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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6969号 判決 1996年12月24日

大阪市西区南堀江二丁目一三番二二号

原告

株式会社ユニオン

右代表者代表取締役

立野純三

右訴訟代理人弁護士

深井潔

右輔佐人弁理士

辻本一義

岐阜県中津川市中津川九六四番地の一〇三

被告

美濃工業株式会社

右代表者代表取締役

杉本英夫

右同

杉本潤

右訴訟代理人弁護士

山上和則

右同

松本克己

主文

一  被告は、原告に対し、金五万〇四八九円及びこれに対する平成八年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙物件目録(一)記載の物件(以下「イ号物件」という。)及び物件目録(二)記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を製造、販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、九二四万二五六八円及びこれに対する平成八年八月二〇日(請求の趣旨を減縮した原告の平成八年八月一五日付準備書面の送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(原告は平成八年八月一五日付準備書面において、訴状送達後に発生した損害についても賠償請求をしていることから、遅延損害金の起算日については、右準備書面送達の日の翌日とする趣旨と解される。)

三  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告の権利(争いがない)

(一) 原告は、次の(1)記載の意匠権(以下「本件意匠権(一)」といい、その登録意匠を「本件登録意匠(一)」という。)を有しており、本件意匠権(一)には、(2)及び(3)記載の各類似意匠の意匠権(その類似意匠の意匠登録を受けた各意匠をそれぞれ「本件類似意匠(一)1」「本件類似意匠(一)2」という。)が合体している。

(1) 登録番号 第五七二五六一号

意匠に係る物品 建物用扉の把手

出願日 昭和五四年八月二九日(意願昭五四-三六〇二八)

登録日 昭和五六年一二月二五日

登録意匠 別添意匠公報<1>記載のとおり

(2) 登録番号 第五七二五六一号の類似一

意匠に係る物品 建物用扉の把手

出願日 昭和五八年九月二八日(意願昭五八-四二〇三五)

登録日 昭和六一年三月一三日

登録意匠 別添意匠公報<2>記載のとおり

(3) 登録番号 第五七二五六一号の類似二

意匠に係る物品 建物用扉の把手

出願日 昭和五八年九月二八日(意願昭五八-四二〇三六)

登録日 昭和六一年三月一三日

登録意匠 別添意匠公報<3>記載のとおり

(二) 原告は、次の(1)記載の意匠権(以下「本件意匠権(二)」といい、その登録意匠を「本件登録意匠(二)」という。)をかつて有していた。本件意匠権(二)には、(2)ないし(6)記載の各類似意匠の意匠権(その類似意匠の意匠登録を受けた各意匠を、順に「本件類似意匠(二)1」「本件類似意匠(二)2」「本件類似意匠(三)3」「本件類似意匠(二)4」「本件類似意匠(二)5」という。)が合体していた。

(1) 登録番号 第五四〇九八七号

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五三年一〇月四日(意願昭五三-四二三九六)

登録日 昭和五五年七月二五日

存続期間終了の日 平成七年七月二五日

登録意匠 別添意匠公報<4>記載のとおり

(2) 登録番号 第五四〇九八七号の類似一

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五三年一〇月四日(意願昭五三-四二三九七)

登録日 昭和五七年二月二五日

登録意匠 別添意匠公報<5>記載のとおり

(3) 登録番号 第五四〇九八七号の類似二

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五六年一一月一〇日(意願昭五六-五〇〇六三)

登録日 昭和五八年五月二三日

登録意匠 別添意匠公報<6>記載のとおり

(4) 登録番号 第五四〇九八七号の類似三

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五八年三月一七日(意願昭五八-一一〇四五)

登録日 昭和六一年三月一三日

登録意匠 別添意匠公報<7>記載のとおり

(5) 登録番号 第五四〇九八七号の類似四

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五八年三月一七日(意願昭五八-一一〇四六)

登録日 昭和六一年三月一三日

登録意匠 別添意匠公報<8>記載のとおり

(6) 登録番号 第五四〇九八七号の類似五

意匠に係る物品 扉の把手

出願日 昭和五八年三月一七日(意願昭五八-一一〇四七)

登録日 昭和六一年三月一三日

登録意匠 別添意匠公報<9>記載のとおり

2  被告の行為

被告は、平成五年一二月から、イ号物件及びロ号物件を製造販売している(争いがない。)。

3  原告の請求

原告は、イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という。)は本件登録意匠(一)に、ロ号物件の意匠(以下「ロ号意匠」という。)は本件登録意匠(二)にそれぞれ類似しているから、被告がイ号物件、ロ号物件を製造販売することはそれぞれ本件意匠権(一)、本件意匠権(二)を侵害するものであると主張して、意匠法三七条に基づき、イ号物件及びロ号物件の製造販売の差止を求めるとともに、民法七〇九条、意匠法三九条一項に基づき、被告が平成五年一二月から平成八年六月までの間、イ号物件及びロ号物件を製造販売した行為により被った損害として、合計九二四万二五六八円の賠償とこれに対する平成八年八月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

