大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1975号 判決 1997年1月30日

大阪府南河内郡美原町小平尾一二四番地の一

原告

カウゼル株式会社

右代表者代表取締役

西田起夫

大阪府南河内郡美原町さつき野西一丁目二番地の一五

原告

西田起夫

右両名訴訟代理人弁護士

土井廣

筒井豊

右輔佐人弁理士

森脇康博

和歌山県海南市小野田二五八番地

被告

アイセン工業株式会社

右代表者代表取締役

筈谷順彦

右訴訟代理人弁護士

岡田春夫

細川喜子雄

竹原大輔

右訴訟復代理人弁護士

小池眞一

右輔佐人弁理士

北村修

鈴木崇生

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙物件目録(一)記載の物件を輸入し、販売してはならない。

二  被告は、原告カウゼル株式会社に対し、金八三一万円及びこれに対する平成六年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告らの権利

(一) 原告西田起夫(以下「原告西田」という。)は次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、実用新案登録請求の範囲第(1)項の登録実用新案を「本件考案」という。)を有しており(争いがない。)、原告カウゼル株式会社(以下「原告会社」という。)は、本件実用新案権について原告西田から通常実施権(以下「本件通常実施権」という。)の許諾を受けている(弁論の全趣旨)。

考案の名称 たわし

登録番号 第一九七四五三四号

出願日 昭和六一年七月七日(実願昭六一-一〇四六六七)

出願公告日 平成四年八月七日(実公平四-三三一一四)

登録日 平成五年七月一四日

実用新案登録請求の範囲

「(1) 天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1を織成又は網状に編成してたわし生地となし、このたわし生地を二つ折り又は二重に重ねて袋たわし30としてなるものにおいて、袋たわし30を構成する繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなることを特徴とするたわし。

(2) 金属膜をコーティングした繊維条1で形成された袋たわし30の中に、板状のスポンジ体40を封入してなる前記実用新案登録請求の範囲第1項記載のたわし。」(別添「実用新案公報<1>」〔甲第二号証。以下「公報<1>」という。〕参照)

(二) 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、左記のとおりの構成要件に分説するのが相当である(甲第二号証)。

A 天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1を織成又は網状に編成してたわし生地となし、

B このたわし生地を二つ折り又は二重に重ねて袋たわし30としてなるものにおいて、

C 袋たわし30を構成する繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる

D ことを特徴とするたわし。

(三) 本件考案の奏する作用効果について、本件考案の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)には、次のとおり記載されている(甲第二号証)。

本件考案は上述のように、袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングして設けたので、袋たわし30は、細い繊維の一本一本に金属膜5が施されて繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら金属のもつ研磨力が附加されて従来の袋たわしにはみられない広い用途に使用できるとともに、金属膜でありながら、きわめて薄い為に繊維の特性が失われず、引張り、屈曲に対する強度が大であり、その為添え糸等を要しないで織物等を容易に形成できるので、製作加工が迅速且つ容易に行われ、安価に提供できるものである。袋の口4が開放している場合は、そこから手を差し入れて平手でこするようにたわしを使用できる。内部にスポンジを入れたたわしではスポンジの吸水性、保水性が高められる(公報<1>3欄22行ないし4欄14行)。

2  原告会社によるたわしの製造販売

原告会社は、「ルースター」等の商品名でたわし(検甲第一号証の1・2)を製造、販売している(弁論の全趣旨。以下「原告製品」という。)。

3  被告の行為

被告は、平成四年一一月頃から、大韓民国の業者が製造した別紙イ号図面及び「イ号物件寸法図」のたわし(検甲第二号証の1・2の内容物)を輸入し、販売している(争いがない。以下「イ号物件」という。)。

なお、イ号物件の構造の説明については、原告らは別紙物件目録(一)の「三 構造の説明」記載のとおり主張し、被告は別紙物件目録(二)の「三 構造の説明」記載のとおり主張しており、当事者間に争いがある(この点については、後記第四の一において判断する。)。

4  原告西田が有していた本件実用新案権に先行する実用新案権

なお、原告西田は、本件実用新案権に先行する左記の実用新案権(以下「先行実用新案権」といい、その登録実用新案を「先行考案」という。)を有していたが、先行実用新案権は、平成四年一〇月四日の経過によりその存続期間が終了した(争いがない。)。

登録番号 第一四九四七四九号

考案の名称 たわし

出願日 昭和五四年三月一九日(実願昭五四-三五九一六)

出願公開日 昭和五五年九月二九日(昭五五-一三六四四三)

出願公告日 昭和五七年一〇月四日(昭五七-四四九四二)

実用新案登録請求の範囲

「 軟質プラスチックシートの面にアルミ蒸着等の金属膜を設けてなるフィルムテープを、少くともそれより強度の高い繊維糸を添え糸に一緒に織成又は編成して平布地としてなるたわし。」(別添「実用新案公報<2>」〔乙第二号証。以下「公報<2>」という。〕参照)

後記のとおり、原告らは、原告製品もイ号物件も本件考案を実施した製品であると主張し、被告は、いずれも本件考案ではなく、先行考案の実施品であると主張する。

二  原告らの請求

原告らは、<1>イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するから、被告によるイ号物件の輸入販売は本件実用新案権を侵害するものである、また、<2>原告製品の形態は原告会社の商品表示として周知性を取得しているところ、イ号物件の形態は原告製品の形態と酷似し、その販売により原告製品と混同を生じさせている(不正競争防止法二条一項一号)と主張して、

原告西田において、本件実用新案権に基づきイ号物件の輸入販売の停止を求めるとともに、原告会社において、不正競争防止法三条に基づきイ号物件の輸入販売の停止を求め、かつ、民法七〇九条、実用新案法二九条一項(類推適用)又は不正競争防止法四条、五条に基づき、原告会社の被った損害の賠償として金八三一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年三月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

三  争点

1  イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか。

2  原告製品の形態は、原告会社の商品表示として周知性を取得しているか。

3  イ号物件の形態は、原告製品の形態と類似し、その販売により原告製品と混同を生じさせているか。

4  被告が損害賠償責任を負う場合に、原告会社に賠償すべき損害の額いかん。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか)について

【原告らの主張】

1 イ号物件の構成は、別紙物件目録(一)の「三 構造の説明」記載のとおりであるところ、以下のとおり、本件考案の構成要件を充足し、かつ、本件考案の作用効果と同一の作用効果を奏するから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。

なお、被告主張の別紙物件目録(二)の「三 構造の説明」aでは、「細幅のポリエステル扁平糸」を「幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面を持つ扁平なポリエステル素材」と表現しているが、そもそも、強制執行において執行官又は執行裁判所が強制執行の対象を特定できるようにするという物件目録の機能からして、厚さ約二七ミクロンという極めて微小な数値で特定することは、判断が困難であり、誤差の範囲も不明確であるから、無意味であり、また、「素材」という表現だけでは対象物の形状の特徴が全く不明であるから、イ号物件の特定として適切でない。

(一) イ号物件の構成a「第3図及び第4図のように、細幅のポリエステル扁平糸<3>を、ナイロン集合糸<1>、<2>を編んだ生地に係合させるようにして、網状に編成してたわし生地を形成する。」は、本件考案の構成要件A「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1を織成又は網状に編成してたわし生地となし」を充足する。

(1) 被告は、イ号物件においてたわし生地を編成するポリエステル扁平糸<3>(被告の呼称:ポリエステル素材)は、極薄のフィルムであり、かつ、細い幅のテープであるから、本件考案の構成要件A及びCにいう「繊維条」には該当しないと主張するが、一般に、繊維とは細くて長い物質であって、その長さが太さに比べて十分に長いものを意味するから、極薄で細幅のフィルムテープ状のものであっても、「繊維」と解することは可能である。逆に、被告の主張のように「扁平糸」と極薄かつ細幅の「フィルムテープ」とを明確に区別しうる科学的、実用的な「繊維」の定義は存在しない。

(2) また、被告は、本件考案は、従来技術が持つ問題点(強度的に弱く、織成又は編成の際の加工が難しい。)を解決すべき課題とするものであるところ、イ号物件がたわし生地の材料に使用するポリエステル扁平糸<3>(被告の呼称:ポリエステル素材)は、強度的に弱く、織成又は編成の際の加工が難しいという、本件明細書記載の問題点を有する従来技術そのものであるから、その問題点を解決するところの本件考案にいう「繊維条」に含まれない旨主張する。

しかし、本件明細書には、従来技術に関して、ビニール等合成樹脂のフィルムテープに金属蒸着を施したものはその母材となるフィルムテープが強度的に弱く耐久性に欠け、加工が難しい(公報<1>1欄22行ないし2欄3行)との記載がある一方で、ポリエステル、レーヨン、ナイロン等の化学繊維からなる、扁平な繊維条の表面に極めて薄い金属コーティングを施したものが本件考案の繊維条1に含まれること(同3欄10行ないし20行)が明確に記載されている。しかも、本件明細書には、後者の化学繊維からなる扁平な繊維条が従来技術の問題点(母材となるフィルムテープの強度的な弱さ、耐久性の欠如等)を解決した手段について、扁平な繊維条に施した金属コーティングが挙げられていない(金属膜は極めて薄いうえ、これによって繊維条の強度を補強するというような記載は全くない。)。

以上のような本件明細書の記載からすると、本件明細書において実質的に従来技術として挙げられているのは、ビニール等合成樹脂のフィルムテープに金属蒸着を施したものであって、かつ、その母材となるフィルムテープが強度的に弱く耐久性に欠け、加工が難しいようなもの、換言すれば、強度が弱いために「添え糸」を用いなければたわし生地として織成又は編成ができないようなものであると解すべきである。したがって、これとは反対に、「添え糸」なしにたわし生地の織成又は編成ができるような強度を持った「合成樹脂のフィルムテープ」は、その形状等から扁平な繊維と認めることができる限り、本件考案の繊維条に該当するということができる(前記のとおり、「扁平糸」と極薄かつ細幅の「フィルムテープ」とを明確に区別しうる科学的、実用的な「繊維」の定義は存在しないから、その形状によって「合成樹脂のフィルムテープ」を扁平な繊維条と称することは十分可能である。)。

そして、イ号物件のたわし生地は「添え糸」なしに編成されているのであるから、アルミニウム蒸着が施されたイ号物件のポリエステル扁平糸は、強度的に弱くもなければ耐久性に欠けることもなく、加工の困難性もないことが明らかであり、前記の従来技術にいう「合成樹脂のフィルムテープ」には該当しない。

被告は、イ号物件におけるナイロン集合糸<1>が添え糸に当たるとするが、別紙イ号図面によれば、ナイロン集合糸<1>は、決してポリエステル扁平糸<3>と「一緒に」ナイロン集合糸<2>間にわたって編成されていないことが明らかである。ナイロン集合糸<1>が被告主張のように真にポリエステル扁平糸<3>の強度を補強するための「添え糸」であれば、終始一貫して、ポリエステル扁平糸と「一緒に」編成されているはずであるから、イ号物件のナイロン集合糸<1>がポリエステル扁平糸<3>と終始一貫して一緒に編成されていないということは、ナイロン集合糸<1>は何らポリエステル扁平糸<3>の強度を補強する「添え糸」としての作用を果たしていないことになり、ナイロン集合糸<1>は、「添え糸」についての被告自らの定義にも該当しない。

被告が検乙第六、第七号証を援用して主張するところは、いずれも被告の主観的判断の域を出ないものである。仮にそのたわしとしての実用的強度に多少のばらつきがあるとしても、それだけでイ号物件のポリエステル扁平糸が「繊維条」に当たらないと解することはできない。

