大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12744号 判決 1996年4月30日
大阪府東大阪市旭町一三番一三号
原告
野村裕晧
大阪府寝屋川市点野四丁目一一番七号
原告
大裕株式会社
右代表者代表取締役
野村裕晧
右両名訴訟代理人弁護士
中嶋邦明
同
松田成治
同
平尾宏紀
右輔佐人弁理士
鎌田文二
同
東尾正博
同
鳥居和久
兵庫県明石市大久保町江井島一〇一三番地の一
被告
日工株式会社
右代表者代表取締役
芝幸雄
右訴訟代理人弁護士
岡村泰郎
同
河合徹子
同
濵岡峰也
大阪市中央区高麗橋四丁目一番一号
被告
東洋建設株式会社
右代表者代表取締役
大西章
右訴訟代理人弁護士
藤木久
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告日工株式会社(以下「被告日工」という。)は、別紙イ号説明書及びイ号図面記載の鋼製足場板のケレン装置(以下「イ号物件」という。)を製造販売してはならない。
二 被告日工は、その占有に係るイ号物件を廃棄せよ。
三 被告日工は、原告大裕株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金二二五〇万円及びこれに対する平成六年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告東洋建設株式会社(以下「被告東洋建設」という。)は、イ号物件を使用してはならない。
五 被告東洋建設は、その占有に係るイ号物件を廃棄せよ。
六 仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 原告野村裕晧の実用新案権
原告野村裕晧(以下「原告野村」という。)は、左記の実用新案権を有しており(甲第一、第二号証。以下「本件実用新案権」といい、本件実用新案権に係る考案を「本件考案」という。)、原告会社に対して専属的に実施する権利を許諾している(弁論の全趣旨)。
登録番号 第一八七五〇五七号
考案の名称 鋼製足場板のケレン装置
出願日 昭和五九年八月三〇日(実願昭五九-一三三三七一号)
出願公告日 平成二年一二月七日(実公平二-四六六〇二号)
登録日 平成三年一一月二五日
実用新案登録請求の範囲
「鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥すケレン機を配置し、上記コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持上げこれをテーブルリフタ上に積重ねる移載機を配置した鋼製足場板のケレン装置。」(別紙実用新案公報〔以下「公報」という。〕参照)
二 本件考案の効果についての記載
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件考案は、以下の効果を奏する旨記載されている(甲第二号証)。
この考案によると、足場板に対して付着したコンクリートを除去するケレン作業が、コンベヤへの足場板の供給のみで完全に自動化でき(公報に「自動でき」とあるのは誤記と認める。)、ケレン作業の省力化と作業能率の向上により、ケレン作業のコストダウンを図ることができる(公報7欄4行~9行)。
三 被告らの行為
被告日工は、イ号物件を製造販売し、被告東洋建設は、被告日工からイ号物件を購入して使用している(争いがない。)。
四 原告らの請求
原告野村は、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属すると主張して、被告日工に対しイ号物件の製造販売の停止とその占有に係るイ号物件の廃棄を、被告東洋建設に対しイ号物件の使用の停止とその占有に係るイ号物件の廃棄を請求し、原告会社は、被告日工に対し本件実用新案権(の通常実施権)侵害に基づく損害賠償請求として二二五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一二月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。被告らは、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないと主張して争うとともに、本件考案には進歩性がなく、その実用新案登録に明白な無効事由がある旨主張する。
五 争点
1 イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか。
2 本件考案には進歩性がなく、その実用新案登録に明白な無効事由があるか。
3 被告日工が損害賠償責任を負う場合に、原告会社に賠償すべき損害の額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか)
【原告らの主張】
1 本件考案の構成要件は、左記のとおり分説することができる。
A 鋼製足場板のケレン装置であること。
B 鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤを備えること。
C 前記コンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配置してあること。
D 前記コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設けていること。
E 前記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置してあること。
2 イ号物件は、次の(一)のとおり本件考案の構成要件を全て具備し、(二)のとおり本件考案と同一の作用効果を奏するものであるから、本件考案の技術的範囲に属する。
(一) イ号物件が鋼製足場板のケレン装置であることは被告らも認めるところであるから、イ号物件は本件考案の構成要件Aを具備する。
イ号物件は、足場板を支持して搬送するチェーンコンベヤが配置されているから(イ号説明書「構造の説明」<1>)、本件考案の構成要件Bを具備する。
イ号物件は、コンベヤの搬送途中に、通過する足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配してあるから(イ号説明書「構造の説明」<2>)、本件考案の構成要件Cを具備する。
イ号物件は、テーブルリフタを設けてあり、このテーブルリフタは「ローラコンベヤの側方に位置し、この上に足場板を積み重ねる。透過式光電管スイッチで積み上げの最上段を検出し、最上段の足場板が同じ地上高になるようにしてある。」というものであるから(イ号説明書「構造の説明」<9>)、本件考案の構成要件Dを具備する。
イ号物件は、移載機を配置してあり、この移載機は「ローラコンベヤとテーブルリフタにわたる上方に位置し、支持アーム上の足場板を挾持して持ち上げる挾持具を持つ。支持アーム上の足場板の短辺を挾持し、テーブルリフタまで移載してその上に積み重ねる。」というものであるから(イ号説明書「構造の説明」<7>)、本件考案の構成要件Eを具備する。
(二) そして、イ号物件は、鋼製足場板を供給すると、ケレン作業、取出しから積み重ねまでを自動的に行えるので、ケレン作業の省力化と作業能率の向上により、ケレン作業のコストダウンを図ることができるという本件考案と同一の作用効果を奏する。
3 被告らは、本件明細書記載の実用新案登録請求の範囲(以下「本件登録請求の範囲」という。)の記載は広範にすぎ、必須構成要件が欠落している旨主張する。
しかし、本件考案は、本件登録請求の範囲に記載されている構成要件AないしEの存在及びそれらの組合せによって、ケレン作業の省力化と作業能率の向上を実現し、ケレン作業のコストダウンを図るものである。そして、このような作用効果を奏するためには、本件登録請求の範囲に記載されている構成要件AないしEの存在が必要でありかつそれで十分であり、足場板の感知手段や位置決定手段は必須構成要件ではない。したがって、本件登録請求の範囲の記載は広範にすぎるわけでも、必須構成要件が欠落しているわけでもない。
本件考案の構成要件Eは、「前記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置してあること」というものであり、本件考案の必須構成要件である右移載機には、当然の技術的前提として、足場板の感知や位置決定に関する技術的手段が内在しているのである。そして、足場板の感知や位置決定に関する技術的手段は、当業者において種々の公知の技術的手段の適用が可能であって、これをいちいち構成要件として記載しなくても考案の構成が不明瞭になるわけでもないから、これらを構成要件として記載する必要はない。本件考案は、従来、手作業で行っていたケレン後の足場板の取出し及び積重ねを自動的に行うことができるようにケレン装置と移載機とテーブルリフタとを組み合わせたことに意義を有するものであって、足場板の感知手段や位置決定手段に関する考案ではなく、原告野村は、足場板の感知手段や位置決定手段を特に限定しないで実用新案登録出願をし権利を付与されたものである。足場板を例えば当接の方法で感知するか光電管による検出の方法で感知するかというような相違は、いわば部品aと部品bとを接着固定する場合に、ボルト・ナットを利用するのかリベットを利用するのか溶接するのかという相違と同じレベルの相違であって、ケレン後の足場板の自動的な取出し・積重ねという本件考案の本質的な部分に何ら影響を及ぼすものではないのである。
4 被告らは、イ号物件においては、浮上装置がコンベヤ上の足場板を上方に持ち上げ、この持ち上げた足場板を移載機が挾持することを強調するが、イ号物件においてもコンベヤ上に位置する足場板を移載機によって挾持することに変わりはない。
被告らは、本件考案の構成要件Eの「コンベヤ上」とは「on the conveyor」の意味であり、「above the conveyor」の意味まで含まれるとすることはできない旨主張するが、本件明細書においては、「ローラコンベヤ上」の語が、一方では「on the conveyor」の意味に(公報5欄33行)、他方では「above the conveyor」の意味に(同6欄33行)使用されているから、「コンベヤ上」との記載を「on the conveyor」の意味に限定して解釈する理由はないというべきである。