なお、原告は平成八年八月一五日、イ号物件に関する差止請求及び損害賠償請求の訴えを取り下げたが、被告は、同年九月一三日、右訴えの取下げに異議を述べた。

二  争点

1  イ号意匠は、本件登録意匠(一)に類似するか。

2  本件登録意匠(一)の意匠登録には無効事由があり、本件意匠権(一)に基づく原告の請求は権利の濫用に当たるか。

3  ロ号意匠は、本件登録意匠(二)に類似するか。

4  被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対して支払うべき金額。

第三  争点に対する当事者の主張

一  争点1(イ号意匠は、本件登録意匠(一)に類似するか)について

【原告の主張】

イ号意匠は、以下のとおり、本件登録意匠(一)に類似するものである。

1 本件登録意匠(一)及びその類似意匠に係る建物用扉の把手の形態は次のとおりである。

(一) 本件登録意匠(一)

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を更に背面方向に短く曲げて取付部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分を直角に角張った形状とし、

<4> 全長に亘って断面が四角形状で、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

(二) 本件類似意匠(一)1

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を更に背面方向に短く曲げて取付部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<4> 全長に亘って断面が四角形状で、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

(三) 本件類似意匠(一)2

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を更に背面方向に短く曲げて取付部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<4> 全長に亘って断面が円形状で、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

2(一) 本件登録意匠(一)及び本件類似意匠(一)1・2によれば、全長に亘る断面が、本件登録意匠(一)では四角形状であるのに対して、円形状であっても(本件類似意匠(一)2)、握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分が、本件登録意匠(一)では直角に角張った形状であるのに対して、円弧のアール形状であっても(本件類似意(一)1・2)、それぞれ類似意匠の意匠登録を受けていることからして、右1(一)の構成<3>及び<4>は、本件登録意匠(一)の要部とはなりえないから、本件登録意匠(一)の要部は、次のとおりの構成<1><2><5>の点にあるというべきである。

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を更に背面方向に短く曲げて取付部を形成し、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

(二) 被告主張の原告カタログ「UNION DOOR HANDLE elmesカタログ NO.28」(乙第一号証の1ないし3。以下「原告カタログ28号」という。)には、確かに「Printed 1979.6.20」との記載があるが、これは、カタログの頒布日ではなく、印刷日を表すにすぎず、しかも、ここでいう印刷日は印刷工程における単なる印刷完成の予定日であって、特別の意味を有しない。また、カタログの保管場所・社内説明会の関係から、カタログ記載の印刷日と原告への納入日にズレが生ずることもある。更に、社内説明会・販売戦略検討会議のため原告への納入日とカタログの頒布日にもズレが生ずる。

このような事情であるから、原告カタログ28号が昭和五四年八月二九日以前に頒布されたとは考えられず、頒布されたのは早くとも同年九月に入ってからのことと考えられる。

したがって、原告カタログ28号によって本件類似意匠(一)2が本件登録意匠(一)の出願前に公知となっていたとすることはできず、このことを前提とする後記【被告の主張】1は理由がない。

3 イ号意匠に係る建物用扉の把手の形態は、次のとおりである。

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を更に背面方向に短く曲げて取付部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<4> 全長に亘って断面が円形状で、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

したがって、イ号意匠は、本件登録意匠(一)の要部(前記2(一)<1><2>及び<5>)の構成をすべて備えており、かつ、本件類似意匠(一)2と同一の構成であるから、本件登録意匠(一)に類似するというべきである。

【被告の主張】

1 本件登録意匠(一)の出願日は、昭和五四年八月二九日であるところ、これより前の同年六月二〇日に、本件類似意匠(一)2と同一の構成の扉の把手(品番「T5615」が掲載された原告カタログ28号(乙第一号証の1ないし3)が印刷、頒布されており、更に、昭和五三年二月二〇日に、右と同一の扉の把手(品番「T5615」)が掲載された原告カタログ「ユニオンドアーハンドル ダイジェストカタログ NO.29」(乙第六号証の1ないし3。以下「原告カタログ29号」という。)が印刷、頒布されていた。したがって、本件登録意匠(一)に類似するとされる本件類似意匠(一)2は、本件登録意匠(一)の出願前にすでに公知となっていた。

しかして、登録意匠の構成に出願前公知の部分がある場合には、該公知部分はおよそ意匠の要部になりえず、これを除いた形態要素、すなわち登録意匠において実質的に創作が認められる極めて微細な特徴を有する意匠の外には意匠権の効力は及ばない(公知事項除外説)。

