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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1264号 判決 1994年5月26日

原告

俵藤幸雄

ほか一名

被告

田中栄二

主文

一  被告は、原告両名に対し、各一〇五八万七五二四円及びこれに対する平成五年八月三日から支払済みに至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告俵藤幸雄に対し一九九八万一八三九円、同俵藤まき子に対し一五七八万三一九三円及びこれらに対する平成五年八月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車の運転手が脇見運転により、歩道と車道との境目付近に座つていた女子中学生に自車を衝突させ、死亡させた事故に関し、その遺族らが自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年七月二四日午後一一時ころ

(二) 場所 札幌市豊平区福住二条八丁目二番先路上(以下「本件事故現場」ないし「本件道路」という。)

(三) 被害者 俵藤華恵(昭和五二年一一月二日生まれ、当時一四歳、女子中学生、以下「華恵」という。甲第一、第六号証)

(四) 事故車 被告が運転していた普通乗用自動車(札幌五三さ六五〇、以下「被告車」という。甲第一一号証)

(五) 事故態様 本件は、被告が脇見運転により、歩道と車道との境目付近に座つていた華恵に被告車を衝突させ、死亡させたもの

2  責任原因

被告は、事故の用務のため、本件事故当時自ら同車を運転し、その運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、損害を賠償する責任がある。

3  相続

原告らは華恵の両親として、それぞれ華恵の損害賠償請求権を相続により承継取得した(甲第一号証)。

4  損益相殺

原告らは、本件事故により生じた損害に関し、平成五年八月二日、自賠責保険から二六三八万二七五〇円を受け取り、各原告において、それぞれ一三一九万一三七五円ずつ充当した(充当につき、弁論の全趣旨)

二  争点

損害額全般(原告らの主張額は、別紙損害算定一覧表に掲記)

第三争点に対する判断

一  本件事故により生じた損害

1  事故態様

(一) 前記争いのない事実に加え、甲第一一号証、乙第一ないし第三号証によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、南東から北西に通じる片側一車線(片側幅員約三メートルの道路、以下「本件道路」という。)上にある。本件道路の両側には幅約二・五メートルの道路があり、同道路周辺は非市街地かつ住宅地となつている(なお、本件事故現場付近は、歩道と車道との段差が存在しなかつた。)。

華恵は、別紙図面の<ア>に、奥津俊輔らとともに歩道の縁石に腰をかけ、車道に足を出して歓談していた。被告は、被告車を運転し、本件道路北西行車線を西進中、ルームミラーの角度を調整するのに気を取られ、脇見をしつつ走行し、かつ、本件事故現場付近は、車道と歩道との段差がなかつたため、前記は華恵らに気付かないまま、自車を半分程歩道に乗り上げつつ走行したことにより、同歩道の縁石に腰をかけていた華恵らに自車を衝突させ、同女を死亡させた。

(二) なお、原告らは、被告は、本件事故現場付近の親戚の家に赴くため、被告車を歩道に乗り上げた可能性があると主張するが、乙第三号証によれば、被告は当時、被告車を運転し、友人に会うため札幌駅に向かう途中であつたことが認められ、これに反する証拠はないから、同主張は採用できない。

(三) また、被告は、本件事故は、深夜、歩道に腰かけ、両足を車道に突出していた華恵らと被告車とが衝突した事故であるところ、歩行者の行動としては、通常、有り得ない状況であるのみならず、事前の発見が通常の歩行者と比べてより困難であつたことが明らかであると主張する。しかし、華恵が居た位置は、あくまでも歩道であり、被告車が衝突したのは、同女の体全体であつて、両足に限られるわけではないから、両足を車道に突出していたことが本件事故の主原因であつたとはいえないし、歩道上の歩行者の発見が困難であつたとの点も本来被告車は歩道上を走行することが許されていないのであるから、車道と歩道との識別が可能である以上、歩道上の人間の存在、挙動が発見し易いか否かは問題となり得ないのであつて、被告の主張は採用できない。

2  華恵に生じた損害

(一) 逸失利益(主張額三一一一万七七四七円)

前記認定のとおり、華恵は、昭和五二年一一月二日に生まれ、死亡当時、一四歳の女子中学生であつたことが認められるところ、最新の賃金センサスである平成五年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の一八歳から一九歳までの平均賃金が二〇二万三三〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実であるから、同女が満一八歳に達し、稼働を開始した場合の年収は右額を下まわらないものと認められる。