したがって、イ号物件は、コンベヤ上(on the conveyor)に位置する足場板を浮上装置でコンベヤ上(above the conveyor)に移してから移載機で挾持するという構成を採っているにすぎず、本件考案の構成要件Eを具備することは明らかである。浮上装置は単なる付加的な構成にすぎず、浮上装置の存在によって、イ号物件が本件考案の構成要件である移載機を備えていないということにはならない。
【被告らの主張】
1 本件登録請求の範囲の記載は広範にすぎ、必須構成要件が欠落している。したがって、現状では本件考案の技術的範囲を確定できないから、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するといえないことは明らかであり、仮に本件明細書の考案の詳細な説明の記載により欠落した構成要件を補充したとしても、イ号物件は、その補充した構成要件を具備しないから、本件考案の技術的範囲に属しない。
(一) 本件登録請求の範囲における必須構成要件の欠落
(1) 本件考案の目的
鋼製足場板のケレン作業については、「鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されている」(公報1欄22行~25行)ところ、「鋼製足場板の供給や取出しおよびケレン後の積重ね等の作業はいまだ手作業によって行なっているため、能率や作業コストの面で満足できるものではない。」(同1欄28行~2欄3行)。本件考案は、右の課題のうち、「鋼製足場板のケレン作業、取出しから積重ねまで自動的に行なえるケレン装置を提供することが目的である。」(同2欄5行~7行)。そのため、右技術課題を解決するために不可欠の各構成部分が本件考案の構成要件になるはずである。
(2) 必須構成要件の欠落
本件考案は、右の技術的課題を、
コンベヤの上に足場板を置き、コンベヤで足場板を搬送する。
←
搬送途中に、足場板に打撃輪で打撃を加える自動ケレン機を配する。
←
コンベヤの上部の位置に移載機を配置し、コンベヤ上のケレンされた足場板を挾持して持ち上げ、それをコンベヤの取出側端部の側方に配したテーブルリフタに積み重ねる。
という手順を自動化することによって解決しようとする。
しかし、右の作業を自動化するためには、移載機がケレンされた足場板の存在と位置を正確に感知し、正確にこれを挾持できるような技術思想を具体的に提示する必要がある。そして、実用新案登録請求の範囲には実用新案登録を受けようとする考案の必須構成要件を記載する必要があるから、詳細な具体的説明は別としても、右自動化をするために不可欠な要件を漏れなく記載しなければならない。
ところが、本件登録請求の範囲には、この点について、「上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持上げこれをテーブルリフタ上に積重ねる移載機を配置した」と記載されているだけであり、これでは、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、挾持・持上げ機能を持った移載機を配置するというだけであり、ケレンされた足場板を自動的にどう正確に位置固定するのか、移載機がこれをどう感知するのか、これをどう正確に挾持するのかについての手順が全く欠落している。このままでは、人間が移載機を有人操作するしか足場板を挾持できないから、自動的に「コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる」という技術課題が解決されていない。
このように、本件登録請求の範囲は、構成要件のうち中心的な要件が欠落しているために、考案の詳細な説明の欄に記載された具体的な考案から乖離した極めて広いものとなっていて、文言上はイ号物件の技術思想まで含んでいるかのような誤解を与える記載になってしまっている(ただし、後記2のとおり、本件登録請求の範囲の記載と対比しても、イ号物件は本件考案とは異なる。)。
しかし、実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明とは、構成要件とその具体的説明という相違はあるが、いずれも同じ考案に関するものであり、少なくとも考案の詳細な説明で開示されたものを超えて技術的範囲を定めることは認められないから、本件考案の技術的範囲を本件登録請求の範囲の記載のまま認めるべきではない。
(3) 原告らの主張に対する反論
<1> 原告らは、ケレン作業の省力化と作業能率の向上を実現し、ケレン作業のコストダウンを図るという作用効果を奏するためには、本件登録請求の範囲に記載されている構成要件AないしEの存在が必要でありかつそれで十分である旨主張するが、ケレン作業の省力化と作業能率の向上を実現し、ケレン作業のコストダウンを図る、というだけではあまりに曖昧すぎて具体的な意味すら理解できない。これがケレンされた足場板を自動的に積み上げることまで含むのであれば、原告ら主張の構成要件AないしEだけでは技術的課題が解決されていないことは前記のとおりである。
<2> 原告らは、本件考案の必須の構成要件である移載機には、当然の技術的前提として、足場板の感知や位置決定に関する技術的手段が内在している旨主張するが、実用新案登録請求の範囲の解釈に当たって、出願当時当業者にとって技術的に自明な事項、すなわち当業者であれば当然有する技術常識や当業者にとって周知、慣用の技術を判断資料とすることができるのは、解釈の基礎となるべき事項が実用新案登録請求の範囲に記載されている場合であり、それすらもない場合には当てはまらない。本件登録請求の範囲の記載では、人間が移載機を操作してケレン後の足場板をテーブルリフタに積み上げるのか、それを無人の自動システムによってするのかすら明らかでないから、そもそもこの空白部分を技術常識によって補うことなどできない。移載機が自動的に足場板を積み上げるために不可欠な「足場板の感知、位置決定、その位置の感知」に関する技術的手段は本件登録請求の範囲の記載中のどこにも見出すことができないから、到底本件考案の移載機にこれらの技術的手段が内在していると解することはできない。
<3> 原告らは、右主張に続けて、足場板の感知や位置決定に関する技術的手段は、当業者において種々の公知の技術的手段の適用が可能であって、これをいちいち構成要件として記載しなくても考案の構成が不明瞭になるわけでもないから、これらを構成要件として記載する必要はないとも主張するが、以下のとおり失当という外はない。
明細書にある技術手段が記載されている場合、その技術的範囲を確定するに当たっては、前記のとおり出願当時当業者にとって技術的に自明な事項、すなわち当業者であれば当然有する技術常識や当業者にとって周知、慣用の技術を判断資料とすることができるが、それは、これらを斟酌することは、明細書の記載を客観的、合理的に判断することであり、それによって実用新案登録請求の範囲の記載が曖昧になったり、その技術的範囲を不当に拡張することもないので、法的安定性を害することもないし、考案者が考案した以上の権利を認めることにもならないからである。
一方、特許や実用新案の登録要件である「新規性」を有しないことないし「新規性のない技術」を意味する公知性、公知の技術は、以上の技術常識、周知技術、慣用技術とは全く意味が異なる。新規性の有無は訴訟手続による慎重な審理を経ないと判断の難しいことが多いから、技術的範囲の解釈に当たり仮に「新規性のない技術」まで含めて斟酌することを認めると技術的範囲が不明確になりすぎて法的安定を害する。また、考案者は、出願時に「新規性のない技術」のすべてを知っているわけではないし、自己の考案と「新規性のない技術」をすべて関係づけて考察したわけでもないから、技術的範囲を「新規性のない技術」にまで拡大すると、考案していないものにまで独占権を認めることになって、不当な結論となる。
しかして、本件登録請求の範囲の記載では、ケレンされた足場板をどう位置決定し、その位置をどう感知するかについての記載が完全に欠落しているところ、「公知」の技術手段であれば、実用新案登録請求の範囲に記載がなくてもその技術的範囲に含まれるとするかのような原告らの主張は誤りである(なお、イ号物件は、足場板を感知し、位置固定し、更にその位置を感知する各技術手段やその組合せにおいて創作性にあふれており、公知技術ですらない。)。
また、「足場板の感知、位置決定、その位置の感知」に関する技術的手段は、各パーツだけでいくつも方法があるし、それらの組合せには更に多くの方法が可能であって、作用効果の上でも、右部分の工夫によって自動無人システムの効率や付加価値が大きく左右されるから、実用新案登録請求の範囲によほど詳細に記載しない限り、技術常識や慣用技術を斟酌してもその技術的範囲を確定することはできないところ、本件登録請求の範囲の記載においては、この「足場板の感知、位置決定、その位置の感知」という過程が記載されていないから、この部分の技術的な思想を確定できない。
<4> また、原告らは、本件考案は、従来、手作業で行っていたケレン後の足場板の取出し及び積重ねを自動的に行うことができるようにケレン装置と移載機とテーブルリフタとを組み合わせたことに意義を有する旨主張する。
本件登録請求の範囲の記載だけからは到底このような趣旨まで読み取ることはできないが、仮に右のように解するとすると、各部分の「組合せ」とは、これらを単に接近して配置するだけではなく、右の機能を発揮するように各部を関係づけるための技術的手段を意味することになり、この点の創意によって右システムの性能に大きな差異が生じるから、まさに考案の要部ということになる。ところが、本件登録請求の範囲の記載では、この要部が全く欠落しており、抽象的ないし機能的な限定すらされていないから、構成要件に重大な欠落があるのは明らかである。
(二) 本件考案の技術的範囲の確定不能
右(一)のとおり、本件登録請求の範囲の記載では、重要な必須構成要件が欠落しているから、これを補充しないと本件考案の正しい技術的範囲を確定できない。
しかし、本件登録請求の範囲の記載の補充は原告野村が法定の手続によってなすべきものであるところ、原告らは、本件考案は足場板の感知手段や位置決定手段を特に限定しないで実用新案登録出願をし権利を付与されたものである旨主張しているから、原告らの意思に反してまで本件登録請求の範囲の記載を補充するべきではなく、結局、本件登録請求の範囲の記載のままではその技術的範囲を確定することができないから、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するということはできない。
(三) 本件考案における欠落した構成要件の補充及びイ号物件の構成と補充後の構成要件との対比