したがって、右のように本件類似意匠(一)2が本件登録意匠(一)の出願前に公知となっていた以上、本件登録意匠(一)の要部は、本件類似意匠(一)2に存在しない形態要素である「角形パイプ」という点にあるということになる。

2 これに対し、イ号意匠は、「丸形パイプ」であって、本件登録意匠(一)とは要部を異にするから、本件登録意匠(一)に類似しない。

二  争点2(本件登録意匠(一)の意匠登録には無効事由があり、本件意匠権(一)に基づく原告の請求は権利の濫用に当たるか)について

【被告の主張】

仮に、イ号意匠が本件登録意匠(一)に類似するとしても、前記一【被告の主張】1のとおり本件登録意匠(一)に類似するとされる本件類似意匠(一)2が本件登録意匠(一)の出願前に公知であった外、次の1及び2の事実によっても、本件登録意匠(一)に類似する意匠が出願前に公知となっていたから、結局、本件登録意匠(一)の意匠登録には意匠法四八条一項一号、三条一項三号所定の無効事由があることになり、かかる本件意匠権(一)に基づく原告の請求は権利の濫用に当たるというべきである。

1 スペインのオカリッツ社作成のカタログ(乙第二号証)に掲載されている把手(品番「3002」)の意匠は、本件登録意匠(一)に類似しているところ、右把手はスペインにおいて二五年以上前から販売されていた(乙第三号証)。

原告が右把手の意匠と本件登録意匠(一)との相違点として主張するところは、いずれも相違点ということはできない。すなわち、本件登録意匠(一)では、握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起しているという、その「やや太径」かどうかの基準が不明である。取付部の両端に形成された鍔状の太径部の存在は、意匠全体からみて全く問題とならない。右把手の仕様表によれば、横曲げ部一一五mmに対し、握り部は三五〇mm、五〇〇mm、七五〇mm、一〇〇〇mmの四種類があるから、握り部の長さは横曲げ部の二・七倍であるとする根拠がない。

2 米国BROOKLINE INDUSTRIES, INC.の一九七七年(昭和五二年)のカタログ(McGraw-Hill-Information Systems Companyの一九八一年版「SWEET'S CATALOG FILE」第七巻所収。乙第四号証の1ないし4)に掲載されている各把手(品番「041」、「075」、「075D」)の意匠は、本件登録意匠(一)に類似している。

原告は、右各把手のうち品番「041」のものは形状が明確でないというが、品番「075」「075D」のものと同程度に明瞭である。また、品番「075」「075D」のものについて、握り部の長さは横曲げ部の二・三倍であるとする根拠が不明であるし、仮にそのとおりであるとしても、類否の判断に影響を与えるものではない。

【原告の主張】

被告が主張する1及び2の各把手の意匠は、以下のとおり、いずれも本件登録意匠(一)に類似しないから、その意匠登録の無効事由となるものではない。

1 本件登録意匠(一)の要部は、前記一【原告の主張】1(一)の<1><2><5>の点にあるところ、オカリッツ社作成のカタログ掲載の把手(品番「3002」)の意匠は、握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起していない、取付部の両端に鍔状の太径部を形成している、握り部との対比において横曲げ部が比較的長い(握り部の長さは、本件登録意匠(一)では、横曲げ部の五・七倍であるのに対し、二・七倍である。)という点で、本件登録意匠(一)とは非常に異なる印象を看者に与えるものである。

2 BROOKLINE INDUSTRIES, INC.のカタログ(乙第四号証の1ないし4)に掲載されている各把手のうち、品番「041」のものは、その形状、特に横曲げ部と取付部の形状が明瞭でないから、そもそも本件登録意匠(一)と対比することができない。

また、品番「075」「075D」のものの各意匠は、握り部のほぼ全長に亘り極端な太径に(特に両端が太く)隆起している、取付部の両端に鍔状の太径部を形成している、握り部との対比において横曲げ部が比較的長い(握り部の長さは、本件登録意匠(一)では、横曲げ部の五・七倍であるのに対し、二・三倍である。)という点で、本件登録意匠(一)とは非常に異なる印象を看者に与えるものである。

二  争点3(ロ号意匠は、本件登録意匠(二)に類似するか)について

【原告の主張】

ロ号意匠は、以下のとおり、本件登録意匠(二)に類似するものである。

1 本件登録意匠(二)及びその類似意匠に係る扉の把手の形態は、次のとおりである。

(一) 本件登録意匠(二)

<1> 縦方向に長い握り部の上端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<3> 握り部の上方部分と下方部分においてそれぞれ背面方向に短い取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が円形状である。

(二) 本件類似意匠(二)1

<1> 縦方向に長い握り部の上端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<3> 握り部の上方部分において背面方向に短い上側取付部を形成するとともに、握り部の下端部分を背面方向に短く曲げて下側取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が円形状である。

