大阪地方裁判所 平成7年(わ)443号・平7年(わ)600号・平7年(わ)862号・平7年(わ)1267号・平7年(わ)1654号 判決
右の者に対する所得税法違反、法人税法違反、相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官酒井徳矢出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年一〇月及び罰金六〇〇〇万円に処する。
未決勾留日数中一〇〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
罪となるべき事実)
被告人は、
第一 東野喜三郎(住所は大阪府堺市長曽根町五一一番地)、長本こと黄永彦、尾田洋治、鈴木彰(以下「鈴木」という。)及び川合陽一と共謀の上、右東野の平成三年分の所得税を免れようと考え、別紙(一)の(1)修正損益計算書記載のとおり、右東野の平成三年分の総合課税の総所得金額が八万四〇〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が四億八二八八万三二〇〇円で、これに対する所得税額が一億一八五五万〇五〇〇円であった(別紙(一)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、架空の譲渡原価を計上するなどの方法により、その所得の一部を秘匿した上、法定の申告期限後の平成四年六月一五日、大阪府堺市南瓦町二番二〇号所在の所轄堺税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総合課税の総所得金額が二九五万八七八〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が五五九〇万円で、これに対する所得税額が一二〇三万八八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、別紙(一)の(2)税額計算書記載のとおり、平成三年分の正規の所得税額と右申告所得税額との差額一億〇六五一万一七〇〇円を免れ
第二 北野達雄が平成四年四月九日に死亡したことに基づき、同人の長男として、他の相続人とともに右北野達雄から財産を相続した北野正高から依頼を受け、同人の相続税の申告に係わったものであるが、右北野正高、同人の実母である北野美代並びに前同様に右北野正高から依頼を受けて同人の相続税の申告に関わった鈴木及び岡田忠彦と共謀の上、右北野正高の相続税を免れようと考え、別紙(二)の(1)及び別紙(二)の(3)相続財産の内訳表記載のとおり、各相続人の課税価格の合計額が一五億〇四三八万一〇〇〇円であったにもかかわらず、相続財産の一部を除外するとともに、北野達雄が他から合計一一億円の債務を負担していた旨仮装した上、
一 右北野正高の相続財産にかかる実際の課税価格が二億〇五三七円で(別紙(二)の(1)相続財産の内訳表参照)、これに対する相続税額が一億〇六九七万七八〇〇円であった(別紙(二)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、前記仮装債務一一億円のうち、法定相続分の一億八三三三万三三三三円を承継したと仮装するなどした上、平成五年一月四日、大阪府東大阪市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右北野正高の相続財産にかかる課税価格が六〇〇六万八〇〇〇円で、これに対する相続税額が一二七〇万六八〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(二)の(2)税額計算書記載のとおり、右北野正高の相続税九四二七万一〇〇〇円を免れ
二 前記相続税の申告後の同年一月二八日に行われた前記北野達雄の相続人間における遺産分割により、右北野正高の相続税の修正申告をするにあたり、同人の相続財産にかかる実際の課税価格が七億一五九一万円(修正による増加分四億五六一八万円)で(別紙(二)の(3)相続財産の内訳表参照)、これに対する相続税額は三〇億〇五四五万四一〇〇円(修正による増加分一億九八四七万六三〇〇円)となった(別紙(二)の(4)税額計算書参照)にもかかわらず、前記仮装債務一一億円のうち、五億五〇〇〇万円を承継したと仮装するなどした上、法定の申告期限後の同年二月二日、前記所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し、右北野正高の相続財産にかかる課税価格が一億八〇二〇万五〇〇〇円(修正のよる増加分一億二〇一三万七〇〇〇円)で、これに対する相続税が三五二九万六七〇〇円(修正による増加分二二五八万九九〇〇円)である旨の内容虚偽の相続税の修正申告書を提出し、もって不正の行為により、さらに、右北野正高の修正による増加分の相続税一億七五八八万六四〇〇円を免れ