(3) 被告は、イ号物件は「しなやかさ」及び「吸水性」を有しないフィルムテープからなり、かつ強度的に弱いためにナイロン集合糸<1>を添え糸として併用しなければ編地を編成できないから、作用効果の点からみてもイ号物件のポリエステル扁平糸<3>(被告の呼称:ポリエステル素材)は本件考案の「繊維条」に該当しない旨主張するが、右(2)のとおり、イ号物件のナイロン集合糸<1>はそもそも「添え糸」に該当しないし、イ号物件のポリエステル扁平糸<3>が繊維としての「しなやかさ」(金属線よりなる金属たわしとの対比における「しなやかさ」で足りる。)を有することは明らかであり、そのポリエステル扁平糸<3>の一本一本には吸水性がないとしてもその集合体であるたわし生地に吸水性がある(本件考案の「繊維条1」も、それがポリエステル、レーヨン、ナイロン等の化学繊維である場合は、化学繊維の一本一本は、特殊な加工をしない限り、それ自体吸水性を有するものではなく、これを集合させたものが吸水性を発揮するのである。)から、被告の主張は前提を欠くものである。

(二) イ号物件の構成c「前記ポリエステル扁平糸は、その一本一本の表面(片面)に薄いアルミニウム膜がコーティングされている。」は、以下のとおり、本件考案の構成要件C「袋たわし30を構成する繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」を充足する。

(1) 本件考案の構成要件Cにいう「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」とは、必ずしも繊維条1の表面の全面に金属膜をコーティングすることを意味するものではなく、例えば扁平糸の場合に、その表裏全面に金属膜をコーティングしたもののみが右構成要件を充足すると解する必要はない。なぜなら、本来、イ号物件のように扁平糸を編成したたわし生地においてたわしとしての機能を果たすのは、その両面ではなく、食器等に当接する片方の面のみであると考えられ、そうすると、必ずしもその両面に金属膜をコーティングする必要はないし、本件考案の構成要件Cの「繊維一本一本の表面」との記載を「繊維一本一本の表面の全面」というように限定して解すべき合理的根拠はないからである。

(2) 被告は、この点について、繊維一本一本の表面の全面に薄い金属膜をコーティングしたものに限られると解すべきである旨主張し、その根拠として、本件考案の出願経過ないし包袋禁反言の原則を主張するが、理由がない。

(イ) 本件考案の出願についての平成元年五月二六日付拒絶理由通知(乙第一号証の2)に対する同年九月二九日付意見書(同号証の4。以下「本件意見書」という。)において、原告西田は、引例1すなわち先行考案の特徴として、<1>合成樹脂のフィルムテープの面にアルミ箔又は銅等の金属膜を設けたものを素材にして袋たわしを形成したこと、<2>金属膜は片面のみであり、かつ、プラスチックのフィルム基材が芯となるものではないこと、<3>これに用いられる繊維の糸はフィルムテープが強度的に弱いため添え糸として用いられるものであることの三点が認められ、かつ、右の<1>ないし<3>の特徴を総合したものと本件考案とを対比した場合、両者の構成及び効果は異なるということを述べたのであって、被告が主張するように、例えば先行考案の<2>の特徴を取り上げて、本件考案の特定の構成要件が<2>の特徴と相違するというような意見を個別に述べたわけではない。このことは、右意見書後半の本件考案の効果に関する記載において、先行考案の<2>の特徴に関する相違が本件考案にいかなる効果をもたらすかについて、何らの記載もないことから明らかである。

被告は、原告西田本人が本件考案を登録に持ち込むため、片面にのみ金属膜の蒸着を施した素材が本件考案の構成と著しく異なることを明言し、その結果本件考案が実用新案登録を受けるに至ったと主張するが、原告西田は、本件意見書において、実質的に、先行考案は合成樹脂のフィルムテープ(すなわち、天然又は化学繊維からなる繊維条ではない。)の片面に金属膜が設けられ、かつ、そのフィルムテープが強度的に弱いために添え糸を要するものであるということを述べたにすぎないのであるから、先行考案は片面にのみ金属膜を施したものであるとの意見のみが認められた結果本件考案が実用新案登録を受けるに至ったという関係にはないことが明らかである。

原告西田は、本件意見書と同日付で手続補正書(同号証の3。以下「本件手続補正書」という。)を提出しているのであるから、仮に本件意見書の記載が被告主張のように本件考案の技術的範囲から先行考案の<2>の特徴を有するものを除外する趣旨であったとすれば、本件手続補正書において実用新案登録請求の範囲の記載をそのように補正したはずであるが、実際にはそのような補正はしていない。

(ロ) いわゆる包袋禁反言の原則について注意すべきことは、同原則により補正又は釈明前の明細書によって解される可能性のある技術的範囲を主張することができなくなるのは、その補正又は釈明の結果、拒絶理由又は実用新案登録異議の申立てが排斥されて実用新案登録がなされたという関係が認められる場合であり、右のような関係にない場合までもすべて出願人の出願経過における補正又は釈明が登録後の技術的範囲を限定するとまでは解されていないことである。特に出願人の意見の性質が釈明であるような場合に、出願人の釈明と実用新案登録との間に右のような関係がないときには、包袋禁反言の原則を適用する余地はない。

(ハ) 先行考案の「フィルムテープ」と本件考案の「繊維条」とは、前者が添え糸を必須のものとし、後者がそうでないという点が決定的な相違点であることが明らかであり、その目的、効果に重要な関連を有する母材の強度の点で根本的に相違する。

被告は、拒絶査定に対する審判請求における平成三年九月一九日付審判請求理由補充書(乙第一号証の5。以下「本件審判請求理由補充書」という。)における「金属のコーティング膜は、金属でありながら、ミクロン単位の超極薄である為に、繊維の特性が失われず、引っ張り、屈曲に対する強度も高められる。その為繊維条の状態でコーティング膜を施す場合は、たわし生地に織成或いは編成の際にも添え糸を用いないで簡単容易にたわし生地を形成でき」るとの記載は、金属膜が繊維条の強度を補強することを述べたものとしか読むことができない旨主張する。しかし、右記載を素直に読めば、「ミクロン単位の超極薄である」金属のコーティング膜が、金属のコーティング膜のない状態よりも繊維条の強度を高めると述べているのでないことは明白であり、むしろ、合理的に理解すれば、金属のコーティング膜が施されても、それが超極薄であるために繊維の特性が失われず、繊維条としての強度を保つという趣旨を述べたものであることが明らかである。

また、被告は、本件審判請求理由補充書には母材を変えることにより強度を高めたという趣旨のことは一言も記載されていないと主張するが、これは、逐語的に書かれていないことはすべて否定すると主張しているに等しいのであって、先行考案と本件考案との比較から合理的に判断できる事項までも否定するのは誤りである。

(二) そもそも、先行考案の実用新案登録請求の範囲には「軟質プラスチックシートの面にアルミ蒸着等の金属膜を設けてなるフィルムテープを、少くともそれより強度の高い繊維糸を添え糸に一緒に織成又は編成して平布地としてなるたわし。」と記載されており、「片面」という限定はないのであるから、先行考案の明細書の客観的な解釈からすれば、その技術的範囲は、必ずしも軟質プラスチックシートの片面にのみアルミ蒸着等の金属膜を施したフィルムテープに限定されないことは明らかであり、軟質プラスチックシートの両面にアルミニゥム蒸着等の金属膜を施したフィルムテープもその技術的範囲に属すると解することは十分に可能である。

右のような解釈は、同一の出願人である原告西田が本件考案に関する本件意見書において述べた「引例1・・・においては・・・金属膜はフィルムの片面のみであり」との意見と矛盾するかのようであるが、実用新案登録出願等の願書に添附した明細書はその性質上権利文書であり、その権利範囲の解釈は本来客観的であるべきものであって、出願人の主観的解釈のみが絶対的なものというわけではないことに鑑みれば、必ずしも原告西田の右意見と先行考案についての前記客観的解釈とが矛盾すると解する必要はない。

そして、原告西田は、本件手続補正書及び本件意見書において「・・・その為添え糸等を要しないで、織物等を容易に形成できる・・・」と記載し、本件審判請求理由補充書において「その為繊維条の状態でコーティング膜を施す場合は、たわし生地に織成或いは編成の際にも、添え糸を用いないで、簡単容易にたわし生地を形成でき・・・」と記載しており、本件考案が添え糸を要しない点で先行考案と決定的に異なることを述べ、それが認められて実用新案登録を受けるに至ったものである。

(3) 本件明細書の記載を根拠とする被告の主張も、以下のとおり理由がない。

登録実用新案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり、実施例に限定される理由はないのであるから、本件明細書に記載された本件考案の実施例に基づいて本件考案の技術的範囲を限定して解釈しようとする被告の解釈は本末転倒である。

また、「芯」という語(あるいはその同義語としての「心」)には、被告主張の「真ん中、中心にあるもの」という意味以外にも、「本体」、「基礎」(角川国語辞典)という意味もあるのであって、「芯」が中心にあるものを意味するとしても、その「中心」とは位置的な意味に限って解釈しなければならない理由はなく、機能的にあるいは構造的に「中心にあるもの」というような意味に解することも十分に可能である。イ号物件のように、ポリエステル扁平糸の厚さが約二七ミクロンであって、アルミニゥム蒸着膜の厚さが五〇〇オングストローム(=0・〇五ミクロン)という極めて薄いものである場合に、右の蒸着膜に対して「本体」又は「基礎」(あるいは構造的に「中心にあるもの」)という意味で、ポリエステル扁平糸を「芯体」と表現することは何ら不合理ではない。

2 原告会社が原告製品の製造販売を開始したのは、本件考案の出願日である昭和六一年七月七日以降のことであるから、本件考案の実用新案登録に被告主張の無効事由は存しない。

(一) 原告会社が本件考案の出願前に製造販売していた製品(包装を除いたもの。以下「原告旧製品」という。)は、「ラメ織り込みスポンジ入りたわし」(後記二【原告会社の主張】1(一))としての外観、形態は原告製品と極めて類似しているが、構造的には原告製品と全く異なるものであった。すなわち、原告旧製品のたわし生地は、原告製品と同様にアルミニゥム蒸着膜を設けた扁平糸及びナイロン集合糸を編んだものであるが、その具体的構成は別紙「原告旧製品」のとおりであり、アルミニゥム蒸着膜を設けた扁平糸とナイロン集合糸からなるヨコ糸とが終始一緒に織られており、このヨコ糸は先行考案にいう「添え糸」に相当するものである(被告援用の乙第一五号証の1ないし20にも、被告の販売する「ポリッシュスポンジ」の包装を除いた製品自体の外観、形状が昭和六〇年以前より今日に至るまで変わりがないと記載されているだけであって、それが構造的にも原告製品と同じであるか否かについては何ら触れられていない。)。

(二) 被告は、昭和六一年の原告製品の販売数量が八〇万個であることを根拠に、単純な計算から原告会社が原告製品を少なくとも昭和六一年当初より製造販売していたことが裏付けられるとするが、原告製品は従来品に比べてその繊維条及び金属蒸着面の強度の点で向上したこと、この種の「ラメ織り込みスポンジ入りたわし」は、当時、国内では原告会社が独占的に製造、販売していたうえ、原告会社がその販売開始後に集中的な宣伝を行ったことから、原告製品の販売を開始した昭和六一年七月七日以降同年末までに八〇万個を販売することができたものである。

【被告の主張】

1 イ号物件の構成は、別紙物件目録(二)の「三 構造の説明」記載のとおりであるところ、以下のとおり、本件考案の構成要件A及びCを充足しないし、本件考案と同一の作用効果も奏しないから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。