弁論の全趣旨によれば、同女は、満六七歳まで稼働することが可能であり、生活費控除率は五割とみるのが相当であるから、ホフマン方式を採用して中間利息(五三年の係数から四年の係数を差し引いた数値)を控除し、同女の本件事故当時の逸失利益の現価を算定すると、次の算式のとおり、二二二二万六九六二円となる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

2,023,300×(1-0.5)×(25.5353-3.5643)=22,226,962

なお、原告らは、華恵の生活費控除率は三割が相当であると主張する。しかし、同女が将来、いかなる境遇、家庭生活を営むか(主婦となるのか、一家の支柱となるのか、独身で生涯を通すのか)、生活費としていか程を要するか等を具体的に認定することは極めて困難であり、様々な不確定要因が生じ得ることを考慮すれば、当裁判所としては、生活費控除率は五割とみるのが相当といわざるを得ないから、右原告らの主張は採用できない。

(二) 死亡慰謝料(主張額二〇〇〇万円)

本件事故の態様、華恵の受傷内容と死亡に至る経過、女子中学生であること、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、一八〇〇万円が相当と認められる。

(三) 小計及び相続

以上の損害を合計すると、四〇二二万六九六二円となる。前記認定のとおり、原告らは華恵の両親として、それぞれ華恵の損害賠償請求権の二分の一を相続により承継取得したものと認められるから、相続による取得分は二〇一一万三四八一円となる。

3  原告らに生じた損害

(一) 葬儀関係費用(主張額二一七万七三八四円)

弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては、一二〇万円が相当と認められ、かつ、弁論の全趣旨によれば、同費用は、原告らが相続分に応じて六〇万円ずつ負担したものと認めるのが相当である。

なお、甲第七号証の1ないし19、第八号証の1ないし5、第九号証の1ないし6、第一〇号証の1ないし18によれば、原告らは、葬式費用、火葬場での費用等に関し、合計二一七万七三八四円を支出したことが認められる。しかし、右費用の中には、弔問客への接待飲食費用、遺族のタクシー代、香典返し等、本来の葬儀費以外の出費額が少なくないこと、葬儀は、死んだ本人もさることながら、遺族の社会的対面のためにより多くの出費をなすことがあり、その全てを加害者に賠償させるのは相当でないこと、葬儀費が増えれば、香典収入も増加しているはずであり、香典の損益相殺を行わないこととの均衡上、葬儀関係費の全額を直ちに損害額とみるのは相当でないことなどを考慮すると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は、前記の限度とみるのが相当である。

(二) 固有の慰謝料(主張額各二〇〇万円)

本件事故の態様、華恵の受傷内容と死亡に至る経過、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、原告らの固有の慰謝料としては、各一〇〇万円が相当と認められる。

(三) 交通費(主張額四九万三五〇〇円)

原告らは、本件事故及び葬儀に関し、合計四九万三五〇〇円の交通費を支出した旨主張する。しかし、これらの損害は、主として華恵の死亡後のものであり、葬儀費用及び死亡慰謝料の中で斟酌済みなので、独自の損害として算定することはしないこととする。

(四) 小計

以上(一)ないし(三)の損害を合計すると、各原告の固有の損害額は、それぞれ一六〇万円となる。

4  損害額小計

以上2、3の損害を合計すると、各原告の損害合計は、各二一七一万三四八一円となる。

二  損益相殺及び弁護士費用

1  原告らは、本件事故により生じた損害に関し、平成五年八月二日、自賠責保険から二六三八万二七五〇円を受け取つたことは当事者間に争いがなく、また、前記認定のとおり、右金員は、同日、各原告において、それぞれ一三一九万一三七五円ずつ充当したことが認められ、本件事故後、同日までの日数は三七五日であるから、右充当の結果は、次の算式のとおり九六三万七五二四円となる。

21,713,481×(1+0.05×375/365)-26,382,750÷2=9,637,524

2  本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、各原告ともそれぞれ九五万円が相当と認める。

前記損害合計に右弁護士費用を加えると、損害合計は各原告それぞれ各一〇五八万七五二四円となる。

三  まとめ

以上の次第で、本訴請求は、各原告につき各一〇五八万七五二四円及び本件事故後損害の一部を弁済した日の翌日である平成五年八月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

損害算定一覧表交通事故現場見取図

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