第三 大阪府豊中市新千里東一丁目三番一〇四号に主たる事務所を置き、組合員の取り扱う不動産の共同販売及びあっせん、組合員の福利厚生に関する事業等を目的とする事業共同組合(昭和五八年一二月三一日より払込済出資総額は一四〇〇万円)である千里住宅センター事業協同組合の代表理事として同組合の業務全般を総括している野崎實から同組合の法人税確定申告手続を依頼されたものであるが、右野崎實、同組合の顧問税理士であった平井龍介(以下「平井」という。)及び前同様に右野崎から同組合の法人税確定申告手続を依頼された鈴木と共謀の上、同組合の業務に関し、法人税を免れようと考え、平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同組合の実際の所得金額が一一億〇五八一万三三二三円(別紙(三)の(1)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が九億〇一五〇円(別紙(三)の(2)税額計算書参照)で、これに対する法人税額が三億八八一三万九九〇〇円であった(別紙(三)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、架空の固定資産売却損を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成五年二月一九日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五六一六万七六五八円、課税土地譲渡利益金額が九億〇一五〇万一〇〇〇円で、これに対する法人税額が一億〇四七三万五五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(三)の(2)税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税二億八三四〇万四四〇〇円を免れ
第四 自己が所有していた不動産を譲渡した藤井好子(平成六年三月八日ころの住所は大阪府箕面市桜ケ丘一丁目六番二七号)から依頼を受け、同人の所得税確定申告手続に関与したものであるが、右藤井好子、同人から依頼を受けて同申告手続に関与した野崎奏秀、鈴木及び平井と共謀の上、右藤井好子の所得税を免れようと考え、別紙(四)の(1)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の総合課税の総所得金額が二六一五万〇九一七円、分離課税の長期譲渡所得金額が一四億〇一〇八万六四三六円で、これらに対する所得税額が四億二八五〇万二五〇〇円であった(別紙(四)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、譲渡収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、所轄前記豊能税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総合課税の総所得金額が二一〇一万七六一六円、分離課税の長期譲渡所得金額が一億〇五一五万〇四七六円で、これらに対する所得税額が三七一五万四七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(四)の(2)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税三億九一三四万七八〇〇円を免れ
第五 自己が所有していた不動産を譲渡した酒井君子(平成六年三月八日ころの住所は大阪府豊中市新千里西町三丁目一六番一五号)から依頼を受け、同人の所得税確定申告手続に関与したものであるが、右酒井君子、同人から依頼を受けて同申告手続に関与した野崎泰秀、鈴木及び平井と共謀の上、右酒井君子の所得税を免れようと考え、別紙(五)の(1)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の総合の課税の総所得金額が六〇七万五六四〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が一〇億五七六三万〇二五七円、退職の所得金額が八九〇万円で、これらに対する所得税額が二億二〇八八万七三〇〇円であった(別紙(五)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、譲渡収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、所轄前記豊能税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総合課税の総所得金額が二三一万四七五三円、分離課税の長期譲渡所得金額が一億一〇八六万三五三九円、退職の所得金額が八九〇万で、これらに対する所得税額が二〇八八万六七〇〇円(ただし、申告書には誤って二〇八七万六七〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって不正の行為により、別紙(五)の(2)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税二億〇〇〇〇万〇六〇〇円を免れ