(三) 本件類似意匠(二)2

<1> 縦方向に長い握り部の上端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<3> 握り部の上方部分において背面方向に短い上側取付部を形成するとともに、握り部の下端部分を背面方向に短く曲げて下側取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が扁平形状である。

(四) 本件類似意匠(二)3

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<3> 握り部の上方部分と下方部分においてそれぞれ背面方向に短い取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が円形状である。

(五) 本件類似意匠(二)4

<1> 縦方向に長い握り部の上端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を直角に角張った形状とし、

<3> 握り部の上方部分と下方部分においてそれぞれ背面方向に短い取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が四角形状である。

(六) 本件類似意匠(二)5

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を直角に角張った形状とし、

<3> 握り部の上方部分と下方部分においてそれぞれ背面方向に短い取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が四角形状である。

2 本件登録意匠(二)及び類似意匠(二)1ないし5によれば、全長に亘る断面が、本件登録意匠(二)では円形状であるのに対して、四角形状であっても(本件類似意匠(二)4・5)扁平形状であっても(本件類似意匠(二)2)、横曲げ部が、本件登録意匠(二)では上端にのみ形成されているのに対して、上端及び下端の両方に形成されていても(本件類似意匠(二)3・5)、下側取付部が、本件登録意匠(二)では握り部の下端部よりやや上方に別途取り付けたものであるのに対して、握り部の下端部分を屈曲させて形成したものであっても(本件類似意匠(二)1・2)、握り部と横曲げ部の屈曲部分が、本件登録意匠(二)では円弧のアール形状であるのに対して、直角に角張った形状であっても(本件類似意匠(二)4・5)、それぞれ類似意匠の意匠登録を受けていることからすると、本件登録意匠(二)の要部は、次のとおりの形態にあるというべきである。

(1) 縦方向に長い握り部の端部を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成するとともに、

(2) 握り部の上方と下方に背面方向に短い取付部を形成している。

3 ロ号意匠に係る扉の把手の形態は、次のとおりである。

<1> 縦方向に長い握り部の上端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<3> 握り部の上方部分において背面方向に短い上側取付部を形成するとともに、握り部の下端部分を背面方向に短く曲げて下側取付部を形成し、

<4> 全長に亘って断面が円形状である。

したがって、ロ号意匠は、本件登録意匠(二)の要部の形態をすべて備えており、かつ、本件類似意匠(二)1とほぼ同一の形態であるから、本件登録意匠(二)に類似するというべきである。

4 本件登録意匠(二)の要部についての被告の主張のうち、(2)の点は本件登録意匠(二)の形状の認識を誤るものであり(握り部の上端は直角に屈曲しておらず、アール状に湾曲している。)、(3)及び(4)の点は、本件類似意匠(二)1・2の存在からしても不当である。

【被告の主張】

1 本件登録意匠(二)の意匠の要部は、次の点にあるというべきである。

(1) 丸棒状の棒体を直線状にして握り部とし、

(2) 握り部の上端を直角に折曲させて、把手全体が逆L字形になっており(横に突出している端部は、直線状握り部の約三〇パーセントもあり、該端部の存在感が大きい。)、

(3) 握り部の下端が、鋭利な刃物で切り落としたような状態を呈し、

(4) 取付部は、背面側の二か所に短い丸棒状の棒材を立設したものであり、

(5) 取付部の立設位置は、二か所とも直線状握り部のやや内側である。これに対し、ロ号意匠の要部は、次の点にある。

(1) 丸棒状の棒体を直線状にして握り部とし、

(2) 握り部の上端をステッキの柄のように円弧状に湾曲させ、把手全体がステッキ形になっており(横に突出している端部は、直線状握り部の約二〇パーセントしかなく、該端部の存在感が比較的小さい。)、

(3) 握り部の下端が、背面側に徐々にソフトに湾曲した状態を呈し、

(4) 二か所の取付部のうち、上側取付部は、短い丸棒状の棒材を直線状握り部のかなり内側に立設したものであり、

(5) 下側取付部は、直線状握り部の最下端を背面側に短く延長し、直角に折曲させたものである。

2 ロ号意匠を本件登録意匠(二)と対比すると、

(1) 丸棒状の棒体を直線状にして握り部とし、その上端が曲げられている、

(2) 取付部が背面側に二か所あり、そのうち上側取付部は、短い丸棒状の棒材を、上端から下方の内側に立設したものである

点で共通している。

これに対して、

(1) 握り部の上端が、本件登録意匠(二)では直角に折曲しているのに対して、ロ号意匠では円弧状に湾曲している、

(2) 握り部上端の曲げ長さが、本件登録意匠(二)では直線状握り部の約三〇パーセントもあるのに対し、ロ号意匠では湾曲部の曲率半径が大きく、直線状握り部の約二〇パーセントしかない、