仮に右(二)の見解を採り得ないとしても、明細書の考案の詳細な説明に記載された考案は、実用新案登録請求の範囲に記載された考案と同一でなければならないから、構成要件の一部が実用新案登録請求の範囲から欠落しているときはこれを考案の詳細な説明の記載によって補充して解釈すべきであるところ、イ号物件は、このように補充した後の本件考案の要部たる構成要件を具備せず、作用効果においても大きな差異があるから、本件考案の技術的範囲に属しない。
(1) 本件考案において欠落した構成要件を考案の詳細な説明の記載によって補充すると、本件考案の構成要件AないしDは原告ら主張のとおりであるが、構成要件Eは次のようになる。
E<1> 足場板の位置決定
ローラコンベヤー11の両側に位置決め用のガイド45が幅方向に位置調整が自在となるように配置され(公報5欄12行~14行)、ローラコンベヤー11上の後端上にコ字状のストッパー枠体46が起伏と前後方向の位置調整が自在となるように配置されている(同欄15行~17行)。
<2> 足場板の感知
ガイド45によってコ字状のストッパー枠体46内に誘導されてきた足場板が当接することによってこれを検出するスイッチ47が取り付けてある(同欄17行~19行)。
<3> 足場板の挾持
ローラコンベヤー11の上方に待機する移載機13の挾持具52が検出信号によって下降し、同コンベヤ上の足場板を両側から挾持する。
なお、右「両側」とは、足場板の長辺の両側の意味である(公報第1、第10、第11図)。
<4> 移載機は、挾持し持ち上げた足場板をテーブルリフタの上まで搬送し、その上に積み重ねる。
右の構成要件のうち、構成要件Aは装置の呼称であるから考案上は意味がない。
本件明細書に「鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されている。」(公報1欄22行~25行)と記載されているように、足場板を長手方向に移動させてケレン装置を通過させることは本件考案の出願時には公知技術であったし、移動道具としてコンベヤを利用することも古くから公知の慣用技術であるから、構成要件B、Cはありふれている。
また、ケレン後の足場板を積み重ねる必要があるから、コンベヤの側方に台を配置することも当然のことであるし、台の一例としてテーブルリフタを用いることも古くから公知の慣用技術といえるから、構成要件Dも本件考案の出願前から公知である。
ある物体を挾持して持ち上げ、別の場所に移載して積み重ねることも古くから公知の慣用技術であるから、構成要件E<4>も公知である。
そうすると、結局、本件考案の要部は、無人で、足場板をいかに正確に位置固定し、正確に挾持するか(及びこれらをいかに迅速にかつ円滑に行うか)に関する技術思想部分すなわち構成要件E<1>ないし<3>にあるということができる。
(2) イ号物件の構成は、本件考案の補充後の構成要件B、C、D、E<4>と類似するが、これらの点はコンベヤの途中に自動ケレン装置を配し、かつコンベヤの側方にテーブルリフタを、それらの上方に移載機を配置するだけのことであり、極めてありふれた構成であり、同じ技術課題の解決を目的とする自動ケレン装置システムはどうしても類似の組合せになってしまうことによるのであって、本件考案を模倣したためではない。
これに対し、本件考案の要部に関しては、左記の各点において本件考案とイ号物件とは全く異なっている。
<1> ケレンされた足場板の位置決定
本件考案
前記構成要件E<1>のとおり。
イ号物件
ローラコンベヤのフレームの一方側には、幅方向に進退移動する押圧板がある。後記の透過式光電管スイッチが足場板を検出すると、この押圧板は前方に進み、足場板を横から幅方向に反対側のフレームの位置決定基準板まで押しつけて、足場板の位置決定をする(イ号説明書一<5>)。
<2> 足場板の感知
本件考案
前記構成要件E<2>のとおり。
イ号物件
ローラコンベヤの前方端には透過式光電管スイッチが設けられ、これがケレンされた足場板を検出するとローラコンベヤの駆動が停止する(イ号説明書一<4>)。
<3> 足場板の浮上装置
本件考案
該当部分なし。
イ号物件
ローラコンベヤの押圧板の反対側の側方に位置し、支持アームとこれを直上に浮上させる起動部分からなる。支持アームは通常ローラコンベヤの下に沈下しており、ケレンされた足場板が同コンベヤの前方端に達し、押圧板で位置固定されると、コンベヤの下から浮上して、コンベヤ上の足場板を移載機の直下近くまで持ち上げる。これにより、移載機の挾持具はローラコンベヤに干渉されることなく足場板の短辺を挾持でき、かつ足場板の浮上速度を速めることにより処理速度を向上させる(イ号説明書一<6>)。
<4> 足場板の挾持
本件考案
前記構成要件E<3>のとおり。
イ号物件
支持アーム上に待機する移載機(挾持具)が降下し、支持アーム上の足場板の短辺の中点付近を長手方向から挾持する(イ号説明書一<7>)。
<5> 足場板を反転させる機能
本件考案
該当部分なし。
イ号物件
移載機は移載途中に挾持点を支点にして足場板を回転させる機能を持つ(イ号説明書一<8>)。
<6> 移載機
本件考案
前記構成要件E<4>のとおり。
イ号物件
移載機は、挾持し持ち上げた支持アーム上の足場板をテーブルリフタ上まで搬送し、その上に積み重ねる。
<7> テーブルリフタ
本件考案
ローラコンベヤの側方に位置し、この上に足場板が積み重ねられる。
イ号物件
ローラコンベヤの側方に位置し、この上に足場板が積み重ねられる。透過式光電管スイッチが積み上げられた足場板の最上段を検出し、最上段の地上高が同じになるようにテーブルの高さを調整する。
本件考案とイ号物件とは、右のとおりが構成が異なる結果、作用効果(機能)にも次のような大きな差異が生じる。
<1> イ号物件では処理速度が向上している。
足場板の結束(荷造り)は通常二〇段又は二五段の足場板(一列又は二列で)を一組としてなされる。そのため、移載機が足場板を二〇段又は二五段の高さまで積み上げるが、足場板の厚みは約四〇mmないし五〇mmであるため、高さは約一mになる。
本件考案ではこの高さを移載機(挾持具)が上下動する。
これに対しイ号物件では、浮上装置が移載機(挾持具)の直近まで足場板を持ち上げるので、移載機が上下動する距離が大幅に短縮される。移載機は大型で高重量のため上下動が遅いが、機能を単純化した浮上装置は迅速に移動でき、この結果、イ号物件は本件考案よりも大幅に作業時間を短縮することができる。なお、仮に移載機で浮上装置と同様の速度を達成しようとすれば、駆動装置を大型にする必要があるためコストや消費電力が大きくなり無駄が生じる。
また、イ号物件では、コンベヤ上の足場板をテーブルリフタ上に移載する作業を浮上装置と移載機が同時に並行して行うことができるため、本件考案のように全作業を移載機だけが行うよりも作業効率が向上する。
<2> イ号物件では短辺の挾持が可能である。
足場板を支持アームで上方に持ち上げることによって、周囲の障害物(コンベヤ)から足場板を解放し、移載機が足場板を挟持する際の障害を除去できる。イ号物件は特に足場板の短辺を挾持することによって移載中に足場板を反転できることを機能上の重要な特徴とするが、これは、コンベヤという障害物から足場板の短辺を解放したことで初めて可能となったのである。
これに対し、本件考案では、ケレンされた足場板はコンベヤ上のコ字状ストッパー枠体46に誘導されて停止するため、短辺部分がコ字状ストッパー枠体と接着することになりこれを挾持することができないので、足場板の長辺を挾持するようになっている。
<3> イ号物件では幅方向の正確な位置決定が可能である。
イ号物件では、押圧板で足場板を位置決定基準板まで押し出すから、足場板を幅方向に正確に位置決定できる。イ号物件は、前記のとおり移載機で挾持中の足場板を反転できる機能を持っており、そのためには、足場板の短辺の中点近くを正確に挾持し、これを支点に回転させる必要があるから、足場板を幅方向に正確に位置決定することが重要になるが、これを右の「押し出し方式」で解決している。
本件考案でも、位置決め用のガイド45とコ字状ストッパー枠体46によって足場板を誘導できるが、足場板を通過させ、コ字状ストッパー枠体に誘導するための「遊び」が必要であるので、幅方向に正確な位置決定ができない。
<4> イ号物件では足場板を反転できる。
積み上げられた足場板の結束(荷造り)には、通常スチールバンドが利用されるところ、最下段の足場板が反転されていないと、スチールバンドで締めたときに足場板の断面が内側に変形して使用不能となる。そのため、反転機能のない本件考案のようなシステムでは、一旦自動運転を解除して人手で最下段の足場板を反転させる必要があるから、非能率であるし、位置決定が不正確になり、上段の足場板を精度よく積み上げることが困難になる。
また、足場板の両端部両側にはフックがついているため、積み重ねるときにフックの干渉が生じるが、イ号物件では、足場板を相互に反転させて積み重ねることにより、フックの干渉を回避することができる。
<5> イ号物件では足場板の幅の変化にも柔軟に対応できる。
足場板の規格は約二〇種類あり、各々幅や長さが異なる。
イ号物件も本件考案も、足場板の長さの変化には柔軟に対応できるが、本件考案では、足場板の幅が変わると、手動でガイドレールの位置を調整しなければならない。
これに対しイ号物件では、押圧板で側方から押し出して位置決定するため、足場板の幅が変化しても自在に幅方向の正確な位置決定が可能である。
<6> イ号物件では二列の結束(荷造り)が簡単にできる。
足場板の結束は、二〇段又は二五段の足場板の一列又は二列を一組としてされるが、二列で結束するためには、足場板を積み上げるときに各列を横に密着させる必要がある。
イ号物件では、足場板の短辺を挾持するから、両列を横に密着して積み上げることができ、そのままで二列結束ができる。これに対し、本件考案のように足場板の長辺を挾持すると、挾持爪が障害となって横の列に密着させることができないから、積み上げられた足場板を人手で接着しなければならず、非効率であるし、足場板の重量が重いために正確に密着させることが困難である。
2 仮に本件考案の構成要件を原告ら主張のように本件登録請求の範囲の記載のとおりに解するとしても、イ号物件は本件考案の構成要件Eを具備しない。
(一) 原告ら主張の本件考案の構成要件Eは、「前記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置してあること」というものであるから、移載機が「コンベヤ上」の足場板を挾持するものであることを要する。
