大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7833号 判決 1995年1月27日
原告
林宏直
被告
豊新運輸株式会社
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、金一六八八万四七一八円及びこれに対する平成六年七月一日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。
第二事案の概要
大型貨物自動車と原動機付自転車の接触事故によつて、原動機付自転車の運転者が傷害を負つた事故について、被害者が大型貨物自動車の運転者の雇用者兼同車の保有者に、民法七一五条、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実(証拠によつて認定する事実は証拠摘示する。)
1 本件事故の発生等
日時 平成四年七月三日午前一一時五〇分頃
場所 大阪市東淀川区大桐五丁目五番一号先路上(大阪高槻線)
態様 被告保有、藤巻運転の大型貨物自動車(大阪一一う六〇二四)(被告車両)と原告運転の原動機付自転車(大、吹田市か四三二一)(原告車両)が接触した。
2 被告の責任
被告は、被告車両の保有者であつて、本件事故は、被告車両の運行によつて生じたものである。
藤巻は、被告の被用者であつて、本件事故は、藤巻が被告の事業の執行につき、被告車両を運転中に起こつたものである。
3 傷害
原告は、本件事故によつて、左肩部左肘関節部打撲挫傷、第一腰椎圧迫骨折、左大腿部挫創兼圧挫(皮下組織断裂)、右下腿打撲挫傷兼擦過傷の傷害を負い、平成四年七月三日から同年八月三一日までの六〇日間南部医院に入院し、同年九月一日から平成六年五月一一日まで同病院に通院した(実通院日数四二日)(甲三)。
4 後遺障害
原告は、平成六年五月一一日症状固定し、自賠法施行令二条別表一一級七号に該当する第一腰椎圧迫骨折の障害を負つた(甲二七)。
5 既払い
原告は、本件事故に関する損害賠償として、自賠責保険から合計三九二万八二八五円の支払いを受けた。
二 争点
1 藤巻の過失の有無ないし被告の免責の可否及び過失相殺
(一) 被告主張
本件事故は、被告車両が直線路(本件道路)を直進し、丁字型交差点(本件交差点)に差し掛かつた際に、原告車両が、交差道路から、一旦停止の規制があるのに、それに従わず、本件交差点に進入し、被告車両の左側面に衝突したものである。藤巻は、本件交差点に近付くに際し、原告車両が交差道路を本件交差点に向かつて進行していたのに気付いたが、停止線で停止すると考え進行し、本件交差点を超えたあたりで、交差点に左折進入してくる原告車両に気付き、危険を感じてブレーキをかけたものの、及ばなかつたのであるから、藤巻に過失はなく、本件事故は、専ら、原告の一旦停止義務違反、前方不注視、ハンドル操作不適等によつて生じたもので、被告車両には本件事故と因果関係のある構造上の欠陥ないし機能上の障害はないから、被告には、民法七一五条の責任はなく、自賠法三条の責任も免責となる。
なお、藤巻になんらかの過失が認められるとしても、前記の事故態様からは、九割以上の大幅な過失相殺が認められるべきである。
(二) 原告主張
争う。本件事故は交差点、本件の直進路上で、本件交差点を超えて直進していた被告車両の通過を待つため、道路左端で停止しようとしていた原告車両に接触したものであるから、専ら、藤巻の前方不注視によるものであつて、被告には、七一五条の責任があり、自賠法三条の責任も免責とされない。
2 損害
(一) 原告主張
治療費六万六二〇四円、入院付添費四五万七〇九〇円(4500円×29+1万5410円+30万円+1600円×2+7980円)、入院雑費七万八〇〇〇円(1300円×60)、装具代金二万五〇四二円、交通費一万四九六〇円(1520円+320×42)、休業損害六九六万三〇六〇円(30万8100円÷30×678)、逸失利益四一六万三〇二一円(29万5300円×12×0.2×5.874)、傷害慰藉料二二〇万円、後遺障害慰藉料三三〇万円、原告車両代五万円、廃車料八〇〇〇円、整体専門学校授業料六〇万円、弁護士費用一一〇万円
(二) 被告主張
争う。
休業損害及び逸失利益は、原告は当時定年後、整体専門学校に通つていたものであつて、稼働して収入を得ているものではなく、休業損害及び逸失利益は認められない。また、障害の内容も腰椎の変形であるから、就労の制限はなく、この点からも逸失利益はない。
要付添期間は、診断書によると一五日を超えるものではない。
原告車両は一〇年以上前のモデルの車両なので、時価は数千円に過ぎない。
第三争点に対する判断
一 藤巻の過失の有無ないし被告の免責の可否及び過失相殺
1 本件事故の態様
(一) 前記認定の事実に、甲二、三、三二ないし三四、検甲一ないし一三、乙一、証人藤巻証言、原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。
