大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1553号 判決 1996年1月29日
反訴原告
谷山こと康政吉
ほか一名
反訴被告
太田秋幸
主文
一 反訴被告は反訴原告康吉光に対し、金二六万四〇三一円及びこれに対する平成六年二月二三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。
二 反訴原告康吉光のその余の請求及び反訴原告康政吉の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを四〇分し、その一を反訴被告の、その一九を反訴原告康政吉の、その余を反訴原告康吉光の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に、執行することができる。
事実及び理由
以下、反訴原告康政吉を原告政吉、反訴原告康吉光を原告吉光、反訴被告を被告という。
第一請求
一 反訴被告は反訴原告政吉に対し、金四四五万八九〇〇円及びこれに対する平成六年二月二三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。
二 反訴被告は反訴原告吉光に対し、金五四九万四〇〇〇円及びこれに対する平成六年二月二三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。
第二事案の概要
普通貨物自動車同士の衝突事故で、一方の普通貨物自動車の運転者及び同乗車が傷害を負つたとして、他方の普通貨物自動車の保有者兼運転者に対して、民法七〇九条に基づいて、それぞれ損害賠償を一部請求した事案である。
一 当事者間に争いがない事実及びそれに基づく判断
1 本件事故の発生
日時 平成五年六月二〇日午後六時五分頃
場所 大阪市生野区桃谷三丁目一一番二〇号先
関係車両(一) 普通貨物自動車(浜松四四て五九八二)(被告車両)被告運転、保有
関係車両(二) 普通貨物自動車(なにわ四〇ね一八四六)(原告車両)原告政吉運転、原告吉光同乗
事故態様 交通整理されていない交差点での衝突事故
2 被告の責任
被告は、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条に基づき、本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。
3 既払い
(一) 原告政吉は、被告から二九万四二六七円を受け取つた他、自賠責保険金一二〇万円を受け取り、その合計額は一四九万四二六七円である。
(二) 原告吉光は、被告から五一万八三七八円を受け取つた他、自賠責保険金七五万一五二二円を受け取り、その合計額は一二六万九九〇〇円である。
二 争点
(原告政吉の請求)
1 過失相殺
(一) 被告主張
本件事故は、交通整理されていない交差点に交差して進入する車両間の出合い頭の衝突事故であつて、衝突時には、原告車両は停止しておらず、原告政吉及び被告がその進入に際して減速の上、左右から交差点に進入してくる車両がないかどうかの安全を確認すべきところ、これを怠つたことによつて発生したものであつて、原告政吉は相当飲酒していたこと、被告は飲酒していたものの、酒気帯びにも至らない程度であつたこと、被告車両の速度は低速であつたことからすると、原告政吉にも、五割以上の過失がある。
(二) 原告政吉主張
本件事故は、停止状態にある原告車両に被告車両が衝突してきたものであり、被告の前方不注視が原因と考えられ、全面的に、被告に責任が存する。
2 原告政吉の傷害の有無、程度及び相当治療期間
(一) 原告政吉主張
原告政吉は、本件事故により、頸椎捻挫、腰部打撲、頭部打撲、血尿の傷害を負い、平成五年六月二七日より同年七月三日まで共和病院に入院し、同六年四月一二日まで通院し、その間、頸項部痛、頭痛、頸椎運動制限、全身の不快感、肩のしめつけ等の症状が継続した。