(3) 上側取付部が、本件登録意匠(二)では握り部上端よりやや内側(下方)の背面側に立設されているのに対し、ロ号意匠では(下側取付部が握り部の最下端に存在するため、これとバランスをとるため)握り部上端よりかなり内側(下方)に立設されている、

(4) 下側取付部が、本件登録意匠(二)では握り部下端よりやや内側(上方)の背面側に独立して立設されているのに対し、ロ号意匠では握り部の最下端を背面側に短く延長し、直角に折曲させたものである点で相違している。

建物用扉の把手は、一定の距離を置いた位置あるいは近接する位置から、かつ、あらゆる角度からその意匠全体が観察されるものであるから、両意匠の前記共通点及び相違点を総合し、両意匠を全体として観察すると、右(1)、(2)の相違の結果、本件登録意匠(二)は逆L字形を、ロ号意匠はステッキをそれぞれ想起させ、また、(3)、(4)の相違の結果、取付部の側面視において、本件登録意匠(二)は二本足で立つ鳥居やπ(パイ)を、ロ号意匠は歯のない櫛をそれぞれ想起させる。このように、両端部の態様の相違点、取付部の形状と取付位置の相違点は、いずれも両意匠の形態上の特徴を顕著に表し、看者の注意を強く惹くものであって、それぞれ異なる印象を呈しており、ロ号意匠は、本件登録意匠(二)に類似していないといわざるをえない。

3 原告は、本件類似意匠(二)1ないし5の存在を根拠として、ロ号意匠は本件登録意匠(二)に類似すると主張するようであるが、類似意匠制度の趣旨については確認説が通説・判例であり、加えて類似意匠の意匠登録自体が無効原因を内包する場合もある(殊に、本件類似意匠(二)1ないし5の場合、何をもって類似としているか基準が全く不明瞭で、登録が無効のものも存在することは十分に予測できる。)から、ロ号意匠を直接本意匠たる本件登録意匠(二)と対比して類否を判断するのが最も正確なのである。

四  争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対して支払うべき金額)について

【原告の主張】

被告は、次の1及び2のとおり、イ号物件及びロ号物件の製造販売により合計九二四万二五六八円の純利益を得たところ、意匠法三九条一項により、右額は原告の被った損害の額と推定される。

1 被告は、平成五年一二月から平成六年六月までの間、イ号物件を一セット(二本)一万七五〇〇円で、月平均五〇〇セット、合計三五〇〇セット販売して六一二五万円の売上げを得た。その純利益は、少なくとも売上高の一五パーセントである九一八万七五〇〇円である。

2 被告は、平成五年一二月一六日から平成八年六月一二日までの間、ロ号物件を販売して合計三六万七一二六円の売上げを得た(但し、平成七年七月二五日以前の期間では三三万六五九〇円)。その純利益は、少なくとも売上高の一五パーセントである五万五〇六八円である。

【被告の主張】

1 【原告の主張】1の事実は争う。

2 同2の期間におけるロ号物件の売上高は認める。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(イ号意匠は、本件登録意匠(一)に類似するか)及び同2(本件登録意匠(一)の意匠登録には無効事由があり、本件意匠権(一)に基づく原告の請求は権利の濫用に当たるか)について

1  別添意匠公報<1>ないし<3>によれば、本件登録意匠(一)及び本件類似意匠(一)1・2の形態は、前記第三の一【原告の主張】1の(一)ないし(三)記載のとおりであることが認められる。

しかして、原告カタログ29号(「ユニオンドアーハンドル ダイジェストカタログ NO.29」。乙第六号証の1ないし3)には、次の形態の意匠、すなわち本件類似意匠(一)2と同一の形態に係る扉の把手(品番「T5615」)が掲載されていることが認められる。

<1> 縦方向に長い握り部の上端及び下端を横方向に短く曲げて横曲げ部を形成し、

<2> 上下両端の横曲げ部の端部を背面方向に更に短く曲げて取付部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部、横曲げ部と取付部のそれぞれの屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<4> 全長に亘って断面が円形状で、

<5> 握り部の中央部分がやや太径状に薄く隆起している。

そして、原告カタログ29号には「Printed 1978.2.20」との記載があるので(乙第六号証の3)、そのころ印刷されたものであると認められ、表紙には販売特約店として「菊清金属株式会社」との記載がある。カタログの発行の際、一般的に、カタログに印刷日として記載された日と現実に頒布された日との間に若干のズレが生じることのあるのは当裁判所に顕著な事実であるものの、右印刷日から一年半を経過した本件登録意匠(一)の出願日である昭和五四年八月二九日まで頒布されなかったものとは到底考えられないから、原告カタログ29号は遅くとも本件登録意匠(一)の出願日より相当前に頒布されたと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件類似意匠(一)2は、本件登録意匠(一)の出願前に既に公知となっていたものという外はない。