本件事故現場は、南北に延びる片側一車線、幅員七メートル、南行車線の幅員三・五メートルの直線路(本件道路)と東側に延びる中央線のない幅員六メートルの交差道路が交わる、信号機によつて規制されていない丁字型交差点(本件交差点)附近であり、その北側には十字型交差点(大桐五丁目交差点)があり、その概況は別紙図面のとおりである。本件事故現場は市街地にあり、本件道路は歩車道の区別があり、本件交差点に、本件道路北側から進入する際には左側交差道路方向の見通しは悪く、交差道路から進入する際には左、右の本件道路方向の見通しは悪く、交通は頻繁であつた。本件事故現場附近の道路はアスフアルトによつて舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時乾燥しており、最高速度は時速四〇キロメートルに規制されていて、追越しのための右側部分はみ出しは禁止され、交差道路から本件道路に進入するに際し、一時停止が必要とされていた。
被告車両の車幅は、二・四九メートル、原告車両の車幅は、〇・五二メートルであつた。
藤巻は、被告車両を運転して、本件道路南行車線を南に進行していたが、大桐五丁目交差点手前で、対面信号が赤だつたので停止し、右信号が青となつたので、発進した。被告車両の運転席が別紙図面<1>の文字の附近となつた際に、初めて交差道路への見通しが開けるので、その方向の安全を確認したところ、原告車両が、同図面より東側に走行しているのを発見したが、交差道路から本件道路に進入するには一時停止が必要とされているので、原告車両は停止し、被告車両の通過を待つて本件交差点に進入すると考え、そのまま進行を続けた。被告車両が同図面<1>附近に至つた際、再び同図面<ア>附近で、被告車両に向かつて接近してきている原告車両を認め、気になつたため、左のサイドミラーで原告車両の動静に注意しながらも道路にほぼ平行のまま、左側の余地が〇・八、九メートルの位置を進行し続けたところ、同図面<2>附近で同図面<イ>附近まで進行してきた原告車両を認め、危険を感じ、急ブレーキをかけたが及ばず、同図面<×>附近で、同図面<3>附近の被告車両の左側面中央附近(車体長一一・八八メートルのうち、左前方から六・一メートル)サイドバンパーが、同図面<ウ>附近を進行中の原告車両の右ハンドルに接触し、被告車両は同図面<4>附近に停止し、原告車両は、同図面<1>附近に転倒した。なお、被告車両は本件事故当時、時速約二〇ないし三〇キロメートルで走行していた。
(二) 甲二、三二ないし三四の各記載、原告本人尋問における供述中には、原告は、本件交差点の一時停止線を超え、左右の見通しの良い位置で停止し、被告車両を認めたが、先に左折進行しても危険がないと判断して、左折進行したところ、対向車線からも大型貨物自動車が進行してきていたので、後方から迫る被告車両との衝突の危険を避けるため、同図面<×>附近より約八・五メートル南側に停止していたところ、そこで、被告車両に衝突されたが、原告が二次衝突を避けるため同図面<×>附近ないしそれに対応する歩道上に原告車両を移動させたことによつて、実況見分時に、藤巻がその地点を衝突位置であると虚偽の供述をしたとする部分がある。しかし、それらの内容を比較検討すると、原告が事故後原告車両を移動させた位置が歩道上か否か、衝突の態様が追突か側面にひつかけられたのか、原告が被告車両を見た際に大桐五丁目交差点手前で停止していたのか進行していたのか等、重要な部分に矛盾ないし変遷がある。また、最終的な供述である原告本人尋問の際には、原告車両の移動先が車道上とされており、二次衝突を避ける目的のために適切な位置とは言い難い点、原告車両が停止してから被告車両が追越すまで二〇秒経過したとされており、やり過ごす時間としては長過ぎる点、大桐五丁目交差点の南行き車両信号は赤であつたとしながら、被告車両より先行して、接触を避けるという方法を選択しなかつた点等不自然な点が少なくない。したがつて、甲二、三二ないし三四の各記載、原告本人尋問における供述中の右部分は、甲三、乙一、証人藤巻の証言に照らし採用することができない。
2 当裁判所の判断
前記認定の事実からすると、藤巻も、被告車両が同図面<1>附近に至つた際、原告車両が同図面<ア>附近すなわち、一時停止線附近で進行を続けていることに気付いていたので、そのまま本件道路へ進入する可能性が少なくないことは認識できるといえ、より減速し、原告車両の動静に注視し続ける義務があつたのにそれらを怠つた点においては落度があつたと言えなくもない。しかし、同図面<1>から衝突の位置である同図面<×>までの距離は約四メートルであるから、本件事故と同様に衝突を起こす蓋然性がある被告車両先端部分が同図面<×>に至るまでには、時速二〇キロメートルを前提としても〇・七、八秒の位置関係にあるのだから、その間にブレーキをかけ、停車させる等の適切かつ効果のある処置をとることは不可能であつたといえ、この落度と本件事故との因果関係がない。
また、被告車両の運転席が同図面<1>の文字附近であつた時点に、原告車両は同図面の東よりを走行していたのを見た時点では、一時停止せずそのまま交差点に進入する可能性を考慮に入れることができたとしても、その際の被告車両の速度である時速二、三〇キロメートルから、より減速する義務までは認められない。
したがつて、本件事故と因果関係のある藤巻の過失はなく、本件事故は、専ら、被告車両が交差点に先入しており、本件道路左端と被告車両との間隔が〇・八、九メートルしかないのに、そこに幅〇・五二メートルの原告車両を運転して、左折進入した上、ハンドル操作を誤り、被告車両に接触した原告の過失によるものであつて、被告車両の構造上の欠陥、機能上の障害は本件事故と関係がないから、被告の自賠法三条の責任は免責であつて、民法七一五条の責任も負わない。
二 結論
よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。
(裁判官 水野有子)
(別紙図面)