(一) イ号物件は、本件考案の構成要件A及びCにいう「繊維条」を具備しない。

(1) まず、イ号物件においてたわし生地を編成するポリエステル素材<3>(原告らの呼称:ポリエステル扁平糸)は、極薄のフィルムであり、かつ、細い幅のテープであるから、本件考案の構成要件A及びCにいう「繊維条」には該当しない。

(2) 本件明細書によれば、本件考案は、強度的に弱いために織成又は編成する際にも加工が難しくコスト高になるという問題があるフィルムテープをたわし生地に使用する袋たわし、すなわち金属膜を蒸着した合成樹脂フィルムテープを使用する従来技術が持つ問題点(強度的に弱く、織成又は編成の際の加工が難しい。)を解決すべき課題とするものであるところ、イ号物件がたわし生地の材料に使用するポリエステル素材<3>は、強度的に弱く、織成又は編成の際の加工が難しいという、本件明細書記載の問題点を有する従来技術そのものであるから、その問題点を解決するところの本件考案にいう「繊維条」に含まれない。すなわち、イ号物件は、先行考案を実施したものであって、縦糸であるナイロン集合糸<2>とポリエステル素材<3>とによってたわし生地を編成し、それに添え糸として第三のナイロン集合糸<1>を編み込むことによって、ポリエステル素材<3>を補強している。

(3) また、本件考案の作用効果について、本件明細書において、「たわし生地」に使用される素材が従来のアルミニゥムを蒸着した「フィルムテープ」ではなく、「繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングした繊維条」であることによる作用効果として、殊に「繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら金属のもつ研磨力が附加され」(公報<1>4欄2行ないし3行)、「繊維の特性が失われず、引張り、屈曲に対する強度が大であり、その為添え糸等を要しないで織物等を容易に形成できるので、製作加工が迅速且つ容易に行われ、安価に提供できるものである。」(同欄6行ないし10行)と強調されている。これに対して、イ号物件は、「繊維の特性」として本件考案にいう「しなやかさ」及び「吸水性」を有しないフィルムテープ(ポリエステル素材<3>)からなり、かつ強度的に弱いために、強度的に強いナイロン集合糸<1>を添え糸として併用しなければ編地を編成することができないから、作用効果の点からみても、イ号物件のポリエステル素材<3>は本件考案の「繊維条」に該当しない。

(4) 原告は、ナイロン集合糸<1>は、添え糸に該当しないと主張する。しかし、添え糸とは、それより強度の劣る物の強度を補強するために添える糸と解すべきところ、検乙第五号証(イ号物件にたわし生地として用いている生地そのもの)と検乙第六号証(ナイロン集合糸を用いずに、片面にのみ金属膜コーティングをしたポリエステル素材のみで編成したもの)とを実際に手で持って広げたり引っ張ったりして比べてみれば、検乙第六号証のものは到底たわし生地としての実用に耐えうるものでないことは誰の目にも明らかであるし、検乙第七号証(一枚の布地中でナイロン集合糸を用いた部分と用いない部分を作製したもの)でも、ナイロン集合糸を用いない部分の強度は、力を入れて引っ張れば破れる程度のものであり、ナイロン集合糸を用いた部分でなければ家庭用たわしとしての強度に欠けることは歴然としており、このようにイ号物件のポリエステル素材は引っ張り強度が極端に劣るため、それより強度の高いナイロン集合糸<1>がその強度を補強するべく、ポリエステル素材と一緒に、縦糸であるナイロン集合糸<2>間にわたって編成されているのであるから、ナイロン集合糸<1>は添え糸に該当するというべきである。

(二) 本件考案の構成要件Cにいう「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」とは、以下のとおり、本件考案の出願経過、本件明細書の記載に照らし、繊維一本一本の表面の全面に薄い金属膜をコーティングしたものに限られると解すべきであるから、ポリエステル素材<3>の片面にのみ金属膜がコーティングされているイ号物件は、本件考案の構成要件Cを充足しない。

(1) 本件考案の出願経過ないし包袋禁反言

(イ) 本件考案の出願経過について、先行考案をいわゆる引用例の一つとしてなされた平成元年五月二六日付拒絶理由通知(乙第一号証の2)に対し、出願人である原告西田は、先行考案の「フィルムテープ」と本件考案の「繊維条」との差異を強調するため、同年九月二九日付本件手続補正書(同号証の3)をもって、出願当初の明細書(同号証の1)中の考案の詳細な説明の欄の「作用及び効果」の項につき、「袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングして設けたので、袋たわし30は、細い繊維の一本一本に金属膜5が施されて繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら金属のもつ研磨力が附加されて従来の袋たわしにはみられない広い用途に使用できるとともに、金属膜でありながら、きわめて薄い為に繊維の特性が失われず、引張り屈曲に対する強度が大であり、その為添え糸等を要しないで織物等を容易に形成できるので、製作加工が迅速且つ容易に行われ、安価に提供できるものである。」と補正して、新たに右の作用効果を追加し、もって先行考案との効果上の差異を明らかにした。

同時に、原告西田は、同日付の本件意見書(同号証の4)において、「引例1(実公昭五七-四四九四二号公報)は、本願人の考案に係るものであるが、この引例においては、合成樹脂のフィルムテープの面にアルミニゥム箔又は銅等の金属膜を設けたものを素材にして袋たわしを形成したものであり、金属膜はフィルムの片面のみであり、且つプラスチックのフィルム基材が芯となるものではなく、又これに用いられる繊維の糸は、フィルムテープが強度的に弱い為に添え糸として用いられるものであって、本願考案のたわしとは、構成並びに作用が著るしく異なるものである。」と明言した。

更に、原告西田は、平成三年九月一九日付本件審判請求理由補充書(同号証の5)において、「引用例1に記載の考案は、本請求人(本願人、考案者)の考案に係るもので、その要旨は合成樹脂のフィルムからなるテープの片面にアルミ等の金属膜を蒸着により施したものを材料にしてたわしを形成したものであるから繊維の一本一本にコーティングにより金属のコーティング膜を施すものとは実用新案としての具体的構成が根本的に異なるものである。」として、重ねて先行考案と本件考案との根本的な差異が金属膜コーティングが片面であるか否かにあることを強調した。

右の出願経過からすると、原告西田本人が、本件考案を登録に持ち込むため、片面にのみ金属膜の蒸着を施した素材が本件考案の構成と著しく異なることを明言し、その結果本件考案が実用新案登録を受けるに至ったのであるから、本件訴訟において片面にのみ金属膜をコーティングした素材も本件考案の構成要件を充足すると主張することは包袋禁反言の原則に反し許されない。

(ロ) 前記の本件意見書の記載について、原告らは、原告西田は先行考案の特徴として、<1>合成樹脂のフィルムテープの面にアルミ箔又は銅等の金属膜を設けたものを素材にして袋たわしを形成したこと、<2>金属膜は片面のみであり、かつ、プラスチックのフィルム基材が芯となるものではないこと、<3>これに用いられる繊維の糸はフィルムテープが強度的に弱いため添え糸として用いられるものであることの三点が認められ、かつ、右の<1>ないし<3>の特徴を総合したものと本件考案とを対比した場合、両者の構成及び効果は異なるということを述べたのであって、例えば先行考案の<2>の特徴を取り上げて、本件考案の特定の構成要件が<2>の特徴と相違するというような意見を個別に述べたわけではなく、先行考案は片面にのみ金属膜を施したものであるとの意見のみが認められた結果本件考案が実用新案登録を受けるに至ったという関係にはない旨主張する。

しかし、本件考案は「天然又は化学繊維からなる繊維条」の一本一本の表面に金属膜をコーティングした素材で構成したたわしであるから、右<1>の点は先行考案と本件考案との相違点とはならない。そうであるとすれば、先行考案と本件考案との差異は、右<2>の金属膜の範囲が片面か否かという点と<3>の添え糸を用いるか否かという点に尽きることは歴然としている。本件考案が結果的に登録を受けるに至ったのは、先行考案との間に右<2>及び<3>の差異があると特許庁が認めたからであるとしか考えられない。

(ハ) 原告らは、本件考案の「繊維条」と先行考案の「フイルムテープ」とは、その目的、効果に重要な関連を有する母材の強度の点で根本的に相違するとして、あたかも本件考案の中心的な特徴は母材の強度にあるかのように主張する。しかしながら、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条」としか記載されておらず、考案の詳細な説明にも「袋たわし30を構成する繊維条1は化学繊維又は天然繊維の何れでもよく、化学繊維の場合はポリエステル、レーヨン、ナイロン等が用いられる。」と記載されているのみであり、この程度の特定しかなされていないのに、母材の強度こそが本件考案の中心的特徴であるとするのは無理があること、本件審判請求理由補充書における「金属のコーティング膜は、金属でありながら、ミクロン単位の超極薄である為に、繊維の特性が失われず、引っ張り、屈曲に対する強度も高められる。その為繊維条の状態でコーティング膜を施す場合は、たわし生地に織成或いは編成の際にも添え糸を用いないで簡単容易にたわし生地を形成でき」るとの記載は、金属膜が繊維条の強度を補強することを述べたものとしか読むことができないこと、また、同補充書には、母材を変えることにより強度を高めたという趣旨のことは一言も記載されていないことを総合すると、原告らの主張は金属膜蒸着の範囲という自らに不利な中心論点から目をそらせるための主張としか考えられない。

(ニ) 更に、原告らは、先行考案の明細書の客観的な解釈からすれば、その技術的範囲は必ずしも軟質プラスチックシートの片面にのみアルミニウム蒸着等の金属膜を施したフイルムテープに限定されないことは明らかである、とまで主張するが、もしそうであるなら、原告西田は、客観的に明らかな解釈と相反する解釈(先行考案の金属膜蒸着の範囲はフィルムテープの片面にのみ施されること)を繰り返し主張して本件考案につき実用新案登録を受けたということになる。

(2) 本件明細書の記載

本件明細書に実施例として示されている「繊維条」には、断面が円形のもの(第6図)、長方形のもの(第7図)があるが、いずれについても、表面全体に金属膜が施されている。

このことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載において「芯体」という文言を用いている以上当然の帰結である。文理解釈上「芯」とは、「真ん中、中心にあるもの」を意味し(講談社「日本語大辞典」)、フイルムテープの片面(すなわち、断面視において長方形の四辺のうち長辺の一辺)のみの部分に金属膜を施したにすぎないポリエステル素材が「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」という本件考案の構成要件Cを充足しないことは、あまりに明白である。

2 本件考案の実用新案登録には、以下のとおり明白な無効事由があるから、その技術的範囲は本件明細書記載の実施例(金属膜が繊維の表面に全面的にコーティングされているもの)に限定して解釈すべきであり、したがって、アルミニゥム膜がポリエステル素材の片面にしかコーティングされていないイ号物件は、この点からも本件考案の技術的範囲に属しない。

(一) 原告らは、原告製品は先行考案ではなく本件考案の実施品であると主張するが、もしそうであれば、原告製品は、遅くとも昭和六〇年以前から原告会社によって販売されていた(被告自身、従前、原告製品を原告会社から購入していたものであり、それが遅くとも昭和六〇年に遡ることは明らかである。乙第一号証の1ないし20)から、本件考案は、実用新案登録出願(昭和六一年七月七日)前に日本国内において公然実施をされた考案(実用新案法三条一項二号)に該当することが明白であり、したがって、本件考案の実用新案登録には明白な無効事由があることになる。