第六 自己が所有していた不動産を譲渡した藤井輝夫(平成六年三月八日ころの住所は兵庫県西宮市北六甲台四丁目一七番一五号)から依頼を受けた野崎泰秀が右藤井輝夫の代理人として同人の所得税確定申告手続に関与したところ、右野崎泰秀、鈴木及び平井と共謀の上、右藤井輝夫が右所有不動産を売却したことに関して同人の所得税を免れようと考え、別紙(六)の(1)修正損益計算書記載のとおり、同人の平成五年分の分離課税の長期譲渡所得金額が一億九八四八万円で、これに対する所得税額が五九三九万三一〇〇円であった(別紙(六)の(2)税額計算書参照)にもかかわらず、譲渡収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成六年三月八日、兵庫県西宮市江上町三番三五号所在の所轄西宮税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の分離課税の長期譲渡所得金額が八五〇万円で、これに対する所得税額が二三九万九一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって不正の行為により、別紙(六)の(2)税額計算書記載のとおり、平成五年分の所得税五六九九万四〇〇〇円を免れ
第七 大阪府吹田市山田東一丁目一九番二七号に本店を置き、タオルの箱詰め並びに不動産の仲介及び売買等を営む村田紙器株式会社(昭和五七年八月一八日より資本の額は四〇〇万円、平成六年一一月二一日解散)の代表取締役(同日以降は清算人)として同社の業務全般を総括していた村田敏から依頼を受けて同社の法人税確定申告手続に関与したものであるが、右村田敏並びに右同様に同人から依頼を受けて右申告手続に関与した竹内哲由紀、鈴木及び平井と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと考え、別紙(七)の(1)修正損益計算書記載のとおり、平成六年一月一日から同年一一月二一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が八億〇三九八万九〇五二円で、これに対する法人税額が三億〇〇四九万六一〇〇円であった(別紙(七)の(2)の税額計算書参照)にもかかわらず、固定資産売却益の一部を除外する等の行為により、その所得を秘匿した上、同年一二月一九日、同市片山町三丁目一六番二二号所在の所轄吹田税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が〇円で、これに対する法人税額が〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書(平成六月一月一日から同年一一月二一日までの事業年度分の解散申告書)を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙(七)の(2)税額計算書記載のとおり、同社の右事業年度の法人税三億〇〇四九万六一〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
(注) 括弧内の漢数字は、証拠等関係カード検察官請求分記載の証拠番号を示す。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
判示第一の事実について
一 第一回公判調査中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官調書〔六九〕
一 第一回公判調書中の分離前の相被告人東野喜三郎、同鈴木彰、同長本こと黄永彦及び同尾田洋治の各供述部分
一 東野喜三郎〔四八、五〇、五三、五四〕、鈴木彰〔六二、六三〕長本こと黄永彦〔七八、七七〕、尾田洋治〔八二、八三〕、山本正雄〔三八ないし四〇〕、松田貞彦〔四一〕、増田義一〔四二〕、林田正幸〔四四〕及び服部潔〔四五〕の検察官調書
一 査察官調査書〔三ないし二二〕
一 査察官調査報告書〔二五、二九〕
一 証明書〔一〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二二〕
一土地登記簿謄本〔二三、二四〕
判示第二及び第四ないし第六の各事実について
一 第二一回公判調書中の被告人の供述部分
一 第二一回公判調書中の分離前の相被告人鈴木彰の供述部分
判示第二の事実について
一 被告人の検察官調書〔三四六〕
一 第二一回公判調書中の分離前の相被告人北野正高、同北野美代及び同岡田忠彦の各供述部分