(二) 被告主張
本件事故状況、双方車両の損傷の程度、被告には人身損害が発生しておらず、その同乗者も一週間ほど通院したに過ぎないこと、林病院では明らかな他覚的所見はなく、入院も経過観察のためのものであつたこと、原告政吉には肝障害の既往症があり、共和病院での入院は尿管結石によるものであること、共和病院での平成五年七月二〇日からその主張する症状固定日までの治療は保存的なものに過ぎず、通院日数も平成六年一月に二日通院し、四月に一日通院したのみで、視力障害が本件事故によるとの資料はないことからして、原告政吉には入院が必要な重篤な傷害は発生しておらず、本件事故による傷害は遅くとも、平成五年一二月末には症状固定した。
3 休業損害
(一) 原告政吉主張 三八六万三七〇〇円
39万1600円÷30×296=386万3700円
(二) 被告主張
原告政吉の症状の経過からして、休業を要しなかつた。仮に、一定就労に制限があつたとしても、原告が事故前塗装の仕事をしていたか否か不明であり、その収入も不明であるから、休業損害は認められない。
4 その他の損害
(一) 原告政吉主張
治療費二二万七六六七円、慰謝料一三〇万円
(二) 被告主張
治療費は認める。慰謝料は争う。
(原告吉光の請求)
1 過失相殺
(一) 被告主張
原告吉光は、原告政吉が飲酒していることを知りながら同乗していたのであるから、相応の過失相殺をすべきである。
(二) 原告吉光主張
争う。
2 原告吉光の傷害の有無、程度及び相当治療期間
(一) 原告吉光主張
原告吉光は、本件事故により、頭部外傷Ⅰ型、頭部打撲、右肩打撲、頸椎腰部捻挫、腹部鈍的外傷疑(胃損傷疑、肝損傷疑)、左肩腱板損傷の診断を林病院で受け、平成五年六月二〇日から同月二五日まで林病院に入院し、その後通院治療を続け、平成六年六月一四日まで治療を要した。
(二) 被告主張
本件事故状況、双方車両の損傷の程度、被告には人身損害が発生しておらず、その同乗者も一週間ほど通院したに過ぎないこと、原告吉光が本件事故直後軽度の意識障害があつたのは飲酒によるものであること、他覚的検査では異常がないこと、入院は意識障害が事故によるか飲酒によるか不明であつたので経過観察のためなされたに過ぎないこと、通院中の治療は保存的治療であつて、担当医の平成五年八月二六日付けの判断は全体的に症状が改善中、日常生活の動作にも特に支障ないとのことであること、同年九月頃症状固定見込時期とされていること等からして、同月頃には症状固定していた。
また、仮に右主張が認められないとしても、原告吉光は同六年二月二五日から同年六月一四日までは治療を受けていないため、症状固定日は同年二月二五日とすべきである。
3 後遺障害
(一) 原告吉光主張
原告吉光は、本件事故により、左肩可動域制限及び腱板損傷による左肩痛の後遺障害が残存しており、これは自賠法施行令二条後遺障害別表一四級(以下、級及び号のみで示す。)に該当する。仮に、一四級に該当しないとしても、右症状は慰謝料の算定において十分考慮されるべきである。
(二) 被告主張
原告吉光の左肩挙上時疼痛、頸部痛、左肩可動域制限は、レントゲン上経年性変形性関節症が認められるのみであること、痛風があること、左上腕に手術歴があること、第六第七頸椎間に加齢的変化が認められること、原告吉光が長年従事していたとする塗装業では左手を使うこと等からして、本件事故によるものではなく、既往症に基づくもの、ないし加齢によるものと認めるのが相当であつて、仮に本件事故となんらかの関連があつても、その程度は軽微である。また、原告吉光の訴える症状は、一四級に該当するものではない。
4 休業損害
(一) 原告吉光主張 六二二万二六〇〇円
52万円÷30×359=622万2600円
(二) 被告主張