これに対し、イ号物件は、浮上装置の支持アームがコンベヤ上の足場板を上方に持ち上げ、持ち上げられた「支持アーム上」の足場板を移載機が挾持するものであり、「コンベヤ上」の足場板を挾持するものではないから、本件考案の構成要件Eを具備しない。
そして、この構成の相違が作用効果についても大きな差異をもたらす。すなわち、イ号物件では、浮上装置がコンベヤ上の足場板を移載機(挾持具)の直下近くまで持ち上げるので、<1>足場板がコンベヤという障害物から解放されるため足場板の短辺を挾持することができる、<2>短辺を挾持するので移載中に足場板を反転することができる、<3>短辺を挾持するので足場板を並列で横に密着しながら積み上げることが可能である(二列結束に便利)、<4>浮上装置が足場板を迅速に浮上させるので処理速度が向上する、という本件考案にはない特別の作用効果を生み出している。
(二) 原告らは、イ号物件においてもコンベヤ上に位置する足場板を移載機によって挾持することに変わりはない旨主張する。
しかし、原告ら主張の本件考案の構成要件Eでは、「コンベヤ上」の足場板を挾持するものとされているが、コンベヤによって搬送されてきた足場板を移載機がそのまま挾持するだけであるから、ここでの「コンベヤ上」とは「on the conveyor」(コンベヤに支えられてその上に位置する)の意味であり、「above the conveyor」(コンベヤから離れてその上方に位置する)の意味まで含まれるとすることはできない。イ号物件は、コンベヤによって搬送されてきた足場板を浮上装置(支持アーム)がコンベヤ上(on)からその上方に持ち上げるため、移載機に挾持される時の足場板は「コンベヤ上(on)」にないから、本件考案とは構成が異なる。
原告らは、この点について、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、「ローラコンベヤ上」の語が「above the conveyor」の意味に使用されている箇所があるから、「コンベヤ上」との記載を「on the conveyor」の意味に限定して解釈する理由はない旨主張するが、本件登録請求の範囲の記載だけでは「コンベヤ上」が「on」の意味であるのか「above」の意味であるのか確定できず、考案の詳細な説明の欄の記載によって補充するしかないが、本件考案の技術思想は、前記のとおりコンベヤによって搬送されてきた足場板を移載機がそのまま挾持することを前提にしており、それ以外の技術思想は全く考えられていないのである。
(三) 本件考案の進歩性には疑問があるが(後記二【被告らの主張】参照)、仮にあったとしても極めて低いレベルであることは疑いがない。このような低いレベルの考案の技術的範囲は限定的に解するべきであるから、右のような構成の差異(本件考案では足場板が「コンベヤ上on the conveyor」にあり、イ号物件ではコンベヤの上方にあってコンベヤから解放されている。)があり、しかもその差異は作用効果にも大きな差をもたらす構成要件の重要部分に関するものである以上、イ号物件が本件考案の技術的範囲にしないことは明らかである。
二 争点2(本件考案には進歩性がなく、その実用新案登録に明白な無効事由があるか)
【被告らの主張】
1 本件考案の構成要件を原告らの主張どおりに解釈すると、本件考案は、当業者が出願当時の技術水準をもとに極めて容易に考案できたものであるから、明らかに進歩性が欠如している。
(一) 構成要件A「鋼製足場板のケレン装置であること」は、本件装置の呼称にすぎないから考案上は意味がない。
(二) 構成要件B「鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤを備えること」、構成要件C「前記コンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配置してあること」は、本件明細書に「鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されている」(公報1欄22行~25行)と記載されているように、右形態の自動ケレン機が公知であったし、足場板を長手方向に移動させるためにコンベヤを利用することも公知の慣用技術である。
例えば、昭和五四年八月二九日に実用新案登録出願がされ、昭和五六年四月一三日に実用新案出願公開がされた(実開昭五六-三九一七四号)「鋼製足場板等の附着物除去装置」に係る明細書及び図面(乙第五号証の1~3)記載の考案は、「チェーン軌道上に乗って送り込まれる鋼板を叩打して附着物を除去」(同号証の3の2頁13行)するものであり、構成要件Cの「通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥がす」自動ケレン装置と同じものである。しかも、ケレン機の前後にチェーンコンベヤとローラコンベヤを配し、足場板のケレン機への搬入はチェーンコンベヤによってなし、搬出はローラコンベヤによってなしているから、本件考案の構成要件B「鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤを備えること」、構成要件C「コンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配置してあること」と同じ構成である。
したがって、本件考案の構成要件B、Cは本件考案の出願時である昭和五九年八月三〇日には既に公知であったし、そうでないとしても、公知の自動ケレン機と公知のコンベヤを組み合わせただけのものであるし、その組合せも陳腐なものであるから、進歩性がないことは明らかである。
(三) 構成要件D「コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設けていること」も、運搬された物を載せる台が必要になることは自明であるし、その台の一例としてテーブルリフタがあることも従前から公知であるから、出願前公知である。
(四) 構成要件E「前記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置すること」は、ケレンされたコンベヤ上の足場板を自動的に挾持するための構成を構成要件中に含まないものであって、移載機をコンベヤとテーブルリフタの上方に配置しただけでは移載機で自動的に足場板を挾持できないから、このような無意味なものを利用する者が実際にいるのかは別にして、右配置自体に何の進歩性もないことは明らかである。
ちなみに、被告日工の産機工場(兵庫県明石市硯町所在)では、昭和五五年一一月に稼働を始めた足場板の製造ラインにおいて、完成した足場板がコンベヤ上を移動してラインの終端で停止すると、コンベヤとテーブルリフタの上方に位置する移載機(挾持具)が自動的に降下してこれを挾持し、テーブルリフタに搬送して積み重ねていた(検乙第三号証=昭和五五年一一月末に稼働を始めた被告日工の産機工場における昭和五八年下期の作業工程のうち、足場板の生産ラインの最終工程を撮影した写真。これが昭和五八年下期のものであることは、同号証の写真<7>に撮影されている鋼製足場板に刻印された「仮」の字を図案化したマーク〔仮設工業会を示す。〕、「83一」〔一九八三年下期に生産されたことを示す。〕、トンボを図案化したマーク〔被告日工の商標〕、「枠」〔足場板の正式名称である布枠を示す。〕から分かる。)。これは、移載機(挾持具)が自動的に足場板を挾持するようにシステム設計された高度な技術であるが、抽象化すると構成要件Eと同じになり(同時に構成要件Dも満たしている。)、被告日工は、同一の技術を本件考案の出願前に実施していたことになる。
そして、本件考案の構成要件D、Eを具備する右足場板の生産ラインは、見学者の受入れと、パンフレットへの掲載により、本件考案の出願前に公知になっていた。
すなわち、被告日工の産機工場は、FA(ファクトリー・オートメーション=工場の自動無人化)の模範工場として、社外から不特定多数の見学者を受け入れていたから、右足場板の生産ラインとそこで利用されているテーブルリフタと移載機の組合せは本件考案の出願前に公知公用になっていた。昭和五六年一〇月二五日被告日工発行の「トンボ会ニュース」一九号(乙第四号証。被告日工の従業員、関連企業、顧客を読者層とする。)三頁には、昭和五六年七月一七日に被告日工の産機工場を見学した見学者の感想記が掲載されている。
また、乙第七号証のパンフレットは、昭和五九年一月に被告日工が作成したもので(「JAB 3000」は昭和五九年一月〔J=9、A=0、B=1〕に三〇〇〇部印刷したとの意味)、これに掲載された足場板製造システムの写真によれば、見学者用の作業説明板が設置されていることから、同システムが工場見学者の見学コースになっていたことが分かる(移載機とテーブルリフタは、この写真自体には写っていないが、右足場板生産システムの一部分であるから、当然に見学の対象になっていた。)。
更に、右パンフレットは、工場の見学者等に配布されていたところ、これには、右写真とは別に、コンベヤの側方にテーブルリフタを配し、コンベヤとテーブルリフタの上方の位置に移載機を配したところの写真が掲載されている。
(五) 以上のように、原告ら主張の本件考案の各構成要件は、そのいずれもが公知であるか、又は進歩性のないことが明瞭である。
しかも、構成要件AないしEの組合せも、コンベヤ(構成要件B)、自動ケレン機(同C)、テーブルリフタ(同D)、移載機(同E)を近接して配置しただけのことであるから、誰でも極めて容易に考案できたものである。構成要件B・C、同D・Eの組合せは本件考案の出願前に公知であるから、なおさら構成要件AないしEの組合せに進歩性のないことが明らかである。
また、本件登録請求の範囲の記載のままでは、従前の自動ケレン機の前後にコンベヤを配した技術と同じ機能しかないから、作用効果の点でも進歩性がないことが明らかである。
2 右1記載のように、本件考案には進歩性がないから、本来実用新案登録がなされるべきではなかったが、既に実用新案登録がされている以上、本件訴訟では一応有効なものとして扱わざるをえない。しかし、本来誰もが自由に利用できる技術を形式的な名目上の権利に基づき原告らに独占させることは許されないから、被告らに自由技術の抗弁を認めたり、考案の技術的範囲を実施例に限定するなどの方策によって、原告らに不当な独占権を得させないようにすべきである。
したがって、イ号物件が仮に本件登録請求の範囲の記載の文言に抵触しているとしても、イ号物件の製造販売等は本件実用新案権の侵害とはならないと解すべきである。
