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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)5086号 判決 1997年12月05日

住所<省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

國久眞一

久米川良子

住所<省略>

被告

大和證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

浦野正幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三億〇九六一万五九六八円及びこれに対する平成六年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告の従業員の原告に対する勧誘に断定的判断の提供、執拗・強引な勧誘、適合性原則違反、説明義務違反、虚偽事実の表示及び過当取引の勧誘があったとして、不法行為(民法七一五条)又は債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実等(争いのある事実については、括弧内記載の証拠により認定した。)

1  原告は、昭和三四年○月○日生まれであり、a高等学校普通科を卒業し、染晒工場、自動車販売店に勤務した後、平成元年四月に独立して中古自動車販売等を営む有限会社b(以下「会社」という。)を設立し、同社の代表取締役を務める(原告本人)。

2  被告は、有価証券の売買等の媒介などについて大蔵大臣から免許を受けた証券会社であり、被告岸和田支店が原告との取引を取り扱い、同支店における原告との取引の担当者は、平成元年から平成四年三月ころまでの間、営業課員のB(以下「B」という。)であり、平成四年四月から、営業課主任のC(以下「C」という。)であった。

3  原告は、平成元年ころ、関西国際空港へのアクセス道路のための用地としてその所有していた土地(以下「本件土地」という。)を代金二億六〇〇〇万円で売却したが、契約の日から二年以内に代替資産を取得すれば、譲渡所得の課税の特例を受けることができたため、代替資産として一億五〇〇〇万円の土地を購入し、残りの一億一〇〇〇万円については定期預金として保有し、代替資産としての土地(以下「代替土地」という。)が見つかればその購入代金に充てる予定であった(甲四、原告本人)。

4  原告は、被告を通じて、平成元年一二月一三日、投資信託「ステップ」を二〇〇万円で購入した。その後、原告は、被告を通じて、別紙取引記録記載のとおりの取引(以下「本件取引」といい、同記録記載の各取引の対象となった有価証券を同記録記載の番号に対応させて「本件証券一」ないし「本件証券四三二」という。)をした(ただし、名義が「個人(母)」又は「会社」とある取引については、それが当該名義人のためにした取引であるかどうかについて争いがある。)。

5  原告は、本件請求についての調停(岸和田簡易裁判所平成六年(ノ)第二七号事件・同年四月一三日申立て)及び本件訴訟の逐行を原告訴訟代理人弁護士らに委任した。

三  当事者の主張及び争点

1  断定的判断の提供・強引、執拗な勧誘について

(原告)

(一) 証券会社が顧客に対し株価変動に関して断定的判断を提供することは、証券取引法(以下「法」という。)五〇条一条一項によって禁止されている。

(二) Bは、原告に対し、特定の銘柄を勧誘する際、繰り返し、確実に値上がりするとかこれまでの損を絶対に取り戻せるなど断定的判断を提供し、原告が購入を拒否してもこれを無視し、Bが責任を取るのであれば証券を購入してもよいとする原告に対し、責任を必ず取るとか損をさせるようなことはないと断定して、執拗で強引な勧誘を繰り返した。具体的には、以下のとおりである。

(1) Bは、原告に対し、平成二年三月初めころ、これから株価が上昇して銀行の定期預金などの金利以上の利益を確実に出せること及びライフストア(旧商号)株は確実に株価が上昇することなどを断言してライフストア株を購入するよう勧誘したので、原告は、同月八日、ライフストア株(本件証券一)を購入した。

(2) Bは、原告に対し、平成二年三月九日、阪急電鉄転換社債はその価格が下がることはない旨断言し、これを購入するよう勧誘したので、原告は、同日、阪急電鉄転換社債(本件証券二)を購入した。

(3) Bは、原告に対し、平成二年五月二〇日ころ、これから株価が本格的に上昇するので、阪急電鉄転換社債(本件証券二)を担保にして信用取引を開始すれば、少ない資金でライフストア株(本件証券一)と阪急電鉄転換社債(本件証券二)の損失を回復できる旨述べて、信用取引を開始するよう強く勧誘した。原告は、Bに対し、本件土地の売却代金のうち一億一〇〇〇万円が残っているが、平成三年一二月三一日までにこの資金で代替土地を購入しないと譲渡所得の課税の特例を受けることができなくなるので、同日の時点で一億一〇〇〇万円を下回ることは絶対にできない旨述べたところ、Bが絶対に大丈夫であると断定的に述べたので、右一億一〇〇〇万円のうち五五〇万円を委託証拠金として拠出し、信用取引を開始した。

(4) Bは、原告に対し、平成二年七月ころ、二部上場株の株価が全体的に上昇しているとして、セガ・エンタープライゼス株、新川株及び投資信託「エース九〇-〇七」(以下「エース」という。)を購入するよう勧めた。原告は、Bに対し、値動きの激しい株は危険が大きく、また、上昇している株価が下降し始めるのではないかと危惧を述べたところ、Bが値下がりするようなことはない旨断言したので、平成二年七月一〇日、セガ・エンタープライゼス株(本件証券三二、三三)、新川株(本件証券三四ないし三六)及びエース(本件証券三七)を購入した。しかし、右株式は、原告が購入した後、値下がりし、原告は、一〇〇〇万円を超える損失を被った。

