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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)5058号 判決 1996年8月27日

原告

富士火災海上保険株式会社

被告

藤川千利

主文

一  被告は原告に対し、二三万八四六円及びこれに対する平成六年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一二二五万八七〇八円及びこれに対する平成六年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

以下のうち、1、2、4の事実は当事者間に争いがなく、3の事実は甲第九ないし第二九号証及び弁論の全趣旨により認めることができる。

1  住田行則(以下「住田」という。)は、平成三年八月一四日午後一時五七分ころ、普通乗用自動車(和泉五二ほ七七〇、以下「住田車両」という。)を運転して大阪市阿倍野区昭和町四丁目九番一号先道路(以下「本件道路」という。)を南から北に向けて進行中、被告が、住田車両の進路前方左側に停車していた普通乗用自動車(京都三三て二二六二、以下「被告車両」という。)を住田車両の進路と同方向へ発進させたため、住田は被告車両との衝突を避けようとして右転把したところ、住田車両は対向車線に進入し、その前部を対向車線を進行してきた近久成典(以下「近久」という。)運転の普通貨物自動車(なにわ四〇に三五三四、以下「近久車両」という。)に衝突させる事故を起こした(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故により、近久は、多発骨折等の、また、近久車両に同乗していた大谷秀夫(以下「大谷」という。)は頭部外傷Ⅱ型等の傷害を負つた。

3  原告は、自動車損害賠償責任保険等を業とする会社であり、住田は、原告との間で、住田車両につき自動車保険契約を締結しており、原告は、本件事故について、大谷に対し別紙(一)のとおり、近久に対し別紙(二)のとおり賠償金を支払つた。

4  原告は、被告及び住田の付した自賠責保険から各二四〇万円の支払を受けた。

二  争点

本件は、原告が、被告に対し、住田との保険契約に基づき、大谷及び近久に対して支払つた賠償金について、住田と被告との過失割合に応じて求償をするものであり、住田と被告との過失割合が争点である。

第三争点に対する判断

一  甲第一ないし第八号証、乙第一ないし九号証、検乙第一ないし第四号証及び証人住田行則の証言、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  本件道路は、幅〇・八メートルの中央分離帯を挟む片側各三車線の道路であり、最高速度は時速六〇キロメートル、終日駐車禁止の指定がされている。なお、中央分離帯には、高さ約七〇ないし八〇センチメートルの植え込みが設けられている。

2  被告は、本件事故当時、北行第一車線に被告車両を駐車させていたが、いつたん歩道の切れ目まで数メートル被告車両を前進させて家族を乗せた後、一度後退し、前方に置いてあつたガソリンスタンドの立て看板(高さ一・七メートル、幅〇・九メートル、奥行〇・八メートル)を避けるため、方向指示器を出し、右側にハンドルを切つて時速五キロメートル程度で進行を開始した。このとき、被告は、ミラーで後方を確認し、住田車両が後方から進行してくることに気付き、右前部が第二車両に〇・六メートル入る程度になつた状態で停止した。

3  住田は、本件事故当時、本件道路の北行第二車線を時速約八〇キロメートルで進行し、被告車両の約一七・四メートル後方で被告車両に気付き、被告車両が自車走行車線に進入してくるものと思い、狼狽してブレーキを掛ける余裕もなくハンドルを右に切りすぎたため、住田車両は中央分離帯を越えて反対車線に進入し、南行第二車線を進行してきた近久車両と衝突して停止した。なお、住田車両と被告車両とは接触していない。

以上の事実が認められる。これに対し、証人住田行則は、本件事故当時、住田車両の速度は時速六〇ないし七〇キロメートルくらいであつた。事故を回避するためとつさにブレーキをかけたと記録していると供述する。しかし、同証人は、住田車両は被告車両に衝突して止まつたものと思つている、植え込みを越えたとは思つていないと供述するなど、事故状況を正確に認識し記憶しているとは言い難いうえ、同証人は、被告車両との衝突を回避するために右にハンドルを切つた際方向指示器を出したと供述するところ、この点も本件事故状況に照らすと不自然であるといわざるをえず、これらに照らすと、同証人の事故当時の速度及びブレーキをかけたとする点に関する供述は信用することができない。

二  右事実によれば、本件事故は、住田の速度超過及び不適切な運転操作によつて発生したものであるということができる。しかし、被告にも、駐車禁止場所に被告車両を駐車したうえ、後方から住田車両が進行してくるのを認識しながら、住田の前方に進出するかのような動作をした点において、本件事故の発生に寄与したものと認められ、本件事故は、住田と被告の過失が競合して発生したものというべきである。そして、住田車両と被告車両は接触していないこと、結果的には被告車両はほとんど住田車両の走行を妨害していないと認められること、近久車両に衝突し近久及び大谷に直接的な損害を与えたのは住田車両であり、右は住田の速度超過及び不適切な運転操作に起因すると認められることに照らすと、本件事故の発生は住田に主たる原因があるといえ、住田と被告との過失割合は、七五パーセントと二五パーセントとするのが相当である。

そうすると、被告は、原告が大谷及び近久に対して支払つた賠償金合計二〇一二万三三八五円のうちの二五パーセントを負担すべきであり、その額は五〇三万〇八四六円(円未満切捨て)となるところ、原告が自賠責保険から支払を受けた四八〇万円を控除すると、残額は二三万〇八四六円となる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

別紙

(一)

合計

五三〇万二五六二円

治療費

二六六万五四四二円

付添看護費

一三万六八八〇円

雑費等

一一万一〇〇〇円

休業損害

一〇四万三一二〇円

慰藉料

一三四万六一二〇円

(二)

合計

一四八二万〇八二三円

治療費

九八〇万五三一八円

付添看護費

二八万四四〇〇円

雑費

八三万五一七一円

休業損害

三八九万五九三四円

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