【原告らの主張】
1 本件考案は、前記一【原告らの主張】3記載のとおり、本件登録請求の範囲に記載されている構成要件AないしEの存在及びそれらの組合せによって、ケレン作業の省力化と作業能率の向上を実現し、ケレン作業のコストダウンを図るという顕著な作用効果を奏するものであり、進歩性を有することは明らかである。
2 被告らは、本件考案の構成要件D及びEを取り出したうえでこれらが本件考案の出願前に公知になっていた旨主張するが、考案は、通常、多くの構成要件の結合から成っており、右結合により有機的一体性を有するものであるから、個々の構成要件のうちの少なくとも一つが公知でなければ、その構成要件を含む考案自体が公知でないことはもちろんであるが、個々の構成要件がすべて公知であったとしても、その組合せ方が公知でなければ、当該考案は公知とはいえない。
被告日工の産機工場において稼働していたとされる移載機とテーブルリフタは、足場板の生産ラインとして設置されていたものであって、ケレン機と組み合わされて使用されていたものではないから、仮に被告日工の右移載機とテーブルリフタの組合せが本件考案の出願前公知であったとしても、本件考案が公知のものであったということはできない。
しかも、被告ら援用の乙第四、第七号証によっては、足場板の生産ラインとそこで利用されているテーブルリフタと移載機の組合せが本件考案の出願前公知であったとの事実は到底立証されていない。
すなわち、乙第四号証掲載の感想記からは、被告日工の産機工場のどこをどのように見学させたのか全く明らかでない。
また、乙第七号証のパンフレットに掲載された足場板製造システムの写真には、移載機及びテーブルリフタが写っていないだけでなく、そこに写っている看板様のものが果たして見学者用の作業説明板であるのか、見学者用の作業説明板があるとしても実際に右移載機とテーブルリフタを見学した不特定人が存在するのかも明らかでない。
被告らは、更に、右パンフレットには、コンベヤの側方にテーブルリフタを配し、コンベヤとテーブルリフタの上方の位置に移載機を配したところの写真が掲載されている旨主張するが、その写真がどのような構造を有するどのような装置を撮影したものであるのか、右写真に写っているのがテーブルリフタなのか単なる台なのか明らかでないうえ、右パンフレットがどのように配布されたのかも明らかでない。
三 争点3(被告日工が損害賠償責任を負う場合に、原告会社に賠償すべき損害の額)
【原告らの主張】
原告会社は、本件実用新案権の実施品を一台宛二五〇〇万円で販売し、右販売価格の三〇パーセントに相当する七五〇万円の利益を得ている。
被告日工は、イ号物件を三台製造販売し、七五〇万円の三台分に相当する二二五〇万円の利益を得ているものと推認できる。
右は原告会社の被った損害と推定される(実用新案法二九条一項)。
【被告らの主張】
原告らの主張は争う。
第四 争点に対する判断
一 争点1(イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか)
1 原告らは、本件考案の構成要件を、本件登録請求の範囲の記載に即して前記第三の一【原告らの主張】1のAないしEに分説するべきである旨主張し、被告らは、本件登録請求の範囲の記載は広範にすぎ、必須構成要件が欠落しているから、現状では本件考案の技術的範囲を確定できない、そうでないとしても、右欠落した構成要件を本件明細書の考案の詳細な説明の記載によって前記第三の一【被告らの主張】1(三)(1)のE<1>~<4>のとおり補充するべきである旨主張する。
(一) 本件明細書の考案の詳細な説明の欄には次の記載がある。
「〔産業上の利用分野〕この考案は、鋼製足場板に付着したコンクリート等を自動的に除去するためのケレン装置に関するものである。〔従来の技術〕建築現場で使用する鋼製足場板には、コンクリートの付着が発生するため、これを除去するケレン作業が必要になる。従来、上記のようなケレン作業は手作業で足場板に打撃等を加えて行なうようにしていたが、重労働で能率が悪く、作業コストも高くつく。このため、鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されている。〔考案が解決しようとする問題点〕ところで、上記のようなケレン機は、打撃作業を自動的に行なうだけであり、鋼製足場板の供給や取出しおよびケレン後の積重ね等の作業はいまだ手作業によって行なっているため、能率や作業コストの面で満足できるものではない。この考案は、上記のような点にかんがみてなされたものであり、鋼製足場板のケレン作業、取出しから積重ねまで自動的に行なえるケレン装置を提供することが目的である。〔問題点を解決するための手段〕上記の問題点を解決するため、この考案は、鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する足場板に打撃を与えて付着物を除去するケレン機を配置し、搬送コンベヤの取出側端部の側方に足場板を積重ねて載置するテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、コンベヤ上の足場板を挾持して持上げ、これをテーブルリフタ上に移送して積重ねる移載機を配置したものである。〔作用〕コンベヤ上に支持されて移送される鋼製足場板がケレン機の部分を通過するとき、ケレン機の回転する打撃輪が足場板に衝撃を加え、付着しているコンクリートを除去する。次に足場板はコンベヤで前方のローラコンベヤに送り込まれ、定位置に停止すると直上に待機する移載機が降下して足場板を挾持し、この足場板を持上げて側方のテーブルリフタ上に移載し、順次足場板が載重ねられるたびにテーブルリフタは足場板の厚み分だけ間歇的に降下する。」(公報1欄11行~2欄28行)
「この考案によると、足場板に対して付着したコンクリートを除去するケレン作業が、コンベヤへの足場板の供給のみで完全に自動化(「自動」とあるのは誤記と認める。)でき、ケレン作業の省力化と作業能率の向上により、ケレン作業のコストダウンを図ることができる。」(同7欄4行~9行)
右記載によれば、従来手作業で行われていたケレン作業につき、鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されているところ、このようなケレン機は、打撃作業を自動的に行うだけであり、鋼製足場板の供給、取出し、ケレン後の積重ねの作業はいまだ手作業によっている、というのであるが、現に、昭和五四年八月二九日に実用新案登録出願がされ、本件考案の出願前の昭和五六年四月一三日に実用新案出願公開がされた(実開昭五六-三九一七四号)「鋼製足場板等の附着物除去装置」に係る明細書及び図面(乙第五号証の1~3)には、「密室(1)内に数軸設置した回転軸(2)に、数方向に交叉して連設した回転翼(3)の間にチェーン板(4)を介入し、これを回転可能に軸支(5)して成る、鋼製板体の附着物除去装置に於て、チェーン軌道(6)を回転式としてバネ支障(7)すると共に、チェーンの先方にローラーコンベア(8)を設けた、鋼製足場板等の附着物除去装置。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されており、これは「チェーン軌道(6)を回転式とし、鋼板(9)が密室(1)を一回通過するだけで附着物の除去を完成すると共に、その前方にローラコンベア(8)を装置して、清掃済鋼板を移送すると同時に、一方チェーン軌道(6)が別の鋼板を載せて順次連続的に鋼板(9)を運び込む為鋼板(9)の叩打作業は間断なく行うこととなり非常に高能率を発揮するのみならず、作業の進行及処理も順調となる効果のある有用な考案である。」(考案の詳細な説明2頁末行~3頁8行)というのであるから、原告ら主張の本件考案の構成要件A、B、Cを備えた自動ケレン装置が、本件考案の出願前に頒布された刊行物に記載されて公知となっていたことが明らかである。
右公知の自動ケレン装置においては、鋼製足場板を回転式のチェーン軌道に連続的に供給し、途中のケレン機(密室内に数軸設置した回転軸に、数方向に交叉して連設した回転翼の間にチェーン板を介入し、これを回転可能に軸支したもの)を通過させて付着物を自動的に除去するというのであるから、付着物を除去した後の鋼製足場板は、右チェーン軌道の先方に設けられたローラーコンベア上から取り出し(移し替え)、積み重ねていたことは当然のことであり、その鋼製足場板のチェーン軌道への供給、ローラーコンベア上からの取出し、積重ねは、手作業によっていたものと考えられる。このようにケレン作業を自動的に行う公知の自動ケレン装置において、なお手作業によっていた鋼製足場板の供給、取出し、積重ねの作業のうちのどこまでを自動化するかは、自動化した場合の能率、これに要する費用等と手作業による場合の能率、費用等との対比により決せられるところ、前記本件明細書の記載によれば、本件考案は、鋼製足場板の供給については手作業のままとし、取出し及び積重ねの作業を自動化することを目的としたものであるゆら、その取出し及び積重ねの作業の自動化をいかなる技術手段により実現するかが重要であるところ、その技術手段として、本件考案は、コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設け、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挟持して持ち上げ、これをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置するという構成(原告ら主張の本件考案の構成要件D、E)を採用したものであり、この点に本件考案の重要な特徴があるものと認あられる。