(5) Bは、原告に対し、平成二年七月中旬、日本重化学株、ファナック株及び東京製鐵株を購入するよう勧めたところ、原告がこれらの株が仕手筋の株であったり、既に高値に達している株であるから購入しないよう求めたのに対し、株の値動きをよく見ているから大丈夫であり、Bが責任を持つと強引に勧誘したので、原告は、平成二年七月一六日、日本重化学株(本件証券三八、三九)、ファナック株(本件証券四〇、四一)及び東京製鐵株(本件証券四二、四三)を購入した。

(6) Bは、原告に対し、平成二年七月終わりころ、それまでの証券取引の失敗について土下座して詫びる一方、それまでの損失を取り戻す自信があり、原告に迷惑をかけることはないから取引を継続するよう求めたところ、原告が損失を取り戻す自信があるのであれば取引を継続してもよい旨述べたので、原告に対し、任天堂は業績が良く株価が上昇しているとして任天堂株の購入を勧めた。原告は、任天堂株の株価がこれ以上上昇することはないのではないかと危惧を述べて、任天堂株の購入を断ったところ、Bが任天堂株の株価は絶対に四万円まで上昇する旨述べて執拗に勧誘したので、同年八月二日、任天堂株二〇〇〇株(本件証券五六、五七)を、同月三日、任天堂株三〇〇〇株(本件証券五八、五九)を購入した。

その後、イラクがクウェートに侵攻して株価が下落し始め、任天堂株の株価も下落したので、原告は、Bに対し、損失を最小限にするため、右任天堂株を売却するよう求めたが、Bは、すぐにイラクが負けて株価が回復する旨断言して譲らず、自分が責任を取ると述べた。原告は、Bに押し切られて任天堂株を売却しなかったところ、さらに任天堂株の株価が下落し、莫大な損失を被ることとなったので、Bに相談したところ、Bが現引きがよいと勧め、Bが責任を持つと保証したので、任天堂株(本件証券五六ないし五九)を現引きし、被告に対し、現引代金として一億四六七〇万円を支払った。

(7) Bは、原告に対し、平成二年九月中旬、株価が下落し続けていた現物株である東京製鐵株のうち三〇〇〇株を売却し、信用取引で買い直せば、必ず当初購入した価格まで値を戻す旨述べたので、原告は、同月二〇日、現物株である東京製鐵株(本件証券四二)を売却して、信用取引により、東京製鐵株(本件証券六四)を購入した。しかし、東京製鐵株の株価は、その後、右購入価格に手数料を加えた額を超えることはなく、原告は、損失を被った。

(8) Bは、原告に対し、平成二年九月中旬、仕手株である日本重化学株を購入することを勧めた。原告は、以前に日本重化学株を売却して利益を得ていたが、売却直後に右株価が急落したことから仕手株は危険であると認識しており、仕手株の購入に反対したが、Bが必ず値上がりするし、自分が責任を取る旨断言したので、平成二年九月二五日、日本重化学株(本件証券六五)を購入した。しかし、右証券は、原告が購入した後、値下がりし、原告は、大きな損失を被った。

(9) Bは、原告に対し、平成三年二月下旬、東京急行株の購入を強く勧めた。原告は、東京急行株が仕手株であることを理由に購入に反対したが、Bが強いて買わせてほしいと述べたので、平成三年二月二六日、東京急行株(本件証券一二〇ないし一二二)を購入した。しかし、同株は、その後、値下がりし、原告は、結局、同株を最高値で購入したことになった。

(10) Bは、原告に対し、値動きが激しいため大衆投資家には不向きな商品である店頭株について、任天堂株を持ち続けるより利益が出ると勧誘し、原告は、店頭株がどのようなものか理解できないまま、西尾レントオール株(本件証券一五七ないし一五九)、マンダム株(本件証券一六一ないし一六三)、ヱファール株(本件証券一六六ないし一七一)及び松戸公産株(本件証券一七六、一七七)を購入した。右各株式の株価は、その後、値下がりし、原告は、大きな損失を被った。

(11) Bは、原告に対し、平成三年夏ころ、ステーキ宮の新規公開株の購入を勧めたが、原告は、Bに対し、それまでの本件取引によって本件土地売却代金の残りであり代替土地購入資金であった一億一〇〇〇万円を上回る損失が生じ、銀行預金もほとんどなくなっていたこと及び証券取引は儲からないことを理由に、取引を止めたい旨申し入れた。Bは、原告に対し、それまで迷惑をかけた分の償いをしたいとして、会社の資金によって証券を購入するよう勧め、原告が会社の資金による証券取引はできないと拒否したにもかかわらず、新規公開株で損をすることは絶対になく、被告岸和田支店の支店長から損失を被っている原告に対しステーキ宮株を購入してもらうよう指示を受けている旨述べたので、原告は、Bの執拗な勧誘を断りきれず、Bが責任を取ることを確認した上で、ステーキ宮株(本件証券二四二)を購入した。

(12) 原告は、平成四年二月の決算期が間近となったので、Bに対し、これ以上損失を拡大したくないから無理な取引は止めてほしいと申し入れたところ、Bが原告に損失を被らせたことを謝罪するとともに損失回復のために取引を継続してほしいと執拗に求めたので、原告は、Bが責任を取るよう求めた上で、Bの勧めに応じて取引を継続した。