原告吉光の担当医が、平成五年八月より就労指示をしていたこと、原告吉光の就労を妨げる傷病である左肩の症状と本件事故との因果関係は認められず、仮にあるとしても、その程度は軽微なため、原告吉光主張の休業損害がすべて本件事故によるものとは到底いえない。そして、担当医が就労不能と判断したのも、原告吉光の訴えによるものに過ぎず、他覚的所見によるものは何もない。
また、原告吉光の休業の立証資料は信用することができず、基礎収入についても疑問がある。
5 その他の損害
(一) 原告吉光主張
治療費二二万〇三八三円、装具代一四万三五四八円、入通院慰謝料一三〇万円、後遺障害逸失利益四六九万四〇四〇円(52万円×12×0.05×15.045)、後遺障害慰謝料八二万円
(二) 被告主張
治療費、装具代は認める。その余は争う。
第三争点に対する判断
(原告政吉の請求)
一 過失相殺(争点1)
1 前記認定の本件事故の態様(第二、一1)に、甲四の2、3、乙六、原告政吉、原告吉光及び被告各本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。
(一) 本件事故現場は、南北に延びる、幅員三メートルのセンターラインのない直線道路(南北道路)と東西に延びる、東側の幅員二・三メートル、西側の幅員二・四メートルのセンターラインのない直線道路(東西道路)とが交わる、十字型交差点(本件交差点)であつて、その概況は別紙図面のとおりである。本件事故現場附近の道路はアスフアルトで舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時乾燥しており、最高速度は時速四〇キロメートルで、東西道路は西行き一方通行であつた。本件事故現場は、市街地にあり、交通は閑散であつた。本件交差点の東側から北側への見通しも北側から東側への見通しも悪かつた。
被告は、被告車両を運転して、南北道路を時速三〇ないし三五キロメートルで南に直進し、同図面<2>付近(以下、符号のみを示す。)で<ア>の原告車両を認め、急ブレーキをかけたものの及ばず、<3>に至り、<イ>ないしそのやや西側の原告車両と衝突し、被告車両は<4>に停止し、原告車両は<ウ>ないしそのやや西側に停止した。
原告政吉は、原告吉光を同乗させ、原告車両を運転して、東西道路を西に直進し、前記の態様で被告車両に衝突、停止した。
本件事故によつて、原告車両は、右前ドア付近が擦過し、軽微な損傷を負い、被告車両は、前バンパー左が擦過し、フロントパネル左側が凹損し、小破の状態となつた。
被告は、本件事故当日の正午頃から午後二時頃まで、昼食時にビールを飲んだところ、本件事故後の飲酒検査では、処分を受けるような結果は出なかつた。
他方、原告らも、本件事故前に飲酒していた。
(二) なお、甲四の3(実況見分調書)の原告政吉指示説明部分、乙六には原告車両が停止していたとの記載があり、原告政吉もその本人尋問でその旨供述するものの、その内容が本件交差点の中央付近で停止していたとするものであつて、内容的に不自然であり、原告政吉がその本人尋問において供述する対向する自転車の存在も、甲四の3に記載がないこと、前記認定の原告車両の損傷が擦過であることも考慮に入れると、採用することができない。
また、原告政吉及び原告吉光は、それぞれその本人尋問において、両原告とも本件事故前に飲酒していない旨述べているものの、両原告の事故当日のカルテの記載(甲一の二頁、二三頁、甲二の二〇頁)に照らし、信用することができない。
2 当裁判所の判断
前記認定の事実によると、原告政吉にも、見通しの悪い交差点での右方確認が不十分であつた過失があるので、相応の過失相殺をすべきところ、特に、一方が広路とまではいえないこと、原告車両が左方車であること、両車両ともほぼ同速度であること、原告政吉及び被告はある程度飲酒をしていたものの、それがどの程度本件事故に影響していたかを認定するに足る証拠はないことを総合考慮すると、過失相殺の割合は、四割とするのが相当である。