(二) 原告らは、原告会社が原告製品の製造販売を開始したのは本件考案の出願日である昭和六一年七月七日以降であると主張するが、原告製品の販売数量についての原告会社の主張(後記二1(二)(1))によれば、原告製品の販売開始が昭和六一年七月七日とすると、昭和六一年の八〇万個は、年間ベースではその二倍の一六〇万個ということになり、その後の販売数量の推移からして極めて不自然であるから、このことからも、原告会社が原告製品を少なくとも昭和六一年当初より製造、販売していたことが裏付けられる。

二  争点2(原告製品の形態は、原告会社の商品表示として周知性を取得しているか)について

【原告会社の主張】

1 原告製品の外観、形態は、少なくとも取引業者の間では、遅くとも平成三年末頃までには原告会社の商品表示として周知性を取得している。

(一) 原告製品の形態は、全体として略扁平な直方体の形状で、縦約一四センチメートル、横約九・五センチメートル、厚さ約ニセンチメートルであり、全体的な色彩が金色又は銀色であって(甲第七号証)、金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けた約一ミリメートル幅のポリエステル扁平糸をナイロン集合糸を編んだ生地に係合させるようにして網状に編成してたわし生地を形成し、このたわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成したうえ、その中に板状のスポンジを封入しているというものである。

右の形態を有する原告製品の外観上の最も大きな特徴は、(ほぼ無色に近いナイロン集合糸を編んだ生地に係合させられた)金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けたポリエステル扁平糸によって網状に編成されたたわし生地面の持つ金属的光沢の点にある(原告会社では、この点に着目して原告製品を「ラメ織り込みスポンジ入りたわし」と称している。)。元来、合成樹脂の繊維条にアルミニゥム蒸着膜を施したうえ、(添え糸と共に又は添え糸なしに)これをたわし生地に編成又は織成し、ラメ織り込みスポンジ入りたわしとして製品化したのは、国内において原告製品が最初であり、右のような金属的光沢を有するたわし生地の外観的特徴は、従来のたわし(例えば亀の子たわし、金属たわし等)に全く見られない特異なものであった。

(二) 右のようなラメ織り込みスポンジ入りたわしとしての特徴を有する原告製品は、昭和六一年以降、原告会社のみが長期間にわたり独占的に製造、販売し、継続的かつ多数回に及ぶ宣伝広告活動を行った結果、少なくとも取引業者の間では、遅くとも平成三年末頃までには、その外観、形態自体がそれを見ただけで原告会社の製造、販売する製品である旨を表示する出所表示機能(商品表示性)を取得し、このように商品表示性を取得した外観、形態が広く認識されるに至った(周知性の獲得。甲第八号証の1ないし14)。

(1) 原告会社は、原告西田から本件実用新案権につき無償の完全独占的通常実施権(実用新案権者自身も実施しないことが約された専用実施権と同等の権利)である本件通常実施権の許諾を受け、「ルースター」等の商品名で、本件考案を実施した原告製品を日本国内で独占的に製造販売してきており、その昭和六一年以降の各一年間の販売数量は、次のとおりである。

昭和六一年 八〇万個

昭和六二年 一二〇万個

昭和六三年 一五〇万個

平成元年 一八〇万個

平成二年 二〇〇万個

平成三年 二八〇万個

平成四年 三一〇万個

平成五年 二八〇万個

原告会社が、日本国内で、原告製品を独占的・排他的に製造、販売することができた主な理由は、原告西田が、本件実用新案権以外に、先行実用新案権を保有していたことにある。つまり、先行実用新案権は、昭和五四年の出願で、昭和五七年一〇月四日に出願公告され、平成四年一〇月四日までその効力を有し、また、本件実用新案権は、昭和六一年の出願で、平成四年八月七日に出願公告されており、平成三年末までの間、右の二つの実用新案権の存在のため、日本国内では原告製品に類似するものを製造、販売することができなかったのである。

(2) なお、原告製品の販売方法には、<1>原告会社が原告製品に原告会社の商標を付しかつ原告会社の商品であることを明示した包装を施して、原告会社の商品として取引業者(卸売業者、小売業者等)に販売する場合(以下、この方法により販売される原告製品を「原告表示商品」という。)と、<2>原告会社が包装を施さないままの原告製品だけを卸売業者に販売し、購入した卸売業者が、これに自己の商標を付しかつ当該卸売業者の商品であることを明示した包装を施して、当該卸売業者の商品として他の取引業者(中間の卸売業者、小売業者等)に再販売する場合(以下、この方法により販売される原告製品を「第三者表示商品」という。)とがあるが、少なくとも取引業者の間では、日本国内においては原告会社のみが原告製品のような外観、形態を有するたわしを製造、販売していることが知れ渡るようになり、右(1)のような原告製品の販売数量の飛躍的増加も寄与した結果、右<2>の第三者表示商品の場合でも、当該卸売業者の再販売の相手方である取引業者の間では、原告製品の特徴ある外観、形態自体からこれが原告会社の製造にかかるものであることが認識されるようになったものである。

(3) 原告製品は、雑誌「オレンジページ」(平成四年三月二日発行)、雑誌「NHKきょうの料理」(平成四年三月一五日発行)、業界新聞「日本工業技術新聞」(平成六年一〇月二〇日発行)に取り上げられて紹介されたほか(甲第一二ないし第一四号証)、原告会社は、平成四年三月二一日発行(甲第一〇号証)及び同年四月二一日発行(甲第一一号証)の業界新聞「家庭用品新聞」において、取引業者などに対して、実用新案権に基づき平型たわしを日本国内で製造、販売できるのは、法的には原告会社のみであり、原告製品のコピー商品が出回っているので注意してほしい旨警告している。

また、原告会社は、資本金一〇〇〇万円、年間売上高六億六〇〇〇万円(平成五年度)で、自社工場三か所、指定下請け工場三か所、外注先一三社を擁す株式会社であり、営業所一か所を設けて原告製品を大量に製造、販売している(甲第九号証)。

2 被告は、原告製品について不正競争防止法による保護を主張することは、存続期間の終了した先行実用新案権の存続期間を実質上延長せんとするものであると主張するが、原告製品は本件考案の実施品であって先行考案の実施品ではないのみならず、不正競争防止法には、実用新案権の保護と不正競争防止法による保護が競合することを排除する規定をおいていないし、また、実用新案法と不正競争防止法は、保護の対象、適用のための実体的要件が異なるから、実用新案法による保護の対象である抽象的な技術思想に基づく特定の具体的実施形態である商品の形状、外観が、出所表示機能を備えることにより不正競争防止法による保護を受けても、実用新案法の法理と矛盾することにはならない。

3 前記1(二)(3)の警告は、先行実用新案権ではなく、本件実用新案権に基づくものである。当時、本件考案は、昭和六三年一月二七日に出願公開されていたのであるから、これに基づき警告をすることは許されるのである(平成五年法律二六号による改正前の実用新案法一三条の三)。右警告は、総体として何ら虚偽の警告ではないし、原告会社が原告製品の外観、形態の保護を求め、その完全模倣品である韓国、台湾製のコピー商品を駆逐すべく、右のような多少法律的に問題のある警告を行ったからといって、これを不当な活動ということはできない。

【被告の主張】

1 原告製品の外観、形態は、そもそも商品の出所表示となりうるはずはなく、仮に商品の出所表示となりうるとしても、それが周知性を取得しているとはいえない。

(一) 原告製品の販売方法<1>及び<2>のうち、<2>の第三者表示商品は原告製品のうち半数程度を占めていると考えられる(前記のとおり、被告自身が昭和六〇年以前から原告製品を購入したうえ、被告の商標を付して被告の商品として販売してきている。同様に、キクロン株式会社も昭和六〇年以前から、株式会社オーエ及び株式会社ワイズも、平成二年頃から原告製品を購入して自己の商品として販売してきている。)。

そして、この第三者表示商品の場合、包装には原告会社以外の会社の商品であることが明示され、原告会社の製造であることは何ら示されていないのであるから、経験則上その取引の相手方は包装を含む全体から出所を判断するものであり、敢えて包装を捨象した中身の商品の外観、形態から出所を判断することはなく、ましてや包装に明示された出所と異なる出所を商品の外観、形態から認識するようなことはありえない。

(二) 仮に、原告製品自体の外観、形態が「出所表示」となりうるとしても、前記のとおり製造された原告製品のうちの半数程度を占める第三者表示商品には原告会社の製造にかかることは全く表示されていないから、当該商品を購入する取引業者のほとんどすべては、原告会社の製造にかかるものであることは知らず、仮に僅かに一部の取引業者が何らかの理由によりこれを知ったとしても、出所が原告会社にあることに信頼してではなく、それぞれの出所表示者の商品であることに信頼して取り扱ってきたものである。したがって、原告会社の出所表示としての周知性を取得しているということはできない。

2 原告製品及びイ号物件はいずれも、存続期間が終了した先行実用新案権を実施したものであるから、原告製品について、不正競争防止法による保護を主張することは、存続期間の終了した先行実用新案権の存続期間を実質上延長せんとするものであって許されない。

3 原告会社主張の警告(甲第一〇、第一一号証)が出願公開中の本件考案に基づくものであるとすれば、出願公開中の実用新案に基づいて差止請求や損害賠償請求、刑事告訴を行うことができないことは明らかであるから、あたかも出願公告あるいは登録された場合と同じように差止請求や損害賠償請求、刑事告訴ができるかの如き内容の右警告は、虚偽といわざるをえない。

原告会社による原告製品の宣伝は、右のような虚偽の警告に基づく不当な活動により行われたものであるから、その結果に対し法的保護を与えるに値しないというべきである。

三  争点3(イ号物件の形態は、原告製品の形態と類似し、その販売により原告製品と混同を生じさせているか)について

【原告会社の主張】

1 イ号物件は、その形態が原告製品と極めて類似し、かつ、外観的特徴が原告製品と酷似しており、その販売により原告製品と混同を生じさせている。

(一) イ号物件の形態は、全体として略扁平な直方体の形状で、縦約一五センチメートル、横約九センチメートル、厚さ約二センチメートルであり(別紙「イ号物件寸法図」)、全体的な色彩が金色又は銀色であって(別紙第5図、第6図)、金色又は銀色に着色されたアルミニゥム膜を片面にコーティングしたポリエステル扁平糸をナイロン集合糸を編んだ生地に係合させるようにして網状に編成してたわし生地を形成し、そのたわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成したうえ、その中に板状のスポンジを封入しているというものである。

右の形態を有するイ号物件において外観上最も注目される特徴は、(ほぼ無色に近いナイロン集合糸を編んだ生地に係合させられた)金色又は銀色のアルミニゥム膜をコーティングしたポリエステル扁平糸によって網状に編成されたたわし生地面の持つ金属的光沢の点にある。

(二) 原告製品とイ号物件は、両者とも全体として扁平な直方体の形状をしている。寸法の点では、イ号物件の方が縦が約一センチメートル長く、横が約〇・五センチメートル短いために全体として若干スリムな印象を与えるが、両者を決定的に区別しうる特徴ではなく、類似の範囲内での微差にすぎない(被告主張のぬいしろの点も同様である。)。

イ号物件の金色又は銀色の二種類の製品の色彩も、原告製品の色彩と極めて類似している。

そして、イ号物件は、原告製品の外観上の最も大きな特徴である(ほぼ無色に近いナイロン集合糸を編んだ生地に係合させられた)金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けたポリエステル扁平糸によって網状に編成されたたわし生地面の持つ金属的光沢の特徴をそっくりそのまま有している。