(13) 原告は、Bが北陸製薬株(本件証券三五五ないし三五八、三六七、三六八)、大日本製薬株(本件証券三六四ないし三六六)、持田製薬株(本件証券三六九ないし三七三)の購入を勧誘した際、これらの株価はすでに高価になり過ぎており、最高値で購入することになる危険があるので購入することを拒否したところ、Bが損が出た場合には自分が責任を全て取る旨述べたため、原告は、これらの株を購入した。しかし、原告の予想どおり、右株式の株価はその後下落し、原告は、多額の損失を被った。

(被告)

本件取引は、その時々の株式相場の状況などに照らせば、いずれもその時点での投資判断としては合理性を有するものであり、Bが原告に対しこれらの取引を勧誘するにあたって断定的判断を提供する必要性は全くなかった。すなわち、

(一) Bは、平成二年三月初めころ、ライフストアが公募増資をすることになったため、原告に対し、電話で、右公募株の単価が一九三〇円であること、これまでの同社の業績の推移及び株価の動向等に加えて、公募株の一般的な商品内容として、公募株が資金調達の目的で発行される新株であること、その応募は市場での買い付けと異なり手数料が不要であること等を説明し、ライフストアの公募株の応募を勧誘した。

(二) Bは、原告に対し、平成二年三月九日、電話で、新規発行される阪急電鉄転換社債の勧誘を行った際、右転換社債の利率や償還期限、これまでの同社の業績や株価の動向を説明した。

(三) Bは、株式相場が平成二年四月初めころから次第に値を戻し始め、ライフストア株(本件証券一)なども徐々に値上がりし始めたため、原告に対し、同年五月二二日ころ、大日本スクリーン株を購入するよう勧誘したが、原告が多額の資金を投資することに難色を示したので、信用取引を紹介したところ、原告は、信用取引に興味を示し、同月二三日、被告において信用取引口座を開設し、信用取引により、大日本スクリーン株(本件証券三及び四)を購入した。

(四) Bは、原告に対し、平成二年七月ころ、新川株及びセガ・エンタープライゼス株が値上がりしていたが、これらは東証二部上場銘柄であり信用取引の対象とならないため新たな資金がなければ購入できない状況である旨説明したところ、原告は、Bに対し、五〇〇〇万円を入金して右二銘柄を購入したい旨申し出て、同月一〇日、セガ・エンタープライゼス株(本件証券三二、三三)及び新川株(本件証券三四ないし三六)等を購入し、同月一三日、被告に対し、購入代金五〇〇〇万円を入金した。

(五) 原告は、Bから当該銘柄の会社の事業内容や株価の推移等の説明を受け、日本重化学株(本件証券三八、三九)、ファナック株(本件証券四〇、四一)及び東京製鐵株(本件証券四二、四三)を購入することを決めた。

(六) 平成二年八月二日及び同月三日の時点において、株式相場が全体的には下落していたにもかかわらず、任天堂株は値上がりしてその人気が高いことを示していた。原告は、Bと相談の上、右の状況を考慮し、その後も任天堂株が値上がりし続けることを期待して任天堂株(本件証券五六ないし五九)を購入した。

株式相場は、その後、下落し、原告が追加証拠金を支払わなければならない危険が生じたため、原告からこの点について相談を受けたBは、原告に対し、追加証拠金を支払うか、損切りするか、現引きして株を持ち続けるかのいずれかの方法しかない旨説明したところ、原告は、現引きを選択した。

なお、Bが、原告に土下座して謝ったのは、原告がBの勧誘に応じて同年一一月に新規登録の店頭株を購入して損失を被ったときのことであり、原告が主張する同年七月ころのことではない。

(七) 原告は、平成二年九月二〇日、Bの勧誘に応じ、東京製鐵株を、現物で売却すると同時に、信用取引で買い戻すことによって、一〇〇〇万円余りの余剰資金を捻出し、これを元手に、日本重化学株(本件証券六五)を購入した。

(八) 株式相場が平成三年二月初めころから値上がりし始め、また、東京急行株が仕手筋に買われて値上がりしていたので、Bが、原告に対し、同株式への乗換えを勧めたところ、原告は、日本重化学株(本件証券六五)を信用取引により購入して失敗した経験があったため当初は難色を示したが、東京急行株が急騰したので、同月二二日、スター精密株(本件証券一〇六、一〇七)を清算して保証金を捻出し、同月二六日、信用取引により、東京急行株(本件証券一二〇ないし一二二)を購入した。

(九) 原告は、平成二年一一月、店頭株であるサトー株(本件証券六九)を購入した際、Bから、店頭株の商品性や危険性などについて説明を受け、その旨を記載した確認書を提出しており、また、わずか約二〇日間で二四二万円余りの損失を被り、店頭株がハイリスクな取引であることを経験している上、平成三年六月六日、ゴトー株(本件証券一三三、一三四)及びシャルレ株(本件証券一三五ないし一三八)を売却して、合計四七五万一七九一円の利益を取得し、店頭株が、ハイリスク・ハイリターンの取引であることを再度確認した。