二 原告政吉の傷害の有無、程度及び相当治療期間(争点2)
1 原告政吉の症状の経過
甲一、三、七及び九の各1、2、二七の1、2、二八ないし三一、三三、三四の1、2、三五ないし三九、乙二ないし四、原告政吉本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。
原告政吉(昭和三〇年三月一八日生、本件事故当時三八歳、男性)は、本件事故の約三か月前である平成五年三月二七日、交通事故(前回事故)によつて、頸部と腰部に傷害を負つたとして、関西医大で治療を受けた後、林病院に転院し、治療を受けていたが、本件事故後の同年六月二八日加害者と示談し、同年六月一九日までの治療費は、加害者側が支払う旨示談した。原告政吉は、前回事故以前にも、昭和五八年、昭和六三年、平成二年にも事故に遭い、後二者では頸部と腰部に傷害を負つたものである(甲三九)。
原告政吉は、平成五年六月二〇日、本件事故直後、林病院に救急車で搬送されたが、意識障害はなく、体表面に挫傷、裂傷はなく、レントゲン上異常はなかつたものの、右頭頂部に高吸収域があり、頭部外傷Ⅱ型、頭部打撲、右上肢打撲、腰部打撲、頸椎捻挫、腹部鈍的外傷(腎、肝損傷)疑の診断を受け、頭部CT上疑わしい影があるため、経過観察のため、入院することとなつた。同月二二日には、腹部超音波では正常範囲であつたが、左腎嚢胞が認められ、脊椎は硬直が強く、両側第五、第六頸椎横に突起が認められ、反射は正常で、知覚障害はないと認められ、レントゲン上脊柱側弯は減少し、骨折はなく、神経学的な異常所見がなかつた。同日、原告政吉は、担当医に対して、従来治療を受けていたせいわ病院への転院を希望した。同日の同病院の判断としては、病名は、頭部外傷Ⅱ型、頭部打撲、頸椎捻挫、右上肢打撲、腰部打撲、腹部鈍的外傷(腎損傷)疑いで、経過観察のため、約一〇日間の通院加療、うち約三日間の入院加療を要する見込であると判断していた。なお、同病院では、原告政吉の私病として、アルコール性肝障害、脂肪肝が認められた。原告政吉は、同月二五日まで、同病院に入院したが、軽快したと判断され、退院した。
原告政吉は、同月二七日、共和病院に転院し、腎外傷血尿、頸椎捻挫、腰部打撲、頭部打撲の診断を受け、私病である尿管結石によつて(甲三、三頁)、同日から同年七月三日まで入院したが、原告政吉の初診時の症状は、頸項部痛、頭痛、頸椎運動制限、左上肢痺れ感、腰痛、全身の不快感、肩のしめつけ、血尿であつた。原告政吉は、尿管結石の治療の他、リハビリのため、同年七月八日から同六年四月一二日まで、同病院に通院し(実通院日数一〇四日)、同日症状固定診断を受けたが、同五年一二月の通院日数は七日、一月は二日、二、三月は各〇日、四月は後遺障害診断書の作成日一日のみであつた。原告政吉は、同五年七月九日に、右耳の聴力低下、両耳の耳鳴り、複視、吐き気、嘔吐を訴えたが、同日の森川眼科での診断では、近視性乱視(両)とのことであつて、耳鼻科での検査でも異常はなかつた。また、平成五年七月八日の腰椎レントゲンの結果では、腰椎全体に軽い変形状脊椎症(第三ないし第五腰椎)が認められ、頸椎レントゲンの結果では第四ないし第七脊椎椎体の骨棘形成、斜位で第四ないし第七頸椎の椎間孔がやや狭小していることが認められたが、経年性のもので、外傷性のものではなかつた。また、同日のMRI検査では、脳幹に異常はなかつた。また、同年九月一三日の、西眼科病院でのMRI検査では、吹き抜け骨折は確認されなかつた。原告政吉は、平成五年一二月八日時点でも、頸項部痛、頭痛を訴え、担当医に対し、塗装工であつたが、重い物を持つこと、高所に昇ること、上を見上げることができないので、就労できないとしており、頸椎牽引、温熱等のリハビリを受け、投薬を受けていた。
