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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12508号 判決 1996年6月25日

原告

堀正

ほか一名

被告

久保福秀

ほか一名

主文

一  被告らは、原告堀正に対し、連帯して金八五三四万九六七七円及びこれに対する平成二年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告堀正のその余の請求及び原告堀美枝子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、連帯して、原告堀正に対し、金一億六九一二万一〇七九円、原告堀美枝子に対し、金六六〇万円及びこれに対する平成二年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、タクシーの急発進により助手席側の窓を掴んだまま引きずられて転倒し、負傷した被害者とその妻が、タクシー運転者に対し、民法七〇九条に基づき、右運転者の使用者兼タクシー所有者に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七一五条一項に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  次の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成二年一二月二八日午前二時三分ころ

(二) 場所 大阪市北区西天満四丁目一三番八号先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告財団法人大阪同和産業振興会(以下「被告法人」という。)が所有し、被告久保福秀(以下「被告久保」という。)が運転していた普通乗用自動車(なにわ五五あ九七六〇、以下「被告タクシー」という。)

(四) 事故熊様 被告タクシーの急発進により原告堀正が助手席側の窓を掴んだまま引きずられて転倒し、負傷したもの

2  後遺障害

原告は、本件事故による負傷により後遺障害が残り、自賠法施行令二条の別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)三級三号の認定を受けた。

3  損害のてん補

原告は、被告法人から七二八万九三一〇円、自賠責保険から一八九〇万円の合計二六一八万九三一〇円の支払いを受けた。

二  争点

1  過失・過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は、原告堀正が泥酔の上、被告タクシーを運転中の被告久保に絡み、左折徐行していた被告タクシーの運転手側の窓枠を掴んで約一〇メートル歩行し、更に運転手の名前を確かめようとして助手席に回つてきたため、逃れようとして被告タクシーを急発進させようとしたところ、原告堀正が助手席側窓に掴みかかつてきたというものであるから、原告堀正に七割以上の過失がある。

(原告らの主張)

本件事故は、原告堀正が本件現場交差点付近の路上で被告タクシー運転の被告久保から近距離であることを理由に乗車拒否されたため、助手席側窓ガラスを持つて話していたところ、被告久保において原告堀正が右窓ガラスを持つていたのを認識しながら突然被告タクシーを急発進・急加速させたため、引きずられて転倒したというものであり、仮に酔つた原告堀正に不注意があつたとしても、せいぜい二割程度にすぎない。

2  損害(特に休業損害と後遺障害逸失利益の基礎収入)

第三争点に対する判断

一  争点1(過失・過失相殺)

1  前記争いのない事実及び証拠(甲四ないし五二、証人渡邊治美)によれば、本件事故熊様の概要は、以下のとおりであると認められる。

被告久保は、平成二年一二月二八日午前二時三分ころ、被告タクシーを運転して国道一号線(片側四車線)の左から二番目の車線(以下、左から順に第一、二車線という。)を西進し、本件現場の梅田新道東交差点にさしかかつたところ、道路左側の歩道付近で被告タクシーを停めようと手を挙げていた原告堀正とその横にいた女性(渡邊治美)を認めたので、同タクシーをやや左に寄せて第一車線と第二車線の区分線を跨ぐようにして同原告らの前に停止し、同原告に向かつて行先を尋ねたが、その際、同原告の様子が相当酔つていたように感じたので、乗車を拒否してすぐに発進し、同交差点の赤信号で第一車線の停止線手前に停止した。そこへ、同原告が運転席右横にきて怒つた様子で乗車拒否を抗議したので、運転席側のドアガラスを三分の一程度開けて一応謝つた。しかし、同原告がなおもドアガラスの隙間から手を入れてドアロツクをはずそうとしたので、信号が青に変わつたのを機に同タクシーを発進して同交差点を東から南へ時速約五キロメートルで左折しようとしたが、同原告は運転席側のドアガラスを両手で掴んで小走りに付いて走つてきたため、同交差点南東角辺りで停止したところ、同原告は「逃げるのか。乗車拒否で訴えてやるから、名前を教えろ。」と言うので、助手席側のダツシユボード上に立ててある乗務員証を指差しながら「名前はそこに書いてある。」と言つたら、同原告は同タクシー前部を回つて助手席側に移動し、三分の一程度開いていた助手席側のドアガラスから乗務員証を覗き込んだ。その際、同原告はドアガラスから手を放した状態だつたので、同原告から逃げようとして同タクシーを急発進させて時速約五キロメートルで左折しようとしたところ、同原告も同タクシーとともに駆け出してドアガラスを両手で掴んで同タクシーから引きずられるような状態となつたが、加速すれば手を離すと思い、更に加速して時速二五ないし三〇キロメートル程度になつた辺りで同原告の手が離れ、後ろに飛ばされて道路に叩きつけられた。

2  以上の事実によれば、本件事故は、被告久保が時速約五キロメートル程度で左折進行中、原告堀正が助手席側ドアガラスを掴んだことを認めたにもかかわらず、更に加速すれば同原告が手を離してくれるものと軽信して時速約二五ないし三〇キロメートルに加速進行した過失により発生したことは明らかであるが、他方、同原告にも被告久保が乗車拒否をしたとはいえ、右認定のとおり酔つて同被告に執拗に絡み、本件事故を誘因した過失が認められる。そして、右事故熊様に照らせば、原告堀正の過失割合は三割程度とするのが相当である。