このように、原告は、店頭株の商品性や危険性などを十分知りつつ、西尾レントオール株(本件証券一五七ないし一五九)、マンダム株(本件証券一六一ないし一六三)、ヱファール株(本件証券一六六ないし一七一)及び松戸公産株(本件証券一七六、一七七)を購入した。

2  適合性原則違反について

(原告)

(一) 投資家の投資は、その能力、性格、財産状態や経験、投資の目的その他の事情に適合した取引である必要があり、投資勧誘もこのような事情に合わせたものでなければならない。

そして、信用取引は、期間制限があること、保証金の三倍近い取引ができるため大幅な利益を得られる反面危険性も極めて大きいことからすれば、勧誘対象となる顧客の適合性も著しく制限されるのであり、証券外務員は、資金を保有しているとか現物株式の取引経験があるという程度の顧客に対し、信用取引を勧誘してはならない。

(二) Bは、原告がライフストア株(本件証券一)及び阪急電鉄転換社債(本件証券二)を購入したのが唯一の証券取引の経験であること並びに本件土地の売却代金のうち残りの一億一〇〇〇万円は代替土地購入代金として安全に運用する必要があることを知りつつ、原告に対し、信用取引を勧誘したのであるから、Bが原告に対して信用取引を勧誘した行為は、適合性原則に違反する違法な勧誘である。

(被告)

(一) 株式の信用取引は、保証金を担保にして証券会社から株式の購入代金や売却株券を借りて株式を売買する取引であり、証券会社と投資家との間に貸借関係が残る以外は現物取引と異なるところはない。そして、信用取引においては、右貸借関係において利息が必要であり、その決済期間が短く、株価が思惑どおりに推移しない場合に追加証拠金や決済によって生じた損金を入金する必要があるというリスクがあるから、これに耐え得るだけの資力があり、株式投資の経験がある場合、個人投資家であっても株式の信用取引の適合性がある。

(二)(1) 原告は、信用取引に耐え得るだけの財産的基礎を有している。

(2) 原告は、信用取引を開始した平成二年五月二三日の時点で、ある程度の株式投資に関する知識と経験を有しており、同年七月ころには、相当の知識と経験を備えていた。

(3) 原告は、損失を回復したいとの思いが強く、利益を得られたという実績を重視するから、短期で利益が生じる取引を好む傾向にある。信用取引は原告の右投資傾向に適した取引方法である。

(4) したがって、原告の信用取引への適合性に問題はない。

3  説明義務違反について

(原告)

Bは、原告に対し、転換社債、信用取引、二部上場株式、ワラント、投資信託及び店頭取引を勧誘する際、右各取引の仕組みや危険性について全く説明せず、右各取引の承諾を得た後、そのパンフレットを交付したことがあるにすぎない。

(被告)

(一)(1) ワラントは、新しい投資商品であり、投資金額が少額で足りること、投資効率がよいこと、リスクが限定されていること、中長期的投資が可能であること等の特質があるが、他の投資商品と全くかけ離れた異質なものではなく類似点もあるから、投資家は、ワラントの商品性や危険性を理解し、その投資の是非について判断することができる。したがって、証券会社は、投資家に対し、ワラントがハイリスク・ハイリターンの証券であることについて注意を促す程度の説明義務を負い、それ以上については、投資家が自己の責任においてワラントの危険性について調査することができるから、説明義務を負わない。

(2) 証券会社は、信用取引についてもワラントと同様にハイリスク・ハイリターンの取引方法であることについて注意を促す程度の説明義務を負うにとどまる。

(3) 二部上場株式は、株式を売買する点では一部上場株式と同じであり、その商品内容は広く知られているし、転換社債は、一般的に株式取引に比べてリスクが低く、その商品内容は広く知られているから、証券会社は、投資家に対し、右各取引について説明義務を負わない。

(二) Bは、原告に対し、取引の勧誘に際し、以下のとおり具体的に説明を行った。

(1) Bは、原告に対し、信用取引について、保有している証券を担保にして被告から融資を受けて株式を売買するもので、保証金として買付金額の一割の現金が必要であること、したがって、阪急電鉄転換社債(本件証券二)を担保にして信用取引により証券を購入すれば、現金は買付金額の一割あれば足りることなどを説明したところ、原告が土地を担保に銀行から融資を受けて取引するのと同じようなものと理解して決済方法などについて質問してきたので、決済期限が六か月であること、決済方法としては、購入した株式を売却し、その差額の損益を清算する方法と当初約定した金額で実際に株式を購入する方法の二つがあることなどを説明した。原告は、信用取引に興味を示し、平成二年五月二三日、被告において信用取引口座を開設し、同日、信用取引により、大日本スクリーン株(本件証券三及び四)を購入した。Bは、原告に対し、その際、再度、信用取引の仕組みを紙に書いて詳しく説明した。

(2) Bは、原告に対し、平成二年七月一七日、日本航空ワラント(本件証券四四)の勧誘に際し、ワラントが、新株を買うことができる権利であること、行使価格があり、株価がいくらであっても、この価格で新株を買えること、行使期限があり、この期限を経過すると権利がなくなること、価格はポイントで表され、株式よりも値動きが大きいこと、外貨建ワラントの場合は為替の影響も受けることなど、ワラントの一般的な商品内容を説明した。

4  不実表示について

(原告)