一 北野正高〔三三三ないし三三五〕、北野美代〔三四〇、三四一〕、鈴木彰〔三四四〕、岡田忠彦〔三四七〕、森口英夫〔三一六〕、高村久雄〔三一七〕、片岡恵子〔三一八〕、片岡豊〔三一九〕、帆谷幸彦〔三二〇〕、杉本博子〔三二一〕、池上毅〔三二二〕、林田正幸〔三二三〕、草川あい子〔三二四〕、増田義一〔三二八〕、北川六之助〔三二九〕及び野口義博〔三三一〕の検察官調書
一 吉田千代子の検察事務官調書〔三三〇〕
一 査察官調査書〔二九七ないし三一五〕
一 証明書〔二九四、二九五〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二九六〕
判示第三及び第七の各事実について
一 第二回公判調書中の被告人の供述部分
一 第二回公判調査中の分離前の相被告人鈴木彰及び同平井龍介のの各供述部分
判示第三の事実について
一 被告人の検察官調書〔一三六、一三七〕
一 第二回公判調書中の分離前の相被告人野崎實の供述部分
一 野崎實〔一一五、一一七ないし一二三〕、平井龍介〔一二九ないし一三二〕、鈴木彰〔一三四、一三五〕、吉村敏夫〔一〇三、一〇四〕、鈴木義憲〔一〇二〕、野崎泰秀〔一〇六〕、野崎久義〔一〇六〕、蛭田かおる〔一〇九〕、妙中英幸〔一一〇〕及び仁後修一〔一一一〕の検察官調書
一 査察官調査書〔九四ないし九九〕
一 証明書〔八七〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔八九〕
一 法人登記簿謄本〔一一二〕
一 閉鎖された名称・役員欄用紙謄本〔一一三〕
一 土地登記簿謄本〔九〇〕
一 建物登記簿謄本〔九一〕
判示第四ないし第六の各事実について
一 被告人の検察官調書〔二七九〕
一 第二一回公判調書中の分離前の相被告人野崎泰秀及び同平井龍介の各供述部分
一 藤井好子〔二三六、二六四、二六六、二六七〕、野崎泰秀〔二七〇、二七二ないし二七四〕、鈴木彰〔二七七〕、平井龍介〔二八〇ないし二八四〕、酒井君子〔二八六、二八八、二八九〕、上村一郎〔二四六〕、藤井静雄〔二五三〕及び柿田ヨシエ〔二五六〕の検察官調書
一 査察官報告書〔二三四〕
一 査察官調査書〔二三五〕
判示第四及び第五の事実について
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二三二〕
判示第四の事実について
一 第二一回公判調書中の分離前の相被告人藤井好子の供述部分
一 藤井好子〔二六五〕、野崎泰秀〔二七一〕、上村一郎〔二四七〕、藤井宏子〔二四八〕、能方孝子〔二四九〕、近藤良子〔二五〇〕、里山利子〔二五一〕及び藤井康守〔二五二〕の検査官調書
一 査察官調査書〔二三六ないし二四〇〕
一 証明書〔二二九〕
判示第五の事実について
一 第二一回公判調書中の分離前の相被告人酒井君子の供述部分
一 鈴木彰〔二七八〕及び宇治田昌弘〔二五四〕の検察官調書
一 査察官調査書〔二四一ないし二四四〕
一 証明書〔二三〇〕
判示第六の事実について
一 藤井輝夫〔二五五〕の検察官調書
一 査察官調査書〔二四五〕
一 証明書〔二三一〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔二三三〕
判示第七の事実について
一 被告人の検察官調書〔一九一ないし一九三〕
一 第二回公判調書中の分離前の相被告人村田敏及び同竹内哲由紀の各供述部分
一 村田敏〔一六九ないし一七四、一七六〕、竹内哲由紀〔一八〇ないし一八四〕、鈴木彰〔一八八ないし一九〇〕、平井龍介〔一九四、一九五、一九七〕、三輪道次郎〔一五八〕、村田隆市〔一五九〕、村田長太郎〔一六〇、一六一〕、中山賀壽代〔一六二〕、藤原田鶴子〔一六三〕、池上毅〔一六四〕及び汐崎和志〔一六五〕の検察官調書
一 査察官調査書〔一四三ないし一五七〕
一 証明書〔一三九〕
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面〔一四〇〕
一 商業登記簿謄本〔一四一〕
一 土地登記簿謄本〔一四二〕
(法令の適用)
被告人の判示第一、第四及び第五の各所為は、いずれも平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に、判示第二の各所為は、包括して旧刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に、判示第三及び第七の各所為は、いずれも旧刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第六の所為は、旧刑法六五条一項、六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項にそれぞれ該当するところ、いずれも所定刑中懲役及び罰金刑の併科を選択し、かつ、情状により、それぞれ、判示第一及び第四ないし第六の各罪については所得税法二三八条二項を適用して右の罰金の額はいずれもその免れた所得税の額に相当する額以下とし、判示第二の罪については相続税法六八条二項を適用して右の罰金の額はその免れた相続税の額に相当する額以下とし、判示第三及び第七の各罪については法人税法一五九条二項を適用して右の罰金の額はいずれもその免れた法人税の額に相当する額以下とすることとし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年一〇月及び罰金六〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