症状固定診断日の自覚症状は、頭痛、頸部から右肩痛、腰痛で、他に、右上肢の知覚障害を訴え、右ききであるのに、左握力が四八キログラムであるのに対し、右握力が三四キログラムで、右頸神経叢、腕神経叢の強い圧痛を訴え、腰部圧痛を訴えていた。他覚的には、坐位のラセグーでは異常はないものの、ベツドに腰掛けた場合には、右が七〇度で、左が六〇度であつた。頸椎の可動域は、屈曲が五〇度、伸展が四〇度、右側屈三五度、左側屈三〇度、右回旋五〇度、左回旋四〇度で、体幹関節前動域は屈曲が三五度、伸展が一〇度、右側屈が一五度、左側屈が一〇度、右回旋が三五度、左回旋が三五度であつた。
原告政吉は、その本人尋問において、平成七年五月二九日時点で、頸部痛、頭部痛が継続していると供述している。
2 当裁判所の判断
本件事故の態様及び原告政吉の症状の経過、特に、本件事故に基づく原告車両と被告車両の損傷状況からすると、原告政吉への衝撃は比較的軽微と推認できること、血尿については経過観察され、その後異常は認められなかつた頭部CT以外明確な他覚的所見はなく、林病院でも入院は、頭部CTの結果についての経過観察に過ぎないとされ、退院時には症状が軽快したとされたこと、共和病院は私病で入院したものであることからすると、入院については、林病院に限つて相当と認め、通院については、症状は主に自覚的なものに過ぎず、それを裏付けるものはないこと、平成六年一月に至ると、通院頻度が極度に減少していること、眼科及び耳鼻科に関しては、原告政吉の訴える症状が本件事故による傷害であつたことを裏付けるに足る証拠や間接事実は認められないことからすると、通院については、平成五年一二月までの通院を相当と認める。
三 休業損害(争点3) 六六万五七二〇円
原告政吉は、前回事故前の平成五年三月までは、塗装工として稼働し、少なくとも一月当たり三九万一六〇〇円を得ていたのに、本件事故によつて二九六日間稼働できなかつたと主張し、その裏付けとして、乙五を提出するところ、原告政吉本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告政吉は、被告側との交渉の段階では、乙五と勤務先が矛盾する甲一〇を被告側に提出していたこと、前回事故での加害者側との交渉の段階では、乙五と稼働開始時期が矛盾する甲八を加害者側に提出していたことが認められること、乙五、甲八の作成者は原告政吉の長兄ないしその妻が代表者である会社であること、甲一〇の作成者は原告政吉の兄である原告吉光であること、前記の原告政吉の症状の経過で認定のとおり、原告政吉は本件事故時にアルコール性肝障害であつたこと、原告政吉の本人尋問では、原告政吉は本件事故当時妻の経営するキムチ製造、販売業を手伝つていたとしか解し得ない部分もあること(九五項ないし一〇二項)に照らすと、乙五、原告本人尋問の結果の信用性に問題はあるものの、それは一時置くとすると、前記認定の原告政吉の症状の程度からすると、労働能力が一〇〇パーセント喪失したのは、当初の一五日間であつて、その後前記認定の症状固定日である平成五年一二月三一日までの一八〇日間は、平均して二〇パーセントの労働能力が喪失したと認めるのが相当である。したがつて、前記各証拠が信用性があると仮定した場合の休業損害は左のとおりである。
39万1600円÷30×15+39万1600円×0.2÷30×180=66万5720円
四 損害(争点4)
1 治療費 二二万七六六七円
当事者間に争いがない。
2 慰謝料 五〇万円
前記認定の原告政吉の症状、治療経過等からすると、右額が相当である。
五 損害合計 一三九万三三八七円(前記休業損害前提)
六 過失相殺、既払い金控除後の損害額及び弁護士費用
前記の休業損害を前提とすると、過失相殺後の損害は八三万六〇三二円であるところ、前記の既払い金一四九万四二六七円をこえる損害はなく、原告政吉の弁護士費用の請求も認められない。