2  類似意匠の意匠登録制度は、本意匠の類似の範囲を確認するものであるから、本意匠である本件登録意匠(一)の類似意匠として意匠登録を受けている本件登録意匠(一)2が本件登録意匠(一)の出願前に既に公知となっていた以上、本件登録意匠(一)の意匠登録には、意匠法四八条一項一号、三条一項三号所定の無効事由のあることが明白である。

そして、原告は自ら本件登録意匠(一)に類似するとする本件類似意匠(一)2に係る扉の把手の掲載された原告カタログ29号を本件登録意匠(一)の出願日より相当前に頒布して自ら右無効事由を作出しておきながら、本件登録意匠(一)について意匠登録を受けたものであるから、本件意匠権(一)の侵害を理由とする原告のイ号物件についての製造販売の差止請求及び損害賠償請求は、権利の濫用に当たり、許されないといわなければならず、したがって、いずれも理由がないというべきである。

二  争点3(ロ号意匠は、本件登録意匠(二)に類似するか)について

1  本件登録意匠(二)に係る扉の把手の形態は、別添意匠公報<4>によれば、

<1> 全長に亘って断面が円形の棒体である握り部とその背面方向に設けられた上下二か所の取付部から成り、

<2> 縦方向に長い直線状の握り部の上端を横方向に曲げて横曲げ部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、横曲げ部自体は横方向に直線状であり、

<4> 屈曲部分を含む横曲げ部の横方向の長さは、屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約一〇分の三であり、

<5> 上側取付部は、上端から屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約五分の一下方の位置において、下側取付部は下端から同じく約七分の一上方の位置において、いずれも、長さが握り部を構成する棒体の円形断面の直径と同程度の短い断面円形の棒体を立設したものである、というものであることが認められる。

これに対し、ロ号意匠に係る扉の把手の形態は、争いのない別紙物件目録(二)の記載によれば、

<1> 全長に亘って断面が円形の棒体である握り部とその背面方向に設けられた上下二か所の取付部から成り、

<2> 縦方向に長い直線状の握り部の上端を横方向に曲げて横曲げ部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とするとともに、横曲げ部自体も全体として円弧状に湾曲しており、

<4> 屈曲部分を含む横曲げ部の横方向の長さは、屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約一〇分の二であり、

<5> 上側取付部は、上端から屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約四分の一下方の位置において、長さが握り部を構成する棒体の円形断面の直径と同程度の短い断面円形の棒体を立設したものであり、下側取付部は、握り部自体の下端を背面方向に短く曲げて形成したものである、

というものであることが認められる。

2  そこで、本件登録意匠(二)の形態とロ号意匠の形態とを対比すると、

<1> 全長に亘って断面が円形の棒体である握り部とその背面方向に設けられた上下二か所の取付部から成り、

<2> 縦方向に長い直線状の握り部の上端を横方向に曲げて横曲げ部を形成し、

<3> 握り部と横曲げ部の屈曲部分を円弧のアール形状とし、

<5> 上側取付部は、握り部の上端から下方の位置において、長さが握り部を構成する棒体の円形断面の直径と同程度の短い断面円形の棒体を立設したものである

点で一致し、

(1) 横曲げ部自体が、本件登録意匠(二)では横方向に直線状であるのに対して、ロ号意匠では全体として円弧状に湾曲しており、

(2) 屈曲部分を含む横曲げ部の横方向の長さが、本件登録意匠(二)では屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約一〇分の三であるのに対して、ロ号意匠では同じく約一〇分の二であり、

(3) 上側取付部の立設位置が、本件登録意匠(二)では上端から屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約五分の一下方の位置であるのに対して、ロ号意匠では同じく約四分の一下方の位置であり、下側取付部が、本件登録意匠(二)では下端から屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約七分の一上方の位置において、上側取付部と同様に長さが握り部を構成する棒体の円形断面の直径と同程度の短い断面円形の棒体を立設したものであるのに対して、ロ号意匠では握り部自体の下端を背面方向に短く曲げて形成したものである

点で相違する。

3  しかして、扉の把手は、これを握って扉を開閉するという本来の機能のほかに、建物や部屋の用途、室内装飾との調和等も考慮して選択されるものであり、その形状も握り部と取付部から成るという比較的単純なものであるから、正面から見た握り部の形状だけではなく、側面から見た取付部分の形状も観察の対象となると一応いうことができるが、これを握って扉を開閉するという本来の機能から、正面から見た握り部の形状の方が取付部の形状より看者の注意を強く惹くものであることは明らかであり、特に、取付部が正面から見て握り部の横方向へずれておらず正しく握り部の背面方向に設けられている場合や、取付部の長さが握り部の断面(太さ)との比較において長くない場合は、看者の注意を惹くという点において取付部の比重は更に小さくなるといわなければならない。