一 本件は、被告人が、判示のとおり、鈴木をはじめとする各共犯者と共謀の上、所得税確定申告手続四件、相続税申告手続一件、法人税確定申告手続二件に関与し、合計一六億円余りもの巨額の脱税を行ったものであって、ほ脱税額合計についてのほ脱率は約八八・三パーセントに達する高率であって、納税義務に著しく反する事案である。
二 ところで、本件各脱税の犯行態様についてみるに、東野喜三郎の事案は、東野の売却した土地の売却益に関し、架空の譲渡原価及び譲渡費用を計上し、その旨の架空領収証を作成することによって、長期譲渡所得金額を四億五〇〇〇万円余り除外して同人の所得税を申告したものであり、また、北野正高の事案は、架空借入金一一億円を相続財産に計上する一方、現金、預金及び有価証券を一億円余り除外して相続税の申告書を提出し、その後、北野らにおける遺産分割協議の成立を持って、右同様の相続税の修正申告書を提出したものであり、さらに、千里住宅センターの事案は、代表者野崎實個人固有の不動産を鈴木が購入して高額で千里住宅センターに対して売却し、これを低額で他に売却したかのように仮装し、その旨の契約書を作成することによって約九億円の固定資産売却損を計上したほか、一億円の架空の開発投資損失を計上した上で法人税を申告したものであり、藤井好子、酒井君子及び藤井輝夫の事案は、右三名が売却した土地の譲渡利益に関し、確定申告書上、不動産譲渡収入の一部を除外する一方、架空の不動産譲渡費用を計上するなどして、藤井好子については約一三億円、酒井君子については約九億円、藤井輝夫については約二億円、それぞれ長期譲渡書金額を過少にした上、酒井君子分については、他へ売却予定であった同女所有の不動産につき、これを一旦鈴木に対し低額で譲渡したように仮装し、架空の短期土地譲渡損失約八八〇〇万円を計上して損益通算により長期譲渡所得金額を一部除外した上、それぞれ所得税を申告したものであり、村田紙器の事案は、同社が売却した土地について、被告人及び鈴木がそれぞれ四分の一ずつ持分を有していたかのように仮装し、その旨の内容虚偽の和解調書を作成することによって六億円の固定資産売却益を除外した上、二億八〇〇〇万円の架空の貸倒損失を計上することにより、税額を〇円として法人税を申告したものである。
三 ところで、本件各犯行は、判示のとおり、いずれの事案とも、鈴木と共謀の上、敢行されたものであるところ、被告人は、昭和五六年一月ころ、自由民主党大阪同志会(以下「自民党大阪同志会」という。)に、また、昭和五八年ころ、自由民主党同志会東京本部(以下「自民党同志会」という。)に入会し、その後自民党同志会常務理事となったが、右両会の活動として国税局等の行政官庁に挨拶回りを行い、右官庁の担当者らと懇意になる一方、昭和五九年ころ、税務署と交渉するよう依頼された際、自民党同志会の肩書や右国税局担当者等との人的関係を利用して税務署と折衝した結果、希望どおりに落ち着き、依頼者から報酬として一〇〇万円を受け取ったことから、自民党同志会の肩書を利用すれば、国税局や税務署は、簡単に税金をまけてくれるものだと考えられるようになったところ、昭和六一年ころ、鈴木と知り合い、鈴木から紹介された納税義務者について被告人がいわゆる脱税請負を行ったことを発端として、そのころから、鈴木と共に脱税請負を行うに至り、その中で本件各犯行は敢行されたものである。
四 そこで、右各犯行における被告人の関与の態様について検討するに、まず、本件各犯行のうち村田紙器以外の事案については、被告人は、鈴木から、同人が依頼を受けてきた脱税請負案件についての努力を求められてことを了承した上、自民党同志会における活動を通じて培った国税局担当者等との人的関係を悪用して、自民党同志会の肩書を使って国税局担当者等に働きかければ内容虚偽の本件各申告書であっても用意に受理され、かつ、事後的にも税務調査を受けることがないとの考えから、東野喜三郎の事案においては、申告書提出前から鈴木と共に所轄税務署に赴き、被告人において従前面識のあった係官から担当者の紹介を受け、また、その他の事案においては、予め大阪国税局の係官に対して被告人らが申告書を提出する際には、その内容を確認するなどした上、鈴木と共に担当者に対して右各申告書を提出したのみならず、右提出後に税務署から申告内容等について問い合わせがあった際には、鈴木と共にこれに対応したものであり、さらに、右に加えて、東野の事案においては、被告人は、鈴木から脱税工作の協力を求められた際、同人に対して、立退料等名下に約四億四〇〇〇万円の架空領収証を作成することなどを提案してこれらを作成させたものである。なお、この点につき、被告人は、当公判廷において、鈴木に対して架空領収証の作成を提案したことはない旨供述するが、鈴木は、検察官に対し、被告人から右内容の話があった旨供述していた(鈴木彰の検察官調書〔六二〕上、被告人自身、捜査段階において同様の供述をしていた(被告人の検察官調書〔六九〕)こと、実際にも右被告人の検察官調書の供述内容どおりの架空領収証が作成されていることからすれば、被告人の右公判供述は信用できず、むしろ右被告人の検察官調書の供述内容に信用性を認めることができる。