(一) 証券会社が勧誘に際して虚偽の情報を提供したり、重要な事実をあえて告知しないなど誤解を生じさせる情報を提供することは、法五〇条一項五号、証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一項、法五八条二項によって禁止されている。

(二) Bは、仕手株をいやがる原告に対し、仕手筋の情報によれば仕手戦が行われており数日中に必ず値上がりするからこれまでの損失を一気に回復できるし、自分が責任を持つなどと述べて仕手株を購入するよう勧誘し、原告をして、平成三年二月二六日、東京急行株(本件証券一二〇ないし一二二)、同年一一月二九日、明治製菓株(本件証券三〇〇)、同年一二月一二日ないし一七日に、三井製糖株(本件証券三〇二、三〇三及び三〇五ないし三〇八)及び中国塗料株(本件証券三〇四)を購入させた。右証券は、短期間で決済されたが、Bが述べたような大幅な利益を出すことはなかった。

このように、Bは、原告に対し、特定の仕手筋からの情報など不実の情報を提供した。

(被告)

原告の主張を裏付ける証拠はなく、理由がない。

5  過当取引の勧誘について

(原告)

(一) ①顧客の取引が、口座の回転率、取引の頻繁性並びに発生する手数料の金額及び割合に照らして、金額及び回数が当該口座の性格からして過大であること、②証券会社が顧客の口座を支配していること、③証券会社が顧客の信頼を利用して自己の利益を図ったことが認められれば、証券会社は、顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図った危険性が大きく、法四九条の二所定の誠実公正義務として顧客の利益を最大限に図るべき高度な信任義務に違反することになるから、右取引は違法な取引と評価される。なお、①及び②の要件を充足すれば、③の要件は推定される。

(二) 本件取引においては、別紙回転率表記載のとおり回転率が七を上回ること、保有期間が数日の証券が非常に多いこと、別紙手数料一覧表記載のとおり、手数料が原告の投資額の二四パーセントを占め、手数料に全経費を合わせると原告の投資額の四九パーセントに及ぶことからすれば、右①の要件を充足し、原告がBの助言に専ら依存し、実質的にはBが投資判断を行っており、多数の種類の証券や銘柄の投資が行われていたことからすれば、右②の要件を充足する。

(被告)

(一) 過当取引は、一任勘定取引契約が締結されている場合に禁止される(法五〇条一項ただし書、一六一条一項、証券会社の健全性の準則等に関する省令一条及び法一六一条の規定により過当な数量の売買取引を制限する省令)のみであり、それ以外の場合については規制されていない。

(二)(1) 仮に、過当取引が一任勘定取引契約が締結されていない場合にも規制されるとしても、証券会社が一任勘定取引のような裁量的判断を行っていた場合に限り、かつ、それまでに証券会社が認識していた投資家の投資目的、財産状態及び投資経験等に照らして明らかに過大な危険を伴う取引のみ規制される。

(2) 原告は、Bの勧誘に対し、自己の判断でこれに応じるか否かを決めていたのであるから、証券会社が一任勘定取引のような裁量的判断を行っていたとはいえない。

また、信用取引について適合性を有する投資家である原告が決済期間が短期である信用取引を行っていたのであるから、取引回数が増加することはある程度やむを得ない。

6  損害について

(原告)

(一) Bらの一連の違法行為によって、原告及び会社は、別表1ないし4記載のとおり、被告に入金し、被告から払戻しを受けたのであるから、右金額の差額である二億五七一二万五四一八円の損失を被った。

(二) 原告は、右(一)の損失を被ったために、銀行から代替土地の購入資金を借り入れざるを得なくなり、銀行に対し、右借入金の利息として現在までに合計三五四九万〇五五〇円を支払った。

(三) 原告は、Bの不法行為により精神的苦痛を受けたのであり、これを慰謝するための金額は二〇〇万円が相当である。

(四) 原告は、本件訴訟及びこれに先立つ調停において弁護士に委任したから、Bの不法行為と因果関係のある弁護士費用としては一五〇〇万円が相当である。

(被告)

(一) D名義の取引は、同人の資金でなされたものであるから、原告の損害ではない。また、会社名義の取引も会社の資金でなされたものであるから、原告の損害ではない。

(二) 財産的損害については、それが賠償されれば精神的損害も慰謝されるから、原告に慰謝料請求権は発生しない。

7  消滅時効について

(被告)

(一) 原告が、平成三年四月一二日までに購入し、売却して損害が発生した分については、原告は、同日、損害及び加害者を知った。

(二) 被告は、消滅時効を援用する。

(原告)

(一) 本件においては、個々の取引ではなく、全体を一個の不法行為と把握すべきであり、原告が損害を知ったのは被告との取引関係を終了させて口座への金銭の出入りが終了した平成五年四月であるから、原告の損害賠償請求権は時効により消滅していない。

(二) 原告は、被告岸和田支店長や東京本社のE顧客管理部長やF顧客相談部長に苦情を述べていたのであるから、権利の上に眠る者ではない。他方、被告の従業員であるBは、苦情を述べる原告に対し、取引を続ければ責任を持って損失を回復する旨述べて、原告の権利行使を妨げた上、被告は、立証に十分な資料を有しているから、時間の経過による立証の困難という問題にも直面していない。