そして、原告ら主張の構成要件E、すなわち「前記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置してあること」は、ケレン作業を済ませて前方に送られた鋼製足場板をコンベヤ上からテーブルリフタ上に移し替える手段として種々の構成が考えられる移載機の中で、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置にあって、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げこれをテーブルリフタ上に積み重ねる機能を有するものであるとしてその機能を限定しているものである。右構成要件中には、ケレンされた足場板を自動的にどう正確に位置固定するのか、移載機がこれをどう感知するのか、これをどう正確に挾持するのか、という被告ら主張の点について具体的な技術手段が示されているわけではないが、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持ち上げるためには、当然に、コンベヤ上に足場板があることを感知する手段及び足場板を挾持する手段が必要であり(被告らのいう位置固定の手段については、挾持手段の機能如何によって必要でない場合もあるから、この種移載機に当然必要な技術手段とはいえない。)、これらの感知手段及び挾持手段については周知、慣用の技術が存在することは弁論の全趣旨から明らかであり(被告らは、ある物体を挾持して持ち上げ、別の場所に移載して積み重ねることは古くから公知の慣用技術であることを認めている〔前記第三の一【被告らの主張】1(三)(1)〕。)、本件明細書の実施例の項にも後記のとおりその技術手段の一例が記載されているから、本件考案は、移載機の具備すべき感知手段及び挾持手段としては、かかる周知、慣用の技術を適宜採用することを想定しているものと認められる。実用新案登録請求の範囲の記載の解釈に当たっては、当業者にとって普遍性のある周知、慣用の技術は、明細書に特に明示されていなくても当然にこれを参酌すべきものであるから(平成二年法律第三〇号による改正前の実用新案法五条三項参照)、右周知、慣用の技術が本件登録請求の範囲に明示されていないからといって、本件登録請求の範囲の記載が広範にすぎ、必須構成要件が欠落しているとか、本件考案の技術的範囲を確定できないということはない。
(二) 被告らは、実用新案登録請求の範囲の解釈に当たって技術常識や周知、慣用の技術を判断資料とすることができるのは、解釈の基礎となるべき事項が実用新案登録請求の範囲に記載されている場合であり、それすらもない場合には当てはまらないところ、本件登録請求の範囲の記載では、人間が移載機を操作してケレン後の足場板をテーブルリフタに積み上げるのか、それを無人の自動システムによってするのかすら明らかでないから、この空白部分を技術常識によって補うことなどできない旨主張する。しかし、前記(一)に摘示した考案の詳細な説明の記載の外、実施例の項にも「ケレン機10を通過した足場板Aはローラコンベヤ11に送り込まれ、予め足場板Aの長さに合わせて位置をセットした枠体46のリミットスイッチ(「フイッチ」とあるのは誤記と認める。)47に足場板Aの先端が当接して停止すると、このローラコンベヤ11上に待機する移載機13の挾持具52が検出信号によって下降し、足場板Aを両側から挾持する。次に移載機13は、挾持具52が上昇して足場板Aを持上げ、シリンダ57が伸長作動することにより、足場板Aを第10図二点鎖線の如くテーブルリフタ12の直上に移送し、この位置で昇降動と挾持解放を行なってテーブルリフタ12上に足場板Aを載せ、再びローラコンベヤ11の直上位置に戻って次の移送に待機する。」(公報6欄29行~42行)と自動システムの例が記載されていることに照らすと、右被告ら指摘の点について、本件考案が無人の自動システムによるものであることは明らかであり、本件考案は被告らのいう、解釈の基礎となるべき事項が実用新案登録請求の範囲に記載されている場合に当たるというべきである(なお、前記第三の一【原告らの主張】3において、原告らが、足場板の感知や位置決定に関する技術的手段は当業者において種々の「公知の技術的手段」の適用が可能であるとするのは、「周知、慣用の技術」の意味で使用しているものと解される。)。
また、被告らは、「足場板の感知、位置決定、その位置の感知」に関する技術的手段は多くの方法が可能であり、作用効果の上でも右部分の工夫によって自動無人システムの効率や付加価値が大きく左右されるから、実用新案登録請求の範囲によほど詳細に記載しない限り、技術常識や慣用技術を斟酌してもその技術的範囲を確定することはできないところ、本件登録請求の範囲の記載においてはこの「足場板の感知、位置決定、その位置の感知」という過程が記載されていないから、この部分の技術的な思想を確定できない旨主張する。しかし、足場板の感知手段等には種々の周知、慣用の技術が存在することは弁論の全趣旨から明らかであって、本件考案が右のような足場板の感知手段等として周知、慣用の技術を適宜採用することを想定しており、このような周知、慣用の技術を参酌することによって本件考案の技術的範囲を確定することができることは前記(一)説示のとおりである。
その他、以上の説示に反する被告らの主張は採用することができない。
2 右1によれば、本件考案の構成要件は原告ら主張のとおりAないしEに分説するのが相当であるので、次に、被告らの主張に鑑み、イ号物件が本件考案の構成要件Eを具備するか否かについて検討する。
(一) 構成要件E、すなわち本件登録請求の範囲の「上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持上げこれをテーブルリフタ上に積重ねる移載機を配置した」(公報1欄6行~9行)との記載について、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の「問題点を解決するための手段」の項に、「上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、コンベヤ上の足場板を挾持して持上げ、これをテーブルリフタ上に移送して積重ねる移載機を配置した」(同2欄14行~17行)、「作用」の項に、「次に足場板はコンベヤで前方のローラコンベヤに送り込まれ、定位置に停止すると直上に待機する移載機が降下して足場板を挾持し、この足場板を持上げて側方のテーブルリフタ上に移載し」(同2欄23行~26行)との各記載があり、本件考案の一実施例として「ローラコンベヤ11上の足場板Aをテーブルリフタ12上に積重ねる移載機13は、第9図と第10図に示すように、ローラコンベヤ11上からテーブルリフタ12の直上にわたって一対のガイドレール50を配置し、両ガイドレール50間の下部にこのレール50に沿って移動する走行台51を吊下げ、走行台51の下部に足場板Aを両側から挾む挾持具52がシリンダ53で上下動するように取付けられている。上記走行台51は、ガイドレール50に固定したラック54と、走行台51に固定したラック55とにわたって噛合するピニオン56をシリンダ57で移動させる増速送り機構でローラコンベヤ11の直上とテーブルリフター12の直上間を進退動するようになっている。また、挾持具52は、一対の爪58、58をリンク59で連動し、シリンダ60の伸縮で足場板Aの挾持と解放を行なうと共に、ハンドル61による調整によって挾持間隔が変更できる。」(同5欄33行~6欄7行)、「ケレン機10を通過した足場板Aはローラコンベヤ11に送り込まれ、予め足場板Aの長さに合わせて位置をセットした枠体46のリミットスイッチ(「フイッチ」とあるのは誤記と認める。)47に足場板Aの先端が当接して停止すると、このローラコンベヤ11上に待機する移載機13の挾持具52が検出信号によって下降し、足場板Aを両側から挾持する。次に移載機13は、挾持具52が上昇して足場板Aを持上げ、シリンダ57が伸長作動することにより、足場板Aを第10図二点鎖線の如くテーブルリフタ12の直上に移送し、この位置で昇降動と挾持解放を行なってテーブルリフタ12上に足場板Aを載せ、再びローラコンベヤ11の直上位置に戻って次の位置に待機する。」(同6欄29行~42行)との記載があり、ローラコンベヤと移載機の側面図である第11図には、移載機がローラコンベヤに支えられてその上に位置する鋼製足場板をその挾持具によって挾持して持ち上げようとしているところが示されている。
以上によれば、本件登録請求の範囲の記載自体、移載機は「コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持上げ」るというものであり、本件明細書の考案の詳細な説明においても、ケレン作業後コンベヤによって移載機の下方に送られてきた鋼製足場板(したがって、右鋼製足場板は、その段階では当然コンベヤに支えられてその上に〔on the conveyor〕位置していることになる)は、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置にある移載機の挾持具によって、まず挾持され、その後に持ち上げられることが、本件考案そのものの説明としても一実施例の説明としても一貫して記載されている。換言すれば、本件明細書には、本件考案にいう移載機は、コンベヤに支えられてそのうえにある鋼製足場板を挾持し、しかる後にこれを持ち上げ、テーブルリフタに移送する機能を有するものであることが示されており、鋼製足場板の持上げが移載機による挾持の前に行われる旨の記載はもちろん、その示唆もない。
原告らは、本件明細書においては、「ローラコンベヤ上」の語が一方では「on the conveyor」の意味に(公報5欄33行)、他方では「above the conveyor」の意味に(同6欄33行)使用されているから、「コンベヤ上」との記載を「on the conveyor」の意味に限定して解釈する理由はないと主張する。しかし、原告らが「above the conveyor」の意味に使用されているとして引用する「ローラコンベヤ11上に待機する移載機」(6欄33行)との記載は、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に配置されていることが本件登録請求の範囲に記載されている移載機について、その一実施例の説明として「ローラコンベヤ上」との表現を用いたものであるから、鋼製足場板が移載機によって挾持される前にコンベヤから離れてその上方に(above the conveyor)位置していることを示唆するものではない。
したがって、本件考案の構成要件Eは、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に〔on the conveyor〕位置する)鋼製足場板を挾持し、しかる後にこれを持ち上げ、テーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置してあることを意味すると解すべきである。