さらに、村田紙器の事案においては、被告人は、その知人の藤原及び同人の知人である竹内を介して、村田から本件脱税工作の依頼を受け、右依頼を鈴木に連絡して同人の努力を得た上、同人や村田、竹内らと共に脱税方法を協議して、村田紙器が売却した土地について被告人及び鈴木の持分を仮装し、その旨の和解調書を作成するという前記脱税方法を決定し、鈴木らと共に被告人自ら奈良簡易裁判所へ出頭して右和解調査書の作成に協力し、その上、村田及び竹内らから本件脱税依頼を取りやめるとの申し入れを受け、被告人はにおいて本件脱税への関与を中止することとなった際にも、既に村田から受領した報酬は返還しない一方、村田らにおいて右和解調書を使用して税務申告を行うことを承諾したものであり、その結果、鈴木らにおいて、右和解調査書の内容に沿った本件が行われたものである。なお、この点につき、被告人は、村田らから脱税依頼の撤回を受けた際、右内容虚偽の和解調書の事後における使用を承諾したことはなく、むしろ同和解調書は廃棄することとなっていた旨供述するが、村田、竹内及び鈴木とも、検察官に対し、被告人は右和解調書の使用を許諾していた旨供述していた(村田敏〔一七四〕、竹内哲由紀〔一八二〕及び鈴木彰〔一九〇〕の検察官調書)のみならず、被告人も検察官に対して、既に受領した報酬と引き換えに和解調書の使用を認めた旨の供述をしていた(被告人の検察官調書〔一九三〕上、実際にも被告人は右報酬を返還しなかったことからすれば、被告人はの右公判供述は信用できず、むしろ右被告人の検察官調書の供述内容に信用性を認めることができる。また、右のとおり、被告人は、本件脱税についてはその中途で関与を取りやめた形となっており、前記犯行態様のうち二億八〇〇〇万円の架空の貸倒損失の計上及び申告額を〇円とすることはその後決定されたことであるけれども、被告人は、前記のとおり、内容虚偽の和解調書の使用を許諾しており、しかも右和解調書によって固定資産売却益から六億円を除外することとなることを熟知していたのであって、これらからすれば、具体的なほ脱金額についてはともかく、脱税の故意に欠けることはなかったものと言わざるを得ず、したがって、被告人が本件ほ脱税額全額について責任を追わなければならないことは言うまでもないことである。
ところで、被告人は、前記のとおり、昭和六一年ころから、鈴木と共に脱税請負をするようになっていたところ、その中において、鈴木は、他から脱税依頼を受任した上、具体的な脱税工作等を行うという実務面を担当していたのに対し、被告人は、自民党同志会の幹部であったことから、その肩書を利用して、国税局や税務署の担当者に対して、脱税が発覚しないよう折衝に当たるなどの一定の役割を果していたものであって、さらに、本件各脱税請負の報酬額の高さ、件数の多さ等に鑑みると、本件は、被告人が鈴木と共に、いわば二人三脚となって、職業的かつ常習的に敢行したものであると評価することができる。
以上からすれば、被告人は、本件各犯行において、脱税請負人として最も重要な役割を果たした者の一人であると言わざるを得ない。
五 また、被告人は本件各脱税に関与したことにより、東野喜三郎の事案においては、一〇〇〇万円、北野正高の事案においては七〇〇万円、千里住宅センターの事案においては一〇〇〇万円、藤井好子、酒井君子及び藤井輝夫の事案においては五〇〇〇万円、村田紙器の事案においては三〇五〇万円のそれぞれ脱税報酬を得ており、結局、本件各脱税に関与したことにより合計一億〇七五〇万円もの多額の利得を得ているのであって、その犯情は悪質であると言うべきである。
六 以上の事情、ことに本件脱税の規模及び態様並びにその中における被告人の立場や関与及び利得の状況からすれば、被告人の刑事責任はまことに重大であると言うほかはない。
七 一方、被告人は、東野及び村田の各事案以外においては、脱税方法等の決定には関与しておらず、専ら、納税義務者や仲介者との間でこれらを決定していた鈴木からの依頼に応じて税務署に顔を利かせていたものであるほか、村田以外の事案においては、脱税報酬については、一旦鈴木がこれを受領した上、被告人に分配していたものであるばかりか、本件各犯行において鈴木の得た報酬は八億円以上にのぼり、被告人の受け取った金額に比べて遙かに多額であることなどからすれば、被告人は、前記のとおり、本件各犯行において重要な役割を果たしていたけれども、その役割は、鈴木に比べれば一段低いものであったと言うことができる。