したがって、被告の消滅時効の援用は権利の濫用であり許されない。

第三争点に対する判断

一  認定事実

前記争いのない事実等、証拠(甲一ないし四、六、七の一、二、乙一ないし二七、二八の一ないし八、二九、三〇の一ないし三、三一ないし三九、四〇の一、二、四一の一、二、四二の一、二、四三の一、二、四四ないし五二、五六、五七の一ないし四、証人B、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認定できる(以下の認定に反するBの証言及び原告の供述は採用できない。)。

1  原告は、会社を経営するとともに、南大阪三菱自動車に対し、平成元年七月又は同年八月ころ、原告が所有する土地を一〇年間賃貸し、保証金として五〇〇〇万円、賃料として年間約二〇〇〇万円を受け取り、経費として年間七〇〇万円から八〇〇万円を支出していた。

2  原告は、それまで証券取引の経験がなかったが、Bの勧誘により、平成元年一二月一三日、投資信託「ステップ」を二〇〇万円で購入し、被告において原告名義の総合取引口座を開設した。

3  Bは、原告に対し、それまでの株価の推移を示すチャートブックなどを示しながら、ライフストア株の購入を勧誘した。

4  Bは、原告に対し、被告岸和田支店に割り当てられた阪急電鉄転換社債について、転換社債は、一〇年後には元金が償還されるから安全であること、利息が付くこと、阪急電鉄の株価が上昇するであろうから阪急電鉄転換社債を売却することで利益を得られることなどを資料を示しながら説明し、これを購入するよう勧誘した。

5  右ライフストア株(本件証券一)及び阪急電鉄転換社債(本件証券二)は、原告が購入した後、いずれも値下がりして、売却するまで購入価格を上回ることはなかった。原告は、そのため、投資の危険性に慎重になっていた。

6  Bは、平成二年五月二二日ころ、原告宅を訪問し、原告に対し、株式相場が底をついて再び上昇する傾向にあるとして大日本スクリーン株を購入するよう勧誘したところ、原告から資金がないとして難色を示されたので、信用取引によれば一割の資金で株式が取引できること、六か月以内に決済する必要があること、阪急電鉄転換社債(本件証券二)を担保として入れてもらう必要があることなどを説明して、信用取引による購入を勧めた。

7  原告は、平成二年六月ころから、自己の保有している証券の価格の動向を知るために日本経済新聞を購読するようになり、その後、Bの勧誘に対し、自己の株価の見通しを述べることもあった。

8  原告は、平成二年七月一〇日、それまでの取引において損失が上回っていたところ、Bが二部上場株の価格変動の推移を記載した資料を示すなどしながら株価が上昇している旨の説明をしてセガ・エンタープライゼス株、新川株及びエースを購入するよう勧誘したので、損失を回復する目的で、二部上場株と知りながら、セガ・エンタープライゼス株(本件証券三二、三三)、新川株(本件証券三四ないし三六)及びエース(本件証券三七)を購入し、同月一三日、被告に五〇〇〇万円を払い込んだ。

9  原告は、平成二年七月一七日、日本航空ワラント(本件証券四四)を購入し、Bからワラントに関する説明書の交付を受け、被告は、原告に対し、同年九月二八日ころ、平成三年九月三〇日ころ、平成四年九月三〇日ころ及び平成五年九月三〇日ころ、ワラントに関する説明書を交付した。そして、原告は、右説明書を読んだ。

10  原告の平成二年七月三一日までの取引の確定利益は二七二六万七六五〇円であり、同日の保有株式の評価損は二六六二万四一一四円であった。

11  原告は、Bの勧誘により、平成二年一一月一日、店頭株であるサトー株(本件証券六九)を購入し、同月九日、店頭取引に関する確認書に署名・押印し、被告に対し、これを交付した。右確認書には店頭市場の性格として、「店頭市場は、証券取引所が組織化された具体的な市場であるのに対し、一定の取引場所を持たず、その売買取引は、証券会社の店頭において行われます。店頭取引は、顧客と証券会社間の相対売買であるため、同一銘柄が同一時刻に売買されても証券会社によって売買値段が異なることがあります。また、店頭銘柄は、上場銘柄と異なり、総じて小規模な会社の発行する有価証券であるため、市場性が薄く値段が大きく変動することがあります。」との記載がある。

Bは、初めて店頭取引を行う顧客に対し、確認書を交付して、顧客の署名・押印を得た上で確認書を徴収することを義務付けられていた。

12  会社は、被告に対し、平成三年八月三〇日、保護預り口座の開設を申し込み、同年九月二日、ステーキ宮株(本件証券二四二)を購入し、その後も、会社の資金で取引を継続した。

13  原告は、原告の損害を、被告ないしBが補填しないことを認識していた。

二  判断

前記争いのない事実等及び右認定事実を前提にして、本件各争点について判断する。

1  争点1(断定的判断の提供等)について

(一) 原告は、Bが本件取引において確実に値上がりするなどの断定的判断を提供したと主張し、これに沿う証拠として甲二、三号証を提出するとともに、原告本人尋問において、これに沿う内容の供述をする。