かかる観点から前記本件登録意匠(二)とロ号意匠との一致点及び相違点について検討するに、一致点のうちの<1><2><3>及び相違点のうちの(1)(2)は握り部の形状に関するものであり、一致点のうちの<5>及び相違点のうちの(3)は取付部の形状に関するものであるところ、本件登録意匠(二)やロ号意匠のように握り部が縦方向に長い直線状である把手の場合には、上下二か所に取付部を設けることはそのバランスからいって当然のことであり、その取付部は、握り部とは別の棒体を握り部の上端から少し下方の位置又は下端から少し上方の位置において立設するか、あるいは握り部自体の上端又は下端を背面方向に曲げて形成する以外にはほとんど考えられず(乙第一号証の1ないし3、第二号証、第四号証の1ないし4、第六号証の1ないし3、第一五号証の1ないし3)、しかも、取付部は、正面から見て握り部の横方向へずれておらず正しく握り部の背面方向に設けられていて、かつ、その長さが握り部を構成する棒体の円形断面の直径と同程度の短かさであり、上側取付部の立設位置の違いも、上端から屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約五分の一下方の位置(本件登録意匠(二))と同じく約四分の一下方の位置(ロ号意匠)というように小さいから、右相違点(3)が両意匠の類否に及ぼす影響は極めて小さいものといわなければならない。被告は、この点に関して、取付部の側面視において、本件登録意匠(二)は二本足で立つ鳥居やπ(パイ)を、ロ号意匠は歯のない櫛をそれぞれ想起させ、異なる印象を呈すると主張するが、採用できない(現に、他の形状は本件登録意匠(二)と同じで、下側取付部が握り部とは別の棒体を立設したものではなく、握り部自体の下端を背面方向に短く曲げて形成したものである点で異なるだけの本件類似意匠(二)1が本件登録意匠(二)の類似意匠として意匠登録を受けている。)。但し、右相違点(3)の結果、正面から見た握り部の下端が、本件登録意匠(二)では直線状(被告は「鋭利な刃物で切り落としたような状態」と主張する。)を呈するのに対して、ロ号意匠では円弧状(被告は「背面側に徐々にソフトに湾曲した状態」と主張する。)を呈するので、その限りでは、相違点(3)も握り部の形状に関する相違ということができるが、把手を正面から見る場合、通常、握り部の下端はやや斜め上から見下ろすことになり、その視点では本件登録意匠(二)における握り部の下端も円弧状を呈するといってよいから、相違点(3)が両意匠の類否に及ぼす影響は小さいものというべきである。

これに対し、相違点(1)(2)は、前記のとおり握り部の形状に関するものであるが、まず、相違点(2)は、屈曲部分を含む横曲げ部の横方向の長さの違いが、屈曲部分を含む握り部の縦方向の長さの約一〇分の三(本件登録意匠(二))と約一〇分の二(ロ号意匠)というように小さいから、これが両意匠の類否に及ぼす影響は極めて小さいものといわなければならない(被告は、この点に関して、本件登録意匠(二)では「端部」の存在感が大きく、ロ号意匠では「端部」の存在感が比較的小さい旨主張するが、そのような存在感の差異は認められない。)。相違点(1)は、確かにこの相違により正面から見た握り部(横曲げ部)の形状に差異をもたらすことは否定できないが(被告は、本件登録意匠(二)は逆L字形を、ロ号意匠はステッキを想起させるという。)、ロ号意匠における横曲げ部自体の形状も特に奇抜なものではなく(「横曲げ部」という形状の域を出ない。)、前示のとおり、本件登録意匠(二)やロ号意匠のように握り部が縦方向に長い直線状である把手の場合には、その取付部は、握り部とは別の棒体を握り部の上端から少し下方の位置又は下端から少し上方の位置において立設するか、あるいは握り部自体の上端又は下端を背面方向に曲げて形成する以外にはほとんど考えられないところ、前者の、取付部が握り部とは別の棒体を握り部の上端から少し下方の位置又は下端から少し上方の位置において立設するタイプの把手において、縦方向に長い直線状の握り部が取付部より外方に延びる上端部分又は下端部分を、どのような形状であれ横方向に曲げて横曲げ部を形成した扉の把手が公知となっていたのであれば格別(そうであれば、その横曲げ部自体の形状の差異が意匠の類否に及ぼす影響が大きくなる。なお、後者の、取付部が握り部自体の上端又は下端を背面方向に曲げて形成するタイプの把手においては、縦方向に長い直線状の握り部が取付部より外方に延びる上端部分又は下端部分というもの自体が存しない。)、右のような形状の扉の把手が本件登録意匠(二)の出願前に存在したとの事実を認めるに足りる証拠はないから、縦方向に長い直線状の握り部の上端を横方向に曲げて横曲げ部を形成したという形状自体(一致点<2>)が扉の把手の意匠として斬新なところであり、本件登録意匠(二)において特に看者の注意を強く惹く点、すなわち意匠の要部であるといわなければならない。