(二) これに対し、イ号物件は、別紙イ号説明書及びイ号図面のとおり、「構造の説明」<6>の「足場板の浮上装置」を備えており、右浮上装置の支持アームは、ケレンされた足場板がローラコンベヤの前方端に達し、押圧板で位置固定されると、コンベヤの下から浮上して、コンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に〔on the conveyor〕位置する)足場板を移載機の直下近くまで持ち上げ、移載機は、支持アーム上の(コンベヤから離れてその上方に〔above the conveyor〕位置する)足場板を挾持して持ち上げ、これをテーブルリフタまで移載するものである。そうすると、イ号物件の移載機は、コンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に〔on the conveyor〕位置する)鋼製足場板を挾持し、しかる後にこれを持ち上げるというものではないから、イ号物件は、本件考案の構成要件Eを具備しないというべきである。
(三) 原告らは、浮上装置は単なる付加的な構成にすぎず、浮上装置の存在によって、イ号物件が本件考案の構成要件である移載機を備えていないということにはならないと主張する。しかし、前示のとおり、ケレン作業を自動的に行う公知の自動ケレン装置において、なお手作業によっていた鋼製足場板の供給、取出し、積重ねの作業のうちのどこまでを自動化するかは、自動化した場合の能率、これに要する費用等と手作業による場合の能率、費用等との対比により決せられるところ、本件考案は、鋼製足場板の供給については手作業のままとし、取出し及び積重ねの作業を自動化することを目的としたものであるから、その取出し及び積重ねの作業の自動化をいかなる技術手段により実現するかが重要であるところ、その技術手段として、本件考案は、コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設け、コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挟持して持ち上げ、これをテーブルリフタ上に積み重ねる移載機を配置するという構成を採用したものであって、この点に本件考案の重要な特徴があり、そして、右のコンベヤ上の鋼製足場板を挟持して持ち上げる移載機とは、移載機がコンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を挟持し、しかる後にこれを持ち上げることを意味するものであるから、まずコンベヤ上の(コンベヤに支えられてその上に[on the conveyor]位置する)鋼製足場板を浮上装置によって持ち上げることは本件考案においては想定されておらず、証拠(乙第一号証、検乙第一、第二号証)及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件において、右のようにまず浮上装置によって鋼製足場板を移載機の直下近くまで持ち上げるという構成を採用したことにより、鋼製足場板がコンベヤという障害物から解放されこれを挟持する方向の自由度が増える、移載機の下降動作が少なくて済み処理速度が向上する、移載機がテーブルリフタ上で作業をしている間にも浮上装置が独立して浮上動作を行うことができ処理効率が向上する、という本件考案にはない作用効果を奏するものと認められるから、イ号物件における浮上装置をもって単なる付加的構成ということはできない。
二 結論
以上によれば、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないというべきであるから、原告らの請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官本吉弘行は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)
イ号説明書
一 構造の説明
<1> 足場板を支持して搬送するチェーンコンベヤが配置されている。
<2> コンベヤの搬送途中に、通過する足場板に打撃を加えて付着物を剥がすケレン機を配してある。
<3> 前記チェーンコンベヤの取り出し側にはモータ駆動のローラコンベヤが設けられている。
<4> ローラコンベヤの前方端には透過式光電管スイッチが設けられ、これが足場板を検出するとローラコンベヤの駆動が停止する。
<5> ローラコンベヤのフレームの一方側には、幅方向に進退移動する押圧板がある。前記透過式光電管スイッチが足場板を検出すると、この押圧板は前方に進み、足場板を横から幅方向に反対側のフレームの位置決定基準板まで押しつけて、足場板の幅方向の位置決定をする。
<6> 足場板の浮上装置。ローラコンベヤの押圧板の反対側の側方に位置し、支持アームとこれを直上に浮上させる起動部分からなる。支持アームは通常ローラコンベヤの下に沈下しており、ケレンされた足場板が同コンベヤの前方端に達し、押圧板で位置固定されると、コンベヤの下から浮上して、コンベヤ上の足場板を移載機の直下近くまで持ち上げる。これにより、移載機の挾持具はローラコンベヤに干渉されることなく足場板を挾持でき、かつ足場板の浮上速度を速めることにより処理速度を向上させる。
<7> 移載機。ローラコンベヤとテーブルリフタにわたる上方に位置し、支持アーム上の足場板を挾持して持ち上げる挾持具を持っ。支持アーム上の足場板の短辺を挾持し、テーブルリフタまで移載してその上に積み重ねる。
<8> 挾持具。支持アーム上にある足場板の短辺の中点付近を長手方向から挾持する。移載機がテーブルリフタ上に移動する間に、挾持点を支点にして足場板を回転させる機能を持つ。
<9> テーブルリフタ。ローラコンベヤの側方に位置し、この上に足場板を積み重ねる。透過式光電管スイッチで積み上げの最上段を検出し、最上段の足場板が同じ地上高になるようにしてある。
二 作用の説明
<1> 足場板をチェーンコンベヤに供給。
<2> 足場板は、チェーンコンベヤに支持されて搬送されながら、搬送途中で、ケレン機によって打撃が与えられる。
<3> チェーンコンベヤからローラコンベヤに供給。
<4> 取り出し用ローラコンベヤから出た足場板が、同コンベヤの前方端に到達すると、透過式光電管スイッチがこれを感知し、ローラコンベヤの回転を停止する。
<5> 右光電管スイッチにより、ローラコンベヤの側方(たとえば右)に位置した押圧板が前方(たとえば左)に進み、横から足場板を幅方向に、反対側のフレームの位置決定基準板まで押しつけて、足場板の幅方向の位置決定をする。
<6> 足場板が位置決定されると、ローラコンベヤの下に沈下していた支持アームがコンベヤ上の足場板を下から持ち上げて、移載機の直下近くで停止する。
<7> 支持アームが停止すると移載機が降下し、足場板の短辺の中点近くを挾持し、持ち上げる。移載機は、足場板の移載中に右挾持点を支点にして足場板を反転させることが可能である。回転の態様や時期はコンピュータで制御している。
<8> 挾持した足場板をテーブルリフタ上に積み重ねる。積み重ねた足場板の厚さ分だけテーブルリフタが降下すれば、挾持具は常時同じ高さで足場板を離すことができるから効率がよい。しかし、足場板の厚みは各メーカーによって異なるために、あらかじめ降下分を決定できない。イ号物件では、積み上げられた最上段の足場板の地上高を透過式光電管スイッチで検出し、これが常に同じになるようにテーブルの高さを調整している。
以上
イ号図面
(符号の説明)
1 チェーンコンベヤ
2 ケレン装置
3 ローラコンベヤ
4 透過式光電管スイッチ(足場板の位置決め用)
5 押圧板
6 シリンダ(押圧板)
7 位置決定基準板
8 浮上装置
9 支持アーム(浮上装置)
10 移載機
11 レール(移載機)
12 走行台(移載機)
13 モータ(移載機)
14 挾持具
15 シリンダ(移載機)
16 旋回シリンダ(挾持具)
17 テーブルリフタ
18 透過式光電管スイッチ(足場板の地上高感知用)
19 搬出用コンベヤ
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 平2-46602
<51>Int.Cl.5 E 04 G 19/00 識別記号 庁内整理番号 6963-2E <><>公告 平成2年(1990)12月7日
<54>考案の名称 鋼製足場板のケレン装置
<21>実願 昭59-133371 <>公開 昭61-47347
<22>出願 昭59(1984)8月30日 <43>昭61(1986)3月29日
<72>考案者 野村裕晧 大阪府東大阪市旭町13番13号
<71>出願人 野村裕晧 大阪府東大阪市旭町13番13号
<74>代理人 弁理士 鎌田文二
審査官 丸山亮
<57>実用新案登録請求の範囲
鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する鋼製足場板に打撃を加えて付着物を剥すケレン機を配置し、上記コンベヤの取出側端部の側方に鋼製足場板を積み重ねるテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部の位置に、コンベヤ上の鋼製足場板を挾持して持上げこれをテーブルリフタ上に積重ねる移載機を配置した鋼製足場板のケレン装置。
考案の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
この考案は、鋼製足場板に付着したコンクリート等を自動的に除去するためのケレン装置に関するものである。
〔従来の技術〕
建築現場で使用する鋼製足場板には、コンクリートの付着が発生するため、これを除去するケレン作業が必要になる。
従来、上記のようなケレン作業は手作業で足場板に打撃等を加えて行なうようにしていたが、重労働で能率が悪く、作業コストも高くつく。
このため、鋼製足場板を長手方向に移動させ、通過する足場板に対して打撃輪を衝突させることにより、コンクリートを剥離するケレン機が近年提案されている。
〔考案が解決しようとする問題点〕
ところで、上記のようなケレン機は、打撃作業を自動的に行なうだけであり、鋼製足場板の供給や取出しおよびケレン後の積重ね等の作業はいまだ手作によつて行なつているため、能率や作業コストの面で満足できるものではない。
この考案は、上記のような点にかんがみてなされたものであり、鋼製足場板のケレン作業、取出しから積重ねまで自動的に行なえるケレン装置を提供することが目的である。
〔問題点を解決するための手段〕
上記の問題点を解決するため、この考案は、鋼製足場板を支持して搬送するコンベヤの搬送途中に、通過する足場板に打撃を与えて付着物を除去するケレン機を配置し、搬送コンベヤの取出側端部の側方に足場板を積重ねて載置するテーブルリフタを設け、上記コンベヤとテーブルリフタにわたる上部に、コンベヤ上の足場板を挾持して持上げ、これをテーブルリフタ上に移送して積重ねる移載機を配置したものである。