確かに、Bが、原告に対し、本件取引を勧誘する際、本件証券について値上がりが見込まれることを強調したという事実が存在したことは容易に推認される。しかし、一定のセールストークは投資勧誘に付きものであり、これを全て不法行為ということはできないのであり、不法行為又は債務不履行となる断定的判断の提供は、そのうち、社会通念上許容された限度を超えるものに限られる(最高裁判所平成九年九月四日第一小法廷判決・裁判所時報一二〇三号参照)。本件において、Bの勧誘行為が社会通念上許容された限度を超える断定的判断の提供であったと認められるかについて検討するに、

(1) Bは、原告に対し、ライフストア株(本件証券一)や阪急電鉄転換社債(本件証券二)の購入を勧誘する際、従来の株価の動きなどを示す資料に基づいて説明するなどして、株価が値上がりする見通しについての資料に基づいて裏付けをしていたことからすれば、原告は、Bの説明に基づいて本件証券一、二を購入したとしても、Bの予想を信頼して投資したにすぎず、結果的にBの見通しが誤っていたとしても、それだけでBの勧誘行為が社会通念上許容された限度を超える断定的判断の提供であったと認めることはできない。

(2) また、Bは、原告に対し、その後も、本件証券の購入を勧誘したのであるが、原告が、ライフストア株(本件証券一)及び阪急電鉄転換社債(本件証券二)の投資により、株価が下落して損失を被ることを体験した結果、投資の危険性について慎重になっていたこと、原告が日本経済新聞を購入して株価の動向を知るなどして独自に株価の見通しを持っており、Bの勧誘に対して原告自身の意見を述べるなどしていたことを考慮すれば、Bが確実に株価が上昇する旨述べたとしても、Bの株価についての見通しを信頼することを決めたのは原告自身であるというほかない。そして、結果的にBの見通しが誤っていたとしても、それだけでBの勧誘行為が社会通念上許容された限度を超える断定的判断の提供であったと認めることはできない。

(二) 原告は、Bが原告に対し責任を取る旨述べて被告との取引を継続させたと主張し、これに沿う証拠として甲二、三号証を提出するとともに、原告本人尋問においてBの責任の取り方とは株価が下がらないようにすることであると考えていたと供述をする。

しかし、証券相場下落を阻止することは、証券会社の一従業員が行い得ることでないことは容易に考え得るところであって、Bが責任を取ると述べたとしても、原告が、それによって、誤った期待を抱いて被告との取引を継続したということはできないから、Bに不法行為は成立しない。

(三) したがって、前記甲二、三号証及び原告本人尋問中の各供述を採用することはできない。他に原告のこの点についての主張を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は理由がない。

2  争点2(適合性原則違反)について

(一) 信用取引は、投資家が証券会社から金銭又は有価証券の貸付け又は立替えを受けて行う取引であり、一定額の保証金によってその数倍の額の有価証券の取引が可能になる反面、損失が生じた場合、自己資金だけで取引した場合よりも多額の損失を被る取引である。

信用取引は、このような危険性を含む取引であるから、証券会社は、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして、信用取引の危険性を理解できないことがやむを得ない顧客又は信用取引の危険性を負担すること自体が不相当と認められる顧客に対し信用取引を勧誘することは許されないと解される。

(二) 本件においては、原告は、信用取引を開始する以前に、平成元年一二月に投資信託「ステップ」を購入し、平成二年三月にライフストア株(本件証券一)及び阪急電鉄転換社債(本件証券二)を購入しただけにすぎず、それ以前には証券取引の経験がなかったのであるから、信用取引を勧誘するのはやや早過ぎるともいえるが、信用取引の開始が多額の資金を投入したくないという原告の意向に沿ってなされたものであり、原告には、代替土地購入の必要があったとはいえ一定の範囲内の信用取引であればこれを行う資金的余力があった上、少ないとはいえ本件証券一及び二の取引に基づき証券取引に損失の危険が伴うことを現に体験していたのであるから、右のような事実を考慮すれば、原告が信用取引の危険性を負担すること自体が不相当とはいえず、また、信用取引の危険性を理解できないことがやむを得ないとまではいえない。

(三) よって、原告の適合性原則違反の主張は理由がない。

3  争点3(説明義務違反)ついて

(一) 転換社債について

投資家は、上場された転換社債の価格の値動きを利用して、転換社債自体の時価が上昇した場合にこれを売却して利益を出すことができるが、これを売却せずに保有し続ければ、満期時に額面が全額償還される。このように転換社債の取引の危険性は極めて小さいから、証券会社が顧客に対し転換社債が右のように安全な商品であることや満期時に償還を受けるために必要な手続が存在することについての説明を怠った結果、顧客が安価で売却してしまったり、満期時に償還を受ける利益を喪失したなどの特段の事由がある場合についてのみ、証券会社は、顧客に対し、説明義務違反を理由に損害を賠償する義務を負うと解される。

本件においては、原告は右特段の事由について主張がないから、原告の主張は失当である。

(二) 信用取引について

信用取引は、前記2(一)記載の危険性を伴う取引であるから、証券会社が顧客に対しそのような危険性について説明せず、その結果、顧客が信用取引の危険性について十分理解しないまま無警戒に取引を拡大して予想外の損失を被った場合、証券会社は、顧客に対し、説明義務違反を理由に損害を賠償する義務を負う。