2 被告は、平成四年一一月頃より以前は、数年以上にわたり、原告会社から原告製品を継続的に購入し(その購入数量は、平成三年が四七万五〇四〇個、平成四年が四二万一六〇〇個であり、平成五年初め以降は、原告会社・被告間の取引は完全に途絶えている。)、これに被告の会社名、商品名(当時は「ルースタースポンジ」)などを表示した包装を施して他の取引業者に再販売していたものであり、被告の再販売の相手方である取引業者の間では、包装に被告の商品名などが表示されていても、当該商品の元の製造販売者が原告会社であることはよく知られていた。

ところが、被告は、平成四年一一月頃から、大韓民国の業者が製造したイ号物件を輸入し、これに被告の会社名、商品名(「ポリッシュスポンジ」)などを表示した包装を施して取引業者に再販売するようになったにもかかわらず、製造業者が変更になったことを告知していないうえ、包装は従前原告製品を販売するために用いていた包装と類似のものを用いており、しかも、その包装には日本国内で製造されたものである旨の虚偽の表示をしている。そして、イ号物件の外観、形態は、右1のとおり原告製品の外観、形態と酷似しており、取引業者にとっても、商品の外観、形態だけによって両製品の出所を識別することは不可能である。この結果、被告からイ号物件を購入している取引業者は、イ号物件の製造者が大韓民国の業者であることを知らずに、従前と同じく原告会社の製造にかかるものであって、同じ品質のものであるとの誤認混同のもとにこれを購入している疑いが強い。

なお、被告は、現在販売しているイ号物件には「MADE IN KOREA」なる表示を付していると主張するが、原告会社は、平成六年一〇月三一日イズミヤ松原店において原産地表示のない包装袋のもの(甲第一五号証、検甲第三、第四号証)を、同月二四日ジョイフル朝日美原店において「MADE IN JAPAN」なる表示を付した包装袋のもの(甲第一六号証、検甲第五、第六号証)を入手している。

仮に、被告の主張のとおりイ号物件の包装袋に「MADE IN KOREA」の表示がなされているとしても、その表示は小さく看過しやすいものであるから、混同のおそれを妨げるものとしては極めて不十分であり、誤認混同のおそれはやはり存在する。

【被告の主張】

1 イ号物件は、被告が昭和六〇年以前に原告製品の購入を開始した当初より今日に至るまで、以下のとおり、原告表示商品と差別化を図るため、その外観、形態を異ならせているから、原告製品(原告表示商品)の外観、形態と類似しておらず、このような相違は、一般消費者とは異なり、専門的知識を持って慎重に取引を行う取引業者において極めて容易に認識できるものであり、外観、形態だけで識別不可能ということはない。

(一) イ号物件は、原告主張のとおりの寸法の相違により、原告製品よりスリムな感じを与えるものである。

(二) また、原告製品は、長辺一辺のみに比較的大きなぬいしろを設けているのに対し、イ号物件は、両方の長辺に比較的大きなぬいしろを設けていることにより、左右対称となり、原告製品と比較して安定した美しい外観を呈している。本来、袋たわしを製作するためには原告製品のように長辺一辺のみにぬいしろを設ければ足りるのであるが、被告は一貫して、安定した美しい外観を追求し、原告製品との差別化を図るため、コスト増につながるにもかかわらず、敢えて両方の長辺にぬいしろを設けているものである。

2 イ号物件は、次の点からみても、原告製品と誤認、混同されるとは考えられない。

(一) 被告が自己の商品として販売してきた原告製品(被告表示商品)の包装には、被告の商標が付され、被告の製品であることが明示されており、一方、原告会社の製造にかかるものであることは一切書かれていない。被告は、原告会社と比較して、会社の規模、取扱い商品の規模、売上高等が圧倒的に大きく、かつ、取引業者の間における知名度、信用性も圧倒的に高く、被告表示商品の取引業者は、その出所が被告にあることに信頼してこれを購入してきたものであり、原告会社の製造にかかるものであることに信頼して取り扱ってきたものではない。

したがって、被告が商品の実際の製造業者を原告会社から他の業者に変えた(イ号物件)としても、被告の商品であることが明示され続けている以上、当該商品を購入する取引業者に実際の製造者の変更を明示する必要はないし、製造者の変更を明示しなくとも出所についての混同は生じない。

イ号物件においても、原告会社のものとは異なる商標が顕著な形で付され、その出所が被告であることも極めて明確に表示され、包装のデザインも原告製品のものと大きく異なっており、一般消費者レベルにおける誤認混同はありえない(このことは、原告会社も異論がないものと思われる。)。一般に、取引業者はその取扱い商品が消費者に受け入れられるか否か、すなわち商品が売れるか否かに重点をおいて仕入れるものであるから、第三者表示商品の消費者がそれぞれの出所表示者の商品であることに信頼して購入する本件のような場合、第三者表示商品の取引業者は実際の製造者が誰であるかについては全く関知しておらず、ましてや原告会社の製造にかかるものであることに信頼して取り扱ってきたものでないことが明らかである。

(二) しかも、被告が現在販売しているイ号物件には「MADE IN JAPAN」なる表示は付しておらず、「MADE IN KOREA」なる表示を付しているのに対し、原告製品はすべて原告会社が日本国内で製造しているものであるから、右「MADE IN KOREA」なる原産地表示により、イ号物件が原告会社の製造にかかるものでないことが極めて明確となっている。

なお、イ号物件に施している包装は、平成六年二月頃までは検甲第二号証の1・2のもの(「MADE IN JAPAN」の表示を付したもの)であったが、同年三月頃からは、右のとおり「ろMADE IN KOREA」の表示を付した検乙第一一、第一二号証のものに変更している。原告会社主張の原産地表示のない検甲第三、第四号証のものは、右変更の過渡期における極めて僅かな一時期に暫定的に使用したものであり、「MADE IN JAPAN」の表示を付した検甲第五、第六号証のものも含め、被告が過去に販売したものが流通過程においてたまたま在庫として残っていて、平成六年一〇月頃に小売りされたものと考えられる。

四  争点4(被告が損害賠償責任を負う場合に、原告会社に賠償すべき損害の額いかん)について

【原告会社の主張】

1 原告会社が原告西田から許諾を受けている本件実用新案権についての本件通常実施権は、前記のとおり完全独占的通常実施権であるから、その侵害により原告会社が受けた損害の額については、実用新案法二九条一項が類推適用されると解すべきである。

被告は、平成五年一月から訴え提起時の平成六年三月一日までの一四か月間に、イ号物件を一個当たり一〇〇円の価格で合計五五万四〇〇〇個(被告が平成三年の一年間に原告会社から購入した原告製品の数量約四七万五〇〇〇個にその一二分の二である約七万九〇〇〇個を加えたもの)販売したものであり、その純利益率は販売価格の一五パーセントを下らないから、被告はイ号物件の製造販売により少なくとも八三一万円の利益を得たことになる。

したがって、原告会社が被告の行為によって受けた損害は、右と同額の八三一万円を下回ることはない。

2 また、被告の不正競争行為がなかったならば、原告会社は、イ号物件の販売数量に相当する数量の原告製品を販売することができたはずであるから、原告会社は、被告の不正競争行為により損害を被った。

その損害の額は、右1と同様、八三一万円を下回ることはない(不正競争防止法五条)。

【被告の主張】

1 原告会社が原告西田から許諾を受けたという本件通常実施権について、たとえ「完全独占的」という合意があったとしても、あくまでも債権的な通常実施権にすぎないから、そもそもこのような権利しか有しない原告会社が被告に対し損害賠償請求権を有するかどうか自体極めて疑わしいし、まして実用新案法二九条一項を類推適用する根拠はない。

2 仮に原告製品の売上げが近年減少傾向にあったとしても、それは自由競争の結果であり、被告の行為によるものではなく、因果関係がない。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか)について

1  イ号物件の構成は、検甲第二号証の1・2及び弁論の全趣旨によれば、これを本件考案の構成要件に対応させて、次のとおり特定するのが相当と認められる(これは、被告によるイ号物件の特定である物件目録(二)において、その「三 構造の説明」aの「ナイロン集合糸<1>、<2>と共に係合させるようにして、」とある部分を「ナイロン集合糸<1>、<2>を編んだ生地に係合させるようにして、」と訂正したものに一致する。)。

a 第3図及び第4図のように、幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面を持つ扁平なポリエステル素材<3>を、ナイロン集合糸<1>、<2>を編んだ生地に係合させるようにして、網状に編成してたわし生地を形成する。

b 右たわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成する。

c 前記ポリエステル素材は、その一本一本の表面(片面)に薄いアルミニゥム膜がコーティングされている。

d 袋たわしの中に板状のスポンジを封入してある。

右aの「幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面を持つ扁平なポリエステル素材<3>」という特定について、原告らは、厚さ二七ミクロンという極めて微少な数値で特定することは、判断が困難であり、誤差の範囲も不明確であるから無意味であると主張するが、さりとて、原告ら主張のように単に「細幅のポリエステル扁平糸<3>」というのでは断面形状が不明であるので、極めて微少な数値ではあるが、右のように具体的数値をもって特定するのが相当である。また、原告らは、「素材」という表現だけでは対象物の形状の特徴が全く不明であると主張するが、単に「素材」としているのではなく「幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面を持つ扁平な」ポリエステル素材としているのであるから、原告らの主張は採用できない。

一方、被告の主張する「ナイロン集合糸<1>、<2>と共に係合させるようにして」との表現では、具体的にどのような状態をいうのか明確でないから、適切でない。

2  そこで、イ号物件の構成を本件考案の構成要件と対比すると、構成bが構成要件Bを、構成dが構成要件Dをそれぞれ充足することは明らかである(被告も争っていない。)ので、以下、構成aが構成要件Aを、構成cが構成要件Cを充足するかについて検討する。

(一) 構成要件Aについて

構成要件Aにいう「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1」について、実用新案登録請求の範囲を含め本件明細書には、「袋たわし30を構成する繊維条1は化学繊維又は天然繊維の何れでもよく、化学繊維の場合はポリエステル、レーヨン、ナイロン等が用いられる。」(公報<1>3欄10行ないし13行)との記載を除き、これがいかなるものか直接説明する記載はないところ、「繊維」とは、「一般に、細い糸状の物質」(岩波書店「広辞苑第四版」)をいい、「条」とは、「細長いすじやひも」(学習研究社「漢和大辞典」)「ながい。長いさま。細くて長いものを数える助数詞」(角川書店「大字源」)をいうから、繊維条とは、細長い糸状のものを意味すると解するのが相当である。そして、イ号物件の構成aにいう「幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面を持つ扁平なポリエステル素材<3>」は、その幅や厚さに比較して十分の長さをもった細長い糸状のものということができるから、形状に関する限りは、本件考案にいう「繊維条」に当たるといえなくもない。