このように、ロ号意匠は、本件登録意匠(二)の要部である一致点<2>を備えており、それ故に前記のような相違点のもたらす印象の差異を凌駕して全体として本件登録意匠(二)と共通の美感を起こさせるものというべきであるから、本件登録意匠(二)に類似するというべきである。以上に反する被告の主張は採用することができない。

4  したがって、被告がロ号物件を製造販売する行為は、本件意匠権(二)を侵害するものであるが、本件意匠権(二)は、前記第二の一1(二)(1)記載のとおり平成七年七月二五日の経過をもって既にその存続期間が終了しているから、本件意匠権(二)に基づいてロ号物件の製造販売の差止を求める請求は、理由がないといわなければならない。

一方、被告は、本件意匠権(二)の存続期間中にロ号物件を製造販売したことにより原告の被った損害を賠償すべき義務があることは明らかである。

三  争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対して支払うべき金額)について

被告が、平成五年一二月一六日から本件意匠権(二)が存続期間終了により消滅した平成七年七月二五日までの間に、ロ号物件を販売し合計三三万六五九〇円の売上げを得たことは、当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、その純利益は売上高の一五パーセントと認められるから、被告はロ号物件の製造販売によって五万〇四八九円の純利益を得たと認められる。

したがって、原告は、意匠法三九条一項により、右と同額の損害を被ったものと推定されるから、原告の損害賠償請求は右の限度で理由があり、その余は理由がないことになる。

第五  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

物件目録(一)

形状

添付図面(一)に示したとおり。

物品の名称

建物用扉の把手

意匠の説明

底面図は平面図と対称にあらわれる。

図面(一)

<省略>

物件目録(二)

形状

添付図面(二)に示したとおり。

物品の名称

扉の把手

図面(二)

<省略>

意匠公報<1>

日本国特許庁

昭和57年(1982)3月11日発行 意匠公報(S)

49-62

572561 意願 昭54-36028 出願 昭54(1979)8月29日

登録 昭56(1981)12月25日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一 外1名

意匠に係る物品 建物用扉の把手

説明 底面図は平面図と対称にあらわれる。

<省略>

意匠公報<2>

日本国特許庁

昭和61年(1986)6月9日発行

意匠公報(S)

L5-632類似

572561の類似1 意願 昭58-42035 出願 昭58(1983)9月28日

登録 昭61(1986)3月13日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一

審査官 内野雅子

意匠に係る物品 建物用扉の把手

説明 底面図は平面図と対称にあらわれる。

<省略>

意匠公報<3>

日本国特許庁

昭和61年(1986)6月9日発行 意匠公報(S)

L5-632類似

572561の類似2 意願 昭58-42036 出願 昭58(1983)9月28日

登録 昭61(1986)3月13日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一

審査官 内野雅子

意匠に係る物品 建物用扉の把手

説明 底面図は平面図と対称にあらわれる。

<省略>

意匠公報<4>

昭和55.10.1発行 意匠公報(S)

49-62

540987 出願 昭53.10.4 意願 昭53-42396 登録 昭55.7.25

創作者 立野一郎 大阪市西区北堀江通3丁目66番地

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一外1名

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報<5>

日本国特許庁

昭和57年(1982)5月4日発行 意匠公報(S)

49-62類似

540987の類似1 意願 昭53-42397 出願 昭53(1978)10月4日

登録 昭57(1982)2月25日

創作者 立野一郎 大阪市西区北堀江通3丁目66番地

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一 外1名

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報<6>

日本国特許庁

昭和58年(1983)8月6日発行 意匠公報(S)

(49-62)

L5-632類似

540987の類似2 意願 昭56-50063 出願 昭56(1981)11月10日

登録 昭58(1983)5月23日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番地22号

代理人 弁理士 中島信一

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報<7>

日本国特許庁

昭和61年(1986)6月9日発行 意匠公報(S)

L5-632類似

540987の類似3 意願 昭58-11045 出願 昭58(1983)3月17日

登録 昭61(1986)3月13日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一

審査官 内野雅子

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報<8>

日本国特許庁

昭和61年(1986)6月9日発行 意匠公報(S)

L5-632類似

540987の類似4 意願 昭58-11046 出願 昭58(1983)3月17日

登録 昭61(1986)3月13日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一

審査官 内野雅子

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報<9>

日本国特許庁

昭和61年(1986)6月9日発行 意匠公報(S)

L5-632類似

540987の類似5 意願 昭58-11047 出願 昭58(1983)3月17日

登録 昭61(1986)3月13日

創作者 立野一郎 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

意匠権者 株式会社ユニオン 大阪市西区南堀江2丁目13番22号

代理人 弁理士 中島信一

審査官 内野雅子

意匠に係る物品 扉の把手

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

意匠公報

<省略>

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