また、被告人は、村田紙器の事案においては、村田及び竹内が、本件脱税を仲介した前記藤原からの干渉を恐れ、また、鈴木も被告人を排斥しようとしたことから、本件脱税工作から中途で手をひくこととなり、前記犯行態様のうち、最終的に申告書を〇円とすべく二億八〇〇〇万円の貸倒損失を計上することが決定されたのは、被告人が手を引いた後のことである。
以上に加えて、被告人は、本件各犯行につき自らの刑事責任を認めて、反省していること、自民党同志会を除名され、また本件公判係属中には自民党大阪同志会から脱会したことなど、量刑上被告人に有利に斟酌すべき事情も存するところである。
八 しかし、前記記載の本件脱税の規模及び被告人の関与状況等に鑑みれば、本件は到底執行猶予で済まされる事案ではないのもと言わざるを得ない。そこで、以上の事情を総合して考慮の上、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 伊元啓 裁判官増田啓祐は海外出張のため署名押印することができない。裁判長裁判官 田中正人)
別紙(一)の(1)
修正損益計算書
自 平成3年1月1日
至 平成3年12月31日
東野喜三郎
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
(給与所得)
<省略>
(雑所得)
<省略>
別紙(一)の(2)
税額計算書
自 平成3年1月1日
至 平成3年12月31日
東野喜三郎
<省略>
別紙(二)の(1)
相続財産の内訳表
平成4年4月9日相続
被相続人北野達雄
(当初申告分)
<総額>
<省略>
<北野正高分>
<省略>
北野正高分の課税価格(1000円未満切り捨て)の公表金額は60,068,000円で、実際額は250,730,000円となる。
杉本博子と片岡恵子の課税価格の実際額は、それぞれ250,730,000円であり、北野美代の課税価格の実際額は752,191,000円である。
各相続人の課税価格の実際額は合計額1,504,381,000円となる。
別紙(二)の(2)
税額計算書
平成4年4月9日相続
北野正高
(当初申告)
<省略>
別紙(二)の(3)
相続財産の内訳表
平成4年4月9日
被相続人北野達雄
(修正申告分)
<総額>
<省略>
<北野正高分>
<省略>
北野正高分の課税価格(1000円未満切り捨て)の公表金額は180,205,000円で、実際額は715,910,000円となる。
杉本博子と片岡恵子の課税価格の実際額は、それぞれ18,140,000円であり、北野美代の課税価格の実際額は752,191,000円である。
各相続人の課税価格の実際額は合計額1,504,381,000円となる。
別紙(二)の(4)
税額計算書
平成4年4月9日相続
北野正高
(修正申告)
<省略>
別紙(三)の(1)
修正損益計算書
千里住宅センター事業協同組合
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
<省略>
別紙(三)の(2)
税額計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
千里住宅センター事業協同組合
(修正申告)
<省略>
別紙(四)の(1)
修正損益計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
藤井好子
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
(分離短期譲渡所得)
<省略>
(総合課税総所得)
<省略>
別紙(四)の(2)
税額計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
藤井好子
<省略>
別紙(五)の(1)
修正損益計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
酒井君子
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
(損益通算)
<省略>
(総合課税総所得)
<省略>
別紙(五)の(2)
税額計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
酒井君子
<省略>
別紙(六)の(1)
修正損益計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
藤井輝夫
(総所得金額)
<省略>
(分離長期譲渡所得)
<省略>
別紙(六)の(2)
税額計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
藤井輝夫
<省略>
別紙(七)の(1)
修正損益計算書
村田紙器株式会社
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
<省略>
別紙(七)の(2)
税額計算書
自 平成6年1月1日
至 平成6年11月21日
村田紙器株式会社
<省略>