しかしながら、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、本件考案は、「ビニール等合成樹脂のフイルムテープに金属蒸着を施し、それを織成又は編成してたわしとしたものは適度の硬さと柔らかさがミックスして好適なものであるが、母材となるフイルムテープが強度的に弱い為に耐久性に欠けると共に、織成又は編成する際にも強度が少ない為に加工が難しく、コスト高になる」(公報<1>1欄22行ないし2欄3行)という従来技術の問題点を解決するための手段として、「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条を織成又は網状に編成してたわし生地となし、このたわし生地を二つ折り又は二重に重ねて袋たわしとしてなるものにおいて、袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングしてなるものである。」(同2欄14行ないし19行)という構成を採用し、その結果、「袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングして設けたので、袋たわし30は、細い繊維の一本一本に金属膜5が施されて繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら金属のもつ研磨力が附加されて従来の袋たわしにはみられない広い用途に使用できるとともに、金属膜でありながら、きわめて薄い為に繊維の特性が失われず、引張り、屈曲に対する強度が大であり、その為、添え糸等を要しないで織物等を容易に形成できるので、製作加工が迅速且つ容易に行われ、安価で提供できるものである。」(同3欄22行ないし4欄10行)という作用効果を奏するものであるとの記載があり、実施例においても、金属膜がコーティングされた繊維条1のみを経緯糸にして織物を織成したもの、又は網目を有する網地としたもののみが記載されている(同2欄21行ないし3欄2行及び第3図、第4図)から、本件考案は、母材の素材を繊維条に変更して母材そのものの強度を高めることにより従来技術の問題点を解決したものと解されるのであって、繊維条に金属膜をコーティングするのは、研磨力をもたせるためであり、繊維条の強度の補強のためではないことが明らかである。したがって、本件考案にいう「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条」は、「添え糸等」なしにたわし生地を織成又は編成できるような強度を持ったものを指すと解さなければならない(この意味において、実用新案登録請求の範囲の「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1」という記載だけで、本件考案の必須の構成要件である「添え糸等なしにたわし生地を織成又は編成できるような強度を持ったもの」を表すものといえるかは甚だ疑問であるが、かかる実用新案登録請求の範囲の記載のままで実用新案登録を受けている以上、右のように解する外はない。)。

しかして、右にいう「添え糸」について、本件明細書には何らの説明がないところ、「添える」は「(補助として)加える。足す」(岩波書店「広辞苑第四版」)という意味を有するところから、「添え糸」とは、それより強度の劣るものの強度を補強するために添える糸と解するのが相当である。

そこで、イ号物件について検討すると、ポリエステル素材<3>とナイロン集合糸<1>及び<2>の編成は、別紙イ号図面の第3図及び第4図記載のとおりであって(甲第五号証、乙第五号証)、被告が「添え糸」と主張するナイロン集合糸<1>は、ポリエステル素材と終始一貫して二緒に」編成されているわけではないが、イ号物件のたわし生地として用いている、金属膜をコーティングしたポリエステル素材とナイロン集合糸で編成したたわし生地(検乙第五号証)は、引っ張りや変形に対して抵抗力があり、使用に十分耐えられる強度を有しているのに対して、ナイロン集合糸を使用しないで金属膜をコーティングしたポリエステル素材のみで編成したたわし生地(検乙第六号証、第七号証中の同様に編成したたわし生地部分)は引っ張りや変形に対する抵抗力がなく、実用に耐えられる強度を有しているとは認められない。換言すれば、イ号物件のポリエステル素材はナイロン集合糸とともに編成することによって初めて実用に耐えることができる強度を有するものということができる。

したがって、イ号物件のナイロン集合糸は、「添え糸」に該当するといわなければならない。原告会社は、「添え糸」であれば終始一貫してポリエステル素材(原告らのいうポリエステル扁平糸)と「一緒に」編成されていなければならない旨主張するが、「添え糸」を右のように限定して解釈すべき根拠はない(しかも、前記のとおり、本件明細書には本件考案は「添え糸等」を要しないで織物等を容易に形成できると記載されている。)。また、原告会社は、検乙第六、第七号証について、いずれも被告の主観的判断の域を出ないとか、仮にそのたわしとしての実用的強度に多少のばらつきがあるとしても、それだけでイ号物件のポリエステル素材が「繊維条」に当たらないと解することはできないと主張するが、採用できない。

以上のように、イ号物件のポリエステル素材は、「添え糸」なしでたわし生地を織成又は編成することができるような強度を有しているとは認め られないから、本件考案の構成要件Aにいう「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条」に該当せず、したがって、イ号物件の構成aは、本件考案の構成要件Aを充足しないというべきである。

(二) 構成要件Cについて

(1) 本件考案の構成要件C「袋たわし30を構成する繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」について、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、課題を解決するための手段の項に、「袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングしてなるものである。」(公報<1>2欄17行ないし19行)、実施例の項に、「袋たわし30を構成する各繊維条1にはそれを芯体にして表面に薄い金属膜5がコーティングされている。」(同3欄5行ないし7行。なお、「それぞれ芯体にして」とあるのは、「それを芯体にして」の誤植と認められる。乙第一号証の1)、「これらの繊維を芯体1aにしてその表面に第5~7図に示すように金属コーティングが施されている。」(同欄14行ないし16行)、作用及び効果の項に、「袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜をコーティングして設けた」(同欄22行ないし24行)との記載があり、本件考案における繊維条の断面形状の例を示す断面図としては、断面が円形(第6図)又は矩形(第7図)の繊維条の表面全周にわたって金属膜を設けたもののみが示されており、そして、「芯」とは、「真ん中、中心にあるもの」(講談社「日本語大辞典」)を意味するから、「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」とは、繊維条が中心になるように金属膜をコーティングすること、すなわち、繊維条の片面ではなく(片面のみのコーティングでは、繊維条が中心になるとはいえない。)、表面全体に金属膜をコーティングすることをいうと解するのが相当である。

原告らは、右「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」とは必ずしも繊維条1の表面の全面に金属膜をコーティングすることを意味するものでないとし、その理由として、「芯」という語(あるいはその同義語としての「心」)の意味については、右の「真ん中、中心にあるもの」という意味以外にも、「本体」、「基礎」という意味もあるのであって、「芯」が中心にあるものを意味するとしても、その「中心」とは位置的な意味に限って解釈しなければならない理由はなく、機能的にあるいは構造的に「中心にあるもの」というような意味に解することも十分に可能である旨主張するが、本件明細書の前記記載に照らせば、「芯」をもつて原告ら主張のような機能的にあるいは構造的に「中心にあるもの」というような意味に解することはできない。

次に、原告らは、本来、イ号物件のように扁平糸を編成したたわし生地においてたわしとしての機能を果たすのは、その両面ではなく、食器等に当接する片方の面のみであると考えられるから、必ずしもその両面に金属膜をコーティングする必要はない旨主張するが、本件考案の第7図の実施例のように断面が矩形の(すなわち扁平な)繊維条によつてたわし生地が編成されている場合、常に繊維条の一方の面のみがたわし生地の表面にくるとは限らず、繊維条が振れるなどして他方の面が生地の表面にくることも十分考えられ(第6図の実施例のように断面が円形の繊維条によってたわし生地が編成されている場合はなおのことである。)、むしろ、繊維条の表面全体に金属膜をコーティングする必要があるともいうことができるから、右原告らの主張も採用できない。

(2) 更に、本件考案の実用新案登録出願については、先行考案等をいわゆる引用例として進歩性を欠くとする平成元年五月二六日付拒絶理由通知を受けたので、原告西田は、同年九月二九日付の本件手続補正書によって本件明細書を補正するとともに、同日付の本件意見書を提出したが、結局拒絶査定を受けたので、不服の審判請求をし、平成三年九月一九日付の本件審判請求理由補充書を提出した結果、出願公告を経て、平成五年二月五日付審決によって登録すべきものとされ、登録を受けるに至ったものである(甲第一号証、乙第一号証の2ないし5)。右平成元年五月二六日付拒絶理由通知において、先行考案の実用新案公報(公報<2>)が「金属膜をコーティングしたたわし」を記載した刊行物として引用されたのに対し、原告西田は、本件意見書(乙第一号証の4)において、「引例1(実公昭五七-四四九四二号公報)は、本願人の考案に係るものであるが、この引例においては、合成樹脂のフィルムテープの面にアルミ箔又は銅等の金属膜を設けたものを素材にして袋たわしを形成したものであり、金属膜はフィルムの片面のみであり、且つプラスチックのフィルム基材が芯となるものではなく、又これに用いられる繊維の糸は、フィルムテープが強度的に弱い為に添え糸として用いられるものであって、本願考案のたわしとは、構成並びに作用が著るしく異なるものである。」と記載し(一頁2行ないし12行)、本件審判請求理由補充書(同号証の5)においても、「引用例1に記載の考案は、本請求人(本願人、考案者)の考案に係るもので、その要旨は合成樹脂のフィルムからなるテープの片面にアルミ等の金属膜を蒸着により施したものを材料にしてたわしを形成したものであるから繊維の一本一本にコーティングにより金属のコーティング膜を施すものとは実用新案としての具体的構成が根本的に異なるものである。」と記載している(三頁9行ないし16行)のであって、これらの意見書における陳述が審判官に容れられて、本件考案につき実用新案登録を受けるに至ったものと認められる。すなわち、出願人である原告西田は、先行考案は、金属膜を合成樹脂のフィルムからなるテープの片面のみに蒸着したものである点で繊維の一本一本にコーティングにょり金属のコーティング膜を施す本件考案とは異なると強調しているのであるから、意識的に、本件考案の技術的範囲には「金属膜の蒸着が素材の片面のみである」場合を含まないとして本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」の意義を明確に限定しているものというべきである。そして、前示のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲の「天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1」という記載だけで本件考案の必須の構成要件である「添え糸等なしにたわし生地を織成又は編成できるような強度を持ったもの」を表すものといえるかは甚だ疑問であるから、本件考案は、右のような各意見書における「繊維条1が芯体1aとなるように繊維一本一本の表面に薄い金属膜5をコーティングしてなる」の意義を明確に限定する陳述がなければ、実用新案登録を受けることができなかった可能性が高いものといわなければならない。したがって、本件訴訟において、原告らが右陳述と矛盾する主張をして本件実用新案権の侵害を主張することは許されない(包袋禁反言の法理)。以上の説示に反する原告らの主張は採用できない。

(3) そうすると、イ号物件は、ポリエステル素材の一本一本の表面の片面にのみアルミニゥム膜がコーティングされている(構成c)のであるから、本件考案の構成要件Cを充足しないことが明らかである。

3  以上によれば、イ号物件は、本件考案の構成要件A及びCを具備せず、その技術的範囲に属しないから、本件実用新案権に基づきイ号物件の輸入販売の停止を求める原告西田の請求及び損害賠償を求める原告会社の請求は、いずれも理由がない。

二  争点2(原告製品の形態は、原告会社の商品表示として周知性を取得しているか)について

1  原告会社は、原告製品の外観、形態は、少なくとも取引業者の間では、遅くとも平成三年末頃までには原告会社の商品表示として周知性を取得していると主張する。

商品の外観、形態は、本来、商品の機能を実現しあるいは美感を高めるために選択されるものであって、商品の出所を表示するものではないが、特定の業者の商品の外観、形態が他者の商品と識別しうる独自の特徴を有している場合には、それが長年にわたり特定の業者によって排他的に使用され、あるいは短期間でも強力に宣伝、広告がされることにより、第二次的に商品表示としての性質を取得し、これが周知性を獲得することがあり、そうすれば不正競争防止法二条一項一号、三条、四条による保護を受けることができるところである。

しかして、原告製品の形態は、甲第七号証、検甲第一号証の1・2及び弁論の全趣旨によれば、原告会社主張のとおり、全体として略扁平な直方体の形状で、縦約一四センチメートル、横約九・五センチメートル、厚さ約二センチメートルであり、全体的な色彩が金色又は銀色であって、金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けた約一ミリメートル幅のポリエステル扁平糸をナイロン集合糸を編んだ生地に係合させるようにして網状に編成してたわし生地を形成し、このたわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成したうえ、その中に板状のスポンジを封入したものであり、加えて、封入口側の長辺のみに比較的大きなぬいしろを設けて縫製したというものであると認められるところ(以下、この形態を「本件形態」という。)、原告会社は、原告製品の外観上の最も大きな特徴は、金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けたポリエステル扁平糸によって網状に編成されたたわし生地面の持つ金属的光沢の点にあり、右のようなラメ織り込みスポンジ入りたわしとしての特徴を有する原告製品は、昭和六一年以降原告会社のみが長期間にわたり独占的に製造、販売し、継続的かつ多数回に及ぶ宣伝広告活動を行った結果、少なくとも取引業者の間では、遅くとも平成三年末頃までには、その外観、形態自体がそれを見ただけで原告会社の製造、販売する製品である旨を表示する出所表示機能(商品表示性)を取得し、このように商品表示性を取得した外観、形態が広く認識されるに至った(周知性の獲得)旨主張するので、以下、前示の観点から検討する。