〔作用〕
コンベヤ上に支持されて移送される鋼製足場板がケレン機の部分を通過するとき、ケレン機の回転する打撃輪が足場板に衝撃を加え、付着しているコンクリートを除去する。
次に足場板はコンベヤで前方のローラコンベヤに送り込まれ、定位置に停止すると直上に待機する移載機が降下して足場板を挾持し、この足場板を持上げて側方のテーブルリフタ上に移載し、順次足場板が載重ねられるたびにテーブルリフタは足場板の厚み分だけ間歇的に降下する。
〔実施例〕
以下、この考案の実施例を添付図面に基づいて説明する。
この考案のケレン装置は、第1図の配置に示すように、鋼製足場板Aを支持し、その幅方向に沿つて前方に移動させるフリーローラ傾斜台1と、この傾斜台1の前方に配置され、傾斜台1上から受取つた足場板Aをその長手方向に沿つて直角方向へ送る駆動ローラコンベヤ2と、傾斜台1上の足場板Aを駆動ローラコンベヤ2上へ自動的に取出すよう、シリンダ3でストツバー4を上下動させる移載機構5と、前記コンベヤ2の前方に配置したテーブルリフタ6と、テーブルリフタ6の一側に配置された不良足場板の取出用フリーローラ傾斜台7と、同じくテーブルリフタ6の他側に配置された足場板受取台8と、受取台8の前方に配置したコンベヤ9と、コンベヤ9の途中に配置したケレン機10と、コンベヤ9の取出側端部に延長して設けたローラコンベヤ11と、このローラコンベヤの側方に配置したテーブルリフタ12と、ローラコンベヤ11とテーブルリフタ12間の上部に設けた移載機13と、テーブルリフタ12の側方に配置した取出用のフリーローラ傾斜台14とで構成されている。なお、各フリーローラ傾斜台1、7、14は駆動コンベヤを使用してもよい。
前記コンベヤ9は第2図乃至第4図に示す如く、フレーム15の両側に、モータ16で駆動されるエンドレスチエン17、17を、フレーム両端のスブロケツト間に巻架することによつて平行に配置し、両エンドレスチエン17、17間に、一定の間隔で多数のスクレーバ杆18を取付け、上部走行部分のスクレーバ杆18で足場板Aを支持して長手方向に送るようになつている。
エンドレスチエン17、17の上下走行部分はガイドレール19、20によつて水平に走行するよう支持され、上部ガイドレール19は防振機構21でフレーム15に取付けられている。このガイドレール19は、足場板AのフツクBがケレン機10の直下を通過するとき押下力で下降し、フツクBの通過を許容するようになつている。
フレーム15の下部に底板22が張設され、ケレン機10の部分から落下したコンクリート等を受取ると共に、スクレーバ杆18は下部走行時に底板22上のコンクリート等を、フレーム15の第3図左側端部に設けたシユート23に向けてかき落すようになつている。なお、コンベヤ9はベルトコンベヤやローラコンベヤを用いて構成してもよい。
上記コンベヤ9上には、略中央部にケレン機10が配置され、その前後にセンター出し機構24、25が設けられ、幅の異なる足場板Aでもコンベヤ9のバスラインに合わせて設送するようになつている。
センター出し機構24、25は、先端をフレーム15に枢止して水平に揺動自在となる一対のガイド杆26と、フレーム15上に跨状となるよう設けたブレート27の長孔28に沿つてガイド杆26の後端を幅方向に位置決めする調整部材29とで形成され、足場板Aの幅に合わせてガイド杆26の後端間隔を設定する。
前記ケレン機10は、第5図乃至第7図に示すように、コンベヤ9のフレーム15上に設けたケース30内に複数本の駆動軸31を回動自在に架設し、各駆動軸31はブーリとベルを介して順次連動すると共にモータ32で駆動し、同一方向に等速で回転するようになつている。
各駆動軸31の両端には、斜下方に向けて延びる一対のアーム33がフリーの状態で取付けられ、対となるアーム33の先端で回転軸34を回動自在に支持し、この回転軸34が各々の駆動軸31とプーリ及びベルト等で連動されている。
回転軸34には複数の円板35が固定され、円板35間に、複数本の軸36が回転軸34を中心として円状に等間隔で配置され、各回転軸36に多数の打撃輪37が取付けられている。
各打撃輪37は、中央孔が軸36よりも大径になり、外周が凹凸を備えた形状であり、回転軸34の回転時に各打撃輪37は遠心力で最大径の配置となり、直下を通過する足場阪Aに対して衝突することにより打撃を与え、付着しているコンクリートを剥離するものである。なお、打撃輪37はリング状の円板であつてもよい。
上記各アーム33は第7図のように、ケース30の横桟38との間に設けた調整杆39により、下向き角度、即ち足場板Aに対する打撃輪37の当接量を自由に調整できると共に、ばね40の収縮により上方への逃げが許容されている。
前記各駆動軸31の中間部に下向きの押え腕41がフリーの状態で取付けられ、ばね42により下端の押えローラ43が足場板Aに圧接する回動弾性を与勢され、打撃輪37で打撃するとき足場板Aが上下におどることのないようにしている。
なお、打撃輪37群の前後の並列数は自由に選択すればよく、ケレン機は多軸により、足場板に対する打撃を弱め、足場板Aに損傷を与えないと共に、回転数を早くすることができる。
前記コンベヤ9の取出側に配置したローラコンベヤ11はモータ44で強制駆動され、受取つた足場板Aをそのまま前方に送ると共に、その両側に位置決用のガイド45が幅方向に位置調整が自在となるように配置されている。
ローラコンベヤ11上の後端上にコ字状のストツパー枠体46が起伏と前後方向の位置調整が自在となるように取付けられ、この枠体46内に進入してきた足場板Aが当接することによつてこれを検出するスイツチ47が取付けてある。枠体46は起立させたとき足場板Aをそのまま延長線上へ通過させ、テーブルリフター12に載らない長尺足場板を別に取出すものである。
上記ローラコンベヤ11は、図示の場合、モータ44で駆動されるエンドレスチエン48に一定の間隔で多数のローラ49をフリー回動するように取付け、ストツパー枠体46に当接して足場板Aが停止した場合においてもローラ49と足場板Aの摺動が生じることのないようにしている。
このローラコンベヤ11は図示のような構造に限るものではなく、例えば各ローラが定位置で回転するものでもよいと共に、コンベヤ9を延長させてこれに代えるようにしてもよい。
ローラコンベヤ11上の足場板Aをテーブルリフタ12上に積重ねる移載機13は、第9図と第10図に示すように、ローラコンベヤ11上からテーブルリフタ12の直上にわたつて一対のガイドレール50を配置し、両ガイドレール50間の下部にこのレール50に沿つて移動する走行台51を吊下げ、走行台51の下部に足場板Aを両側から侠む挾持具52がシリンダ53で上下動するように取付けられている。
上記走行台51は、ガイドレール50に固定したラツク54と、走行台51に固定したラツク55とにわたつて噛合するピニオン56をシリンダ57で移動させる増速送り機構でローラコンベヤ11の直上とテーブルリフター12の直上間を進退動するようになつている。
また、挾持具52は、一対の爪58、58をリンク59で連動し、シリンダ60の伸緒で足場板Aの挾持と解放を行なうと共に、ハンドル61による調整によつて挟持間隔が変更できる。
なお、足場板Aにはその両端部両側にフツクBが設けられ、積重ね時にフツクが干渉し合うので、テーブルリフター12上への積層時に上位足場板の幅方向への位置を変化させることができるよう、前記シリンダ57に小ストロークシリンダ62を連結し、このシリンダ62を交互に伸結させるようになつている。上記小ストロークシリンダ62は走行台51の前進位置に配置してストツパーとし、伸縮による停止位置の変更によつて同効を得るようにしてもよい。
この考案のケレン装置は上記のような構成であり、コンクリートの付着した足場板Aは傾斜台1から駆動ローラコンベヤ2、テーブルリフタ6、受取台8を介してコンベヤ9の受取側端部に入為的に送り込まれ、上記移送途中において不良品は傾斜台7に取出す。
コンベヤ9に供給された足場板Aは、スクレーパ杆18群で支持され、長手方向に沿つて前方に送られ、ケレン機10の直下を通過するとき、回転する打撃輪37群で上面がたたかれ、付着しているコンクリートが強制的に剥離除去される。
ケレン機10を通過した足場板Aはローラコンベヤ11に送り込まれ、予め足場板Aの長さに合わせて位置をセツトした枠体46のリミツトフイツチ47に足場板Aの先端が当接して停止すると、このローラコンベヤ11上に待機する移載機13の挾持具52が検出信号によつて下降し、足場板Aを両側から挾持する。
次に移載機13は、挾持具52が上昇して足場板Aを持上げ、シリンダ51が伸長作動することにより、足場板Aを第10図二点鎖線の如くテーブルリフタ12の直上に移送し、この位置で昇降動と挾持解放を行なつてテーブルリフタ12上に足場板Aを載せ、再びローラコンベヤ11の直上位置に戻つて次の移送に待機する。
テーブルリフタ12上の足場板Aは人為的に傾斜台14上へ取出せばよく、コンベヤ9上へ足場板Aを供給すれば、ケレン作業が自動的に行なえることになる。
〔効果〕
以上のように、この考案によると、足場板に対して付着したコンクリートを除去するケレン作業が、コンベヤへの足場板の供給のみで完全に自動でき、ケレン作業の省力化と作業能率の向上により、ケレン作業のコストダウンを図ることができる。
図面の簡単な説明
第1図はこの考案に係るケレン装置の平面図、第2図は同上におけるコンベヤの平面図、第3図は同縦断正面図、第4図は同じく拡大縦断側面図、第5図はケレン機の横断平面図、第6図は同縦断正面図、第7図は同縦断側面図、第8図は打撃輪部分の拡大縦断断面図、第9図はローラコンベヤの平面図、第10図はローラコンベヤと移載機の正面図、第11図は同側面図である。
A……足場板、9……コンベヤ、10……ケレン機、11……ローラコンベヤ、12……テーブルリフタ、13……移載機、14……傾斜台。
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
第9図
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第10図
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第11図
<省略>
実用新案公報
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