(原告吉光の請求)
一 過失相殺(争点1)
前記第三の(原告政吉の請求)一1認定の事実によると、本件事故前、原告らは、飲酒していたことが認められるものの、本件全証拠によつても、原告政吉がどの程度飲酒しており、それが本件事故の原因となつた落度にどの程度影響したか、原告吉光が原告政吉の飲酒の事実にどの程度関与したかを特定するに足る証拠がないので、それを根拠に過失相殺することはできない。
二 原告吉光の傷害の有無、程度及び相当治療期間(争点2)並びに後遺障害の有無、程度(争点3)
1 原告吉光の症状の経過
甲二、六の1、2、一二、一三の1、2、一四ないし一七、一九の1、2二〇ないし二五、乙八ないし一〇、一三ないし二一、二三ないし二六、原告吉光本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。
原告吉光(昭和二四年九月二六日生、本件事故当時四四歳、男性)は、本件事故の二五年前、左上腕、下顎、右足背骨折で手術歴があり、五年前より痛風で内服加療中であつた。
原告吉光は、平成五年六月二〇日、本件事故直後、林病院に救急車で搬送されたが、初診時、軽度の意識障害があり、事故による打撲に起因するのか、飲酒によるものか特定できなかつたため、経過観察のため、入院することとなつたが、同月二一日には改善した。同日の頭部CT検査では損傷はなく、頸推のレントゲン撮影をし、右上肢の痺れ感を訴え、同月二二日両肩をレントゲン撮影し、頸項部痛、痺れ感(左Ⅰ、Ⅱ指)、腰痛、左肩から上腕の疼痛による挙上制限で、知覚障害はなく、反射も正常で、神経学的症状は認められなかつたが、頭部外傷Ⅰ型、頭部打撲、右肩打撲、頸椎腰部捻挫、腹部鈍的外傷疑(胃損傷疑、肝損傷疑)、左肩腱板損傷との診断を受け、私病として肝障害が認められたものの、その加療は拒否し、安静で経過観察する旨判断され、同日、同病院では約七日間の通院加療(うち三日間の入院加療)を要すると診断され、同月二三日の腹部CT検査では、肝臓全体に低吸収域が認められ、軽度脂肪変性と判断され、同月二五日、軽快して退院した。原告吉光は、同月二六日から同六年六月一四日まで同病院に通院し、リハビリ等の治療を受け、同日症状固定の診断を受けた(実通院日数一三二日間)ところ、平成五年八月までは診療日にはほとんど毎日通院し、同年一二月までは月一〇日以上通院していたものの、同六年一月は九日、二月は五日しか通院せず、同月二五日の後は、同年六月一四日まで通院しなかつた。原告吉光の通院中である平成五年六月二八日のレントゲンによると、第六、第七頸推間及び第五腰椎仙骨間に骨棘等の加齢的変化があり、左肩で軋音が認められ、ドロツプアームテストは異常で、同月二九日には、林病院は、本件事故時から五日間の入院加療及び約一五日間の通院加療が必要と判断しており、同年七月二日左示指の痺れ、神経根症状を訴え、同月五日左頸項部から左肩の疼痛を訴え、同月一七日関節造影検査を行なつたが、関節包の損傷は認められず、同年八月初旬に左肩の装具を購入した。原告吉光の平成五年八月二六日の症状は、頸項部痛、左肩から上腕の疼痛による挙上制限であつて、林医師は、同月、日常動作にはほとんど支障がないとの回答を得たため、就労を指示したものの、左上肢の挙上制限を訴えるため、塗装業という職業上就労制限があるので、平成五年九月頃まで就労制限があり、そのころ症状固定の見込であると判断した。しかし、林医師は、平成五年九月四日には、リハビリを中心に保存的に加療しているが、原告吉光が左上腕の可動域制限、後頸部痛、頭痛を依然として訴えるため、就労は不可能とも判断していた。