2  証拠(甲第三号証の1、第六号証の1ないし3、第七号証、第一〇号証ないし第一四号証、第二三号証の1・2、第二六、第二七号証、検甲第一、第二号証の各1・2、第三ないし第一三号証、乙第八号証、第二〇号証の1・2、第三四、第三七、第三八号証、検乙第八号証、第九号証の1・2、第一〇ないし第二〇号証、証人中井謙、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし(四)の事実が認められる。

(一) 原告会社は、先行考案の実施品として、昭和五四年頃からふきんもしくはハンカチ状の形態のたわしを製造、販売していたが、昭和五七年頃、これを変更して本件形態の製品を製造、販売するようになった。

その後、先行実用新案権は、存続期間の終了により平成四年一〇月四日消滅したが、原告会社は引き続き本件形態の製品を製造、販売した。その販売方法としては、原告会社が原告会社の商標を付しかつ原告会社の商品であることを明示した包装を施して、原告会社の商品として取引業者に販売する場合(原告表示商品の場合)と、後記(二)のように、原告会社が包装を施さないままの原告製品だけを卸売業者に販売し、購入した卸売業者がこれに自己の商標を付しかつ当該卸売業者の商品であることを明示した包装を施して、当該卸売業者の商品として他の取引業者に再販売する場合(第三者表示商品の場合)とがある。平成五年七月一四日、原告西田は、新たに本件考案について実用新案登録を受け、原告会社は、本件実用新案権について、独占的通常実施権(本件通常実施権)の許諾を受けた。

(二) 被告は、従前から原告会社と取引があったところ、昭和五七年頃から、原告会社から何ら包装等を施さないままの本件形態の製品を仕入れ、これを、表面に「ポリッシュスポンジ」の商品名と大きく被告の登録商標である「aisen」を印刷し、裏面に、表示者「アイセン工業株式会社」、「MADE IN JAPAN」と印刷した包装袋に入れて、主として中間業者(問屋)に販売し、その外スーパーマーケットにも販売していた。その際の商品名や包装袋については被告が独自に決定しており、原告会社の意向を考慮したことはないし、原告会社から原告会社の製造にかかる商品であることを明示するように求めることもなかった。このように被告が原告会社から仕入れて販売した本件形態の製品の数量は、平成三年の一年間で四七万個に達する(これに対し、原告会社は、原告製品の販売数量は第三の二【原告会社の主張】1(二)(1)記載のとおりであると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠がない。)。

当時から、被告の外に、原告会社から何ら包装等を施さないままの本件形態の製品を仕入れてこれを自己の包装袋に入れて販売していた業者として、いずれも被告の規模に近い会社であるキクロン株式会社、株式会社オーエ、株式会社ワイズがある。キクロン株式会社が原告会社から本件形態の製品を仕入れて販売していた商品の包装袋は、表面に、「KITCHEN WARE」「RIELE SELECTION」「リエール アルミフロンF 11145」「折り曲げ自由、皿・コップ洗いに便利」「あらう」と印刷され、裏面に、特長、品質、ご注意、保証の項目の外、発売元として「キクロン株式会社」の会社名・住所が印刷されている(検乙第八号証)。株式会社オーエが同様に販売していた商品の包装袋は、表面に、「ハイパワークロスF-1」「ハイパワークロス がんこな汚れを、手早く落とす」「新素材のクリーナー登場!金属タワシとちがい、アルミ蒸着加工でキズがつきにくい HIGH POWER CLOTH」(検乙第九号証の1)、あるいは「ハイパワークロス A-1」「気になる汚れ 落とせます カンタンに」「コップ/皿洗い 自由に曲がるので洗うのに便利です。」(検乙第九号証の2)と印刷され、裏面に、商品の説明、用途、ご注意の外、表示者として又は単に「株式会社オーエ」の会社名・住所・電話番号が印刷されている。株式会社ワイズが同様に販売していた商品の包装袋は、表面に、「KITCHEN TALK」「テフロン・シルバーストーン用 食器・プラスチックにも適します。傷をつけずにみがき洗いができる 材質:ポリエステル(アルミ粉付) ナイロン系 ポリウレタンフオーム」「アルメッシュ」「みがく」と印刷されており、裏面に、特長、耐熱温度、材質、ご注意、用途の項目の外、「株式会社ワイズ」の会社名・住所が印刷されている(検乙第一〇号証)。被告販売分を含め、以上のような第三者表示商品の販売の仕方については、原告会社の容認するところであった。

平成六年末頃には、その外にも、本件形態と同様の形態を有する商品として、はやぶさ工業の「ひかるスポンジ」、イーストグロートレーディングの「キッチンクリーナー」、ビーエスカンパニーの「ライトスター」、販売元不明の「キッチンクリーナー」、「KITCHEN CLEANER」、「メッシュクリーナー」が市場で販売されている(検乙第一三ないし第一八号証)。

(三) 被告は、平成四年一一月頃、イ号物件を大韓民国から輸入し、当初は前記原告会社から仕入れていた当時と同じ包装袋(したがって、「MADE IN JAPAN」と印刷されている。)に入れて販売するようになり(平成五年初めには原告会社との取引を完全に止めた。)、次いで、これから「MADE IN JAPAN」の印刷のみを除いた包装袋を使用し、平成六年三月からは、「MADE IN KOREA」と印刷し、商品名も「ポリテックスポンジ」に変更した全く新しい包装袋を使用するようになった。このイ号物件の形態は、全体として略扁平な直方体の形状で、縦約一五センチメートル、横約九センチメートル、厚さ約二センチメートルであり、全体的な色彩が金色又は銀色であって、金色又は銀色のアルミニゥム蒸着膜を設けた約一ミリメートル幅の扁平なポリエステル素材をナイロン集合糸を編んだ生地に係合させるようにして網状に編成してたわし生地を形成し、このたねし生地を二重に重ねて袋たわしを形成したうえ、その中に板状のスポンジを封入し、両方の長辺に比較的大きなぬいしろを設けて縫製したというものである。

(四) 原告会社は、平成二年、三年、六年の東京ギフトショー、平成五年の大阪ギフトショー、平成二年、四年の大阪国際見本市に出展し、その外、昭和六三年の東京モバックショー、平成元年の西日本食品フェアー、平成四年の東京ハウスウエアー、平成六年の日本銅センター、平成七年の大阪ホテル・レストランショー等にも出展し、本件形態を有する原告製品を展示した。

また、原告会社は、平成二年三月、原告製品を含む原告会社の商品多数を掲載した通常用のパンフレットを五万部印刷し、平成三年九月には東京ギフトショー配布用に、平成四年三月には大阪国際見本市配布用にそれぞれ同様のパンフレットを五万部印刷した。

原告製品は、平成四年三月二日発行の雑誌「生活便利マガジン オレンジページ」(甲第一二号証)に、「アルミたわし ルースター」として写真とともに掲載されているが、「(株)大同」の会社名と電話番号のみが表示されており、また、平成四年三月一五日発行の「別冊NHK きょうの料理」(甲第一三号証)に、「高純度アルミ微粒子カバー付き 300円」として他の二種類のスポンジたわしとともに掲載されているが、「渋谷東急ハンズ」の名前のみが表示されており(ちなみに、同じページの左横に掲載されているビロードのたわしである漆器専用スポンジについては、「カウゼル」と表示されている。)、いずれも原告会社名は表示されていない。平成六年一〇月二〇日発行の業界新聞「日本工業技術新聞」(甲第一四号証)には、「材質はアルミ粉蒸着材 『ルースタークリーナー』カゥゼル」との見出しのもとに、原告製品が他の原告会社の商品とともに紹介されている。

原告会社は、平成四年三月二一日発行(甲第一〇号証)及び同年四月二一日発行(甲第一一号証)の業界新聞「家庭用品新聞」に、いずれも原告製品の写真を掲げ、「韓国、台湾製コピー商品に御注意。」、「民事・刑事告訴すべく出廻り品調査中 実用新案特許 意匠権・商標権侵害」と題する警告を掲載した。

3  右2認定の事実に基づき検討する。

原告製品のようなたわしは、店頭において一般消費者に販売される際、包装を除いた商品本体のみが展示されて販売されることはなく、商品名や販売者名を表示した包装袋に入れて展示販売されるのであるから、一般消費者が原告製品の有する本件形態により商品の出所を認識して購入するというようなことは考え難い(それ故に、原告製品の外観、形態が原告会社の商品表示として周知性を取得しているとの原告会社の主張も、一般消費者の間における周知性ではなく、取引業者の間における周知性を主張するものと解される。)。

そして、原告会社が本件形態を有する原告製品を販売するについては、原告表示商品と第三者表示商品とがあるところ、原告表示商品の場合、原告会社が原告会社の商標を付しかつ原告会社の商品であることを明示した包装を施して、原告会社の商品として取引業者に販売するのであるから、原告会社の直接の相手方である取引業者はもちろん、この取引業者から原告表示商品を仕入れる取引業者も、原告製品の有する本件形態に着目するまでもなく、その商品の出所が原告会社であることを認識できるのであって、やはり、本件形態により商品の出所を認識して取引をするというようなことは考え難い。第三者表示商品の場合は、包装袋に被告又はキクロン株式会社、株式会社オーエ、株式会社ワイズが独自に付した商品名とその会社名が表示されているのであって、原告会社の製造販売にかかる商品であることは全く表示されていないのであるから、前記2(四)認定のとおり原告会社がギフトショーや大阪国際見本市等に原告製品を出品し、パンフレットを印刷し、業界新聞「家庭用品新聞」に警告を掲載し、業界新聞「日本工業技術新聞」に原告製品が紹介されたとの事実を考慮してもなお、右被告等から包装袋に独自の商品名とその会社名が表示されている第三者表示商品を仕入れる中間業者(問屋)やスーパーマーケット業者において、本件形態に着目してこれによって包装袋に表示された会社以外の特定の者(原告会社)の製造販売にかかる商品であると認識するものとは認められない。右中間業者から先の流通過程における取引業者についても同様である。しかも、原告製品の販売数量については、前示のとおりこれを認めるに足りる的確な証拠がないが、仮に原告会社主張のとおりであるとしても、前記2(二)認定の、被告が原告会社から仕入れて販売した本件形態の製品の数量及びキクロン株式会社、株式会社オーエ、株式会社ワイズの規模に照らすと、第三者表示商品の販売数量の合計は、原告製品の販売数量のうちの半分程度に達するものと推認される。

以上のとおり、原告会社の主張する原告製品の本件形態は原告会社によって排他的に使用されてきたわけではなく、また、そもそも包装袋に表示された商品名や会社名を離れて本件形態に着目して商品の出所を認識するということは考え難いから、原告会社の主張する平成三年末頃においても、現在においても(平成六年末頃には、第三者表示商品の外にも、本件形態と同様の形態を有する商品が数点、市場で販売されている。)、取引業者の間において原告製品の有する本件形態が原告会社ないしはある特定の会社の商品であることを示す商品表示としての性質を取得したとの事実は未だ認められない。以上の説示に反する原告会社の主張は、採用することができない。甲第八号証の1ないし14は、乙第一五号証の1ないし20に照らして、採用することができない。

