直前で既に本件交差点に進入していた被告車を発見したが、停止しているものと思い込んでそのまま直進し、本件交差点中央手前で三・七メートル先の被告車を再度発見し、<×>地点で被告車と衝突した。

(4) 本件事故により、被告車には車体前部バンパー・ボンネツト等大破、運転席前ウインドガラスひび割れの損傷が、原告車には前輪ホーク・車輪等大破の損傷が、それぞれ残つた。

以上の事実が認められる。

被告は、原告の司法警察員に対する供述調書の速度についての供述部分(甲一の12)、前記原告車・被告車の損傷程度を裏付けとして、原告車の速度は時速六〇キロメートル以上であると主張するが、原告は検察官に対する供述調書でスピードメーターを確認して五〇キロメートル程度であつた旨供述しているものであり(甲一の13)、また、被告車の速度がタコメーターによつて時速二八キロメートル以上であつたことが明らかであり、ともに制動の効果がない状態で衝突したものであるから、原告車が時速六〇キロメートル未満の速度であつても右の程度の損傷は生じる余地はあるので、被告主張事実を認めることは困難というべきであり、採用できない。

2  右事実によると、本件事故は、河野が徐行ないし一時停止をして対向車線の車両の有無、安全の確認をせず時速二八キロメートルの速度で右折を開始した河野の過失が重大ではあるが、原告も本件交差点に進入する直前に被告車を発見した際には被告車が右折しつつあつたにもかかわらず、これを停止しているものと誤つた判断をし、その動静に注視することなく、進行した過失があるというべきであるから、二割の過失相殺をするのが相当である。

二  損害額(以下、各費目の括弧内は原告主張額)

1  治療費(八三万一八六六円) 八三万一八六六円

証拠(甲三の1、四の1)によれば、東住吉森本病院の本人負担分の治療費は三九万九六八〇円、県立宮崎病院の本人負担分の治療費は四三万二一八六円であることが認められ、合計八三万一八六六円となる。

2  入院雑費(二〇万八〇〇〇円) 二〇万八〇〇〇円

原告が東住吉森本病院に五九日、県立宮崎病院に一〇一日の合計一六〇日入院したことは前記のとおりであるところ、一日当たりの入院雑費としては一三〇〇円が相当であるから、右入院中の雑費は二〇万八〇〇〇円となる。

3  付添看護費(六万三〇〇〇円) 六万三〇〇〇円

証拠(甲一の9、三の2、原告本人)によれば、東住吉森本病院で、右股関節、右撓・尺骨、右脛骨に対し観血的整復術が施行され、原告は両手ともギプス固定され、ベツドでの安静が必要であつたことが認められ、右によれば、同病院は完全看護ではあつたが、親族による入院当初の二週間の付添はやむを得なかつたことが認められ、一日あたりの付添看護費は四五〇〇円が相当であるから、六万三〇〇〇円となる。

4  休業損害(二九二万〇六〇〇円) 一〇〇万一八〇五円

証拠(甲一の12、二、三の1、2、四の1、2、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、一九才(昭和四五年一月一二日生)の健康な男子で、専門学校の一年に在籍していたこと、本件事故による受傷のため、平成三年五月一五日まで治療を要し、経過観察の後、平成四年四月一六日に症状固定と診断されたこと、症状固定時の自覚症状は右股痛、左手関節変形であり、他覚的所見として左手関節変形により四〇度掌屈、撓骨端突出、右股関節運動低下、右大腿骨骨頭無腐性壊死所見(レントゲンによる所見)が認められたこと、右専門学校を本件事故後休学し、平成二年四月に復学したが、右受傷のため階段の昇降が非常に苦痛であつたため退学を余儀無くされ、自宅療養をしたこと、平成三年六月から上京し広告代理店の仕事を一年程度したが、足の痛みのため通勤が苦痛で辞めたことの各事実が認められる。

右によれば、原告は、本件事故がなければ、平成三年三月末に専門学校を卒業して、平成三年四月から就労しえたのに、本件事故のため、右股痛等の不具合を抱えながら同年六月から就労できたにとどまつたものであるから、前記受傷程度、治療期間、後遺障害の程度を勘案すると、原告の就労能力は、平成三年四月から五月末までの二か月は一〇〇パーセント、その後平成四年四月一六日までは二〇パーセント程度制限されたと認めるのが相当であるから、平成三年賃金センサス産業計・企業規模計・高専・短大卒男子労働者二〇ないし二四歳の平均給与二九二万〇六〇〇円を基礎として、休業損害を算定すると、一〇〇万一八〇五円となる。

2,920,600÷365×(61十321×0.2)=1,001,805

(小数点以下切捨て、以下同様)

5  後遺障害による逸失利益(一三九六万九一二八円) 一二八六万五六六九円

前記認定事実、証拠(甲二、原告本人)によれば、原告は、本件事故による後遺障害のため、左手関節変形による痛み、物を掴んだりする際の違和感、右股関節痛が残存し、さらに右股関節については将来的に大腿骨骨頭壊死のため人工関節置換術の可能性もあること、平成五年六月から消毒業を営む会社で勤務しているが、手取り給与は月一五、六万円であること、右就労の際にも前記後遺障害で労働に苦痛を感じることが認められる。

右の後遺障害の程度、具体的な就労の制約の程度、給与所得等の事実を総合すると、その労働能力は症伏固定時の二二歳から稼働可能な六七歳まで二〇パーセント喪失したと認めるのが相当であり、前記賃金センサスの平成四年の平均年収三〇〇万六七〇〇円を基礎としてホフマン式計算法により本件事故発生時から年五分の中間利息を控除すると、逸失利益の現価は、一二八六万五六六九円となる。

(計算式)3,006,700×0.2×(24.126-2.731)=12,865,669

6  入通院慰謝料(一八二万円) 一八二万円

前記認定の本件事故による原告の傷害の部位、程度、治療経過、症状固定までの入通院期間、実通院日数等に照らすと、慰謝料としては原告主張どおり一八二万円が相当である。

7  後遺障害慰謝料(三三〇万円) 三〇〇万円

前記認定の原告の後遺障害の程度に照らすと、三〇〇万円が相当である。

8  小計

以上によれば、原告の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は一九七九万〇三四〇円となり、前記のとおり過失相殺による二割の控除を行うと、一五八三万二二七二円となり、前記既払金五二四万七九五六円を控除すると、一〇五八万四三一六円となる。

9  弁護士費用(一五〇万円) 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一〇〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上によると、原告の本訴請求は、金一一五八万四三一六円及びこれに対する不法行為の日である平成元年一〇月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。なお、被告申立の仮執行の免脱宣言は相当でないから付さないこととする。

(裁判官 髙野裕)

別紙 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例