原告吉光の、症状固定日の症状は、自覚症状が左肩痛、就業に支障大、肩凝り症状著明で、精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果としては、知覚反射は異常が認められず、握力が右三二キログラム、左二〇キログラムで、左肩の可動域制限が認められる(屈曲他動右一七〇度、左一三五度、自動右一五〇度、左一二五度、伸展他動右七〇度、左六〇度、自動右四五度、左三五度、外転他動右一六〇度、左一五〇度、自動右一三五度、左一一五度、内転他動左右とも四五度、自動左右とも四〇度、外旋他動右九〇度、左八五度、自動右五五度、左四〇度、内旋他動自動とも、左右とも八〇度、水平屈曲他動右一三五度、左一二〇度、自動右一二〇度、左一一五度、水平伸展他動右二〇度、左二五度、自動右一五度、左二〇度)ものの、肩関節造影では造影剤の漏出は認められず、腱板損傷像があり、左肩レントゲンでは骨変形は認められなかつたとのことであつた。
なお、自賠責調査事務所は、左肩には、既存の経年性変形性関節症が見られる他は、特に外傷による異常は認められないとしている。
2 当裁判所の判断
本件事故の態様及び原告吉光の症状の経過、特に、本件事故に基づく原告車両と被告車両の損傷状況からすると、本件事故の衝撃は比較的軽微と推認できること、入院したのは意識喪失が飲酒によるものか頭部外傷によるものか特定できなかつたことによる経過観察に過ぎず、それが飲酒によるものであることは、翌日の経過から判明し、林病院も、事故の翌々日である平成五年六月二二日時点では入院期間は三日であるとの判断をしていたこと、頭頸部痛以外で、長期間症状が残存している左肩に関しては、腱板損傷による可能性もあるものの、その損傷が本件事故によるものであることを裏付けるに足る証拠はなく、かえつて、本件事故の衝撃の程度からは、それが本件事故によるものでなく既往の私病である疑いもあること、前記認定の通院経過からすると、平成六年二月二五日以降三か月以上通院が途絶えていることからすると、原告吉光の本件事故に基づく相当入院期間は三日であり、相当通院期間は平成六年二月二五日までと認めるのが相当であつて、後遺障害として原告吉光の主張する左肩の障害については、本件事故による蓋然性の立証はないから、結局、認められない。
三 休業損害(争点4) 五二万円
甲一一、乙一二、原告吉光本人尋問の結果によると、原告吉光は、本件事故前は塗装工として稼働し、平成五年三月から五月まで月平均して五二万円の給与を得ていたと認められるところ、前記認定の症状の経過、特に、原告吉光が強く訴えていた左肩の症状と本件事故との因果関係の立証がないこと、平成五年八月二六日時点の担当医の判断からすると、相当入院期間である三日間にある程度自宅での療養期間を見込んだ半月は労働能力が一〇〇パーセント喪失し、その後、平成五年八月当初までの一か月は労働能力が五〇パーセント喪失したと認めるのが相当である。したがつて、左のとおりとなる。
52万円×0.5×52万円×0.5×1=52万円
四 損害(争点5)
1 治療費 二二万〇三八三円、装具代 一四万三五四八円
当事者間に争いがない。
2 入通院慰謝料 六〇万円
前記認定の原告吉光の症状、治療経過等からすると、右額が相当である。
3 後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料
後遺障害が認められない以上、認められない。
五 損害合計 一四八万三九三一円
六 既払い金控除後の損害 二一万四〇三一円
五記載の損害額から、前記既払い金一二六万九九〇〇円を控除すると、二一万四〇三一円となる。
七 弁護士費用 五万円
本件訴訟の経緯、認容額等に照らすと、右額が相当である。
(結語)
よつて、原告政吉の請求は、理由がなく、原告吉光の請求は、二六万四〇三一円及びこれに対する本件事故日の後である平成六年二月二三日から支払い済みに至るまで、民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 水野有子)
別紙図面