なお、前記認定事実によれば、被告は、平成四年一一月頃大韓民国からイ号物件を輸入して販売するようになったにもかかわらず、当初は原告会社から原告製品を仕入れていた当時と同じ「MADE IN JAPAN」と印刷した包装袋に入れて販売していたというのであり、このこと自体は不正競争防止法上許されることではないが、だからといって右認定判断を左右するものではない。

4  したがって、不正競争防止法二条一項一号、三条、四条に基づきイ号物件の輸入販売の停止及び損害賠償を求める原告会社の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないといわなければならない。

第五  結論

よって、原告らの請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

物件目録(一)

一 物件の種別

たわし(ラメ織り込みスポンジ入りたわし)

二 図面の説明

第1図 たわし生地の一部を切り欠いた全体図(斜視図)

第2図 断面図

第3図 たわし生地の拡大図

第4図 分解図(第3図のナイロン集合糸<1>、<2>、ポリエステル扁平糸<3>を分解して描いたもの)

第5図 たわし(金色)の全体写真

第6図 たわし(銀色)の全体写真

三 構造の説明

a 第3図及び第4図のように、細幅のポリエステル扁平糸<3>を、ナイロン集合糸<1>、<2>を編んだ生地に係合させるようにして、網状に編成してたわし生地を形成する。

b 右たわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成する。

c 前記ポリエステル扁平糸は、その一本一本の表面(片面)に薄いアルミニゥム膜がコーティングされている。

d 袋たわしの中に板状のスポンジを封入してある。

四 形状の説明

第5図及び第6図の写真に見られるように、全体として略直方体状の形状をしており、別紙イ号物件寸法図のとおり、長辺が約一五センチメートル、短辺が約九センチメートル、厚さが約ニセンチメートルの各寸法を有している。

外観上の色彩には、第5図及び第6図の写真のように金色と銀色の二種類がある。

物件目録(二)

一 物件の種別

たわし

二 図面の説明

物件目録(一)に同じ

三 構造の説明

a 第3図及び第4図のように、幅約〇・九ミリメートル、厚さ約二七ミクロンの断面をもつ扁平なポリエステル素材<3>を、ナイロン集合糸<1>、<2>と共に係合させるようにして、網状に編成してたわし生地を形成する。

b 右たわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成する。

c 前記ポリエステル素材は、その一本一本の表面(片面)に薄いアルミニウム膜がコーティングされている。

d 袋たわしの中に板状のスポンジを封入してある。

四 形状の説明

物件目録(一)に同じ

イ号図面

(アイセン工業kkの『たわし』)

<省略>

<省略>

イ号物件寸法図

(アイセンの製品 金色、銀色共通)

<省略>

実用新案公報<1>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平4-33114

<51>Int.Cl.3  A 47 L 17/08 識別記号 庁内整理番号 6704-3B <24><44>公告 平成4年(1992)8月7日

<54>考案の名称 たわし

審判 平3-599 <21>実願 昭61-104667 <65>公開 昭63-12363

<22>出願 昭61(1986)7月7日 <43>昭63(1988)1月27日

<72>考案者 西田起夫 大阪府南河内郡美原町さつき野西1丁目2-15

<71>出願人 西田起夫 大阪府南河内郡美原町さっき野西1丁目2-15

<74>代理人 弁理士 森脇康博

審判の合議体 審判長 大塚進 審判官 山川サツキ 審判官 伏見隆夫

<56>参考文献 実開 昭52-85662(JP、U) 実公 昭57-44942(JP、Y2)

実公 昭6-1608(JP、Y1)

<57>実用新案登録請求の範囲

(1) 天然又は化学繊維からなる複数の繊維条1を織成又は網状に編成してたわし生地となし、このたわし生地を2つ折り又は2重に重ねて袋たわし30としてなるものにおいて、袋たわし30を構成する繊維条1が芯体1aとなるように繊維1本1本の表面に薄い金属膜5をコーテイングしてなることを特徴とするたわし。

(2) 金属膜をコーテイングした繊維条1で形成された袋たわし30の中に、板状のスポンジ体40を封入してなる前記実用新案登録請求の範囲第1項記載のたわし。

考案の詳細な説明

(産業上の利用分野)

本考案は、台所等で食器や鍋類等を洗つたり磨くのに使用されるたわしに関する。

(従来の技術)

アルミや真ちゆう等の細い金属線をコイル状にしたものを絡めて金属たわしとしたものは汚れのひどい食器等を洗う場合には、研磨力が強いので有効であるが、繊維のような柔らかさに欠けるために用途が限られるという問題がある。又ビニール等合成樹脂のフイルムテープに金属蒸着を施し、それを織成又は編成してたわしとしたものは適度の硬さと柔らかさがミツクスして好適なものであるが、母材となるフイルムテープが強度的に弱い為に耐久性に欠けると共に、織成又は編成する際にも強度が少ない為に加工が難しく、コスト高になるという問題がある。

(技術的課題)

本考案は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら、金属のもつ研磨力を併わせ有し、且つ製作加工が容易で耐久性のある袋たわしを簡単安価に提供しようとするものである。

(課題を解決するための手段)

上記目的を達成するために、本考案におけるたわしは、天然又は化学繊維からなる複数の繊維条を織成又は網状に編成してたわし生地となし、このたわし生地を2つ折り又は2重に重ねて袋たわしとしてなるものにおいて、袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維1本1本の表面に薄い金属膜をコーテイングしてなるものである。

そして上記金属膜をコーテイングした繊維条で形成された袋たわしの中に、板状のスポンジ体を封入することが好ましい。

(実施例)

連続した繊維条1を経緯糸にして第3図に示すように織目2を有する織物10を織成する。又第4図に示すように編目3を有する網地20となす。この織物又は網地により袋たわし30を形成する。袋30の口4は開放したままにするか、又封鎖する。

袋たわし30の中にスポンジ40を入れる。

袋たわし30を構成する各繊維条1にはそれぞれ芯体にして表面に薄い金属膜5がコーテイングされている。金属膜5は銅、ニツケル等が主であり、特に銅の場合は殺菌力、抗菌力があり、たわし自体を衛生的に保持できる。

袋たわし30を構成する繊維条1は化学繊維又は天然繊維の何れでもよく、化学繊維の場合はポリエステル、レーヨン、ナイロン等が用いられる。

これらの繊維を芯体1aにしてその表面に第5~7図に示すように金属コーテイングが施される。

金属膜5はきわめて薄い、例えば0.1~0.5ミクロンといつたものであるが、この範囲に限定されるものではない。第7図のように繊維条1を偏平にするとたわしとしての研磨力が増大する。

(作用及び効果)

本考案は上述のように、袋たわしを構成する繊維条が芯体となるように繊維1本1本の表面に薄い金属膜をコーテイングして設けたので、袋たわし30は、細い繊維の1本1本に金属膜5が施されて繊維のもつ柔らかさと、しなやかさ、及び吸水性を保ちながら金属のもつ研磨力が附加されて従来の袋たわしにはみられない広い用途に使用できるとともに、金属膜でありながら、きわめて薄い為に繊維の特性が失われず、引張り、屈曲に対する強度が大であり、その為添え糸等を要しないで織物等を容易に形成できるので、製作加工が迅速且つ容易に行われ、安価に提供できるものである。

袋の口4が開放している場合は、そこから手を差し入れて平手でこするようにたわしを使用できる。内部にスポンジを入れたたわしではスポンジの吸水性、保水性が高められる。

図面の簡単な説明

第1図は本考案たわしの斜視図、第2図は同断面図、第3図及び第4図は袋を構成する織物地、及び編地の一部拡大平面図、第5図は金属コーテイングした繊維条の一部拡大側面図で、一部は断面を示す。第6図及び第7図は同上の繊維条の断面形状の例を示す断面図である。

1……繊維条、2……織目、3……編目、4……口、5……金属膜、10……織物地、20……編地、30……袋たわし、1a……芯体。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第7図

<省略>

実用新案公報<2>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭57-44942

<51>Int.Cl.3  A 47 L 13/16 17/08 識別記号 庁内整理番号 6537-3B 6455-3B <24><44>公告 昭和57年(1982)10月4日

<54>たわし

<21>実願 昭54-35916

<22>出願 昭54(1979)3月19日

<65>公開 昭55-136443

<43>昭55(1980)9月29日

<72>考案者 西田起夫

堺市中茶屋1-23

<71>出頭人 西田起夫

堺市中茶屋1-23

<74>代理人 弁理士 森脇康博

<57>実用新案登録請求の範囲

軟質プラスチツクシートの面にアルミ蒸着等の金属膜を設けてなるフイルムテープを、少くともそれより強度の高い織維糸を添え糸に一緒に織成又は編成して平布地としてなるたわし。

考案の詳細な説明

本考案は軟質プラスチツクシートの面にアルミ蒸着等の金属膜を設けてなるフイルムテープを強度のある糸を添え糸にして平布地を編成し、それをたわしにしたもので、以下その詳細を図面の実施例について説明すれば次の通りである。1はフイルムテープであり、軟質プラスチツクシート1aの面にアルミ蒸着、又はアルミ箔、アルミ塗膜等の金属膜1bを形成したもので、2は前記フイルムテープ1を補強する為の繊維糸等の添え糸であり、この両方を一つにして第3図のような平織又は第4図のように亀甲編等の平布地3をつくる。このようにすると添え糸2は細いが、フイルムテープ1には幅があるために目が荒くなる上に、そこヘフイルムテープが屈曲して表面にあらわれるので平布地3の表裏両面にエツジの立つたザラツキが形成される。

この平布地3を適当な大きさにしてそのままたわしとして使用するか又は2つ折りにして袋状となし、又はその袋の中にスポンジ等の中芯4を入れて使用する。

本考案は上述のように、軟質プラスチツクシートの面にアルミ蒸着等の金属膜を設けてなるフイルムテープを少くともそれより強度の高い繊維糸を添え糸にして一諸に平布地3を織成又は編成するものであるからフイルムテープ単体では強度が弱くて織物にできなかつたものが簡単容易に可能となり、而もこのようにして得られた平布地は両糸の組み合わせで硬織りでありながら目が荒くなる上に、そこヘフイルムテープが屈曲して表面にあらわれるので表裏両面にエツジの立つた適度のザラツキと摩擦抵抗の感覚があり、従つてたわしとしてはスポンジのように柔かすぎたり、金属たわしのように硬過ぎて食器等の洗い物にすり傷を付けるようなことがなくなつて従来には見られない恰好の優れたたわしが安価に得られる。

図面の簡単な説明

第1図は本考案に係るたわしの斜視図、第2図及び第3図は組織の一部拡大平面図、第4図はフイルムテープの一部拡大図、第5図はスポンジ入りたわしとした場合の断面図である。

1……フイルムテープ、2……添え糸、3……平布地、1a……プラスチツクシート、1b……金属膜。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

図面の説明

1 名称 たわし(ラメ織込みスポンジ入りたわし)

2 図面の説明

第1図 たわし生地の拡大図

第2図 分解図(タテ糸A、B<1><2>とヨコ糸(添え糸)<3>及び周ヨコ糸(アルミ蒸着した扁平糸)<4>を分解して描いたもの)

3 構造の説明

扁平糸(ヨコ糸)<4>にナイロン集合糸(ヨコ糸)<3>を添え糸にして一本のヨコ糸にしたものと、ナイロン集合糸のタテ糸A.B<1><2>とで網状に編成してたわし生地を形成する。このたわし生地を二重に重ねて袋たわしを形成し、袋たわしの中に板状のスポンジを封入してある。

原告旧製品

<省略>

実用新案公報

<省略>

<省略>

実用新案公報

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例