本件においては、Bは、原告に対し、信用取引を勧誘する際、被告の融資により一割の資金で証券取引ができること及び六か月以内に決済する必要があることを説明したというのであり、原告は、右説明により、信用取引の決済の時点で残り九割の資金を入金する必要があり、証券が値下がりした場合に生じた損失については決済時にこれを清算する必要があることを十分理解できたといえる。

また、原告は、その後、任天堂株(本件証券五六ないし五九)の購入まで信用取引を大幅に拡大するに至らず、信用取引により損失を被ることもあったが利益を上げることもあり、平成二年七月三一日の時点では取引全体として損失を若干上回る利益を得ていたから、少なくとも、その時点では、信用取引の危険性について十分理解できていたと推認される。

したがって、Bの説明義務違反を認めるに足りる証拠はないし、また、仮に、Bに説明義務違反が認められても、右説明義務違反と原告の損失がいったん回復した後の取引である右任天堂株以降の信用取引による損害との間には相当因果関係を認めることができないから、原告の主張は理由がない。

(三) 二部上場株式について

Bは、原告に対し、二部上場株の価格変動の推移を記載した資料を示すなどして株価が上昇している旨の説明をし、原告は、二部上場株と知って、新川株(本件証券三四ないし三六)、セガ・エンタープライゼス株(本件証券三二、三三)及びエース(本件証券三七)を購入したというのであるから、Bに説明義務違反は認められない。

(四) ワラントについて

原告は、Bから、ワラント取引の勧誘を受けた際、ワラント取引の仕組み及び危険性についての説明を受けなかった旨供述する。

この点、Bは原告が日本航空ワラント(本件証券四四)を購入した直後にワラント説明書を交付し、原告は右説明書を読んだこと、原告は、平成二年八月三日、外国新株引受権証券の取引に関する確認書に署名・押印していることからすれば、原告がBからワラントについて何らの説明も受けなかったというのも納得しにくいのであって、原告の供述が、Bが原告に対しワラント取引を勧誘する際ワラント取引の仕組み及び危険性について十分説明したとするBの証言と対比して、より信用すべきものと認めるのは困難というほかない。そして、他に原告のこの点についての主張を認めるに足りる証拠はないから、右主張は理由がない。

(五) 投資信託について

原告主張の事実を裏付ける証拠がないから、原告の主張は理由がない。

(六) 店頭取引について

(1) 原告は、被告に対し、平成二年一一月九日、店頭取引に関する確認書に署名・押印してこれを交付しており、右確認書には店頭市場の性格として、「店頭市場は、証券取引所が組織化された具体的な市場であるのに対し、一定の取引場所を持たず、その売買取引は、証券会社の店頭において行われます。店頭取引は、顧客と証券会社間の相対売買であるため、同一銘柄が同一時刻に売買されても証券会社によって売買値段が異なることがあります。また、店頭銘柄は、上場銘柄と異なり、総じて小規模な会社の発行する有価証券であるため、市場性が薄く値段が大きく変動することがあります。」との記載がある。

店頭取引は、右書面を読めば十分にその特徴及び危険性を理解でき、疑問があればこれを証券外務員に確かめるなどできるから、原告に対する店頭取引の説明としては、右書面の交付で十分である。

(2) 原告は、Bから、店頭株であるサトー株(本件証券六九)を購入するよう勧誘を受けた際、店頭取引について何ら説明を受けていない旨供述する。

しかし、Bは、原告に対し、店頭取引に関する確認書を交付して、原告の署名・押印を得てこれを徴収することを義務付けられており、現実に、サトー株の購入を勧誘した直後に、店頭取引の危険性を記載した書面を交付したのであるから、勧誘の時点において、その直後に明らかになる事実を告知しなかったとは考えにくく、原告の右供述部分を採用することはできない。その他に、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(3) したがって、原告の主張は理由がない。

4  争点4(不実の表示)について

原告は、Bから、仕手筋の情報によれば仕手戦が行われているので数日中に必ず値上がりする旨述べられたと主張する。

しかし、Bから値上がりすると述べられたとする甲二、三号証の記述は抽象的であって採用できないし、他にBが原告に対し仕手筋の情報によれば仕手戦が行われているので数日中に必ず値上がりする旨述べたと認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の主張は理由がない。

5  争点5(過当取引の勧誘)について

(一) 原告は、別紙回転率表記載のとおり本件取引において回転率が七を上回ること、保有期間が数日の証券が非常に多いこと、別紙手数料一覧表記載のとおり、手数料が原告の投資額の二四パーセントを占め、手数料に全経費を合わせると原告の投資額の四九パーセントに及ぶこと、以上の事実から、被告又はBが原告の利益の犠牲の下に自己の利益を図った事実が推認されると主張する。

(二) 本件取引が莫大な数に及んでいるのは確かであるが、原告が信用取引において行った投資は、事後的にみれば予測が誤っていたことがあったとしても、投資勧誘及び投資行為の時点で全く不合理な予測に基づくものであったと認めるに足りる証拠はないから、原告主張の右事実だけから被告又はBが原告の利益の犠牲の下に自己の利益を図った事実を推認することはできない。その他に被告又はBが原告の利益の犠牲の下に自己の利益を図ったことを認めるに足りる証拠はない。

(三) よって、原告の主張は理由がない。

三  結論

よって、その余の点を検討するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 松井英隆 裁判官 西岡繁靖)

<以下省略>

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