二  争点2(損害)について(円未満切捨て)

(原告堀正の損害)

1 前記争いのない事実及び証拠(甲三の一ないし一八、五五ないし五八、乙二、原告堀正、原告美枝子)によれば、原告堀正は、本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、左片麻痺等の傷害を受け、医療法人行岡医学研究会行岡病院で、平成二年一二月二八日から平成四年四月二六日まで入院し(四八六日)、同月二七日から翌五月二六日まで通院して(実日数一五日)治療を受け、右同日、症状固定となつて、左片麻痺に伴う左上肢機能の全廃及び左下肢機能の著しい障害等の後遺障害が残り、日常生活動作は、右上下肢の使用により概ね可能であるが、衣服の脱着、入浴等には第三者の介助を要し、移動は、装具等を用いて一〇分程度の歩行は可能だが、外出は概ね車椅子を常用している旨の診断を受け、等級表三級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)の認定を受けた。

2 治療費(主張額一三三万四三一〇円) 一三三万四三一〇円

原告堀正は、本件事故による前記治療により国民保険を除く自己負担治療費として一三三万四三一〇円を要した(甲三の一ないし一八)。

3 入院雑費(主張額六三万一八〇〇円) 六三万一八〇〇円

原告堀正の本件事故による入院期間は、前記のとおり四八六日間であるところ、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円とするのが相当であるから、右雑費は六三万一八〇〇円となる。

4 付添看護費(主張額二二二万四五〇〇円) 二二二万四五〇〇円

原告の前記受傷内容、程度等に照らし、原告には前記した入通院期間中「入院四八六日と通院一五日)、付添看護が必要であると認められるところ、一日当たりの付添看護費は入院付添につき四五〇〇円、通院付添につき二五〇〇円が相当であるから、右入通院期間中の付添看護費は二二二万四五〇〇円となる。

5 交通費(主張額一万円) 一万円

前記一五日間の通院治療のため、交通費として一万円程度は必要であつたと認められる(甲五五)。

6 休業損害(主張額一四一九万八九二六円) 一一三八万二九八九円

原告堀正は、平成元年前半ころまで、株式会社四葉商事でゴルフ会員権販売の仕事をし、給与として平成元年当時、一か月に基本給一八万円に役職手当等の手当てを含め二〇万円余りの固定給と歩合給(判明している三か月分の平均月七〇万円程度)を得ていたが、独立した方が儲かると考えて、平成元年七月ころ、クリエイテイブの名称でゴルフ会員権販売業を始め、右四葉商事当時と同程度かそれ以上の収入を得ており、平成元年ないし二年当時、本件事故後ではあるが平成二年度の確定申告による一〇〇四万三八一四円程度の収入があつたことが認められる(甲二、五三の一ないし一五、五四の一ないし二四、五五、五六、原告堀正、原告堀美枝子)。しかし、本件事故後の平成三年度以降は、バブル経済が崩壊によりゴルフ会員権価格が暴落した結果(乙一の一、二及び二、三、四)、平成元年ないし二年当時の収入がそのまま得られたとは到底認め難く、少なくとも二割程度の減収があつたと認められる。そうすると、原告堀正は、本件事故により事故日である平成二年一二月二八日から症状固定日である平成四年五月二六日まで約一七か月間、休業を余儀なくされたが、右期間の休業損害は、以下のとおり一一三八万二九八九円となる。

10,043,814×0.8×1/12×17=11,382,989

7 後遺障害逸失利益(主張額一億四一六五万七九五三円) 一億一三三二万六三六二円

前記した後遺障害の内容、程度等に照らせば、原告堀正の労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認めるのが相当であるところ、原告堀正は、本件事故がなければ、前記認定した一〇〇四万三八一四円の八割程度の収入を就労可能年数六七歳まで二一年間得られたと認められ、ホフマン方式により中間利息を控除して後遺障害逸失利益を算定すると、以下のとおり一億一三三二万六三六九円となる。

10,043,814×0.8×14.104=113,326,362

8 入通院慰謝料(主張額三二一万円) 三二一万円

前記した入通院期間、原告の受傷内容等を勘案すれば、三二一万円が相当である。

9 後遺障害慰謝料(主張額一七六〇万円) 一六〇〇万円

前記した後遺障害の内容、程度等に勘案すれば、一六〇〇万円が相当である。

10 物損(主張額四四万二九〇〇円) 二二万一四五〇円

原告堀正は本件事故により着衣が損傷を受けたが、右費用は二二万一四五〇円程度を認めるのが相当である(甲五五)。

11 以上の損害合計一億四八三四万円一四一一円となるが、前記した三割の過失相殺をし、既払金二六一八万九三一〇円を控除すると、七七六四万九六七七円となる。

12 弁護士費用(主張額一四〇〇万円) 七七〇万円

本件事案の内容、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は七七〇万円が相当である。

(原告堀美枝子の損害)

原告堀美枝子は、原告堀正の妻として固有の慰謝料六〇〇万円を請求するが、原告堀美枝子の受けた精神的苦痛は、原告堀正の前記受傷内容、程度等に照らし、生命が害された場合に比肩すべきものとまでは認められないから、原告堀美枝子の固有の慰謝料は認められない。

三  以上によれば、原告堀正の請求は、金八五三四万九六七七円及びこれに対する本件事故の翌日である平成二年一二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告堀美枝子の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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